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詐欺被告事件
事件番号令和4(う)28
事件名詐欺被告事件
裁判年月日令和4年9月8日
法廷名広島高等裁判所
結果棄却
原審裁判所名山口地方裁判所
原審事件番号令和3(わ)100
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-09-08
情報公開日2022-12-01 04:00:34
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令和4年9月8日宣告

広島高等裁判所

令和4年(う)第28号

詐欺被告事件

原審

山口地方裁判所令和3年

第100号、114号

主文
原判決を破棄する
被告人を懲役4年8月に処する
原審における未決勾留日数中60日をその刑に算入する。
理1由
本件控訴の趣意は主任弁護人佐藤久典ほか作成の控訴趣意書及び控訴趣意書補充書に、これに対する答弁は検察官岡本安弘作成の答弁書にそれぞれ記載されているとおりであるから、これらを引用する。控訴理由は、法令適用の誤り及び量刑不当である。

2
原判決が認定した犯罪事実の要旨は、送配電施設用地の樹木伐採、保全作業等(以下、これらを作業という。)を業とする株式会社(以下D社という。)の取締役兼山口営業所長であった被告人が、D社から業務委託を受けていた有限会社(以下K社という。)の取締役であるAとの間で、作業に従事した作業員数を水増し報告してD社から業務委託料名目で金銭をだまし取ろうと考えて、共謀の上、被告人が、D社としては、作業に従事した作業員数等から算出される金額の業務委託料しかK社に支払う必要がないのに、水増し後の作業員数等から算出される金額の業務委託料を支払う必要があるかのように装うとともに、業務委託料のうち水増しした作業員分の金銭を被告人とAで分配して費消等する意図を秘し、売上管理日報に作業員の稼働実績の入力を行う際、実際に作業に従事した作業員数を水増しし、水増し後の作業員数及び水増し後の業務委託料を入力し、情を知らないD社の経理担当者を介して、K社に支払うべき業務委託料をD社代表取締役(以下Bという。)に報告し、Bをして、水増し後の作業員数等から算出した金額の業務委託料をK社に対し支払う必要があるものと誤
信させ、K社名義の銀行口座に水増し後の業務委託料合計3億円余り(うち水増し部分7811万円余り)を振込入金させ、もって人を欺いて財物を交付させたという詐欺47件である。
3
法令適用の誤りの論旨について
論旨は、原判決は、水増し後の業務委託料が全体として詐欺の犯行の被害額となると判示するが、本件での詐取額は水増し後の業務委託料全額から正規の業務委託料を除外した水増し部分に限られるのであるから、水増し後の業務委託料全額について詐欺罪が成立する趣旨をいう原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがあるというものである。
そこで、記録を調査して検討すると、本件では、次の事実が認められる。これらの事実は、原判決も、犯罪事実や補足説明に照らし、当然の前提としているものと解され、また、被告人及び弁護人もこれらの事実を争っていない。

D社は、下請業者であるK社に作業を委託しており、D社とK社間の業務委託契約によれば、業務委託料の支払は毎月20日締めの同月末日払いであり、業務委託料の計算方法は、作業に従事する各作業員の1日当たりの労務単価をあらかじめ設定し、
その単価に対し、
作業に従事した日数
(これを
工数
ということがある。を乗じて算出すること

(以下
工数計算
という。

を基本としつつ、調整という名目で金額の増減を行う方法も取られていた。調整による増額は、遠隔地や離島を現場とする工事、雪、台風及び大雨等の中での緊急工事並びに時間外手当のために行われることがあり、調整による減額は、半日のみの工事の場合や作業員が1日の作業において二つの工事を掛け持ちした場合に行われることがあった(具体的な調整額の計算方法は、記録上明らかでない。)。


被告人は、上記に基づき1か月ごとの業務委託料の算出のため売上管理日報に各作業員の稼働実績の入力を行う際、作業実施日のうちの相当日数にお
いて作業員の水増しを行っていた(なお、1か月間に行われた全作業日において作業員の水増しを行っていた月もある。)。その結果、正規の作業員数及び業務委託料を基準とすると、水増し部分の作業員数及び業務委託料の割合は、それぞれ、48%、33%(各小数点以下切捨て)であった。上記

の事実によれば、

アの計算方法がとられている結果として、水増し

後の1か月ごとの業務委託料は、一見、上記正当に請求できる業務委託料に相当する金額と、
水増し部分に相当する金額とに区別され得るようになっている。
しかしながら、原審記録に照らせば、業務委託料は調整により増減することも予定されており、作業員ごとに業務委託料を算出するものではなかったことがうかがわれる。そして、

アのとおり、D社が交付する業務委託料は、D

社とK社間の業務委託契約に基づいて発生するものであり、K社に対して支払われるべき1か月ごとの業務委託料として算出されるものであるところ、原判示犯罪事実のとおりの欺く行為により、Bは、水増し部分を含む金額が1か月分の正当な業務委託料であると誤信し、
この誤信に基づいて、
K社に対し、
1か
月分の業務委託料として当該金員を交付している。すなわち、欺く行為によりBの交付意思全体に瑕疵が生じており、これに基づいて交付された財物すなわち1か月分の業務委託料としての当該金員の被告人らによる取得全体が違法性を帯びるものであり、欺く行為による誤信に基づいた交付という因果関係も優に認められるのであるから、被告人らの行為は詐欺罪の構成要件に該当するものであるし、その客体となる財物は1か月分の業務委託料としての当該金員全額にほかならない。
なお、上記のとおり、本件では、K社は一定額の業務委託料を正当に請求できるものであった。しかしながら、

イのとおり、被告人は、毎月行われてい

た業務委託料の計算に当たり、作業が実施された日数のうち相当日数、月によっては全日数において作業員の水増し入力を行って、その水増し後の作業員数を前提に1か月当たりの業務委託料を算出させたのであるから、その1か月ご
との業務委託料としての当該金員の請求について正当な権利行使として違法性が阻却される余地はない。
そうすると、結局、水増し後の業務委託料全額について詐欺罪が成立するとした原判決の結論に誤りはなく、原判決に法令適用の誤りはない。以下、所論について検討する。
所論は、最高裁平成21年9月15日第二小法廷決定・刑集63巻7号783頁(以下平成21年最決という。)において、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下補助金等適正化法という。)に定める補助金等不正受交付罪は不正の手段と因果関係のある受交付額について成立し、因果関係については、不正の手段の態様、補助金交付の目的、条件、交付額の算定方法等を考慮して判断すべきであるとされ、正当な請求部分と不正受給部分を区別した上で不正受給部分のみ補助金等不正受交付罪が成立するとされ、東京高裁平成28年2月19日判決・東京高裁判決時報67巻1~12合併号2頁(以下平成28年東京高判という。)においては、障害者自立支援法(改正前)
に基づく障害者の訓練等給付費の水増し請求に関する詐欺について、就労継続支援等の提供をしていない障害者に係る水増し請求分についてのみ詐欺罪が成立し、交付を受けた全額について成立するものではないとされたと主張した上で、本件においては、業務委託料について契約に基づく正当な請求部分と水増し部分とが区別可能であるから、平成21年最決及び平成28年東京高判の趣旨に照らせば、水増し請求と因果関係のある詐取額、すなわち、水増し部分に限った金額について詐欺罪が成立すると主張する。
そこで検討すると、平成21年最決は、補助金等適正化法29条1項違反の罪の事案であり、同罪では、詐欺罪とは異なり、錯誤が要件とされていない一方で、偽りその他不正の手段と補助金等の受交付との間に因果関係を要する。そうすると、偽りその他不正の手段がなくとも受給できる補助金部分の受交付は、偽りその他不正の手段との因果関係が否定されることになるため
構成要件に該当しないのであるから、同事例と本件詐欺とは構成要件が異なるなど事案を異にし、同列に論じることはできない。
次に、平成28年東京高判は、改正前の障害者自立支援法に基づき事業者が障害者に代わって支払を受けるという訓練等給付費の制度の下において、障害者ごとに提供された就労継続支援等に関する資料を添付するという態様で請求がされ、障害者ごとに提供された就労継続支援等の内容等を審査して金額の算定がされる訓練等給付費について、当該事件の被告人が、就労継続支援等の提供をした障害者に係る給付費に、その提供をしなかった障害者に係る分を加えて金額を水増ししたという事実関係を指摘した上で、

詐欺罪は、内容虚偽の請求と因果関係のある就労継続支援等の提供をしなかった障害者に係る給付費について成立し、交付を受けた給付費全額について成立するものではない

とするものである。この事案においては、給付費の請求や金額の算定において障害者単位の運用がされていることから、就労継続支援等の提供をした障害者に係る給付費の請求行為においてはそもそも欺く行為がなく、他方、上記提供をしなかった障害者に係る給付費の請求行為はそれが欺く行為となり、これによる錯誤及び交付という一連の因果関係も認められる結果、上記提供をしなかった障害者に係る給付費についてのみ詐欺罪が成立すると解することができる。ところで、本件の業務委託料は、飽くまでD社がK社に業務を委託したことに基づいてK社に支払われる1か月ごとの対価であり、その算出方法として、K社と契約関係にある作業員の単価を設定し、その作業員の作業日数すなわち工数を乗じるという工数計算の方法が採られているにすぎず、K社が各作業員に代わってD社から対価の支払を受けるものではなく、業務委託料の請求や金額の算定において作業員単位の運用がされているものでもないことは明らかであり、本件は、平成28年東京高判とは事案を異にし、これと同列に論じることはできない。
その他所論は、D社からK社に支払われる業務委託料が正当に請求できる部
分と水増し部分に区別され得るということを前提として種々主張する。しかしながら、本件は、

で説示したとおり、一月ごとにD社からK社に対

して支払われる1か月分の業務委託料としての当該金員という財物をその都度詐取した事案であり、当該欺く行為がなければ、Bが1か月分の業務委託料としての当該金員という財物を交付することはない以上、Bが交付した1か月分の業務委託料としての当該金員全額について因果関係が肯定される。所論は、詐欺罪の理解を異にする独自の主張であって、採用することができない。所論を全て検討しても、Bが毎月交付した業務委託料としての当該金員各全額についていずれも詐欺罪が成立するとの原判決の判断に法令適用の誤りはない。
所論はいずれも採用できず、論旨は理由がない。
4
量刑不当の論旨について
論旨は、被告人を懲役5年に処した原判決の量刑が重過ぎて不当であるというものである。
そこで、記録を調査し、当審における事実取調べの結果も併せて検討する。原判決は、量刑の理由において、要旨次のとおり説示する。

本件各犯行が財産犯である以上、本件の違法性を検討する上で被害額は非常に大きな要素となるが、被害額は合計で3億円余りと巨額であるし、実質的被害である水増し部分だけを見ても、合計7811万円余りと非常に多額である。欺く行為の態様は、D社において業務委託料を算出する基礎となる作業員の稼働実績の集計を行う立場にあることを利用し、作業員数等を水増しして集計を行うというものである。D社における立場を利用したD社の信頼を裏切った犯行であるし、反復継続して高額の金銭をだまし取ることが可能な犯行態様との指摘もできる。このような事情に照らすと、本件は詐欺の犯行の中でも相当に違法性が高いものといえる。


被告人は、本件犯行を発案し、自己がD社において上記の立場であること
を利用して欺く行為を行うなど、実行行為の中核部分を担った上、水増し部分の約75%の金銭を得ている。被告人が負うべき責任を考える上で、責任を減ずるべき事情はない。

弁護人は、①水増し部分のうちAに渡した金銭については、K社による早期の工事完了を促すことでD社の工事の迅速化を促し、D社の利益の向上を図ったものである、②被告人自身が得た金銭については、D社の従業員に対する割増賃金の補てんにより事業の継続を図る、あるいは取引先との接待により取引関係の継続を図ることによりD社の利益を図った旨を主張する。
しかし、弁護人が主張する行為がD社にとって利益となるか否かは全く不明であるし、仮に弁護人の主張する行為がD社にとって一定程度の利益になるとしても、それらは本来、経営者において方針決定を行った上で、そのための予算を計上することにより実現すべきものである。被告人がD社においてそのような提案を行ったことはうかがわれないし、仮に提案を行った事実があったとしても、D社が被告人の提案を採用しなかった以上はそれに従った行動をとるべきであり、D社の方針と異なる内容を実現する目的で本件犯行に及ぶことを正当化はできない。株式会社において、正確な会計帳簿の作成が義務付けられるなどその資産について厳格な管理が求められている趣旨から考えると、被告人が本件各犯行により使途が明確でない裏金ともいうべき金銭を作り出していること自体がD社にとっての損害なのであり、その使途が結果としてD社の利益になるようなものであったとしても、そのことにより被告人の刑事責任が減少するものではない。


以上のとおり、被告人の刑事責任は相当に重いが、上記のとおりの実質的な損害額等を考えると、検察官の懲役7年の求刑はやや重い。被告人が本件各犯行を認めた上で反省の言葉を述べていること、被告人が本件各犯行等に
より得た金銭の残額400万円をD社に返還していることのほか、今後も被害弁償をする意向を示していることなどの被告人にとって有利な事情も考慮して、被告人を懲役5年に処する。
以上の原判決が挙げる量刑事情の認定、評価及びそれに基づく刑の量定に不合理な点はなく、原判決の量刑は相当であって、これが重過ぎて不当とはいえない。
所論は、原判決の量刑評価を論難し、①共犯者のAがD社に対し1000万円の被害弁償をした事実が証拠上明らかであり、被害回復の程度は量刑を左右する重要な情状事実であるのに、原判決がこれについて触れておらず、この点を遺漏して量刑したのは不当であると主張し、また、②被告人による水増し請求の動機がD社の利益を図る目的であったという主張を排斥した原判決は不当であり、被告人にはD社の利益を図る目的があったといい、当該目的があったことの根拠について詳細に主張する。
しかしながら、
①について見ると、
本件は、
詐欺による取得金額合計が3億
円余り、水増し部分に限っても合計7811万円を超え、その水増し部分のうち被告人が得た金銭は約75%(計算上は約5858万円となる。)、A(K社)が得た金銭は約25%(計算上は約1952万円となる。)という事案である。他方、所論のいう1000万円の被害弁償は、K社によるものであって被告人自身の負担によるものでないことはもとより、水増し部分総額の約13%にとどまるから、原判決は、上記のような事情を考慮して、上記1000万円の被害弁償を被告人の量刑上考慮すべきものとは見なかったものと解することができ、そのような原判決の評価が不合理とはいえない。②について見ると、原判決は、上記


のとおり説示するところであり、

被告人の動機がD社の利益を図る目的であったことを否定していない。そして、
原判決の上記説示は、D社の利益を図る目的であった旨をいう被告人の供述を前提としても、目的達成のための適切な行為が他に存在するにもかかわらず、
それをせず、適法な説明ができない資金作りを意図し適法な説明ができない請求書を作出するなどして行われた本件各犯行は、その犯行により得た金銭(資金)の使途においてD社の利益になるようなものであったとしても、結局D社に様々な損害を被らせるものであるから、被告人がいう動機は本件犯情において有利に考慮できるものではないことをいうものであって、このような原判決の評価は不合理ではないし、本件の動機がD社の利益を図る目的であったことをいう所論を検討しても原判決の上記評価が揺らぐものではない。結局、
被告人を懲役5年に処した原判決の量刑は、
その宣告時点で見る限り、
これが重過ぎて不当であるとはいえない。
所論はいずれも採用できず、論旨は理由がない。
5
もっとも、当審における事実取調べの結果によれば、原判決後、形式的に利得のあるK社が、D社に対し、本件の被害弁償の一部として更に1500万円を支払ったことが認められる。これは、実質的な損害額である水増し部分のみを前提としてもなお一部の事後的てん補にとどまり、更には被告人自身の負担によるものでもないものの、K社による被害弁償額は、原判決前の1000万円と併せて合計2500万円となり、水増し部分についてK社が形式的に利得した額を超え水増し部分の約32%に達している。このような事情は一部被告人にも有利な情状として考慮すべきものと解され、この点を考慮すると、原判決の量刑は、現時点においては、刑期の点においてやや重過ぎるものとなったというべきである。
6
よって、刑訴法397条2項により原判決を破棄し、同法400条ただし書を適用して被告事件について更に次のとおり判決する。
原判決が認定した犯罪事実に原判決が法令の適用で挙示するように法令を適用し(併合罪の処理を含む。)、その刑期の範囲内で被告人を主文掲記の主刑に処し、刑法21条を適用して原審における未決勾留日数中主文掲記の日数をその刑に算入することとして、主文のとおり判決する。
令和4年9月12日

広島高等裁判所第1部

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裁判官

裁判官

波宏仁富張真紀家入美香名
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