判例検索β > 令和1年(ワ)第382号
損害賠償請求事件
事件番号令和1(ワ)382
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日令和4年6月24日
法廷名福岡地方裁判所  久留米支部
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-06-24
情報公開日2022-07-09 04:00:08
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
主1文
被告は、原告Aに対し、1830万0851円及びこれに対する平成29年1月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
被告は、原告Bに対し、1830万0851円及びこれに対する平成29年1月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3
原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

4
訴訟費用はこれを20分し、その17を被告の負担とし、その余を原告らの負担とする。

5
この判決は、第1項、第2項に限り、仮に執行することができる。事実及び理由

第1
1
請求
被告は、原告Aに対し、1940万4936円及びこれに対する平成29年1月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

2
被告は、原告Bに対し、1940万4936円及びこれに対する平成29年1月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3
被告は、原告Aに対し、220万円及びこれに対する令和元年11月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4
被告は、原告Bに対し、220万円及びこれに対する令和元年11月29日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2

事案の概要

1
事案の要旨
本件は、被告が設置する小学校において、体育の授業としてサッカーが実施されていたところ、
同校の運動場に設置されていたフットサルゴールポスト
(以
下本件ゴールポストという。
)が転倒し、当時小学校4年生であったC(以

下亡Cという。
)がその下敷きになって死亡した事故(以下本件事故と
いう。に関し、

亡Cの両親であり、
亡Cの相続人である原告らが、
被告に対し、
①主位的に、上記小学校の教員らには、本件ゴールポストを適切に固定しなかったなどの安全配慮義務違反があるとして、国家賠償法(以下国賠法という。
)1条1項に基づき、予備的に、本件ゴールポストには設置又は管理の瑕疵があるとして、国賠法2条1項に基づき、本件事故により亡Cに生じた損害及び原告らの固有の損害の合計としてそれぞれ1940万4936円及びこれに
対する本件事故日(不法行為の日)である平成29年1月13日から支払済みまで平成29年法第44号による改正前の民法(以下、単に民法という。)
所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに、②被告は、原告らと被告との間の在学契約関係上の付随義務として、原告らに対し、本件事故について十分に調査を行い、その結果を原告らに報告し、調査に関して原告
らの意向を確認し配慮する義務があるにもかかわらず、被告がこれらの義務を怠ったなどと主張して、国賠法1条1項に基づき、それぞれ損害賠償金220万円及びこれに対する訴状送達の日の翌日(不法行為の後の日)である令和元年11月29日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事件である。

2
前提事実(争いのない事実並びに証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)
(1)

当事者
亡C(平成▲年▲月▲日生)は、平成29年1月13日当時、福岡県大川市立D小学校(以下本件小学校という。
)に在籍していた小学4年生

(身長135cm)であった。

原告A(以下原告父という。
)は、亡Cの父であり、原告B(以下原告母という。
)は、亡Cの母である。


被告は、地方公共団体であり、本件小学校の設置者である。
Eは、本件事故当時、本件小学校の校長であった(以下本件校長という。。

F(以下F教員という。
)及びG(以下G教員という。
)は、本
件事故当時、本件小学校の安全点検担当者であった。
H(以下H教員という。
)は原告のクラス担任、I(以下I教員
という。
)は隣のクラスの担任であった。
(2)

事故に関する事実経過
本件小学校の運動場において、
平成29年1月13日午前9時40分頃、
4年生の体育科の合同授業として、サッカーが実施されていた。亡Cは、運動場南側の中コート(東西に使用)で、ゴールキーパーとしてサッカーに参加していた。


上記サッカーの途中、亡Cは、味方がゴールを決めたことに喜び、運動場に設置されていた自陣(西側)の本件ゴールポスト(幅約3.0m、高さ約1.99m、奥行き約1.15m、重さ68.1kgの鉄製のもの。)
の上部から垂れ下がったゴールネットのロープにぶら下がったところ、本件ゴールポストが倒れ、亡Cは、本件ゴールポストの下敷きになった。

亡Cは、救急搬送されたが、同日午後1時54分、背部打撲による出血性ショックのため死亡した(甲3)


(3)

事故後の事実経過
被告は、本件事故後、本件事故に関して第三者委員会である大川市学校安全調査委員会(以下本件委員会という。
)を設置した。


本件委員会は、次のとおり、安全調査委員会を開催した。
(ア)
(イ)

第3回(平成29年2月27日)

(エ)

第4回(平成29年3月23日)

(オ)

第2回(平成29年2月20日)

(ウ)

第1回(平成29年2月2日)

第5回(平成29年4月13日)

本件委員会は、
平成31年3月、
福岡県大川市立D小学校におけるサッカーゴール事故調査委員会報告書と題する報告書を作成した(以下本件報告書という。甲2)。
(4)

原告らには、本件事故による亡Cの死亡に関し、平成30年6月1日、災
害共済給付金2800万円が支払われた。
(5)

本件訴状は、
令和元年11月28日、
被告に対し送達された。
(裁判所に顕

著)
(6)

検察官は、本件事故関係者らにつき、令和2年4月9日、不起訴処分(嫌
疑不十分)とした。
(乙5から10まで)
2
争点
(1)

本件事故による損害賠償請求権について


本件事故に関する被告の責任の有無(争点1)
(ア)

国賠法1条1項に基づく責任(主位的主張)

(イ)

国賠法2条1項に基づく責任(予備的主張)

イウ
本件事故による損害の発生及び額(争点2)
過失相殺の要否(争点3)

(2)

本件事故の原因等に関する調査報告義務違反による損害賠償請求権につ
いて


第3
1
本件事故の原因等に関する調査報告義務違反の有無(争点4)
調査報告義務違反による損害の発生及び額(争点5)

争点に関する当事者の主張
本件事故による損害賠償請求権について
(1)

本件事故に関する被告の責任の有無(争点1)
国賠法1条1項に基づく責任
(原告らの主張)

(ア)

公立小学校の教員の一般的義務
公立小学校の教員には、その職務上、学校における教育活動及びこれに密接に関連する生活関係における児童の安全の確保に配慮すべき義務があり、特に、児童の生命、身体等に大きな悪影響ないし危害が及ぶおそれがあるようなときには、そのような悪影響ないし危害の現実化を未然に防止するため、その事態に応じた適切な措置を講じる一般的な義務がある。
(イ)

予見可能
本件小学校の教員は、本件ゴールポストに児童がぶら下がることによ
って本件ゴールポストが転倒し、その結果、児童が死亡するという事故が発生することについて、認識、予見することが可能であった。
(ウ)
a
本件校長の義務違反
本件校長には、本件ゴールポストについて、その土台フレームを直接杭で地面に固定する等の方法で固定すべき義務があった。
にもかかわらず、本件校長は、本件事故当時、本件ゴールポストを固定していなかった。被告が主張する本件ゴールポストの土台フレームと地面に打ち込まれた鉄杭とのロープによる結束の事実については
否認する。
b
また、本件校長は、本件小学校の責任者として、安全点検担当教員であるF教員及びG教員や、本件事故が発生した授業の担当であったH教員及びI教員に対して、固定が不十分なゴールポストに児童生徒
がぶら下がることによってゴールポストが転倒し、児童生徒が死亡するという重大事故が発生していることを周知し、同人らに対して、一般財団法人製品安全協会が作成したフットサルゴール(移動式)のSG基準(28安全業G第131号、
平成29年1月10日。S以下G基準という。後記認定事実等b参照。甲14①)に従った本件ゴ
ールポストの固定や、SG基準に従って本件ゴールポストが固定されているかどうかについての安全点検の重要性を指導して、これを徹底させる義務、H教員及びI教員に対して、ゴールポストを使用する授業を行う前には、本件ゴールポストを含むゴールポストの固定状況について確認し、ゴールポストへのぶら下がりの危険性について児童生徒に対して指導を行うべく、
当該教員らを指導する義務を負っていた。
しかしながら、本件校長はいずれの義務も怠った。

(エ)
a
各教員の義務違反
F教員及びG教員の義務違反
安全点検担当者であるF教員は、担当者として、安全点検の日に、安全点検を実際に行う各教員に対し、安全点検表を配布すべき義務があったにもかかわらず、F教員は、平成28年11月以降、安全点検
表の配布を失念していた。
また、本件ゴールポストの実際の点検を担当していたG教員は、本件ゴールポストの安全点検を行う義務があったにもかかわらず、これを3か月以上怠った。
b
H教員及びI教員の義務違反
亡Cのサッカーの授業を担当していたH教員及びI教員には、授業開始前、本件ゴールポストの安全点検を行う義務があった。また、両教員には、亡Cを含む全児童に対し、ゴールへのぶら下がりによる危険性を伝え、危険行為を禁止する指導を行う義務があった。にもかか
わらず、両教員は、本件ゴールポストの安全点検を行わず、ゴールへのぶら下がりによる危険性等についても児童に対して指導しなかった。(被告の主張)
本件ゴールポストは、本件事故当時、左右の土台フレームの両側又は少なくとも右側につき(以下、本件ゴールポストの左右については、実況見
分調書〔甲17〕の記載に従い、自陣ゴールを基準とし、自陣右サイド側を右、自陣左サイド側を左とする。、ロープによる結束が行われていたも)
のであるが、そのような固定態様を前提としても、被告に過失(国賠法1条1項)があったこと自体は認める。
(ア)

公立小学校の教員の一般的義務
特に争わない。

(イ)
a
予見可能性
本件校長は、ゴールポストの転倒事故による危険性を抽象的には認識していたものの、平成28年10月までの安全点検表には何らの異常の記載がなく、本件事故発生までの間に、本件ゴールポストに関する不安定性や転倒、児童による実際のぶら下がり等の報告はなかったのであるから、本件事故の発生を予見することは困難であった。

b
本件事故は、亡Cが本件ゴールポストにぶら下がり、体を50度程度前後に揺らすという行動によって生じたものであり、亡Cによるこのような行動について、本件小学校の教員らが予見することは不可能であった。

c
平成28年10月までに安全点検表が集約された際、本件ゴールポストの欄に〇が記載され、
何らの異常を示す記載はなかったことから、
安全点検担当者であるF教員は、本件ゴールポストの転倒を予見することができなかった。

d
本件ゴールポストの直接の安全点検担当者であるG教員は、平成28年10月の点検の段階で、本件ゴールポストを揺すっても動かなか
ったとの認識を有しており、本件ゴールポストが転倒することについて予見可能性はなかった。
e
H教員及びI教員は、本件ゴールポストが固定されているものと誤信していたのであって、これが転倒して児童が死亡することについて
予見することは不可能であった。
また、安全点検を行う時期や方法については、学校にある程度の裁量があるから、サッカーの授業実施前に本件ゴールポストの点検を行う義務は認められない。
(ウ)
a
各教員の義務違反
F教員及びG教員の義務違反
原告の主張する両教員の義務については否認する。

b
H教員及びI教員の義務違反
原告の主張する両教員の義務については否認する。


国賠法2条1項に基づく責任
(原告らの主張)
(ア)

本件ゴールポストは、被告が設置した本件小学校の運動場に設置され、
本件小学校の体育の授業等で使用されていた。したがって、本件ゴールポストは、本件小学校において公の目的に供されていたことが明らかであり、被告の営造物である。
(イ)

本件ゴールポストについては、固定して使用すべきであったし、定期
的な安全点検が必要であったにも関わらず、本件小学校では、本件ゴー
ルポストを固定せず、安全点検も不十分であった。
(ウ)

したがって、被告には、本件ゴールポストの設置又は管理について瑕
疵が存在する。
(被告の主張)
本件ゴールポストは、本件事故当時、左右の土台フレームの両側又は少
なくとも右側につきロープによる結束が行われていたものであるが、そのような固定態様を前提としても、本件ゴールポストの設置又は管理に瑕疵(国賠法2条1項)があったこと自体は認める。
(2)
亡C及び原告らに生じた損害及びその額(争点2)

(原告らの主張)

亡Cに生じた損害
(ア)

死亡慰謝料

(イ)

死亡逸失利益

a
2000万円

基礎収入

3378万1703円

549万4300円

平成28年度賃金センサス男子全年齢学歴計
b
生活費控除

c
期間

50%

49年

稼働可能な18歳から67歳まで
d
計算
549万4300円×0.5×12.297(10歳から67歳までのライプニッツ係数から、10歳から18歳までのライプニッツ係
数を控除した係数)
(ウ)

弁護士費用

257万8170円

上記(ア)、(イ)の合計5378万1703円から、災害共済給付金2800万円(前記前提事実(4)参照)を控除した2578万1703円の1割相当。


亡Cの死亡による原告ら固有の損害
(ア)
(イ)


固有の慰謝料

(ウ)
葬儀費用

各75万円

弁護士費用

各400万円
各47万5000円

原告らの被告に対する請求権
(ア)

原告らは、上記アの損害合計2835万9873円について各相続分
(2分の1)に基づいて1417万9936円を相続した。
(イ)

したがって、原告らはそれぞれ、上記相続分に固有の損害522万5
000円を加えた1940万4936円の請求権を有している。
(被告の主張)

亡Cに生じた損害
(ア)

死亡慰謝料
否認ないし争う。

(イ)

逸失利益
否認ないし争う。

(ウ)

弁護士費用
否認ないし争う。


亡Cの死亡による原告ら固有の損害
(ア)

葬儀費用
否認ないし争う。

(イ)

固有の慰謝料
否認ないし争う。

(ウ)

弁護士費用
否認ないし争う。


原告らの被告に対する請求権
否認ないし争う。

(3)

過失相殺の要否(争点3)

(被告の主張)

本件事故は、本件ゴールポストが十分に固定されていなかったことに加え、亡Cが本件ゴールポストの上部から垂れ下がったゴールネットのロープにぶら下がるという行為が相まって生じたものである。このような使用
方法は、通常の体育用具の使用方法を逸脱したものである。

本件事故当時、本件ゴールポストは不十分ながらも一応固定されていたが、本件事故によって固定具のロープが断裂したことが推認される。そして、亡Cが本件ゴールポストにぶら下がり、少なくとも50度程度の角度まで体を振って揺すった可能性がある。


したがって、相応の過失相殺がなされるべきである。
(原告らの主張)

亡Cは、本件事故当時10歳であり、判断能力が未熟であって、ゴールポスト転倒の危険性について認識することができなかった。


本件事故と同種の事故が発生していたことや、
亡Cの年齢を考慮すれば、
亡Cを含む本件小学校の児童が、本件ゴールポストにぶら下がるという行
為は、当然に予想されるものである。にもかかわらず、本件小学校の教員は、亡Cを含む児童に対し、ゴールポスト転倒の危険性について指導していなかった。

以上のような事実関係において、本件事故に関し、亡Cの行為を非難することはできないし、被告の非難可能性又は違法性の程度が減少するとは
認められず、過失相殺を行うことは不当である。
2
本件事故の原因等に関する調査報告義務違反による損害賠償請求権について(1)

本件事故の原因等に関する調査報告義務違反の有無(争点4)

(原告らの主張)

本件小学校の設置者である被告は、児童の保護者との間の在学契約上の付随義務として、学校の管理下において発生した事件、事故によって児童が死亡した場合、必要かつ相当な範囲内において、速やかに事実関係を調査し、保護者に対し、その結果を報告すべき義務を負う。


被告には、本件事故の遺族である原告らに対し、本件事故についての詳細調査への移行に際し、本件委員会の設置や委員の人選、調査内容及び方
法等について、原告らと協議するとともに、必要かつ相当な調査が尽くされているかどうかについて、原告らの意向を確認し、対応すべき義務があった。また、本件事故の具体的な発生原因について調査し、原告らに対し報告する義務があった。

にもかかわらず、被告の教育委員会関係者は、原告らに対し、本件委員会を設置することや、本件委員会の詳細について、原告らに対し事前に説明を行わず、調査に関する意向確認及び調査内容に関する協議等も一切しなかった。
また、本件委員会は、委員11名のうち大学教員2名、医師1名のほかはすべて、前教育長や体育協会会長、小学校長、中学校長といった被告に直接関わりのある者であり、第三者性に疑問があって、公平性、中立性が
確保されているとはいえない。そして、本件委員会の調査では、平成25年9月4日付けの文部科学省の通知(甲4)が教員に周知されていなかった点や、本件事故以前に、安全点検担当の教員がゴールポスト転倒の危険性についてどのような認識を持っていたのか、平成28年10月以前に具体的にどのような安全点検を行っていたのか、同年11月以降、本件ゴー
ルポストの安全点検が実施されていなかったことに関し、本件小学校内で認識されていなかった原因や背景事情は何かといった点について、何ら明らかにされていない。

本件ゴールポストのあるべき固定方法は、土台フレームを直接杭で地面に固定する方法であるにもかかわらず、本件報告書では、本件ゴールポス
トの固定方法として、本件ゴールポストと杭をロープで固定するものであるとしており、虚偽の内容が記載されている。また、本件事故当時、本件ゴールポスト以外のフットサルゴールがすべて直接杭で固定されていたにもかかわらず、本件報告書では、このような固定状況について記載されておらず、本件ゴールポストに結束されていた固定用のロープや杭の状況に
ついて正確に記載されていなかった。

したがって、被告は、原告らに対し、国賠法1条1項に基づく損害賠償責任を負う。

(被告の主張)

被告は、本件校長を通じて、原告らに対し、本件委員会の設置について事前に報告している。
被告の教育委員会職員は、本件委員会が開催された際、原告ら宅に出向いて内容を報告し、議事録や資料を渡すなどし、原告らの意向を確認しながら対応している。また、調査結果及び調査経過について、原告らに対し詳細な情報提供を行っている。

本件委員会の委員には、大学教授や医師が参加しており、それ以外の委員についても、本件事故の関係者や直接の人間関係、特別の利害関係を有する者は参加していない。本件委員会の設置に際しては、予算等の関係から、無制限に第三者である専門家を採用できるものではなく、本件委員会の委員の構成について、中立性や公平性を欠くとまではいえない。本件事故の原因究明及び安全対策の検証について、被告はこれを果たし
ている。原告らが主張するような詳細な項目についてまで、これを調査する義務や報告書に記載する義務があるとは認められない。

ゴールポストの固定方法としては、直接杭で固定する方法以外にも、固定具による方法が認められており、ロープと杭で固定する方法は固定具による方法の一つであるから、本件報告書に虚偽の内容が記載されていると
はいえない。また、本件委員会は捜査機関とは異なるのであるから、捜査機関による捜査と同程度の内容を本件報告書に記載することは困難であり、原告らが主張する事実の記載がないからといって、本件報告書の内容が不十分であるとはいえない。

したがって、被告らは、原告に対して、国賠法1条1項の責任を負わない。

(2)

被告の調査報告義務違反によって原告らに生じた損害(争点5)

(原告らの主張)

精神的苦痛による慰謝料


弁護士費用

各200万円

各20万円

(被告の主張)

精神的苦痛による慰謝料
否認ないし争う。


弁護士費用
否認ないし争う。

第4
1
当裁判所の判断
本件事故による損害賠償請求権について
(1)

本件事故に関する被告の責任について
国賠法1条1項に基づく責任について(主位的主張)
(ア)

認定事実等
争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により認められる
事実を総合すると、本件の事実経過は以下のとおりである。
a
ゴールポスト等の取扱いに関する通知等
(a)

本件事故以前に、ゴールポスト等の取扱いに関し、次のような内

容が記載された報告等が公表されていた。

学校施設における事故防止の留意点について
(平成21年3月、
文部科学省大臣官房文教施設企画部)
サッカーゴール、バスケットボールゴールやテント等が、強風
や児童生徒等の力により転倒しないように、杭等により固定した
り、十分な重さと数の砂袋等で安定させたりする等、転倒防止の
ため配慮することが重要である。
(甲9〔63頁〕



生きる力をはぐくむ学校での安全教育(平成22年3月改
訂、文部科学省)
サッカー、ハンドボールのゴールポストなどの移動施設につい
ては、特に固定の状態、破損の有無を確かめるとともに、移動し
た場合、固定状況の点検を実施する。
(甲4、10)


学校における体育活動中の事故防止について
(報告書)
(平成2
4年7月、体育活動中の事故防止に関する調査研究協力者会議)
体育科・保健体育科の授業や運動部活動は、施設・設備を活用
して行われるものであり、活動に当たっては、指導者と児童生徒
が共に施設・設備の安全確認を行うことが大切である。また、活
動内容・方法には一定の禁止事項や制限事項が必要となる。

最近では、用具については安全性を確保する観点から材質・品
質の改善が進められてきているが、それでもなお保管方法や管理
方法の周知徹底が不足していたり、点検を怠ったり使用方法を誤
ったりすると事故が発生する。運動やスポーツは、施設・設備及
び用具そのものが事故を起こすわけではなく、それを使用・管理

する者が適切に使用しなかったり、点検や確認を怠ったりするこ
とが事故の要因となっていることを再認識することが極めて重要
である。
学校の施設・設備・備品・用具等については、継続的・計画的
に安全点検を行わなければならない。これらは、常に一定の状態

にあるわけではなく、季節等によっても変化するものである。こ
のため、安全点検は定期的、臨時的、日常的に確実に実施するこ
とが重要である。
(甲11〔22・23頁〕

(b)
平成25年5月28日、
千葉県立J高校において、
体育の授業中、

男子生徒がサッカーゴールのクロスバー(ゴール前面上部の横棒)にぶら下がった結果、ゴールポストと共に転倒して下敷きになり死亡する事故が発生した。
(甲13①)
(c)

文部科学省スポーツ・青少年局参事官(体育・青少年スポーツ担

当)は、平成25年9月4日付けサッカーゴール等のゴールポストの転倒による事故防止について(通知)と題する事務連絡において、各都道府県・指定都市教育委員会学校体育主管課等に対し、平成25年度に、体育活動、スポーツ活動中において、サッカーゴールのクロスバーに生徒がぶら下がり、ゴールが転倒したために生徒が死亡するなどの重大な事故が複数発生しているとして、別添の資料を参考として、施設設備等の点検や事故防止のための措置に十分に留意することなどを通知している。なお、上記別添の資料に

は、前記(a)の各報告の内容が記載されている。
(甲4)
(d)

福岡県教育庁教育振興部体育スポーツ健康課長は、被告教育委員

会学校教育課に対し、前記(c)の事務連絡があったことを通知し、同事務連絡は、平成25年9月17日頃付けの文書で、本件小学校に配布された。
(甲5〔92頁〕


b
フットサルゴールの安全基準
SG基準には、フットサルゴール(移動式)の安全性品質及び使用者が誤った使用をしないための必要事項が定められ、一般消費者の生命又は身体に対する被害の発生の防止を図ることを目的とする基準が定められている。同基準によれば、ゴールの安全性品質として、固定
具、
打込み杭又は重錘が必須の構成部分とされ、
保管上の注意として、
ゴールにぶら下がったり、よじ登ったりしないように注意及び指導することが指摘されている。また、ゴールの使用時の安定性として、取扱説明書にて指定する使用時の固定方法
(固定具、
打込み杭又は重錘)
を施すこととされている。使用上の注意として、打込み杭を使用する
ゴールにあっては、打込み杭がゴール後部に正しく打ち込まれているかを確認すること、重錘を使用するゴールにあっては、重錘がゴール後部に指定された箇所に正しく設置されているかを確認すること、固定具を使用するゴールにあっては、固定具が正しく設置されているかを確認することとされている。
(甲14①)

c
本件事故前の本件小学校における状況等
(a)

本件小学校では、本件ゴールポストを含む遊具や移動設備の固定

状態について、平成28年10月までの定期点検において、動かないことの点検はしていたものの固定の確認はしておらず、授業前の点検は、本件事故日も含め実施していなかった。
(甲2〔15・17
頁〕


(b)

本件小学校では、学校内の施設等について、毎月初めに、安全教

育担当者である教員が安全点検表を点検担当者である教員に配布し、同教員が安全点検を実施した上で、安全点検表を安全教育担当者である教員が集約して教頭に報告することになっていた。しかし、安全教育担当者であるF教員は、平成28年11月以降、安全点検表
を配布することを失念しており、点検担当者である教員からも疑問の声がなかったことから、
安全点検は実施されていなかった。
(甲2
〔16頁〕
、5〔116-117頁〕
、乙2,3)
(c)

本件校長は、平成25年5月28日の千葉県立高校でのサッカー

ゴール転倒の事故(前記a(b)参照)及びその後の文部科学省の通知
(同(c)参照)があったことから、ゴールポストが危険であるという認識を有していたが、本件小学校の他の教員は、上記通知の内容について把握しておらず、本件ゴールポスト以外のフットサルゴールの土台フレーム(コの字型をしており、前面にはフレームがない。)
が直接杭で地面に固定されていたこともあって、子どもが乗ったく
らいで倒れるという認識がなく、ゴールポストが危険で不安定であるとの認識がなかった。また、児童に対する安全教育としても、教員自身にゴールポストが危険であるという認識がなく、児童に対してゴールポスト転倒の危険性を教えることもなかった。
(甲5
〔84
-85頁・87頁・90-91頁〕
、16)

d
本件ゴールポストの設置状況等に関する実況見分の結果
(a)

本件小学校の運動場には、本件事故当時、サッカーゴール2台と

本件ゴールポストを含むフットサルゴール4台が設置されており、そのうち、本件ゴールポストを除くフットサルゴール3台は、上記のとおり、すべて杭で固定されていた。他方、本件事故前には固定されていなかったサッカーゴール2台についても、本件事故後、杭で固定された。
(甲16)
(b)

本件事故直後に実施された実況見分(平成29年1月13日1

1:55~15:52)では、本件ゴールポストのクロスバーの右端から約85cmの箇所に、破れたゴールネットを固定するためのロープが、クロスバー部分から下方に弛んだ状態になっており、弛んだロープの最下端は、地面から約168cmの高さであった。本件ゴールポストを倒した際、ロープの弛みが認められた位置相当部付近に血痕が認められた。本件ゴールポストの土台フレームの後部両端にはロープが結束されていた。このうち、左側土台フレーム後
部には、
ロープがフレームに1回巻き付けてから二結びされていて、
ロープの両端が断裂していた。同フレーム後部外側付近には、上端が輪状になった鉄杭が埋め込まれていて、輪状部分の内径は約3cmでロープなどが通せる程度の隙間があった。
上記実況見分の際に、
結束されたロープを上記杭に通して、本件事故前の固定状況を再現
しようとしたところ、結束されたロープでは約20cm長さが足りず、本件ゴールポストを固定することはできなかった。右側土台フレーム後部には、ロープがフレームに3回巻き付けてから二結びされていて、ロープの端は一重の二結びがされ、4か所が断裂しており、ロープの先端に形成された輪の部分の断裂面は、他の部位と比
較して汚れが少なかった。同フレーム後部外側付近には、上端が輪状になった鉄杭が埋め込まれているが、上端の輪状部分は土や草で埋もれており、ロープなどが通る隙間はなかった。また、同鉄杭の周辺の土や草の状況からは、ロープと地面が擦れた痕等、ロープが鉄杭と結ばれていたことをうかがわせる痕跡は認められなかった。上記実況見分の際に、結束されたロープを上記杭に通して、本件事故前の固定状況を再現しようとしたところ、結束されたロープの長さは足りるが、
上記杭の上端の輪状部分が土等で埋もれているため、
本件ゴールポストを固定することはできなかった。
(甲17、19)
(c)

本件事故後の平成29年1月23日に本件ゴールポストの設置

状況を再現したところ、本件ゴールポストの土台フレームの傾斜角は2.45度であり、本件ゴールポストの傾斜角は94.85度であって、やや前方に傾いていた。本件ゴールポストのクロスバー部分の、
ロープの弛みが認められた位置に亡Cの体重
(25.
3kg)
に相当する力を地面と垂直方向に掛けたところ、本件ゴールポストがより傾くことはなかった。
(甲18)

(d)

平成29年6月5日実施の実況見分において、本件ゴールポスト

と杭をロープで固定する方法により固定した上で、本件ゴールポストのクロスバー部分の、ロープの弛みが認められた位置に亡Cの体重(25.3kg)に相当する荷重を後方に角度をつけて吊り上げて、本件ゴールポストの後方から前方に向けて振る実験を実施したところ、本件ゴールポストの左右をロープで固定した場合及び右側のみをロープで固定した場合には、約50度後方に吊り上げたときの振りによっても、ロープが緊張した状態で本件ゴールポストは傾いて停止し、転倒しなかった。これに対し、本件ゴールポストを固定しなかった場合には、約40度後方に吊り上げたときの振りによ
って本件ゴールポストは転倒し、本件ゴールポストの左側のみをロープで固定した場合には、約40度後方に吊り上げたときの振りによって、ロープが緊張した後に断裂し、本件ゴールポストは転倒した。なお、本件ゴールポストを直接杭で固定する方法により固定した場合には、約50度後方に吊り上げたときの振りによっても、本件ゴールポストは動かず、転倒しなかった。
(甲20)
(イ)
a
判断
本件事故当時の本件ゴールポストの固定状況及び本件事故の状況
(a)

本件小学校の運動場には、サッカーゴール2台及び本件ゴールポ

ストを含むフットサルゴール4台が設置されていたところ、本件ゴールポストを除く3台のフットサルゴールは、土台フレームが直接杭で地面に固定されていた。これに対し、本件ゴールポストは、土台フレームの左右にロープが結束され、土台フレームの左右の両外側には鉄杭が地中に埋め込まれていたのであるから、本件ゴールポストの固定方法としては、土台フレームの左右に結束されたロープを鉄杭に結ぶことで固定することが想定されていたといえる。

しかるに、本件事故後の実況見分では、本件ゴールポストの左側
土台フレームに結束されたロープを鉄杭に通して本件ゴールポストを固定しようとしたところ、ロープの長さが約20cm足りず、固定することができなかった
(ゴール他方先端にも結束の痕跡がない。
甲20)というのであるから、本件ゴールポストの左側は、ロープ
と鉄杭を結ぶことによる固定がそもそも不可能であり、本件事故当時においても、固定されていなかったものと推認される。また、本件ゴールポストの右側土台フレーム近くの鉄杭は、上端の輪状部分が土や草で埋もれており、ロープなどが通る隙間がなく、右側土台フレームに結束されたロープによって固定することができなかった
というのであって、同鉄杭の周辺の土や草の状況にも、ロープが鉄杭と結ばれていた痕跡は認められない。
そうすると、
本件事故当時、
本件ゴールポスト右側についても、土台フレームに結束されたロープと鉄杭を結ぶ方法によっては固定されていなかったものと推認される。
これに対し、被告は、本件ゴールポストの右側土台フレームに結
束されていたロープの断裂面の汚れが他の部位と比較して少ないことや、本件事故後の実況見分の状況から、少なくとも右側についてはロープと鉄杭を結んで固定されていたのであり、本件事故によってロープが断裂したものと推認されると主張する。しかし、本件報告書では、本件ゴールポストについて、ロープが外れて固定されて
いない状態であったと記載されている(甲2〔26頁〕
)し、本件事
故直後の実況見分(甲17)においても、左側の鉄杭まではロープの長さが足りず、右側の鉄杭は上端の輪状部分が土で埋もれ紐などが通る隙間がないことが確認されており、被告が主張するように、捜査機関において、土台フレームの少なくとも右側が固定されてお
り、本件事故によってロープが断裂したということを前提にしていたことを認めるに足りる証拠はない。したがって、被告の上記主張は採用できない。
(b)

前記実況見分の結果によれば、本件ゴールポストのクロスバーの

右端から約85cmの箇所にある、破れたゴールネットを固定するためのロープが下方に弛んだ状態であったところ、本件ゴールポストを倒した際、ロープの弛みが認められた位置相当部付近に血痕が認められたというのであるから、亡Cは、本件ゴールポストの上記弛んだ状態のロープにぶら下がり、本件事故が生じたものと認められる。そして、本件事故当時、本件ゴールポストは左右とも固定さ
れていなかったものと認められるところ、上記のロープの弛みが認められた位置に荷重をつけた実験では、本件ゴールポストを左右ともロープで固定しなかった場合、約40度後方に上記荷重を吊り上げたときの振りによって本件ゴールポストは転倒している(前記認定事実等d(d)参照)
。その一方で、上記のロープの弛みが認められ
た位置に亡Cの体重に相当する力を地面と垂直方向に掛けただけでは、
本件ゴールポストは倒れなかった(同d(c)参照)
。これらの実験

結果を比較検討すると、亡Cが頭上33cmの位置に下端がある上部ロープにぶら下がった際に、単純に、垂直真下方向に荷重が掛かるとは考えにくく、ロープに飛び付いた方向や速度、ロープまでの距離・角度等の事情が相まって、コの字型土台フレームのフレームが存在しない先端部分付近に荷重が掛かったことにより本件ゴール
ポストのバランスが崩れたと認められるに過ぎず、被告が主張するように、亡Cが体を50度程度前後に揺らすといった行為があったことを認めるに足りる証拠はない。結局、本件報告書に記載のとおり、亡Cは、本件ゴールポストの上記ロープに単純にぶら下がったところ、本件ゴールポストが亡Cの体重を支えられなくなって大き
く揺れ、
亡Cが前のめりに本件ゴールポストから落ちて、
その直後、
本件ゴールポストが前向きに転倒したものと認められる(甲2〔28頁〕。

b
本件校長の義務違反について
(a)

前記認定事実等a・b記載のとおり、本件事故以前に、本件ゴー

ルポストのようなゴールポストが転倒しないよう配慮することや、ゴールポストの固定状況について点検を実施すること、ゴールポストを含む学校の施設・設備・備品・用具等について、継続的・計画的に安全点検をすることが重要であることが指摘され、平成25年5月28日には、本件事故と同様のゴールポスト転倒による死亡事故が生じており、文部科学省は、上記各指摘を資料として添付しつつ、施設設備等の点検や事故防止のための措置に十分に留意することなどを通知していたのである。そして、本件校長は、上記の死亡事故や文部科学省からの通知について認識していたというのであるから、本件事故当時の本件ゴールポストの固定状況について正確に把握していなかったとしても、本件事故の発生について容易に予見できたといえる。
(b)

被告は、亡Cが本件ゴールポストのロープにぶら下がった際、体

を50度程度前後に揺らしており、このような行動について予見することは不可能であったと主張する。しかし、本件事故の状況として、亡Cがこのような行動をとったと認めるに足りる証拠はないことは前述のとおりであって、被告の上記主張は採用できない。
(c)

したがって、本件校長には、このような予見可能性を前提に、本

件小学校の安全点検担当教員や点検担当の教員をして、本件ゴールポストの固定状況について点検し、本件ゴールポストの左右土台フレームに結束されたロープと鉄杭を結ぶ方法などによって固定しておくべき注意義務があったというべきである。にもかかわらず、本件校長は、上記義務を怠り、その結果、前記a(a)記載のとおり、本件事故当時、本件ゴールポストの左右土台フレームはいずれも固定されていなかったというのであるから、本件校長には、国賠法1条
1項の過失が認められる。
(d)

そして、本件事故後の実況見分における実験によれば、本件ゴー

ルポストの左右土台フレーム両方のロープを鉄杭と結ぶことによって固定しておけば、亡Cが本件ゴールポスト上部のロープにぶら下がったとしても、本件ゴールポストが転倒することはなかったものといえるから、本件校長の前記過失と亡Cの死亡との間には、因果関係が認められる。
(e)

したがって、その余の本件小学校の教員の過失について判断する

までもなく、被告は、本件事故によって亡C及び原告らに生じた損害について、国賠法1条1項に基づく損害賠償義務を負うものといえる。

国賠法2条1項に基づく責任について(予備的主張)
前記認定事実等によれば、本件ゴールポストの設置及び管理に瑕疵があったことが認められる。

(2)

損害の発生及び額について
亡Cに生じた損害(弁護士費用を除く。

(ア)

死亡慰謝料

2000万円

亡Cの死亡時の年齢、本件事故の態様等に照らして、死亡慰謝料として2000万円を認める。
(イ)
a
逸失利益

3378万1703円

基礎収入

549万4300円

亡Cの死亡時の年齢に照らして平成28年度賃金センサス男子全年
齢学歴計を用いるのが相当である。
b
生活費控除

c
期間

50%

49年

稼働可能な18歳から67歳まで
d
計算
549万4300円×0.5×12.297(10歳から67歳までのライプニッツ係数から、10歳から18歳までのライプニッツ係数を控除した係数)

(ウ)

そうすると、本件事故による亡Cの損害(弁護士費用を除く。
)は、5

378万1703円ということになる。


亡Cの死亡による原告ら固有の損害(弁護士費用を除く。

(ア)

葬儀費用

各75万円

弁論の全趣旨によれば、原告らが亡Cの葬儀を行ったこと、その費用は150万円を下らないことが認められる。そうすると、原告らは、各75万円の葬儀費用に係る損害賠償請求権を有する。
(イ)

固有の慰謝料

各300万円

本件事故時の亡Cの年齢、本件事故の態様に照らして、亡Cの死亡に対する、亡Cの両親である原告ら固有の慰謝料としてそれぞれ300万円を認めるのが相当である。
(ウ)

そうすると、
亡Cの死亡による原告ら固有の損害
(弁護士費用を除く。


は、各375万円ということになる。

(3)

過失相殺の要否(争点3)について
本件ゴールポストのようなフットサルゴールの安全基準によれば、管理上の注意として、ゴールにぶら下がったり、よじ登ったりしないように注意及び指導することが指摘されている(前記認定事実等b参照)
。本件事
故の状況については、前記(1)ア(イ)aで認定したとおりであり、亡Cは、殊
更に体を揺するなどしたとは認めるに足りる証拠はないものの、上記安全基準の記載からすれば、亡Cの行為が本件ゴールポストの通常の使用方法を逸脱したものであったことは否定できないところである。

しかし、本件小学校の教員は、本件校長を除き、千葉県立高校でのサッカーゴール転倒の事故やその後の文部科学省の通知について把握しておらず、本件ゴールポストを除く3台のフットサルゴールが直接杭で固定されていたこともあり、ゴールポストが危険で不安定であるという認識がなかったというのであって、このことから、ゴールポスト転倒の危険性について、児童に教えることもなかったというのである(前記認定事実等c(c)
参照)

このように、本件校長を除く教員ですら、サッカーゴールのゴールポストが危険であるという認識を持っていなかったのであるから、ましてや、ゴールポストが危険であるという指導を受けていない、亡Cを含む本件小学校の4年生の児童が、本件ゴールポストが転倒するといった危険性を認識していたとは到底考えられない。そのような亡Cにつき過失相殺を認めることは、上記指導を行わなかった教員らとの関係において却って公平さ
を欠く。
そして、本件ゴールポストは、破れたゴールネットを固定するためのロープが、クロスバー部分から下方に弛んだ状態になっていた(前記認定事実等d(b)参照)ところ、サッカーの試合中に、味方がゴールを決めたことに喜んで上記ロープにぶら下がること自体、突発的な行為であって、小学
校4年生の児童にとってそもそも非難し得る程度の低いものであるといえる。

そうすると、当時小学校4年生の児童であり、ゴールポスト転倒の危険性について何ら指導を受けていなかった亡Cにおいて、本件ゴールポストのロープにぶら下がることの危険性を認識できたとはいえないし、行為の
性質としても非難し得る程度は低いといえるから、亡Cについて、損害賠償額を定める上で公平の見地から斟酌しなければならないほどの不注意があったとはいえない。
さらに、安全点検を徹底する義務を負っているのに、定期的な安全点検と授業前の安全点検をともに履践せず、本件ゴールポストについて必要な
固定措置が取られていないことを見逃したという被告の過失の重大性に鑑みると、亡Cの過失を斟酌すべきであるという被告の主張は採用できない。
(4)

結論
本件事故による損害賠償請求権
(ア)

原告らは、
前記(2)ア記載の亡Cに生じた損害合計5378万1703
円から、損益相殺として、災害共済給付金2800万円を控除した2578万1703円について、各相続分2分の1)に基づいて1289万0851円を相続した。
(イ)

したがって、原告らはそれぞれ、上記相続分に固有の損害375万円
を加えた1664万0851円の請求権を有している。


弁護士費用

各166万円

弁論の全趣旨によれば、原告らは被告に対する本件訴訟を提起するため弁護士に委任せざるを得なかったことが認められる。そうすると、本件事故と相当因果関係のある弁護士費用として、上記認定額の約1割にあたる166万円を認めるのが相当である。


小括
したがって、原告らは、被告に対し、国賠法1条1項に基づく損害賠償として、それぞれ1830万0851円及びこれに対する平成29年1月13日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金を請求できることとなる。
これに対し、
上記認容額を超える請求額については、

国賠法1条1項及び同法2条1項のいずれに基づいても、
本件証拠上損害
の発生は認められないから、原告らのその余の主位的請求・予備的請求はいずれも理由がない。
2
本件事故の原因等に関する調査報告義務違反による損害賠償請求権について(1)

被告の責任について
本件各証拠及び弁論の全趣旨によれば、本件事故の原因等に関する調査報告義務に関する以下の事実を認定することができる。
(ア)

学校事故対応に関する指針
文部科学省が作成した
学校事故対応に関する指針
(平成28年3月

作成。以下本件指針という。
)には、学校現場における事故発生後の
学校、学校の設置者、地方公共団体による取組に関して、次のような記載がある。
a
本件指針は、学校、学校の設置者、地方公共団体が、それぞれの実情に応じて、事故対応の在り方に係る危機管理マニュアルの見直し・充実、事故対応に当たっての体制整備等、事故発生の防止及び事故後の適切な対応に取り組むに当たり参考となるものとして作成されたも
のである。
(甲8〔冒頭3枚目〕

b
学校の管理下において事件・事故災害が発生した場合、学校及び学校の設置者は、児童生徒等の生命と健康を最優先に迅速かつ適切な対応を行うとともに、発生原因の究明やこれまでの安全対策の検証はもとより、児童生徒等に対する心のケアや保護者への十分な説明、再発
防止などの取組が求められる。
(甲8〔1頁〕

c
学校、学校の設置者、各地方公共団体等においては、それぞれの学校の実情に応じ、本指針を参考として、事故発生時の適切な対応が行われるよう、事故対応に関する共通理解と体制整備を図ることが必要である。
(甲8〔1頁〕


d
学校は、被害児童生徒等の保護者に寄り添い、信頼関係にたって事態への対処ができるよう、対応の責任者を決め、常に情報の共有化を図る。
(甲8〔11頁〕


e
調査は、事実関係を整理する基本調査と、得られた情報に基づ
く、事故に至る過程や原因の分析を行う詳細調査で構成される。
その目的は、事故の状況によって異なる可能性があるが、日頃の安全管理の在り方等、事故の原因と考えられることを広く集めて検証し、今後の事故防止に生かすため、被害児童生徒等の保護者や児童生徒等及びその保護者の事実に向き合いたいなどの希望に応えるためなどが
挙げられる。
調査を実施することによって到達すべき目標についても、
事案によって異なるが、事故の兆候なども含め、当該事故に関係のある事実を可能な限り明らかにする、事故当日の過程を可能な限り明らかにする、これらを踏まえた今後の再発防止への課題を考え、学校での事故防止の取組の在り方を見直すといったことが挙げられる。甲8(
〔14頁〕

f
学校における死亡事故について、学校は、速やかに基本調査に
着手し、原則として3日以内を目途に、関係するすべての教職員から聴き取りを実施するとともに、必要に応じて、事故現場に居合わせた児童生徒等への聴き取りを実施する。基本調査等を踏まえ、学校の設置者が必要と判断した場合には、外部専門家が参画した調査委員会を設置し、必要な再発防止策を検討することを目的とした詳細調査

を行う。
(甲8〔13頁〕

g
詳細調査への移行の判断は、基本調査の報告を受けた学校の設置者が行う。移行の判断に当たっては、学校の設置者は、被害児童生徒等の保護者の意向に十分配慮する。詳細調査に移行すべき事案の考え方として、少なくとも、教育活動自体に事故の要因があると考えられる
場合や被害児童生徒等の保護者の要望がある場合には、詳細調査に移行する。
(甲8〔17頁〕

h
公立学校及び国立学校における詳細調査の実施主体(調査委員会を立ち上げ、その事務を担う)は、特別の事情がない限り、学校ではなく、学校の設置者とする。
(甲8〔17頁〕


i
死亡事故等の詳細調査は、外部の委員で構成する調査委員会を設置して行う。詳細調査は、原因究明及び再発防止のための取組について検討するためのものであって、責任追及や処罰等を目的としたものではないが、事故に至る過程や原因を調査するには高い専門性が求めら
れるので、中立的な立場の外部専門家が参画した調査委員会とすることが必要であり、
調査の公平性中立性を確保することが求められる。

調査委員会の構成については、学識経験者や医師、弁護士、学校事故対応の専門家等の専門的知識及び経験を有するものであって、調査対象となる事案の関係者と直接の人間関係又は特別の利害関係を有しない者(第三者)について、職能団体や大学、学会からの推薦等により参加を図ることにより、当該調査の公平性・中立性を確保することが
求められる。小規模の地方公共団体など、設置が困難な地域も想定されることを踏まえ、都道府県教育委員会においては、これらの地域を支援するため、職能団体や大学、学会等の協力を得られる体制を平常時から整えておくことが望ましい。
(甲8〔18頁〕

j
被害児童生徒等の保護者への適切な情報提供として、調査委員会での調査結果について、調査委員会又は学校の設置者が被害児童生徒等の保護者に説明する。調査の経過についても適宜適切な情報提供を行うとともに、被害児童生徒等の保護者の意向を確認する。
(甲8〔20
頁〕


(イ)
a
本件事故後の被告の対応及び調査等
被告は、本件事故後、本件事故について、原因の解明、学校及び被告教育委員会の対応の調査、検証並びに今後の再発防止に関する提言を行うことを目的とした本件委員会を設置した。
本件委員会の委員は、
委員長として前大川市教育長、副委員長として西南学院大学人間科学部教授、委員として福岡教育大学教育学部准教授、医師、大川市体育
協会会長、大川市PTA連合会役員2名、小学校長、中学校長、小学校体育担当教諭、中学校体育教諭が選任された。
(甲2〔1頁〕

b
本件委員会は、平成29年2月2日、第1回安全調査委員会を開催した。原告母は、同日のテレビのニュースにより、本件委員会が設置
されたことを知り、これを原告父に伝えた。同月3日、被告教育委員会の課長及び課長補佐(以下、単に課長課長補佐という。

)が
原告らの自宅を訪問し、第1回安全調査委員会の内容を報告した。同月7日、被告教育長(以下、単に教育長という。
)及び課長が原告
らの自宅を訪問し、第1回安全調査委員会の内容を報告したところ、原告らは、同委員会の議事録の開示を求めるとともに、本件小学校及び大川市内他校の安全点検の状況報告を希望した。
(乙11、
原告父本

人〔6-9頁〕

c
教育長、課長及び課長補佐は、平成29年2月14日、原告らの自宅を訪問し、第1回安全調査委員会の議事録を開示するとともに、第2回安全調査委員会の内容について事前に説明した。また、原告らに対し、本件小学校の安全点検表を交付し、記載内容を説明した。
(乙1

1、原告父本人〔9-10頁〕

d
本件委員会は、平成29年2月20日、第2回安全調査委員会を開催し、事故前の記載のある安全点検表や事故後に改訂された安全点検表(乙2)が提出された。教育長及び課長は、同月21日、原告らの自宅を訪問し、第2回安全調査委員会の内容を報告し、改訂した安全
点検表を交付した。このとき、原告らは、安全調査委員会への参加を希望したことから、教育長及び課長は、これを本件委員会に提案することにした。
(甲5〔81頁〕
、乙11、原告父本人〔10-11頁〕

e
本件委員会は、平成29年2月27日、第3回安全調査委員会を開催した。同委員会では、原告らが傍聴を希望したことから、本件委員会は原告らの傍聴を許可した。同年3月2日、教育長及び課長は、原告らの自宅を訪問し、第3回安全調査委員会の内容を報告するとともに、
第2回安全調査委員会の議事録を開示した。
このとき、
原告らは、
第4回安全調査委員会の傍聴を希望したことから、
教育長及び課長は、

これを本件委員会に打診することにした。
(乙11、原告父本人〔11
-12頁〕

f
本件委員会は、平成29年3月23日、第4回安全調査委員会を開催した。
本件委員会は、
原告らの傍聴を許可したことから、
原告らは、
同委員会を傍聴した。同年4月11日、教育長及び課長は、原告らの自宅を訪問し、
第3回安全調査委員会の議事録を開示した。
このとき、
原告らは、第5回安全調査委員会の傍聴を希望したことから、教育長
及び課長は、これを本件委員会に打診することにした。
(乙11)
g
本件委員会は、平成29年4月13日、第5回安全調査委員会を開催した。
本件委員会は、
原告らの傍聴を許可したことから、
原告らは、
同委員会を傍聴した。原告らは、同委員会の後、本件委員会の委員長及び副委員長に対し、
本当にこれでよいのか、
5回で終了でよいのか、

納得のいく形になったのかなどと話し、調査を続けて欲しい旨を伝えたが、委員長及び副委員長は何も答えなかった。
(乙11、原告父本人
〔13-14頁〕

h
教育長及び課長は、
平成31年4月16日、
原告らの自宅を訪問し、
同年3月に作成された本件報告書について説明し、同報告書を交付し
た。
(乙11)

判断
(ア)

原告らの主張
原告らは、

a
被告は、児童の保護者との間の在学契約上の付随義務として、学校の管理下において発生した事件・事故によって児童が死亡した場合、必要かつ相当な範囲内において、速やかに事実関係を調査し、保護者に対し、その結果を報告すべき義務を負う。

b
被告は、本件委員会による調査に際し、本件委員会の設置や委員の人選、調査内容及び方法等について、原告らと協議するとともに、必要かつ相当な調査が尽くされているかどうかについて、原告らの意向を確認し、対応すべき義務があった。
c
本件報告書において、本件ゴールポストと杭をロープで固定する方法が想定されていたなどと記載しているが、あるべき固定方法は土台フレームを直接杭で地面に固定する方法であるから、本件報告書には虚偽の内容が記載されている

と主張するので以下検討する。
(イ)
a
上記(ア)のa・bの主張について
本件指針は、学校が被害児童生徒等の保護者に寄り添い、常に情報の共有化を図ること、詳細調査への移行の判断に当たって、学校設置者は被害児童生徒等の保護者の意向に十分配慮すること、被害児童生
徒等の保護者の要望がある場合には詳細調査に移行すべきこと、調査結果について、調査委員会又は学校が被害児童生徒等の保護者に説明することや、調査の経過について、適宜適切な情報提供を行うとともに、被害児童生徒等の保護者の意向を確認することなどを定めている(前記ア(ア)参照)
。そうすると、被告は、本件小学校の設置者として、

本件事故によって死亡した亡Cの保護者である原告らに対し、在学契約上の付随義務として、本件事故について、原告らの意向等に配慮しつつ十分な調査を行い、その結果を報告する義務を負うといえる。b
しかし、本件指針は、学校、学校の設置者及び地方公共団体が、それぞれの実情に応じて、事故後の適切な対応に取り組むに当たり参考となるものとして作成されたものであり
(前記ア(ア)a参照)本件指針

が、本件事故後の調査に関し、ただちに被告の原告らに対する義務の内容となるわけではないものと解される。そもそも、本件指針の定める調査委員会は、
公平性・中立性を確保することが求められている
(同

i参照)ところ、学校事故の被害児童生徒等の保護者も、当該事故の利害関係者の一人であることは否定できないところであるから、公平性・中立性を確保しつつ、専門的な見地から事故に至る過程や原因について調査する以上、調査委員会の委員の人選や調査内容及び方法等について、保護者の意向に配慮したり、適宜保護者と協議したりすることには限界があるものといわなければならない。
c
以上の理解を前提とすると、学校設置者である地方公共団体は、学校内での事故について十分な調査を行い、被害児童生徒等に対し、その結果を報告する義務があるというべきであるが、調査委員会の委員の人選や、調査委員会による具体的な調査の内容及び方法等については、事故の内容や調査の目的、学校及び地方公共団体の実情等に応じ
て、学校設置者や、専門的知識及び経験を有する委員によって構成される調査委員会の判断に委ねられているというべきである。
そうすると、被告において、原告らが主張するような、本件委員会の設置や委員の人選、調査内容及び方法等について、原告らと協議するとともに、
必要かつ相当な調査が尽くされているかどうかについて、

原告らの意向を確認し、対応すべき義務があったとは認められない。その上で、前記ア(イ)記載のとおり、被告は、本件事故について、原因の解明等を目的とした調査委員会として本件委員会を設置し、第1回から第5回までの安全調査委員会を開催するなどして詳細調査を実施して、その結果を取りまとめた本件報告書を作成し、これを原告ら
に説明して交付している。また、被告の教育長や課長らは、原告らの自宅を訪問し、
各安全委員会の内容を報告し、
原告らの要望に応じて、
委員会の傍聴を認めたり、議事録等を交付したりするなどの対応を実施している。そして、本件報告書では、本件小学校による基本調査及び本件委員会による聴き取り等の調査結果を踏まえ、学校経営・運営
に係る計画・実施に関する事項、
安全管理
(安全点検)
に関する事項、
安全教育(学習・指導)に関する事項、教育委員会に関する事項について、それぞれ具体的な提言を行っている(甲2)

したがって、被告は、原告らの要望等に配慮しつつ、本件事故について本件委員会による詳細調査を実施し、その結果を本件報告書として取りまとめて原告らに説明して報告したというのであるから、被告について、原告らに対する調査報告義務違反があったということはで
きない。
d
なお、本件委員会の設置について、被告は、事前に原告らに説明していたと主張し、証拠(乙11)には、平成29年1月27日、本件校長が原告らの自宅を訪問し、原告らに対し、本件委員会の設置を事前に知らせたとの記載がある。しかし、本件報告書では、本件事故発
生後3週間の間、本件委員会の設置に関して、その目的や委員の構成等が原告らに知らされていないと記載されており(甲2〔23頁〕、)
原告父は、テレビのニュースによって本件委員会の設置を知ったと陳述しているのであるから、少なくとも、原告らが理解できる程度の十分な説明はなかったというべきである。

もっとも、本件委員会を設置して詳細調査を実施することが、原告らの意向に沿わないものであったわけではないし、本件委員会の設置の時点において、原告らが本件委員会の設置による調査の実施を拒んでいたわけでもないことからすれば、本件委員会の設置について、被告が原告らに対し、事前に十分な説明をすべき義務があったとまでは
いえない。また、本件委員会の委員の人選や調査方法等について、事前に原告らに確認し、その意向を配慮するといった義務が認められないことは、前述のとおりである。
e
他方、原告らは、本件委員会の委員の人選について、前教育長や体育協会会長、小学校長、中学校長といった委員が選任されており、第三者性に疑問があって、公平性、中立性が確保されているとはいえないと主張する。しかし、本件指針は、調査委員会の構成について、学識経験者や医師、弁護士といった専門的知識及び経験を有する者であって、調査対象となる事案の関係者と直接の人間関係又は特別の利害関係を有しない者を確保するよう求めているのであり、このような利害関係を有しない学校関係者を委員に選任することは必ずしも排除さ
れていない。また、前記のとおり、本件指針は、学校、学校の設置者及び地方公共団体が、それぞれの実情に応じて、事故後の適切な対応に取り組むに当たり参考となるものとして作成されたものであるから、結局は、調査委員会を設置する地方公共団体の実情に応じて委員を選任するほかない事態も想定されているといえる。そうであれば、本件
委員会の委員として、大学教員2名、医師1名を超えて、本件指針で例示されているような専門家を委員として選任しなかったからといって、公平性・中立性が確保されていないとはいえないし、本件指針の趣旨に反するものとも解されないというべきである。
(ウ)
a
上記(ア)のcの主張について
原告らは、本件報告書において、本件ゴールポストと杭をロープで固定する方法が想定されていたなどと記載しているが、あるべき固定方法は土台フレームを直接杭で地面に固定する方法であるから、本件報告書には虚偽の内容が記載されているなどと主張する。

この点、本件ゴールポストのようなフットサルゴールの安全基準のうち、ゴールの安全性品質や使用上の安定性、使用上の注意についての記載を総合すれば、
フットサルゴールの固定方法としては、
固定具、
打込み杭又は重錘の3つのうちいずれかを使用することが想定されているといえる(前記認定事実等b参照)
。また、平成21年3月の学校施設における事故防止の留意点についてにおいても、サッカーゴールについて、杭等により固定したり、十分な重さと数の砂袋等で安定させたりする等、転倒防止のため配慮することが重要であると記載しており
(同a(a)ⅰ参照)固定方法として杭による方法及び重錘によ

る方法に限定しているわけではない。そうすると、本件ゴールポストの固定方法としては、打込み杭による方法が唯一のあるべき方法であるとはいえないし、本件事故後の実験では、本件ゴールポストの左右
の土台フレームと鉄杭をロープで結んで固定すれば、荷重を約50度後方に吊り上げたときの振りによっても、本件ゴールポストは転倒しなかったというのである
(同d(d)参照)
から、
このような固定方法は、
本件事故を防止する上で不適切な方法であったとまではいえず、上記安全基準の想定している固定具による固定方法に含まれるものと考え
られる。また、本件報告書の記載は、本件事故後の状況として、本件ゴールポストの左右の土台フレームにロープが結束されており、その周囲に鉄杭が埋め込まれていたという本件事故後の実況見分においても確認された状況を踏まえ、本件ゴールポストの土台フレームと鉄杭をロープで結んで固定する方法が想定されていたものと認定したにと
どまるのであって、殊更に虚偽の内容が報告されたものとは認められないし、本件ゴールポストの固定状況として、正確に記載されていなかったとも認められない。
b
原告らは、本件報告書において、本件事故後に実施された実況見分によって明らかになった本件ゴールポストに関する状況や、本件ゴールポストを除く他の3台のフットサルゴールについては直接杭によって固定されていたことについて記載されておらず、被告は、本件事故について原告らに十分に報告したとはいえないなどと主張する。
しかし、直接杭で固定する方法のみが本件ゴールポストのあるべき
固定方法であったとはいえないことは前記のとおりである。そして、本件ゴールポストと杭をロープで固定する方法が、本件事故を防止する上で不適切な固定方法であったとまではいえないことも、前記のとおりである。
そうすると、本件委員会による調査目的に照らせば、本件ゴールポストについて、上記のような固定方法による固定がされていなかった点の指摘を超えて、あるべき固定方法についてまで言及することが本
件報告書の記載内容として不可欠であるとは認めがたい。また、本件委員会は、本件事故の原因の解明等を目的とするものであり、責任追及や処罰等を目的としたものではない
(甲2
〔1頁〕前記ア(ア)i参照)

のであるから、本件事故後に捜査機関によって実施された実況見分により明らかになった事実が本件報告書に記載されていなかったとして
も、やはり、被告の原告らに対する報告内容として不十分であるとはいえない。
(エ)

以上のとおりであるから、被告の調査報告義務違反に関する原告らの
主張は、いずれも採用することができず、原告らの、被告に対する、調査報告義務違反に基づく損害賠償請求は認められない。

第5

結論
よって、原告の①本件事故による損害賠償請求のうち、主位的請求(国賠法1条1項に基づく請求)は主文1項、2項の限度で理由があるから認容し、その余の主位的請求及び予備的請求(同法2条1項に基づく請求)並びに②調査
報告義務違反による損害賠償請求は、いずれも理由がないから棄却することとして、主文のとおり判決する。
福岡地方裁判所久留米支部

裁判長裁判官

立川毅
裁判官

岸本寛成
裁判官

加藤邦太
トップに戻る

saiban.in