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覚醒剤取締法違反被告事件
事件番号令和4(う)1
事件名覚醒剤取締法違反被告事件
裁判年月日令和4年4月21日
法廷名広島高等裁判所
結果棄却
原審裁判所名山口地方裁判所  周南支部
原審事件番号令和3(わ)78
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-04-21
情報公開日2022-06-25 04:00:12
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令和4年4月21日宣告
令和4年(う)第1号
原審

広島高等裁判所

覚醒剤取締法違反被告事件

山口地方裁判所周南支部

令和3年(わ)第78号、第85号

主文
本件控訴を棄却する
当審における未決勾留日数中70日を原判決の刑に算入する。
理1由
本件控訴の趣意は、弁護人森亮介作成の控訴趣意書及び控訴趣意補充書に記載されたとおりであり、これに対する答弁は、検察官藤川浩司作成の答弁書及び準備書面に記載されているとおりであるから、これらを引用する。論旨は、要するに、被告人を懲役4年に処した原判決の量刑が重過ぎて不当であるというものである。
そこで、記録を調査して検討する。

2
本件は、原判決が罪となるべき事実において認定したとおり、被告人が、①令和3年7月4日、山口県下松市内のホテルで覚醒剤結晶粉末0.222gを所持した、②同年9月2日頃、同県周南市内のホテルで覚醒剤水溶液を自己の身体に注射して使用したというもの(いずれも覚醒剤取締法違反)である。
3
原判決は、量刑の理由において、要旨、次のとおり説示する。
被告人は、
覚醒剤取締法違反の懲役前科9犯を有し、
いずれも服役している上、
平成30年3月に前刑執行終了により出所したが、平成31年頃から覚醒剤の使用を再開し、以後覚醒剤の使用を繰り返す中で本件犯行に及んだもので、覚醒剤に対する常習性は顕著であり、親和性及び依存性には根深いものがある。そうすると、被告人の刑事責任は相当重い。
他方、被告人が罪を認め、情状証人として証言してくれた建設業を営む知人を裏切らないためにも、医療機関や自助グループを利用するなどして覚醒剤を断ち切るなどと述べていること、上記知人が被告人の過去の仕事振り等を評価し、社
会復帰後の被告人を雇用し、監督する意向を表明していることなど、被告人のために酌むべき事情が認められる。そこで、これらの事情を総合考慮し、被告人を懲役4年の刑に処するのが相当であると判断した。
4
所論は、①原判決は、前刑出所から僅か1年足らずで覚醒剤の使用を再開したとして被告人を非難するが、被告人の覚醒剤に対する依存度はかなり深刻であり、そのような被告人にとってみれば1年間といえども並大抵でない努力と忍耐が必要であり、被告人としても、地元である札幌市から山口県に移住して人間関係を一新し、新しい生活環境を整えるとともに心療内科に通院するなど可能な限りの再犯防止策を執っていたのであるから、原判決の評価は誤っている、②被告人の覚醒剤に対する依存度合いを見れば長期間刑務所に服役させても再犯防止のためには何の効果もない一方、被告人は、前刑出所後真面目に働き、勤務先会社の社長が社会復帰後も仕事を任せて従業員及び家族で被告人を気に掛けていきたいと証言しているのであるから、長期間刑務所に収容するより上記会社で定職に就き、その監督の下、薬物依存の治療や自助団体への参加をさせた方がより合理的かつ効果的である、③被告人は真摯な反省の態度を示している、④被告人はダルクと連絡を取り回復プログラムの教示を受けており、社会復帰後は精神保健センターへ通院し、向精神薬の服用やダルクへの通所による再犯防止を決意しているなどと主張する。
しかしながら、①については、原判決は、所論がいうような深刻な依存に陥ったこと自体について被告人を非難しているのであって、こうした原判決の評価に誤りはない。②については、量刑判断の中核は、犯罪行為にふさわしい刑を明らかにする点にあるのであって、再犯防止は飽くまで副次的な目的にすぎないから、量刑評価の上で所論の指摘を考慮するにも限度がある。加えて、収容処遇に再犯防止の効果が何もなく、被告人が社会内でしか更生できないかのように断定する所論をそのまま是認できないことも明らかである。③④において所論が指摘する事情はいずれも行為責任に直接関係しない一般情状であり、被告人の量刑を決す
るに当たり考慮するには限度がある。
所論はいずれも採用できない。
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そうすると、所論の指摘を踏まえても、原判決の考慮した量刑事情に不当なものはないといえる。他方、こうした量刑事情の評価の仕方について見ると、原判決の量刑は懲役4年であり、この種事案としてはかなり重い部類に属するものであるところ、このような量刑が是認できるか否かについては、同種事案の量刑傾向を踏まえて検討する必要がある。
本件は、前述のとおり、①覚醒剤0.222gの所持及び②覚醒剤自己使用から成る事案であるところ、被告人は累犯前科を含む同種懲役前科9犯を有しており、
本件は、
前刑執行終了後3年3か月余り及び3年5か月余りでの犯行である。そして、検察官が準備書面で援用する量刑資料により、同種事案、すなわち、営利目的なしの覚醒剤取締法違反(自己使用若しくは1g未満の所持又はこれらの併合罪)で、行為者が累犯前科を有し、覚醒剤取締法違反の罪又はこれを含む罪に係る自由刑前科7犯以上を有し、かつ、前刑執行終了から犯行まで2年6か月以上を経過している事案についての最近4年2か月分(平成30年1月1日~令和4年3月1日確定分)の裁判例112件について、その量刑傾向を見ると、懲役1年6月~4年の範囲に分布しており、最も多いものが懲役3年(30件)であるものの、1件のみではあるが、懲役4年の例も存在している。すなわち、原判決は、本件を、上記の量刑分布の中で最も重い部類として位置付けていることになる。
このような原判決の量刑評価の当否について検討すると、被告人は、その供述によれば、二、三か月に1回の頻度で0.4g程度の覚醒剤を購入し6~8回で使い切っていたというのであり、その常習性の程度等からして、①覚醒剤所持、②覚醒剤自己使用ともに、
個別に見れば、
その犯情は上記同種事案の中において、
特段、悪質な部類に属するものとは解されない。
もっとも、上記量刑分布中、覚醒剤所持と覚醒剤自己使用との併合罪の事案を
抽出すると、それらは、いずれも自己使用と単純所持とが約7日以内と近接しており、併合罪ではあるものの、一連の犯行として包括的な量刑評価を行うことに比較的なじみやすいものであることがうかがわれる。
これに対し、本件は、覚醒剤所持と覚醒剤自己使用との間に約2か月の間隔が開いている上、①で所持した覚醒剤は令和3年6月に島根県で入手したものであるのに対し、②で使用した覚醒剤は同年8月に徳島県で入手したものであり、別罪として個別に評価することになじみやすく、その分だけ犯情において悪質な部類に属するものと見ることも可能である。
加えて、被告人の前科の量刑の推移を見ると、被告人は、昭和62年からこれまで覚醒剤取締法違反の罪又はこれを含む罪による前科9犯を有しているが、平成2年以後はいずれも覚醒剤取締法違反の罪のみによる前科であり、平成2年に懲役2年、平成6年に懲役2年6月、平成9年に懲役3年、平成13年に懲役3年4月、平成18年に懲役3年8月にそれぞれ処せられてきたところ、平成22年、平成26年には、いずれも覚醒剤自己使用1件について、懲役3年6月に処せられている。
被告人は、
こうした前科を有しながら本件に及んだものであって、
その意思決定は、厳しく非難されるべきものである。
また、懲役4年は、上記のとおり、同種事案の量刑傾向の上限というべき刑期ではあるが、いまだ量刑傾向を逸脱したものとまではいえない。
以上によれば、原判決が、上記のとおり個別的評価になじむ覚醒剤所持と覚醒剤自己使用の併合罪である本件について、被告人を懲役4年に処したことが、直ちに破棄しなければならないほどに重過ぎて不当とまではいえない。論旨は理由がない。
6
よって、刑訴法396条により本件控訴を棄却することとし、当審における未決勾留日数の算入について刑法21条を、当審における訴訟費用を被告人に負担させないことについて刑訴法181条1項ただし書をそれぞれ適用して、主文のとおり判決する。

令和4年4月22日
広島高等裁判所第1部

裁判長裁判官


裁判官

名波富宏仁張真紀
裁判官廣瀬裕亮は転補のため署名押印することができない。

裁判長裁判官

伊名波宏仁
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