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覚醒剤取締法違反、大麻取締法違反被告事件
事件番号令和4(う)13
事件名覚醒剤取締法違反、大麻取締法違反被告事件
裁判年月日令和4年7月28日
法廷名広島高等裁判所
結果棄却
原審裁判所名広島地方裁判所
原審事件番号令和3(わ)108
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-07-28
情報公開日2022-10-07 04:00:10
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令和4年7月28日宣告
令和4年(う)第13号
原審

広島高等裁判所
覚醒剤取締法違反、大麻取締法違反被告事件

広島地方裁判所令和3年

第108号、161号

主文
本件控訴を棄却する
当審における未決勾留日数中130日を原判決の刑に算入する。
理1由
本件控訴の趣意は弁護人見越正秋作成の控訴趣意書及び弁論(意見)要旨と題する書面に、控訴趣意に対する答弁は検察官藤川浩司作成の答弁書にそれぞれ記載されているとおりであるからこれらを引用する。控訴理由は、原判示第1の覚醒剤譲渡未遂の罪に関する事実誤認及び法令適用の誤りである。
2⑴

原判決が認定した罪となるべき事実原判示第1の事実の要旨は、被告人が、みだりに、令和2年10月17日、病院に入院中の知人(以下Aという。)に対し、覚醒剤結晶粉末約1.165g(以下本件覚醒剤という。)を譲り渡し、それと引き換えにAから6万円の支払を受けようと考え、同病院正面出入口前において、情を知らない同病院看護師(以下Nという。)に対し、A宛ての差入れ品であるとして本件覚醒剤を交付し、Nに本件覚醒剤をAがいる病室まで持って行かせ、もってAに本件覚醒剤を譲り渡そうとし、それと引き換えに、Nを介してAから現金6万円の支払を受けたが、Aの面前で本件覚醒剤の梱包を解いたNに看破されたため、覚醒剤譲渡しの目的を遂げなかった(覚醒剤譲渡未遂〔覚醒剤取締法違反〕)というものである。


なお、訴因変更後の公訴事実の要旨は、

被告人は、みだりに、令和2年10月17日、病院に入院中のAに対し、代金6万円で、情を知らないNを介して、本件覚醒剤を譲り渡そうとしたが、Nにこれを看破されたため、その目的を遂げなかった。

というものであり、被告人とAとの間で成立した覚醒剤の売買契約に基づき、被告人がAに対し、本件覚醒剤を代金6万円で売却しよう
としたというのが原審検察官の主張である。


これに対し、原審弁護人の主張は、覚醒剤の真の売主(以下Xという。)とAとの間で覚醒剤売買の合意はできており、被告人は、入院中で動けないAから頼まれて、Xと会い、Xに代金6万円を立替払いして本件覚醒剤を受け取り、これをAに渡そうとしただけであるとして、被告人の行為は覚醒剤の譲渡に当たらないというものである。



論旨は、要するに、本件覚醒剤譲渡未遂について、被告人がAに本件覚醒剤を引き渡そうとした行為は覚醒剤の譲渡(未遂)に該当しないから、被告人に覚醒剤譲渡未遂罪を認めた原判決は、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認及び法令適用の誤りがあるというものである。
そこで、記録を調査して検討する。

3
原判決は、要旨、次のとおり説示し、本件覚醒剤譲渡未遂の事実を認定した。既に死亡したAは、生前、検察官調書において、入院中、被告人に電話で覚醒剤を買いたい旨言い、
被告人に覚醒剤を病院に持って来させた旨供述しているが、
Aの供述は看過できない問題を抱えており、真の売主を秘匿するために虚偽の供述をしている疑いを払拭できず、売主に関するAの供述部分には信用性を認めることができない。
被告人が供述するとおり、被告人が、Aから、Xに代金を立替払いして覚醒剤を買って来るように依頼され、この依頼に応じて、Aの代理人として、代金6万円を支払ってXから本件覚醒剤を受け取り、
本件覚醒剤を病院前まで持って行き、
Nを介して入院中のAに渡そうとしたことを否定できず、これを前提にせざるを得ないところ、被告人がAに覚醒剤を渡そうとした行為は、被告人が本件覚醒剤について事実上有していた処分権限と所持をAに移転しようとするものとして、覚醒剤譲渡罪所定の譲渡し(未遂)に該当する。
補足すると、本件では、A・X間の売買において、被告人がAの代理人として行動したが、被告人がXから本件覚醒剤を取得した時点においては、Aは、入院
中であって、病院の外で被告人とXとの間で授受された覚醒剤が約束していた量より相当少なかった事実を知らなかった。その時点では、Aは、被告人に本件覚醒剤の代金を渡しておらず、被告人から立替払いの6万円を請求される立場にあった。しかも、被告人は、Aからこの6万円の支払を受けられない場合には、本件覚醒剤をAに渡さないという意思であったと認められる。Aは、入院中で病院から出ることが困難であるから、被告人が病院に来てA宛てに差し入れてくれるのを待つほかなかった。本件当時、Aが入院していた病院では、新型コロナウィルス感染拡大防止の観点から、入院患者と外部との接触が禁止されており、外部の者が入院患者に差入れをする場合、同病院看護師が病院玄関前で受け取ることになっていたから、たとえ被告人が約束どおり本件覚醒剤をAのいる病院に持って来たとしても、本件のように看護師に怪しまれた場合には、Aは本件覚醒剤を受け取ることができない。
こうした点に照らせば、被告人がXから本件覚醒剤を取得した時点において、Aは本件覚醒剤に対し事実上の支配を及ぼし得る状態にはなかったというべきである。
したがって、被告人がNを介してAに本件覚醒剤を渡そうとした行為は、新たに被告人からAに対しその処分権限と所持とを移転しようとする行為であるから、覚醒剤の譲渡しに着手したものといえる。
4
上記の原判決の説示は、論理則、経験則等に照らして不合理なものではなく、当裁判所としても正当として是認することができる。

5⑴

所論は、本件では、被告人とAの共謀によるXからの覚醒剤譲受罪の共同正犯が成立するが、その場合、共犯者は共に覚醒剤の害悪を取得したと評価され同等の違法評価を受けるので、その後共犯者の一方が他方にその覚醒剤を移転しても、新たな覚醒剤移転という法益侵害は認められず、不可罰的事後行為と評価されるから、Aに対する覚醒剤譲渡未遂罪を認めた原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実誤認及び法令適用の誤りがあると主張する。
しかしながら、仮に、先行する被告人のXからの本件覚醒剤の譲受けについて、A及び被告人に被告人を実行犯とする共謀共同正犯が成立する場合であっても、被告人がXから本件覚醒剤を譲り受けた時点において、被告人が本件覚醒剤の事実上の処分権限及び所持を取得する一方で、Aがそれらを取得しないときには、その後被告人がAに対し、本件覚醒剤を交付し、その事実上の処分権限を付与しその所持を移転する行為は、新たに保健衛生上の現実的危険を生じさせるものであり、覚醒剤の譲渡しに該当し、その時点で覚醒剤譲渡罪が成立すると解される。被告人がAを代理してXから本件覚醒剤を譲り受けることにより、Aがその法律上の処分権限を取得することは上記結論を左右するものではない。
所論は、覚醒剤譲受けの共同正犯者間において覚醒剤を移転する行為はあたかも一人の人物がその右手に持っている覚醒剤を左手に持ち替えたと同様であるとも主張するが、弁護人の挙げる例は、共同正犯者がいずれも当該覚醒剤の所持を取得した場合にのみ当てはまるものであり、当を得たものとはいえない。
本件では、後述するとおり、被告人は、Xから本件覚醒剤を譲り受けた時点で、本件覚醒剤の事実上の処分権限及び所持を取得した一方で、Aはそれらを取得していなかったものと認められ、その後、被告人が、情を知らないNを介して、Aに対し本件覚醒剤を交付しその事実上の処分権限を付与しその所持を移転しようとした行為は、保健衛生上の現実的危険を生じさせようとしたものであって、覚醒剤の譲渡しの実行行為に該当し、被告人には覚醒剤譲渡未遂罪が成立すると解するのが相当である。
したがって、被告人が本件覚醒剤をAに渡そうとした行為が覚醒剤譲渡未遂罪に当たるとした原判決の判断に誤りはない。


所論は、被告人には、Xから譲り受けた本件覚醒剤をA以外の者に移転するという選択の余地がなかったこと、被告人は、偽装工作までして本件覚醒剤を
入院中のAに渡そうとするなど、本件覚醒剤をいかなる方法を使ってでもAに渡そうとする強い意思を有していたことから、被告人がXから本件覚醒剤を譲り受けた時点で、被告人は本件覚醒剤について事実上の処分権限を有しておらず、他方でAは本件覚醒剤の所有権及び事実上の処分権限を伴う所持を取得したといえ、被告人がAに本件覚醒剤を渡そうとした行為は、覚醒剤譲渡未遂の構成要件に該当しないとの趣旨の主張をする。
しかしながら、被告人は、原審において、Aから6万円の支払を受けられなくとも本件覚醒剤をAに渡すつもりであったなどとは一切述べておらず、かえって、Aから6万円の支払を受けられない場合について、どうしてもAと連絡を取る、本件覚醒剤をXに戻しに行くなどと述べている。そうすると、いかなる方法を使ってでも本件覚醒剤をAに渡そうという被告人の強い意思があるという所論は、被告人がAから6万円の支払を受けられない場合には本件覚醒剤をAに渡さない意思であったという原判決の認定を揺るがすものではないし、そのような被告人の意思や、Aと外部との接触手段等の客観的事情に基づいて、Xから本件覚醒剤の交付を受けた被告人が、本件覚醒剤について事実上の処分権限や所持を取得したと認め、他方で、Aがいまだ本件覚醒剤に対し事実上の支配を及ぼし得る状態になかったと認めた原判決に誤りはない。⑶

その他、所論は、原判決は、被告人がXから本件覚醒剤を譲り受け、Aに引き渡そうとした行為について、被告人を代理人として独立性を認め、解説書の事例に無理やり当てはめて、Aが本件覚醒剤に対し事実上の支配を及ぼし得る状態にあったか否かを論じており妥当でない、Xとの取引内容は全てAが決定し、被告人はAがXとの間で締結した覚醒剤購入契約を前提に、Aの指示のままにXから本件覚醒剤を入手したのであって、いわば使者であり、代理人としての独立性を持った立ち居振る舞いをしていないと主張する。
しかしながら、原判決は、被告人が代理人であるという法律構成から被告人の独立性を認め本件覚醒剤に事実上の支配を及ぼし得るという判断をしてい
るものではない。原判決は、被告人が、入院中でXと接触することが困難であったAに代わり6万円を自らの負担で支払って本件覚醒剤を受け取り、かつ、Aから6万円の支払を受けられない限り本件覚醒剤をAに渡さない意思であったことや、Aは、被告人による本件覚醒剤の差入れを待つほかない上、Aが入院する病院では入院患者と外部との接触が禁止されており、外部の者が入院患者に差入れをする場合、看護師が仲介することになっており、被告人から直接受け取ることもできず、本件のように看護師に怪しまれた場合にはAは本件覚醒剤を受け取ることができないことなどの事実関係を挙げて、Aは本件覚醒剤に対し事実上の支配を及ぼし得る状態にはなかったと認定していることはその説示から明らかであるし、上記事実関係に基づき、被告人についてXから本件覚醒剤の交付を受けた際その事実上の処分権限及び所持を取得したと認定したものと解されることは、原判決の説示から明らかである。
所論は採用できない。


なお、所論は、被告人は、本件覚醒剤をAに渡すために病院に赴き、Nにこれを手渡した時点でその所持を移転しているから、被告人から本件覚醒剤を没収することはできないと主張するが、本件において、被告人はAに対する本件覚醒剤の事実上の処分権限及び所持の移転を完了するに至っておらず、被告人が有していた本件覚醒剤の所持は完全に失われたとはいえないから、被告人から本件覚醒剤を没収した原判決の判断に誤りはない(付言すると、本件覚醒剤は、覚醒剤譲渡未遂罪の犯罪行為を組成した物であるところ、被告人がAの代理人としてXから譲り受けたことにより、同罪の犯人(必要的共犯)に当たる譲受人のAに所有権が帰属し、Aはその後所有権を放棄しているから、犯人以外の者に属しない物に該当し、刑法19条1項1号により没収することができる物でもある。)。



結局、所論の指摘を全て検討しても、原判決の判断に不当な点はなく、所論はいずれも採用できない。原判決に所論指摘の事実誤認、法令適用の誤りはな
く、論旨は理由がない。
6
よって、刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし、当審における未決勾留日数の算入について刑法21条を、当審における訴訟費用を被告人に負担させないことについて刑訴法181条1項ただし書をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。
令和4年7月28日
広島高等裁判所第1部

裁判長裁判官


裁判官

裁判官

波宏仁富張真紀家入美香名
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