判例検索β > 令和3年(わ)第1112号
地方自治法違反
事件番号令和3(わ)1112
事件名地方自治法違反
裁判年月日令和4年3月16日
法廷名名古屋地方裁判所
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-03-16
情報公開日2022-06-04 04:00:26
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主文
被告人を懲役1年6月に処する
この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は,愛知県選挙管理委員会委員長が令和2年8月25日(以下,月日は,特に断りのない限り,令和2年のそれを指す。,Aらを解職請求代表者として告示)
した愛知県知事の解職請求に関し,解職請求者の署名を偽造しようと考え,被告人の父でありB会事務局長C,B会の活動に協力していた広告関連会社代表D,B会の会計担当者Eらと共謀の上,ほしいままに
第1

10月23日,佐賀市ab丁目c番d号F会館(以下本件会館という。)
において,アルバイト作業員Gをして,愛知県知事解職請求者署名簿(以下本件署名簿という。
)の氏名欄に,別紙1(省略)記載のとおり,いずれも愛知
県知事の選挙権を有するHほか38名の各氏名を記載させ

第2

10月25日から同月26日までの間,本件会館において,アルバイト作業員Iをして,本件署名簿の氏名欄に,別紙2(省略)記載のとおり,いずれも愛知県知事の選挙権を有するJほか15名の各氏名を記載させ

第3

10月下旬頃,本件会館において,アルバイト作業員Kをして,本件署名簿の氏名欄に,別紙3(省略)記載のとおり,いずれも愛知県知事の選挙権を有するLほか15名の各氏名を記載させ

もって解職請求者の署名を偽造したものである。
(事実認定の補足説明)
第1

争点

弁護人は,名簿入手時点ではそれが署名偽造に用いられるという認識は被告人になく,Cから場当たり的な指示を受けて,限定的な場面に関与したにすぎないし,他の関係者と比較しても被告人の関わりの程度は小さく,自分の犯罪として本件に関与したとはいえないので,
被告人には,
幇助犯が成立するにとどまる旨主張する。
第2
1
当裁判所の判断
認定事実
関係証拠によれば,以下の事実が認められる。



被告人は,7月頃からB会の活動に関わるようになり,9月頃からは,塗装
工としての稼働を中断して月給約20万円でB会の活動に専従し,街宣車の運転等を担当していた。


被告人は,Cから,署名偽造に用いる目的で愛知県知事の選挙権を有する者
が掲載された80万人分の名簿を,愛知県から離れた場所の名簿業者から購入するよう指示され,10月6日,偽名を用いて,東京都内の名簿業者から代金約533万円で名簿を購入し,それをCに渡した。名簿購入代金は,Cにおいて,B会名義の預金口座から引き出して用意された。


被告人は,Cに指示され,10月19日,B会関係者と一緒に署名簿用紙と
名簿等在中の段ボール箱数十箱をレンタカーに積み込み,それを運転して,愛知県から佐賀県に運んだ。


被告人は,10月20日,本件会館において,アルバイト作業員の管理等を
していたM(以下Mという。
)から,どの曜日を多く署名簿の署名日欄に記載す
べきか質問され,Cに確認した上で,Mに対し,土曜日や日曜日を多くしてほしいと答えたり,10名分の署名欄がある署名簿には,六,七人分の氏名を書き写してほしいと伝えるなどした。


被告人は,本件会館で署名偽造された署名簿等を回収し,愛知県まで運搬し
た上,B会関係者と一緒に,署名簿に指印を押した。


被告人は,署名偽造に関わったことで,Cから少なくとも合計40万円以上
の報酬を受け取った。
2
被告人供述⑴

被告人は,当公判廷において,概ね上記認定事実に沿う供述をするが,名簿
は戸別訪問に用いるために購入するとCから聞いていたなどと,この点については認定事実と異なる供述をしている。
しかし,名簿購入目的の認識に関する被告人の公判供述は信用することができない。すなわち,被告人は,名簿購入の際,愛知県から離れた名簿業者を選び,偽名を用い,使用目的も偽っているところ,戸別訪問目的であれば,愛知県から離れた名簿業者を選んだり,購入時に偽名を用いたり使用目的を偽ったりする理由も見当たらない。また,戸別訪問を行うに当たり,高額の代金を支払って,選挙権を有する者の名簿を入手する必要はなく,この点に関する被告人の公判供述は不自然である。


被告人は,捜査段階において,Cから,リコールの署名簿の署名数を増やす
ため,名簿業者から名簿を購入し,そこに載っている人の名前等を署名簿に無断で書き写すという話を聞いた旨供述していた。
この点に関する被告人の捜査段階の供述は十分信用することができる。すなわち,
この供述内容は,被告人が名簿購入時に使用目的を偽るなどしたこと,被告人が名簿購入に関して高額の報酬を受け取っていることともよく整合する。被告人は,当公判廷において,捜査段階から,Cからは戸別訪問目的と聞いていたと弁解していたと供述するが,弁解内容が違うのに供述調書に署名したことはないとも供述しており,被告人の弁解と異なる内容が供述調書に録取されたことをうかがわせる事情は見当たらない。
3
正犯性

前記1の認定事実によれば,被告人は,Cから署名偽造を行うことを聞かされた上で,大量の名簿を遠方の名簿業者から入手し,それを署名簿用紙と一緒に,実行役のいる遠方まで運搬し,偽造された署名簿用紙を回収し,指印を押すことなどを担当しており,事前に名簿購入の目的を知った上で署名偽造のほぼ全体に関与しているといえる。
また,
署名偽造は,
B会の中でも秘密裏に行う必要があったところ,Cと密接に連絡を取り合うなどして,実行役の関係者にCの指示内容を伝達するなどの重要な役割も果たしている。さらに,これらの役割を果たしたことにより,被告人の供述を前提としても,40万円以上の相当高額な報酬を受け取っており,本件に関与したことによる被告人の経済的利益は相当大きい。
以上によれば,被告人は,Cらの犯行を幇助したにとどまらず,自分の犯罪を犯したといえる程度に重要な役割を積極的に果たしたといえるので,被告人に共同正犯が成立する。
4
弁護人の主張

弁護人は,①名簿入手時点ではそれが署名偽造に用いられるという認識は被告人になく,Cらから署名偽造の計画の全容を知らされておらず,Cから場当たり的な指示を受けて,限定的な場面に関与したにすぎない,②他の関係者と比較しても,被告人の関わりの程度は小さい,③報酬は,Cとの親子関係を前提に支払われた駄賃の意味合いが強く正犯性を基礎付けない,などとして,被告人に共同正犯は成立せず,幇助犯が成立するにとどまる旨主張する。
しかし,①については,名簿入手時点ではそれが署名偽造に用いられるという認識が被告人になかったとの弁護人の主張は,前提に誤りがある。被告人は,署名偽造という目的を認識した上で,前記のとおり,署名偽造のほぼ全体に関与し,要所において相応に重要な役割を果たしており,限定的な場面に関与したにすぎないとはいえない。
②については,名簿入手から指印までの署名偽造のほぼ全体に関与した者は,関係者の中でも少なく,被告人の関わりの程度が,正犯性を否定するほど小さいとはいえない。
③については,40万円以上もの報酬が,B会の活動に専従するための月給とは別に被告人に支払われたのであるから,報酬の多さは,正犯性を基礎付ける事情に十分なり得る。
その他,弁護人が種々主張する点は,当裁判所の判断を左右しない。(量刑の理由)本件は,多数の者を動員して,多額の費用をかけて,大規模に敢行された犯行の一環である点で悪質である(もとより,余罪処罰の意図はない。。ありもしない民)
意をねつ造することで,直接公選制により選出された県知事の解職をもくろむというのは,地方自治を不正にゆがめようとする許しがたい犯行であり,自主的な署名収集に委ねられている解職請求制度の公正さに対する信頼を失墜させかねない点でも,本件が社会に及ぼした影響は大きい。
被告人は,Cに指示されて,秘密裏に,大量の名簿を入手したり,遠方まで署名簿用紙等を運搬したりしたほか,関係者らにCの指示を伝えるなどの役割を分担しており,本件犯行において相応に重要な役割を果たしている。
以上の事情を考慮すれば,被告人が主犯格のCと比べると従属的な関わりにとどまること,被告人が事実を概ね認めて反省の言葉を述べていること,前科がないことなどの被告人のために酌むべき事情を最大限考慮しても,弁護人が主張するような罰金刑を選択することは許されず,懲役刑を選択するほかない。もっとも,本件が被告人を実刑に処すべき事案とまではいえないし,被告人に利得目的があったとはいえ,主犯格のCと親子の関係にあり,父から依頼されて本件に加担することになったといった経緯等を踏まえると,執行猶予期間については,主文のもので足りると判断した。
(検察官加藤幸裕,私選弁護人古田宜行各出席)
(求刑

懲役1年6月)

令和4年3月16日
名古屋地方裁判所刑事第5部

裁判長裁判官

板津正道
裁判官

西脇真
裁判官

髙橋祐由子二
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