事件番号 | 令和4(う)46 |
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事件名 | 地方自治法違反 |
裁判年月日 | 令和4年5月26日 |
法廷名 | 名古屋高等裁判所 |
結果 | 棄却 |
原審裁判所名 | 名古屋地方裁判所 |
原審事件番号 | 令和3(わ)1113 |
全文 | 全文 |
最高裁判所 | 〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map |
裁判日:西暦 | 2022-05-26 |
情報公開日 | 2022-06-15 04:00:09 |
本件控訴を棄却する。 理1由 本件控訴の趣意は、弁護人作成の控訴趣意書記載のとおりである。論旨は、法令適用の誤り及び量刑不当の各主張である。 2 法令適用の誤りの主張について 論旨は、量刑の理由中で自首を認めながら、刑法42条を適用し て自首減軽をしていない原判決には、判決に影響を及ぼすことが明らかな法令適用の誤りがある、というのである。しかしながら、同条は任意的減軽の規定であって、法定刑の下限を下回る処断刑を導く場合に適用すれば足りるから、原判決が示した法令の適用に誤りはない。法令適用の誤りをいう論旨は理由がない。 3 量刑不当の主張について 論旨は、要するに、被告人を懲役1年4月、4年間執行猶予に処 した原判決の量刑は、情状事実の認定に誤認があり、また、共犯者との均衡を失し、重過ぎて不当である、というのである。そこで、記録を調査して検討する。 ⑴ 本件は、被告人が、A県知事の解職(いわゆるリコール)活動 を行っていた共犯者らと共謀し、同解職請求に関し、ほしいまま に、アルバイト作業員3名に同県知事の選挙権を有する合計71 名の氏名を署名簿氏名欄に記載させて解職請求者の署名を偽造し た事案である。 原判決は、本件は、本来存在しない民意を無断作出し、公選に よる地方公共団体の長の地位を失わせようとした、直接民主主義 や地方自治の根本をないがしろにする悪質な犯罪である、被告人 は、共犯者から誘われ、著名人との人脈を作り、今後のビジネス チャンスにつなげることを期待して各犯行に加担し、利己的動機 に酌むべき点がないことはもとより、具体的計画を立案し、自ら 代表を務める会社の関連会社従業員に指示して偽造行為を行う遠 方の会場やアルバイト作業員を手配しており、各犯行において不 可欠かつ重要な役割を果たしているから、共犯者が本件を主導し たことを踏まえても、前記諸事情を考慮すると罰金刑の選択は相 当でなく、懲役刑を選択すべきである、その一方で被告人が自首 して詳細に供述したことで事案の解明が進んだことを相当程度有 利に考慮すべきであり、犯行への関与を後悔していること、犯罪 歴がないこと、顧問税理士が出廷して更生への助力を約したこと、しょく罪寄附をしたことなどの事情を踏まえ、刑の執行を猶予す べきであるとして、被告人を懲役1年4月に処し、4年間刑の全 部の執行を猶予した。 ⑵ 前記の原判決の量刑事情の認定及び評価に誤りはなく、その量 刑判断は、刑種の選択及び執行猶予期間の点を含めて適切であっ て、重過ぎて不当であるとはいえない。 ⑶ 所論は、被告人が本件犯行に加担した動機について、著名人と の人脈を作り、今後のビジネスチャンスにつなげることを期待し て犯行に加担した旨の原判決の認定には誤認がある、と主張する。しかしながら、自ら進んで関与を認める供述を続けていた被告人 の捜査段階供述の信用性に特段の疑義はなく、被告人は、原審公 判でも、著名人とのパイプができ、新たなビジネスチャンスを得 たいとの考えがあった旨捜査段階と同旨の供述を維持している。 原判決に所論が指摘する量刑事情の誤認はなく、所論は採用でき ない。 所論は、原判決は、自首の事実を十分考慮しておらず、他の共 犯者の科刑等の状況と均衡を失する旨主張する。しかしながら、 原判決が自首と捜査協力の事実を相当程度有利に考慮しているこ とは判文上明らかである。また、所論が指摘する共犯者の科刑等 の状況を検討しても、被告人に対する原判決の量刑が重過ぎて不 当であるとはいえない。所論は採用できない。 量刑不当をいう論旨は理由がない。 被告人が現在まで引き続きしょく罪寄附を続けており、更に別 のしょく罪寄附を開始したとの所論が指摘する原判決後の情状事 実を考慮しても、原判決の量刑はなお相当であり、これが重過ぎ て不当であるとはいえない。 4 よって、刑事訴訟法396条により本件控訴を棄却することとし て、主文のとおり判決する。 令和4年5月26日 名古屋高等裁判所刑事第1部 裁判長裁判官 𠮷村典晃 裁判官 田中聖浩 裁判官 谷口吉伸 |