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業務上過失致死被告事件
事件番号令和4(わ)301
事件名業務上過失致死被告事件
裁判年月日令和4年11月8日
法廷名福岡地方裁判所
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-11-08
情報公開日2022-11-30 04:00:08
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令和4年11月8日宣告
令和4年(わ)第301号

業務上過失致死被告事件
判決主文
被告人Aを禁錮2年に、被告人Bを禁錮1年6月に処する
被告人両名に対し、この裁判が確定した日から3年間それぞれその刑の執行を猶予する。
被告人Bに係る訴訟費用は同被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人Aは、福岡県中間市ab丁目c番d号の社会福祉法人C会D保育園の園長として、保育施設の適正な維持管理、安全管理及び職員の指導監督を行うなど同保育園の業務を統括管理するとともに、保育従事者として、園児の保育及び安全管理を行いながら、同保育園が園児送迎用に運行する幼児専用車を運転して同保育園に園児を送迎するなどの業務に従事していたもの、被告人Bは、同保育園の保育士として、被告人Aを補助して前記幼児専用車から園児を降車させて同保育園に引率するなどの業務に従事していたものであるが、被告人両名は、令和3年7月29日午前8時35分頃、同市ab丁目e番地fの同保育園専用駐車場において、被告人Aが園児を送迎するために自ら運転して同保育園の園児であるE(当時5歳)を含む1歳児から5歳児までの園児7名を順次乗車させた幼児専用車を同駐車場に駐車させた際、当時屋外の最高気温が摂氏30度以上の真夏日が続いており、同日の同市内における天候は晴天で同日も真夏日となることが予測できた上、ドアを施錠し窓を閉め切った同車両内から自力で脱出することが期待できない幼児である園児を同車両内に放置すれば、直射日光等による同車両内の温度上昇により熱中症にり患して死亡するに至る危険があったのであるから、被告人A及び同駐車場まで園児を迎えに出向いた被告人Bの両名において、同園児らを降車させて同保育園に引率するに当たり、共同して、同車両内に園児が残っていないかを点検して同車両に乗車させた園児全員が確実に同車両から降車したことを確認するなど、同車両に乗車させた園児全員の安全を管理すべき業務上の注意義務があるのにこれを怠り、泣いていた1歳児の園児をあやすのに気を取られ、さらに被告人Bは被告人Aが同車両内に園児が残っていないかを既に点検したものと軽信し、被告人両名において、園児らを降車させる際に同車両内に園児が残っていないかを点検して同車両に乗車させた園児全員が確実に同車両から降車したことを確認しないまま、漫然とEを窓を閉め切った同車両内に放置して同車両のドアを施錠し、他の6名の園児を引率して立ち去った過失により、Eをドアを施錠され窓を閉め切られた前記幼児専用車内に取り残し、同児を、その頃から同日午後5時15分頃までの間、前記駐車場に駐車中の同車両内に放置して熱中症にり患させ、よって、その間に、同車両内において、同児を熱中症により死亡させた。
(証拠の標目)
省略
(法令の適用)
省略
(量刑の理由)
本件は、
保育園の園長であった被告人Aが、
園児の登園のために送迎車を運行し、
保育園の駐車場に到着後、園児を降車させて保育園に引率する際、被告人A及び降車・引率を補助する保育士の被告人Bにおいて、被害者が同車両内に残っていたのに、園児全員が確実に同車両から降りたことを確認しないまま、窓が閉め切られた同車両のドアを施錠し、被害者以外の園児を引率して立ち去ったため、同車両内に取り残された被害者を熱中症により死亡させた、という業務上過失致死の事案である。
保育園の送迎業務において、園児を確実に送迎車から降ろさせて保育園に引率することは、園児を預かる立場にある者として当然に果たすべき極めて基本的な注意義務である。添乗保育士がいない送迎車の運行者であった被告人Aがこの注意義務を負うことはいうまでもないが、被告人Bについても、被告人A1人では園児全員の降車・引率に手が回らないという理由でその補助業務を行うようになったという経緯や、日頃から被告人Aと声を掛け合いながら降車した人数を確認するなどしていたという被告人Bの供述を踏まえると、求められる注意義務の程度に関しては園長でもある被告人Aとの立場の違いに応じた差があるにしても、被告人Aと共同して確実な降車確認を行う業務上の注意義務があったというべきである。しかも、真夏に、運動能力や判断能力がまだ十分でない幼児がドアを施錠し窓を閉め切った車両内に取り残されれば、自力で脱出できず、熱中症等により生命の危険が生じる可能性が高く、被告人両名も北九州市内の同種事故についての報道等を通じてその危険性を認識していたというのであるから、なおさら園児全員の降車確認は徹底されなければならなかった。当時送迎車に乗っていた園児は、毎日同じ顔触れで、被害者を含め7名と人数もさほど多くなかった上、前記のとおり被告人両名は日頃から声を掛け合いながら降車した人数を確認するなどしていたというのであるから、前記の注意義務を遂行することが困難なものであったともいえず、これを怠った被告人両名の過失は重い。
当時5歳の被害者が亡くなるという結果は取返しのつかない重大なものである。灼熱の車内で長時間一人取り残された被害者が感じたであろう肉体的苦痛や心細さ、絶望感を思うと、余りに痛ましい。いつもどおり送り出したはずの我が子の変わり果てた姿を目の当たりにした被害者の母親が受けた衝撃は大きく、突然大切な家族を失った遺族の悲しみも計り知れない。被害者の両親は、被告人両名の厳罰を求めている。
以上のような被告人両名の過失の重さや結果の重大性に鑑みれば、本件は、罰金刑が許容される事案とはいえず、禁錮刑を選択するのが相当である。もっとも、被告人両名は、送迎車に乗せた園児の安全確保に全く配慮していなかったわけではなく、いつもは声を掛け合いながら降車人数を確認するなどしていたが、事件当日は判示のような事態に直面し、焦る気持ちから注意不足に陥ったというのであり、この点は量刑上一定程度考慮すべき事情といえる。また、被告人Bについてみれば、送迎車に背中を向けて小さな園児の相手をしている最中に、そばで園児の降車補助をしていた被告人Aがドアを閉めて施錠したことから、被告人Aにおいて園児全員の降車を確認してくれたものと誤信したというのであり、園長兼送迎車の運行者という被告人Aの立場も踏まえると、その心情は相応に理解することができる。
その上で、一般情状についてもみると、被告人両名が、いずれも事実を認めて、被害者や遺族に対する謝罪の言葉を述べ、自分たちの過失責任と真摯に向き合っていることや、自動車保険により相応の被害弁償が見込まれること、被告人Aにおいて自動車保険によるものとは別に相当額の金銭支払いを遺族に申し出ていること、被告人両名とも長年にわたり保育園の運営や保育士の仕事に献身的に携わり、犯罪とは無縁の生活を送ってきたことなど、被告人らのために酌むべき事情も認められる。
こうした事情も考慮すると、本件は、被告人両名を実刑に処すべき事案とはいえず、それぞれ主文の禁錮刑に処してその刑事責任を明らかにした上、刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。
(求刑

被告人Aにつき禁錮2年、被告人Bにつき禁錮1年6月)

令和4年11月8日
福岡地方裁判所第2刑事部
裁判長裁判官

冨田敦史
裁判官

辛島靖崇
裁判官

加々美希
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