判例検索β > 令和3刑年(わ)第46号
収賄
事件番号令和3刑(わ)46
事件名収賄
裁判年月日令和4年5月26日
法廷名東京地方裁判所
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-05-26
情報公開日2022-08-24 04:00:08
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令和4年5月26日
令和3年刑

第46号

東京地方裁判所刑事第10部宣告
収賄被告事件
判決主文
被告人を懲役2年6月に処する

この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を猶予する。
被告人から500万円を追徴する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、平成30年10月2日から令和元年9月11日までの間、農林水産大臣として、農畜産物の生産、家畜の衛生、農業技術の改良・発達、農林水産業の振興のための金融上の措置に関する企画・立案・助成及び株式会社日本政策金融公庫(以下公庫という。
)の業務の監督に関することなどを所掌する農林水産省(以

農水省
という。の事務を統括し、

農水省職員の服務を統督する職務に従事し、

かつ、公庫の主務大臣として、公庫の業務の方法について認可権等を有していたものであるが、鶏卵の生産・販売等に関する事業を行う株式会社A(平成31年3月31日以前の商号は株式会社B。以下Aという。
)の代表取締役としてその業務
全般を統括するとともに、養鶏生産物の需給安定等に関する事業を行う一般社団法人C協会(以下C協会という。
)の特別顧問等として、これを実質的に運営して

その業務全般を統括し、かつ、養鶏産業の安定的な発展のために養鶏産業の経営に関する情報の提供等の事業を行う一般社団法人D協議会
(以下
D協議会
という。

の代表理事等として、その業務全般を統括していたEから、
第1

国際獣疫事務局(以下OIEともいう。
)が定める採卵鶏の飼養に関す

る規約修正案に対して農水省として反対意見を取りまとめるなど、C協会及びD協議会の各事業等にとって有利かつ便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨を含むものとして供与されるのであろうと思いながら、平成30年11月21日、東京都千代田区(住所省略)所在のFホテルにおいて、現金200万円の供与を受け、第2

前記規約修正案に対する農水省としての反対意見の取りまとめなどにつき
有利かつ便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼及び今後も同様の取り計らいを受けたいとの趣旨を含むものとして供与されるのであろうと思いながら、平成31年3月26日、東京都千代田区霞が関1丁目2番1号所在の農水省農林水産大臣室において、現金200万円の供与を受け、
第3

中小養鶏業者に対する公庫による資金貸付条件を緩和するなど、C協会及
びD協議会の各事業等にとって有利かつ便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨を含むものとして供与されると知りながら、併せて、前記規約修正案に対する農水省としての反対意見の取りまとめなどにつき有利かつ便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼の趣旨も含まれているのかもしれないとも思いながら、令和元年8月2日、前記大臣室において、現金100万円の供与を受け、
もってそれぞれ自己の職務に関して賄賂を収受した。
(証拠の標目)

省略
(事実認定の補足説明)
本件では、被告人がEから、罪となるべき事実記載の日時場所において各現金の供与を受けたこと(以下本件各供与という。
)に争いはなく、証拠上も明らかで
ある。被告人は、本件各供与について政治献金と思っていたと述べ、弁護人は、本
件各供与は政治献金として行われたものであって賄賂ではなく、被告人には賄賂との認識がなかったので故意もなく、無罪であると主張する。したがって、本件の争点は、Eがいかなる趣旨で本件各供与をしたのかと、被告人が本件各供与の趣旨をどのように認識していたかである。以下、これらについての当裁判所の判断を補足して説明する。

第1
1
判示第1の現金200万円の供与(第1供与)について
Eが第1供与をした趣旨について
第1供与の態様等
Eは、第1供与をした平成30年11月当時、採卵鶏を飼養して鶏卵を生産し、これを販売する等の事業を行うAの代表取締役としてその業務全般を統括していた。さらに、C協会の元理事兼副会長として、あるいは同協会会長Gや同協会理事兼副会長であるEの長男Hらを通じて、その業務全般を実質的に統括していたほか、D協議会の代表理事としてその業務全般を統括するなどもしていた。このように、Eは、E自身の経営する養鶏事業、養鶏業界を代表する業界団体であるC協会及びD協議会の各事業を含め、養鶏業界全般に関わる事業の利害に強い関心を有する立場にあった。

E証言等によれば、そのような立場にあるEが、畜産技術や家畜の衛生といった養鶏業に関わる事柄を所掌する農水省の事務を統括する農林水産大臣を現に務めていた被告人に対し、資金移動状況が明確になる銀行振込み等によらずに、200万円という多額の現金を、他の者の目に付かない二人きりの場面で、多額の現金を渡す趣旨を明確にすることなく、半ば強引に手渡すという特異な態様で、供与したこ
とが認められる。すなわち、第1供与は、農林水産大臣に就任した被告人をもてなすためにD協議会が主催して開かれた大臣就任お祝いの会の宴席の最中に行われたものであるが、Eにおいて、宴席が行われている場ではなく、あえて、被告人がトイレに立って宴会場を離れた機会を見計らって、トイレ入り口付近で被告人に近づき、二人きりの状況で

お祝いです。

などと言いながら、実際には、社会通念
上の祝い金といえる額を遥かに超える200万円もの現金を茶封筒入りのまま被告人の上着ポケットに一方的にねじ込み、被告人が応答する隙を与えずに立ち去ったというものである。
そこで検討するに、Eが第1供与をした趣旨が、純粋な政治献金として専ら被告人の政治活動を支援することだけにあったのであれば、秘密裡に封筒入り現金を渡
すとか、応答する隙を与えずに渡し切るといった手法をとる必要はないと考えられる。そうすると、このような現金供与の態様自体が、純粋な政治献金以外の趣旨を含んでいることを強く示しているといえる。そして、Eは、鶏卵の生産・販売等に関する事業経営者として、あるいは養鶏業界を代表する立場から、政治家としての被告人と関わっていたにすぎず、プライベート上のつきあいとして現金を供与する理由が全くないこと、断る隙を与えずに密かに多額の現金を渡してしまえば、現金を受け取った者の意思決定や行動に対して密かに影響力を及ぼせることを併せ考えてみれば、自らの事業や養鶏業界の利害に強い関心を持つEが、農林水産大臣である被告人に対して密かに現金を供与する趣旨の中には、養鶏業界の利害に関わる事柄等にかかる権限を有する被告人に対し、Eの意向に沿う形で何らかの取り計らいをするよう期待する趣旨が含まれていたと強く推認できる。
Eの考え

そこで、Eが、第1供与によって、被告人に対し、どのような事柄に関し、どのような取り計らいを受けたいと考えていたかにつき、更に検討する。証拠によれば、以下の事実が認められる。

国際獣疫事務局(OIE)におけるアニマルウェルフェアをめぐる動き
OIEは、動物衛生の向上等を目的とした政府間機関であり、日本もこれに加盟しているところ、OIEコードと呼ばれる国際規約の改正案として、平成30年10月頃、採卵鶏に関するアニマルウェルフェアの指針に関し、飼養するにあたって巣箱や止まり木の設置を義務化する内容を含む規約修正案の第二次案(以下修正二次案という。)が策定され、日本を含む加盟国に意見が求められていた。アニマ
ルウェルフェアとは、動物の生活とその死に関わる環境と関連する動物の身体的・心的状態と定義され、快適性に配慮した家畜の飼養管理を意味するものとされており、OIEコードが改正されると、日本において、直接の強制力をもつものではないものの、
当該コードに即して、
公益社団法人畜産技術協会が策定する採卵鶏の
アニマルウェルフェアの考え方に対応した飼養管理指針が改訂されることになり、
農水省として当該指針に沿った飼養の在り方を業界に指導していくことになるという性質を有していた。

修正二次案に対するEの考え

Eは、その頃、修正二次案の内容を知り、巣箱や止まり木の設置が義務化されると、多くの日本の養鶏業者がケージを入れ替えるなどの設備投資をしなければならなくなる上に、日本の風土で衛生を保ちながら安全な鶏卵生産を実現するには高コストがかかることから、養鶏業者に壊滅的な経済的打撃を与えることになると考えており、Aを含めた養鶏業者としては、巣箱や止まり木の設置を義務づける修正二次案がOIEで採択されないよう、これに強く反対する必要があると考えていた。また、Eは、OIEの委員を務める農水省消費・安全局動物衛生課長が動物愛護の考え方を尊重し、修正二次案に強く反対しない可能性があると心配しており、日本
政府代表としてOIEに提出する意見が、OIEコードに止まり木や巣箱の設置を必須とする条項が盛り込まれることに反対する意見となるよう、農水省担当者らを説得する必要があるとも考えていた。

Eがとった行動
陳情と宴席の日程調整等(10月25日)

Eは、農林水産大臣である被告人に事情を説明し、修正二次案に反対する意見をOIEに提出するよう農水省内部を取りまとめてもらう必要があると考え、平成30年10月25日、内閣官房参与I(当時。以下I参与という。
)と面談し、I
参与に対し、被告人に陳情する場を設け、その場に農水省消費・安全局長、同局動物衛生課長らを同席させることや、その日程調整を依頼し、同年11月12日に陳
情の場が設けられることとなった。
また、Eは、同年10月2日に農林水産大臣に就任したばかりであった被告人を祝う宴席として、Eが代表理事を務めるD協議会を主催者とする大臣就任お祝いの会を開催しようと考え、上記陳情の日程調整と同時に、宴席の日程調整もI参与に併せて依頼し、同年11月21日に大臣就任お祝いの会が開催されること
が決まった。
第1回要望書提出(11月12日)
Eは、
被告人への陳情の際に提出する被告人宛ての要望書
(以下
第1回要望書
という。
)を作成させるなどした上で、平成30年11月12日、農林水産大臣室において、被告人のほか、農水省消費・安全局長J、OIE日本政府代表委員を務める農水省消費・安全局動物衛生課長K(以下K課長という。、農水省生産局畜)
産部畜産振興課長L(以下L課長という。
)ら農水省担当者、C協会関係者・D
協議会関係者ら、I参与らが列席する陳情の場に出席した。その際、Eら養鶏業者側の要望として、国内の95%以上の従来型ケージ飼養をしている採卵養鶏場での巣箱や止まり木の設置は現実的には不可能であり、これが採択されれば、日本の鶏卵生産者に大きな打撃を与えるものであるなどとして、農水省として日本の現
状を踏まえた修正案となるよう努力されたいなどと記載された上記要望書が読み上げられ、被告人に提出された。
さらに、Eは、その場で、被告人に対し担当のL課長とK課長に改めて内容について相談させてほしいなどと発言し、被告人がこれを了承したことから、K課長ら農水省担当職員とC協会関係者・D協議会関係者らとの間で事務方打合せを実
施することが決められた。
大臣就任お祝いの会(11月21日)
Eは、平成30年11月21日、Eが代表理事を務めるD協議会の主催により、判示第1の事実記載のホテル宴会場において被告人を主賓として大臣就任お祝いの会を開催し、
多数の養鶏業界関係者らが出席していた宴席中に、
被告人に対し、

大臣就任を祝うとともに、

先日は、大変お忙しい中、要望を聞いていただきましてありがとうございました。「アニマルウェルフェアの問題について、大臣としてご

尽力のほどよろしくお願いします。などと述べて、

修正二次案に関する要望の件に
言及した。そして、前記のとおり、Eは、この宴席の中で、被告人がトイレに立った際に第1供与を行った。

事務方による意見交換会の実施(11月29日)
第1回要望書提出時にEが求めた事務方打合せとして、K課長及びL課長ら農水省側の事務担当者とH等の養鶏業界関係者らとの間の意見交換会が平成30年11月29日に実施された。ところが、Hらは、上記意見交換会における農水省担当者らの対応に不安を感じ、Eに対し、動物衛生課の方針がはっきりしないなどと報告したため、Eは、更に念を押す必要があると考えた。そこで、Eは、被告人に対し、修正二次案に反対してもらうよう再度の要望を行うこととした。
第2回要望書提出(12月14日)
Eは、平成30年12月14日、議員会館において被告人と面談し、巣箱や止まり木の設置義務化に反対し、従来型のケージ飼養も選択肢となるようOIEに強く働きかけてほしい旨を記載したD協議会作成名義の被告人宛て要望書(以下第2回要望書という。)を被告人に提出するなどして、被告人に対して修正二次案に反
対するよう再度の要望を行った。この際、Eは、被告人から、
今は大臣だから動けない

消費・安全局と生産局には声をかけておくので、養鶏研究会の先生方と農水省と養鶏業者の三者で協議して、そこで要望書を提出したらどうか

などと言われて、D協議会が支援している国会議員ら、養鶏業者、農水省職員による三者協議を
開催するよう促された。そこで、Eは、そのような三者協議の場としてアニマルウェルフェア問題緊急陳情会議と称する会議の開催を企画した。
アニマルウェルフェア問題緊急陳情会議の開催(12月20日)
Eは、平成30年12月20日、衆議院第一議員会館で開催され、I参与、M議員ら複数の国会議員、L課長及びK課長ら農水省担当者、D協議会関係者らが出席
するアニマルウェルフェア問題緊急陳情会議において、巣箱や止まり木の設置の義務化には反対し、従来型ケージ飼養も選択肢として規約に加えるよう強く働きかけてほしい旨を記載したD協議会作成名義の農水省及びOIE関係者宛て要望書を提出するなどした。

検討

以上のとおり、Eは、第1供与の9日前に、農水省として修正二次案に反対してもらいたいとの考えから、養鶏業者ら及び農水省担当者らが多数列席する陳情の場を設け、その場で修正二次案の問題点を記載した第1回要望書を被告人に提出した上、第1供与当日に開いた宴席の場でも、被告人に対して修正二次案に関する要望について再度言及するなどしつつ第1供与を行い、第1供与の後にも、農水省が反対意見を表明しないかもしれないとの懸念が生じるや否や、被告人に対し要望の趣旨をより明確にした第2回要望書を再度提出し、複数の国会議員らも巻き込んだ形で農水省担当者らに対して同様の要望を伝えていた。これらの行動からは、Eが第1供与を行った当時、修正二次案に対する非常に強い危機感を持ち、農水省担当者には修正二次案に必ず反対してほしいという強い意思を持って、様々なルートを通じて農水省担当者らに働きかけていた様子が認められる。

このようなEの考え及び行動に即してみれば、Eにおいて、第1供与当時、農林水産大臣である被告人に対し、その職務権限を通じて、修正二次案に対して農水省として反対意見を取りまとめるなど、C協会及びD協議会側に有利かつ便宜な取り計らいをしてもらいたいとの強い期待を抱いていたことは明らかである。E自身、当公判廷において、被告人の農林水産大臣在任中には、被告人にアニマルウェルフ
ェアの問題について調整をお願いしたい気持ちがあり、
第1供与当時の心情として、
被告人に対して、養鶏業界が抱える諸問題について、農林水産大臣として支援、指導してほしいという気持ちや、修正二次案について、農水省内で対立する意見を反対意見の方向へ調整することを期待する気持ちがあったなどと証言しており、このような証言は、第1供与の前後におけるE自身の行動及び考えとよく合致している
ものとして信用できる。
検討
以上のような事実関係、すなわち、



において検討したことを総合してみれ

ば、Eは、被告人が、農林水産大臣としての職務権限を通じて修正二次案に対する反対意見を農水省として取りまとめるなど、C協会及びD協議会の各事業等に有利かつ便宜な取り計らいをするよう期待し、現金200万円を被告人に密かに供与することにより、そのような期待に被告人に応えてもらいたいとの趣旨を含むものとして、第1供与を行ったと強く推認できる。このことは、E自身が、被告人に現金を渡す際の気持ちとして、養鶏諸問題について支援、指導してほしい気持ちがあった、養鶏諸問題のうち当時の一番の問題はアニマルウェルフェア問題であったと証言していることとも整合する。
以上によれば、第1供与は、被告人の職務に関し、修正二次案に対して農水省として反対意見を取りまとめるなど、C協会及びD協議会の各事業等にとって有利かつ便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨、すなわち賄賂の趣旨で供与されたものと認められる。
2
第1供与の趣旨に関する被告人の認識について
前記認定事実によれば、被告人は、平成30年11月12日に、農水省担当
者らやC協会関係者・D協議会関係者らが列席する場で修正二次案に関する陳情を受けていたのであるから、Eが、養鶏業界を代表する立場から、養鶏業界に打撃を与えるとの理由で修正二次案に強く反対し、そのために活発に活動していることを明確に知っていたと認められる。そのような要望を受けてから10日も経過しないうちにD協議会主催で開かれた宴席当日もアニマルウェルフェア問題に言及されるような状況下で、被告人は、前記認定のように、トイレに立って宴席を離れて二人きりになったわずかな時間に、半ば強引に現金200万円入りの封筒をポケットに押し込まれるという特異な態様で、Eから第1供与を受けたものであり、このような供与態様を被告人が逐一認識していたことも明らかである(なお、被告人は、本
件各供与された現金を受け取った際の具体的状況を全く覚えていないと供述している。大臣就任祝いの日に行われた上記のような第1供与を含めて、具体的記憶が一切ないという被告人の供述自体にわかには信用し難いが、その点は措くとしても、少なくとも、本件各供与を受けたそれぞれの時点においては、その供与態様についての具体的認識があったことは明らかである。。ところが、このような特異な態様)

で行われた第1供与の趣旨について、被告人がEに直接尋ねたり、確認したりするような対応をとった事実は一切うかがわれない。
そこで検討するに、養鶏業界を代表するような立場にあるEが現職の農林水産大臣である被告人に第1供与をした趣旨が、専ら被告人の政治活動を支援することだけにあったのであれば、秘密裡に封筒入り現金を渡すなどといった手法をとる必要がないことや、
政治献金、
すなわち政治家である被告人に対する寄附であれば、
様々なルールに則って行われるべきものであることを、
被告人自身も熟知していた。
そうすると、前記認定のような特異な態様で、養鶏業界の利害に強い関心があるはずのEから自らに差し出される現金には、農林水産大臣としての職務に関連する事柄に関する何らかの期待や意図が込められていると容易に思い浮かべることができ、被告人は、政治献金以外にそのような趣旨を含めて供与された可能性を認識しなが
ら現金を受け取ったと強く推認できる。
現に、証拠によれば、被告人は、第1供与された現金200万円全額について、領収証を作成することをせず、政治資金収支報告書への記載等の政治資金規正法で定められた処理も一切せずに費消し、その後、令和2年秋頃に、被告人の政策担当秘書を務めるNから、Eから受け取った一連の現金について、その時点で政治資金
収支報告書に記載するかと尋ねられても、寄附として適法に処理する手続を取ろうとせず、同年11月25日には、Eから受け取った一連の現金(本件各供与を含めて、政治資金規正法で定められた処理をせずにEから受け取っていた現金合計1800万円)の一部をNに預けるなどしたことが認められる。これらの行動は、被告人が、政治献金以外の趣旨を含むからこそ秘密裡に扱うべき性質の金銭と理解して
いたことを強く裏付けているといえる。
このような第1供与の態様及び費消状況に加え、第1供与に至る経緯、とりわけ被告人が、第1供与前に修正二次案に関するEの具体的な要望内容を知り、第1供与がされた当日の宴席上においてもアニマルウェルフェア問題が言及されていたこと、被告人とEとの間にプライベート上のつきあいがないなどの関係性を併せ考慮
すれば、被告人は、その当時のEの関心事であったアニマルウェルフェア問題に関し、Eが、C協会及びD協議会の各事業等にとって有利な意見、すなわち、修正二次案に反対の意見に農水省内を取りまとめるなど、農林水産大臣として何らかの取り計らいが行われるよう期待していて、そのような期待に応えてほしいとの趣旨を含めて第1供与を行っているのであろうと、その場で察知しながら第1供与を受け入れたものと強く推認できる。
さらに、
第1供与を受けた後の被告人の行動も上記推認を裏付けるものといえる。すなわち、前記認定事実及び証拠によれば、被告人は、平成30年12月14日に第2回要望書の提出を受けた際、
今は大臣だから動けないなどと言って、OIE
の規約修正といったテーマではこれまでに前例のなかった三者協議をEに提案した上で、同月17日に農水省生産局長O(以下O局長という。
)に対し、第2回要

望書を手渡すと共に、OIEコード案に対する意見の提出期限も迫っていて養鶏業界が心配しているので、農水省消費・安全局及び生産局において、関係する国会議員及び養鶏業者との三者による検討会を12月中に開催し、国会議員に丁寧に説明するように等の具体的な指示をしたこと、実際にアニマルウェルフェア問題緊急陳情会議と称する三者協議が速やかに実施され、その中でD協議会の支援を受けてい
た国会議員らから農水省担当者らに向けてEの意向に沿う発言が繰り返されるなどしたことが認められる。このような被告人の言動は、被告人が、第1供与を受けた上で、修正二次案に関する再度の要望を受けたことから、Eの期待に呼応する行動として、C協会及びD協議会側の便宜となる取り計らいを現に行ったものとみることができ、被告人が第1供与の趣旨を理解していたこととよく整合する。
なお、被告人は、国会議員、業者、農水省職員による三者協議が開催されることは珍しいことではなく、
特段養鶏業者の便宜を図ったものではなかった旨供述する。
しかし、そのような三者協議が珍しいかどうかはともかくとして、元々予定されていなかった三者協議の場がわずか一週間程度で開催されており、D協議会等の養鶏業者側にとって、そのような三者協議が開催されるよう農林水産大臣である被告人
が関係者らに伝えることが便宜な取り計らいに当たることは明らかといえる。以上によれば、被告人は、第1供与は、修正二次案に対して農水省として反対意見を取りまとめるなど、C協会及びD協議会の各事業等にとって有利かつ便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨を含むものであろうと認識していたと認められる。よって、被告人には、第1供与について、上記趣旨の賄賂との認識があったと認定できる。
第2
1
判示第2の現金200万円の供与(第2供与)について
Eが第2供与をした趣旨について
第2供与の態様等

Eの証言等によれば、平成31年3月26日に行われた第2供与時においても、Eは、養鶏業界全般に関わる事業の利害に強い関心を有する立場にあり、そのような立場のEが、農林水産大臣である被告人に対し、第1供与と同様に200万円という多額の現金を他の者の目に付かない二人きりの場面で、多額の現金を渡す趣旨を明確にすることなく、半ば強引に手渡すという特異な態様で供与したことが認められる。すなわち、第2供与は、農林水産大臣室を訪れて被告人と面談したEが、被告人と二人きりの状態で、大臣室を退室する間際に、
要望書ですとか書類ですといった言葉を発しながら、Eが座っていた椅子に封筒入りの現金をさっと置いて、応答する隙を与えずに立ち去るというものである。このような態様自体からみて、Eが被告人に対して密かに現金を供与する趣旨には、養鶏業界の利害に関わる事柄等にかかる権限を有する被告人に対し、Eの意向に沿う形で何らかの取り計らいをするよう期待する趣旨などが含まれていたと推認できることは、第1供与と
同様である。
Eの考え
そこで、Eが、第2供与によって、被告人に対し、どのような事柄に関し、どのような取り計らいを受けたいと考えていたかにつき、更に検討する。証拠によれば、以下の事実が認められる。


Eは、平成31年1月11日に日本政府としてOIEに対し修正二次案に反
対する内容のコメントが提出された後の段階でも、修正二次案の採否が決定されるOIEの総会が同年5月に予定されていたことから、修正二次案が採択される可能性への懸念を抱き続けており、また、仮に修正二次案が否決されたとしても、同内容を含む更なる修正案がOIEに提出されるなどして、巣箱や止まり木の設置を義務づけられるかもしれないとの危機感を抱き続けており、そのような修正案が出た場合には、日本政府として必ず反対してもらいたいと考えていた。イ
そのような中、Eは、平成31年2月5日、被告人らを都内のホテルで接待
し、その際に、アニマルウェルフェアの問題を引き続きよろしく頼みたい旨の発言をした(Eが、断言まではできないが、そのような発言をしたように思うと証言していること、Eが被告人との面談時に要望すべき内容を忘れないようにするため作成していたメモに2月5日(火)農水大臣面談メモ1.AW問題について
と書かれており、AWとはアニマルウェルフェアを示すこと、Eの当時の最大の関心事がアニマルウェルフェア問題であって、その問題意識の下に活動していたこと等に照らせば、そのような発言があったと認定できる。。


さらに、Eは、平成31年3月1日、D協議会主催のアニマルウェルフェア
研修会を開催し、I参与やK課長、L課長らが出席する中で、アニマルウェルフェア問題について養鶏業者が結束するよう呼びかけるなどしていた。検討
以上のとおり、Eは、第1供与時と同様の立場から、平成31年3月26日に第2供与を行った当時も引き続きアニマルウェルフェア問題に強い関心と懸念を抱き、
農水省担当者らに対しては、修正二次案に反対してもらう必要があると考え続けていたと認められ、このことに第2供与の特異な態様及び第2供与前後におけるEの行動を併せ考慮すれば、Eが第2供与をした趣旨としては、第1供与と同様に、被告人に対し、アニマルウェルフェアに関するOIE規約修正に関し、今後も同様の取り計らいを受けたいと期待しており、現金200万円を被告人に密かに供与する
ことにより、そのような期待に被告人に応えてもらいたいとの趣旨が含まれていたと強く推認される。
加えて、これまでEの要望に対して、被告人が、三者協議を提案して実際に三者協議が開催され、
その中で国会議員らが養鶏業界側の意向に沿う発言をし、
その後、
実際に農水省から反対のコメントがOIEに送付されるなど、既にEの意向に沿った動きが次々と実現されていたことに照らせば、Eにおいて、これまでの被告人の取り計らいに対する感謝の気持ちを有していたことも強く推認できる。E自身、被告人の農林水産大臣在任中には、被告人にアニマルウェルフェアの問題について調整をお願いしたい気持ちがあった、養鶏業界を支援してくれることに対する感謝の気持ちもあったと述べており、第2供与当時の心情として、被告人に対して、養鶏諸問題の支援を今後もよろしくお願いしたい、これまでもよく支援、
指導していただいた、などという気持ちがあり、当時の一番の問題はアニマルウェルフェア問題であったと証言している。
これらの証言は、
上記推認とよく整合する。
以上によれば、第2供与は、被告人の職務に関し、修正二次案に対する農水省としての反対意見の取りまとめなど、C協会及びD協議会の各事業等にとって有利かつ便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼や、規約修正に関し今後も同様の取
り計らいを受けたいとの趣旨、
すなわち賄賂の趣旨で供与されたものと認められる。
2
第2供与の趣旨に関する被告人の認識
証拠によれば、被告人は、農林水産大臣在任中に、養鶏業界を代表するよう
な立場にあるEから、前記のような特異な供与態様により第2供与を受けた上で、受け取った現金について、その趣旨をEに尋ねることもせず、政治資金収支報告書への記載等の政治資金規正法で定められた処理をすることなく費消していることが認められる。そうすると、第2供与の特異な供与態様等からしても、養鶏業界の利害に強い関心があるはずのEから自らに差し出される現金には、農林水産大臣としての職務に関連する事柄に関する何らかの期待や意図が込められていると容易に思い浮かべることができ、被告人において、政治献金以外に、そのような趣旨を含め
て供与された可能性を認識しながら現金を受け取ったと推認できることは、第1供与と同様である。さらに、被告人は、既に第1供与を賄賂としてEから受け取っていたのであるから、それから4か月余りで行われた第2供与について、政治献金という以外にEが込めていた意図や期待を一層容易に察することができる状況にあった。
その上で、前記認定事実及び証拠によれば、被告人は、第1供与を受けた後、再度平成30年12月14日にEから修正二次案に関する第2回要望書を受領し、その場で三者協議を提案した上、同月17日にO局長に対し、Eから受け取った第2回要望書を手渡し、修正二次案に対する養鶏業界の心配を伝えて国会議員及び養鶏業者との三者による協議の開催等を指示し、同月25日にはO局長から同月20日に三者協議を実施したこと等の報告を受け、平成31年1月9日には農水省生産局
畜産部長Pらから農水省の対応方針として、巣箱や止まり木の設置が必須とならないようにOIEに主張するとの報告を受けて、これを了承したことが認められる。更にその後開かれた会食の際に、前記認定のとおり、Eから、
アニマルウェルフェアの問題を引き続きよろしく頼みたいと引き続き要望されていたのであるから、農水省として反対意見を提出した後でも、Eが引き続きアニマルウェルフェア問題
に強い関心と危機感を抱いていることを知っていたと認められる。そうすると、第2供与時までにおけるEの被告人に対する発言内容、被告人がEの期待に応えて現に三者協議の設定といったEの意向に沿う取り計らいをしたこと、修正二次案に関する農水省の対応としてEの意向に沿う意見に取りまとめられたとの報告を受けていたことを併せ考えることにより、被告人は、Eが第2供与
をした趣旨として、修正二次案に対する農水省としての反対意見の取りまとめなどにつき有利かつ便宜な取り計らいを受けたことへの謝礼としての意図や、修正二次案等のOIEをめぐるアニマルウェルフェア問題に関連して、今後も同様の取り計らいを受けたいとの期待を思い浮かべ、そのような趣旨が含まれているであろうと認識しながら、第2供与を受け入れたと強く推認できる。

以上によれば、被告人は、第2供与は、修正二次案に対する農水省としての反対意見の取りまとめなどにつき、C協会及びD協議会の各事業等にとって有利かつ便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼及び今後も同様の取り計らいを受けたいとの趣旨を含むものであろうと認識していたと認められる。
よって、被告人には、第2供与について、上記趣旨の賄賂との認識があったと認定できる。
第3
1
判示第3の現金100万円の供与(第3供与)について
Eが第3供与をした趣旨について
第3供与の態様等

Eの証言等によれば、
令和元年8月2日に行われた第3供与時においても、
Eは、
養鶏業界全般に関わる事業の利害に強い関心を有する立場にあり(Eは、令和元年7月にC協会の特別顧問に就任していた。、そのような立場のEが、農林水産大臣)
である被告人に対し、金額は100万円ではあるものの、第1、第2供与と同様に多額の現金を他の者の目に付かない二人きりの場面で、多額の現金を渡す趣旨を明確にすることなく、半ば強引に手渡すという特異な態様で供与したものである。すなわち、第3供与は、第2供与と同様に、農林水産大臣室を訪れて被告人と面談し
たEが、被告人と二人きりの状態で、大臣室を退室する間際に、
要望書ですとか
書類ですといった言葉を発しながら、Eが座っていた椅子に封筒入りの現金をさっと置いて、応答する隙を与えずに立ち去るというものである。このような態様自体からみて、Eが被告人に対して密かに現金を供与する趣旨には、養鶏業界の利害に関わる事柄等にかかる権限を有する被告人に対し、Eの意向に沿う形で何らか
の取り計らいをするよう期待する趣旨などが含まれていたと推認できることは、第1、第2供与と同様である。
Eの考え
そこで、Eが、第3供与によって、被告人に対し、どのような事柄に関し、どのような取り計らいを受けたいと考えていたかにつき、更に検討する。
証拠によれば、以下の事実が認められる。

公庫の融資について
公庫は、農林水産業者等の資金調達を支援するための金融の機能を担うこと等を目的とする株式会社であり
(株式会社日本政策金融公庫法1条)農林漁業者等に対

する資金の貸付等の業務を行っていた。農林水産業の振興のための金融上の措置に関する企画・立案・助成に関する事務は、農水省経営局の所掌事務であり、農林水産大臣である被告人は、その事務を統括する等の権能や、農林漁業者に対する公庫の貸付等の業務についての主務大臣として、公庫の業務の方法についての認可権等を有していた。

公庫による融資に対するEの考え

Eは、Q協会幹部から、かねて、中小養鶏業者の経営が急速に悪化しており、運転資金の確保に窮しているとの相談を受けており、
また、
令和元年7月16日には、
R協会幹部から、香川県の中小養鶏業者が資金繰りに苦しむ実情と中小養鶏業者が低金利で公庫から事業資金を借りられる資金制度を創設してほしいという要望を聞くなどしていた。
そのような中、Eは、令和元年7月頃、養鶏業としては、国際競争力を高めるた
めにも経営合理化に向けた設備投資を積極的に行う必要があり、中小養鶏業者の経営状況が悪化している情勢において、公庫に働きかけて、公庫から繋ぎ融資を受けられるようにするため、公庫の資金貸付条件を緩和させたいと考えていた。ウ
公庫の融資問題をめぐるEの行動
農林水産大臣室訪問と第3供与

Eは、多くの養鶏業者が、設備投資等を積極的に行うため、公庫による融資額の制限を撤廃して養鶏業者に対する公庫の融資を拡大させることについて、農林水産大臣から農水省担当部局に指示して、担当部局から公庫を指導するよう、被告人に要望することとし、被告人に伝える要件を記載したメモ(
8月2日(被告人)大臣面談メモ1.日本政策金融公庫の融資緩和の件(中小養鶏対策)と記載されて
いるもの)
を作成するなどした上で、
令和元年8月2日、
農林水産大臣室を訪問し、
大臣室を退出する間際に、前記のとおり第3供与を行った。
農水省担当者との面談、要望
Eは、令和元年8月20日、農水省生産局畜産部長Sらと面談し、鶏卵業者に対する公庫融資を拡大してほしいとの要望を伝えたところ、その所管が経営局であると聞き、農水省経営局長との面談を申し入れ、同年10月31日、農水省経営局長Tと面談し、公庫の融資拡大等についての要望を伝えるとともに、公庫の責任者の紹介を依頼し、公庫代表取締役専務取締役農林水産事業本部長U(以下U部長という。
)との面談日程を調整してもらった。
Eは、要望書を被告人に提出して働きかけようと考え、農林水産大臣宛ての令和元年9月9日付けお願いと題する文書(公庫に対し、養鶏業者への融資拡
大を図るよう指導することをお願いする文書)を作成させ、同日、被告人と面談する予定にしていたが、当日の交通機関の情勢から面談できなかったため、被告人の農林水産大臣在任中に、この要望書を提出することはできなかった。Eは、令和元年9月18日、ホテルの飲食店内で、既に農林水産大臣を退任していた被告人、その他の国会議員ら、農水省生産局長Vら農水省職員と会食し、
その場においても、公庫の融資枠を下げないでほしいなどという陳情をした。Eは、令和元年12月4日、公庫のU部長と面談し、中小養鶏業者に対する融資条件の緩和等を要望した。
Eは、令和元年12月5日頃、被告人と面談し、農水省事務次官W(以下W事務次官という。)との面談を調整するよう依頼し、被告人の事務所を通じて、W

事務次官との面談の日程調整がされた。Eは、同月17日、W事務次官と面談し、

(被告人)先生などからも支援をいただいており、養鶏業界だけは別にしてほしい

などと発言しながら、養鶏業者に対する融資拡大、中小養鶏業者に対する融資条件緩和のため、事務次官の立場から公庫を指導するよう要望した。

第3供与直前のEの言動とその時点でのEの考え

Eは、第3供与の際、その直前に、農林水産大臣室において、被告人に対し、中小養鶏対策の公庫の融資をよろしくお願いしますと言ったように思う、後にC協会などから要望書を出して陳情するに先立って、C協会幹部として口火を切っておこうという意味で、
公庫の件
につき
中小をよろしく
と言ったなどと証言する。
この証言は、前記認定のとおり、被告人との面談時に要望すべき内容を確実に伝えるために作成していたメモに日本政策金融公庫の融資緩和の件(中小養鶏対策)と記載されていることにより裏付けられており、Eがその後の令和元年12月頃まで、上記のとおり農水省職員らと面談して中小養鶏業者への融資条件の緩和に向けて要望を繰り返していたこととも整合している。また、被告人自身も、農林水産大臣在任中の出来事として、
Eから公庫融資に関する要望として、

公庫の融資が得られなくなると養鶏の中小ばかりだから、それは困る

といった話があったと記憶し
ていると供述しており、他にそのような要望がされたと見受けられる場面は存在しないことからみても、同年8月2日にそのような要望があったとみるのが合理的である。したがって、上記発言があったと認められる。
そうすると、Eが第3供与をした際に、被告人に対し、中小養鶏業者への貸付条件緩和に向けた取り計らいをするよう期待し、その期待に応えてもらいたいと考え
ていたことは明らかといえる。

アニマルウェルフェア問題に対する第3供与当時のEの考え

令和元年5月に開催されたOIEの総会で修正二次案は採択されず、巣箱や止まり木の設置が義務づけられる事態は避けられる結果となり、Eは、その頃、その旨の報告を受けた。Eとしては、日本政府として修正二次案に反対し、OIEにおいても修正二次案が採択されない結果となったことについて、被告人に対して感謝の気持ちを抱いていたと推認できる。
また、Eは、上記総会の後も、OIEにおいて、巣箱や止まり木の設置を義務化する動きがあるだろうと考えており、同年6月7日頃には、今後も同様の趣旨の規約修正案が提出される可能性が高いとの情報を、国外の養鶏業関係者から伝えられ
ていたこともあって、引き続き危機感を持ち続け、今後も、巣箱や止まり木の設置を義務付けるような規約修正案には日本政府として必ず反対してもらう必要があり、そのためには、農水省担当者らへの働きかけが必要であるとも考えていた。したがって、Eは、第2供与に引き続いて第3供与の時点においても、農林水産大臣である被告人に対し、更なる規約修正案に対する農水省としての反対意見を取りまとめるなど、C協会及びD協議会側に有利かつ便宜な取り計らいをしてもらいたいとの期待を抱き続けていたとも認められる。
検討
以上のような事実関係、
すなわち

、において検討したことを総合してみれば、

Eは、被告人が、農林水産大臣としての職務権限を通じて、中小養鶏業者に対する対策としての公庫の融資条件緩和に向けて、農水省担当部局に指示して、担当部局から公庫を指導することや、これまで同様にアニマルウェルフェア問題に関するOIEの規約修正案についての反対意見を取りまとめることなど、C協会及びD協議会の各事業等にとって有利かつ便宜な取り計らいをするよう期待していたのであり、現金100万円を被告人に密かに供与することにより、そのような期待に被告人に応えてもらいたいとの趣旨や、これまでの修正二次案についての被告人の取り計ら
いへの感謝の趣旨を含むものとして、第3供与を行ったと強く推認できる。Eは、第3供与当時の心情として、被告人に対して、今後もよろしくお願いしたいという気持ちと、これまで養鶏問題をご心配かけてありがたいという気持ちがあった、その養鶏問題には、アニマルウェルフェアの問題や公庫の問題も含まれている、などと証言しており、このような証言は、上記推認とよく整合し、これを補強
するものといえる。
以上によれば、第3供与は、被告人の職務に関し、中小養鶏業者への公庫による資金貸付条件の緩和といった、C協会及びD協議会の各事業等にとって有利かつ便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨、修正二次案に対する農水省としての反対意見の取りまとめなど、C協会及びD協議会の各事業等にとって有利かつ便宜な取り計
らいを受けたことに対する謝礼や、OIE規約修正に関し今後も同様の取り計らいを受けたいとの趣旨、すなわち賄賂の趣旨で供与されたものと認められる。2
第3供与の趣旨に関する被告人の認識について
証拠によれば、被告人は、農林水産大臣在任中に養鶏業界を代表するような
立場にあるEから、前記のような特異な供与態様により第3供与を受けた上で、その趣旨をEに尋ねることもせず、受け取った現金について政治資金収支報告書への記載等の政治資金規正法で定められた処理をすることなく費消していることが認められる。そうすると、第3供与の特異な供与態様等からしても、養鶏業界の利害に強い関心があるはずのEから自らに差し出される現金には、農林水産大臣としての職務に関連する事柄に関する何らかの期待や意図が込められていると容易に思い浮かべることができ、被告人において、政治献金以外に、そのような趣旨を含めて供
与された可能性を認識しながら現金を受け取ったと推認できることは、第1、第2供与と同様である。さらに、被告人は、第1供与及び第2供与により、賄賂として合計400万円もの現金を既に受け取っていたのであるから、それからまた4か月余りで行われた第3供与について、政治献金という以外にEが込めた意図や期待を一層容易に察することができる状況にあった。
その上で、前記認定事実によれば、被告人は、第3供与のまさに直前に、E
から中小養鶏業者に対する公庫融資についての要望に関する発言も聞いていたと認められることからすれば、第3供与を受けた時点において、Eが中小養鶏業者に対する公庫による資金貸付条件を緩和してほしいとの要望を持ち、それに関連する事柄について、被告人に対し、農林水産大臣として何らかの取り計らいをしてほしいとの期待を有していて、そのような期待に応えてほしいとの趣旨を含むものとして第3供与を行っていると即座に理解した上で第3供与を受け入れたと強く推認できる。
これに対し、被告人は、当公判廷において、Eから公庫の融資条件緩和の要望を聞いたとき、
公庫に関する事柄は経済産業省の所管に属すると思っていたため、それは私はできませんよ

農水省としては、これ関係ないですよ

などと言って断る返答をした記憶があるから、第3供与に公庫に関する要望が含まれているとは思わなかったと供述する。しかし、前記認定のとおり、Eは、第3供与から約1か月後の令和元年9月頃に、改めて公庫の問題に関する被告人宛ての要望書を作成し、第3供与が行われた同年8月以降、農水省の職員らに同趣旨の要望を繰り返し行っていたし、また、被告人の事務所を通じて、農水省事務次官に公庫の問題に関する要望を伝える場が設定されたのであり、これらは、E及び被告人が、公庫の問題が農水省の所管事項であるとの前提で行動していたことを示すものといえる。このような被告人及びEの事後の行動は、被告人が第3供与を受けた当時においても、公庫に関する事務が農水省の所管事項であることや、Eが公庫に関する要望について被告人に何らかの期待をしながら第3供与を行っていると理解していたことを強く裏
付けているといえる。そうすると、被告人がEに対してどのように返答したかはともかくとして、第3供与に公庫に関する要望が含まれていると思わなかったとの被告人供述は信用し難く、採用できない。
さらに、第2供与の後、OIE総会において修正二次案が否決され、実際にEの意向に沿う結果が出た後の段階で第3供与がされていることに照らしてみれば、
被告人としては、修正二次案に対する農水省としての反対意見の取りまとめなどに対する謝礼の趣旨が含まれるであろうことも容易に思い浮かべることができ、そのような趣旨が含まれている可能性も認識したと合理的に推認できる。他方で、被告人は、第3供与当時、令和元年5月のOIE総会で修正二次案が採択されなかった旨の報告を既に受けていたから、アニマルウェルフェア問題に関し
て更に具体的なことをする必要はないと考えていた旨供述している。そこで検討するに、被告人が第3供与を受けた令和元年8月当時、修正二次案が否決された後でも同様の規約修正案が問題となる可能性や、Eがその頃にもアニマルウェルフェア問題についての危機感を持ち続けていたことを被告人が認識していたと認めるに足りる証拠は、見当たらない。そうすると、被告人が供述するとおり、OIE総会以
降は、Eの期待に応えて何か行動するという必要がなくなっていたと考えていた可能性がある。そして、前記認定事実によれば、被告人としては、第3供与を受けた当時、Eの主たる要望が公庫の問題であると理解していたと認められることも併せ考えれば、今後、被告人に期待されている事柄として、アニマルウェルフェア問題まで含まれていることが思い浮かばなかったとしても、不合理とはいえない。以上によれば、被告人は、第3供与の趣旨には、中小養鶏業者に対する公庫による資金貸付条件の緩和など、C協会及びD協議会の各事業等にとって有利かつ便宜な取り計らいを受けたいとの趣旨を含むものと理解し、また、修正二次案に対する農水省としての反対意見の取りまとめなどにつき、C協会及びD協議会の各事業等にとって有利かつ便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼の趣旨をも含むのかもしれないと思っていたと認められる。他方、第3供与の趣旨として、アニマ
ルウェルフェアについての今後の規約修正案に関する取り計らいを期待する趣旨を含むかもしれないとの認識が、被告人にあったとまでは認められない。よって、被告人には、第3供与について、上記趣旨の賄賂との認識があったと認定できる。
第4

1
弁護人の主張について
本件各供与がいずれも政治献金であるとの主張について

弁護人は、Eが、当公判廷において、被告人の政治活動を応援する趣旨で現金を供与したのであって、養鶏事業に関する陳情と現金の供与にはつながりが一切ないなどとも証言していることから、養鶏事業に関する陳情や要望と現金供与につながりはなく、本件各供与は、専ら被告人の政治活動を支援する趣旨で行われたものであって、純粋な政治献金であったと主張する。
しかし、前記認定のようなEの行動経過等に照らしてみれば、養鶏事業に関する陳情と現金の供与との間につながりが一切ないとはおよそ考えられず、前記のとおり、E自身、本件各供与時には、養鶏業界への支援、指導をお願いする気持ちや、支援、指導していただいたことに対する感謝の気持ちが心の中にあったとも証言し
ており、そのような気持ちと本件各供与は全くつながりがないかのように述べるEの証言部分は、信用し難く、採用できない。
なお、Eは、当公判廷において、被告人を政治家として支援したい気持ちもあったと述べるなどと、本件各供与をしていた趣旨として、様々な気持ちがあったことを繰り返し証言しており、本件各供与時にも、被告人の政治家としての活動を支援したいとの気持ちも有していたともみられる。しかし、仮に、Eの心情の中にそのような気持ちが一部あって、本件各供与の趣旨の中に、政治献金としての意味合いの趣旨が一部含まれるものであったとしても、前記認定したとおりの期待や謝礼としての趣旨が含まれていることが、それによって否定されるものではなく、本件各供与にかかる現金全体の賄賂性を左右するものではない。
したがって、弁護人の主張は採用できない。

2
被告人の認識について

被告人は、Eから、平成27年頃から令和2年頃までの間、本件各供与を含め合計14回にわたり、1回につき100万円から200万円の現金供与を受け、その総額が合計1800万円となっており、それらのいずれについても政治資金規正法に基づいた処理がされていないことについては、当事者間に争いがない。そこで、被告人は、当公判廷において、農林水産大臣に就任する以前から盆暮れの時期等に本件各供与と同様にして現金の供与を受け、それらを政治献金として受け取っていたので、本件各供与についても賄賂とは一切考えず、全て政治献金として受け取ったと述べ、政治献金と考えたにもかかわらず政治資金収支報告書に記載しなかった理由として、①Eとしては、どの政治家にどれだけの寄付をしているか
を明らかにされたくないのだろうから、Eに迷惑をかけないために政治資金収支報告書に記載しないほうがよいと思ったから、②Eから渡された現金をいずれ全て返却するつもりであったからと供述する。弁護人は、この被告人供述を前提に、政治資金収支報告書に記載していなかったとの事実は、本件各供与を政治献金と理解していたとしてもあり得ることなので、賄賂の故意を推認させる事実に当たらない、
被告人は従前から政治献金として現金を受け取っていた延長線上で本件各供与を受けたために賄賂と考えなかったとの被告人供述は不自然不合理ではなく、賄賂の故意がないと主張するので、検討する。
まず、被告人供述によると、Eから渡された現金について、いずれも、その金額を別途記録しておくことも、別段で保管をしておくこともせず、他の現金との区別がつかない形で保管し、随時費消していたというのであり、本件各供与にかかる現金500万円も全て費消されていて、本件各供与から現在に至るまで、これをEに返したような事実もうかがわれない。そうすると、被告人が返却を予定していたとはおよそ考え難く、上記②の理由で政治資金収支報告書に記載しなかったという被告人供述は到底信用できない。
また、
被告人供述によれば、
Eから、ポケットマネーから出している金銭なので、
何もしなくていいと言われたことをもって、Eが誰に政治献金しているか知られたくないと思っているのであろうと考えたと述べるにとどまり、Eからそのように言われた時期すら定かではないという。むしろ、被告人供述によっても、Eから、これまでに、政治資金収支報告書へ記載しないでほしいと頼まれたことはなく、本件各供与を含め、現金で渡す理由を説明されたこともなかったことが認められる。
誰が誰にどれだけ政治献金しているかを公にしないということ自体違法な取扱いであるのに、被告人が政治資金収支報告書に記載しなかった理由①として述べるところは曖昧であって、にわかには信用し難い。被告人供述全体を検討してみても、本件各供与について純粋な政治献金と理解していたのであれば、被告人において政治資金収支報告書に記載できない合理的事情は見当たらない。したがって、被告人供
述は、政治資金収支報告書に記載しなかったとの事実が、本件各供与に政治献金以外の趣旨が含まれていると認識していたことを一定程度推認させるとの前記判断(第1ないし第3)を揺るがすものではなく、この点にかかる弁護人の主張は採用できない。
さらに、本件以前にEから受け取っていた現金の性質を被告人がどのように理解
し、いかなる理由で政治資金収支報告書に記載していなかったのかという点はともかくとして、本件各供与についてみれば、既に述べたとおり、前記認定事実の下において農林水産大臣就任中の被告人に対して秘密裡に供与される現金について、賄賂の可能性が一切思い浮かばないとは考え難い。
仮に、
本件各供与の趣旨の一部に、
被告人の政治活動を応援するための政治献金としての趣旨が込められていると被告人が理解していたのだとしても、そのことは、本件各供与に賄賂の趣旨が含まれるのではないかと思い浮かべることを妨げるものではない。ほかに、被告人が本件各供与について賄賂の可能性を思い浮かべることを妨げるような事情は証拠上何ら見当たらない。
したがって、賄賂とは一切考えなかったとの被告人供述は信用できず、賄賂の故意がないとの弁護人の主張は採用できない。

第5

結論

よって、本件各供与については、いずれも判示記載のとおりの賄賂の趣旨が認められ、その故意が認められると判断した。
(法令の適用)
省略
(量刑の理由)
本件は、農林水産大臣であった被告人が、その在任中に、鶏卵の生産・販売等を営む会社代表取締役で、養鶏業界を代表する団体を実質的に運営するなどしていた者から、3回にわたり、現金合計500万円を受け取った収賄3件の事案である。本件各賄賂の趣旨は、国際獣疫事務局加盟国としてアニマルウェルフェアをめぐ
る規約修正案に対して意見表明をするに当たり、農水省においてどのような意見に取りまとめるのかや、養鶏業者に対する公庫の資金貸付条件をどのように設定するかといった事柄に関するものであって、鶏卵行政のみならず、農林水産行政全体を見渡した政策判断が求められる重要な事項にかかるものである。被告人は、当時、現職の農林水産大臣として農水省の事務を統括する等の権限及び公庫の主務大臣と
して公庫の業務の方法についての認可権等を有し、本件各賄賂の趣旨とされた上記各事柄に関し、農水省としての意思決定等をする際の最高責任者としての職務を担っていたものであり、そのような重大な職務に関し、養鶏業界に強い利害を有する立場の者から多額の現金を繰り返し受け取り、その総額は500万円に上る。このような一連の収賄行為は、被告人自身の国務大臣としての職務の公正さを害する危険性、ひいては農林水産行政全体の公正さに悪影響を及ぼす危険性の高い行為として非常に悪質である。
その上、被告人は、本件第1供与の後、実際に、養鶏業者、農水省担当者、国会議員の三者による検討会の開催を農水省職員に指示するなどの便宜を図っており、本件が広く報道されたこともあって、本件各収賄行為は、農林水産行政や国政等における職務の公正さに対する国民の信頼を大きく害する結果をもたらしたといえ、
その社会的悪影響も大きい。
被告人は、養鶏業界側からの具体的陳情を繰り返し受ける中で、本件賄賂の趣旨について判示のとおりの認識を有していたにもかかわらず、安易に本件各収賄行為に及び、
受け取った現金を返還しようともせずに全て費消したというのであるから、利欲的犯行といえる。本件第1供与直前の時期に農林水産大臣に就任し、その重大
な職責を担う者として、高度の倫理性、廉潔性が求められていたにもかかわらず、被告人には、その自覚が欠けていたというほかなく、動機、経緯に酌むべき点はない。
被告人は、現金を受け取ったこと等を認めて、自らの行為により国政等に対する社会の信頼を害したことに対する反省の気持ちを述べてはいるものの、法律に定め
られた手続に則らずに政治献金として100万円単位の現金を本件各犯行以前から繰り返し受け取っていたために本件各賄賂も政治献金と思ったなどという、不合理で、一般的な常識からはかけ離れた弁解に終始しており、政治家としての規範意識の低さに対する反省には至っていない。
以上によれば、被告人の刑事責任は重いといわなければならない。
他方で、本件各犯行は被告人から積極的に働きかけて行われたものではなく、被告人において金銭を求めるような行為は一切なかった。また、本件各犯行によって重要な政策判断そのものが歪められたとは認められない。これらの点は、被告人のために相応に酌むことができる。その他、被告人が衆議院議員を辞職し、長年携わってきた国政に関わる立場ではなくなっていること、前科がないこと、年齢や健康状態等も考慮し、主文の量刑とした。
(求刑

懲役2年6月及び主文同旨の追徴)

令和4年6月7日
東京地方裁判所刑事第10部

裁判長裁判官

向井
香津子

裁判官

日野周子
裁判官

清水洋佑
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