判例検索β > 令和3年(行ケ)第10115号
審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号令和3(行ケ)10115
事件名審決取消請求事件
裁判年月日令和4年6月22日
法廷名知的財産高等裁判所
裁判要旨特 判決年月日 令和4年6月22日 担 許 当 知財高裁第4部 権 事 件 番 号 令和3年(行ケ)第10115号 部 ○ 骨粗鬆症に関する発明について、引用発明から容易想到ではないとした審決の判断 に誤りがあるとさ れ た 事 例 (事件類型)審決(無効不成立)取消 (結論)審決取消 (関連条文)特許法29条2項 (関連する権利番号等)特許第6198346号 (審決)無効2019-800062号 判 決 要 旨 1 本件は、名称を「1回当たり100~200単位のPTHが週1回投与されることを 特徴とする、PTH含有骨粗鬆症治療/予防剤」とする発明に係る特許(特許第619 8346号)の無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。 主たる争点は、進歩性欠如の有無(相違点1ないし3の容易想到性)である。 本判決は、本件発明1及び2の進歩性を認めた審決を取り消した。 2 本件訂正後の本件特許の特許請求の範囲請求項1(本件発明1)の記載は、次のとお りである。 「 1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与されることを特 徴とする、PTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有する、骨粗鬆症治療な いし予防剤であって、下記(1)~(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者に投与さ れることを特徴とし、48週を超過して72週以上までの間投与される、骨折抑制のた めの骨粗鬆症治療ないし予防剤; (1)年齢が65歳以上である (2)既存の骨折がある (3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎縮度が萎縮度 I度以上である。」 3 本件発明1と主引用例である甲1発明との相違点1ないし3は、次のとおりである。 (相違点1) 本件発明1は、「骨粗鬆症患者」が「下記(1)~(3)の全ての条件を満たす骨粗 鬆症患者 (1)年齢が65歳以上であり、 (2)既存の骨折があり、 (3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、及び/又は、骨萎縮度が萎縮度I 度以上である」であるのに対し、甲1発明では、「厚生省による委員会が提唱した診断 基準で骨粗鬆症と定義された、年齢範囲が45歳から95歳の被検者のうち、複数の因 -1- 子をスコア化することによって評価して骨粗鬆症を定義し、スコアの合計が4より高い 患者」である点。 (相違点2) 本件発明1は、「骨粗鬆症治療ないし予防剤」が「骨折抑制のための」ものであるこ とが特定されているのに対して、甲1発明ではそのような特定がない点。 (相違点3) 本件発明1では、「48週を超過して72週以上までの間投与される」ことが特定さ れているのに対して、甲1発明にはそのような特定がない点。 4 本判決は 、相違点1ないし3に係る本件発明1の構成は当業者が容易に想到し得たも のであるから、本件発明1の進歩性を認めた本件審決の判断には誤りがあるとし、また、 本件発明1が進歩性を有することから本件発明2の進歩性を認めた本件審決の判断に も、誤りがあるとした。 5 本判決の相違点1ないし3に係る判断の概要は、次のとおりである。 (1) 相違点1について 本件発明1の「(1)年齢が65歳以上である」(本件条件(1))、「(2)既存 の骨折がある」(本件条件(2))、「(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満で ある、および/または、骨萎縮度が萎縮度I度以上である」(本件条件(3))につい て検討するに、本件条件(2)及び本件条件(3)は 、甲5診断基準で骨粗鬆症と診 断される条件と同じであるから、当業者が甲 1発明の200単位週1回投与の骨粗鬆 症治療剤を投与する骨粗鬆症患者を本件条件(2)及び本件条件(3)で選別するの には何ら困難を要しない。 また、骨粗鬆症は、加齢とともに発生が増加するとの技術常識があり 、骨粗鬆症に よる骨折の複数の危険因子として 、低骨密度及び既存骨折に並んで年齢が掲げられて いることに着目して投与する骨粗鬆症患者を65歳以上として 、本件条件(2)及び 本件条件(3)に加えて本件条件(1)のように設定することはごく自然な選択であ って、何ら困難を要しない。 そうすると 、甲1発明に接した当業者が、投与対象患者を本件3条件を全て満たす 患者と特定することは、当業者に格別の困難を要することではない。 (2) 相違点2について 骨粗鬆症は、骨強度の低下を特徴とし、骨折の危険性が増大した骨疾患であり、骨 粗鬆症の治療の目的は骨折を予防することであり、「骨強度」は骨密度と骨質の2つ の要因からなり、骨密度は骨強度のほぼ70%を説明するとの技術常識があったので あるから、当業者は、骨密度の増加は骨折の予防に寄与すると理解するというべきで ある。 そうすると、甲1発明の骨粗鬆症治療剤を骨折抑制のためのものとすることは、当 業者が容易に想到できた。 -2- (3) 相違点3ついて 本件発明1の「投与期間を「48週を超過して72週以上までの間」とする」こと について検討するに、本件明細書の記載によると、「48週」及び「72週以上」に 臨界的意義を認めることは困難であり 、本件発明の「48週を超過して72週以上ま での間」との特定の時期をもって始期及び終期とする限定には格別の技術的意義を見 いだすことができず、単に、適宜の区間についてPTHの投与継続につれて骨折発生 率が低下していることを示すためだけのものにすぎないというのが相当である。 本件発明1の特許要件判断の基準日において 、連日投与のPTH製剤に関し、48 週を超えた投与により骨密度が上昇し、骨折発生が減少することが知られていた。 一方、甲1発明は、PTH200単位週1回投与により 、48週までの間 、腰椎B MDが継続的に増加し、48週後には8.1%有意に増加し、さらに、PTH200単 位投与群であるH群では48週の投与期間中に椎体骨折が発生しなかったものであ る。そして 、技術常識によると、当業者であれば、そのような骨密度の増大は骨折の 予防に寄与すると理解するといえるところ 、甲1文献の試験は 、48週までの投与に ついてのものであるが 、その増加率に逓減傾向があるとしても 、腰椎BMDが継続的 に増加していることが見て取れ 、48週を超えると 、これが減少に転じるとする根拠 は見当たらない。 以上からすると 、連日投与のPTHに関して48週を超えての投与がされ 、それに よる骨密度の上昇及び骨折発生の減少が報告されていたことを踏まえ 、甲1発明の骨 粗鬆症治療剤においても、骨密度の上昇と骨折の予防のために48週を超えて投与す るようにすることは、当業者として容易に想到することといえ 、これにより本件発明 1に至るものというべきである。 (4) 本件発明の予測できない顕著な効果と主張されているものは、72週時点でプラセ ボ群に対するRRRが79%という高い骨折抑制効果を奏すること(効果①)、投与 の継続により骨折抑制効果が増強する効果を奏すること(効果②)、48週経過後に 実質的に完全に骨折を抑制する効果を奏すること(効果③)である。 効果①について 検討すると、当業者は 、骨密度の増加は 、骨折の予防に寄与すると 理解するところ、甲1発明は、48週で骨密度を8.1%増大させたものであるから、 甲1発明の骨粗鬆症治療剤が骨折を抑制する効果を奏していることは 、当業者におい て容易に理解できる。 そして、効果①を確認するためには、高リスク患者 (本件3条 件の全てを満たす患者)に対する骨折抑制効果と低リスク患者 (本件3条件の全部又 は一部を満たさない患者)に対する骨折抑制効果とを対比する必要があるが 、本件明 細書の記載からは 、高リスク患者における骨折発生の抑制の程度を低リスク患者にお ける骨折発生の抑制の程度と比較して 、前者が後者よりも優れていると結論付けるこ とはできない。以上によれば 、効果①は 、本件明細書の記載に基づかないものという べきである。 -3- 効果②について検討すると、本件明細書には、本件発明の骨粗鬆症治療剤を投与し た患者とプラセボを投与した患者を比較しているだけであって、3条件充足患者が非 3条件充足患者よりも優れた骨折抑制効果があること が示されていない。 また、甲2 文献には、20又は40μgのPTHを、平均17ないし18か月連日投与したとこ ろ、投与期間が長くなる程、PTHの投与による骨折抑制率が高まることが記載され ているから、骨折抑制効果が投与期間の継続により増強する ことは当業者の予測の範 囲内である。 効果③は、試験の結果を示す事実として48週を超えてからの新規椎 体骨折の発生 はなかったというにすぎず、本件発明の骨粗鬆症治療剤が48週超の投与によって実 質的に完全に骨折の発生を抑止する治療剤(完全な特効薬)であるとする趣旨とは認 め難く、被告も本件発明の骨粗鬆症治療剤がそのような効果を有するものとは主張し ていない。甲1発明において、骨折抑制の効果が48週を超過してもある程度継続す ると考えるのが自然であるところ、試験の結果を示す事実にすぎないとはいえ、甲1 発明でも、48週間の投与において椎体骨折が発生していなかったことに鑑みると、 骨折発生率はもともと低いものであると理解でき るのであり、本件発明において48 週を超えて72週までの区間での骨折発生数は0件であったとしても、それ自体が当 業者にとって意外なものとまではいえず、予測し得る範囲内のものであるといえる。 (以上) -4-
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-06-22
情報公開日2022-08-05 04:00:27
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令和4年6月22日判決言渡
令和3年(行ケ)第10115号
口頭弁論終結日

審決取消請求事件

令和4年5月11日
判決原日
同訴訟代理人弁護士

吉澤敬夫
同訴訟代理人弁理士

紺野昭男同井波同木下智文同告鮎沢輝万被告医工株式会社実
旭化成ファーマ株式会社

同訴訟代理人弁理士

細同亀主1田ヶ芳徳谷薫子文
特許庁が無効2019-800062号事件について令和3年8月11日にした審決を取り消す。

2
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求
主文同旨

第2

事案の概要
本件は、特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。1
特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。



被告は、平成27年5月25日、その名称を

1回当たり100~200単位のPTHが週1回投与されることを特徴とする、PTH含有骨粗鬆症治療/予防剤

とする発明について特許出願
(特願2015-105266号。
平成22年9月8日〔優先権主張

平成21年9月9日・特願2009-2

08039号〕を国際出願日とする特願2011-530844号の一部を新たな出願としたもの。以下本件出願という。
)をし、平成29年9月1
日、その設定登録(特許第6198346号、請求項の数2)を受けた(以下、この登録に係る特許を本件特許という。。



原告は、令和元年8月29日付けで本件特許の請求項1及び2に係る発明について特許無効審判請求(無効2019-800062号)をした。特許庁が令和2年11月26日に本件特許の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効にするとの審決の予告をしたところ、被告は、令和3年1月29日付けで本件特許の請求項2に係る特許請求の範囲を訂正する訂正請求を行った(以下、この訂正を本件訂正という。。


特許庁は、
令和3年8月11日、
特許第6198346号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり、訂正後の請求項[2]について訂正することを認める。特許第6198346号の請求項1、2に係る発明についての審判請求は成り立たない。との審決(以下本件審決という。)をし、その謄本は、同月18日、原告に送達された。



原告は、令和3年9月16日、本件審決の取消しを求めて本件訴えを提起した。

2
特許請求の範囲の記載
本件訂正後の本件特許の請求項1及び2の発明(以下、項番号順に本件発明1のようにいい、本件発明1及び2を併せて本件発明ということがある。
)に係る特許請求の範囲の記載は、次のとおりである。また、本件発明に係る明細書を図面を含めて本件明細書という。


本件発明1
1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする、PTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有する、骨粗鬆症治療ないし予防剤であって、下記(1)~(3)の全ての条
件を満たす骨粗鬆症患者に投与されることを特徴とし、48週を超過して72週以上までの間投与される、
骨折抑制のための骨粗鬆症治療ないし予防剤

(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎
縮度が萎縮度I度以上である。


本件発明2
1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする、PTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有する、骨粗鬆症治療ないし予防剤であって、下記(1)~(3)の全ての条
件を満たす骨粗鬆症患者に投与されることを特徴とし、48週を超過して72週以上までの間投与される、骨折抑制のための骨粗鬆症治療ないし予防剤であって、前記PTH(1-34)又はその塩がヒトPTH(1-34)酢酸塩であり、前記骨折抑制が48週を超過して72週までの間の投与では、新規椎体骨折の発生率を0%までに低減させるためである;

(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎縮度が萎縮度I度以上である。
3
本件審決の理由の要旨
本件審決は、本件訂正は訂正の要件を全て満たすとした上で、①本件発明1及び2は、甲第1号証ヒト副甲状腺ホルモン(1-34)の骨粗鬆症に対する間欠毎週投与の効果3種類の投与量を用いた無作為化二重盲検前向き試験:
(OsteoporosisInternational、vol.9、no.4、p.296-306、1999)(以下甲1文献という。
)に記載された発明(以下甲1発明という。
)及び本件特許
の特許要件判断の基準日であると認められる原出願の国際出願日(2010年9月8日。以下本件基準日という。
)当時の技術常識を踏まえても当業者が
容易に発明をすることができたものとはいえない、②本件発明1及び2は、甲第14号証の1テリパラチド酢酸塩[PTH(1-34)]の週1回間欠皮下投与における新規椎体骨折抑制効果(OsteoporosisJapan、第17巻、増刊

第1号、189頁、2009年9月11日)にその内容が掲載された講演及び同号証の2骨粗鬆症治療用ヒト副甲状腺ホルモン製剤テリパラチド酢酸塩にその内容が記録されている放送番組から把握される公知発明(以下甲14発明という。並びに本件基準日当時の技術常識を踏まえても当業者が容易に)
発明することができたものとはいえない、③本件発明1及び2は、本件特許に
係る明細書(以下、図面を含めて本件明細書という。
)の発明の詳細な説明
に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるから、サポート要件(特許法36条6項1号)に違反しない、④当業者は本件明細書の記載及び出願時の技術常識に基づいて本件発明を実施することができるから、本件発
明の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件(特許法36条4項1号)に違反しない、⑤本件出願は分割要件を満たすところ、甲第12号証国際公開第2011/030774号(以下甲12文献という。
)は、原出願の出願日
である平成22年9月8日より後の平成23年3月17日に公開されたものであるから、本件発明1及び2を甲12文献に記載された発明(以下甲12発明という。)であるということはできない旨判断した。
それぞれの論点に関する本件審決の理由の要旨は、以下のとおりである。⑴

甲1発明に基づく進歩性欠如(無効理由3)の有無について

甲1発明の認定
hPTH(1-34)の200単位を毎週皮下注射する、hPTH(1-34)を有効成分として含有する骨粗鬆症治療剤であって、厚生省による委員会が提唱した診断基準で骨粗鬆症と定義された、年齢範囲が45歳
から95歳の被験者のうち、複数の因子をスコア化することによって評価して骨粗鬆症を定義し、スコアの合計が4より高い患者に投与する、骨粗鬆症治療剤。

本件発明1と甲1発明との一致点
hPTH(1-34)の200単位が週1回投与される、hPTH(1
-34)を有効成分として含有する、骨粗鬆症治療剤であって、骨粗鬆症患者に投与される、骨粗鬆症治療ないし予防剤。

本件発明1と甲1発明との相違点
相違点1

本件発明1は、
骨粗鬆症患者が

下記(1)~(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者(1)年齢が65歳以上であり、(2)既存の骨折があり、(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、及び/又は、骨萎縮度が萎縮度I度以上である

であるのに対し、甲1発明では、

厚生省による委員会が提唱した診断基準で骨粗鬆症と定義された、年齢範囲が45歳から95歳の被検者のうち、複数の因子をスコア化することによって評価して骨粗鬆症を定義し、スコアの合計が4より高い患者

である点。

相違点2
本件発明1は、
骨粗鬆症治療ないし予防剤が骨折抑制のための
ものであることが特定されているのに対して、甲1発明ではそのような特定がない点。
相違点3
本件発明1では、
48週を超過して72週以上までの間投与される
ことが特定されているのに対して、甲1発明にはそのような特定がない
点。
(以下、(1)年齢が65歳以上である」を本件条件(1)「と、(2)既存の骨折があるを本件条件(2)と、(3)骨密度が若年成人平

均値の80%未満である、および/または、骨萎縮度が萎縮度I度以上である

を本件条件(3)と、本件条件(1)ないし本件条件(3)

を併せて本件3条件と、本件3条件の全てを満たす骨粗鬆症患者を3条件充足患者又は高リスク患者若しくは高リスク者と、
本件3条件の全部又はいずれか一部を満たさない骨粗鬆症患者を非3条件充足患者又は低リスク患者若しくは低リスク者という。)

相違点の容易想到性
相違点1
骨折の有無、骨密度及び年齢は、骨粗鬆症の進行を診断する上で重要な因子であるが、甲1発明において、PTHを適用する患者として、本件3条件の全てを満たす骨粗鬆症患者を選択することとは無関係であり、
先行技術文献には本件3条件の全てを満たす骨粗鬆症患者を選択する動機付けに関する記載や示唆はない。
したがって、相違点1に係る本件発明1の発明を特定する事項とすることは、当業者が容易に想到し得るものではない。
相違点2

骨密度測定のみで骨折高リスク者を判定することはできないものであるところ、甲1文献においては、骨の強度等について確認されているわけではなく、先行技術文献の記載によっても、甲1発明の骨粗鬆症治療ないし予防剤が骨折抑制のためであるとすることはできない。相違点3
甲1文献には、200単位の投与を含む臨床試験で48週を超えて投与すると、
相当数の患者に脱落者が続出すること等が予測されるとして、
試験計画の段階において48週が投与継続の限界と考えられていたことが示されている。そして、その結果として、200単位では、22%もの患者(副作用発現者の半数以上)が試験に耐えることができず脱落しており、48週ですら高すぎるドロップアウト率を被ったといえる。
甲第3号証斎藤充ほか『テリパラチド(hPTH1-34)の週1回投与は骨量・骨質を改善し骨強度を増強する―卵巣摘出サルに対する18ヵ月投与の検討―』(日本整形外科學會雑誌、第82巻、第8号、S1159、「2-8-23、2008)」(以下甲3文献という。
)における実験で
PTHを18か月間週1回皮下投与されているのは、サル卵巣摘出(OVX)モデルであり、ヒトとサルとでは動物種が異なるので効果が類似するとはいえず、また、骨折抑制効果についても不明であるから、甲1発明において、18か月間、治療を継続することの動機付けになるとはいえない。甲第2号証EFFECTOFPARATHYROIDHORMONE(1-34)ONFRACTURESANDBONEMINERALDENSITYINPOSTMENOPAUSALWOMENWITHOSTEOPOROSIS(JMed、vol.344、no.19、p.1434-1441、2001)(以下
甲2文献
という。
)は、閉経後女性おける骨粗鬆症の治療のために、20μg又は
40μgのPTHを、平均17ないし18か月(約74ないし78週)連日皮下投与した臨床試験に関するものであるところ、その副作用脱落
率は、甲1発明における48週(約12か月)での22%の半分以下であるから、甲1発明において、48週を超えて治療を継続することの動機付けになるとはいえない。

本件発明1の効果
本件明細書【表35】から、プラセボ(対照薬)に対する骨折相対リスク減少率(RelativeRiskReduction。以下RRRという。)を算出す

ると、本件3条件の全てを満たす患者に24週投与したときの0ないし24週の間におけるRRRは約54%、本件3条件の全てを満たす患者に48週投与したときの24ないし48週の間におけるRRRは約82%、本件3条件の全てを満たす患者に72週投与したときの48ないし72週の間におけるRRRは100%であり、3条件充足患者にPTH200単
位週1回投与を長期間続けることにより、プラセボ投与群と比較して骨折リスクを減少させる割合が上昇することが認められる。
また、別紙3の実験成績証明書I(甲64。以下甲64証明書という。
)には、3条件充足患者と、本件条件(1)は満たすが、本件条件(2)
又は本件条件(3)のうち少なくとも1つの条件を満たさない非3条件充
足患者における、被験薬(PTH200単位週1回)を48週超過又は72週以上投与した場合と対照薬(プラセボ)を48週超過又は72週以上投与した場合のRRRが次のように示されている。


約43%

3条件充足患者

72週以上投与(表3)

約51%

約59%

非3条件充足患者



3条件充足患者
非3条件充足患者

48週超過投与(表2)

約36%

これによると、72週以上投与における3条件充足患者の骨折相対リスク減少率は、非3条件充足患者のRRRよりも約23%(59-36)も大きく、3条件充足患者は72週以上の投与において極めて優れた骨折抑制効果を奏し、そして、48週超過投与における3条件充足患者と非3充足患者のRRRの差が約8%(51-43)にとどまっていることを考慮すると、3条件充足患者は、72週以上という長期間の投与に特に適した患者群であることが認められる。そして、別紙4の実験成績証明書J(甲68。以下甲68証明書という。
)により、甲64証明書の妥当性が確
認されている。
以上から、
48週を超過して72週以上までの間投与すること
という

用法を特定した上で、その投与対象を、3条件充足患者に選択した本件発明1は、顕著な薬理効果を奏する患者群と用法に特に限定した発明であり、この効果は、先行技術文献から予測し得るものではない。

本件発明1について小括
以上から、本件発明1は、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をす
ることができたものではない。

本件発明2について
本件発明2は、本件発明1のPTH(1-34)又はその塩をヒトPTH(1-34)酢酸塩に限定し、本件発明1の骨折抑制のためを

前記骨折抑制が48週を超過して72週までの間の投与では、新規椎体骨折の発生率を0%までに低減させるため

に限定した発明であるから、本件発明2も本件発明1と同様の理由により、甲1発明に基いて、当業者が容易に発明をすることができたものではない。

甲14発明に基づく進歩性欠如(無効理由4)の有無について

甲14発明の認定
テリパラチド酢酸塩100単位が週1回投与されることを特徴とする、テリパラチド酢酸塩を有効成分として含有する、骨粗鬆症治療剤であって、原発性骨粗鬆症の診断基準で骨粗鬆症と診断された患者のうち、既存椎体骨折を1個から5個有する患者に投与されることを特徴とし、当該患者の
平均年齢は71.6歳であり、
78週までの間投与される、
新規椎体骨折抑
制のための骨粗鬆症治療剤。

本件発明1と甲14発明との一致点
PTH(1-34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする、PTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有する、骨粗鬆症治療ないし予防剤であって、下記(2)~(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者に投与されることを特徴とし、48週を超過して72週以上までの
間投与される、骨折抑制のための骨粗鬆症治療ないし予防剤;
(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、および/または、骨萎縮度が萎縮度I度以上である。

本件発明1と甲14発明の相違点
相違点4
骨粗鬆症患者について、本件発明1では、さらに、(1)年齢が
65歳以上であるという条件が追加されている点。
相違点5
PTH(1-34)又はその塩の投与量が、本件発明1では1回当たり200単位であるのに対し、甲14発明では1回当たり100単位である点。エ
相違点の容易想到性
相違点4

骨折の有無、骨密度及び年齢は、骨粗鬆症の進行を診断する上で重要な因子であるが、甲14発明において、PTHを適用する患者として本件3条件の全てを満たす骨粗鬆症患者を選択することとは無関係であり、先行技術文献には本件3条件の全てを満たす骨粗鬆症患者を選択する動機付けに関する記載や示唆もない。

したがって、相違点4に係る本件発明1の発明を特定する事項は、当業者が容易に想到し得るものではない。
相違点5
甲1文献には、200単位の投与を含む臨床試験で48週を超えて投与すると、
相当数の患者に脱落者が続出すること等が予測されるとして、
試験計画の段階において48週が投与継続の限界と考えられていたことが示されている。そして、その結果として、200単位では、22%も
の患者(副作用発現者の半数以上)が試験に耐えることができず脱落しており、48週ですら高すぎるドロップアウト率を被ったといえる。そうすると、患者の負担軽減を考えると、副作用が多い200単位が適切であると示唆するものではなく、200単位を試みる動機付けは明示も示唆もされていないから、
相違点5に係る本件発明1の特定事項は、

当業者が容易に想到し得るものではない。

本件発明1について小括
本件発明1の効果は前記⑴オのとおりであり、予測し得ない顕著な薬理効果を奏するから、本件発明1は、甲14発明に基づいて当業者が容易に発明することができたものではない。


本件発明2について
本件発明2は、前記⑴キのとおりの限定をした発明であるから、本件発明2も本件発明1と同様の理由により、甲14発明に基づいて当業者が容易に発明をすることができたものではない。



サポート要件違反(無効理由1)の有無について
本件明細書の実施例2では、カルシウム剤とビタミン剤を、PTH200単位投与群及びプラセボ投与群のいずれの群でも併用しており、RRRをPTH200単位投与群の骨折発生率とプラセボ投与群の骨折発生率の比から算出していることから、仮に、カルシウム剤による何らかの影響があったと
しても、それを除いた上での骨折抑制効果が評価できているといえ、本件明細書にカルシウム剤を用いずPTH200単位を単独で用いる例やそのデータが記載されていないことをもって、本件明細書の発明の詳細な説明が本件発明1及び2について課題が解決できるように開示されていないとはいえない。
さらに、甲第11号証平成29年3月31日付け審査報告書
(以下甲11文献という。
)及び甲第30号証平成30年11月8日付け再審査報告書
(以下甲30文献という。
)におけるテリボンの薬理作用は同じ傾
向を示し、甲11文献には、8頁の表7、表8について、

期間延長試験の各評価期間における新規椎体骨折の発生率は、投与72週後以降大きく上昇する傾向は認められなかった。(8頁3ないし4行目)と記載されていること

からすると、甲11文献及び甲30文献に49週以降にPTH投与群に骨折
が発生したことが記載されているとしても、
両文献の結果は、
本件明細書
【表
35】の結果(骨折が発生し続けるプラセボに対して発生率を0%までに低減すること)の信頼性や実質的に完全に骨折が抑制されるという効果を否定するものではない。
以上のとおりであるから、本件発明1及び2は、発明の詳細な説明に課題
を解決できることを当業者が認識できるように記載されたものである。⑷

実施可能要件違反(無効理由2)の有無について
本件明細書には実施例2として、PTH200単位週1回投与を受けた3条件充足患者は骨折抑制効果を示したことが記載され【表34】表35】(




【0132】【0133】、そして、本件発明1及び2は、特許請求の範囲、

の記載からみて、カルシウムの併用を除外するものではないから、カルシウム剤を用いずPTH200単位を単独で用いる例やそのデータが記載されていないからといって、発明の詳細な説明が当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されていなかったということはできない。

さらに、前記⑶と同様に、甲11文献及び甲30文献の結果は本件明細書【表35】の結果(骨折が発生し続けるプラセボに対して発生率を0%までに低減すること)
の信頼性や
実質的に完全に骨折が抑制されるという効果
を否定するものではなく、両文献の記載内容は、上記判断を左右しない。⑸

甲12発明に基づく新規性欠如(無効理由5)について
本件出願に係る原出願である特願2011-530844号(甲12。以下原出願という。
)の出願当初の明細書、特許請求の範囲又は図面(以下

原出願当初明細書等という。
)の【0014】の〔14〕〔15〕【00


32】【0034】【0131】ないし【0133】【表34】【表35】、



の記載からみて、原出願においても、カルシウム剤の併用を要件としない態様が十分に記載されているといえる。
そうすると、本件出願は、原出願の出願日である平成22年9月8日にし
たものとみなされるところ、甲12文献はこの後の平成23年3月17日に公開されたものであるから、本件発明1及び2を甲12発明に基づいて新規性がないということはできない。
4
取消事由


甲14発明に基づく進歩性判断の誤り(取消事由2)



サポート要件に関する判断の誤り(取消事由3)



実施可能要件に関する判断の誤り(取消事由4)


甲1発明に基づく進歩性判断の誤り(取消事由1)



甲12発明に基づく新規性判断の誤り(取消事由5)

第3

当事者の主張

1
取消事由1(甲1発明に基づく進歩性判断の誤り)の有無について⑴

原告
本件審決における甲1発明と本件発明1の一致点及び相違点の認定については認めるが、本件審決が相違点1ないし3を容易想到ではないと判断した
ことは誤りである。

技術常識について
PTHは、
本件基準日当時、
周知の骨粗鬆症治療剤であり、
このことは、
本件審決も認定している。ここで、本件基準日当時の骨粗鬆症に関する技術常識をみると、次のとおりとなっている。
骨粗鬆症は、低骨量と骨組織の微細構造の異常を特徴とし、骨の脆弱性が増大し、骨折の危険性が増加する疾患であると定義されていた(甲
23)

骨粗鬆症の診断基準として、その変遷があるものの、その中に、X線により椎体骨折を認める場合、すなわち既存の骨折を認める場合、骨密度値が若年成人平均値(YAM)の80%以下又は骨萎縮度I度以上であるときに骨粗鬆症と診断する基準があることが知られていた(甲6な
いし8)

1990年当時、骨粗鬆症の診断基準として、厚生省の研究班がまとめたものであって、
骨量の減少、
骨折あり、
年齢等の因子を点数化して、
その点数が4点である患者はほぼ確実に、
5点以上の患者は確実に骨粗鬆症患者であるとするものが知られていた(甲6ないし8)。

骨粗鬆症と骨折のリスクに関して、高齢は骨粗鬆症による骨折の重要な危険因子であること、既存骨折があると将来の骨折リスクは高まること、低骨密度は骨折を強く予測するものであることとの理解がされていた(甲9、23)
。骨密度が骨折の全てを説明しないにしても、骨密度の
増加が骨強度を高めて骨折の防止をすることに全く結びつかないとの理
解はされていない。
医療対象者として、高齢とは65歳以上であるとの理解がされていた(高齢者の医療の確保に関する法律32条)


相違点1の容易想到性について
甲1発明においてはその臨床試験の対象患者を厚生省シルバーサイエンス骨粗鬆症研究班が提唱した診断基準臨牀と研究(平成11年4月号の38頁に掲載(甲6)。以下甲6診断基準という。
)に基づい
て選んだものとうかがわれるが、同診断基準では、スコア化の因子として、
1)骨量の減少2)骨折あり3)年齢をあげるところ、


甲1発明が対象患者としたスコアの合計が4より高い患者の中には、本件3条件の全てを満たす患者が当然に含まれていたといい得る。

甲6診断基準を、当時知られていた日本骨代謝学会の委員会が作成した診断基準1996年版(甲5。以下甲5診断基準という。
)に置き
換えることは、当業者には特殊な創意、技巧を要することなくできるものであり、甲1発明の骨粗鬆症治療剤をこの診断基準のもとに診断される骨粗鬆症患者に投与することには何ら困難性はない。新しい診断基準
が提示された途端に旧診断基準が技術的に無意味になってしまうわけではないから、上記甲5診断基準より更に新しい診断基準が策定されたとしても、甲5診断基準を用いて患者を特定することは当業者の通常の創作能力の範囲内である。
本件基準日当時、高齢は骨粗鬆症による骨折の重要な危険因子であっ
たこと、医療対象者として、高齢とは65歳以上であることを勘案すれば、65歳以上の患者を治療対象と設定することは、当業者にとって、当然なことである。
本件条件(2)及び本件条件(3)は、甲5診断基準のI.X線上椎体骨折を認める場合に一体的に規定される条件であり、これに、骨
折の危険因子である高齢の条件である本件条件(1)を加えた患者を治療の対象とすることを思いとどまらせるような事情は何ら存在しないから、本件3条件の組合せは何ら困難ではない。

相違点2の容易想到性について
本件基準日当時の技術常識から、骨粗鬆症の治療が骨折の抑制のためにされることは当業者に自明の事項である。既に臨床で用いられていた周知の骨粗鬆症治療剤であったPTH連日投与では、強力な骨量増加作用と骨折抑制効果が証明されていたのであるから
(甲25)PTHの後期第Ⅱ相試験で骨密度増加作用が確認され

たことをもって、PTH200単位週1回投与にも骨折抑制効果が認められるとするのが当業者の当然の理解である。骨粗鬆症治療薬として当局の承認を求めるためには、骨粗鬆症治療薬の効果と安全性を評価する最終段階の第Ⅲ相試験において骨折抑制の効果を直接見ることが求められるとしても、その前の段階の臨床試験や、骨粗鬆症治療剤の開発・研究において、骨密度の増加があれば骨粗鬆症治療剤として有用であると
当業者が理解するであろうことは何ら否定されない。
甲1文献の表6は、副作用を軽度と中等度に分類するのみで、
これ以上の重い副作用については報告していないし、200単位投与のH群で最も大きな症例数とされた副作用は悪心であり、これは、いわゆる制吐剤によりコントロール可能な副作用にすぎない。また、安全
性に優れるとする本件発明1の骨粗鬆症治療剤(
【0135】
)における
腎機能正常者の骨粗鬆症患者群における副作用発現率が44.9%であることからみて、甲1発明における200単位週1回投与による副作用の発現率42%が異常に高いとはいえない。また、甲1文献によれば、甲1発明の200単位週1回の投与における脱落者の全てが副作用を原
因としているものではなく、
中途での心変わりにより試験を拒否したり、
合併症の悪化があったもののこれが試験薬剤が原因とは考えにくいものも含まれており、かつ、いずれにしても、重篤な有害事象は認められなかったものであるから
(299頁左欄10行ないし300頁左欄3行目、
301頁左欄1行ないし右欄4行目)脱落率の記載をもって、

200単

位週1回投与が治療には使えないものとはいえない。しかも、本件発明の実施品であり、
被告が現に販売している骨粗鬆症治療剤のテリボンは、
本件3条件の全てを満たす骨粗鬆患者にだけ使用されるものとして承認されてはいない(甲42)
。以上からすると、被告が主張するように、本
件基準日当時、PTH200単位を骨粗鬆症患者に投与することについて、リスクに見合うベネフィットが得られないと理解されていたとする根拠はないといえる。


相違点3の容易想到性について
甲1発明の臨床試験期間が48週とされたのは、多施設試験であるため患者の経過を適切にフォローすることが難しくなるという、あくまで臨床試験を適切に完遂するための試験期間の上限として定められたものであって、PTH200単位週1回投与による骨粗鬆症の治療を続けることが
できる期間の上限としてではない。臨床試験を適切に完遂するための試験期間と、実際の治療において薬剤の投与を続けることができる期間とは異なる概念であって、明確に区別して議論されるべきものである。
そうすると、甲1文献には、26週間投与し良い効果が見られたことから、更に長い期間である48週間投与してみようとしたとの記載があり
(297頁右欄43行ないし298頁左欄24行目)また、

最長18か月
のPTHを投与した試験の結果を開示する甲2文献及び甲3文献の記載に加え、PTH100単位を週1回、約1年間投与したとの甲14発明に係る公知事項を踏まえれば、甲1発明において、当業者をしてその投与期間を48週を超えるものとすることに何ら困難性は認められない。

発明の効果について
予測できない顕著な効果について
発明の効果及び程度が、
予測できない顕著なものであるかについては、
特許要件の判断基準日当時、当該発明の構成が奏するものとして当業者
が予測することができなかったものか否か、当該構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著なものであるか否かという観点から検討しなければならないから(最高裁判所平成30年(行ヒ)第69号令和元年8月27日第三小法廷判決)本件発明1に予測できない顕、
著な効果があるとするためには、本件発明1の実際の効果が、本件発明1の構成が奏するものとして当業者が予測できた範囲の効果と比較して、これを超えるものでなければならない。
本件発明の効果について
後記⑵オ

にて被告が本件発明の効果とする効果①ないし③に関する
被告の主張は争う。
本件明細書の記載について
a
本件明細書において、PTH200単位週1回投与の試験結果が記載されているのは【0098】以下の実施例2である。しかし、実施例2では、高リスク者(3条件充足患者)のみを対象としており、3条件充足患者と本件3条件の全部又は一部を欠く者(非3条件充足患者)
との対比はない。
【表34】

【0130】、

【表35】

【0131】

は、PTH投与群とプラセボ投与群とを比較したものにすぎず、ここ
から明らかにされるのは、PTHを投与された場合には、PTHを投与されない場合に比較して骨折発生率が下がるという事実にすぎず、【表34】及び【表35】からは、3条件充足患者に投与することで優れた効果をもたらすかどうかは明らかにはならない。したがって、効果①は本件明細書の記載に基づかない効果である。また、【表35】

からは、0ないし48週までの間の投与の継続により低下し続けている骨折発生率の延長線上にある効果が、48週ないし72週までの間にも生じているとしか評価し得ず、骨折抑制効果が増強されていると評価することはできないから、効果②及び③も本件明細書から読み取ることのできない効果である。

b
甲11文献及び甲30文献には、骨折の危険性の高い骨粗鬆症患者に対してPTH200単位週1回投与を行った結果、48週から72週の期間において骨折の発生が見られたことが記載されており、甲11文献には、72週を超えた73ないし104週の期間では、骨折が更に増加したことも記載されているから、本件発明2の構成によっては

骨折抑制が48週を超過して72週までの間の投与では、新規椎体骨折の発生率を0%までに低減させる

という効果を奏しないことは明らかである。
効果の非予測性・顕著性について
a
甲64証明書及び甲68証明書における非3条件充足患者は、
全て、
本件条件(1)を満たす年齢が65歳以上の患者である。また、
本件条件(2)又は(3)のいずれかを満たさないとするから、①

既存の骨折はないが、骨密度が若年成人平均値の80%未満である

群又は②

既存の骨折があるが、骨密度が若年成人平均値の80%以上である

群を含むところ、骨密度が若年成人平均値の80%以上であ
れば、通常、骨萎縮はないから、上記②の患者は骨粗鬆症と診断され得ない。そうすると、甲64証明書及び甲68証明書は骨粗鬆症患者群を解析対象としたものとはいえないことになる。
仮に上記②は含まれていないとすると、甲64証明書及び甲68証明書にいう非3条件充足患者は、65歳以上で、

既存の骨折はないが、骨密度が若年成人平均値の80%未満である

群のみとなるから、上記各証明書は、3条件充足患者として、

65歳以上で、既存の骨折があり、骨密度が若年成人平均値の80%未満である

患者群と、非3条件充足患者として、

65歳以上で、既存の骨折がなく、骨密度が若年成人平均値の80%未満である

患者群を対比したものにすぎず、
既存骨折の有無のみにおいて相違する患者に対するPTHの効果を比較しただけの試験となる。
複数の要件を組み合わせる発明の進歩性の判断に当たっては、当該複数の要件について、それぞれ非充足の場合との対比がされ、それぞれに要件の充足、非充足において奏する効果に対し、当該発明の効果が優れたものであることが明らかにされなければならない。
そうすると、甲64証明書及び甲68証明書は、3条件充足患者に
ついて、非3条件充足患者との対比において本件発明1が優れた効果を奏することを示すものとはいえない。
b
甲64証明書及び甲68証明書において、PTH投与群と対比されたコントロール群(プラセボ投与群)は、PTHの臨床試験が行われた20年以上も前に実施された、別の骨粗鬆症治療剤であるエルシト
ニンの臨床試験時にプラセボを投与された患者群を含み、患者背景が群間で同等であるとはいい難い。また、PTHの臨床試験とエルシトニンの臨床試験では、他の骨粗鬆症治療剤の併用の制限の有無においても異なっている。このような外部対照群を用いる試験は、信頼性が低く、例外的な状況下で使用されるものであることが当該分野におけ
る技術常識であるところ、甲64証明書及び甲68証明書において、外部対照試験を用いることが正当化されるような特殊事情の存在はなく、むしろ解析の結果の信頼性をより一層損なわせる事情が存在している。なお、本件発明の実施品として被告が販売するテリボンは、対象患者を3条件充足患者に限定していないのであるから、非3条件充
足患者にPTHを投与する臨床試験が臨床倫理上許されないとする被告の主張は説得力を欠く。
c
甲64証明書及び甲68証明書は、3条件充足患者におけるPTH投与群とコントロール群との間の有意差の有無と、非3条件充足患者
におけるPTH投与群とコントロール群との間の有意差の有無とをそれぞれ検討するだけであり、3条件充足患者と非3条件充足患者とを直接比較していないため、ここから3条件充足患者と非3条件充足患者との間での骨折抑制効果の違いを確認することは不可能である。その上、
3条件充足患者と非3条件充足患者とのそれぞれについて、
PTH投与群のプラセボ群に対するRRRの95%信頼区間を算出してみると、いずれの結果においても、3条件充足患者におけるRRR
の95%信頼区間は、非3条件充足患者におけるRRRの95%信頼区間に完全に包含されている。真のRRR値は95%信頼区間上のどれかの値である可能性が高いのであるから、上記各証明書で3条件充足患者と非3条件充足患者のどちらがRRRが高いのかを結論付けることは不可能ということになり、3条件充足患者と非3条件充足患者
との間で骨折抑制効果に関して差があるとはいえない。
d
甲1文献には、
48週の投与で骨密度を8.1%増大させたこと
(3
00頁左欄11行ないし右欄6行目)48週間にわたって骨密度が次、
第に増加していることが開示されているから、48週の投与を72週
以上までに延長することにより、より高い骨折抑制効果が得られることは、当業者が容易に予想できる。加えて、甲2文献には、PTHの間欠投与による骨折抑制率が、投与期間が長くなるほど高まることが記載され、とりわけ、図1には、PTHの20か月弱の継続投与において、9ないし12か月をすぎた頃から、投与期間が長くなるにつれ
てプラセボ投与患者群とPTH投与患者群との間の累積骨折率の差が広がっていったことが示されている。甲3文献にも、PTHの18ヶ月間の投与により骨密度及び骨強度が増加することが記載されている。また、PTH20μg連日投与を12か月にわたって続けると、腰椎BMDは約9%増加することが知られており(甲33の7頁図2)、

PTH200単位週1回投与とPTH20μg連日投与とでは、同等の脊椎BMD増加率を達成できることが知られていた。その上、3条件充足患者に対するPTH200単位週1回投与のプラセボに対するRRRでも、平均投与期間を17ないし18か月とするPTH20μg連日投与のプラセボに対するRRRと同等以下である(甲40の923頁図1)


本件発明1について小括
以上のとおり、相違点1ないし3は容易に想到することができ、本件発明1の効果を優れたものと認めることはできないから、本件発明1は容易に発明することができる。


被告

技術常識について
原告が指摘する周知の骨粗鬆症治療剤とは、欧米で用いられていたPTH連日投与の骨粗鬆症治療剤であり、その効果が、本件発明のPTH200単位週1回投与の骨粗鬆症治療剤にそのままあてはまるものではない。年齢、骨折既往、骨密度(骨萎縮度)は骨折の危険因子と呼ばれるもの
であるが(甲23の34頁)
、骨折の危険因子は、骨折リスクの高低を判別
するために用いられるにすぎず、治療効果や骨折抑制効果を予測するためのものではないのであって、骨折リスクが高い患者において骨折抑制効果がより認められるという技術常識はなく、むしろ、高齢者の場合には一般に代謝が悪く薬が効きにくいなど治療薬を投与しても骨折を抑制し難い
と考えるのが自然である。
また、骨密度を増加させる作用が示されたとしても、必ずしもそれらが骨の強度を高め、骨折の防止に結びつくわけではなく、骨粗鬆症治療剤の臨床評価に当たっては、骨強度及び骨折に対する影響が評価されなければならず、骨密度増加作用が確認されても骨折抑制効果の確認は必要であり、
そして、その骨折抑制効果は標準薬やプラセボとの比較試験によらないと分からない。したがって、骨密度の増加から骨折抑制効果が期待できるとはいえないというのが技術常識である。

相違点1の容易想到性について
甲6診断基準には、本件3条件以外の複数の因子が考慮因子として挙げられており、本件3条件を満たさなくとも骨粗鬆症患者と診断され得
るから、甲6診断基準により臨床試験の対象患者を選んだとする甲1発明の臨床試験の対象患者の中に、本件3条件の全てを満たす患者が当然に含まれていたとはいえない。
本件3条件が骨折発生の危険因子だとしても、骨折の危険因子は、骨折リスクの高低を判別するために用いられるものであり、骨折をしやす
い患者が治療による骨折の抑制をしやすい患者とはいえないから、骨折の危険因子が多いからといって骨折抑制の治療効果を享受できるとは当然にはいえない。したがって、当業者は、本件3条件がPTH週1回投与により高い骨折抑制の治療効果を享受できる属性であることを容易に想到できない。

本件基準日当時には、診断基準2000年版(甲9。以下甲9診断基準という。)が既に作成されているから、甲5診断基準を適用する理
由はない。それを措くとしても、甲5診断基準によれば、既存椎体骨折(本件条件(2)
)を認めない場合であっても、骨粗鬆症と診断されるの
であるから、甲5診断基準によって骨粗鬆症と診断された患者全員が、

骨萎縮度I度以上、あるいは骨密度値が若年成人平均値の80%未満

(本件条件(3)
)で、かつ、
既存骨折
(本件条件(2)
)のある骨粗
鬆症患者ではないのであって、本件条件(2)及び本件条件(3)を満たす骨粗鬆症患者を選択する動機付けはない。
PTH200単位は副作用リスクの点から臨床用量として相応しくな
いというのが、
甲1発明に対する専門医の共通した見解であり
(甲49、
甲50の1及び2)そのような薬剤を一般に体力の劣る65歳以上の高、
齢者に使用するとなると、リスク・ベネフィットに見合う特段の事情が必要となる。
したがって、65歳以上の骨粗鬆症患者が連日投与での治療対象とされているからといって、65歳以上の骨粗鬆症患者をPTH200単位週1回投与の治療対象とする動機付けが直ちにあるとはいえない。
甲1文献には、年齢の違い、閉経後年数、椎体骨折の有無、骨折数がどうであれ、
薬物のBMD応答は同程度であることが記載されており
(3
00頁左欄11行ないし右欄6行目)これは、

サブ群を組み合わせる意
味がないということでもあるから、
年齢既存骨折の観点を含めた

条件の組み合わせは積極的に否定されたものであり、当業者は、甲1文
献に接しても本件3条件の着想を持ち得ない。

相違点2の容易想到性について
下記のとおり、PTH200単位週1回投与を骨折抑制のために行うことが、当業者に自明の事項であるとはいえない。

医薬の治療効果を検討する上では、ある患者群で得られた数値(例えば骨折発生数)自体の大小あるいは増減を単純に論じても客観的な評価をすることができないため、プラセボ投与群との対比をした上で行うべきであるとされているから
(甲41の2)標準薬やプラセボと対比して

いない骨折発生率の大小や単なる骨折発生率の低減では、当該医薬の骨
折抑制効果は分からず、標準薬やプラセボと対比していない単なる骨折発生率の低減ではそもそも骨折抑制効果は評価できない
(乙50)骨密

度を増加させる作用が示されたとしても、必ずしもそれらが骨の強度を高め、骨折の防止に結びつくわけではなく、骨折抑制効果の確認が必要であること、また骨折抑制効果は標準薬やプラセボとの比較試験によら
ないと分からないということが本件基準日当時の技術常識である。甲1文献には、
治療効果としてBMD増加効果しか開示されておらず、
かつ、プラセボ投与群との対比もないため、甲1発明の骨粗鬆治療剤の骨折抑制効果は不明である。すなわち、甲1文献の臨床試験は後期第Ⅱ相試験であるところ、後期第Ⅱ相試験は、あくまでも用法・用量を決定し、第Ⅲ相試験に進むか否かを評価するための位置付けであり、第Ⅲ相試験で骨折抑制効果を確認することが求められている。しかも、骨粗鬆症治療剤の臨床評価は、骨強度及び骨折に対する影響が評価されなければならず、いくら後期第Ⅱ相試験で骨密度増加作用が確認されたところで、
骨折抑制効果が期待できるとはいえない。
代替エンドポイントの評価
(乙14)において骨密度が代替エンドポイントになるのは、第Ⅱ相
試験の目的である用量反応性の検討のためであって、骨折抑制効果の確認には真のエンドポイントである骨折を評価項目とした臨床試験が必要である。
また、
骨粗鬆症用薬の臨床評価方法に関するガイドラインについて
(甲41の1)に骨量の変化で代用すると記載されているのは、第Ⅲ相比較試験のための用法・用量を決定することを達成する範囲におい
て骨密度が代用されているとするだけであり、骨密度が骨折抑制効果の代用とされているのではない(乙50)

甲1文献には、BMD増加率が8.1%であるH群は、BMD増加率が0.6%であるL群との間で、骨折発生率について各群間の差は有意でなかったと記載されており、このことは、甲1発明の骨粗鬆症治療剤
に関する限り、骨折発生数はBMD増加率に依存しないことが示されていると理解されるものといえる。
甲1文献には、PTH200単位投与について副作用発現率・脱落率が高かった試験結果が記載されており、そうすると、PTHが長期間にわたる投与を要する骨粗鬆症治療剤である以上、副作用が重篤でなけれ
ば問題ないとはいえず、臨床医薬としての適格性は否定されるのである(甲48、50の1及び2、乙50)
。甲1文献の臨床試験でPTH20
0単位投与の副作用発現率が42%であるのは48週時点であるところ、本件発明の骨粗鬆症治療剤の副作用発現率は72週時点で36.8%ないし45%であり(本件明細書【表31】ないし【表33】、両者の投)
与期間は異なるのであるから、単純に両者の副作用発現率のみを対比することは適切ではない。
なお、
試験薬剤が原因とは考えにくい副作用も、

明確にはいえないケースであり、疑わしさが残る例であるから、これを副作用による脱落に含める算定方法には何ら問題がない(甲2、45の82頁)

そして、本件3条件は、PTH100単位投与での骨折試験を層別解析した結果、本件3条件を選択することで大きな骨折抑制効果が得られ
るという着想から得られたものであり、この着想がなければ、骨折抑制のために200単位のPTHを骨粗鬆症患者に投与することがリスクに見合うベネフィットが得られる治療方法とは考えられないのである。なお、テリボンの効能・効果は骨折の危険性の高い骨粗鬆症とな
っていて本件3条件の記載はないが、特許請求の範囲の記載と医薬の承
認事項での文言とが同一でなくてはならないというルールはなく、テリボンの添付文書の記載が、層別解析により得られた本件3条件の着想により初めてリスクに見合うベネフィットが期待できるようになったとの事実を否定することはない。

相違点3の容易想到性について
当業者は、臨床試験も適切に行えないような投与期間について、実際の治療が行えると思わないから、ドロップアウト率が高いので48週を投与期間の限界とした甲1文献の記載に接した当業者は、臨床試験においても治療の場面においても48週が投与期間の限界であると理解する。
そうすると、前記ウのとおり、甲1発明の骨粗鬆症治療剤は副作用発現率・脱落率が高い一方で、リスクをはるかに超える大きなベネフィットがあるかどうかは明らかではなかったから、甲1発明の骨粗鬆症治療剤を、48週を超過する長期の投与期間が可能な骨折抑制のための骨粗鬆症治療剤にしようと当業者が動機付けられることはない。
甲2文献は、平均17ないし18か月投与したというPTH連日投与の場合のものではあるが、
副作用脱落率は、
20μg投与群で6%以下、

40μg投与群で11%以下であり(甲2の1438頁左欄1ないし5行目)副作用脱落率は甲1発明の骨粗鬆症治療剤の半分以下である。、

3文献の実験はサルにPTHを投与したところ骨強度が増加したというだけであって、動物種が異なるヒトにおいて同様の骨折抑制効果が示されているとはいえないし、甲14発明は、PTH200単位投与よりも
副作用発現率、脱落率が低いとされているPTH100単位投与の臨床試験に関するものである。したがって、いずれの文献の記載も、PTH200単位週1回投与の投与期間を48週を超えるものとすることの動機付けの根拠にはならない。

発明の効果について
予測できない顕著な効果について
発明の効果の顕著性は、当該発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができなかったものか否か、当該構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超えるか否かを検討するものであり、明細
書に当該発明の効果が記載されている必要はあるものの、効果の顕著性までの記載は求められていないから、当該発明の構成が奏する効果として当業者が予測する効果や、比較例や比較例との対比が明細書に記載されていることを必要とはしない。
したがって、本件明細書に3条件充足患者に対する効果と非3条件充
足患者に対する効果との対比が記載されている必要はなく、3条件充足患者を対象とする本件発明の構成において奏される本件発明の効果が、当業者が予測できなかったものか否か、予測することができた範囲の効果を超えるか否かが明らかにされればよい。
本件発明の効果について
本件発明の効果は、PTH200単位を、週1回、3条件充足患者に投与することで、また、48週を超過して72週以上までの間投与することで、①本件明細書【表34】に示されるとおり、72週時点でのプラセボ投与群に対するRRRが79%という高い骨折抑制効果を奏すること(以下効果①という。、②本件明細書【表35】に示されると)
おり、投与の継続により骨折抑制効果が増強する効果を奏すること(以
下効果②という。、③本件明細書【表35】に示されるとおり、4)
8週経過後に実質的に完全に骨折を抑制する効果を奏すること
(以下
効果③という。
)である。一方、甲1文献からは、PTH200単位週1
回投与の骨折抑制効果や48週を超えて投与された結果を読み取ることはできず、いわんや3条件充足患者に骨折抑制効果があることさえ予測
できないし、仮に骨折抑制効果が期待されるとしても、その程度は全く不明であるから、本件発明の構成が奏する高いRRRが示されることを予測できるものではなく、
本件発明に優れた効果を認めることができる。
本件明細書の記載について
a
前記

からすると、本件発明の効果としては、PTH200単位週

1回投与を受けた3条件充足患者に対する骨折抑制効果とプラセボ投与群に対する骨折抑制効果とを対比して前者に対する骨折抑制効果が確認されればよく、PTH200単位週1回投与に関し、3条件充足患者と非3条件充足患者との対比データが本件明細書に記載されていないとしても、3条件充足患者に対する骨折抑制効果を顕著な効果と
認定するに際して問題とはならない。仮に、効果の確認のためには、3条件充足患者と非3条件充足患との対比が必要であるとしても、3条件充足患者に対するPTHの骨折抑制効果が非3条件充足患者に対する骨折抑制効果よりも高いことは、本件発明の効果自体ではなく、本件発明の効果が予測できない顕著なものであることの根拠付けにすぎないから、
その記載が本件明細書になければならないものではない。
いずれにせよ、本件発明の骨粗鬆症治療剤は、高リスク患者(3条
件充足患者)の骨折発生率とプラセボ投与群の患者の骨折発生率について有意差がある一方で【表6】、

)低リスク患者
(非3条件充足患者)
の骨折発生率とプラセボ投与群の患者の骨折発生率について有意差が無く(
【表7】、また、RRRは、高リスク患者が71.6%であり、こ)
れが9.1%にすぎない低リスク患者(非3条件充足患者)よりも圧倒
的に高いから、3条件充足患者に対して優れた骨折抑制効果が生じているとの記載がある。
高リスク患者であれば、治療薬により高い骨折抑制効果が期待できるといった技術常識はなく、むしろ骨折しやすい重症患者であるから治療薬を投与しても骨折を抑えにくく、逆に骨折しにくい低リスク患
者の方が骨折をより強く抑制できると考えるのが自然であり、
さらに、
PTH200単位週1回投与が高リスク患者に対して低リスク患者よりも高い骨折抑制効果を示すことは、本件発明が初めて明らかにしたことであって、出願当時、当業者に知られていたわけではない。そうすると、少なくとも、3条件充足患者と非3条件充足患者において骨
折抑制効果に差が無いと当業者は予測するはずであり、そうであるならば、両者の間にRRRの差があること自体が予測できないことである。
b
甲11文献及び甲30文献にはプラセボ群のデータはなく、客観的に骨折抑制効果を評価できるものではないので、
本件明細書
【表35】
の結果(骨折が発生し続けるプラセボに対して発生率を0%までに低減すること)の信頼性や実質的に完全に骨折が抑制されるという効果を否定するものではない。さらに、両文献とも、投与対象を3条件充足患者に限定していないテリボンに関する審査結果であるから、これら文献に記載された48週超過後に発生した骨折が3条件充足患者において発生したものか否かは不明である。甲11文献及び甲30文献の結果は、本件明細書【表35】の結果(骨折が発生し続けるプラセボに対して発生率を0%までに低減すること)の信頼性や実質的に完全に骨折が抑制されるという効果を否定するものではない。そもそも、
本件発明2は、

骨折抑制が48週を超過して72週までの間の投与では、新規椎体骨折の発生率を0%までに低減させるため

という特定医薬の用途を規定したものであり、新規椎体骨折の発生率が0%であることを規定したものではない。本件発明2は、プラセボ投与群では発生する新規椎体骨折の発生率を0%までに低減させるためにそれが可能な治療剤であり、そのような医薬用途に使


用できる治療剤として規定したものであり、骨折発生率が0%になることを規定したものではない。したがって、甲11文献及び甲30文献において、48週から72週の期間において骨折の発生があるとの記載があるからといって、本件発明の骨粗鬆症治療剤による実質的に完全に骨折が抑制されるという効果を否定できるものではない。
一方、甲1発明の骨粗鬆症治療剤ではプラセボ投与群との比較がないので骨折抑制効果は不明であり、甲1文献における200単位投与群の骨折発生件数が0件との記載は、骨折抑制効果を評価できることの根拠とはならない(PTH200単位投与群で骨折発生件数が0件であっても、例えば、プラセボ投与群も0件の場合には効果があるとは
いえない。。

効果の非予測性・顕著性について
a
甲64証明書によると、3条件充足患者のRRRが非3条件充足患者のRRRより高いから、3条件充足患者に対してより効果が奏されやすいことが十分に認識可能である。すなわち、RRRが、期間全体では、3条件充足患者の64%に対して非3条件充足患者は56%であり(表1)
、48週超過投与では、3条件充足患者の51%に対して

非3条件充足患者は43%であり(表2)
、72週以上投与では、3条
件充足患者の59%に対して非3条件充足患者②は34%であり、3条件充足患者のRRRが、非3条件充足患者より高いことが導かれる(乙48、49)

b
非3条件充足患者は、本件3条件のうち、少なくとも1つを満たさない患者と定義されるところ、甲64証明書及び甲68証明書における非3条件充足患者は本件条件(1)を満たすので、

本件条件(1)は満たすが、本件条件(2)又は(3)のうち、少なくとも1つを満たさない患者

と表現したにすぎない。PTH投与群の患者は、実際
に医療機関において骨粗鬆症と診断された患者であるし、コントロール群の患者についても臨床試験において医師によって骨粗鬆症として診断され登録された患者であり、上記各証明書は骨粗鬆症患者を対象としている。原告の主張は、単に上記各証明書の表現ぶりについて揚げ足をとろうとするだけのものである。

前記

のとおり、3条件充足患者に対する効果と非3条件充足患者

に対する効果との対比がなければ、本件発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができなかったものか否か、当該構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超えるか否かを判断できないというものではない。いずれにせよ、本件発明の効果は、3条件充足患者に高い骨折抑制効果が奏されるというものであり、非3条件充足患者を対象するものではないから、比較対象となる非3条件充足患者の例が一つでもあればよく、あらゆる類型の非3条件充足患者との比較まで必要とされるものではない。しかも、上記各証明書に示された非3条件充足患者である65歳以上
(本件条件(1)充足)

既、存の骨折がなく

(本件条件
(2)
非充足)

骨萎縮度Ⅰ度以上、又は、骨密度が若年成人平均値の80%未満である

(本件条件(3)充足)

患者群は、
本件3条件のうち一つの条件のみが外れた患者であり、
65歳以上
(本件条件
(1)
充足)

既存の骨折がなく
(本件条件
(2)
非充足)

骨萎縮がなく、かつ、骨密度が若年成人平均値の80%以、上である

(本件条件(3)非充足)患者群よりも、より本件発明に構
成が近く、比較対象としてはより効果の差が出にくい厳しい条件を採
用しているといえるし、本件条件(1)については、本件明細書の実施例1において比較例を示しているから、内容的にも十分網羅されている。したがって、比較対象が一部であるからといって、本件発明の効果が明らかではないということはない。
c
甲64証明書及び甲68証明書で用いたコントロール群は、エルシトニン臨床試験のプラセボデータについては2006年ないし2013年に実施された臨床試験のデータであり、テリボン臨床試験のプラセボデータについては2007年ないし2010年に実施された臨床試験のデータであるので、PTH投与群のデータ(2011年ないし
2015年)とほぼ同時期である。原告が裏付けとして提出する証拠は、全く関係のない試験に関するものである。
エルシトニン臨床試験及びテリボン臨床試験のいずれについても、そのプラセボ投与群は、実際の治験と同時期に実施したランダム化二重盲検比較試験におけるプラセボ投与群であり、試験薬剤を含まない
プラセボ製剤を使用する点で同じであるから、それらの臨床試験結果に基づく解析結果を使用しても、外部対照群の短所を補っており、結果の信憑性に問題はない。仮に、エルシトニン臨床試験とプラセボ臨床試験との間に他の骨粗鬆治療剤の併用が制限されているか否かの相違があったとしても、そのような併用患者は3条件充足患者と非3条件充足患者のいずれにも含まれるため、PTH投与による3条件充足患者に対する骨折抑制効果を比較する上では特に問題はない。

さらに、PTH100単位投与の実施例1においては、非3条件充足患者への投与について、
リスク
(副作用)
に対するベネフィット
(治
療価値)が十分でないことが示されており、そうすると、PTH200単位投与に係る臨床試験に当たり、リスクを上回るベネフィットを期待できない非3条件充足患者に200単位のPTHを投与すること
は臨床倫理上許されないことといえ、外部対照群を用いることが正当化されるような特殊事情も存在する。なお、市販されている本件発明の実施品であるテリボンの効能効果は
骨折の危険性の高い骨粗鬆症
となっていて本件3条件の記載はないが、特許請求の範囲の記載と医薬の承認事項とが同一でなければならない規制はない。

d
原告は、信頼区間の算出結果によれば、3条件充足患者と非3条件充足患者との間で骨折抑制効果に差があるとはいえない旨主張するが、信頼区間が重なるという条件下では、2群間に有意差がある場合とない場合があるということが示されるにすぎない。被告は、3条件充足
患者における骨折抑制効果が非3条件充足患者における骨折抑制効果に対して有意差があるから顕著な効果があるとは主張しておらず、3条件充足患者のRRRが非3条件充足患者のRRRより高いのであれば、3条件充足患者に対してより効果が奏されやすいことは十分に認識可能であると主張しているものである。いずれにせよ、3条件充足
患者における骨折抑制効果がプラセボに対する関係で有意差があり、非3条件充足患者における骨折抑制効果がプラセボに対する関係で有意差が無いことが分かれば、本件発明の骨粗鬆症治療剤が3条件充足患者に対してより効果が奏されやすいことは十分に認識可能である。e
甲1文献からは、甲1発明の骨粗鬆症治療剤の骨折抑制効果は不明であるし、甲1文献には48週を超えて投与された結果は記載されて
いないので、本件発明の構成が奏する、48週を超える投与の継続により骨折抑制効果が増強する効果や、実質的に完全に骨折を抑制する効果は、本件発明の構成が奏するものとして当業者には予測することができなかったものである。甲2文献の試験はPTH連日投与のものであるから、より少ない頻度である週1回投与であっても同様の効果
が奏されることを当業者は推測することはできないし、甲3文献の実験は、サルにPTHを投与したところ骨強度が増加したというだけであって、動物種が異なるヒトについてPTHを投与すれば同様の骨折抑制効果が示されるという技術常識はない。そして、甲14発明は、200単位週1回投与よりも副作用発現率、脱落率が低いとされる1
00単位の試験であるから、臨床使用に不適切とされた200単位週1回投与の骨粗鬆症治療剤の投与期間を48週を越えるものとする動機付けとはならない。また、いずれの文献にも、実質的に完全に骨折を抑制する効果を予測する足掛かりは一切ない。
原告が指摘するPTHの連日投与(甲33、40)は、PTHの骨
への刺激は連日となるが、PTHの週1回投与はそれが週1回のみとなるから、連日投与であっても週1回投与であっても、腰椎BMDが結果的にいずれの用法でも増加するとしても、骨強度に重要な骨質への影響が用法・用量の違いによりどのように反映されているかは全く不明なままであり、PTH20μg連日投与の臨床試験結果と比較し
た結果がどうであれ、PTH200単位週1回投与が3条件充足患者において骨折抑制効果が高いことを予測させるものではない。
まして、
PTH200単位週1回投与の継続により骨折抑制効果が増強する効果や実質的に完全に骨折を抑制する効果を予測できるとする根拠はない。

本件発明1について小括
以上のとおり、
相違点1ないし3は容易に想到することができず、
また、

本件発明1の効果は優れたものであるから、本件発明1は容易に発明することができない。
2
取消事由2(甲14発明に基づく進歩性判断の誤り)の有無について⑴

原告
原告は、本件審決における甲14発明と本件発明1の一致点及び相違点の
認定については認めるが、本件審決が相違点4及び5を容易想到でないと判断したことは誤りである。

相違点4の容易想到性について
骨粗鬆症患者が加齢に伴い、高齢者において発症する疾患であることは極めて周知の事項であることからすると、甲14発明において、骨粗鬆症
患者を本件条件(1)のように限定することは自然な選択であり、当業者をして極めて容易になし得る事項としかいいようがない。

相違点5の容易想到性について
甲14発明の100単位という用量を、より高い骨折抑制効果が見込まれる1回当たり200単位という用量に変更することは、当業者が容易に
なし得た事項である。

本件発明1について小括
以上のとおり、相違点4及び5は容易に想到することができ、前記1⑴オのとおり、本件発明1の効果を優れたものと認めることはできないから、本件発明1は容易に発明することができる。


本件発明2について
本件発明1が進歩性を欠如する以上、本件発明1と同様の理由により本件発明2が進歩性を欠如しないとした本件審決の判断は、誤りである。⑵

被告

相違点4の容易想到性について
PTHが高齢の重篤な骨粗鬆症患者に特に有効であるという技術常識は
なく、200単位は副作用の点から臨床用量としては不適切であるという技術常識からみて、65歳未満の患者と比較して一般に体力的に劣ると思われる65歳以上の高齢者に対して200単位の投与をすることは、本件基準日当時、高いリスクを超える程のベネフィットがあると認識されるものではなく、明らかな阻害要因がある。

本件明細書では、100単位投与の実施例1において65歳以上の患者と65歳未満の患者で骨折抑制効果を比較しており、65歳以上の患者において高い骨折抑制効果が示されている。この実施例1で示されている本件3条件の意義は患者自体の要件に係るものであり、100単位を200単位に増量したとしてもその骨折抑制効果の技術的意義は失われないと
みるのが相当であるところ、このような高い骨折抑制効果は予測できない顕著なものである。
したがって、
相違点4に係る構成は容易に想到し得たものとはいえない。

相違点5の容易想到性について
甲14発明は、専門医が適切と考えていた100単位投与に効果があったということを内容とするものであり、100単位投与では効果が十分ではないとは明示も示唆もされておらず、むしろ、100単位投与による骨折抑制率が70.9%となり、有意な骨折抑制効果を示しているなど、100単位の投与で十分な効果が奏されているとするものであるから、甲14
発明に接した当業者が100単位の投与に代えて副作用が多い200単位投与をあえて用いる動機付けとなるような事情は明示も示唆もされていない。
また、甲第14号証の1からは、約1年間投与した最終結果が開示されたことしかうかがわれないから、その期間中の48週を超過して投与した際の効果の変化は予測できないし、投与対象患者についてみても、3条件充足患者と非3条件充足患者とを対比しているものではない。そうすると、
本件発明のような、投与とともに増強する効果、実質的に完全に骨折を抑制する効果を予測することはできないし、3条件充足患者において特に高い骨折抑制効果が奏されるとの予測もできない。

本件発明1について小括
相違点4及び5は容易に想到することができず、前記ア、イのとおり、
本件発明1の効果は予測できない顕著なものであるから、本件発明1は容易に発明することができない。

本件発明2について
相違点4及び5が容易に想到することができない以上、本件発明1と同様の理由により本件発明2が進歩性を欠如しないとした本件審決の判断
には、誤りはない。
3
取消事由3(サポート要件に関する判断の誤り)の有無について


原告

カルシウム剤の併用及び新規椎体骨折の発生率を0%までに低減について
本件発明1及び2においては、PTHとカルシウム剤を併用するとの限定はされていない。
しかしながら、本件明細書においては、PTHは常にカルシウム剤と共に投与されるものとして説明され【0004】


【0005】

【0014】


【0024】ないし【0029】【0032】、実施例2にあっても、P、

THはカルシウム剤と併用される例のみが記載されており(
【0098】

【0099】、カルシウム剤を用いずPTHを単独で用いたとする例やそ)
のデータは記載されていない。これら本件明細書の記載に接した当業者は、カルシウム剤を併用することが、効能・効果の面で優れたPTHによる骨粗鬆症治療剤を提供するための前提であると理解するはずであり、カルシウム剤を併用しない場合の発明の効果まで理解できたとはいえない。また、
カルシウム剤を併用せずPTHの200単位を単独で用いたとしても、当業者においてその治療の効果を理解することができるとする技術常識もない。
したがって、カルシウム剤を併用するとの限定のない本件発明は、本件発明の課題を解決できることを当業者が認識できるように記載された範
囲を超えるものであるから、サポート要件を充たさない。
さらに、甲11文献及び甲30文献の記載に照らし、本件発明2の構成によっては

骨折抑制が48週を超過して72週までの間の投与では、新規椎体骨折の発生率を0%までに低減させる

という課題を解決できないことについては、前記1⑴オ


bのとおりである。

小括
以上から、本件発明1及び2がサポート要件を充足すると判断した本件審決の判断には、誤りがある。


被告

カルシウム剤の併用及び新規椎体骨折の発生率を0%までに低減について
本件発明は、カルシウム剤の併用の有無を要件としていないことから、カルシウム剤を併用しない態様も含むものである。そして、本件明細書の【0014】の〔14〕及び〔15〕【0032】【0034】【013、



1】【表34】【表35】【0132】及び【0133】には、カルシウ、


ム剤の併用を要件としない態様の発明が記載されている。
また、実施例2では、PTH200単位投与群及びプラセボ投与群のいずれの群でもカルシウム剤が併用されているから、本件発明の効果は、PTH単独の効果として認識できる。すなわち、骨折抑制効果は、一般にRRRで評価されるところ、RRRはPTH200単位投与群の骨折発生率とプラセボ投与群の骨折発生率の比から算出するところ、このようにPT
H200単位群とプラセボ投与群との比較で算出される以上、仮に、カルシウム剤による何らかの影響があったとしても、その効果は両者に等しく及ぶので、両群の比較によって骨粗鬆症治療剤の有効性が評価できるからである。このことは、骨粗鬆症治療剤の有効性を評価する際には、臨床試験時に薬剤投与群とプラセボ投与群の両方にカルシウム剤を施して比較
し、得られた効果はカルシウム剤の効果を除いた被験薬単独の効果としていること(甲41の2、甲42ないし45)からみて、技術常識であることが明らかである。
したがって、当業者は、本件明細書からカルシウム剤を併用しない場合のPTH200単位を単独で用いる治療の効果を理解することができる
ので、本件発明は、発明の詳細な説明に記載された発明であり、発明の詳細な説明の記載又はその示唆により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものである。
甲11文献及び甲30文献の記載は、本件明細書【表35】の結果の信頼性や実質的に完全に骨折が抑制されるという効果を否定するもので
はないことは、前記1⑵オ

bのとおりである。

小括
以上から、本件発明1及び2がサポート要件を充足すると判断した本件審決の判断には、誤りはない。

4
取消事由4(実施可能要件に関する判断の誤り)の有無について


原告

カルシウム剤の併用及び新規椎体骨折の発生率を0%までに低減について
本件発明1及び2は、PTHとカルシウム剤を併用するとの限定はされていない。
しかしながら、前記3⑴アのとおり、本件明細書には、PTHは常にカ
ルシウム剤と共に投与されるものとして説明され、実施例2にあっても、PTHはカルシウム剤と併用される例のみが記載されており、カルシウム剤を併用せずにPTHを単独で投与する発明は、本件明細書には記載されておらず、当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載されているとはいえない。

さらに、被告自身が医薬品医療機器総合機構に提出した公的報告書である甲11文献及び甲30文献という客観的データには、

骨折抑制が48週を超過して72週までの間の投与では、新規椎体骨折の発生率を0%までに低減させる

ことはできないことが明記されていることは、前記3⑴アにおいて主張したとおりであり、また、本件明細書をみても、どのよう
な手法を採用することで

42週を超過して72週までの間での投与では、新規椎体骨折の発生率を0%までに低減させる

ことができるのかは不明であるから、当業者は、本件発明2を実施する方法を理解し得ない。イ
小括
以上から、本件明細書の記載が実施可能要件を充足すると判断した本件
審決の判断には、誤りがある。


被告

カルシウム剤の併用及び新規椎体骨折の発生率を0%までに低減について

前記3⑵アのとおり、当業者は、本件明細書の記載及び出願時の技術常識を参酌することで、PTH単独の骨粗鬆症治療効果を認識することができる。したがって、本件明細書の記載は、その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に記載したものである。
また、前記3⑵アのとおり、甲11文献及び甲30文献の記載は本件明細書【表35】の結果を誤りとするものではないから、本件発明2が実施
可能要件を充たさないとすることはできない。

小括
以上から、本件明細書の記載が実施可能要件を充足すると判断した本件審決の判断には、誤りはない。

5
取消事由5(甲12発明に基づく新規性判断の誤り)の有無について⑴

原告

分割出願について
本件発明1及び2は、PTHとカルシウム剤を併用するとの限定はされていない。
しかしながら、前記3⑴アのとおり、本件明細書には、PTHは常にカ
ルシウム剤と共に投与されるものとして説明され、実施例2にあっても、PTHはカルシウム剤と併用される例のみが記載されており、カルシウム剤を併用せずにPTHを単独で投与する発明は、本件明細書には記載されていない。
原出願当初明細書等の記載も本件明細書の記載と同一である。

したがって、本件発明1及び2は、原出願当初明細書等に記載のない発明である。

小括
以上から、本件出願は分割出願の要件を充足せず、本件特許の出願日は
現実の出願日である平成27年5月25日であり、甲12文献をこの後に公開されたものとして甲12発明に基づく新規性欠如の主張を排斥した本件審決の判断には、誤りがある。


被告

分割出願について
本件発明は、カルシウム剤の併用の有無を要件としていないことから、カルシウム剤を併用しない態様も含むものである。そして、原出願当初明
細書等及び分割直前明細書等の各【0014】の〔14〕及び〔15〕【0、
032】【0034】【0131】【表34】【表35】【0132】及、




び【0133】には、カルシウム剤の併用を要件としない態様の発明が記載されている。
また、実施例2では、PTH200単位投与群及びプラセボ投与群のい
ずれの群でもカルシウム剤が併用されているが、前記3⑵アのとおり、両群の対比からPTH単独の効果が評価できることは技術常識である。したがって、本件発明は、原出願当初明細書等及び分割直前明細書等に記載されたものの範囲内であり、分割出願の要件を充足する。

小括
以上のとおり、分割出願の要件が認められるので、甲12文献は原出願後に公開されたものであるから、甲12発明に基づく新規性欠如の主張を排斥した本件審決の判断には、誤りはない。

6
本件発明2について
原告

本件発明1が進歩性を欠如する以上、本件発明1と同様の理由により本件発明2が進歩性を欠如しないとした本件審決の判断は、誤りである。被告
本件発明1に進歩性が認められるので、これを更に限定した本件発明2について進歩性が否定されないことは、明らかである。

第4

当裁判所の判断
1
本件発明について


本件明細書の記載事項
本件明細書(甲69)には、別紙1本件明細書の記載事項(抜粋)のとおりの記載があり、この記載によると、本件発明について、次のような開示
があると認められる。

技術分野
本件発明は、
PTH
(ParathyroidHormone:パラサイロイドホルモン〔副甲状腺ホルモン〕
)を有効成分として含有する骨粗鬆症の治療剤ないし予防
剤に関するものであり、また、PTHを有効成分として含有する骨折抑制ないし予防剤に関するものである(
【0001】【0018】。




背景技術
骨粗鬆症は、骨強度の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大している疾患であり、
治療剤の1つとしてPTH製剤が知られている【0002】。


従来技術として、1週間に1回の頻度で26週間の投与期間にわたり、1回の投与当たり100又は200単位のPTHを皮下投与する骨粗鬆
症の治療方法があるが、この方法が、骨強度を増大させること又は骨折のリスクを軽減させることが可能な治療方法であるか否かについては明示されていない(
【0004】【0005】。


また、従来技術として、PTHを連日投与するものがあるが、高カルシウム血症の副作用事例等があり、安全性の面から十分ではないことから、
安全性が高くかつ効能・効果の面で優れたPTHによる骨粗鬆症治療方法が求められていた(
【0006】ないし【0009】。


発明が解決しようとする課題
本件発明の課題は、安全性が高くかつ効能・効果の面で優れたPTHに
よる骨粗鬆症治療ないし予防方法を提供すること、さらに、安全性の高いPTHによる骨折抑制ないし予防方法を提供することである(
【001
2】。


課題を解決するための手段等
前記課題を解決するため、PTHの投与量・投与間隔を限定すること、具体的には1回当たり100ないし200単位のPTHを週1回投与することにより、効能・効果及び安全性の両面で優れた骨粗鬆治療ないし予
防方法となること並びに安全性の高い骨折抑制又は予防方法となることが見出され、それらの方法において、骨折の高リスク者に対して特に効果を奏することが見出された(
【0013】【0015】【0018】【00



34】【0035】。


骨粗鬆症における骨折の危険因子としては、年齢、性、低骨密度、骨折
既往、喫煙、アルコール飲酒、ステロイド使用、骨折家族歴、運動、転倒に関連する因子、骨代謝マーカー、体重、カルシウム摂取などが挙げられるところ、本件発明においては、
(1)年齢が65歳以上である、
(2)既
存骨折がある、
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である、及び/
又は、骨萎縮度が萎縮度I度以上であるとの3条件を満たす骨粗鬆症患者
を高リスク患者として定義する(
【0068】。


実施例1
退行期骨粗鬆症
(閉経後骨粗鬆症及び老人性骨粗鬆症)特発性骨粗鬆症

(妊娠後骨粗鬆症、若年性骨粗鬆症など)が例示される原発性骨粗鬆症の
男女の患者を、高リスク患者及び低リスク患者(高リスク患者ではない患者)に区分して、それぞれ、5あるいは100単位のPTH製剤であるテリパラチド酢酸塩をそれぞれ週に1回間欠的に皮下投与した(
【0037】

【0077】【0079】。


高リスク患者においては、100単位投与群は、5単位投与群に比べ、
有意に高い骨密度の増加、有意に低い新規椎体骨折発生、及び、有意に低い椎体以外の骨折発生が認められ、テリパラチド酢酸塩の週1回100単位投与は、高リスク患者に対し、有用な骨粗鬆症治療剤及び骨折抑制ないし予防剤となり得ることが確認されたが、低リスク患者においては、骨密度、新規椎体骨折発生及び椎体以外の骨折発生のいずれについても、100単位投与群と5単位投与群との間で有意差は認められなかった(【00
83】ないし【0094】【表4】ないし【表11】。



投与期間中、いずれの投与量においても高カルシウム血症の発症はなかった(
【0095】【図1】。



実施例2
原発性骨粗鬆症と診断された男女の高リスク患者に対して、テリパラチ
ド酢酸塩200単位
(披験薬)又はプラセボ(対照薬)を、72週間、
週1回、皮下投与した(
【0098】。

投与72週後における被験薬投与群と対照薬投与群それぞれにおける椎体多発骨折(新規の2箇所以上の椎体骨折)の発生比率(例数)を比較したところ、対照薬投与群は2.1%(6例)
、被験薬投与群は0.8%(2

例)であり、被験薬は椎体多発骨折に対して抑制ないし予防効果を有することが示された(
【0109】【表12】。また、増悪骨折に対しても被験


薬は有効である(
【0118】【表20】。


半年ごとの新規椎体骨折発生率は、プラセボ群では、いずれの区間も約5%でほぼ一定であるのに対し、PTH200単位投与群では、投与期間
が長くなるにつれて区間毎の発生率が低下しており、48週を超えてからは新規椎体骨折は発生しておらず、また、PTH200単位投与群の新規椎体骨折発生率は、24週以内、24週ないし48週、48週ないし72週のいずれの区間でもプラセボ群より低く、プラセボに対する相対リスク減少率(RRR)は投与を継続するにつれて増加しており、PTH200
単位週1回投与は、新規椎体骨折の発生を早期から抑制し、24週後には既に骨折発生リスクをプラセボに対して53.9%低下させ、
さらに、
その
骨折抑制効果は、投与とともに増強する傾向が認められた(
【0131】

【0132】【表34】【表35】。



骨折試験のFAS
(判決注

FullAnalysisSet
:最大の解析対象集団)

において、
Kaplan-Meier推定法による72週後の椎体骨折
(新規+増悪)
発生率は、
PTH200単位投与群3.5%、
プラセボ群16.3%であり、

PTH200単位投与群の発生率はプラセボ群より低く(logrank検定、p<0.0001)200単位の投与は、72週後には、

椎体骨折(新規+増悪)
の発生リスクをプラセボに比べて78.6%低下させており、
さらに、
半年
毎の椎体骨折(新規増悪)発生率を群間で比較すると、24週以内、24週~48週、48週~72週のいずれの区間でも、PTH200群の発生
率はプラセボ群より低かった(
【0133】。



本件明細書の記載について
本件特許の特許権者たる原告が本件審判時において審判合議体に対してした回答内容(争いのない事実、甲76)から、本件明細書の開示内容につい
て、次の点が認められる。

実施例1は、甲5診断基準に基づき骨粗鬆症と診断された患者に関するものであるが(
【0011】の【非特許文献12】【0077】、全員が椎


体骨折を1個以上有しており、同診断基準上のⅠX線上椎体骨折を認める場合に該当することから骨粗鬆症であると診断された患者である。同診断基準上のⅡX線上椎体骨折を認めない場合であって、
脊椎X線像で骨萎縮度Ⅱ度以上又は骨密度値がYAMの70%未満に該当することから骨粗鬆症であると診断された患者は含まれない。

本件発明に係る試験では骨密度測定を必須としなかったことから、腰椎骨密度データがない患者が含まれており、腰椎骨密度の若年成人平均値
(YAM値)は、データが得られた患者の平均値が示されている。腰椎骨密度の若年成人平均値(YAM値)データが得られた患者の人数は、
【表2】【0081】

)では5単位投与群が全患者数64例のうち、3
5例、100単位投与群が全患者数52例のうち35例、
【表3】【008

1】では5単位投与群が全患者数10例のうち8例、

100単位投与群が
全患者数11例のうち2例である。
上記全患者数のうち、
高リスク者における腰椎骨密度の推移状況【00


84】【表4】

)について、骨密度の測定がされたのは、5単位投与群が3
3例、100単位投与群が30例である。低リスク者における腰椎骨密度の推移状況【0085】


【表5】について、

骨密度の測定がされたのは、
5単位投与群が7例、100単位投与群が1例であり、腰椎骨密度の若年成人平均値(YAM値)データが得られた患者より更に少ないのは、患者
の都合等により投与開始後の各時点の腰椎骨密度が測定できず、腰椎骨密度の変化率を評価できなかった等の理由による。

高リスク者における新規椎体骨折の状況(
【0087】【表6】

)につい
て、評価例数は、5単位投与群が64例、100単位投与群が52例で、低リスク者における新規椎体骨折の状況【0088】


【表7】において、


評価の対象とした患者数は、5単位投与群が10例、100単位投与群が11例であり、
【表2】【表3】の全患者数と同数である。


【表2】【0081】

)の高リスク者の例数は、5単位投与群で64例、
100単位投与群で52例となっているのに対し、
【表8】【0091】



の高リスク者における26週ごとの新規椎体骨折の状況において、5単位投与群は63例、100単位投与群が51例となっているのは、
【表8】の
評価例数を誤記したことによるものであり、
その原因は不明である。
【表8】
を改めて再解析して有意差検討をしても、100単位投与群は5単位投与群に比べ骨折発生は有意に低い。

また、
【表6】【0087】

)で高リスク者における新規椎体骨折の状況
において5単位投与群の骨折例数が13人となっているのに対し、【表8】
で、高リスク者における26週毎の新規椎体骨折の状況について、5単位投与群が18人となっているのは、
【表8】
の5単位投与群では評価区間ご
との骨折発生数を集計している一方、
【表6】では、全期間を通じて骨折が
発生した症例数を集計している(複数の期間で骨折が発生した患者でも1例としてカウントされる。
)ことによる。


【表3】【0081】

)の低リスク者の例数は、5単位投与群で10例、
100単位投与群で11例となっているのに対して、
【表9】【0091】


の低リスク者における26週毎の新規椎体骨折の状況において、5単位投与群が21例、100単位投与群が12例となっているのは、
【表9】の評
価例数を誤記したことによるものであり、
その原因は不明である。
【表9】

を改めて再解析(下記)して有意差検定をしても、群間に差は認められない。


高リスク者における椎体以外の部位の骨折の状況(
【0093】【表1


0】
)について、評価例数は、5単位投与群が64例、100単位投与群が
52例であり、
【表2】の全患者と同数である。
2
取消事由1(甲1発明に基づく進歩性判断の誤り)の有無について⑴

甲1発明について
甲1文献には、別紙2甲1文献の記載事項(抜粋)のとおりの記載がある(訳は乙2による。。この記載によると、本件審決が認定するとおりの甲)
1発明を認定することができ、この点は、当事者間にも争いがない。なお、甲1発明の厚生省による委員会が提唱した診断基準とは、甲6診断基準と認められる。



本件基準日(2010年9月8日)における技術常識について
本件においては、本件特許の特許要件判断基準時について当事者間に争いがあるが(取消事由5においては明示的な主張がある。、この点をいったん)
措いて、まずは、より早い被告主張の2010年9月8日(本件基準日)を
基準にして、検討することとする。

本件基準日における骨粗鬆症に関する技術常識について
下記文献には、以下に引用する記載がある。
a
骨粗鬆症の病態と治療骨粗鬆症の新しい診断基準と問題点

(1999年。甲6)


わが国においては、1988年厚生省シルバーサイエンス骨粗鬆症研究班(班長【A】)により骨量の減少と臨床症状の二つを重視すべきであるとの立場から、いわゆるスコアリングシステムによる診断基準が提唱された(表1)。(38頁左欄18行ないし右欄
2行目)



表1退行期骨粗鬆症の診断基準点数1)骨量の減少あり32)骨折あり1判定2確実5点以上3ほぼ確実4点脊椎1個2個以上大腿骨頚部橈骨13)閉経前の女性-14)腰背痛あり5)疑いあり3点否定的2点以下血清カルシウム、リン、AL-P値1正常11項目の異常02項目の異常-1(38頁。この表1退行期骨粗鬆症の診断基準が甲6診断基

準である。

b
骨粗鬆症
(1989年。甲7)


はじめに近年、高齢化社会の到来とともに骨粗鬆症について大きな関心が寄せられている・・・厚生省シルバーサイエンス「老人性骨粗鬆症の予防及び治療に関する総合的研究班

(班長【A】
)は、誰にでも
簡単に診断できるような基準案、すなわち、自・他覚的所見をスコア化し、そのスコアに順じて診断する方法を提唱している。(27」
頁上欄1ないし13行目)



(3)年齢本症の年齢別・男女別発症率をみると、六〇歳以上の女性が圧倒的に高率であり、男性では八〇歳以降に急に高くなる。このことは、女性では、更年期後一〇~一五年以降に臨床症状を伴う骨粗鬆症が発症してくるといえる。(30頁上欄6ないし11行目)


本症は短期間のうちに発症するのではなく、老化を基盤とし、長時日の経過をもって発症してくる・・・

(31頁下欄14ないし
16行目)

c原発性骨粗鬆症の診断基準(1996年度改訂版)
(1997年。
甲5)
表4原発性骨粗鬆症の診断基準(1996年度改訂版)ⅠX線上椎体骨折を認める場合低骨量(骨萎縮度Ⅰ度以上、あるいは骨密度値が若年成人平均値(YAM)の80%以下)で非外傷性椎体骨折のある症例を骨粗鬆症とする。ⅡX線上椎体骨折を認めない場合脊椎X線像骨密度値正常骨萎縮なし骨量減少骨萎縮度Ⅰ度YAMの80~70%骨粗鬆症骨萎縮度Ⅱ度以上YAMの70%未満YAM:若年成人平均値(20~44歳)(注)骨密度値は原則として腰椎の骨密度値とし、腰椎骨密度値の評価が困難である場合にのみ橈骨、第二中手骨、大腿骨頸部、踵骨の骨密度値を用いる。骨萎縮とはradiographicosteopeniaに相当する。・・・(223頁。この表4原発性骨粗鬆症の診断基準(1996年度改訂版)が甲5診断基準である。)
d原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年度改訂版)
(2001年。
甲9)


1995年日本骨代謝学会では骨粗鬆症の診療および研究に従事している整形外科、内科(老人科)、婦人科、放射線科、スポーツ医学からの代表委員で構成される骨粗鬆症診断基準検討委員会を作り、代表委員のコンセンサスを得た後に第13回日本骨代謝学会学術集会での討議を経て、原発性骨粗鬆症の診断基準を作成した・・・さらに1996年にはこの診断基準の見直しを行い、1996年度改訂版を作成した・・・今回は1996年以降の骨粗鬆症研究の成果を取り入れ2000年度改訂版を作成した。(76頁左欄2ないし13行目)

表3原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年改訂案)低骨量をきたす骨粗鬆症以外の疾患または続発性骨粗鬆症を認めず、骨評価の結果が下記の条件を満たす場合、原発性骨粗鬆症と診断する。Ⅰ脆弱性骨折Ⅱ骨密度値(注1)あり脆弱性骨折なし(注2)正常YAMの80%以上骨量減少YAMの70%以上骨粗鬆症脊椎X線像での骨粗鬆症化YAMの70%未満(注3)なし~80%未満疑いありありYAM:若年成人平均値(20~44歳)注1脆弱性骨折:低骨量(骨密度がYAMの80%未満、あるいは脊椎X線像で骨粗鬆化がある場合)が原因で、軽微な外力によって発生した非外傷性骨折、骨折部位は脊椎、大腿骨頸部、橈骨遠位端、その他。注2骨密度は原則として腰椎骨密度とする。…注3脊椎X線像での骨粗鬆化の評価は、従来の骨萎縮度判定基準を参考にして行う。脊椎エックス線像での骨粗鬆化なし従来の骨萎縮度判定基準骨萎縮なし疑いあり骨萎縮度Ⅰ度あり骨萎縮度Ⅱ度以上(78頁。表題に改定案とあるが改訂版の誤記と認める。
この表3原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年改訂案)が甲

9診断基準である。

e骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年版2006年。


甲23)


NIHコンセンサス会議では、骨粗鬆症の定義を「骨強度の低下を特徴とし、骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患:ASkeletaldisordercharacterizedbycompromisedbonestrengthpredisposingtoanincreasedriskoffractureに修正した。さらに、
骨強度は骨密度と骨質の二つの要因からなり、BM

Dは骨強度のほぼ70%を説明するとした。残りの30%の説明要因を“骨質”という用語に集約し、その内容には、構造、骨代謝回転、微細損傷の集積、骨組織のミネラル化などをあげた・・・」
(2
頁右欄27ないし36行目)

骨粗鬆症は、高齢者に多くみられる疾患である・・・

(30頁
右欄3行目)


骨量測定方法の進歩と普及を背景に、1991年の国際骨粗鬆症会議において、骨粗鬆症は低骨量と骨組織の微細構造の破綻によって特徴づけられる疾患であり、骨の脆弱性亢進と骨折危険率の増大に結びつく疾患と定義された。この定義に従った診断基準がわが国でも整備され、1996年の日本骨代謝学会診断基準をもとに、2000年に改訂版が作成されて今日に至っている(表21)。(31頁左欄3ないし10行目)

Ⅲ骨粗鬆症による骨折の危険因子・・・骨折の危険因子は、「骨密度低下

骨質低下
外力(転倒など)
に影響を与える因子である。骨折高リスク患者を判定するには、骨密度測定に加えて、
骨質
外力に関連する危険因子を評価する
必要があり、骨密度とは独立した骨折危険因子が何であるかを知っておくことがポイントとなる。
年齢、性
・・・女性、高齢は骨粗鬆症による骨折の重要な危険因子で
ある。年齢は骨密度とは独立した骨折危険因子で、同じ骨密度
を示していても年齢が高いほど骨折リスクは高い・・・
低骨密度
低骨密度は骨折を強く予測する。
・・・

骨折既往
男女とも部位にかかわらず既存骨折があると将来の骨折リス
クは約2倍になる・・・
喫煙
・・・
アルコール飲酒
・・・
・・・」
(34頁)

⑤表22骨折の危険因子(メタアナリシス、システマティック・レビューによる結果〔エビデンスレベルⅠ〕のみ表示)危険因子文献低骨密度成績……骨密度とは独立既存骨折*……した危険因子喫煙*……飲酒*………………………・・・(35頁)


まとめ現在、骨粗鬆症治療開始は骨密度を基準に行われているが、同じ*骨密度を示していても年齢が高いほど、表22の危険因子をもつほど、骨折リスクは高くなる。骨密度、年齢、危険因子を総合的に考慮に入れることで、骨折リスクの高い人をより効果的に判別できる。(35頁右欄1ないし7行目)⑦

骨粗鬆症治療の目的は骨折危険性を抑制し、生活の質(QOL)の維持と改善をはかることである。(50頁左欄1ないし2行目)



骨強度は骨密度と骨質により規定され、骨強度の約70%は骨密度に依存する。したがって、骨密度低下は、骨粗鬆症における骨折危険性増加の中心的要因である。さらに、近年、骨密度低下以外に骨折の危険性を高める要因が多数存在することが明らかになってきた。アメリカ骨粗鬆症財団(NOF)、WHOグループ、カナダガイドラインなどで取り上げられている危険因子の項目は、それぞれ、少しずつ異なる。共通して取り上げられている要因としては、女性、エストロゲン欠乏(閉経)、年齢(65歳以上)、低体重(57.8kg未満)、骨折の既往、母親の大腿骨骨折の既往、喫煙習慣、過剰なアルコール摂取、運動性低下である。(50頁左欄9ないし20行目)



WHOでは、低骨密度以外に、既存骨折、喫煙、アルコール多飲(1日2単位以上:日本酒2合にほぼ相当)、両親の大腿骨頸部骨折の既往、高齢、関節リウマチ、ステロイド剤の使用など七つを臨床的骨折危険因子としてメタアナリシスにより確認した。・・・また、低骨密度と年齢以外の六つの臨床的骨折危険因子は、それぞれ独立に、骨折危険率を1.6~2倍程度増加することが示されている。・・・年齢については、他の七つの骨折危険因子による骨折危険性を増加させる要因であるとしている。さらに、WHOでは地域や国ごとの一般人口における骨折発生率を相対危険度1の状態の骨折危険率とし、その危険率に低骨密度とそのほかの七つの臨床的骨折危険因子の相対危険度の総和を乗じて得られる絶対骨折危険率を、薬物治療の開始基準として利用することを提唱している。・・・確かに、今後は、わが国でも「絶対骨折危険率を治療開始の判断に取り入れていく必要があるとは思われる。しかし、現状では低骨密度、既存骨折、年齢に関してのエビデンスはあるが、その他の臨床的な骨折危険因子については、相対危険度と、それらの年齢との関連性などのデータは、まだ十分ではない。(51頁右欄6ないし31行目)


前記

の各記載によると、本件基準日当時の骨粗鬆症に関する技術常

識は、次のとおりである。
すなわち、①骨粗鬆症は、骨強度の低下を特徴とし、骨折の危険性が増大した骨疾患であり、その治療の目的は、骨折を予防し、QOL(qualityoflife)の維持改善を図ることである、②骨粗鬆症は、加齢とともに発生が増加する、③骨粗鬆症による骨折の複数の危険因子の中で、わが国では、低骨密度、既存骨折、年齢に関するエビデンスがある、④骨粗鬆症の診断基準に関して、1990年当時、厚生省シルバーサイエンスプロジェクト老人性骨粗鬆症の予防および治療に関する総合的研究班により提唱された診断基準(甲6診断基準)があったが、199
6年に診断基準が改訂され(甲5診断基準)
、その後、2000年に更に
改訂された
(甲9診断基準)⑤骨強度は骨密度と骨質の2つの要因から、
なり、骨密度が骨強度のほぼ70%を、骨質が残りの30%を説明することが知られていたといえる。

本件基準日のおけるPTH製剤の投与期間に関する技術常識について下記文献には、以下に引用する記載がある。

a
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年版
(2006

年。甲23)
■副甲状腺ホルモン(PTH)ヒトPTH(1-34)(テリパラチド)皮下注射剤骨形成促進薬としての効果が期待されているPTHは、海外において大規模臨床試験が実施され、すでに米国をはじめとする多くの国で認可されている。閉経後5年以上を経過し椎体骨折を有する骨粗鬆症患者を対象とした大規模臨床試験では、20μgのヒトPTH(1-34)の平均18ヵ月にわたる連日自己皮下注射により新規椎体骨折の発生を対照群の14%から5%へと1/3近く低下させた。さらに、新規非椎体骨折の発生も、対照群の6%に対し3%と、1/2にまで減少させた。腰椎および大腿骨頸部骨密度の増加率は、20μgのヒトPTH(1-34)投与により9%および3%と、いずれの部位においても著明な骨密度の増加が認められた。以上の成績は、ヒトPTH(1-34)の連日皮下投与により、顕著な骨折率の減少が18ヵ月という短期間で得られることを示したものであり、骨形成の促進により、たとえ骨代謝回転が高まっても骨密度は増加することを臨床的に証明したものである。これら成績をもとに、わが国でも、骨粗鬆症患者を対象としたヒトPTH(1-34)の連日自己皮下注射による臨床試験が進行中である。一方、これまでに週1回の皮下注射製剤の効果も検討されており、その第Ⅱ相臨床試験の成績では、200単位(約60μg相当)週1回1年間の投与で、椎体骨密度を8.1%増加させることが示された。(99頁右欄1ないし25行目)b

骨形成促進薬副甲状腺ホルモン(PTH)PTH(1-34)(2007年。甲34)

3臨床試験:PTH(1-34)連日皮下投与a.骨密度改善および骨折抑制効果・・・最近の大規模臨床検討では、既存の椎体骨折を有する閉経後女性1、637人にPTH(1-34)を平均19カ月連日投与した結果、骨密度では20μg投与群において腰椎で9.7%、大腿骨頸部で2.8%増加し、新規椎体骨折発生頻度が65%減少、非椎体骨折発生頻度も53%抑制された。(4
44頁左欄11ないし23行目)
c
平成22年5月6日付け審議結果報告書に添付された平成22年4月6日付け審査報告書(2010年4月。甲45)


[用法・用量]通常、成人には1日1回テリパラチド(遺伝子組換え)として20μgを皮下に注射する。なお、本剤の投与は18ヵ月間までとすること。(2頁)



2)海外第Ⅲ相試験(・・・)・・・外国人閉経後骨粗鬆症患者(目標症例数1476例、各群492例)を対象に、本剤20μg及び40μg投与とプラセボ投与時の新規椎体骨折が生じた被験者の割合を比較することを主目的として、プラセボ対照無作為化二重盲検並行群間比較試験が実施された。・・・治療薬の投与期間の中央値[25%点、75%点]は、プラセボ群576.0[534、624]日、本剤20μg群576.0[532、625]日、40μg群570.0[517、626]日であった。有効性について、主要評価項目は新規椎体骨折が生じた被験者の割合とされ、主要な解析はプラセボ群と本剤併合群(本剤20μg群及び40μg群)の新規椎体骨折の発生割合の比較とされた。比較の結果は表17のとおりであり、プラセボ群と本剤併合群(本剤20μg群及び40μg群)の新規椎体骨折の発生割合に有意な差が認められた(p<0.001、有意水準両側5%、Pear2sonのχ検定)。副次評価項目とされた新規非椎体骨折が生じた被検者の割合とプラセボ群に対する本剤群の割合の比は表18、BMD変化率は表19のとおりであった。(53ないし54頁)


表17、表18及び表19

(54頁)


3)投与期間の上限・・・それまでに実施した臨床試験における投与期間を基に設定することとし、米国及び欧州では投与期間の上限を24ヵ月間として承認されている。国内においては、GHDB試験での18ヵ月間のデータより安全性が確認されることを前提に、投与期間の上限を18ヵ月間として承認申請を行い、その後18ヵ月時点のデータを提出した。なお、国内GHDB試験において24ヵ月間投与の使用経験を得るため、投与期間を24ヵ月間に延長して2009年9月に終了した。(96頁)d
甲2文献


要約・・・方法我々は既存椎体骨折を有する1637人の閉経後女性を20又は40μgの副甲状腺ホルモン(1-34)又はプラセボの投与のためにランダムに割り当て、その女性らに毎日皮下投与を行った。・・・結果新規椎体骨折がプラセボ群の女性の14%で生じ、また、20μg及び40μg副甲状腺ホルモン群の女性の5%及び4%でそれぞれ生じた。20μg及び40μg群におけるそれぞれの骨折の相対リスクは、プラセボ群と比較して、0.35と0.31(95%信頼区間、0.22から0.55及び0.19から0.50)であった。新規非椎体脆弱骨折はプラセボ群女性の6%で生じ、また、副甲状腺ホルモン群のそれぞれで3%で生じた(相対リスク、それぞれ0.47及び0.46[95%信頼区間、0.25から0.88及び0.25から0.86]。プラセボと比較して、副甲状腺)ホルモンの20μg及び40μg用量は腰椎において骨密度を9及び13パーセントポイント増加させ、また、大腿頸部で3及び6パーセントポイント増加させた。・・・副甲状腺ホルモンは軽い副作用(時折の吐き気と頭痛)を生じたのみであった。結論副甲状腺ホルモン(1-34)による閉経後骨粗鬆症の治療は、椎体及び非椎体骨折のリスクを低下させ、椎体、大腿骨及び全身の骨密度を増加させ、そして良好に認容される。(1434頁左欄1ないし42行目)


プラセボを受けた群、1日当たり20μgの副甲状腺ホルモン(1-34)を受けた群、及び、一日当たり40μgを受けた群の試験治療の累積期間はそれぞれ798、779、及び774患者-年であり、また、その3群における治療の平均(±SD)期間はそれぞれ18±5、18±6、及び17±6月であった。(1435頁右欄46ないし53行目)


図1プラセボを受ける、または1日1回の用量が20μgまたは40μgのパラチロイドホルモン(1-34)(PTH)を受ける、に割り当てられた女性のうち、ひとつ以上の非椎体骨折を有した女性の累積割合である(パネルA)。また、研究中にひとつ以上の非椎体脆弱骨折を有した女性累積割合である(パネルB)。両方のパネルについて、プラセボ群、20μgPTH群、40μgPTH群の女性の数はそれぞれ、ベースラインで544、541、552、6ヶ月時点で497、492、486、12ヶ月時点で477、465、456、18ヶ月時点で404、400、390であった。プラセボ群との群間比較全てについて、ログランク検定により、P≦0.05であった。(図1)④

図1
(1438頁)
前記

の各記載によると、本件基準日時点のPTH製剤の投与期間に

関する技術常識は、次のとおりである。
すなわち、①海外では既に投与期間の上限を24か月とするPTH2
0μg連日投与の製剤が認可されていたこと、②PTH20μg又は40μg18か月間以上の連日投与により骨密度の増加と新規椎体骨折の発生の抑制を得られることが技術常識として知られていたことが認められる。


相違点1の容易想到性について

検討
甲1発明と本件発明1とは、
1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とするとの用量の点において一致するが、その投与の対象となる骨粗鬆症患者の範囲を一応異
にする。
甲1発明で投与対象とされた患者は、前記⑴のとおり、甲6診断基準で骨粗鬆症と診断された患者であるところ、より新しい基準を参酌しながらその患者を選別することは、当業者がごく普通に行うことであるから、甲1発明に接した当業者が、甲1発明のPTH200単位週1回投与の骨粗鬆症治療剤を投与する対象患者を選択するのであれば、甲6診断基準とともに、より新しい、甲5診断基準又は甲9診断基準を参酌するといえる。
そして、前記ア
c及びdのとおり、甲5診断基準で骨粗鬆症と診断

される者は、①骨萎縮度I度以上又は骨密度値がYAMの80%以下の低骨量で非外傷性椎体骨折を有する者か、②X線上椎体骨折を認めないが、骨萎縮度Ⅱ度以上、又は、骨密度値がYAMの70%未満である者であり、甲9診断基準で骨粗鬆症と診断される者は、③骨萎縮度Ⅱ度以上又は骨密度がYAMの80%未満の低骨量が原因で、軽微な外力によ
る非外傷性骨折等(脆弱性骨折)を有する者か、④脆弱性骨折がないものの、骨萎縮度Ⅱ度以上、又は、骨密度値がYAMの70%未満の者である。
本件条件(2)及び本件条件(3)は、上記①と同じであるから(既存の骨折は非外傷性椎体骨折を含む。、当業者が甲7発明の20)

0単位週1回投与の骨粗鬆症治療剤を投与する骨粗鬆症患者を本件条件(2)及び本件条件(3)で選別するのには何ら困難を要しない。また、前記⑵ア

のとおり、骨粗鬆症は、加齢とともに発生が増加す

るとの技術常識があり、高齢者は加齢を重ねた者であるのは明らかであるところ、高齢者として65歳以上の者を選択するのは常識的なことであり、前記⑵ア

e⑨のとおり、アメリカ骨粗鬆症財団、WHOグルー
プ、カナダガイドライン等で取り上げられている骨折の危険因子の項目のうち、共通して取り上げられている要因として、65歳以上という年齢があり、高齢者の医療の確保に関する法律32条でも65歳以上が高齢者とされている。したがって、これらを参酌し、骨粗鬆症による骨折の複数の危険因子として、低骨密度及び既存骨折に並んで年齢が掲げられていることに着目して投与する骨粗鬆症患者を65歳以上として、本件条件(2)及び本件条件(3)に加えて本件条件(1)のように設定することはごく自然な選択であって、何ら困難を要しない。
そうすると、甲1発明に接した当業者が、投与対象患者を本件3条件の全てを満たす患者と特定することは、本件基準日においても、当業者に格別の困難を要することではない。


被告の主張について
被告は、前記第3の1⑵イのとおり、①本件特許の優先日当時に甲5診断基準を適用する理由はないし、甲5診断基準で骨粗鬆症と診断される者であっても、その中から本件条件(2)及び本件条件(3)を選択する動
機付けはない、②副作用リスクのあるPTH200単位を一般に体力の劣る65歳以上の高齢者に使用するには特段の事情が必要であり、本件条件(1)
を選択する動機付けがない、
③甲1文献には、
年齢

既存の骨折
の観点を含めてサブグループ化してものの効果に差が出ないことが記載され、本件3条件の組合せは動機付けられない旨主張する。

前記⑵ア

eのとおり、甲5診断基準は、骨折の有無に分けて、骨萎縮

度と骨密度の数値を変えているが、前記⑵ア

のとおり骨粗鬆症が骨折の

危険性が増大した骨疾患であることに鑑みると、このうち、既存骨折がある場合の診断基準を選択することは当業者において適宜選択し得ることであるし、いずれの診断基準を用いても診断基準を満たす者は骨粗鬆症と診断されるのであるから、どれを診断基準として選ぶかは当業者が任意に選択することにすぎない。また、単に高齢者が一般に若年者と比較すれば体力が劣る者であるからといって、前記⑵ア

のとおり、加齢とともに発

生が増加することから、高齢者こそ必要とする骨粗鬆症の治療剤をその高齢者に対して適用することを断念するとは考え難い。
そして、確かに甲1文献には、別紙2のとおり、
年齢が64歳以下と65歳以上、体重が49㎏以下と50㎏以上、閉経後10年未満、10から20年、20年以上、および脊椎骨折が0、1および2箇所以上を有するサブグループに被験者を分類して比較したところ、サブグループ間で薬物に対する応答は同程度であった。との記載があることは認められるものの(300頁左欄11行ないし右欄6行目)
、当該記載は、上記記載中の条
件によってサブグループ化されたサブグループ間の薬物効果の比較につ
いて述べているにすぎず、当該記載により、甲1発明の投与対象患者をサブグループ化すること全般が阻害されるとはいえない。
したがって、被告の上記主張は、いずれも採用することができない。⑷
相違点2の容易想到性について

検討
前記⑵ア

のとおり、骨粗鬆症は、骨強度の低下を特徴とし、骨折の危

険性が増大した骨疾患であり、骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予防することであり、
骨強度は骨密度と骨質の2つの要因からなり、骨密度は骨強
度のほぼ70%を説明するとの技術常識があったのであるから、当業者は、骨密度の増加は骨折の予防に寄与すると理解するというべきである。
そうすると、
甲1文献には、

ここに挙げた薬剤を投与することによって骨密度(BMD)が増加するため、骨折予防は飛躍的に進歩した

(296
頁右欄10行ないし297頁左欄25行目)と骨密度の増加が骨折予防に寄与することが記載され、その上で、48週で骨密度を8.1%増大させたことが開示されているのであるから(300頁左欄11行ないし右欄6行
目)甲1発明の骨粗鬆症治療剤を骨折抑制のためのものとすることは、、

件基準日においても、当業者が容易に想到できたものである。

被告の主張について
被告は、前記第3の1⑵ウ

のとおり、骨折抑制効果を骨密度の数値

だけで完全に代用することはできないから、甲1発明の骨粗鬆症治療剤によって腰椎BMDの増加が生じたからといって、プラセボ等との対比試験を行っていない甲1発明から骨折抑制効果を予測することはできない旨主張する。
この点、平成11年4月15日医薬審第742号厚生省医薬安全局審査管理課長通知骨粗鬆症用薬の臨床評価方法に関するガイドラインについて(甲41の2)には、①臨床試験は、非臨床試験で得られた情報をもとに、比較的限定された数の健康人志願者を対象とし、治験薬のヒトにおける安全性の確認に重点が置かれる第Ⅰ相試験、骨粗鬆症患者を対象として、治験薬の有効性、相対的な安全性、用法・用量反応性、骨粗鬆症のタイプや病気による効果の違い等を探索的に検討することを目
的とする前期第Ⅱ相試験、骨粗鬆症患者を対象として用量反応関係を明らかにし、第Ⅲ相比較試験のための用法・用量決定することを目的とする後期第Ⅱ相試験、有効性と安全性の確認、適応疾患における用法・用量の確認、副作用の確認と回復の状況等を調べて、当該治験薬が実際に臨床使用されたときの効果を検討することを目的とする第Ⅲ相試験に分
かれること、②第Ⅲ相の比較対象試験では、治験方法として、無作為化二重盲検比較法で標準薬又はプラセボと比較して、治験薬の臨床的有効性と安全性の評価を行うこと
(2260頁)③骨粗鬆症薬の薬効評価に

は、評価指標(エンドポイント)としては骨強度の変化を追跡するのが望ましいが、ヒトで骨強度を測定するのは現時点では困難なので、それ
に代わる指標として、骨粗鬆症に伴う骨折に対する効果を示すのが必要であること、薬効を評価するのに、現在の評価手段では1年間の観察では不十分であり、通常、少なくとも3年間を要するものと思われること(2259ないし2260頁)
が記載されている。
そして、
甲1発明は、
後期第Ⅱ相試験の結果を報告するものである。

しかしながら、
代替エンドポイントの評価
(平成21年6月。乙1
4)には、
FDAは骨密度を代替エンドポイントとした試験結果をもって薬剤を承認する方針を変更し、第Ⅲ相試験においては、真のエンドポイントである骨折を評価項目とした臨床試験を求めるようになった(・・・)。ただし、骨密度は代替エンドポイントとして日米欧の規制当局からは認められており、新薬の承認申請の際には、骨密度を代替エンドポイントとして第Ⅱ相試験を行い用量反応性を検討し、第Ⅲ相試験においては真のエンドポイントである骨折を評価項目としてプラセボまたは実薬対照試験を行うのが一般的となっている。(16頁)との記載があり、上記骨粗鬆症用薬の臨床評価方法に関するガイドラインについてにも、後記第Ⅱ相試験の評価指標(エンドポイント)について、

本来、有効性の証明には骨強度の変化や骨折率を見ることが望ましいが、長期間を要するので、骨量の変化を見ることで代用される。

と記載されている(2258頁)

これらの点に鑑みれば、骨密度の増加が骨折抑制に寄与することを当然の前提として、医薬品として承認を得るためにはプラセボとの対比試
験で骨折抑制効果を確認することが必要とされていたにとどまるものと認められ、プラセボとの対比試験で骨折抑制効果を確認しなければ骨密度の増加から骨折抑制効果が予測できないとはいえない。
したがって、被告の上記主張は、採用することができない。
また、被告は、前記第3の1⑵ウ

のとおり、甲1文献には、骨密度

の増加が異なる各群間において、椎体骨折数について各群間の差は有意でなかったとの記載がある旨主張する。しかしながら、骨密度の増加と骨折抑制の効果が連動しない例がないわけではないとしても、前記アのとおり、当業者は骨密度の増加は骨折の予防に寄与すると理解する以上、当業者は、骨密度が増加すれば骨折
抑制の効果が生じると理解するものといえる。また、甲1文献には、椎体骨折数について、L群(50単位投与群)
、M群(100単位投与群)
及びH群(200単位投与群)との間で有意な差は生じなかったとの記載があるが、それは各群間相互との関係において有意差がなかったというだけで、200単位投与に骨折抑制効果の見込みがないことを示唆するものではない。
したがって、被告の上記主張は、採用することができない。
被告は、前記第3の1⑵ア

のとおり、甲1発明における200単位

投与群には、副作用が多発しており、200単位は副作用脱落率が高い用量と認識されているところ、本件3条件は、層別解析により初めて、本件条件(1)ないし本件条件(3)を組み合わせるとPTHの骨折抑制効果が高いという新規な知見を得たことに基づくものであり、これにより初めてリスクに見合うベネフィットが得られるようになった旨主張する。
確かに、別紙2のとおり、甲1文献には、PTH200単位週1回投与のH群の副作用発生率は42%であり、
72人のうち16人
(約22%)

が副作用により脱落していて、
副作用発生率及び副作用による脱落率は、
50単位を投与したL群(副作用発生率19%)及び100単位を投与したM群(副作用発生率19%)のいずれと比べても高いことが記載されており(表6)
、骨粗鬆症の治療は長期間にわたるため、臨床使用にお
いて患者の症状や治療継続意思に直接に影響する副作用が起こることは
望ましくはないから(甲48、50の1及び2、乙50)
、甲1文献の上
記記載に接した当業者は、この点に限っていえば、200単位の投与よりも100単位の投与の方がより適当であると認識することが考えられる。
しかしながら、他方、甲1文献には、重篤な有害事象は認められない
と記載されており(301頁左欄1行ないし右欄4行目)
、さらに、20
0単位の投与が腰椎骨密度を48週間後に8.1%増加させたこと、及び、
その増加の程度は、
100単位投与の3.6%、
及び、
50単位投与の0.
6%のいずれよりも高いことが記載され、PTHは腰椎骨密度を48週という比較的短期間で用量に依存して増加させる極めて有望なものと評価されている(300頁左欄11行ないし右欄6行目、301頁右欄5行ないし303頁右欄23行目。有望とされた対象から200単位の投与のみが排除されているとは理解し難い。。そして、前記⑵ア)

のとお

り、骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予防することであるところ、骨密度が低いことは、既存骨折、年齢とともに、わが国でエビデンスがある骨折危険因子であり、骨密度は骨強度のほぼ70%を説明するとの技術常識がある。
以上によれば、甲1文献に接した当業者は、200単位週1回投与と100単位週1回投与とを対比した場合に、副作用の面と効果の面を総合考慮して、いずれを選択するか判断するものと考えられ、200単位週1回投与がその選択が排除されるほど劣位したものと見られるとはい
えず、これを選択することもまた十分に動機付けられているというべきである。
そして、前記⑶ア

において判示したように、本件基準日当時におけ

る技術常識に照らせば、甲1発明に接した当業者が投与対象患者を本件3条件の全てを満たす患者とすることに格別の困難はない。また、本件3条件の組合せについても、客観的観点からその選択において格別なものである、あるいは、他の骨折リスク因子等も含めた様々な組合せが想定される中で本件3条件を組み合わせること自体に特別の意味合いがあると認めるに足りる証拠はない(被告が主張する層別解析は、後述するように、あくまで本件3条件の全てを満たす患者(高リスク患者)のグ
ループと、
本件3条件の全部又は一部を満たさない患者
(低リスク患者)
のグループのうちごく一部のグループとを比較するものにすぎず、また、
その結果自体も被告主張の顕著な効果が認められると即断できるものではない。。

そうすると、被告が主張する甲1発明の骨粗鬆症治療剤の副作用や本件3条件を選択することによる骨折抑制効果という観点から改め検討しても、前記アの判断が左右されるものではない。

したがって、被告の上記主張は、採用することができない。
そのほか被告がるる主張するところも、前記アの判断を左右するものではない。

相違点3の容易想到性について

検討
48週を超過して72週以上までの間投与されることの技術的意

相違点3に係る本件発明1の構成は、投与期間を48週を超過して72週以上までの間とするものであるところ、これは、までの間と

して一定の期間内における投与を規定し、その始期(投与自体の開始は0週からである。
)を48週を超過と、同終期を72週以上とす
るものと理解できる。
そして、本件明細書には、骨折発生を主要評価項目とした二重盲検比較臨床試験において、その効果が24週後又は26週後という早期から
発現し、投与後48週を超えてからの新規椎体骨折は認められなかったことが記載された上で、投与期間として、24週以上、26週以上、48週以上、52週以上、72週以上や78週以上が例示され、最も好ましいものを78週以上としている(
【0032】。

また、実施例2として、本件3条件の全てを満たす患者(高リスク患
者)に対して、被験薬(PTH200単位)又は対照薬(プラセボ)を、72週間にわたり週に1回の頻度で間欠的に皮下投与したところ【00(
98】、半年毎の新規椎体骨折発生率は、対照薬投与群では、24週以)
下、24週を超えて48週以下、48週を超えて72週以下のいずれの区間でも約5%でほぼ一定であったが、被験薬投与群では、投与期間が長くなるにつれて区間ごとの発生率が低下しており、48週を超えてからの新規椎体骨折の発生はなかったこと(
【0131】【0132】【表


34】【表35】、カプラン-マイヤー推定法による72週後の椎体骨、

折(新規及び増悪)発生率が、被験薬投与群で3.5%、対照薬投与群で16.3%であること(
【0133】
)が記載されている。
これらの記載によると、本件発明は、遅くても48週を超えてからの
新規椎体骨折の発生はなかったことを踏まえて、
始期を
48週を超過
とし、試験期間が72週であったことを踏まえて、少なくとも72週までの継続した投与を要するとの趣旨で終期を
72週以上
(72週が含
まれる。
)としたものと理解される。
ところで、本件明細書には、上記のほかに48週なる数値の技術

的意義についての記載はないところ、48週を超えての投与のためには48週までの投与を前提とするのであって、
【表34】において、48週
を超えて72週までの間に骨折発生がなかったということは、とりもなおさず24週を超えて48週以下までの間に発生した最後の骨折以降に更なる骨折発生がなかったことを意味し、しかも、その骨折発生時期は
不明であるものの、24週という相当長期の間に発生した骨折例数はわずか2例であること(本件明細書【表35】
)に鑑みると、単に新規椎体
骨折発生の有無にだけ着目するならば、その効果は24週を超えて48週以下の区間で既に奏していたとの評価もできる。さらに、72週は試験期間が72週であったことによるにすぎず、72週以上としてい
るにもかかわらず、72週を超える期間での骨折発生率は、本件明細書上不明である。
以上からすると、
48週及び72週以上それ自体が技術的意義
を持つものとして規定されているのではなく、本件発明の48週を超過して72週以上までの間との特定の時期をもって始期及び終期とする限定には格別の技術的意義を見いだすことができず、単に、便宜上区切られた試験期間の適宜の区間について、PTHの投与継続につれて骨折発生率が低下していることを示すに当たり、試験結果を示す事実として、当該期間において新規椎体骨折が発生していなかったことに着目してこの期間を採用したにすぎないというのが相当である。
容易想到性について

前記⑵イ

のとおり、本件基準日において、連日投与のPTH製剤に

関し、48週を超えた投与により骨密度が上昇し、骨折発生が減少することが知られていた。
一方、甲1発明は、PTH200単位週1回投与により、48週までの間、
腰椎BMDが継続的に増加し、
48週後には8.1%有意に増加し
(甲1文献の296頁左欄1行ないし右欄7行目)さらに、

PTH20
0単位投与群であるH群では48週の投与期間中に椎体骨折が発生しなかったものである(甲1文献の300頁左欄11行ないし右欄6行目)。
そして、前記⑵ア

記載の技術常識によると、当業者であれば、そのよ

うな骨密度の増大は骨折の予防に寄与すると理解するといえるところ、甲1文献の試験は、48週までの投与についてのものであるが、その増加率に逓減傾向があるとしても、腰椎BMDが継続的に増加していることが見て取れ(甲1文献の図1)
、投与が48週を超えると、これが減少
に転じるとする根拠は見当たらない。
以上からすると、連日投与のPTHに関して48週を超えての投与が
され、それによる骨密度の上昇及び骨折発生の減少が報告されていたことを踏まえ、甲1発明の骨粗鬆症治療剤においても、骨密度の上昇と骨折の予防のために48週を超えて投与するようにすることは、本件基準日においても、当業者として容易に想到することといえ、これにより本件発明1に至るものというべきである。

被告の主張について
被告は、前記第3の1⑵エ

のとおり、①甲1発明のPTH200単

位週1回投与の副作用発生率、脱落率の高さからみてこの用法用量について長期投与を試みることの動機付けはない、②甲1発明の試験は、48週が投与継続の限界と考えられていたのであり、甲1発明において長期投与を試みることには阻害要因がある旨主張する。
しかしながら、甲1文献の開示事項(図1)からは、48週を超えての投与によって腰椎BMDの増加率が上昇していることは確認できないものの、増加率が低減しながらも正味としては腰椎BMDは増加していることが確認できるのであるから、人体である以上自ずと腰椎BMDの増加に上限はあるとしても、投与48週後にこの腰椎BMDの増加が直
ちに消失するとする格別の根拠はないし、骨折抑制効果自体についての有意な記載はなくても、前示のとおり、骨密度の増大が骨折の予防に寄与することは技術常識というべきものであるから、甲1発明におけるPTH200単位週1回投与の副作用発生率、脱落率の高さにより、当業者において臨床使用への適用を妨げられるとはいえず、その適用の際、
そのBMD増加の効果に鑑みて長期投与することは十分に動機付けられるといえるから、上記①の主張を採用することはできない。さらに、
甲1文献には、試験期間を48週間に設定した。
この期間は、骨折の危険性と不安が常にある患者を対象として通常の骨測定、血液と尿の採取を行っても脱落率が過度とならずに、十分な制御下で多施設試験を実施できる限界であると思われた。(297頁右欄43行ないし298頁左欄24行目)と記載されているのであるから、甲1文献上、試験期間が48週に設定された直接の理由は臨床試験の管理上の問題を懸念したことによるものであることは明らかであり、しかも、試験期間の設定は甲1文献の試験の結果を知る前にされるものであることも併せ考えれば、甲1文献の試験の結果を見た当業者が、甲1発明の骨粗鬆症治療剤を治療の場面で用いる際、48週を超えて投与することを阻害され
るとはいえないというべきであるから、上記②の主張も採用することができない。
被告は、前記第3の1⑵エ

のとおり、甲2文献は、甲1発明とは用

法用量の異なる試験に関するものであるから、甲2文献の記載事項が甲1発明の骨粗鬆症治療剤を48週を超えて投与する動機付けとはならな
い旨主張する。
しかしながら、甲2文献の臨床試験の用法用量が甲1発明とは異なることから、その継続期間を直ちに全く同様のものとしてよいと考えることはできないとしても、同じPTH製剤であって、その効果としても骨密度の増加が認められるPTH製剤に係る情報に接した場合、骨密度の
上昇が見込まれる週1回投与のPTH200単位の骨粗鬆症治療剤を、48週を超過して投与することを想起することは自然かつ合理的であるから、少なくとも動機付けとならないとはいえない。
そのほかにも、被告はるる主張するが、いずれの点においても、前記ア


の判断を左右するものではない。

発明の効果について

予測できない顕著な効果について
発明の効果が予測できない顕著なものであるかについては、当該発明の特許要件判断の基準日当時、当該発明の構成が奏するものとして当業者が
予測することのできなかったものか否か、当該構成から当業者が予測することのできた範囲の効果を超える顕著なものであるか否かという観点から検討する必要がある(最高裁判所平成30年(行ヒ)第69号令和元年8月27日第三小法廷判決・集民262号51頁参照)
。もっとも、当該発
明の構成のみから、予測できない顕著な効果が認められるか否かを判断することは困難であるから、当該発明の構成に近い構成を有するものとして選択された引用発明の奏する効果や技術水準において達成されていた同
種の効果を参酌することは許されると解される。なお、予測できない顕著な効果の立証責任は特許権者にあるから、当該発明の構成から奏する効果が不明であるからといって、直ちに予測できない顕著な効果があるとすることはできない。

本件発明の効果について
被告の主張する予測できない顕著な効果について
前示のとおり、本件発明1の構成は容易想到であるが、これに対し、被告は、前記第3の1⑵オ

のとおり、本件発明1は、72週時点でプ

ラセボ群に対するRRRが79%という高い骨折抑制効果を奏すること(効果①)投与の継続により骨折抑制効果が増強する効果を奏すること、
(効果②)48週経過後に実質的に完全に骨折を抑制する効果を奏する、
こと(効果③)を、予測することのできない顕著な効果である旨主張するから、以下、これらの効果について検討する。
本件発明における予測できない顕著な効果について

まず、被告は、発明の効果が予測できない顕著なものであるか否かを該発明の構成に基づいて判断すべきであるとすると、本件においては、本件発明1の構成である3条件充足患者に対して奏される骨折抑制効果について検討すればよく、3条件充足患者に対する骨折抑制効果と非3条件充足患者に対する骨折抑制効果とを対比する必要はなく、本件明細
書にも記載されている必要はない旨主張する。
しかしながら、本件発明1は、本件基準時においてはPTHが骨粗鬆症治療剤として周知であるとの前提の下に、PTH投与群の中で特に優れた効果を奏する患者群に投与することに進歩性を見出したとするものであるから、本件3条件の全てを満たす患者について骨折抑制効果を確認するためには、
高リスク患者に対する骨折抑制効果と低リスク患者
(高
リスク患者以外の患者)
に対する骨折抑制効果とを対比する必要がある。

単に本件発明の骨粗鬆症治療剤を投与された高リスク患者とプラセボ投与患者を対比して上記高リスク患者に対する骨折抑制効果があることを示しただけでは、それはPTH投与群に含まれる一群がプラセボ投与群に対して骨折抑制効果が優れることを示しただけであり、高リスク患者群がそれ以外の患者群に比較して、PTH投与群の中で特に効果を奏す
る患者群であることを明らかにしたことにはならず、PTH投与群の骨折抑制効果を確認したことになるにすぎない。
したがって、被告の上記主張を採用することはできない。

効果①について
前記⑵ア

のとおり、骨粗鬆症は、骨強度の低下を特徴とし、骨折の

危険性が増大した骨疾患であり、骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予防することであり、
骨強度は骨密度と骨質の2つの要因からなり、骨密度
は骨強度のほぼ70%を説明するとの技術常識があったから、
当業者は、
骨密度の増加は、骨折の予防に寄与すると理解するところ、甲1文献には、

ここに挙げた薬剤を投与することによって骨密度(BMD)が増加するため、骨折予防は飛躍的に進歩した

(296頁右欄10行ないし2
97頁左欄25行目)と骨密度の増加が骨折予防に寄与することが記載され、
その上で、
48週で骨密度を8.1%増大させたことが開示されて
いる(300頁左欄11行ないし右欄6行目)
。そうすると、甲1発明の

骨粗鬆症治療剤が骨折を抑制する効果を奏していることは、当業者において容易に理解できる。
効果①の骨折抑制効果の指標は、単なる骨折発生率の低減ではなく、プラセボ投与群の骨折発生率と対比した場合の骨折発生率の低下割合を指すものとされているが、効果①を確認するためには、前記イ
のとお

り、高リスク患者に対する骨折抑制効果と低リスク患者に対する骨折抑制効果とを対比する必要があり、単に高リスク患者とプラセボを対比して高リスク患者に対する骨折抑制効果を示しただけでは、高リスク患者がPTH投与群の中で特に効果を奏する患者群であることを明らかにしたことにはならないところ、本件明細書の記載からでは、
本件3条件の
全てを満たす患者と定義付けられる高リスク患者に対する骨折抑制効果
が、本件3条件の全部又は一部を欠く者と定義付けられる低リスク患者に対する骨折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。すなわち、本件明細書を見ると、実施例1において、高リスク患者では、100単位週1回投与群における新規椎体骨折の発生率は、いずれも実質的なプラセボである5単位週1回投与群における発生率に対して
有意差が認められるが、低リスク患者では、100単位週1回投与群における新規椎体骨折の発生率は、いずれも、5単位週1回投与群における発生率に対して有意差が認められなかったと記載されているのにとどまる(
【0086】ないし【0096】【表6】ないし【表11】

)とこ
ろ、
誤記を修正して再解析したとする数値
(前記1⑵オ)
に基づいても、

低リスク患者の新規椎体骨折についていえば、100単位週1回投与群11人と5単位週1回投与群10人について、それぞれ、ただ1人の骨折例数があったというものであり、
このような少ない症例数のもとでは、
上記プラセボ投与群の骨折発生率と対比した場合の骨折発生率の低下割合(RRR)は、骨折例数が1件増減しただけでその値が大きく変動す
ることは明らかであるし、
そもそも、
低リスク患者を対象とした場合は、
5単位週1回投与群であっても骨折例数が少なく、5単位週1回投与群の骨折発生率に対する、100単位週1回投与群の骨折発生率の低下割合であるRRRの値が、高リスク患者に対するそれに対して小さいのは当然のことといえる。
この点、被告は、3条件充足患者における骨折抑制効果がプラセボに対する関係で有意差があり、非3条件充足患者における骨折抑制効果がプラセボに対する関係で有意差が無ければ、直ちに、本件発明1の骨粗鬆症治療剤が3条件充足患者に対して優れた効果を有するといえる旨主張する。しかしながら、有意差が無いということは効果が優れているかどうか不明であるということにすぎず、効果が優れていないということ
を直ちに意味するものではないし、有意差が無かったことが症例数が不足していることによることも否定できない(甲35)から、上記のような結論の導出は適当でない。
したがって、実施例1をみても、高リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果が、低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いと
いうことを理解することはできない。
次に、本件明細書には、実施例2について、3条件充足患者におけるPTH200単位週1回投与に関し、対照薬(プラセボ)投与群では投与開始後、
≦24週24週<≦48週48週<≦72週のい


ずれの期間でも骨折発生率は約5%でほぼ一定であったのに対して、P
TH200単位週1回投与群では、2.3%、0.9%、0%と減少し、プラセボ投与群に対するRRRは投与を継続するにつれて増加したこと、PTH200単位週1回投与群では、24週後に骨折発生リスクをプラセボ投与群に対して53.9%低下させたこと、
投与72週後に、
椎体骨

(新規+増悪)
の発生リスクをプラセボに比べて78.6%低下させた

ことが記載されている(
【0131】ないし【0133】【表34】

【表
35】。

しかしながら、これらの記載は、3条件充足患者について、本件発明の骨粗鬆症治療剤を投与した患者とプラセボを投与した患者とを比較しているだけであって、本件発明の骨粗鬆症治療剤を投与された場合において、3条件充足患者に対して非3条件充足患者よりも優れた骨折抑制効果があることを示したことにはならない。
加えて、前記1⑵アのとおり、実施例1の患者は全員が椎体骨折を1個以上有していたので、全員が本件条件(2)を充足する患者であり、また、甲5診断基準のⅠX線上椎体骨折を認める場合の患者であ

るので、

骨萎縮度Ⅰ度以上、あるいは骨密度値が若年成人平均値(YAM)の80%以下

の低骨量の患者であるから、全員が本件条件(3)を充足する患者といえる
(骨密度値が若年成人平均値
(YAM)
の80%
ぴったりの患者は本件条件
(3)
を満たさないが、
現実には想定し難い。。

すなわち、本件明細書において高リスク者(3条件充足患者)とされるのは定義上、本件条件(1)ないし(3)を充足する患者であり、本件
明細書において低リスク者(非3条件充足患者)とされる患者といえども、上記のとおりに本件条件(2)及び(3)を充足しているから、実施例1は65歳以上という本件条件(1)の充足の有無による骨折抑制効果しか対比していないものである。そして、前記

のとおり、実施例

2は、本件発明の骨粗鬆症治療剤を投与された場合において、3条件充足患者に対する骨折抑制効果が非3条件充足患者に対する骨折抑制効果を対比したものではない。そうすると、本件明細書から、高リスク患者における新規椎体骨折発生の抑制の程度を低リスク患者における新規椎体骨折発生の抑制の程度と比較して、前者が後者よりも優れていると結論付けることは、ますます困難となる。

さらに、本件明細書のその他の部分をみても、単に、
高リスク患者に対しては低リスク患者よりも高い骨折抑制効果を奏する旨の結論のみを提示する記載はあるが、これらは薬理試験のデータに基づくものではなく、このような記載から、高リスク患者(3条件充足患者)に対するPTHの骨折抑制効果が、低リスク患者(非3条件充足患者)に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いということを合理的に理解することはできないから、結局、効果①は、本件明細書の記載に基づかないものというべきである。
原告は、甲64証明書及び甲68証明書から効果①は明らかである旨主張する。
しかしながら、本件明細書の記載から、高リスク患者に対するPTH
の骨折抑制効果が、低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いということを理解することができず、また、これを推認することもできない以上、効果①は対外的に開示されていないものであるから、上記各実験成績証明書を採用して、効果①を認めることは相当ではない。仮に、上記各実験成績証明書を参酌するにしても、これら証明書は、
被告の主張に従っても、

65歳以上で、既存の骨折がなく、骨密度が若年成人平均値の80%未満である

患者群と

65歳以上で、既存の骨折があり、骨密度が若年成人平均値の80%未満である

患者群を対比したという、既存の骨折の有無という本件条件(2)のみが相違する群間について、48週を超過して投与した場合と72週以上投与した場合
のそれぞれのプラセボ投与群(コントロール群)との骨折発生例数を対比したものということに帰するものであり、本件3条件の全てを満たす患者(高リスク患者)のグループと、本件3条件の全部又は一部を満たさない患者(低リスク患者)のグループのうちごく一部のグループとを比較しているものにすぎないから、およそ、本件3条件の全てを満たす
患者の骨折発生の抑制の程度が本件3条件を満たさない患者に対する骨折発生の抑制の程度より優れていると結論付けることに適するものではない。そうすると、上記各実験成績証明書をみても、本件3条件を全て満たす患者に対するPTHの骨折抑制効果が、本件3条件を満たさない患者に対するPTHの骨折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。
以上によれば、いずれにしても効果①を認めることはできないから、
その他の点について判断するまでもなく、本件発明1に予測することのできない顕著な効果があると認める余地はない。

効果②について
本件明細書には、前記ウ

のとおり、実施例2について、3条件充足

患者におけるPTH200単位週1回投与に関し、対照薬(プラセボ)投与群では投与開始後、
≦24週24週<≦48週

48週<≦、、72週

のいずれの期間でも骨折発生率は約5%でほぼ一定であったのに対して、
PTH200単位週1回投与群では、
2.3%、
0.9%、
0%
と減少したことが記載されている(
【0131】ないし【0133】【表


34】
【表35】。

しかしながら、これら記載は、3条件充足患者について、本件発明の骨粗鬆症治療剤を投与した患者とプラセボを投与した患者を比較しているだけであって、
本件発明の骨粗鬆症治療剤を投与された場合において、
3条件充足患者が非3条件充足患者よりも優れた骨折抑制効果があるこ
とを示したことにはならない。また、甲1文献の図1をみると、200単位週1回投与のH群において、腰椎BMDは投与開始24週で約5%増加していること、
48週では8.1%増加していることが読み取れると
ころ、48週以降の投与に関し、増加率が低減すると予想されるものの48週経過後に腰椎BMDの増加が直ちに消失するとする根拠もないこ
とは前記⑸ア

のとおりであり、骨密度が増加している以上は骨折抑制

効果も上昇すると見込むことができる。一方、プラセボ投与群については骨密度が増加することはないのであるから、プラセボ投与群の対比においてPTH200単位週1回投与の骨折抑制効果が投与期間の経過に伴い上昇していくのは明らかである。また、甲2文献には、PTH20μg連日投与又は40μg連日投与についてのものであるが、閉経後女性における骨粗鬆症の治療のために、20又は40μgのPTHを、平
均17ないし18か月連日投与したところ、当該治療により椎体及び非椎体骨折のリスクが低下し、椎体、大腿骨及び全身の骨密度が増加したこと(1434頁左欄1ないし42行目、1435頁右欄46ないし53行目)投与期間が長くなる程、

PTHの投与による骨折抑制率が高ま
ることが記載されている(図1)
。したがって、効果②を単に3条件充足

患者に対して200単位週1回投与による骨折抑制効果が投与期間の継続により増強するというのであれば、そのようなものは十分に当業者の予測の範囲内である。
さらに、本件明細書のその他の部分をみても、高リスク患者(3条件充足患者)に対するPTHの骨折抑制効果が、低リスク患者(非3条件
充足患者)に対するPTHの骨折抑制効果よりも投与の継続によって、より増強していくことを理解することはできず、これを本件明細書の記載から推認することもできないから、結局、効果②は、本件明細書の記載に基づかないものというべきである。
以上によれば、いずれにしても効果②を認めることはできないから、
その他の点について判断するまでもなく、効果②を予測することのできない顕著な効果という余地はない。

効果③について
前記ウ

のとおり、骨密度の増大は骨折の予防に寄与するものと理解

されるところ、甲1発明は、48週で骨密度を8.1%有意に増大し、48週を超えても腰椎BMDが継続的に増加することが見込まれるものであり、甲1文献には、試験の結果を示す事実として、200単位投与群では、48週間の投与において椎体骨折が発生しなかったことが示されている(300頁左欄11行ないし右欄6行目)
。そうすると、PTH2
00単位投与の甲1発明において、投与期間が48週を超えても、48週までの投与期間においてのものと同等の骨折抑制の効果がある程度継続すると考えるのが自然である。
効果③の骨折抑制効果とは、本件3条件の全てを満たす患者に本件発明1に係るPTH200単位週1回投与を48週を超えて少なくとも72週まで投与した場合に骨折発生率を0%に低減するというものである
が、前記⑸ア

のとおり、
48週及び72週という数値それ自体

には格別の技術的意義を見いだすことはできず、試験の結果を示す事実として、48週を超えてからの新規椎体骨折の発生はなかったというにすぎず、本件発明の骨粗鬆症治療剤が48週超の投与によって実質的に完全に骨折の発生を抑止する治療剤(完全な特効薬)であるとする趣旨とは認め難く、被告も本件発明の骨粗鬆症治療剤がそのような効果を有するものとは主張していない(実際、本件発明1の実施品であることが当事者間に争いのないテリボンは、投与対象患者が高リスク患者に限定されていない結果ではあるものの、49ないし72週の新規椎体骨折発生率が0.7%、73ないし104週の骨折発生率が2.2%であったこ
と(甲11)
、あるいは、Kaplan-Meier推定法に基づく新規椎体骨折発生率が、24週時1.7%、48週時2.5%、72週時3.3%であったこと(甲30)が認められる。。

そして、前記

のとおり、甲1発明において、骨折抑制の効果が48

週を超過してもある程度継続すると考えるのが自然であるところ、試験の結果を示す事実にすぎないとはいえ、甲1発明でも、48週間の投与において椎体骨折が発生していなかったことに鑑みると、骨折発生率はもともと低いものであると理解できるのであり、本件発明1において、試験の結果を示す事実として、48週を超えて72週までの区間での骨折発生数は0件であり、骨折発生率が0%であったとしても、それ自体が当業者にとって意外なものとまではいえず、予測し得る範囲内のものであるといえる。


まとめ
そのほか被告がるる主張するところも、前記ウないしオの判断を左右するものではなく、効果の程度等につき更に検討を加えるまでもなく、本件発明1が、当業者が予測をすることができなかった顕著な効果を奏するものであると認めることはできない。



本件発明1について小括
以上のとおりであるから、本件基準日を前提にしても、相違点1ないし3に係る本件発明1の構成を想到することは容易と認められ、本件発明1の効果も当業者において予測できない顕著なものとは認められないから、結局、その他の点について判断するまでもなく、相違点1ないし3は当業者が容易
に想到し得たものというべきであり、相違点1ないし3が容易に想到できないと認定した本件審決の判断には誤りがある。そうすると、本件発明1の進歩性を認めた本件審決の判断には誤りがある。


本件発明2について
前記⑺のとおり、本件発明1における相違点1ないし3が容易に想到でき
ないと認定した本件審決の判断には誤りがある。そうすると、本件発明2が本件発明1を限定した発明であることを理由に、本件発明1と同様の理由により直ちに本件発明2の進歩性を認めた本件審決の判断にも誤りがある。3
結論
以上のとおり、取消事由1には理由があるから、その他の点について判断するまでもなく、本件審決を取り消すこととして、主文のとおり判決する。知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官
菅雅之本野吉弘行中村
裁判官

裁判官


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