判例検索β > 令和4年(ワ)第3374号
特許権侵害行為差止等請求事件(承継参加) 特許権 民事訴訟
事件番号令和4(ワ)3374
事件名特許権侵害行為差止等請求事件(承継参加)
裁判年月日令和4年6月20日
法廷名大阪地方裁判所
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-06-20
情報公開日2022-06-28 04:00:16
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令和4年6月20日判決言渡

同日原本領収

裁判所書記官

令和4年(ワ)第3374号

特許権侵害行為差止等請求事件(承継参加)

口頭弁論終結日令和4年4月25日
判決
原告

P1

同訴訟代理人弁護士

小林幸夫


弓削田博


平田慎二

同訴訟代理人弁理士

服部秀一

承継参加人

パナソニック株式会社

(以下参加人という。

脱退被告

パナソニックホールディングス
株式会社

上記両名訴訟代理人弁護士

速見禎祥

同訴訟復代理人弁理士

南康之

上記両名訴訟代理人弁護士

溝内伸治郎

主文
1原告の請求をいずれも棄却する。
2訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求
1参加人は、別紙製品目録記載の各製品(以下本件製品という。
)を製造し、
譲渡し、輸入し、輸出し、譲渡の申出をし、又は譲渡のために展示してはならな
い。
2参加人は、本件製品及びその半製品(本件製品の構造を具備しているが製品と
して完成するに至らないもの)を廃棄せよ。
3参加人は、原告に対し、1000万円及びこれに対する令和3年6月2日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
第2事案の概要
本件は、発明の名称を微生物の生長制御方法とする特許(以下本件特許という。
)に係る特許権(以下本件特許権という。
)を有する原告が、本件製品
の冷蔵室に食品を保存する方法は本件特許の特許請求の範囲請求項2記載の発明(以下本件発明という。
)の技術的範囲に属し、脱退被告の地位を承継した参加
人が本件製品を製造、
販売等する行為は本件特許権の直接侵害又は間接侵害に当た

ると主張して、参加人に対し、特許法100条1項及び2項に基づき、本件製品の製造、譲渡等の差止め及び廃棄を求めるとともに、不法行為(民法709条)に基づく損害賠償として、3835万3332円のうち1000万円及びこれに対する不法行為の日の後(訴状送達の日の翌日)である令和3年6月2日から支払済みまで民法所定年3%の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原告は、当初、脱退被告に対し前記請求をしていた(当庁令和3年(ワ)第4796号)ところ、参加人は、後記会社分割による承継を原因として令和4年4月22日承継参加の申出をし、原告が、同月25日の本件口頭弁論期日において、脱退被告の脱退を承諾したことから、脱退被告は、本訴訟から脱退した。1前提事実
(争いのない事実並びに後掲各証拠及び弁論の全趣旨により容易に認
定できる事実)
(1)当事者

原告は、本件特許権の特許権者である(甲3)



脱退被告は、電気・通信・電子、照明機械器具の製造、販売の事業を営む会社等の株式等を所有することにより、当該会社等の経営管理を行うことを
目的とする株式会社である。脱退被告は、令和4年4月1日、その商号をパナソニック株式会社からパナソニックホールディングス株式会社に変更し
た。
参加人は、電気・通信・電子、照明機械器具の製造、販売等を目的とする株式会社である。
参加人(商号変更前のパナソニック分割準備株式会社)は、令和3年5月31日、脱退被告との間で、脱退被告を吸収分割会社、参加人を吸収分割承
継会社、令和4年4月1日を効力発生日として、脱退被告が営む、本件製品の製造販売を含む冷蔵庫に関する事業等を参加人に承継させる旨を含む吸収分割契約を締結し、前記効力発生日に、同事業に関する一切の権利義務を承継した(丙1、2)

(2)本件特許権
本件特許権の概要は次のとおりである。

第4691307号


出願日

平成14年3月24日


公開日

平成15年9月30日


登録日

平成23年2月25日


登録番号

発明の名称

微生物の生長制御方法

なお、本件特許の特許請求の範囲、明細書及び図面(以下、明細書及び図面を本件明細書という。
)の記載は別紙特許公報に記載のとおりである(甲
4)

(3)本件発明の構成要件の分説
本件発明の構成要件は、次のとおり分説される(以下、各構成要件を構成要件Aなどという。。)
A
ショウロ菌、マツタケ菌、アブラナ炭疽病菌、ウリ炭疽病菌、枯草菌および黄色ブドウ状球菌のいずれかの微生物を、

B
およそ400nmから490nmまでの光波長領域にある光の照射下で培養して、

C
この微生物の生長を抑制させる

D
ことを特徴とする微生物の生長制御方法。

(4)本件製品
本件製品は、
5ドアの冷蔵庫であり、
最上部の冷蔵室
(以下、
単に
冷蔵室
という。
)内の天面、左側面(本件製品に向かって左をいう。以下同じ。
)及び
右側面
(本件製品に向かって右をいう。
以下同じ。にそれぞれ白色LED灯が

搭載されており(以下、天面のLED灯をLED①、左側面のLED灯を
LED②
、右側面のLED灯をLED③という。、左側面下部扉寄りに)
設置されている操作パネルの一部に青色LED灯
(以下
LED④
という。


が搭載されている。
冷蔵室内下方にはパーシャル/チルド切替室
(以下
パーシャル室
という。

が設けられており、
パーシャル室内で食品を約-3℃から約-1℃に保つ機能
(微凍結パーシャル機能)食品を約零℃から約2℃

(チルド)
に保つ機能及び
これらの保存方法を切り替えることのできる機能を備えている。
パーシャル室内にはLED灯(以下LED⑤という。)が搭載されてお

り、チルド時は白色発光し、微凍結パーシャル機能作動時(弱、中、強)は水色発光し、オート急冷中(微凍結パーシャル機能作動時においてパーシャル室内を急速に冷やす機能を作動させた状態)は青色発光するよう設定されている。(以上につき、甲5、10、19、乙3、4、弁論の全趣旨)
2争点
(1)本件製品が本件発明の技術的範囲に属するかどうか(争点1)(2)直接侵害及び間接侵害が成立するかどうか(争点2)
(3)本件発明が次の無効理由を有するかどうか(争点3)

サポート要件違反①(争点3-1)


サポート要件違反②(争点3-2)


明確性要件違反(争点3-3)


文献(平成12年に光学に掲載された乙34の文献。以下乙34文献という。)記載の発明(以下乙34の1発明という。
)に基づく新規
性欠如(争点3-4)


乙34文献記載の発明(以下乙34の2発明という。
)に基づく進歩性
欠如(争点3-5)


公開特許公報(平成11年6月15日公開の特開平11-159953。乙35。以下乙35公報という。
)記載の発明(以下乙35発明とい
う。
)に基づく新規性欠如(争点3-6)


公開特許公報(昭和58年1月31日公開の特開昭58-16665。乙36。乙36公報
以下
という。記載の発明

(以下
乙36発明
という。


に基づく新規性欠如(争点3-7)

乙36発明に基づく進歩性欠如(争点3-8)

(4)損害の発生及びその額(争点4)
第3争点に関する当事者の主張
1争点1(本件製品が本件発明の技術的範囲に属するかどうか)について【原告の主張】
(1)本件製品の使用方法等

本件製品の構成について
本件製品は、パーシャル室等に青色LEDを搭載しており、冷蔵室内に保
存された食材に向けて青色光を照射している。具体的には、本件製品の冷蔵室のドアを開けたときには、肉眼で確認ができるほどの強い青色光が照射されるところ、
一般的な冷蔵庫の開閉回数及び時間に関するデータ、
すなわち、
一日の開閉回数が約30回以上であり、一回当たりの開閉時間が約12秒以上であることを踏まえると、本件製品の冷蔵室のドアが開いているときの青
色光の照射時間は、一日当たり少なくとも6分に及ぶ。
また、
本件製品の冷蔵室のドアを閉めた後約13秒間は青色光が照射され、
それ以降は、淡い青色光が照射される状態が継続する。

本件製品の使用方法について
枯草菌及び黄色ブドウ状球菌は常在菌であるから、スーパーマーケット等で売られている食材の表面には、わずかであっても必ず枯草菌又は黄色ブドウ状球菌が付着している。本件製品は食材を保存するために用いられる冷蔵
庫であり、冷蔵室内に食材を保存すると、食材の表面に付着した枯草菌又は黄色ブドウ状球菌も必然的に保存することになる。また、冷蔵室に搭載された青色LEDの光は、400nmから490nmまでの光波長領域にある光であるから、冷蔵室に食材を保存すると、同青色光が食材の表面に付着した枯草菌又は黄色ブドウ状球菌に照射され、その成長を抑制する。

以上から、
本件製品の使用方法は次のとおり特定される
(以下
本件方法
といい、各構成要素を構成aなどという。。

a
食材の表面に付着した枯草菌および黄色ブドウ状球菌のいずれかの微生物を、

b
およそ400nmから490nmまでの光波長領域にある光の照射下に保ち、

c
この微生物の生長を抑制させる

d
微生物の生長制御方法。

(2)構成要件Aの充足性
本件方法の構成aは、本件発明の構成要件Aを充足する。

(3)構成要件Bの充足性

およそ400nmから490nmまでの光波長領域にある光の意義本件発明は、
ショウロ菌、
マツタケ菌、
アブラナ炭疽病菌、
ウリ炭疽病菌、
枯草菌及び黄色ブドウ状球菌のいずれかの微生物を、
およそ400nmから4

90nmまでの光波長領域にある光の照射下で培養することによって、この微
生物の生長を抑制できることに技術的意義があり、この作用効果は、青色光
とは別に、白色光などの400nmから490nm以外の波長の光が照射されていても変わりがない。すなわち、
およそ400nmから490nmまでの光波長領域にある光は、それ以外の波長領域の光が別に照射されている場合を排除するものではなく、青色光が照射されていれば足りる。したがって、本件方法において、青色光とは別に白色光が照射されているとしても、およそ400nmから490nmまでの光波長領域にある光を充足する。また、本件明細書に記載されている青色光の強度及び照射時間は、好ましい形態を記述しているにすぎないから、青色光の強度及び照射時間を限定するものではない。そうすると、青色光がどのような強度及び照射時間であろうと、生長を抑制させる青色光であればおよそ400nmから490nmまでの光波長領域にある光を充足する。本件方法において、本件製品の冷蔵室のドアが開いているときの青色光の照射時間は、一日当たり少なくとも6分に及ぶのであり、
これだけの青色光が照射されていれば十分に生長抑制効
果を奏する。したがって、本件方法において、青色光がどのような強度及び照射時間であろうと、生長を抑制させる青色光が照射されているから、およそ400nmから490nmまでの光波長領域にある光を充足する。イ
光の照射下での意義について
光の照射下でとは、枯草菌、黄色ブドウ状球菌等の微生物に対して生長を抑制させる青色光が照射されていることを意味し、それで足りる。本件方法は、青色光を照射することで枯草菌、黄色ブドウ状球菌等の微生
物の生長を抑制していることから、
光の照射下でを充足する。

培養の意義について
培養は、
微生物を発育・増殖させることという意味に限定されるも
のではなく、その状態を保つという意味がある。
培養という意味の英

語としてincubateが広く使われているところ、これは、細胞やバクテリアなどを発達させるために適切な温度に
保つこと
などという意味があり、

日本語の論文においても、
培養という用語は、その状態を保つという
意味で用いられているなど、
培養は、専門的には、必ずしも発育や増殖と
いう意味に限定されるものではない。微生物が発育・増殖することは、培養によってもたらされる結果にすぎない。本件明細書においても、

27℃の青色光および暗黒下で培養を行い、青色光照射が細菌の生長抑制に及ぼす効果について調査した

と、培養の結果、細菌の生長が抑制されていることが記載されている。
したがって、本件方法において、食材の表面に付着した枯草菌及び黄色ブドウ状球菌のいずれかの微生物を光の照射下に保つことは、
培養に当た
る。


以上から、本件方法の構成bは、本件発明の構成要件Bを充足する。
(4)構成要件C及びDの充足性

生長制御方法の意義について
本件発明の目的は、微生物の生長を抑制させることであり、胞子形成を促すことができることは副次的な作用効果にすぎないから、青色光照射下で微
生物の生長が抑制されていれば、
生長抑制方法に該当する。
本件明細書において、黄色ブドウ状球菌の胞子形成を促すことができる旨の記載が存在するが、これは、本件特許出願当時は、黄色ブドウ状球菌が芽胞を作らないということが判明していなかったことによるものであり、黄色ブドウ状球菌に対しては胞子形成を促すことはできないから、黄色ブドウ状
球菌についての生長制御方法は、生長を抑制させることを意味する。そして、本件方法は、微生物の生長を抑制させることができるから生長制御方法に該当する。イ
以上から、本件方法の構成c及び構成dは、本件発明の構成要件C及び構成要件Dを充足する。

【参加人の主張】

(1)

本件製品の使用方法等
本件製品の構成について
本件製品は、
冷蔵室のドアが開いたとき、
LED①、
同②、
同③が点灯し、
LED⑤は、パーシャル室の状態がチルド時には白色に、通常のパーシャル時には水色に、
パーシャル時かつオート急冷中には青色にそれぞれ点灯する。

このときのパーシャル室内の光強度(光量子束密度)は、LED⑤のみならず、冷蔵室内のLED灯及び室内の照明の光を含めて、最大でも7µE/㎡/s程度である。
冷蔵室のドアが閉じると、収納量判定のために、LED①、同②、同③、同④が、この順にそれぞれ2秒程度点灯する。このときのパーシャル室内の
光強度(光量子束密度)は、せいぜい0.02µE/㎡/s程度である。収納量判定が終了した後は、冷蔵室内のLED灯は完全に消灯する。イ
本件製品の使用方法について
本件製品は、飲食品を一定の温度下で冷蔵・冷凍保存するために使用されるものであって、
原告主張の本件方法により本件製品が使用される事実はな

い。
(2)

構成要件Aの非充足性
本件製品の使用が構成要件Aを充足するとの主張は、否認し争う。
(3)
構成要件Bの非充足性

アおよそ400nmから490nmまでの光波長領域にある光の意義について
(ア)

光波長領域について
本件明細書において開示されている具体的な光波長領域は、およそ40
0nmから490nmまでの間のみに限定されており、他の光波長領域を有する青色光は一切記載されていない。また、本件発明に含まれる青色光が照射されるとギガスポラ・マルガリータの菌糸生長を抑制するが、その他
の波長領域の光(510nm、590nm、612nm、660nm、730nm)を照射した場合は、暗黒下と比較していずれも菌糸生長を促進した。このような結果に鑑みれば、本件発明の対象とされている各菌においても、青色光以外の波長の光が照射されると、青色光とは逆に菌糸生長を促進する可能性がある。
これらの本件明細書の記載に鑑みれば、
本件発明の
およそ400nmから490nmまでの光波長領域にある光
とは、
当該光波長領域のみにある
光を指すと解釈され、青色光とともに他の光波長領域の光が混在する場合を含まないと解釈するのが自然である。

(イ)

光の強度・照射時間について
本件明細書に記載されている青色光の強度及び照射時間は、次のとおり。参考例・実施例

光強度

照射時間

参考例2

10µE・m⁻²s⁻¹

10日間

参考例3

50µE・m⁻²s⁻¹

3時間(※)

実施例1

強度不明

1か月・3か月

実施例2

30µE・m⁻²s⁻¹

14日間

実施例3

30µE・m⁻²s⁻¹

1週間

(※参考例3は効果があった時間)
参考例3では、
ギガスポラ・マルガリータを対象とするものではあるが、
50µE/㎡/sという強度の光であっても、0.25時間~1時間の照射では有意差がないことが記載されており、実施例3に関して、枯草菌及び黄色ブドウ状球菌に関し、30µE/㎡/sという強度の光を1週間も照射しても、抑制される傾向はわずかであると記載されている。したがって、光の照射時間が短く、また、照射される光の強度が小さいと、本件発明の効果は奏さないと理解される。本件明細書のこれらの記載に照らせば、本
件発明の効果を奏するためには、
少なくとも、
実施例に記載された30µE/

㎡/s以上の強度で、1週間以上の照射時間が必要と解されるのであり、およそ400nmから490nmまでの光波長領域にある光とは、30µE/㎡/s以上の強度で、1週間以上の照射時間のものに限定されるべきである。
(ウ)

本件製品において、青色光のみが照射されるのは、冷蔵室のドアを閉
じたときの収納量検知のうち、LED④が点灯するときのみ(時間はわずか2秒、光強度でせいぜい0.02µE/㎡/s程度)であるが、本件明細書に記載された青色光には全く及ばない強度及び照射時間であり、そもそもおよそ400nmから490nmまでの光波長領域にある光に該当しない。

また、本件製品のパーシャル室をオート急冷中に設定し、冷蔵室ドアを開けた場合、パーシャル室内は青色光で照射されるが、白色LEDによる光も混在しているからおよそ400nmから490nmまでの光波長領域にある光に該当しない。イ
光の照射下での意義について
(ア)

原告は、手続補正書において、本件特許に係る特許請求の範囲請求項
2を、補正前はおよそ400nmから490nmまでの光波長領域にある光を、ショウロ菌、マツタケ菌、アブラナ炭疽病菌、ウリ炭疽病菌および細菌のいずれかの微生物に照射して、この微生物の生長を抑制させることを特徴とする微生物の生長制御方法という記載であったものを、ショウロ菌、マツタケ菌、アブラナ炭疽病菌、ウリ炭疽病菌および細菌のいずれかの微生物を、およそ400nmから490nmまでの光波長領域にある光の照射下で培養して、この微生物の生長を抑制させることを特徴とする微生物の生長制御方法と補正した(下線部は補正部分)。この点につい

て、
原告は、
前記補正前の記載では、
光の照射下にて微生物を培養して微生物の生長を促進させる
という意味と、

一旦光を照射した後、別の条件で微生物を培養して微生物の生長を促進させる

という意味とが含まれるが、前記のとおり補正し、単に所定の光を照射するというだけでなく、培養の際の状態について、所定の光を直接照射した状態で培養するものとし、発明を特定するための事項を概念的により下位に限定した旨を説明している。

このような審査経過に照らすと、
光の照射下で
とは、
光の照射と微生
物の生長との関連性が明確なことを必須のものとする要件であり、光が照射され、微生物は生育しなかったが、当該生育しない原因が光の照射と無関係のものである場合は、当然、本件発明の光の照射下での構成要件に該当しない。

(イ)

本件製品の使用により微生物が生育しなかったとしても、それは、冷
蔵庫という低温条件によるものであり、光の照射と無関係であるから、本件製品の使用方法は光の照射下でに該当しない。

培養の意義について
(ア)培養とは、一般的に

微生物を栄養・温度などの外部条件を制御しながら、人工的に発育・増殖させること

を意味する。本件明細書の記載に照らすと、本件発明は、胞子形成が起こるまでに時間がかかるという従来の培養技術の問題点を解決するために、微生物の生長を抑制させ、
胞子形成を促すことで培養技術の向上を図るものであると

ころ、ここでいう培養技術は、前記一般的な培養の意味で用いら
れている。また、
胞子とは、新しい生長力のある新個体をつくるための
無性的な生殖細胞であり、
胞子形成を促すということは、
将来の菌の発育・
増殖(培養)に備えた生殖細胞の形成を促すという技術的意義がある。この点からも、
培養
は前記一般的な培養の意味で用いられている。
また、

本件明細書の実施例及び参考例を参照しても、全ての例において、特定の菌に対し、温度、光等の条件が制御された環境下で、同一条件を長期間に
渡って継続することで、人工的な発育・増殖(生長抑制及び胞子形成)が行われている一方で、冷蔵庫に食材を保存するような例は一切記載されていない。
このような、
培養の意義、本件明細書の記載に加え、本件発明は青色
光を照射される菌が具体的に特定されていることを必須としていると理
解できる審査経過における原告の陳述内容を考慮すると、
培養
とは、

生物を栄養・温度などの外部条件を制御しながら、人工的に発育・増殖させることという一般的な意味で解釈されるべきものと理解される。(イ)

本件製品のような冷蔵庫に食材を保存する行為は、通常、行為者は対
象となる微生物すら特定・認識しておらず、微生物の発育・増殖のために
条件が制御されているものでもないから、本件製品の使用方法は、

微生物を栄養・温度などの外部条件を制御しながら、人工的に発育・増殖させる

行為、すなわち培養に該当しない。(4)構成要件Cの非充足性
否認し、争う。

(5)構成要件Dの非充足性(
微生物の生長制御方法の意義)

前記(3)ウのとおり、本件発明は、胞子形成が起こるまでに時間がかかるという従来の培養技術の問題点を解決するために、微生物の生長を抑制させ、胞子形成を促すことで培養技術の向上を図るものである。したがって、従来の培養技術の問題点を解決するためには、単に微生物の生長を抑制するだけ
では足りず、
胞子形成を促すことまでが必要であることが本件明細書の記載
から明瞭に読み取れる。
また、審査経過において、原告は、補正前後を通じて生長制御の意味に変化はないと説明をしているところ、
生長制御とは、
微生物の生長が抑えられて胞子形成が促進されることを意味すると理解される。

冷蔵庫に食材を保存する行為において、食材に付着している微生物につい
て胞子形成の促進は行われておらず、本件製品の使用方法は、本件発明の生長制御方法には該当しない。
2争点2(直接侵害及び間接侵害の成否)について
【原告の主張】
(1)

直接侵害の成立
本件製品は、
枯草菌又は黄色ブドウ状球菌が付着した食材を保存するために

使用されることが、製造時点から当然のこととして予定されていることから、本件製品は、
枯草菌又は黄色ブドウ状球菌が付着した食材を保存する以外の使
用方法はない上に、
パーシャル室等に搭載された青色LEDによって当該食材
に必ず青色光が照射されるため、参加人は、本件製品の購入者である消費者を道具として、
枯草菌又は黄色ブドウ状球菌の生長を抑制する方法を実施してい
ることになる。
よって、本件製品を製造し、譲渡等して、その購入者である消費者をして本件方法を実施させる行為は、全体として本件特許権の直接侵害に該当する。
(2)

間接侵害の成立
本件製品は、
枯草菌又は黄色ブドウ状球菌が付着した食材を保存する以外の

使用方法はない上に、
パーシャル室等に搭載された青色LEDによって当該食
材に必ず青色光が照射されるため、本件製品は本件方法の使用にのみ用いる物である(特許法101条4号)

また、原告は、平成28年12月19日、ホテルグランビア広島において脱退被告と面談を行い、その際に、脱退被告に対し、本件製品の製造、販売等が本件特許権の侵害になることを説明した。したがって、脱退被告は、本件発明による課題の解決に不可欠な本件製品につき、本件発明が特許発明であること及び本件製品が本件発明の実施に用いられることを遅くとも同時点で知った
(特許法101条5号)

よって、本件製品を製造し、販売等する行為は、本件特許権の間接侵害にも
該当する。
【参加人の主張】
否認し、争う。
3争点3-1(本件特許にサポート要件違反の無効理由①があるか)について【参加人の主張】
仮に、
およそ400nmから490nmまでの光波長領域にある光
(構成要件
B)について、30µE/㎡/s以上の強度で、1週間以上の照射時間のものに限定解釈されない場合、本件発明のおよそ400nmから490nmまでの光波長領域にある光には、①他の光波長領域の光が混在する場合や、②ごく短時間、ご
く弱い強度の光である場合が含まれることになるが、これによれば、本件発明の課題(胞子形成を促し、微生物の培養技術の向上を図ること)を解決できない範囲まで発明の要旨が及ぶことになり、当業者は、本件明細書の記載により本件発明の課題を解決できると認識することはできない。
すなわち、本件明細書には、前記①②のような光によって、本件発明の課題が
解決できることの記載がなく、むしろ、参考例2等に関する本件明細書の記載に照らすと、当業者は、①の点に関して、
およそ400nmから490nmまでの光波長領域にある光以外の光波長領域の光が存在すると、微生物の生長促進がなされ、
生長抑制効果が減殺される可能性を認識するし、
②の点に関して、
30µE/
㎡/sより光強度が弱く、
1週間より照射時間が短い場合には、
枯草菌及び黄色ブ

ドウ状球菌の生長は抑制されないことや、何の限定もない、非常に短い時間の光の照射によっては、本件発明の課題が解決できないことを積極的に認識する。したがって、本件特許は、サポート要件(特許法36条6項1号)に違反し、無効とされるべきものである。
【原告の主張】

本件明細書に接した当業者であれば、実施例に記載された光強度及び照射時間以外の場合についても微生物の生長を抑制できるように光強度及び照射時間
の条件が適宜設定されるべきものであることを容易に理解し得る。すなわち、本件明細書中の参考例2は、ギガスポラ・マルガリータに関するものであって、本件発明とは関係がないし、本件明細書において、光強度や照射時間の限定が記載されていないことからすると、微生物の生長を抑制するための青色光について、光強度や照射時間を限定するものではない。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件明細書のサポート要件に適合する。
4争点3-2(本件特許にサポート要件違反の無効理由②があるか)について【参加人の主張】

本件発明は、微生物の生長を抑制させる生長抑制方法に関する発明であるが、微生物が生育する温度について何らの限定もない。一方、本件明細書に記載されている実施例及び参考例において本件発明の効果があったことが記載されているのは、いずれも27℃の場合のみであるから、当業者は、本件明細書の記載により、27℃以外の他の温度で、本件発明の構成によって本件発明の課題を解決
できると認識することはできない。とりわけ、本件発明の微生物のうち、少なくとも枯草菌及び黄色ブドウ状球菌が含まれる中温細菌は、5~55℃が増殖可能温度範囲とされており、当該範囲外では、光の条件にかかわらずそもそも菌が増殖しないのであるから、本件発明の構成の光を照射しても、当該菌の生長を抑制し、胞子形成を促進する効果があると認識することはできない。本件発明
の特許請求の範囲が広すぎることは明白である。
したがって、本件特許は、サポート要件に違反し、無効とされるべきものである。
【原告の主張】
本件発明は、青色光の照射によって、枯草菌や黄色ブドウ状球菌等の微生物の
生長を抑制できることを発見したことに技術的意義があるのであり、温度の条件を限定するものではない。本件明細書に接した当業者であれば、実施例に記載さ
れた温度以外の場合についても微生物の生長を抑制できるように温度の条件が適宜設定されるべきものであることを容易に理解し得る。
したがって、本件特許の特許請求の範囲の記載は、本件明細書のサポート要件に適合する。
5
争点3-3(本件特許に明確性要件に違反するとの無効理由があるかどうか)
について
【参加人の主張】
本件発明は、微生物の生長を抑制させる」構成要件C)

(との構成を備えるが、微生物がどのような状態になった場合に「生長を抑制

に該当するのか、特許請求の範囲の文言をみても、本件明細書を参照しても、全く理解することができない。
すなわち、本件明細書によれば、
【図9】及び【図10】のような状態をもって
わずかに抑制される傾向が観察とされているが、どのような状態が生長を抑制に該当し、どのような状態がこれに該当しないかを当業者が一義的に理解
することは困難である。また、本件明細書においては、暗黒下と比較して差がある場合であっても、一定の場合は有意差がみとめられなかったとされ、生長促進又は生長抑制に該当しない範囲が設定されているが、その範囲の限界は全く不明で、いかなる場合が有意差のない生長抑制であり、いかなる場合がわずかに抑制に該当するのか、当業者は全く理解することができない。
したがって、本件発明は、明確性要件に違反しており、無効とされるべきものである。
【原告の主張】
本件明細書の記載からすれば、
生長を抑制とは、青色光を照射する条件で
は、青色光を照射しない条件(暗黒、赤色光等の条件)に比べて微生物が生長し
ないことを意味することは明確である。
6争点3-4(本件特許に、乙34文献記載の乙34の1発明に基づく新規性欠
如の無効理由があるかどうか)について
【参加人の主張】
乙34文献には、食パンに青色LED光(450nm)を照射した実験結果によれば、
青色LED光に劇的な青カビ抑制効果があることが判明した旨の記載があるところ、原告の主張を前提とすると、乙34文献で用いられた食パンにも枯草菌又は黄色ブドウ状球菌が付着していることになるから、前記実験において、食パンに付着した枯草菌又は黄色ブドウ状球菌は、青色光(450nm)が照射されたことにより、青カビとともに当然生長が抑制されていることになる。これを前提とすると、乙34文献には、次の発明、すなわち、食パンの表面に
付着したわずかな枯草菌および黄色ブドウ状球菌を(1a)
、450nmの波長の光
の照射下で培養して
(1b)この微生物の生長を抑制させることを特徴とする

(1c)
微生物の生長制御方法(1d)という乙34の1発明が開示されている。乙34の1発明の構成1aと本件発明の構成要件Aは、枯草菌及び黄色ブドウ状球菌に関して一致する。また、構成1bないし同1dは、構成要件Bないし同D
とそれぞれ一致する。したがって、乙34の1発明と本件発明は同一である。よって、本件発明は新規性を欠き、本件特許は無効とされるべきものである。【原告の主張】
乙34文献には、
ショウロ菌、
マツタケ菌、
アブラナ炭疽病菌、
ウリ炭疽病菌、
枯草菌及び黄色ブドウ状球菌のいずれかの微生物についての記載は存在せず、こ
れらの微生物に対して生長抑制効果があることは記載されていない。したがって、乙34文献には、本件発明が全く開示されていない。7争点3-5(本件特許に、乙34文献に記載の乙34の2発明に基づく進歩性欠如の無効理由があるかどうか)について
【参加人の主張】

乙34文献には、少なくとも、青カビを(1a')
、450nmの波長の光の照射下
で培養して(1b')
、この微生物の生長を抑制させることを特徴とする(1c')微生
物の生長制御方法(1d')という乙34の2発明が開示されている。本件発明と乙34の2発明を対比すると、本件発明は微生物の種類が

ショウロ菌、マツタケ菌、アブラナ炭疽病菌、ウリ炭疽病菌、枯草菌および黄色ブドウ状球菌のいずれかの微生物である(構成要件A)のに対し、乙34の2発明は「青カビ

(構成1a')である点で相違する。
乙34文献には、
カビ等の菌類では近紫外線で胞子の活動が促進され青色光で阻害されるといわれる

青カビ以外にもLED光で増殖防止可能なカビは存、在するであろう

などといった記載があり、
また、
枯草菌や黄色ブドウ状球菌は、
食中毒菌や腐敗細菌として代表的な菌である。そうすると、乙34文献中の示唆
や菌に関する技術常識に照らし、当業者であれば、乙34の2発明の青カビを、食中毒菌や腐敗細菌として代表的な菌である枯草菌や黄色ブドウ状球菌に変更することは、容易に想到することができる。
したがって、本件発明は進歩性を欠き、本件特許は無効とされるべきものである。

【原告の主張】
乙34文献には、

青カビ以外にもLED光で増殖防止可能なカビは存在するであろう。という推測の記載しかなく、

青色光を照射することによって、
ショウ
ロ菌、マツタケ菌、アブラナ炭疽病菌、ウリ炭素病菌、枯草菌及び黄色ブドウ状球菌のいずれかの微生物の生長を抑制することの記載は一切ない。
したがって、乙34文献の記載に接した当業者が、青色光を照射することによって、
ショウロ菌等のいずれかの微生物の生長を抑制することを発見することは容易ではない。
8争点3-6
(本件特許に乙35公報記載の乙35発明に基づく新規性欠如の無効理由があるか)について

【参加人の主張】
乙35公報には、およそ400nmから520nmまでの光波長領域にある光を
照射する青色LEDを冷蔵庫内照明装置として用いた冷蔵庫が記載されているところ、原告の主張を前提とすれば、乙35公報の冷蔵庫に保存される食材にも枯草菌又は黄色ブドウ状球菌が付着していることになる。
これを前提とすると、乙35公報は、次の発明、すなわち、冷蔵庫に保存された食材の表面に付着したわずかな枯草菌および黄色ブドウ状球菌を(2a)、およ
そ400nmから520nmまでの光波長領域にある光の照射下で培養して(2b)、
この微生物の生長を抑制させることを特徴とする
(2c)
微生物の生長制御方法
(2d)
という乙35発明を開示している。
乙35発明の構成2aと本件発明の構成要件Aは、枯草菌及び黄色ブドウ状球
菌に関して一致する。また、構成2c及び同2dは、構成要件C及び同Dといずれも一致する。一方、構成2bは400nmから520nmまでであるのに対し、構成要件Bは400nmから490nmまでであり、数値範囲の上限がわずかに異なるが、
数値範囲の大部分は重複しているから、
実質的な相違点とならない。
したがって、乙35発明と本件発明は同一である。

よって、本件発明は新規性を欠き、本件特許は無効とされるべきものである。【原告の主張】
乙35公報には、青色、緑色及び赤色の半導体発光素子を用いて白色光を発行することが記載されているのみであり、微生物の生長を抑制することについては全く記載がない。

したがって、乙35公報には、本件発明が全く開示されていない。9争点3-7
(本件特許に乙36公報記載の乙36発明に基づく新規性欠如の無効理由があるか)について
【参加人の主張】
(1)


乙36公報には、波長400~500nm域を光源とする光源-2をバシルサブチリス(枯草菌)に照射することで、当該微生物を繁殖抑制する方法
が記載されている。これによると、枯草菌を(3a)
、およそ400nmから50

0nmまでの光波長領域にある光の照射下で培養して(3b)
、この微生物の生長
を抑制させることを特徴とする(3c)微生物の生長制御方法(3d)という乙36発明が開示されている。
乙36発明の構成3aと本件発明の構成要件Aは、
枯草菌に関して一致する。
また、構成3c及び同3dは、構成要件C及び同Dといずれも一致する。一方、構成3bと構成要件Bは、数値範囲の上限がわずかに異なるが、数値範囲の大部分が重複しているから、実質的な相違点とならない。したがって、乙36発明と本件発明は同一である。
(2)

原告は、
乙36発明は、
紫色光から緑色光のうち、
どの光が微生物の生長に

影響を及ぼしているのかについて特定されておらず、近紫外線の波長域が必須の構成となっている旨を主張する。しかし、乙36公報によれば、400~500nm波長域の光が微生物の生長を抑制させていることは容易に理解ができるし、また、乙36公報には、近紫外線の波長域を必須とする記載はなく、近紫外線から500nmの波長域(すなわち300~500nm)であれば、その一
部の波長域のみの光線であっても当然発明の要旨に含まれていると理解される。
(3)よって、本件発明は新規性を欠き、本件特許は無効審判により無効とされるべきものである。
【原告の主張】

乙36公報に記載されたFL-40SB(東芝電気(株)は、400~500nm波)
長域の光を発するものであるが、同機器は、カラー蛍光灯ランプであるため、LEDとは異なり、混在する光を発するから、紫色光から緑色光のうち、どの光が微生物の生長に影響を及ぼしているのかについて特定されていない。そのため、乙36公報の特許請求の範囲には450nmから近紫外線の波長域に含まれる光線を実質的に含有する光線を照射すると記載されており、近紫外線の波長域が必須の構成となっている。これに対し、本件発明は、青色LEDを用いて、青
色光による微生物に対する生長抑制効果を発見したものである。
このように、
乙36公報には青色光に着目した記載はないから、
本件発明の

およそ400nmから490nmまでの光波長領域にある光の照射下で培養して、この微生物の生長を抑制させる

ことは開示されていない。争点3-8(本件特許に乙36発明に基づく進歩性欠如の無効理由があるか)
について
【参加人の主張】
仮に、原告が本件発明を訂正し枯草菌に関する部分を削除したとしても、本件発明は進歩性を欠く。すなわち、乙36公報の内容中の示唆及び菌に関する技術常識に照らし、
乙36発明の枯草菌を食中毒菌として代表的な菌である黄色ブド
ウ状球菌に変更することは、当業者であれば容易に想到できることであり、本件発明のうち黄色ブドウ状球菌に関する部分は進歩性を欠く。
したがって、本件特許は無効とされるべきものである。
【原告の主張】

前記9【原告の主張】のとおり、乙36公報には青色光に着目した記載がないのに対し、
本件発明は青色光を照射することによって微生物の生長を抑制する効果があることを見出したものである。
したがって、乙36公報に接した当業者が、青色光を照射することによって、ショウロ菌、マツタケ菌、アブラナ炭疽病菌、ウリ炭疽病菌、枯草菌及び黄色ブ
ドウ状球菌のいずれかの微生物の生長を抑制することを発見することは容易ではない。
11争点4(損害の発生及びその額)について
【原告の主張】
(1)本件製品の実施料相当額

本件製品の1年間の売上高は2億円を下らないと推測され、相当実施料率は10%を下らないから、年間推定実施料相当額は2000万円(=2億円×1
0%)である。
脱退被告ないし参加人は、遅くとも令和元年10月15日から本件製品を販売しているから、同日から脱退被告に対し訴えを提起した日(令和3年5月24日)までの約1年7か月間が賠償対象期間となる。
したがって、本件製品の販売開始から、前記訴え提起日までにおける実施料
相当額は、3166万6666円(=1年7か月×2000万円/年)を下らない。
(2)弁護士費用等
原告は、
脱退被告及び参加人による本件特許権の侵害行為により本訴えを提起せざるを得なくなった。脱退被告及び参加人による不法行為と相当因果関係が認められる弁護士・弁理士費用相当の損害額は、320万円を下らない。(3)

消費税相当額
前記(1)及び(2)の合計3486万6666円は資産の譲渡等の対価に該当
し、消費税の課税対象となるため、消費税相当額348万6666円も損害となる。
(4)

まとめ
以上から、原告の損害額は、合計3835万3332円を下らないが、参加
人に対し、一部請求として、そのうち1000万円及びこれに対する遅延損害金の支払を求める。
【参加人の主張】
否認し、争う。
第4判断
1本件明細書の記載
本件明細書には次の記載がある(末尾の【0001】等は、本件明細書の段落
番号である。。

(1)

発明の属する技術分野

本発明は、光照射によって微生物の生長を制御し、その微生物の培養技術の向上を図る微生物の生長制御方法に関するものである。【0001】

(2)

従来の技術

光が微生物の生長に影響を及ぼすことに関して、紫外線領域の光が微生物の生長を著しく阻害することがよく知られていることである。また光合成細菌のような微生物では光合成や生長のために660nm前後の赤色光や430nm前後の青色光の光を必要としていることも明らかになっている。しかし、紫外線領域以外の可視領域の光が、光合成細菌以外の微生物の生長に及ぼす影響についてはこれまでほとんど知られておらず、そのため光合成細菌以外の微生物の培養では一般に暗黒下で行われているのが現状である。【0002】一方、微生物の培養に当たって、糸状菌の一つである菌根菌のような有益な微生物の人工培養技術の確立は重要である。菌根菌は植物に感染し、植物の養水分吸収を助ける共生微生物の一つであり、これからの低投入で持続可能な栽培体系を築く上で、現在非常に着目されている共生微生物であるからである。…【0003】
(3)

発明が解決しようとする課題

しかしながら、上述の培養技術(光環境条件は暗黒下とした)では菌糸の生長が遅く、胞子形成が起こるまでに時間がかかるという問題がある。【000

6】

本発明は、このような点に鑑みなされたもので、培養技術の向上を図ることができる微生物の生長制御方法を提供することを目的としている。【0007】

(4)

課題を解決するための手段

請求項2記載の微生物の生長制御方法は、ショウロ菌、マツタケ菌、アブラナ炭疽病菌、ウリ炭疽病菌、枯草菌および黄色ブドウ状球菌のいずれかの微生物を、およそ400nmから490nmまでの光波長領域にある光の照射下で培養して、この微生物の生長を抑制させるものである。【0010】
そして、ショウロ菌、マツタケ菌、アブラナ炭疽病菌、ウリ炭疽病菌、枯草菌および黄色ブドウ状球菌のいずれかの微生物を、およそ400nmから490nmまでの光波長領域にある光の照射下で培養することによって、この微生物の生長を抑制させ、ショウロ菌、マツタケ菌、アブラナ炭疽病菌、ウリ炭疽病菌、枯草菌および黄色ブドウ状球菌では胞子形成を促すことができるので、この微生物の培養技術の向上を図ることができる。【0011】(5)

発明の実施の形態

様々の発光ダイオードなどを用いて、光質が微生物の生長にどのように影響するかを研究してきた結果、だいだい色光から遠赤色光の照射は微生物の生長を促進させること、一方青色光の照射は微生物の生長を抑えて胞子形成を促進させることを見出した。供試した微生物は、ショウロ菌、マツタケ菌、アブラナ炭疽病菌、ウリ炭疽病菌のような糸状菌や、枯草菌…、黄色ブドウ状球菌…のような細菌である。【0012】なお、だいだい色光から遠赤色光とは、およそ600nm(ナノメータ)から800nmまでの光波長領域にある光である。また、青色光とは、およそ400nmから490nmまでの光波長領域にある光である。【0013】研究の結果、だいだい色光から遠赤色光による光照射の下での培養によって微生物の生長が促進されること、並びに青色光による光照射の下での培養によって微生物の生長が抑制されながら、この微生物の生長が阻害されて、胞子形成が促されることを見出した。すなわち、微生物の増殖もしくは抑制を引き起こす光照射による微生物の生長制御技術および微生物の人工培養技術を提供する。【0014】(6)

発明の効果

請求項2記載の微生物の生長制御方法によれば、ショウロ菌、マツタケ菌、アブラナ炭疽病菌、ウリ炭疽病菌、枯草菌および黄色ブドウ状球菌のいずれかの微生物を、およそ400nmから490nmまでの光波長領域にある光の照射下で培養することによって、この微生物の生長を抑制できるから、この微生物の培養技術の向上を図ることができる。【0026】2本件発明の技術的範囲への属否(争点1)について
(1)

本件製品の構成について
証拠(その体裁及び内容から、脱退被告の作成による原本の写しと認められる乙7)及び弁論の全趣旨によれば、本件製品の冷蔵室及びパーシャル室のLEDの点灯及び消灯の制御の仕様について、次の各事実を認めることができる。
(ア)

冷蔵室の扉が閉められているときは、収納量判定中、キャリブレーシ
ョン中を除き、照明は消灯し、ドアが開いている間はLED①、同②、同
③及び同④が点灯する。
(イ)

冷蔵室のドアが開状態から閉状態になると、0.5秒間全LEDが消
灯状態となった後、
収納量の増加を検知するためにLED①、
同②、
同③、
同④を順に各2秒間点灯させる。各LEDの点灯の間は、40ミリ秒ほど全灯消灯の時間がある。

(ウ)

LED⑤については、
その点灯状態は白色点灯
(青色LEDは0%、

色LED100%各点灯)
、水色点灯(青色LED75%、白色LED2
5%点灯)
、青色点灯(青色LED100%、白色LED0%で点灯)に分
かれており、
①冷蔵室の扉が閉まっているときはパーシャル室の機能設定にかかわらず消灯し、②冷蔵庫の扉が開いたときは、パーシャル室の設定
がチルドになっているときは白色点灯し、パーシャル室の設定がパーシャル(弱、中、強のいずれか)になっているときは水色点灯するが、オート急冷設定を無効から有効に変更した場合など、急冷機能の作動状態等により一定時間(5分程度)青色点灯する。

証拠(乙1の2、2)によると、パーシャル室が青色点灯状態である場合において(前記ア(ウ)参照)
、冷蔵室内右側上方にあるボタン(扉を閉めると

扉自体によって押され、冷蔵室が、扉が閉まった状態として動作するもの)を押し続けると、庫内のLED灯は前記ア(ア)のドア開き状態のとおり点灯し、ほぼ仕様書(乙7)に記載の時間、(イ)の順序に従って点灯、消灯し、LED④が消灯すると、LEDの点灯状態は確認できないことが認められる。これに対し、原告は仕様書(乙7)の信用性を争うとともに、前記第3の1
【原告の主張】
(1)アのとおり、
本件製品の冷蔵室のドアを閉めた後約13
秒間は青色光が照射され、それ以降は、淡い青色光が照射される状態が継続すると主張し、証拠(甲6、7の1・2、9の1・2、15の1・2、17、19)
を提出するので検討する。
なお、
冷蔵室内の光環境の実験については、

反対証拠を含め、甲6に記載の検証4の実験(その動画及びキャプチャ画面が甲7の1・2)
、事実実験公正証書(甲15)第2の1に記載の実験、乙8
に記載の実験、乙39に記載の実験が存する。
甲6記載の検証4の実験及び事実実験公正証書(甲15)第2の1に記載の実験は、いずれも、冷蔵室扉のドアポケット(ボトル立て)にスマートフ
ォン(iPhone10)を設置し、同スマートフォンのカメラをパーシャル室側に向け、カメラ用アプリケーション(スーパー夜撮ビデオカム)により、扉が閉まった後の庫内の様子を撮影し、得られた動画を目視で観察するというものである。その得られた画像(甲15の2)によると、本件製品の通電状態において、おおむね前記ア(イ)の時間及び順序で白色光及び青色の光の発光が
視認できた後、
極めて暗い暗緑色の状態で画面下部に暗青色のゆらぎが記録
されていることが認められるものの、このゆらぎが電源遮断状態で撮影されたもの(甲15の3)との比較においてLED④又は同⑤の各青色LED灯が発光する状態が撮影されたものとはにわかに認め難い。また、原告は、iPhone用アプリ
NightCap
を用いて扉を閉めた後20秒後の状態を撮影し

たものとして甲19を提出するが、これによっても前記判断は左右されない。かえって、
光強度を測定するのに通常用いられるパワーメータとセンサヘ

ッド(乙8、9)ないし極低光量センサーを用いた実験(乙8、39)によると、前記ア(イ)の点滅が終了した後の状態は冷蔵庫の通電状態にかかわらず一定でかつその光量は光として意味のある水準にないことが認められ、これに対する有効な反証はない(甲17の実験結果は、実験条件の明確性及びその評価の厳密さにおいて乙39に劣るが、前記認定と矛盾はしない。)こ

とからすると、甲6記載の検証4の実験及び事実実験公正証書(甲15)第2の1に記載の実験の結果によって、本件製品に、前記アの仕様に沿わないLED灯の点灯があるものとは認められず、他に原告主張を認めるに足りる証拠は存しない。

まとめ
よって、原告の主張は採用できず、本件製品は、前記アに記載の限度で青色光を発光するLED灯
(LED④及び同⑤)
が点灯するものと認められる。

(2)

本件製品の使用方法について
前記(1)に認定した本件製品の構成を踏まえると、本件製品の冷蔵室内(パ
ーシャル室内以外)に食品を保存した場合、その保存場所によっては、冷蔵室の扉を開けてから閉めるまで及び扉を閉めた後約2秒間、
LED④による青色
光が当該食品に照射される余地があり、また、パーシャル室のパーシャル機能を作動させパーシャル室内に食品を保存した場合、
おおむね冷蔵室のドアを開
けている間、オート急冷中の状態にしたときは一定時間青色光が、それ以外の
状態では水色光(青色光と白色光)が当該食品に照射されることになる。(3)

構成要件Bの充足性について
前記(2)のとおりの本件製品の使用方法が、本件特許の構成要件Bを充足す
るかどうかについて検討する。

光の照射下で
(構成要件B)の意義について
(ア)

辞書的意義について
…下で
の字義は、
…の影響のもとで
であるから
(広辞苑第七版)


光の照射下でとは、
光の照射の影響のもとでを意味する。
そして、
本件特許に係る請求項2は、

光の照射下で培養して、


この微生物の生長を抑制させるとしており、これによれば、光の照射の影響のもとで微生物を培養し、その生長を抑制させることを意味していると解するのが相当である。
(イ)

明細書の記載について
微生物の生長を制御する方法は、その微生物の種類に応じ、かつどのよ
うな手段を講じるかにより、多くの手法が考えられることは本件特許の出願時においても公知の事実に属していたといってよい(乙36)

しかるところ、本件発明は、前記1のとおり、

従来、紫外線領域以外の可視領域の光が、光合成細菌以外の微生物の生長に及ぼす影響についてはほとんど知られておらず、そのため光合成細菌以外の微生物の培養は一般に暗黒下で行われていた

【0002】が、これでは

菌糸の生長が遅く、胞子形成が起こるまでに時間がかかるという問題があった

【0006】
ため、
ショウロ菌、マツタケ菌、アブラナ炭疽病菌、ウリ炭疽病菌、枯草菌及び黄色ブドウ状球菌のいずれかの微生物を、およそ400nmから490nmまでの光波長領域にある光の照射下で培養することによって、この微生物の生長を抑制させ、微生物の培養技術の向上を図ることを目的とするものである【0011】。(ウ)このような「光の照射下での字義、
本件特許に係る特許請求の範囲及

び本件明細書の記載内容に加え、原告は、
光の照射下でとは、枯草菌、
黄色ブドウ状球菌等の微生物に対して生長を抑制させる青色光が照射されていることを指す旨を主張していることに照らすと、構成要件Bにいう光の照射下でとは、青色光の照射の影響によって微生物の生長が抑制されていること
(青色光の照射と微生物の生長抑制させることとの間に直
接的な関連性があること)を要件としていると解するのが相当である。

青色光の影響によって微生物の生長が抑制されているかどうかについて原告は、本件製品において、青色光の影響によって微生物の生長が抑制されていると主張し(第3の1(原告の主張)(3)イ参照)
、証拠(甲6、甲1
5)を提出する一方、参加人はこれを争い、反対証拠(乙12ないし15)
を提出するので検討する。
なお、以下、試験結果報告書(甲6)記載の検証2の実験を甲6食品実験、甲6記載の検証3の実験を甲6培地実験
、事実実験公正証書(甲1
5)の豚肉を用いた実験を甲15食品実験
、培地を用いた実験を甲15培地実験と称し、これら4件の実験を総称して甲6実験等と称する。
また、
乙12ないし15に記載された実験をそれぞれ
乙12実験
乙13実験
乙14実験
乙15実験と称し、これらの実験を総称して乙12実験等という。甲6実験等の実施主体は原告が代表を務める合同会社アグアイッシュであり、
乙12実験等の実施主体は株式会社テクノサイエンス
(乙11)である。

(ア)

甲6食品実験
甲6食品実験は、スーパーマーケットで購入した豚肉を、①はラップ包
装し、
②はラップとアルミホイルで包装し青色光を遮断して本件製品のパーシャル室内に各設置し、③は前記豚肉をラップ包装して本件製品外の室内に設置し、3日後、各豚肉表面に微生物簡易測定器具(サンアイバイオチェッカーFC。以下本件測定器具という。
)を付着させ、それぞれ培
養器内(27℃、暗黒下)で3日間培養した後、それぞれの黄色ブドウ球菌数及び総細菌数を計測するというものである。
甲6食品実験の結果は、次のとおり報告されている。
試料

黄色ブドウ球菌数総細菌数
(コロニー数)

(10²個/ml)



31


94


18

6
(イ)

甲6培地実験
甲6培地実験は、
黄色ブドウ球菌を含む培養液及び枯草菌を含む培養液

を、高圧滅菌処理した寒天培地内にそれぞれ入れ、④はそのままパーシャル室内に設置し、
⑤はアルミホイルで青色光を遮断してパーシャル室内に設置し、1日当たり約3回、冷蔵室のドアを開け、4日後に各培地の菌の増殖状況を観察するというものである。
甲6培地実験の結果は、次のとおり報告されている。
黄色ブドウ球菌

枯草菌



全く観察されず

全く観察されず



増殖

増殖

(ウ)

甲15食品実験・甲15培地実験
甲15食品実験と甲15培養実験は、甲6食品実験及び甲6培養実験と
同様の実験を、
広島法務局所属公証人P2の目撃下で合同会社アグアイッ
シュが実施するものであり、その詳細は次のとおりである。
すなわち、甲15食品実験では、令和3年8月5日に、スーパーマーケットで購入したパック入りの豚肉につき、
i
初期状態のものとして、本件測定器具を表面に付着させて暗黒下のイ
ンキュベーター内で培養し、
ii

⑥ラップで包装したものと、⑦ラップとアルミホイルで包装したもの
を本件製品のパーシャル室内とパーシャル室直上の棚に置き、⑧ラップ包装したものを27℃の暗黒下のインキュベーター内に置き、冷蔵庫とインキュベーターを封印し、
同月10日に、iの本件測定器具を計測するとともに、iiの各豚肉を取り
出して本件測定器具を表面にそれぞれ付着させて暗黒下のインキュベーター内で培養し、
同月16日に各本件測定器具を計測するというものである。
また、甲15培養実験では、同月5日に、黄色ブドウ球菌を含む培養液及び枯草菌を含む培養液を、高圧滅菌処理した寒天培地内にそれぞれ入れ、⑨アルミホイルで覆わないものと、⑩アルミホイルで覆ったものをそれぞれパーシャル室内とパーシャル室直上の冷蔵室内に設置し、同月10日に各培地の繁殖状況を観察するというものである。
甲15食品実験の結果は、次のとおり報告されている。
黄色ブドウ球菌数

総細菌数

(コロニー数)

(個)

購入した豚肉

約65

10⁴

⑥パーシャル室内

約104

10⁵

⑥冷蔵室内

約82

10⁵

⑦パーシャル室内

約309

10⁵

⑦冷蔵室内

約207

10⁵

室温

測定不能

105以上

甲15培地試験の結果は次のとおり報告されている。

黄色ブドウ球菌

枯草菌

(コロニー数)

(コロニー数)

⑨パーシャル室内

肉眼では観察されず

肉眼では観察されず

⑨冷蔵室内

1
肉眼では観察されず

⑩パーシャル室内

32
⑩冷蔵室内

22
(エ)

乙12実験

乙12実験は、
本件製品のパーシャル室で黄色ブドウ球菌を培養して生
育状態を確認するものであり、本件製品のパーシャル室の設定を中にしたうえで、
培地に黄色ブドウ球菌を塗布したシャーレ8枚のうち4枚は
アルミホイルに包み、4枚はアルミホイルに包まずに、パーシャル室内に入れて4日間保存し、その間1日当たり冷蔵室の扉及びパーシャル室の扉の開閉を3回(1回当たり2分)行い、4日目に生育状況を確認するというものである。なお、対照区として同様のシャーレが35℃で2日間インキュベーター内に設置された。
乙12実験の結果は、8枚中3枚(光遮断、光遮断のないものの双方を
含む)が凍結し、気泡によりコロニーの発生が確認できなかったが(対照区で見られるような黄色コロニー状のものも確認できない。、凍結しなか)
ったもの(光遮断、光遮断のないものの双方を含む)は、生育したコロニーはなかったと報告されている。
(オ)

乙13実験
乙13実験は、
乙12実験で用いた黄色ブドウ球菌を枯草菌で行うもの

である。
乙13実験の結果は、8枚中4枚(光遮断、光遮断のないものの双方を含む)が凍結し、気泡によりコロニーの発生が確認できなかったが(対照区で見られるような明瞭なコロニーも確認できない。、凍結しなかったも)
の(光遮断、光遮断のないものの双方を含む)は、生育したコロニーはなかったと報告されている。
(カ)

乙15実験
乙15実験は、パーシャル室で豚肉を保存し、本件測定器具等を使用し
て、一般生菌数及び黄色ブドウ球菌数を測定するというものであり、本件製品のパーシャル室の設定を中にしたうえで、豚肉3枚をラップしたものを6個作成してうち2個をアルミホイルで遮光して(下記表で光遮断とするもの)、遮光しないもの(同光照射とするもの)2個ととも
にパーシャル室に入れ3日間保存し、その間1日当たり冷蔵室の扉及びパーシャル室の扉の開閉を3回(1回当たり2分)行い、残り2個は室温で3日間保存し(対照区)
、その豚肉(及び実験前の初期の豚肉)を、本件測
定器具向けの希釈キット(固体等の試料から菌を抽出するもの)を用いて菌を抽出し、本件測定器具の取扱説明書に従って培養するのに加えて、食品衛生検査指針に準拠した培養(一般生菌数につき標準寒天培地、黄色ブドウ球菌につき卵黄加マンニット食塩寒天培地)を行うものである。乙15実験の結果は、パーシャル室の豚肉はいずれも凍結していたほか、
各培養結果が次のとおりであると報告されている。
i
本件測定器具の1面(総細菌用)の状態
コロニー数

試験溶液中の数(個/ml)

初期

21

103

光照射

14

102~103

光照射

35

103

光遮断

27

103

光遮断

11

102~103

対照

>100※1

>104

対照

>100※1

>104

※1
ii

全面に多数のコロニーが生育し、数の計測不可
本件測定器具の3面(黄色ブドウ球菌用)の状態
コロニー数

試験溶液中の数(個/ml)

初期

30※1

103

光照射

24※1

103

光照射

59※1

104

光遮断

50※1

104

光遮断

13※1

102~103

対照

>100※2

>104

対照

>100※2

>104

※1

生育コロニーのうち白色円形のものを計測

※2

全面に多数のコロニーが生育し、数の計測不可

iii

標準寒天培地による一般生菌数検査結果
試験溶液中の数(個/ml)

初期

6.8×102

光照射

2.2×103

光照射

7.4×102

光遮断

5.8×103

光遮断

1.4×102

対照

6.6×107

対照

3.2×107

iv
卵黄加マンニット食塩寒天培地による黄色ブドウ球菌検査結果

いずれも陰性
このように、
甲6食品実験等と乙12実験等の結果は異なっているところ、
前記2(1)において認定したとおり、主たる青色光源であるLED⑤が青色発光するのは、パーシャル室を(チルドではなく)微凍結パーシャル状態とし、
かつオート急冷中のときであって、
この場合、
パーシャル室内は約-3℃

から約-1℃に保たれることになるから、乙12ないし乙15の各実験の結果にみられるとおり、
培地の一部や豚肉が凍結していたとする結果と整合的
に理解できるものであり、乙12、13実験における黄色ブドウ球菌や枯草菌のコロニーが見られなかったという結果も、黄色ブドウ球菌の一般的な増
殖可能温度域は5~47.8℃(至適増殖温度は30~37℃)であり、枯草菌の一般的な増殖可能温度域は5~55℃(最適発育温度帯は20~45℃)であること(乙12、13に添付の参考資料)と矛盾なく理解することができる。
これに対し、甲6実験等は、そもそも本件製品の冷蔵室やパーシャル室内の温度設定ないし機能設定が明らかでない上、甲15食品実験及び甲15培地実験にあっては、試料設置後、冷蔵室扉を封印したというのであるから、青色光の照射時間は扉の開閉を所定時間行った乙12実験等におけるものよりも短いものと推認されるのに、青色光照射区で有意に細菌の生長が抑制
されていると評価されて結果が報告されるなどしており、本件製品の冷蔵室内の青色光が黄色ブドウ球菌や枯草菌の生長を抑制する効果があるかを判定するについての実験条件の統制が的確に取れていたのかについて大きな疑義を生じさせるものというべきである。
以上によると、
本件製品の冷蔵室内の青色光が黄色ブドウ球菌や枯草菌の

生長を抑制する効果があるかを判定するについては、甲6食品実験等を採用することはできず、乙12実験等によるべきである。
そして、乙12、13実験等によると、そもそも本件製品において青色LEDが発光する状態となったパーシャル室内では、黄色ブドウ球菌及び枯草菌は遮光の有無にかかわらず生長しないことが認められ、乙15実験の結果
によると、豚肉中の細菌量が6つに分けた各試料でおおむね一定であり、また結果の判定につき(本件測定器具の精度については議論があるものの)精度が十分で誤差がないと仮定すると、青色光の照射を受けた豚肉よりも青色光の照射を受けなかった豚肉の方が3日後の細菌数が少ないものもあるという結果も見て取れる。加えて、そもそも本件製品が食品等に照射する光の
強度(光量子束密度)は、白色光等他の波長域の光も含めて最大7μE/m2/s程度であって
(乙8)この光は冷蔵庫の扉が開いたときに照射されるが、


常の用法において冷蔵庫の扉を開けるのは短時間にとどまることからすると、
本件明細書の実施例等で示される光の強度や照射時間と対比するとごくわずかにすぎないと見込まれること、
そもそも冷蔵庫は、
一般常識に照らし、
庫内の食品を微生物の活動が抑制される程度の低温に保つことで食品を保存する機器であることを併せ考えると、本件製品において、LED④や同⑤
の青色光の照射が、
黄色ブドウ球菌や枯草菌の生長が抑制されることに影響
を与えているとは認められないというべきである。
(4)

まとめ
以上によると、本件製品が、青色光の照射により枯草菌、黄色ブドウ球菌等
の微生物の生長を抑制しているとは認められず、他に、前記(2)の本件製品の使用方法による青色光の照射の影響によって微生物の生長が抑制されていること
(光の照射と微生物の生長抑制させることとの間に直接的な関連性があること)を認めるに足りる証拠はない。したがって、本件製品の使用方法は、光の照射下で
(構成要件B)を充足せず、本件発明の技術的範囲に属しない。
争点1についての原告の主張(請求原因)は、理由がない。

3争点3-7
(本件特許に乙36公報記載の乙36発明に基づく新規性欠如の無効理由があるか)について
(1)

当裁判所は、
前記2のとおり、
本件製品の使用方法は、
本件発明の技術的範

囲に属しないと判断するが、さらに、本件特許は、少なくとも新規性が欠如しているから特許無効審判により無効にされるべきものと判断する。以下、事案に鑑み、
争点3-7
(乙36公報記載の乙36発明に基づく新規性欠如の有無)
を検討する。
(2)

乙36公報は、
発明の名称を
微生物の繁殖抑制方法
とする公開特許公報

であり、
その明細書の特許請求の範囲及び発明の詳細な説明には次の記載がある(乙36)


特許請求の範囲

【第1項】
微生物の繁殖を抑制する方法において、
該微生物に少くとも520nmから
近紫外線までの波長域に含まれる光線を実質的に含有する光線を照射することを特徴とする微生物の繁殖抑制方法。
【第2項】

該微生物に少くとも500nmから近紫外線の波長域に含まれる光線を実質的に含有する光線を照射する特許請求の範囲第1項記載の方法。【第3項】
該微生物に少くとも470nmから近紫外線の波長域に含まれる光線を実質的に含有する光線を照射する特許請求の範囲第1項記載の方法。
【第4項】
該微生物に少くとも450nmから近紫外線の波長域に含まれる光線を実質的に含有する光線を照射する特許請求の範囲第1項記載の方法。イ
発明の詳細な説明

本発明は、微生物の繁殖抑制方法に関し、さらに詳しくは、微生物に特定波長領域の光線を照射することによつて、該微生物の繁殖を抑制する方法に関する。(公報1頁右欄8行目~11行目、以下公報の記載場所を指す。)
現在、微生物は抗生物質、アミノ酸、及び有機酸等の発酵及び醸造工業又は下・廃水処理産業等広範囲に有効的に利用されているが、これ等各種微生物は、一般家庭菓子類、パン類、及び肉製品等の食品物取扱業者、野菜、果樹等農作物取扱業者、ハマチ、ウナギ、タイ等の養殖水産物取扱業者、カメラ及び電子部品等の精密機械取扱業者、皮革及び繊維製品等の取扱業者及び医薬品類の取扱業者等にとつては、逆に、有害雑菌となっており、その殺菌及び滅菌方法も種々検討されているのは公知の通りである。
(1頁右欄12行目~2頁上段左欄2行目)

しかし、従来の殺菌及び滅菌方法では、対象菌体の殺菌及び滅菌のみならず、人体、家畜類及び各種製品を損傷させる弊害も大きい。…これら弊害を含まない簡便な菌体繁殖抑制方法が熱望されている。

(2頁上段左欄3行目~同12行目)
本発明者等は、各種有用植物の生育、有用植物に対する病害糸状菌の繁殖防除及び抗生物質、アミノ酸及び有機酸等の生産研究、藻類植物の培養等において、光質条件が如何に影響するかを研究している過程において、全く意外にも各種微生物に少くとも520nmから近紫外線の波長域に含まれる光線を照射すると、該微生物の繁殖が上記弊害を生ずることなく有効的に抑制されることを見い出し、本発明を完成するに至つた。
(2頁上段左欄13行目~上段右欄2行目)

かくして、本発明に従がえば、微生物の繁殖を抑制する方法において、該微生物に少くとも500nmから近紫外線の波長域に含まれる光線を照射することを特徴とする微生物の繁殖抑制方法が提供される。

(2頁上段右欄3行目~同7行目)

本発明の方法は、本発明者らの経験及び後述する実施例からも明らかなように、繁殖抑制作用が多少異なるが一般的に言って、どのような微生物に対しても、適用することができる。

(2頁上段右欄14行目~同17行目)

中でも、…細菌植物門ではバシルス属…に属するものが好ましい。


(2頁上段右欄18行目~同下段左欄9行目)
本発明における「近紫外線とは、300nmから400nm、好ましくは、340nmから400nm更に好ましくは、360nmから400nmの波長域に含まれる光線を意味する。

(2頁下段左欄10行目~同13行目)

本発明による上記微生物の繁殖抑制方法は、少くとも520nmから近紫外線の波長域に含まれる光線を実質的に含有する光線を照射下に行われる。


(2頁下段左欄14行目~同17行目)

本明細書において、「Xnmから近紫外線の波長域に含まれる光線を実質に含有する光線

なる表現は、好ましくは、Xnmから近紫外の波長域に含まれる光線のみから成る光線を意味するが、
しかし、
Xnm以上の長波長域の光線
が、本発明の方法に悪影響を及ぼさない程度で、存在しても支障はないこと
を意味する。また、近紫外線以下の短波長域の光線は、実質的に含まれていないことを意味する。

(2頁下段左欄18行目~同右欄6行目)

実施例B(本発明及び比較例に使用する光源)
(1)近紫外線約300~400nmの波長域光源として、FL40SBLB(東芝電気㈱)を選定し、このランプを以後光源-1と呼び、後記実施例で使用する。(2)主に波長400~500nm域光源としてFL-40SB(東芝電気㈱)を選定し、このランプを以後光源-2と呼ぶ。(3)主に、波長500~600nm域光源としてFL-40SG(東芝電気㈱)を選定し、このランプを以後光源-3と呼ぶ。(4)主に波長600~700nm域光源としてFL-40SPK(東芝電気㈱)を選定し、このランプを以後光源-4と呼ぶ。……上記光源-1~5を分光エネルギー分布図を添付図面第2及び3図に示す。(3頁下段左欄18行目~同右欄16行目。添付図面2は8頁上段に記載されており、次のとおり。



実施例10~11、比較例19~21
培地NO.4に細菌植物門、分裂菌綱、真正細菌目、バシルス科、バシルス属、バシルスサブチリス(…)を無菌的に接種し、表-7に示したように、光源1~4をフィルムNO.1で被覆して、培地及び微生物を照射強度300µW/cm²で培養期間連続照射し、25℃、4日間平板培養を行った。培養後の微生物の繁殖量(指数)は微生物のコロニーの大きさを似つて測定した。その結果を表-7に示した。(6頁上段右欄1行目~11行目、表―7は同頁下段左欄に記載され、次の
とおり。


(3)

前記乙36公報の特許請求の範囲や発明の詳細な説明の内容によると、
波長400~500nm域を光源とする光源-2をバシルス

サブチリス
(枯

草菌)に照射することで、当該微生物の繁殖を抑制する方法が記載されている。
これによると、枯草菌を(3a)
、およそ400nmから500nmまでの光波

長領域にある光の照射下で培養して(3b)
、この微生物の生長を抑制させる
ことを特徴とする(3c)微生物の生長制御方法(3d)という乙36発明が開示されているものと認められる。
(4)
本件発明と乙36発明とを比較すると、乙36発明の構成3aと本件発明
の構成要件Aは、枯草菌(バシルス

サブチリス)に関し一致する。また、

構成3bと構成要件Bを対比すると、光波長領域の数値範囲は構成3bが400nmから500nmであるのに対し、構成要件Bではおよそ400nmから490nmとされており、上限値は10nm程度異なるものの、その大部分が一致し、かついずれもいわゆる青色光の波長域を示すものと理解でき、また構成要件Bに示される波長は本件明細書の記載からして厳密な数値限定の意味を持たないことも考慮すると、構成3bと構成要件Bは実質的に同一であるといえる。構成3c及び同3dと構成要件C及び同Dはいずれも一致する。したがって、
乙36発明の各構成と本件発明の各構成要件は一致するとい
うべきである。

(5)

原告の主張について
これに対し、
原告は、
乙36公報に記載された
FL-40SB(東芝電気(株)


は、混在する光を発することを指摘して、乙36公報には青色光に着目した記載はないから、

およそ400nmから490nmまでの光波長領域にある光の照射下で培養して、この微生物の生長を抑制させる

こと(構成要件B)は開示されていない旨や、近紫外線が必須の構成となっていることを主張する。

しかし、
前記(2)によれば、
乙36公報の特許請求の範囲第2項は
500nmから近紫外線の波長域に含まれる光線を実質的に含有する光線を微生物
に照射することを明示しており、また乙36公報に記載の発明は、

従来の殺菌及び滅菌方法では、対象菌体のみならず、人体、家畜類及び各種製品を損傷させるという弊害があり、これらの弊害なく簡便な菌体の繁殖抑制方法

を課題とし、この課題の解決手段として、

微生物に少くとも500nmから近紫外線の波長域に含まれる光線を照射することにより、微生物の繁殖を抑制する

方法を開示したものである。また、近紫外線の意義については
本発明における「近紫外線とは、
(中略)更に好ましくは、360nmか

ら400nmの波長域に含まれる光線を意味する。
」とされ、400nmにごく
近い波長の光線が好ましい近紫外線に含まれていることが前提となっているし、
光源-2についてはおよそ400nm~500nmで発光する蛍光灯であることがその定義及び分光エネルギー分布図によって明らかである。そして、実施例-11にあっては、枯草菌に前記光源-2を照射した結果、他の波長
の光源とは有意に異なる微生物の生長抑制効果があったことが記載されている。
このような開示がされている乙36公報に接した当業者は、波長が400nm~500nmの範囲の青色光が微生物のうち枯草菌の繁殖を抑制するとする乙36発明が開示されていると容易に理解し得るものである。
原告の主張は、前記(4)の判断を左右するに足りない。

(6)

以上によると、前記(4)に説示したとおり、本件特許は、乙36発明と構
成が同じであって新規性が欠如しており、無効審判により無効にされるべきものであって、原告は、参加人に対し、本件特許権を行使することができない(特許法123条1項2号、104条の3第1項、29条1項3号)。
争点3-7に係る参加人の主張(抗弁)は、理由がある。

第5結論

以上によると、本件製品は、本件特許の技術的範囲に属さず、また本件特許は無効審判により無効にされるべきものであるから、その余の点を判断するまでもなく、原告の請求には理由がない。
よって、主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第26民事部

裁判長裁判官

松阿彌


裁判官

杉浦一輝
裁判官


健一郎

(別紙)
製品目録
1冷蔵庫(品番:NR-E415PV)
2冷蔵庫(品番:NR-E415PVL)
以上

【別紙特許公報省略】

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