判例検索β > 令和4年(う)第618号
詐欺
事件番号令和4(う)618
事件名詐欺
裁判年月日令和4年11月18日
法廷名東京高等裁判所
結果棄却
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号令和2刑(わ)2364
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-11-18
情報公開日2022-12-07 04:00:08
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令和4年11月18日宣告

東京高等裁判所第5刑事部判決

令和4年(う)第618号

詐欺被告事件

主文
本件控訴を棄却する

当審における未決勾留日数中220日を原判決の刑に算入する。

第1
1由
事案の概要及び控訴趣意
事案の概要

本件は、磁気治療器の販売等を業とするA株式会社(以下Aという。)の代表取締役会長であった被告人が、真実は、既に同社の資金繰りがひっ迫しており、約定どおり顧客からの解約申入れに応じて元本を確実に返済し、かつ、配当金の支払を継続できる見込みがなかったのに、⑴平成29年7月下旬頃から同年11月4日頃までの間、24回にわたり、自ら又は同社役員、
同社従業員らをして、顧客12名に対し、上記の事情を秘し、同社の業績が好調で財務基盤も安定しているように装った上、家庭用磁気治療器(以下本件商品という。)の業務提供誘引販売取引等に係る契約を締結して契約代金を支払えば、同契約代金の年利6%又は7.2%に相当する金銭を支払うとともに、同契約をいつでも解約でき、解約の申入れに応じて確実に同
契約代金全額に相当する金銭を返済する旨うそを言い、上記顧客らをその旨誤信させ、よって、同年8月4日から同年11月7日までの間、22回にわたり、上記顧客らから現金合計8006万5000円の交付を受け、⑵平成29年11月5日頃から同年12月2日頃までの間、26回にわたり、自ら又は同社役員、同社従業員らをして、顧客11名に対し、上記の事情を秘し、
同社の業績が好調で財務基盤も安定しているように装った上、本件商品のリース債権譲渡取引に係る契約を締結して契約代金を支払えば、同契約代金の年利8.57%に相当する金銭を支払うとともに、同契約をいつでも解約でき、解約の申入れに応じて確実に同契約代金全額に相当する金銭を返済する旨うそを言い、上記顧客らをその旨誤信させ、よって、同年11月13日から同年12月8日までの間、16回にわたり、上記顧客らから現金合計8549万8000円の交付を受け、もって、それぞれ人を欺いて財物を交付させた、という事案である。
2
控訴趣意

弁護人相原英俊の控訴趣意は、事実誤認、量刑不当の主張である。第2
1
事実誤認の控訴趣意について
事実誤認の論旨は、Aが行っていた業務提供誘引販売取引及びリース
債権譲渡取引(以下、併せて本件各取引という。)は、本件商品の買戻特約付きの売買契約であり、同社が顧客らに支払っていた金銭は配当ではなく事業手当であって、原判決が認定するような投資取引ではない上、本件当時、同社は、

元本を確実に返済し、かつ、配当金の支払を継続できる見込みがなかった

という状況にはなく、少なくとも、被告人は遠からず業績が回復すると考えていたから、欺罔の事実ないし故意がないなどとして、被告人に詐欺罪は成立しないというものと解される。
2
しかしながら、原審記録によれば、本件各取引は、その形態や名称、
各費用の名目にかかわらず、いずれも、Aが、顧客に対し、契約代金に対して各原判示の利率に相当する金銭の支払と、解約時の契約代金の全額の返還を確約するものであったことが認められる。
また、原審記録によれば、同社では、従前から、名称や形態は様々であるものの、実質は本件各取引と同様、顧客に対し高金利の配当及び元本保証を約する内容の取引を、元利金の支払原資の十分な裏付けのないまま推進し、
顧客に対する元利金の支払原資は、専ら、新規の契約代金でまかなうなどしていたため、遅くとも平成22年には債務超過状態であり、その後も債務超過額は拡大する一方であったこと、同社は、平成28年12月及び平成29年3月に、それぞれ消費者庁による業務停止命令を受け、これを機に金融機関から新規の融資を受けられなくなり、同年6月には、被告人自身の資産を同社に貸し付けて事業資金を補わざるを得なくなったこと、他方で、業務停止命令を機に、顧客からの返金申請も増加していたことなどが認められる。このように、同社の取引構造は、もともと持続可能性を欠き、いずれ破綻必至なものであった上、行政処分を受けたことを契機に、金融機関からの融資も得られなくなり、一方で顧客からの返金申請も増加するなどの状況にあったこと及びその時点での同社の資産状況に鑑みれば、本件各犯行当時、同社
の資金繰りがひっ迫し、約定どおり、顧客からの返金申請に応じて契約代金を確実に返金し、かつ、配当金の支払を継続できる見込みがない状態にあったことは明らかである。そして、被告人は、日々経理関係資料の提出を受けていたほか、本件直前の時期には、財務担当者から資金繰りが悪化していることについて明示的に報告、相談を受けるなどし、実際に、自ら金融機関に
対する融資交渉に当たったり、自らの資産を同社に投入したりするなど、資金繰りに奔走し、一方で顧客からの返金申請を撤回させるよう社員らに強く指示をしていたこと、消費者庁による行政処分への対応に当たり、その過程で、同社の経理調査を行った公認会計士から、同社の取引構造の問題点を指摘され、近いうちに資金ショートすることは明白であるとの指摘を受けてい
たことなどが認められ、これらに照らせば、被告人において、本件各犯行当時、同社の資金繰りがひっ迫し、約定どおり、顧客からの返金申請に応じて契約代金を確実に返金し、かつ、配当金の支払を継続できる見込みがない状態にあるとの認識を有していたことも明らかといえる。
所論を検討しても、被告人に本件各詐欺罪の成立を認めた原判決の判断に
誤りはない。
事実誤認の論旨は、理由がない。
第3
1
量刑不当の控訴趣意について
量刑不当の論旨は、被告人を懲役8年(求刑懲役10年)に処した原
判決の量刑は、重すぎて不当である、というものである。
2
原判決は、被告人は、Aの経営ひっ迫状態について、全国の社員らに
も知らせずに営業をさせていたものであり、同社の企業活動として行われた本件犯行は被告人の指示によるものであるから、被告人がその責任を一手に担うべきは当然である、平成28年12月及び平成29年3月に消費者庁から二度の行政処分を受けるなどしたのであるから、遅くともその時点で顧客らの被害拡大を少しでも食い止めるべきであったのに、顧客の財産をないが
しろにしてでも同社の延命を図るために本件犯行に及んだというほかなく、経緯、動機には非常に強い非難が妥当する、被害合計額は相当高額であり、その大部分が返還されておらず、老後の蓄え等を失った被害者らの処罰感情が厳しいのも当然であるなどと指摘し、本件の犯情は相当悪く、刑事責任は重大であって、長期の実刑は避けられないとした。そして、同社の設立時か
詐欺の目的があったわけではないこと、被告人の得た報酬は同社に貸し付けられるなどしており、被告人が私利私欲を図った証拠はないこと、事実を認め、被害者らに謝罪の言葉を述べるなど反省の態度を示していること、高齢で健康状態に問題を抱えていることなどの事情も考慮し、前示の刑に処したものである。

3
原判決の量刑判断に不合理なところはなく、当裁判所も支持すること
ができる。
所論は、本件では、被告人のみが詐欺罪で起訴されているが、本件の直接的な実行行為者は、Aの役員、従業員らであり、これらの者も、同社の財務状況を知り得る立場にあったのであるから、被告人が本件の責任を一手に担うのは当然であるとして長期の実刑を科すことは、刑の公平性や根拠を欠く、という。
しかしながら、原判決も説示するとおり、同社は、被告人のいわゆるワンマン会社であり、被告人は、代表取締役会長として、同社の営業方針を決定し、自ら具体的な営業活動の在り方も考案するなど、文字どおり業務全般を統括していたものであり、従前から粉飾決算を指示するなどして同社の業績が好調であるかのように見せかけていたほか、本件各犯行当時も、社員らに指示し、解約が見込まれる顧客に対しては監査結果を通知しないように工作をしたり、顧客らに対し監査結果が誤っている旨弁明したりして、同社の財務状況を積極的に隠蔽するなどしていたのであって、このような被告人の同社における立場や本件各犯行に果たした役割等に鑑みれば、本件に関する検
察官の訴追裁量が不当であるとはいえないし、被告人を懲役8年に処した原判決の量刑が重すぎて不当であるともいえない。
所論は、被告人は、本件で逮捕されて以降、長期にわたって勾留され、その間に被告人及び同社の破産手続が開始されるなど、社会的制裁を受けている上、高齢で、健康状態は悪く、長期の刑は酷である旨もいうが、これらの
点は、原判決も相応に考慮しているか、原判決の量刑を左右するものとはいえない。
量刑不当の論旨も理由がない。
第4

結論

よって、刑訴法396条、刑法21条により、主文のとおり判決する。令和4年11月18日
東京高等裁判所第5刑事部

裁判長裁判官

伊藤雅人
裁判官

江見健
裁判官

伊藤ゆ一う子
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