判例検索β > 平成29年(ワ)第7391号等
職務発明の対価請求 特許権 民事訴訟
事件番号平成29(ワ)7391等
事件名職務発明の対価請求
裁判年月日令和4年3月24日
法廷名大阪地方裁判所
全文全文添付文書1添付文書2添付文書3添付文書4添付文書5添付文書6
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-03-24
情報公開日2022-05-20 04:00:23
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令和4年3月24日判決言渡
平成29年(ワ)第7391号
(ワ)第3587号
口頭弁論終結の日

同日判決原本交付

裁判所書記官

職務発明の対価請求事件(A事件)、平成31年

職務発明対価請求事件(B事件)
令和3年11月19日
判決
原告
同訴訟代理人弁護士

木下

被告

三菱電機株式会社

同訴訟代理人弁護士

大野

聖二


木村

広行


P1

祝谷

和宏

主1
慎也


被告は、原告に対し、197万3393円及びこれに対する平成30年4月28日から支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。

2
原告のその余の主位的請求及び予備的請求をいずれも棄却する。

3
訴訟費用は、これを113分し、その111を原告の負担とし、その余は被告の負担とする。

4
この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

第1

実及び理由
請求

被告は、原告に対し、1億1100万円及びうち6100万円については平成20年2月26日から、うち5000万円については平成22年2月26日から、各支払済みまで年5%の割合による金員を支払え。
第2
1
事案の概要
本件は、被告の従業員であった原告が、被告に対し、次のとおりの請求をす
る事案である。

(1)主位的請求

被告が権利者である別紙特許権・意匠権目録記載の特許権及び意匠権に係る
本件発明1、本件各意匠1、本件各発明2及び本件各発明3の特許発明及び登録意匠について、原告が被告に対し職務発明及び職務創作意匠として特許又は意匠登録を受ける権利を被告に承継させたことにより、本件発明1及び本件各発明2に関しては平成16年法律第79号による改正前の特許法(以下昭和34年法という。)35条3項、本件各発明3に関しては同改正後の特許法(以下平成16年法という。)35条3項、職務創作意匠に関しては平成20年法律第16号による改正前の意匠法(以下改正前意匠法という。)15条3項の準用する昭和3
4年法35条3項に基づき、●(省略)●上記各特許権及び意匠権の国内実施分に係る相当の対価の未払分の一部として合計6100万円及びこれに対する支払期限後である平成20年2月26日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下改正前民法という。)所定の年5%の割合による遅延損害金の各支払


本件特許権2及び本件各特許権3に係る本件各発明2及び本件各発明3(た
だし、本件発明3-2-1を除く。)について、特許を受ける権利を被告に承継させたことにより、昭和34年法35条3項又は平成16年法35条3項に基づき、●(省略)●上記各特許権の対応海外特許権に係る発明の国外実施分に係る相当の対価の未払分の一部として合計5000万円及びこれに対する支払期限後である平成22年2月26日から支払済みまで改正前民法所定の年5%の割合による遅延損害金の各支払
(2)予備的請求
本件発明1及び本件発明3-2-2について、被告が製造販売する各製品がこれらの発明の各構成要件を充足しないことにより原告に相当の対価が支払われない結
果、原告が当該対価相当額の損害を被ったところ、特許発明を事業に用いるにあたっては発明の内容を正確に使用すべきであるにもかかわらず被告の過失によりこれ
を僅かに外れて製品化し、実質的には発明による利益を享受しておきながら、形式的には発明を使用していないとして対価の支払義務がないと主張することは信義則上の義務に違反し、又は少なくとも相当の対価を得られることに対する原告の期待権の侵害であるとして、民法709条に基づき、合計800万円の損害賠償及びこれに対する不法行為後である平成20年2月26日から支払済みまで改正前民法所定の年5%の割合による遅延損害金の各支払
2
前提事実(争いのない事実、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定
できる事実。なお、枝番号のある証拠で枝番号の記載のないものは全ての枝番号を含む。)
(1)

当事者

原告は、平成9年4月1日~平成29年6月15日の間、被告において勤務し、その間、静岡県所在の被告住環境開発センター(以下住環研という。)等に在籍していた者である。
被告は、重電システム、産業メカトロニクス、情報通信システム、電子デバイス、家庭電器等の製造・販売を主な目的とする株式会社である。
(2)原告の職務発明及び職務創作意匠並びにそれらに係る特許又は意匠登録を受ける権利の被告による承継

原告の職務発明及び職務創作意匠

原告は、被告在職中、送風機に関する発明(本件発明1)、ファンに係る意匠3件(本件各意匠1)、室内ユニットから所定風量を得るのに必要なファンモータ入力を低減することができるクロスフローファンを有する空気調和機に関する発明(本件各発明2)、発生する騒音を低減するようにしたシロッコファンに関する発明(本件発明3-1)、騒音を低減し、送風特性を向上させたシロッコファン及びそのシロッコファンを備える空気調和装置に関する発明2件(本件発明3-2及び
本件発明3-3)をした(以下、本件発明1、本件各発明2、本件各発明3を併せて本件各発明といい、本件各発明と本件各意匠1を併せて本件各発明等と
いう。なお、本件各発明等につき、原告以外の共同発明者及び共同創作者(以下共同発明者等という。)の有無並びに共同発明者等の間の貢献割合については、後記のとおり、当事者間に争いがある。)。
本件各発明等はいずれもその性質上被告の業務範囲に属し、かつ、その発明及び創作をするに至った行為はいずれも被告における原告の当時の職務に属するものであった。

特許及び意匠登録を受ける権利の各承継

原告及び共同発明者等は、被告に対し、本件各発明等それぞれの●(省略)●遅くとも各出願日までに、本件各発明等に係る特許を受ける権利及び意匠登録を受ける権利(以下、これらの権利を併せて特許を受ける権利等という。)をそれぞれ譲渡した。
(3)被告の出願及び登録等

被告は、本件各発明等につき、別紙特許権・意匠権目録記載のとおり、それ
ぞれ、特許出願又は意匠登録出願をし、設定登録を受けた(以下、本件各発明2及び本件各発明3に係る海外の特許権については、国別及び日本特許権の略称に対応して欧州特許権2、欧州特許権3-1のようにいうほか、まとめて本件各海外特許権2などという場合がある。)。イ
本件各発明の構成要件は、別紙発明1一覧表~別紙発明3一覧表の各発明の
構成要件欄に記載のとおりである。
(4)被告における本件各発明等の実施等
被告における本件各発明等の国内及び国外における実施の有無については、次のとおりである(なお、国内分については別紙認否一覧表(国内実施分)参照)。ア
本件発明1

別紙発明1一覧表の対象製品群1欄記載の製品(以下対象製品群1という。)に搭載された送風機は、本件発明1の構成要件1A~1Dを充足するものの構成要件1Eを充足しない。

なお、対象製品群1は、●(省略)●ルームエアコンの室外機である。イ
本件各発明2及び本件各海外特許権2に係る発明

(ア)

本件各発明2

別紙発明2一覧表の対象製品群2欄記載の製品(以下対象製品群2という。)は、本件発明2-1を実施している(弁論の全趣旨)。なお、対象製品群2は、●(省略)●ルームエアコンの室外機及び室内機である。(イ)

本件各海外特許権2に係る発明

●(省略)●

本件各発明3及び本件各海外特許権3に係る発明

(ア)

本件各発明3

被告は、本件発明3-1及び3-3を実施した製品(以下対象製品群3-1という。)並びに本件発明3-3を実施した製品(以下対象製品群3-2といい、これと対象製品群3-1を併せて対象製品群3という。ただし、対象製品群3-1及び3-2と別紙発明3一覧表の対象製品群3欄の型番群1及び型番群2とは対応関係にない。)を国内で製造販売している。なお、対象製品群3は、●(省略)●パッケージエアコンの室内機(天吊型室内機、一方向カセット室内機)及び●(省略)●ビル用マルチエアコンの室内機(中静圧天埋室内機及び天井ビルトイン室内機)であり、●(省略)●(甲A72、弁論の全趣旨)。

また、被告は、本件発明3-2-1及びその従属項としての本件発明3-2-3を実施していない。
(イ)

本件各海外特許権3に係る発明

●(省略)●
(5)●(省略)●
(6)被告における職務発明等に係る規程
被告における職務発明等に係る各規程(以下、●(省略)●被告規程とい
う。)には、次のとおりの記載がある。
●(省略)●
(7)被告による支払
被告は、原告に対し、本件各発明等に係る特許を受ける権利等の承継の対価として、それぞれ対応する被告規程に基づき、出願補償金、登録補償金、実績補償金●(省略)●により、次のとおり支払った。なお、●(省略)●

本件発明1

●(省略)●


本件各意匠1

●(省略)●


本件各発明2
●(省略)●


本件各発明3

(ア)本件発明3-1
●(省略)●
(イ)本件発明3-2
●(省略)●
(ウ)本件発明3-3
●(省略)●
(以上につき甲A11、乙A82、乙B1、B22、B39、弁論の全趣旨)(8)消滅時効の援用

被告は、原告に対し、以下の日付に実施された各弁論準備手続期日において、本件各発明等に係る相当の対価支払請求権及び不法行為に基づく損害賠償請求権につき消滅時効を援用する旨の意思表示をした。
本件各意匠1及び本件各発明2(国内実施分)

平成30年1月17日

本件発明1(相当対価請求権)
同年6月19日

本件発明3-2及び3-3(国内実施分)

同年9月28日

本件発明1(不法行為に基づく損害賠償請求権)

同年12月7日

本件各意匠1(予備的な消滅時効の援用)
本件各発明2及び3(国外実施分)
3
本件発明1について


令和2年1月20日

争点

(1)

平成31年2月14日

職務発明の対価

(ア)相当の対価の額(争点1-1)
(イ)消滅時効の成否(争点1-2)

不法行為の成否等(争点2)

(2)本件各意匠1について
相当の対価の額(争点3-1)
消滅時効の成否(争点3-2)

(3)

本件各発明2について


国内実施分に係る相当の対価の額(争点4-1)


国外実施分に係る相当の対価の額(争点4-2)


消滅時効の成否(争点4-3)

(4)

本件各発明3について

アアイ
職務発明の対価

(ア)被告規程に基づく対価支払の不合理性の有無(争点5-1)(イ)国内実施分に係る相当の対価の額(争点5-2)
(ウ)国外実施分に係る相当の対価の額(争点5-3)
(エ)消滅時効の成否(争点5-4)

第3

不法行為の成否等(本件発明3-2-2について。争点6)
当事者の主張

1
本件発明1について

(1)相当の対価の額(争点1-1)
〔原告の主張〕

実施の有無

対象製品群1の送風機は、本件発明1の構成要件1Eを僅かに充足していない。これは、原告が本件発明1を完成させた後、その実施品となるファンの製品化にあたり、被告の図面作成部門が忠実に図面作成をしなかったためであり、その差は僅かな誤差に過ぎない。対象製品群1は、本件発明1のその余の構成要件を全て充足しており、本件発明1の技術が充足されているものと比べて実質的に省エネ及び
騒音減少等の効用はほとんど失われていない。

対価算定の対象期間

●(省略)●であるから、売上高については、登録前であっても相当の対価の算定の基礎とされるべきである。

超過売上

(ア)本件発明1の国内実施高については、本件各意匠1の実施高として被告の発明相談委員会から開示された額をもってその実施高とすることを認める。もっとも、●(省略)●売上原価の売上高に対する割合は69.6%であり、売上原価は実施高(工場出荷額)を下回らないことから、売上高は、実施高の1.4365倍を下回ることはない。また、実施品が属する被告の家庭電器事業の売上高に対する
営業損益も加味すると、売上高は実施高の1.564529倍を下回らない。さらに、上記実施高は室外機のものである。エアコンは室内機と室外機がセットで販売されるものであるから、対価算定の基礎となる売上高は、セット価格の売上高すなわち室外機価格の5/3倍とすべきである。
(イ)エアコンを構成するファンの省エネを図ることにより、ファン風量を維持し、
そのまま省エネに用いるか、ファン風量を大きくして熱交換器性能を向上させ、ファン消費電力の増加以上に圧縮機の消費電力を低減することにより、エアコン全体
の省エネを図ることが可能となる。そのため、ファンの省エネは、エアコンの開発において最も重要なテーマの1つである。また、ファンの省エネは、低外気温度時の暖房性能向上に対しても極めて重要な役割を果たす。したがって、●(省略)●であることをもって、本件発明1に係る対価請求の算定基礎となる売上高につき、製品の売上高に●(省略)●を乗じたものとすることは全く不合理である。(ウ)

以上の事情に加え、家庭電器に属する製品のうちルームエアコンは特に利
益率が大きい主力製品であることを踏まえると、本件発明1の実施品の売上高における超過売上の割合は、50%である。

仮想実施料率

本件発明1は、競合他社のファンよりも約10%の省エネを実現したものであるところ、これは構成要件1Bによる効果が大きく、これに加えて構成要件1Eを実施することで更なる省エネ効果が実現されるものであり、その技術的意義は大きい。本件発明1は対象製品群1における基本特許であり、そのことは、本件発明1を基本技術とする特許(特許第5980180号。以下P2特許といい、当該特許に係
る発明をP2発明という。)を実施する2014シーズン年度(当該年の前年10月~当該年の9月まで)モデルのルームエアコンについて、被告が

生まれ変わった、霧ヶ峰

、送風効率を大幅改善などと宣伝していること、すなわち、平成25年8月までは、原告の平成14年当時の技術を上回るほどの技術がなかったことからもうかがわれる。

また、本件発明1が属する被告の家庭電器事業の平成29年度における営業利益は、560億円超である。
これらの事情を踏まえると、本件発明1に係る仮想実施料率は4.40%又は4.41%とするのが相当である。

被告の貢献割合

本件発明1は、●(省略)●開発したものであることなどから、ほとんど原告の人件費しか費用は掛かっておらず、また、被告に蓄積された技術を使用したもので
はない。
●(省略)●
被告のルームエアコンの出荷台数及びマーケットシェアは、本件発明1及び原告が開発した室内機ファンの実施により、2004シーズン年度モデルから大きく改善しているところ、これには本件発明1を含む原告の発明や創作が大きく貢献している。被告は、霧ヶ峰のブランド力や被告の費用負担のほか、製品の各種付加機能の貢献を主張するけれども、本件発明1に比べ、いずれも商品の訴求力は乏しい。カ
共同発明者間の貢献割合

原告は、本件発明1ないしその実施品の開発に係る打合せ資料を多数作成すると共に、●(省略)●などした。
他方、特許出願時において、各社の組織上の都合や体裁等から、ほとんど研究開発に関与していない上司等を名目のみ共同開発者とし、名誉を付与する場合が少なくなく、形式的な共同開発者の氏名と実質的な開発者は必ずしも合致するものでないことは実務上広く認識されている。また、実質的にも、P3らは、本件発明1に
係る技術に詳しくない。
したがって、本件発明の真の発明者は原告のみであり、P3らは、名目上の共同発明者に過ぎず、本件発明1への貢献はない。

小括

以上より、原告は、本件発明1に係る相当の対価(将来分も含む。)として、対
象製品群1の売上高●(省略)●5/3)に超過売上率(50%)仮想実施料率、
(4.40%又は4.41%)
、原告の貢献割合(5%)を乗じたものの一部である600万
円の支払を請求する。
〔被告の主張〕

実施の有無

被告において、本件発明1を実施した製品を製造販売したことはない。対象製品群1は、少なくとも本件発明1の構成要件1Eを充足しない。
本件発明1の構成要件1B~1Dの数値限定やファンの後縁部の切込を外周側に施すことは単なる従来技術に過ぎず、本件発明1は、構成要件1Eの数値限定を付加することで特許査定に至ったものである。対象製品群1でこのような従来技術が採用されたことを理由に、本件発明1に係る相当の対価請求権が発生することはない。イ
対価算定の対象期間等

仮に本件発明1につき相当の対価算定の基礎になり得る対象製品群1の売上があるとしても、特許権は、登録されるまでこれに基づく差止請求権を行使することができないから、算定の基礎となるのは、本件特許権1の登録日(平成19年8月31日)以降の売上高に限られる。また、仮に出願公開から登録までの間に何らかの独占的効果が生じていたとして、当該期間の売上高が算定の基礎となり得るとしても、当該効果は差止請求権を伴わない極めて希薄なものに過ぎないため、算定に当たっては高くとも10%程度の係数を乗じるべきである。

超過売上等

使用者等は、職務発明等について、自己実施分については当然に無償で実施することができ、それを超える実施分に係る売上高が相当の対価算定の基礎となる。しかるに、ルームエアコン市場には被告の他に多数の有力な競合他社が存在し、それぞれがプロペラファンを含むルームエアコンに関する技術を有する。このため、競合他社が敢えて本件発明1を実施する必要性はなく、被告が本件特許権1を有していることにより特段市場シェアは変化しない。このため、本件発明1に係る超過売
上は存在しない。
仮に超過売上があるとしても、本件発明1は送風機の発明であり、送風機のプロペラファンの形状にのみ特徴のある発明であるから、対価算定の基礎となる売上高はプロペラファンに対応するものに限定される。●(省略)●が対価算定の基礎となる。


仮想実施料率

本件発明1は●(省略)●また、本件発明1は構成要件1Eの…7対3から9対1…という数値限定がされている点に特徴があるに過ぎない。さらに、競合他社は、本件発明1の構成要件1Eの数値限定を外した場合でも本件発明1と同等の作用効果を享受することができる。このように、本件発明1には優位性のある代替技術が存在し、特徴があるはずの数値限定にも特段の技術的意義がない。現に、被告は、本件特許権1について、他社からライセンスの希望を伝えられた
ことはなく、本件発明1が他社によって実施されたこともない。
また、対象製品群1の製品には、本件発明1以外にも多数の特許発明及びノウハウ等が実施されており、本件発明1に係るプロペラファンは、対象製品群1の各製品の一部品に過ぎない。
さらに、対象製品群1は、●(省略)●

以上のような事情を踏まえると、本件発明1の仮想実施料率は0%に等しい。オ
被告の貢献割合

(ア)被告は、長年、莫大な資本を投下してルームエアコンの開発を継続しており、その金額は●(省略)●その結果、相当長期間にわたり被告に蓄積された技術によってルームエアコンを製造することが可能となっている。また、被告は、ルームエアコンの製造のため継続的に製造設備等に投資をしてもおり、その金額は●(省略)●
対象製品群1は、被告の指示に基づき、このように被告が長年蓄積した技術、被告の費用・設備を用いたからこそ、開発、製造、商品化が可能であった。また、本
件発明1の実施の有無によってルームエアコン製造の可否が決まるものではない。(イ)●(省略)●
また、対象製品群1は、セットとなる室内機と併せると、開発項目が膨大な数に上る。当該技術開発は、従来から積み重ねてきた技術があるからこそなし得るものであり、かつ、投入された費用、人員及び時間は膨大である。例えば、対象製品群
1の開発にあたっては、W温度センサやこれを用いた体感温度制御等様々な省エネ技術が開発され、これにより需要者の購買意欲を促進し、対象製品群1の売上が成り立っている。他方、本件発明1は、対象製品群1(室外機)のうちのファンの部分に関するものに過ぎず、従来のファンから改良がされていたとしても、全体の省エネ性との関係ではその影響は微々たるものであり、本件発明1の実施の有無によって製品の売上が左右されることはない。
(ウ)被告は、その製造販売するルームエアコンの販売促進のため、●(省略)●の宣伝広告費を投じており、広告宣伝媒体は、カタログ、ポスター、テレビCM、新聞・雑誌広告、交通・看板広告、ウェブ関連広告等多岐にわたる。その結果、被告は、ルームエアコン市場において少なくとも13%~15%の台数シェアを継続的に維持しており、被告が販売するルームエアコンの霧ヶ峰のブランド力は、世界
最長寿ブランドとして周知されている。
(エ)そのほか、本件各発明等の権利化にあたっては被告が尽力し、その費用全てを支払っている。
(オ)以上の事情を踏まえると、本件発明1に係る被告の貢献割合が99.9%を下回ることはない。


共同発明者間の貢献割合

●(省略)●
したがって、本件発明1に係る原告の貢献割合が3分の1を超えることはない。(2)

消滅時効の成否(争点1-2)

〔被告の主張〕

起算点

(ア)被告は、原告から、遅くとも本件特許権1の出願日(平成14年5月30日)までに、本件発明1に係る特許を受ける権利を承継した。●(省略)●したがって、仮に原告が本件発明1について相当対価請求権を有するとしても、その消滅時効の起算点は遅くとも平成14年5月30日である。そうすると、平成24年5月30日の経過により、原告の上記請求権は時効により消滅した。(イ)●(省略)●

消滅時効の中断及び時効援用権の喪失がないこと

被告は、●(省略)●原告に対して実績補償金を支払ったものであり、その際、当該実績補償金額が昭和34年法35条4項に従い定められる額に満たないことを知らなかった。また、●(省略)●当初の支払時に金額の不足を認識していたことを裏付けるものではない。
よって、被告による実績補償金の支払は改正前民法147条3項所定の承認に当たらず、これにより消滅時効は中断せず、また、時効援用権を喪失させるものではない。
〔原告の主張〕

●(省略)●


●(省略)●


消滅時効の中断及び時効援用権の喪失

原告は、被告から、●(省略)●昭和34年法上定められる金額に満たないことを知りながら、上記各支払を行った。
このように、相当対価請求に対する一部弁済がされている以上、このような被告の行為により、債務の承認として消滅時効は中断し、又は、信義則上時効の援用権の行使は認められない。
(3)不法行為の成否等(争点2)
〔原告の主張〕


不法行為責任の成立

(ア)信義則違反
原告は、職務上本件発明1を商品化することを求められて被告における業務に従事し、本件発明1の実施品であるファンを製作し、これを製品化する目的で、被告の図面作成部門が実施品を受け取り、図面化した。●(省略)●
このような製品化のプロセス等に鑑み、被告は、本件発明1の技術的要件を敢えて外さなければならない特段の理由がない限り、信義則上、対象製品群1について、本件発明1の技術的要件を充足させる信義則上の注意義務を負っていた。ところが、被告の図面作成部門は、重大な過失により上記義務に違反し、●(省略)●形状がずれた図面を作成した。そのため、対象製品群1は、本件発明1の構成要件1Eを僅かに充足しない結果となった。
しかし、対象製品群1は、本件発明1の技術が充足されているものと比べて省エネ及び騒音減少等の効果がほとんど失われておらず、被告は、実質的に本件発明1を活かした製品を販売して利益を上げている。しかも、被告は、本件発明1を参考にして、平成25年8月に僅かに後縁部の削除形状を変更したプロペラファン(P2発明)を搭載した製品を発売し、後継モデルにおいても、本件発明1の着想から
多大な利益を得ている。
にもかかわらず、被告の重大な過失により対象製品群1が僅かに本件発明1の技術的要件を充足しないことを理由に、本件発明1に係る相当の対価の支払義務がない旨主張してこれを支払わないことは、信義則に違反し違法である。(イ)期待権侵害

本件発明1が製品化にあたり実施されるに至らなかった上記経緯に鑑みると、少なくとも被告には、相当な対価を得られることに対する原告の期待権を侵害する不法行為が成立する。
(ウ)損害額
原告は、被告の不法行為により、本件発明1に係る相当対価請求権に基づく請求
額相当の損害を被った。
したがって、本件発明1に基づく相当の対価請求が認められない場合、原告は、予備的に、不法行為に基づく損害賠償請求権の一部として600万円を請求する。イ
消滅時効の不成立

原告は、平成30年3月15日に被告の製品を購入した上で調査し、被告が本件発明1に基づいて正しく商品化していないことを認識し、被告の信義則違反による不法行為を初めて知った。
したがって、原告の不法行為に基づく損害賠償請求権に係る消滅時効の起算点は同日以降であり、消滅時効は成立しない。
〔被告の主張〕

不法行為の不成立

(ア)対象製品群1のプロペラファンが本件発明1の技術的範囲に属しないこと、●(省略)●及び被告が平成25年頃に販売した製品においてP2発明を実施していることは認め、その余は不知ないし否認する。
(イ)使用者等が従業員等から職務発明に係る権利を承継した場合、使用者等がその権利をどのように処分するかは使用者等の自由であって、従業者等に対し何らか
の義務を負う余地はない。
また、●(省略)●被告において本件発明1の実施が予定されていたとはいえない。そもそも、原告が実施品となるべきであったと主張するプロペラファンの形状自体、本件発明1の構成要件1Eを充足していない。
(ウ)被告による本件発明1の不実施は、本件発明1について実施に対応する相当
の対価が無いことを明らかにするに過ぎず、原告に損害を発生させるものではない。イ
消滅時効の成立

原告は、遅くとも平成14年2月7日には、被告において量産化されるプロペラファンの形状を認識し、当該プロペラファンが本件発明1の構成要件を充足しないことも認識していた。
したがって、原告は、遅くとも平成14年2月7日には、被告が本件発明1を実施しないことを認識していた。
そうすると、仮に原告の不法行為に基づく損害賠償請求権が存在したとしても、平成17年2月7日の経過により、消滅時効が完成した。
2
本件各意匠1について

(1)相当の対価の額(争点3-1)
〔原告の主張〕

実施の有無等

(ア)被告は、対象製品群1において、本件意匠1-1を実施している。本件意匠1-1は、本件発明1に対応する意匠である。
また、現在のルームエアコン室外機用のプロペラファンの業界標準モデルは、本件各意匠1のいずれか又はこれらを組み合わせたものである。このことは、本件各意匠1が商品の売上に貢献していることの証左である。

(イ)意匠における対価請求の可否の判断材料となる視覚的認識は、商品の本質に鑑みて、単なる消費者だけではなく、需要者による視覚的な認識可能性が全体的かつ実質的に考慮されるべきである。被告は、本件意匠1-1を基本創作としたファンの省エネ性やデザイン性につき、2014シーズン年度モデルのカタログにおいて大々的に訴求している。このように、カタログにおいて本件意匠1-1を基本創作
としたファンの写真を掲載している以上、ファンの意匠は多くの需要者に視覚的に認識され、被告製品の商品力を高めているといえる。
(ウ)被告が販売し、取引の対象となる商品が室外機であるとしても、当該室外機の構成においてファンは中心的役割を果たし、そのイメージは商品の訴求力として小さくない。したがって、ファンと室外機を形式的に区別し、ファンに係る本件各
意匠1の自己実施が否定されることはない。

相当の対価の額

(ア)意匠登録前の売上高も相当の対価算定の基礎に含めるべきであること、対象製品群1の実施高から売上高を算出した上でセット価格の売上高を算出するべきであること、エアコンを構成するファンの重要性に鑑みれば●(省略)●のは相当でないこと、本件各意匠1に係る創作は原告が一人で行ったこと、本件各意匠1が被告の2004シーズン年度モデルのルームエアコンの出荷台数及びマーケットシェアの拡大に寄与していることは、本件発明1と同様である。
(イ)本件各意匠1は、●(省略)●
(ウ)本件各意匠1に係る相当の対価は本件発明1と同額であり、原告は、その一部である200万円の支払を請求する。
〔被告の主張〕

実施及び実施高の有無等

(ア)意匠とは、物品(物品の部分を含む。)の形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものであるから、外部から視覚を通じて認識できるものであることを要する。また、意匠保護の根拠は、当該意匠に係る物品が流通過程に置かれ取引の対象とされる場合に、取引者、需要者が当該意匠に係る物品を混同することを防止することにある。したがって、当該意匠に係る物品の流通過程において取引者及び需要者が外部から視覚を通じて認識することができる物品の外観のみが意匠法による保護の対象となり、流通過程において外観に現れず視覚を通じて認識することができない物品の隠れた形状は考慮することが
できない。
(イ)被告が販売し、流通過程において現実に取引対象とされている具体的な物品は、ファンではなく室外機である。本件各意匠権1に係る物品であるファンと対象製品群1の物品である室外機(及び室内機等のパッケージ)は全く異なり、物品の同一性、類似性が認められない。

また、本件各意匠権1に係る物品はファンであり、当該ファンは室外機に内蔵されているところ、流通過程に置かれて取引の対象とされる室外機において、外部から視覚を通じてほとんど認識することができないように組み込まれている。そうすると、ファンのイメージに訴求力があるとはいえない。
さらに、対象製品群1が掲載された被告のカタログないしパンフレットには、室
外機のプロペラファンの形状等は一切記載されていない。被告の2014シーズン年度モデルのカタログは対象製品群1と無関係であるし、仮にカタログに室外機に内蔵されたファンの形状のようなものが掲載されていたとしても、それは具体的な物品の意匠ではないため、本件各意匠1の実施の有無を左右しない。(ウ)以上より、対象製品群1は、本件各意匠1のいずれとも類似せず、これを実施した製品ともいえないため、対象製品群1において、対価請求の前提となる実施高は0円である。

相当の対価の額

(ア)対象期間、超過売上等
仮に本件各意匠1の対価算定の基礎となる対象製品群1に係る売上高があるとしても、意匠登録後のものに限られること、ファンに対応する売上高●(省略)●に限定されるべきことは、本件発明1と同様である。
本件各意匠1の対象となるファンは、室外機に内蔵され、外部からほぼ視認されないものであり、このようなファンの美感に惹かれ、需要者が対象製品群1のルームエアコンを購入することはあり得ないため、実際には、本件各意匠1の美感を原因とした売上高は皆無である。また、意匠は視覚を通じて美感を起こさせるものを
いうことから、その性能等は問題とならない。
競合他社は、自社及び被告のルームエアコン室外機に搭載されたファンを外部からほとんど視認することができないため、被告が本件各意匠権1に基づきルームエアコン及び室外機に対して権利を行使することはできないと考える。このため、本件各意匠権1は、競合他社のルームエアコンの販売に影響を与えておらず、本件各
意匠権1を有している現状の売上高と本件各意匠権1を有しないと仮定した状態の売上高を比較しても、差が生じることはない。
さらに、ルームエアコン市場においては、多数の有力な競合他社が存在する。競合他社は、本件各意匠1を実施することなくルームエアコンを製造販売し、一定のシェアを維持しているとおり、既に本件各意匠1に代替する意匠を有しており、敢
えて本件各意匠1を実施する必要性はない。そうすると、本件各意匠1の独占権の有無により被告の市場シェアが変化するとは考えられない。
加えて、本件各意匠1は、その出願日(平成14年7月26日)以前に公知であった意匠から当業者が容易に創作できた意匠であり、従来意匠と比較して美感的優位性を有する特徴的部分を有するものではない。このため、本件各意匠権1による独占の利益が生じる余地はない。●(省略)●
(イ)仮想実施料率等
上記のとおり、競合他社は、被告が本件各意匠権1に基づいてルームエアコン及びその室外機に対して権利行使ができないと考えることから、本件各意匠権1のライセンスを希望するものは皆無である。実際に、本件各意匠権1について、他社からライセンスの希望を伝えられたことも、他社によって実施されたこともない。
また、対象製品群1においては多数の特許及びノウハウ等が実施され、本件意匠1-1に係るプロペラファンは、対象製品群1の各製品の一部品に過ぎないこと、●(省略)●
以上のような事情をふまえると、本件各意匠権1の仮想実施料率は0%に等しい。(ウ)被告の貢献割合及び共同創作者間の貢献割合

本件各意匠1の創作及び対象製品群1について、被告の長年にわたるルームエアコンの開発、生産設備の確保・維持、蓄積した技術等を用いたからこそ創作から商品化・販売までが可能であったこと、●(省略)●共同創作者であるP4らが本件各意匠1の創作に寄与したことは、本件発明1と同様である。
したがって、本件各意匠1に係る被告の貢献割合が99.9%を下回ることはなく、
また、共同創作者間における原告の貢献割合が3分の1を超えることはない。(2)消滅時効の成否(争点3-2)
〔被告の主張〕

被告は、原告から、遅くとも本件各意匠権1の出願日(平成14年7月26
日)までに、本件各意匠1に係る意匠登録を受ける権利を承継した。●(省略)●このため、原告は、本件各意匠1に係る相当対価請求権をいつでも行使し得たのであるから、当該権利の消滅時効の起算点は、本件各意匠1に係る意匠登録を受ける権利の承継時、すなわち遅くとも平成14年7月26日である。そうすると、平成24年7月26日の経過により、本件各意匠1に係る相当対価請求権は時効により消滅した。

●(省略)●

そうすると、●(省略)●の経過により、本件各意匠1に係る相当対価請求権は時効により消滅した。

そのほか、●(省略)●被告による実績補償金の支払等が債務の承認に当た
らず、消滅時効を中断又は信義則上時効援用権を喪失させるものではないことは、本件発明1の場合と同様である。
〔原告の主張〕
●(省略)●被告の本件各意匠1に対する実績補償金の支払等により消滅時効が中断し、又は、信義則上時効援用権の行使が認められないことは、本件発明1の場合と同様である。
3
本件各発明2について

(1)国内実施分に係る相当の対価の額(争点4-1)
〔原告の主張〕

本件発明2-2の実施

対象製品群2は、その図面によれば、本件発明2-2の構成要件2Eにおける入口角が90°程度であって、構成要件2Eを僅かに充足しない可能性がある。しかし、当該入口角について、本件明細書2の図14を見ると、ファン回転数を一定としたときの風量比と入口角の関係は、入口角96°のとき風量が最大となり、これを100とすると、入口角91°のときは風量99.5、入口角90°のときは風量99.25である。構成要件2Eの入口角91°≦β1≦100°の記載は、便宜上、風量99.5以上となる入口角を記載したに過ぎず、風量が99.5と99.25の場合、騒音
の減少や省エネに与える影響はほぼ同一であると評価できる。
したがって、少なくとも本件発明2-1が実施されていることについて争いがない対象製品群2においては、本件発明2-2の技術的要件も充足していると考えるべきである。

本件各発明2の技術的価値等

(ア)本件各発明2は、ルームエアコンの室内機の奥行をコンパクト化する際の省エネ、低騒音化を図る発明であり、基本特許であるから、その売上に対する貢献は極めて大きい。
すなわち、ファンの省エネ、低騒音化を図ることが可能となると、エアコン全体の省エネを図るため、ファン風量を大きくし、ファンの消費電力を増加させつつ熱交換器性能を向上させ、圧縮機の消費電力低減を図ることが多い。●(省略)●そ
の結果、2004シーズン年度モデルは被告の販売台数及びマーケットシェアを大幅に拡大させ、本件各発明2を実施した2005シーズン年度モデルは国内出荷台数、マーケットシェアとも過去最高を記録した。
このように、本件各発明2は、エアコン全体の省エネのみならず、販売台数、マーケットシェア拡大にも大きな役割を果たすものであり、本件特許権2の禁止効果
による超過売上が存在し、超過売上率が高いことは明らかである。特に、本件発明2-1は、吸込み翼列の効率化を実現し、コストを要さずにルームエアコン室内機のコンパクト化、高性能化を実現する重要な発明であり、本件各発明2の中でも優位な技術に係るものである。
また、本件各発明2は、これが実施された対象製品群2に係る被告のカタログ
(以下被告カタログ②という。)で訴求されている技術に係るものであり、●(省略)●実施されている。
被告が本件各発明2に係る引用発明として指摘する特開平7-260181号公報(以下乙A57文献という。)記載の発明(以下乙A57発明という。)は、その効果が冷房運転時に熱交換器で発生する水滴(ドレン水)の処理を確実に行い、
室内空間への水滴飛散防止及び熱交換器性能向上を図るものであるため、本件各発明2における発明の課題及び効果と何ら関係がない。乙A57発明は、熱交換器の配置を工夫して風の翼への流入角度を改善する発明ではないし、乙A57発明の前面熱交換器は、本件各発明2における設置角度の要件を充たしていない。そのほか、被告が副引用例として指摘する各発明も、本件各発明2と熱交換器の構成が異なるなど、本件各発明2と無関係の発明であり、これらの発明により、本件各発明2の技術的優位性が否定されるものではない。

超過売上等

本件各発明2の技術的優位性を踏まえれば、その実施品の売上高における超過売上の割合は50%であり、対象製品群2の室内機全体における●(省略)●ことは相当でない。また、本件各発明2は熱交換器の配置とファン形状に関する発明であるところ、エアコン全体(室内機+室外機)の原価における室内機の熱交換器及びファンの原価割合はエアコン全体の原価に対する●(省略)●。
そのほか、特許権の登録前の売上高も対価算定の対象となること、対象製品群2の売上高は実施高の1.564529倍を下回らないこと、家庭電器に属する製品のうちルームエアコンは特に利益率が大きい主力製品であることは、本件発明1と同様で
ある。

仮想実施料率

ルームエアコンは流行が繰り返されるところ、平成16年以降の奥行のコンパクト化が流行した期間において、本件各発明2は十分に被告の売上に寄与した。したがって、●(省略)●は不合理なものではない。実際、被告及び競合他社とも、2005シーズン年度モデルは奥行のコンパクト化が流行り、2006シーズン年度モデル以降は省エネのため奥行が大きくなった後、平成30年3月に再び競合他社が奥行のコンパクト化による意匠性向上を大々的に宣伝している。このように流行は繰り返すものであるから、現在も本件特許権2は競合他社に対する禁止効果を有している。

また、本件各発明2について、●(省略)●さらに、被告は、かつて当事者であった事件において、温風暖気が含まれる金属製品の実施料率について、4.41%、4.46%又は4.40%と主張するなどしていた。
そのほか、家庭電器に属する製品のうち、ルームエアコンは特に利益率が大きい主力製品であることも考慮すれば、本件各発明2に係る仮想実施料率は4.4%以上である。

被告の貢献割合、共同発明者の貢献割合

(ア)被告の貢献割合等
本件各発明2は、流体解析の技術が不可欠であるところ、これは高度な数学の知識を要するものである。被告においては、流体解析をできる者がいなかったことから、●(省略)●という非効率な開発を行っていた。
これに対し、原告は、2005シーズン年度モデルにおける奥行のコンパクト化の開発において、●(省略)●
以上のとおり、本件各発明2は、原告が専ら考案し、原告にしかなし得なかったものであり、原告の貢献度は極めて高い。
(イ)

共同発明者間の貢献割合

本件各発明2の開発当時、被告社内で流体解析を製品開発に展開できる技術者は原告だけであり、原告が一人でその発明を行った。本件特許権2の特許公報記載の原告以外の共同発明者は本件各発明2に関与しておらず、難易度の高い流体解析及び解析結果の分析を行う技術を有していなかった。すなわち、P5は、原告と同じ課の後輩として、原告が考案した仕様の試験作業を担当したに過ぎない。P6は、
設計部門に所属する取りまとめ役として、原告に対し奥行のコンパクト化、省エネ、低騒音化の実現の希望を伝えたほか、開発打合せの司会等をしていたに過ぎない。カ
小括

以上より、原告は、被告に対し、本件各発明2に係る相当の対価(将来分も含む)として、対象製品群2の売上高●(省略)●に、超過売上率(50%)、仮想実施料
率(4.4%)
、原告の貢献割合(5%)を乗じた結果の一部である2200万円の支払を請求する。
〔被告の主張〕

本件発明2-2の実施の有無

被告において本件発明2-2を実施した製品を製造販売したことはない。対象製品群2は、本件発明2-2の構成要件2Eを充足していない。

超過売上等

(ア)本件各発明2の技術的価値及び対象製品群2における位置付け等本件発明2-1は被告の2005シーズン年度のルームエアコン(対象製品群2)において実施されているが、本件各発明2は、対象製品群2の有する室外機、熱交換器、制御機能等から達成される冷暖房能力、省エネ能力、耐久性、低騒音性、空清能力、デザイン等の極めて多様な需要を喚起する要素のうちの、省エネ・低騒音に関連する部分のうちの、室内機に関連する部分のうちの、空力に関する部分のうちの、クロスフローファンの構成とこれとの関連で特定された熱交換器の配置という微々たる要素を特定したものに過ぎない。
また、対象製品群2が掲載された被告カタログ②は、本件各発明2の技術とは無
関係の技術に基づく特徴を全面的に押し出しており、本件各発明2は、対象製品群2において特段強調されるような技術ではない。
さらに、本件各発明2は、2004シーズン年度の被告製品では実施されておらず、当該製品の販売台数増加とは無関係である。
加えて、本件各発明2は、いずれも、乙A57発明から容易に想到できる発明であ
り、乙A57発明との間に相違点があるとしても、特段の技術的意義を有するものではない。したがって、本件各発明2は、いずれも、従来技術と比較して技術的優位性を有する特徴的部分はなく、仮にその実施品による利益が生じていたとしても、独占の利益は存しないか、微々たるものである。
そのほか、本件明細書2には乙A57発明との相違点に係る技術的意義が理解でき
るように記載されておらず、本件各発明2は、いずれも、課題が解決できるものと認識できる範囲とはなっていないから、サポート要件違反、実施可能要件違反により無効である。競合他社は、かかる無効理由を容易に認識できることから、本件特許権2に抑止的効果はない。
(イ)対象製品群2の売上高は、主に室内機及び室外機の売上高である。本件発明2-1は、空気調和器の発明とされるものの、原告が関与した可能性がある部分は主に室内機のクロスフローファンの構成である。本件各発明2が対象製品群2のうちのクロスフローファンという微々たる要素を特定したものに過ぎないことを踏まえると、対価算定の基礎とすべきは、対象製品群2の売上高のうち、クロスフローファンの原価割合に対応する部分に限られるべきであり、●(省略)●を超えることはない。

また、本件各発明2では熱交換器の設置角度を特定しているが、これはあくまでクロスフローファンとの関係で熱交換器の配置を特定するものに過ぎず、放熱フィンやその配列に係る構成といった熱交換器の構成自体に関するものではない。したがって、本件発明2-1に係る対価の算定にあたり熱交換器の原価割合まで考慮することは相当でない。

さらに、対象製品群2が属するルームエアコン市場には、被告のほかにダイキン工業株式会社(以下ダイキンという。)、パナソニック株式会社(以下パナソニックという。)、日立アプライアンス株式会社(以下日立という。)、株式会社富士通ゼネラル、東芝及びその系列会社等の多数の有力な競合他社が存在し、それぞれがスクロールファンを含むルームエアコンに関する代替技術を有して
いる。本件各発明2がルームエアコンの効率化及びコンパクト化に寄与するとしても、競合他社はそれぞれの代替技術でこれらの課題を解決済みであり、敢えて本件各発明2を実施する必要性はなく、仮に実施したとしても、被告のシェアが損なわれるような影響が生じることはない。本件各発明2は、熱交換器の配置と、クロスフローファンの回転中心の位置やその翼の入口角及び出口角により特定された発明
であるところ、当該発明は、単に、競合他社の製品において、追加で実施すればそのまま性能が向上するというような性質のものではない。また、本件特許権2が市場参入を阻害することもない。しかも、●(省略)●
(ウ)以上によれば、本件発明2-1による超過売上の割合は0に等しい。なお、仮に相当の対価を算定する場合、算定対象期間が登録後に限られること及び出願公開後の期間を含む場合は実施品の売上高に10%程度を乗じるべきであることは、本件発明1の場合と同様である。

仮想実施料率

(ア)本件各発明2には代替技術による有力な競合品が多数存在し、競合他社において、敢えて本件各発明2についてライセンスを求める動機が存在しない。現に、被告は競合他社からライセンスを求められたことはなく、競合他社が本件各発明2を実施したこともない
また、●(省略)●本件発明2-1がルームエアコンの売上に全く寄与していないことを推認させる。
さらに、対象製品群2の製品には多数の特許、ノウハウ等が実施されている。しかも、本件各発明2の特徴はクロスフローファンであり、これは対象製品群2の各
製品の一部品に過ぎない。したがって、対象製品群2における本件発明2-1の寄与率は極めて低い。
●(省略)●
以上によれば、本件発明2-1の仮想実施料率は0%に等しい。
(イ)●(省略)●本件発明2-1の仮想実施料率については、●(省略)●を更
に実施されている特許発明の件数で除した料率を用いるべきである。(ウ)●(省略)●
また、原告が指摘する事件は本件各発明2と全く技術分野が異なり、かつ、当該事件の判決で言及された実施料率のデータの内容は昭和43年度~平成3年度のものであるから、本件とは前提や年代が全く異なる。経済産業省知的財産政策室編
ロイヤルティ料率データハンドブックによれば、本件各発明2に関連すると思料される技術分類機関またはポンプ及び照明;加熱における料率の平均値は、それぞれ3.1%及び3.9%である。

被告の貢献割合

(ア)本件各発明2における被告の貢献割合
●(省略)●
(イ)対象製品群2における被告の貢献割合
本件各発明2は、対象製品群2における室内機のうちの熱交換器の配置とファンに関するものに過ぎず、従来の構成から改良がされたとしても、対象製品群2の開発項目は膨大なものであり、投入された費用、人員及び時間は膨大で、当該開発は被告において従来から積み重ねてきた技術や設備があるからこそなし得たものであ
る。当該開発において必要な機材を用意し、費用を負担したのは専ら被告である。また、対象製品群2の開発においては、ムーブアイ(快適気流制御)やこれを用いた体感温度制御等、需要者の購買意欲を促進する様々な技術が開発され、これが対象製品群2に搭載されたことによりその売上が成り立っているのであり、本件発明2-1の実施の有無により売上が左右されることはほぼない。

そのほか、被告がルームエアコンについて多額の費用を負担して継続的な研究開発を行い、技術を蓄積し、また設備投資等をしていること、販売促進のために多額の宣伝広告費を投じてそのシェアを維持しており、その結果被告のルームエアコンの知名度が著名であること、本件各発明2の権利化にあたり被告が全て費用を負担するなどして尽力したことは、本件発明1と同様である。

(ウ)小括
以上のような事情を踏まえれば、被告の貢献割合が99.9%を下回ることはない。オ
共同発明者間の貢献割合

●(省略)●
よって、原告のほかP5らも本件各発明2の発明者であり、本件各発明2における原告の貢献割合が3分の1を超えることはない。

小括
以上から、本件各発明2につき、被告が特許を受ける権利を原告から承継したことに対する相当の対価の額は0円であるか、幾分あるとしても既に支払済みである。(2)

国外実施分に係る相当の対価の額(争点4-2)

〔原告の主張〕

実施の有無等

●(省略)●英国、中国及びタイにおいて、別紙発明2一覧表の海外対象製品群2記載の製品(以下海外対象製品群2という。)を製造し、欧州、中国、米国及び豪州において販売している。●(省略)●本件発明2-2を実施していない。
製品型番がMSZ-GA及びMS-Aである海外対象製品群2は、欧州及び米国において販売され、タイ、英国及び中国においても製造されている。
●(省略)●
なお、本件発明2-1は本件発明2-2よりも優位性が高いため、本件発明2-1のみを実施している場合でも、本件発明2-2をも実施している場合と比較して、
相当の対価は変わらない。

対象期間等

(ア)●(省略)●
(イ)●(省略)●

売上

●(省略)●

本件各発明2の技術的価値、被告及び共同発明者間の貢献割合等

(ア)●(省略)●
また、本件各発明2は、奥行きのコンパクト化及び高性能の両立を実現した基本特許であり、付加機能等に関する部分特許とは異なる。したがって、●(省略)●本件各発明2に係る対価を減額する要素にはならない。
(イ)本件各発明2の技術的価値が高いこと、原価割合を乗じて相当の対価を算出することが不相当であること、本件各発明2に関し原告の貢献割合が大きく、これに比べて被告の貢献割合が低いこと、共同発明者とされるP5らは実際には発明に貢献しておらず、原告一人が発明者であることは、本件各発明2の国内実施分の場合と同様である。

小括

原告は、本件各発明2の国外実施分に係る相当対価請求権として、●(省略)●の一部である1000万円を請求する。
〔被告の主張〕

実施の有無等

(ア)●(省略)●
(イ)●(省略)●欧州特許権2を英国に移行していない。●(省略)●したがって、●(省略)●
したがって、欧州特許権2及び米国特許権2による独占の利益は生じていない。●(省略)●

(ウ)●(省略)●
ab
●(省略)●

c
●(省略)●


●(省略)●

本件各発明2の技術的価値、被告及び共同発明者間の貢献割合等

(ア)国際的なルームエアコン市場においては、被告のほかに、ダイキンや海外企業等多数の有力な競合会社が存在する。また、クロスフローファンを含めルームエアコンに関する代替技術等が存在しており、競合他社において本件各発明2を実施する必要性は乏しい。
(イ)●(省略)●実施の必要性が低いことを示している。

(ウ)●(省略)●
(エ)

●(省略)●
また、本件各発明2に、従来技術と比較して技術的優位性を有する特徴的部分がないこと、本件各発明2が主にクロスフローファンの構成に関する発明であり、海外対象製品群2におけるクロスフローファンの●(省略)●を考慮すべきであること、被告の貢献割合が99%を下らず、原告の貢献割合が3分の1を超えることはないことは、本件各発明2の国内実施分の場合と同様である。
(3)消滅時効の成否(争点4-3)
〔被告の主張〕

被告は、原告から、遅くとも本件特許権2の出願日(平成16年3月25日)
までに、本件各発明2に係る特許を受ける権利を承継したところ、●(省略)●このため、原告は、承継時以降いつでも被告に対し本件各発明2についての対価を請求し得たのであるから、当該対価請求権の消滅時効は、遅くとも特許を受ける権利の承継時である平成16年3月25日から進行する。
したがって、平成26年3月25日の経過により、本件各発明2についての相当対価請求権は、国内外実施分のいずれも時効により消滅した。


国外実施分に係る相当対価請求権に関して、原告は、中国特許権2の登録日
が平成20年11月12日、●(省略)●時効の起算点が同日である旨を主張する。しかし、前記のとおり、中国特許権2に係る本件各発明2の特許を受ける権利が承継されたのは対応する日本における本件特許権2の出願日である平成16年3月25日以前であり、中国特許権2に係る相当対価請求権もその時点以降行使可能である。
〔原告の主張〕

●(省略)●被告による実績補償金の支払等により消滅時効が中断し、又は
被告の援用権の行使が認められないことは、本件発明1と同様である。イ
国内実施分に係る相当対価請求権について、●(省略)●当該起算点からA
事件の提訴(平成29年7月31日)までは10年を経過していないから、消滅時効は成立しない。

国外実施分に係る相当対価請求権について、本件各海外特許権2のうち最も
古い登録日は中国特許権2の平成20年11月12日である。●(省略)●当該起算点からB事件の提起(平成31年4月22日)までは10年間を経過していないから、消滅時効は成立しない。
4
本件各発明3について

(1)被告規程に基づく対価支払の不合理性の有無(争点5-1)〔原告の主張〕

協議の状況

被告規程の策定は被告本社知財部門によって一方的に行われたものであり、少なくとも原告は策定の協議に全く関与していない。
また、被告は、原告が対価不払を認識するに至るまで、長年にわたり原告に対する職務発明の対価を不払し、又は合理的な理由のないまま●(省略)●としていた。このように合理性の伴わない対価の不払や●(省略)●原告が認識することなく長年放置されていた事実は、被告において、そもそも対価を決定するための基準の策
定に際して使用者等と従業者等との間で十分な協議がなされておらず、従業者等に対して対価決定のための基準が満足に周知されていなかったことを強く推認させる。したがって、対価を決定するための基準の策定に際して被告と従業者等との間で行われる協議が十分になされたとはいえない。

基準の開示状況

●(省略)●算定のために十分な説明文などが足りないため、従業員は、自ら具体的な対価を算定することができない。さらに、従業者等が被告細則や自己実施対価●(省略)●辿り着くにはかなりの労力を要し、●(省略)●これらを確認したことがある者は皆無であった。
これらの諸事情を勘案すると、被告による基準の開示は適切かつ十分ではない。

意見聴取の状況

被告は、原告が相当の対価の不払及び不足を申し出た後、十分に意見を聴取せず、十分に説明しないまま、●(省略)●遅延損害金の支払を拒絶するなど、原告に対する説明を放棄している。また、被告の発明相談委員会等の応答は、●(省略)●著しく誠実さを欠き、合理的な手続を経たとは評価できない。そのため、原告と被告の間の対立点は全く解消されていない。
その上、原告からの異議申立てに対して中立の専門機関等での評議がされておらず、手続的担保が不十分である。
したがって、被告における意見聴取の状況が十分とは評価できない。エ
その他の手続的事情

●(省略)●対価を支払わなかったのであるから、被告規程による対価の支払は不合理であるといえる。

実体面の不合理性

発明の価値に比べてあまりに過小な対価が支払われる場合、被告規程により対価を支払うことは不合理であるといえるところ、以下の事情に鑑みると、本件における被告規程に基づく対価の支払は不合理である。
(ア)被告細則の不合理性
●(省略)●
本件発明3-1はファン幅を長くする発明であり、多少のコストアップを伴うが、大幅な省エネを実現する。本件発明3-2はケーシング形状に関する発明であり、コストは変わらず大幅な省エネを実現する。本件発明3-3はファンの翼形状に関
する発明であり、コストは変わらず大幅な省エネを実現する。また、本件各発明3の実施による低騒音化及びコンパクト化に伴い、板金や断熱材の●(省略)●ことができ、被告は巨額の独占の利益を享受している。
それにもかかわらず、本件各発明3は、●(省略)●被告細則は不合理である。(イ)評価の不合理性

本件各発明3は、エアコンの室内機の高さのコンパクト化、所定の風量の維持、低騒音、省エネ及び低コストを両立するための各技術である。本件各発明3を回避することは、技術的に困難ではないが大幅なコスト上昇を伴うものであり容易ではない。また、本件各発明3は、平成29年の豪州向けの被告のカタログにおいて未だにその成果が大きく訴求されるような基本特許であり、●(省略)●(ウ)●(省略)●となる蓋然性が極めて高く、実体面において著しく不合理である。
〔被告の主張〕

●(省略)●

以上のとおり、実績補償金に係る被告規程の定めは合理的なものである。●(省略)●

●(省略)●

(カ)●(省略)●被告規程による対価の支払が不合理と認められることはない。ウ
その他の事情

平成16年法35条5項が適用されるのは、その定めたところにより対価を支払うことが不合理と認められる場合であり、●(省略)●協議の結果発明者である従業員等と使用者等との間の対立点が解消されなかったこと、発明の評価に齟齬が生じていることは、不合理性を基礎付ける事実とならない。エ
小括

以上より、被告規程に基づく原告への対価支払は不合理とはいえない。(2)国内実施分に係る相当の対価の額(争点5-2)
〔原告の主張〕

本件発明3-2-2の実施

(ア)対象製品群3の型番群1の製品が本件発明3-2-2の構成要件3B-2を充足すること
本件明細書3-2には、
ベルマウス中心とファン回転中心とを一致させるものとするとの記載(【0019】
)があることから、本件発明3-2-2の構成要件3B2のスクロールの中心と当該ベルマウス中心は同じ意味である。また、ファン回転軸が一直線上にあるとき、
ファンの外形線とケーシングのベルマウスの外形線が同心円であることと、スクロールの中心(ベルマウス中心)とファン回転中心が一致することは同値である。●(省略)●
したがって、対象製品群3の型番群1の製品は、本件発明3-2-2の構成要件3B-2を充足する。
(イ)対象製品群3の型番群2の製品が本件発明3-2-2の構成要件3F-2を充足すること
対象製品群3の型番群2の製品につき、本件発明3-2-2の構成要件3F-2に
おけるθの角度は69.7°であるから、θ≦70°を満たす。
よって、対象製品群3の型番群2の製品は、構成要件3F-2を充足する。(ウ)以上より、被告は、対象製品群3の型番群1及び2共に、本件発明3-2-2の構成要件を全て充足し、当該発明を実施している。

相当の対価の額

(ア)超過売上、仮想実施料率等
a
被告は、●(省略)●本件各発明3を対象製品群3において実施している。
被告の生産台数は概ね国内:海外=1:2であり、海外販売価格は国内の1.3倍であるから、国内実施高は、海外実施高の3分の1程度となる。したがって、本件各発明3に係る国内実施分の実施高は、●(省略)●これを3分の1にした額とするのが相当である。
また、室内機を販売した場合、必然的に室外機及びリモコンも販売できるから、対価算定の際の売上高は、パッケージエアコン及びビル用マルチエアコン(以下パッケージエアコン等という。)の場合、室内機である対象製品群3の売上高の4倍程度とすべきである。

b
本件各発明3に係るファンは●(省略)●にもかかわらず、対象製品群3は、
本件各発明3の実施により、業界トップの高さのコンパクト化、低騒音、省エネを実現している。このように、本件各特許権3は、●(省略)●大幅に商品力の向上を図ることができる基本特許であり、対象製品群3において、本件各特許権3以外に基本特許は実施されていない。したがって、●(省略)●超過売上及び仮想実施料率を減額するべきではなく、超過売上率は50%、仮想実施料率4.4%とするのが相当である。
c
そのほか、特許登録前の売上高も相当の対価算定の基礎に含まれること、売
上高は実施高の1.564529倍とすべきことは本件発明1の場合と同様である。また、対象製品群3が属するパッケージエアコン等も、ルームエアコンと同様に家庭電器に属する製品のうち特に利益率が大きい主力製品であることを考慮すべきである。(イ)被告及び他の共同発明者の貢献割合
●(省略)●被告において、流体解析及び解析結果の分析を行い、これを製品性能の向上に展開できる技術者は原告のみであり、被告は何ら技術を有していなかった。
また、原告は、●(省略)●

他方、原告以外の共同発明者として記載されているP11らは、いずれもファンの技術者ではなく、本件各発明3の開発には関与していない。P7及びP8は開発全体の取りまとめ、P9及びP11は原告が発明したファンを室内機に搭載した試験作業、P10は図面全体の取りまとめ役をしたに過ぎず、いずれも、本件各発明3に対する貢献割合は皆無である。なお、P11は、当時入社数年目であり、原告
から提供されたファンを室内機に搭載して試験を行ったが、主体的にファンの研究開発を行う技術を有しておらず、また、●(省略)●特許性は皆無である。ウ
小括

以上より、原告は、被告に対し、本件各発明3の海外実施高を3分の1にした国内実施高に、1.564529倍を乗じて室内機分の売上高を算出し、これを4倍して求めた製品全体の売上高に、超過売上率(50%)、仮想実施料率(4.4%)、原告の貢献度(5%)を乗じて得られた相当の対価の一部として、3100万円を請求する。
〔被告の主張〕

本件発明3-2-2の不実施

被告が本件発明3-2-2を実施した製品を製造販売したことはない。対象製品群3の型番群1の製品は、スクロールの中心とファンの回転中心が一致せず、本件発明3-2-2の構成要件3B-2のうち前記スクロールの中心とファン回転中心とを一致させてなりを充足しない。また、型番群2の製品は、構成要件3F-2の角度θにつき、θ≦70°を充足しない。
本件明細書3-2の記載を参酌すれば、本件発明3-2-2の構成要件3B-2の
スクロールの中心とベルマウスの中心は異なる。仮にこれらが同義であると解釈されるならば、本件発明3-2-1と本件発明3-2-2とは排他的関係に立ち、両発明を同時に実施することはあり得ない。

相当の対価の額

仮に本件各発明3に係る相当の対価の額を試算しても、次のとおり、被告が原告に支払った対価を超えることはない。
(ア)対象売上高
対象製品群3の売上高はパッケージエアコン等の室内機の売上高であるところ、本件各発明3は、いずれもシロッコファンに特徴のある発明である。したがって、本件各発明3に係る相当の対価算定の基礎とすべきは、対象製品群3の売上高のう
ち、シロッコファンの原価割合に対応した金額を用いるべきであるところ、対象製品群3における●(省略)●
また、本件各特許権3がそれぞれ登録された以降の売上高を対価算定の基礎とすべきこと及び仮に出願公開以降の売上高が含まれるとしても10%を乗じるべきであることは、本件発明1の場合と同様である。

(イ)超過売上、仮想実施料率等
対象製品群3-1及び3-2は業務用エアコンに分類されるところ、業務用エアコンの市場には、ダイキン等多数の有力な競合他社が存在し、それぞれがシロッコファンを含む様々な技術を有し、一定のシェアを維持している。また、本件各発明3には無数の代替技術が存在し、競合他社が敢えて本件各発明3を実施する必要がなく、本件各発明3の実施により被告の市場占有率が変化することもない。これらの事情を踏まえれば、本件各発明3に由来する超過売上高は存在しない。そのほか、被告が本件各発明3について他社からライセンスの希望を伝えられたことがなく、他社に実施された事実がないこと、対象製品群3-1では●(省略)●、対象製品群3-2では●(省略)●の特許が実施されていること、●(省略)●であり、さらに、これを対象製品群3においてそれぞれ実施されている特許発明
の件数で除した料率を用いるべきである。
(ウ)被告の貢献割合
a
被告は、長年業務用エアコンの開発を継続し、莫大な費用を負担し、設備投
資をしてきた。このような継続的な研究開発等の結果、被告には相当長期間にわたり技術等が蓄積し、パッケージエアコン等を製造することが可能となった。他方、本件各発明3はパッケージエアコン等の室内機の一部品であるシロッコファンに関するものであり、これを使用するか否かによりパッケージエアコン等の製造の可否が決まるものではない。
また、被告は、継続的にパッケージエアコン等の販売促進のため多額の宣伝広告費を投じており、広告宣伝媒体は、カタログ・ポスター、新聞・雑誌広告等多岐に
わたる。被告は、対象製品群3が属する市場において、●(省略)●その結果、被告のパッケージエアコン等の知名度は著しく高い。
さらに、本件各発明3の開発において、解析、試作に係る機材を用意し、費用を負担したのは専ら被告である。
b
●(省略)●

また、本件各発明3は、対象製品群3の室内機のうちのファンに関するものに過ぎず、従来の構成から改良がされたとしても、全体から見れば微々たるものに過ぎない。
そのほか、対象製品群3の開発項目が膨大であり、膨大な費用、人員、時間が投入されたこと、被告が対象製品群3に搭載されたムーブアイやこれを用いた制御の付加価値技術を開発し、これにより需要者の購買意欲が促進され、その売上が成り立っていること等を踏まえれば、被告の貢献割合が99.9%を下回ることはない。(エ)共同発明者間の貢献割合
本件各発明3は、原告のみならず●(省略)●したがって、原告の貢献割合は、本件発明3-1については5分の1を超えず、本件発明3-2及び3-3については6分の1を超えない。

また、原告は、●(省略)●
(オ)小括
以上のとおり、本件各発明3について、平成16年法35条5項による相当の対価の額を試算してみても、その額は0円であるか、幾分かあるとしても既に被告が支払った金額を超えるものではない。

被告は、被告規程に基づき、本件各発明3の相当の対価を既に支払っており、平成16年法35条4項により、被告規程の定めに基づき支払うことが不合理と認められない限り、本件各発明3の国内実施分に係る相当対価請求権は弁済により消滅している。
(3)国外実施分に係る相当の対価の額(争点5-3)

〔原告の主張〕

実施の有無等

(ア)●(省略)●英国、中国及びタイにおいて本件各発明3(ただし、本件発明3-2-1及びその従属項としての本件発明3-2-3を除く。)の実施品である別紙発明3一覧表の海外対象製品群3欄記載の製品(以下海外対象製品群3という。)を製造し、欧州(フランス及びスペイン)、中国、米国、豪州、韓国及び台湾において販売している。
(イ)本件発明3-2-2について、欧州、中国、韓国及びタイの各特許権に係る各特許請求の範囲の請求項の記載は、本件特許権3-2の請求項2の記載と異なる部分がある。また、本件発明3-3について、タイ特許権3-3に係る請求項の記載は、本件特許権3-3の請求項1の記載とは異なる部分がある。しかし、当該各請求項の記載の違いは、被告が翻訳や出願手続を業者に発注し、確認を怠ったこと等により生じた誤記等であり、発明の内容としては何ら国内の特許に係るものと異なるものではなく、実施の形態も同じである。そうである以上、些末な請求項の記載の違いを理由に不実施であるとはいえない。
また、豪州、台湾及び韓国における本件各海外特許権3については、各国で生産
していないとしても、●(省略)●を豪州及び台湾において販売していること、韓国においては競合他社に対して市場における権利侵害を牽制していることから、被告は、これらの国の本件各海外特許権3に由来する独占の利益を得ているといえる。イ
被告規程に基づく支払の不合理性

被告規程による相当の対価の支払が不合理であることは、おおむね、国内実施分と同様である。また、国外実施分については、次のような事情もある。a
本件発明3-1について

タイ特許権3-1は、平成22年10月15日にタイで登録された。しかし、被告から開示された実績補償に関する資料には●(省略)●の記載がないから、被告はタイの実施高を考慮した対価を支払っていない。
b
本件発明3-2-2及び3-3について

●(省略)●
c
算定実施高について

●(省略)●

相当の対価の額

●(省略)●これは、通常実施権を超えるものであるから、相当の対価算定の基礎となる。
また、海外、特に欧州においては、家庭用であっても、美観上の理由から室内機を天井裏に設置する天埋室内機が好まれる。また、海外の需要者は天井の高さを大きくできることから、室内機としては、高さの小さい天埋室内機を好む傾向がある。このような需要からも、本件各発明3の海外での売上への貢献割合は高い。さらに、●(省略)●他方、被告は、高い経費をかけて、本件各海外特許権3を維持している。
そのほか、相当の対価算定の基礎となる売上高はセット価格とするべきであり海外対象製品群3の4倍を下回らないこと、本件各発明3の技術的価値が高いこと、超過売上の算定にあたり●(省略)●評価するのが相当でないこと、本件各発明3
に対する原告の貢献割合が大きく、これに比べて被告の貢献割合が小さいこと、本件各発明3は原告が全て一人で発明したことは、国内実施分と同様である。エ
小括

以上より、原告は、被告に対し、本件各発明3(本件発明3-2-1を除く。)の国外実施分に係る相当対価請求権に基づき、●(省略)●原告の貢献度(5%)を乗じた額の一部である4000万円を請求する。
〔被告の主張〕

発明の不実施

(ア)●(省略)●本件各海外特許権3に係る発明が実施されていないこと●(省略)●これらの国の特許権による独占の利益は生じていない。また、欧州特許権についても、●(省略)●独占の利益は生じていない。
●(省略)●
(イ)本件発明3-1について
●(省略)●欧州特許権3-1、中国特許権3-1及びタイ特許権3-1に係る本件発明3-1を実施している可能性はある。

(ウ)本件発明3-2-2について
対象製品群3は、原告が主張する中国特許権3-2に係る本件発明3-2-2の請求項記載の

スクロール部材の中心は、ファンの回転中心と一致しており

及びリブが設けられているという構成を有しない。
また、原告が主張する欧州特許権3-2には、本件発明3-2-2に対応する請求項の記載がない。
さらに、対象製品群3は、原告が主張するタイ特許権3-2に係る本件発明3-2-2の請求項記載の

スクロール(6)の中心は、ファンの中心と一致し

及びリブ(16)が用意されているという構成を有しない。
加えて、海外対象製品群3のうち、国内で実施している型番群2に対応する製品は、原告が主張する中国、豪州、台湾及びタイの各特許権の本件発明3-2-2に
係る各請求項に記載されたθ≦70°の構成並びに本件韓国特許権3-2のθ=60°の構成も有しない。
●(省略)●
(エ)発明3-3について
対象製品群3は、原告が主張するタイ特許権3-3の請求項に記載されたR/L≦β1≦130°という構成を有しない。●(省略)●
(オ)小括
以上より、本件各海外特許権3のうち、●(省略)●実施している可能性のある特許に係る発明は、欧州特許権3-1、中国特許権3-1、タイ特許権3-1、欧
州特許権3-3及び中国特許権3-3に係る発明に限られる。

被告規程に基づく支払が不合理でないこと

(ア)被告規程により支払うことが不合理とは認められないことは、国内実施分に対する支払と同様である。
(イ)●(省略)●
(ウ)被告規程に基づく支払
●(省略)●

相当の対価の額

●(省略)●
(ウ)被告の貢献割合等
●(省略)●被告の貢献割合は圧倒的に大きい。
そのほか、本件各発明3には多数の代替技術が存在し、その技術的価値が乏しいこと、●(省略)●被告の貢献割合が99.9%を下回らないこと及び共同発明者間における原告の貢献割合が、本件発明3-1では5分の1を超えず、本件発明3-2及び本件発明3-3では6分の1を超えないことは、国内実施分の場合と同様である。

(エ)小括
被告は、被告規程に基づき本件各発明3の相当の対価を支払ったところ、この支払は不合理ではなく、本件各発明3の国外実施分に係る相当対価請求権は弁済により消滅している。
(4)消滅時効の成否(争点5-4)

〔被告の主張〕

●(省略)●

したがって、仮に原告が本件発明3-2及び3-3についての対価請求権を有していたとしても、原告は、●(省略)●ことから、これらの権利に係る消滅時効の起算点は●(省略)●である。

本件各発明3の特許出願日以前にこれらの発明に係る特許を受ける権利が原
告から被告に承継されたところ、本件発明3-2及び3-3の出願日は、平成19年3月27日である。
したがって、これらの発明に係る相当対価請求権の消滅時効の起算点は、遅くとも同日である。

そうすると、平成29年1月19日又は同年3月27日の経過により、原告
の被告に対する本件発明3-2及び3-3に係る相当対価請求権は、時効により消滅した。
〔原告の主張〕
●(省略)●被告による実績補償金の支払等により消滅時効が中断し、又は信義則上被告の援用権の行使が認められないことは、本件発明1の場合と同様である。以上より、本件発明3-2及び3-3に係る相当対価請求権は時効消滅していない。
(5)不法行為の成否等(本件発明3-2-2について。争点6)〔原告の主張〕

原告は、対象製品群3の開発において、ファン性能向上を図るため、ケーシ
ング形状、翼形状、ファン幅等を変えた流体解析を行い、良好な解析結果が得られたものについての試作及び試験を行い、良好な試験結果が得られたファン、ケーシングの試作品を被告製造部の担当者に提供した。当該担当者は、これを被告の図面作成部門に渡し、●(省略)●
仮に、対象製品群3の型番群2について、本件発明3-2-2の構成要件3F-2
に係るケーシングのθの●(省略)●であり、当該構成要件のθ≦70°を充足しないとすれば、これは専ら被告の図面作成部門の落ち度によるものである。このように、特許発明の複数の構成要件の大部分を充足していて、全体として当該特許権の有益性を享受しているにもかかわらず、被告の落ち度により生じた僅かな要件の非充足を理由にその発明者に対する対価の支払を免れることは信義則上違
法であって是認されるべきではない。

このような被告の不法行為による原告の損害は、本件発明3-2-2を型番
群2において実施している場合の相当の対価と同額である。
原告は、本件各発明3における対価の一部請求として2000万円請求しているところ、●(省略)●型番群2における本件発明3-2と本件発明3-3の貢献割合は1:1であるから、損害額は200万円(=―20,000,000*1/5*1/2)となる。〔被告の主張〕
使用者等が従業員等から職務発明に係る権利を承継した場合、使用者等がその権利をどのように処分するかは使用者等の自由であって、従業員等に対し、何らかの義務を負う余地はない。
したがって、本件発明3-2-2の構成要件3F-2に関し、型番群2においてどのような値に設定するかは被告の自由である。θがどのような値であったとしても、被告に落ち度を見出すことはできない。
また、被告が本件発明3-2を実施しなかったことは、当該発明の実施に対応する相当の対価等がないことを明らかにしたに過ぎず、これにより原告に損害が生じるものではない。そもそも、本件発明3-2-2に対する相当の対価額は0である
から、本件発明3-2-2の不実施について原告に損害が生じる余地もない。第4
1
当裁判所の判断
本件発明1に係る相当の対価の額(争点1-1)及び不法行為の成否等(争
点2)
(1)認定事実
前提事実(第2の2)、文中掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
●(省略)●

本件発明1の特許出願から登録までの経緯

(ア)被告は、平成14年5月30日、本件発明1につき特許出願した。出願当初の特許請求の範囲請求項1~5の記載は、次のとおりである。【請求項1】
回転中心に位置するボス部と、前記ボス部に周囲に突設され回転して送風を行なう複数の羽根と、前記羽根の後縁部を前縁部側に凹んだ形状とした少なくとも1つの凹部と、を備え、前記凹部のそれぞれの両端を結ぶ線から前記凹部のそれぞれの
最も深い部分までの長さを前記羽根の外周で構成されるファン外径の0.06~0.14倍になるように構成したことを特徴とする送風機。
【請求項2】
回転中心に位置するボス部と、前記ボス部に周囲に突設され回転して送風を行なう複数の羽根と、前記羽根の後縁部を前縁部側の凹んだ形状とした少なくとも1つの凹部と、を備え、前記凹部の前記前縁部側に最も深く凹んだ部分から前記凹部の両端を結ぶ線分へ垂線を引いたとき、前記凹部の両端を結ぶ線分と前記垂線との交点が前記両端を結ぶ線分の中央よりも外周側で交わるように前記凹部の形状を構成したことを特徴とする送風機。
【請求項3】
回転中心に位置するボス部と、前記ボス部に周囲に突設され回転して送風を行な
う複数の羽根と、前記羽根の後縁部を前縁部側に凹んだ形状とした少なくとも1つの凹部と、を備え、前記凹部を含む前記羽根の後縁部長さを前記羽根の外周で構成されるファン外径の0.39~0.49倍になるように構成したことを特徴とする送風機。【請求項4】
回転中心に位置するボス部と、前記ボス部に周囲に突設され回転して送風を行な
う複数の羽根と、前記羽根の後縁部を前縁部側に凹んだ形状とした少なくとも1つの凹部と、を備え、前記1つの羽根の凹部長さを前記凹部を含む後縁部長さの0.895~0.915倍になるように構成したことを特徴とする送風機。【請求項5】
回転中心に位置するボス部と、前記ボス部に周囲に突設され回転して送風を行な
う複数の羽根と、前記羽根の後縁部を前縁部側に凹んだ形状とした少なくとも1つの凹部と、を備え、前記凹部を含む前記羽根の後縁部長さを前縁部長さの0.93~1.21倍になるように構成したことを特徴とする送風機。
(以上につき、乙A14の1)
(イ)被告は、上記請求項1~5等について、特許法(平成15年法律第47号によ
る改正前のもの)37条1号、同条2号違反等を理由とする平成18年10月6日(起案日)付け拒絶理由通知書(乙A14の2)による通知を受け、平成18年12月8日提出の手続補正書により、次のとおり、補正後の請求項1として当初の請求項1に請求項3及び4の内容を合わせることなどを内容とする補正をした。(上記のほか、乙A14の3)
回転中心に位置するボス部と、前記ボス部の周囲に突設され回転して送風を行う複数の羽根と、前記羽根の後縁部を前縁部側に凹んだ形状とした少なくとも1つの凹部と、を備え、/前記凹部のそれぞれの両端を結ぶ線から前記凹部のそれぞれの最も深い部分までの長さを前記羽根の外周で構成されるファン外径の0.06~0.14倍とし、前記凹部を含む前記羽根の後縁部長さを前記羽根の外周で構成されるファン外径の0.39~0.49倍とし、前記1つの羽根の凹部長さを前記凹部を含む後縁部長さの0.895~0.915倍としたことを特徴とする送風機。(ウ)被告は、上記拒絶理由を覆すに足りる根拠が見い出せないとして、再度、平成19年3月27日(起案日)付け拒絶査定(乙14の4)を受けた。
これを受け、被告は、同年5月24日付け手続補正書(乙14の5)により、上記補正後の請求項1に本件発明1の構成要件1Eを追加し、本件特許権1の請求項1のとおりに補正した。なお、上記手続補正書には、次のとおりの記載がある。この度同時に提出した手続補正書における請求項1の補正事項は、出願当初明細書の段落0041、及び図11の記載に基づくものであります。…/本願発明の請求項1は、…「前記凹部の前記前縁部側に最も深く凹んだ部分から前記凹部の両端を結ぶ線分へ垂線を引いたとき、前記凹部の両端を結ぶ線分と前記垂線との交点が前記両端を結ぶ線分の中央より外周側であって7対3から9対1となるよう内分する点の間に位置するように前記凹部の形状を構成したことを特徴とするものでありますが、引用文献1~3のいずれにも係る事項は記載されておりません。…/また、
特願2001-260218号は、…羽根後縁部の凹部の位置を特定した本願請求項1に係る発明と同一のものではありません。/したがって、上記引用文献1~3から本願発明の請求項1を容易に発明することはできません。」

本件明細書1の記載

(ア)発明が解決しようとする課題
従来のプロペラファンの羽根1は、前縁部2及び後縁部3が前傾形状をしており、所定風量を得るために必要なファンモータ8の消費電力が大きく、またプロペラファンの風切り音による騒音が大きく、さらに重量も大きいという問題点があった。(【0003】)
この発明はかかる課題を解決するためになされたもので、プロペラファンを駆動するためのファンモータの消費電力を低減することで、送風機の消費電力を低減し、かつ低騒音化、さらに軽量化を図ることを目的とするものである。/また、この発明は、ファンモータの消費電力を低減することで、このプロペラファンを有する空気調和機の全体としての消費電力を低減することを目的とするものである。(【0004】)
(イ)発明の実施の形態

羽根の後縁部3を前縁部側に凹んだ形状を成すように切りとったプロペラファン16は、従来のプロペラファン7よりも、風量30m3/minにおける消費電力は…3.1W低減でき、電流は…0.03A低減でき、騒音値は…0.3dBA低減できている。(【0015】)

これは羽根の後縁部3を前縁部側に凹んだ形状に切り込んでいるので、羽根の前縁部2で形成される空気流に対して抵抗が減少するためと考えられる。

(【0017】)
このようにプロペラファン16の後縁部3を前縁部側に凹んだ形状の凹部3aを有する構成とすることにより、所定の風量を得るのに必要なファンモータ15の消費電力と電流値を小さくでき、かつ室外ユニット12から発生する騒音値も小さくすることができる。また、羽根の面積が少なくなる分、軽量化することができる。(【0018】)
図11は、この実施の形態によるプロペラファン40を示す正面図である。図において、41は羽根1の後縁部3で、前縁部側に凹んだ形状の凹部3aで形成される領域である。…/点J0は凹部3aの前縁部2側に最も深く凹んだ部分であり、この点J0から凹部3aの両端を結ぶ線分EFへ垂線を引いたとき、凹部3aの両端を結ぶ線分EFと垂線との交点がK0である。(【0027】)【図11】

プロペラファン16の後縁部3に前縁部側に凹んだ形状の凹部3aを有し、凹部3aの最大深さH0を0.06D0~0.14D0(D0:ファン外径)とすることにより、所定の風量を得るのに必要なファンモータ15の消費電力を小さくすることができる。(【0029】)

P2発明及び2014シーズン年度モデルについて

(ア)P2発明は、被告の2014シーズン年度モデルの開発においてなされた発明であるところ、この発明に係るP2特許は、発明の名称を

軸流ファン、及び、その軸流ファンを有する空気調和機

とし、平成25年8月8日に特許出願され、平成28年8月5日に登録されたものであるが(特許第5980180号)、発明者はP2ほか7名とされ、原告はこれに含まれない。
(イ)P2特許の請求項1は、以下のとおりである。
複数の翼が回転して、流体を搬送する軸流ファンであって、/前記翼の回転方向における前進側の前縁には、前記翼を回転軸方向に投影したときに、回転方向の後進向きに凸形状となる第1湾曲部が形成され、/前記第1湾曲部は、回転軸に対して垂直に引いた仮想線と前記第1湾曲部とが接する接点としての前縁最後進点を有し、/前記翼の回転方向における後進側の後縁には、前記翼を回転軸方向に投影したときに、前記後縁の内周側に位置し回転方向の後進向きに凸形状となる第2湾曲部と、前記後縁の外周側に位置し回転方向の前進向きに凸形状となる第3湾曲部とが形成され、/前記第3湾曲部は、回転軸に対して垂直に引いた仮想線と前記第3湾曲部とが接する接点としての後縁最前進点を有し、/前記第2湾曲部は、前記回転軸と前記後縁最前進点を通る仮想線からの垂直距離が最大となる後縁最後進点を有し、/前記回転軸の同心円のうち前記前縁最後進点を通る第1同心円と前記後縁との交点である第1交点は、前記後縁最後進点と前記後縁最前進点との間に配置され/前記第2湾曲部と前記第3湾曲部とは、湾曲方向が異なる変曲点で接続され、/前記第1同心円上に前記前縁最後進点と前記変曲点が配置されることを特徴とする軸流ファン。(ウ)P2特許に係る特許公報の発明の詳細な説明には、発明の効果として、本発明に係る軸流ファンによれば、翼の半径方向の位置における回転軸向きの流速分布がフラットになるので、軸流ファンから吹き出した後の流体の圧力損失が低減され、軸流ファンを回転させるための駆動力を低減することができる。(【0016】)との記載があると共に、発明を実施するための形態の一例として、プロペラファンを流体の流れ方向の上流側から見た正面図(図5)が掲載されている。

【図5】
(エ全体につき、乙A30)

原告とP2との間のメール

原告とP2との間では、以下のとおり、メールでのやり取りが行われた(以下、これらのメールを併せて本件メールという。甲A32)。
(ア)原告は、P2に対し、●(省略)●等と送信した。
これに対し、P2は、●(省略)●と送信した。
(イ)P2は、原告に対し、次のようなメールを送信した。
●(省略)●

(2)検討

相当の対価の額(争点1-1)

(ア)社内規程等により職務発明について特許を受ける権利等を使用者等に承継させた従業者等は、当該社内規程等に使用者等が従業者等に対して支払うべき対価に関する条項がある場合でも、これによる対価の額が昭和34年法35条4項の規定に従って定められる対価の額に満たないときは、同条3項の規定に基づきその不足する額に相当する対価の支払を求めることができるところ(最高裁平成15年4月22日第3小法廷判決・民集57巻4号477頁参照)、その発明により使用者等が受けるべき利益の額(同条4項)とは、使用者等が職務発明について特許を受ける権利等を承継しなくとも当該特許権について無償の通常実施権を取得する
(同条1項)ことに鑑み、使用者等が当該発明を実施することによって得られる利益の全体ではなく、その全体の額から通常実施権の実施によって得られる利益の額を控除した残額(以下独占の利益という。)をいうと解される。
そうすると、独占の利益が認められるためには、特許権者である使用者等が自らは実施せず、当該特許発明の実施を他社に許諾し、これにより実施料収入を得ている場合や、使用者等が自ら対象特許発明を独占的に実施し、他社に当該特許発明の実施を禁止したことに基づいて利益を得たと認められる場合など、当該特許発明を自社及び許諾した他社等が実施し、それにより通常実施権の実施により得られる利益を超える利益を得ていることが前提となると解される。
(イ)対象製品群1が本件発明1の構成要件1Eを充足していないことは、当事者
間に争いがない(前記前提事実(第2の2(4)ア)。そうである以上、対象製品群1は、本件発明1を実施するものとは認められない。
これに対し、原告は、構成要件1Eを充足していない対象製品群1であっても、実質的に本件発明1の構成要件を全て充足している製品と比べて省エネ及び騒音減少等の効用がほとんど失われていない旨主張する。

しかし、実質的な作用効果の程度に着目して本件発明1の実施を認めることは、特許請求の範囲における数値限定の記載の意味を失わせることになりかねない。そもそも、本件発明1の出願経過(前記(1)イ)を踏まえると、本件発明1は、構成要件1Eに係る構成を請求項の記載に追加することにより特許査定に至ったものと理解されるから、構成要件1Eに係る構成は、本件発明1が特許発明となる上で重
要な技術的意義を持つといえる。そうである以上、構成要件1Eの非充足により対象製品群1の省エネ及び騒音低減等の効用が損なわれる程度の如何は、対象製品群1における本件発明1の実施の有無を左右するものではない。
その他原告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する原告の主張は採用できない。

(ウ)

以上より、被告は、対象製品群1において本件発明1を実施しておらず、
被告がその実施により独占の利益を得ているとはいえない。
したがって、消滅時効の成否(争点1-2)について判断するまでもなく、本件発明1につき、原告は、被告に対し、相当対価請求権を有しない。イ
不法行為の成否等(争点2)

(ア)対象製品群1の開発経緯等(前記(1)ア)のとおり、被告は、●(省略)●加えて、本件発明1は、構成要件1Eのとおり、ファンの後縁部に設けられた凹部の前縁部側に最も深く凹んだ部分(点Jo。以下最大深部という。)がファンの外側に位置するように特定されているところ、●(省略)●(前記(1)ア(オ)(カ))。
しかも、本件発明1は平成14年5月30日、●(省略)●特許出願されたもの
であり、●(省略)●
以上の事情を踏まえると、対象製品群1のファンの形状について、本件発明1ないし●(省略)●ファンを商品化する目的で開発が行われ、被告の図面作成部門において●(省略)●ファンを図面化する際の過失により対象製品群1のファンの形状が本件発明1の構成要件1Eを充足しないこととなったという事情が存在したと
は認められない。
そもそも、使用者等は、種々の事情を考慮して製品開発及び製品化を行うのであって、当該製品に関係する従業員等の職務発明を実施する義務を負うものではない。(イ)原告は、対象製品群1は僅かに本件発明1の構成要件1Eを充足しないものの、充足されているものと比べて省エネ及び騒音減少等の効果がほとんど失われて
おらず、被告が実質的に本件発明1を生かした商品を販売して利益を得ていること、被告が平成25年に発売した2014シーズン年度モデルにおいて本件発明1を基本特許としたP2発明を実施しており、当該モデルにおいても本件発明1の着想から多大な利益を得ていることなどを主張する。
しかし、本件発明1の出願経過等を踏まえれば、構成要件1Eに係る数値限定は
本件発明1において重要な技術的意義を有するものと見られるから、当該構成要件を充足しない対象製品群1に係る被告の売上について、本件発明1との関連性において論ずることは相当でない。
また、P2発明については、本件発明1が、ファンの後縁部に凹部を設けることで前縁部で形成される空気流に対する抵抗を減少するものであり、また、当該凹部の形状や位置を各パラメータで限定した点に意義があるのに対し、P2発明は、ファンの前縁に第1湾曲部、後縁に第2湾曲部及び第3湾曲部を形成し、速度分布をフラットにすることで流体の圧力損失を低減し、モータの消費電力を削減するものである。●(省略)●ことがうかがわれること(前記(1)オ)を踏まえても、P2発明が本件発明1に係るパラメータを利用したこと等を具体的に裏付ける証拠はない。また、P2発明は、前縁に第1湾曲部(凹部)、後縁に第2湾曲部(凸部)が
ある点でも、本件発明1と異なる構成を有する。このため、P2発明をもって本件発明1を基本特許とするものとし、P2発明を実施した製品が多大な利益を上げたことをもって本件発明1に由来するものと見ることは、必ずしも相当でない。(ウ)以上の事情によれば、被告が、対象製品群1が本件発明1の構成要件1Eを充足しないことを理由として本件発明1に係る相当の対価の支払義務がない旨主張
することにつき、原告との関係で信義則に違反する違法な行為であるとはいえない。したがって、信義則違反を理由とする被告の原告に対する不法行為は認められない。また、同様の理由から、原告の本件発明1に係る対価請求の期待権侵害の不法行為も認められない。これらの点に関する原告の主張はいずれも採用できない。(エ)したがって、本件発明1について、消滅時効の成否について検討するまでも
なく、原告の被告に対する不法行為に基づく損害賠償請求権は認められない。(3)まとめ
以上より、原告の本件発明1に係る相当対価請求権(争点1-1)及び不法行為に基づく損害賠償請求権(争点2)は、いずれも認められない。
2
本件各意匠1について

(1)相当の対価の額(争点3-1)

認定事実
前提事実(第2の2)、文中掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。
(ア)対象製品群1の室外機の外観等
対象製品群1は、被告が平成14年11月頃(乙A27の1、乙B61の1)、平成15年9月頃(乙A27の2、乙B61の2)、平成16年6月頃(乙A27の3、乙B61の3)及び同年8月頃(乙A27の4、乙B61の4)にそれぞれ作成したカタログ(以下、これらを被告カタログ①と総称する。)に掲載されているところ、これらに掲載された対象製品群1の室外機の外観の写真は、概ね次のとおりのものである(上記のほか、乙A9)。

(イ)被告カタログ①におけるファンの掲載状況等被告カタログ①のうち、対象製品群1の室外機の内部に搭載されたプロペラファンが具体的に取り上げられているのは4冊中3冊であり、いずれも、カタログ(A4サイズ)の総頁数30頁~48頁の中の各1頁において、ページサイズの8分の1~10分の1程度の大きさで取り上げられているにとどまる上、写真の大きさは更に小さい。しかも、その内容は、室外機に凍結防止ヒータが取り付けられていることを紹介するものであって、ファンの意匠に関する言及はない(乙A27の1、A27の3、A27の4、B61の1、B61の3、B61の4)。(ウ)その余のカタログの掲載内容等
平成25年8月作成に係る被告の2014シーズン年度モデルのルームエアコンのカタログには、

生まれ変わった、霧ヶ峰

の見出しの下、A4サイズの紙面の2分の1程度の大きさの囲みの中に、その4分の1程度の大きさで、

NEW/プロペラファン送風効率を大幅改善/新開発の高効率プロペラファン採用で、送風効率の大幅改善。省エネ性と暖房能力の向上を達成しながら、室外機サイズの小型化を実現しています。

との記載と共に、ファンを内蔵する室外機の内部の状態の写真及びファンのみを取り出した写真が掲載されている(甲A15)。他方、平成29年9月頃作成に係るシャープ株式会社(以下シャープという。)のカタログでは、ルームエアコン室外機に搭載されたプロペラファンについ
て、テクノロジー/鳥の翼の平面形応用/エアコン室外機プロペラファンとの見出しの下、繰り返しファンの形状を把握し得る写真を示しつつ、その形状の特徴、開発の背景及び効果等について、比較的丁寧な説明が施されている(甲A14)。イ
検討

(ア)職務発明に係る独占の利益の有無の判断基準(前記1(2)ア(ア))は、改正前意匠法15条3項が昭和34年法35条を準用していることを踏まえれば、職務創作意匠についても同様に妥当するものと解される。
したがって、使用者等に意匠登録を受ける権利を承継させたことに対する対価請求権が認められるためには、使用者等が、承継した権利に基づき登録した意匠権の実施等によって独占の利益を有していることが必要である。

(イ)意匠とは、物品の形状、模様もしくは色彩もしくはこれらの結合であって、視覚を通じて美感を起こさせるものをいい、意匠権者は、業として登録意匠及びこれに類似する意匠の実施をする権利を占有する。また、登録意匠とそれ以外の意匠が類似であるか否かの判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行う。

したがって、職務創作意匠につき意匠登録を受ける権利を承継し、当該創作に係る意匠権を取得した使用者等が独占の利益を有するというためには、当該意匠に係る物品が、その流通過程において、需要者の視覚を通じて美感を想起させる態様で実施され、これに対して意匠権を行使することにより当該意匠を独占できる、すなわち排他的な権利行使をできる場合に、通常実施権の実施によって得られる利益を超える利益があると認められることを要すると解される。
(ウ)本件各意匠権1の意匠に係る物品はいずれもファンであるところ、被告において、ファンはルームエアコン室外機の内部に搭載されて販売されるものである。このため、需要者は、室外機の外観から当該ファンの形状等を容易に視認できないか、ほぼ視認できない状態にあると見られる。また、一般に、競合他社のルームエアコン室外機の内部に搭載されたファンも、同様の態様で使用されていると考えら
れる。したがって、室外機の内部に搭載されるファンは、一般に、需要者の視覚を通じて美感を想起させる態様で実施されているとはいい難い。
被告カタログ①を見ても、消費者は、掲載された対象製品群1の室外機の写真によっては、その内部に搭載されているファンの形状等を認識することができない(前記ア(ア))。被告カタログ①の中には、対象製品群1に内蔵されたファンの写
真が掲載されている箇所があるものの、これは、ファンの美感とは関係のない技術的な性能等を消費者に訴求するものであって、内部に搭載されたファンに係る写真も小さく、その形状等は訴求されていない(前記ア(イ))。
以上によれば、対象製品群1の室外機に搭載されたファンについて、需要者の視覚を通じて美感を想起させる態様で実施されているとは認められない。そうである
以上、仮に本件各意匠1のいずれかが対象製品群1において実施されていたとしても、被告が本件各意匠1を独占的に実施することによって独占の利益を得たとは認められない。
(エ)原告の主張について
これに対し、原告は、本件各意匠1の独占的実施により被告が独占の利益を得た
として縷々主張する。
しかし、そもそも、被告が本件各意匠1を実施していたことを認めるに足りる証拠は見当たらない。その点を措くとしても、被告が平成28年5月に作成したカタログにおいて消費者に対してデザイン性を訴求しているファンは、対象製品群1のものではない。また、競合他社のカタログにおいて室外機に搭載されたファンの形状の美感が消費者に訴求されている例があるとしても、当該ファンの形状は本件各意匠1とは異なるものであるし、室外機に搭載されたファン一般について、需要者の美感を想起させるものであることを裏付けるものともいえない。そうである以上、被告の別の製品や競合他社の製品のカタログにおいて、後縁部を削除したファンの形状が訴求されているとしても、本件各意匠1について需要者に対しそのような観点から訴求されていることにはならない。

また、被告が費用を負担して本件各意匠権を維持していることにつき、仮に競合他社に対する禁止効果による独占の利益を目的とするものであるとしても、実際に本件各意匠権により相当の対価の算定の基礎となる独占の利益が生じているか否かは別の問題である。
その他原告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する原告の主張は採用
できない。

小括

以上のような事情を考慮すると、被告は、仮に対象製品群1において本件各意匠1を実施しているとしても、当該実施により独占の利益を得たとは認められない。(2)まとめ
以上のとおり、本件各意匠1のいずれにおいても、被告が独占の利益を得たとは認められない。したがって、消滅時効の成否(争点3-2)について判断するまでもなく、原告は、被告に対し、改正前意匠法15条3項の準用する昭和34年法35条3項に基づく相当対価請求権を有しない。
3
本件各発明2の国内実施分に係る相当の対価の額(争点4-1)

(1)本件各発明2の技術的意義等

本件明細書2には、以下の記載がある。
(ア)技術分野

この発明は、空気調和機に係り、特に、室内ユニットから所定風量を得るのに必要なファンモータ入力を低減することができるクロスフローファンを有する空気調和機に属する。

(【0001】)(イ)背景技術
従来の空気調和機は、熱交換器の配置を変えずにクロスフローファンの翼形状を変える、または、クロスフローファンの翼形状は変えずに熱交換器の配置を変えることにより、クロスフローファンの空力性能や熱交換器の伝熱性能を改善していた。(【0002】)
クロスフローファンの翼形状を変えずに熱交換器の配置を変えた従来の空気調和機は、クロスフローフアンの上方にλ形に組み合わされた状態で前面側熱交換器及び背面側熱交換器を配設し、前面側熱交換器及び背面側熱交換器にそれぞれ最大の熱交換性能を発揮させることによって室内ユニットの性能を向上させている…。(【0003】)

(ウ)発明が解決しようとする課題
従来の空気調和機は、熱交換器の配置を変えずにクロスフローファンの翼形状を変え場合、熱交換器の配置により、クロスフローファン吸込み領域における風の流入方向が規定されるため、吸込み領域において翼が失速しないような翼形状となり、吹出し領域において風の出にくい翼形状となる。(【0005】)
一方、クロスフローファンの翼形状を変えずに熱交換器の配置を変えた場合、熱交換器の配置により、クロスフローファン吸込み領域における風の流入方向が変わり、翼の迎え角も変わるため、最適な翼形状となっていない。/このように、従来の空気調和機は、クロスフローファンの形状は変えずに熱交換器の配置を変える、または、熱交換器の配置を変えずにクロスフローファンの形状を変えていたため、室内ユニットから所定風量を得るのに必要なファンモータ入力や回転数が大きいという課題があった。(【0006】)

この発明は、上述のような課題を解決するためになされたもので、室内ユニットから所定風量を得るのに必要なファンモータ入力や回転数を低減することができる空気調和機を提供することを目的とする。

(【0007】)(エ)発明の効果
この発明は、クロスフローファンの回転中心よりも上方に位置する前面熱交換器の、水平に対する設置角度αを65°≦α≦90°とし、背面熱交換器の最も前記前面熱交換器に近い点が、前記クロスフローファンの回転中心よりも、前記前面熱交換器側に位置し、前記クロスフローファンの翼の出口角β2を22°≦β2≦28°としたもので、所定風量を得るのに必要なファンモータ入力、回転数を低減することができる。(【0009】)(オ)発明を実施するための最良の形態
図1はこの発明の実施の形態1に係わる空気調和機の室内ユニットの断面図、図2はこの発明の実施の形態1に係わる室内ユニット内の空気の流跡を表す図、図3、図4はこの発明の実施形態1の構成を示すクロスフローファンの翼の構成図である。(【0010】)【図1】

【図2】

クロスフローファン1がファンモータ…の作動により回転すると、室内ユニット8の外部にある空気9が吸込み口6から吸引され、空気清浄フィルター5、前面熱交換器2および背面熱交換器3、クロスフローファン1を経由して、吹出し口7から吹出される。(【0014】)ここで、クロスフローファン1の翼13の相対速度分布を図5により説明する。図5はファン吸込み領域10において迎え角が大きく、負圧面14で剥離が生じている様子を示している。このように、負圧面14で剥離が生じると所定の風量を得るのに必要なファンモータ入力、ファン回転数が大きくなる、という問題がある。(【0015】)

【図5】

負圧面14における剥離を抑制する方法は、図2に示すように空気9を背面熱交換器3の方向からファン吸込み領域10に流入させるのではなく、前面熱交換器2の方向からファン吸込み領域10に流入させる方法と、翼13の出口角20を小さくする等の翼13の形状を修正する方法がある。しかし、後者の方法では吹出し領域において風が流れにくい形状となるため、所定風量を得るのに必要なファンモータ入力、ファン回転数が大きくなる、という問題があるので、前面熱交換器2の方向からファン吸込み領域10に流入させる方法が望ましい。(【0016】)図6は前面熱交換器2と背面熱交換器3の配置をクロスフローファン1の回転中心Oよりも上方に位置する前面熱交換器2の設置角度4を水平に対して65°以上とし、背面熱交換器3の最も前面熱交換器2に近い点が、クロスフローファン1の回転中心Oよりも、前面熱交換器2側に位置させた一例を示すものである。28は直線OAと点Oから垂直に伸ばした線とのなす角度であり、図6において角度4は73.6°、角度28は17.6°である。(【0018】)

この構成における空気調和機の空気の流跡は、図7に示すように図2とは異なり、前面熱交換器2の方向からファン吸込み領域10へ流入する流れが形成されている。

(【0019】)

【図6】

【図7】

角度4は大きいほど1500rpmのときの風量は大きくなり、…角度4は大きいほど風量が16㎥/minのときの、ファンモータ入力は低減する。なお、冷房運転時に空気9が前面熱交換器2、補助熱交換器43を通過するときに凝縮され、水滴が生じやすいが、角度4が65°よりも小さい場合は、水滴の一部がクロスフローファン1へ流入し、室内ユニット8の外部へ吹出されたり、吹出し口7の壁面に付着するという問題がある。また、角度4が90°以上になると、前面熱交換器2、補助熱交換器43の接合部付近で両者の距離が短くなり順風抵抗となる。また、ユニットの奥行きも増えるという問題がある。(【0024】)
以上のように、前面熱交換器2の角度4が65~90°でなく、背面熱交換器3の最も前面熱交換器2に近い点Aが、クロスフローファン1の回転中心である点Oよりも、背面熱交換器3側に位置しないときは、所定風量を得るのに必要なファンモータ入力、回転数が大きいという課題があったが、前面熱交換器2の角度4を65~90°とし、背面熱交換器3の最も前面熱交換器2に近い点Aが、クロスフローファン1の回転中心である点Oよりも、前面熱交換器2側に位置するとき、所定風量を得るのに必要なファンモータ入力を小さくすることができる。(【0025】)

実施の形態2./本実施の形態は、所定風量を得るのに必要なファンモータ入力を小さくすることができるクロスフローファン1の翼13の出口角20の範囲を実験によって定めたものである。

(【0027】)
出口角20が大きいほど、ファン吹出し領域38のトルク割合が小さくなるが、ファン吸込み領域10のトルク割合が大きくなる。これはファン吹出し領域38において風量に有効な翼13間面積が増加する一方、ファン吸込み領域において迎え角12が大きく、負圧面14で剥離が生じやすくなるためである。/逆に出口角20が小さいほど、ファン吸込み領域10のトルク割合が小さくなるが、ファン吹出し領域38のトルク割合が大きくなる。これは、ファン吸込み領域10において迎え角12…が小さく、負圧面14で剥離が生じにくい一方、ファン吹出し領域38において風量に有効な翼13間面積が減少するためである。(【0032】)出口角20が25°のとき、ファンモータ入力が最小となったが、これは上述のように出口角20が大きい場合も小さい場合も長所、短所があり、長所、短所の両方を考慮したとき、ファンモータ入力は出口角20が25°のとき最も有利である。/なお、上述では角度4が73.6°の場合についての出口角について説明したが、設置角度4が大きいほど、ファンモータ入力が最小となる出口角20は大きくなり、角度4が小さいほど、ファンモータ入力が最小となる出口角20は小さくなる。…角度4が90°のとき、ファンモータ入力が最小となる出口角20は28°、角度4が65°のとき、ファンモータ入力が最小となる出口角20は22°であった。(【0033】)以上のように、前面熱交換器2の角度4が65~90°でなく、背面熱交換器3の最も前面熱交換器2に近い点Aが、クロスフローファン1の回転中心である点Oよりも、背面熱交換器3側に位置し、クロスフローファン1の翼13の出口角20が22°~28°でないときは、所定風量を得るのに必要なファンモータ入力が大きいという課題があったが、前面熱交換器2の角度4を65~90°とし、背面熱交換器3の最も前面熱交換器2に近い点Aが、クロスフローファン1の回転中心である点Oよりも、前面熱交換器2側に位置し、クロスフローファン1の翼13の出口角20を22°~28°とすることにより、所定風量を得るのに必要なファンモータ入力を小さくすることができる。(【0034】)
実施の形態3./本実施の形態は、ファンモータが所定回転数のときの風量を大きくすることができるクロスフローファン1の翼13の入口角21の範囲を実験によって定めたものである。/図14はこの発明の実施形態3の構成を示すファンモータ入力と入口角の関係を表す図…である。/空気調和機の構成は実施の形態1の図6と構成が同じであり、実施の形態1の図4の入口角21の範囲を定めたものであり…。(【0035】)

クロスフローファン1の翼13の入口角21を88~104°と変え、クロスフローファン1の回転数を1500rpmのときの、室内ユニット8から吹出される風量を調べた。

(【0036】)
実験結果を図14に示す。図14において入口角21が96°、クロスフローファン1の回転数を1500rpmのときの、室内ユニット8から吹出される風量を100としてある。図14に示すように、入口角21が96°のとき風量は最大値となった。(【0037】)
【図4】

【図14】
入口角21が小さいとファン吸込み領域10において、負圧面14が剥離しにくくなり、ファン吹出し領域38において迎え角12…が小さくなりすぎないため、圧力面15において剥離しにくくなる一方、…スタビライザー39近傍の領域40において負圧面14が剥離しやすくなるという課題がある。逆に入口角21が大きいとスタビライザー39近傍の領域40において負圧面14が剥離しにくくなる一方、…ファン吸込み領域10において、負圧面14が剥離しやすく、…ファン吹出し領域38において迎え角12が小さくなりすぎ、圧力面15において剥離しやすくなる、という課題がある。(【0039】)
図14において入口角21が96°のとき、1500rpmのときの風量が最大となったが、これは上述のように入口角21が大きい場合も小さい場合も長所、短所があり、長所、短所の両方を考慮したとき、風量は入口角21が96°のとき最も有利である。/風量は入口角21が96°のとき最大となり、このときの風量比を100としているがこの最大風量比の0.5%の範囲の99.5~100%を許容範囲とし、これに対応する。入口角21が91°~100°の範囲は好ましい状態である。【0040】以上のように、前面熱交換器2の角度4が65~90°でなく、背面熱交換器3の最も前面熱交換器2に近い点Aが、クロスフローファン1の回転中心である点Oよりも、背面熱交換器3側に位置し、クロスフローファン1の翼13の入口角21が91°~100°でないときは、所定回転数のときの風量が小さいという課題があったが、前面熱交換器2の角度4を65~90°とし、背面熱交換器3の最も前面熱交換器2に近い点Aが、クロスフローファン1の回転中心である点Oよりも、前面熱交換器2側に位置し、クロスフローファン1の翼13の入口角21を91°~100°とすることにより、所定回転数のときの風量を大きくすることができる。(【0041】)イ
これらの本件明細書2の記載によれば、本件各発明2の技術的意義等につい
ては、以下のとおり理解される。
クロスフローファンを有する空気調和器においては、従来から、クロスフローファンの翼形状又は熱交換器の配置を変えることによりクロスフローファンの空力性能や電熱性能の改善を試みていたところ(【0002】)、いずれかの方法のみによっては、室内ユニットから所定風量を得るのに必要なファンモータ入力や回転数が大きいという課題があった(【0005】、【0006】)。
本件各発明2はこれらの課題を解決するものであり(【0007】)、本件発明2-1は、室内ユニットにそれぞれ少なくとも一つの吸込み口と吹出し口が設けられ、ファンモータに連結されたクロスフローファン、前面熱交換器及び背面熱交換器を
有する空気調和機において、熱交換器の配置を、クロスフローファンの回転中心よりも上方に位置する前面熱交換器の、水平に対する設置角度αを65°≦α≦90°とし、背面熱交換器の最も前記前面熱交換器に近い点が、前記クロスフローファンの回転中心よりも、前記前面熱交換器側に位置するようにした上で、クロスフローファンの翼の出口角β2を22°≦β2≦28°とすることで、室内ユニットから所定風量を得る
のに必要なファンモータ入力や回転数を低減することを可能にする(【0009】、【0034】)。
また、本件発明2-2は、熱交換器の配置を本件発明2-1と同じくした上で、クロスフローファンの翼の入口角β1を91°≦β1≦100°とすることで、所定回転数のときの風量を大きくすることを可能にする(【0041】)。

(2)前提事実(前記第2の2)、文中掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

本件各発明2の実施の有無

本件発明2-1は、被告の2005シーズン年度モデルである対象製品群2で実施されている(前記第2の2(4)イ(ア))。
他方、対象製品群2のクロスフローファンの翼の入口角β1は90°であり、本件発明2-2の構成要件2Eを充足しない。

対象製品群2の開発経緯等

●(省略)●

本件特許2の特許出願当時における従来技術等

(ア)乙A57発明
a
乙A57発明は、発明の名称を空気調和機とするものである(平成6年3
月18日出願、平成7年10月13日公開)。
同発明に係る乙A57文献には、次のとおりの記載がある。

本発明は、たとえば室内ユニットを構成する空気調和機に係り、特に、熱交換器構造の改良に関する。

(【0001】)

一般的に用いられる空気調和機は、被空調室に配置される室内ユニットと、屋外に配置される室外ユニットからなり、これらユニット相互を冷媒管および電気配線で接続してなる。

(【0002】)

ユーザー側からは、これらユニットに対する小型化と、据付スペース低減の要望が大であり、各メーカにおいては、このような条件を満足しつつ、熱交換能力の増大を図らなければならない。

(【0003】)その解決策の一つとして、近時、特に室内ユニットでは、ここに配備される熱交換器を“くの字状”に折り曲げ形成して、熱交換面積を確保しつつ、熱交換器自体の高さ寸法を抑制し、ユニット本体の高さ寸法の低減化を得ている。(【0004】)

本発明…の目的とするところは、基本的に逆V字状をなす熱交換器を採用し、前面側熱交換器の熱交換能力を大きくしてドレン水の生成量が多くなるよう設定するとともに、後面側熱交換器の熱交換能力を小さくしてドレン水の生成量が少なくなるよう設定し、その上で、ドレン水の確実な処理をなして信頼性の向上を図り、熱交換効率の向上を得られる空気調和機を提供しようとするものである。(【0011】)
上記目的を満足するため、本発明の空気調和機は、請求項1において、多数枚の放熱フィンが互いに狭小の間隙を存して併設され、これら放熱フィンに熱交換パイプが貫通される熱交換器と、この熱交換器に被空調室内の空気を導いて熱交換作用を行なわせる送風ファンとを備えたものにおいて、その前面部および上面部に吸込み口が形成されるとともに、前面下部に吹出し口が形成され、内部に上記熱交換器および上記送風ファンが収容配置される空気調和機本体と、側面視で逆V字状をなし、前面側熱交換器と後面側熱交換器との連設体である上記熱交換器とを具備し、上記前面側熱交換器と後面側熱交換器との連結部が上記送風ファンの中心軸よりも前面側にあり、かつ前面側熱交換器の傾斜が急であり、後面側熱交換器の傾斜が緩く形成されることを特徴とする。(【0012】)
また、図1は、乙A57発明の一実施例を示す、空気調和機室内ユニットの縦断面図である。

b
上記記載のとおり、少なくとも、本件発明2-1では、構成要件2Bにおい
て前面熱交換器の水平に対する設置角度αを65°≦α≦90°とすることを特定しているのに対し、乙A57発明では、前面熱交換器の水平に対する傾斜が急であることは特定されているものの、具体的な角度は特定されていない。また、本件発明2-1では、構成要件2Dにおいてクロスフローファンの翼の出口角β2を22°≦β2≦28°とすることを特定しているのに対し、乙A57発明では、横流ファン7の出口角は特定されていない。
(イ)

乙A59文献

特開平4-316930号公報(平成4年11月9日公開。以下乙A59文献という。)には、次のとおりの記載がある。

本願発明は、空気調和機に関し、さらに詳しくはファンを収容するケーシング内の空気流通路における風上側においてこれを横切るように熱交換器を配置してなる空気調和機に関するものである。

(【0001】)空気吸込口から吸い込まれた空気は、熱交換器を通過した直後においては熱交換器に対して略直角方向に流れるという流体特性を示すことは良く知られているが、…熱交換器を空気吸込口に平行あるいはやや傾斜させて配置した場合、吸込空気は、熱交換器を通過した後に急激にファン方向へ流れ方向を変化させなければならないこととなる。このような空気流れ方向の急激な変化は、大きな圧力損失を招く原因となるとともに、ファンの羽根に当たる際にも、無衝突流れが得られにくいところから大きな損失を生じるおそれがある。従って、機内での圧力損失が大きくなって、ファンの動力増加および騒音発生の原因となるという問題を生起させるおそれがあった。(【0004】)上記公知例における如く、熱交換器の途中を屈曲させるようにした場合であっても、その曲げ角度によっては、上記問題が解消されずに残るおそれがある。即ち、熱交換器を通過した後、熱交換器に対して直交する方向に流れる空気流の方向が、ファンに向かって急激に変化する場合が生じ、大きな圧力損失を生ずるおそれがある。また、吸込空気流の滑らかな流れ方向変化が得られないため、空気流の剥離等を生ずるおそれもある。(【0005】)一方、クロスフローファンを用いた空気調和機の場合、クロスフローファンのロータに流入する空気流の方向が、図15に示すように、ロータ周速度Vと羽根Bの入り口角度αとで形成される速度三角形における無衝突流れ方向Fとなった場合に圧力損失が可及的に小さくなるという事実がある。このことを勘案すると、空気調和機において熱交換器を通過した吸込空気流の流れ方向を、クロスフローファンにおける無衝突流れに近いものとすることが望ましいが、上記公知例においては、空気調和機において熱交換器を通過した吸込空気流の流れ方向を、クロスフローファンにおける無衝突流れに近いものとするという観点については全く考慮されていない。(【0006】)


(ウ)乙A17の1文献
発明の名称を多翼送風機の羽根車構造とする特開2001-280288号公報(平成13年10月10日公開。以下乙A17の1文献という。)には、次のとおりの記載がある。

本願発明は、クロスフローファン等多翼送風機の羽根車の構造に関するものである。

(【0001】)従来のクロスフローファンの構成では、例えば図9に示すように、上記羽根19の厚さDおよび反り線半径Rを羽根車9aの内周C1側から同羽根車9aの外周C2側にかけて各々一定の単一円弧面形状に形成して、所望の入口角θ1、所望の出口角θ2、所望の取付角θ3を設定して、可及的に送風効率が高く、かつ騒音の低い羽根車構造を得るようにしていた。(【0015】)【図9】
しかし、上記従来のような単一円弧面形状に形成された羽根では、クロスフローファン9の羽根車9aの空気流吹出し側領域を羽根19が通過する時に、当該羽根19の後流域Aでは流れが大きく剥離することが…確認されている。また、…この羽根後流域Aでの気流の剥離が、クロスフローファンの騒音の主要因であることを確認した。(【0017】)そして、上記のようなクロスフローファンでは、…羽根車9aの羽根19が上流側吸込み側領域を通過する場合と下流側吹出し側領域を通過する場合とでは、当然上記羽根19に対する流れの方向は逆の方向になり、上記のような単一の円弧面形状では、吹出し側領域通過時の羽根後流域Aの流れの剥離を抑えるように設計すると、逆に吸込み側領域での羽根19周りの流れが悪化して送風効率が低下するとともに送風騒音が増大する問題がある。(【0018】)本願発明は、このような問題を解決するためになされたもので、羽根全体の反り線半径を羽根車内周側よりも羽根車外周側で大きくすることにより、上記羽根後流域での剥離量を少なくし、送風効率を上げるとともに広帯域に亘る騒音を可及的有効に低減できるようにした多翼送風機の羽根車構造を提供することを目的とするものである。(【0019】)この実施の形態の場合、上記羽根車9aの上記各羽根19、19…は、例えば図2に示すように、その板厚Dが略一定で、当該羽根車9aの外周C2側の反り線半径R2を同羽根車9aの内周C1側の反り線半径R1よりも大きくして構成され…、入口角θ1、出口角θ2が最適な値となるように、所望の取付角θ3で取り付けられている。(【0034】)エ
対象製品群2で実施されている他の技術等

対象製品群2には、本件発明2-1のほか、次のような技術が実施され、被告カタログ②において取り上げられている。なお、対象製品群2には、デラックスクラス(以下DXという。)、ミドルクラス(以下MIDという。)及びスタンダードクラス(STD)の機種が存在する。
(ア)ムーブアイ(可動床温度センサ)
1つのセンサを稼働させ、複数個所の床温度等を計測するなどして、空調をきめ
細かに制御する技術を、一部のSTD機種を除き全機種に採用した。(イ)大型ワイドリバーシブルフラップ
室内機の吹出し口に設置されるフラップについて、大型のもの1枚とした上でこれを1回転可能とし、冷房時に望ましい上向き気流を、暖房時に下向き気流を実現する技術を、全機種に採用した。

(ウ)パネル状のグリル及びパネルの可動機構
室内機の前面を格子状ではなくパネル状にすると共に、風路抵抗を低減するためのパネルの可動とする機構を、DX及びMID機種の一部で採用した。(エ)スーパープラズマ脱臭
空気清浄機能を有するプラズマ除菌空気清浄ユニットの技術を基本に、比較的粒
子径の大きな空気汚れの除去を目的としたワイドプラズマ空清ユニットと、より粒子径の小さなホルムアルデヒド、4大悪臭、タバコ臭の除去を目的としたナノテクプラズマ脱臭ユニットに係る技術に3Dクリーンフィルタを合わせて用いることで更に空気清浄機能を高めたものを、DX及びMID機種の一部で採用した。(オ)換気機能

建築基準法に基づく換気設備として型式適合認定を取得できる性能まで能力を引き上げた技術を、DX機種で採用した。
(カ)抗酸化サプリメントエアー機能の改良
エアコンからサプリメント(抗酸化物質)を放出する機能を改良した技術を、DX機種で採用した。
(キ)室外機の圧縮機
室外機の効率改善のため、従来のフェライト磁石よりも強力な磁力を有する希土類磁石を新規に採用したモータの技術を、DXのほとんどの機種で採用した。(ク)室内機ファンモータ及び室外機ファンモータ
室外機及び室内機の各ファンモータとして、被告が開発したポキポキモータと呼ばれるモータの技術を、全機種で採用した。

なお、ポキポキモータとは、従来のモータでは一体型鉄心の内側でコイルを巻いていたものを、広げた鉄心にコイルを巻いてから丸めることで、高密度で整列巻を容易にし、モータ効率を向上させた技術である。
●(省略)●
(サ)リモコン関係

誰でも扱いやすいリモコンを目的としたユニバーサルデザインとして、持ちやすい形状とすると共に、切タイマーのみならず、入タイマーについても、実時刻を設定しなくとも、例えば何時間後に起動する設定が可能な簡単タイマー機能に係る技術であり、DX機種で採用した。
(シ)おそうじカンタンボディ、丸洗いパネル及び内部クリーンの開発
おそうじカンタンボディとして、吹出し口の奥まで拭きやすいボディを採用するとともに、室内機の前面パネル等を脱着して丸洗いできる構造を、全機種で採用した。また、Wプラズマユニットが搭載されたDX及び一部のMID機種では、Wプラズマ内部クリーンの技術を、Wプラズマユニットが搭載されていないMID機種の一部及びSTD機種では、お任せ内部クリーン機能の技術を採用した。
(エ全体につき、乙A10、A38、A39、A42、乙B27、B59、B63、B64、B68、弁論の全趣旨)

対象製品群2に実施された特許の件数等

対象製品群2では、本件発明2-1のほか、上記エの技術を含む複数の技術及びこれに関連する特許発明が実施されており、●(省略)●特許が実施されている。(乙A10、A38、A42、乙B59、弁論の全趣旨)

被告カタログ②の内容等

被告カタログ②(乙A31)には、快適気流制御、空気清浄機能、冷房・除湿機能、健康・清潔機能、エコロジー、うれしい省エネ、タイマー・便利機能、デザイン・その他の機能等が紹介されている。特に、ムーブアイについては、表紙に室内機の画像と共に

アイで快適、アイで省エネ。/霧ヶ峰ムーブアイ/ムーブアイ暖房、はじまる。

とわかりやすく記載されている。また、1頁~2頁目にわたる最上部に大きなフォントで

新時代の暖房は、アイから始まる。

との記載が置かれ、さらに、室外機から吹き出る温風のイメージ画像と共に、2頁目には

150°/ムーブアイがワイドに動いてムラとムダを見はる。

足もとの冷えを見つけてすばやく暖房。/アイで、足もとから快適。

ムダな暖めすぎを防いで電気代セーブ。/アイで、かしこく省エネ。

と記載されている。しかも、3頁~4頁目にわたる最上部に大きなフォントで

床面に広がる、やわらかな上質の心地よさ。/“ムーブアイ暖房”のある幸せ。

とも記載されている。このほか、10頁目まで、ムーブアイの機能等が紹介されている。

11頁目以降は、空気清浄、脱臭、換気、除湿冷房、自動クリーンの各機能やユニバーサルデザイン・リモコンに関する記載等の記載がある。
また、22頁及び24頁には、目盛りと共に

奥行きわずか19.8cm。このカタログの横幅とほぼ同じです。

との説明が記載され、28頁には、

設置場所を選ばない780㎜ボディ、コンパクト霧ヶ峰

との記載がある。

対象製品群2の販売状況、実施高等(国内実施分)

(ア)対象製品群2の実施高
本件各発明2の出願公開日(平成17年10月6日)以降における対象製品群2の実施高は、次の表とおりである(当事者間に争いがない。)。

実施年度

実施高(円)

49,199,950,000

39,941,100,000

22,902,100,000

9,222,100,000

4,294,500,000

2,230,000,000

1,388,000,000

合計1291億7775万円
●(省略)●対象製品群2における実施高は、ルームエアコンの室内機及び室外機を併せたものである(前記第2の2(6)エ、甲A11、A12、乙B8の2、B22、弁論の全趣旨)。
また、被告の平成28年度の決算短信によれば、被告において、売上高に対する売上原価は69.6%である(弁論の全趣旨)。

(イ)対象製品群2の販売割合の推移
被告が製造販売するルームエアコン室内機及び室外機を併せた製品全体の台数及び売上高に対する対象製品群2のルームエアコンの台数及び売上高の割合は、次の表のとおりである。(弁論の全趣旨)
(ウ)被告のルームエアコンの出荷台数、市場占有率の推移等
a
省エネルギー製品における補完的技術の創出メカニズムに関する研究と
題する論文(甲A40。以下本件論文という。)の図1エアコンの国内出荷台数と上位5社の出荷台数の推移(以下本件図1という。)には、上位5社として、被告のほか松下電器産業、ダイキン工業、東芝、日立、三洋電機が挙げられ、各社の1990冷凍年度~2005冷凍年度の国内出荷台数及び当該5社の各出荷台数の推移が図示されている(なお、冷凍年度は、被告におけるシーズン年度に一致する。)。

これによれば、被告の国内出荷台数は、2001冷凍年度から2003冷凍年度にかけて120万台弱から90万台へと連続して下降した後、2004冷凍年度は概ね110万台弱へ、2005冷凍年度は更に120万台程度へと連続して上昇している。また、この間の上位5社における出荷台数の順位を見ると、被告は、2001冷凍年度及び2002冷凍年度は2位、2003冷凍年度は4位、2004冷凍年度及び2005冷凍年度は共に3位となっている。さらに、2004冷凍年度及び2005冷凍年度における上位2社との販売台数の差は、2004年冷凍年度よりも2005冷凍年度の方が小さくなっている。
b
●(省略)●

また、平成22年7月27日付け日経産業新聞の記事(乙A12の1)によれば、ルームエアコンの市場占有率の順位は、パナソニックが24.7%、ダイキンが18.2%、被告が13.9%である。他方、平成28年7月25日付けの同紙記事(乙A12の2)によれば、パナソニックが22.4%、ダイキンが18.1%、被告が15.1%である。ク
その他の事情

(ア)被告は、昭和42年にクロスフローファンを採用したルームエアコンを霧ヶ峰のブランドで発売し、以後、同ブランドにより継続してルームエアコンを販売している(乙A2、乙B42)。
●(省略)●
(ウ)本件論文には、本件図1のほか、以下の記載がある。
2.日本のエアコン産業と規制

1998年に省エネ法の大幅な改正が行われた。特にエネルギーを多く使用する機器ごとに省エネルギー性能の向上を促すための目標基準であるトップランナー基準が設定された。…エアコンについては、2000冷凍年度に基準値が確定し…た。、

冷暖房平均COPの最小値を見てみると、2004年に急激に伸びていることが分かるが、これは2004年がエアコンの規制であるトップランナー基準の目標年度であったため基準達成の駆け込みの影響であろう。

3.エアコンの省エネ技術
エアコンの省エネ技術には、機器のエネルギー消費効率を向上する技術、すなわち熱交換器、圧縮機、モータ、送風機、インバータが挙げられる。このうち、熱交換器、圧縮機、モータ、送風機は機器のCOP向上に寄与する技術である。、
2005年に発売の三菱電機の「霧ヶ峰ムーブアイは、エアコンに搭載したセンサーにより、暖房時に人のいるエリアにのみ気流を送ることで省エネ運転を可能とした。」
5.ケーススタディ
実使用のエネルギーロス削減技術を最初に製品化した企業4社(三菱電機、ダイキン工業、富士通ゼネラル、松下電器)…に共通する技術開発の要因は、エネルギー消費効率向上技術が限界に近づき、COPで他社との差がつきにくくなったことが挙げられる。次に、三菱電機が「霧ヶ峰ムーブアイを開発した要因には、ユーザーから暖房時に足元が寒いというニーズが増加したことが挙げられた。」(3)

検討
本件発明2-2の実施の有無

本件発明2-2の構成要件2Eにつき、対象製品群2のスクロールファンの翼の入口角β1が91°以上であることを認めるに足りる証拠はない。また、本件発明2-2は、熱交換器の配置角度αの特定に加え、クロスフローファンの入口角β1についても、最も有利な入口角を特定した上で当該角度の風量を最大100として、最大風量比の0.5%以上、すなわち風量が99.5%以上になるもの
を許容範囲として、所定回数のファンモータのときの風量を大きくすることを実現した点に技術的意義を見出した発明である(前記(1))。そうである以上、構成要件2Eにおける入口角β1の数値限定を充足しないものについて、最大風量比の差が僅かであることなどをもって本件発明2-2の実施品と見ることはできない。したがって、対象製品群2が本件発明2-2を実施しているとは認められない。
これに反する原告の主張は採用できない。

算定対象期間等

被告は、本件発明2-1を国内において自ら実施している。
前記(1(2)ア)のとおり、その発明により使用者等が受けるべき利益の額(同条4項)とは、使用者等が当該発明を実施することによって得られる利益の全体ではなく、その全体の額から通常実施権の実施によって得られる利益の額を控除した残額(独占の利益)をいうと解されるところ、特許権者が自ら特許発明を実施している場合の独占の利益は、使用者等が自ら発明を独占的に実施し、他社に当該特許発明の実施を禁止したことに基づいて得られた利益に相当する売上額(超過売上)と解される。この場合、相当の対価は、対象商品(実施品)の売上合計額×超過売上の割合×仮想実施料率×対象特許発明の貢献の程度×(1-被告の貢献割合)×共同発明者間における原告の貢献割合によって算定するのが相当である。また、特許の登録前であっても、特許出願人は、出願公開後発明を実施した第三者に対して一定の要件の下に補償金を請求することができること等を踏まえると、出願公開以降の売上額には一定の独占的利益があると見るのが相当である。もっとも、出願公開から登録までの期間においては、登録されて排他的な独占権を有する
か否かが未確定であることに鑑み、売上の2分の1を独占の利益の検討の基礎とするのが相当である。

売上高

本件各発明2の出願公開日(平成17年10月6日)以降における対象製品群2の●(省略)●である(前記(2)キ(ア))。
ここで、●(省略)●売上原価が売上価格の約7割であること(前記(2)キ(ア))に加え、上記のとおり、出願公開から登録までの期間は売上の2分の1を独占の利益算定の基礎とするべきことを踏まえると、算定の基礎となる対象製品群2の売上高は、次のとおり認められる。
・平成17年10月6日(出願公開日)~平成20年10月9日(登録日前日)●(省略)●

●(省略)●*0.5=●(省略)●
なお、実施年度が2008年度(平成20年4月1日~平成21年3月31日)の●(省略)●については、平成20年10月9日までとして●(省略)●を算入した。
●(省略)●*192日/365日=●(省略)●
・平成20年10月10日(登録日)以降
●(省略)●

●(省略)●
・小計

●(省略)●

超過売上の割合

(ア)対象製品群2の販売による市場占有率の変化等
対象製品群2は、平成16年10月から被告の2005シーズン年度モデルとして販売され、●(省略)●
また、被告のルームエアコンの国内の出荷台数は、2003冷凍年度から2005冷凍年度にかけて増加し、国内4位から3位に上昇するだけでなく、1位及び2位との出荷台数の差が縮小したことを踏まえれば、2005冷凍年度においては、その市場
占有率が上昇したものと認められる(前記(2)キ(ウ))。このような被告の市場占有率の上昇には、当該時期に被告の製造販売する●(省略)●対象製品群2の販売が直接貢献していることがうかがわれる。
なお、原告は2004シーズン年度モデルによる被告の市場占有率の上昇等についても指摘するが、本件発明2-1は当該モデルでは実施されていないことから(弁
論の全趣旨)、当該モデルの市場占有率の変動と本件発明2-1との間に関連性は認められない。
(イ)本件発明2-1の技術的意義及び代替技術等
a
本件発明2-1は、ルームエアコン室内機に搭載される熱交換器の配置につ
いて、前面熱交換器の設置角度αを特定すると共に、クロスフローファンの翼の出口角β2を特定することで、所定風量を得るのに必要なファンモータ入力や回転数を低減することができ、省エネを図ることができる点にその技術的意義がある。また、設置角度αを65°以上とすることで、熱交換器からの水滴がファンへ流入して室内ユニットの外部へ吹き出されること等を防止し、また、ユニットの奥行きをコンパクトにできるという効果もある(前記(1)ア(オ)【0024】)。
b
もっとも、省エネ、ドレン水の確実な処理及び室内機ユニットのコンパクト
化という課題自体は本件発明2-1の出願以前から存在するものである。また、当該課題に対して、熱交換器を逆V字状にすること、前面熱交換器と背面熱交換器との連結部を送風ファンの中心軸よりも前面側に位置させ、かつ前面熱交換器の傾斜を急な配置にすること、熱交換器を通過した空気がファンの翼に当たる際の空気の流れを滑らかにし、空気流の剥離等を防ぐために、翼形状を変更することといった着想やその技術自体も、従来から存在した(前記(2)ウ)。
したがって、本件発明2-1は、熱交換器の配置とクロスフローファンの翼形状(出口角)の双方を、同時に、具体的な数値をもって特定したところに技術的な意義があるといえる。
c
また、ルームエアコンの省エネ性能の向上を図る技術には、室内機及び室外
機それぞれを見ても、熱交換器、圧縮機、モータ、送風機等に係る種々の技術が存在する。しかも、被告のほか、国内の競合他社であるパナソニック、ダイキン、東芝、日立等は、それぞれ、省エネのための独自の基本的な技術を有しており、●(省略)●被告以上又は同等の市場占有率を保持していたと認められる(上記(2)イ、キ(ウ)、ク(イ)及び(ウ))。

加えて、本件発明2-1は熱交換器の配置とクロスフローファンの翼形状を特定するものであるから、それぞれ独自のユニット、熱交換器、ファン等の形状や配置を工夫して製品化している競合他社において、本件発明2-1をそのまま実施することにより直ちに性能が向上するといった性質の技術であるとは思われない。d
以上の事情を総合的に考慮すると、本件発明2-1に係る超過売上の割合は
50%と見るのが相当である。

仮想実施料率

本件発明2-1に係る仮想実施料率を検討するにあたっても、上記エの事情は同様に考慮されるべきである。
また、経済産業省知的財産政策室編ロイヤルティ料率データハンドブック(平成22年8月31日発行。乙A4)によれば、技術分類を機関またはポンプとする対象例(16件)では、平均ロイヤリティ料率3.1%、標準偏差1.4%、最大値5.5%、最小値0.5%である。また、技術分類を照明;加熱とする対象例(16件)では、平均ロイヤリティ料率3.9%、標準偏差2.2%、最大値9.5%、最小値1.5%である。
●(省略)●
以上の事情のほか、本件発明2-1がルームエアコン室内機における熱交換器の配置とクロスフローファンの翼の出口角の数値を限定したものであり、このような最適な数値を検討する行為自体は当業者が自ずと行うものであること等を踏まえると、本件発明2-1の仮想実施料率は、3.5%とするのが相当である。カ
対象特許発明の貢献の程度

(ア)対象製品群2には、本件発明2-1のほか、●(省略)●特許が実施されており(乙A10、乙B27)、また、被告カタログ②で訴求されている代表的な技術に関連する特許は、●(省略)●(乙A35、乙B59)。
このうち、被告のポキポキモータに係る技術は、従来のモータ以上にコイルを密に巻き、それによりモータ効率を向上させるという基本的・汎用的な技術である点
で、室外機の圧縮機モータ及び●(省略)●それぞれ重要な技術といえる。(イ)また、被告は、対象製品群2の販売に当たり、被告カタログ②においてムーブアイを大々的に取り上げると共に、そのほかにも脱臭機能、換気機能、サプリメントエアー機能といった付加価値的な部分をも顧客に対し強く訴求している。当時、既にルームエアコンは家庭に広く普及し、省エネ等に係る技術も各社製品において
採用されていたと考えられることを踏まえると、付加価値的なものとはいえ、このような他社製品と差別化を図る技術は消費者に対する訴求力を高め、対象製品群2の売上に大きく貢献したものと見るのが相当である。もとより、本件発明2-1も、熱交換器の配置を工夫することで室内機のコンパクト化といった訴求力のある効果を実現し、また、同時にシロッコファンの翼形状の角度を数値限定することで省エ
ネ効果等を実現していることから、対象製品群2の売上に貢献したと見られるものの、その貢献の程度が他の技術と比較して特に顕著であったことまではうかがわれない。
(ウ)以上の事情のほか、対象製品群2の売上高には、室内機のみならず室外機の売上高も含まれること等を踏まえると、対象製品群2における本件発明2-1の貢献の程度としては、1%と見るのが相当である。

使用者の貢献割合

●(省略)●
さらに、対象製品群2の開発にあっては、熱交換器やクロスフローファンの翼形状のみならず、被告カタログ②で訴求されたものをはじめとする種々の開発項目や試験項目があり、これをクリアして製品化に至ることは、被告の有する多くの蓄積された技術や物的・人的な体制があってこそ可能になるといえる。このほか、量産化及び販売も含めて被告が●(省略)●多額の費用を投入していること、長年にわたりルームエアコンを販売してきた被告及び被告ブランドの知名度が対象製品群2の販売実績に大きく貢献していると見られることなどを踏まえると、被告の貢献割合は95%とみるのが相当である。


共同発明者間における原告の貢献割合

本件発明2-1は、熱交換器の配置及びクロスフローファンの出口角の数値を限定した点に意義があるところ、原告は、流体解析の技術を用いて、その数値解析に中心的に寄与したことが認められる(前記(2)ア(イ))。
もっとも、発明当時、被告においても既に流体解析の技術及びこれを支援する装置等が存在し(乙A16、乙B44)、●(省略)●
これらの事情に加え、●(省略)●(弁論の全趣旨)、●(省略)●などを踏まえると、共同発明者間における原告の貢献割合は60%とみるのが相当である。ケ
小括

以上のとおり、対象製品群2の国内実施分に係る●(省略)●、超過売上の割合50%、仮想実施料率3.5%、対象特許発明の貢献割合1%、被告の貢献割合95%、共同発明者間における原告の貢献割合60%と認められる。これに反する原告及び被告の各主張はいずれも採用できない。
その結果、本件発明2-1に係る相当の対価の額は、●(省略)●となる。●(省略)●*50%*3.5%*1%*(100-95%)*60%=●(省略)●もっとも、被告は、本件各発明2について、既に特許を受ける権利の承継を受けた対価として原告に対し●(省略)●を支払済みであることから(前記2の2(7)ウ)、これを差し引くと●(省略)●となる。
したがって、原告は、被告に対し、昭和34年法35条3項に基づき、●(省略)●の相当対価請求権を有する。
4
本件各発明2の国外実施分に係る相当の対価(争点4-2)

(1)認定事実
前提事実(前記第2の2)、文中掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば、以下の事実が認められる。

●(省略)●

(ア)本件各海外特許権2について
被告は、本件各発明2について、別紙特許権・意匠権目録及び別紙海外特許一覧表記載のとおり、欧州、中国、米国及びタイにおいて特許権を有する。もっとも、被告は、欧州特許権2について、英国には移行していない(甲B4)。(イ)本件発明2-1について
●(省略)●

(ウ)本件発明2-2について
原告が主張するタイ特許権2及び中国特許権2に係る各請求項2(本件発明2-2に対応するもの)は、別紙海外特許一覧表のとおり、それぞれ、ルームエアコン室内機に搭載されたクロスフローファンの翼ないしブレードの入口角β1が91°≦β1≦100°(タイ特許権)又は91°<β1<100°(中国特許権)と記載されてい
る。
他方、海外対象製品群2のクロスフローファンの翼の入口角β1は90°である。したがって、●(省略)●海外対象製品群2は、●(省略)●本件発明2-2の実施品であるとは認められない。これに反する原告の主張は採用できない。●(省略)●

●(省略)●


●(省略)●

(2)検討

独占の利益等

●(省略)●以下のとおり考えるのが相当である。

●(省略)●

(ア)対価算定の基礎となるか否か及びその範囲
●(省略)●
(ウ)相当の対価算定にあたって考慮すべき事情
●(省略)●本件発明2-1に関して、最も早い特許出願は日本における平成16年3月25日であり、本件各海外特許権2の出願は同年9月21日であることを
踏まえれば、●(省略)●
そのほか、国内実施分において考慮した事情をここでも考慮すると、本件発明2-1に係る被告の貢献割合及び共同発明者間における原告の貢献割合は、●(省略)●それぞれ95%、60%と認められる。
これに反する原告及び被告の主張は、いずれも採用できない。

(エ)以上の事情を総合的に考慮すると、●(省略)●使用者貢献割合95%、共同発明者間の貢献割合60%を踏まえると、●(省略)●と認められる。ウ
●(省略)●

(ア)対価算定の基礎となるか否か及びその範囲
●(省略)●
(イ)相当の対価算定にあたって考慮すべき事情
●(省略)●
そのほか、国内実施分において考慮した事情をここでも考慮すると、本件発明2-1に係る被告の貢献割合及び共同発明者間における原告の貢献割合は、●(省略)●それぞれ95%、60%と認められる。
これに反する原告及び被告の主張は、いずれも採用できない。
●(省略)●使用者貢献割合95%、共同発明者間の貢献割合60%を踏まえると、●(省略)●

小活

以上のとおり、本件各発明2に係る国外実施分に係る相当の対価の額は、●(省略)●
被告は、本件海外特許権2について、既に特許を受ける権利の承継を受けた対価として原告に対し●(省略)●を支払済みであることから(前記第2の2(7)ウ)、これを差し引くと、●(省略)●となる。
以上より、本件各発明2(本件発明2-1)の国外実施分につき、原告は、被告に対し、昭和34年法35条3項の類推適用により、●(省略)●の相当対価請求
権を有する。
5
本件各発明2に係る対価請求権の消滅時効の成否(争点4-3)

(1)国内実施分に係る相当対価請求権について

相当対価請求権は、使用者等が従業者等から職務発明についての特許を受け
る権利を取得することにより発生し、弁済期に関する別途の定めがある場合等の事情がない限り、その消滅時効はその取得の時から進行する。他方、勤務規則等に支払時期の定めがある場合は、その到来までは法律上の障害があるものとして消滅時効期間は起算されない。

原告は、被告に対し、遅くとも本件特許権2の出願日である平成16年3月
25日までに本件各発明2に係る特許を受ける権利を承継し、本件特許権2は、平成20年10月10日に登録された(前記第2の2(2)イ及び(3))。●(省略)●(前記第2の2(6)エ(ア))。これによれば、発明者である被告従業員等は、特許を受ける権利を被告に承継させたとしても、●(省略)●までは、被告から実績補償金を受領することは実際上困難であると思われる。また、証拠(甲A21)及び弁論の全趣旨によれば、●(省略)●ことが認められる。これは、●(省略)●とされていたことをうかがわせる。
これらの事情を総合的に考慮すると、●(省略)●とはいえ、●(省略)●ものと理解されるのであって、少なくとも、そのような●(省略)●被告がこれと異なる●(省略)●を主張することは、禁反言の原則に照らし許されないというべきである。
さらに、被告においては、●(省略)●により権利行使可能な状態になるものと
理解される。
以上に反する被告の主張は採用できない。

本件各発明2につき●(省略)●平成30年4月27日である(前記第2の
2(7)、乙B1、弁論の全趣旨)。したがって、本件各発明2を国内で実施したことに基づく相当対価請求権の消滅時効の起算点はその翌日である同月28日である。他方、原告は、平成29年7月31日、国内実施分に係る相当対価請求権を行使するものであるA事件の訴えを提起した(顕著な事実)。
そうすると、当該対価請求権の消滅時効は裁判上の請求により中断しており(改正前民法147条1号)、完成していない。
したがって、被告の国内実施分に係る相当対価請求権については、消滅時効は認
められない。この点に関する被告の主張は採用できない。
(2)国外実施分に係る相当対価請求権について
●(省略)●その相当対価請求権の消滅時効の起算点は、同様に平成30年4月28日である。
他方、原告が国外実施分に係る相当の対価請求権を行使するB事件の訴えを提起
したのは、平成31年4月22日である(顕著な事実)。
したがって、タイ特許権2等に係る相当対価請求権についても、その消滅時効は裁判上の請求により中断しており、完成していない。この点に関する被告の主張は採用できない。
(3)小括
以上より、本件各発明2に係る対価請求権の時効による消滅は認められない。6
被告規程に基づく対価支払の不合理性の有無(争点5-1)

(1)

平成16年法35条によれば、契約、勤務規則等の定めによる対価の支払
が同条4項を踏まえると不合理と認められる場合、従業員等は、その発明により使用者等が受けるべき利益、その発明に関連して使用者等が行う負担、貢献及び従業者等の処遇その他の事情を考慮して定められる額の対価を受領し得ることとなる(同条3項、5項)。逆に、上記対価の支払が同条4項を踏まえると不合理と認められない場合、使用者は、当該対価を支払えば足りることとなる。そこで、以下、本件各発明3に関し、被告規程に基づく対価支払の不合理性の有無を検討する。
(2)●(省略)●使用者等と従業者等の協議の状況等

●(省略)●
(3)●(省略)●策定された基準の開示状況等
●(省略)●
(4)●(省略)●従業者等からの意見の聴取の制度等
●(省略)●

(5)原告に対する意見聴取の状況等
●(省略)●
(11)検討

●(省略)●について

(ア)協議の状況
前記(2)のとおり、被告は、●(省略)●従業員側の意見を聴取する機会も十分に設け、これに対応した行動を取ったものといってよい。
したがって、●(省略)●原告を含む従業者と被告との間で行われた協議の状況に不合理な点は認められない。
これに対し、原告は、被告規程が知財部門により一方的に定められ、少なくとも原告が協議に関与していないなどと主張する。しかし、上記のとおり、●(省略)●の過程において、被告の従業員に対する説明及び従業員からの意見聴取は十分に行われたものと見られることに鑑みると、被告規程●(省略)●が知財部門により一方的に定められたとの評価は当たらない。また、原告も●(省略)●質問等の機会を現に与えられていたことから、原告が協議に関与していないということもできない。そもそも、使用者等と従業員等との協議として、個々の従業員が規程内容の
作成に個別的ないし直接的に関与する手続を担保することまでが求められているとは解されない。その他原告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する原告の主張は採用できない。
(イ)開示の状況
前記(2)及び(3)のとおり、被告は、●(省略)●

以上のような状況を踏まえれば、●(省略)●被告規程の基準の開示の状況に不合理な点は認められない。
これに対し、原告は、開示された基準では従業員が自ら実績補償金を算定できず、また、●(省略)●労力を要するため、開示の状況は不合理であるなどと主張する。しかし、被告において被告規程に係る基準が開示されていることに争いはない。
その上、被告では、●(省略)●が開示されていたのであるから、従業員は、これと被告規程を照合すれば、実際の実績補償金の算定過程についても一定程度理解可能であったとうかがわれる。それ以上に、●(省略)●についてまで、基準として開示しないことをもって不合理とはいえない。
また、●(省略)●基準の開示として不合理とすべきほどに特段の労力を要する
と見るべき具体的な事情も見当たらない。
したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。
(ウ)意見聴取の状況
●(省略)●最終的に、原告と被告との間で意見等の相違は解消されなかったと見られるものの、原告からの意見聴取の状況という観点からは、被告による原告からの意見聴取は実質的に尽くされたといってよい状況にあり、被告の一連の対応につき不合理ないし不誠実と評価すべきものはないというべきである。これに対し、原告は、十分な意見聴取や説明がなされなかったとして縷々主張する。しかし、その内容は、被告細則の解釈や発明に対する評価の程度に対する不満を述べるものであって、被告における原告からの意見聴取の手続自体が不合理であることを基礎付けるものではない。

したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。
(エ)小括
以上によれば、●(省略)●被告規程に基づく被告の原告に対する実績補償金の支払については、その定めたところにより相当の利益を与えることが不合理なものとは認められない。

なお、原告は、●(省略)●被告規程における実績補償金の算定基準の内容面及びその適用の不合理性をも主張する。しかし、これをもって不合理とすべき具体的な事情は見当たらない上、前記認定に係る過程を経て上記基準が定められたことを踏まえると、これをもって不合理とは必ずしも認められない。この点に関する原告の主張は採用できない。


●(省略)●について

(ア)被告は、前記(7)のとおり、●(省略)●
(イ)被告は、●(省略)●。
(ウ)以上のとおりの●(省略)●基準の策定に際して使用者等と従業員等との間で行われた協議の状況、策定された当該基準の開示状況のほか、●(省略)●の定めたところにより相当の利益を与えることが不合理であると評価することはできない。
これに対し、原告は、被告が●(省略)●対して真摯に回答しなかった旨などを主張する。しかし、被告は、●(省略)●協議が不合理であるとはいえない。その他原告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する原告の主張は採用できない。
なお、原告は、●(省略)●被告規程における実績報奨金の算定基準の内容面及びその適用の不合理性をも主張する。しかし、●(省略)●これをもって不合理とは必ずしも認められない。この点に関する原告の主張は採用できない。ウ
小括

以上の事情を総合的に考慮すると、被告の原告に対する●(省略)●支払は、いずれも不合理であるとは認められない。これに反する原告の主張は採用できない。したがって、本件各発明3に係る相当の対価支払につき、平成16年法35条5項は適用されないから、本件発明3-2-2に係る不法行為に基づく損害賠償請求も含め、その余の争点について判断するまでもなく、同項に基づく原告の請求はいずれも認められない。

7
まとめ

以上より、原告は、本件発明2-1について、被告に対し、昭和34年法35条3項ないしその類推適用に基づき、●(省略)●(国内実施分)及び●(省略)●(国外実施分)の合計197万3393円の相当対価請求権が認められる。また、これらの請求権は、●(省略)●されたと見られること、●(省略)●として行われたものと理解されることを踏まえると、●(省略)●平成30年4月27日の翌日である同月28日に遅滞に陥ったものと解される。
第5

結論

よって、原告の請求は主文第1項の限度で理由があるから、その限度でこれを認容し、その余はいずれも棄却することとして、主文のとおり判決する。大阪地方裁判所第26民事部
裁判長裁判官

杉浦正樹杉浦一輝布目真
裁判官

裁判官
利子
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