判例検索β > 令和3年(わ)第145号
傷害致死、保護責任者遺棄致死(傷害致死、保護責任者遺棄致死につき、変更後の訴因は保護責任者遺棄致死)、道路交通法違反、窃盗、詐欺被告事件
事件番号令和3(わ)145
事件名傷害致死、保護責任者遺棄致死(傷害致死、保護責任者遺棄致死につき、変更後の訴因は保護責任者遺棄致死)、道路交通法違反、窃盗、詐欺被告事件
裁判年月日令和4年10月24日
法廷名さいたま地方裁判所
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-10-24
情報公開日2022-12-08 04:00:11
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主文
被告人を懲役10年に処する
未決勾留日数中520日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
第1(令和3年2月10日付け起訴分:訴因変更後のもの)
被告人は、埼玉県児玉郡(住所省略)所在の被告人方において、A(分離前の相被告人)及び同人と被告人との子である被害児B(当時生後2か月ないし3か月)らと共に居住していたものであるが、令和2年8月頃、同児が下顎骨骨折を伴う下顎歯槽挫裂創により哺乳困難となって、同月中旬頃には、同児が前記哺乳困難のために体重が増加しない状態になり、さらに、同年9月上旬頃までには、同児が肋骨骨折をしていたのであるから、医師による治療等の医療措置を受けさせるなどの生存に必要な保護を与えるべき責任があったにもかかわらず、Aと共謀の上、同年8月中旬頃から同年9月10日までの間、所において、児に対し、同

医師による治療等の医療措置を受けさせるなどの生存に必要な保護を与えずに放置し、よって、同月11日頃、同所において、同児を低栄養状態に伴う免疫力低下によって生じた菌血症等に起因した全身機能障害により死亡させた。
第2(令和3年4月12日付け追起訴分の第1)
被告人は、Aと共謀の上、令和2年12月17日午後2時47分頃から同日午後3時58分頃までの間に、神奈川県相模原市所在のC商店において、同店店長管理のエアコンプレッサ1台(時価約3万円相当)を窃取した。
第3(令和3年4月12日付け追起訴分の第2)
被告人は、Aと共謀の上、判示第2の犯行により窃取したエアコンプレッサを売却して現金をだまし取ろうと考え、令和2年12月17日午後4時40分頃、東京都八王子市所在のD店において、同店店長に対し、真実は同エアコンプレッサが盗品であるのにこれを秘し、同エアコンプレッサを正当に入手したものであるかのように装って買取りを申し込み、同人をその旨誤信させ、よって、その頃、同所において、同人に同エアコンプレッサの買取代金として現金9万6000円を交付させた。
第4(令和3年3月9日付け追起訴分の第1:訴因変更後のもの)被告人は、公安委員会の運転免許を受けないで、令和3年1月6日午後2時5分頃、埼玉県深谷市内の道路において、普通乗用自動車を運転した。
第5(令和3年3月9日付け追起訴分の第2)
被告人は、Aと共謀の上、令和3年1月7日午後3時40分頃から同日午後4時14分頃までの間に、埼玉県深谷市所在のE店において、同店経営者所有のエアコンプレッサ1台(販売価格26万8400円)を窃取した。
第6(令和3年3月9日付け追起訴分の第3)
被告人は、Aと共謀の上、判示第5の犯行により窃取したエアコンプレッサを売却して現金をだまし取ろうと考え、令和3年1月7日午後4時50分頃から同日午後4時56分頃までの間に、埼玉県熊谷市所在のF店において、同店従業員に対し、真実は同エアコンプレッサが盗品であるのにこれを秘し、同エアコンプレッサを正当に入手したものであるかのように装って買取りを申し込み、同人をその旨誤信させ、よって、その頃、同所において、同人に同エアコンプレッサの買取代金として現金9万円を交付させた。
第7(令和3年3月9日付け追起訴分の第4)
被告人は、Aと共謀の上、令和3年1月15日午後4時17分頃から同日午後5時頃までの間に、群馬県安中市所在の有限会社G店において、同社代表取締役管理の充電式圧着機1台(販売価格34万8700円)を窃取した。
第8(令和3年3月9日付け追起訴分の第5)
被告人は、Aと共謀の上、判示第7の犯行により窃取した充電式圧着機を売却して現金をだまし取ろうと考え、令和3年1月15日午後7時31分頃から同日午後7時37分頃までの間に、埼玉県熊谷市所在の株式会社Hにおいて、同社取締役に対し、真実は同充電式圧着機が盗品であるのにこれを秘し、同充電式圧着機を正当に入手したものであるかのように装って買取りを申し込み、同人をその旨誤信させ、よって、その頃、同所において、同人に同充電式圧着機の買取代金として現金12万5000円を交付させた。
(累犯前科)
被告人は、⑴平成28年2月2日横浜地方裁判所相模原支部で窃盗罪により懲役1年6月、4年間執行猶予に処せられ(平成29年8月15日同猶予取消決定)
、⑵その猶予期間中に犯した傷害罪により、平成29年7月18日東京地方裁判所立川支部で懲役1年に処せられ、平成30年7月7日その刑の執行を受け終わり、引き続いて、令和2年1月7日前記⑴の刑の執行を受け終わった。
(量刑の理由)
1
本件は、被告人が、妻のAと共に実子の生存に必要な保護をせずに同児を死亡させた後に、窃盗と盗品売却型の詐欺を繰り返す中で無免許運転にも及んだという事案である。
2
量刑の中心となる判示第1の保護責任者遺棄致死事件についてみると、被告人は、令和2年8月以降、被害児のミルクの飲みが悪くなったことから、Aと共に授乳方法を試行錯誤した末、乳首を外した哺乳瓶の口を直接被害児の口に押し込み、無理やりミルクを流し込むなどしていた。被害児は、生後間もないのに判示のけがまで負い、痛みで哺乳すら困難な状態になっていたと認められるところ、被告人は、双子のうち被害児の世話を主として担う中で、被害児の歯茎からの出血を複数回目の当たりにし、双子の姉が順調に成長する一方で被害児の体重が増えていないことなども日々認識していた。それにもかかわらず、被告人は、状況を楽観視し、誤った方法での授乳を試みるばかりで、被害児の死亡に至るまで約1か月もの間、被害児に医師による治療等を受けさせなかったものであり、態様は相当悪質である。もっとも、被告人とAは、完全に育児放棄をしていたわけではないことに照らせば、同種事案の中で極めて悪質なものとまではいえない。
また、被告人は、Aから被害児の受診を提案されるなどして、病院に
連れて行けるタイミングは何度もあったのに、虐待を疑われて逮捕されることなどを理由にこれを拒んでいる。このことが、被害児を病院に連れて行かないという夫婦の判断の決め手になっており、自らの保身を優先した被告人の身勝手な考えは、厳しい非難に値する。
これらを併せ考えると、保護責任者遺棄致死事件のみをみても、同種事案(保護責任者遺棄致死、被告人から見た被害者の立場が子)の中では、中程度からやや重い部類に属するといえる。
3
さらに、被告人は、窃盗詐欺を繰り返し行い、その間常習的に無免許運転にも及んでいる。被告人は、個人商店を狙って窃盗の犯行場所を選び、Aを同行させるなど、主体的に犯行に及んでおり、特に判示第5と第7の窃盗では、盗みたい高額商品をあらかじめ被害店舗で注文して仕入れさせ、入荷の完了を確認するなど、やり方がかなり手慣れていて、計画性も認められる。一連の窃盗詐欺の犯行は、全体としてみて職業的に行われた非常に悪質なもので、財産的被害は、窃盗のみでも総額64万円を超えている。各被害店舗に生じた損害は大きいが、被害弁償は一切されていない。そして、被告人は、被害児が死亡して間もない時期から、手っ取り早く現金を得ようと、商品を盗んでは売ることなどを繰り返したものであり、余りにも犯罪に対する抵抗感が乏しく、規範意識が低いままだったといわざるを得ない。
4
以上の各犯情に加え、被告人には窃盗及び別の実子に対する傷害の累犯前科があることも併せ考えると、公判廷において被告人が全ての事実を認めていることや、被告人の実母が出所後の被告人の監督を誓約していることなど、被告人に有利に考慮し得る事情を踏まえても、主文の刑に処するのが相当である。

(検察官の求刑

懲役11年、弁護人の科刑意見

令和4年10月24日
さいたま地方裁判所第1刑事部
裁判長裁判官

北村
裁判官

黒田真紀
裁判官

秋保春菜和
懲役7年)

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