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ストーカー行為等の規制等に関する法律違反、殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
事件番号令和3(わ)638
事件名ストーカー行為等の規制等に関する法律違反、殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件
裁判年月日令和4年5月26日
法廷名福岡地方裁判所  小倉支部
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-05-26
情報公開日2022-06-16 04:00:08
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事件番号

令和3年第638号

事件名

ストーカー行為等の規制等に関する法律違反、殺人、銃砲刀剣類所持等取締法違反被告事件

宣告日

令和4年5月26日

主文
被告人を懲役17年に処する
未決勾留日数中100日をその刑に算入する。
福岡地方検察庁小倉支部で保管中の小刀1本(同支部令和4年領第268号符号1-1)を没収する。
理由
【罪となるべき事実】
被告人は、
第1令和3年10月20日、福岡県小倉北警察署長からストーカー行為等の規制等に関する法律5条3項の規定により、元交際相手であるA(当時49歳。以下被害者という。)に対し、更に反復してつきまとい等をしてはならない旨の禁止命令を受けていたものであるが、同人に小刀を示して怖がらせてでも同人から別れを切り出された理由を聞き出そうなどと考え、同人に対する恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で、同年11月1日午前0時38分頃、同人が居住する北九州市(住所省略)B敷地内に押し掛け、もって上記禁止命令に違反し、
第2同日午前0時38分頃、上記場所において、帰ってきた被害者を呼び止めて話しかけたりしたものの、小刀を示された被害者が思いどおりに話に応じず、かえって立ち去ろうとすることに激高し、同人に対し、殺意をもって、その胸部、背部等を主文記載の小刀(刃体の長さ約9.7cm)で5回(確実に認定できる死亡に先立つ刺突回数)にわたり突き刺し、よって、その頃、同所において、同人を背部刺創による失血により死亡させて殺害し、
第3業務その他正当な理由による場合でないのに、同日午前0時38分頃、上記場所において、上記小刀1本を携帯した。
【証拠の標目】
省略
【事実認定の補足説明】
1争点等
判示第2の事実について、
被告人が被害者の背部等を判示小刀
(以下
本件小刀
という。)で突き刺したことにより、被害者が死亡したことに争いはない。その上で、検察官は、被害者の受傷状況から認められる行為態様等によれば、被告人は人が死ぬ危険性が高い行為をそれと分かって行ったといえ、殺人罪が成立すると主張する。これに対し、弁護人は、頭が真っ白になっていた等とする(詳細は後述。)被告人の公判供述に基づき、被告人には刺突行為の大半につき認識がなく、
その危険性も認識していなかったなどとして、
殺意があったとは認められず、
傷害致死罪が成立するにとどまると主張する。
よって、本件の主たる争点は殺意の有無である。
2被害者の受傷状況等による推認
⑴ア関係証拠(被害者の遺体の解剖を担当した医師Cの証言、甲21等)によれば、被害者の受傷状況は以下のとおりであり、弁護人も争わない。すなわち、被害者の遺体には、少なくとも12回に及ぶ刃物の刺突行為による合計13か所の刺し傷口がある。
5か所の傷口は生命活動が活発な段階で生じており、
被害者は、
このうち左肩甲部の傷
(肺等を貫通し大動脈に到達。
深さ約9.
4cm。

により、数秒以内に多量の出血で意識を失うなどし、ほぼ即死した。のみならず、
上記のうち左鎖骨下部
(肋骨、
肺等を貫通し心筋に到達。
深さ約9.
7cm。、
)左外側胸部上部
(肺等を貫通し左気管支に到達。
深さ約8.
1cm。、

右外側胸部下部(肋骨等を貫通し肝臓に到達。深さ約4.5cm。)の3か所にしても、個別にみても受傷後30分以内に死亡し得る程度に致死的なものである。そして、
残りの8か所は被害者の生命活動が低下した後
(死亡後の可能性も含む。

にできた傷口であり、この中には右外側胸部上部(肋骨等を貫通し肺に到達。深さ約9.8cm。)等の上記同様致死的な傷口5か所や、右上腕部を貫通した2か所の傷口が含まれる。
以上13か所の傷口は全て直線状で、被害者が抵抗した場合につく防御創も認められない。
イそうすると、被告人は、鋭利な本件小刀を用い、少なくとも被害者の死亡前後を通じ12回という多数回(死亡までには5回。)にわたり、同人の胴体部を中心に繰り返し刺突行為に及んだと認められる(被告人が被害者を刺した後、警察官が臨場するまでの約6分間に、第三者が更に刺突を加えたことを窺わせる事情はなく、弁護人及び被告人もそうした主張はしていない。)。被告人の行為は、複数箇所を本件小刀の刃体と同程度以上の深さ、骨を貫通するほどの強さで刺したり、短時間で致死的な傷を9回にも及び負わせたりするもので、人を死亡させる危険性は極めて高かったと認められる。
⑵また、上記の刺し傷の深さや刺突の強さに照らせば、被告人は意識的に力を込め刺突行為に及んでいたと認められる上、被害者が多量の出血により意識を失うなどした後も、無抵抗の被害者を繰り返し刺している。自ら持参した本件小刀を凶器に用いており、その危険性も十分認識していたといえること、犯行後、倒れている被害者の生死を確認すらせず、何らの救命措置も取らないまま現場から逃走していることからしても、被告人は自身の行為の危険性を分かっており、また、その殺意は強固なものであったと強く推認することができる。
3弁護人の主張及び被告人の供述に対する検討
⑴これに対し、弁護人は、①当初は被害者の殺害を企図しておらず、被害者に別れの理由などを話してもらう目的を持っていたに過ぎない被告人が、突如として同人への殺意を形成したというには飛躍がある、②そもそも被害者の傷は左肩甲部のものを除きいずれも直ちに死亡するものではないし、被告人には、左肩甲部に対するものを含め刺突行為の大半につき認識がなく、その危険性も認識していなかった、として被告人には殺意がなかったと主張する。
被告人も、上記の点につき、被害者から突然別れを告げられて納得がいかず、場合によっては本件小刀を示して怖がらせてでも、被害者に別れの理由を話してもらおうと考え、被害者方に向かった。しかし、本件小刀を見せてやり取りをしたのに、予想に反し被害者が何も話さず帰宅しようとしたことにかっときて、本件小刀を腹部の辺りに突き出したところ、被害者の胴体のどこかに当たった。その後はパニックで頭が真っ白になってよく覚えていないが、背中と脇の辺りは刺した。本件小刀で人が死ぬとは思わなかった。などと供述する。⑵①について、確かに、被告人は当初から被害者の殺害を企てていたものではなく、被告人が被害者方敷地内に押し掛けた目的は、被害者から別れの理由等を聞き出す点にあったといえる。しかし、被告人は、禁止命令を受けるほどに被害者に執着し、なおも禁止命令に反して被害者への接触を図った末、刺突行為の直前、現場において、被害者に本件小刀を示したのに、怖がって言いなりになるどころか冷静な態度で話を拒まれるという事態に直面している。このような経緯は突発的・衝動的に殺意を抱く切っ掛けとして合理的で、飛躍はない。
②について、上記のとおり、被害者の傷口のうち9か所は個別に見ても受傷後30分以内に人を死亡させる程度に危険性が高いものである。被告人は、普段から使用して性状をよく知っている自らの小刀を、被害者に対し意識的に繰り返し刺し込んでもいる。刺した部位や回数に関する供述が曖昧である点は、興奮状態の中、刺す部位に配慮することなくめった刺しにしたり、本件後に記憶の一部が薄れたりしたことをいうものと理解できる。これをもって、犯行当時の被告人に刺突行為やその危険性の認識がなかったとはいえない。
よって、弁護人の主張は当たらず、上記推認は揺るがない。
4結論
以上によれば、被告人は、現場において突発的・衝動的に、強固な殺意を抱いていたものと認められる。
【法令の適用】
省略
【量刑の理由】
1量刑判断の中核をなす殺人(判示第2)の態様は、無抵抗の被害者に対し、判示第3の刃物で、5回にわたり繰り返し刺して死亡させた後、更に少なくとも7回刺し続けるというものである。殺意の発生こそ現場においてであるものの、その程度は強固で、犯行態様は執拗かつ残忍である。深夜、子の待つ自室へ帰宅しようとする被害者に対し、他者の助けや逃げ場の期待できない状況で殺害に及んだ点も悪質といえる。被害者の無念はもちろんのこと、突然母親を奪われ、生活が一変した未成年の子らを含め、遺族に与えた衝撃や悲しみは計り知れない。峻烈な処罰感情が示されているのも当然である。
なお、経緯について、本件が、ストーカーが当初から殺害を企てて被害者に接触する事案とは異なることは十分踏まえるべきである。その一方で、被告人は、つきまとい等の禁止命令を受け、被害者に対する接触を厳に禁じられるという立場にあった。被害者から一方的に別れを告げられたと考えた被告人が、金銭面を含む従前の関係性に執着し、納得できないとの気持ちを抱いていたにしても、判示第1の被害者との接触が正当化される余地はない。一方的に接触しておいて、意のままにならない被害者に激高したという殺人の動機の身勝手さは揺るがない。2以上によれば、同種事案(男女関係を動機とする単独犯による刃物を用いた殺人1件)の量刑傾向の中で、本件犯情は比較的重い部類に属する。被告人が、判示第1及び第3のほか、判示第2についても被害者を刺して死亡させたという限度では事実を認め、公判廷でも謝罪と反省の言葉を述べていることのほか、前科は10年以上前のものであって、刑事責任を特に加重する事情とはみられないことなども踏まえて検討し、主文のとおりの量刑が相当であると判断した。(検察官の求刑懲役22年及び主文同旨の没収)
(弁護人の量刑意見第2は傷害致死罪にとどまるとの前提で懲役9年)令和4年5月26日
福岡地方裁判所小倉支部第2刑事部

裁判長裁判官

井野憲司
裁判官

佐藤洋介
裁判官

佐藤
みなと

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