判例検索β > 令和4年(ネ)第10021号
特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟
事件番号令和4(ネ)10021
事件名特許権侵害差止請求控訴事件
裁判年月日令和4年7月7日
法廷名知的財産高等裁判所
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号令和2(ワ)19925
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-07-07
情報公開日2022-07-15 04:00:18
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令和4年7月7日判決言渡
令和4年(ネ)第10021号

特許権侵害差止請求控訴事件

(原審・東京地方裁判所令和2年(ワ)第19925号、第22288号)口頭弁論終結日令和4年5月17日
判控訴決人
ワーナー-ランバート
リミテッド

カンパニー

ライアビリティー

カン

パニー

同訴訟代理人弁護士

村敏明同磯田直也同永島太郎同森下
同訴訟代理人弁理士

泉谷玲
同補佐人弁理士

小野新次郎被飯ニ式会社控訴人プロ梓株子
(以下被控訴人ニプロという。)

被控訴人
全星薬品工業株式会社
(以下
被控訴人全星薬品工業
という。


被控訴人全星薬品株式会社
(以下被控訴人全星薬品という。)

上記3名訴訟代理人弁護士

田同中西同熊谷仁孝
同補佐人弁理士

田中康子岡主春夫淳文12
控訴費用は控訴人の負担とする。

3
本件控訴を棄却する

この判決に対する上告及び上告受理申立てのための付加期間を30日と定める。
事実及び理由

第1控訴の趣旨
1
原判決を取り消す。

2
被控訴人ニプロは、別紙物件目録1記載の医薬品を製造し、販売し、販売の申
出をしてはならない。
3
4
被控訴人ニプロは、別紙物件目録1記載の医薬品を廃棄せよ。
被控訴人全星薬品工業は、別紙物件目録2記載の医薬品を製造し、販売し、販
売の申出をしてはならない。
5
被控訴人全星薬品は、別紙物件目録2記載の医薬品を販売し、販売の申出をし
てはならない。
6
被控訴人全星薬品工業及び被控訴人全星薬品は、別紙物件目録2記載の医薬品
を廃棄せよ。
第2事案の概要(略称は、特に断りのない限り、原判決に従う。

1
事案の要旨

本件は、発明の名称をイソブチルGABAまたはその誘導体を含有する鎮痛剤とする特許第3693258号の特許(以下本件特許といい、本件特許に係る特許権を本件特許権という。請求項の数4)の特許権者である控訴人が、被控訴人らによる別紙物件目録1又は2記載の各医薬品(以下、これらを併せて被告ら医薬品という。
)の製造、販売等が本件特許権の侵害に当たる旨主

張して、特許法100条1項及び2項に基づき、被控訴人らに対し、被告ら医薬品の製造、販売等の差止め及び廃棄を求める事案である。
原審は、①特許法36条6項1号所定のサポート要件違反を無効理由とする無効の抗弁(同法104条の3第1項)が成立する、②被告ら医薬品は、請求項3及び4に係る各発明の構成要件の一部を充足するものとは認められず、また、上
記各発明の構成と均等なものとは認められないから、その技術的範囲に属するものとは認められないとして、控訴人の請求をいずれも棄却した。
控訴人は、原判決を不服として、本件控訴を提起した。
2
前提事実
以下のとおり原判決を訂正するほか、原判決の事実及び理由の第2の2記載のとおりであるから、これを引用する。
(1)原判決3頁12行目の原告はから14行目の

有している。

までを

控訴人は、次のとおりの本件特許権を有している。

と改める。(2)原判決4頁17行目の本件発明1の後に(請求項1)を、5頁6行目
の本件発明2の後に(請求項2)を、同頁15行目の本件訂正発明1の後に(本件訂正後の請求項1)を加え、6頁5行目の

本件訂正発明2は次のとおりである。

を本件訂正発明2(本件訂正後の請求項2)と改め、同頁19行目の本件発明3の後に(請求項3)を、7頁4行目の本件発明4の後に(請求項4)を加える。
(3)原判決7頁末行の「(以下、」から8頁1行目の「という。」までを削り、同)
頁3行目のまたから14行目末尾までを次のとおり改める。

(6)ア被告ら医薬品は、(S)-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸(一般名:プレガバリン)を有効成分とし、効能又は効果を神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛とする疼痛治療剤である。イ被告ら医薬品は、本件発明1及び2の構成要件をすべて充足し、その技術的範囲に属する。また、被告ら医薬品は、本件発明3の構成要件3A及び3Cを、本件発明4の構成要件4A及び4Cをそれぞれ充足する。3
争点
以下のとおり訂正するほか、原判決事実及び理由の第2の3記載のとおりであるから、これを引用する。

(1)

原判決8頁18行目及び20行目の各「という。」を

という場合がある。


と、同頁21行目を(2)(2)訂正の再抗弁の成否(争点2)と改める。
原判決9頁9行目を(5)被告ら医薬品の本件発明3及び4の構成要件充足性(争点5)と改める。第3争点に関する当事者の主張
次のとおり原判決を訂正し、
当審における当事者の補充主張
(争点1-2関係)
を付加するほか、
原判決の
事実及び理由
の第2の4記載のとおりであるから、
これを引用する(用語の意義等は、原判決別紙痛み等の用語についての当事者の主張のとおりである。。)

1
原判決の訂正


原判決10頁5行目の無効理由の後に

(無効理由1))を加え、同頁9

行目の
本件明細書本件特許に係る特許出願を(以下「本件出願
という。

の願書に添付した明細書(以下、図面を含めて本件明細書という。甲2)」
と改める。



原判決16頁16行目の無効理由の後に

(無効理由2))を加え、17

頁12行目を(2)訂正の再抗弁の成否(争点2)と改める。



原判決33頁5行目を(5)被告ら医薬品の本件発明3及び4の構成要件充足性(争点5)と改める。2
当審における当事者の補充主張(争点1-2関係)
(控訴人の主張)

(1)本件出願当時の技術常識
原審で述べたとおり、①慢性疼痛に含まれる神経障害性疼痛又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みは、
炎症、
組織の損傷又は神経損傷の後に、
神経細胞の感作(末梢性感作、NMDA受容体作動性の中枢性感作)により生じ、その原因(端緒の原因)にかかわらず、機序が同一であること、②ホルマ
リン試験の後期相は、痛覚過敏や接触異痛の直接の原因である神経細胞の感作(中枢性感作)を反映したものであること、③本件明細書記載のホルマリン試験、カラゲニン試験及び術後疼痛試験は、いずれも神経細胞の感作を確認する試験として広く用いられていたこと、
④神経細胞の感作を抑制する薬剤により、
痛覚過敏や接触異痛を抑制できることが知られていたことは、本件出願当時、
技術常識であった。
しかし、原判決は、これを否定し、本件出願当時の技術常識の認定を誤った結果、本件発明1及び2には、サポート要件違反の無効理由があるとの誤った判断をした。以下において、①ないし④について補足する。ア
①について
本件出願当時、痛覚過敏や接触異痛は、炎症や組織損傷によるものであっても、神経損傷その他神経の機能障害によるものであっても、心因性の要因によるものであっても、その原因にかかわらず、等しく神経細胞の感作という神経の機能異常によって生じ、機序が同一であることは、ホルマリン試験(甲42、161)
、カラゲニン試験(甲146)
、術後疼痛試験(甲15)

の研究等により、知られていた。
また、本件出願当時、線維筋痛症についても、痛覚過敏や接触異痛は、神
経細胞の感作
(中枢性感作)
によるものと理解されていた
(甲26、
162、
163)


②について
本件出願時までに、ホルマリン試験は、慢性疼痛の試験として誕生し、ホルマリン試験の後期相は、ホルマリン損傷に誘発された組織損傷後の神経細
胞の感作(中枢性感作)を反映したものであると理解されていた(甲46、49、168等)


③について
②のほか、カラゲニン試験は、痛覚過敏の試験として適合されており、神経細胞の感作(中枢性感作)を反映したものであることが知られており、ま
た、術後疼痛試験も、神経細胞の感作(中枢性感作)を反映したものであることが知られていた。
そして、本件出願当時、ホルマリン試験(甲42)
、カラゲニン試験(甲1
46)
、術後疼痛試験(甲52)は、神経細胞の感作(中枢性感作)を確認する試験として広く用いられていた。


④について
本件出願当時、中枢神経に作用する薬剤(例えば、ケタミン、アミトリプチリン、ギャバペンチン)により、神経細胞の感作(中枢性感作)を抑制することで、原因にかかわらず、痛覚過敏や接触異痛を抑制できることが知ら
れていた(甲26、42、136、146、163、166等)

(2)小括
前記⑴の本件出願当時の技術常識を踏まえると、当業者は、本件明細書記載のホルマリン試験、カラゲニン試験及び術後疼痛試験の各試験結果から、本件発明1及び2の化合物が、慢性疼痛に共通する痛覚過敏や接触異痛の痛みに対
して効果を奏することを理解できる。
そうすると、
当業者は、
本件明細書の上記記載及び上記技術常識に基づいて、

本件発明2の化合物が、

神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛み

に対して効果を奏することを認識できるから、
本件発明1及び2は、
サポート要件に適合する。
(被控訴人らの主張)


本件出願当時の技術常識の主張に対し
本件出願当時の技術常識に関する控訴人の主張は、いずれも理由がない。原因にかかわらず、痛覚過敏が神経細胞の感作で生ずることは、本件出願当時、技術常識であったとはいえない。本件出願当時の技術常識は、痛みには、種々の種類のものがあり、その原因や病態生理(機序)もさまざまであり、痛みの種類や原因によって治療法が異なり、鎮痛剤であればあらゆる種類の痛みに有
効であるというわけではないこと、各種の痛みは基礎となる病態生理(機序)や治療法に応じて、侵害受容性疼痛、神経障害性疼痛及び心因性疼痛の3つに大別されることを内容とするものである。
また、ホルマリン試験、カラゲニン試験及び術後疼痛試験は、侵害受容性疼痛の試験であって、神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛の効果を確認す
る試験ではない。
(2)小括
以上によれば、
本件発明1及び2には、
サポート要件違反の無効理由があり、
この無効理由は、控訴人主張の本件訂正により解消されるものではない。したがって、請求項1及び2に係る本件特許は、特許無効審判により無効に
されるべきものであるから、控訴人は、特許法104条の3第1項の規定により、被控訴人らに対し、請求項1及び2に係る本件特許権を行使することはできない。
第4
1
当裁判所の判断
本件明細書の記載事項
本件明細書(甲2)の発明の詳細な説明には、次のような記載がある(下
記記載中に引用する図面については、別紙図面目録を参照)



発明の背景本発明は、痛みの治療において鎮痛/抗痛覚過敏作用を発揮する化合物としてのグルタミン酸およびγ-アミノ酪酸(GABA)の類縁体の使用である。これらの化合物の使用の利点には、反復使用により耐性を生じないことまたはモルヒネとこれらの化合物の間に交叉耐性がないことの発見が包含される。本発明の化合物は、てんかん、ハンチントン舞踏病、大脳虚血、パーキンソン病、遅発性ジスキネジアおよび痙性のような中枢神経系疾患に対する抗発作療法に有用な既知の薬物である。また、これらの化合物は抗うつ剤、抗不安剤および抗精神病剤としても使用できることが示唆されている。WO92/09560(米国特許出願第618,692号、1990年11月27日出願)およびWO93/23383(米国特許出願第886,080号、1992年5月20日出願)参照。(2頁3行~12行)⑵

発明の概要本発明は、以下の式Ⅰの化合物の、痛みの処置とくに慢性の疼痛性障害の処置における使用方法である。このような障害にはそれらに限定されるものではないが炎症性疼痛、術後疼痛、転移癌に伴う骨関節炎の痛み、三叉神経痛、急性疱疹性および治療後神経痛、糖尿病性神経障害、カウザルギー、上腕神経叢捻除、後頭部神経痛、反射交感神経ジストロフィー、線維筋痛症、痛風、幻想肢痛、火傷痛ならびに他の形態の神経痛、神経障害および特発性疼痛症候群が包含される。化合物は式Ⅰ(式中、R1は炭素原子1~6個の直鎖状または分枝状アルキル、フェニルまたは炭素原子3~6個のシクロアルキルであり、R2は水素またはメチルであり、R3は水素、メチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩である。式Ⅰの化合物のジアステレオマーおよびエナンチオマーも本発明に包含される。本発明の好ましい化合物は式Ⅰにおいて、R3およびR2は水素であり、R1は-(CH2)0-2-iC4H9の化合物の(R),(S),または(R,S)異性体である。本発明のさらに好ましい化合物は(S)-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸および3-アミノメチル-5-メチルヘキサン酸である。(2頁12行~33行)

【図面の簡単な説明】図1.ギャバペンチン[1-(アミノメチル)-シクロヘキサン酢酸]、CI-1008[(S)-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸]、および3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸のラット足蹠ホルマリン試験における効果。試験化合物は50μlのホルマリンの足蹠内注射の1時間前に皮下投与した。初期および後期相に注射された足蹠のリッキング(舐める行動)/バイティング(咬む行動)に費やされる時間を記録した。結果は各群6~8匹の平均±SEMとし*て示す。P<0.05および**P<0.01はビヒクル(Veh.)処置対照から有意に異なることを示す(ANOVA,Dunnett'st-検定による)。図2.ギャンバペンチンおよびCI-1008のカラゲニン誘発機械的痛覚過敏に対する効果。侵害受容圧閾値を、足蹠加圧試験を用いてラットで測定した。足蹠内注射により動物に100μlの2%カラゲニンを投与する前に、ベースライン(BL)の測定を行った。結果は各群について8匹の動物の平均(±SEM)として示す。ギャバペンチン(GP)、CI-1008またはモルヒネ(MOR;3mg/kg)をカラゲニン後3.5時間に*皮下投与した。P<0.05および**P<0.01は同時点でのビヒクル対照群と有意に異なる(ANOVA,Dunnett'st-検定による)。図3.ギャバペンチンおよびCI-1008のカラゲニン誘発熱痛覚過敏に対する効果。侵害受容熱閾値をHargreavesの装置を用いてラットで測定した。足蹠内注射により動物に100μlの2%カラゲニンを投与する前にベースライン(BL)の測定を行った。結果は各群8匹の動物の平均(±SEM)として示す。ギャバペンチン(GP)またはCI-1008はカラゲニン投与後2.5時間に皮下に投与した。*P<0.05および**P<0.01は同時点でのビヒクル対照群から有意に異なる(ANOVA,Dunnett'st-検定による)。図4.ラット術後疼痛モデルにおける熱痛覚過敏に対する(a)モルヒネ、(b)ギャバペンチン、および(c)S-(+)-3-イソブチルギャバの効果。ギャバペンチンまたはS-(+)-3-イソブチルギャバは術前1時間に投与した。モルヒネは術前0.5時間に投与した。ラット足蹠試験を用いて同側および対側足蹠の両者について熱足蹠回避潜時(PWL)を測定した。明瞭にするため薬物処置動物の対側足蹠のデータは示していない。術前にベースライン(BL)の測定を行い、術後2、24、48および72時間にPWLを再評価した。結果は各群につき8~10匹の動物の平均PWL(秒、縦線は±SEMを示す)として表す。*P<0.**05、P<0.01は各時点で薬物処置群の同側足蹠をビヒクル処置群の同側足蹠と比較して有意に異なる(ANOVA.Dunnett'st-検定による)。図中、図4aでは、-●-はビヒクル対側、-〇-はビヒクル同側、-△-、-□-および-◇-はそれぞれモルヒネ1、3および6mg/kgである。図4bでは、-△-は3、-□-は10および-◇-は30mg/kgのギャバペンチンである。図4cでは-△-は3、-□-は10および-◇-は30mg/kgのS-(+)-3-イソブチルギャバである。図5.ラット術後疼痛モデルにおける接触異痛に対する(a)モルヒネ、(b)ギャバペンチン、および(c)S-(+)-3-イソブチルギャバの効果。ギャバペンチンまたはS-(+)-3-イソブチルギャバは術前1時間に投与した。モルヒネは術前0.5時間に投与した。フライ毛フィラメントに対する足蹠回避閾値を同側および対側足蹠の両者について測定した。明瞭にするため、薬物処置動物の対側足蹠のデータは示していない。術前にベースライン(BL)の測定を行い、術後3、25、49および73時間に回避閾値を再評価した。結果は、各群について8~10匹の動物の足蹠回避を誘発するのに要した中間力(g)として表す(縦線は第1および第3四分位を示す)。*P<0.05は各時点において薬物処置群の同側足蹠をビヒクル処置群の同側足蹠と比べた有意差である(MannWhitneyt-検定)。図5中、-●-はビヒクル対側、-○-はビヒクル同側である。モルヒネ(図5a)については-△-は1、-□-は3および-◇-は16mg/kgである。図5b中、ギャバペンチンおよびS-(+)-3-イソブチルギャバについては、-△-は3、-□-は10および-◇-は30mg/kgである。図6.ラット術後疼痛モデルにおける(a)熱痛覚過敏および(b)接触異痛の維持に対するS-(+)-3-イソブチルギャバの効果。S-(+)-3-イソブチルギャバ[S-(+)-IBG]は術後1時間に投与した。熱足蹠回避潜時はラット足蹠試験を用いて測定し、フライ毛フィラメントに対する足蹠回避閾値は同側および対側足蹠の両者について別個の群で測定した。明瞭にするために、同側足蹠のデータのみを示す。術前にベースライン(BL)の測定を行い、術後6時間まで回避閾値を再評価した。熱痛覚過敏については、結果は各群について6匹の動物の平均PWL(秒)として表す(縦線は±SEMを示す)。*P<0.05、**P<0.01は各時点で薬物処置群の同側足蹠をビヒクル(Veh-〇-)処置群の同側足蹠と比較した有意差を示す(対のないt-検定)。接触異痛については、結果は各群について6匹の動物の足蹠回避を誘発するのに要した中間力(g)として表す(縦線は、第1および第3四分位を示す)。*P<0.05は各時点において薬物処置群の同側足蹠をビヒクル処置群の同側足蹠と比較した場合の有意差である(MannWhitneyt-検定)。-●-はS-(+)-IBG30mg/kg。(2頁34行~3頁43行)


発明の詳述本発明は、上記式Ⅰの化合物の上に掲げた痛みの処置における鎮痛剤としての使用方法である。痛みにはとくに炎症性疼痛、神経障害の痛み、癌の痛み、術後疼痛、および原因不明の痛みである特発性疼痛たとえば幻想肢痛が包含される。神経障害性の痛みは末梢知覚神経の傷害または感染によって起こる。これには以下に限定されるものではないが、末梢神経の外傷、ヘルペスウイルス感染、糖尿病、カウザルギー、神経叢捻除、神経腫、四肢切断、および血管炎からの痛みが包含される。神経障害性の痛みはまた、慢性アルコール症、ヒト免疫不全ウイルス感染、甲状腺機能低下症、尿毒症またはビタミン欠乏からの神経障害によっても起こる。神経障害性の痛みには、神経傷害によって起こる痛みに限らず、たとえば糖尿病による痛みも包含される。上に掲げた状態が、現在市場にある鎮痛剤たとえば麻薬性鎮痛剤または非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)では、不十分な効果または副作用からの限界により不完全な処置しか行われていないことは周知である。式Iにおいて用いられる語、たとえばアルキルはメチル、エチル、プロピル、イソプロピル、n-ブチル、イソブチル、sec-ブチル、tert-ブチル、イソペンチルおよびネオペンチル、ならびに当業者に想起されるアルキルを意味する。「シクロアルキルなる語はたとえば、シクロプロピル、シクロブチル、シクロペンチルおよびシクロヘキシルである。

本発明の化合物は、有機および無機酸の両者または塩基と医薬的に許容される塩を形成することができる。たとえば、塩基性化合物の酸付加塩は、遊離塩基を適当な酸を含有する水溶液もしくは含水アルコール溶液または他の適当な溶媒に溶解し、その溶液を蒸発させて塩を単離することによって調製される。医薬的に許容される塩の例には、塩酸塩、臭化水素酸塩、ヒドロ硫酸塩等、なら
びにナトリウム、カリウムおよびマグネシウム等の塩がある。
本発明の化合物は1個または2個以上の不斉炭素原子を含む場合がある。本発
明には個々のジアステレオマーまたはエナンチオマー、およびそれらの混合物が包含される。個々のジアステレオマーまたはエナンチオマーは本技術分野において既によく知られた方法で調製または単離することができる。(3頁44」
行~4頁21行)


これらの合成方法によって製造された化合物は、痛みの処置用薬剤として医薬組成物中に使用することが可能であり、この場合、式Iの化合物の有効量が医薬的に許容される担体とともに使用される。医薬組成物は上述のような障害に冒されているヒトを含めた哺乳動物に上述の化合物の有効量を単位剤形として投与することによる上述の障害の処置方法に使用することができる。本発明によって製造される医薬化合物は、広範の様々な剤形に調製し、経口的または非経口的経路のいずれかによって投与することができる。たとえば、これらの医薬組成物は固体または液体の不活性な医薬的に許容される担体中に製造することができる。固体の形態の製剤には、粉末剤、錠剤、分散性顆粒剤、カプセル剤、カシェ剤および坐剤が包含される。他の固体および液体の形態の製剤も、本技術分野において既知の方法に従って製造され、適当な製剤として経口的経路で、または液体製剤として非経口的経路、たとえば静脈内、筋肉内、または皮下注射により投与することができる。単位用量製剤中の活性化合物の量は、平均体重70kgの患者に基づいて1日1mg~約300mg/kgで変動または調整することができる。1日用量の範囲は約1mg~約50mg/kgとすることが好ましい。しかしながら、投与量は、患者の要求、処置される状態の重症度、および使用される化合物に依存する。特定の状況における適正な投与量の決定は当業者の技術の範囲内にある。(5頁30行~5頁46行)
⑹ラットホルマリン足蹠試験におけるギャバペンチン、CI-1008、および3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸の効果雄性Sprague-Dawleyラット(70~90g)を試験前に少なくとも15分間パースペックスの観察チャンバー(24cm×24cm×24cm)に馴化させた。ホルマリン誘発後肢リッキングおよびバイティングを5%ホルマリン溶液(等張性食塩溶液中5%ホルムアルデヒド)50μlの左後肢の足蹠表面への皮下注射によって開始させた。ホルマリンの注射直後から、注射した後肢のリッキング/バイティングを60分間5分毎に評価した。結果はリッキング/バイティングを合わせた平均時間として初期相(0~10分)および後期相(10~45分)について示す。ギャバペンチン(10~300mg/kg)またはCI-1008(1~100mg/kg)のホルマリン投与1時間前の皮下投与は、ホルマリン応答の後期相におけるリッキング/バイティング行動を、それぞれ最小有効用量(MED)30および10mg/kgで用量依存性にブロックした(図1)。しかしながら、いずれの化合物も試験した用量では初期相には影響しなかった。3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸の同様の投与は100mg/kgで後期相の中等度のブロックを生じたのみであった。(5頁47行~6頁10行)

ギャバペンチンおよびCI-1008のカラゲニン誘発痛覚過敏に対する効果試験日にラット(雄性Sprague-Dawley70~90g)に2~3のベースライン測定を行ったのち、2%カラゲニン100μlを右後肢の足蹠表面に皮下注射した。痛覚過敏のピークの発症後、動物に試験薬物を投与した。機械的および熱的痛覚過敏に対する試験には別個の動物群を使用した。A.機械的痛覚過敏侵害受容圧閾値を、ラット足蹠加圧試験により鎮痛計(UgoBasile)を用いて測定した。足蹠への傷害を防止するため、250gのカットオフ点を使用した。カラゲニンの足蹠内注射は注射後3~5時間の間侵害受容圧閾値を低下させ、痛覚過敏の誘発を示した。モルヒネ(3mg/kg、皮下)は痛覚過敏の完全なブロックを生じた(図2)。ギャバペンチン(3~300mg/kg、皮下)およびCI-1008(1~100mg/kg、皮下)は用量依存性に痛覚過敏に拮抗し、MEDはそれぞれ10および3mg/kgであった(図2)。B.熱痛覚過敏ベースライン足蹠回避潜時(PWL)を各ラットについてHargreavesモデルを用いて測定した。上述のようにカラゲニンを注射した。カラゲニン投与2時間後に、動物を熱痛覚過敏について試験した。ギャバペンチン(10~100mg/kg)またはCI-1008(1~30mg/kg)は、カラゲニン投与後2.5時間に皮下に投与し、PWLをカラゲニン投与3および4時間後に再評価した。カラゲニンは注射後2、3および4時間に足蹠回避潜時の有意な低下を誘発し、熱痛覚過敏の誘発を示した(図3)。ギャバペンチンおよびCI-1008は用量依存性に痛覚過敏に拮抗し、MEDは30および3mg/kgを示した(図3)。これらのデータはギャバペンチンおよびCI-1008が炎症性疼痛の処置に有効であることを示す。(6頁11行~32行)⑻BennettG.J.のアッセイはヒトに認められるのと類似の疼痛感覚の障害を生じるラットにおける末梢性単発神経障害の動物モデルを提供する(Pain,1988;33:87-107)。KimS.H.らのアッセイは、ラットにおける分節脊椎神経の結紮によって生じる末梢神経障害の一つの実験モデルを提供する(Pain,1990;50:355-363)。(6頁33行~36行)
⑼術後疼痛のラットモデルも報告されている(Brennanら、1996)。それには、後肢足蹠面の皮膚、筋膜および筋肉の切開が包含される。これは数日間続く再現可能かつ定量可能な機械的痛覚過敏の誘発を招く。このモデルはヒトの術後疼痛状態にある種の類似性を示す。本研究においては、本発明者らは術後疼痛のこのモデルでギャバペンチンおよびS-(+)-3-イソブチルギャバの活性を調べ、モルヒネの場合と比較した。方法BantinandKingmen(Hull,U.K.)から入手した雄性Sprague-Dawleyラット(250~300g)をすべての実験に使用した。手術の前に動物は6匹の群として飼育ケージに入れ、12時間明暗サイクル(07時00分に点灯)下に置いて飼料および水は自由に与えた。動物は手術後、同じ条件下に、空気を含んだセルロースから構成される”Aqua-sorb”床(BetaMedicalandScientific,Sale,U.K.)上に対で収容した。すべての実験は薬物処置に盲検とした観察者により行われた。手術動物は2%イソフルオランおよび1.4O2/NO2混合物で麻酔し、鼻円錐により手術中を通じて麻酔下に維持した。右後肢足蹠表面を50%エタノールで準備して踵の端から0.5cmに開始し足指の方向に皮膚および筋膜を通して1-cm縦に切開した。足蹠の筋肉は鉗子によって持ち上げ縦に切開した。傷口を編んだ絹の縫合糸によりFST-02の針を用いて2個所で閉じた。傷口の部位はテラマイシンスプレーおよびオーロマイシン末で被覆した。手術後、すべての動物において感染の徴候は認められず、創傷は24時間後には良好に治癒した。縫合糸は48時間後に抜糸した。熱痛覚過敏の評価熱痛覚過敏はラット足蹠試験(UgoBasile,Italy)を用い、Hargreavesらの方法(1988)の改良法に従い評価した。ラットは上方に傾斜したガラステーブル上3個の個々のパースペックスの箱からなる装置に順化させた。テーブルの下に可動性放射熱源を置き、後肢足蹠に焦点を合わせ足蹠回避潜時(PWL)を記録した。組織の傷害を回避するため、自動カットオフ点を22.5秒に設定した。各動物の両後肢について2~3回PWLを測定し、その平均を左右後肢のベースラインとした。装置は約10秒のPWLが得られるように検量した。PWL(秒)は上述のプロトコールに従い術後2、24、48および72時間に再評価した。接触異痛の評価接触異痛はシーメンス・ワインシュタイン・フォン・フライの毛(StoeltingIllinois,USA)を用いて測定した。動物は、針金の網の底のケージに収容して、足蹠に接触できるようにした。動物は実験の開始前に、この環境に順化させた。接触異痛試験は動物の後肢の足蹠表面に、順次力を増大させて(0.7,1.2,1.5,2,3.6,5.5,8.5,11.8,15.1,および29g)フライの毛で触れ、後肢の回避が誘発されるまで試験した。フライの毛はそれぞれ6秒間または反応が起こるまで後肢に適用した。回避反応が確立されたならば、後肢を次に下降するフライの毛で試験を始めて反応が起こらなくなるまで再試験した。したがって、後肢を上げて反応が誘発される最高の力29gがカットオフ点となった。各動物を、この様式で両後肢について試験した。反応が誘発されるのに必要な最低の力量を回避閾値としてグラムで記録した。化合物を手術前に投与する場合には、接触痛覚過敏、接触異痛および熱痛覚過敏に対する薬物効果の試験に同一の動物を使用し、各動物について熱痛覚過敏試験の1時間後に接触異痛の試験を行った。術後にS-(+)-3-イソブチルギャバを投与する場合には、接触異痛および熱痛覚過敏の検査に別個の群の動物を使用した。統計熱痛覚過敏試験で得られたデータは一元(分散分析)ANOVAに付し、ついでDunnett’st-検定を実施した。フライの毛で得られた接触異痛の結果は個別のMannWhitneyt-検定に付した。結果ラット足蹠筋肉の切開は熱痛覚過敏および接触異痛を生じた。いずれの侵害受容反応も手術後1時間以内にピークに達し、3日間維持された。実験期間中、動物はすべて良好な健康状態を維持した。手術前に投与したギャバペンチン、S-(+)-3-イソブチルギャバおよびモルヒネの熱痛覚過敏に対する効果手術1時間前におけるギャバペンチンの単回用量投与(3~30mg/kg,皮下)は、用量依存性に熱痛覚過敏の発生を遮断し、MEDは30mg/kgであった(図4b)。最大用量のギャバペンチン30mg/kgは痛覚過敏の反応を24時間防止した(図4b)。S-(+)-3-イソブチルギャバを同様に投与した場合も用量依存性(3~30mg/kg,皮下)に熱痛覚過敏の発生が遮断され、MEDは30mg/kgであった(図4c)。30mg/kg用量のS-(+)-3-イソブチルギャバは3日まで有効であった(図4c)。手術0.5時間前のモルヒネの投与は、用量依存性(1~6mg/kg,皮下)は熱痛覚過敏の発生に拮抗し、MEDは1mg/kgであった(図4a)。この作用は24時間維持された(図4a)。手術前に投与したギャバペンチン、S-(+)-3-イソブチルギャバおよびモルヒネの接触異痛に対する効果接触異痛の発生に対する薬物の効果は上述の熱痛覚過敏に用いたのと同じ動物で測定した。熱痛覚過敏試験と接触異痛試験の間には1時間の間隔を置いた。ギャバペンチンは、用量依存性に接触異痛の発生を防止し、MEDは10mg/kgであった。ギャバペンチン10および30mg/kgの用量はそれぞれ25および49時間有効であった(図5b)。S-(+)-3-イソブチルギャバも同様に用量依存性(3~30mg/kg)に接触異痛の発生を遮断し、MEDは10mg/kgであった(図5c)。この侵害受容応答の遮断は30mg/kg用量のS-(+)-3-イソブチルギャバにより3日間維持された(図5c)。これに反して、モルヒネ(1~6mg/kg)は、6mg/kgの最大用量で術後3時間、接触異痛の発生を防止したのみであった(図5a)。手術1時間後に投与したS-(+)-3-イソブチルギャバの接触異痛および熱痛覚過敏に対する効果接触異痛および熱痛覚過敏はすべての動物で1時間以内にピークに達し、以後5~6時間維持された。30mg/kgのS-(+)-3-イソブチルギャバの手術1時間後における皮下投与は接触異痛および熱痛覚過敏の維持を3~4時間ブロックした。この時間後に、侵害受容の両応答はいずれも対照レベルに復し、これは抗熱痛覚過敏および抗接触異痛作用の消失を示す(図6)。ギャバペンチンおよびS-(+)-3-イソブチルギャバは、すべての実験で試験された最大用量まで、対側後肢の熱痛覚過敏試験または接触異痛評点におけるPWLに影響しなかった。これに反して、モルヒネ(6mg/kg,皮下)は熱痛覚過敏試験おける対側後肢のPWLを増大させた(データは示していない)。ここに掲げた結果はラット足蹠筋肉の切開は少なくとも3時間続く熱痛覚過敏および接触異痛を誘発することを示している。本試験の主要な所見は、ギャバペンチンおよびS-(+)-3-イソブチルギャバがいずれの侵害受容反応の遮断に対しても等しく有効なことである。これに反し、モルヒネは接触異痛よりも熱痛覚過敏に有効であることが見出された。さらに、S-(+)-3-イソブチルギャバは接触異痛および熱痛覚過敏の誘発および維持を完全に遮断した。(6頁37行~8頁23行)2
本件特許1、2関係
本件特許1、2について、サポート要件違反(争点1-2)を無効理由とする無効の抗弁が成立するかどうか判断する。

被控訴人らは、本件発明1及び2の特許請求の範囲(請求項1及び2)記載の痛みの処置における鎮痛剤にいう痛みには、本件明細書の発明の概要に記載された各痛み(前記1(2))が含まれるが、当業者において、本件出願当時の技術常識を踏まえても、本件明細書の記載から、本件発明1及び2の化合物が炎症性疼痛及び術後疼痛以外の本件明細書記載の各痛みに対する鎮痛効果を有す
ることを認識ですることができないから、少なくとも、上記各痛みの処置をすることができる鎮痛剤を提供するという本件発明1及び2の課題を解決できるものと認識することはできないとして、本件発明1及び2は、サポート要件に適合しない旨主張するので、以下において判断する。
(1)


本件出願当時の技術常識について
痛み及びその機序に関する文献の記載事項
(ア)

内野治人編著、
病態生理よりみた内科学改訂3版
、金芳堂(平成

8年)
(甲79、乙28の4)
ほとんどの痛みは、病的ではない。組織損傷またはその可能性がある場合に経験される急性疼痛は、個体の生存、日常生活を円滑に行うために必要な警告信号であり、生理的な痛みともいえる。この種の痛みは、神経経路が急性侵害刺激に対して正常に機能していることを示すものである。(651頁)
このような病的な痛みは、しばしば慢性疼痛となる。これらの慢性疼痛は極めて多彩な特徴を持ち、その基礎となる病態生理に著しい差異があることを示す。これらを大別すると、侵害受容性(nociceptive)、神経障害性(neuropathic)、心因性(psycogenic)の3つの異なった疼痛機序が考えられる(図6-27)。侵害受容性疼痛は、侵害受容神経路に進行しつつある侵害刺激による痛みであり、その程度はその神経経路における活動の程度に比例すると考えられる。これには体性と内臓性の痛みがあり、これまで経験した痛みの質(通常は患者がよく知っている痛みで、体性であればチクチクする、脈打つような、あるいは差し込むような痛みであり、内臓性なら鈍いあるいは絞るような痛み)によって、あるいはこれらの疼痛が生じる状況によって識別される。一般的な例として、癌の痛みや関節炎の痛みなどがある。鎮痛薬としてのモルヒネは有効である。(652頁)
神経障害性(神経因性)疼痛は、3つの亜型に分けられる。中枢性ニューロンの活動に一次的に関連するもの、交感神経系の遠心性機能に依存するもの(いわゆる交感神経依存性疼痛sympathetic-maintainedpain)、および末梢性機能に関連したものである。これらの痛みはすべて、神経損傷により急激に現れ、臨床的には、異常感覚(dysesthesia)、感覚異常(paresthesia)、あるいは神経学的障害または局在性自立神経障害のような特徴を合併する。(652頁)
第3の機序による疼痛は心因性のもので、特発性疼痛ともよばれる。この痛みは、器質性病変を伴うものと伴わないものとがある。この種の痛みを特徴付けるのは困難で、診断には器質的要因と心理的要因とがどの程度疼痛経験に寄与しているかを識別する必要があり、問題はしばしば複雑となる。(653頁)(イ)

坪川孝志ら編、
最新脳神経外科学
、朝倉書店(平成8年)
(甲80、

乙28の5)
生理的な感覚としての痛みは、生体にとって有害刺激(noxiousstimuli)により痛覚求心系が興奮し、痛みとして認知される原始的で、かつ生体にとって警告的な感覚である。感覚としての痛みと比較して、病的な痛みは現象的にみて、不快、不安、苦悩、恐怖などの情動変動が激しい点で異なっている。しかし、病的な痛みのうちには、感覚としての痛みの認知と同様の機序によって発生するものがある。痛覚レセプターへの病的刺激量の増大による侵害受容性疼痛(noxiouspain)と痛覚求心神経を病変によって刺激する神経性疼痛(neurogenicpain)とがある。これらを一括して病変による刺激過剰による病的痛みで、過剰刺激性疼痛(excesspain)と言われるものである。そのほかに、病的痛みとして重要なものは、末梢神経から大脳知覚領野までの生理的痛覚認知経路を遮断した後で発生するもので、痛覚障害を認める部位に対応して激しい痛みが発生することがある。除神経性疼痛(deafferentationpain)といわれ、脳神経外科領域で対処すべき痛みのなかで最も一般的なものである。(197頁)a.痛覚求心路とその機能生理的痛覚の適刺激は針で刺したり、焦点的に高熱を加えたり、化学物質を接触させたりする侵害的な刺激である。痛み刺激のレセプターは自由終末である。しかしいかなる感覚でも、その刺激が激しいもので、生体に有害な場合は、これを痛みとして認知している。自由終末のレセプターが興奮すると、それにつながる末梢神経のAδ線維、C線維が興奮されて、インパルスを脊髄後角へ伝達する。(197頁)脊髄後角内では侵害受容ニューロン(nociceptiveneuron)が第1層、第2層に分布し、広作動域ニューロン(widedynamicrangeneuron)はこれらの層に加えて、第4層・5層を中心に分布する。第2層は主として介在ニューロンであるが、そのほかの層では、脊髄視床路となるニューロンにシナプス結合している(図5.41)。脊髄視床路は脊髄中心管の前方を横断し、対側へ交叉し、脊髄前側索を上行して視床の皮膚感覚中継核とされる視床後腹側核(nucleusventralisposterolateralis,VPL;nucleusventralisposteromedialis,VPM)に終わる。(197頁~198頁)この痛覚求心系を新脊髄視床路(neospinothalamictract)という。この系以外に脊髄内を上行するものに脊髄中心灰白質を多シナプス性に上行して、脳幹網様体にいたり、延髄視床路や中脳視床路となって、視床髄板内核群へ上行する経路がある。これを旧脊髄視床路(paleospinothalamictract)という(図5.42)。(198頁)

視床中継核の有害刺激反応性ニューロンは大脳皮質感覚領の1次体性感覚領に投射している。(198頁~199頁)

知覚としての痛覚は、侵害刺激により、レセプターを興奮させ、Aδ・C線維を介して、脊髄後角第1・2層、4・5層内に入り、主として新脊髄視床路を介して、視床後腹側核を経て大脳皮質知覚領にいたり、どの部位に、その程度の痛みを感じたかを認知する。その際、侵害刺激の刺激量の多寡によって、旧脊髄視床路系が活動されるかが決定され、激しい刺激の場合は、この系の活動増加とともに、視床下部、辺縁系の入力が増加して、不快感、苦悶感などを誘発することになる。痛みによる求心性衝撃を末梢神経より脊髄視床路ニューロンへ伝達する際に、その入力を制御する痛覚の抑制系が存在している。つまり、痛みの衝撃が末梢神経より後角内の第1・2、4・5層において脊髄視床路へのシナプスの部位で侵害性入力を抑制する機構が存在する。(199頁)

いずれの抑制系も後角内で、第1ニューロンから第2ニューロンとしての新・旧の脊髄視床路とのシナプス部位で抑制する作用がある(図5.44、図5.42)

。(199頁)
b.病的痛みの発症機序病的な痛みを発症機序よりみると、炎症や組織損傷による痛覚レセプターを異常に刺激することにより、痛覚求心系を激しく興奮させる侵害受容性疼痛(nociceptivepain)、神経痛などに認められる痛覚求心系、とくに末梢神経での圧迫や絞扼によって発生する神経性疼痛(neurogenicpain)がある。さらにそのほかに痛覚求心系が末梢神経で遮断された後に発生する末梢神経除神経性疼痛(peripheraldeafferentationpain)と痛覚求心系が中枢神経内で遮断される中枢神経除神経性疼痛(centraldeafferentationpain)に分類される。⑴侵害受容性疼痛組織損傷による機械的な侵害レセプターへの過剰刺激や炎症による内因性発痛物質や発痛増強物質がレセプターを刺激することにより発生する痛みが侵害受容性疼痛である。この侵害レセプターの過剰な興奮が、痛覚求心系を興奮させて、情動反応を伴う痛みとなる。したがって、刺激となる組織障害に対処し、抗炎症療法を施行し、それらが効果をみる前には、モルフィンなどの鎮痛薬で対処することが可能である。⑵神経性疼痛神経性疼痛は、末梢神経に対する圧迫や絞扼によって発生するもので、脱髄や虚血のために異常知覚が発生したり、細系線維と太系線維との間でエファプス伝達(ephatictransmission)が発生したり、細経線維に過剰興奮を惹起させたりして、脊髄後角へ有害刺激の信号を大量に送り込み、脊髄視床路を介して、激しい痛みとして認識されるわけである。その代表的な疾患は特発性三叉神経痛(ticdouloureux)、椎間板ヘルニアによる疼痛などがあげられる。三叉神経や脊髄後根が中枢神経系へ入る部分では、髄鞘がミエリン鞘から、グリア細胞性の鞘に移行する部分にあたり、この部分での絞扼や圧迫は簡単に脱髄に陥り、線維間の短絡伝達(ephaticconduction)を誘発し、触刺激などの非侵害性刺激によっても、Aδ・C線維が興奮し、中枢神経内での生理的痛覚系を異常興奮させて、激しい痛みとして感じられることになる。⑶除神経性疼痛末梢神経から大脳皮質知覚野までの新脊髄視床路-視床皮質路が病変や障害によって遮断されると、その遮断された神経経路に一致する末梢部での痛覚障害が発生する。遮断発生後一定の期間を経ると、その痛覚障害部を中心に激しい痛みが発生する。それを除神経性疼痛といい、その遮断部が末梢神経にあるとき、末梢性除神経性疼痛といい、中枢神経内で遮断されている場合、中枢性除神経性疼痛という。重要なことは、痛覚求心系が遮断されて痛覚障害が発生したすべての例に除神経性疼痛が発生するわけではなく、脊髄損傷の場合の除神経性疼痛の発生率は20%、前側索切截術後の発生率は5%、腕神経叢の神経節より近位の引き抜き損傷では92%、遠位の損傷では20~67%、視床梗塞では視床後腹側核が傷害された症例に限って出現し、その出現率は14%である。除神経性疼痛では生理的痛覚求心路が遮断されたのち、数か月、年余の経過を経て、痛覚障害が発生している部位を中心に激しい自発痛を訴え、非侵害性刺激である軽い触刺激を加えるとその自発痛が誘発され、激化するもので、モルフィン系薬物にはまったく反応しない特徴がある。この疼痛の発生機序に関して、視床痛を中心に、①障害された視床後腹外・内側核の細胞、線維の2次的な病変に求める説、②主痛覚路が障害されることで、側副性の痛覚路が興奮するとする説、③大脳皮質からの抑制系が障害されるとする説に大別されるが(表5.26)、今日なお実証されていない点が多い。(199頁~200頁)a)末梢性除神経性疼痛末梢神経傷害後の変性・再生の過程で、外傷性神経腫(traumaticneuroma)が発生したり、また、末梢神経の変性が脊髄後角内に発生し、ついで再生過程がはじまり、脊髄後角内の第1層、第4・5層での後角ニューロンが激しい過興奮に陥り、この第5層の過興奮は除神経性疼痛の発生源となっている。「この過興奮が痛覚抑制系の入力を凌駕し、加えて脊髄視床路を過剰に活動させ、
大脳知覚領に投射されて頑痛として認知されることになる。

(201頁)
b)中枢性除神経性疼痛脊髄損傷で脊髄視床路が障害されたり、脊髄前側索切截術後に脊髄の病変による中枢性除神経性疼痛が発生することがあり、頭蓋内の病変では視床後腹側核の梗塞や小出血などで視床痛と言われている除神経性疼痛が発生する。その障害部位はCTやMRIで検討すると、新脊髄視床路系と後索内側絨帯が、解剖学的・生理学的な立場からみて、近接していたり、混在している部位に、病巣が認められるのが特徴である。末梢性除神経性疼痛の場合のように、障害部位を含め、脊髄視床路-視床皮質路で障害部位より上位のシナプスで、激しい過興奮状態にあるニューロンを認める。(201頁)
最近、過興奮の認められる痛覚求心路では、興奮性アミノ酸を伝達物質とするNMDAレセプターが著しく増加し(図5.46)、その拮抗薬であるMK-801の投与で、過興奮を60%以上、容量依存性に抑制できることが判明した。しかも障害部位は後索-内側絨帯などからの入力が存在している部位に限られているので、新しいシナプスの形成や神経伝達物質の変化などは、後索-内側絨帯系に関連して正常の再生様式が歪められているに違いない。これらの事実より、痛覚求心路が障害されるとその障害部で、変性、グリアの増生、ついで障害神経細胞よりの発芽、シナプスの形成、NMDAレセプターを有する新しいシナプスの増加など、maladaptiveneuroplastisityが発現し、そのために、障害部位での過放電とそれより上位の痛覚求心系を異常興奮させて除神経性疼痛を発生せしめるものと考えられる。(202頁)
(ウ)

後藤稠ら編、
最新医学大辞典第2版
、医歯薬出版(平成9年)
(甲

78、乙28の3)
カウザルギーcausalgia《灼熱痛、疼痛性熱感;burningpain,thermalgia》主として外傷性の末梢神経の損傷後にみられる、自律神経症状を伴った灼熱性の疼痛を訴える疾患である。損傷を受けた神経の支配領域を中心に焼けつくような痛みと同部の血管拡張または血管収縮を示し、発汗過多や減少を呈することもある。また同部の皮膚は痛覚過敏や鈍麻などの知覚異常もみられる。原因としては、損傷部位において遠心性の交感神経線維と求心性の知覚線維の間に“artifitialSynaps”が形成され、血管運動神経と知覚神経が正のフィードバックをもつためと考えられている。治療は交感神経節切除または交感神経節のブロックが有効である。(23
1頁)

癌性疼痛cancerpain癌に伴う激烈な痛みをいう。発症の原因は、癌の進展による神経の圧迫や直接浸潤、骨膜への浸潤、骨転移による骨折、脈管への浸潤と閉塞、組織の壊死、感染などによる。(311頁)

三叉神経痛trigeminalneuralgia《顔面痛、疼痛〔性〕チック、フォザーギル神経痛;prosopalgia,Fticdouloureux,Fothergill*neuralgia》JohnF.(1712-1780,医師,英)。顔面に激痛を起こす神経痛。特発性(真性)のものと症候性のものがある。特発性三叉神経痛は、神経痛の代表であり、発作的な激痛が数~数十秒続き、緩解時は無症状である。痛みの性質は電気が走るような激痛である。(645頁)術後疼痛postoperativepain切開創の痛み、あるいは内臓痛や術中体位の影響による関節・筋・腰痛などが総合されてその原因となる。術後1~2日まで特に痛みが激しいが、抜糸まで続くものである。術後疼痛は、創部の乏血により治癒を遅らせ、痛みによる呼吸の抑制で肺合併症をきたしやすい。治療は、一般に麻薬性鎮痛薬、ペンタゾシンやブプレノルフィンなど非麻薬性鎮痛薬、解熱性鎮痛薬が投与される。トランキライザーの併用も有効である。硬膜外ブロックや硬膜外モルヒネ投与は極めて有効な疼痛処置である。(766頁)心因性疼痛psychogenicpain精密検査を行っても、原因となるような器質的病変ないし病態生理的機序が見出されないにもかかわらず訴えられる疼痛、またある程度関連する器質的病変が存在する場合でも、その身体的所見から期待されるものを上回る強さで訴えられる疼痛などで、背景に心理的要因が関与していると考えられるものをいう。(825頁)ヘルペス後神経痛postherpeticneuralgia帯状疱疹を起こす水痘・帯状疱疹ウイルスが脊髄後根神経節やそれに対応する神経節を侵し、疱疹が治癒した後も数ヵ月また何年にもわたって起こる疼痛。好発部位は三叉神経第1枝の領域で、そのほか肋間神経にも起こる。疼痛は痒いような、刺すような、焼けつくようななどと表現される。比較的年齢の高い人に多く、種々の治療も奏効しないことが多い。(1569頁)(エ)

矢田賢三ら編標準脳神経外科学第7版医学書院(平成8年)
(甲

82、乙28の7)

有痛性神経損傷末梢神経の完全損傷では、支配領域の疼痛を伴うことは少ない。不全損傷では、異常感覚としての疼痛が時に見られる。特殊なものとして、以下に述べるカウザルギーがある。(351頁)

カウザルギー(causalgia,灼熱痛):正中神経、坐骨神経の中枢側、腕神経叢の下神経幹が不完全損傷を受けたときに起こる。疼痛は、障害神経支配領域の灼熱感を伴う発作性のもので、交感神経節後線維と、感覚神経線維の電気的短絡が原因と考えられている。疼痛は、受傷後数週以内に始まる。精神的興奮や、驚愕で誘発され、睡眠中は軽減する。ふつう、数か月で自然緩解する。(351頁)(オ)

柏崎禎夫編運動器の痛み-診かた・治しかた-医薬ジャーナル社

(平成7年)
(甲83、乙28の8)
IV.幻肢痛これは一般には特別な疼痛として扱われるが、運動器の心因性疼痛に入れられるもので、心因性という面から見れば最も純粋なものである。診断は切断されて目に見えない四肢が痛むので、特別な診断法を要しない。人は、吐き気、痛みはその人の訴えによってあることを確認する。幻肢は感覚的に存在する(絵まで描ける)が、見ることもさわることもできない。ここに感覚の中で、ある、ない、の混乱が生じ、疼痛のもととなるばかりでなく、治療が困難になると考えている。この治療は幻肢を消す努力は無駄のように思われ、幻肢をはっきりして、それから治療に入るのがよいようであり、筆者らは幻肢を自由に動かせるようにする方法(自動訓練法)を考案したが他にも色々な方法があるので文献を挙げておく。ただまだ完成されたものはない。(136頁)(カ)

水野美邦編、
神経内科QuickReference第2版
、文光堂(平成7

年)
(甲84、乙28の9)
4.三叉神経痛三叉神経支配領域に起こる発作性の激痛で、神経痛の中では最もよくみられるものである。通常40歳以降に生じ、男性より女性に多く、第2、第3枝がよくおかされる。痛みは刺すような焼けるような鋭い耐え難い電撃様疼痛で、持続時間は数秒から数分である。誘発点triggerpointがあり、頬部、口唇、鼻部などに何らかの刺激が加わると痛みが誘発される。病歴上多いものは、ものをかむ、洗顔、髭剃り、会話、歯ブラシを使うなどの動作である。ひどい場合には痛みを避けるため、会話もできない、食事もできない状態となり、そのため抑うつ状態に陥ることもある。従来多くの三叉神経痛の原因は不明といわれてきたが、近年動脈硬化により蛇行した脳底動脈やその枝が三叉神経根を圧迫しているためという説が有力となってきた。治療はcarbamazepine(テグレトール)diphenylhydantoin、(アレビアチン)三環系抗うつ薬などの内服薬が有効であり、、それでも効果が得られない場合には三叉神経ブロックや三叉神経から硬化した動脈を遊離させる手術が行われる。(198頁)
5.帯状疱疹後神経痛post-herpeticneuralgia帯状疱疹は後根神経節や脳神経節に潜在的に存在している帯状疱疹活動的になることが原因である。胸部の皮膚がおかされやすいが、腰仙部や頸部および顔面もおかされる。しばしば水疱出現に先だって疼痛や異常感覚がみられ、水疱出現時には痛みを伴い、水疱消失とともに痛みは消退するのが普通である。しかし、時に疼痛が水疱消失後も長く続くことがあり、帯状疱疹後神経痛と呼ばれる。痛みは灼熱感を伴い、自発的で、皮膚の感覚過敏や痛覚過敏を伴うことが多い。疼痛は徐々に減弱し、数ヵ月以内には消失することが多いが、時には年余にわたって長く続くこともある。老齢者にこの帯状疱疹後神経痛が起こりやすい傾向がある。治療として、三環系抗うつ薬やcarbamazepineなどの薬物療法がまず行われ、薬物療法が無効な場合には経皮的電気刺激や神経ブロックが施行される。(198頁)
6.神経根痛radicularpain神経根や脊髄内で後角が障害された際にみられるもので、痛みは障害された神経根の皮膚支配領域すなわちdermatomeに一致し、体動、咳、くしゃみ、いきみなどで増悪する傾向がある。痛みのほかに、その髄節レベルに感覚低下や筋萎縮、筋力低下、線維束性収縮fasciculationなどを伴うことがある。時に痛みが両側に起こって帯状痛の形をとったり、障害部以下の錐体路徴候を伴うこともある。多くの原因疾患があるが、椎間板ヘルニア、変形性脊椎症が最も多い。椎間板ヘルニア、変形性脊椎症とも頸椎や腰椎に起こりやすいため、神経根痛は頸部、上肢、腰部、下肢によくみられる。頸椎部や腰椎部に比較すると頻度ははるかに少ないが胸椎部に起こることもあり、その際は肋間神経痛の形をとることがある。変形性脊椎症の際には複数の神経根が同時に侵されることが少なくない。神経根痛は慢性の疼痛を主訴に医師を訪れるものの中で最も多い原因であろう。神経根の局所診断についてはdermatomeについての解剖学的知識が必須である。椎間板ヘルニア、変形性脊椎症に対する治療は、まず鎮痛薬投与、安静、牽引などを行い、無効な場合に外科的治療を考える。(198頁~199頁)
7.視床痛thalamicpain視床が障害された後、しばらくたってから対側の半身に起こる不快な痛みをいう。視床の梗塞や出血などの血管障害の後に起こることが多いが、腫瘍や術後に起こることもある。痛みは視床の障害直後ではなく、通常、数週から数ヵ月後から起こり始め、その後年余にわたって続く。痛みの内容は、ナイフで切られるような、刺されるような、焼けつくような、締めつけられるような、はぎとられるような、などに表現され、個人差が大きく、同時に不快なしびれ感を伴う。自発的な痛みはあることもないこともあるが、特徴的なことは障害部位に対する外部からの刺激で誘発されることで、時には爆発的な情動反応を伴う。刺激の強さと痛みの程度とは一定の関係がなく、軽く触るといった軽い刺激でも強い痛みが誘発される。視床痛の発現機序としては視床内の神経線維や細胞の閾値が低下し、わずかな刺激で発火するためと考えられている。治療は三環系抗うつ薬やphenothiazineが有効であるが、完全には治りにくい。モルフィンは無効である。なお、視床以外の中枢神経の病変でも痛みが起こることがあり、中枢性疼痛centralpainと呼ばれる。脊髄から脳幹、大脳白質、大脳皮質のどの部位の病変でも起こるが、視床痛に比べるとまれである。(199頁)
8.カウザルジアcausalgia末梢神経の外傷後にみられる痛みをいう。痛みは通常焼けるような性質で、持続的であり、限局性に乏しく、しばしば損傷された神経の支配領域よりも広い範囲に起こる。さらに痛みは情動によって増悪し、また障害部の皮膚を触るといったささいな刺激でも悪化することがあり、患者は検査されることを嫌がる。罹患部の皮膚は平滑、淡紅色で、硬く、発汗が著しい。カウザルジアは不完全な神経損傷後に起こりやすく、特に正中神経と坐骨神経の損傷で起こりやすい。通常外傷後の数日以内に始まることが多いが、数週間たってから起こることもある。カウザルジアは交感神経ブロックで症状がおさまることから、その発現機序に交感神経が関与していることが考えられており、反射性交感神経性ジストロフィーreflexsympatheticdystrophyとも呼ばれる。末梢神経の不完全な切断端において、感覚線維と交感神経とがシナプスを形成するためという説が有力である。治療は交感神経ブロックを行う。cordotomyやthalamotomyは通常無効である。(199頁)
9.心因性疼痛psychogenicpain中枢神経系に器質的病変がなく、直接末梢からの侵害刺激がないにもかかわらず存在する痛みで、通常慢性疼痛の形をとるものをいう。痛む部位は通常限局性であるが解剖学的な神経支配領域に一致せず、精神的な影響を受けやすい。痛みのほかに心因性と思われる筋力低下、痛覚過敏、自律神経症状を伴うことがある。心因性疼痛は通常限局性であるとはいえ、痛みが常に1個所に固定しているのでなく、他の部位に移動しやすく、しばしば同時に2個所以上に痛みが存在し、しかもそれぞれが互いに関連のない部位であることも特徴的といえる。痛みの強さは一般にあまり強くなく、痛みの内容も漠然としており、“しめつけられるような”とか、“引っ張られるような”という比喩的表現が多い。心因性疼痛の多くは転換ヒステリーであり、その他は心気症、うつ病、分裂病、性格異常の部分症状と考えられている。治療は精神安定薬、抗うつ薬の投与や精神療法が行われるが、一般になかなか治りにくい。(199頁~200頁)10.治療上述の各項目毎に治療についても簡単に触れたが、以下疼痛の対症療法についてまとめる。A.末梢において痛みを減らすものa.プロスタグランジンなどの化学物質の抑制アスピリン、インドメサシン、ステロイド剤、その他の非ステロイド性抗炎症薬b.侵害受容器を活性化する伝達物質に拮抗するものセロトニン拮抗薬:ergotamine,methysergideβアドレナリン遮断薬、抗ヒスタミン薬B.侵害刺激の伝達を末梢にて抑制するものa.神経ブロック(プロカイン、アルコール、フェノール)、b.経皮的電気刺激、c.針治療、d.抗てんかん薬、e.神経切断C.エンドルフィン受容器を直接刺激するものモルフィン、meperidineD.中枢における痛覚路の遮断cordotomy,commissural,myelotomy,thalamotomyE.その他精神安定薬、抗うつ薬、下垂体破壊、frontallobotomy,cingulotomy(2
00頁)
(キ)

DavidBorsookら編,TheMassachusettsGeneralHospitalHandbookofPainManagement,Little,BrownandCompany(1996)(甲81、乙28の6)
痛みのタイプ(定義)侵害受容性-侵害受容器の活性化によって発生する痛み。侵害受容器は、中枢神経系を除くすべての組織に存在する。痛みは、皮膚や内臓の求心性神経線維の化学的、熱的又は機械的な活性化の程度と臨床的に比例し、急性又は慢性である(体性痛、癌性疼痛、術後疼痛)。(32頁)

神経障害性-末梢又は中枢の痛みの経路に対する損傷に起因する痛み。進行中の疾病がなくても痛みが持続する(例えば、糖尿病性神経障害)


(34頁)

カウザルギー、反射交感神経ジストロフィー、又は交感神経依存性疼痛―末梢神経損傷に起因し、アロディニア、痛覚過敏、灼熱感及び血管運動性変化、そして発汗を含む交感神経系の機能亢進の証拠をしばしば伴う。

(34頁)

求心路遮断性―中枢神経系の痛みの経路(末梢又は中枢の)に対する求心性入力が喪失する結果生じる慢性疼痛(例えば、神経捻除や脊髄損傷)。(34頁)


神経痛―神経分布における神経障害や刺激に伴う電撃痛(例えば、三叉神経痛)

。(34頁)

神経根障害―神経根の圧迫や分断により生じる痛み(例えば、椎間板疾患)

。(34頁)

中枢性―通常、脊髄視床皮質経路を含む中枢神経系での障害により生じる痛み(例えば、視床梗塞)

。(34頁)

心因性-神経系の解剖学的分布と一致しない痛み。しばしば、十分な検索を行っても、痛みを説明する器質的障害を認めない。(34頁)

中枢由来の痛み中枢性疼痛は、痛みの伝導経路やその近傍における、外傷性又は血管性の障害に起因することが多い。痛みは通常一定で、灼熱的、電撃的な性質を有し、行動や天気の変化により悪化する。知覚過敏や痛覚過敏、及び/又はアロディニアが常に存在する。治療は困難である。(34頁)神経障害性疼痛は、数多くの病因、提案されている病態生理、そして臨床症状を伴う、最も治療困難で複雑な疼痛症候群の1つである。それは、形態の変化を伴うことなく日常生活に支障を生じる可能性があり、患者と医師の双方に我慢と忍耐を要求する。神経障害性疼痛とは、疼痛伝達系の一部に対する、末梢又は中枢、あるいはこの両者の神経損傷により生じる症状である。(219頁)神経障害性疼痛の生物学的基礎なぜ切断されたり引き抜かれた知覚神経が疼痛を生むのか?何がわずかな侵害刺激に対する大きな疼痛反応を引き起こし、あるいは中枢の脊髄疼痛伝達路に対する外科的処置が患者に無痛を生じ得ない理由は何か?これらや他の当惑させる臨床観察は、疼痛に携わる開業医にとって大きな問題となっている。過去数年の間に神経障害性疼痛の動物モデルが開発され、本症候群に対する神経生理学的理解の進歩が治療方針の改善に役立っている。これらのモデルは一般に、侵害受容、修飾、あるいは伝達の異常徴候を示す。(219頁)
神経接続の変化神経の可塑性という概念が、末梢神経損傷が中枢の疼痛伝達にどう関係するかを理解する助けとなる。このモデルでは、侵害受容求心性線維の慢性的な活性化や求心路遮断、あるいは、侵害受容一次求心性線維がさまざまな程度の求心路遮断を受けている同側伝導路のような別の求心性線維源によって、中枢の疼痛伝達神経細胞が活性化される。最近の証拠は、神経損傷後、脊髄後角において新たな神経接続が生じることを明らかにした。通常の状態では、皮膚を軽く触っても痛くない(Aβ線維の正常な活性化)神経損傷後では、。第1層と第2層に側副路を送る新しい接続がAβ線維(通常では、第Ⅳ層でシナプスを形成する)により形成される。これらの新しい神経接続の結果、軽い触覚が、通常なら疼痛伝達に関与している二次ニューロンと接続することになる。(221頁~223頁)

神経線維のタイプの喪失有痛性神経障害の機序に対する別の仮説として、神経線維のタイプの喪失が考えられている。(223頁)

異所性インパルス侵害受容情報を伝達する末梢線維は、通常の状態では不活性であり、疼痛刺激によってのみ活性化する。しかし、末梢神経損傷により異常な電気的活動が生じる。このような神経興奮は、求心性侵害受容入力の持続的又は変化する活動による、定常的及び間欠的な激しい疼痛の臨床症状を生じ得る。異常活動は、中枢性疼痛症候群の患者においても示されている。例えば、中枢性(及び末梢性)疼痛症候群の患者の視床では異常な電気的活動が生じている。(223頁~224頁)

アセトアミノフェンや非ステロイド性抗炎症薬など、軽度の体性痛に用いられる標準的鎮痛薬は、糖尿病性神経障害に対してほとんど治療効果がない。(228頁)

患者のほぼ全てに幻肢感が生じるが、幻肢痛は切断者の約30~90%に生じる。通常、締め付けられるような、あるいは押しつぶされるような痛みと表現されることが多いが、電撃様の痛みと表現されることもあり、喪失肢に感じられる。強さは、軽度から忍耐の限界を超えるまでさまざまである。切断から1年後、患者の40%で幻肢痛がなくなる。(230頁)
(ク)

Pain,vol.44,p.293-299(1991)(甲39)
中枢感作はヒトにおける損傷後疼痛過敏状態の原因となる可能性があるので、これらのデータは、予防的な鎮痛のため、そして、確立した疼痛状態を治療するため、の双方におけるNMDAアンタゴニストの潜在的な役割に関して意義がある。(293頁)末梢組織の損傷に続いて生じる痛覚過敏は、損傷付近の一次求心性侵害受容器の感受性の増大(末梢性感作)[1,2,23]、および、脊髄におけるニューロンの興奮性の増大(中枢性感作)の結果生じる[35,38]。中枢性感作は侵害受容の求心性入力によって引き起こされ[30,41],閾値の長期的減少、範囲の拡大、後角ニューロンの皮膚受容野の応答性の増大[3,6,14,25,40]となって現れる。(293頁)より長時間の促通は、筋肉神経の刺激によってあるいは化学性の刺激物であるマスタードオイルの皮膚塗布によって生み出すことができる[30,41]。マスタードオイルは、ヒトの皮膚に塗布されたときに強烈な灼熱感を生み出し、最大で24時間続く、ラットにおける機械的及び熱痛覚過敏を生み出す[37]。マスタードオイルは、ラットにおけるC侵害受容器の活性のバースト(burstofactivity)を生み出すがこれは数分で減衰する[41]この皮膚への塗布の後、。後角ニューロンの受容野特性における変化[39]と屈曲反射の促通[41]が発生し、1時間より長く持続する。この化学性刺激物は、化学敏感性線維における短期間の求心性集中砲火(barrage)の持続した中枢性効果の研究に有用なモデルを提供する。(294頁)(ケ)

HaroldMerskeyら編,CLASSIFICATIONOFCHRONICPAIN(Second
Edition),IASPPRESS(1994)(甲77、乙28の2)

痛み実際の組織損傷や潜在的な組織損傷に伴う、あるいはそのような損傷の際の言葉として表現される、不快な感覚かつ感情体験。210頁)


痛覚過敏通常は痛い刺激に対する増大した応答痛覚過敏は、閾値を超えた刺激への増加した応答を反映する。普通は痛くない刺激によって誘発された痛みは、異痛という用語が好ましいが、痛覚過敏は、神経障害の患者などの普通の閾値や増加した閾値での増加した応答の場合に適切に用いられる。(211頁)現在の証拠は、痛覚過敏が末梢又は中枢の感作あるいはその両方を伴う侵害受容系の混乱の結果であることを示している。しかし、重要なのは、この定義を強調する臨床的な現象と、知識の進歩により更に変化するかもしれない解釈とを区別することである。(211頁)

神経障害性疼痛神経系の一次的な損傷、あるいはその機能異常が原因となって生じた疼痛

(212頁)
(コ)

Brain,vol.117,p.579-591(1994)(甲41)
ブラシ誘発性の痛み(機械的接触異痛、動的機械的痛覚過敏)は、神経障害性および炎症性の疼痛状態の顕著な特徴である。ここで、我々は、機械的痛覚過敏のこの構成要素を誘導し維持する神経機構を調べた。これらの実験の本質的な結果は、ブラシ誘発性の痛みの重症度は、慢性の苦痛な神経障害を患う患者および急性の実験的な化学物質誘発性の痛みを伴う正常な個体における、背景となる痛みの強度と相関関係をもつということである。(579頁)

9人の健常者における実験で、5分間のマスタードオイルの局所塗布は、強い灼熱痛と軽い機械的刺激に対する痛覚過敏を引き起こした。(579


頁)
我々は、通常のボランティアにおいて、ブラシ誘発性の痛みは、Aβ線維が媒介する機械的痛覚過敏の基礎として中枢神経系の感作を引き起こす短期間の侵害受容C線維の興奮により引き起こされ得ると結論する。この中枢興奮性の増大、そしてそれはブラシ誘発性の痛みの発現をゆるす、はとても従順であり、無髄一次求心性神経の継続的な興奮に決定的に依存する。当然の結果として、我々は、それらは恐らく神経障害性疼痛状態にみられる他の感覚異常の説明にならないが、これらの機構が慢性神経痛における進行中およびブラシ誘発性の痛みの主な原因であり得ると提案する。これは一次侵害受容求心性神経の興奮が神経障害性痛みの重要な原因であること、および後に続くブラシ誘発性の痛みの原因となる中枢性の機構が侵害受容器活性化の通常の帰結であることを意味し得る。(579頁)

ブラシ誘発性の痛みは、中枢性感作の結果として最もうまく説明される一方、一次求心性神経の異常な興奮性が神経障害性疼痛の状態に関与していることも明らかである。(580頁)

本調査の主な知見は、正常なボランティアにおける急性化学物質誘発性疼痛および慢性神経因性疼痛状態における、進行中の疼痛の大きさと、ブラシ誘発性疼痛の重症度との間に密接な相関が存在することである。両方の条件で、灼熱背景痛は、無髄一次求心性神経の持続的興奮によって媒介されると考えられる。この進行中の侵害受容器の放電は、次に、動的機械的痛覚過敏として現れる中枢性感作の状態を持続させる。これは、異常な侵害受容器興奮性および中枢性感作が、急性および慢性疼痛状態における進行中のブラシ誘発性疼痛の生成の原因となる密接に関連するメカニズムであることを意味し得る。(586頁~587頁)
動的機械的痛覚過敏のメカニズムここで、様々な証拠が、神経痛および急性実験的疼痛におけるブラシ誘発性疼痛が大きい有髄線維によってシグナル伝達されることを示すことに向かっている(LindblomおよびVerrillo、1979;FruhstorferおよびLindblom、1984;Campbellら、1988b;Frostら、1988;Priceら、1989、1992)通常の条件下では、。大きい有髄繊線維の刺激は痛みとして決して把握されないため(Bishop、1944;Collinsら、1960;OchoaおよびTorebjork、1983;Torebjorkら、1987)、質的スイッチはこの線維クラスによって伝達されるシグナルの中枢処理の変化を暗示する。この現象のための神経基盤は、中枢性感作と称されるプロセスである、より高次のニューロンの興奮性の増大であるであろう。中枢性体性感覚処理のこの変化は、最近、電気的ニューロン内微小刺激を使用して、ヒトにおいて研究されている(Torebjorkら、1992)。痛みがない触感および疼痛を惹起することができる部位で神経束内刺激を実行した。一度、閾値の安定なベースラインが得られたら、侵害受容器特異的刺激物であるカプサイシンを、線維束により刺激されるテリトリーに適用した。この条件的疼痛刺激原は、機械的痛覚過敏および電気的に誘発された疼痛閾値の有意な低下を誘発した。軸索中央部レベルでの求心性ニューロンの電気的刺激は、末梢受容体末端の可能な変化を迂回するため、疼痛閾値の変化は、中枢性感作を暗示する。(587頁)
(サ)

Pain,vol.63,p.163-172(1995)(甲59)
中枢神経系(CNS)ニューロンのN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体媒介感作の重要性は、急性および慢性疼痛の動物モデルにおいて十分に確立されている。中枢性感作のヒトモデルは、新たなNMDA拮抗薬のスクリーニングおよびCNSニューロンの感作に関連した疼痛を有する患者における臨床試験のための投与計画の確立に有用であろう。このモデルを使用して、2つの中枢作用性鎮痛薬、NMDA受容体拮抗薬ケタミンおよびモルヒネ様オピオイド作動薬アルフェンタニルの静脈内注入の効果を調べた。12人の健常者が3セッションの無作為化二重盲検クロスオーバー試験を完了した。カプサイシン注射の25~60分後に、被験者にケタミン(平均用量:32mg)、アルフェンタニル(平均用量:3075μg)または生理食塩水プラセボの静脈内注入を与えた。、両方の薬とも注入中の進行中の痛みとピンプリック誘発痛覚過敏とを有意に減少させた。(163頁)カプサイシンの皮膚内注入(Simoneetal.1989;LaMotteetal.1991)は、かかるモデルを提供する。一時的な感覚症状は、点状刺激に対する強度の灼熱痛、接触異痛及び痛覚過敏を含んでおり、これは炎症または神経損傷によって生ずる臨床的症状に共通して見られる。(164頁)カプサイシン後の薬の注入実験による発見は、中枢性感作によって部分的に媒介される臨床症状のための治療を発達させるためのツールとして皮下カプサイシンモデルを用いることを裏付ける。コントロールされた治験からのデータは、ケタミン(Byas-Smithetal.1993;Backonjaetal.1994;Eideetal.1994)及びオピオイド(Portenoyetal.1990;Rowbothametal.1991;Chernyetal.1994;しかしまたArnerandMeyerson1980にも見られる。)が、神経障害性疼痛の患者における痛み及び痛覚過敏を緩和しており、これは我々の結果と一致する。(168頁)(シ)
StevenD.Waldmanら編,InterventionalPainManagement
W.B.SaundersCompany(1996)(甲86)異常な痛みのメカニズム:アロディニア正常な状態下では、A線維を活性化する入力のような低閾値機械的入力は、侵害事象として伝達されない。神経損傷後のような特定の状態下では、臨床的にカウザルギーや反射交感神経ジストロフィーと呼ばれる事象が、極めて痛い、鋭く撃つ痛みとして伝達され得る(アロディニア)。この低閾値求心性情報の翻訳ミスのメカニズムは理解されていないが、以下のような特定の現象が考慮されるべきである。(24頁)神経損傷
(31頁)
末梢神経の病変に続いて、痛覚過敏や接触異痛、そして自発痛の状態が発生する。前述のとおり、損傷した神経で生ずるこのような継続的な繰り返しの活動は、定常的な疼痛状態だけでなく、後角の感作をも生じさせうる。(31頁)(ス)

Pain,vol.61,p.221-228(1995)(甲55)
要旨神経損傷性疼痛へのケタミンの連続皮下(s.c.)投与の効果を、帯状疱疹後神経痛を有する患者で検討した。ケタミンの急性静脈内注射後に疼痛の緩和を報告した5例の患者を、この非盲検前向き研究の対象とした。ケタミンは、携帯型輸液ポンプ(CADD-PLUS,Pharmacia社)を用いて、用量漸増のもと連続的に投与し、各注入速度(0.05mg/kg/h、0.075mg/kg/h、0.10mg/kg/hまたは0.15mg/kg/h)での治療期間は7日7夜とした。持続痛の緩和は、ビジュアルアナログスケールで一日ごとに評価し、注入速度0.05mg/kg/hで観察されたが、最も顕著であったのは、0.15mg/kg/hの注入期間中であった。すべての患者が、ケタミンによる持続痛の強度の低下と、自発痛発作の強度と回数の低下を報告した。誘発痛(接触異痛及びwind-up様疼痛)の変化は注入速度の変更前に記録した。接触異痛は、0.05mg/kg/hを1週間注入後に59~100%の最大の軽減を示し、wind-up様疼痛は、0.15mg/kg/hを1週間注入後に60~100%の最大の軽減を示した。(221頁)
興奮性アミノ酸(EAA)は、神経系における侵害受容情報の伝達に関与する。N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体は、EAAグルタミン酸の受容体サブタイプの一つであり、神経傷害性疼痛の発症において重要な役割を果たすと考えられる。(221頁)中枢性NMDA受容体の遮断は、神経傷害によって引き起こされる侵害受容挙動を低減し(Seltzerら1991)、一次求心性C線維の刺激の延長によって引き起こされる侵害受容細胞における過剰興奮性を減少させる。最近、NMDA遮断剤が神経傷害によって引き起こされる疼痛を低減させるという臨床的証拠が蓄積されてきた。神経傷害に起因する病的疼痛は、連続的ならびに自発的疼痛、およびまた、非侵害刺激によって誘発される疼痛(接触異痛)を特徴とする。侵害刺激に対する応答は増加することがあり(痛覚過敏)、疼痛は損傷した神経によって支配される領域の外側に拡張し得る(二次痛覚過敏)。非競合的NMDA受容体遮断剤であるケタミンは、末梢または中枢神経系(CNS)の傷害を有する患者における連続的疼痛および誘発性疼痛を低減させ(Backonjaら、1994)、幻肢痛(StannardおよびPorter1993)または慢性口腔顔面痛(φyeら、1993)を有する患者における疼痛を低減させた。我々は、ヘルペス後神経痛を有する患者の二重盲検、クロスオーバー試験において、ケタミンの急性静脈内(i.v.)注射が異痛及びワインドアップ様疼痛を含む疼痛を低減させることを見出した(Eideら、1994a)。(221頁)
本研究では、ケタミン輸注が終わった後の疼痛の重症度は、処置の開始時に記録されたレベルに戻った。この観察は、ケタミンが帯状疱疹後に侵害受容ニューロンの過剰興奮性の長く続く低減をもたらさないことを示している。NMDA受容体の遮断が、中枢性感作が起こった後に確立された侵害受容ニューロンの過剰興奮性を逆転させることができることを示唆する実験データが提示されている(WoolfおよびThompson1991)。(226
頁)
(セ)

J.MusculoskeletalPain,Vol.3,No.2,p.35-41(1995)(甲16
2)

要約対象線維筋痛症症候群[FS]及び慢性疲労症候群[CFS]における慢性の全身痛および痛覚過敏(圧痛点)の病因についての我々の理解を深める研究の概要を提供する。(35頁)

結果及び結論:現在の研究の成果は、末梢(筋)及び中枢の要素を含む以下の仮説を裏付けるものである。侵害受容ニューロンの中枢性感作を導く中枢の侵害受容系の変化は、おそらくFS及びCFSにおける筋痛の固有の特徴である。局所の微小循環障害を示す筋肉の変化は、筋肉中の侵害受容器を興奮及び感作させうるものであり、線維筋痛症を促進し、引き金となる要素であるが、特有のものであるとは言えない。(35頁)
(ソ)

EuropePMCにおける「Analgesiceffectofketamineinapatient
withneuropathicpain」のウェブページ

(1996)(甲163)

我々は、線維筋痛症及び重度の外傷後神経障害性疼痛を伴う54歳の女性におけるケタミンの単回/日投与の効果を報告する・・・長期鎮痛は、毎晩就寝時においてカプセルの形態で経口摂取された250mg/kg塩酸ケタミンによっても得られた・・・慢性疼痛状態の強度の長期抑制は、中枢の疼痛経路におけるシナプスのNMDA受容体依存性長期増強の逆転に起因するものであろう。(タ)

高久史麿監修、
図説病態内科講座第18巻症状・症候-1
、メ

ジカルビュー社(1996年4月10日)
(甲88、乙28の14)
筋肉痛のメカニズム筋肉痛は、筋障害により出現する痛みと、筋障害以外の原因により生ずる痛みに大別される。筋障害以外の原因としては、神経障害、関連痛、心因性などがある(表2)。以下に、筋肉痛の生ずるメカニズムを、原因別に図を用いて概説した。(244頁)
筋障害によって筋肉痛が起こる機序(図2)(244頁)
神経障害によって筋肉痛が起こる機序(図3)(244頁)

関連痛によって皮膚・筋肉の痛みが起こる機序(図4)(246頁左)心因性の線維筋痛症によって筋肉痛が起こる機序(図5)線維筋痛症は、痛覚中枢の機能的異常により痛みが増幅されて感じられる疾患である。性格、不安、ストレス、不眠などが症状の誘発や増幅に関与していると考えられている。(246頁)(チ)

AnnalsoftheRheumaticDiseases,Vol.55,No.8,p.497-501(1996)
(乙28の21)
線維筋痛症の病因は基本的に不明である。男性より女性において少なくとも10倍頻繁に生じるという知見は、未だ説明されていない。遺伝的素因は記録されていない。外傷、外科手術又は内科疾患の後に線維筋痛症が発生する場合があるということが示唆されているものの、かかる関連性は因果関係を証明するものではない。(497頁)

これに対して、非ステロイド性抗炎症薬や副腎皮質ステロイドは無効である。(498頁)


(ツ)

S.J.Gibson外、Pain.vol.58p185-193(1994)(甲166)

線維筋痛症症候群の患者における、痛みを伴うCO2レーザー刺激に引き続いた熱痛覚閾値及び脳表現関連電位の変化

(185頁)
末梢の一次求心性メカニズムの応答変化と、CNSプロセスの変化とが、FSの病態生理に重要な役割を果たしていると推測せざるを得ない。つまり、増加した求心性応答と、低強度の化学的、機械的又は熱的な刺激に引き続いたCNS活動とが、これらの患者の経験する痛みや領域的な痛覚過敏の直接の原因であろう。(192頁)(テ)

ScandJRheumatol,vol.24,p.360-365(1995)(甲26)
線維筋痛症患者の痛みの分析
(360頁)
疼痛の強度、筋力、静的筋持久力、圧痛閾値、および圧痛点と対照点での疼痛耐性を、線維筋痛症(FM)を有する患者31例において、モルヒネ(9例)、リドカイン(11例)、およびケタミン(11例)の静脈内投与の前後で評価した。3つの試験はそれぞれ、二重盲検プラセボ対照とした。患者は、プラセボ応答者、応答者(50%を超える疼痛強度の低下)および非応答者に分類した。モルヒネ試験では有意な変化はみられなかった。リドカイン試験では注入中及び注入後に疼痛の軽減が示された。ケタミン試験では試験期間中に疼痛強度の有意な低下が示された。圧痛点の圧痛は軽減し、持久力は有意に上昇したが、筋力に変化はなかった。これらの結果は、NMDA受容体が線維筋痛症の疼痛機構に関与するという仮説を支持する。これらの知見から、FMに中枢性感作があること、および圧痛点が二次痛覚過敏を示すことも示唆される。(360頁)線維筋痛症は、慢性的な全身性筋肉痛、数カ所における圧痛覚過敏(圧痛点)筋硬直、、睡眠障害および疲労からなる(1)米国リウマチ学会。(ACR)が提案した線維筋痛症(FM)の分類基準では、FMは、痛覚過敏を伴う慢性疼痛症候群と定義されている(2)。(360頁)

リドカインに対する応答は均一ではなかったため、非競合的アンタゴニストであるケタミンを使用して、N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体系の遮断の効果の研究を開始することは論理的であった。NMDA受容体の活性化は、後角における侵害受容ニューロンの中枢性感作をもたらすと考えられる。(360頁)

痛覚過敏は、侵害受容器が、組織損傷を有する領域内で感作されることを意味する一次性のものであるか、またはそれが組織損傷のない領域から惹起されることを意味する、二次性のものであってもよい。(364頁)

Torebjörk等(11,12)は、マイクロ神経記録法(microneurography)の技術を用いて、実験的に誘導した皮膚の熱に対する一次痛覚過敏が、一次侵害受容ニューロンの感作によるものであることを示した。彼らはまた、動的接触に対する二次痛覚過敏が、脊髄の後角にある侵害受容ニューロンの興奮性の増加を反映する中枢性感作によるものであることを示した。(364頁)
中枢性感作は、C-線維入力によって誘発される、これらのニューロン上でのNMDA-受容体の活性化に起因すると考えられるが(13)それ、はまた、一次求心性神経中でのインパルスの非存在下で存在してもよい(14)。(364頁)
ケタミンの効果に関する本研究は、後角の侵害受容ニューロンのみが影響を与えているのか、それとも脳のニューロンもまた関与しているのかという問いには回答していない。局所麻酔による硬膜外ブロックが、完全にFMの患者における痛みと圧痛点での圧痛を封じたという事実は、FMの中枢性感作と二次痛覚過敏が、一時求心性神経のインパルスに依存しているという仮説を支持するだろう。(364頁)イ
ホルマリン試験に関する文献の記載事項
(ア)

BrainResearch,vol.518,p.218-226(1990)(甲46)
後角深層の多種感覚受容(収束)の侵害受容ニューロンである後肢末梢受容野へのホルマリンの皮下注射は、この細胞の持続的活性化(1時間)のため使用された。この化学的侵害刺激は、発火の最初のピークを生み出し、これは10分間持続して、その後に長く続く活性の第2ピークが発生しこれは50分間観測された。γ-D-グルタミルグリシン(DGG)、非選択的なN-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)キスカル酸/カイニン酸、(非NMDA)受容体アンタゴニストはくも膜下腔内にホルマリンの前処理および後に適用された。DGG前処理(1000μg)(n=4)によってホルマリン反応の両方のピークの完全な停止が生成された。この投与量は、同様の細胞におけるC線維によって引き起こされる急性反応の十分な阻害を生み出した。しかしながら、ホルマリン反応が一度発生してからこのアンタゴニストを適用すると阻害は生成されなかった(n=4)。選択的なNMDA受容体アンタゴニストである5-アミノ-ホスホノ吉草酸(AP5)(250と500μg)が40分間の前処理としてくも膜下腔内に投与され、第1ピークの少量の阻害を生み出したが、第2の接続フェーズにおいては顕著で投与量に依存的な減少を記録した(n=7)。AP5は、この細胞に対するC線維入力には影響を与えなかった。非競合的なNMDA受容体チャネル阻害剤であるケタミンとMK801は発火の第二相中に静脈内投与された。ケタミン(1-8mg/kg)は、ホルマリンへのニューロン反応に短期間ではあるが顕著で投与量依存的な阻害を生み出した(n=11)。MK-801(0.5-1mg/kg)はこの反応の第二相の間に細胞発火の持続した阻害という結果をもたらした(n=11)30分間の前処。理として静脈内投与されると、MK801(0.5-1mg/kg)は第一相の小さな阻害のみを伴い、発火の第二相の投与量依存的な阻害を生み出した。最終的に、ホルマリン注射部位への、2%リグノカインによる第1ピークの間の末梢の求心性活性の障害は、第2ピークを全く変化させなかった(n=10)それゆえ、ホルマリンによって生成される求心性集中砲火(barrage)が比較的に短いタイムスパンでNMDA介在性の中枢性活性を誘発し、この誘発された活性が長期間の痛みの状態における侵害受容とその調節の変化の一つの基礎となっている可能性があると思われる。(218頁)急性あるいは短期間に続く状態と比較して、持続したあるいは慢性的な痛みに関連する多くの問題の一つは、長く持続する痛みのある種の形態を緩和する難しさにあり、これは特に、神経損傷に関連する形態についてである[4]。一般的には、これらの問題は傷害による他の結果に加えて、末梢および中枢神経の過敏によって生じ得る。動物についての様々な研究は、末梢の侵害受容線維の感作が発生し得ること(参照6を見よ)を明らかに示し、さらに最近では、マイナー入力に対する後角の侵害受容的システムの反応を顕著に促進する、急速に誘発された中枢性過敏についての証拠が蓄積している[9,24,33,34,37]。(218頁)

ホルマリンの皮下注射は、短期間持続する一過性の活性(phasicactivity)を生み出すことが示されてきており、侵害受容の長引く持続期がこの後に発生し、これは様々な種における行動学的研究によって評価されており[3,18]持続した侵害刺激の有用なモデルであると考えられる。、(218頁)

NMDAチャネルブロッカーであるケタミンもまた、ワインドアップを阻害し、明らかにホルマリン応答の第2相の間のこれらのニューロンの活性を減少させた。(224頁)

ケタミンとMK801が麻酔領域以下の量でホルマリン応答の第2相を阻害する能力は、この反応におけるNMDAレセプターのシステムの関与を示しており、そのレセプターアンタゴニストであるAP5により得られた結果を確認している。(224頁)(イ)

TheJournalofNeuroscience,vol.12(9),p.3665-3670(1992)(甲4
7)

ラットにおける組織損傷に反応した中枢の感作と持続性侵害受容の発生への興奮性アミノ酸(EAAs)の寄与が、後肢へのホルマリンの皮下注射後に調べられた。(3665頁)

ラットにおける組織損傷に対する応答としての中枢感作及び持続性侵害受容の進行への興奮性アミノ酸(EAAs)の関与を、ホルマリンの後肢への皮下注射に続いて調べた。ホルマリン誘導侵害受容性行動は、EAAsのL-グルタミン酸及びL-アスパラギン酸による、くも膜下への前処理により増強された。ホルマリン誘導侵害受容性応答の増強は、受容体選択性EAAアゴニストであるNMDA及びトランス-(土)-1-アミノ-1,3-シクロペンタン-カルボン酸(ACPD)によるくも膜下への前処理によっても生じたが、(R,S)-α-アミノ-3-ヒドロキシ-5-メチルイソオキサゾール-4-プロピオン酸臭化水素酸塩(AMPA)によっては生じなかった。NMDAの効果は、AMPA又はACPDとの共投与によって増強された。ホルマリン侵害受容性応答は、NMDAアンタゴニストである2-アミノ-ホスホノ吉草酸(APV)及び(+)-MK-801マレイン酸水素による、くも膜下への前処理によって用量依存的に減少したが、選択的AMPAアンタゴニストである6-シアノ-7ニトロキノキサリン-2,3-ジオン、又は、選択的代謝調節型EAA-受容体アンタゴニストである2-アミノ-3-ホスホノプロピオン酸によっては減少しなかった。これらの結果は、NMDA受容体において作用するEAAsが、ホルマリン皮下注射に続く中枢感作及び持続性侵害受容の原因となることを示唆する。(3665頁)我々は以前(Coderreetal.,1990)、損傷に誘導される中枢性感作の行動モデルとして、ホルマリン試験を用いた。希釈されたホルマリンのラット後肢への皮下投与は、最初の5分に起きる先の激しい反応、および、注射後20から60分まで発現する後の中程度の反応を含む二相性の侵害刺激反応を引き起こす(DubuissonandDennis,1977:Wheeler-Acetoetal.,1990)。リドカイン(Coderreetal.,1990)またはμ-オピオイドDAMGO(DickensonandSullivan,1987b)のいずれかのくも膜下腔投与が、ホルマリン試験の第一相の直後ではなく、前に投与されれば、皮下ホルマリンに対する行動反応および後角ニューロン反応を阻害することが証明された。これは、ホルマリン応答の初期相の間に生じた神経作用が中枢神経系の機能の変化(すなわち、中枢性感作)を引き起こし、それが次いで後期相の間の処理に影響すること、をもたらし得ることを示唆する。3665頁)(

重要なことに、EAAアゴニストは、ホルマリン注射後の効果のある(中間及び後期)相においてのみ、侵害受容性応答を増強したが、ホルマリン試験の初期相の間は、侵害受容性応答に影響を与えなかった。(3668

頁)

(ウ)

TheJournalofNeuroscience,vol.12(9),p.3671-3675(1992)(甲4
9)
ホルマリン誘発組織損傷の後の持続性侵害受容におけるNMDA受容体作動性カルシウムチャネルの役割(3671頁)
ラットにおける組織損傷に対する応答である中枢性感作および持続性侵害受容への細胞内カルシウムの貢献が、後肢へのホルマリンの皮下注射の後に調べられた。ホルマリン損傷により誘発された侵害行動は、カルシウムイオノフォアA23187またはカルシウムチャネルアゴニストBay-K8644を用いたくも膜下腔内前処理によって促進させられた。逆に、ホルマリン侵害応答は、カルシウムキレーターQuin2またはカルシウムチャネルアンタゴニストであるベラパミルおよびニフェジピンを用いたくも膜下腔内前処理によって減少させられた。それぞれの物質は持続期に作用したが、ホルマリン応答の急性期には作用しなかった。L-アスパラギン酸およびL-グルタミン酸を用いて処理したラットにおけるホルマリン侵害行動の促進は、非競合的NMDAアンタゴニストMK-801を併用した前処理によって覆されたが、ニフェジピンまたは非NMDA興奮性アミノ酸アンタゴニスト6-シアノ-7-ジニトロ-キノキサリン―2,3-ジオンによっては覆されなかった。興奮性アミノ酸で処理されなかったラットにおいては、MK-801の鎮痛効果はニフェジピンにより生じるものよりも大幅に大きかった。さらに、ニフェジピンとMK-801との併用は、MK-801単独と比較して、大幅な鎮痛効果を生じなかった。この結果は、ホルマリン損傷により誘発された組織損傷後の中枢性感作および持続性侵害受容は、主にNMDA受容体作動性(比較的程度は低いが電位依存性の)カルシウムチャネルを介したカルシウム流入に依存することを示す。(36
71頁)
(エ)

Pain,vol.54,p.291-300(1993)(甲50)
要約侵害受容の処理における脊髄での一酸化窒素(NO)合成のあり得る役割を評価するため、NO合成酵素の代替基質として作用することでNO産生を阻害するアルギニン類似体の髄腔内(i.t.)投与の効果を調べた。(291頁)NG-ニトロ-L-アルギニンメチルエステル(L-NAME)およびNG-モノメチル-L-アルギニン(L-NAME)は、ホルマリン試験の第1相への最小効果(0-9分;ED50>1.1μmol)とともに第2相への用量依存的立体特異的阻害(10-60分;ED50,135及び246nmol)を生じさせたL-NAMEの阻害作用は、L-アルギニンi.t.により用量依存的に反転された(ID50,4.9μmol)D-アルギニンによっては反転されなかったが、(ID-50,>14μmol)。L-NAMEによる第2相ホルマリン応答の抑制は、ラットの足へのホルマリン注射の前と後のいずれに投与しても類似していた。L-NAME(370nmol)の脊髄投与はN-メチル-D-アスパルテート(NMDA;6.8nmol)のi.t.注射により誘導された熱痛覚過敏をも阻止したが、D-NAME(3.7μmol)は阻止しなかった。L-NAMEの効果はL-アルギニン(4.7μmol)で反転されたが、D-アルギニン(14μmol)では反転されなかった。L-NAME、D-NAMEまたはL-アルギニンのいずれの化合物も、単独で注射された場合には正常な熱応答潜在(latencies)ないし52.5℃ホットプレートへの効果には影響を与えなかった。これらの研究は脊髄性NO合成の調節が継続する求心性集中砲火により誘導される求心性活動の促進された処理(ホルマリン試験の第2相)を減少させうることを示す。この痛覚過敏要素は、脊髄のNMDA受容体の活性化によって開始され、それはNO生成を介して求心性インプットの実際の増大処理および続く疼痛行動の関連する痛覚過敏要素に導く。(291頁)

結論として、本研究が強調するのは、小線維の求心性インプットの鋭い放火に続いて、脊髄処理の重要な変化が生じ、この変化した処理が新規な、そしておそらく予期しない薬理学的な複雑性を反映している。臨床研究が示唆しているのは、揮発麻酔薬を単独で用いた場合に比べて、モルヒネの使用による求心性インプットのブロック(一次C線維からのニューロペプチドの放出をブロックする。例えばGoandYaksh1987を見よ)又は局所麻酔に続いて、ヒトの臨床的な術後麻酔要求が減少するということである。更に留意すべきなのは、NMDAレセプターアンタゴニストであるケタミンが、急性の動物モデルにおける活動の欠如と対照的に、術後疼痛状態の鎮痛作用を有するということである(White1989を見よ)。これらの観察が示唆しているのは、ヒトの術後疼痛状態は、本論文で議論したような、長引く求心性の活動や脊髄のNMDAレセプターを用いた動物モデルやシステムと少なからず類似しているだろうということである。(298頁~299頁)
(オ)

EuropeanJournalofNeuroscience,vol.6,p.1328-1334(1994)(甲5
1)
細胞内メッセンジャーである一酸化窒素、アラキドン酸およびプロテインカイネースCのラットにおける組織損傷に反応した持続性侵害受容への寄与が、後肢へのホルマリンの皮下投与の後に調べられた。ホルマリン損傷により誘発された侵害行為は、一酸化窒素合成阻害剤(NG-ニトロ-L-アルギニンメチルエステル、L-NAME)アラキドン酸の阻害剤、(デキサメタゾン)またはプロテインカイネースCの阻害剤〔プロテインカイネースC(19-26)および1-95-(イソキノリンスルホニル)-2-メチルピペラジン二塩酸塩、H-7〕を用いたくも膜下腔内の前処理によって減少させられた。それぞれの物質はホルマリン応答の持続期に作用したが、急性期には作用しなかった。(1328頁)
L-グルタミン酸またはサブスタンスPを用いて処理されたラットにおけるホルマリン侵害行為の増加(痛覚過敏)一酸化窒素阻害剤は、(L-NAME)、アラキドン酸阻害剤(デキサメタゾン)またはプロテインカイネースC阻害剤(H-7)を用いた前処理によって覆された。この結果は、ホルマリン損傷により誘発された組織損傷後の中枢性感作および持続性侵害受容、およびL-グルタミン酸およびサブスタンスPにより引き起こされたホルマリン試験における痛覚過敏は、細胞内メッセンジャーである一酸化窒素、アラキドン酸およびプロテインカイネースCに依存することを示す。(1328頁)
(カ)

TheJournalofNeuroscience.Vol.15,No.11,p.7575-7584(1995)
(甲168)
ホルマリンの後肢への注入は、急性(第1相)及び持続性(第2相)の侵害受容行動を生ずる。このモデルは、持続する痛みの説明に対する中枢性感作(脊髄ニューロンの過興奮)の寄与を裏付ける決定的な証拠を提供した。(7575頁)(キ)

Pain,vol.56,p.51-57(1994)(甲42)

NメチルDアスパラギン酸(NMDA)受容体の過剰活性は、神経障害性疼痛の発生における要因の1つである可能性がある。(51頁)

ケタミンは、ヒトの医療に広く用いられるNMDA遮断薬である。ケタミン(250mcg/kgi.v.低速投与)を、慢性神経障害性疼痛症候群の管理のため、二重盲検プラセボ対照形式で6例の患者に投与した。末梢神経系(PNS)疾患に関連する疼痛を有する患者全3例と、中枢痛および異常感覚症候群を有する患者3例のうち2例が、継続する疼痛の評価で一時的な軽減を示した。患者5例にみられた接触異痛、痛覚過敏および残感覚は、ケタミンの投与後改善した。PNSに関連する神経障害性疼痛を有する患者2例での用量反応評価で、ケタミンは用量依存的に効果を示すことが明らかになった。(51頁)PNSに関連する神経障害性疼痛を有する一人の患者に投与される継続するケタミンの皮下注入は、疼痛の制御において追加の改善を生じなかったが、耐えがたい認知及び記憶の副作用を生じた。一方、単回投与注入の間の副作用はマイルドであり、よく耐えうるものであった。ケタミンは、進行する一定の疼痛よりも、持続する神経障害性疼痛症状において、誘起される疼痛、及び関連する後過敏化に影響を与えた。(51頁)

動物の神経障害性疼痛モデルにおいて示唆されるように(YamamotoとYaksh,1992年)、痛覚過敏はNMDA受容体によって介在される「ワインドアップ現象

の提示である可能性がある。これに関して神経障害性疼痛症候群における痛覚過敏はホルマリン誘発性の痛みの第二相(Haley
等,1990年)と局所貧血の間の痛覚過敏(SherとMitchell,1990年)に類似する。これらはすべて、NMDA受容体介在性の中枢性促通による脊髄レベルでのワインドアップ現象によって生じると思われる。(56頁)」
(ク)

BrainResearch,666,p.104-108(1994)(甲161)

多くの研究は、ホルマリンの痛みの後期相の発達が、初期相の間に生じた神経活動によって生み出された中枢ニューロンの長期的な機能変化(すなわち、中枢性感作)に依存することを示している。(104頁)

末梢組織や神経損傷は、よく幻肢痛、自発痛、痛覚過敏、異痛などの病的疼痛症候群を引き起こす。末梢の神経や組織の損傷後に発生する痛みは、損傷によって引き起こされる中枢神経系機能の長期的な変化(すなわち、中枢性感作)に関連しているという十分な証拠がある[3]。希薄ホルマリンの皮下注射は、痛みの反応の特徴的な二相性プロファイルを生み出す。痛みの初期相は、注射後の最初の5分間に発生し、その後、約10~15分間、ほとんどまたはまったく痛みを生じない。その後、痛みは安定したプラトーに上昇し、約1時間持続する[7]。最近の証拠は、後期相の痛みが部分的に初期相の間に生じた神経活動に依存していることを示している。例えば、局所麻酔薬を脊髄[4]または脊髄上構造[23]に適用して、初期相の間の神経活動を選択的にブロックすると、持続的な後期相の発現が減少する。逆に、後期相でのみ後足を局所的に麻酔しても、疼痛行動が完全になくなるわけではないことから[4]初期相で持続的な神経活動が、生じ、末梢の入力とは無関係に後期相で疼痛行動を引き起こし得ることが示されている。(104頁)(ケ)

ExperimentalNeurology117,p.94-96(1992)(甲164)

アミトリプチンの20mg/kgの投与は、人における長く続く痛みの動物モデルであるホルマリンテストの第2相の痛みを減少させた。(94

頁)
上記で引用した動物モデルの肯定的な発見にかかわらず、それぞれの動物モデルは、これらのデータの解釈に影響を与える特定の欠点がある。テールフリックテストを採用した研究(12)は、短時間の侵害受容刺激に対するテール引き込み潜時を測定した。これは、より長く続く痛みに対する薬物の効果を常に予測するとは限らない鎮痛法である(2、6、。3、7)自切(オートトミー)研究(1、10)では、(治療的抗うつ作用を生み出すために必要な)アミトリプチリンの継続投与が、解釈を複雑にする。薬物の向精神作用自体が、オートトミーにおいて観察された減少の原因の一部または全体である可能性があるためである。これらの欠点を回避するために、本研究では、持続性の臨床的疼痛のモデルと考えられているホルマリン試験(3、7、9)を使用して、アミトリプチリンの単回投与の効果を調査した。(94頁)最近の研究で、短期間の作用を持つ局所鎮痛剤の適用により第1相の痛みに限定して減少させると、第2相の間の痛みの減少がもたらされることから、ホルマリン試験の第2相における痛みの表現は、大部分が、第1相に誘起された中枢ニューロンの活動に依存することが示された(4、11)。アミトリプチリンの制限的な第2相に対する治療効果は、それ故に、相的な痛みに関連する活動とは独立に、この薬剤が持続性または慢性疼痛を減少させ得ることを示している。(95頁)(コ)

Pain,vol.4,p.161-174(1977)(甲43)
疼痛および鎮痛の機構を理解する努力は動物個体の使用に依拠することが多くなっている。これは、動物により感じられる疼痛を定量化する様々な手順の開発を促進してきた〔11〕現在広く使用されているのは、。tailflick試験〔3〕、flinch-jump試験〔5〕、hot-plate試験〔24〕、およびpinch試験〔2、13〕である。これらの手法は、疼痛の研究において、および、可能性がある鎮痛処置を試験することにおいて役立つことが証明された。それらは、組み合わせて採用されると特に有用である〔12〕。(1
61頁)
ラットに適用された際の試験の更なる特徴は、注射後最初の半時間において観察される変化である。疼痛評価カーブが一時的に低下する理由は不明である。おそらく2種類の痛みが作られる:感覚受容器に対するホルマリンの直接的影響によって生じる短期間の痛みと、その後にさらに長く続く炎症による痛みである。(173頁)要するに、ホルマリンテストは様々な鎮痛治療における違いだけでなく、鎮痛の時的変化における評価も可能とする。これは疼痛の閾値を測定するものではないけれども、むしろ比較的長く続く疼痛刺激に対する行動的反応を定量化するものである。したがって、これは実際の病的な状態において見られるような痛みに類似している。このテストは、それ故に、疼痛を評価するために現在利用可能な方法への価値ある追加である。173頁)(
(サ)

NeuroReport,vol.6,p.2301-2304(1995)(甲27)
ホルマリン試験は、動物における侵害刺激のモデルとして使用されてきている。ホルマリンの皮下注射は、ラット、猫、マウス及び霊長類で観察される二相性の侵害応答を引き起こす。早期の激しい応答は、初めの5分内に起こる。応答はその後10~15分間弱まり、注射から20~60分後にかけて遅い穏やかな応答がみられる。earlyphaseとlatephaseにおける侵害受容と脊髄の処理の機序は異なると考えられる。(2301頁)

ホルマリンの皮下注射は、行動性の応答と脊髄後角における神経細胞の発火とによって特徴づけられる二相性の侵害応答を引き起こす。(230

2頁)
初期相の反応は、ホルマリン注射によって生じる一次求心性神経の高レベルの活動によるものである一方で、後期相の反応は、引き続いて誘発される組織の炎症を反映した連続的な低レベルのC線維の活動によるものであることが示唆されている。また、これら2つの相では興奮性アミノ酸とプロスタグランジンが異なって関与することも示唆されている。非ステロイド性抗炎症薬とステロイドが、後期相では鎮痛作用を生むにもかかわらず、ホルマリンによって生じる初期相にほとんどあるいは全く影響を及ぼさないという事実は、後期相における炎症とプロスタグランジンの関与を支持するであろう。(2302頁)(シ)

齋藤洋ら編、

医薬品の開発9巻成2年医薬品の探索〔Ⅰ〕、廣川書店(平


1990)
(乙28の22)

〔実験例2:ホルマリン法〕希釈ホルマリン溶液をラットやマウスの四肢に皮下注射すると、注射肢の屈曲や注射部位をなめる(licking)などの行動を生じる。侵害受容反応は希釈ホルマリン注射直後より発現し(第1相)5~10分後にいったん収まったのち、15分前後から再度発現し始め30~40分間持続する(第2相)第1相の反応はホルムアルデヒドにより侵害受容線維が直接刺激さ。れて発現し、第2相は炎症性反応でプロスタグランジンの生成が関与していると考えられている。(106頁)1回のホルマリン注射で急性刺激と炎症性の持続的刺激を惹起できる点で、ほかの検定法にない特徴を有している。Hunskaarらは、インドメタシンは用量を増加しても第2相の反応のみ抑制し、第1相の反応は抑制しないが、アスピリンは用量を増加すると第1相、第2相とも抑制することを示し、アスピリンの第1相に対する抑制は抗炎症作用によらない鎮痛作用であろうと考察している。ただし、柴田らによればアスピリンも第1相は抑制し難い。図1.30(108頁)
(ス)

Pain,vol.51,p.5-17(1992)(甲45)

主にラットとマウスで使用されている侵害受容のホルマリン試験は、傷害を受けた組織によって発生する中程度の継続的な痛みを伴う。このように、それは閾値強度の短い刺激に頼るほとんどの伝統的な侵害受容の試験とは異なる。本稿では、刺激の特性や侵害受容行動の変化をどのように測定し解釈するかを含め、ホルマリン試験の主な特徴について説明する。ホルマリンへの応答は初期相と後期相を示す。初期相は主に末梢刺激によるC-線維活性化によって引き起こされるように思われるが、後期相は末梢組織における炎症反応と脊髄後角の機能的変化の組み合わせに依存するように思われる。これらの機能的変化は、初期段階のC線維の集中砲火(barrage)によって開始される。(5頁)

結論として、ホルマリン試験は侵害受容を研究するために利用可能な一連の方法への価値ある追加である。(5頁)


テールフリックテストやホットプレートテストなどのほとんどの侵害受容の伝統的なテストは、高強度の一過性の刺激に基づいている。侵害受容体験は短期間であり、したがって刺激自体によって引き起こされる可能性がある調節メカニズムを評価することは不可能である。持続性疼痛は中枢神経系においてこれらの短期間の刺激によって誘発される疼痛とは異なって調節されると信じる理由がある。(5頁)

状況はしかし複雑であり、NSAIDであるインドメタシンは、ホルマリン誘発性の浮腫を抑制するのに特に効果があるというわけではない(Winter1965)

。(8頁)

何名かの研究者等はホルマリンを自己に皮下注射し、その注射後に経験されたヒトにおける痛みは動物における行動反応とほぼ同じ経時変化をたどった(DubbinsonとDennis,1977年)(12頁)

NSAIDであるインドメタシンは、ホルマリン試験の第2相における反応を低下させるが、第1相では効果を持たないことが示されている

(12
頁)

テールフリック、テールピンチまたはホットプレート試験のような、より一過性の刺激による試験とは対照的に、ホルマリンの皮下注射がもたらす刺激は持続性であり、1時間程度の継続時間の行動反応を誘発する。1


2頁)
齧歯類において、この試験の反応の2つの異なる相が、侵害受容の別の側面に対応する。なぜなら、第1相は侵害受容器の直接の化学刺激が原因であると思われるが、一方で第2相は末梢の炎症と、中枢プロセスの変化に依存する。このテストは、侵害反射や閾値の測定を用いたテストよりも、臨床の状況により大きく関係するだろう。(12頁)ホルマリン試験は、基礎的な痛みの研究において用いられる一連の試験に対して重要な貢献をすることが示されている。いくつかの研究分野において、他の試験に比べてかなりの利点を有しており、よって侵害受容の標準的動物モデルの1つと考えるべきである。(13頁)(セ)

NeuroscienceLetters,vol.208,p.45-48(1996)(甲48)

ホルマリン試験は広く用いられる化学物質誘発性の持続性疼痛の行動モデルであるが、一次求心性侵害受容器のホルマリンへの反応についてはあまり知られていない。(45頁)

ホルマリン誘発性の行動の第一相は、ホルマリン誘発性のC線維の一次求心性侵害受容器の活性化を反映しており、第二相は、第一相の間の一次求心性インプットの初期の集中砲火により後角ニューロンが感作(中枢性感作)した結果か、炎症に誘発された一次求心性侵害受容器の活性化の結果か、またはその両方の組合せ[2,15]であるとの仮説が立てられてきた[2,5,13]ホルマリンに対する行動反応の第二相への末梢性侵害受容作用。の寄与については、議論が引き起こされている。(45頁)

総合すれば、これらのデータは、一次求心性作用が、第二相の侵害受容行動の発現に必要とされること、および中枢性感作が第二相の単独の根拠ではないことを示唆している。(45頁)


(ソ)

十時忠秀ら編、
ペインクリニック療法の実際、
南江堂1996甲169、


乙28の11)
このような末梢の知覚神経終末の興奮は、脊髄後角に伝播され、後角ニューロンを興奮させる。痛覚線維が終末するⅠ・Ⅱ層には痛覚刺激に特異的に反応する(NS)ニューロンが分布しており、Ⅰ層にみられる大型のニューロンは視床に投射する。後角深層(Ⅳ・Ⅴ層)に分布する視床投射ニューロンは広作動域(WDR)ニューロンであり、表層に樹状突起を伸ばし、痛覚情報を受け取る。(17頁~18頁)末梢組織の損傷や炎症で知覚神経終末が刺激されたとき、まずこれらのニューロンにどのような時間経過でc-fosが発現するのだろうか。ホルマリンをラットの足底に注入したときの痛みの発現は、疼痛回避行動の解析からearlyphase(10分以内)とlatephase(刺激後15~45分)の2相性を示すことはよく知られている。前者はホルマリンそのものが痛覚受容器を刺激することによる痛みで、後者は二次的に起こる炎症性の痛みであると考えられており、両者とともに後角でのFos発現に関与している。ホルマリン注入後15分で、刺激を与えた側の後角表層にc-fosmRNAを発現する細胞の集積が認められ、30分ではこれらのmRNAを発現する細胞は後角深層にも分布するようになり、60分では後角表層の陽性細胞は減り、深層にさらに強い発現がみられた(図2)。なぜ後角の表層と深層において二相性の発現を示すのかということについては不明であるが、Fos蛋白もやはり表層のほうにはやく現れるようである。(18頁)…増加したダイノルフィンは後角ニューロンの感作(sensitization)に関与していることが考えられる。一方、エンケファリンやガラニンの場合は痛覚抑制の方向に働くと思われる。後角でのFos陽性細胞の発現のパターンを比較してみると、ホルマリン注入、熱刺激、機械的刺激など、刺激の種類によってその分布が異なることが報告されている。ホルマリンを注入した場合は、Fos蛋白の発現は表層と深層の両方に認められる(21頁)
坐骨神経を切断して数日後に同じ電気刺激をすると、後角のⅠ~Ⅴ層にFos陽性細胞が認められるようになる。末梢神経傷害後の異常知覚やアロディニアの発現に、後根神経節や後角ニューロンの異常興奮が関与していることを示している。(23頁)末梢組織での炎症が持続している場合には、後角でのc-fos発現はどうなるだろうか。たとえば、アジュバント関節炎の場合は注射後2時間ではFos蛋白の発現は少ないが、24時間から48時間でピークに達する。しかし、その後減少し1~4週間後にはほとんど認められなくなる。一方、関節炎の症状のピークは2週間であり、プレプロダイノルフィンmRNAやPKC活性は2~4週間の時期に著明に増強しているが、これらの発現がc-fosを介したものとは考えにくい。同じchronicpainといっても、組織の炎症による痛み(inflammatorypain)と神経損傷による痛み(neuropathicpain)ではFos発現のパターンは異なるようである。
(23頁)
疾病のために切断手術を受けるような場合、切断までに疼痛が長く続いた肢ほど幻肢痛も強いことが報告されている。末梢からの侵害刺激が繰り返し脊髄に入力された場合には、脊髄やそれより上位の神経細胞においてwind-up現象やlongtermpotentiationといういわゆるcentralsensitizationが起こることが知られており、これらが幻肢痛の発現に寄与しているものと考えられる。大塚らは心理的な面から幻肢の在り様を分析した。すなわち、失われた肢が欲しいという欲求が強いほど、幻肢は完全な肢の元の型をとり、その欲求が少ないほど幻肢としてイメージされる部分が少なくなるとした。このことは、幻肢痛の治療においても重要な事項である。すなわち幻肢痛は幻肢がなければ発現しないので、幻肢そのものの“量”をコントロールすることが意味をもつと考えられるからである。(254頁)(タ)

齋藤洋ら編、

医薬品の開発9巻成2年医薬品の探索〔Ⅰ〕、廣川書店(平


1990)
(甲64)

6)持続性の痛み(痛覚過敏)を指標にする方法動物を用いて持続的な痛みに有効な薬物を検定するためには、動物の局所に起炎剤を適用し、その炎症部位に生ずる自発痛に伴う仮性疼痛反応や、その部位での疼痛閾値の低下(痛覚過敏)を指標として用いる。(99頁)
起炎剤としてはさまざまな薬物が用いられる。希釈ホルマリンをラットの足蹠に皮下注射したのちに見られる応答のうち、再現性と定量性に優れる注射部位をなめる反応(lickingresponse)頻度の時間経過は、注射直後の急性反応期と、分頃より再び増加しはじめて1時間程度持続する遅延反応期から成る二峰性を示す。これらはそれぞれ急性痛と持続痛を反映していると考えられており、それぞれの痛みに対する作用を同時に評価する鎮痛効力検定法として用いることができる。(99頁)ウ
カラゲニン試験に関する文献の記載事項
(ア)

Pain,vol.32,p.77-88(1988)(甲44)
皮膚の痛覚過敏における熱侵害受容を測定するための新たな精度の高い方法(77頁)
拘束されていない動物における熱刺激に対する皮膚痛覚過敏を測定する方法が記載されている。テストの枠組みは、行動の終点の自動検出を使用し、繰り返しテストしても、観察される痛覚過敏の発症には寄与しない。カラゲニンに誘発された炎症は、食塩水で処置した足と比較して有意に短い足回避潜時をもたらし、そしてこれらの潜時変化は熱侵害受容閾値の低下に対応した。熱的方法およびRandall-Selittoの機械的方法の両方が、用量関連痛覚過敏、および、モルヒネまたはインドメタシンのいずれかによって痛覚過敏を遮断することを検出した。しかしながら、熱的方法はより高いバイオアッセイ感度を示し、侵害受容閾値に加えて他の行動パラメータの測定を可能にした。(77頁)熱刺激を使用することの利点にかかわらず〔5〕痛覚過敏の動物モデル、における熱侵害受容を定量化するための行動的方法は存在しない。動物における急性侵害受容性熱閾値の決定は、主にテールフリックおよびホットプレート法に頼ってきた〔4、21〕。どちらの方法も薬理学的研究で頻繁に使用されているが、エンドポイントの自動検出の欠如(ホットプレート)、独特の非無毛皮膚が鱗のようにはげ落ちる刺激(テールフリック)および、対象内コントロールの可能性を排除する側性の欠如(両方の方法)を含めて、制限が無くはない〔3、14、19〕。加えて、どちらの方法も痛覚過敏に対する行動反応を調査するために拡張されていない。(77頁)。
鎮痛薬によるカラゲニン誘発痛覚過敏の遮断を検出する熱的および機械的方法の能力が、硫酸モルヒネ3mg/kg(MS)またはインドメタシン2mg/kg(INDO)で前処置したラットにおいて評価され、比較された。10匹のラットの4グループが使用された。表Ⅰのように、グループは3回注射を受けた。これら4つのグループはSAL/SAL、CARRA/SAL、CARRA/INDOおよびCARRA/MSと呼ばれる。薬物注射の時間はMSとINDOの鎮痛効果ピークが同時期に生じるように選択された。熱的および機械的刺激に対する行動反応は、ベースライン時および最初の注射の2時間後と3.5時間後に、カラゲニン処置および対側の未処置の後肢の両方について測定された。(79頁)

インドメタシン(2mg/kg)およびモルヒネ(3mg/kg)によるカラゲニン誘発痛覚過敏の遮断を検出する熱的および機械的装置の能力を図7および8に示す。(81頁)

図7。カラゲニン誘発熱的痛覚過敏のモルヒネとインドメタシンの遮断。カラゲニン、インドメタシン(2mg/kg、腹腔内)または生理食塩水(腹腔内)は、第1の矢印で示される時刻ゼロで注射された。モルヒネ(3mg/kg、腹腔内)または生理食塩水(腹腔内)は、60分後(第2の矢印)に注射された。**P<0.01(84頁)

図8。カラゲニン誘発機械的痛覚過敏のモルヒネとインドメタシンの遮断。薬物の用量、投与法及び投与時刻は図7に記載している。**P<0.01


(85頁)
(イ)

EuropeanJournalofPharmacology,vol.194,p.135-143(1991)(甲5
6)
カラゲニン誘導炎症は、1962年Winter等によって説明された、そして、非ステロイド抗炎症薬のスクリーニングのために広く使われるようになっている(OtternessとBliven、1985年)。最近、皮膚の痛覚過敏のモデルとして適合されている(Hargreaves等,1988年)。このモデルにおいて、皮膚の熱痛覚過敏は、熱刺激に対する引っ込め時間の減少によって評価される。(135頁)

データは、炎症状態中のオピオイドの鎮痛作用が脊髄のノルアドレナリン作動性の経路との相互作用に依存する可能性があることを示す。(13


5頁)
末梢性炎症を有する動物に全身投与されたオピオイドの鎮痛効果の増強は、最近、炎症組織内の受容体での薬理作用に基づくものとされた(Jorisetal.印刷中;Steinetal,1988a;1989)。本研究は、片側性のカラゲニン誘発炎性/痛覚過敏が脊髄レベルでのオピオイドアゴニストの鎮痛効果の増加とも関連していることを示す。(135頁)

我々は、片側性カラゲニン誘発の炎症モデルにおけるオピオイドアゴニストの脊髄媒介性の抗侵害受容効果を調べた。(140頁)

(ウ)

Pain,vol.50,p.345-354(1992)(甲57)
これらの結果は、末梢の炎症に続いて、脊髄の伝達及び調節システムの両方で機能的変化が発達することを実証した。μアゴニストであるモルヒネで、オピオイドアゴニストの抗侵害受容性の変動が生じ、大きな変化を示した。(345頁)カラゲニン誘導炎症は、1962年Winter等によって最初に説明された、そして、今日、カラゲニンの足底内注入は、片側のみ(unilateral)の炎症/痛覚過敏のモデルを作製するために、実験的に広く用いられている。(345頁)

本電気生理学的研究は、カラゲニンによって誘起された炎症に続く、後角ニューロンにおけるC線維誘発応答の髄腔内オピエイトに対する過敏さを、非炎症動物に対するものと比較して調査する。345頁~346頁)


椎弓切除に対する脊椎吻側及び尾側はクランプで支持され、コードを堅く固定し、ガラスコートされたタングステン電極を後角に降ろした。(3

46頁)
カラゲニンは、炎症及び痛覚過敏を誘発するために広く用いられている。カラゲニンで処理された動物における多くの行動試験は、有害な圧力(足圧力試験)及び有害な熱に対する足蹠回避を用いて、、炎症状態によって誘起された変化と、これらの変化に対する様々な薬物の効果を決定している。しかし、浮腫の形式は、熱であれ圧力であれ、組織から神経線維を通じた刺激の変換を変化させるので、これらの行動手段の試験により、どのように薬剤の効果が炎症によって影響を受けるのかを比較することには、潜在的な限界がある。そのため、線維に達する刺激の程度が変化しうるので、炎症前後の数値の比較は難しい。本文献で議論しているモデルにより、神経線維は直接刺激され、そのため変化する組織構造という問題をバイパスできる。これらの実験は、神経線維の電気刺激に関する閾値は、炎症では変化しないことを示しており、従って、全ての測定が同じベースラインの下でなされることを保証する。(351頁)ニューロンのC及びAβ線維の両方の応答における変化の方向は、細胞のワインドアップの初期の程度に依存する(図1を見よ)。これは、これらの後角ニューロンにおけるC線維誘起ワインドアップの発現において重要であると示されるN-メチル-D-アスパルテート(NMDA)レセプターの役割を指し示している(351頁)
全身投与されたオピエートアゴニストの抗侵害受容効果の増強は、末梢性炎症誘発後の動物で報告されている(KayserandGuilbaud1983;Neiletal.1986;Jorisetal.1990)。(345頁)
これらの電気生理学的結果は、足へのカラゲニン末梢注射後の炎症の発生が、個別の後角細胞のCおよびAβ線維誘発反応の双方の増加または減少を伴うことを示す。この片側性カラゲニン誘発炎症のモデルにおけるミュー、デルタおよびカッパ選択的オピエートの脊髄媒介性の抗侵害受容効果は、行動研究で示される痛覚過敏のピーク時に調べられた(Hargreavesetal.1988a;Hyldenetal.1991b)(350頁)
カラゲニンは、炎症と痛覚過敏を誘発するために広く使用されている。カラゲニンで処置された動物における多くの行動試験は、炎症状態によって引き起こされる変化およびこれらの変化に対する様々な薬物の効果を決定するために、侵害性の圧力(足圧力試験)および侵害性の熱に対する足蹠回避を使用してきた。(351頁)(エ)
Anesthesiology,vol.83(5),p.1046-1054(1995)(甲146)
侵害刺激への増加した感受性(痛覚過敏)及び通常は痛くない刺激に対する痛みの知覚(異痛)によって特徴付けられる神経障害性疼痛は、治療が難しい。行動的に定義される痛覚過敏や異痛は、末梢の神経障害や組織の炎症などを含む、様々な亜急性の動物モデルで生ずる。モデルは急増しているけれども、神経損傷と炎症のモデルは、結果として得られる痛覚過敏の脊椎での薬理学及び生理学に一般的に違いはない。両方の種類のモデルにおいて、介入から維持される有害な感覚入力は、脊椎でのN-メチルD-アスパルテート(NMDA)レセプターの活動に依存して痛覚過敏を生ずるという強い証拠がある。そのため、NMDAレセプターアンタゴニストのクモ膜下腔内注射は、これらのモデルにおいて痛覚過敏を妨げ、元に戻すのであり、さらにNMDAレセプターアンタゴニストのクモ膜下腔内注射により長く続く神経障害性疼痛の患者の痛覚過敏や異痛が減少するという事実は、これらのモデルが臨床と関係することを示す。(1046頁)アミトリプチリンの全身投与は、炎症性又は神経障害性の痛み(ホルマリン注入、坐骨神経結紮、末梢遮断、神経根遮断、糖尿病性神経障害)の動物モデルにおける痛覚過敏や継続的な疼痛行動を減少させるが、なくすことはない。同様に、アミトリプチリンの全身投与は、ヒトにおける慢性疼痛、帯状疱疹後神経痛、及び糖尿病性神経障害に控え目な効果を示す。(1052頁)
まとめると、クモ膜下腔内のアミトリプチリン投与により、足底内にカラゲニン注射を受けたラットにおける炎症性浮腫に影響を与えることなく、熱痛覚過敏は元に戻った…前臨床のアミトリプチリンの毒性スクリーニングに問題がなければ、この薬剤のクモ膜下腔内注射は、慢性の神経障害性疼痛の治療に対する新たなアプローチを提供することができる。(1053頁)

術後疼痛試験に関する文献の記載事項
(ア)

Pain,vol.64,p.493-501(1996)(甲15の1)
要約本研究で我々は、切開痛のラットモデルを開発した。ハロタン麻酔ラットの皮膚、筋膜、および足蹠の足底側面の筋肉を1-cm縦に切開した。手術前及び手術に続く6日間、創傷周辺のさまざまな領域でフォン・フライの毛を使用して、回避反応を測定した。動物の体重負荷行動に基づく累積疼痛スコアも利用した。回避反応試験及び体重負荷に基づくスコアの結果は、ラット足の外科的切開が、術後数日間続く信頼性のある定量可能な機械的痛覚過敏を引き起こすことを示唆している。足の皮膚と筋膜のみを含み、筋肉を含まない切開は、最初の術後期間中にそれほど重度の痛覚過敏を引き起こさなかった。本モデルにより、手術による感作のメカニズムを理解し、ヒトの術後疼痛の新しい治療法を調査できるであろう。(493頁)術後疼痛は、急性痛の一般的な形態である。効果的な術後の鎮痛は、患者の満足度を改善し、手術後の罹患率を減少させることが可能であり、また、おそらく死亡率を減少させる可能性がある(Scottら、1988)(49
3頁)
手術すべてのラットを、鼻円錐を介して送達される2%ハロタンで麻酔した。その後、各動物の上腕三頭筋にペニシリン(フロシリン🄬)30,000IUを筋肉内注射した。いずれかの後肢の足蹠の足底側面を、10%ポビドンヨード溶液を使用して無菌的に処置し、無菌ドレープの穴に通し静置した(図1A)。踵の端から0.5cm開始し足指の方向に、アンバー11ブレードで皮膚及び筋膜を通して1-cm縦切開した(図1A)。ほとんどの動物において、足底の筋肉を持ち上げ、縦方向に切開した(図1B)。筋肉始部及び筋付着部は損傷しなかった。穏やかな圧力で止血した後、FS-2本の針に5-0ナイロンのマットレス縫合糸2本で皮膚を並置した(図1C)創。傷部位を、ポリミキシンB、ネオマイシン、およびバシトラシン軟膏の混合物で覆った。手術後、動物をケージ内で回復させた。術後1日目の終わりの約30時間後にハロタン麻酔下で縫合糸を除去した。通常、創傷は5~6日以内に十分に治癒した(図1D)。(494頁)
術後検査痛みの行動を評価するために2つの試験が使用された。フォン・フライの毛の適用に対する回避反応と、体重負荷に基づく疼痛スコアリングである。機械的刺激に対する離脱反応。拘束されていないラットを、プラスチックメッシュの高床の透明なプラスチックチャンバー(21x27x15cm)の下に置き、馴化させた。機械的刺激に対する回避反応を、ケージの下からプラスチックメッシュの床(グリッド12x12mm)の開口部を介して創傷に隣接する領域および損傷していない肢の同じ領域に適用された、較正済みのフォン・フライの毛を使用して決定した。各フォン・フライの毛は、15mNを1回適用から開始して、回避反応が発生するか、522mN(カットオフ値)に達するまで継続した。5~10分間の無試験時間の後、回避反応が誘発されるまで、各毛を15mNから1回適用した。(参加者テバ記:1mNは0.1gであるので、15mN、522mNはそれぞれ約1.5g、約52gである。)これは5~10分後に3回繰り返された。反応を生成する3つの試験からの最小の力は、回避の閾値と見なされた。カットオフ値(522mN)は、この力に対する回避反応がなかった場合でも記録された。試験する場所は、試験群によって異なる(詳細については、試験群のセクションを参照のこと)。動物を手術前、術後2時間、及び術後最初の6日の間1日1回検査した。痛みスコア予備研究では、動物が切開された肢に体重をかけていなかったことに注目した。痛みの行動をさらに評価するため、累積疼痛スコアを利用した。非拘束の動物を、透明なプラスチックケージ(21x27x15cm)の下に設置した高床のプラスチック網(グリッド8x8mm)に置き、15分間馴化させた。傾斜した拡大鏡を使用することにより、切開された足を観察することができた。各動物は、1時間の間、5分おきに1分間繰り返し、厳密に観察した。スコアリング期間中に観察された肢の位置に応じて、0、1、または2を付与した。傷が網によって白化したり変形した場合には、足の全重量負荷(スコア=0)を示していた。足が網から完全に外れていた場合には、スコア2と記録した。傷の領域が白化または変形せずに網に触れた場合には、1を付与した。1時間のセッション中に得られた12スコア(0~24)の合計を使用して、切開された肢の痛みを評価した。動物を、手術前(0h)、手術後2時間、1日、2日、3日、4日、および5日目に試験した。(494頁)図3.手術前後の累積疼痛スコアの概要。結果を、1/4および3/4パーセンタイル、10および90パーセンタイルの中央値として表現する。A:皮膚、筋膜および筋肉切開後の疼痛スコア。B:皮膚および筋膜切開後の疼痛スコア。*P<0.05対切開前値(0時間)、ノンパラメトリック分析のためにフリードマン検定及びDunnetによる。♱P<0.05対皮膚および筋膜切開、マン・ホイットニーの順位和検定のみによる。(496頁)
皮膚、筋膜および筋肉の切開を7匹の動物に行い、疼痛スコアにより評価した。前切開の疼痛スコアの中央値は2で、切開後2時間、1日、及び2日でそれぞれ19、16、および11に増加した(P<0.05対0時間、図3A)皮膚と筋膜の切開。(n=7)により、それぞれ、術後2時間、1日及び2日で疼痛スコアの中央値が増加した(P<0.05対0時間、図3B)。両群において、残りの試験期間でスコアが減少し、切開前のスコアと有意な差はなかった。皮膚、筋膜および筋肉の切開の2時間後および1日後に、顕著に高い疼痛スコアが認められた(P<0.05対皮膚、および筋膜切開、図3A、B)。(497頁)
本研究において、切開からおよそ10mm離れた位置の調査は、逃避反射の閾値減少を示した(図4)切開から10mmの一次求心性の感作は起。こらないだろうことから、この離隔した敏感さが示唆するのは、外科的切開が我々の動物において二次痛覚過敏を生ずるだろうということである。人間における切開後の二次痛覚過敏は、女性に行われた腹部子宮全摘出術における筋肉内モルヒネの術前鎮痛作用を評価したRichmondetal.(1993)による研究で示されている。フライのフィラメントを用いて、著者らは、傷の上10cmの位置での痛覚閾値の減少を検出し、これが中枢性感作による二次痛覚過敏であったことを示した。(500頁)
(イ)

J.Physiol,vol.297,p.207-216(1979)(甲58)
2.いくつかの多モード侵害受容器の受容野から5(n=15)mmまたは10(n=12)mm外で小さな損傷を与えた。これは自然発火の発生をもたらし、そして受容野の加熱に対する閾値を低下させた。(207頁)損傷部位での痛覚過敏の他に、それまでに損傷を受けていない皮膚上にも痛みの領域がその周りに発生し(Lewis,1935-36)、これも多モード侵害受容器感作に関連している可能性があるようである。ここで述べられる実験は、多モード侵害受容器がそれらの受容野外での侵害刺激によって感作され得るかどうかを立証するために行われた。Perlら(1974)は、広範囲の皮膚の傷害は損傷場所からいくらかの距離の受容野を持つ多モード侵害受容器の自然発火をもたらし得ることを指摘したが、感作の定量的な測定はなされなかった。(208頁)
(ウ)

Pain,36,p.37-41(1989)(甲52)

要旨ケタミンおよびペチジンの鎮痛効果を、実験的虚血性疼痛および口腔手術後の術後疼痛において比較した。ナロキソン1.6mgまたはプラセボは、鎮痛薬投与の5分前に投与した。被験者は、ビジュアルアナログスケールで痛みを記録した。ケタミン0.3mg/kgおよびペチジン0.7mg/kgはともに、検討した2種の疼痛に対する鎮痛薬として効果を示した。ナロキソンはペチジンの鎮痛作用を妨げたが、ケタミンの鎮痛作用への影響はなかった。この結果は、ケタミンの鎮痛作用が非オピオイド機構によって仲介され、おそらくはPCP受容体により仲介されるNMDA受容体作動性イオンチャネルの遮断が関与するとの仮説と一致する。(37頁)
ケタミンの抗侵害受容効果は、動物疼痛モデルでも見出されている〔15、17〕。ケタミン鎮痛の薬理学的機序は不明である。一部の研究者は、非オピオイド性の機序の証拠を提供している〔6、17〕。他の研究者は、ラットでのケタミン鎮痛がナロキソンによって反転されること〔15〕や、モルモット回腸におけるケタミンのオピオイド効果〔5〕、そして、ケタミンによってオピオイドリガンドがその受容体から除去されること〔5〕を報告している。(37頁)
本件研究では、ボランティアにおける実験虚血性疼痛及び口腔外科手術後の患者における、術後疼痛ケタミンの鎮痛効果を、合成オピオイドであるペチジン(メペリジン)と比較した。ケタミンの鎮痛効果におけるオピオイドメカニズムの役割の可能性を評価するため、これら2つの薬剤の鎮痛効果を阻害するナロキソンの能力を併せて試験した。(37頁)オ
控訴人の主張について
控訴人は、①慢性疼痛に含まれる神経障害性疼痛又は線維筋痛症による痛
覚過敏又は接触異痛の痛みは、炎症、組織の損傷又は神経損傷の後に、神経細胞の感作(末梢性感作、NMDA受容体作動性の中枢性感作)により生
じ、その原因(端緒の原因)にかかわらず、機序が同一であること、②ホルマリン試験の後期相は、痛覚過敏や接触異痛の直接の原因である神経細胞の感作(中枢性感作)を反映したものであること、③本件明細書記載のホルマリン試験、カラゲニン試験及び術後疼痛試験は、いずれも神経細胞の感作を確認する試験として広く用いられていたこと、④神経細胞の感作を抑制する薬剤により、痛覚過敏や接触異痛を抑制できることが知られていたことは、本件出願当時、技術常識であった旨主張する。
(ア)①ないし③について
a
前記アの記載によれば、①痛み(病的な痛み)は、その基礎となる病態生理に著しい差異があり、炎症や組織損傷による侵害レセプターへの過剰な刺激により生じる
侵害受容性疼痛末梢神経又は中枢神経が圧

迫されたり、絞扼されたり、遮断されたりすることにより生じる神経障害性疼痛直接末梢からの侵害刺激がないにもかかわらず、、
訴えられ
る痛みであり、心因性のもので、原因不明の痛みという意味で特発性疼
痛とも呼ばれる心因性疼痛の3つに大別されること、②線維筋痛症は、痛覚過敏を伴う慢性疼痛症候群をいい、心因性疼痛に分類されることもあること、③上記のとおりに分類された痛みの中にも様々なものが存在することは、本件出願当時、技術常識であったことが認められる。

b(a)前記イの記載によれば、
ホルマリン試験
(ホルマリン足蹠試験)
が、
短期の痛みである初期相と長期の痛みである後期相の二相性の行動反応を引き起こすこと、ホルマリン試験が化学物質誘発性の持続性疼痛の有用なモデルであることは、本件出願当時、技術常識であったことが認められる。



次に、前記イの記載中には、ホルマリン試験に関し、
ホルマリンによって生成される求心性集中砲火(barrage)が比較的に短いタイムスパンでNMDA介在性の中枢性活性を誘発し、この誘発された活性が長期間の痛みの状態における侵害受容とその調節の変化の一つの基礎となっている可能性があると思われる。甲46)これらの結果は、(

NMDA受容体において作用するEAAsが、ホルマリン皮下注射に続く中枢感作及び持続性侵害受容の原因となることを示唆する。(甲

47)この結果は、ホルマリン損傷により誘発された組織損傷後の、中枢性感作および持続性侵害受容は、主にNMDA受容体作動性(比較的程度は低いが電位依存性の)カルシウムチャネルを介したカルシウム流入に依存することを示す。(甲49)「結論として、本研究が、

強調するのは、小線維の求心性インプットの鋭い放火に続いて、脊髄処理の重要な変化が生じ、この変化した処理が新規な、そしておそらく予期しない薬理学的な複雑性を反映している。(甲50)この結、
果は、ホルマリン損傷により誘発された組織損傷後の中枢性感作および持続性侵害受容、
およびL-グルタミン酸およびサブスタンスPによ

り引き起こされたホルマリン試験における痛覚過敏は、細胞内メッセンジャーである一酸化窒素、アラキドン酸およびプロテインカイネースCに依存することを示す。(甲51)

このモデルは、持続する痛


みの説明に対する中枢性感作(脊髄ニューロンの過興奮)の寄与を裏付ける決定的な証拠を提供した。(甲168)神経障害性疼痛症候、

群における痛覚過敏はホルマリン誘発性の痛みの第二相(Haley等,1990年)と局所貧血の間の痛覚過敏(SherとMitchell,1990年)に類似する。これらはすべて、NMDA受容体介在性の中枢性促通による脊髄レベルでのワインドアップ現象によって生じると思われる。」
(甲42)多くの研究は、ホルマリンの痛みの後期相の発達が、初、期相の間に生じた神経活動によって生み出された中枢ニューロンの長期的な機能変化(すなわち、中枢性感作)に依存することを示している。(甲161)「最近の研究で、短期間の作用を持つ局所鎮痛剤の、
適用により第1相の痛みに限定して減少させると、第2相の間の痛みの減少がもたらされることから、ホルマリン試験の第2相における痛みの表現は、大部分が、第1相に誘起された中枢ニューロンの活動に依存することが示された」
(甲164)との記載がある。これらの記載

は、ホルマリン試験の後期相における反応は、ホルマリン注射による組織損傷又は求心性集中砲火により誘発された中枢性感作によっ
て発生した痛覚過敏に対する反応である旨の研究結果を示したものといえる。


一方で、
前記イの記載中には、
ラットに適用された際の試験の更なる特徴は、注射後最初の半時間において観察される変化である。疼痛評価カーブが一時的に低下する理由は不明である。おそらく2種類の痛みが作られる:感覚受容器に対するホルマリンの直接的影響によって生じる短期間の痛みと、その後にさらに長く続く炎症による痛みである。(甲43)「初期相の反応は、ホルマリン注射によって生じる、
一次求心性神経の高レベルの活動によるものである一方で、後期相の反応は、引き続いて誘発される組織の炎症を反映した連続的な低レベルのC線維の活動によるものであることが示唆されている。(甲2」
7)ホルマリンをラットの足底に注入したときの痛みの発現は、疼、痛回避行動の解析からearlyphase(10分以内)とlatephase(刺激後15~45分)の2相性を示すことはよく知られている。前者はホルマリンそのものが痛覚受容器を刺激することによる痛みで、後者は二次的に起こる炎症性の痛みであると考えられており、両者ともに後角でのFos発現に関与している。(甲169、乙28の11)「第1相の反、

応はホルムアルデヒドにより侵害受容線維が直接刺激されて発現し、第2相は炎症性反応でプロスタグランジンの生成が関与していると考
えられている。、1回のホルマリン注射で急性刺激と炎症性の持続的」

刺激を惹起できる点で、ほかの検定法にない特徴を有している。(乙

28の22)との記載がある。これらの記載は、ホルマリン試験の後期相における反応は、感覚受容器に対するホルマリンの直接的影響によって生じる短期間の痛みに引き続いて誘発される組織の炎症を反映
した結果によるものであることを示したものといえる。
また、前記イの記載中には、
齧歯類において、この試験の反応の2つの異なる相が、侵害受容の別の側面に対応する。なぜなら、第1相は侵害受容器の直接の化学刺激が原因であると思われるが、一方で第2相は末梢の炎症と、中枢プロセスの変化に依存する。(甲45)と
の記載がある。
この記載は、
ホルマリン試験の後期相における反応は、
炎症性の痛みと中枢性感作の両方の組合せとする研究結果を示したものといえる。

前記(a)ないし⒞の記載に加えて、
ホルマリン誘発性の行動の第一相は、ホルマリン誘発性のC線維の一次求心性侵害受容器の活性化を反映しており、第二相は、第一相の間の一次求心性インプットの初期の集中砲火により後角ニューロンが感作(中枢性感作)した結果か、炎症に誘発された一次求心性侵害受容器の活性化の結果か、またはその両方の組合せ[2,15]であるとの仮説が立てられてきた[2,5,13]。ホルマリンに対する行動反応の第二相への末梢性侵害受容作用の寄与については、議論が引き起こされている。(甲48)との記載を総合考慮すると、ホルマリン試験の後期相における反応と中枢性感作との関係に関する前記⒝の研究結果は、仮説又は推論の域にとどまるものであり、この研究結果から、ホルマリン試験の後期相は、痛覚過敏や接
触異痛の直接の原因である神経細胞の感作(中枢性感作)を反映した
ものであることが、本件出願当時、技術常識であったものと認めることはできない。他にこれを認めるに足りる証拠はない。
また、前記アないしエの記載から、本件出願当時、ホルマリン試験が、神経細胞の感作を確認する試験として広く用いられていたことを認めることはできない。この点に関し、控訴人提出の専門家の意見書
(甲69、124)中には、ホルマリン試験が中枢性感作の研究に用いられ、痛覚過敏や接触異痛の慢性疼痛の研究に有用な動物モデル試験であると知られていた旨の記載があるが、その記載内容は、技術文献の記載事項の一部を断片的に引用した上で、評価ないし結論を述べるというものにとどまるため、上記記載から、本件出願当時、ホルマ
リン試験が、神経細胞の感作を確認する試験として広く用いられていたものと認定することはできない。他にこれを認めるに足りる証拠はない。
c
前記ウの記載によれば、カラゲニン試験は、カラゲニンに誘発された炎症についての痛覚過敏のモデルとして使用されていたことは、本件出願当時、技術常識であったものと認められる。
また、前記ア及びエの記載によれば、術後疼痛は、切開創の痛みであ
り、手術による皮膚、筋膜及び筋肉等の組織の切開によって生じる痛みであること、術後疼痛試験が、ラットの皮膚、筋膜及び足蹠の足底側面の筋肉を切開することにより、痛覚過敏を引き起こし、これに対する薬剤の効果を確かめる試験であることは、本件出願当時、技術常識であったものと認められる。
しかし、前記アないしエの記載から、本件出願当時、カラゲニン試験及び術後疼痛試験が、神経細胞の感作を確認する試験として広く用いら
れていたことを認めることはできない。他にこれを認めるに足りる証拠はない。

d
前記b及びcのとおり、控訴人主張の②及び③は、本件出願当時の技術常識であったものとは認められない。
また、前記アないしエの記載から、慢性疼痛に含まれる神経障害性疼痛又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みは、炎症、組織の
損傷又は神経損傷の後に、神経細胞の感作(末梢性感作、NMDA受容体作動性の中枢性感作)により生じ、その原因(端緒の原因)にかかわらず、機序が同一であること(控訴人主張の①)が、本件出願当時の技術常識であったものと認めることはできない。この点に関し、控訴人提出の専門家の意見書(甲67、68、124、125)中には、痛覚過
敏及び接触異痛がその原因にかかわらず末梢や中枢の神経細胞の感作により生じることや、神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う痛覚過敏や接触異痛がいずれも神経細胞の感作により生じる旨の記載があるが、その記載内容は、技術文献の記載事項の一部を断片的に引用した上で、評価ないし結論を述べるというものにとどまるため、上記記載から、控訴人
主張の①を認定することはできない。他にこれを認めるに足りる証拠はない。
さらに、控訴人は、甲26、162及び163を根拠として挙げて、本件出願当時、線維筋痛症についても、痛覚過敏や接触異痛は、神経細胞の感作(中枢性感作)によるものと理解されていた旨主張する。
しかし、
前記アの記載中には、

線維筋痛症の病因は基本的に不明である。(乙28の21)との記載があり、線維筋痛症に伴う痛みが発生す

る原因は、本件出願当時、解明がされていたものとは認められないことに照らすと、甲26、162及び163から直ちに、控訴人の上記主張を認めることはできない。

(イ)④について
控訴人は、甲26、42、136、146、163、166等を根拠と
して挙げて、
本件出願当時、
中枢神経に作用する薬剤
(例えば、
ケタミン、
アミトリプチリン、ギャバペンチン)により、神経細胞の感作(中枢性感作)を抑制することで、原因にかかわらず、痛覚過敏や接触異痛を抑制できることが知られていた旨主張する。
しかし、ケタミン(甲50)及びアミトリプチリン(甲146)は、本
件発明1及び2の化合物とは化学構造及び作用機序が異なるから、ケタミン及びアミトリプチリンに係る知見をもって、本件発明1及び2の化合物を含む物質全般についてまで、神経細胞の感作(中枢性感作)を抑制することで、原因にかかわらず、痛覚過敏や接触異痛を抑制できることが知られていたとまで認めることはできない。

また、甲136に、

ガバペンチンは、痛みのある末梢性神経障害のラットモデルで異常な痛みを緩和する:‥脳に特有の結合パターンを有する新規な抗てんかん薬であり、その作動メカニズムは知られていない。との記

載があることに照らすと、本件出願当時、ギャバペンチンの作用機序について、中枢性感作を抑制することで、原因にかかわらず、痛覚過敏や接触
異痛を鎮痛すると理解されていたとはいえない。
したがって、控訴人の上記主張は、理由がない。
(ウ)まとめ
以上によれば、本件出願当時の技術常識に関する控訴人の前記主張(①ないし④)は、いずれも採用することができない。
(2)争点1-2(本件特許1、2には、サポート要件違反の無効理由(無効理由2)があるか)について

本件発明1及び2の特許請求の範囲(請求項1及び2)には、本件発明1及び2の痛みの処置における鎮痛剤にいう痛みの用語について規定
した記載はない。

次に、本件明細書には、本件発明1及び2の痛みの用語について定義した記載はないが、
痛みに関し、
本発明は、以下の式Ⅰの化合物の、痛みの処置とくに慢性の疼痛性障害の処置における使用方法である。このような障害にはそれらに限定されるものではないが炎症性疼痛、術後疼痛、転移癌に伴う骨関節炎の痛み、三叉神経痛、急性疱疹性および治療後神経痛、糖尿病性神経障害、カウザルギー、上腕神経叢捻除、後頭部神経痛、反射交感神経ジストロフィー、線維筋痛症、痛風、幻想肢痛、火傷痛ならびに他の形態の神経痛、神経障害および特発性疼痛症候群が包含される。(前記1(2))との記載がある。本件明細書の上記記載及び本件出願当時の痛みの分類等に関する技術常識(前記(1)オ(ア)a)によれば、本件発明1及び2の
痛みの範囲には、

神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛み

が含まれるものと解される。そして、本件明細書の記載(前記1⑷)によれば、本件発明1及び2は、従来の市場にある鎮痛剤(例えば、麻薬性鎮痛剤やNSAID)では、痛みの処置特に慢性の疼痛性障害の処置に関し、不十分な効果又は副作用からの
限界により、不完全な処置しか行われていなかったという問題があったことに鑑み、本件発明1及び2の痛みの範囲に含まれるすべての痛みに対して鎮痛効果を有する鎮痛剤を提供することを課題とするものと認められる。

本件発明2の特許請求の範囲の請求項2(

化合物が、式IにおいてR3およびR2はいずれも水素であり、R1は-(CH2)0-2-iC4H9である化合物の(R)(S),,または(R,S)異性体である請求項1記載の鎮痛剤

)の記載に照らすと、本件発明2の化合物は、本件発明1の化合物の範囲に含まれるものである。

本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明2の化合物を線維筋痛症や神経障害等の痛みの処置における鎮痛剤として使用することについての一般
的な記載があるが(前記1⑵及び⑷)、一方で、本件発明2の化合物を神経
障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤として使用することについて明示の記載はない。
また、本件明細書の発明の詳細な説明には、本件発明2の化合物に該当するCI-1008及び3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸を用いたラットホルマリン足蹠試験結果、CI-1008を用いたラットカラゲニン誘発機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏に対する試験結果、本件発明2の化合物に該当するS-(+)-3-イソブチルギャバを用いたラット術後疼痛モデルにおける熱痛覚過敏及び接触異痛に対する試験結果の記載がある(前記1
⑶、⑹、⑺及び⑼)。
しかし、前記⑴オ(ア)dの認定事実に照らすと、上記試験結果は、いずれも神経障害又は線維筋痛症による痛みの処置に本件発明2の化合物を使用した試験に関するものといえないから、上記試験結果から、本件発明2の化合物が、

神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛み


対して鎮痛効果を有することを認識することはできない。
そうすると、当業者は、本件明細書の発明の詳細な説明の記載及び本件出願当時の技術常識から、本件発明1の化合物の範囲に含まれる本件発明2の化合物が、本件発明1及び2の痛みの範囲に含まれるすべての痛みに対して鎮痛効果を有する鎮痛剤を提供するという本件発明1及び2の課題
を解決できるものと認識することはできないから、本件発明1及び2は、いずれも本件明細書の発明の詳細な説明に記載したものと認めることはできない。
したがって、本件発明1及び2は、サポート要件に適合しない。これに反する控訴人の主張は採用することができない。

(3)争点2-3-2(本件訂正により、無効理由2が解消するか)について
控訴人主張の本件訂正は、請求項1について、
痛みを痛覚過敏又は接触異痛の痛みと訂正し、請求項2について、式Ⅰの構造式を追加し、
請求項1記載のを

神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における

と訂正することにより、痛みを

神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛み

に特定し、請求項1を引用せずに、独立形式に改めるものである。
そうすると、本件訂正により、本件訂正後の請求項1は、請求項1記載の痛みを痛覚過敏又は接触異痛の痛みに特定し、本件訂正後の請求項2は、請求項1記載の痛みを特定した本件訂正後の請求項1の痛覚過敏又は接触異痛の痛みを更に

神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛み

に特定するものといえる。しかるところ、前記(2)認定のとおり、当業者は、本件明細書の発明の詳細な記載及び本件出願当時の技術常識から、本件発明1の化合物に含まれる本件発明2の化合物が、

神経障害又は線維筋痛症による、痛覚過敏又は接触異痛の痛み

に対して鎮痛効果を有することを認識することはできないから、本件訂正によっても、本件発明1及び2の痛みの範囲に含まれるすべての痛みに対して鎮痛効果を有する鎮痛剤を提供するという本件発明1及び2の課題を解決できるものと認識することはできない。
したがって、本件訂正によって、本件発明1及び2のサポート要件違反の無
効理由が解消するものと認めることはできないから、本件訂正の再抗弁は、その余の点について判断するまでもなく、理由がない。
(4)小括
以上によれば、本件発明1及び2に係る本件特許には、サポート要件違反の無効理由(特許法36条6項1号、123条1項4号)が存在し、特許無効審
判により無効にされるべきものと認められるから、控訴人は、被控訴人らに対し、特許法104条の3第1項の規定により、本件発明1及び2に係る本件特
許権を行使することができない。
したがって、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の本件発明1及び2に係る本件特許権に基づく請求は、いずれも理由がない。
3
本件特許3、4関係
(1)

争点5(被告ら医薬品の本件発明3及び4の構成要件充足性)について争点5-1(被告ら医薬品は、

炎症を原因とする痛み、又は手術を原因とする痛みの処置における

(構成要件3B)鎮痛剤といえるか)について
(ア)a

本件発明3の特許請求の範囲(本件訂正後の請求項3)には、本件
発明3の

炎症を原因とする痛み、又は手術を原因とする痛みの処置における鎮痛剤

にいう炎症を原因とする痛み及び手術を原因とする痛みの用語について規定した記載はない。次に、本件明細書には、
発明の背景として、

本発明は、痛みの治療において鎮痛/抗痛覚過敏作用を発揮する化合物としてのグルタミン酸およびγ-アミノ酪酸(GABA)の類縁体の使用である。(前記1


⑴)との記載があり、
発明の概要として、
本発明は、以下の式Ⅰの化合物の、痛みの処置とくに慢性の疼痛性障害の処置における使用方法である。このような障害にはそれらに限定されるものではないが炎症性疼痛、術後疼痛、転移癌に伴う骨関節炎の痛み、三叉神経痛、急性疱疹性および治療後神経痛、糖尿病性神経障害、カウザルギー、上腕神経叢捻除、後頭部神経痛、反射交感神経ジストロフィー、線維筋痛症、痛風、幻想肢痛、火傷痛ならびに他の形態の神経痛、神経障害および特発性疼痛症候群が包含される。(前記1⑵)との記載があり、発明の詳述と
して、
本発明は、上記式Ⅰの化合物の上に掲げた痛みの処置における鎮痛剤としての使用方法である。痛みにはとくに炎症性疼痛、神経障害の痛み、癌の痛み、術後疼痛、および原因不明の痛みである特発性疼痛たとえば幻想肢痛が包含される。(前記1⑷)との記載がある。
前記2⑴オ(ア)a及びc認定の本件出願当時の技術常識に照らすと、本件明細書記載の炎症性疼痛及び術後疼痛は、それぞれ炎症
又は
組織損傷
による侵害レセプターへの過剰な刺激により生じる
侵害受容性疼痛であるものと理解できる。
また、本件明細書には、構成要件3Aを充足する本件化合物の一種で
あるCI-1008及びS-(+)-3-イソブチルギャバについて、ホルマリン試験、カラゲニン試験及び術後疼痛試験を実施し、鎮痛効果があったことが記載されている(前記1⑶、⑹、⑺及び⑼)。
以上の本件発明3の特許請求の範囲(本件訂正後の請求項3)の記載及び本件明細書の記載を総合すると、構成要件3Bの炎症を原因とする痛み及び手術を原因とする痛みとは、侵害受容性疼痛である炎症性疼痛及び術後疼痛を意味するものと解される。b
これに対し、控訴人は、本件出願当時の技術常識を踏まえると、本件明細書記載のカラゲニン試験や術後疼痛試験によって、神経細胞の感作
により生じる神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛等の慢性疼痛に共通する痛覚過敏や接触異痛に対する効果が確認されたものといえることに照らすと、構成要件3Bの炎症を原因とする痛み及び手術を原因とする痛みには、神経の病変や疾患、損傷が関与するか否かにかかわらず、炎症や手術によって生じる痛覚過敏や接触異痛の全てが含まれ
ると解すべきである旨主張する。
しかしながら、前記2(1)オで説示したとおり、
慢性疼痛に含まれる神経障害性疼痛又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みは、炎症、組織の損傷又は神経損傷の後に、神経細胞の感作(末梢性感作、NMDA受容体作動性の中枢性感作)により生じ、その原因(端緒の原因)にかかわらず、機序が同一であること及び

本件明細書記載のカラゲニン試験及び術後疼痛試験は、いずれも神経細胞の感作を確認する試験として広く用いられていたこと

が、本件出願当時の技術常識であったものとは認められないから、
控訴人の上記主張は、
この点において、
その前提を欠くものである。
また、前記2⑵イで説示したとおり、本件明細書記載のCI-1008を用いたラットカラゲニン誘発機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏に対する試験結果、S-(+)-3-イソブチルギャバを用いたラット術後疼痛モデルにおける熱痛覚過敏及び接触異痛に対する試験結果は、いずれも神経障害又は線維筋痛症による痛みの処置に本件発明3の化合物(本件化合物)を使用した試験に関するものではないから、控訴人の上記主
張は、この点においても、その前提を欠くものである。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。
(イ)a

前記前提事実(6)アのとおり、被告ら医薬品は、効能・効果を神経障
害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛とする疼痛治療剤であり、侵害受容性疼痛である炎症を原因とする痛み(炎症性疼痛)及び手術を原因とする痛み(術後疼痛)の鎮痛剤であるとは認められないから、構成要件3Bを充足するものと認められない。
b
これに対し、控訴人は、①本件出願当時、痛みを組織損傷、炎症、神経損傷又は心因性の要因といった原因により明確に区別することはできず、炎症性疼痛や術後疼痛と神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う痛み
は、相互に重複する痛み(
混合性疼痛
)であると理解されていた(甲
126ないし132、137、138)
、②被告ら医薬品は、このような
混合性疼痛を生じた患者の痛みの処置に用いられるから、構成要件3Bの炎症を原因とする痛み及び手術を原因とする痛みは侵害受容
性疼痛に限られるか否かにかかわらず、
被告ら医薬品は、
炎症を原因とする痛み及び手術を原因とする痛みに対する鎮痛効果をも奏するから、構成要件3Bを充足する旨主張する。

しかしながら、本件出願当時、痛みは、その基礎となる病態生理に著しい差異があり、
侵害受容性疼痛神経障害性疼痛心因性疼痛


の3つに大別されることは、技術常識であったところ(前記2⑴オ(ア)a)
、控訴人の挙げる甲126ないし132、137、138から、侵害受容性疼痛である炎症性疼痛や術後疼痛が生じると、必ず神経障害性疼
痛や心因性疼痛である線維筋痛症に伴う痛みを生じることが技術常識であったものと認めることはできない。他にこれを認めるに足りる証拠はない。
そして、被告ら医薬品は、効能・効果を神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛とする疼痛治療剤であることからすると、
被告ら医薬品が、

侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛といった痛みの病態が臨床的にオーバーラップするような患者に適用されることがあったとしても、もっぱら神経障害性疼痛の治療を目的として適用されるものと認められるから、当業者が、これを一つの混合性疼痛として理解し、炎症性疼痛又は術後疼痛に対して有効である鎮痛剤が神経障害性疼痛又は線維筋痛症に伴う
痛みに対しても有効であり、逆に、神経障害性疼痛又は線維筋痛症に伴う痛みに対して有効である鎮痛剤が炎症性疼痛又は術後疼痛に対しても有効であると認識していたものと認めることはできない。
したがって、控訴人の上記主張は採用することができない。

争点5-2(被告ら医薬品は、

炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み、又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みの処置における

構成要件4(
B)鎮痛剤といえるか)について
本件発明4の特許請求の範囲(本件訂正後の請求項4)
」には、

炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み、又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みの処置における

(構成要件4B)
鎮痛剤
(構成要件4C)との記載が
ある。

そして、前記ア(ア)aで説示したとおり、構成要件4Bの炎症性疼痛及び術後疼痛とは、構成要件3Bの炎症を原因とする痛み及び手術を原因とする痛みと同様に、侵害受容性疼痛である炎症性疼痛及び術後疼痛を意味するものと解される。また、構成要件4Bの炎症性疼痛及び術後疼痛には、神経の病変や疾患、損傷が関与するか否かにか
かわらず、炎症や手術によって生じる痛覚過敏や接触異痛の全てが含まれるものといえないこと、当業者が、被告ら医薬品を一つの混合性疼痛の治療剤として理解し、炎症性疼痛又は術後疼痛に対して有効である鎮痛剤が神経障害性疼痛又は線維筋痛症に伴う痛みに対しても有効であり、逆に、神経障害性疼痛又は線維筋痛症に伴う痛みに対して有効である鎮痛剤が炎症性疼痛又
は術後疼痛に対しても有効であると認識していたものと認めることはできないことは、前記ア(ア)bで説示したとおりである。そうすると、構成要件4Bの

炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み、又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛み

とは、侵害受容性疼痛である炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み、又は侵害受容性疼痛である術後疼痛による痛覚過敏若し
くは接触異痛の痛みを意味するものと解される。
しかるところ、前記前提事実(6)アのとおり、被告ら医薬品は、効能又は効果を神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛とする疼痛治療剤であり、侵害受容性疼痛である炎症性疼痛及び術後疼痛の鎮痛剤であるとは認められないから、構成要件4Bを充足するものと認められない。

(2)

争点6及び7
(被告ら医薬品は、
本件発明3及び4に係る特許請求の範囲に

記載された構成と均等なものといえるか)について

被告ら医薬品が本件発明3の構成と均等なものであるかについて
(ア)控訴人は、
本件発明3は、
慢性疼痛に対する画期的処方薬として、
抗て

んかん作用を有するGABA類縁体を痛みの処置に用いることを見いだしたものであり、その本質的部分は本件化合物を慢性疼痛の処置に用いる点
にあるから、対象となる痛みが侵害受容性疼痛か、神経障害性疼痛や線維筋痛症かは本質的部分ではなく、効能・効果を神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛とし、
慢性疼痛の処置に用いる鎮痛剤である被告ら医薬品は、
均等論の第1要件を満たすと主張する。
しかし、本件明細書の記載(前記1⑷)によれば、本件発明3は、本件
発明3の

炎症を原因とする痛み、又は手術を原因とする痛み

の範囲に含まれるすべての痛みに対して鎮痛効果を有する鎮痛剤を提供することを課題とするものと認められること、痛みは、その基礎となる病態生理に著しい差異があり、侵害受容性疼痛」神経障害性疼痛」心因性疼痛」、「、「の3つに大別されることは、本件出願当時の技術常識であったこと(前記2⑴オ(ア)a)に照らすと、いかなる痛みに対して鎮痛効果を有するかは、本件発明3において本質的部分であるというべきであり、その鎮痛効果の対象を異にする被告ら医薬品は、本件発明3の本質的部分を備えているものと認めることはできない。したがって、本件発明3に係る特許請求の範囲(本件訂正後の請求項3)に記載された構成中の被告ら医薬品と異なる部分が本件発明3の本質的部分でないということはできないから、被告ら医薬品は均等論の第1要件を満たさない。(イ)以上によれば、その余の点については判断するまでもなく、被告ら医薬品は、本件発明3の特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとは認められない。これに反する控訴人の主張は採用することができない。イ被告ら医薬品が本件発明4の構成と均等なものであるかについて本件明細書の記載(前記1⑷)によれば、本件発明4は、本件発明4の「炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み、又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みの範囲に含まれるすべての痛みに対して鎮痛効果を有する鎮痛剤を提供することを課題とするものと認められること、痛みは、その基
礎となる病態生理に著しい差異があり、侵害受容性疼痛」神経障害性疼痛」

、「、「心因性疼痛

の3つに大別されることは、本件出願当時の技術常識であったこと(前記2⑴オ(ア)a)に照らすと、いかなる痛みに対して鎮痛効果を有するかは、本件発明4において本質的部分であるというべきであるから、その鎮痛効果の対象を異にする被告ら医薬品は、本件発明4の本質的部分を
備えているものと認めることはできない。
したがって、本件発明4の特許請求の範囲(本件訂正後の請求項4)に記載された構成中の被告ら医薬品と異なる部分が、本件発明4の本質的部分でないということはできないから、被告ら医薬品は、均等論の第1要件を満たさない。これに反する控訴人の主張は採用することができない。



小括
以上によれば、被告ら医薬品は、本件発明3及び4の各技術的範囲に属するとは認められないから、その余の点について判断するまでもなく、控訴人の本件発明3及び4に係る本件特許権に基づく請求は、いずれも理由がない。
第5

結論
以上のとおり、控訴人の請求は、いずれも理由がないから、これらを棄却した原判決は、相当である。
よって、本件控訴は、理由がないから、これを棄却することとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部

裁判長裁判官

大鷹一郎
裁判官

小川卓逸
裁判官

遠山敦士
(別紙)

物件目録1
(S)-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸(一般名:プレガバリン)を有効成分とし、
効能又は効果として神経障害性疼痛又は線維筋痛症に伴う疼痛を含む医薬品(商品名が以下のものを含む。)
1プレガバリンOD錠25mgニプロ
2プレガバリンOD錠75mgニプロ
3プレガバリンOD錠150mgニプロ

(別紙)

物件目録2

(S)-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸(一般名:プレガバリン)を有効成分とし、
効能又は効果
として
神経障害性疼痛線維筋痛症に伴う疼痛
又は
を含む医薬品(商品名が以下のものを含む。

1プレガバリンOD錠25mgZE
2プレガバリンOD錠75mgZE

3プレガバリンOD錠150mgZE

(別紙)

図面目録

【図1a】

【図1b】

【図1c】

【図1d】
【図1e】

【図1f】

【図2a】

【図2b】

【図3a】

【図3b】

【図4a】

【図4b】

【図4c】

【図5a】

【図5b】

【図5c】
【図6a】

【図6b】

以上
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