判例検索β > 平成23年(ワ)第3265号
原子力発電所運転差止等請求事件
事件番号平成23(ワ)3265
事件名原子力発電所運転差止等請求事件
裁判年月日令和4年5月31日
法廷名札幌地方裁判所
全文全文添付文書1添付文書2添付文書3添付文書4添付文書5添付文書6
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-05-31
情報公開日2022-06-21 04:00:08
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判決主文
1被告は、別紙2一部認容当事者目録(掲載省略)記載の原告ら(以下一部認容原告らという。との関係で、

別紙3原子炉目録記載の原子炉1号機ないし3
号機を運転してはならない。
2一部認容原告らのその余の請求及び一部認容原告ら以外の原告ら(以下全部棄却原告らという。)の請求をいずれも棄却する。
3訴訟費用は、
一部認容原告らに生じた費用の3分の2及び被告に生じた費用の
40分の1を一部認容原告らの、全部棄却原告らに生じた費用及び被告に生じた費用の80分の77を全部棄却原告らの、一部認容原告らに生じた費用の3分の1及び被告に生じた費用の80分の1を被告の負担とする。
事実及び理由
第1請求の趣旨
1被告は、
別紙3原子炉目録記載の原子炉1号機ないし3号機を運転してはならない。
2被告は、
別紙3原子炉目録記載の原子炉1号機ないし3号機の建屋に存在する使用済み核燃料を同建屋から撤去せよ。
3被告は、
別紙3原子炉目録記載の原子炉1号機ないし3号機の廃炉措置を行え。第2事案の概要等
1事案の概要
本件は、日本国内又は国外に居住する原告ら1201名が、北海道古宇郡泊村大字堀株村に所在する原子力発電所である北海道電力株式会社泊発電所(以下泊発電所という。
)を保有している被告に対し、同発電所が地震、津波、火山
事象等に対する安全性を欠いており、これらが生じた場合に予測される事故によって生命、身体等に対する重大な侵襲を受ける危険があると主張して、人格権に基づく妨害排除請求権又は妨害予防請求権の行使として、
①別紙3原子炉目録記
載の原子炉1号機ないし3号機(以下、単に〇号機と表記する。また、これらの原子炉を総称して本件各原子炉という。
)の運転を差し止めること(以
下、この請求を運転差止請求という。、②本件各原子炉の建屋に存在する使)
用済み核燃料(以下使用済燃料という。
)を同建屋から撤去すること(以下、
この請求を核燃料撤去請求という。、③本件各原子炉の廃炉(核原料物質、)
核燃料物質及び原子炉の規制に関する法律(以下原子炉等規制法という。)上
の廃止措置のこと。以下同じ。
)を行うこと(以下、この請求を廃炉請求とい
い、上記①及び②の請求と併せて本件各請求という。)をそれぞれ求める事案
である。
2関係法令等
本件に関係する法令等は、別紙4のとおりである。なお、同別紙で用いた略称等は、本文でも用いる。
3前提事実
以下の事実は、当事者間に争いがないか、後掲各証拠又は弁論の全趣旨により容易に認められる(証拠の掲記がない事実は当事者間に争いがない。また、判断欄を含め、証拠又は準備書面等に付記した[

]内の数字は、関連する主な頁を表

す。。



当事者
原告らは、いずれも日本国内(北海道から沖縄県までの範囲)又は国外(英国及び米国)に居住する者である。
被告は、一般電気事業を目的とし、北海道全域に電力を供給している株式会社であり、泊発電所を設置する者である。



泊発電所について
泊発電所は、北海道古宇郡泊村大字堀株村に所在する原子力発電所である。泊発電所に設置された原子炉の概要は、
別紙3原子炉目録記載のとおりであ
る。1号機は平成元年6月、2号機は平成3年4月、3号機は平成21年12月にそれぞれ運転を開始したが、
平成24年5月に3号機の運転が停止されて
以降、いずれも、本件口頭弁論終結時に至るまで、運転をしていない。⑶

原子力発電について

原子力発電の仕組み
原子力発電は、
ウラン等の核燃料物質の核分裂連鎖反応によって発生する
熱エネルギーを利用して水を蒸気に変え、その蒸気によってタービンを回転させて発電する発電方法である。
核分裂連鎖反応とは、ウラン等の核燃料物質の原子核に中性子が衝突して原子核が分裂(核分裂)する際に、熱エネルギーが発生すると同時に中性子が放出され、
その中性子が更に別の核燃料物質の原子核に衝突して次の核分
裂を起こすという作用を繰り返すことで、核分裂が連鎖的に発生するとともに、熱エネルギーが継続的に発生する現象のことをいう。
核燃料物質が核分裂反応をする際、放射線を発生させる性質(放射能)を有する物質(放射性物質)が必然的に発生する。


原子力発電所の構造
原子力発電所では、上記アのような核分裂連鎖反応を原子炉内において発生させる。原子炉の中心部である炉心には、核分裂連鎖反応によって発熱する核燃料物質の集合体(以下核燃料という。
)があるほか、核分裂
で新たに放出される高速の中性子を次の核分裂反応が発生しやすい速度に減速させるための減速材
、核分裂連鎖反応により発生した熱エネル
ギーを取り出すための冷却材
、原子炉内の中性子を吸収してその数を
調整することにより核分裂連鎖反応を制御するための制御材などがある。これら核燃料、冷却材等は、原子炉容器という円筒形の容器で覆われており、この原子炉容器を指して原子炉と呼称されることもある。軽水炉とは、減速材及び冷却材の両者の役割を果たすものとして水(軽水)を用いる発電用原子炉のことをいう。軽水炉は、熱エネルギーの取り出し方によって、更に沸騰水型軽水炉(BWR)と加圧水型軽水炉(PWR)に分けられる。なお、泊発電所は加圧水型軽水炉である。
加圧水型軽水炉においては、原子炉内を加圧することにより、冷却材である水を、核分裂連鎖反応による熱エネルギーによって沸騰させることなく、高温、高圧の熱水の状態で維持している。そして、
蒸気発生器と呼
ばれる機器において、この高温、高圧の熱水(一次冷却材)と別の系統の水(二次冷却材)との間で熱交換をさせ、後者の水(二次冷却材)を蒸気に変え、その蒸気が主蒸気管を通ってタービンに送られ、タービンが回転することによって、
発電を行う。
タービンを回転させた蒸気は、
復水器
において、
冷却水
(海水)
により冷却されて再び水
(二次冷却材)
となる。
この水(二次冷却材)が、給水管を通って蒸気発生器に戻り、再び蒸気となってタービンを回転させる。このサイクルを繰り返すことにより、継続して発電を行う。
加圧水型軽水炉では、核燃料として、核燃料物質を円柱状に焼き固めた燃料ペレットを、長さ約4メートルの耐熱性及び耐圧性の高いジルコニウム基合金(ジルコニウムに鉄やクロムを加えた合金の総称をいう。)
製の被覆管(以下燃料被覆管という。
)の中に入れ密封した燃料棒
を使用しており、
この燃料棒をまとめた燃料集合体が炉心を構成している。
また、制御材として、中性子吸収材が詰められた制御棒を燃料集合体内部に配置しており、この制御棒を出し入れすることによって、炉心に存在する中性子の数を増減させて核分裂反応を調整し、原子炉の出力を制御している。
原子炉及び一次冷却材の供給設備は、炭素鋼を材料とする気密性の極めて高い密封容器に格納されており、同容器を原子炉格納容器という。原子炉格納容器の更に外側には、コンクリート製の構築物があり、これを原子炉建屋という。

使用済燃料
原子炉において核燃料物質が核分裂連鎖反応を終えると、放射線を発生させる性質
(放射能)
を有する物質
(放射性物質)
である使用済燃料が生じる。
使用済燃料は、既に燃料として使用されたものであるが、その後も放射線を放出し続け、これに伴い熱エネルギー(崩壊熱)を発生し続け、それによって原子炉施設が損傷して事故が発生する危険があることから、継続して冷却することが必要になる。そのため、原子炉から取り出された使用済燃料は、使用済燃料貯蔵施設

使用済燃料ピット
使用済燃料プール
などとも
呼称される。
)で貯蔵され、継続的に冷却される。


放射線による健康被害(乙E2)
放射線は、人体に悪影響があるとされている。すなわち、人体に放射線が照射されると、細胞のDNAが損傷するとされており、強い放射線を短時間浴びることで、細胞が死滅し、臓器中の細胞死が一定割合を超えると臓器の機能不全が発生し、場合によっては死に至ることもある(確定的影響)。ま
た、弱い放射線であっても、それを長期間浴びることによって、細胞のDNAが損傷し、がんの発生確率が増大するなどといった健康被害が発生する(確率的影響)




原子力発電所施設の安全確保
原子力発電は、前記のとおり、核分裂連鎖反応で発生する熱エネルギーを利用して発電するものであり、軽水炉は、水によって冷却することで熱エネルギーを取り出すものであるが、何らかの原因で核分裂連鎖反応が行われている炉心の冷却ができなくなった場合(原子炉容器が破損することにより冷却材が漏れ出し、冷却材が喪失すること(冷却材喪失事故(LOCA)
)がその一例であ
る。、原子炉内部で異常な高温が発生し、原子炉を構成する機器が破損するお)
それがある。特に、燃料被覆管は、ジルコニウム基合金で構成されているところ、炉心の温度が850℃を超えると、ジルコニウムと水が反応するようになり(水-ジルコニウム反応)
、その結果、水素が発生し、水素爆発に至るおそれ
がある。同温度が更に上昇して2800℃を超えると、炉心自体が溶け出していわゆる炉心溶融(メルトダウン)の状態になり、溶けた核燃料が原子炉外部にまで及び、放射性物質が外部に放出・拡散される事態が発生するおそれがある。
原子力発電所において、放射性物質が外部に放出・拡散されるこのような事故が発生すると、
周辺住民に重大な健康被害を発生させるおそれがあることか
ら、原子力発電所については、放射性物質の外部への放出・拡散を防ぎ、安全を確保するための対策が必要となる。
原子力発電所では、一般に、①核燃料ペレット、②燃料被覆管、③原子炉冷却材圧力バウンダリ
(一次冷却材と同じ圧力条件になる範囲とそれ以外の範囲
の境界(器壁や管壁)の総称である。、④原子炉格納容器、⑤外部遮へい(原)
子炉建屋)
という5つの構造的な対策五重の壁

ともいわれる。によって、

運転に伴い発生する放射性物質が外部に放出される事態を防いでいる。また、そのような事態を防ぐために、段階に応じて、原子炉の運転について異常が発生すること自体を未然に防止する対策(異常発生防止対策)
、異常が発生した
としても、原子炉の運転を確実に止めることや原子炉を冷やすことにより、
異常の拡大を防ぐ対策
(異常拡大防止対策)仮に事故が発生したとして

も、放射性物質を発電所内に閉じ込めることにより、放射性物質の外部への放出を防ぐ対策(放射性物質放出抑制対策)という三段構えの対策(多重防護)をすることが求められている。
この止める
冷やす
閉じ込めるを実現するための施設として、原子
炉には、原子炉格納施設、非常用炉心冷却設備(ECCS)
、原子炉格納容器ス
プレイ設備、
アニュラス空気浄化設備といった複数の設備で構成された工学的
安全施設が備えられるほか、
これら安全施設が機能するためには電気が必要で
あることから、地震、津波等の災害により、外部電源及び発電所内の内部電源からの電力供給が途絶しないよう対策をすることが必要とされている。他方、使用済燃料貯蔵施設については、使用済燃料が冠水して冷却される状態が維持される必要はあるが、障壁による閉じ込めは必要とされていない。⑸

東北地方太平洋沖地震及び福島第一原子力発電所事故の発生
平成23年3月11日、
東北地方太平洋沖地震及びこれに伴う津波が発生し、
これにより、
福島県に所在する東京電力株式会社福島第一原子力発電所におい
て、発電所設備を稼働させる電源が喪失し、各原子炉を冷却することができなくなった。その結果、同発電所の原子炉建屋内で水素爆発が発生し、原子炉格納容器及び原子炉建屋が破壊されるなどして、
多量の放射性物質が外部に放出
される事故(以下福島第一原子力発電所事故という。
)が発生した。



本件訴えの提起
原告らは、
東北地方太平洋沖地震及び福島第一原子力発電所事故の発生後で
ある平成23年11月11日(平成23年(ワ)第3265号事件、以下第1事件という。)及び平成24年11月12日(平成24年(ワ)第2532
号事件)に、本件各訴えを提起した。



原子炉等規制法の改正等及び新規制基準の制定
東北地方太平洋沖地震及び福島第一原子力発電所事故を契機として、原子力発電所に対する国の安全規制が見直され、平成24年6月27日、原子力規制委員会設置法(以下設置法という。
)及び原子炉等規制法の改正法が公布さ
れ、順次施行された。
設置法により新たに環境省の外局として設置された原子力規制委員会は、国家行政組織法3条2項に基づいて高度の独立性が保障された組織であり、原子炉に関する規制をはじめ原子力利用における安全の確保を図るために必要な施策の策定・実施を一元的に司ることとされた(設置法2条、4条)。また、原
子炉等規制法の改正によって、
発電用原子炉の設置許可及び変更許可が原子力
規制委員会の権限とされ(原子炉等規制法43条の3の5第1項、43条の3の8第1項)
、設置及び変更の許可の要件について、原子力規制委員会が規則
で定める基準に適合するものであることとされたほか
(同法43条の3の6第
1項4号、43条の3の8第2項)
、同基準に適合していない発電用原子炉の
設置者に対して、原子力規制委員会が、当該発電用原子炉施設の使用停止等の保安のための必要な措置を命じることができるようになった(いわゆるバック・フィット制度。同法43条の3の23第1項)

原子力規制委員会は、平成25年7月8日、設置許可基準規則を含め、原子力発電所に関する新たな規制基準を定めた
(これらの規制基準を総称して、
新規制基準と呼ばれている。。

新規制基準が定められた頃、全国の原子力発電事業者が、その保有する発電用原子炉について変更許可の申請をした。原子力規制委員会は、以降、原子力発電事業者からされたこれら申請について、新規制基準に適合するか否かの審査(以下適合性審査という。
)をする会合(以下審査会合という。
)を
行っている。


泊発電所に係る適合性審査の進捗状況
(甲B81、
100~104、
107、
108、165~167、弁論の全趣旨)
被告は、新規制基準の制定に伴い、平成25年7月8日、原子力規制委員会に対し、本件各原子炉について、変更許可の申請をした(乙A6、7)。原子
力規制委員会は、以後、本件各原子炉についての適合性審査(以下本件適合性審査という。)を継続して行っているが、その経緯の概要は、以下のとお
りである(なお、原子力規制委員会は、本件各原子炉につき、3号機を優先的に審査し、2号機の審査は3号機の審査を終えてから行う方針としており、1、
以下の審査経緯は、3号機に関するものである。。


原子力規制委員会は、平成26年1月24日の審査会合において、被告に対し、泊発電所の北西にある積丹半島西岸沖の海底に活断層(将来活動する可能性のある断層等を指し、
当該断層を、積丹半島西岸沖海底活断層
以下
という。
)があり、これによって積丹半島の地形が隆起している可能性を指摘した。被告は、これに対し、同活断層の存在を否定し、以後の審査会合において、積丹半島の隆起及び傾動についての調査結果を報告したが、原子力規制委員会は、平成29年3月10日、被告の当該報告を踏まえても同活断層の存在を否定できないとして、被告に対し、同活断層が存在することを前提として、泊発電所の地震に対する安全性を検討するよう指示した。被告は、これを受けて、同活断層による影響等を検討することとしたが、後記ウの敷地内断層の問題に対応する必要が生じたため、積丹半島西岸沖海底活断層に関する適合性審査は、事実上中断した状態となった。

原子力規制委員会は、平成28年7月26日の審査会合において、被告に対し、泊発電所に設置されている防潮堤(別紙8図表1-1の防潮堤部分(盛土)及び防潮壁部分(鉄筋コンクリート壁)で構成されるもの。以下既存の防潮堤という。
)に関して、地震による地盤の液状化及び揺す
り込み沈下の可能性についてデータを拡充して説明するよう求めた。被告は、同年10月27日の審査会合において、これらについて現在行っている追加調査を踏まえて説明すると報告したが、平成29年9月29日、原子力規制委員会に対し、既存の防潮堤について、液状化等の可能性を否定する説明をせず、それに代えて、敷地の地下20メートルの硬い岩盤に杭を打ち込む構造の新たな防潮壁(別紙8図表2の①(赤線)部分。以下新たな防潮堤という。
)を建設する予定であり、今後は新たな防潮堤を前提に適合性を説明する旨を報告した。


被告は、
泊発電所の敷地の地盤に存在する複数の断層
(以下
敷地内断層
という。が活断層であることを否定する根拠として、

従前、
断層の上に堆積
していたとする火山灰の年代との対比を用いていたが、原子力規制委員会から、
敷地に火山灰が存在したのであれば周囲にも存在するはずであるとして調査を求められたことを踏まえ、調査をしたが、平成29年11月10日、原子力規制委員会に対し、火山灰が同敷地以外の場所では見つからなかったことを報告した。原子力規制委員会は、これを受けて、被告に対し、敷地内断層の活動性を否定する根拠が薄弱であり、このままでは泊発電所の施設について基準地震動を策定することすらできないと指摘した。被告は、以後の審査会合において、敷地内断層の活動性を否定する根拠の説明をしたが、原子力規制委員会が、平成31年2月22日、被告の説明では敷地内断層のうちの一つ(F-1断層。別紙6図表1-1及び1-2参照)の活動性が否定できないとの見解を表明したため、令和元年5月以降、敷地について追加調査を実施し、令和2年4月以降、原子力規制委員会に対し、同調査によって得られたデータを踏まえて、改めて敷地内断層の活動性を否定する説明をした。

以上のとおりであり、本件適合性審査は、本件訴訟の口頭弁論を終結した令和4年1月18日の時点において、いまだ終了しておらず、具体的な終了時期も明らかでない。
そして、前記のとおり、泊発電所の敷地周辺で発生する地震及び津波を予測する前提となる積丹半島西岸沖海底活断層に関する適合性審査が途中であることから、いまだ基準地震動及び基準津波が策定できない状況にある。また、火山事象に対する安全性に関する適合性審査についても、敷地内断層が活断層でないことの根拠として被告が指摘していた火山灰が見つからなかったために審査が終了しておらず、今後審査される予定となっている。さらに、津波対策のために建設予定である新たな防潮堤についても、上記のとおり基準津波が決まっておらず、防潮堤の構造も未定で、着工時期及び完成時期も明らかでない。

5争点
本件における主たる争点は、以下のとおりである。


本件各原子炉の運転による危険性

敷地内地盤の安全性の有無(敷地内断層の活動性について)


地震に対する安全性の有無(積丹半島西岸沖海底活断層について)

津波に対する安全性の有無


火山事象に対する安全性の有無


防災計画の適否



使用済燃料の危険性



廃炉の必要性



泊発電所で予想される事故による被害の範囲

6当事者の主張の要旨
争点に関する当事者の主張の要旨は、別紙5のとおりである。なお、同別紙で用いた略称等は、本文でも用いる。
第3当裁判所の判断
1本件訴訟の経緯等


本件訴訟は、平成23年11月に第1事件の訴えが提起され、それ以降、口頭弁論を終結した令和4年1月まで、10年以上が経過した。この間、新規制基準が施行されたことに伴い、
被告が平成25年7月に原子力規制委員会に対
して本件各原子炉の変更許可申請をしたが、当該時点からでも、約8年半もの期間が経過している。そして、本件訴訟の係属中、当事者双方とも主張及び立証を積み重ね、38回にわたる口頭弁論期日において、原告らが合計51通、被告が合計24通の準備書面を陳述し、証拠については、原告らが合計243号証、被告が合計172号証(いずれも枝番を除く。
)にのぼる書証を提出し
た。
本件における争点は、前記第2、5のとおりであり、本件各原子炉を運転するためには、同⑴アないしオに係る安全性を全て満たす必要があるところ、被告は、その主張及び立証について、本件適合性審査における原子力規制委員会との議論の動向を踏まえて随時行う姿勢を示し続けており、実際、本件適合性審査における問題点の指摘を受けた調査等によって、主張及び立証を追加あるいは変更している。当裁判所は、令和2年11月10日の進行協議期日において、
安全性に係る争点のうち、
積丹半島西岸沖海底活断層
(同イに関連する。

及び防潮堤支持基盤の液状化
(同ウに関連する。の各点について、

追加の主張
立証の有無について検討を求めたが、被告は、同年12月15日に開催した口頭弁論期日において、これらの点について、審査会合における審査の動向を踏まえて検討することになり、現時点で提出する予定はない旨を述べ、令和3年9月21日、同年11月16日、令和4年1月18日の各口頭弁論期日においても、敷地内断層の活動性(同アに関連する。
)以外の争点については、主張立
証を追加する具体的な予定はない旨を述べた。
他方、原告らは、従前から、審査会合の動向を踏まえて主張及び立証を補充する被告の姿勢を批判し、本件訴訟の審理が停止することになるので、いつ主張がされるか分からないものを待つことはできない旨の意向を示しており、令和元年11月26日付け準備書面(40)において、提訴以来約8年が経過したが、原子力規制委員会での議論の状況から、津波の安全対策の不備は明らかであり、この点だけでも弁論を終結して判決をすることは可能であること、令和2年8月21日付け時機に後れた防御方法却下の申立書において、被告の訴訟態度では、
原子力規制委員会で被告に都合の良い結論が出るまで半永久的に
本件訴訟の完結を延ばすことが可能になり、不当であって、本件訴訟の判決後に原子力規制委員会で何らかの結論が出て、それを基に被告が主張や不服申立てをしたいのであれば、
控訴審での追加主張や請求異議の訴え等によれば足り
ることなどの意見を述べており、令和4年1月18日の本件口頭弁論期日において、本件の各争点についての主張及び立証は既に尽くしており、追加はない旨を述べた。


原子力発電所の安全性は、原子力発電自体に関する科学的・技術的知見を前提に、発電所の施設に影響を与え得る地震、津波、火山事象等の自然現象に関する科学的・技術的知見も踏まえて総合的かつ慎重に検討されるべきものであり、事柄の性質上、このような安全性の調査及び検討には、相応の期間を要するものと認められる。また、原子力発電所は、地域社会への安定的な電力の供給という国民一般の社会経済活動にも密接に関連する存在であり、その運転の許否については慎重な審理が一般的に求められることや、原子力発電所の持つ危険性を科学的・技術的知見に基づいて適切に管理するために、一定の法規制やそのための専門組織が設けられており、その運転の許否は、専門家による議論及び最新の知見の集積をも踏まえて判断されるのが相当な面があることも否定し難い。民事訴訟の目的が、社会に生起する法的紛争を、紛争の実態に即して、適正かつ妥当に解決することにあること、そのためには、当事者が、当該訴訟の争点について、
十分な主張及び立証をすることが必要であることに鑑
みると、裁判所は、当該事案の性質等を踏まえて、当事者が主張及び立証の準備を適切に行うのに必要となる合理的な準備期間を考慮して訴訟を進行することが求められるのであり、原子力発電所の再稼働の可否に関する本件訴訟においては、
原子力発電所の性質やその運転許否の判断に関する上記の特質を考慮して、
各当事者の主張及び立証のための期間を合理的かつ適切に確保することが求められるというべきである。
また、
原子力発電所の再稼働をめぐる訴訟と並行して原子力規制委員会の審査会合が行われていると、
一定の時点において講じられている安全対策を前提
として当該原子力発電所が必要な安全性を満たしていない旨の判決を言い渡しても、仮に、その後の審査会合の状況を踏まえて事業者が更なる安全対策を講じ、
それによって原子力発電所に本来求められる安全性を満たすこととなった場合には、口頭弁論終結後に安全性を満たすに至る事情が生じたとして、上記判決の既判力が直ちには及ばない結果となるから、上記判決は、実質的な紛争解決に結びつかない可能性を一定程度含むものとなる。
しかしながら、本件訴訟についてみると、被告が本件各原子炉について変更許可申請をした平成25年7月8日から本件口頭弁論終結時までの間、約8年半の期間が経過しているにもかかわらず、被告は、本件各原子炉の安全性についての主張及び立証を終えていない。被告は、本件適合性審査の推移を見ながら主張及び立証を行うとする姿勢を一貫して示すが、本件適合性審査の進捗状況は、前提事実⑻に記載したとおりであり、発電所施設の安全性の中心である地震及び津波に対する安全性についての審査がいまだ終了せず、敷地内断層の活動性、
積丹半島西岸沖海底活断層の影響及び新たな津波防護施設の設計など、適合性審査に当たって検討が避けられない問題が数多く残っている状況である。また、泊発電所の津波に対する安全性が確保されるためには、基準地震動及び基準津波が策定された上で、
これらに対する防護を可能とする津波防護施
設が建設される必要があるが、泊発電所については、基準地震動及び基準津波がいまだ策定されておらず、津波防護施設となる新たな防潮堤の構造も未定である。そのため、本件口頭弁論終結時において、本件適合性審査が終了する時期は、およそ見通すことのできない状況であり、本件訴訟における被告の主張及び立証も、
いつまでに行われるのかがおよそ明らかでない状況にある。
また、
上記の約8年半という期間は、原子力発電所の安全性という事柄の重大性、専門性を考慮しても、社会通念に照らして短いものとはいえず、現に、泊発電所と同時期に変更許可申請をしたものの既に適合性審査に合格して再稼働に至っている原子力発電所も複数存在する(原告準備書面(44)別紙5参照)のであって、
これだけの期間を要してなお被告が主張及び立証を終えることができないことは、
泊発電所が抱える安全面ないしその審査における問題の多さや
大きさをうかがわせるものでもある。
この状況において本件訴訟の審理を継続することは、専ら被告側の事情によって、被告の主張及び立証が尽くされる時期の見通しが全く立たないまま、原告らに対し、いつ明確になるか分からない、あるいは審査会合の議論の状況によって変更され得る被告の主張及び立証に延々と対応することを余儀なくするものであって、原告らの本件各請求が、いずれも将来の時点ではなく、現在の権利に基づくものとして主張されていることに照らしても、
これを訴訟上正
当とすることは難しいものと考える。他方、口頭弁論終結後に泊発電所の安全性に関する事情が変化するような事態が仮に生じた場合には、請求異議の訴え等によって、事後に、その事情の変化をも踏まえた新たな実態に即した紛争解決を図る方途が残されている。
当裁判所は、
これらの諸事情を勘案した上で、
本件訴訟の審理経過に鑑みて、
審理をなお継続することは相当でないと思料し、本件口頭弁論終結時点において裁判をするのに熟した(民訴法243条1項)と判断して弁論を終結し、判決をするものである。


なお、被告は、本件口頭弁論終結後、令和4年2月17日付け口頭弁論再開申立書により、口頭弁論の再開を申し立てた。しかし、同申立書をみても、依然として本件適合性審査の終了時期は具体的に明らかとなっておらず、審査会合において原子力規制委員会の事実上の了解を得たとする一定の事項については、
主張及び立証をする予定の内容をある程度具体的に記載しているものの、それ以外については、なお、必要な範囲で速やかに主張する予定である旨の概括的な記載にとどまっており、本件適合性審査の動向を踏まえて随時主張及び立証をするという被告の姿勢が変わったとまでは捉え難いのであって、被告が各争点に関する主張及び立証を確定的に終えられる時期は、依然として見通すことができない。これらの事情のほか、口頭弁論再開後速やかに主張及び立証が可能であると述べる事項についても、口頭弁論終結前において主張及び立証ができなかった合理的な理由について説明がされていないことも考慮して、口頭弁論の再開は相当でないと判断した(被告は、敷地内断層の活動性に関する主張に限っては、
本件口頭弁論終結時においても具体的な主張をする予定を明
らかにしており、上記口頭弁論再開申立書においても、被告の防御権を保障する観点からその主張をする機会を付与すべきである旨指摘するが、後記判断のとおり、本判決は、敷地内断層の活動性について判断するまでもなく前記の主文を導くものであって、当該主張の機会を付与する必要はないものと思料した。。



以上を踏まえて、以下、泊発電所の安全性及び原告らの人格権侵害のおそれの有無について、判断する。

2人格権侵害のおそれの有無に係る主張立証責任等
原告らは、泊発電所が地震、津波及び火山事象に対する安全性を欠き、放射性物質が外部に放出される事故が発生するおそれがあるから、本件各原子炉の運転及び使用済燃料の存在によって原告らの人格権が侵害されるおそれがあると主張する。
一般に、
個人の生命及び身体という重大な保護法益が侵害される具体的危険がある場合には、当該個人は、人格権に基づく妨害予防請求権ないし妨害排除請求権として、侵害行為の予防ないし排除を請求することができると解される。そして、
原子力発電所の安全性の欠如に起因する放射線被ばくという侵害行為の態様、当該侵害行為によって受ける周辺住民の被害の重大さ及び深刻さに鑑みると、そのような侵害行為を予防ないし排除するために、人格権に基づく妨害予防請求ないし妨害排除請求としての原子力発電所の運転の差止等の請求が認められるためには、当該原子力発電所が安全性に欠けるところがあり、その運転等に起因する放射線被ばくにより、周辺住民の生命、身体に直接的かつ重大な被害が生じる具体的な危険が存在することをもって足りると解すべきである
(なお、
原告らは、
差止めの根拠とする人格権について、生命及び身体のみならず、生まれ育った地域を離れなければならないことや地域のアイデンティティを喪失することといった精神的苦痛や生活の侵害を主張するが、後者は、差止めの根拠となるべき権利としての内実が必ずしも明らかとはいえない一方、放射性物質による生命及び身体(健康)に対する危険を回避するために取ることを余儀なくされた結果ということができるから、以下、差止めの根拠となる人格権の具体的な内容は、生命及び身体であることを前提として判断する。。

そして、原子力発電所が確保すべき安全性については、我が国の社会がどの程度の危険性であれば容認するかという観点、すなわち社会通念を基準として判断するべきであるところ、原子炉等規制法は、原子力発電所について事故の発生を防止し、
万が一重大な事故が生じた場合でも放射性物質が異常な水準で当該原子力発電所の外へ放出されるような災害が起こらないようにする目的のため(同法1条)原子力発電所の設置及び変更の許可

(同法43条の3の5、
43条の3の
8)
、設計及び工事の計画の認可(同法43条の3の9)
、使用前事業者検査(同
法43条の3の11)
、定期事業者検査(同法43条の3の16)
、保安規定の定
め及び認可(同法43条の3の24)等の段階的な安全審査を定めるほか、当該原子力発電所について、既に許認可等を受けている場合であっても、原子力規制委員会規則で定める技術上の基準に適合するように維持する義務を負うものとされている(同法43条の3の14)
。そして、原子力規制委員会は、その委員長
及び委員が原子力利用における安全の確保に関して専門的知識及び経験並びに高い識見を有する者のうちから任命され、独立して職権を行使するものとされる(設置法5条ないし7条)
。これらに照らすと、原子力規制委員会が付与された
権限に基づいて策定した安全性の基準は、社会通念上求められる程度の安全性を具現化したものであると考えられるのであって、当該基準に不合理な点がない限り、原子力発電所は、当該基準に適合する場合に、安全性を具備するものと考えられる。
ところで、一般に、人格権に基づく妨害予防請求権ないし妨害排除請求権の主張立証責任は、原告が負うものと解されるから、原子力発電所が必要な安全性を欠いており人格権を侵害する具体的危険があることは、本来、その運転の差止め等を求める原告らが主張立証をすべきものである。しかしながら、原子力発電所が上記基準を満たすか否かについては、当該原子力発電所を保有し運用する事業者である被告において、その安全性に関する科学的・技術的知見を有するとともに、施設の設計、構造等の原子力発電所の安全性に関する資料を保有していることに鑑みると、上記の主張立証責任の帰属にかかわらず、まず、被告の側において、当該原子力発電所が、上記基準が求める安全性を満たしており、事故による周辺住民に対する人格権侵害のおそれがないことを相当の資料、根拠に基づいて主張立証する必要があるというべきであり、被告がこれを尽くさない場合には、当該原子力発電所が自然現象に対する安全性を欠くものであり、
それによって予
想される事故により被害を受けるおそれがあると認められる範囲の周辺住民について、
人格権侵害のおそれがあることが事実上推定されると解するのが相当である。
3運転差止請求について


導入
原子力規制委員会は、原子炉等規制法43条の3の6第1項に基づき、発電用原子炉施設の位置、
構造及び設備が核燃料物質若しくは核燃料物質によって
汚染された物又は発電用原子炉による災害の防止上支障がないものとする基準について、設置許可基準規則を定めている。また、原子力規制委員会は、原子力災害対策特別措置法6条の2、災害対策基本法2条8号に基づき、原子力災害対策指針を定めている。
原告らは、
本件各原子炉の運転による原告らの人格権侵害のおそれを基礎付
ける事実として、第2、6のとおり、主として、①敷地内地盤の安全性、②地震に対する安全性、③津波に対する安全性、④火山事象に対する安全性及び⑤防災計画の適否に関する事実を主張する。
そして、これらは、いずれも、原子力規制委員会が定める安全性の基準等に関連し(①ないし④は設置許可基準規則、⑤は原子力防災対策指針に関連する。、本件各原子炉を運転するためには、その全てについて上記基準等に係る)
安全性の要請を満たす必要があるものであって、いずれか1つの点においてでも安全性に欠ける場合には、そのことのみをもっても、人格権侵害のおそれが認められることになる。


津波に対する安全性の検討

津波に対する安全性に関する規制は、別紙4の第2、5のとおりであり、設計基準対象施設は、基準津波に対して、安全機能が損なわれるおそれがないものでなければならず
(設置基準規則5条1項)そのためには、

Sクラス
に属する設備(浸水防止設備及び津波監視設備を除く。
)を内包する建屋及
びSクラスに属する設備(屋外に設置するものに限る。
)が基準津波による
遡上波が到達する高さにある場合には、
防潮堤等の津波防護施設及び浸水防
止設備を設置すること
(解釈別記3第5条3項1号)並びに、

津波防護施設
については、基準地震動による地震力に対して津波防護機能を保持できること(解釈別記2第4条6項2号)及び入力津波に対して津波防護機能を保持できること(解釈別記3第5条3項5号)が必要である。また、基準津波の策定に当たっては、最新の科学的・技術的知見を踏まえ、波源海域から敷地周辺までの海底地形、
地質構造及び地震活動性等の地震学的見地から想定す
ることが適切なものを策定すること、津波の発生要因として、地震(プレート間地震、海洋プレート内地震、海域の活断層による地殻内地震)のほか、地滑り(陸上及び海底)
、斜面崩壊その他の地震以外の要因(火山現象)
、及
びこれらの組み合わせによるものを複数選定し、不確かさを考慮して数値解析を実施し、策定することが必要である(解釈別記3第5条1項、2項)。


泊発電所の敷地は、T.P.
(東京湾平均海面)+10mの高さにあり、原
子炉容器や使用済燃料貯蔵施設などといったSクラスに属する設備を内包する建屋は、全て同敷地に存在する(争いがない。。



したがって、泊発電所が津波について前記アの規制を満たすためには、基準津波がT.P.+10mを超えないこと、又は、防潮堤等の津波防護施設及び浸水防止施設を有し、かつ、それが基準地震動による地震力及び入力津波に対して津波防護機能を保持できることが必要になるところ、これに関するこれまでの被告の主張及び本件適合性審査における被告の対応等は、次のとおりである。
被告は、答弁書(平成24年2月6日付け)[104頁]において、泊発電所の敷地前面における想定津波による最高水位が、T.P.+9.8m程度
(日本海東縁部に想定される地震に伴う津波による最大水位上昇量+9.55mに、泊発電所周辺の朔望平均満潮位T.P.+0.26mを加えたもの。
)であるから、安全性に問題がないと主張した。
被告は、平成24年8月、泊発電所の敷地に高さ6.5m(敷地と合わせて、T.P.+16.5m)の防潮堤(既存の防潮堤)を設置する工事に着手し、平成26年12月頃、同工事を完了した。同防潮堤は、1号機ないし3号機を囲む長さ約1250mのものであり、北西側の約1000m(別紙8図表1-1の防潮堤と記載された部分)については、土地造成工事で出た掘削岩砕による埋戻土の地盤の上にセメント改良土による盛土がされ
(同別紙図表1-2参照)南東側約250m

(同別紙図表1
-1の防潮壁と記載された部分)については、鋼管杭を用いたコンクリートの擁壁を設置したものである(同別紙図表1-2参照)
(甲B11
5、118の2)

被告は、
平成26年11月28日付け準備書面
(6)
[51頁]において、
津波の数値シミュレーションの最小計算格子を精細化したこと及び地形データの精度向上を図った結果、泊発電所の敷地前面における想定津波による最高水位が、T.P.+7.3mであるとして、前記

の主張を変更

した。
被告は、平成27年8月21日の審査会合において、敷地前面における最高水位について、地震に伴う津波+8.15mに、陸上地滑りに伴う津波を考慮して、
+12.
63mであると報告した
(甲B116[15頁])

被告は、平成28年7月26日の審査会合において、防潮堤の設置地盤について、岩砕を使用しており、液状化については、道路橋示方書に基づいて評価を実施したところ、埋立土の粒度分布特性から、液状化の判定は不要と見込んでいるが、今後更にデータ数を拡充して液状化に対する評価が妥当であることを説明する予定であると述べたのに対し、原子力規制委員会は、更にデータを拡充した上で、道路橋示方書のみによらず複数の規制基準によって総合的に液状化の可能性を判断する必要があることや、揺すり込み沈下についても埋立土の変状に懸念を持っているので、十分な説明が必要であるなどと告げた(甲100)

また、
原子力規制委員会は、
同年10月27日の審査会合において、
(ⅰ)
海を埋め立てて新たに地盤を建設した場所であるから、相当慎重な評価が必要となること、(ⅱ)防潮堤の設置距離が長いため、地盤物性値が場所によってばらつきが出ると思われること、(ⅲ)埋立土の厚さの違いがあることや、取水口・取水路等の構造物があることで、地震時に異なる挙動を示して防潮堤に影響を及ぼす可能性があること、(ⅳ)地盤によっては、有効力解析機能を持つ解析コードを用いた詳細評価をして、液状化判定を行うべきことなどを指摘し、被告は、これに対し、今後、追加の地質調査の結果を踏まえて、防潮堤について、液状化や揺すり込み沈下でどのような影響があるかを評価した上で、今後、必要により対策をしていく意向であることを説明した(甲B102[48頁以下])

被告は、
平成29年9月12日付けの訴訟進行に関する意見書において、

地盤の液状化に関する更なるデータの取得・評価を続けるとともに、被告の評価方法の妥当性や説明の流れについて検討中であり、今後の審査会合において説明予定である。

とした。被告は、
平成29年9月29日、
原子力規制庁に対して、
泊発電所の新規制基準適合性審査における防潮堤に係る適合方針の変更についてと題する書面(甲B117)を提出した。被告は、同書面において、従前の審査会合では、既存の防潮堤の支持地盤である岩砕による埋戻土が、国土交通省の基準に基づくと、基準地震動に対する液状化の判定は不要な地盤であると説明し、その際に原子力規制委員会から受けた液状化に関する指摘に対応するため、追加の地質調査を実施し、液状化に関する更なるデータの取得、評価を進めてきたが、先行プラントの審査において岩着しない設計の防潮堤による審査には時間を要する等の見解が示されたことなどを踏まえて、
今回、
更なる安全性向上の観点から、
これまでの方針を変更し、
岩着支持構造の防潮壁
(新たな防潮堤を指す。
以下同じ。に設計変更をす

ることにしたこと、同防潮壁については、十分な支持性能を有する岩盤で支持するよう設計するとともに、周辺地盤の液状化を仮定した設計とすることを記載した。
被告は、
平成30年6月8日付け準備書面
(14)
[265頁]において、
既存の防潮堤の支持地盤は、掘削岩砕であり、液状化が発生する可能性は低いと考えられ、この埋戻土に対して液状化強度試験結果に基づいて液状化判定をした結果、地盤全体として液状化しないと評価したが、更なる安全性確保のために、新たな防潮堤を設置する予定であることを主張した。また、
被告は、
上記準備書面[216頁~218頁、
243頁~254頁
260頁~265頁、274頁以下]において、日本海東縁部に想定される地震について、更に検討した結果、想定波源の長さを約320kmと評価し、その結果、当該地震に伴う敷地前面最大水位上昇量を+8.15mと評価し、地震以外の要因に伴う津波として陸上地滑りに伴う津波(複数の手法、
時間を組み合わせたもののうち敷地前面において最大のものは7.69m)を組み合わせ、数値シミュレーションをした結果、基準津波の敷地前面最大水位上昇量を+12.63m、同所での入力津波の最大水位をT.P.+13.8mと主張を変更したが、それによっても、液状化しない既存の防潮堤や、新たな防潮堤によって、安全性を確保することができると主張した(なお、被告は、日本海東縁部に想定される地震に関して、平成28年5月10日付け準備書面(8)において、調査の結果、日本海東縁の海底活断層は存在しないと主張していたが、原子力規制委員会が、平成29年3月10日の審査会合において、積丹半島西岸の海岸地形の成因が地震性隆起であることを否定できず、積丹半島西岸沖の海底活断層の存在を否定できないとして、被告に対し、積丹半島西岸沖に活断層を仮定して地震動評価を行うよう再検討を求めたことから(甲B81[39頁~51頁])
、被告が、同月16日、当該海底活断層が存在することを前提と
した安全対策の検討に着手すると発表していた(甲B82の8、10)ものである。。

なお、被告は、上記準備書面(14)[217頁、274頁~277頁]において、海上音波探査の結果等を根拠に、積丹半島西方沖に海底活断層が存在する可能性は小さいとしつつ、被告が実施した海上音波探査の結果によって大陸棚外縁部に凸状の海底面形状が認められた部分について、当該箇所には音波をほとんど反射する地層が分布して地質構造が不明瞭であることをも理由に、規模の小さな活断層(長さ22.6km又は32.0km)が存在すると仮定することにしたが、同断層で想定される地震に伴う津波が日本海東縁部に想定される地震に伴う津波よりも小さいものであり、基準津波への影響はないとした。
被告は、
平成30年11月28日の原子力規制委員会のヒアリングにお
いて、
日本海東縁部に想定される地震に伴う津波による敷地前面の最大水位上昇量を、
+8.
15mから+10.
78mに引き上げた
(甲B177)

また、被告は、同ヒアリングにおいて、今後の方針として、地震に伴う津波と地震以外の要因に伴う津波の重畳について検討を行い、基準津波を設定するとした(甲B176)

被告は、令和元年9月27日の審査会合において、岩着支持構造の新たな防潮堤について、高さをT.P.+16.5mとするが、その構造は検討中であること、既存の防潮堤については、地震により損傷する可能性が否定できないことから、津波防護施設とせず、自主施設とすることを説明するとともに、新たな防潮堤の外に位置することになる既存の防潮堤の一部(別紙8図表2の⑪(黄色の線)部分)について、今後、地震による損傷を考慮した地形を用いたシミュレーションを行う方針であることを示した。
(甲B175)

被告は、令和2年2月7日付け準備書面(18)において、津波対策については、現在も適合性審査を受けており、現時点では、新たな防潮堤の構造の詳細が未定で、
基準津波が確定していないが、
津波対策が確定次第、
その詳細を主張するとした。

泊発電所の設計基準対象施設に対する基準津波及び入力津波は、
本件適合
性審査が継続していることから本件口頭弁論終結時点でいまだ確定していないが、前記ウの経緯に鑑みると、少なくとも、被告が同ウ

で認めるよう

に、基準津波の敷地前面最大水位上昇量が+12.63m、同所での入力津波の最大水位がT.P.+13.8mであると認められる(これに加えて、同
のとおり、その後に、日本海東縁部に想定される地震に伴う津波による
敷地前面の最大水位上昇量を+8.15mから+10.78mに引き上げたことによる数値の上昇や、陸上地滑りに伴う津波との重畳のシミュレーションによる変動が考えられる。。

そうすると、基準津波の高さが泊発電所の設計基準対象施設の存在する敷地の高さを上回ることになるため、泊発電所は、基準地震動による地震力及び入力津波に対して津波防護機能を保持することのできる津波防護施設を設置しなければならないこととなる。
これについて、
被告は、
まず、
泊発電所には既存の防潮堤が存在すること、
同防潮堤の地盤は掘削岩砕であり、液状化が発生する可能性は低いと考えられることを主張する。しかし、被告は、前記ウ

のとおり、掘削岩砕であっ

ても液状化等をする可能性があることを踏まえた原子力規制委員会の指摘に対し、
同防潮堤の地盤について液状化や揺すり込み沈下の可能性がないことについて、データ調査を実施して説明するとし、同のとおり、本件訴訟においてもその旨の説明をしていたが、その後、同

及び

のとおり、同液

状化等を否定する具体的なデータ等を示して安全性を原子力規制委員会に説明し、あるいは本件訴訟において主張立証するのではなく、岩着支持構造の新たな防潮堤を建設する予定であるとした。
被告が対応を変更した理由に
おいて、
岩着しない設計の防潮堤によっては審査会合における審査に時間を要する面があったとしても、原告らも指摘する地盤沈下等の可能性がなく、既存の防潮堤が設置許可基準規則における津波防護施設としての安全性を有することを、相当な資料によって裏付けていないといわざるを得ない。また、被告が今後建設予定であるとする新たな防潮堤については、高さをT.+16.
P.
5mとすること以外に構造等が決まっていない状況である。
これらのことからすれば、本件口頭弁論終結時において、泊発電所について、
基準地震動による地震力及び入力津波に対して津波防護機能を保持することのできる津波防護施設は存在しておらず、設置許可基準規則5条1項が定める津波に対する安全性の基準を満たしていないといわざるを得ない。⑶

小括
以上のとおり、泊発電所の施設は、本件口頭弁論終結時において、津波に対する安全性を欠くものと認められる。したがって、前記2のとおり、泊発電所が津波に襲われた場合に予想される事故により人格権侵害のおそれのある原告らについて、人格権侵害のおそれが推定され、この推定を覆すに足りる証拠はない。
そうすると、
泊発電所の安全性に関するその余の争点について判断するまで
もなく、当該範囲の原告らについては、人格権に基づき、本件各原子炉の運転の差止めを求める権利がある。


運転の差止めが認められる原告の範囲

本件各原子炉の運転中に泊発電所の施設に津波が及んだ場合、同発電所の設備に対する電力供給が停止して原子炉及び使用済燃料貯蔵施設内の核燃料を冷却することが不可能となり、炉心溶融や水素爆発が生じて原子炉格納容器及び原子炉建屋が損壊され、その結果、放射性物質が外部に放出される事故が発生することが予想される。そのような事故が発生した場合、同発電所周辺の一定の範囲に居住する者は、同発電所から放出された放射性物質によって、生命・身体を侵害されるのであって、その蓋然性がある原告らについて、人格権侵害のおそれがあると認めるのが相当である。


これについて、原告らは、主位的に、泊発電所の周辺地域のみならず、日本各地に居住する本件の原告ら全員に人格権侵害のおそれが存在するなどと主張する。
しかし、泊発電所の運転時の事故により予想される人格権侵害は、前記アのとおり、放射性物質の放出・拡散に起因するものであるところ、放射性物質の放出・拡散の範囲は泊発電所から一定の距離に限られるものであるから、日本国内各地及び日本国外にいる原告らの全員がこれによる影響を受けるとは考え難く、原告らの主位的主張は採用することができない。


また、原告らは、予備的に、福島第一原子力発電所事故の発生時に原子力委員会(当時)の委員長が作成した福島第一原子力発電所の不測事態シナリオの素描(甲D11。以下本件シナリオという。
)において、当該事
故によって
年間線量が自然放射線レベルを大幅に超えることをもって移転を希望する場合認めるべき地域が250km以遠にも発生する可能性が指摘されたこと等に基づいて、泊発電所で事故が起こった場合にも、同様に、泊発電所から250km以内の範囲の住民に人格権侵害のおそれがあると主張する。
しかし、
原子力発電所で事故が発生した場合にいかなる範囲で放射性物質
が放出・拡散されるかは、当該事故によって放出される放射性物質の量、地理的条件、発生機序及び事故時の天候等の事情によって変わり、放出される放射性物質の量は、
当該発電所の規模及び核燃料の保有量によって左右され
るものと認められるところ、本件シナリオは、福島第一原子力発電所事故における同発電所の各原子炉(1号機から6号機)及び使用済燃料の具体的な状況を踏まえて、
他の原子炉に事象が連鎖的に発生した場合において被害が
及ぶ可能性のある範囲を予測したものであるから、これによって直ちに、原子力発電所の規模、使用済燃料の状況、地理的条件等が異なる泊発電所においても同様の予測が可能であるとはいい難い。また、本件シナリオは、最悪の場合の可能性を述べるにとどまり、必ずしも同発電所から250kmの範囲の住民が避難を余儀なくされる蓋然性があることを述べたものではない。また、原告らは、株式会社環境総合研究所が作成したシミュレーションソフト(甲E1号証)によるシミュレーション結果(甲E2号証)を証拠として提出するが、
同シミュレーションの基礎となる条件設定の妥当性について、
被告が争っているところ、その妥当性を裏付ける資料はなく、シミュレーションの元となるデータも明らかでない上、当該結果によっても、上記範囲が同発電所から250kmに及ぶことが裏付けられているとはいえない。したがって、本件シナリオ等の原告らが現在提出する証拠によっても、泊発電所で発生した事故による被害が同発電所から250km以内の範囲にまで及ぶと認めることはできない。

以上のとおり、被害の範囲に関する原告らの主張は、いずれも採用できない。また、一定の予測及び想定を踏まえた立証になるため、条件設定等において容易でない面があることは否定できないが、泊発電所の規模、核燃料の保有量、地理的条件等を踏まえて、事故によって放出が想定される放射性物質の量、飛散する範囲、その範囲において想定される放射線量の数値を一定の合理性をもって示す証拠もない。

他方で、原子力発電所全般に関する国の防災基本計画(乙E4)及び泊発電所に関する北海道の地域防災計画(甲E4)をみると、泊発電所を含む原子力発電所から半径30km以内の範囲に居住する住民については、原子力発電所で事故が発生した場合に放射性物質による健康被害が及ぶ蓋然性があることを前提に、当該範囲外の地域への避難計画を作成することとされている。そして、福島第一原子力発電所事故の際には、同発電所から20km以内の地域は警戒区域として放射線量にかかわらず避難区域とされ、20km以上30km以内の地域は緊急時避難準備区域として屋内退避や避難が常時可能なよう準備することが求められた
(甲D2、。
3)これらのこ
とからすれば、現在の証拠関係では、泊発電所で発生する事故による人格権侵害が及ぶ範囲の外延を客観的に認定するのが困難であることは前記のとおりであるものの、最低でも、泊発電所から30km以内の範囲に居住する住民については、放射性物質による生命・身体の侵害のおそれがあることは明らかである。


そして、泊発電所から30km以内に居住する原告らは、別紙2一部認容当事者目録(掲載省略)記載の原告ら(一部認容原告ら)
(合計44名)であ
るところ、同原告らについては、泊発電所の運転時における事故による人格権侵害のおそれが認められる。したがって、同原告らの運転差止請求には理由がある。他方で、一部認容原告ら以外の原告ら(全部棄却原告ら)の運転差止請求には理由がない。

4核燃料撤去請求について


泊発電所の施設は、前記3のとおり、津波に対する安全性を欠くと認められる。そして、設置許可基準規則上、使用済燃料が冷却・保管される使用済燃料貯蔵施設についても、使用済燃料を適切に冷却・保管できなくなった場合における放射性物質の放出・拡散のおそれに着目して、設計基準施設中耐震重要度がSクラスに分類され、
基準地震動及び基準津波に対する安全性を有すること
が求められている。そうすると、前記2の主張立証責任等の考え方によれば、津波によって使用済燃料貯蔵施設において起こり得る事故により被害を受ける範囲の原告らについては、本件口頭弁論終結時において泊発電所が設置許可基準規則上の津波に対する安全性に係る基準を満たしていないために、人格権侵害のおそれがあることが推定されるというべきである。
これに対し、被告は、泊発電所の使用済燃料貯蔵施設に保管中の使用済燃料は、原子炉の運転を停止してから長期間にわたって冷却されており、その崩壊熱は減少し、危険性は一段と低下していると主張し、その根拠として、他の原子力発電事業者が設置する原子炉の廃止に係る廃止措置計画ないしその変更に係る事例において、当該事業者が、本件各原子炉と同様に長期間にわたって運転を停止し、
使用済燃料を使用済燃料貯蔵施設に貯蔵して冷却を継続したこ
とを前提に、冷却水が大量に漏えいする事象を考慮しても、使用済燃料は室内空気の自然対流によって冷却され、燃料被覆管の表面温度の上昇による燃料の健全性に影響はなく、臨界にならないと評価できるとして、重大事故対策設備は不要であるとする同廃止措置計画の認可申請をしたところ、
原子力規制委員
会が、同計画を認可したことなどを指摘する(乙E11ないし17)。
しかしながら、被告が指摘する他の原子力発電事業者の廃止措置計画ないしその変更においては、いずれも、貯蔵されている使用済燃料の発熱量のほか、原子炉建屋からの放熱計算、自然対流熱伝導の計算、燃料被覆管表面温度計算などから燃料の健全性評価を具体的に行った上で、廃止措置計画の認可申請をしたり、
使用済燃料貯蔵施設の冷却設備による冷却を停止しても使用済燃料貯蔵施設からの自然放熱による冷却で安全性が確保されることを具体的に確認した上で、同変更申請をしたりしているのに対し、被告は、具体的な検討に基づいた安全性の根拠を何ら示していないのであって、同様に考えることはできない。使用済燃料の存在による人格権侵害のおそれは、存在するのであれば速やかに対処が求められる性格のものであるから、被告には、早期に、かつ十分な主張及び立証が求められていたというべきである。
そして、
これによる人格権侵害のおそれが認められる最低限の範囲については、前記3⑷で述べた原告らの範囲(一部認容原告ら)と相違すると考える具体的な根拠はないから、一部認容原告らについて、泊発電所建屋内で保管されている使用済燃料の存在による人格権侵害のおそれがあると認められる。⑵

しかしながら、使用済燃料の存在による人格権侵害のおそれが認められるとしても、原告らが請求する内容について検討すると、原告らに、原告らが請求する具体的な内容及び態様をもって、
泊発電所の建屋内に存在する使用済燃料
を撤去する作為を求める権利があると認めることはできない。
使用済燃料の撤去に係る原告らの請求は、本件訴訟の当初においては、建屋に存在する核燃料を最大限の安全を確保して保管・冷却せよという内容であったところ、被告に求める作為の内容を明確にする趣旨で、平成30年6月8日付けの請求の趣旨変更申立書により、
建屋に存在する核燃料を撤去せよ
という内容に変更され、さらに、作為内容をより明確にするとともに、使用されていない核燃料を対象から除く趣旨で、令和3年9月15日付けの請求の趣旨変更申立書により、現在の請求の趣旨である建屋に存在する使用済み核燃料を同建屋から撤去せよという内容に変更されたものである。民事訴訟において、
被告に対して一定の作為を求める給付の訴えをする場合
には、原告は、認容判決を得た場合にこれを債務名義として強制執行を申し立てることを前提として、
当該作為の内容をその文言上で一義的に特定しなけれ
ばならないと解される。しかるに、原告らの核燃料撤去請求の内容は、建屋から撤去することを求めるのみであり、撤去先の特定について何ら言及されていないから、その文言上、使用済燃料を泊発電所の建屋からいずれかの場所に撤去すれば訴訟法上ないし執行手続上は足りる趣旨のものとしか解し得ない。原告らの核燃料撤去請求は、泊発電所建屋内の使用済燃料貯蔵施設において保管されている使用済燃料が存在することによって、原告らの人格権が侵害されるおそれがあることを理由として、人格権に基づく妨害排除請求権ないし妨害予防請求権の行使としてされているものであるから、具体的な作為として求めることができる内容も、当該作為によって、人格権侵害を除去することができる性質を有するものであることが必要であると解される。
しかるに、上記のとおり、原告らの核燃料撤去請求は、使用済燃料を泊発電所の建屋から撤去することを求めるにとどまり、その内容として、ある一定の条件を満たした安全な保管先で使用済燃料を保管することを当然に含むものではないし、
被告がそのような保管をすることを当然の前提として
(あるいは、
そのような保管を事実上期待して)
、請求内容を理解することはできない。そ
のため、当該請求が認められることによって、直ちに、使用済燃料による原告らの人格権侵害のおそれを除去することができるものではない。適切な撤去先及び保管の条件が満たされない場合には、撤去により、かえって、撤去先の周辺住民に人格権侵害のおそれが生じる可能性すら認められる。
そうすると、原告らの核燃料撤去請求は、原告らの人格権侵害のおそれを除去する性質を必ずしも有しない作為を求めるものといわざるを得ず、このよう
な作為を求める具体的な請求権はないというべきである。
したがって、原告らの核燃料撤去請求には、理由がない。
もっとも、前記⑴のとおり、被告は、使用済燃料の存在による危険性がないことについて、相当な資料によって説明することができていないのであって、当裁判所としても、被告が使用済燃料を安全かつ適切に保管し、それを相当な資料によって説明することが必要であると考えるものである。
5廃炉請求について
原告らの廃炉請求は、
人格権に基づく妨害排除請求ないし妨害予防請求の行使
として、本件各原子炉を廃止してそれに伴う措置(原子炉等規制法43条の3の33第1項が規定する
廃止措置を実施することを被告に求めるものである。

そして、廃止措置の内容は、発電用原子炉施設の解体、核燃料物質の譲渡し、核燃料物質による汚染の除去、核燃料物質又は核燃料物質によって汚染された物の廃棄及び放射線管理記録の原子力規制委員会が指定する機関への引渡しとされている(原子炉等規制法43条の3の33第1項、実用発電用原子炉の設置、運転等に関する規則115条)

しかしながら、発電用原子炉の運転及び当該原子炉の施設における使用済燃料の保管による周辺住民の人格権侵害のおそれがある場合に、そのおそれを除去するためには、原子炉の運転を止めるなどの個別の防止策が必要になるものの、これを超えて、一般的に、原子炉を廃止して廃止措置を行うことが必須であるということはできないし、原告らの主張及び本件各証拠によっても、本件各原子炉の廃止まで必要であるとする具体的な事情は見出し難い。
また、発電用原子炉設置者は、発電用原子炉を廃止しようとする場合や設置の許可が取り消された場合等に、廃止措置に関する計画を定め、原子力規制委員会の認可を受けなければならない(原子炉等規制法43条の3の34第2項、43条の3の35第2項)が、この義務が、発電用原子炉について設置許可が取り消され又は今後取り消されることが確実な場合において、周辺住民との関係で、廃止措置を実施すべき私法上の義務であると直ちにいうこともできない。以上より、原告らの廃炉請求には理由がない。
第4結論
以上によれば、原告らの本件各請求のうち、別紙2一部認容当事者目録(掲載省略)記載の原告らの運転差止請求には理由があるからこれを認容し、同原告らのその余の請求及び同原告ら以外の原告らの各請求にはいずれも理由がないからこれを棄却する
よって、主文のとおり判決する。
札幌地方裁判所民事第1部

裁判長裁判官

谷口哲也
裁判官

木村大慶哲也
裁判官亀井佑樹は、転補のため署名押印できない。

裁判長裁判官

谷口
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