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覚醒剤取締法違反被告事件
事件番号令和3(あ)711
事件名覚醒剤取締法違反被告事件
裁判年月日令和4年4月28日
法廷名最高裁判所第一小法廷
裁判種別判決
結果破棄自判
原審裁判所名福岡高等裁判所
原審事件番号令和3(う)25
原審裁判年月日令和3年4月27日
判示事項強制採尿令状の発付に違法があっても尿の鑑定書等の証拠能力は肯定できるとされた事例
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-04-28
情報公開日2022-04-29 04:00:04
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令和3年(あ)第711号
令和4年4月28日

覚醒剤取締法違反被告事件

第一小法廷判決
主文
原判決を破棄する
本件控訴を棄却する。
原審における未決勾留日数中70日を本刑に算入する。
理由
検察官の上告趣意のうち、判例違反をいう点は、事案を異にする判例を引用するものであって、本件に適切でなく、その余は、単なる法令違反、事実誤認の主張であって、刑訴法405条の上告理由に当たらない。
しかしながら、所論に鑑み、職権をもって調査すると、原判決は、刑訴法411条1号により破棄を免れない。その理由は、以下のとおりである。1
原判決の認定及び記録によれば、本件の捜査の経過は、次のとおりである。警察官らは、令和元年7月26日に別件大麻取締法違反で現行犯逮捕した者
(以下参考人という。)の尿から覚醒剤が検出されたことから、覚醒剤の入手先について参考人を取り調べ、

被告人から何度か覚醒剤を買った。

旨の供述を得るとともに、被告人に覚醒剤事犯の多数の犯歴があること(被告人は覚醒剤取締法違反の前科7犯を有し、平成16年以降の前科は覚醒剤自己使用の罪又はこれを含む罪による4犯であって、平成30年12月に最終前科による服役を終えていた。)を確認するなどした。
A警部は、令和元年10月15日、福岡簡易裁判所裁判官に対し、被告人について、覚醒剤の譲渡を被疑事実とする被告人方等の捜索差押許可状及び覚醒剤の自己使用を被疑事実とする被告人の尿を採取するための捜索差押許可状(以下本件強制採尿令状ともいう。)を請求したが、これに先立ち、警察官が被告人に接触するなどしたことはなかった。本件強制採尿令状請求書記載の犯罪事実(以下本件犯罪事実という。)の要旨は、

被疑者は、令和元年10月上旬頃から同月15日までの間、福岡県内又はその周辺において、覚醒剤若干量を自己の身体に摂取し、もって覚醒剤を使用したものである。

というものであった。A警部は、本件強制採尿令状請求の疎明資料である捜査報告書に、被疑者の過去の採尿状況として、平成20年から平成31年4月までの間、4回任意採尿を拒否して強制採尿を実施し、うち2回は鑑定の結果覚醒剤の含有が認められ、そのうち1回は任意採尿を拒否した後逃走し、令状の再請求後に強制採尿を行ったこと、強制捜査の必要性として、被疑者は過去に任意で尿を提出したことはなく、捜索時警察官に対し、令状がないと応じない旨の言動を繰り返しているため、警察官の説得に応ずる可能性は極めて低いものと認められ、過去に強制採尿令状の請求準備中に逃走したことがあるので、同令状の取得が必要不可欠であること、覚醒剤の味見をしなければ密売人として活動できないことから、被疑者が自己使用している蓋然性が高いことなどを記載した。また、A警部は、平成27年と平成31年に被告人に対して任意採尿の説得をした際に作成された捜査報告書も疎明資料として添付した。
同裁判所裁判官(以下令状担当裁判官という。)は、令和元年10月15日、上記各許可状を発付した。
B警部補らは、同月16日、被告人方に行き、被告人方等の捜索差押許可状を執行したが、その際、被告人は痩せて頰がこけており、会話はできるがろれつが回らない状態で、立ち上がるとふらふらしていた。B警部補は、この様子を見て覚醒剤使用を疑い、被告人に対して尿を任意提出するよう求めたが、被告人はこれを拒否した。その後も、B警部補は、被告人に対して尿の任意提出を求め、これを促すなどしたが、被告人がいずれも拒否したことから、本件強制採尿令状を執行した。B警部補は、被告人に対して被告人方で尿を出してほしい旨伝え、しばらく待ったものの、被告人が排尿しなかったため、同令状記載の医院に被告人を連行し、同医院内のトイレで被告人に採尿容器を渡して自然排尿を促したが、被告人が不正な行為をするような様子が見られたことから、自然排尿を打ち切り、その後、医師によりカテーテルを用いた採尿が行われた。採取した尿を鑑定したところ、覚醒剤の含有が認められた。
2
第1審裁判所は、前記の事実関係を前提として、被告人の尿に関する捜索差
押調書、鑑定嘱託書謄本及び鑑定書(以下本件鑑定書等という。)の証拠能力を認め、覚醒剤自己使用の事実について被告人を有罪とした。
これに対し、被告人が控訴し、訴訟手続の法令違反と量刑不当を主張したところ、原判決は、本件鑑定書等の証拠能力は認められないとして、訴訟手続の法令違反の控訴趣意をいれ、第1審判決を破棄し、被告人に対して無罪を言い渡した。その理由の要旨は、次のとおりである。
本件犯罪事実について、強制採尿令状を発付するに足りる嫌疑があったとは到底認められず、最終的手段としての強制採尿の必要性の点でも、本件強制採尿令状の発付は要件を欠いた違法なものであり、同令状の執行としての強制採尿手続も違法である。本件強制採尿令状の法規範からの逸脱は甚だしく、上記各要件の重要性に照らせば、この違法は深刻なものである。本件では、捜査機関によるずさんな、また、不当に要件を緩和した令状請求に令状担当裁判官のずさんな審査が加わって、事前の司法的抑制がなされずに令状主義が実質的に機能しなかったのであり、こうした本件一連の手続を全体としてみると、その違法は令状主義の精神を没却するような重大なものである。そして、本件鑑定書等を証拠として許容することは、本件のような違法な令状が請求、発付されて、違法な強制採尿が行われることを抑止する見地からも相当でないと認められる。
3
しかしながら、原判決の上記判断は是認することができない。その理由は、
以下のとおりである。
被疑者の体内からカテーテルを用いて強制的に尿を採取することは、被疑事件の重大性、嫌疑の存在、当該証拠の重要性とその取得の必要性、適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、犯罪の捜査上真にやむを得ないと認められる場合には、最終的手段として、適切な法律上の手続を経て、被疑者の身体の安全と人格の保護のための十分な配慮の下にこれを行うことが許されると解するのが相当である(最高裁昭和54年(あ)第429号同55年10月23日第一小法廷決定・刑集34巻5号300頁参照)。
本件においては、前記1

のような参考人の供述内容と被告人の犯歴等を併

せ考えても、本件強制採尿令状発付の時点において、本件犯罪事実について同令状を発付するに足りる嫌疑があったとは認められないとした原判断が不合理であるとはいえない。また、前記1

のような被告人の過去の採尿状況に照らすと、被告人

が本件当時も任意採尿を拒否する可能性が高いと推測されるものの、原判決も説示するとおり、同令状請求に先立って警察官が被告人に対して任意採尿の説得をしたなどの事情はないから、同令状発付の時点において、被告人からの任意の尿の提出が期待できない状況にあり適当な代替手段が存在しなかったとはいえない。したがって、同令状は、被告人に対して強制採尿を実施することが犯罪の捜査上真にやむを得ない場合とは認められないのに発付されたものであって、その発付は違法であり、警察官らが同令状に基づいて被告人に対する強制採尿を実施した行為も違法といわざるを得ない。
しかしながら、警察官らは、本件犯罪事実の嫌疑があり被告人に対する強制採尿の実施が必要不可欠であると判断した根拠等についてありのままを記載した疎明資料を提出して本件強制採尿令状を請求し、令状担当裁判官の審査を経て発付された適式の同令状に基づき、被告人に対する強制採尿を実施したものであり、同令状の執行手続自体に違法な点はない。上記

のとおり、同令状発付の時点におい

て、嫌疑の存在や適当な代替手段の不存在等の事情に照らし、被告人に対する強制採尿を実施することが犯罪の捜査上真にやむを得ない場合であるとは認められないとはいえ、この点について、疎明資料において、合理的根拠が欠如していることが客観的に明らかであったというものではない。また、警察官らは、前記1

ような態度等を示した被告人に対して、直ちに同令状を執行して強制採尿を実施することなく、尿を任意に提出するよう繰り返し促すなどしており、被告人の身体の安全や人格の保護に対する一定の配慮をしていたものといえる。そして、以上のような状況に照らすと、警察官らに令状主義に関する諸規定を潜脱する意図があったともいえない。
これらの事情を総合すると、本件強制採尿手続の違法の程度はいまだ令状主義の精神を没却するような重大なものとはいえず、本件鑑定書等を証拠として許容することが、違法捜査抑制の見地から相当でないとも認められないから、本件鑑定書等の証拠能力は、これを肯定することができると解するのが相当である。そうすると、本件鑑定書等の証拠能力を否定した原判決は、法令の解釈適用を誤った違法があり、これが判決に影響を及ぼすことは明らかであって、原判決を破棄しなければ著しく正義に反すると認められる。
よって、刑訴法411条1号により原判決を破棄することとし、以上の検討によれば、本件鑑定書等の証拠能力を肯定した第1審判決の判断は、その結論において是認することができ、また、訴訟記録に基づいて検討すると、第1審判決は、被告人を懲役3年2月に処した量刑判断を含め、これを維持するのが相当であり、被告人の控訴は理由がないから、同法413条ただし書、414条、396条によりこれを棄却し、原審における未決勾留日数の算入につき刑法21条、当審及び原審における訴訟費用につき刑訴法181条1項ただし書を適用することとし、裁判官全員一致の意見で、主文のとおり判決する。
検察官山内由光
(裁判長裁判官

正晶

公判出席
山口

裁判官

堺厚
裁判官

深山卓也

徹)
裁判官

安浪亮介

裁判官

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