判例検索β > 平成31年(わ)第243号
不正作出支払用カード電磁的記録供用、窃盗被告事件
事件番号平成31(わ)243
事件名不正作出支払用カード電磁的記録供用、窃盗被告事件
裁判年月日令和4年3月17日
法廷名福岡地方裁判所
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-03-17
情報公開日2022-05-17 04:00:10
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令和4年3月17日宣告
平成31年(わ)第243号、第353号、令和元年(わ)第920号不正作出支払用カード電磁的記録供用、窃盗被告事件
判決主文
被告人を懲役13年に処する
未決勾留日数中1000日をその刑に算入する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、
第1(平成31年3月19日付け起訴状記載の公訴事実)
X、Y、M、K及び氏名不詳者らと共謀の上、南アフリカ共和国所在の銀行が発行したデビットカードを構成する人の財産上の事務処理の用に供する電磁的記録を不正に作出して構成された不正電磁的記録カード32枚を使用して現金を窃取しようと考え、別表1(別表略。以下同様)大番号欄記載の7ないし59については更に同表共犯者欄記載の者らとそれぞれ共謀の上、同表記載のとおり、平成28年5月15日午前6時11分頃から同日午前8時39分頃までの間、507回にわたり、福岡市(住所省略)のコンビニエンスストアほか55か所において、人の財産上の事務処理を誤らせる目的で、前記カード32枚を前記各所設置の現金自動預払機に挿入して前記カード32枚の電磁的記録を読み取らせて各機を作動させ、前記カード32枚の電磁的記録を人の財産上の事務処理の用に供するとともに、各機から株式会社Q代表取締役Nほか1名管理の現金合計5070万円を引き出して窃取し、
第2(平成31年4月11日付け起訴状記載の公訴事実)
X、Y、M、K及び氏名不詳者らと共謀の上、前記銀行発行のデビットカードを構成する人の財産上の事務処理の用に供する電磁的記録を不正に作出して構成された不正電磁的記録カード14枚を使用して現金を窃取しようと考え、更に別表2共犯者欄記載の者らとそれぞれ共謀の上、同表記載のとおり、平成28年5月15日午前6時18分頃から同日午前8時37分頃までの間、276回にわたり、福岡県大野城市(住所省略)のコンビニエンスストアほか15か所において、人の財産上の事務処理を誤らせる目的で、前記カード14枚を前記各所設置の現金自動預払機に挿入して前記カード14枚の電磁的記録を読み取らせて各機を作動させ、前記カード14枚の電磁的記録を人の財産上の事務処理の用に供するとともに、各機から前記Nほか1名管理の現金合計2760万円を引き出して窃取し、第3(訂正後の令和元年7月3日付け起訴状記載の公訴事実)
X、Y、T、H及び氏名不詳者らと共謀の上、前記銀行発行のデビットカードを構成する人の財産上の事務処理の用に供する電磁的記録を不正に作出して構成された不正電磁的記録カード30枚を使用して現金を窃取しようと考え、更に別表3-1ないし3-22更なる共謀者欄記載の者らとそれぞれ共謀の上、各表記載のとおり、平成28年5月15日午前6時32分頃から同日午前8時36分頃までの間、175回にわたり、千葉県船橋市(住所省略)のコンビニエンスストアほか17か所において、人の財産上の事務処理を誤らせる目的で、前記カード30枚を前記各所設置の現金自動預払機に挿入して前記カード30枚の電磁的記録を読み取らせて各機を作動させ、前記カード30枚の電磁的記録を人の財産上の事務処理の用に供するとともに、各機から前記Nほか1名管理の現金合計1760万円を引き出して窃取した。
(事実認定の補足説明)
本件において、Yら多数名が、共謀の上、判示のとおりの不正電磁的記録カード(以下、単にカードという)を使用して、平成28年5月15日午前6時11分頃から2時間半足らずの間に、多数の現金引出し役(以下出し子という)が、カード76枚を、延べ958回にわたり、福岡県内、長崎県内、佐賀県内、千葉県内のコンビニエンスストア合計89店舗ほか1か所の現金自動預払機(ATM)に挿入して作動させ、それらの不正に作出した電磁的記録を人の財産上の事務処理の用に供するとともに、現金合計9590万円を引き出して窃取したことは、証拠上明らかであるところ、弁護人は、被告人は本件犯行に関与しておらず無罪である旨主張するので、検討する。
1
前提事実とその評価



関係証拠によれば、以下の事実が認められる。

被告人は、平成27年8月頃から9月にかけて、後輩のXを介して知り合ったYに対し、香港でカードを使用してATMから現金を引き出す話を持ち掛け、現地でYと合流したが、実行には至らなかった。
被告人の元部下であるSや被告人と親交のある暴力団員のRらは、平成28年4月頃から5月頃にかけ、S方において、多数枚のカードを作成していたところ、その頃、被告人やX、Xの配下のLらも、S方に出入りしていた。
本件犯行当日である平成28年5月15日早朝、出し子が現金を引き出していた際、出し子の上位者は、被告人と親交のある暴力団員のP方に集まり、出し子らに指示を出していたが、被告人もその場に居合わせた。また、本件犯行後である同日夜、各地のATMから引き出した多額の現金は、Xらを介してS方に集められたが、その際も、被告人はその場に居合わせた。


以上のとおり、被告人が、本件犯行の前年、Yらとともに、香港において、
本件と同様の計画を立てたものの、結局とん挫したことに加えて、本件犯行は、その規模、態様等からみて組織性・密行性の極めて高い犯罪とみるのが合理的であるところ、本件犯行の計画段階、犯行の最中、犯行終了後という各時点において、被告人が、カードの作成現場、出し子への指示現場及び引き出した現金の集約現場に居合わせたことは、それ自体、被告人が本件犯行に関与していることを極めて強く疑わせる事情といえるところ、本件においては、それ以外にも、被告人と本件犯行とを結びつける証拠として、Yを始めとする共犯者らの供述が複数存在するため、その信用性を次項以下で検討する。2
Y供述の信用性の検討



Yの当公判廷における供述より前の供述(以下Y旧供述という)の概要
は、以下のとおりである。
①被告人は、昔、某不良グループ等に関わっていたりした人物で、暴力団Cの組員をしており、Xは、被告人の後輩と聞いている。②香港から帰国した後も、被告人から、平成27年中に三、四回、カードを使って金を引き出す件につき声を掛けてもらっていた。③平成28年4月中旬頃、Xから「被告人からの話です。ICチップ用のデータがあるけど、イタに入れられないですかという話があり、探し出したハッカーができるとのことだったので、その旨を被告人に伝えた。そして、ハッカーとのやり取りの中で、実際に偽造できるか確認するため、サンプルデータが欲しいと言われたので、被告人と話をし、サンプルデータを聞き、ハッカーに伝えた。しかし、数日後、ハッカーが急にやらないと言い出したため、その旨をXに伝えると、被告人から連絡があり、今回カードを作れなかったことについて、今後穴埋めしてもらうなどと言われた。④5月上旬頃、Xから、被告人の仕事の関係で、人を集めて欲しいとの連絡をもらい、被告人からも連絡があり、

磁気カードでの引き出しをやる。日本でやる

などと仕事の内容を教えられた。報酬については、Xから、被告人が、本来であれば30パーセントで回せるものの、4月のカードを作る話が流れたことから、その穴埋めとして、私の取り分なしで、15パーセントで回すと言っていると言われた。被告人から4月の穴埋めのことは言われていたので、それで話を受けることにした。もっとも、下の者には12.5パーセントと言い、2.5パーセントをごまかして受け取ろうと思っていた。⑤本件犯行は、当初被告人から5月8日に実施すると言われていたが、5月6日か7日に被告人から延期の連絡があり、その際、1週間後ぐらいにやると言われた。⑥本件犯行当日の開始時刻は、当初午前4時頃の予定だったが、開始時刻が近づいた頃、被告人から連絡があり、誰かがフライングして引き出そうとしたようで、改めて準備をしているとのことだった。その後、引き出しが始まり、引き出せないなどの状況があると、基本的にはXに連絡をしたが、つながらない場合は、被告人に連絡をし、カードが使えないとか、いつまで待機すればいいかといったことを伝えた。⑦被告人とは、平成27年秋頃から通話アプリでやり取りをしており、本件犯行当日もそのアプリでやり取りをした。通話アプリが入った携帯電話については、本件犯行から2日くらいして、被告人から言われて捨てた」
⑵ア

関係証拠によれば、Yが出し子の上位者として本件犯行に関与しているこ
とは明らかであるが、関与の程度は客観的に明確ではない。一方、Y旧供述は、被告人が主犯格として本件犯行に関与していた旨をいうものであるため、Yが自己の刑責軽減を狙って虚偽供述をしているおそれには留意する必要があるが、Yにしてみると、暴力団員と認識している被告人に主犯格としての責任をなすり付け、被告人を陥れる供述をすることは、被告人又はその所属する暴力団等から報復される危険を招くという意味において、格段に危険な立場に身を置くことになることも明らかである。そして、Y旧供述は、内容が具体的かつ詳細であり、前記1の前提事実とその評価に照らして不自然、不合理な点はなく、核心的部分が、本件犯行前後におけるY・X間の通話状況一覧表のほか、以下のとおり、他の共犯者らの供述で裏付けられている。
Dの供述との整合性
Yの配下のDは、当公判廷において、次のような供述をしている。平成28年4月下旬、新宿のファミリーレストランで、Yとハッカーがやり取りをした場面に居合わせた。そのとき集まったメンバーは、Y、E、T、G、Eが連れてきたハッカーとの間にいる人物であり、Yは、その人物を介して、ハッカーと通話をし、私は、Yから話を聞いておくように言われたため、Yの隣で、イヤフォンマイクかスピーカーを通じて、通話の内容を聞いていた。ハッカーから「一つデータが欲しい。それがないと、データをどういう風に処理してカードに入れるのかが分からないなどと言われ、YがXに連絡をしてその旨を伝えると、Xは

自分じゃ判断できない。被告人と10分後合流するのでかけなおす

と言っていた。その後、Xから電話がかかり、

今合流したので、被告人に替わる

と言われ、被告人に替わると、Yは、ハッカーからの依頼を伝えた上、渋る被告人を説得していた。そして、Yは、被告人からデータを教えてもらい、それをハッカーに伝えると、ハッカーがこれならできると言ったので、その旨を被告人らに伝え、詳しい話は後日詰めることになった。しかし、結局、ハッカーに頼んだ件は実現しなかった。なお、被告人とXの立場については、Yから立案者と聞いている。その後、Yから本件犯行に誘われ、取り分については、最初、全体の30パーセントがYに入り、そこから私たちに渡すという話だったが、実行する前、取り分が全部なくなってしまったという話になった。Yは、その理由について、ハッカーに頼んだ件が実現せず、計画にずれを生じさせてしまったため、被告人らから言われて責任を取るために無報酬で動くことになったと話していた。もっとも、Yは、かたち上は無報酬でやることを受け入れつつ、下の者を使って得た報酬からピンハネする策に切り替えていた。また、Yは、被告人側が新しいハッカーを見つけ、もうデータを入れられたので、カードの作成について準備するものはなく、自分は、犯行当日の実行の指揮や人集め、金の回収等を行うと話していた」
D供述は、内容が具体的かつ詳細であり、前記1の前提事実とその評価に照らして不自然、不合理な点はない。Dは、当公判廷で供述するまで被告人と面識がなく、被告人の不利益を図って虚偽の供述をする理由が見出せないことも併せ考慮すると、D供述は信用することができ、Y旧供述のうち③、④の部分を裏付けている。Tの供述との整合性
Yの配下のTは、検察官の取調べに対し、平成28年3月下旬から4月頃までの間に、YとEが話しているのを聞いて、今回のカードを使った引き出しは、暴力団員のV(被告人の苗字)から、W(Xの苗字)という人間を通じてYのところにきた仕事だと分かった旨供述しており、その供述が虚偽であると疑うべき事情は見受けられず、Y旧供述のうち①、③、④の部分を裏付けている。X供述との整合性Xの当公判廷における供述より前の供述(以下X旧供述という)の概要は、以下のとおりである。
AとYが連絡を取り合いたいとき、Aらは互いの携帯電話のアプリの番号しか知らずつながりにくかったので、私が取り次いでいた。本件犯行当日、Aから、朝にYと大事な仕事があるので、必ず連絡が取れるようにしておいてくれと言われ、その頃から翌日の朝まで、AとYとの間の連絡を複数回取り次いだ前記のとおり信用することができるD供述、T供述を踏まえると、XがAと呼称する人物は被告人を指すと推認するのが合理的であるところ、X旧供述の内容は、本件犯行前後におけるY・X間の通話状況一覧表によって一部裏付けられているほか、D供述、T供述とも整合的であって、信用できる。
これに対し、Xは、当公判廷において、X旧供述の中でAと呼称していた人物は親交のあったSのことであり、被告人は本件犯行とは無関係である旨供述するとともに、Sの名前を出すことにした理由について、世話になっていたので、かばいたいという気持ちがあり、Sの名前を秘匿していたが、被告人と自分が本件犯行のスケープゴートにされていることに納得がいかず、Sの名前を出して真実を話すことにした旨供述している(以下X新供述という。)。しかし、X旧供述においては、例えば、カード作成現場であるS方を、Aの家ではなくAの後輩の家と述べていて、その文脈上、AがSを指すとみることは極めて不自然である。Xには、先輩であり、本件犯行への関与を否認している被告人にとって利益となる虚偽供述をする動機があり得ることも併せ考慮すると、X新供述は、全体として信用することはできず、それ以外にX旧供述におけるAは被告人を指すとの推認を妨げるような事情は見当たらない。
したがって、X旧供述は、Y旧供述のうち③、④、⑥、⑦の部分を裏付けるものといえる。

Y旧供述の経過についてみると、Yの公判供述等によれば、Yは、自身の捜査段階において、当初、被告人の氏名を秘匿してAと、Xの氏名を秘匿してBとそれぞれ呼称して供述していたものの、その後供述を改め、被告人とXの氏名を共犯者として挙げるに至っている。Yは、その理由について、検察官の取調べに対し、被告人やXが暴力団等と関わりのある人物であり、氏名を出せば何らかの報復があるのではないかと危惧して秘匿していたが、逮捕された以上、きちんと供述して全容解明に協力し、反省していることを分かってもらいたいと思い、弁護士とも相談して悩み抜いた末、相当の覚悟をもって氏名を出すことに決めた旨を説明していたことが認められる。Y旧供述の①の部分に照らしても、その説明に不自然、不合理な点はない。そして、Y旧供述は、その後も、再び被告人らの氏名を秘匿してAらと呼称したり、被告人らの氏名を出したりするという揺れはあったものの、Y自身の公判における供述や本件の共犯者とされるM及びXの各公判における供述を通じ、おおむね前記⑴の供述概要を維持しており、この点は、Y旧供述の信用性を肯定する方向に作用する事情といえる。
ところで、Yは、当公判廷において、Y旧供述のうち被告人に関して言及した部分は全て虚偽である旨供述を変遷させた上、変遷の理由等につき次のような供述をしている(以下Y新供述という)。
私の上位者は、暴力団U系列のJ(組織名)に所属する東京在住の兄貴こと氏名不詳者である。本件犯行において、兄貴は、Xグループの上位者が持っていた海外のデビットカードのデータを自身のグループのシステムエンジニアに提供させて引き出しができるよう改ざんさせ、それをXグループに戻したものであり、Xグループが改ざんされたデータを用いてカードを作成したと聞いている。私が逮捕される前、兄貴から「もし今回の事件で捕まれば、主犯格を暴力団C系列のZ(組織名)にしろ。Zは反目だし、カードを扱える人間を主犯とすれば周りも信じるだろうなどと、本件の主犯格を被告人にするよう言われた。当時は、本件で捕まると思っていなかったため、それ以上深く話すことはなかったが、私が別件で捕まっていた平成28年7月から平成29年3月までの間、兄貴が私の弁護士に接触してきて、再び同様のことを言われた。兄貴の指示に従わなければ、家族が危険な目に遭うと思ったため、本件で逮捕された同年5月以降これまでは本件を極力被告人のせいにしようと思って架空の話をしてきた。また、本件で逮捕された後、本件犯行後引き出した現金を運搬していた自分の配下の者が強盗に遭った件について、被告人らが関与していたとの話も聞いたため、被告人らに対して頭に来ていたことも虚偽供述をした理由の一つである。しかし、被告人の裁判においては、そのような供述は通用しないし、偽証罪にもなるため、正直に話さなければと思い、従前の供述を変更し、事実を述べたまでである。兄貴は今別件で捕まっているし、JとZも身内となったので、兄貴の名前を出さなければ恨まれないだろうと思い、兄貴の存在のみを明かした」
しかし、Y新供述以外に当該兄貴なる人物の存在を具体的にうかがわせる証跡は見当たらず、実在性そのものが疑わしいし、Yが、兄貴の存在を明かした理由につき供述する部分も、本件犯行における兄貴の役割を供述する部分も、兄貴との関係性に照らすと、とても信用できない。翻って、Yは、Y新供述においても被告人を暴力団員と認識していることを踏まえると、Y旧供述においては記憶どおりの共犯供述をしたものの、本件犯行への関与を否認する被告人の面前で同様の供述をすることのためらいや組織から裏切りとして指弾されたくないなどの理由によって、当公判廷においては供述を回避しようとしたものと理解することもできる。こうした事情に照らすと、Y新供述は、全体として信用することができず、Y旧供述の信用性に影響を及ぼすものではない。

以上によれば、Y旧供述は、Yが出し子の上位者として本件犯行に関与した
ことを認めた上、暴力団員と認識している被告人又はその所属する暴力団等からの報復のおそれがあるのに、自身の上位者として被告人を名指ししているものであって、責任軽減等によって得られる利益よりも前記のような不利益の方が相当大きいといえるところ、供述内容が具体的かつ詳細であり、前記1の前提事実とその評価に照らして不自然、不合理な点はなく、核心的部分が他の共犯者らの供述等によって裏付けられている上、被告人の氏名を出すに至った経緯にも不自然、不合理な点はないし、Y自身の捜査・公判における供述やXらの公判における供述を通じておおむね前記⑴の供述概要が維持されているから、弁護人がY旧供述の信用性につき種々指摘する点を踏まえても、Y旧供述は信用することができ、その供述どおりの事実関係があったと認められる。
3
L供述の信用性の検討

Lの当公判廷における供述及びXの公判におけるLの供述を総合すると、その供述概要は、以下のとおりである。

本件犯行の一、二週間前頃、Xに連れられてS方を訪れると、被告人らがおり、Sらがカードを作成していた。Xが「今日もこのカード持って行っていいんですか

と尋ねると、被告人がまだ駄目だよと言い、Xが

じゃあ、今日収穫なしですか

と言うと、被告人が暫定的にATMの操作手順を説明したので、Xに指示されてメモを取った。また、本件当日の夜、Xとともに引き出した現金を持ってタクシーでS方へ向かい、S方付近に到着すると、被告人らが迎えに来てくれ、S方に現金を運び入れた。被告人は、X、Sとの間で、パソコンで確認すれば、どこでいくら出したか分かるから、もし抜いたりしても後で分かるというような話をしていた」L供述は、内容が具体的かつ詳細であり、前記1の前提事実とその評価に照らして不自然、不合理な点はなく、当該メモの存在・記載内容によって一部裏付けられているほか、前記のとおり信用することができるY旧供述等とも整合的である。なお、Lは、Xの公判における供述とは異なり、当公判廷において、Xに対してATMの操作手順を説明した人物が被告人であったかは言えず、タクシーでS方付近に到着した際迎えに来てくれた人物の中に被告人がいたかどうかも言えないと供述しているが、その理由について、社会復帰後、複数の周辺者から被告人に不利な供述をすれば報復されるおそれがあるなどと助言され、自分や家族の身の危険を感じたためである旨説明しており、この供述変更にはやむを得ない面がある。そもそも、Lには、被告人との利害関係がうかがわれず、被告人を陥れるために殊更に虚偽の供述をする理由が見出せないことも併せ考慮すると、弁護人がL供述の信用性につき種々指摘する点を踏まえても、L供述は信用することができ、前記のような供述概要どおりの事実関係があったと認められる。
4
P供述の信用性の検討

Pは、検察官の取調べに対し、本件の全体を仕切っていたのは横浜のOであり、私の知っている限り、被告人は、カードを偽造するためのカードリーダー等の機械をOから預かって管理する役割と、本件当日引き出した現金を持ち逃げされないようにきちんと回収して見張っておく役割をしていた旨を供述しているところ、その内容は、前記1の前提事実とその評価や前記のとおり信用することができるL供述と整合的である。また、Pは、自身が所属する暴力団において被告人より下位であったというのであるから、被告人に利益となる虚偽の供述をすることはあっても、被告人を陥れるために虚偽の供述をするとは考え難く、現に、当公判廷においては、被告人の役割に関する前記供述は全て憶測である旨供述を不自然に変遷させている。こうした事情に照らすと、検察官の取調べに対するPの供述は信用することができ、本件犯行における被告人の役割等は、前記のようなものであったと認められる。5
被告人供述の信用性の検討

他方、被告人は、当公判廷において、次のような供述をしている。私は、本件犯行に関与しておらず、XやYに日本国内のATMからカードを使って現金を引き出す話や指示をしたり、Xらにそのためのカードを渡したり、Xらが出し子を使ってATMから引き出した現金の回収に関わったり、その現金をもらったりしたことはない。私が作成に関与したカードは、香港のATMで引き出しが行われたものに使われており、日本国内では使われていないしかし、前記1の前提事実のとおり、日本国内における本件犯行の計画段階、犯行の最中、犯行終了後という各時点において、カード作成現場(S方)、出し子への指示現場(P方)及び引き出した現金の集約現場(S方)に居合わせていた被告人が、本件犯行には全く関与しておらず、もっぱら同時期に香港で行われた同種の犯行にのみ関与していたというのは、あまりにも不自然、不合理であって、Y旧供述を始めとする共犯者らの供述等被告人と本件犯行とを結びつける複数の証拠関係に照らしても、被告人の公判供述を信用することはできない。
6
結論

以上によれば、本件犯行は、起訴された者の中では被告人を最上位者とし、その指示を受けたYらが出し子側との間をつなぐ役割を果たすなどして、多数の出し子が広域でほぼ同時にカードを使用して多額の現金を引き出して窃取したものと認められるから、被告人には、Yら共犯者との共謀共同正犯が成立する。(量刑の理由)
本件は、周到な準備と計画の下で実行された大規模な組織的犯行であり、被害総額が9590万円にも上るところ、被告人は、起訴された者の中では最上位者としてこの犯行に関与し、Yら配下の者を指図するとともに、カード作成用機材や集約させた被害金の管理を行うなどしたものであって、本件全体の首謀者が別にいて、被告人の得た利益の有無・額・割合が不明であることを踏まえても、その刑事責任は非常に重いから、主文の刑に処するのが相当である。
(求刑

懲役15年)

(福岡地方裁判所第2刑事部

裁判長裁判官

板東恵里)
溝國禎久、裁判官

辛島靖崇、裁判

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