判例検索β > 令和2年(う)第479号
詐欺、詐欺未遂
事件番号令和2(う)479
事件名詐欺、詐欺未遂
裁判年月日令和4年4月18日
法廷名大阪高等裁判所
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-04-18
情報公開日2022-07-01 04:00:12
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令和2年

(主

第479号

文)
原判決中、被告人Bに関する部分を破棄する
被告人Bを懲役2年6月に処する
被告人Bに対し、原審における未決勾留日数中200日をその刑に算
入する。
検察官の被告人Aに対する本件控訴及び被告人Aの本件控訴は、いずれもこれを棄却する。
(理

由)

(以下、用語については、原判決の記述に従う。公判供述ないし証言及び書証は断りのない限り、原審のものである。また、括弧内の人名と頁数は、当該証人の証人尋問調書又は当該被告人の被告人質問調書の該当頁を示す。)第1

本件控訴の概要及び控訴趣意

本件は、サステナブル補助金事件につき、被告人両名が有罪となり、経常費補助金事件及び特別支援教育費事件につき、被告人Aは有罪、被告人Bは無罪となったため、検察官及び被告人両名から、それぞれ控訴の申立てがなされた事案である。
検察官の控訴の趣意は、検察官山本真千子作成の控訴趣意書に記載のとおりであるから、これを引用する。その論旨は、事実誤認の主張である。すなわち、経常費補助金事件及び特別支援教育費事件につき、被告人Bの関係では、被告人Bには故意の全部ないし一部や被告人Aとの共謀が認められないとして、被告人Bを無罪とした点で、また、被告人Aの関係では、被告人両名による共同正犯であるのに被告人Aの単独犯を認定した点で、いずれも原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある、というものである。

被告人両名の控訴の趣意は、前弁護人甲、同乙、同丙、同丁及び同戊連名作成の控訴趣意書並びに控訴趣意書の訂正及び補充書と題する書面に各記載のとおりであるから、これらを引用する。
1
被告人Aの控訴趣意の論旨は、事実誤認、法令適用の誤り及び量刑不
当の主張である。すなわち、事実誤認の主張は、①サステナブル補助金事件につき、故意もP1らとの共謀もないのに、これらを認定した点で、②経常費補助金事件につき、被告人Aが専任園長に、被告人Bが専任教員に、それぞれ該当しないことについては未必の故意にとどまるのに、確定的故意を認定した点で、③特別支援教育費事件につき、全ての障がい幼児に関する府市補助金等の交付申請に詐欺の欺罔行為及び故意を認定した点で、いずれも原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある、というものである。法令適用の誤りの主張は、被告人Aに詐欺の欺罔行為や故意、共謀が認められるとしても、補助金等不正受交付罪が適用されるべきであるのに詐欺罪ないし詐欺未遂罪を適用した点で、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある、というものである。また、量刑不当の主張は、被告人Aを懲役5年に処した原判決の量刑は、重過ぎて不当である、というものである。
2
被告人Bの控訴趣意の論旨も、事実誤認、法令適用の誤り及び量刑不
当の主張である。すなわち、事実誤認の主張は、サステナブル補助金事件につき、故意もP1らとの共謀もないのに、これらを認定した点で、原判決には判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認がある、というものである。法令適用の誤りの主張は、被告人Bに詐欺の故意や共謀が認められるとしても、補助金等不正受交付罪が適用されるべきであるのに詐欺罪を適用した点で、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある、というものである。また、量刑不当の主張は、被告人Bを懲役3年、5年間執行猶予に処した原判決の量刑は、重過ぎて不当である、というものである。
弁護人の答弁は、上記前弁護人ら連名作成の答弁書記載のとおりであり、検察官の答弁は、検察官田畑光行作成の答弁書記載のとおりであるから、これらを引用する。
当審における事実取調べを経た後の弁護人及び検察官の弁論は、順に、主任弁護人南出喜久治作成の弁論要旨と題する書面並びに検察官山口智子及び同佐々木洋二郎連名作成の弁論要旨と題する書面に各記載のとおりであるから、これらを引用する。
そこで、記録を調査し、当審における事実取調べの結果を併せて検討する。なお、弁護人の事実取調べを経た後の上記弁論は、事実取調べの結果に基づくものに限られるべき本来の範囲を大きく逸脱している上、控訴趣意書の内容の敷衍ないし補充とも異なる新たな主張まで含むもので、その多くが不適法な主張であるが、職権調査として、それらの一部についても判断を示すこととする。
第2
1
事実誤認の論旨について
サステナブル補助金事件について
原判決が認定した更正決定後の罪となるべき事実の概要は、次のとお
りである。
被告人Aは、C学園の理事長として、その業務全般を統括していたもの、被告人Bは、C学園のため、被告人Aが行う業務を補佐するなどしていたものであるが、被告人両名は、C学園が大阪府豊中市所在の土地に小学校の校舎等を建設することに関し、国土交通省から事務事業者に選定されたD協議会が先導的な木質化建築事業を実施する建築主等に対して補助金対象事業の採択以降に着手した実施設計及び建設工事を対象として交付する間接補助金であるサステナブル補助金について、D協議会から同補助金をだまし取ろうと考え、E社の取締役であるP1らと共謀の上、真実は、平成26年7月頃にC学園とE社との間で報酬額を3200万円とする建築設計・監理業務委
託契約を締結した上で、遅くとも平成27年3月頃には実施設計に着手していたのに、かつ、同年12月頃にC学園とF工業との間で締結した建設工事請負契約の工事代金額は14億4000万円であったのに、平成28年2月下旬頃、D協議会事務所に対し、C学園が事業提案申請をした同補助金対象事業の採択日である平成27年9月4日以降に実施設計に着手し、建築設計・監理業務委託契約の報酬額が1億4125万円であるかのように装った内容虚偽の同日付けC学園とE社間の建築設計・監理業務委託契約書の写し、建設工事請負契約の工事代金額が22億800万円であるかのように装った内容虚偽の同年12月3日付けC学園とF工業間の工事請負契約書の写し等と共に、同年10月8日付けでD協議会に決定させていた平成27年度における同補助金の交付予定額5644万8000円のうちの4829万8000円を申請額とする中間実績報告書、請求書等を郵送送付し、その頃、D協議会代表理事らに、前記各契約書の契約内容及び申請内容は真実であり、申請額どおりに同補助金をC学園に交付すべきである旨誤信させて、C学園に交付すべき同補助金の額を4829万8000円と決定させ、平成28年3月、同額をC学園名義の普通預金口座に振込入金させ、さらに、前記代表理事らが前記各契約書の契約内容は真実であると誤信しているのに乗じ、平成29年1月下旬頃、D協議会事務所に対し、建設工事が平成27年度の予定出来高に達した旨記載した実施報告書と共に、前記交付予定額5644万8000円のうち未交付であった815万円を申請額とする実績報告書、請求書等を郵送送付し、その頃、前記代表理事らに、前同様に誤信させ、平成27年度におけるC学園に交付すべき同補助金の額を5644万8000円であると確定させた上、C学園に更に交付すべき同補助金の額を815万円と決定させ、平成29年2月、同額を前記口座に振込入金させ、もって、人を欺いて財物を交付させた、というものである。原判決が(争点に対する判断)の第3サステナブル補助金事件(平成29年8月21日付け起訴状記載の公訴事実)についての項で、被告人両名の故意及びP1らとの共謀を認めたことに、論理則、経験則等に照らして不合理な点はなく、この認定、判断は是認できる。以下、弁護人の主張に即して、順次判断する。
被告人両名の詐欺の故意について

欺罔行為①(工事代金額及び設計監理業務委託契約に係る報酬額を偽
って、本件補助金請求を行った点)について
原判決が、欺罔行為①について、被告人両名の故意を認定した説示の概要は以下のとおりである。すなわち、被告人両名は、平成27年7月23日のP1らとの打合せにおいて、P1から、サステナブル補助金の対象建設工事費を約20億円として申告した事実を説明されて知るとともに、建設工事費の額が少ないと補助金の額も少なくなることについて説明を受けて、建設工事費の額が交付される補助金額に影響するという補助金額決定の仕組みの概要を理解したものと認められる。そして、平成28年1月29日の第1回現場定例会議において、被告人両名ほか関係者らの間で、原判決別紙2のとおりの会話等がなされたところ、関係証拠を踏まえれば、既に工事代金を14億4000万円とするC学園とF工業との工事請負契約が締結されているのに、E社のP2が、被告人両名に対し、サステナブル補助金に関し、工事代金額を22億円としている関係で、工事代金額を22億円とする旨の架空の工事請負契約書を作成する必要性がある旨を説明して、事業主である被告人側の了承を求め、これに対して、被告人Bが責任の所在が全部こっちになるとC学園側が責任を負う結果になることを懸念する旨述べたものの、P2から全員が責任を負うものであるという説明がなされて、最終的には被告人両名とも了承して話を前に進めてほしい旨述べたことが認められる。このような会話内容に照らせば、被告人両名は、補助金の請求に当たり、工事代金額及び設計報酬額について、事業採択時の見積額より下回らないようにするこ
とにより、平成27年10月になされた交付決定額どおりの補助金の交付を受けるため、架空の工事請負契約書等の作成に了承を与えたものと解され、このような第1回現場定例会議における会話内容だけからでも、被告人両名は、欺罔行為①について故意を有していたと認められる。加えて、被告人Aは、第1回現場定例会議の前に、P2との電話の際、22億円の工事契約書と見積書を作成することについて了解したことも認められ、被告人Aについては、その時点から欺罔行為①について故意を有していたと認められる。原判決は、以上のとおり説示する(原判決36頁~38頁)。
これに対し、弁護人は、被告人両名は、小学校の開校期限が1年3か月後に迫っていた上、その用地の地中から発見された産廃や汚染土の除去工事をしなければならなかったことから、上記会議の時点において、E社との契約を解除して設計監理業者を新たに選んで再出発するとすれば、開校認可も白紙に戻ってしまうため追い込まれており、もはやE社にすがるしか途がなかったところ、そのような状況の下で、被告人両名は、上記会議において、信用していたP2から、実際の建設工事費は15億5520万円(税込み)であるが、申請当初に22億円で申請しているので同額の契約書及び見積書を作成する必要があると言われ、しかも、その22億円は、試算見積において、建設業者の高いところが20億円であったことに照らして、当時の建設業界において不自然、不合理ではない範囲の価格であるから、22億円の契約書を提出して補助金を請求しても詐欺になるとは認識しなかったと主張する(趣意書176頁~178頁、補充書9頁)。
しかし、弁護人が主張するように、小学校の開校予定からして、被告人両名が、小学校開校という目的を達成するには、今更、設計監理業者を変更することはできないと考え、E社に頼る心情であったとしても、C学園はF工業との間で既に14億4000万円の工事請負契約を締結しているのであるから、内容虚偽の22億円の工事請負契約書を作成して、これをもとに過大
な補助金請求をすることが、およそ許容されるものでないことは明白である。そして、原判決が説示するとおり、平成27年7月23日の会合における録音反訳書(甲150資料1、2)及びP1の証言によれば、被告人両名は、同日、建設工事費の額が交付される補助金額に影響するという補助金額決定の仕組みの概要を理解したものと認められる。したがって、被告人両名は、本来、正式の建設工事費である14億4000万円に基づいて、交付決定額から減額した補助金額の交付申請に改めるべきであり、そのことを重々承知していながら、第1回現場定例会議において、P2や工事請負契約を締結したF工業の担当者であるP3がテンプラ、張りぼてと例える、契約金額を膨れ上がらせた内容虚偽の工事請負契約書を作成して過大な補助金請求をすることを了承したのであるから、被告人両名に詐欺の故意が認められ、これが違法であると認識していたことも明らかである。上記会議における録音反訳書(甲157)及びP2、P4、P3の証言等により、以上と同旨を認定した原判決に誤りはない。
なお、弁護人は、複数の契約書が存在することは、意思表示の内容が未確定であり、意思の合致がなかったことを意味するから、14億4000万円の工事請負契約書は真意に基づくものではなかったと主張するが(弁論13頁~14頁)、同契約書が、契約当事者において法律効果を発生させる意思で作成した真正なものであることは、原判決が理由を含めて的確に説示するとおりであるから、採用の余地がない主張である。
また、弁護人は、内容虚偽の22億円の工事請負契約書の写し(職5)の元となる原本が証拠として提出されていないことからすると、そもそも被告人Aが上記契約書に押印した事実の証明がされていないとも主張するが(弁論16頁、71頁。関連して趣意書89頁~90頁)、P4、P3らの証言によれば、上記事実は明らかに認められる。
上記

に関連して、弁護人は、被告人両名は、平成27年7月23日

の会合で、P1らからサステナブル補助金の事業提案申請書を提出したことを知らされたところ、①被告人BがP1に建設工事費をなんぼで出してはるの先生・・20億とかと質問しているが、これは、それまでに被告人両名が、P1から

(建築業者に概算見積を出させたら)安いところで15億円、高いところで20億円

と言われていたので、P1の

無理のないところでそれこそ取れる。誰が見とっても納得のいく金額

で申請している旨の説明を受けて、高い方の金額であると思ったことから出た金額であり、したがって、この被告人Bの質問は、この時点で、被告人両名が、E社が建設工事費を水増しした金額は、建築業界で高めの金額にすぎないのであって、不正に水増しした違法な請求であるという認識がなかったことを裏付けている、②また、被告人両名は、当初、P1からの建設工事費をその額で申請すると1億2000万円くらいの補助金が得られるとの説明に対し、建設工事費についてもうちょっと下げないと無理やわ、思っているよりちょっと高いねなどと発言していることからして、20億円の建設工事費で1億2000万円の補助金を得るよりも、補助金が少なくても建設工事費を10億円以下とすることの方が重要であると考えたことを示しているのであって、被告人両名に違法行為をしてまで補助金を獲得しようという動機はなく、補助金を詐取する故意はなかったと主張する(趣意書126頁~127頁、174頁~176頁)。
まず、①の点については、確かに、弁護人が指摘するとおり、サステナブル補助金の本件事業提案申請当初から被告人両名に建設工事費を不正に水増しした違法な補助金請求をする意思があったとは認めることはできず、原判決もこの時点で被告人両名に詐欺の故意があったとは認定していない(原判決32頁、37頁)。しかし、上記のとおり、被告人両名は、欺罔行為①の時点では建設工事費を14億4000万円とする正式の工事請負契約が締結されているにもかかわらず、建設工事費の額が交付される補助金額に影響す
るという補助金額決定の仕組みの概要を理解した上で、22億円の内容虚偽の水増し工事請負契約書を作成してこれに基づいて補助金請求をすることを了承しているのであるから、実行行為時に詐欺の故意を有し、違法性の認識があったことも明らかであって、弁護人指摘の点は、この認定を何ら妨げない。また、②の点については、一連の被告人両名とP1らとの会合の録音反訳書や議事録等を見れば、被告人両名には、できる限り安く建設したいという思いがあるものの、このことは、建設工事代金が決まった状況下において、少しでも補助金を多く得ようとの動機が生じ、補助金を詐取する故意が存在することと矛盾するものではない。現に、被告人両名は、平成28年1月13日の打合せにおいて、補助金の補助限度額が当初想定していた約1億2000万円から約6000万円へと約半分に減額されたことについて、関係者が多数いる中で、サステナブル補助金に関する責任者として担当していたP1を叱責、罵倒しており、この出来事などが端的に表すように、被告人両名は、これ以上、補助金を減額されたくないと考え、補助金に固執していたと認められ、それが本件犯行に繋がったとみるのが自然である。弁護人の主張は、当たらない。
弁護人は、原判決は、平成28年1月29日の第1回現場定例会議における被告人Bの

先生、これにならないんですか

、責任の所在が全部こっちになるので、前進めて等の発言を故意認定の根拠としたが、発言の趣旨の捉え方が誤っており、これらの発言から故意は裏付けられないと主張する(趣意書188頁~191頁)。
しかし、被告人Bは、P2からF工業が22億円のテンプラの契約書の作成に協力してくれることになったとの説明を受け、開口一番P2さんの手腕やねと言っているし、その後の話の流れを見ても、

先生、これにならないんですか

、責任の所在が全部こっちになるのでとの発言は、22億円の水増し工事請負契約書で補助金を請求することが違法な行為であり、
刑事責任を含めて、その責任の全部がC学園側、すなわち被告人両名に来るのではないかとの被告人Bの懸念を示すものとしか言いようがない。被告人Bは、引き続いて、P2から全員が責任を負うものであるとの説明を受けた上で、前進めてと言っているのであるから、その発言は、P2の発言内容を理解し、納得した上、内容虚偽の工事請負契約書を作成する話を進めるようP2に指示したものであることは明らかである。このような被告人BとP2とのやり取りは、被告人Bの故意はもとより、その場でP2の説明を聞き、被告人Bと同様、話を前に進めてほしい旨言った被告人Aについても詐欺の故意を裏付けるものといえる。弁護人が、被告人Bの発言の趣旨として説明するところは、不自然な解釈による無理な説明というほかない。
弁護人は、被告人両名は、補助金額が決定した後の平成28年8月29日の会合で、さらに補助金対象工事を増やして再申請し、補助金を追加支払いしてもらえるかを、これまで補助金請求について、指導、助言してくれていた、補助金制度の審査員である大学教授に電話で問い合わせ、その可能性があることを聞いて喜んで、P2に対し、同教授に相談して再申請して補助金を取るよう頼んでいるが、仮に、被告人両名が22億円の工事請負契約書をもとに補助金を請求したことが詐欺であると認識していたとするなら、同教授を裏切ることは明らかであるから、上記のような言動に出ることなど考えられず、このことは、被告人両名に補助金を詐取した故意がなかったことを裏付けていると主張する(趣意書149頁~150頁)。
しかし、弁護人指摘の点は、被告人両名が、更なる補助金欲しさから、同教授に対する裏切りを重ねたというべきものである。弁護人の主張は、独自の立論に基づくものであり採用できない。
以上に関連して、弁護人は、原判決が、被告人両名の故意及び共謀についての判断の前提となる事実経緯の一つとして、被告人両名が、平成27年6月10日の会合で、P1に対し、多めにもらう、国からぼったくってなどと、本来よりも多額の補助金をもらいたいという趣旨の話をしたと認定したことに対し(原判決31頁、40頁)、事実を誤認したものであると主張する(趣意書79頁、180頁~188頁)。
この主張を検討する前提として、同日の会合における被告人両名の関連する発言をみると、同日の録音反訳書(甲148)によれば、甲148資料3における会話中で、被告人Bは多めにもうといて先生、国から多めにもらう、

ぼった、取ってよもう

などと、被告人Aは

国からはたくさん多めにもうて、ちょっと安めにしててもうて、建築費に充当するのが1番ええな

などと発言し、また、甲148資料4における会話中で、被告人Bは国からぼったくってなどと発言していることが認められ、原判決は、被告人両名のこれらの発言の趣旨を上記のとおり理解したものとみられる(なお、原判決は、この認定に対応する証拠として、P1の証言のほか、甲148資料3のみを挙げているが、甲148資料4も併せて挙げるべきであった。)。
弁護人の主張は、具体的には、資料4の国からぼったくってという発言は、サステナブル補助金に関するものであるが、資料2と資料3の間に存在し原審で証拠とされなかった会話の録音部分(当審弁書19)によれば、P1が、土壌汚染と地中障害にかかった工事費を国から返還させるという話をしていたところ、国に提出する書類が煩雑だというような話になり、被告人Bが行政に対する不満を述べ、その直後、被告人Bが資料3における国から多めにもらう、

ぼった、取ってよもう

などの上記発言をしたものであることなどからすると、被告人Bの上記発言は、サステナブル補助金についてではなく、小学校用地の汚染土壌除去費(有益費)についてのものであって、原判決には事実の誤認があるという内容である。
しかし、この点は、検察官が答弁書において的確に反論するとおりである。すなわち、①有益費は、弁護人の主張(趣意書27頁、186頁)によって
も、補助金とは異なり、国から補助を受けるものではなく、C学園が工事を委託した業者に支払って実際に負担した費用を、そのまま事後に補填してもらうものであって、それによってC学園は何らの収益を得るものではないのであるから、そもそも、ぼったくるという表現自体が当てはまらない性質のものである。したがって、資料3における被告人Bの上記発言が、国からぼったくる旨の表現で有益費の支払いについて述べたものとは考え難い。②被告人両名は、上記会合に先立つ平成27年3月25日、同年4月2日、同年5月20日の会合(それぞれの録音反訳書は、順次甲143資料4、甲144資料1、甲147資料1、2)等における発言からも明らかなとおり、サステナブル補助金をできる限り多く得ることにこだわっていた上、同年6月10日の上記会合でも、甲148資料2における会話で同補助金について話題にしていたし、資料4における会話で、被告人Bが同補助金を対象としてぼったくる旨の発言をしたことは、やり取りの流れからも明らかに認められるのである。同じ会合でぼったくるという共通の表現をしている以上、資料3における上記発言も、同補助金を対象としたものとみるのが自然である。③P1は、甲148資料3における被告人両名の発言は、サステナブル補助金のものであった旨明確に証言している。④被告人Aは、甲148資料3における被告人Bの上記発言を受けて、上記のとおり、

国からはたくさん多めにもうて、ちょっと安めにしててもうて、建築費に充当するのが1番ええな

と発言しているところ、建築費に充当との発言は、上記の有益費の性質と矛盾しており、資料3における被告人両名の上記発言が有益費についてのものでなかったことを示している。⑤当審弁書19と甲148資料3における被告人両名の発言をみれば、被告人両名、特に被告人Bが土壌汚染等対策工事及び小学校用地の借地料の支払いに関する近畿財務局の対応等に相当不満を募らせていたことはうかがわれるが、そのことと国交省が所管するサステナブル補助金をぼったくることとが矛盾するわけではなく、むしろ、
共通する相手である国に対し、不満を晴らし、併せて、自分達の利益を図ろうとして、同補助金をぼったくるなどの発言に及んだとしても、不自然、不合理ではない。以上によれば、資料3における上記発言もまたサステナブル補助金についてのものであると認められる。
さらに、弁護人は、平成27年6月10日当時は、サステナブル補助金の事業提案すらされておらず、被告人両名は補助金と建設費との関係について説明を受けていなかった段階であり、被告人Bには、本来もらえる額がいくらかとか、どのような方法で多くもらえるかなどについての知識が全くなかったのであるから、被告人Bが、この時点で、建築費を水増しして本来よりも多額の補助金をもらいたいという趣旨で発言することはあり得ず、被告人Bは、できる限り補助金を多くもらいたいという事業主として当然の心理を述べたにすぎないのであり、被告人Bの発言の一部をもって、欺罔行為の認識の裏付けとみるには無理があるし、被告人BがP1らに対して、建築費を水増ししてでも補助金を本来より多く取れと指示した事実はないと主張する(趣意書187頁)。
しかし、原判決は、被告人Bがぼったくる等の発言によってP1らに対して弁護人主張の指示をしたと認定したものでないことは、説示に照らして明らかであって、上記主張は、原判決を正しく理解するものではない。また、確かに、被告人両名は、まだサステナブル補助金と建設工事費が影響する関係にあることについて説明を受けていないため、その知識がなかったが(原判決37頁)、だからといって、建設工事費の水増しという具体的な方法までは想定していないにしても、不正なものを含む何らかの手段によってでも本来よりも多額の補助金をもらいたいという心情になって、これを吐露することは十分考えられ、このことは、被告人両名の補助金に対する期待の大きさからすれば尚更であるし、ぼったくるという表現からしても、弁護人の主張は当たらない。

そうすると、甲148資料3及び資料4における被告人Bのぼったくる旨の発言をはじめとする、平成27年6月10日の会合で被告人両名がした上記発言は、被告人両名が、必ずしも違法行為の趣旨とは限らないものの、本来よりも多額の補助金をもらいたいという趣旨で述べたものであり、P1らの行為はその意思を受けてのものと考えられるとした原判決の判断(原判決40頁)は、正当であって、この判断を前提に被告人両名の故意や正犯性を検討した点にも誤りはない。弁護人の主張は理由がない。
なお、弁護人は、当審弁書19の上記録音部分が甲148に反訳書として添付されていないのは、有益費についての資料3の上記発言を、サステナブル補助金に関するものとするために検察官が意図的に行った証拠の改ざんである疑いが濃いとか(趣意書79頁)、甲148は虚偽公文書であって、証拠能力に欠ける(弁論15頁、75頁)などと主張するが、上記のとおり、前提において理由がないことが明らかである。のみならず、甲148を含む一連の録音反訳書等(甲132ないし甲171)によれば、反訳部分が各録音記録のうち、どの時間帯を再生した部分であるか明示されている上、記録(各公判前整理手続調書、原審の各打合せ調書、各原審弁護人作成の平成31年2月27日付け証拠取調請求書、検察官作成の答弁書12頁~14頁)によれば、各原審弁護人が公判前整理手続中に検察官から、各録音記録のデータ全体について証拠開示を受け、その内容を精査、検討していたことは、優に推認できるから、その点からも、弁護人の主張は理由がない。被告人両名に欺罔行為①について故意を認めた原判決は正当である。イ
欺罔行為②(事業採択以降に実施設計に着手したもののように装って、
本件補助金請求を行った点)について
原判決が、欺罔行為②について、被告人両名の故意を認定した説示の概要は以下のとおりである。すなわち、平成27年8月26日及び同年9月2日、被告人両名とP1らE社の担当者との間で、原判決別紙3のとおりの会話等
がなされたところ、その内容は、P1が、既に実施設計に着手しているから本来であれば補助金を受けられない状況であったが、小学校の開校の延期を被告人両名が決めたことにより、実施設計の時期を偽れば補助金を受給する可能性が残ることになった旨を被告人両名に説明したというものであり、この会話により、被告人両名は、実施設計の着手の有無が補助金の受給の可否に影響するということ及びその時点で既に実施設計に着手していることについて、具体的な認識を有するに至ったと認められる。そして、E社のP4の証言によれば、被告人Aは、平成28年2月18日、P4から、サステナブル補助金事業の採択前に実施設計をしていてはいけないので、実施設計期間を採択後にしている旨の説明を受けて、実施設計の時期を偽り、かつ、設計料等を水増しした1億円余りの設計監理契約書の空欄となっていた作成日付欄に手書きで平成27年9月4日と記入した上、記名欄に押印し、被告人Bもその場に同席していたと認められるから、被告人両名は実施設計の着手時期を偽ることについて認識していた(ただし、被告人Bは未必的に認識していた)と認められる。原判決は、以上のとおり説示する(原判決38頁~39頁)。
P4の証言の信用性について
これに対し、弁護人は、被告人両名に無断で実施設計の着手時期を偽ったのはE社であるから、P4の証言は全く信用できないと主張する(趣意書178頁)。
しかし、P4の証言は、不自然、不合理な点がなく、客観的証拠やその場に居合わせたP3の証言とよく符合している一方、その信用性を揺るがせる事情は見当たらない。よって、P4の証言は信用できる。弁護人の主張は採用できない。
被告人Aの故意について
弁護人は、①仮に、被告人AがP4の証言どおり設計監理契約書の作
成日付欄に平成27年9月4日と記入したとしても、設計監理契約書とのタイトルからは実施設計着手時期と関係があるとは通常は認識できないし、22億円の工事請負契約書でも日付が平成27年12月3日とバックデートされており、被告人Aは、これと同様に、抵抗や違和感もなくP4らの指示どおりに記入したと推測されるから、その日付を記入することが実施設計着手時期を偽ることと等しいと認識することは不可能であると主張し、さらに、②原判決が故意を認定する前提とした平成27年8月26日及び同年9月2日の各会合でのやり取りについても、被告人両名にとっては、実施設計の着手の有無に関するD協議会ヒアリングでの問題は、既に解決し終了していたのであるから、こうしたP1らのD協議会の報告内容以上に、被告人両名が実施設計の着手時期を偽る工作が必要であると認識することは不可能であり、ましてや、それから6か月も経った平成28年2月18日の時点で、P4に言われるがまま日付を記入しただけで着手時期を偽って補助金を詐取すると認識するのは不可能である、と主張する(趣意書178頁~180頁)。しかし、原判決別紙3の会話を含む各会合でのやり取り(甲152、甲153)をみれば、被告人両名は、サステナブル補助金の交付について熱心にP1の説明を聞いており、その説明も分かりやすい単純な内容であって、これに対し、被告人両名が安堵感をもらすなどして応答し、説明の内容を理解したことが伝わるものであるから、原判決説示のとおり、この説明により、被告人両名は、少なくとも、実施設計の着手の有無が補助金の受給の可否に影響すること及びその時点で既に実施設計に着手していることについて、具体的な認識を有するに至ったと認められる。このことを前提にして、信用できるP4の証言によって原判決が認定、説示した平成28年2月18日のP4による説明状況や被告人Aの記入、押印状況を考えれば、被告人Aに欺罔行為②についての故意を優に認めることができる。弁護人の主張は、いずれもこの認定を何ら妨げるものではない。

被告人Bの故意について
弁護人は、①平成27年8月26日及び同年9月2日の各会合でのやり取りで、被告人Bは、P1のD協議会ヒアリングの説明について、P1が何かの問題を解決し、懸念事項は終了したと理解した可能性が高く、会話内容を理解しないまま、被告人Aに同調しているにすぎないことが、その発言からうかがわれるし、②被告人Bは、平成28年2月18日、被告人Aが設計監理契約書に記入し、押印する場の状況を理解しておらず、被告人Aの言うなりに印鑑を持ってきて、ただその場にいただけの可能性が高く、その場にいたことをもって、故意があるとはいえないと主張する(趣意書191頁~193頁)。
しかし、①については、所論が指摘する被告人Bの発言を踏まえても、被告人Aの故意の検討で述べたとおり、被告人Bも実施設計についての具体的認識を有するに至ったとの原判決の認定が揺らぐものではなく、弁護人の主張は当たらない。②についても、平成28年2月18日の被告人AとP4とのやり取りの際、被告人Bも同席していたのは上記のとおりであるところ、被告人Bは、かねてから被告人Aと共に小学校開校に向けたP1らとの会合に頻繁に参加し、サステナブル補助金について大きな関心を寄せていたことが明らかであり、それらの会合における補助金に係る発言に照らして、同日、被告人Aが設計監理契約書に記入し、押印する趣旨を理解していなかったとは考え難く、弁護人の主張は当たらない。したがって、被告人Bにも欺罔行為②について故意を認めることができる。
共同正犯の成否について

原判決は、その挙示する証拠に基づいて、被告人両名は、補助金請求
に用いる内容虚偽の契約書の作成につき、P1ほかE社及びF工業の関係者らと通謀したことが認められ、さらに、自己の犯罪として犯行に関与したものであって、正犯性も認められるとして、被告人両名とP1らとの間の共謀
を認定し、共同正犯の成立を認めたところ(原判決39頁~40頁)、この認定、判断は、論理則、経験則等に照らして不合理な点がなく、是認できる。イ
弁護人は、原判決が被告人両名の正犯性を認めた点について、種々主
張するので、順次判断する。
原判決は、被告人両名の正犯性を認める根拠として、犯行による利益を受ける主体について、補助金の減額がないことにより直接に利益を受けるのは被告人両名が経営に携わるC学園であること、これに対し、C学園が交付を受けた補助金を優先的にE社に対する設計報酬額の支払いに充てるという状況ではなかったと考えられるから、E社側が受ける財産的利益は間接的かつごくわずかであることを認定、説示した(原判決39頁)。
この認定、説示に対し、弁護人は、E社が本件小学校の設計監理の総責任者となることによって、設計士としての名声や将来の営業活動に計り知れないプラスの影響をもたらすというP1及びE社の利益を全く無視していると主張する(趣意書73頁~76頁)。
しかし、本件では財産犯である詐欺罪が問題となるのであるから、その犯行による財産的利益が直接誰に帰属したのかを中心として正犯性を検討した原判決は正当である。P1やE社に弁護人指摘の利益が考えられるとしても、本件犯行による即時、直接かつ最大の利益主体が、C学園ひいては被告人両名であることの認定は動かない。だからこそ、被告人両名は少しでも多額の補助金を得ようと躍起になっていたのであり、このことも正犯性を裏付ける事情といえる。弁護人の主張は、独自の見解に基づくものであり、採用できない。
なお、弁護人は、P2が、本件事業提案申請書に、実際に行われない工事金額の見積書や、虚偽の設計の見積書が添付された理由についての認識を問われ、補助金をたくさんもらうためだと思います、

設計料について、もう契約していましたので、その実際のものよりも多くという意味ですね


と答えたこと(P212頁~13頁)を指摘して、これは、実際の設計料よりも多くもらうつもりがあったことを暴露するものであり、E社は補助金が多く取れれば追加して請求する意思があったと判断できると主張する(趣意書75頁~76頁)。しかし、P2は、既に契約で定められた設計報酬額を水増しすることにより補助金を多く得るという趣旨を述べていることが明らかであり、弁護人の主張は当たらない。
さらに、原判決は、正犯性を認める根拠として、本件補助金の不正受給は、P1やP2らE社関係者が主導して被告人両名を引っ張ったというものではなく、同関係者が、多額の補助金を受給したいという被告人両名の強い意向を受け、実務を担当する者としてやむなく手続を進めたものであり、他方、被告人両名は、事業主かつ建築主として、E社関係者がそのような行動をとらざるを得ないような状況を作っていき、その結果として得られる財産的利益の全てを享受したとみるのが相当であると認定、説示した(原判決40頁)。
これに対し、弁護人は、①E社のP1にとっては、自ら渾身を込めて意匠設計した小学校校舎を建てたいという強い願望があり、建築資金に余裕がなくP1のいう建設工事費を下げさせようと必死になっていた被告人両名を説得して、自らの夢(野望)を実現するためにサステナブル補助金を獲得しなければならない強い動機があったし、F工業のP3にも、E社の指示に従って、校舎建築工事を無事に行いたいという強い動機があった(趣意書75頁、91頁)、②P1は、自分が描いた夢の校舎を設計し実現したいという野心のために、被告人両名の建設工事費減額要請を無視ないし拒否し続け、被告人両名の資金力を超えた建設工事費で工事請負契約を締結させた上、建築資金が足りないので補助金を多く取ってくれという被告人両名の要望に応えて、できるだけ補助金を探してくるが、それにも限界があるので、1件当たりの建設工事費を許容限度内で水増しして補助金額を増やすしかないと考えた
(趣意書108頁~111頁、124頁~128頁。その他に、同93頁~94頁、102頁、104頁、119頁~120頁、139頁、156頁等)、③他方で、被告人両名は、14億円の実際の請負契約書を提出したとしても下りる補助金は22億円で出した場合の6000万円の半額程度になるだけであるので、補助金を3000万円多く得るだけのために、虚偽の偽装契約書を提出するなどの違法行為をしてまで補助金を取ろうという動機はなかった(趣意書91頁)などと主張する。
しかし、まず、①、③についてみると、先に説示したとおり、本件犯行による最大の利益主体がC学園ひいては被告人両名であり、建築資金の捻出に苦慮していた被告人両名が少しでも多くの補助金を欲しいと考えていたことからすれば、被告人両名には補助金を詐取する強い動機が認められる。他方、設計士としての名声や将来の営業活動に及ぼす好影響は、不確実かつ間接的なメリットにとどまるのであって、P1が大規模に木質化された小学校建築という日本初のプロジェクトに関わることによる名誉や実績を意識していたとうかがわれること(P155頁、87頁、104頁)を踏まえても、上記の名声等は、P1が被告人両名の意向や圧力を離れて本件犯行に及ぶほどの強い動機になり得るとは考えられない。この点は、P3についても同様である。また、②についても、建築物の設計業務に従事する設計士が、自分の夢にあくまでこだわって施主の意向を無視して設計し、その建設工事費を施主に強いて負わせようとすることは、常識的に想定し難い。もし、設計士がそのようなことをすれば、施主はその設計委託契約を解除するはずであるし、しかも、設計は建設を実現するためのものであり、いくら優れた設計であっても資金的に建設できないのであれば意味がないのであるから、設計士が施主の資金力を無視して設計するなどということも想定し難い。上記の理は本件においても当てはまるのであり、P1が事業主かつ建築主である被告人両名の意向や資金力を無視し、工事請負契約を無理強いして締結させたなどとい
う事情は見当たらない。被告人両名が望むような小学校校舎等をどのくらいの建設工事費で建設することができるかについて、被告人両名とP1との間で、激しいやり取りも含めて種々折衝が行われたことは事実であるが、被告人両名としては、最終的に工事代金額14億4000万円の工事請負契約を締結するか否かについて、資金力や設計内容等を踏まえて検討し、自らの判断で決定することが可能であったし、現に自ら決断して締結したのであって、同契約を無理に締結させられたものではない。そして、被告人両名が、本来、サステナブル補助金は正規の工事代金額を前提に請求すべきものであると理解していたことは、先に説示したとおりである。また、P1は、その証言及び被告人両名との会合の録音反訳書によれば、むしろ、被告人両名の意向に沿った設計をしている上、当初の想定より校舎等の坪当たりの建設単価が上昇したことで建設工事費が増加したことに対処するため、C学園の資金力に見合うように設計変更による建設工事費の減額を提案している(甲154。平成27年9月29日の会合)のである。他方、被告人両名は、自らの資金力を度外視して、従来からの要望に沿った設計の維持を求め(例えば、甲155(平成27年11月25日の会合)資料4における被告人Aの体育館に関する発言)、それどころか工事請負契約締結後も、新たな要望を出し、更に建設工事費がかかる設計変更をE社に求めている(P1167頁)のである。弁護人の主張は当たらない。
さらに、弁護人は、④サステナブル補助金申請関係は、書類作成、D協議会との折衝など全てを、P1自身及び、P1の指示に従ってP2を中心とするE社関係者が行っていた上、架空の建設工事請負契約書等を作ってD協議会に提出する必要に迫られていたのは、E社すなわちP1であり、サステナブル補助金事件は、P1を中心とするE社の設計者らが首謀者である(趣意書170頁~171頁)、⑤被告人両名は、建設工事費を14億4000万円に膨れ上がらされ、小学校の開校予定時期が迫る中、同補助金の仕組みや支払
条件等を知らないまま、どうしても小学校を開校する決意であったため、それまでの経緯からP1、P2らE社の言うがままに従うしかなかった(趣意書171頁)と主張する。
しかし、④については、被告人両名は、サステナブル補助金を受給する手続をE社に任せていたのであるから、P1らがこれを担当したからといって、被告人両名が正犯であり、首謀者であることが否定されるものではないし、P1らが被告人両名の了承の下に架空の工事請負契約書等を用いて補助金請求を行ったのは、被告人両名の意向と圧力によるものであるから、主張は当たらない。また、⑤についても、被告人両名は、その建設工事代金額に不満があり、不本意だったとしても、最終的には納得して自らの判断で契約したことが明らかであるし、小学校の開校という自分達の目的を達するため、自らの判断で、架空の工事請負契約書等を用いて補助金請求を行うことに了承を与えたのであるから、主張は当たらない。
そうすると、先に説示したとおり、被告人両名は、平成27年6月の被告人Bによるぼったくり発言等に現れるように、本来よりも多額の補助金をもらいたいという意思をP1らに示していたところ、平成28年1月13日の打合せにおいて、当初、1億2000万円の補助金を期待していたのに6000万円しか得られないことに強い不満を訴え、関係者が多数いる中でP1を叱責、罵倒するなどし、P1らE社関係者に対し、これ以上補助金を減額されたくないという強い意向を示して圧力を加え、事業主かつ建築主として、同関係者らをして、更なる減額によって被告人両名から激しく叱責されるのを避けようと行動せざるを得ない状況を作出し、やむなく補助金の不正受給の手続を進めさせ、その結果として得られる財産的利益を全て享受したものと認められる。同様の考察により、被告人両名は、自己の犯罪として犯行に関与したものであって、P1らとの間に詐欺の共同正犯が成立し、かつ、被告人両名が本件犯行の首謀者であると認定した原判決に、事実の誤認はない。
P1、P2及びP5の各証言の信用性について
弁護人は、原審で取り調べられていないP1やP2の検察官調書における供述には信用性がないと指摘した上、これを踏襲したP1及びP2の証言にも信用性がないと主張し(趣意書157頁~170頁、172頁)、また、22億円の架空の工事契約書を作成した経緯等を述べるF工業の代表取締役であるP5の証言も信用できないと主張する(補充書32頁~35頁)。しかし、原判決が被告人両名の故意及び共謀についての判断の前提となる事実の認定に供したP1、P2及びP5の各証言は、いずれも被告人両名を交えた各会合における録音反訳書や、E社が作成していた議事録、正規及び架空の建設工事請負契約書の原本又は写しをはじめとする、当時作成された関係書類等の客観的証拠とよく符合し、更にこれらの証言は、核心部分において、相互に符合し、かつ、信用性が認められるP4、P3らその他の関係者の証言とも符合しているのであって、基本的に高度の信用性が認められる。P2の証言は、22億円の工事契約書等の作成の話を持ち出したのが被告人Aの側であった点については、原判決において信用性が否定されており、この証拠判断が不合理とはいえないが、このことがP2のその余の証言の信用性を疑わせるものとは考えられない。弁護人の主張を検討しても、以上の信用性評価を揺るがせるものは見当たらない。


弁護人のその余の主張について

弁護人のその余の主張は、原判決が認定していない事実をあたかも認定したものと誤った前提に立つと思われる主張(例えば、時期別の詐欺の故意の不存在に関する趣意書172頁~174頁、22億円の工事契約書の作成を被告人両名が了承するにとどまらず、それを指示したかに関する趣意書141頁、146頁、補充書8頁~10頁等)や、根拠に欠ける憶測に基づく主張(例えば、検察官がE社から提出された秘密録音(録音反訳書)をもとに、刑事処罰を逃れたいP1、P2らを不起訴処分にすることと引き換えに虚偽供
述をさせて、サステナブル補助金事件をでっち上げたとする趣意書96頁、検察官が22億円の偽装契約書の原本が所在不明となった原因を究明しようとしなかったのは、E社及びF工業の関係者から、被告人両名を首謀者とする犯罪ストーリーを得るためであったとする同91頁~92頁等)、被告人両名の故意や共謀の認定に関わりのない事情の主張(補充書10頁~32頁等)などにすぎず、原判決の事実認定を何ら左右するものはない。ここで、控訴趣意には含まれていないが、弁護人が弁論において、①不法領得の意思、②期待可能性がそれぞれ存在しないと主張する点について、判断を付加しておく(なお、①の主張は、サステナブル補助金事件のみならず、経常費補助金事件及び特別支援教育費事件にも共通する主張であるが、ここで一括して判断する。)。
まず、①の不法領得の意思の不存在をいう主張は、被告人両名は、C学園及びG学園に補助金が交付された後に、あらかじめ特別報酬とか手数料等の名目で個人的に財貨を取得しようとする意思が初めからなく、また、交付後においても、被告人両名が補助金からその一部でも迂回して自ら利得したことはないのであり、原判決も量刑の理由で、私的流用を目的とするものではないと説示しているのであるから、被告人両名には、詐欺罪の成立に必要な不法領得の意思が認められない、というものである(弁論6頁~9頁)。しかし、本件の各詐欺ないし詐欺未遂においては、欺罔行為を行った被告人両名と、財物の交付を受けた学校法人であるC学園又はG学園との間には、被告人両名が両学校法人の代表者又はその補佐をする者であることなどの特別な関係があり、被告人両名は、詐取したサステナブル補助金については、被告人両名が将来C学園の代表者等として運営に携わる予定の小学校の建築資金に充てることを意図し、詐取した経常費補助金及び府市補助金等については、同じく両学校法人が運営し、被告人両名が園長又は副園長を務める両幼稚園の運営資金に充てることを意図していたものである。そうすると、被
告人両名には、権利者であるD協議会や大阪府、大阪市を排除し、それらの物である各補助金を自らの所有物としてその用法に従って利用、処分する意思、すなわち不法領得の意思が認められることは明らかであるから、弁護人の主張は当たらない。
次いで、②の期待可能性の不存在をいう主張は、F工業、E社、H組等の建築関係者は、私的独占の禁止及び公正取引の確保に関する法律19条が禁止する不公正な取引方法に該当する優越的地位の濫用などの行為によって、被告人両名の自由意思を抑圧して契約書の作成等をなさしめたものであるから、被告人両名には、適法行為の期待可能性がなかった、というものである(弁論5頁)。そして、その具体的内容は、㋐近畿財務局と建築関係者は、平成27年9月4日、小学校建設予定地(以下本件土地という。)から発見された有害な産業廃棄物について、被告人両名に無断で、それを適正処理せずにその他の産業廃棄物のみを処理した後の残土を埋め戻すという合意(以下9.4合意という。)をしたところ、被告人両名が9.4合意の内容を知っていたならば、本件土地の定期借地権契約及び売買契約の錯誤無効を主張し、さらに、建築関係者との建築請負契約及び設計監理委託契約などについても、9.4合意を秘匿してきた背信行為等を理由に契約を解除し、資金調達が困難な用地売買と建築契約を取りやめて、原状回復を行うなどの適正な措置が取り得た(弁論17頁~20頁、23頁、41頁~42頁、47頁、72頁~73頁等)、

被告人両名は、請負契約を締結した後、

その業者等の対応に大きな不満があったとしても、容易に契約を解除できず、建築計画が待ったなしの状況下で開校時期を遅らせることもできないため、完全に優越的地位に立った建築関係者に生殺与奪の権を握られたホールドアップ状態に置かれており、自由意思による判断ができない状態に追い込まれていた(弁論21頁~23頁、42頁~44頁、70頁、73頁等)というものである。

しかし、まず、㋐については、弁護人が9.4合意等を立証するために事実取調べを求めた証拠については、やむを得ない事由は認め難い上、必要性も認められないことから、当裁判所は、その請求を却下した。すなわち、仮に9.4合意があり、被告人両名がその内容を知ったならば、小学校建設計画自体が白紙に戻り、同計画を前提とするサステナブル補助金事件に至らなかった可能性があるにしても、被告人両名が小学校建設にかける執念からすれば、同計画は維持され、借地料や売買代金の交渉という経過をたどったにすぎない可能性もあるし、そもそも、被告人両名の納得の下に締結された14億4000万円の工事請負契約を前提として、その建築資金の一部に充てるため工事代金額を偽るなどしてサステナブル補助金を詐取することについては、被告人両名が他人から強いられずに、自由な意思で決断したものであって、これは、被告人両名が9.4合意の存在を知らなかったこととは無関係であり、もとより、被告人両名に適法行為の期待可能性があったことは明らかである。したがって、被告人両名に対する詐欺罪の成否やその犯情を判断する上で、9.4合意等に関する証拠を取り調べる必要性は認められないというべきである。

についても、正犯性の判断において述べたとおりであ

って、採用の余地がない主張である。
サステナブル補助金事件につき、原判決の事実認定に誤認はない。なお、弁護人は、控訴趣意としては挙げていないものの、検察官が、当時の内閣総理大臣の意向を政治的に忖度して、いわゆるC問題における公文書改ざんや、国有資産の廉価売却を隠蔽するために、被告人両名のサステナブル補助金事件のみを立件し、実質的な証拠の隠蔽、改ざんを行うとともに、事実に反して被告人両名を主犯にして、P1、P2らを不起訴処分にするのと引き換えに、検察官の筋書きに沿うP1らの虚偽供述をねつ造したとか、差別的起訴であるなどとして、公訴棄却が相当であるかのように主張している(趣意書13頁~14頁等、弁論5頁、28頁)。しかし、職権で調査して
も、原判決が説示するとおり、本件において、違法な司法取引等、弁護人が主張する違法捜査が行われた形跡はなく、検察官が、被告人両名をサステナブル補助金事件の十分な嫌疑に基づいて公訴提起したことが明らかであるし、主犯として共犯者間でも最も重い刑事責任を負う被告人両名が起訴され、他方、P1らが不起訴処分となったことに、訴追裁量権の逸脱があるともいえないから、弁護人の主張は失当である。なお、経常費補助金事件及び特別支援教育費事件についても、訴追裁量権の逸脱が認められないことは明らかである。
2
経常費補助金事件について
原判決認定の罪となるべき事実の概要、論旨の概要、当裁判所の判断
の結論

原判決が認定した更正決定後の罪となるべき事実の概要は、次のとお
りである。
被告人Aは、C学園の理事長であり、C学園が運営するI幼稚園の園長として、C学園及びI幼稚園の業務全般を統括していたものであるが、大阪府が、同府内に私立幼稚園を設置する学校法人等に対して、幼稚園での勤務日数が平均週5日以上であることなどの要件を満たした専任教員の人数等に応じて交付する経常費補助金をだまし取ろうと考え、平成26年5月から平成29年2月までの間に、6回にわたり、同府の担当職員に対し、真実は、I幼稚園における勤務実態がないなど、前記要件を満たしていない延べ16名の者につき専任園長又は専任教員であるかのように装った内容虚偽の書類を提出するなどして経常費補助金合計1億1543万4000円の交付を申請し、決裁権限を有する者らに、前記書類の記載内容及び申請内容が真実のものであり、前記申請額どおりの経常費補助金をC学園に交付すべきである旨誤信させて、平成26年7月から平成29年2月までの間に6回にわたり、C学園に交付すべき経常費補助金の額を合計1億1543万4000円と決
定させ、平成26年7月から平成29年3月までの間に、9回にわたり、同府職員に、同額をC学園名義の普通預金口座に振込入金させ、真実交付されるべき経常費補助金合計9345万1000円との差額である合計2198万3000円の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させた、というものである。

これに対する検察官の論旨の概要は、被告人Bにつき、被告人両名及
びP6ら4名に係る経常費補助金の虚偽申請について、被告人Bに詐欺の故意及び被告人Aとの共謀を認めなかった点、被告人Aにつき、被告人Bとの共同正犯を認めず、被告人Aの単独犯と認定した点で、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるというものであり、一方、被告人Aの論旨の概要は、被告人Aは、同被告人が専任園長に、被告人Bが専任教員に、それぞれ該当しないことについて、未必的故意を有するにとどまるのに、被告人Aの確定的故意を認めた点で、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるというものである。

原判決が(争点に対する判断)の第4経常費補助金事件(平成29年9月11日付け起訴状記載の公訴事実第1)についての項で、被告人Aは、C学園の代表者として、原判示第2のとおり、平成26年度から平成28年度まで、
(被告人両名を含む)延べ16名の者について専任要件を満
たさないのに、これらの者が専任教員等であると装った内容虚偽の書類を提出するなどして、真実交付されるべき経常費補助金の金額を上回る経常費補助金の交付を受け、かつ、これについて故意もあった旨説示するところは正当であり、被告人Aに、同被告人が専任園長に、被告人Bが専任教員に、それぞれ該当しないことにつき、確定的故意を認めた原判決の認定にも、論理則、経験則等に照らして不合理な点はなく、この認定、判断は是認できる。他方で、原判決が、被告人Bにつき、①被告人両名及びパートタイム教員のP7が専任教員等に該当しないことを認識していたとは認められず、また、
②専任教員に該当しないと認識していたと認められるP6ら3名については、平成26年度から平成28年度において、被告人Aが専任教員数を水増しして偽る意思を有することについての認識を有していたと認めることはできないから、結局、いずれの年度においても、勤務実態等を偽る内容の補助金申請がなされることについて認識していたと認めることはできないのであって、③検察官が主張するところを踏まえても、いずれの年度においても、虚偽の経常費補助金の申請をしてこれを詐取することについて、被告人Aとの間での意思の連絡や被告人Bの正犯性を認めることはできないから、被告人Bと被告人Aとの間に共謀があったとは認められないとして、経常費補助金事件は、被告人Aの単独犯であり、被告人Bは無罪であるとする点については、部分的に是認できないところがある。すなわち、①の被告人Bにおいて被告人両名及びP7が専任教員等に該当しないことを認識していたとは認められないとの認定は是認できるが、②、③の被告人BにおいてP6ら3名が専任教員でないと認識していたと認定しながら、詐欺の故意及び被告人Aとの共謀を否定した点は、論理則、経験則等に照らして不合理というほかなく、是認できない。以下、検討した結果を述べる。
被告人Aの事実誤認の論旨(確定的故意の有無)について
弁護人は、被告人Aは、被告人両名がI幼稚園及び高等C学園保育園のいずれにおいても、いわば主体的な専任教職員として従事していたことをもって、被告人両名をI幼稚園における専任教員等に該当すると判断していたものであって、被告人両名分の経常費補助金は、I幼稚園で正当に支払われるそれぞれの給与に充てられたのみであり、経常費補助金を不当にだまし取る意思はなく、幼稚園と保育園でいずれも専任教員性を充足するほどに積極的に従事、関与していた場合に、片方だけであれば補助金の対象となるが両方だと補助金の対象にならないということを明確に理解していなかった、このように、被告人Aは、被告人両名分の経常費補助金の詐取については、明確
かつ積極的な故意までなく、未必的な故意にとどまると主張する(趣意書9頁、194頁~195頁、当審第1回公判期日における弁護人の釈明)。
しかし、関係証拠によれば、被告人Aが、C学園の理事長、I幼稚園の園長として、経常費補助金につき、虚偽記載部分を含めて、その申請や、基礎資料調査の作成、提出などの手続に主体的に関与していたこと(被告人A第13回34頁~36頁、甲43)や、被告人両名が、それぞれI幼稚園の園長、副園長として勤務する一方、高等C学園保育園にも総裁ないし事務長、施設長として1週間のうち数日出勤して相当額の給与等を受け取っていたこと(被告人A第14回17頁~18頁、宇津木23頁~24頁、甲46・1頁~2頁、甲49・3頁、甲122・459頁~460頁、471頁~472頁、483頁~484頁、495頁~496頁)は明らかである。そして、基礎資料調査の前年度調べ及び当年度調べの記入上の注意
(甲125・
159頁、163頁、341頁、539頁等)には、専任園長の要件として、当該幼稚園に平均週5日以上勤務している。(1日の勤務時間は、就業規則に基づくもの)※他業種、他法人等で勤務している場合は、特に専任・兼任の区分について留意してください。(例)専任園長が保育所の施設長を兼任している等と、また、専任教員の要件として

当該幼稚園に平均週5日以上勤務している。(1日の勤務時間は、就業規則に基づくもので、勤務時間(例:8時間未満等)が異なる者や時間給・日給制の者は、兼任とする)

などと、それぞれの要件が明記され、併せて、兼任教員については、幼稚園教員免許状を有する者であって専任教員以外の者をいうとの要件に引き続き、専任園長と同様に、

※他業種、他法人等で勤務している場合は、特に専任・兼任の区分について留意してください。

との注意書が記載されている。その上、府職員で平成26年度の経常費補助金交付事務を担当したP8の検察官調書(甲40)及び同じく平成27年度の経常費補助金交付事務を担当したP9の証言によれば、府の担当者は、毎年1月に行われる経常費
補助金の配分基準等説明会において、遅くとも平成26年度の説明会からは、教員の専任要件の注意点として

専任教員について、幼稚園以外の業務を兼任されている場合は、対象外になりますので、ご注意ください。(例えば、未就園児クラスなど。

との原稿(P9尋問調書別紙1、2)をそのとおり)
読み上げて説明しているところ(P93頁~4頁)
、被告人Aは、少なくとも
平成26年度(甲40・6頁)と平成27年度(P92頁)の説明会に参加しており、上記説明を受けていたと認められる。これらのことからすると、被告人Aは、自身が専任園長に、被告人Bが専任教員に当たらないことを明確に認識していたと優に認められる。原判決が、被告人両名に係る経常費補助金について、被告人Aに詐欺の確定的故意を認めたのは正当である。これと異なる評価をいう弁護人の主張は採用できない。
被告人Aの論旨は理由がない。
検察官の事実誤認の論旨中、被告人Bの故意について

当事者間に争いがない事実を含む故意の判断の前提となる事実関係原判決が前提事実
(50頁~52頁)の項において、被告人

Bの故意の成否についての判断の前提事実として、I幼稚園における被告人Bの基本的な業務の内容や基礎資料調査の作成過程等について認定するところは、当事者間に争いがなく、関係証拠によって優に認められ、是認できる。また、原判決が基礎資料調査記載の専任教員等の員数等に応じて経常費補助金が交付されることに関する被告人Bの認識について(52
頁~54頁)の項において、経常費補助金が園児数及び教員数に応じて交付される幼稚園の運営費に対する補助金であると認識していたという被告人Bの原審公判供述により、専任教員等の員数等に応じて経常費補助金が交付されることについて被告人Bが概括的な認識を有していたことが認められると説示し、引き続いて、被告人Bが、平成23年度の府の補助金調査における指摘によって、教員の退職が経常費補助金の額に影響することや、経常費補
助金に関係する教員の把握が基礎資料調査の記載に基づいてなされることを理解するに至り、平成26年度以降、専任教員等の員数が基礎資料調査に基づいて把握されるものであることについての概括的な認識を有していたことも認められると説示した点も、相当として是認できる。
これに対し、弁護人は、被告人Bの原審公判供述(原審14頁~15頁。当審公判供述(当審35頁~37頁)も同旨である。
)に依拠して、被告人
Bは、基礎資料調査が経常費補助金を申請するために大阪府に提出するものとの理解はなく、基礎資料調査は、文部省に提出する文書であり、幼稚園の統計調査にすぎないと思っていた旨主張するが(答弁書17頁)
、基礎資料
調査が統計調査にすぎないと思っていた旨の被告人Bの供述が信用できず、上記認定の妨げにならないことについては、原判決が上記の項で正当に説示するとおりである。
関連して、弁護人は、被告人Bの当審公判供述(当審5頁、34頁)に依拠して、被告人Bは、C学園及びG学園が経常費補助金の交付を受けている認識は有していたが、その補助金額算出の基礎となる事実は、毎年の行政監査の際に調査されていると認識していたと主張する(弁論83頁~84頁)。
しかし、被告人Bは、被告人Aが経常費補助金の申請手続をしていると認識しており(当審37頁)
、かつ、原判決が説示するとおり、経常費補助金が
園児数及び教員数に応じて交付されるものであることを認識している以上、幼稚園から経常費補助金の交付事務を担当する公的機関に園児数及び教員数を報告する手続があることは想定していたと考えられる。そうすると、申請によって補助金が交付されるのであるから、申請の際に資料を提出して上記の報告を行うと考えるのが常識的であることや、現に基礎資料調査という上記の報告に整合する的確な資料の存在を被告人Bも知っていたことに照らせば、申請を前提として実施される行政監査の際に初めて上記の報告が行われ、基礎資料調査は経常費補助金の申請、交付とは何ら関係がないものと理解し
ていたかのようにいう被告人Bの上記供述は、不合理であって信用できず、上記の認定を左右しない。
弁護人の主張は、採用できない。
これに関連して、基礎資料調査において、
教員組織・給与額調(新規・途中採用)の用紙には、
専任教員欄のすぐ下に兼任教員欄が設
けられているところ、被告人Bは、同用紙の専任教員欄に、平成23年度は給与額を記入し(甲53)
、平成26年度は専任教員欄にP10、P11、P12、P
13の教員名やその5月給与支払月額を、平成27年度はP14の共済組合個人番号などを、平成28年度は専任教員欄にP15の教員名やその5月給与支払月額などを書き込んでいることからして(甲47、甲125・166頁、344頁、550頁)
、基礎資料調査を記入する上で、
専任教員と兼任教員の区別があることを認識していたことは明らかである。なお、被告人Bは、原審公判において、その区別の存在を認識していたかにつき、曖昧な供述をするが(原審17頁)
、当審公判においては、その区別があることに
ついては認識していたことを前提に、教員免許の有無の違いだと思っていた旨供述している(当審14頁~15頁)

被告人Bが補助の対象となる専任教員等の専任要件をどの程度認識していたかについて、原判決は、被告人Bが、
記入上の注意を参照せず、
専任教員等として扱われるべき条件を理解していなかったという可能性を否定することができないと説示し、その理由として、上記

で是認したとおり、

被告人Bが前年度調べ及び当年度調べの記入に関して担当した具体的な作業は、給与台帳やK税理士の作成した下書きに基づき、教員の氏名に対応する報酬額等の数字を単純に転記するというものにすぎず、このような作業は、専任教員と兼任教員のいずれに該当するかの判断を要するものではなく、基礎資料調査の記入上の注意を参照しながら行う必要はないから、専任教員等の要件について特段の注意を払わないことが不自然とはいえないと指摘
した(55頁)
。原判決のこの説示に不合理なところはなく、是認できるが、
検察官が反論しているので、以下検討する。
a
検察官は、被告人Bは、その経営を補助金に相当程度依存していたC
学園及びG学園の運営する幼稚園の副園長であり、被告人Aとの共同経営者であって、その言動からも補助金の支給に強い関心と執着を抱いていたことが明らかな者であるから、経常費補助金を申請するための基礎資料調査を記載するに当たって、その書面の性質、内容、記載方法等について関心を寄せなかったはずがなく、専任教員等の要件について特段の注意を払うことなく、与えられた数字をただ単純に転記したに留まり、専任要件を理解していなかったとは考え難いと主張する(趣意書27頁~28頁、関連して同14頁~15頁)

確かに、C学園の平成26年度から28年度までのI幼稚園に係る経常費補助金実績報告書(甲125・280頁、498頁、739頁)によれば、基本収入である生徒納付金に対する補助金収入額が平成26年度は約54パーセント(280頁)
、平成27年度は約100パーセント(498頁)
、平
成28年度は約280パーセント(739頁。交付を受けたサステナブル補助金が影響していると思われる。
)と補助金の位置付けが相当に大きく、同
学園の運営は相当程度、補助金に依存していたと認められる。この補助金への依存は、G学園の平成24年度のJ保育園に係る経常費補助金実績報告書(甲50資料4)や、被告人AがJ保育園は出城でI幼稚園は本丸と称していること(被告人A第13回20頁)に照らして、G学園の運営においても同様のものと推認できる。そして、両学園は、いずれも被告人Bの実父から引き継ぎ、被告人両名が夫婦で理事長ないし理事として運営してきた家族経営の学校法人であり、被告人Bにとってはいわば家業ともいうべきものである。そうであれば、被告人Bが両学園の運営に欠くことができない補助金に強い関心を持つのは当然というべきであり、このことは、平成24年11月
に被告人Bが、両学園の会計処理を依頼していたK税理士に送信したファクシミリ文書(K尋問調書別紙7)からも明らかである。すなわち、この元となる文書は、平成24年11月16日付けで大阪府私学・大学課から両幼稚園に宛てたものであり、その内容からして、大阪府が障がい幼児の認定を厳格にする旨が読み取れるところ、被告人Bは、これに

養護にメスが入りましたね、いいことと思います。しかし学園にとっては、.。国の為ならいい..です。

と書き添えて、K税理士にファクシミリ送信している。この書きぶりからして、被告人Bは、障がい幼児の認定が厳格化される結果、両幼稚園の障がい幼児の認定数が減ってしまい、当初見込んでいた補助金額が減額されることを理解した上で、審査を厳格にすることが本来のあり方ではあるものの、両幼稚園にとっては、補助金額が減ることになってしまうので喜ばしいことではないという本音をぼやくものと解される。この文書からは、被告人Bが補助金に強い関心を持っていたことが読み取れる。以上について検察官が指摘するところは、正当である。
しかし、だからといって、そのことから直ちに、被告人Bが記入上の注意を参照するなどして専任要件を理解していたとの推認が導き出されるものではない。
b
検察官は、次のとおり主張する(趣意書28頁~29頁、弁論7頁~
8頁)

被告人Bは、基礎資料調査の当年度調べ(新規)の専任教員欄に、平成26年度はP10、P11、P12、P13の教員名を、平成28年度はP15の教員名をそれぞれ一から書き入れているのであって、単純に転記するだけの作業を行っていたわけではない。その同一頁内において、
専任教員欄のすぐ下に
兼任教員欄が設けられており、被告人Bは、そのうちの専任教員欄に上記各教員の氏名を書き入れているのであるから、当該教員が専任教員なのか兼任教員なのか判断した上での記載といえる。被告人Bがこうした記載
を行えたということは、被告人Bが、
記入上の注意を見なくても、被告
人両名のような兼務者やパート勤務者が専任に当たらないという程度のことを理解していたか、
記入上の注意を参照して判断したと理解するの
が合理的であり、いずれにしても専任要件の基本的な意味を被告人Bが認識していたといえる。しかも、被告人Bは、遅くとも平成19年度から平成22年度頃までは、K税理士に頼ることなく自ら給与台帳等を確認しながら、前年度調べ及び当年度調べに給与額を記載していたし、平成23年度及び平成24年度にも、それぞれ給与額を記載している(被告人B当審11頁~14頁、甲53、甲54)
。これだけ何度も、前年度調べ及び当年度調べの記
入用紙に接し、在籍する教職員が専任の欄と兼任の欄に分けて記載されているのを見れば、被告人Bが記入上の注意を一度も見る機会がなかったとは通常考え難い。以上のとおり主張する。
しかし、被告人Bが、当年度調べにおいて記入したのは、専任教員のみであり、証拠上、兼任教員として記入したものはなく、被告人B自身が専任と兼任について、同時にそれぞれの枠に書き分けている状況は見当たらないことに照らせば、当年度調べを記入したこと自体から、直ちに、被告人Bが、専任教員と兼任教員を区別する要件について基本的に理解した上、その要件に従い区別して記入したとまで推認することはできないというべきである。すなわち、被告人Bが、専任と兼任の区別があることは認識しつつも、その区別についてはよく分からないまま、当審公判で供述するように、専任と兼任の違いは教員免許の有無によるという曖昧な理解などから、兼任の欄にも免許状の種類を記載するようになっていることに注意を払わなかったり、深く考えたりすることなく、教員免許を有するP10らを専任教員として記入した可能性を否定し難いのである。また、被告人Bの当審公判供述(当審1頁、20頁~22頁)によれば、I幼稚園は平成25年度末に多数の教員が退職し、運営が厳しくなったため、平成26年3月にJ保育園を休園にして、そ
の教員をI幼稚園に補充しているというのであり、これに伴い、J保育園で専任教員として申請されていた教員を、そのままI幼稚園でも専任教員として記入した可能性も考えられる。
そして、検察官指摘のとおり、被告人Bは、多年度にわたって、前年度調べ及び当年度調べに記入してきたのであるから、
記入上の注意を一度も
目にする機会がなかったとは考え難いが、他方で、上記のとおり、被告人Bの行っていた作業は、給与台帳やK税理士の作成した下書きに基づき、教員の氏名に対応する報酬額等の数字を転記することが主であって、専任教員と兼任教員のいずれに該当するかという判断を伴うものではないことに照らせば、
記入上の注意の記載内容に注意を払わなかったとしても不思議ではないとも考えられる。
以上に照らせば、原判決の説示が不合理であるとはいえない。検察官の主張は採用できない。

経常費補助金の詐欺の故意を認める前提として必要な専任要件の認識
の判断枠組みについて
原判決は、一般に、厳格な専任要件を認識していなくても、P16、P17及び平成27年度以降のP6のような勤務実態のない者や、平成26年度のP6のようにごく短期間しか勤務していない者が専任要件を満たさないということは、専任という用語及び経常費補助金制度の趣旨から容易に認識し得るということができ、被告人Bも同様であると認められると説示した(54頁)。その一方で、原判決は、検察官が、平成26年度のP7のようなパートタイム教員や、他の保育園と兼務していた被告人両名についても、専任教員等という用語からすれば、これらの者も専任教員等に該当しないことは容易に認識できると主張したのに対し、専任という用語が補助金交付に関する専門用語である以上、それなりの勤務実態がある者が専任教員等に該当するかどうかについては、一般的な専任という言葉の意味だけからは判
断がつかない可能性があるとして、その主張を排斥した(54頁~55頁)。このように、原判決が、P6ら3名の専任要件不充足について被告人Bの認識を認定した点、それなりの勤務実態がある者の専任要件不充足についての認識と専任という用語との関係等を説示した点は、いずれも合理的であり、是認できる。
これに対し、検察官は、原判決は、詐欺の故意を認める前提として専任要件に関する正確な理解が必要であると解しているが、専任要件についての正確な認識の有無を論ずるまでもなく、被告人Bの詐欺の故意に必要な認識としては、経常費補助金の補助対象とはならない者を補助対象として虚偽申請するという程度の認識で足りるというべきであり、そうであれば、被告人両名のような明白な兼務者やP7のような明白なパート教員もまた、厳密な専任要件を認識せずとも、経常費補助金の補助対象とはならないと容易に認識し得ることにおいて、P6ら3名と何ら異なることはないのであるから、原判決は、この種事案が詐欺罪に問擬された場合における故意の認定判断枠組みを誤っていると主張する(趣意書23頁~24頁)。
そこで検討すると、検察官の主張のうち、詐欺の故意を認めるためには、経常費補助金の補助対象とはならない者を補助対象として虚偽申請するという程度の認識で足りるとする部分は、正当として是認できる。この点、弁護人は、詐欺罪の故意としては、経常費補助金の配分基準で具体的に定められた補助金交付要件としての専任要件を理解し、当てはめの結果としてその専任要件が欠けていることの認識がなければならないと主張するが(答弁書14頁~16頁)、そのような考え方は、検察官が主張するとおり(趣意書68頁~69頁)、法や行政に無頓着な者ほど虚偽申請の認識が認められないという不合理な帰結を生じさせかねないのであって、採用することはできない。
しかし、原判決の説示を子細にみれば、原判決は、経常費補助金の詐欺の
故意を認める前提として必要な専任要件の認識の判断枠組みについて、検察官の主張と同旨の見解に立って、被告人両名及びP7が補助対象となる専任教員等に該当しないことについての被告人Bの認識の有無を検討していると解される。すなわち、原判決は、上記のとおり、被告人Bが専任要件を理解していたとは認められないことを前提にして、被告人両名及びP7が専任要件を満たしていないことを、専任という用語及び被告人Bが理解している経常費補助金制度の趣旨から、未必的にせよ認識し得たか否かを検討しているとみられ、この判断手法に誤りはない。検察官の主張は、原判決を正しく理解しないものといわざるを得ない。

被告人Aが専任園長、被告人Bが専任教員でないことの被告人Bの認
識について
上記のとおり、被告人両名は、高等C学園保育園において、役職に就き、1週間のうち数日出勤して相当額の給与等を受け取っていたのであるから、補助金交付要件上、専任ではなく、兼任に当たることは明らかである。そして、検察官は、専任という用語は、一般的に

兼任ではなく、もっぱらその任に当たる

旨の意味内容として理解されているのであって、本来的に意味が明確であり、補助金交付の要件として用いられただけで、意味が不明確な用語となるはずはないと主張する(趣意書24頁~25頁)。確かに、専任という用語自体の意味内容は明確である。しかし、どういう場で、また、何についてもっぱらその任に当たるのかという観点からみれば、専任という用語から、直ちに専任園長や専任教員の
意味が一義的に明らかであるとは思われない。すなわち、被告人両名は、I幼稚園に毎日勤務しているという実績がある上、被告人Aは園長として、被告人Bは副園長として、それぞれ、他の教職員とは異なる、その職務に専念していたことからして、これをもって専任と理解する余地は十分にあるといえる。加えて、被告人Bの経常費補助金についての認識は、園児数及び
教員数に応じて交付される幼稚園の運営費に対する補助金という程度のものであることからすると、対外的に上記保育園の仕事を兼務していることが、専任要件の妨げになるという認識に直ちに結びつくとまではいい難い。そうすると、被告人Bが、被告人両名につき、専任要件を満たさないとの認識を有していたと認めなかった原判決の認定は、不合理であるとはいえない。検察官の主張は、採用できない。

P7が専任教員でないことの被告人Bの認識について
上記の補助金交付要件によれば、P7が専任ではなく、兼任に当たる
ことは明らかであるところ、検察官は、被告人BがP7につき、専任要件を満たさないとの認識を有していたとして、次のとおり主張する(趣意書26頁)。
P7は、ハローワークでパート教員の募集を見てこれに応募し、被告人両名の面接を受けて採用された者であり、出勤時間は専任教員より遅めの午前9時頃、退勤時間は専任教員より早めの午後3時から午後5時頃とされ、平成26年度には、前年度より教員数が増えたこともあって、午後から出勤することも度々あった。そして、給与は、固定給ではなく時給制とされ、税制上夫の扶養家族となっていたため、パート収入が年130万円を超えないようにしていたこともあり、10万円を超える月がある一方、5万円を切る月や支払われない月もあるなどまちまちで、賞与もなく、私学共済にも加入していなかった。このような、P7の専任教員とは異なる雇用、勤務形態が専任教員に当たらないことは明らかであり、被告人Bは、P7が専任教員に当たらないことを認識していたと認められる。以上のとおり主張する。
確かに、検察官が指摘するようなP7の専任教員とは異なる雇用、勤務形態(甲55)は、被告人Bが、P7は専任教員に当たらないかもしれないと未必的に認識していたとの認定に沿う事情とみる余地はある。しかし、P7
は、勤務時間こそ他の専任教員とは異なるものの、I幼稚園に毎日出勤していた上、家事に従事するほかは、もっぱらI幼稚園で、かつ、もっぱら教員としての仕事をしていたのであるから、その意味でもっぱらその任に当たるとみることも可能である。このことに、被告人Bの経常費補助金についての認識の程度も併せ考えると、被告人Bが、P7につき、専任要件を満たさないとの認識を有していたと認めなかった原判決の認定が不合理であるとはいえない。検察官の主張は、採用できない。
さらに、検察官は、被告人Bの上記認識を認めるべき論拠として、次のとおり主張する(趣意書29頁~31頁)。
平成27年9月8日のI幼稚園に対する補助金調査において、P18ら府職員は、P6ら4名に係る平成26年度の給与台帳並びに平成26年度及び平成27年度の私学共済の加入が確認できないと指摘し、その資料の提出を求め、その場には被告人Bも立ち会っていた(P181頁~3頁、20頁~22頁、P1919頁~22頁、甲125・378頁)。仮に、被告人Bが、私学共済に加入していない者でも経常費補助金の補助対象教員に当たると誤解していたのであれば、少なくとも私学共済の加入の有無については、何らごまかしたりその場をやり過ごしたりする必要がなく、加入していないから資料はないという事実を端的に告げるか、なぜそこまで資料を求めるのかと反論すればいいにもかかわらず、被告人Bは、いずれの対応もとらずに、被告人Aと共にただ黙ってその場をやり過ごす態度をとっていた(P1921頁~22頁)。これは、被告人Bにおいて、私学共済への加入が補助対象者の必須要素であることを理解していたこと、すなわちP7が経常費補助金の補助対象者ではないことを認識していたことの現れである。以上のとおり主張する。確かに、調査を受ける側からすれば、府職員がP7を含むP6ら4名の私学共済の加入及び給与額に関する資料の補充を求めたことからして、私学共済の加入の有無が補助金の支給に関係しているのではないかと推測することは
あり得ると思われる。しかし、P7についてみれば、P7は、P16、P17及び平成27年度以降のP6のような勤務実態のない者や、平成26年度のP6のようにごく短期間しか勤務していない者とは異なり、平成25年4月から平成27年3月までの間、すなわち、平成25年度及び平成26年度にパートタイムとはいえ毎日出勤して現に勤務していたし、私学共済加入が専任教員の要件であることは記入上の注意等を見ないと容易に分からない事柄であり、そして、上記のとおり、被告人Bが専任要件について正確に理解していたとは認め難いのである。これらのことからすると、被告人Bは、実際に毎日勤務していたP7について、私学共済加入のことが問題とされていることは、その場で漠然と認識しつつも、確かなことは言えないため、被告人Aに対応を任せ、特段の対応をしなかったものとも考えられる。勤務実態のあるP7につき、勤務実態がないなどのP6ら3名の場合と同列に論ずる検察官の主張は当たらず、原判決の上記認定を左右するものではない。

P6ら3名を専任教員として申請したことについての被告人Bの認識
について
原判決は、被告人Bが、P6ら3名の勤務実態を認識していたこと、及び、平成26年度から平成28年度において、基礎資料調査の前年度調べ及び当年度調べに一定の記入をして被告人Aに渡していることから、その専任教員欄に前年度に勤務していない者の氏名が書かれていることは認識していたことを前提として、各年度の被告人Bの認識について検討している。その上で、原判決は、先に述べたとおり、いずれの年度においても、被告人Bが、勤務実態等を偽る内容の補助金申請がなされることを認識していたと認めることはできないと結論付けている。他方、検察官は、以上の検討結果と結論を争うので、原判決の検討する順序に従って、順次判断する。
平成26年度の基礎資料調査記入時の被告人Bの認識について
a
原判決は、被告人Bが、前年度に勤務していない者の氏名に対応する
給与額の欄等を空白のままで被告人Aに渡し、その後、これらの欄に虚偽記入をしたのは被告人Aであることからすると、被告人Bにおいて、基礎資料調査を被告人Aに渡す時点で、被告人Aが前年度に勤務していない者の給与額の欄等に虚偽記入することを予期していたと認めるべき事情がない限り、勤務実態等を偽る内容の補助金申請がなされることの認識が被告人Bにあったと推認することはできないと説示する(57頁)。この説示自体に、格別不合理なところはない。
b
続いて、原判決は、上記事情の検討に入り、被告人Bは、教職員の給
与額等の数字をK税理士作成の書面から転記するという比較的単純な作業に従事していたにすぎず、その他の記載や申請そのものは被告人Aが行っていたものであるから、被告人Bにおいて、経常費補助金の申請手続に関する詳しい知識があったとは認め難く、そのような被告人Bが、前年度調べ及び当年度調べの専任教員欄に、前年度における勤務実態のない教員の氏名が印字されているのを見て、被告人Aが前年度に専任教員数を水増しして経常費補助金を申請したことを認識したと推認するのは困難であると説示して、これを上記事情が認められない理由の一つとして挙げる(57頁)。
c
しかし、上記bの説示は、論理則、経験則等に照らして不合理という
べきであって、是認できない。
すなわち、被告人Bは、上記のとおり、本件に先立つ、平成19年度から平成24年度までにも、それぞれ、前年度調べや当年度調べの給与額を記載していた。そして、基礎資料調査は、毎年度送付されてきて、前年度と当年度についての記載が求められるものであり、前年度の基礎資料調査の当年度調べで専任教員として申請された者の氏名が、当年度の基礎資料調査の前年度調べ及び当年度調べにおいて、あらかじめ専任教員として印字されてくるという仕組みで一貫していた。また、被告人Bは、上記のとおり、専任教員等の員数等に応じて経常費補助金が交付されることや、専任教員等の員数が
基礎資料調査に基づいて把握されるものであることについて、概括的な認識を有しており、被告人Bにおいて、基礎資料調査を送付してきて記載を求める公的機関(客観的には大阪府)が、提出された前年度の基礎資料調査を離れて独自に専任教員を調査して印字したとか、勝手に専任教員とすべき者を選別して印字したなどと考える合理的な理由は見当たらない。これらのことからすると、被告人Bは、比較的単純な作業に従事する中にあっても、上記公的機関が、前年度の申請実績に基づき、前年度に専任教員として申請された者を、当年度の前年度調べや当年度調べにあらかじめ専任教員として印字して送付してくるものであるという単純な法則に気付き、これを理解していたと優に推認できる。
そして、被告人Bが、P16及びP17を含むP6ら3名の勤務実態を認識していたことは、原判決が説示するとおりである(56頁)。このうち、被告人Bが勤務実態のないP16について専任要件を満たさないと認識していたことは、原判決が正当に認定している(54頁)。そこで、被告人Bが平成25年度のP17について専任要件を満たさないと認識していたかをみると、P17の検察官調書(甲61)によれば、P17は、平成25年3月にJ保育園を辞めたが、被告人BからI幼稚園に手伝いにきてほしいと頼まれ、同年5月か6月頃から7月中旬頃までの1学期の間、月に10日程度I幼稚園に行き、手伝いをしたが、勤務時間は限られており、給料は特に決まっておらず、たまに被告人Bから、手渡しで数千円をもらうという形であったことが認められる。このような臨時かつ短期間の手伝いともいうべきP17の勤務実態のほか、平成23年頃からI幼稚園等の給与計算に携わるとともに、被告人Bの依頼によりほぼ毎年、前年度調べの下書きを作成して被告人Bに送付していたK税理士は、P7のことをパートタイム勤務の教員と認識していたのとは異なり、P17がI幼稚園で勤務していたとは全く認識していなかったこと(K3頁、23頁~26頁、甲51)、P20もP17が平成25年度にI幼稚
園で勤務していた事実はないと認識していること(甲47)を併せ考えると、被告人Bは、P17が平成25年度において経常費補助金の補助対象となる専任教員には当たらないことについて、少なくとも未必的な認識を有していたと認めるのが相当である。
このように理解し、認識していた被告人Bは、平成26年度の前年度調べ及び当年度調べを記入するに当たり、上記のとおり、前年度の勤務実態がないなどの理由で専任要件を満たさないと認識しているP16及びP17が、教職員コードという識別番号まで付されて専任教員として印字されていること、そして、そのP16及びP17についても、前年度調べにおいては前年度の年間給与支払総額の、当年度調べにおいては当年度の5月給与支払月額の、各記入を求められていることを認識したものと推認できる。
そうすると、被告人Bは、P16及びP17が専任教員として印字されていることについて、なぜなのかと疑問に思うのが当然であって、この疑問は、被告人Aが前年度の経常費補助金の申請において、これらの者の分を専任教員として水増し申請したのだろうという認識にたやすくつながるものと考えられる。そして、被告人Bが、共同経営者の立場として、被告人Aのそのような行為を容認できないのであれば、被告人Aにその点を問うなどして是正を求めるのが常識的な対応であるにもかかわらず、被告人Bが、そのような対応をした形跡はなく、逆に、専任要件を満たさないと認識しているP16及びP17について、給与額欄白紙のまま被告人Aに引き継いだことが明らかである。この行動からは、被告人Bは、少なくとも、被告人Aが空欄に虚偽の給与額を書き入れて経常費補助金を水増し申請するかもしれないと認識しながら、これを容認して、水増し申請を被告人Aに委ねていたとみるのが合理的であり、その意図を被告人Aと共有していたと推認できる。
d
この点に関し、原判決は、被告人Bは、平成26年度の当年度調べで
は、P16及びP17以外にも教職員コードが206番の教員も空欄にしたと認
められるところ、206番の教員については、その後、被告人Aが退職と記入したと認められること(甲125・164頁)に照らすと、P16及びP17についても同様に被告人Aが退職と記入する可能性が十分にあったといえるから、被告人BがP16及びP17の氏名の印字を被告人Aに指摘しなかったからといって、被告人Aとの間で専任教員数を水増しして申請しようという意図を共有していたとみるべきことにはならないと説示して、これも上記aでいう事情が認められない理由として挙げる(57頁~58頁)。しかし、平成25年度において、平成20年3月末で退職した後わずかに手伝いをしていただけで勤務実態のないP16、及びこれに準じて上記のとおり臨時かつ短期間の手伝いをしたにとどまっていたP17と、8か月間の勤務実態があって後に退職した206番の教員とを同列のものとして考え、P16やP17についても、被告人Aが、今更そして殊更退職という記入をするだろうと考えたなどというのは不自然、不合理な発想である。また、原判決がいう退職と記入するとの趣旨を、抹消を含めて申請内容としてそのまま残さない可能性をいう趣旨と理解しても、そもそも、平成25年度の勤務実態のないP16及びこれに準じるP17の氏名が平成26年度の基礎資料調査に印字されていること自体、大阪府側の誤り等で生じる余地がなく、通常あり得ない事態であり、このことからして、被告人Aが前年度に補助金を水増し申請したことが強くうかがわれるにもかかわらず、被告人Aから特段説明を受けないまま、被告人Aが正しい申請内容に改めると考える根拠は乏しい。しかも、仮に、被告人Aが、P16及びP17につき、当年度調べの申請内容を抹消したとしても、前年度の勤務実態がある206番の教員と異なり、勤務実態のないP16及びこれに準じるP17について、前年度調べの記入をどうするのかの問題は残るのであるから、被告人Aが申請内容として残すことはないだろうと楽観して、これらの者の給与支払総額欄を空白にしたまま被告人Aに渡したなどという想定は、やはり不自然、不合理である。原判決が20
6番の教員について指摘する事情は、被告人Bにおいて、少なくとも、被告人Aが虚偽の給与額を書き入れて水増し申請を行うことを未必的に認識しながら、これを被告人Aに委ねていたことを推認する妨げとはならない。以上と同旨をいう検察官の主張(趣意書36頁~44頁)は正当であり、被告人Bが、平成26年度の基礎資料調査記入時において、被告人Aが専任教員数を偽って、補助金を水増し申請することを認識していたことは明らかである。なお、平成26年度のP6に関する虚偽申請については、前年度調べ及び当年度調べにP6の印字はされていなかったから、これまで説示したところによっても、被告人Bに被告人Aが虚偽申請をすることの認識を認めることはできない。
平成27年度の基礎資料調査記入時の被告人Bの認識について
平成27年度については、平成26年度と同様の手続が繰り返されたにすぎないから、その認識を覆すような特段の事情がない限り、被告人Bが前年度と同様の認識を有していたと当然に推認されるところ、そのような特段の事情は見当たらない。
原判決は、被告人Bは、平成27年度も、前年度調べ及び当年度調べに一定の記入をしており、その際、P6ら3名の氏名が専任教員として印字されているのを認識したと考えられるとしつつ、平成26年度について述べたのと同様の理由により、被告人Bにおいて、基礎資料調査を被告人Aに渡す時点で、被告人Aがその後虚偽記入することを予期していたと認めるべき事情は認められず、したがって、勤務実態等を偽る内容の補助金申請がなされることの認識が被告人Bにあったと推認することはできないと説示する(58頁)。
しかし、平成26年度について原判決が説示する理由自体が不合理であることは、上記

c、dのとおりであり、その前提となる事実の一つであるP

6ら3名が専任要件を満たさないことについての被告人Bの認識は、P17が
平成26年度には一切I幼稚園で勤務していないことからすると、より明確なものとなっていたと考えられる。
しかも、印字されている勤務実態のない教員について、被告人Aが退職と記入する可能性があったなどと指摘する原判決の論理は、平成27年度について、次のとおり、より一層破綻しているというべきである。すなわち、原判決の論理によれば、①被告人Bは、平成26年度の前年度調べ及び当年度調べに勤務実態のないP16及びこれに準じるP17の氏名が印字されているのを見ても、被告人Aが退職と記入する可能性があるとして、特に指摘せずに、前年度の年間給与支払総額や当年度の5月給与支払月額を空欄にして被告人Aに渡した、②平成27年度になって、被告人Bは、前年度に退職と記入された206番の教員は、平成27年度の前年度調べ及び当年度調べに印字されていない一方、勤務実態のないP16及びP17の氏名は、依然として2年連続して印字されていて、再び前年度の年間給与支払総額や当年度の5月給与支払月額の記入が求められていることを知った、③平成26年度の基礎資料調査の提出に当たり、被告人AがP16及びP17について、退職と記載しなかったことは明らかであったが、被告人Bは、平成26年度と同様に、被告人Aが平成27年度の基礎資料調査の提出に当たって勤務実態のないP6ら3名について退職と記載するであろうと考えた、と想定することになる。①については、上記

dのとおり、不合理性を指摘できる

し、②、③については、被告人Bは、被告人Aが前年度に勤務実態のない教員を専任教員として虚偽申請したからこそ、またもや印字されたと理解するのが当然であって、それにもかかわらず退職と記載するとは、とても考えられないのであるから、原判決の論理は、破綻を来しているというほかない。
以上と同旨をいう検察官の主張(趣意書44頁~46頁)は正当であり、平成27年度の基礎資料調査記入時の被告人Bの認識に係る原判決の説示は、
論理則、経験則等に照らして不合理なものであることが明らかである。平成27年9月の補助金調査時の被告人Bの認識について
a
P18ほか府職員が、平成27年9月8日、同年度の補助金調査の結果
告知の場で、P6ら4名に係る平成26年度の給与台帳並びに平成26年度及び平成27年度の私学共済の加入が確認できないとして、幼稚園側にそれらの資料の提出を求めるなどの指摘をした際に、被告人両名からは、P6ら4名がI幼稚園で勤務していない旨の説明がなかったことは、原判決が正当に認定するところである。その上で、原判決は、

被告人Bは、府職員から指摘を受けることにより、被告人Aが基礎資料調査においてP6ら3名に係る経常費補助金を水増しして申請したのかもしれないという認識を抱くに至ったと推認することができる。

という一方で、そうだとしても、経常費補助金の申請手続を中心的に行っていたのは被告人Aであるから、被告人Bが、上記指摘に対してP6らの勤務の有無について申告しなかったのは、被告人Aに対応を任せて口出しをしなかったと考える余地が十分ある。しかも、補助金調査において、府職員の指摘で給与台帳等の資料の提出が求められたことにより、その後虚偽の給与台帳等を提出しない限り、経常費補助金の水増し申請を撤回せざるを得ない状況になっていたところ、その後虚偽の給与台帳等の作成や提出を行ったのは被告人Aであるから、被告人Bとしては、被告人Aがその後水増し申請を撤回するだろうと思ったとしても不合理ではない。と説示して、同補助金調査の時点で、被告人Bにおいて、被告人Aがその後虚偽の給与台帳等を作成等するつもりであると認識していたと認めることはできないと結論付ける(60頁)。
b
しかし、この認定、説示は、論理則、経験則等に照らして不合理であ
り、是認できない。
すなわち、P18ほか府職員から上記のとおりの指摘を受けた被告人Bは、P6ら3名を経常費補助金の補助対象とすることが補助金調査で問題とされ
ていることを認識したものと、明らかに認められる。そして、被告人Bは、I幼稚園における経理や労務の担当者であって、府職員が確認しようとしているP6ら3名の勤務実態や給与支払の実態について、率先して答えるべき立場にあり、かつ、その場でP6ら3名が勤務していないなどと容易に答えることができたことも明らかである。そうすると、仮に、被告人Bにとって、P6ら3名を補助対象とする申請が全く予期しておらず、容認していないことであれば、被告人Bは、府職員に対し、P6ら3名がそもそも勤務していないことを躊躇なく告げて、意外であるとの様子を示したり、何かの間違いではないかなどと尋ねたりするのが自然であるし、また、I幼稚園の共同経営者としての立場から、被告人Aに対しても、事情を確認するなどの発言があってしかるべきである。ところが、被告人Bは、P6ら3名に勤務実態がないことに口をつぐみ、何ら余計なことを言わなかったばかりか、午後5時頃、園内アナウンスによって、補助金調査を終了させるようにせかすことまでしたのである。この対応は、被告人Bにとって、府職員の指摘によって推認される被告人Aによる水増し申請が意外なことではなく、むしろ、かねてから、被告人Bもこれを容認しており、その場では、被告人Aに協力して真実を隠そうという意思があったからこそのものと考えるのが自然である。そして、このことは、上記



で述べたところにも整合しており、合理的で

あるといえる。
これに対し、原判決は、府職員の指摘によって被告人Bが未必的認識を抱いたと推認した上、被告人Bが被告人Aに対応を任せて口出しをしなかったと考える余地が十分あると説示するが、被告人Bが、それまで被告人Aによる水増し申請を何ら予期も容認もしておらず、そのとき初めて認識したと考えるのは、上記のとおり、そういう場合に被告人Bがとると想定される態度に照らしても、また、上記



で述べたところからも、合理性を欠いてい

るといわざるを得ない。

c
また、原判決が説示するように、平成27年度分の申請を撤回すると
しても、P6ら3名につき、存在し得ない平成26年度分の給与台帳等の資料を提出しなければ、同年度分の補助金の水増し申請が発覚するのであるから、平成27年度分の申請を撤回すれば足りるという単純かつ楽観的な事態でないことは明らかであり、水増し申請の発覚を免れるためには、虚偽の給与台帳等を作成、提出するほかないのである(甲50、甲63、甲125・380頁)。被告人Bとしても、被告人Aが虚偽の水増し申請を行ったことが明らかである以上、被告人Aがきっと撤回するだろうと軽々に決めつけることはできないはずであり、そのように安易に考えるのが無理もないといえるだけの根拠も見当たらないことに照らせば、被告人Aが水増し申請の発覚を免れるため、虚偽の給与台帳等を作成して提出することについて、被告人Bには、少なくとも未必的な認識があったものと認められる。
以上と同旨をいう検察官の主張(47頁~50頁)は正当であり、原判決の判断は是認できない。
平成28年度の基礎資料調査記入時の被告人Bの認識について
平成28年度についても、平成26年度及び平成27年度と同様の手続が繰り返されたにすぎないから、その認識を覆すような特段の事情がない限り、被告人Bが前年度と同様の認識を有していたと当然に推認されるところ、そのような特段の事情は見当たらない。
原判決は、被告人Bは、平成28年度も、前年度調べ及び当年度調べ中の前年度に勤務していない者の給与額の欄等については、空白のままで被告人Aに渡しているが、その他の欄に一定の記入をしており、その際、これにP6ら3名の氏名が印字されているのを認識したと考えられるとしつつ、被告人Bが前年度調べ及び当年度調べの各様式に教職員の氏名が印字されていることの意味を理解していたとは認められないことは平成26年度について述べたのと同様であるとして、被告人Bが、その印字を契機として、被告人A
が前年度に専任教員数を水増しして経常費補助金を申請したと認識したことを認めることはできないと説示する。その上で、原判決は、被告人Bにおいて、被告人Aが、平成27年度の補助金調査の後、水増し申請を撤回したかもしれないと思った可能性が否定できないから、被告人Bが、平成28年度の基礎資料調査記入時点で、被告人Aがその後勤務実態のない者らについて虚偽の申請を行うことを予期していたと認めるべき事情は認められず、したがって、勤務実態等を偽る内容の補助金申請がなされることの認識が被告人Bにあったと推認することはできないと説示する(60頁~61頁)。しかし、基礎資料調査の前年度調べ及び当年度調べへの給与額の記載を重ねれば重ねるほど、被告人Bが、先に述べた専任教員としての申請と専任教員としての印字との単純な法則についての理解を一層深めていったことは、容易に推認できることであるのに、被告人Bが、どんなに経験を積んでも、教職員の氏名が印字されることの意味を理解できなかったかのようにいう原判決の判断は、不合理である。
そして、平成28年度の基礎資料調査の記入用紙には、退職した職員や、平成27年9月の補助金調査で退職していることを理由に大阪府から削除を求められて撤回することとなった教職員の氏名は印字されておらず、前年度の申告や撤回の結果がきちんと反映されているのに対し、P6ら3名の氏名は依然として印字されており(甲125・340頁、342頁、344頁、352頁、378頁、540頁、542頁、546頁、548頁)、これらの事実は被告人Bにも明らかであった。そうすると、仮に、同補助金調査の後に、被告人Bが、P6ら3名につき水増し申請を撤回したかもしれないと思った可能性をいう原判決の前提に立ったとしても、平成28年度の基礎資料調査におけるP6ら3名の印字を見れば、その時点で、被告人Bが、なおも同様に思い続けるということは、想定し難く、これに反する原判決の判断は是認できない。

以上に加えて、被告人Bが、それまでと同様、P6ら3名について、被告人Aに問い質すでもなく、その給与額を空欄のままで被告人Aに渡していること、被告人Bにおいて、平成27年度の水増し申請を撤回していない被告人Aが、平成28年度も同様の水増し申請を繰り返すと考えるのは自然であること、次に述べる平成28年9月の補助金調査で、府職員からP6ら3名につき私学共済加入の資料の提出を求められた際も、被告人Bが真実を申告しなかったことを踏まえれば、被告人Bは、平成28年度の基礎資料調査記入時において、被告人Aが専任教員数を偽って、補助金を水増し申請することを認識していたと優に認められる。
以上と同旨をいう検察官の主張(趣意書50頁~53頁)は正当である。平成28年9月の補助金調査時の被告人Bの認識について
a
P18ほか府職員が、平成28年9月15日、同年度の補助金調査の結
果告知の場で、P6ら3名に係る私学共済の加入が確認できないとして、その資料の提出を求めるなどの指摘をし、その場に被告人Bも立ち会っていたこと(P1815頁~17頁、甲125・610頁、612頁)は、原判決が正当に認定するとおりである。なお、被告人Bは、当審公判において、結果告知の場に立ち会っていなかったと供述するが(当審17頁~18頁)、採用できない。
b
その上で、原判決は、被告人Bは、平成28年度の補助金調査での指摘を受けることにより、被告人Aが、平成28年度でも、基礎資料調査においてP6ら3名に係る経常費補助金を水増しして申請したのかもしれないという認識を抱いたと推認することができる。という一方で、そうであるとしても、被告人Bは、被告人Aが平成27年度の調査の後に水増し申請を撤回したかもしれないと思った可能性があるという点では平成28年度基礎資料調査記入時のときと同様であるから、被告人Bは、平成28年度の補助金調査の時点で、被告人Aがその後、その調査での指摘を受けて専任教員数の水増し申請を撤回するかもしれないと思った可能性を否定できない。と説示して、同補助金調査の時点で、被告人Bにおいて、被告人Aがその後私学共済の加入に関する虚偽の書類等を作成等するなどして、専任教員数を水増しして偽る意思を有すると認識していたと認めることはできないと結論付ける(61頁~62頁)。
c
しかし、被告人Bにおいて、被告人Aが平成27年度の補助金調査の
後に水増し申請を撤回したかもしれないと思った可能性があるとか、平成28年度の基礎資料調査におけるP6ら3名の印字を見ても、なおも同様に思い続けるという判断が不合理であり、是認できないことは、上記のとおりである。また、平成28年度の補助金調査時、府職員から前年度と同じ指摘を受け、被告人Bが、前年9月の補助金調査時と同様に水増しして申請したのかもしれないという認識を抱いたというのであれば、その時点で、被告人Aが平成27年度の補助金調査の後に水増し申請を撤回したかもしれないとの認識は、誤りであったとして、被告人Bの脳裏から、もはやなくなってしまうはずである。さらに、被告人Bが、府の指導を受けながら2年続けて水増し申請した被告人Aに対し、今回も撤回するかもしれないなどと思って安心するなどとは到底考えられない。原判決の説示が不合理であることは明らかである。
以上と同旨をいう検察官の主張(趣意書53頁~55頁)は正当である。小括
以上のとおり、被告人Bが、遅くとも、平成26年度の基礎資料調査記入時以降、被告人Aにおいて勤務実態がないなどのP6ら3名(平成26年度はP16及びP17の2名)を補助対象者である専任教員と偽って経常費補助金を水増し申請し詐取することについて、認識を有していたことを優に認めることができる。
検察官の事実誤認の論旨中、共同正犯の成立について

原判決は、被告人Bには、虚偽の経常費補助金の申請をしてこれを詐取することについて、被告人Aとの間での意思の連絡や被告人Bの正犯性を認めることはできないから、被告人Bと被告人Aとの間に共謀があったとは認められないと説示して、被告人Aとの共同正犯の成立を否定する。すなわち、原判決は、検察官が、被告人Bについて、被告人Aとの共謀が成立する根拠として指摘する、①被告人Bが、各基礎資料調査において、虚偽と分かるはずの教員組織・給与額調に給与額等を記入していること、②被告人Bが、平成27年度及び平成28年度の各補助金調査において、府職員の指摘に対し、P6ら4名又はP6ら3名がI幼稚園で勤務していない事実を述べなかったこと、③被告人Bが、経常費補助金の入金先であるC学園の預金口座を管理していたことにつき、いずれも検察官の主張を排斥した。具体的な内容をみると、原判決は、①について、被告人Bの作業は、給与台帳やK税理士の作成した下書きに基づき、給与額等を各教員組織・給与額調に転記するという比較的単純なものであり、しかも、勤務実態のない者の給与額の欄等について空白のままで被告人Aに渡しただけであって、虚偽の経常費補助金の申請に関連するものは含まれていない、②について、経常費補助金の申請手続は、そのほとんどを被告人Aが行っていたものであって、被告人Aが名実ともに経常費補助金の申請者というべきであり、一方、被告人Bは、I幼稚園の副園長の立場ではあるが、経常費補助金の申請手続にはほぼ関与しておらず、その詳細を知り得る状況ではなかったと認められ、このような被告人両名の立場や状況の違いに照らすと、被告人Bが、平成27年度及び平成28年度の補助金調査での指摘を受けても事実を告げなかったことが、経常費補助金を被告人Aと共同してだまし取ったと評価し得るほどに重要な関与と評価することはできない、③について、経常費補助金が被告人Bの個人的な用途に利用・支出されたというならともかく、C学園の運営資金として利用・支出されたのであれば、共謀の有無にかかわらず、経理業務を担当
していた被告人Bが支出に関与するのは当然であるから、この点が共謀の成立を基礎付ける事情とはいえないと説示した(63頁~65頁)。しかし、原判決の①ないし③の説示は、被告人Bに被告人Aが専任教員数を水増しして虚偽申請することの認識があったとは認められないという原判決の誤った認定を前提としている点で、当を得ないものである。すなわち、被告人Bに、被告人Aが専任教員数を水増しして虚偽申請することの認識がないのであれば、被告人Aによる虚偽記入に関わろうが、府職員からの指摘に対して応答せずにやり過ごそうが、補助金の管理に関わろうが、それらが共同正犯を基礎付ける事情に当たらないのは当然である。
そこで、被告人Bに、被告人Aが虚偽申請することの認識が認められることを前提として、検察官が指摘する、被告人両名間の虚偽申請についての意思の連絡の有無及び被告人Bの正犯性について、当審において改めて検討する。

被告人両名間の虚偽申請についての意思の連絡の有無について

被告人Bは、被告人AがP6ら3名(平成26年度はP16及びP17の2名。以下のイにおいても同じ)を専任教員と偽って虚偽申請することの認識を有しながら、前年度調べ及び当年度調べにつき、P6ら3名以外の部分の記入を完成し、あとはP6ら3名の給与額等を記載すればよいだけの状態に整えて被告人Aに引き継いでおり、この事実は、経常費補助金の虚偽申請について、被告人両名の間に意思の連絡があったことを推認させる強力な一事情である。
また、被告人Aが、被告人Bとの意思の連絡なしに基礎資料調査の記入を被告人Bに委ねたならば、自己の不正が被告人Bに露見する危険が大きいほか、印字されている水増しに係る者の氏名の記載を被告人Bが削除するおそれもあるし、意思の連絡がないまま被告人Bを府の補助金調査の結果告知の場に立ち会わせれば、先にも説示したとおり、府職員から尋ねられたときに、
被告人Bが、経理及び労務の担当責任者として、P6ら3名に勤務実態がないことを回答してしまい、虚偽申請が露見する可能性が大きいといえる。そうすると、被告人Aが、前年度調べ及び当年度調べの多くの欄の記入を被告人Bに委ね、また、府の補助金調査の結果告知の場に被告人Bを立ち会わせたという事実は、被告人両名の間に意思の連絡があったことを推認させる。加えて、そもそも、被告人Bが、その経営を補助金に相当程度依存していたC学園及びG学園の運営する幼稚園の副園長であり、被告人Aとの共同経営者であって、補助金の受給に強い関心と執着を抱いていたことは、既に認定したとおりであり、被告人Aが経常費補助金の虚偽申請をするに当たり、被告人Bが蚊帳の外に置かれていて、被告人両名の間に意思の連絡がなかったとは考え難いというべきである。
以上によれば、経常費補助金の虚偽申請について、被告人両名の間に意思の連絡があったことを優に認定でき、これと同旨をいう検察官の主張(趣意書59頁~61頁)は正当である。

被告人Bの正犯性について

上記のとおり、被告人Bは、被告人AがP6ら3名を専任教員と偽って虚偽申請することの認識を有しながら、前年度調べ及び当年度調べにつき、P6ら3名以外の部分の記入を完成し、あとはP6ら3名の給与額等を記載すれば提出、申請できる状態に整えて被告人Aに引き継いでいるのであるから、これは被告人Aによる虚偽申請、すなわち実行行為に密接不可分な行為といえる。また、被告人Bは、補助金調査における府職員からの指摘に対して、幼稚園の共同経営者であり、その担当業務からして、真実を申告すべきであったのに、被告人Aと意思を連絡し、虚偽申請の発覚を防ぐため、真実を告げることなくやり過ごしており、これは、府職員に対する被告人Aの欺罔行為を不作為によって後押しする行為というべきである。さらに、被告人Bは、虚偽申請に係るものであることを認識しながら、補助金を受け入れて、これ
を管理していたのであるから、これもまた犯行への重要な関与といえる。加えて、上記のとおり、I幼稚園は、被告人Bの実父から引き継ぎ、被告人両名が夫婦で理事長ないし理事として運営してきた家族経営の学校法人であり、被告人Bにとってはいわば家業ともいうべきものであったから、C学園が補助金を取得するか否かは、被告人両名夫婦にとって重大な利害に関わる事柄であったといえる。そして、被告人Bの当審公判供述(当審20頁~22頁)によれば、I幼稚園では平成25年度末に多くの教員が退職して、深刻な教員不足に陥っており、このことに経常費補助金が園児数及び教員数に応じて交付される幼稚園の運営費に対する補助金であり、教員の退職が経常費補助金の額に影響するとの被告人Bの経常費補助金についての認識を踏まえれば、被告人Bにおいても、I幼稚園の経営安定のため、経常費補助金が減額されないように専任教員数を偽って水増し申請することに賛同する動機が認められる。以上に照らせば、被告人Bに正犯性が認められることもまた明らかであり、これと概ね同旨をいう検察官の主張(趣意書62頁~64頁)は正当である。
検察官の事実誤認の論旨に対する結論
以上のとおり、P6ら3名(平成26年度はP16及びP17の2名)に関する虚偽申請について、被告人Bには、被告人Aによる虚偽申請の認識及び被告人Aとの共謀を認めることができる。
なお、上記のとおり、被告人両名及びP7に関する虚偽申請については、被告人Bに虚偽申請であることの認識を認めることができず、平成26年度のP6に関する虚偽申請については、被告人Bに被告人Aが虚偽申請をすることの認識を認めることはできない。しかし、各年度の基礎資料調査、経常費補助金交付申請書、経常費補助事業変更承認申請書等の提出による虚偽申請は、専任教員数を偽って申請して経常費補助金をだまし取るという犯意の下、平成26年度の被告人両名及びP6ら4名、平成27年度及び平成28
年度の被告人両名及びP6ら3名について、それぞれ一括して行われているから、被告人Bは、共同正犯における同一構成要件内の錯誤として、虚偽申請であることの認識を欠く被告人両名及びP7を専任教員等と装ったことによる詐取分や、被告人Aが虚偽申請をすることの認識を欠く平成26年度のP6を専任教員と装ったことによる詐取分を含めて、全体について故意責任を免れず、被告人Aとの共謀による詐欺の共同正犯が成立するというべきである。被告人Bに被告人両名、P7及び平成26年度のP6に係る虚偽申請について上記の認識が認められないことは、被告人Bの量刑において考慮するのが相当である。
以上のとおり、被告人Bにつき、詐欺の故意及び被告人Aとの共謀を認めなかった原判決に、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があることは明白であり、検察官の被告人Bに対する事実誤認の論旨は、結論として理由がある。
また、検察官は、被告人Aに対する事実誤認の論旨として、原判決が、被告人Aについて、被告人Bとの共謀を認めず、単独犯として認定したことには、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があると主張する。しかし、被告人Aは、経常費補助金事件の首謀者であり、前年度調べ等に虚偽記入をして補助金申請するなど実行行為の全てを1人で行うとともに、府職員の指摘に対して、虚偽申請の発覚を免れるために、後日、関係者に指示して、給与台帳等の内容虚偽の書面を作成させて府に提出するという実行行為に密接に関連する行為にも及ぶなど、主体的、積極的に犯行を主導したのに対して、被告人Bは、あくまで被告人Aの下、従属的に関与したにすぎないのであるから、被告人Bとの共同正犯としての被告人Aの犯情は、単独犯としてみたときと比べ、有意な差異があるとはいえない。したがって、被告人Aの単独犯とする原判決の事実誤認が、被告人Aに対する判決に影響を及ぼすことが明らかであるとは認められないのであって、結局のところ、この点につ
いての検察官の事実誤認の論旨は理由がない。
3
特別支援教育費事件について
原判決認定の罪となるべき事実の概要、論旨の概要、当裁判所の判断
の結論

原判決が認定した罪となるべき事実の概要は、次のとおりである。
被告人Aは、C学園及びG学園の理事長であり、C学園が運営するI幼稚園及びG学園が運営するJ保育園の園長として、両学園及び両幼稚園の業務全般を統括していたものであるが、
第一

大阪府が、障がいのある幼児を就園させている同府内の私立幼稚園等
の設置者に対して、特別支援教育担当教職員を配置するなどして同幼児に教育上特別な支援を行っていること、同幼児の保護者から補助金申請の同意を得ることなどを要件として同幼児の人数に応じて交付する府特別支援教育費補助金をだまし取ろうと考え

平成23年5月から平成28年3月までの間に、10回にわたり、大
阪府の担当職員に対し、真実は、延べ90名の幼児につきI幼稚園における前記支援を行っておらず、かつ、前記同意を得るなどしていなかったにもかかわらず、これらがあるかのように装った内容虚偽の書類を提出するなどして府特別支援教育費補助金合計7056万円の交付を申請し、決裁権限を有する者らに、前記書類の記載内容及び申請内容が真実のものであり、前記申請額どおりの府特別支援教育費補助金をC学園に交付すべきである旨誤信させて、平成24年3月から平成28年3月までの間に、5回にわたり、C学園に交付すべき府特別支援教育費補助金の額を合計7056万円と決定させ、平成24年3月から平成28年3月までの間に、5回にわたり、同府職員に、同額をC学園名義の普通預金口座に振込入金させ、もって人を欺いて財物を交付させた

平成28年5月から平成29年3月までの間に、2回にわたり、大阪
府の担当職員に対し、I幼稚園の29名の幼児につき、前同様に装った内容虚偽の書類を提出するなどして府特別支援教育費補助金2273万6000円の交付を申請したが、同府が不交付決定をしたため、その目的を遂げなかった

平成23年5月から平成26年3月までの間に、6回にわたり、大阪
府の担当職員に対し、J保育園の延べ24名の幼児につき、前同様に装った内容虚偽の書類を提出するなどして府特別支援教育費補助金合計1881万6000円の交付を申請し、決裁権限を有する者らに、前同様に誤信させて、平成24年3月から平成26年3月までの間に、3回にわたり、G学園に交付すべき府特別支援教育費補助金の額を合計1881万6000円と決定させ、平成24年3月から平成26年3月までの間に、3回にわたり、同府職員に、同額をG学園名義の普通預金口座に振込入金させ、もって人を欺いて財物を交付させた
第二

大阪市が、障がいのある幼児を就園させている同市内の私立幼稚園等
の設置者のうち、大阪市要支援児受入促進指定園以外の設置者に対して、特別支援教育担当教職員を配置するなどして同幼児に教育上特別な支援を行うこと、同幼児の保護者から補助金申請の同意を得ることなどを要件として同幼児の人数に応じて交付する市特別支援教育費補助金、又は同指定園の指定を受けた設置者に対して、前同様の要件の下に同幼児の人数に応じて交付する市特別支援教育費交付金をだまし取ろうと考え

平成26年9月から平成27年9月までの間に、3回にわたり、大阪
市の担当職員に対し、I幼稚園の延べ44名の幼児につき、前同様に装った内容虚偽の書類を提出するなどして市特別支援教育費補助金及び市特別支援教育費交付金合計920万9600円の交付を申請し、大阪市こども青少年局長らに、前記書類の記載内容及び申請内容が真実のものであり、前記申請額どおりの市特別支援教育費補助金又は市特別支援教育費交付金をC学園に
交付すべきである旨誤信させて、平成27年3月から平成28年3月までの間に、3回にわたり、C学園に交付すべき市特別支援教育費補助金又は市特別支援教育費交付金の額を合計920万9600円と決定させ、さらに、平成27年3月から平成28年3月までの間に、3回にわたり、前同様に装った内容虚偽の書類を提出するなどし、大阪市こども青少年局長らに、前同様に誤信させて、C学園に交付すべき市特別支援教育費補助金及び市特別支援教育費交付金の額を前記決定額と同額である合計920万9600円と確定させ、平成27年5月から平成28年5月までの間に、3回にわたり、同市職員に、同額をC学園名義の普通預金口座に振込入金させ、もって人を欺いて財物を交付させた

平成28年9月、大阪市の担当職員に対し、I幼稚園の5名の幼児に
つき、前同様に装った内容虚偽の書類を提出するなどして市特別支援教育費交付金180万円の交付を申請し、大阪市こども青少年局長らに、前記書類の記載内容及び申請内容が真実のものであり、前記申請額どおりの市特別支援教育費交付金をC学園に交付すべきである旨誤信させて、平成29年1月、C学園に交付すべき市特別支援教育費交付金の額を180万円と決定させ、さらに、同年3月、前同様に装った内容虚偽の書類を提出するなどしたが、同市が交付決定を取り消したため、その目的を遂げなかった、というものである。

これに対する検察官の論旨の概要は、被告人Bにつき、府市補助金等
の虚偽申請について、被告人Aが保護者同意の存在を偽って府市補助金等の申請をしたことの認識を有していた限度でしか詐欺の故意を認めず、また、被告人Aとの共謀は認めなかった点、被告人Aにつき、被告人Bとの共同正犯を認めず、被告人Aの単独犯と認定した点で、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるというものであり、一方、被告人Aの論旨の概要は、両幼稚園では、障がい幼児に対し、府市補助金等の交付対象となる教育上特別な配慮がなされていたし、保護者同意も得ていたから、少なくとも診断書の変造のない障がい幼児については、府市補助金等の交付要件を満たしており、欺罔行為が存在せず、仮に客観的要件に欠ける補助金等の申請であったとしても、被告人Aはそのことを認識しておらず、故意がなかったものであるから、これらに反する事実を認定した原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があるというものである。

原判決が(争点に対する判断)の第5特別支援教育費事件(平成29年9月11日付け起訴状記載の公訴事実第2及び第3)についての項で、被告人Aが、両幼稚園において、教育上特別な支援を行っておらず、保護者同意も得ていないのに、これらのことを認識しつつ、それぞれを装う内容虚偽の書類を提出するなどして、欺罔行為を行い、府市補助金等をだまし取り、又はだまし取ろうとした旨説示するところは正当であり、原判決の認定に、論理則、経験則等に照らして不合理な点はなく、この認定、判断は是認できる。しかし、原判決が、被告人Bにつき、①補助金等が特別支援教育にかかった人件費等を対象としており、府市補助金等の交付を受ける要件として、特別支援教育を行っている必要があることについて認識を有していたとは認められず、②他方で、府市補助金等の交付を受ける要件として、障がい幼児等の保護者から保護者同意を得る必要があるのに、両幼稚園のいずれにおいても保護者同意が得られていないまま、両学園が府市補助金等の交付を申請したという認識を有していたと認められ、その限度で、詐欺の故意を肯定することができる、③このように、被告人Bは、被告人Aが、保護者同意の存在を偽って府市補助金等の申請をしていることについて認識していたが、検察官が主張するところを踏まえても、被告人Aとの間での意思の連絡や被告人Bの正犯性を認めることはできないから、被告人Bと被告人Aとの間に共謀があったとは認められないとして、特別支援教育費事件は、被告人Aの単独犯であり、被告人Bは無罪であるとする点については、是認できな
い。すなわち、被告人Bの①についての詐欺の故意を否定し、さらに、③のとおり被告人Aとの共謀を否定した点は、論理則、経験則等に照らして不合理というほかなく、是認できない。以下、検討した結果を述べる。被告人Aの事実誤認の論旨について

教育上特別な配慮について
教育上特別な配慮の解釈

a
原判決が、関係証拠により、府市補助金等の目的、交付の対象となる
事業、交付の対象となる経費、障がい幼児の意義、
教育上特別な配慮及
び特別支援教育の意義、教職員の加配措置の意義、
教育上特別な配慮と
教職員の加配措置との関係等について認定するところは、その理由も含めて、いずれも正当として是認できる(67頁、69頁、72頁~75頁、86頁)
。すなわち、原判決は、検察官が原審において主張したのと同様に、府市補助金等の交付を受ける要件として、障がい幼児に対して特別支援教育を行っている必要があること、特別支援教育とは、障がい幼児に対して教職員の加配措置など経費が発生する特別の支援措置を指すこと、府市補助金等は特別支援教育にかかった人件費等を対象とすること、障がい幼児であるためには、障がいの状況について専門的な診断があることと、
教育上特別な配慮を要することの2点が必要であるところ、
教育上特別な配慮とは、
教職員の加配措置などの継続的な支援措置を意味し、特別支援教育と同義であること、教職員の加配措置とは、
教育上特別な配慮の有無を判断する
ための正に中心的な要素であり、障がいを持つ園児に日常的、継続的に付き添うなどの支援を行う教職員(担任教員を除く。
)を配置するという趣旨で
あることを説示しており、いずれも合理的な判断である。
b
これに対し、弁護人は、府市補助金等の交付要件である教育上特別な配慮の該当性判断において、障がい幼児に対する教職員の加配措置が一つの考慮要素になるとしても、幼稚園の担当教員以外の教職員が障がい幼児
の日常生活において継続的な支援、配慮を行っている状況が認められれば、教育上特別な配慮を満たすと解釈するのが妥当であると主張し、その理由として、①府市補助金等の交付要綱において具体的交付要件が定められておらず、自治体による説明会もなかったことからすると、私立幼稚園設置者が交付要件を理解する根拠資料は、本件調査文書(府)や本件調査文書(市)になるところ、これらの資料において、加配措置は例示的記載にすぎず、教育上特別な配慮とは継続した配慮を行っていることと説明されていることなどを合理的に解釈すれば、上記のとおり、教職員の加配措置以外の方法により、障がい幼児に対する継続的な支援があった場合を含むと解すべきである、②補助金額の算定が加配教職員の人数を基準としていないことや、大阪府の補助金額が、障がい幼児2人以上いる幼稚園においては、障がい幼児1人につき年額78万円程度であり、教職員を別途雇用するに不十分な額であることも、上記の解釈に整合する、③私立幼稚園設置者が府市に提出する事業計画書又は調査票のうち、⑤欄には、障がい幼児等の介護等の業務に直接携わっている職員を記入することとされており、⑤欄に記載する職員は、障がい幼児の付添いを目的として加配された職員に限定していないと解し得る、④府の担当職員は、府補助金の対象となる教職員は、障がい幼児1人1人について、1人1人の職員がつかなければならない趣旨ではないと述べ、また、I幼稚園に対する補足聴取において、障がい幼児を目視又は監視している加配の先生の具体的氏名までは聴取しなかったと述べており、これらにみられる府の担当職員による教育上特別な配慮の該当性判断状況等を踏まえると、
教育上特別な配慮をしている教職員は、特定の障がい
幼児と紐づいていることまでは必要とされておらず、当該障がい幼児の個別的状況に応じて、付添いや支援を行っているかどうかを判断している、⑤以上からすると、府市補助金等は、園児の障がいや疾患の特性に応じた継続的な配慮に伴う実質的な人件費の負担を補助するものである、と指摘する(趣
意書196頁~200頁。答弁書32頁~34頁も同旨)

c
しかし、①については、補助金という性格上、補助の対象となる一定
の経費の発生が前提となることは明らかである上、交付要綱によれば、府補助金の交付の対象となる経費としては、障がい幼児の教育・保育に直接必要な経費のうち、人件費及び教育研究経費であることが、また、市補助金等の交付の対象となる経費としては、要支援児の保育に直接必要な経費(人件費、教材費、教育研究費、設備費等)であることが明記されているし、府市補助金等は、その名称自体に特別支援教育費という文言が含まれている。また、確かに教育上特別な配慮が加配措置に限られるわけではないが、弁護人が両幼稚園において行っていたと主張している、障がい幼児の日常生活において加配措置以外の方法によって行う継続的な支援、配慮に、これらの経費の発生が伴うとは考えられず、主張は当たらない。②の前半については、障がい幼児の人数が多ければ多いほど、幼稚園に求められる支援、配慮の量は増えるのであるから、その人数を基準にするのが合理的であるし、また、特別支援教育担当教職員の人件費の額をもって補助金等申請の対象経費とすることが予定されており(原判決76頁)
、教職員の加配状況や人件費の額
が補助金等申請と密接に関係しているから、主張は当たらない。②の後半については、教職員の加配により発生した人件費の一部を補助するものと理解できる。③については、⑤欄の上部には、

障がい幼児に対し、教育上特別に配慮するために加配している教員・職員の状況

と明記してあるから、主張は当たらない。④については、障がい幼児に対して加配教職員がマンツーマンの関係に立っていなければならないわけではないが、府の担当職員も、担任教員以外の全教職員が支援、配慮しているという状況をもって特別な配慮に当たると述べているものではない。
⑤の主張は、担任教員以外の教職員が全体として障がい幼児に対し、継続的に支援、配慮を行っていれば、それらの教職員が殊更加配されたものでな
くても、その業務負担は増大しているから、それに応じて実際には人件費の額が増大していなくても、補助金等の交付を認めるべきであるという趣旨であるとすれば、それは必要な経費に対する補助金という性格に反しており、採用の余地がない主張である。また、⑤の主張が、加配要件は、園児の障がいや疾患の特性に応じて相応の配慮をするために生じた人的コストの増加に対応する実質的な意味合いであって、教職員の労力についての人件費の掛かり増しの部分については実質的に補助金要件を満たしていた可能性があるという、原判決排斥に係る主張(原判決82頁、被告人A原審弁論30頁)と同じ趣旨であるとしても、原判決が詳細に説示するとおり、教職員の加配措置が、例示として掲げられているとはいえ、
教育上特別な配慮の有無
を判断するための正に中心的な要素であると解されることは動かし難く、このことに照らしても、また、補助金等を交付するか否かの基準の明確性、客観性という点からしても、やはり採用の余地がない主張である。
両幼稚園において教育上特別な配慮があったかについて
a
原判決が、関係証拠により、本件に係る府市補助金等に関し、両幼稚
園の特別支援教育担当教職員調査票に記載された教職員のうち、一部の者については、そもそも勤務の実態がなく、また、その他の者についても、個別の園児との関係で日常的、継続的に付き添うなど、副申書に記載された配慮を行うために配置されるという実態はなかったといえるから、本件に係る府市補助金等の全てについて教職員の加配措置はなかったと認定するところは、その理由も含めて、いずれも正当として是認できる(76頁~81頁)。
b
これに対し、弁護人は、両幼稚園では、担任以外の教職員が障がい幼
児の日常生活において、当該障がい幼児の特性に応じ、継続的に支援を行っていたとして、原審弁護人と同様の主張を繰り返し、
教育上特別な配慮
の要件は満たしているという(趣意書200頁~201頁。答弁書34頁~35頁も同旨)


しかし、この主張は、
教育上特別な配慮についての上記

bの誤った

解釈を前提とするものであるから、その点で採用できない。上記

aのとお

り正当と認められる、原判決が示した教育上特別な配慮の解釈や教職員の加配措置の意義等を前提とすると、弁護人が主張する継続的な支援は、教職員の加配措置には当たらないし、両幼稚園において、障がい幼児に対して教職員の加配措置など経費が発生する継続的な特別の支援措置、すなわち、教育上特別な配慮を行っていなかったことも明らかである。
なお、I幼稚園の特別支援教育担当教職員調査票に記載された教職員のうち、栄養士の資格を有する事務職員のP21は、弁護人が主張するとおり、食物アレルギーのある園児について、資格を活かして、毎月提示されるメニューの確認や調理師との打合せなどをしていたことが認められる(P2014頁~15頁、54頁~55頁、P2219頁~20頁、甲128)
。しかし、P21
の仕事は、パソコンによる文書作成や授業料の引き落とし手続など、ほぼ事務仕事であり、P21が食物アレルギーへの対応それ自体を目的として配置されたものではなく、この点について追加的な人件費が発生していたものでもないから、P21の上記業務が加配に該当しないことは、原判決が正当に説示するところである(79頁)


保護者同意の有無について

原判決は、関係証拠(甲130、甲131)により、本件対象園児の保護者らは、いずれも、両幼稚園から補助金の制度趣旨の説明を受けておらず、また、補助金を申請すること及び診断書等を府や市に提出することに同意していなかったと認定した(83頁)
。これに対し、弁護人は、両幼稚園では、
保護者宛ての養護教育に関わる助成のための調査についてと題する書面(甲86、甲106各末尾添付)が毎年度作成されており、同文書には、幼稚園生活、通園バスにおいて配慮を要すると思われる幼児について診断書等の提出を求めること、これを幼稚園から大阪府に提出すること等が記載され
ているところ、被告人Aは、上記書面を各幼稚園の園児の机に配布し、各園児に持ち帰らせる方法により保護者に交付したから、子の障がいの状況に関する診断書を提出した保護者は、その診断書が府や市に提出されることについて、黙示に同意していたと主張し、上記認定には合理的な疑いが残るという(趣意書201頁から202頁)

確かに、平成24年4月10日付けの上記書面の存在は認められる。しかし、保護者らのほか、I幼稚園やJ保育園に長らく勤務しているP20、P23ら及び被告人Bは、こぞって保護者同意の存在を認識していない旨供述している。その上、P20は、平成29年3月までは上記書面ないしこれと同一内容の書面を見たことがないと述べているところ(P208頁)
、上記書面等が実
際に毎年度配布されていたのであれば、P20がそれらを見たことが全くないとは到底考えられないし、保護者らに保護者同意の趣旨が全く伝わっていないというのも著しく不自然である。そうすると、上記書面等が実際に配布されていたとは考えられず、原判決の上記認定を揺るがすものではない。ウ
欺罔行為及び被告人Aの故意について

上記ア

b、

b及びイの弁護人の主張は、いずれも理由がない。したが

って、診断書の変造のない障がい幼児を含めて、被告人Aが両幼稚園について原判示の年度において、教育上特別な支援を行っていたように装った内容虚偽の書類及び保護者同意を得ているように装った内容虚偽の書類を提出するなどして、府市補助金等の交付申請を行い、欺罔行為に及んだことは明らかであり、これに反する弁護人の主張は採用できない。
そして、被告人Aに、上記の欺罔行為に及ぶことの認識、すなわち、詐欺の故意が認められることは、原判決が正当に説示するとおりであって(86頁)
、これに反する弁護人の主張は採用できない。
被告人Aの論旨は理由がない。


検察官の事実誤認の論旨中、被告人Bの故意について

原判決は、被告人Bは、補助金等が特別支援教育にかかった人件費等を対象としており、府市補助金等の交付を受ける要件として、特別支援教育(障がい幼児に対して教職員の加配など経費が発生する特別の支援措置)を行っている必要があることについて認識していたとは認められないと判断した(86頁~87頁)
。しかし、この判断は、以下に述べるとおり、論理則、
経験則等に照らして不合理であり、是認できない。

府市補助金等の詐欺の故意を認める前提として必要な特別支援教育す
なわち教育上特別な配慮という交付要件に係る認識内容について
原判決は、交付要件として特別支援教育を行っている必要があることについての被告人Bの認識を検討するに当たり、
教育上特別な配慮の有
無を判断するための正に中心的な要素であると位置付けられる教職員の加配措置に着目し、加配要件の認識として、担任教員以外の教職員による付添い等が必要であることについての認識が必要であると解した上、被告人Bがこのような認識を有していると認められるかどうかを検討し、被告人Bが交付要件として、加配要件ないし教職員の加配措置が必要であることを認識していたと認定することはできないと説示している(86頁~87頁、92頁~93頁)

しかし、詐欺の故意を認定する前提として必要な交付要件の認識については、検察官が主張するとおり、加配要件についての正確な認識までは不要と解するのが合理的である。
すなわち、府市補助金等の詐欺は、本来、府市補助金等を受給できる場合ではないのに、受給できる場合であるかのように偽り、申請して受給するという基本構造であるから、本来、府市補助金等を受給できる場合ではないことを認識している必要がある。もっとも、経常費補助金事件において先に言及したとおり、詐欺の故意を認める前提として、交付要件の正確な認識が必要であるという弁護人の主張(答弁書32頁)によった場合、不当な結果を
招くおそれがある。そして、府市補助金等の交付要件として必要とされる特別支援教育(教育上特別な配慮)は、原判決が指摘するように、教職員の加配措置、すなわち、担任教員以外にも、障がいを持つ園児に日常的、継続的に付き添うなどの支援を行う教職員を配置することを中心とするものであるが、補助金という性質から、特別支援教育の本質を捉えれば、経費が発生する継続的な特別の支援措置とみることができる。そうすると、詐欺の故意を認定する上で必要となる、特別支援教育の存在が交付要件とされていることに係る認識は、補助対象事業である障がい幼児への配慮(支援、援助、世話、見守りを含む。
)のため通常の業務においてかける以上に別途、人件費等の
特段の経費をかけた上で、上記の配慮を行うのでなければ、府市補助金等は受給できないという程度の認識でも足りるというべきである。同旨をいう検察官の主張は、正当である(趣意書68頁~69頁)


被告人Bは、障がい幼児への配慮のため通常の業務においてかける以
上に別途、人件費等の特段の経費をかけた上で、上記の配慮を行うのでなければ、府市補助金等は受給できないと認識していたかについて
府市補助金等に関する被告人Bの認識について
原判決は、被告人Bの原審公判供述により、被告人Bには、身体的疾患を有する園児の保育に関し、教職員が援助することにより補助金等を受けるという程度の認識はあったと認定している(87頁)
。被告人Bは、当審公判
においても、府市補助金等について、養護補助金と理解しており、その内容については、アトピーやぜんそく、食物アレルギー等に特別な配慮が要る園児に対して、教職員が全員で情報を共有し、いろいろと気を使い、注意深く見守るなどして配慮すること全般に対してもらえる補助金と理解していた旨、原審公判供述とほぼ同様の供述をしている(当審22頁~25頁)。
上記のとおり、被告人Bは、教職員が上記のような通常の業務体制で園児に対する援助を行いさえすれば、別途、人件費等の特段の経費の発生がなく
とも補助金が得られると理解していた旨を述べている(なお、被告人Bは、当審公判において、超酸化水、可視光線等の物品に費用が掛かっているとも述べるが、補助金が交付される理由として述べているのは、ほとんどが教職員の活動についてである。。しかし、被告人Bのこの供述は、以下のとおり)
疑問があって、信用性に乏しいというべきである。
a
補助金は、補助金の交付の対象となる経費の発生を前提としているか
ら、その経費が発生しないのに補助金が交付されるということは不合理である。この点、経常費補助金事件において述べたとおり、被告人Bが両学園の運営に欠くことができない補助金に強い関心を持っていたことや、被告人Bが平成13年頃、被告人Aとともに府補助金の存在を知り(原審被告人B45頁)
、平成14年当時から、その関係書類に幼稚園名や代表者名を記入するなどして関わってきたことからすれば、被告人Bにおいて、補助金が経費に対して補助されるものであるという基本的な事柄すら理解していなかったというのは、不自然である。
b
幼稚園に上記のような身体的疾患を有する幼児が就園することは通常
起こり得ることであり、それらの幼児を受け入れた幼稚園の教職員が、日常業務の中で通常要求される個々の園児の特性に応じたお世話をする、すなわち日常的、継続的に援助することは、むしろ当然であるから、そのように通常の業務体制で対応し、別途、人件費等の特段の経費をかける支援措置を行ってもいないのに、補助金の交付が受けられると考えるのは不合理である。
c
そもそも養護教育費補助金にせよ府市補助金等にせよ、
教育費と

いう名称が付されており、これが補助の対象となる経費を示すことは明らかであるところ、被告人Bがそれらの名称を一切目にしていないとは考え難い(甲54資料1、3、12-1~4)
。そうすると、被告人Bとしても、府
市補助金等について、経費の発生を伴う幼稚園側の対応と結び付けて考える
のが自然である。
平成23年度のP24とのやり取りに関するP24の原審証言の信用性について
原判決は、特別支援教育の存在が府市補助金等の交付要件とされていることに係る被告人Bの認識の有無、程度、ひいては、被告人Bにおいて、障がい幼児への配慮のため通常の業務においてかける以上に別途、人件費等の特段の経費をかけた上で、上記の配慮を行うのでなければ、府市補助金等は受給できないと認識していたかの認定に大きく関わる、平成23年度の被告人BとP24とのやり取りを述べるP24の原審証言の信用性を否定した。しかし、原判決のこの信用性評価は甚だ不十分であり、原判決が説示した程度の理由で信用性を否定したのは、論理則、経験則等に照らして不合理である。この点は、当審で供述変遷の理由や供述経過等を立証趣旨として取り調べた証人P24の当審証言及びP24の平成29年8月18日付け検察官調書(当審検22)によって、より一層明らかとなった。以下、詳しく述べる。
a
原判決が要約するとおり(87頁)
、P24は、原審公判において、被

告人Bとの間で、平成23年度の補助金申請に際して、次のような電話のやり取りがあったと証言した。すなわち、
私は、被告人Bに対し、食物アレルギーの園児の具体名を挙げながら、その副申書の内容について、具体的に園でどのような配慮、すなわち加配等をしているのかを教えてほしいと尋ねた。すると、被告人Bは、食物アレルギーの園児のために専門の栄養士を雇っている、隣の子が卵を触った手で当該園児に触れただけでもアレルギーのショックが出るから、現場ではそのように触れたりしないかどうかというところまで付き添って気を配らないといけない旨熱心に語った。私はこれを聞いてとても勉強になった。私は、問い掛けの際に副申書とか加配という言葉を出したが、被告人Bから意味が分からないなどとは言われなかった。という内容である。なお、上記要約のほかに、P24は、要旨、
平成23年12月頃、I幼稚園に、障がい幼児と認められる最終的な人数の確認文書を送付したところ、被告人Bから電話で、なぜこの子は対象じゃないのという問合せがあった。このときアレルギー鼻炎の園児の話が出て、私が、そういう園児に目薬を差すという配慮は考えられるにしても、加配してまで行うことが必要なのかと尋ねると、被告人Bは、加配してまでの対応はしていないと返答した。そこで、それでは対象にならないと説明すると、被告人Bは納得し、最終的な人数が確定した。という内容も証言している。b
原判決は、同判決が要約したP24の上記証言の信用性を否定した理由
として、P24の上記証言を客観的に裏付ける証拠がないことのほか、P24は、捜査段階では、原審証言のような被告人Bとの具体的やり取りについて述べていないことを挙げる。そして、後者の点を敷衍し、P24が、平成29年6月から同年8月にかけて3回の事情聴取を受けながら、原審証言のような印象的な出来事を思い出さなかったというのは不自然であり、また、捜査段階における検察官も、被告人Bの故意が重要な捜査対象であることを十分理解していたはずであるし、府職員の供述の中に、府市補助金等の要件や虚偽申告の認識につながる被告人Bとのやり取りなどがないかについて関心を払って事情聴取をしていたはずであるから、やはり不自然であるとして、平成23年当時の出来事に関する記憶が曖昧であるからこそ、上記のような供述経過となった疑いを払拭することができないと説示した。
c
しかし、P24は、捜査段階では原審証言で述べた被告人Bとのやり取
りを供述していなかったが、原審公判では証言するに至った事情について、原審公判の段階から、既に、要旨、

検察官に呼ばれたときは、自分以外の人も呼ばれていたので、事情聴取までの間に過去の書類を見たりせず、事情聴取の場で聞かれて、その場で思い出したことを述べていた。、

全体の話を聞かれ、一個一個掘り下げてという形ではなかった。、

平成29年当時、私学課を出ており、手元に副申書等はなかった。、

証人として呼ばれたときは、証人に選ばれて法廷に立つということで責任を感じ、記憶の正確さを持たせるため、副申書等の根拠となる当時の書類を確認し、できる限り思い出して証言した。、

I幼稚園は食物アレルギーが多いという印象から副申書をざっと見て考えるうちに、被告人Bとの卵アレルギーのやり取りを思い出した。、

最終的に対象として絞ったものもあったことについて考えるうちに、アレルギー性鼻炎についてのやり取りを思い出した。

と証言していた。
さらに、P24は、当審公判において、要旨、
平成29年の小野間検事の事情聴取でも、被告人Bともやり取りがあったことや、何でこの子は対象にならないのという問合せを受けたことは話したが、詳しい話をしなかった。その理由は、小野間検事から制度概要をメインにして聞かれ、被告人Bとのやり取りについて突っ込んで聞かれることはなかったこと、5年も前のことだし、別の業務があり、多忙で面倒だなという気持ちがあったこと、私以外にも同僚が呼ばれており、自分が証言台に立つという意識もなかったこと、そのため、事前に調べて記憶を喚起する意識はなく、当日聞かれたことに対して、覚えていることを話そうという気持ちだったことによる。、裁判で証言することが決まり、宇賀検事との打合せで、被告人Bとのやり取りを詳しく話した。その理由は、宇賀検事から被告人Bとのやり取りについて、当時のエピソードがないかを含めて、詳しく聞かれた上、証言台に立つのは初めての経験でプレッシャーがあり、自分の発言に責任を伴うと思い、記憶喚起をするため、私学課に当時の資料を見に行き、思い出したことがあったからである。、

食物アレルギーの副申書を見ていて、なぜこれを対象にしたのかと考えているうちに、被告人Bから卵アレルギーの件でやり取りしたことを思い出した。、

アレルギー性鼻炎については、申請された園児全員を対象にしたわけではないと思い、どういった園児を対象外として園と話をしたかを思い出すうちに、被告人Bとのやり取りを思い出した。

と証言した。
P24のこれらの証言は、一貫したものである上、P24が、捜査段階から、被告人Bともやり取りがあり、何でこの子は対象とならないのという問合せを受けたと供述していたことは、平成29年8月18日付け検察官調書(当審検22)によって明らかである。そして、これらの証言内容は、捜査段階で事情聴取を受けた際の心境、事情聴取に向けた準備等の対応、検察官の事情聴取の仕方と、証人出廷が決まってからの心境、打合せをした検察官の事情聴取の仕方、証人出廷に向けた準備等の対応等について、前者と後者の違いを具体的に挙げて、供述変遷の理由を納得できる形で述べる自然なものであるし、被告人Bとのやり取りを思い出した状況にも何ら不自然なところはない。そうすると、P24のこれらの証言は、信用できるものというべきである。
これに対し、弁護人は、P24の当審証言によると、①P24は、小野間検事から事情聴取を受けた平成29年6月時点には、いわゆるC問題が世間的に問題となっていることや、大阪府が補助金の不正受給で告訴したことを知っており、緊張し、きちんと対応しなければならないと思って、事情聴取に臨んだこと、②小野間検事の取調べで卵アレルギーに関する副申書自体を現認していること、③P24は、平成23年に補助金事務を担当しているときから、C学園から提出された副申書や診断書を見て、食物アレルギーを持つ園児は結構多いという印象を持っていたことが指摘できるから、P24が小野間検事の事情聴取で被告人Bとのやり取りの具体的内容を思い出さなかったというのは不自然であると主張する(弁論87頁~89頁)

しかし、①について、P24は、そのことを前提としつつも、証人出廷が決まってからとは、様々な点で違いがあったと説明しているのであるから、主張は当たらない。②について、P24は、原審公判及び当審公判において、平成29年6月14日付け及び同年7月6日付け検察官調書(甲67、甲96)の各末尾に添付された数十件の副申書を個別に見せられたわけではなく、自
分のメモ書きがある熱性けいれんの副申書については、小野間検事に聞かれて確認し、回答した記憶があるものの、卵アレルギーないし食物アレルギーについては、エピソードを聞かれていないし、それらの副申書は、末尾添付のものにぱらぱらと押印したときにあったと思うなどと述べているのであるから、主張は当たらない。③については、そのことが、事情聴取に際して被告人Bとのやり取りを思い出すことに直結するとはいえない。その余の主張を踏まえても、供述変遷の理由に関するP24の原審証言及び当審証言の信用性を揺るがすものはない。
d
そうすると、原判決が、P24の供述が変遷していることを主な理由と
して、被告人Bとのやり取りに関するP24の原審証言の具体的内容や虚偽供述の動機等について検討することなく、上記証言の信用性を否定したのは、不合理であるといわざるを得ない。
そこで、P24の原審証言の具体的内容を検討すると、それは、経験したからこそ述べられる具体性を有するものであるし、不自然な点も見当たらず、勘違いや記憶違いをするような内容でもない。また、P24が、曖昧な記憶しかないのに確かにあった出来事として虚偽の証言をする動機や、検察官から押し付けられ又は検察官に迎合して虚偽の証言をした形跡は、いずれも見当たらない。
以上によれば、上記のような被告人Bとのやり取りに関するP24の原審証言は、信用できるのであり、原判決は、この点の証拠評価を誤ったものというべきである。同旨をいう検察官の主張は、正当である(趣意書79頁~85頁、弁論18頁~21頁)

平成23年度のP24とのやり取りによって推認できる事実についてa
P24の原審証言によれば、平成23年度の補助金申請に際し、P24が
加配や副申書という言葉を用いつつ、被告人Bとの間で、食物アレルギーやアレルギー性鼻炎の園児について上記のようなやり取りをした事実が認めら
れる。
このうち、食物アレルギーの園児の関係で、被告人BがP24に述べたことは、要するに、食物アレルギーという障がいのある園児への対応をするために専門の栄養士を雇用して、幼稚園に配置している、という内容である。しかし、栄養士の資格を有する事務職員のP21の仕事がほぼ事務仕事であり、P21は食物アレルギーへの対応それ自体を目的として配置されたものではなく、この点について追加的な人件費が発生していたものでないことは、先に述べたとおりであるから、
食物アレルギーの園児のために専門の栄養士を雇っているという発言は、実態とかけ離れた虚偽の内容であるといえる。このように、被告人Bは、教職員の加配という観点から、府補助金の支給対象とすることに疑問を投げかけてきたP24に対し、最初問合せを受けた被告人Aに代わる折り返しの電話で、その支給が認められる方向で、あえて上記のような虚偽の発言をしているのである。この事実は、被告人Bにおいて、障がい幼児への配慮のため通常の業務においてかける以上に別途、人件費等の特段の経費をかけた上で、上記の配慮を行うのでなければ、府市補助金等は受給できないと認識していたことを推認させる有力な事情といえる。b
また、検察官が主張するとおり(趣意書77頁~78頁)
、平成23

年度の申請書類に含まれる副申書には、障がいの状態を食物アレルギーとした上で、
食事制限などで栄養士・調理士と随時詳細なうちあわせをし
(甲
126・165頁)

園栄養士・調理士と教員組織との給食会議にアレルギ、ーについて月2回会議

(同213頁)等の被告人Aによる記載が多数存在
し、さらに、その後の平成27年度に被告人Aが府職員に提出した資料にも、

食物アレルギーの対応には専属栄養士を配置し、園で当日気をつけたことを家庭に連絡し、家庭での食事の相談にのったり、情報交換をすることを主任務としている

などの記載がみられ(P199頁、同末尾添付別紙2の6枚目)
、平成28年度の申請書類に含まれる副申書にも、

加配アレルギー担当栄養士を配置し、給食委員会を月2度対応

等の被告人Aによる記載がある(P2015頁、同末尾添付別紙5)
。P20の証言やP21の供述(甲128)に
よれば、これらの記載も、実態からかけ離れており、あたかもI幼稚園において、食物アレルギー対策専門の専属栄養士を雇用しているかのような虚偽の内容であると認められ、被告人Bの上記発言との共通性がみられる。そして、被告人Aは、平成23、24、27、28年度に、実際には加配に該当しないP21を特別支援教育担当教職員として府補助金を申請しており(甲128)
、その際、被告人Aが加配措置の意義など、府市補助金等の交付要件を熟知した上、教育上特別な支援を行っていたように装って、府市補助金等をだまし取る意思を有していたことは明らかである。被告人Aが府補助金を詐取しようとして副申書等に記載した虚偽の内容と、被告人BのP24に対する虚偽の上記発言内容が、偶然に一致したとは考え難く、この事実は、上記aの推認を支える事情である。
c
なお、原判決は、P24と被告人Bとのやり取りがあったとしても、付
添い等をする教職員が担任以外の者でなければならないという認識を基礎付けるような内容であるとはいえないと説示しており(89頁)
、確かに、被
告人Bが述べた付添いの主体は明確ではない。しかし、被告人Bは、加配という言葉の意味が分からないなどと言うこともなく、上記のとおり、食物アレルギーへの対応を理由とする専門の栄養士の雇用という虚偽を述べたほか、アレルギー性鼻炎の園児に目薬を差すという配慮について、加配してまでの対応はしていないという理由で、府補助金の対象とならないことに納得している。これらのことからすると、原判決の上記説示を踏まえても、被告人Bは、障がい幼児に対する配慮のため特別に人件費をかけることが、府補助金の受給につながるという関係を理解していたことが推認され、この事実も上記aの推認を支えるものである。
以上につき、概ね同旨をいう検察官の主張は、正当である(趣意書85頁
~88頁)

被告人Bが加配措置に関する偽装工作に関与したかについて
被告人Bが加配措置に関する偽装工作に関与したとする検察官の主張に対し、原判決は、検察官主張の偽装工作がなされ、かつ、被告人Bが偽装工作に関与したことを認めることはできないと判断した(89頁~91頁)。し
かし、原判決の上記認定、判断は、原審で取り調べられた証拠によっても、合理性を備えたものとは考え難い上、当審で事実の取調べとして、証人P25並びにP25の平成29年8月25日付け及び同月29日付け検察官調書の各一部(当審検2、同3中の令和3年7月6日付け決定による各採用部分)を取り調べた結果、上記認定、判断の誤りは一層明らかになった。以下、詳しく述べる。
a
前提となる事実関係について

原審で取り調べられた関係証拠によれば、P18ら府職員による平成28年6月の補助金調査(以下本件調査という。
)の実施、P18が保育現場を
見たときの状況、P26及びP27による授業の手伝いと被告人Bからの現金の支払い、本件調査前日に行われたP23とP20との間のメールのやり取り等についての原判決の認定は、正当である(89頁~90頁)
。若干、補足する
と、本件調査に従事したP18の証言によれば、P18は、府補助金の関係で、加配教員がどのような形で配置されているかを見る目的の下に、I幼稚園の園内を見て回った際、一つの部屋に担任教員がいるが、それ以外にも複数の教員が動き回っている様子を見て、加配教員の配置について当初抱いていたイメージとは違ったものの、被告人Aからの説明も受けて、複数の加配教員が動き回ることで園児を見ているものと理解し、納得したことが認められる。b
偽装工作の有無について

被告人Aがかねて府市補助金等を詐取するため、教職員の加配措置を講じていないのに講じているかのように偽っていたことは明らかであるところ、
この事実と、本件調査当日に、普段はI幼稚園に来ないP27やP26が来園して、実際よりも教職員の人数が多い外観を呈し、府職員が上記のとおり、加配教員が配置されているものと納得したことを併せ考えれば、これは偶然ではなく、被告人Aが偽装工作を図ったものであるという推認が、元々相当程度働くといえる。加えて、P23とP20との間の上記メールのやり取りは、原判決が説示するように、監査で実情をきちんと説明できるかという不安からのものとみるより、日常、障がい幼児に対して取り立てて言うほどの配慮をしていないのに、監査に際して、障がい幼児に対して配慮しているように、実情を取り繕うことへの不安を述べたものと理解する方が、文言に照らして、むしろ自然であり、それがI幼稚園における上の立場の者からの指示によることも、両名の証言から容易にうかがわれる。この事実は、被告人Aが、本件調査について、実情を取り繕うことによって乗り切ろうとしていたことを推認させ、上記偽装工作の存在に沿う事情といえる。
これに対し、原判決は、P27とP26による手伝いについて、両名が監査対応による人手不足を補ったにすぎないとみる余地もあるとして、偽装工作の存在を認めなかった。
しかし、本件調査は、事前に準備するよう連絡済みの関係書類の確認、基本的に幼稚園の責任者である被告人Aが同行して行う保育現場の確認及び被告人Aらからの聞き取りを目的とするものであったから(P189頁、末尾添付別紙3)
、監査対応に多くの教職員が駆り出され、その手が取られて人手
不足を招く事態は、想定し難いものであった。また、P27及びP26は、幼稚園の教員をしているわけではないから(原審被告人B39頁)
、教員の代わ
りを務めることができるか疑問であり、両名が人手不足を補うのに適しているとはいえず、現に、両名は、当日、クラスの授業の手伝いをしたにとどまり(P2030頁)
、監査対応で教職員が不在となったところに配置されたもの
ではなかった。これらのことからすると、上記のような原判決の想定は、そ
の合理性に疑問があるといわざるを得ない。同旨をいう検察官の主張は、正当である(趣意書94頁~95頁)

のみならず、原判決が上記のようにみる余地がある理由として、P27とP26がこの日に幼稚園を訪れるに至った経緯や幼稚園による具体的な指示内容等が証拠上不明であることを挙げていたため、当審でP25の証人尋問を行い、同人の検察官調書の一部(当審検2、同3中の上記各採用部分)も取り調べたところ、以下の事実が認められることが明らかとなった。


両幼稚園で園児に将棋を教えていたP25は、平成28年6月1日、I幼
稚園の職員室で、被告人両名から、

6月10日の午前中に行政の視察が来る。I幼稚園で応援が必要である。

などと言われて、本件調査当日にI幼稚園に来るよう依頼された。その理由について、被告人両名は、それぞれ、先生が多い方が手厚くしているようでいいとか、未就園児の説明会があって人が取られるので、人が足りないなどと話しており、何人か連れてくるようにP25に依頼した。


P25は、これを引き受け、将棋の弟子で将棋の授業をするときに手伝わ
せたことのあるP26と、卒園生のP27に、

I幼稚園に行政の視察が来るらしいので、応援が要る

旨告げて、応援に来るよう依頼した。③

本件調査当日、P25、P27及びP26は、3人で、スーツを着てI幼稚園
に行き、それぞれ別のクラスに入って、園児の様子を見ることになった。P25は、被告人Bから、

堂々として、先生らしく振る舞うように、P26君やP27君に言っておいてね。

と言われ、P27とP26にそのまま伝えた。④

P27とP26は、当時、いずれも大学生で、幼稚園の先生の経験はなく、
P27は、本件調査前にI幼稚園の授業に入ったことはなかった。⑤

本件調査当日、P25は、将棋の授業をしておらず、年中園児のクラスに
入って、園児の間を動き回りながら、園児の姿勢を正したり、声掛けをしたりした。



本件調査当日、P25、P27及びP26のほかに、体育のP28先生やP29先
生、高等C学園保育園で働くP30先生も来ており、I幼稚園の教職員の人数が普段の倍くらいになっていた。
以上のとおり認められる。なお、P25の当審証言は、本件調査当日の応援を依頼した人物や場所、応援が必要である理由の説明の有無、P27とP26に連絡を取った理由、P27とP26に授業に入る心構えを伝えたことの有無、本件調査当日のI幼稚園に来ていた教職員の人数等について、検察官調書における供述と実質的に異なっている。しかし、P25は、検察官の取調べに際しては当時の記憶どおりに述べ、検察官調書については、読み聞かせを受けて、その内容に間違いがないことを確認して、署名押印したものであるから、検察官調書に記載されている出来事、事象は、自らが記憶に基づいて話した内容に間違いないと思うと証言していること、また、P25は、検察官の取調べを受けた当時の方が、記憶が鮮明であった旨証言していること、P25は、被告人両名が保釈された平成30年5月以降、令和2年10月まで、被告人両名と会ったり、連絡を取ったりしており、被告人両名との関わりが継続していたこと、検察官調書と実質的に異なる証言は、被告人両名に有利な方向に曖昧となる内容であることからすれば、相反部分として当審で取り調べたP25の検察官調書の一部(当審検2、同3中の上記各採用部分)に、刑訴法321条1項2号後段の特信情況が認められることはもとより、信用性も認められる。
そして、上記①ないし⑥の事実は、本件調査当日、I幼稚園に配置された教職員の人数を実際以上に見せかける偽装工作が行われたことを一層推認させる一方、被告人両名の依頼でP25を介して動員されたP27とP26が、監査対応による人手不足を補ったという実態になかったことを明らかにするものといえる。
これに対し、弁護人は、㋐P25らがI幼稚園に来園したのは、府職員に同
幼稚園の特徴的なカリキュラムを見てもらうことも目的としていたし、
P
25らは、被告人両名から、補助金調査が行われる授業時間又は昼食時間において、障がい幼児への配慮に関する指示を受けておらず、実際、P25らは、障がい幼児に対する配慮と評価し得る行動もしていないから、加配措置の偽装工作はなかったと主張する(答弁書43頁~44頁、弁論86頁~87頁)
。しかし、㋐については、P18の証言によれば、本件調査は、1か月ほど前に寄せられた通報を契機に実施された臨時の調査であって、カリキュラムの視察を目的とするものではなかったことが認められるし、P25の当審証言によっても、当日、将棋をはじめとする特徴的なカリキュラムの視察が行われた様子は全く見当たらない。被告人Bは、当審公判において、本件調査当日、P25が将棋の授業のために来て、その関係でP27とP26も連れてこられたかのように述べるが、P25の当審証言に反しており、信用できない。で指摘された事情は、実際には配置されていない教職員が配置されているかのような外観を作り出し、府職員にそのように誤解させる効果を失わせるものではないから、偽装工作が行われたとの認定を妨げない。
以上によれば、検察官主張のとおり、加配措置に関する偽装工作の存在が認められるのであって、これが認められないとした原判決の認定、判断は、不合理であり、是認できない。
c
被告人Bの偽装工作への関与について

原判決は、本件調査当日、偽装工作があったとしても、関係者や教職員の行動は、被告人Aの指示によるものであると考えられると説示した上、被告人Bによる関与は、P27とP26に現金を渡したことに止まり、被告人Bが経理事務として小口現金の管理や出納に携わっていたことも踏まえると、被告人Bが、詳しい事情を知らないまま、単に経理担当者として金銭を交付したとみる余地があると説示して、被告人Bの関与を認めなかった(90頁~91頁)


しかし、検察官が主張するとおり(趣意書98頁~100頁)
、被告人A
が、府職員の前で、教職員ではない者を動員して加配教職員がいるかのように見せかける偽装工作を行うに当たり、被告人Bに事情を知らせないまま、蚊帳の外に置いたという想定は、不自然であるといわざるを得ない。すなわち、府職員とやり取りをする立場である被告人Bが事情を知らなければ、被告人Bの対応の仕方によって、偽装工作が発覚してしまうおそれがあることや、被告人Bが被告人Aと共同経営しているI幼稚園の副園長であって、府補助金にも強い関心を抱いていたことからすると、被告人Aが被告人Bに偽装工作について知らせないということは、考え難い。また、被告人Bが、本件調査当日になぜ来たか事情も分からないまま、漫然とP27とP26にお礼の名目で現金を支払うということも考え難い。
以上のとおり、原判決の説示の合理性には疑問がある上、事実取調べの結果によって明らかとなった上記①ないし⑥の事実、とりわけ、被告人Bが被告人Aとともに、P25に対し、先生が多い方が手厚くしているようでいいなどと話して、本件調査のために応援を連れてくるように依頼したことや、本件調査当日も、教員ではないP27及びP26に対し、P25を介して、先生らしく堂々と振る舞うようにとの伝言をしたことなどからすると、被告人Bが偽装工作について認識し、主体的に関わったことは明らかに認められる。これに対し、弁護人は、㋐被告人Bの原審公判及び当審公判における供述に依拠して、P27及びP26に対する支払いは、過去にバザーや将棋大会の手伝いをしてくれたこと、小学校の先生になりたいという気持ちがある両名のことをかわいらしく思っていたこと、大学の入学や卒業のお祝いを兼ねていたことを理由とするものであるし、

仮に被告人Bが偽装工作に対する謝礼

と認識していたのであれば、領収証を作成するといった不正行為の痕跡をわざわざ残す方法を採らないはずであるから、P27及びP26に対する支払いは、偽装工作に対する謝礼ではないと主張する(答弁書44頁~45頁、弁論8
7頁)
。しかし、㋐については、その元となる被告人Bの供述は、過去の手伝いに対するお礼や入学、卒業のお祝いという趣旨を含むお金を、6月10日という時期になって、しかも、わざわざ領収証をもらった上で渡すというのは、不自然であることや、そもそもP25に対する本件調査への応援依頼自体を否定していることに照らし、信用できないから、当たらない主張である。についても、本件調査のため人を集めるという行為は隠すのが難しく、現金を交付したことも口止めするとかえって疑われるから、領収証を渡して、その趣旨について弁解することにしたとみることが可能であって、指摘された事情は、偽装工作に対する謝礼であることと矛盾しない。
d
上記aないしcで述べたところによれば、検察官が主張するとおり、
本件調査当日、I幼稚園では、教職員ではない者を呼んで加配教職員がいるように見せかける偽装工作が行われ、被告人Bが、被告人Aとともに、同偽装工作に主体的に関与したことが認められるから、原判決がこれらの事実を認めることはできないと認定、判断したのは、不合理であり、誤りである。そして、上記事実は、被告人Bにおいて、障がい幼児への配慮のため通常の業務においてかける以上に別途、人件費等の特段の経費をかけた上で、上記の配慮を行うのでなければ、府市補助金等は受給できないと認識していたことを推認させる事情である。
小括
上記

の平成23年度のP24とのやり取りや、上記

の平成28年6月の

補助金調査における偽装工作への関与によれば、被告人Bにおいて、障がい幼児への配慮のため通常の業務においてかける以上に別途、人件費等の特段の経費をかけた上で、上記の配慮を行うのでなければ、府市補助金等は受給できないと認識していたことが推認され、これに反する被告人Bの供述は、上記

のとおり信用できないから、この推認を妨げるものではない。

したがって、被告人Bは、補助金等が特別支援教育にかかった人件費等を
対象としており、府市補助金等の交付を受ける要件として、特別支援教育を行っている必要があることについて認識していたものと認められ、この認識が認められないとした原判決の認定、判断は不合理であり、是認できない。ウ
被告人Bのその余の故意について

ここで、これまで検討した特別支援教育に係る被告人Bの認識のほか、府市補助金等の詐欺の故意における被告人Bのその余の認識についても、検討しておく。
特別支援教育が行われていないことの認識について
両幼稚園において、
教育上特別な配慮すなわち特別支援教育が行われ
ていなかったことは、先に述べたとおりであり、障がい幼児の支援のために殊更、教職員を雇用して配置することはなかったし、手当等の特別の人件費をかけることもなかったと認められる(K8頁~9頁)

関係証拠(原審被告人B6頁~10頁、69頁~71頁、甲46)によれば、被告人Bは、両幼稚園の副園長として、両幼稚園の教育実務に携わり、日常的に教職員、園児及びその保護者と接し、個々の園児の処遇上の問題点を把握し、教職員会議にも頻繁に出席し、主任教員や担任教員から必要な業務報告を受け、教職員や保護者へのアドバイスも行っていたこと、被告人Bは、両幼稚園において、経理担当者として、小口現金及び預貯金の管理や出納を行っており、また、K税理士に宛てて、毎月、通帳の写しや領収証等を郵送し、給与計算に必要な情報をその都度伝えるなどしていたことが認められる。
上記のように、被告人Bが現場をよく知る責任者であり、かつ、経理担当者であったことからすれば、被告人Bは、両幼稚園において、障がい幼児に対する継続的な配慮(支援、援助、世話、見守りを含む。
)のために、教職
員を特別に雇用するとか、配慮に対する特別の手当てを支給するなどしておらず、それに伴う人件費等の特段の経費が発生していないことや、そのよう
な立場の教職員がいないことを十分認識していたものと認められる。したがって、被告人Bには、両幼稚園のいずれにおいても特別支援教育が行われていないことの認識があったと認められる。
保護者同意の認識及び府市補助金等の交付申請の認識について
原判決が、被告人Bにおいて、府市補助金等の交付を受ける要件として、障がい幼児等の保護者から保護者同意を得る必要があること、両幼稚園のいずれにおいても、保護者同意が得られていないこと、両学園が府市補助金等の交付を申請し、その交付を受けたことについて、全て認識していたと認定した点は、その理由も含めて、正当と認められる(93頁~96頁)。した
がって、原判決が、被告人Bにおいて、被告人Aが保護者同意の存在を偽って両学園への府市補助金等の交付を申請し、交付を受けたと認識しており、その意味で、被告人Bに詐欺の故意を肯定したことも是認できる。教育上特別な支援を行っていたように装う欺罔行為についての被告人Bの認識について
既に認定したとおり、被告人Bは、詐欺の故意を認定するのに必要な限度で、府市補助金等の交付要件である特別支援教育の内容について認識しており、また、両幼稚園において特別支援教育が行われていないのに、被告人Aの申請により府市補助金等が交付されていることを認識していた。これらのことに、平成23年度のP24とのやり取り及び平成28年6月の補助金調査への被告人Bの関与の各事実を併せ考えれば、被告人Bは、本件府市補助金等の詐欺について、被告人Aが教育上特別な支援を行っているように装う欺罔行為をしていることを認識していたものと認められ、その意味でも詐欺の故意を肯定することができる。
上記の認定は、被告人Bに保護者同意の関係で詐欺の故意が認められることとも整合する。すなわち、被告人Bが特別支援教育について、被告人Aの申請に何ら虚偽が存在しないと認識していたならば、保護者同意の手続につ
いて虚偽の申請をする理由も必要性も考え難く、むしろ積極的に保護者同意の手続をとるのが自然であるにもかかわらず、被告人Bは、保護者同意を得ていないことを認識しながら、それを得ようとはしなかったのであり、これは、特別支援教育の関係でも申請に偽りがあることの認識につながる事実である。同旨をいう検察官の主張は、正当である(趣意書75頁~76頁、弁論15頁~16頁)



検察官の事実誤認の論旨中、共同正犯の成立について

原判決は、

被告人Bに、虚偽の府市補助金等の申請をしてこれを詐取することについて、被告人Aとの間での意思の連絡や正犯性を認めるに足りる証拠はないから、被告人Aと被告人Bとの間に共謀があったとは認められない

と説示して、被告人Aとの共同正犯の成立を否定する。すなわち、原判決は、検察官が、被告人Bについて、被告人Aとの共謀が成立する根拠として指摘する、①被告人Bが被告人Aと特別支援教育や保護者同意の存否を偽ることにつき、遅くとも平成14年頃に、意思を通じていなかったとすれば、補助金が交付される理由を尋ねたり、書面の作成をやめるなどするはずであるのに、実際には府市補助金等の交付申請を続けていること、②被告人Bは、P24に対し、専門の栄養士を雇っているなどと述べ、被告人Aの作成する書面と整合する申告をしたこと、③被告人Bは、平成24年度において、府職員から送付された書面に

養護にメスが入りましたね。

などと記載してK税理士に送付したことにつき、いずれも検察官の主張を排斥した。具体的な内容をみると、原判決は、①について、被告人Bは、補助金等の交付がなされたときに、それを前提にして両幼稚園の経理処理を行っていたにすぎないとみる余地が十分にある、②について、前提となる事実が認められない、③について、この文言は、それまでの両幼稚園に係る府市補助金等の申請が要件を欠くものであったとか、被告人Bにそのような認識があったと当然に解釈できるものではないと説示した(96頁~97頁)


しかし、原判決の②の説示は、その認定が誤っているし、①、③の説示も、被告人Bは、補助金等が特別支援教育にかかった人件費等を対象としており、府市補助金等の交付を受ける要件として、特別支援教育を行っている必要があることについて認識していたとは認められないという原判決の誤った認定を前提としている点で、当を得ないものである。
そこで、被告人Bに、被告人Aが特別支援教育と保護者同意の双方の関係で虚偽申請をすることの認識が認められることを前提として、被告人両名間の虚偽申請についての意思の連絡の有無及び被告人Bの正犯性について、当審において改めて検討する。

被告人両名間の虚偽申請についての意思の連絡の有無について

上記⑶のとおり、被告人Bは、平成23年度から平成28年度までの間における両幼稚園に係る府市補助金等について、被告人Aが特別支援教育の点及び保護者同意の点を偽る内容虚偽の書類を提出して、虚偽申請をしていることを認識していた。
そして、被告人Bは、原判決が認定するとおり(91頁~92頁)、I幼
稚園の平成23年度の府補助金の申請に係る各副申書の園長名の欄に被告人Aの名前を記入したり、平成26年度市交付金の請求書の振込先の口座名義の欄に学校法人や代表者の名前等を記入したりするなど、虚偽申請書類の作成に関与している。
また、既に説示したとおり、被告人Bは、平成23年、P24に対し、被告人Aに代わる折り返しの電話で、食物アレルギーの園児のために専門の栄養士を雇っていると虚偽を述べており、これは、被告人Aが副申書等に記載した虚偽の内容と合致しているし、被告人Bは、平成28年6月の補助金調査において、被告人AとともにI幼稚園に配置された教職員の人数を実際以上に見せかける偽装工作に関与し、P27及びP26に謝礼を渡すなどした。さらに、被告人Bは、経理担当者として、交付された府市補助金等の受入れ口座
を管理し、その支出に関わっていた。
加えて、経常費補助金事件でも指摘したとおり、被告人Bは、両幼稚園を夫である被告人Aとともに共同経営しており、補助金の受給に強い関心と執着を抱いていた。
以上によれば、府市補助金等の虚偽申請について、被告人両名の間に意思の連絡があったことを優に認定でき、これと同旨をいう検察官の主張は正当である。

被告人Bの正犯性について

被告人Bは、府市補助金等の申請手続について、これを被告人Aに任せつつも、上記のとおり、様々に重要な関与を行ったほか、その立場に照らして、府市補助金等の受給について被告人Aと共通の利害関係を有しており、受給についての関心も高く、動機を肯定することができる。以上に照らせば、被告人Bに正犯性が認められることは明らかであり、これと同旨をいう検察官の主張は正当である。
なお、
養護にメス云々の記載については、経常費補助金事件で説示し
たとおり、被告人Bの補助金に対する強い関心を示す一事情として捉えるのが相当である。


検察官の事実誤認の論旨に対する結論

以上のとおり、本件起訴に係る府市補助金等の虚偽申請について、被告人Bには、被告人Aによる虚偽申請の認識及び被告人Aとの共謀を認めることができる。
また、検察官は、被告人Aに対する事実誤認の論旨として、原判決が、被告人Aについて、被告人Bとの共謀を認めず、単独犯として認定したことには、判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認があると主張する。しかし、経常費補助金事件と同様、被告人Aは、特別支援教育費事件の首謀者であり、実行行為の全てを1人で行って、主体的、積極的に犯行を主導したの
に対して、被告人Bは、あくまで被告人Aの下、従属的に関与したにすぎないのであるから、被告人Bとの共同正犯としての被告人Aの犯情は、単独犯としてみたときと比べ、有意な差異があるとはいえない。したがって、被告人Aの単独犯とする原判決の事実誤認が、被告人Aに対する判決に影響を及ぼすことが明らかであるとは認められないのであって、結局のところ、この点についての検察官の事実誤認の論旨は理由がない。
第3

法令適用の誤りの論旨について

被告人Aの法令適用の誤りの論旨は、原判決は、サステナブル補助金事件、経常費補助金事件及び特別支援教育費事件に係る被告人Aの行為に詐欺罪ないし詐欺未遂罪を適用したが、補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下補助金適正化法という。)29条1項は刑法246条1項の特別規定であって、欺罔行為による補助金等の詐取については、刑法246条1項の適用が排除され、特別法である補助金適正化法29条1項に違反する補助金等不正受交付罪を適用すべきであるから、被告人Aの行為に詐欺罪ないし詐欺未遂罪を適用した原判決には、法令適用の誤りがあり、補助金等不正受交付罪と詐欺罪の法定刑の違いに照らすと、これが判決に影響を及ぼすことは明らかである、というものである。
しかし、人を欺いて補助金等又は間接補助金等の交付を受けた旨の事実について詐欺罪で公訴が提起された場合、当該行為が補助金適正化法29条1項違反の罪に該当するとしても、裁判所は当該事実について刑法246条1項を適用することができる(令和3年6月23日最高裁第三小法廷決定・刑集75巻7号641頁)。と解するのが相当であるから、これに反する論旨は、採用の余地がない。
被告人Aの法令適用の誤りの論旨は理由がない。
第4

量刑不当の論旨について

被告人Aの量刑不当の論旨は、被告人Aを懲役5年に処した原判決の量刑
は、重過ぎて不当である、というものである。
先に述べたサステナブル補助金事件、経常費補助金事件及び特別支援教育費事件からなる本件について、原判決が(量刑の理由)の項で認定、説示した量刑事情及びその評価はいずれも相当であって、被告人Aを懲役5年に処した原判決の量刑が重過ぎて不当であるとはいえない。
1
サステナブル補助金事件について

弁護人は、原判決が、工事代金等の額や実施設計の着手の時期について偽るために虚偽の契約書の作成まで行っており、手口が巧妙かつ大胆であると指摘した点について、これらの手口を考案し実際に主導しているのは、被告人らではなく、P1らE社関係者であるとして、次のとおり主張する。すなわち、①サステナブル補助金事件は、E社関係者が被告人らの何らの指示なく、約22億円の見積書を添付して事業提案申請書を提出するなどして、補助金受給までの絵を描き、主導したものである、②この間、E社関係者は、補助金申請に関する詳細な報告をすることなく、被告人らの減額要請を事実上無視し続け、建築費用を下げず、被告人らが予定していた建築費用をやむなく増額せざるを得ない形で、建築工事に係る契約に至らしめ、国有地の地代も継続的に発生する中で、補助金を受給しなければ高額な建築費用をまかなうことができない状況に追い込んだ。以上のとおり主張する(趣意書204頁~205頁)。しかし、①については、原判決が指摘するとおり(40頁)、事業提案申請書の提出に先立ち、被告人らが本来よりも多額の補助金をもらいたいという趣旨の話をし、P1らの行為がその意思を受けてのものと考えられる上、本件事業提案申請の約1週間後には被告人らも事後的に説明を受けたという事実関係が存することや、既に述べた犯行による利益の帰属主体も考慮すれば、当たらない主張である。②についても、正犯性の検討において述べたとおり、被告人らが自らの判断により建設工事請負契約に応じたことを無視する当たらない主張である。そうすると、虚偽の契約書の作
成という手口がE社関係者の提案によるものであることは、これに了承を与え、関与した被告人らの犯情評価を左右しない。
弁護人は、原判決が、交付された補助金について私的流用を目的とするものではないとはいえ、無理な資金計画を補助金の詐取によって補おうとすることは安易であると指摘した点について、結果的に無理な資金計画になってしまったことは、E社関係者の責任であるとして、上記②と同様の主張をする(205頁~206頁)。しかし、この主張が当たらないことは上記のとおりであるし、資金計画上無理であるならば、計画変更や撤退で対処すべきは当然であって、原判決の指摘は誠に正当である。
弁護人は、補助金の申請主体にとって、①できる限り多額の補助金の交付を受けたいという意向を有することは、何ら不当なものではないし、②補助金自体は、設計費用や建築費用の一部として、設計業者及び建築業者に支払われるものであるから、原判決は、設計業者や建築業者の受け得る利益を過少評価し、形式的な補助金受給主体であるC学園ないし被告人らの利益が特別に大きいという誤った評価の下に、量刑をしていると主張する(趣意書206頁~207頁)。しかし、①について、原判決は、被告人らが犯行の中心的な立場であったと認められる理由の一つとして、被告人らの意向に言及したにすぎず、それ自体を非難しているわけではない。②についても、被告人らが自らの負担で支出すべき設計費用や建築費用の一部が、詐取した補助金でまかなわれることになるから、被告人らが最大の利益主体であることは動かない。
2
経常費補助金事件及び特別支援教育費事件について

弁護人は、①被告人Aは、被告人両名が専任教職員該当性を欠くことについて、明確かつ積極的な故意まではなかった、②両幼稚園では、障がい幼児の特性に応じた継続的な支援行為、特別な配慮行為を現実に行っていた、③両幼稚園とも、毎年行われる大阪府の監査において問題点を指摘されておら
ず、犯行が長期間にわたった一因となっている、④被告人Aは、特別な配慮行為のために保護者から徴収する保育料を値上げしないで済むようにするため、特別支援教育費事件に及んだなどと主張する(趣意書209頁~212頁)。
しかし、①については、既に説示したとおり、被告人両名に係る経常費補助金について、被告人Aには詐欺の確定的故意が認められるから、前提を欠く主張である。②について、両幼稚園における支援、配慮は、特別支援教育という府市補助金等の交付要件を満たす内容ではなかった上、この交付要件を偽った詐欺の犯情として、②の事情を格別斟酌すべきものとは考えられない。③については、監査で発覚しないのをよいことに、違法行為を続けるという発想自体が非難されるべきである。④について、原判決は、経常費補助金事件と同様に、交付された補助金等が両幼稚園の運営資金に充てられていて、私的流用を目的とするものではないことを、ある程度考慮しているとみられる上、たとえ保育料の値上げを避けるという理由もあったにせよ、運営資金の不足を府市補助金等の詐取という不正な手段で補おうとしたことは、原判決指摘のとおり、正当化できない。
3
全般について

原判決は、上記のとおり、適切に犯情を評価した上、C学園がサステナブル補助金の受給額の全額である5644万円余りを返還したこと、C学園の民事再生手続において、同学園が、過去に交付を受けた補助金等の返還債務につき、一部の免除を受けた後、大阪府に対して60万円を、大阪市に対して32万4752円をそれぞれ弁済し、さらに、その残額を再生計画に基づき弁済することが見込まれること、被告人Aに前科前歴がないこと、経常費補助金事件及び特別支援教育費事件の一部については不正受給を認めて謝罪の気持ちを表していることなど、被告人Aのために有利に酌むべき事情も考慮に入れて、被告人Aに対する量刑をしたものである。

弁護人は、被告人らが長期間身柄を拘束された上、小学校建設の夢が絶たれるなど、教育事業に携わることができなくなり、有していた財産を失うなどして社会的制裁を受けていることを刑の量定に当たって考慮すべきであると主張する(趣意書213頁)。しかし、社会的制裁は、考慮するにも限度がある一般情状に属する事柄である上、身柄拘束の点については、未決勾留日数の算入で適切に考慮されているし、その他の点も、被告人らの自業自得といわざるを得ないのであって、原判決の量刑事情に関する検討が不十分であるとはいえない。
弁護人の主張は、いずれも採用できず、被告人Aに対する原判決の量刑は、偏りのない事案相応の評価をしたものとして是認でき、これが重過ぎて不当であるとはいえない。
当審における事実取調べの結果によれば、被告人Aが理事長を務めるG学園は、大阪府から提起されていた平成23年度から平成25年度までの経常費補助金及び府特別支援教育費補助金の返還請求訴訟につき、令和3年5月12日、原告府の請求を全部認諾したこと、府は、この認諾調書に基づき、強制執行として、G学園が有する供託金還付請求権及び供託利息払渡請求権の差押命令を申し立て、同年6月3日、債権差押命令が発せられ、これにより、府は、供託金2134万1525円及びその利息を収受することになったことが認められる(当審弁書55、同56)。そうすると、G学園は、本件起訴に係るJ保育園関係で詐取した府特別支援教育費補助金合計1881万6000円のうち、上記返還請求訴訟で請求されていた627万2000円については、弁償をしたものと認められる。しかし、本件各犯行による被害金額全体のうち弁償未了の額がなお相当多額に及んでいることからすれば、以上に加えて、上記の債権差押えにより、上記被害弁償分を元金とする延滞金及び加算金の支払いがされ、更に起訴されていないJ保育園関係の経常費補助金について、弁償や延滞金及び加算金の支払いがされたことを考慮して
も、原判決の量刑を見直すべきものとは考えられない。また、民事再生手続の過程で、I幼稚園が休園となり、その土地建物が売却されるに至ったことも認められるが(当審弁書58~同60)、同じく原判決の量刑を見直すほどの事情とは考えられない。
その他、弁護人は、民事再生事件を担当する再生裁判所及び再生管財人の不当な手続によって、C学園の再建が不可能となったという事情や、本件が国策による不当な起訴であることを量刑上考慮すべきであるなどとも主張するが(弁論28頁~31頁)、いずれも採用の余地がない主張である。被告人Aの量刑不当の論旨は理由がない。
第5
1
結論
以上に述べたとおり、検察官の被告人Aに対する本件控訴及び被告人
Aの本件控訴は、いずれも理由がないから、刑訴法396条により、いずれもこれを棄却し、当審における訴訟費用は刑訴法181条1項ただし書を適用して、被告人Aに負担させないこととする。
2
他方、原判決が、サステナブル補助金事件について、被告人Bを被告
人Aとの共同正犯として有罪と認定した点に事実の誤認はなく、被告人Bの事実誤認の論旨は理由がないが、原判決が、被告人Bについて、経常費補助金事件の詐欺の故意及び被告人Aとの共謀を認めず、また、特別支援教育費事件の詐欺の故意の一部及び被告人Aとの共謀を認めなかった点は、事実を誤認したものといわなければならず、その誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかであるから、検察官の被告人Bに対する事実誤認の論旨は理由があり、被告人Bの法令適用の誤り及び量刑不当の論旨について判断するまでもなく、原判決中、被告人Bに関する部分は破棄を免れない。
3
破棄自判

そこで、刑訴法397条1項、382条により原判決中、被告人Bに関する部分を破棄し、同法400条ただし書により、直ちに当裁判所において自
判すべきものと認め、更に次のとおり判決する。
(当裁判所が新たに認定した事実)
原判決が被告人Aの関係で摘示する原判示罪となるべき事実第2の本文3行目の統括していたものであるがを、

統括していたもの、被告人Bは、I幼稚園の副園長として、被告人Aが行う業務を補佐するなどしていたものであるが、被告人両名は共謀の上

と改め、同第3の本文4行目の統括していたものであるがを、

統括していたもの、被告人Bは、両幼稚園の副園長として、被告人Aが行う業務を補佐するなどしていたものであるが、被告人両名は共謀の上

と改め、同第4の本文2行目の統括していたものであるがを、

統括していたもの、被告人Bは、I幼稚園の副園長として、被告人Aが行う業務を補佐するなどしていたものであるが、被告人両名は共謀の上

と改めるほか、被告人Aに関する原判示第2、第3及び第4の各事実(別表を含む。)と同一であり、以下、順次、被告人Aと同様に罪となるべき事実第2、第3及び第4として表記する。
(法令の適用)


原判示第1の行為
刑法60条、246条1項(包括一罪)
当裁判所が認定した上記第2、第3の1、第3の3及び第4の1の各行為別表1の番号1ないし6、別表2の番号1ないし
5、別表3の番号1ないし3、別表4の番号1な
いし3の番号ごとに刑法60条、246条1項
(ただし、別表1の番号1と番号2、番号3と番
号4、番号5と番号6、別表4の番号1と番号2
はそれぞれ包括して)
当裁判所が認定した上記第3の2、第4の2の各行為

それぞれ刑法60条、250条、246条1項
併合罪の処理

刑法45条前段、47条本文、10条(犯情の
最も重い原判示第1の罪の刑に法定の加重)

未決勾留日数の算入

刑法21条

訴訟費用の不負担

原審及び当審における訴訟費用につき刑訴法1
81条1項ただし書

(量刑の理由)
サステナブル補助金事件についての犯情や被害弁償、被告人Aと対比した被告人Bの刑事責任の程度は、原判示(量刑の理由)の1に記載されたとおりである。経常費補助金事件及び特別支援教育費事件については、いずれもその手口が巧妙かつ大胆であること、長期間にわたり多額の補助金を詐取しており、結果が重大であること、交付された補助金等はいずれも各幼稚園の運営資金に充てられており、私的流用を目的とするものではないが、犯行は正当化されないことが指摘できる一方、酌むべき事情として、被告人Bは、虚偽申請の実行行為に及んでおらず、手口についても、詳細を把握していたわけではなく、各犯行において従属的な立場にあったこと、経常費補助金事件については、全体の故意責任を免れないものの、被告人両名及びP7並びに平成26年度のP6については、虚偽申請の認識が認められないこと、C学園の民事再生手続において、大阪府に対して60万円を、大阪市に対して32万円余りをそれぞれ弁済し、大阪府に対する残額189万9698円も弁済が見込まれること、上記債権差押えにより、本件起訴に係るJ保育園関係で詐取した府特別支援教育費補助金合計1881万6000円のうち、627万2000円の弁償がなされ、加えて、これを元金とする延滞金及び加算金の支払いがされ、更に起訴されていないJ保育園関係の経常費補助金について、弁償や延滞金及び加算金の支払いがされたことなどを指摘できる。そして、全般について、被告人Bには見るべ
き前科がないことも指摘できる。これらを総合考慮し、被告人Aに対する量刑との均衡も踏まえると、被告人Bに対しては、主文の実刑に処するのが相当である。
よって、主文のとおり判決する。
令和4年4月18日
大阪高等裁判所第5刑事部
裁判長裁判官

西田眞
裁判官五十嵐常之は退官のため、裁判官武田義


は差支えのため、い

ずれも署名押印することができない。

裁判長裁判官

西田眞基
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