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各詐欺幇助被告事件
事件番号令和4(う)39
事件名各詐欺幇助被告事件
裁判年月日令和4年7月27日
法廷名広島高等裁判所
結果棄却
原審裁判所名広島地方裁判所
原審事件番号令和3(わ)427
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-07-27
情報公開日2022-10-07 04:00:12
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令和4年7月27日宣告
令和4年(う)第39号
原審

広島高等裁判所
詐欺幇助被告事件

広島地方裁判所令和3年

第427号

主文
本件各控訴を棄却する
理1由
被告人甲及び被告人乙の各控訴の趣意は、弁護人望月賢司作成の各控訴趣意書に記載されているとおりであるから、それぞれこれを引用する。控訴理由は、被告人両名共に、訴訟手続の法令違反、事実誤認及び法令適用の誤りである(弁護人は、第1回公判期日において、各控訴趣意書における法令適用の誤りの主張のうち、

被告人が黙秘権を告げられないまま多数の捜査関係事項照会書に回答した行為が、回答者の詐欺幇助の内心を立証するものとして有罪認定の根拠とされることは、憲法上、黙秘権の侵害である

という部分は、訴訟手続の法令違反の主張であり、それ以外の部分は、詐欺幇助行為や詐欺幇助の故意を認めて詐欺幇助罪が成立するとした原判決は事実を誤認し法令の適用を誤ったものであるという主張であり、事実誤認の主張を含む旨釈明した。)。
以下、被告人両名(以下被告人らともいう。)に共通するものについては特に区別せず論じる。

2
原判決が認定した罪となるべき事実の要旨(以下、原判示第1~第3において認定された詐欺の被害者を順次A
B
Cという。
)は、IP電話回線販売・
レンタル業等を営むP合同会社(以下P社という。
)の顧問として同社の業務
全般を統括していた被告人甲及びP社代表社員としてP社の業務全般に従事していた被告人乙が、共謀の上、①氏名不詳者らにおいて、共謀の上、令和2年2月20日から同年3月3日までの間、広島県a町内にいたAに対し、電話をかけてうそを言ってその旨誤信させ、Aを欺いて額面合計260万円相当のギフトカード利用権を得るとともに現金250万円を交付させた際、上記各犯行に使用され
ることを知りながら、これに先立つ同年2月12日頃、東京都内又はその周辺において、氏名不詳者らに対し、IP電話回線利用サービスを提供し、②氏名不詳者らにおいて、共謀の上、同年4月7日から同年6月13日頃までの間、広島県福山市内にいたBに対し、電話をかけてうそを言ってその旨誤信させ、Bを欺いて額面合計125万円相当のギフトカードの利用権を得るとともに現金合計3370万円を交付させた際、上記各犯行に利用されることを知りながら、これに先立つ同年3月26日頃から同年5月18日頃までの間、7回にわたり、東京都内又はその周辺において、氏名不詳者らに対し、IP電話回線利用サービスを提供し、③H及び氏名不詳者らにおいて、共謀の上、同年9月3日、香川県内にいたCに対し、電話をかけてうそを言ってその旨誤信させ、Cを欺いて現金780万円を交付させた際、上記犯行に使用されることを知りながら、これに先立つ同年8月20日頃、東京都内又はその周辺において、氏名不詳者らに対し、IP電話回線利用サービスを提供し、もって①~③の各正犯者の犯行を容易にしてこれを幇助したというもの(詐欺幇助)である。
3
訴訟手続の法令違反の論旨について
論旨は、①被告人らが黙秘権を告げられないまま多数の捜査関係事項照会書に回答した行為が、回答者である被告人らの詐欺幇助の内心を立証するものとして原判決の有罪認定の根拠とされることは、
憲法上、
黙秘権の侵害に当たる、
②本件詐欺幇助の認定は合同会社K(以下K社という。)の設立経緯に被告人らが関与していることを前提としているところ、この点は原判決では明らかになっていない上、被告人乙については、K社設立への関与の有無、程度は原審で争点として議論されていなかったのに、原裁判所は釈明義務を尽くさず不意打ちのように事実を認定しており審理不尽の違法があることから、以上のような判決や審理をした原裁判所には判決に影響を及ぼすべき訴訟手続の法令違反があるというものである。
そこで記録を調査して検討する。

①について見ると、所論が論難する原判決の認定判断は、被告人らが上記照会への回答や回線停止要請等を含め電話でのやり取りを行っている中で、P社が提供先法人に提供したIP電話回線が多数特殊詐欺に利用されたことや、そういった場合にP社宛てに警察から捜査関係事項照会がされたり、キャリアから強制解約がされたりすることを認識していたという部分や、この認定事実等を前提として被告人らに詐欺幇助の故意があると判示する部分と解されるところ、上記照会等に係る原判決の認定については、P社を名宛人とした捜査機関からの照会に対する被告人らの回答行為ないし回答内容それ自体ではなく、上記照会等を通じて被告人らが特殊詐欺の関連情報について知り得たことを被告人らの内心の立証その他の有罪立証に用いたものであることは、その説示から明らかである。したがって、原裁判所の訴訟手続について黙秘権侵害の問題は生じない。
②については、所論のいうK社の設立経緯とはK社の代表者の名義変更手続等をした経緯をいうものと解されるが、後述するとおり、その経緯やこれへの被告人らの各関与内容について、原判決は明示的に説示している。また、原審では、検察官による冒頭陳述及び第4回公判期日においてされた論告において、上記の経緯やこれへの被告人らの関与について明確に主張され、各被告人質問においても明確に質問されている。以上のような原判決及び原審経過に照らし、釈明義務の問題や不意打ちの問題はおよそ生じない。
その余を含め全ての所論を検討しても、原裁判所に訴訟手続の法令違反は見いだせず、所論は採用できない。
論旨は理由がない。
4
事実誤認及び法令適用の誤りの論旨について
論旨は、被告人らについて、いずれも詐欺幇助行為も詐欺幇助の故意も認められないのに、これらを認めて詐欺幇助罪を適用した原判決には判決に影響を及ぼすべき事実誤認及び法令適用の誤りがあるというものである。
そこで、記録を調査して検討する。
原判決は、補足説明において、次のとおり説示して、被告人らについて共謀による詐欺幇助罪が成立するとした。

証拠によれば、被告人らがP社の活動として行っていたIP電話回線提供業務その他の事実関係は次のとおりである。
被告人甲は、被告人乙にIP電話回線販売の仕事を紹介し、資本金10万円を用意し、平成31年1月16日、被告人乙が会社代表者としてP社を設立した。P社のレンタルオフィスは被告人甲が用意したが、業務は、そこではなく、主に被告人甲が間借りしてきた一室(以下間借り部屋という。)で、被告人乙が一人で行っている。
被告人甲は、氏名不詳者2名とIP電話回線提供に関する合意をし、P社からの直接のIP電話回線提供先
(顧客)
を法人とし、
それらの法人
(以
下提供先法人ともいう。)とP社が販売代理店業務委託基本契約などの名称で継続的な契約を締結した。P社独自での広告は行っておらず、駅前でチラシ配りをした程度で、個人へのIP電話回線提供契約は1件のみである。提供先法人として契約書を交わした法人は、令和元年6月5日合同会社R(以下R社という。)、同年7月16日合同会社W、同年9月24日株式会社CH(以下CH社という。)、同年11月7日K社、同年12月25日合同会社NC、令和2年10月16日合同会社AMである。このうち、K社については、被告人甲が氏名不詳者2名を介してIP電話回線を提供する際、その間に名義のみ介在させる法人を用意することとし、被告人甲がサクライを名乗り、知人から紹介されたDを介し、Eが知人を名目上の代表者にして設立していたK社の名義を借りたものである。被告人甲らは、名目上の代表者をFに変更してもらった上、令和元年11月7日、被告人乙と共にEやFと会い、販売代理店業務委託基本契約書を作成した。同年12月5日、被告人甲がK社の電気通信事業届出をし
た。EやFはK社のIP電話回線販売業務をしていないし、従業員を雇用してもいない。K社名義で提供を受けた回線が実際に誰に提供されたかについては、K社に経営実態がなく、被告人甲も実際の提供先の個人を特定しない又はできないため、調査することが困難な状態が作出されている(被告人らは、使用者個人が特定されない電気通信回線利用の需要があることを認識している。したがって、提供するIP電話回線がそのようなものとして利用されると認識していた。)。
なお、令和元年12月9日株式会社T(以下T社という。)がF宛に発送した封筒が、間借り部屋の被告人乙が使用する席で保管されていた。封筒の中には、T社とK社との間での再販に関する同意書OEM供給基本契約書の控え(K社の社印の印影があるもの)等が入っており、その封筒に同封されていてその頃返送されたと考えられるK社のご契約情報がT社で保管されており、これに記載されたK社の社名や所在地の筆跡(合同会社の文字や地と池)は、被告人乙の筆跡と一見
してよく似ている。
P社は、主に被告人乙がメールや電話でそれら提供先法人関係者を名乗る者から必要回線数の注文を受け、P社から被告人甲が被告人乙に伝えた株式会社V(以下V社という。)宛てにそのまま必要なIP電話回線の発注をし、折り返し作業完了及び回線ID、パスワード等の連絡を受けると、被告人乙が提供先法人に新規注文の発行が終わった旨やID、パスワード等をメールで伝える方法でIP電話回線利用可能な役務を提供した。提供先法人(K社)に提供した回線が大本の回線提供電気通信事業者から強制解約となったり、P社が警察から解約依頼を受けた場合には、被告人乙が提供先法人にその旨や解約となる回線を連絡し、解約した。その連絡の際、被告人乙は、特に実際の使用者の特定や利用方法の犯罪性に対する苦情などのやり取りをしていない。

令和元年6月から、本件に係る回線が提供された令和2年2月12日頃ないし同年8月20日頃までの間、P社が唯一の仕入れ先V社から提供を受けた回線について見ると、契約期間等での分け方等の点で回線数の数え方の問題はあるものの、特殊詐欺に利用されているとして警察が把握したものが、令和元年6月から同年9月にかけてP社がR社に提供した314回線のうち約68%、同月から令和2年1月にかけてP社がCH社に提供した1261回線のうち約87%、令和元年11月から令和2年1月にかけてP社がK社に提供した121回線のうち約78%ある(警察が把握した時期が令和2年2月以降のものを含む。以上は甲114の計上方法による。)。
P社の売上げは被告人乙が表にし、提供先法人からの代金徴収も被告人乙が行った。P社の設立や業務に関する費用は被告人甲が準備しており、P社の収支は被告人甲に帰属し、被告人乙の給料は甲が決めて月20~30万円を支払っていた。
被告人らは、令和元年11月頃までには、警察からの捜査関係事項照会への回答や提供回線の停止要請等を含め電話でのやり取り等を行っており、その中で提供先法人に提供したIP電話回線が多数特殊詐欺に使用されたことや、そういった場合にP社宛てに警察から捜査関係事項照会がされたり、キャリアから強制解約になったりすることを認識していた。本件後も含め、他の提供先法人に提供したIP電話回線についても同様であった。被告人乙は、被告人甲にGを紹介し、被告人甲の指南で、令和2年12月3日、Gが代表社員となり株式会社L(以下L社という。)を設立した。被告人甲は、被告人乙に対し、会社名を指示した。L社はV社からIP電話回線を仕入れて提供しているが、L社が提供した回線のうち少なくとも18回線が、令和3年2月22日から同年5月6日までの間に特殊詐欺に使用されたことが警察に認知された。


以下、検討する。
被告人らが意思を通じて行っていたP社名義でのIP電話回線を提供する行為が、判示各詐欺行為のだましの電話に用いられたことは証拠から明らかであるから、被告人らの行為が本件各詐欺の実行行為の遂行に大きく寄与し、
氏名不詳者らによる判示詐欺の各犯行を容易にしたと認められる。特にP社からK社宛てに提供した回線については、P社側では実際に提供した相手やその先の利用者の本人確認ができていない(仮に認識しているのであればその情報提供をしていない)ことから、容易には判明しない状態になっている。すなわち、P社の事業は、K社という事業実態のない法人を介在させて、個人特定を書類や契約上明確にしない形で回線を提供しており、意図的に回線の実際の利用者を外部から把握できないようにし、その調査自体を困難にさせる機能を有する事業形態となっている。本件本犯のような特殊詐欺においてはだます電話の開始から実際に財物や財産上の利益を得るまでに一定の時間を要することが想定されるが、そのような犯行に用いるだます行為等の道具として、本人確認が求められることも多い大手事業者等に比して、犯行継続中や遂行後に犯行関与者の特定を困難にする形態での回線提供となっている面でも、実行犯らの犯行への関与自体やその遂行を容易にするものとなっている。
以上の事実に照らし、被告人甲が被告人乙と共に行ったIP電話回線を提供する行為は、その多くが特殊詐欺を含む犯罪行為に利用されることとなる蓋然性が極めて高い、特定少数者からのK社名義で偽装した多数の提供申込みに対して、それと知りつつ、個々の申込みごとに区別せずにP社からIP電話回線を継続的に提供する行為であり、不特定多数の者に対し広く電気通信事業者としてIP電話回線を提供するといった中立的・日常的な取引ではない。そして、被告人甲は、遅くともP社の提供先法人として実態のないK社を準備する際、氏名不詳の知人2名が窓口となる提供先
に対し、法人を介して多数のIP電話回線を提供する意思であり、その知人2名が用意する提供先あるいはその提供先が更に提供する先は、その多くが特殊詐欺等の犯罪行為を行っている者であることを認識していた。以上から、被告人甲に幇助犯としての故意があることが明白であるし、特段幇助犯の成立を制限する必要性も理由もない。
被告人乙についても、被告人甲に誘われて行っていた、被告人甲が手配した提供先法人へのIP電話回線提供行為として見ると、上記のように多数特殊詐欺に利用されることになる回線を限られた窓口を通じて提供するものとして、中立的・日常的な取引行為ではないことは明らかである。上記K社のお客様情報の記載、筆跡や封筒の保管場所等からして、被告人乙がK社の作成すべき書面に記載してT社に提出していることから、被告人乙もK社が実態のない法人であると認識していたと推認できる。
以上から、
被告人乙に幇助犯の故意があることは被告人甲と同様である。
以上の原判決の認定判断に、
論理則、
経験則等に照らして不合理な点はなく、
当審としても正当としてこれを是認することができる。
所論は、要旨、ⓐ被告人らと本犯者との人的関係は立証されておらず、顧客とのメールから当該回線が詐欺に使用されることを疑い、見抜くことは無理を強いるものである、ⓑP社は電気通信事業者であり、IP電話回線の利用申込みを受けた場合正当な理由がない限り拒否できず、そのような正当な理由はない、ⓒ被告人らは特殊詐欺グループから通常のIP電話回線使用料を超える対価を得ていない、ⓓ本犯の実行行為や、幇助行為であるIP電話回線の提供に関する日時、場所又は相手方が特定されておらず、犯行を容易にしたという解釈には無理がある、ⓔP社がIP電話回線を提供したのは法人に対してであり、当該回線は本犯である個人に間接的に貸し出されたもので、顧客の属性(法人)
詐欺実行犯の属性
(個人)
との間に齟齬がある、
詐欺に利用される回線は、
大手事業者から販売を受けた再販業者から2次、3次と再販が繰り返されて最
終的に詐欺グループに提供されるもので、大手事業者も同様の業務を行っているから、そのIP電話回線の一部が詐欺に利用されただけでは詐欺の幇助にならない、ⓖIP電話回線が詐欺に利用される割合で有罪無罪を決定するのは不合理である、ⓗ原判決が前提とした、P社が提供したIP電話回線の犯罪使用率、特殊詐欺犯罪利用率が不正確である、ⓘ被告人らは、警察からの電話回線の強制解約依頼には全て即時任意に応じていたものであり、詐欺幇助の認容はない、ⓙ原判決の罪となるべき事実では

氏名不詳者らにおいて、…人を欺いて財産上不法の利益を得るとともに財物を交付させた『際』、(被告人らが)前記各犯行に使用されることを知りながら

と記載されており、本犯者と面識のない被告人らについて、詐欺の被害者が財物を交付した時に幇助の故意が生じたという不可解な認定をしている、ⓚ大手事業者の代表者や従業員においても、自己の会社が提供するIP電話回線が間接的に詐欺に使用される可能性を認識していると推認されるのであって、本件において詐欺幇助として有罪にする場合、大手事業者との差異を合理的に説明できるのか疑問であるなどと主張する。
以上の所論は、ⓒ~ⓗにおいては詐欺の幇助行為性を、ⓐ、ⓘ~ⓚにおいては詐欺幇助の故意をそれぞれ認めた原判決の認定判断を論難し、
ⓑにおいては
被告人らに違法性阻却事由がないことを前提とする原判決を論難するものと解される。以下、順次検討する。
詐欺の幇助行為性に関する所論について検討する。
ⓒについては、本犯が財産犯である場合でも報酬や対価を得ることは幇助の成立要件ではないとした原判決の判断に誤りはなく、幇助行為に対する対価や報酬の有無は幇助行為の成否を左右するものではない。
ⓓⓔについて見ると、幇助行為時点において、本犯の内容が確定している必要はなく、また、本犯者を直接幇助する行為のみが幇助行為となるものでもなく、被告人らが役務を直接提供した相手が更に別の者に提供し(これが繰り返
されることを含む。)、間接的に本犯者の犯罪行為を容易にする場合も幇助に該当するのであり、原判決がこれらの点を前提とした上で、回線提供時には具体的な本犯の時期、場所、本犯者及び被害者が確定していないという意味で不特定の犯罪に対する幇助行為という面はあるが、幇助行為時において、将来実現される蓋然性のある犯罪が社会的に見て組織的に敢行される特殊詐欺という程度に特定されており、現にそのような詐欺行為が実行され、それに寄与した以上、客観的には幇助行為に当たるとしているところ、その判断に誤りはない。
ⓕについては、原判決は、被告人らの行為について、大手電気通信事業者が広く不特定多数の者に対して役務を提供しているのと異なり、特定少数者を窓口とする役務提供行為であって、その多くが詐欺を含む犯罪に利用される蓋然性があるものである点や、名義を偽るために実態のないK社との契約を装っている点を挙げて、大手電気通信事業者の事例との比較は意味がないというところ、この説示に誤りはない。
ⓖⓗについては、原審証拠によれば、本件のうち被告人らの最初の幇助行為の時期である令和2年2月12日頃までに限っても、P社からK社に提供したIP電話回線が特殊詐欺犯罪に使用された割合は相当大きいものであると認められる。したがって、原判決が、同証拠に基づいて、P社がK社に対して提供するIP電話回線の多くが特殊詐欺を含む犯罪行為に利用されることとなる蓋然性が極めて高いものであったと認定し、更にK社という事業実態のない法人を介在させて犯行関与者の特定を困難にする形態で回線を提供していることなども併せ考慮した上で、本件詐欺の幇助行為性を肯定したその判断に不合理な点はない。
詐欺幇助の故意に関する所論について検討する。
ⓐについて見ると、原判決は、個々のIP電話回線提供行為の際に、個々のIP電話回線について確定的に特殊詐欺に利用されることの認識までは要し
ないとし、詐欺幇助の故意責任を問うには、幇助行為を思いとどまるべきであるという規範に直面できるだけの認識があれば足り、本件では、継続的にK社名義での発注の多くの割合が詐欺を含む犯罪に利用され、それが社会的に見ても無視し得ない状況であることが理解できるだけの包括的な認識が被告人らにあるから、被告人らに詐欺幇助の認識に欠けるところはない旨の判断をしているところ、その判断に誤りはない。
ⓘについて、原判決は、被告人らの行為は、特定少数の窓口への回線提供行為であるのに、提供先にその防止措置等を要請するでもなく、提供先を変更するでもなく、淡々と日常的に強制解約等の連絡をして処理し、提供回線の多くが強制解約となる状況を認識しながら、なおこれを継続していたことや、本件後を含め各提供先法人に提供した回線について、
いずれも相当多くのものが特
詐欺に利用されていることをも認識しながら、
なおもL社の設立に関与して
いることを指摘した上で、被告人らは、提供回線が特殊詐欺に利用されることを当然のこととして認識、認容していた旨判断しているところ、その判断に不合理な点はなく、
所論が指摘する解約手続の一事をもって詐欺幇助行為に関す
る被告人らの認識、認容を揺るがすことはできないというべきである。ⓙについては、原判決は、被告人らの幇助行為時であるIP電話回線サービス提供時に故意を認めていることが、罪となるべき事実及び補足説明の説示から明らかである。所論が強調する詐欺本犯の行為の際とは、被告人らの詐欺幇助の対象となる詐欺本犯の行為を特定する趣旨をいう記載と解されるものであって、幇助行為の故意が生じた時点を示すものではなく、所論はこれを正解しないものである。
ⓚについては、ⓕで述べたとおり、そもそも、被告人らがした行為と、大手電気通信事業者の代表者や従業員等の行為は性質を異にし、
後者の行為は幇助
行為性を欠くものであるから、所論は前提を欠く。
違法性阻却事由に関する主張と解されるⓑについては、P社は電気通信事業
法25条にいう基礎的電気通信役務や指定電気通信役務を提供するものではなく、主張自体失当であるとした原判決の判断に誤りはない。
所論を全て検討しても、被告人両名について、詐欺幇助行為性及び詐欺幇助の故意を肯定した原判決の認定判断に論理則、経験則等に照らして不合理な点は見いだせず、共謀による詐欺幇助罪が成立するとして法令を適用した点についても誤りはない。
所論はいずれも採用できず、論旨は理由がない。
5
なお、原判決は、被告人両名に係る法令の適用中の罰条において、次
のとおり摘示する。
第1の1、第1の3、第2の1、第2の3いずれも刑法60条、62条1項、246条2項(各別表のものはその番号ごとに)第1の2、第2の2、第3いずれも刑法60条、62条1項、246条1項(第2の2は別表4の番号4、5は包括しその余は番号ごとに)以上の摘示からは、原判決は、幇助罪の個数について、原判示第1は合計8個(原判示第1の1は4個、
同2は1個、
同3は3個)原判示第2は合計11個

(原
判示第2の1は3個、
同2は7個、
同3は1個)
と判断したことは明らかであり、
その判断に誤りはない。よって、原判決が、上記罰条に続く科刑上一罪の処理(観念的競合)のうち、原判示第1において1個の行為が2つの罪名に該当しと摘示したのは1個の行為が8個の罪名に該当しとの、原判示第2において
13個の罪全てに寄与する幇助行為
1個の行為が13個の罪名に該当すると摘示したのはそれぞれ11個の罪全てに寄与する幇助行為1個の行為が11個の罪名に該当するとの明らかな誤記と認める。6
よって、刑訴法396条により本件各控訴を棄却することとし、主文のとおり判決する。

令和4年7月27日
広島高等裁判所第1部

裁判長裁判官


裁判官

裁判官

波宏仁富張真紀家入美香名
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