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保険金請求事件
事件番号令和3(受)1473
事件名保険金請求事件
裁判年月日令和4年7月14日
法廷名最高裁判所第一小法廷
裁判種別判決
結果破棄自判
原審裁判所名大阪高等裁判所
原審事件番号令和2(ネ)2374
原審裁判年月日令和3年6月3日
判示事項被害者の有する自賠法16条1項に基づく請求権の額と労災保険法12条の4第1項により国に移転した上記請求権の額の合計額が自賠責保険金額を超える場合であっても自賠責保険会社が国に対してした損害賠償額の支払は有効な弁済に当たる
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-07-14
情報公開日2022-07-15 04:00:04
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令和3年(受)第1473号
令和4年7月14日


保険金請求事件

第一小法廷判決


原判決を破棄し、第1審判決を取り消す。
被上告人の請求を棄却する。
訴訟の総費用は被上告人の負担とする。
理由
上告代理人井野直幸の上告受理申立て理由(ただし、排除されたものを除く。)について
1
本件は、交通事故によって傷害を受けた被上告人が、加害車両を被保険自動
車とする自動車損害賠償責任保険(以下自賠責保険という。)の保険会社である上告人に対し、自動車損害賠償保障法(以下自賠法という。)16条1項の規定による請求権(以下直接請求権という。)に基づき、保険金額120万円の限度における損害賠償額から上告人の被上告人に対する既払金を控除した残額である103万9212円の支払を求める事案である。上告人は、被上告人が上記事故による傷害に関して労働者災害補償保険法(以下労災保険法という。)に基づく給付(以下労災保険給付という。)を受けたことにより国に移転した直接請求権の行使を受け、国に対して103万9212円の支払(以下本件支払という。)をしていることから、本件支払が有効な弁済に当たるか否かが争われている。
2
原審の適法に確定した事実関係等の概要は、次のとおりである。



被上告人の運転する原動機付自転車は、平成28年1月5日、交差点におい
て右折するために自車線上で停止していたところ、反対車線から中央線を越えて進行してきた車両の運転者の前方不注視等の過失により、同車両と衝突し(以下、こ
の交通事故を本件事故という。)、被上告人は左脛腓骨開放骨折等の傷害(以下本件傷害という。)を受けた。


本件事故当時、上記車両について上告人を保険会社とする自賠責保険の契約
が締結されていた。


政府は、本件事故が第三者の行為によって生じた業務災害であるとして、被
上告人に対し、本件傷害に関し、労災保険給付として療養補償給付及び休業補償給付を行った。これらの価額の合計は864万2146円である。
上記の労災保険給付を受けてもなお塡補されない被上告人の本件傷害による損害の額は、440万1977円である。また、自賠責保険の保険金額(以下自賠責保険金額という。)は、本件傷害による損害につき120万円である。⑷

被上告人は、平成30年6月8日、上告人に対し、上記損害について直接請
求権を行使した。他方、国も、同月14日、上告人に対し、政府が上記労災保険給付を行ったことに伴い労災保険法12条の4第1項により国に移転した直接請求権を行使した。
これらを受けて、上告人は、同年7月20日、被上告人に対して16万0788円を支払い、同月27日、国に対して103万9212円を支払った(本件支払)。
3
原審は、上記事実関係等の下において、要旨次のとおり判断し、被上告人の
請求を認容すべきものとした。
交通事故の被害者は、労災保険給付等を受けてもなお塡補されない損害(以下未塡補損害という。)について直接請求権を行使する場合は、他方で労災保険法12条の4第1項により国に移転した直接請求権が行使され、上記各直接請求権の額の合計額が自賠責保険金額を超えるときであっても、国に優先して自賠責保険の保険会社から自賠責保険金額の限度で損害賠償額の支払を受けることができる(最高裁平成29年(受)第659号、第660号同30年9月27日第一小法廷判決・民集72巻4号432頁参照)。このことからすれば、被害者の有する直接
請求権の額と同項により国に移転した直接請求権の額の合計額が自賠責保険金額を超える場合に、自賠責保険の保険会社が、国に対し、被害者が国に優先して支払を受けるべき損害賠償額につき支払をしたときは、当該支払は有効な弁済に当たらないというべきところ、本件支払は、被上告人が国に優先して支払を受けるべき損害賠償額につきされたものであるから、有効な弁済に当たらない。
4
しかしながら、原審の上記判断は是認することができない。その理由は、次
のとおりである。
直接請求権は、被害者の被保険者(加害者)に対する自賠法3条の規定による損害賠償請求権と同額のものとして成立し、被害者に対する労災保険給付が行われた場合には、労災保険法12条の4第1項により上記労災保険給付の価額の限度で国に移転するものであって、国は上記価額の限度で直接請求権を取得することになる。被害者は、未塡補損害について直接請求権を行使する場合は、他方で同項により国に移転した直接請求権が行使され、上記各直接請求権の額の合計額が自賠責保険金額を超えるときであっても、国に優先して自賠責保険の保険会社から自賠責保険金額の限度で損害賠償額の支払を受けることができるものであるが(前掲最高裁平成30年9月27日第一小法廷判決参照)、このことは、被害者又は国が上記各直接請求権に基づき損害賠償額の支払を受けるにつき、被害者と国との間に相対的な優先劣後関係があることを意味するにとどまり、自賠責保険の保険会社が国の上記直接請求権の行使を受けて国に対してした損害賠償額の支払について、弁済としての効力を否定する根拠となるものではないというべきである(なお、国が、上記支払を受けた場合に、その額のうち被害者が国に優先して支払を受けるべきであった未塡補損害の額に相当する部分につき、被害者に対し、不当利得として返還すべき義務を負うことは別論である。)。
したがって、被害者の有する直接請求権の額と、労災保険法12条の4第1項により国に移転した直接請求権の額の合計額が自賠責保険金額を超える場合であっても、自賠責保険の保険会社が国の上記直接請求権の行使を受けて国に対して自賠責
保険金額の限度でした損害賠償額の支払は、有効な弁済に当たると解するのが相当である。
そして、前記事実関係等によれば、本件支払は有効な弁済に当たる。5
これと異なる原審の判断には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令の違
反がある。論旨はこの趣旨をいうものとして理由があり、原判決は破棄を免れない。そして、以上に説示したところによれば、被上告人の請求は理由がないから、第1審判決を取り消し、同請求を棄却すべきである。
よって、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
(裁判長裁判官

正晶

山口

裁判官

堺厚
裁判官

徹)

深山卓也

裁判官

安浪亮介

裁判官

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