判例検索β > 令和3年(わ)第299号
保護責任者遺棄致死、詐欺、窃盗被告事件
事件番号令和3(わ)299
事件名保護責任者遺棄致死,詐欺,窃盗被告事件
裁判年月日令和4年9月21日
法廷名福岡地方裁判所
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-09-21
情報公開日2022-11-02 04:00:08
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令和4年9月21日宣告
令和2年(わ)第1494号、令和3年(わ)第48号、第138号、第299号判決主文
被告人を懲役15年に処する
未決勾留日数中420日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
第1

(令和3年3月23日付け公訴事実)

被告人は、分離前の相被告人X(昭和▲年▲月▲日生)と平成28年4月頃ママ友として知り合い、親交を深めていた。Xは、平成31年1月30日から令和2年3月25日までの間は福岡県糟屋郡a町大字bc番地deにおいて、同日以降は同県糟屋郡a町大字bf番地ghにおいて、
三男であるA
(平成▲年▲月▲日生。
以下被害者という。
)ら3人の子供を一人で養育していた。被告人は、かねてX
に対し、後記のとおり、
ボスと呼称していたBがXの元夫の浮気調査をしたこと
による高額の調査費用を立替払している旨及び同人と不倫関係にあった女性に対する慰謝料を支払う必要がある旨の虚言を重ねて、その精算や支払いのためと称してXの収入のほぼすべてを被告人に交付させるとともに、
ボス
に依頼してXの元夫
に対する慰謝料請求裁判を追行してもらうが、勝訴するためには、子供らを厳しくしつけ、
ボス
や被告人から提供される食事のみで質素な生活をしている様子を裁判所に見せなければならず、裁判所に提出するためボスがX方内に監視カメラを設置している旨の虚言を重ねるなどして、食事を含めたX及びその子供らの生活全般を実質的に支配していった。更に被告人は、Xと共謀の上、令和元年8月頃から、Xの子供らの食事の量及び回数を減らすなどし、同年10月頃以降、日中一人で留守番をするよう言い付けた被害者が家の外に出たり勝手に食べ物を食べたりした罰と称して、多数回にわたり、連続して数日間被害者に食事を一切与えなかったことなどにより、被害者を痩せ細らせ、遅くとも令和2年3月下旬頃には、被害者が重度の低栄養状態になっていたのであるから、Xにおいて被害者に十分な食事を与えその生存に必要な保護をすべき責任があったのに、その頃から同年4月18日午前中までの間、引き続き被害者に十分な食事を与えず、よって、同日午後10時頃、前記hのX方において、被害者(当時5歳)を飢餓死させた。第2

(令和3年1月26日付け公訴事実第1)

被告人は、かねてXに対し、
ボスと呼称していた前記BがXの元夫の浮気調査
をしたことによる調査費用を立替払している旨うそを言い、Xがその旨誤信していたことに乗じて、Xから同調査費用の精算名目で預金通帳及び現金をだまし取ろうと考え、真実は、Xの元夫の浮気調査をした事実も、その調査費用の精算が必要な事実もないのに、
これらがあるように装い、
別表1の欺もう日時欄記載のとおり
(別
表1省略)
、令和元年6月5日頃から同年10月9日頃までの間、数回にわたり、福岡県糟屋郡内において、Xに対し、同表の欺もう文言等欄記載のうそ等を言い、Xに、児童手当及び児童扶養手当として支給された現金を前記Bへの同調査費用の精算として支払う必要がある旨誤信させ、よって、同表の交付日時、交付場所及び交付財物の各欄記載のとおり、同年6月10日午前7時50分頃から同年10月10日午前9時17分頃までの間、3回にわたり、同県糟屋郡a町大字bi番地jのk前路上ほか2か所において、Xから株式会社C銀行D支店に開設されたX管理の預金通帳及び現金14万円の交付を受け、もってそれぞれ人を欺いて財物を交付させた。
第3

(令和3年1月26日付け公訴事実第2)

被告人は、前記第2別表1番号1の犯行によりだまし取った預金通帳を使用して現金を窃取しようと考え、
令和元年6月10日午前9時8分頃、
同県糟屋郡a町
(以
下省略)の株式会社C銀行D支店において、同所に設置された現金自動預払機に前記通帳を挿入して同機を作動させ、同機から同支店支店長E管理の現金13万円を引き出して窃取した。
第4

(令和3年1月26日付け公訴事実第3)

被告人は、前記第2別表1番号2の犯行によりだまし取った預金通帳を使用して現金を窃取しようと考え、令和元年8月9日午前8時16分頃、同支店において、同所に設置された現金自動預払機に前記通帳を挿入して同機を作動させ、同機から前記E管理の現金11万8000円を引き出して窃取した。
第5

(令和3年1月26日付け公訴事実第4)

被告人は、かねてXに対し、
ボスと呼称していた前記BがXの元夫の浮気調査
をしたことによる調査費用を立替払している旨及び同人と不倫関係にあった女性に対する慰謝料を支払う必要がある旨それぞれうそを言い、Xがその旨誤信していたことに乗じて、Xから同調査費用の精算名目及び慰謝料支払名目で現金をだまし取ろうと考え、真実は、Xの元夫の浮気調査をした事実も、その調査費用の精算が必要な事実もなく、同人が女性と不倫をした事実も、その慰謝料の支払が必要な事実もないのに、これらがあるように装い、別表2の欺もう日時欄記載のとおり(別表2省略)令和元年10月31日頃から同年12月26日午前10時頃までの間、、
4
回にわたり、同県糟屋郡内において、Xに対し、同表の名目欄記載の名目で、同表の欺もう文言等欄記載のうそ等を言い、Xに、生活保護費として支給された現金のうち10万円を前記女性への慰謝料として、その残金及び児童扶養手当として支給された現金を前記Bへの同調査費用の精算としてそれぞれ支払う必要がある旨誤信させ、よって、同表の交付日時、交付場所及び金額の各欄記載のとおり、同年11月1日午後5時頃から同年12月26日午前11時20分頃までの間、4回にわたり、同県糟屋郡a町大字bi番地jのkの当時の被告人方ほか3か所において、Xから現金合計59万4596円の交付を受け、もってそれぞれ人を欺いて財物を交付させた。
第6

(令和3年2月17日付け公訴事実)

被告人は、かねてXに対し、
ボスと呼称していた前記BがXの元夫の浮気調査
をしたことによる調査費用を立替払している旨及び同人と不倫関係にあった女性に対する慰謝料を支払う必要がある旨それぞれうそを言い、さらに、生活保護費として支給される現金のうち10万円を前記女性への慰謝料として、その残金並びに児童手当及び児童扶養手当として支給される現金を前記Bへの同調査費用の精算として支払う必要がある旨うそを言って、Xがそれらの旨誤信していたことに乗じて、Xから同調査費用の精算名目及び慰謝料支払名目で現金をだまし取ろうと考え、真実は、
Xの元夫の浮気調査をした事実も、
その調査費用の精算が必要な事実もなく、
同人が女性と不倫をした事実も、その慰謝料の支払が必要な事実もないのに、これらがあるように装い、別表3の欺もう日時及び欺もう場所の各欄記載のとおり(別表3省略)令和2年1月9日頃から同年4月1日午前9時30分頃までの間、、
6回
にわたり、福岡県糟屋郡内又は同県宗像市内において、Xに対し、同表の欺もう文言等欄記載の文言を使って、同表の名目欄記載の名目で、生活保護費として支給される現金のうち10万円を前記女性への慰謝料として、その残金並びに児童手当及び児童扶養手当として支給される現金を前記Bへの同調査費用の精算としてそれぞれ支払う必要がある旨更にうそを言い、Xにその旨誤信させ、よって、同表の交付日時、交付場所及び金額の各欄記載のとおり、同年1月10日午前10時5分頃から同年4月1日午前10時14分頃までの間、6回にわたり、同県糟屋郡a町(以下省略)のFG店ほか5か所において、Xから現金合計88万7000円の交付を受け、もってそれぞれ人を欺いて財物を交付させた。
第7

(令和2年12月28日付け公訴事実)

被告人は、Xの元夫に対する慰謝料請求裁判等の手続費用名目でXから現金をだまし取ろうと考え、令和2年5月26日午後零時27分頃から同日午後4時13分頃までの間及び同年6月2日午後零時23分頃から同日午後3時50分頃までの間、前記hのX方にいたXに対し、真実は、Xの元夫に対する慰謝料請求裁判や児童相談所に保護されたXの子供らを取り戻すための裁判を提起するつもりも、その手続費用の支払が必要な事実もないのに、これらがあるように装い、電話で、ボスと
呼称していた前記Bが、Xのためにフウガと呼称していた弁護士に依頼して、Xの元夫に対する慰謝料請求裁判や児童相談所に保護されたXの子供らを取り戻すための裁判を提起してくれるが、その書面代や手続費用として4万円が必要である旨うそを言い、さらに、Xの元夫への請求額を増やしたいが、そのためには前記書面代等が12万円になる旨うそを言い、Xにその旨誤信させ、よって、同日午後4時40分頃、同県糟屋郡a町(以下省略)のH株式会社I店駐車場から同県糟屋郡l町(以下省略)のJ株式会社K駅までの間を走行中の自動車内において、Xから現金12万円の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させた。(証拠の標目)
省略
(事実認定の補足説明)
1
争点
弁護人は、①保護責任者遺棄致死事件について、被告人は、Xに対し、判示のよ
うなうそは言っておらず、Xとその子供らの食事やしつけに関して指示したこともなく、Xらの生活全般を支配したことはないとして、Xとの間に共謀はないと主張し、②詐欺窃盗事件について、被告人は、Xから自分の代わりに現金を引き出してほしいと依頼されて預金通帳を預かったことはあるが、Xに対して判示のようなうそは言っておらず、同通帳をだまし取ったものではないし、引き出した現金もXに渡しており、他にXから現金をだまし取ったことも一切ないと主張し、被告人もこれらの主張に沿う供述をしている。
そこで、以下、当裁判所が判示の各事実を認定した理由について説明する。2
当裁判所の判断



Xの公判供述について


まず、前提となる事実関係として、被告人とXがママ友の関係にあったこと、Xが自宅において被害者ら3人の子供を一人で養育していたこと、令和元年8月頃から被害者が徐々に痩せ細り、遅くとも令和2年3月下旬頃には重度の低栄養状態になっていたのに、保護責任者であるXが、その頃から同年4月18日までの間、被害者に十分な食事を与えなかったため、同日、自宅で、被害者を飢餓死させたことについては、当事者間に争いがなく、関係各証拠によっても明らかに認められる。
そして、Xは、当公判廷において、要旨、以下のとおり供述している。すなわち、Xは、平成28年4月頃、被告人とママ友として知り合い、親交を深めていたところ、平成30年5月頃、被告人から、Xや被告人が他のママ友の悪口を言ったなどとしてそのママ友から裁判を起こされそうになったが、暴力団組織を背景に持つボスと呼ばれるママ友が介入してくれたため、Xや被告人が50万円ずつ支払う旨の示談が成立したなどと言われ、これを信じて示談金として50万円を被告人に渡した。その後も、Xは、被告人から、ボスが金を取り戻すためママ友に対する裁判を提起してくれるが、裁判で勝つためには贅沢な生活をしてはならない、裁判の内容について家族も含め誰にも話してはいけないなどの条件を守らなければならず、これに違反すると罰金を科されるとか、条件に違反していないかを監視するためXの周辺には多数のスパイが配置され、X方の隣家に監視カメラが設置されているとか、多数のママ友が参加するグループラインが作られ、
そこでもXが監視されたり、
悪口を言われたりしていると聞かされ、
罰金等として多額の現金を被告人に渡した。
また、Xは、被告人から、ボスの調査によりXの夫が浮気をしていることが分かったなどと言われ、これを信じて夫と離婚したいと考えるようになったが、被告人から裁判で明確な証拠を突きつけるまでは家族に夫の浮気のことは明らかにしてはならないなどと言われたため、夫や親族には夫がマザコンだから離婚したいなどと伝えた上、平成31年1月末頃、夫に転居先を告げずに子供3人を連れてアパートに引っ越し、令和元年5月に離婚した。加えて、被告人からXの母や姉の悪口を吹き込まれ、これを信じて母や姉との関係を絶ったりするなど、徐々に家族や友人らとの人間関係が遮断されていった。
以後、Xは、3人の子供を一人で養育するようになったが、被告人から、ボスが調査費用を立て替えてくれており、
家が一軒建つほどの高額になっているとか、
Xの元夫が不倫相手を妊娠・中絶させたが、その慰謝料をXにおいて支払わなくてはならないなどと告げられて、Xの給与や生活保護費、各種手当など収入のほぼ全てをボスへの返済等の名目で被告人に渡すようになった。その一部が、判示第2ないし第6の詐欺窃盗事件である。その結果、Xら家族は生活費に困るようになり、被告人から、ボスや被告人がX家の食事の面倒をみるなどと言われ、被告人から食料の提供を受けるようになった。
Xは、徐々に生活が困窮していく中、被告人から、ボスが弁護士に依頼してXの元夫に対する慰謝料請求の裁判を起こそうと言ってくれている、勝訴すればまとまった額の金銭を手に入れられる、裁判で勝訴するためには、Xやその子供らが被告人から提供される食事のみで生活するなど清貧な生活を送っていることや、母子家庭であっても子供を厳しくしつけられるところを裁判所に見せなければならない、その様子を裁判所に報告するためX方にはボスによって多数箇所に監視カメラが付けられているなどといった嘘を告げられて、これを信じ、被告人が提供する食料のみでXや子供らの食事を賄い、家族間での食事量の分配も被告人の指示に従い、第三者から差し入れを受けるなどした食料は全て被告人に報告した上、処分するなどした。
令和元年8月、X方のガス供給が料金不払いによって停止され、被告人がX方に提供する食料が被告人の手料理となったが、提供される1日当たりの食事量がこれまでより大幅に減ることとなり、子供らの体重が減少し始めた。さらに、被告人は、令和元年10月頃から、Xの不在中、被害者が言いつけを守らずに家の外に出ていたのが監視カメラに映っていたなどとして、被害者に罵声を浴びせるようになり、被害者をクローゼットに閉じ込めて生活させたり、罰として食事抜きを指示したりするようになった。Xは、被告人の行為をひどいと思ったものの、被告人やその背後にいるボス以外には周りに頼れる人はおらず、被告人やボスの機嫌を損ねると、被告人らの目が子供らに向いてしまうとか、被告人から食料をもらえなくなったり、元夫に対する裁判でボスの協力を得られなくなったりして、ますます一家が困窮してしまうなどと考え、その指示に従っていた。
また、Xは、令和元年10月以降、被害者の体重減少を懸念した幼稚園の教諭や教育委員会の職員等から家庭訪問や面談を受けたが、被告人から、公的機関の職員と接触するなとか、Xは対人恐怖症やうつ病ということになっているなどと言われ、家庭訪問や面談を拒絶したり、被告人に対応を任せたりしていた。このような生活が令和2年3月まで続き、被害者は、自宅にある食料を盗み食いした罰などとして、同月には、被告人の指示により、その大半の日で食事抜きとされ、食事を与えられた日も必要な量を大幅に下回るものしか与えられなかった。被告人は、同月28日、被害者が食料を盗み食いした罰として、被害者を怒鳴りつけた上、ビニールバッグに入れて転居前のアパートに連れて行き、そのトイレに閉じ込めたりもしていた。被害者は、同月下旬以降、極度に痩せて、元気なくじっとしていることの多い状態にあったことに加え、繰り返し激しい頭痛を訴えるなどしていた。
被告人は、令和2年4月、突然、Xら家族への食料の提供をやめるなどと言い出し、被害者に対する食事抜きを指示されることはなくなったものの、被告人からの定期的な食料の差し入れがなくなり、
Xら家族はますます困窮し、
被害者も、
1日に少量の食事を1食だけしか与えられないなど、必要な量には程遠い食事しか与えられなかった。被害者は、同月17日、円を描くように頭をふらふらさせていたところ、それを見た被告人が、被害者に菓子を与えるなどしていた。さらに、被害者は、同月18日の午後5時30分頃以降、
きつい頭痛い

と言って倒れ込んだり、床に前のめりに倒れて目の焦点が合わない状態になったりした。Xが、その状態を動画撮影した上、被告人にSNSで報告したところ、被告人は、同日午後7時30分頃、X方を訪れ、被害者に声をかけて顔や足の裏を触るなどした上、被害者がか細い声を出すと、このまま様子を見るようにXに申し向けて帰宅した。Xは、同日午後10時頃、被害者の息が弱くなっていることに気づき、被告人に連絡するなどし、X方に駆けつけた被告人の夫が119番通報してくれたが、被害者はそのまま亡くなった。Xは、同年3月下旬以降、被害者の体調不良を認識していたが、被告人から、ボスの存在が公的機関に明るみに出たらボスに迷惑がかかるなどと言われていたことから、救急車を呼んだり、被害者を病院に連れて行ったりすることはできなかった。
被害者が亡くなった後も、
Xは、
被告人の言葉を信じ切っており、
被告人から、
ボスがXの元夫に対する慰謝料請求裁判や児童相談所に保護された子供らを取り戻すための裁判をしてやると言っていると言われ、これを信じて、令和2年6月2日、被告人に手続費用等として12万円を渡した。これが判示第7の詐欺事件である。
しかし、保護責任者遺棄致死についてXの取調べを担当していた警察官から、被告人がうそをついているのではないかという示唆を受け、他のママ友に確認を取ったところ、被告人から聞いた話とは食い違うことが多く、徐々に被告人の話がうそであることが分かった。そこで、令和2年7月、数回にわたり、電話口等で被告人と会話した内容をICレコーダーに録音し、それらを警察へ提出した。イ
以上のXの供述は、ボスと呼ばれるママ友が、Xのために各種裁判や浮気調査をしてくれているとか、X方内に監視カメラを設置しているといった被告人から告げられたうその内容や、Xの収入のほぼすべてがボスへの支払いという名目で費やされ、Xら家族の生活には充てられていなかったこと、被告人がXとボスとの間の連絡やボスへの返済の仲介をしているものとされていたこと、Xら家族の生活が困窮し、被告人の提供する食事に依存していたこと、被告人がXの子供のしつけについて指示を繰り返し、被害者に暴言や暴力を加えたり、食事抜きを指示したりしていたことなど、その核心部分が、被告人とXとの間のSNSのやり取りや、Xが事件当時スマートフォン上に入力したメモ、事件後の被告人とXとの会話の録音のほか、Xの多額の収入とそれに反する生活困窮状態といった客観的な証拠・事情によって強く裏付けられている。
また、Xがそれまで円満な関係を築いていた夫や母、姉に対して突然拒否的な態度を取り始め、夫がマザコンであるなどという不可解な理由で離婚を持ち出した点については、Xの元夫や母の公判供述と合致しているし、公的機関がXら家族への接触を試みた際、被告人が介入した上、Xが対人恐怖症であるとかうつ病であるなどとして大声で苦情を言うなどしていた点については、幼稚園の教諭や教育委員会の職員等の公判供述と合致している。
何より、被害者ら3人の子供を愛情深く養育するとともに、夫や母、姉とも円満な関係を築いて、幸せな家庭生活を送っていたXが、独断専行で、突然夫や母らとの関係を断とうとしたり、まして子供に食事を与えずに飢餓死させたりするような理由は証拠上全く見当たらず、Xの供述は、本件各犯行の経緯を合理的に説明するものといえる。
以上によれば、Xには責任の軽減を図って嘘をつく強い動機があることなどの弁護人が指摘する事情を踏まえて慎重に検討しても、その供述の信用性は相当に高い。


被告人の公判供述について


これに対し、被告人は、要旨、以下のとおり供述している。
すなわち、被告人は、Xに対して判示のようなうそを言ったり、Xの子供らへのしつけやXら家族の食事について指示をしたりしたことはない。Xは、元々、被告人に対して夫や家族に対する不満を漏らしたり、夫の浮気を疑う言動をしており、ボスと呼ばれる男性に色々と相談して夫の浮気調査や裁判をしてもらっているとか、ボスと一緒になりたいと思っているなどとも言っていた。Xが離婚したいと言い出したのは、夫に対して嫌気が差し、ボスと一緒になりたいからだろうと思っていた。被告人は、Xのいう裁判には全く関与していなかったが、Xから、夫にスマートフォンを見られた際に、ボスの存在やボスに頼んで裁判をしてもらっていることなどを知られないよう、演技をしてほしいと頼まれた。具体的には、被告人とXがSNS上でやり取りする際に、ボスはママ友の1人であり、被告人がボスに相談しながら裁判を主導しているように見せかけてほしいと言われ、それに応じて、言われたようなメッセージを送った。また、第三者がいる前で被告人とXが直接話す場面等でも同様に演技をするよう言われて応じていたものであり、事件後に録音された被告人とXとの会話もこうした演技によるものである。
夫との別居後、Xら家族の生活が困窮していたことは知っていたが、Xがボスにお金を返さなければならないなどと言っていたので、その収入をボスへの調査費用等の返済に充てているのだろうと思っていた。被告人は、Xら家族に食料等を差し入れていたが、それはXらの困窮ぶりを見かねてのことである。被害者が痩せていっていることや頭痛等を訴えていることは認識していたが、被告人が病院での受診を勧めても、Xは一向に被害者を病院に連れて行かなかったため、それ以上Xら家族に介入することはできなかった。また、Xから、自分は対人恐怖症やうつ病ということにしてほしい、公的機関には被告人が対応してほしいなどと頼まれたため、公的機関にはそのように説明した。被告人とXとの間のSNSのメッセージには、被告人がXに子供らを厳しくしつけるよう叱責したり、食事について指示したりしているかのようなやり取りがあるが、それはXから、子供らが被告人のことを怖がっているから、子供らを厳しくしつけるために、そのような演技をしてほしいと頼まれたためであり、実際にXを叱責したり、Xら家族の食事について指示したりしたことはない。
令和2年4月以降、
被告人はXら家族に対する定期的な食事の提供をやめたが、
それは新型コロナウイルスの流行により被告人家族の家計も苦しくなり、Xら家族に食事を提供する余裕がなくなった上、食事をもらって当たり前というXの態度に腹が立ち、自身の家計を切りつめてまでXらのために何かしてあげようとは思わなかったためである。

以上の被告人の供述によれば、XとのSNS上のやり取りには、Xに頼まれて演技をしたものが含まれていたということになるが、そのメッセージの内容や長時間にわたって大量のメッセージが即時にやり取りされていることからすると、被告人のいうような演技によるものとはおよそ考え難いし、そもそも、Xの夫の目をごまかすためとか、Xの子供らのしつけのためといった理由で、数年間にわたって演技のやり取りを続けるということ自体不自然というほかない。結局、被告人は、XとのSNS上のやり取り等客観的な証拠に何とかつじつまを合わせようと取り繕っているとしか考えられず、その供述は、到底信用することができないから、Xの供述の信用性を揺るがすものではない。


以上のとおり信用できるXの供述によれば、被告人が判示の各詐欺窃盗に及んだことは明らかである。そして、保護責任者遺棄致死についても、Xの供述によれば、被告人は、虚言を重ねてXの収入をほぼすべてだまし取るとともに、Xの夫や母ら、公的機関との関係を遮断し、被告人の提供する食事のみで生活しなければならず、第三者に助けを求めるのも困難な状況に陥らせるなどして、Xとその子供らの生活全般を実質的に支配した上、令和元年8月頃以降、提供する食事の量を減らしたり、Xに被害者の食事を多数回にわたり数日間抜くよう指示したりして、
被害者に十分な食事を与えない状況を作り出し、
令和2年3月下旬頃、
被害者を重度の低栄養状態に陥らせ、更にそれ以降も、被害者のそのような状態を認識しながら、Xの収入をほぼすべてだまし取るとともに、Xに対する心理的な支配や指示を解消することなく、食料の定期的な提供をやめるなどして、Xによる被害者の不保護を継続させたものであるから、保護責任者であるXとの共謀が優に認められる。

3
結論
以上によれば、被告人には判示の各罪が成立する。

(法令の適用)
省略
(量刑の理由)
まず、量刑の中心となる保護責任者遺棄致死事件についてみると、被害者は、令和元年8月頃から食事の量と回数が減らされ、同年10月頃からは罰などとしてたびたび食事を抜かれるようになり、
令和2年3月には大半の日で食事を抜かれ、
同月下旬頃には体重が大幅に減り重度の低栄養状態に陥っていたところ、更に約3週間余り、必要な量には程遠い食事しか与えられなかった。被害者に長期間飢えの苦しみを与えた本件犯行の態様は、余りにも残酷なものといえる。被害者は当時5歳で、本来であれば両親や兄弟、祖母らに囲まれながら幸せな生活を送り、様々なことを経験していく未来が待っていたにもかかわらず、そのかけがえのない命や未来が奪われたという結果は誠に痛ましく、取り返しのつかない重大なものである。被害者の体には脂肪がほとんど残っておらず、内臓も大きく委縮するなどしており、その肉体的苦痛は想像を絶し、この飽食の時代にあってごく少量の食事しか与えられず、本来頼るべき母親から十分な保護を受けられなかった被害者の辛く悲しい気持ちは計り知れない。
被告人は、Xに対し、様々な虚言を重ねて、その人間関係を断ち、周囲から孤立させ、被告人の強い心理的影響下に置いてその生活全般を実質的に支配し、被告人の意向に逆らって周囲に助けを求めることが困難な状態に陥らせた上で、被害者の不保護を継続させた。確かに、被告人自身は保護責任者ではなく、被害者に十分な食事を与えその生存に必要な保護をすることは保護責任者であるXにおいて絶対に果たさなければならない責任であったが、前記のような巧妙かつ悪質性の高い手口で被害者の不保護を主導したのはほかならぬ被告人である。そして、被告人は、被害者がごくわずかな食事しか与えられず、異常に痩せ細り、繰り返し激しい頭痛を訴えるなど、要保護状態に陥っていたことを明確に認識していながら、更にその後もXの収入を根こそぎだまし取った上、第三者から食料をもらってはならない、公的機関や病院に助けを求めてはならないといった指示や支配を解消することなく、Xら家族への定期的な食事の提供を止め、それまで以上にXら家族が食料を確保することを困難にさせているのであり、被害者の生命、身体に対する危険性を軽視した意思決定は非常に強い非難に値する。被告人が本件犯行を否認しているため、動機は必ずしも判然としないが、Xから長期間かつ多数回にわたって現金をだまし取っていることからすると、少なくとも強い金銭欲があったことは明らかである。のみならず、単にXらに対する支配を強めて金銭をだまし取るためというだけでは説明がつかないほど、被害者の食事を過酷に制限し、執拗にXら家族を貶める言動を繰り返していたことからすると、Xら家族に対する悪意が事件の背景にあったこともうかがわれる。いずれにせよ、被告人はその欲望のままに本件犯行に及んだものといえ、酌量の余地は全くない。被害者の遺族らが被告人の厳重処罰を求めるのも当然である。
次に、詐欺窃盗事件については、被害総額が198万円余りと相当額に及んでいる上、Xの収入のほぼすべてを取り上げ、Xら家族の生活を困窮させて、被害者の不保護に至らせた犯行でもあり、しかも、被告人は、被害者の死亡後も思いとどまることなく、更に金銭をだまし取っているのであって、総じて犯情は重い。以上によれば、子に対する保護責任者遺棄致死事件の中で、本件のそれは極めて重い部類に属するものといえ、この犯行と密接に関連する詐欺窃盗事件の犯情の重さも併せ考慮すると、被告人の刑事責任は懲役15年を下回るものではない。その上で、被告人が、これだけの罪を犯しながら、客観的な証拠や事実関係が明らかにされても、なお不合理な弁解やXに責任を転嫁する供述を繰り返し、自らの責任に全く向き合っていない以上、主文記載の刑に処するほかない。(求刑

懲役15年)
福岡地方裁判所第2刑事部
裁判長裁判官

冨田

敦志

裁判官

辛島

靖崇

裁判官

加々美


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