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傷害致死被告事件
事件番号令和4(わ)11
事件名傷害致死被告事件
裁判年月日令和4年6月23日
法廷名札幌地方裁判所
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-06-23
情報公開日2022-07-14 04:00:08
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令和4年6月23日宣告
令和4年(わ)第11号
判決
上記の者に対する傷害致死被告事件について、当裁判所は、裁判員の参加する合議体により、検察官大友隆及び同下村陸博並びに国選弁護人杉本博丈(主任)及び同髙野俊太郎各出席の上審理し、次のとおり判決する。
主文
被告人を懲役7年に処する
未決勾留日数中100日をその刑に算入する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、令和3年12月23日頃、札幌市a区bc条d丁目e番f号被告人方において、同居していた実母である被害者(当時82歳)に対し、その頭部、顔面、前胸部及び背部等を多数回にわたり拳で殴打し、足で踏み付けるなどの暴行を加え、よって、同人に頭部顔面の多量皮下出血、外傷性くも膜下出血、多発肋骨骨折、右腎破裂及び腰椎横突起骨折等の傷害を負わせ、その頃、同所において、同人を前記傷害に基づく外傷性ショックにより死亡させた。
(証拠の標目)省略
(争点に対する判断)
1
争点
本件の争点は、①被害者の死因となった傷害が被告人の暴行によるものと認めら
れるのか、それとも被害者が自ら階段で転倒落下したという被害者自身の行為による合理的疑いがあるか(暴行の内容及び死亡との因果関係の有無)、及び②被告人が捜査機関に自己の犯罪事実を申告したといえるか(自首の成否)である。2
争点①について



被害者の負った傷害の内容について、被害者の遺体を解剖したA医師の所見等
によれば、以下の事実を認めることができ、争いもない。
被害者の死亡推定時刻は、解剖が開始された令和3年12月24日午前10時から遡って15時間以上24時間以内である。被害者には、死亡する数時間から半日程度前に生じたと考えられる主な損傷として、頭部・顔面に、広範囲の皮下出血、左眼窩部の骨折、右耳介の皮下出血、外傷性くも膜下出血等の傷害があった。特に左前額部の皮下出血は、皮下組織が挫滅し、皮膚からはがれて、その一帯が空洞化して、デコルマンと呼ばれる状態になっていた。また、前胸部・右腰部から右側胸部・左腰部から左側腹部に、左第3・第5・第6・第9ないし第12肋骨骨折、右第5ないし第12肋骨骨折、右腎破裂、左右の腰椎横突起骨折等の傷害があった。頭部・顔面・右腰部から右側胸部・左腰部から左側腹部の損傷の程度はいずれも重傷であり、どれか1つでも生じると死に至る危険があった。被害者は、これら重度の損傷に基づく外傷性ショックにより死亡した。


A医師は、被害者の死因となった傷害等がどのように形成されたものかについ
て、以下のとおり証言する。

頭部・顔面の皮下出血は、これらの部位への作用は限局した範囲になるにもか
かわらず出血範囲が広く、出血量が多いことからすれば、比較的平滑な幅の狭い鈍体による打撃又は強い圧迫(以下打撃等という。)が多数回加えられたと考えられる。特に、左前額部の皮下出血がデコルマンと呼ばれる状態になっていたことからすれば、拳やかかとなどの比較的作用面の小さい鈍体による打撃等が何度も繰り返されたと考えられる。これらの皮下出血が生じた部位に、階段の縁のような角稜のある鈍体によって生じるような表皮剥奪や挫裂創は認められなかった。左眼窩部の骨折については、眼球は破裂していないが、眼球の周りの骨が割れていることからすれば、目の付近を複数回攻撃されたと考えられる。また、眼窩の周辺には、額、鼻、頬などの突き出た部分があるから、力を分散させることなく眼窩に力を加えるには、眼窩に集中して押し込む力を加える必要があり、拳などかなり幅の狭い鈍体によって形成されたと考えられる。

右耳介の皮下出血は、出血量が多量であったことから、鈍体による多数回にわたる打撃等があったと考えられる。また、右耳の周辺には皮下出血がなかったことから、右耳に局所的に打撃等があったと考えられ、拳やかかとなど作用面が小さい鈍体によって形成されたと考えられる。右耳には、角稜のある鈍体に強く衝突したことによる挫裂創等の傷がない。

被害者の胴体の損傷についてみると、被害者の胴体の前記各損傷が生じた部位
には、階段の縁等の角稜のある鈍体とぶつかって負った場合にはできるであろう挫裂創や表皮剥奪などの痕跡がなかった。
個々の損傷についてみると、多発肋骨骨折は、左第3・第5・第6肋骨が骨折しているのに第4肋骨は骨折していなかったり、左第12肋骨では近接した2か所が折れていたりするなど、骨折部位が限局的かつ複数箇所に生じていることから、拳やかかとなど作用面の小さい鈍体による打撃等により生じたと考えられる。右腎破裂について、腎臓が破裂するには、背中側から腎臓のある局所的な部位に集中的にめり込むような強い力が掛かる必要があり、かかとで強く踏みつけるなど作用面が小さい鈍体による強い打撃等によって生じたと考えられる。階段からの転倒落下では、局所的に食い込むことができないので、腎臓だけを損傷するとは考え難いし、背中側を打ち付けた力が前方に逃げてしまい集中的な力を加えることができないから、腎臓が破裂するとも考え難い。
腰椎横突起骨折については、腰椎から背中側に飛び出た棘突起の骨折はないが、左右の横突起が骨折していることから、かかとなど作用面の小さい鈍体が背中側から局所的集中的に横突起部に作用し、身体の内側にまで食い込んで押し込む力が働いたと考えられる。


そこで検討すると、前記⑵の各傷害について、階段の縁のような角稜のある鈍
体によって生じたとは考え難く、拳やかかとなど作用面の小さい鈍体によって生じたというA医師の証言は、法医学の専門家として十分な学識経験を有する医師が、実際に被害者の遺体を解剖して得られた知見である上、その内容も合理的であり、
信用性は高い。被害者の複数の肋骨には一直線に折れている箇所があるものの、挫裂創や表皮剥脱などの痕跡がなく、階段の縁等に衝突した疑いを生じさせるものではない。
弁護人は、階段から落ちたとしても、擦過傷や挫裂創が生じるとは限らないと主張する。しかし、前記の多発肋骨骨折や腰椎横突起骨折、右腎破裂等の傷害が生じる程の強い力で階段の縁等と衝突した場合には、それらの損傷部位の外表が着衣で覆われていたとしても、外表に挫裂創や表皮剥脱などの痕跡が生じると考えられる。また、弁護人は、被告人の拳の状態からして、多数回被害者を殴打したとは考えにくいとも主張するが、A医師は、拳以外にも、かかとや膝など身体の他の部位で行われた可能性もある旨証言しており、その説明に疑いは生じない。さらに、弁護人は、A医師が、被害者の手などに防御創がなかったことから一方的に暴行を加えられたと考えられるとも証言していることについて、何度も暴行を加えられたのであればその過程で何ら防御しないのは不自然であると主張するが、被害者が、被告人に背部等から攻撃されたり、失神したりしたことなどにより、暴行に対して防御できなかったと理解することが可能であり、A医師の証言内容に疑問を生じさせるものではない。
したがって、A医師が証言するとおり、死因となった被害者の前記傷害は、拳やかかとなど作用面の小さい鈍体で、多数回、打撃等が加えられて生じたものであると考えられ、階段からの転倒落下により生じたものとは考えられない。そして、前記傷害が生じたと考えられる令和3年12月23日頃、被告人方には被告人と被害者の二人きりであったことを踏まえると、被害者の前記傷害は、被告人が判示の暴行を加えたことにより生じたものであると認められる。


これに対し、被告人は、被害者に対し、その顔面を2発殴打し、頭部を2回踏
み付ける暴行は加えたが、それ以外の暴行は加えていない、その後階段から落ちて負傷した様子の被害者を補助して2階まで連れて行ったなどと供述する。しかし、被告人の供述は前記A医師の証言と相反し、客観的な被害者の負傷状況
と整合しない上、介助を受けながらであるとしても、前記のような重い傷害を負った被害者が自らの足で階段を上って2階の部屋に移動できるとは考え難く、被告人の供述は不自然であり、信用できない。


以上のとおり、被害者の死因となった傷害は被告人の暴行によるものと認めら
れる。
3
争点②について
被告人は、同日午後10時19分頃、交番へ通報し、

私はbc条d丁目e番f号に住むB〔被告人の苗字〕と言います。

母親とケンカして母親を殴ってしまいました。

今、母親の様子を見たら、息をしていなく死んでるみたいです。

などと伝えた。また、被告人は、逮捕前の時点において、警察官に対し、母と口げんかとなり、母の顔面を右手の拳で2回殴り、頭を2回右足で踏みつけた、その後、母を2階で寝かせていたら死んでいた旨供述した。
争点①の結論及び以上の事実関係によれば、被告人は、判示のとおりの暴行に及んだにもかかわらず、暴行の回数等を過少に偽り、死因となった傷害を生じさせた暴行の大半を隠して申告しているから、捜査機関に自己の犯罪事実を申告したとはいえず、自首は成立しない。
(法令の適用)省略
(量刑の理由)
被告人は、同居していた高齢の被害者に対して、一方的かつ執ように、判示のとおりの多数回で強度の暴行を加えており、犯行態様は極めて悪質である。被告人は、被害者から、認知症のような言動をされたり、子供がいないことを非難されるなどして不満をため込んでいたところ、口論をきっかけに暴行に及んだ旨供述する。この被告人の心情には同情できる部分もあるものの、被告人の供述を前提としても、被害者の症状は深刻なものではないし、仮に被害者との生活に負担を覚えたなら、第三者に助力を求めることもできたはずなのに、意に沿わない行動をする被害者に暴力的に対応していたとうかがわれ、その中で怒りのままに本件犯行
に至ったものであるから、酌量の余地は乏しい。思いがけず一人娘である被告人に命を奪われた被害者の無念は察するに余りある。
また、被告人は、被害者が瀕死の状態にあることを認識しつつも、救護措置や119番通報などを行っておらず、これにより死の結果発生の危険性が高まったといえ、犯行後の行動も悪質である。
そうすると、本件は親に対する傷害致死事案の中でも重い部類の事案である。以上の事情に加え、被告人が、不合理な弁解に終始して真摯な反省に欠ける一方、前科がなく、再犯可能性も低いといえることなども併せ考慮して、主文の刑に処するのが相当であると判断した。
よって、主文のとおり判決する。
(求刑

懲役10年

弁護人の科刑意見

保護観察付執行猶予判決)

令和4年6月28日
札幌地方裁判所刑事第3部

裁判長裁判官

井下田

英樹
裁判官

加島一十
裁判官

後藤紺
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