判例検索β > 平成30年(ネ)第10034号
特許権侵害差止請求控訴事件 特許権 民事訴訟
事件番号平成30(ネ)10034
事件名特許権侵害差止請求控訴事件
裁判年月日令和4年3月14日
法廷名知的財産高等裁判所
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成29(ワ)3569
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-03-14
情報公開日2022-04-27 04:00:23
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令和4年3月14日判決言渡
平成30年(ネ)第10034号

特許権侵害差止請求控訴事件

(原審・東京地方裁判所平成29年(ワ)第3569号)
口頭弁論終結日

令和4年1月19日
判控決訴人
イーグル工業株式会社

同訴訟代理人弁護士


同補佐人弁理士

櫻井義宏同小椋正幸同宍天坂康種被控訴人充
株式会社テージーケー

同訴訟代理人弁護士

横井康真
同訴訟代理人弁理士

松尾卓哉主1文
被控訴人は、控訴人に対し、8920万円及びこれに対する平成31年4月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2
控訴人のその余の請求を棄却する。

3
訴訟費用はこれを20分し、その1を被控訴人の、その余を控訴人の負担とする。

4
この判決は、第1項に限り、仮に執行することができる。

5
なお、原判決は、控訴人の請求の減縮(原審で求めていた訴えの取下げ)により、失効している。


第1
1実及び理由
当事者の求めた裁判
請求の趣旨
被控訴人は、控訴人に対し、19億9644万7139円及びこれに対する平成31年4月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え(控
訴人は、原審において、被告製品の製造等の差止め及びその廃棄を求めていたが、当審において、特許権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づく上記金員の支払を求める請求を追加し、後に原審における請求を取り下げた。)。2
請求の趣旨に対する答弁
控訴人の当審における請求を棄却する。

第2
1
事案の概要等(略称は、特に断らない限り、原判決に従う。)
事案の概要
本件は、発明の名称をソレノイドとする特許(本件特許)に係る特許権の共有者の1名である控訴人が、原判決別紙被告製品目録(原告)記載の
可変容量コンプレッサ容量制御弁(被告製品)は本件特許の特許請求の範囲の請求項1に係る発明(本件発明)の技術的範囲に属し、被控訴人による被告製品の製造及び販売等は本件特許権の侵害に当たる旨主張して、
被控訴人に対し、
特許法100条1項及び2項に基づき、
被告製品の製造、
使用、
譲渡、
貸渡し、
輸出又は譲渡若しくは貸渡しの申出の差止めと被告製品の廃棄を求めた事案で
ある。
原判決は、被告製品は本件発明の技術的範囲に属するものと認めることはできないと判断し、控訴人の請求を棄却したところ、控訴人がこれを不服として控訴をした。
なお、控訴人は、当審において、平成27年10月1日から平成30年7月
9日まで(以下本件侵害期間という。)に行われた本件特許権侵害の不法行為による損害賠償請求権に基づいて、被控訴人に対し、19億9644万7
139円及びこれに対する平成31年4月12日
(遅滞に陥った日の後であり、
控訴状変更申立書送達の日の翌日である日)から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下単に民法という。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める請求に係る訴えを追加し、後に原審における被告製品の製造等の差止め及びその廃棄を求める訴えを取り下げた。
2
前提事実
原判決の事実及び理由中の第2の2に記載のとおりであるから、これを引用する(ただし、原判決4頁13行目の現在までを少なくとも平成30年7月までに改め、5頁24行目の次に行を改めて

本件特許は、平成30年7月9日に存続期間を満了した。本件侵害期間における被告製品の販売個数は●●●●●●●●個である。

を加える。)。3
争点
被告製品の本件発明の構成要件充足性(争点1)
アイ
構成要件B6の充足性(争点1-1)
構成要件Cの充足性(争点1-2)
均等論(争点2)
控訴人の損害額(争点3)

アイ4
特許法102条2項の規定による損害額(争点3-2)


特許法102条1項の規定による損害額(争点3-1)

特許法102条3項の規定による損害額(争点3-3)

争点に関する当事者の主張
争点1(被告製品の本件発明の構成要件充足性)について
次のとおり、構成要件B6の充足性に関する当審における補充主張を追加するほかは、原判決の事実及び理由中の第3の1に記載のとおりである
から、これを引用する。
【控訴人の補充主張】

原判決は、構成要件B6の密封嵌合とは、

ソレノイドの耐食性を向上させる効果をもたらすように外部雰囲気の進入を抑制させる程度に、端部材が取付孔に対してぴっちりと封をするように機械部品がはまり合う関係

を意味すると解されるところ、Oリング(シール部材
)を外した被告製品

は、
取付孔内部への水分の進入を抑制する効果があるとは認められないから、構成要件B6の該アッパープレートの外側で前記取付孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材に係る構成を有しない旨判断したが、以下のとおり誤りである。

構成要件B6の密封嵌合の意義について
構成要件B7の外部雰囲気の進入を抑制するために前記取付孔と前記端部部材との間に配置されるシール部材が密封装置であることは、その文言から明らかであるところ、構成要件B6の前記取付孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぐ耐食部材による端部部材についても、

密封、「嵌合


取付孔の開口部を塞ぐとの文言があることから、

シール部材とは別の1つの密封装置を構成しているということができる。
そして、本件明細書には、取付孔Haの内径寸法とヘッド部8の外形寸法は、両者が嵌合した場合に密封性を発揮し得ると共に、かつ容易に取り外しが行えるような嵌め合い寸法に設定されている。尚、Oリング13は、ヘッド部8の密封嵌合を補助する目的で設けられている。(【0032】)、…外部雰囲気(湿気や水などの流体等を含む)の進入がヘッド部8と取付孔Haの嵌め合い及びOリング13により抑制される…(【0034】)との記載があることからすると、Oリング13は、補助する目的であるがなくてもよいということを意味する
ものではなく、取付孔とヘッド部(端部部材)との嵌め合いによる外部雰囲気の進入の抑制作用では足りないから、Oリング(シール部材)に
よって外部雰囲気の進入の抑制を補い助けること、すなわち、両者の抑制は相互補完の関係にある。
このように、本件発明は、①ハウジング取付孔と端部部材との密封性のある嵌め合いによって外部雰囲気の進入が抑制され
(構成要件B6)

かつ、②取付孔と端部部材との間に配置された密封性のあるシール部材によって外部雰囲気の進入が抑制され(構成要件B7)、密封性のある嵌め合いの中に密封性のあるシール部材が組み込まれて、外部雰囲気の進入が抑制されるのであり、①と②が有機的に結合してより外部雰囲気の進入が抑制され(【0019】)るのであって、構成要件B7の
シール部材は、本件発明に必須の構成であり、取付孔と端部部材の嵌め合いとシール部材による抑制は、相互補完の関係にある。
原判決は、端部部材のみによる外部雰囲気の進入の抑制作用が限定的であってもよいということはできず、外部雰囲気の進入の抑制作用は端部部材のみで完結するものと判断しているが、本件発明のシール部材は、
本件発明に必須の構成として、補助的に、より外部雰囲気の進入を抑制するものであり、シール部材があってもなくてもよいということではないから、原判決の上記判断は誤りである。
本件発明は、耐食性を向上させるとともに取付性を向上させるという効果もあり(本件明細書の【0014】、【0017】、【0032】、
【0046】)、ここでの取付性は、ヘッド部8の組立て及び保守点検の作業に関わることから、ヘッド部8の取付孔Haの挿入だけでなく取外しを含む取付性を意味するものであり、【0032】は、取付孔と端部部材の嵌合が密封性を発揮し得るとともに、容易に取外しが行えることを両立することを明らかにするものである。

構成要件B6の密封嵌合における密封性とは、ハウジング取
付孔と端部部材との嵌め合いにおいて、こうした密封性と取付性の向上
(取付け、取外しが容易であること)の両方の効果を発揮することができる程度の嵌め合い寸法を前提としたものである。物理的に完全な密封というのは不可能であって、JISにおいても使用目的に適した許容漏れ量を満足していれば、密封性を否定されることはなく、端部部材と取付孔との間に隙間が存在するのであれば漏れが不可避であること
は技術常識である。
本件発明における取付孔と端部部材の嵌め合いは、外部雰囲気を抑制するものであり、外部雰囲気を遮断又は制止するものに限定されるものではない。
原判決は、密封嵌合の意義について、端部材が取付孔に対してぴっちり封をするように機械部品がはまり合う関係を意味する旨判断するが、
抑制を遮断と同義又はそれに近い意味で理解しており、
誤りである。

被告製品の構成要件B6の充足性について
被告製品寸法測定結果報告書(甲32)によれば、コンプレッサの取付孔寸法と被告製品の端部部材(H)の外径寸法の差は0.32mm、半径における平均寸法差は0.16mmであり、この程度の隙間は、漏れを抑制する作用を果たすものであるから、被告製品における取付孔と端部部材(H)の嵌め合いは、仕様において許容される程度の密封性を
発揮し得るものであり、取付性の向上の効果も認められる。
また、被告製品の取付孔と端部部材の嵌め合いとの間にはシール部材⒀が設けられており、被告製品が取付孔に収容されると、シール部材⒀は、
端部部材(H)との凹溝と取付孔の間にあって、
取付孔と端部部材の嵌
め合いによる外部雰囲気の進入の抑制を補助している。

①甲33実験(被告製品をポリカーボネート製模型に嵌め込んで端部部材(H)と孔模型の嵌合部に液体(LLC。緑色)を滴下する実験)の結
果によれば、被告製品の端部部材(H)の嵌合部に5滴滴下した液体が取付孔と端部部材(H)の隙間から漏れることを確認することができず、10滴に量を増やしても同様の結果であったこと、②乙15実験の追試である甲第49号証の1及び2に示される実験(以下甲49実験という。)の結果によれば、(ⅰ)端部部材(H)自体を削り取った被告製品は端部部材(H)の抑制作用が働かないが、(ⅱ)Oリングのみを取り外した被告製品は、1mlという多量の液体を加えたり、強い衝撃を与えたりした場合には、その後にケース側への漏れが生じており、被告製品は、仕様上、通常の使用状態では取付孔と端部部材(H)の嵌め合いによ
って液体を抑制している結果が得られたこと、③甲第58号証に示される被告製品湿気漏れ実験(以下甲58実験という。)の結果に
よれば、
(ⅰ)
端部部材はあるがOリングのない被告製品
(被告製品A)
と、(ⅱ)端部部材もOリングもない被告製品(被告製品B)のボディの周囲にそれぞれ湿気で色が変色する試験紙を貼り付けてポリカーボネ
ート製模型に装着したものを並置して、霧を120秒間噴射(10秒ごとに観察)(試験1)又は超音波式加湿器で60分間加湿(10分ごとの観察)(試験2)した実験をそれぞれ行った結果、被告製品Aはいずれも試験紙に変色は見られなかった(被告製品Bは、前者では10秒で試験紙が変色、後者では時間の経過とともに試験紙の変色が大きくなっ
ていった)ことからすると、被告製品の端部部材(H)は、液体及び湿気のいずれにおいても外部雰囲気に対して抑制作用を有しているといえる。なお、被控訴人は、樹脂はコンプレッサの材料たる金属とは液体の濡れ性等の特性が大きく異なるから、実験においてハウジング部材として樹脂等を用いるべきではない旨主張するが、樹脂と金属では液体の濡れ
性においてほとんど変わらないことは、当業者にとって周知である。乙15実験(第1実験)は、取付孔と端部部材(H)間のOリングだけ
でなく弁本体側のOリング(構成要件Cに対応するOリング)も取り外しており、端部部材(H)の密封嵌合に関する実験ではない。控訴人による同実験の追試に係る甲第50号証の1及び2で示される実験(以下甲50実験という。)の結果によれば、端部部材(H)のOリングのみを取り外した被告製品は、リアハウジングの吸入室側ポートからの
液体の流出は確認されなかったことからすると、乙15実験は意味をなさない。
また、乙第16号証に示される実験(以下乙16実験という。)
は、取付孔と端部部材(H)間のOリングを取り外しただけでなく、ソレノイド収容部の中間部に孔を穿設しており、端部部材(H)の密封嵌合に
関する実験ではないから、意味をなさない。
さらに、乙第19号証及び第20号証に示される実験(以下、それぞれ、乙19実験、乙20実験という。)も、Oリングの有無に
係るOリングのシール性能試験を行っているにすぎず、端部部材による外部雰囲気の進入抑制の効果を確認したことにならないから、意味をな
さない。
原判決は、乙15実験の結果を踏まえ、Oリングを外した被告製品には取付孔内部への水分の進入を抑制する効果は認められないと説示するが、Oリングを外した被告製品はそもそも被告製品ではないから、その前提において誤りがある。


小括
以上のとおり、構成要件B7のシール部材は、本件発明に必須の構成であり、取付孔と端部部材の嵌め合いとシール部材による抑制は、相互補完の関係にあるとともに、構成要件B6の密封嵌合における密封性

は、ハウジング取付孔と端部部材との嵌め合いにおいて、密封性(耐食性の向上)と取付性の向上(取付け、取外しが容易であること)の効果を共
にもたらす程度のものであり、漏れがないというのは現実的ではなく、ある一定条件下において使用目的に適した許容漏えい量を満足していれば密封性を発揮し得る構成であり、その場合に生じる漏れはJISにいう許容漏れ量の範囲内である。
そして、各種の実験結果によれば、被告製品の端部部材(H)は、外部雰
囲気の流入を抑制していることが認められ、また、取付孔との嵌め合いによって取付性を向上させるものであるから、被告製品は、構成要件B6を充足するし、シール部材に当たるOリングを外した被告製品を念頭に置いて検討することは許されない。
【被控訴人の補充主張】

構成要件B6の密封嵌合の意義について
原判決が説示するように、密封嵌合は、ぴっちりと封をするように機械部品がはまり合う関係を意味するものであり、端部部材による外部雰囲気の進入の抑制がそれなりでもよく、シール部材があっ
て初めて外部雰囲気が抑制されるようなものではない。原判決が説示するように、本件明細書の【0015】、【0016】、【0032】の記載によれば、端部部材のみで外部雰囲気の進入を抑制していることは明らかであり、シール部材は、【0019】、【0032】、【0048】の記載のとおり、あくまで端部部材の補助的なものである。端部部
材の不具合、取付不良等の場合には、シール部材によって外部雰囲気の進入を抑制することができるので、端部部材のみで外部雰囲気を抑制していると解したとしても、シール部材が無意味とはいえない。
したがって、構成要件B6の取付孔の開口部を塞ぐ端部部材による密封嵌合と、構成要件B7のシール部材による外部雰囲気の進入の抑制が
相互に補完する関係にある旨の控訴人の主張は理由がない。
控訴人は、密封嵌合における密封性の解釈において、本件明

細書の【0032】を挙げて、取外しが容易であることと密封性の両方の効果を発揮することができる程度の嵌め合い寸法を前提としたものである旨主張するが、原判決が説示するとおり、取外し性は本件発明の効果ではないので、取外しが容易であるという効果を持ち出して端部部材による外部雰囲気の進入抑制という本件発明の本質をゆがめるような解釈をすべきではない。
また、控訴人は、
密封嵌合の解釈においてJISの許容漏れ量
という概念を持ち出すが、原判決が説示するとおり、本件発明における密封嵌合
の密封性は、
端部部材と取付孔の間に隙間があるとしても、

それは端部部材により外部雰囲気の進入を抑制することによりソレノイドの耐食性を向上させるという本件発明の効果を発揮できない程度のものであってはならず、
密封を遮断と誤解しているものでもない。
加えて、
本件出願経過についてみると、
出願段階における請求項1は、

相手方ハウジング部材に備え付けられた取付孔に収容されるソレノイドであって、前記取付孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材を備えることを特徴とするソレノイド

であり、控訴人は、同発明における特許庁からの拒絶理由通知に対する意見書(乙18)において、本願発明では、ソレノイドの端部部材より奥側の部材は外部に露出されることはなく、また、外部雰囲気(湿気や水などの流体)の進入が端部部材により抑制されるので、相手側ハウジング部材に組み付けられた状態におけるソレノイドの耐食性が向上することが可能となり、高い信頼性や長寿命を得ることができるものです。と記載している。したがって、本件発明において、取付孔とヘッド部(端部部材)
との嵌め合いによる外部雰囲気の進入の抑制作用では足りないため、
Oリング(シール部材)によって外部雰囲気の進入の抑制作用を補い助けている旨の控訴人の主張は、こうした出願経過における主張と相容れ
ないものである。

被告製品の構成要件B6の充足性について
控訴人は、各種の実験結果を踏まえると、被告製品は構成要件B6を充足する旨主張するが、構成要件B6の密封嵌合をそれなりに

外部雰囲気の進入が抑制されていればよいことを前提とするものであり、誤りである。
前記アのとおり、構成要件B6の密封嵌合は、端部部材それ自体
によってソレノイドの腐食を防止できるという効果を発揮することができる程度に外部雰囲気の進入が抑制されなければならない。

控訴人は、
追試と称して甲49実験を行っているが、
同実験によると、
被告製品は、端部部材のみでは外部雰囲気(同実験ではLLC)の進入を抑制しきれておらず、このような漏れが生じれば当然ながら耐食性の向上という目的を達成することはできない。むしろ、同実験によると、Oリング(シール部材)を付した被告製品は、どの条件下でも漏れは生じ
ておらず、Oリングが

外部雰囲気の進入を抑制し、ソレノイドの耐食性を向上する

という目的を果たすものであることが明らかになっている。
控訴人は、乙15実験について、取付孔と端部部材(H)間のOリングだけでなく弁本体側のOリング(構成要件Cに対応するOリング)も取
り外しており、端部部材(H)の密封嵌合に関する実験ではないと主張するため、弁本体側のOリングを外さずソレノイド収容部の中間部分に孔をあけてそこから液体が流出するかを確認する実験(乙16実験)を行った結果、当該孔からの液体の流出が確認された。同実験結果は、被告製品の端部部材では外部雰囲気の進入抑制ができないことを示して
いる。なお、控訴人は、乙16実験について、取付孔と端部部材(H)間のOリングを取り外しただけでなく、ソレノイド収容部の中間部に孔を
穿設しており、端部部材(H)の密封嵌合に関する実験ではなく、乙16実験は意味をなさない旨主張するが、同実験においてはハウジング部材に加工を施したにすぎず、Oリング以外の被告製品の構造は全て備えており、控訴人の指摘は当たらないし、仮に、ハウジング部材も被告製品の使用状況と同様にすべきであるというのであれば、樹脂とコンプレッサの材料である金属は液体の漏れ性等でその特性も大きく異なるから、控訴人の実験においても、ハウジング部材として樹脂を用いるべきではない。
また、控訴人は、追試と称して甲58実験を実施しているが、当該実
験では、Oリングのない被告製品は、試験1ではわずか120秒、試験2ではわずか60分間、試験紙の色が変色しなかったにすぎず、こうした短い期間、試験紙の色が変色しないだけでは、外部雰囲気の進入が端部部材により抑制され、ソレノイドの耐食性が向上することが可能となるとはいい難いから、この実験結果によってOリングのない被告製品が
本件発明における効果を得られると証明できるものではない。
被控訴人は、控訴人が使用した試験紙を用いて、実際に被告製品が組み込まれるコンプレッサでの実験を実施したところ(乙19、20)、①コンプレッサを大気雰囲気中に置く実験(乙19実験)によれば、Oリングを外した被告製品は、コンプレッサに装着して2週間が経過した
後は、ソレノイド部に巻き付けた試験紙が大気雰囲気下に置いていた試験紙と同様の色に変化したのに対し、Oリングを装着した被告製品は、コンプレッサに装着して2週間が経過した後であっても、ソレノイド部に巻き付けた試験紙の色は変化しなかった、②コンプレッサを恒温恒湿度槽(温度40℃、湿度95%)内に置く実験(乙20実験)によれば、
Oリングを外した被告製品は、コンプレッサに装着して24時間が経過した後には、ソレノイド部に巻き付けた試験紙の色が恒温恒湿度槽内に
置いた試験紙と同様の色に変化したのに対し、Oリングを装着した被告製品は、コンプレッサに装着して24時間が経過した後であっても、ソレノイド部に巻き付けた試験紙の色は変化しなかった。
これらの実験結果から、乙14実験の結果と同様に、Oリングを外した被告製品は取付孔内部への外部雰囲気の進入を抑制できないことが明
確に理解できる。

小括
以上によれば、構成要件B6の密封嵌合は、端部部材それ自体によってソレノイドの腐食を防止できるという効果を発揮することができる程度に外部雰囲気の進入が抑制されなければならないところ、各実験結果か
らすると、Oリングを外した被告製品は、取付孔内部への外部雰囲気の進入を抑制できず、被告製品の端部部材(H)と取付孔との嵌合では、

耐食性を向上し、高い信頼性や長寿命を得る

という本件発明の効果を得られないから、被告製品は、構成要件B6を充足しない。
争点2(均等論)について

【控訴人の主張】

仮に、被告製品の端部部材(H)が取付孔に密封嵌合していると認められないとしても、以下のとおり、被告製品は、本件発明の均等侵害に当たる。

均等論の第1要件
本件発明は、ソレノイドに関し、耐食性に対して有利な構造であり、高い信頼性や長寿命を得ることが可能なソレノイドを提供する技術に関するものである(【0001】)ところ、ソレノイドがカークーラー等のハウジングの取付孔に嵌め込まれてカークーラー等の制御に使用
されるなどの環境においては、厳重に水分等の侵入を防ぎ腐食を防止する必要があり、かつ、高度の耐久性が求められるが、従来技術において
は、それが必ずしも十分ではなく、例えば、メッキ等の防錆処理を施すことも行われているが、コストアップの要因になるのみならず、その防錆処理いかんではソレノイドバルブの耐食性、高い信頼性、長寿命が必ずしも十分とはいえず(【0002】ないし【0013】)、また、ソレノイドが組み込まれる相手側ハウジングは、軽量化のため、通常アルミニウム等から構成されるが、アルミニウム等からなる相手側ハウジングに鉄等からなるソレノイドを組み込むと、アルミニウムと鉄との異種金属の接触により腐食するおそれがあることは、当業者にとって自明の課題であった。

本件発明は、こうした課題を解決するために、①ソレノイドの取付孔と端部部材との間にシール部材を配置し、②バルブ側の外周にシール部材を設け、③ソレノイドの端部部材とバルブ側部材の両方をシール部材で支持するとともに、シールを二重化するという構成を採用し、これにより、取付孔の内部に収容されるソレノイドは、外部雰囲気(湿気や水
等の流体)との接触を抑制してソレノイド部の耐食性を向上させ、バルブ部側からソレノイド側への高圧冷媒の浸入、ソレノイドと相手側ハウジング部材との接触及び高圧冷媒の外部漏出をそれぞれ防止することができるとともに、ハウジング部材の取付孔に挿入するだけで正確な位置決めができ、ボルトによるハウジングへの締結等も不要となって、取付
性及び耐振動性の向上等の作用効果を奏するものである。
構成要件B6の密封嵌合は、本件出願前において公知の技術であ
って、従来技術に見られない特有の技術的思想を構成する特徴的部分とはいえない。
そうすると、構成要件B6の端部部材の密封嵌合は、本件発明の

課題及び作用効果とは関係がなく、
本件発明の本質的部分とはいえない。
均等論の第2要件

被告製品の端部部材に本件発明の効果を発揮できない隙間があるとしても、被告製品は、端部部材とOリングがあいまって外部雰囲気の進入を抑制させ、ソレノイドの耐食性を向上させる効果をもたらしているから、本件発明と同一の作用効果を奏するものである。
均等論の第3要件

構成要件B6の端部部材の密封嵌合は、取付孔と端部部材との嵌
め合いの隙間をどの程度にするべきかという量的問題であるにすぎず、設計的事項にすぎないから、当業者にとって置換することは容易に想到する。

以上のとおり、被告製品は、均等論の第1要件ないし第3要件を充足するから、仮に、被告製品が構成要件B6の密封嵌合をしているものではないとしても、本件発明の技術的範囲に属する。

【被控訴人の主張】

均等論の第1要件に関し
従来技術では、ソレノイドバルブのソレノイド部が相手側ハウジング部材から突出して設けられていたため、高い耐食性(防錆)を備えるべくソレノイド部にメッキ等の防錆処理を施していたが、これではコストアップの要因になるし、より高い信頼性や長寿命が求められる場合には対応が困難であるという課題を有していた(【0010】ないし【0012】)こ
とから、本件発明は、原判決が説示するとおり、耐食性に対して有利な構造であり、高い信頼性や長寿命を得ること、また、取付けの容易なソレノイドを提供することを目的とし(【0014】)、そのための手段として、ソレノイドは、ハウジング部材に備えられた取付孔に収容され、その取付孔に密封嵌合して取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材を備
えることを特徴とし、端部部材により外部雰囲気(湿気や水等の流体)の進入を抑制させることを可能とし、シール部材によってより外部雰囲気の
進入を抑制し(【0015】ないし【0019】)、その効果として、ソレノイドの耐食性を向上することが可能となり、高い信頼性や長寿命を得ることができるとともに、取付性も向上する(【0046】ないし【0048】)というものである。なお、上記に加えて、控訴人は、本件発明の作用効果について、高圧冷媒の外部漏出の防止、ソレノイドとハウジング
との接触防止、耐振動性といった効果を主張するが、本件明細書にはこれらの作用効果に関する記載も示唆もないことは原判決で説示されているとおりであり、誤りである。
そして、上記の本件発明の課題及び作用効果に鑑みれば、端部部材の取付孔への密封嵌合は、本件発明の課題解決ないし作用効果にとって不
可欠な構成である。
控訴人は、端部部材の取付孔の『密封嵌合』のうち密封嵌合の
みを取り出してこの技術が公知技術である非接触シールと同義であると主張するものであって理由がない。

以上のとおり、端部部材の取付孔の『密封嵌合』は、本件発明の本質的部分であり、被告製品はこの要件を充足しないから、均等論の第1要件を充足しない。
したがって、被告製品が本件発明の技術的範囲に属する旨の控訴人の主張は理由がない。
争点3(控訴人の損害額)について


争点3-1(特許法102条1項による損害額)について
【控訴人の主張】
侵害がなければ販売することができた物
控訴人は、①本件発明の実施品であるソレノイドを有する可変容量コ
ンプレッサ容量制御弁(以下原告製品1という。)、②取付孔に密封嵌合して前記取付孔の開口部を塞ぐ端部部材を備えているが前記取付
孔と前記端部部材との間にシール部材(Oリング)を装着していない、ソレノイドを有する可変容量コンプレッサ容量制御弁(以下原告製品2という。)をそれぞれ製造及び販売しているところ、●●●社(以下、●●●社の前身である●●●●●●●●●●●Co.,Ltd(以下●●●社という。)及び●●●●●●●●●●●●Co.,Ltd(以下●●●●社という。)を含めて●●●社と略することがある。)に原告製品2を販売していた。原告製品2は、相手側ハウジングに備え付けられた取付孔に全てが収容されるソレノイドであり、取付孔の開口部を耐食性材料による端部部材で塞ぎ、端部部材より奥側に位置する鉄系材
料によるケース部材等の構成部材に耐食性を満たすようにメッキによる防錆処理を施すことで、●●●社の仕様を満たしていた。
控訴人の製造及び販売するベローズタイプ(流体の圧力に応じて伸縮されるベローズ(蛇腹構造を持たせ、伸縮性や曲折性といった機能が付与された配管等)を介して弁体を制御するタイプ。)の容量制御弁と、
被控訴人の製造及び販売するダイアフラムタイプ(流体の圧力の作用に応じて変位される隔膜を介して弁体を制御するタイプ。)の容量制御弁は、外部制御弁タイプの容量制御弁の市場では競合状態にあり、被控訴人が●●●社に被告製品を売り込み始める前は、ベローズタイプは控訴人が、ダイアフラムタイプは被控訴人が、それぞれほぼ全世界の外部制
御弁タイプの容量制御弁の販売を独占していた。
被控訴人は、長年にわたり、●●●社にダイアフラムタイプの容量制御弁を納入していたが、●●●社が平成25年にその一部を控訴人が製造及び販売するベローズタイプの容量制御弁(原告製品2)に切り替えると、ベローズタイプの容量制御弁を開発し、平成27年10月から、
本件発明の実施品である同タイプの容量制御弁(被告製品)を●●●社に納入するようになり、その結果、控訴人と●●●社との取引は打ち切
られた。このように、●●●社に販売されていた被告製品と同じく同社に販売されていた原告製品2とは、明らかに市場において競合関係にある。
したがって、侵害がなければ販売することができた物は原告製品
2である。
なお、被控訴人は、●●●●●●と●●●社は圧縮機の競業者の関係にあるため、控訴人は本件発明の実施品を●●●社に納入することができなかったから、控訴人には侵害により自己が受けた損害は発生していない旨主張するが、原告製品2は被告製品と市場において競合関係
にあり、控訴人は被控訴人の侵害行為によって販売数量の減少という損害を被っているのであるから、被控訴人の主張は理由がない。
侵害行為を組成した物の譲渡数量
平成27年10月1日から本件特許権の存続期間満了日である平成30年7月9日までの被告製品の販売数量は、総合計●●●●●●●●個
である。
原告製品2の単位数量当たりの利益の額
a
限界利益
原告製品2の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費
は、別紙2-1のとおり、直材費①、補助材料費②及び外注加工費③、ベローズ人件費④、ベローズ電力料⑤、本体人件費⑥、本体電力料⑦、運賃・梱包費⑧、水道料⑰である。
控訴人は、平成26年に年間約●●●個の原告製品2を●●●社に販売しており、原告製品1及び2を合わせると、平成26年度(20
14年度)は約●●●●●個、平成27年度(2015年度)は約●●●●●個、平成28年度(2016年度)は約●●●●●個をそれ
ぞれ製造及び販売しており、
また、
原告製品1と2を並行して生産し、
原告製品2の一部を●●●社に販売していたから、平成27年10月以降、年間●●●●個程度であれば、稼働率を上げて増産する能力を優に有しており、原告製品2の製造工程において新たな設備や装置は不要である。そして、ベローズ及び本体の組立工程において用いられ
た設備は、既に支出されたものであって、原告製品2の製造及び販売に直接関連して追加的に必要となる経費ではないから、限界利益の額の算定に当たって控除されるべきではない。
また、旅費交通費、通信費、消耗品費、雑費、福利厚生費、賃借料、保険料、修繕料、租税公課、交際費等は、いずれも管理部門の経費、
製造部門の間接経費等であり、ベローズ及び本体の組立工程において要する費用ではないから、限界利益の算定に当たって控除されるべきではない。
そうすると、原告製品2を販売していた平成25年3月から平成27年9月までの31か月間における原告製品2の1個当たりの限界利
益は、別紙2-1のとおり、●●●●●●円である。
仮に、原告製品2の製造のための設備等に関する減価償却費、生産設備の保守点検・維持管理等の担当業務に係る人件費が原告製品2の製造販売に直接関連して追加的に必要となる経費に当たるものであるとしても、別紙2-2の月次減価償却費⑱、保守点検・維持管理等の人件費⑲に記載のとおりであり、上記期間における原告製品2の1個当たりの減価利益は、別紙2-2の限界利益計算表欄の
とおり、●●●●●●円となる。
b
事実上の推定の一部覆滅事由は存在しないこと
被控訴人は、後記【被控訴人の主張】

bのとおり、●●●社は原

告製品2を購入するに当たり、端部部材や取付性等は全く重視してい
ないから、控訴人の逸失利益を事実上推定するに当たりこれが覆滅される程度は相当高い旨主張するが、争う。
本件発明は、相手側ハウジング部材に備え付けられた取付孔に収容されるソレノイドであって、当該取付孔に密封嵌合して取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材によって密封性を発揮すると
ともにハウジングの取付孔から容易に取り外しが行えることに特
徴があり、併せて、シール部材によって外部雰囲気の進入をより抑制することに特徴(以下本件特徴部分という。)がある。ソレノイドバルブの顧客は、カーコンプレッサメーカーであり、ソ
レノイドバルブの購買の動機となるのは、その基本的性能が同一である場合、第一にソレノイドの高い信頼性や長寿命、すなわち、耐食性の高いことであり、第二に組立性の良いことである。
原告製品2は、相手側ハウジングに備え付けられた取付孔に全てが収容されるベローズを利用する構造となっている外部制御弁タイプの
容量制御弁であって、取付孔の開口部を取付孔に密封嵌合する耐食性材料による端部部材で塞ぎ、端部部材より奥側に位置する鉄系材料によるケース部材等の耐食性を向上させるとともに取付性も向上させたものであるが、取付孔と端部部材との間にシール部材を配置していない点で原告製品1と相違する。このため、原告製品2は、原告製品1
よりも取付孔と端部部材との間の密封性において若干劣るので、耐食性を必要とする鉄系材料による構成部材にメッキによる防錆処理を施し、高い耐食性を有するようにしている。
このように、原告製品2が有するのは、本件特徴部分の中心的な部分である、相手側ハウジング部材に備え付けられた取付孔に収容され
るソレノイドであって、当該取付孔に密封嵌合して取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材によって密封性を発揮し得るとともに
ハウジング部材の取付孔から容易に取り外しが行えるので、耐食
性に対して有利な構造であり、高い信頼性や長寿命を得ることができるとともに、ハウジングの取付孔に挿入するだけで正確な位置決めができ、ボルトによるハウジング部材への締結等も不要となり、取付性の向上に寄与し、原告製品2の販売に相応の貢献をしている。
そうすると、原告製品2は、取付孔と端部部材との間のシール部材を配置していないとしても、通常の使用状態であれば、本件発明の実施品である原告製品1と同等の効果を奏しており、原告製品2の需要者としてカーコンプレッサに装着して販売していた●●●社に対して
強い顧客吸引力を有していた点を考慮すると、事実上の推定の一部覆滅事由が存在するとはいえない。
また、仮に、事実上の推定の一部覆滅事由があるとしても、原告製品2は、多量の液体を一気に加えたり強い衝撃を与えたりしない通常の使用の状態であれば、端部部材によって十分に密封性を発揮してお
り、鉄系材料による構成部材に防錆処理を施してソレノイドの耐食性の向上とともに、取付性の向上を可能とし、本件発明と同等の効果を奏しているから、事実上の推定の一部覆滅の割合の程度はさほど大きいものではない。
本件特許が控訴人及び●●●●●●との共有関係にあることにつ

いて
特許権の各共有者は、特約のない限り、自己の持分に関係なく量的な制限なしに特許発明を実施することができ(特許法73条2項)、情報は重畳的に使用することが可能であるが、市場規模には限界があって、共有関係にある特許権者は現実には市場を食い合う関係にある
ことから、共有に係る特許権の侵害により自己が受けた損害については、侵害品の譲渡数量を各共有者の製品の販売数量で按分すべきとす
る見解が多数説である。
もっとも、
共有者の一方が特許発明を実施し、
他方の共有者は実施していない場合には、第三者によって特許発明が実施され侵害を被ったならば、特許発明を実施している共有者のみが損害を被ったと考えるのが自然かつ合理的である。
●●●●●●と控訴人の前身である●●●●●●●●●●●●●
●●●●●は、本件発明等の容量制御弁を共同開発するに当たり、●●●●●●は原則として●●●から製品を購入するものとする旨を合意しており、●●●●●●は、同合意に基づいて、控訴人が製造する本件発明の実施品である容量制御弁を自社のコンプレッサに装着して
使用し、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●しなかった。
そうすると、被控訴人による被告製品の製造及び販売によって販売機会を喪失したのは控訴人のみであるから、控訴人は、被控訴人による本件特許権侵害行為によって被った損害の全額を被控訴人に賠償請
求することができる。
特許法102条1項ただし書の事情について
被控訴人は、後記【被控訴人の主張】

のとおり、特許法102条

1項ただし書の事情として、①●●●社における事情、②代替品の納入が可能であること、③原告製品2と被告製品の性能に本件発明以外に相違があること、④被告製品が原告製品2と比較して低価格であること、⑤被控訴人の市場開発努力、営業努力、販売力の事情を挙げるが、いずれも争う。
ダイアフラムタイプの容量制御弁は、自動車が使用される高度により気圧が変化し温度制御が安定しない現象が発生するため、ベローズ
内部を真空にしたベローズタイプに切り替えることは、自動車メーカー、コンプレッサメーカー及び容量制御弁メーカーにおいて喫緊の課
題であり、これを解決したのが●●●●●●及び●●●であった。●●●社は、原告製品2を搭載したコンプレッサを●●●社に納入していたが、被控訴人の容量制御弁に切り替えるには●●●社の仕様を満たす必要があり、被控訴人がその仕様を満たす容量制御弁を製造することができなければ、従来どおり原告製品2を購入するしか選択の余地はなかった。そうしたことから、●●●社は、控訴人に対しては原告製品2の年間供給量を増産するよう申し入れる一方で、被控訴人に対してはECV13Eの改良を要請し、控訴人と被控訴人をいわば両天秤にかけていた。

また、控訴人と●●●社との取引はユーロ建て取引であったところ、為替相場は日々変動しているため、原告製品2の販売価格も為替相場に応じて上下していたものであり、被控訴人のドル建ての取引と変わりはなく、また、控訴人と●●●社の取引期間と被控訴人と同社の取引期間はずれているから、販売価格の高低を比較することに意味はな
く、控訴人はできる限り●●●社の要望に応じていたから、販売価格が●●●社にとって購入先を変更する動機とはなりえない。
このように、被控訴人は、●●●社及び●●●社の仕様を満たし、納期を守るために本件発明を侵害したものであり、被控訴人が●●●社の仕様を満たす製品を開発しなければ●●●社は原告製品2を購入
し続けるほかなく、また、製品の価格差は●●●社が被告製品を購入した動機になっていない。
したがって、控訴人が侵害品の譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を販売することができないとする事情は存在しない。
特許法102条1項ただし書と同条3項の重畳適用

仮に、本件において、特許法102条1項ただし書に規定する譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者が販売することができ
ないとする事情があると認められた場合であっても、同条3項は、逸失利益について最低限の損害の賠償を認めた規定であるから、同条1項において控訴人の逸失利益として評価されなかった原告製品2の全部又は一部に相当する数量については、同条3項を適用して損害賠償が認められるべきである。
損害の算定
以上によれば、平成25年3月から平成27年9月までの原告製品2の1個当たりの限界利益は●●●●●●円であり、控訴人は、本件侵害期間において、被告製品の譲渡数量である●●●●●●●●個を
販売することができたから、特許法102条1項による損害額は、●●●●●●●●●●●●円である(なお、仮に、固定費である減価償却費⑱、保守点検・維持管理等の人件費⑲を経費として控除するとしても、上記期間の原告製品2の1個当たりの限界利益は●●●●●●円であり、同項による損害額は●●●●●●●●●●●●円
である。)。
弁護士費用及び弁理士費用
上記

のとおり、特許法102条1項による控訴人の損害額は●●

●●●●●●●●●●円であるところ、本件事案の内容、認容額及び本件訴訟に至る経過に鑑みれば、弁護士費用及び弁理士費用は少なくとも●●●●●●●●●●●円を下らない。
小括
以上によれば、控訴人に生じた損害額は、●●●●●●●●●●●●円であるが、その一部である●●●●●●●●●●●●円を請求する。

【被控訴人の主張】
控訴人の主張する損害額は否認ないし争う。なお、個々の項目につい
て特に反論等すべき点は以下のとおりである。
侵害がなければ販売することができた物について
控訴人は、前記【控訴人の主張】

のとおり、特許法102条1項

の侵害の行為がなければ販売することができた物に関して、被告
製品と代替可能な競合品は原告製品2である旨主張する。
一般論としては、原告製品2と被告製品は市場において競合関係にあるかもしれないが、本件においては、製品の納入先が●●●社のみであるという特殊な事情がある。被告製品の納入先である●●●社において本件発明に係る構成が採用されていることが被告製品の主たる
購入動機であるとするならば、このような構成を有していない原告製品2は、被告製品が●●●社に納入されなかったとしても販売することができたとはいえず、原告製品1が侵害の行為がなければ販売することができた物ということになるが、●●●●●●と●●●社は競業者の関係にあるため、控訴人は、本件発明の実施品を●●●
社に納入することができなかった。
そうすると、●●●社にとって本件発明の構成が重要であれば、控訴人が●●●社に侵害の行為がなければ販売することができた物
はなく、控訴人に損害は生じていない。
侵害行為を組成した物の譲渡数量
前記【控訴人の主張】

は認める。

原告製品2の単位数量当たりの利益の額
a
限界利益について
別紙2-1及び2-2のうち、原告製品2の売上額から控除する
費用として、
①直材費、
②補助材料費、
⑧運賃・梱包費は争わない。

しかし、原告製品2の製造の多くの部分が自動化していることか
ら、人件費が被控訴人に比して少額であることは認めるものの、外
注加工費及び自動化設備の金額の妥当性は争う。特に、⑱減価償却費に関しては、原告製品2の製造設備に関する費用であり、高度に自動化されたものである以上、その費用はより高額であるはずである。控訴人の製造ラインの製造能力(●●●台/月)が被控訴人の製造ラインの製造能力
(●●●台/月)
より大きいことからすると、

原告製品2の製造ラインの設置費用は、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●円程度であると推測される。他方で、控訴人が提出する資料によると、原告製品2の製造ラインの減価償却費/月は●●●●●●●●円(甲103の3の添付11の2)であり、原告製品2は約●●
●●台/月の製品が製造され、1つの製造ラインでは●●●台/月の製品が製造されているから、上記減価償却費は製造ライン●台分の減価償却費であると考えられ、製造ライン1台当たりの減価償却費は約●●●●円となるが、当該設備の減価償却期間が9年とすると設置費用は約●●●●●円(●●●●円×12月×9年)にすぎ
ないことになり、推計される1つの製造ライン●●●●●円の1
8%弱にすぎない。このため、原告製品2の製造ラインに係る各月の減価償却費に関しては、
控訴人主張額の●●●倍
(●●●●●●)
として算定されるべきである。
b
本件発明の寄与度について(事実上の覆滅事由)
控訴人は、原告製品1及び2における弁本体は、ソレノイドの一
部を構成するものの、特徴的部分ではなく、原告製品2の商品としての主たる価値は、本件特徴部分のうちの中心的な特徴部分である端部部材からもたらされる旨主張するが、原告商品2についての顧
客の購入動機、顧客吸引力等を含めた具体的な主張ではなく、むしろ、●●●社は、原告製品2を購入するに当たり、端部部材の密封
性や取付性等は全く重視していないから、控訴人の逸失利益を事実上推定するに当たりこれが覆滅される程度は相当高いというべき
である。
本件特許が控訴人及び●●●●●●との共有関係にあることにつ
いて
本件発明は、ソレノイドの発明であって、容量制御弁の発明で
はないため、●●●●●●が本件発明に係るソレノイド又はソレノイドが駆動部に組み込まれた他の機器(例えば、容量制御弁以外の制御弁等)を製造、販売している可能性があり、こうした場合に
は、●●●●●●にも特許法102条1項に基づいて算出される損害を観念することができる。
仮に、特許法102条1項による損害賠償額について特許の共有者間の実施割合に基づいて按分するという説に拠る場合、控訴人は、●●●●●●の実施割合について証明できていないから、
結局のところ、

共有者間の損害賠償請求権の行使に関する原則に立ち戻り、持分割合に基づいて損害賠償額を按分すべきである。
特許法102条1項ただし書の事情について
被控訴人は、平成27年10月1日から平成30年7月9日までの間、合計●●●●●●●●個の被告製品を●●●社に販売したが、控
訴人は、以下の事情により、これと同数の原告製品2を販売することができず、こうした販売することができなかった数量に相当する額については、特許法102条1項本文により算出される利益額から控除されるべきである。
a
●●●社における事情
●●●社の前身である●●●社は、米国の●●●●社(以下●社という。)から自動車用空調事業を買収し、名称を●●●●社
に変更し、同社は筆頭株主の変更に伴い、現在の●●●社となったが、被控訴人は、●●●社及び●社と取引関係にあり、●●●●社となった以降は容量制御弁の取引においては被控訴人が圧倒的な
シェアを有しており、他方、控訴人は、●●●社と取引関係になかった。

このように、被控訴人は、●●●社及び●社との間で長年にわた
る取引によって構築された信頼関係に基づき、年間●●●●個に及ぶ●●●社との容量制御弁(被告製品)の取引を行ってきており、●●●社の事業領域について何らの商圏も有しない控訴人が追加
で容量制御弁を年間●●●●個生産する能力を有するとしても、被
控訴人が販売した被告製品の全てを販売することができるという
ものではなく、控訴人が従前●●●社に販売していた年間●●●個を超える部分については、原告製品2を販売することはできなかった。
b
代替品の納入が可能であること
●●●社は、自社に納入される容量制御弁において、その防水を
メッキ処理で行うか、端部部材のシール部材の装着で行うかについては全く重視しておらず、被告製品が本件発明の技術的範囲に属することを被控訴人において認識すれば、端部部材及びシール部材という構成からメッキ処理に変更した代替品に転換する
ことは容易に可能であったから、被告製品の代わりに控訴人が原告製品2を納入することができるというものではない。
c
原告製品2と被告製品の性能に本件発明以外の相違があること
被告製品は、起動直後に副弁からクランク室圧Pcを効率的

に低減させられることを始めとして、従来品に比して打音が低減されること、シャフトロック対策が施されていること、小型化されて
いること等に特徴があり、●●●社は、こうした技術的特徴を踏まえて被告製品を採用したのであって、端部部材による外部雰囲気の進入の抑制という本件発明の特徴については、全く同社の購入動機になっていない。仮に、被告製品が●●●社に納入されなかったとしても、こうした技術的特徴を有しない原告製品2が被告製品に代
わって納入されることにはならない。
d
被告製品が原告製品2と比較して低価格であること
●●●社が被告製品を採用した平成27年10月前後のユーロ
ベースで原告製品2と被告製品の価格を比較すると、原告製品2から被告製品に切り替えられた時点で、被告製品は、原告製品2に比
して約●●%安価であり、その後も●●●円台の低価格で販売されていて、それが●●●社の購入動機となっており、仮に、被告製品が●●●社に納入されなかったとしても、被告製品に比して相当高額な原告製品2が被告製品に代わって納入される関係にはない。
e
被控訴人の市場開発努力、営業努力、販売力等
制御弁の分野では、控訴人は、被控訴人に比して圧倒的なシェア
を有しているものの、被控訴人は、●●●社との関係では●●●のシェアを有しており、品質向上、低価格化等を推し進めて、同社の信頼関係を築いてきたのであって、このような信頼関係にない控訴
人は、継続的に原告製品2を納入することができず、被告製品の代替品が同社に納入されるだけである。
特許法102条1項ただし書と同条3項の重畳適用について
控訴人は、特許法102条1項ただし書により原告製品2の譲渡数量の全部又は一部を販売することができないとする事情があるときは、
同条3項を適用して損害賠償が認められるべきである旨主張するが、同条1項による損害額算定において、侵害行為と因果関係のある販売
減少数量が一部でも認められた場合には、その数量が特許権者の製品についての市場での評価を代弁するものであり、因果関係が認められなかった数量は市場で評価されなかったものであって、権利者の逸失利益の全てがそこで評価し尽くされたものとみるべきであるから、同条1項と3項の重畳適用は認められるべきものではない。


争点3-2(特許法102条2項による損害額)について
【控訴人の主張】
被告製品の販売数量
前記【控訴人の主張】ア

のとおり、平成27年10月1日から本件

特許権の存続期間満了日である平成30年7月9日までの被告製品の販売数量は、総合計●●●●●●●●個である。
被告製品の単位数量当たりの利益の額
a
部品費
別紙3-1の各月毎の部品合計②のとおり。

b
被告製品1個当たりの減価償却費の算定(別紙3-1の金型償却費③、設備償却費④)ECV13Eは、ベローズ部材の個数、位置及び形状だけでなく部品点数も被告製品であるECV13Eiとは異なっており、ベローズの外周に作用する圧力がPsからPcに変更され、機能面での基本設
計についても変更されていることから、作用機序の異なる別製品であるため、ECV13Eの製造に要した設備は、被告製品の製造販売に追加的に必要となった経費とはいえない。
減価償却資産の耐用年数等に関する省令の付録-《減価償却資産の耐用年数表》の別表第二機械及び装置の耐用年数表によれ
ば、金属製品製造業用設備(番号16)の耐用年数は、金属被覆及び彫刻業又は打はく及び金属製ネームプレート製造業用設備で6年、そ
の他の設備で10年である。汎用機械器具(番号17)の耐用年数は原則として12年、生産用機械器具(番号18)の耐用年数は金属加工機械製造設備で9年、その他の設備で12年である。そして、製品1個当たりの償却費用を算出する際の母数は、●●●●●(乙第33号証に添付の表で報告されている今回の訴訟で問題となっている可変容量タイプの容量制御弁の2015年から2018年の出荷実績の平均値)であり、被控訴人が主張する設備及び装置費用を耐用年数及び●●●●台で除したものが平成27年10月1日から平成30年7月9日までの間の被告製品1個当たりの減価償却費である。
これを前提に以下のとおり試算すると、設備の償却費は合計で●●
●●●円/個であり、金型の減価償却費は●●●円/個である。
ベローズ溶接用の●●●●●●●●は、ECV13Eのベローズ
溶接のために購入されたものであるから、被告製品であるECV13Eiとの関係では、同製品用にカスタマイズするための経費が追加的に必要となった経費というべきであるが、被控訴人はこれを明
らかにしないから、同加工機に関する設備費を経費として控除することは誤りである。


クリーンルーム等の設置工事費用は、ECV13Eの●●●●●
●●●の導入に伴って設置されたものであり、また、クリーンルームは、汎用設備であるから、被告製品の製造販売に直接関連して必
要となった経費であるとはいえず、この設置費用を経費として控除することは誤りである。


●●●●●●●は、汎用機械器具であり、金属製品製造業用設備
(番号16)のその他の設備であって、耐用年数は12年であ

るから、●●●●●●●の被告製品1個当たりの減価償却費は、●●●●円(購入価格●●●●●●●●●円÷12年÷●●●●個)
である。


本工程Aラインは、ECV13Eを製造するために設置されたも
のであるから、被告製品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費ではなく、この設置費用を経費として控除することは誤りである。

被控訴人が平成27年5月頃に追加した自動機、搬送機及び洗浄
工程設備は、汎用設備であり、ダイアフラムタイプの容量制御弁にも使用可能であるから、有用であっても、被告製品の製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費ではなく、この費用を経費として控除することは誤りである。



被控訴人は●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●ことから、本工程Bラインは、被告製品の製造に直接関連して追加的に必要となった経費ではなく、この費用を経費として控除することは誤りである。


平成26年以降の被告製品(ECV13Ei)の製造のための金
型は、総合計●●●●●円となり、Oリング以外の合計は●●●●●●●●●円、Oリングは●●●●●●●●円である。
そして、金型のうちOリング以外は生産用機械器具のうち金属加
工機械製造設備に当たるから耐用年数9年であり、Oリングはその他の設備であるから耐用年数は12年である。そうすると、Oリングの金型の被告製品1個当たりの減価償却費は●●●●●円
(●●●●●●●●円÷12年÷●●●●個)であり、Oリング以外の金型の被告製品の1個当たり●●●●●円(●●●●●●●●●円÷9年÷●●●●個)である。

c
加工費(人件費及び電気料)(別紙3-1の人件費⑤、電気料⑥)人件費
2018年7月における直接作業者の生産時間を基準として経
費の算定を試算する。
乙第47号証の添付1の
加工費
によれば、
ASSYベローズ工程(ベローズを組み立てる工程)に要した人数は●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●であり、本工程に要したのは●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

●●●●●であり、ASSYベローズ工程での総生産台数(不具数を除いた出来高)は●●●●●●●個、本工程での総生産台数(不具数を除いた出来高)は●●●●●●●個であったことが認められる。
そして、被控訴人の●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

●●●●●●●●●●●●●●●●円/個が被告製品の製造に要
した加工費である。


電気料
乙第47号証の添付2によれば、平成30年7月における電気料
(使用料金)は●●●●円/個である。

d
輸送経費(別紙3-1の輸送経費⑦)
●●●●円/個である。

e
経費のまとめ
aないしdが被告製品を製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費であるから、別紙3-1の売値⑨からこれらを控除した
額が被告製品の各月1個当たりの限界利益の額である。
推定の覆滅事由は存しないこと
a
被控訴人は、後記【被控訴人の主張】

aのとおり、①●●●社に

おける事情、②代替品の納入が可能であること、③原告製品2と被告製品の性能に本件発明以外の相違があること、④被告製品が原告製品
2と比較して低価格であること、⑤被控訴人の市場開発努力、営業努力、販売力等を推定覆滅事由として主張するが、いずれも争う。
この点に関する控訴人の反論は、前記【控訴人の主張】ア

のとお

りである。
b
寄与度
被控訴人は、後記【被控訴人の主張】

bのとおり、被告製品にお

ける本件発明の特徴的部分が占める割合は、構成部品の比率で見ても10%を上回るものではない旨主張する。
しかし、特許発明が侵害品の一部分のみに実施されているから直ちに推定の覆滅が認められるのではなく、①特許発明が実施されている部分の侵害品中における位置づけ、②当該特許発明の顧客吸引力等の
事情を総合考慮して決すべきである。
本件発明は、ソレノイドの発明の名称にかかわらず、ソレノイ
ド部とバルブ部とを有機的一体に組み合わせたソレノイドバルブ
(電磁弁)を対象とする発明である。そして、本件発明は、相手側ハウジング部材に備え付けられた取付孔に収容されるソレノイドであって、当該取付孔に密封嵌合して取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材によって密封性を発揮するとともに、ハウジングの取
付孔から容易に取り外しが行えることに特徴があり、併せて、シール部材によって外部雰囲気の進入をより抑制することに特徴のある

発明であるが、被告製品は、本件発明の構成を全て備えている。
また、被告製品は、ソレノイドが相手側ハウジング部材に備え付けられた取付孔に収容され、取付孔の開口部を塞ぐ端部部材にOリングを装着することでソレノイドの耐食性を向上するとともに組立性を向上するものであって、弁本体はソレノイドの一部を構成しているにす
ぎないから、被告製品の商品としての主たる価値は本件発明によりもたらされている。●●●社は、被控訴人が同社の仕様を満たす被告製品を製造及び販売するまでは、原告製品2を購入する以外の選択の余地はなく、控訴人と被控訴人を両天秤にかけており、被告製品が原告製品2並みの仕様を満たすベローズタイプの容量制御弁であることを
確認した後に控訴人との継続的供給契約を一方的に破棄したのであり、本件発明は顧客吸引力を有するものである。
したがって、被告製品において本件発明の構成を採用しているのは全体の一部であり、ソレノイド部についてもシール部材を設けた端部部材の構成以外は本件発明に当たらない旨の被控訴人の上記主張は理
由がなく、被告製品中における本件発明が実施されている部分は100%である。

本件特許が控訴人及び豊田自動織機との共有関係にあることについて前記【控訴人の主張】ア

のとおり、本件特許は控訴人及び豊田自動

織機の共有関係にあるが、豊田自動織機は本件特許を実施していないから、控訴人は、被控訴人の侵害行為によって被った損害の全額について賠償請求することができる。
なお、豊田自動織機は、平成28年8月2日の時点で損害の発生及び加害者を知ったから、豊田自動織機の被控訴人に対する特許法102条3項に基づく実施料相当額の損害賠償請求権は時効により消滅しており、控訴人は、令和4年1月19日、第3回口頭弁論期日において、同損害
賠償請求権の時効を援用する旨の意思表示をした。そうすると、同条2項により推定される損害について、上記実施料相当額の限度で覆滅されるものではない。
損害の算定
別紙3-1の欄外に示すとおり、平成27年10月から平成30年7
月までの被告製品1個当たりの売値は●●●●●●●円であるから、被告製品の各月1個当たりの限界利益は、経費を控除すると●●●●●●●円である。そうすると、特許法102条2項により推定される損害額は、●●●●●●●●●●●円(●●●●●●●円×●●●●●●●●個。ただし、1円未満は切り捨て。)である。

弁護士費用及び弁理士費用
上記

のとおり、特許法102条2項による控訴人の損害額は●●●

●●●●●●●●円であるところ、本件事案の内容、認容額及び本件訴訟に至る経過に鑑みれば、弁護士費用及び弁理士費用は少なくとも●●●●●●●●●円を下らない。
小括
以上によれば、控訴人に生じた損害額は、●●●●●●●●●●●円
である。
【被控訴人の主張】
控訴人の主張する損害額については否認ないし争う。なお、個々の項目について特に反論等すべき点は以下のとおりである。
被告製品の販売数量

控訴人の主張する被告製品の販売数量は争わない。
被告製品の単位数量当たりの利益の額
a
部品費
別紙3-1の各月毎の部品合計②は争わない。

b
被告製品1個当たりの減価償却費の算定
控訴人は、被告製品(ECV13Ei)とECV13Eは作用機序の異なる別製品であり、ECV13Eの製造に要した設備は被告製品の製造販売に追加的に必要となった経費に当たらない旨主張する。しかし、被告製品は、個々の部品等は変更となったものもあるが、基本
的な製造ラインは当初ECV13E用として設置したものを改造、加工している。被控訴人は、ECV13Eを製造すべく、その製造ラインを設置したが、●●●●からの要望により13Eを13Eiに改造し、これに合わせてECV13E用のラインもECV13Ei用に改造してその製造に用いており(ECV13Eiが最終形態であり、E
CV13Eは中間的な試作形態である。)、これらの設備に要した費用は、被告製品を製造するために追加的に必要となった経費である。なお、これらの設備が将来的に別製品に転用可能かどうかは関係がなく、汎用設備であるからといって減価償却の費用を控除しないことは誤りである。

控訴人は、製品1個当たりの減価償却費用を算出する際の母数を●●●●台として試算するが、被控訴人が●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●があり、乙第33号証の添付の表で示される全量が被告製品であるとする控訴人の主張は誤りである。
また、被告製品に係る製造設備等の償却期間については、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●ことになるから、償却期間は6年(2015年~2021年)とするのが現実に即しているが、税務上の償却期間とするのであれば、被告製品に係る製造設備等の税務上の償却期間は9年(ただし、金型は2年)であり、200%定率法に拠って算出すべ
きである。
以上を前提とすると、被告製品の1個当たりの減価償却費は、別紙3-2のとおりである。なお、前記【控訴人の主張】

bに対する反

論等として更に付加すべき点は以下のとおりである。
●●●●●●●●は、カスタマイズしたことにより全体として被
告製品の専用機器として利用されるのであって、汎用機部分と専用
部分に切り分けられるものではない。


クリーンルーム、自動機、搬送機及び洗浄工程設備は、汎用設備
であるが、本訴における賠償額算出の対象期間内は専ら被告製品の製造のための設備として利用されており、これに係る費用も固定費としてみるべきである。



控訴人は、
●●●●●●●の償却期間を12年として計算するが、
税務上の償却期間を採用するのであれば9年とすべきである。



控訴人は、被告製品は平成30年7月の製造実績によればAライ
ンのみで製造されていることから、本工程Bラインは被告製品の製
造に直接関連して追加的に必要となった経費ではない旨主張する
が、同月はたまたま過去の在庫量や受注量の関係からAラインのみ
稼働させていたにすぎないから、控訴人の上記主張は誤りである。金型の減価償却費用について、台帳に記載されている償却期間の
始期や乙第47号証に添付されている見積書等は、被控訴人内部の費用計上の日付であり、実際に被告製品の製造のために使用を開始した日とは異なる。被告製品は、実際には平成27年10月から製
造が開始されたから、この時点から減価償却の費用を計算すべきであり、また、控訴人は、減価償却期間について独自の見解に基づいて9年又は12年とするが、税務上の償却期間とするのであれば2年とすべきである。
c
加工費(人件費及び電力料)
加工費(人件費等)の算出については、被告製品のみを抽出して算出することは困難であるため、ECV全体の生産時間及び生産コストに基づき、ECV全体における単位時間当たりのコストを算出した上で被告製品を製造するのに必要な時間(分)を乗じることによって行
うべきである。
従業員を雇用するに当たっては社会保険料、通勤交通費等がかかるのは当然であり、間接スタッフ、ラインリーダーの人件費も考慮すべきであり、また、製造経費については、電気料以外にも、設備を維持する費用(修繕費、点検費、補修維持のための通信費、出張費)、消
耗交換部品等、ライン設備の補修に係る費用は、被告製品を製造するために追加的に必要となった経費に含まれる。
以上を前提とした加工費は、乙第47号証の添付2のとおりであり、合計●●●●●●円/個である。
控訴人は、パート従業員及び派遣社員の人件費について、それぞれ
●●●●円/分、●●●●●円/分であるとして試算するが、これらは、時間当たりの賃金や派遣料ではなく、ECVを製造するのに要し
た時間当たりの加工費用における割合を示すものにすぎない。正しく計算すれば、被告製品1個当たりのパート従業員及び派遣社員の費用は、それぞれ●●●●●円/個、●●●●●円/個である。また、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●にもかかわらず、控訴人はこれを無視しており、この点でも控訴人の試算は誤りである。
また、電力料等を含めた経費については、被告製品だけを抽出するのは困難であり、単位時間当たりの加工費レートとして算出し、このレートに被告製品を製造するのに要する時間(分)を乗じて製品1個当たりの費用を算出するのが妥当である。
d
輸送経費
別紙3-1の輸送経費⑦については争わない。
推定の覆滅事由について

a
前記
【被控訴人の主張】

で主張した、
①●●●社における事情、

②代替品の納入が可能であること、③原告製品2と被告製品の性能に本件発明以外の相違があること、④被告製品が原告製品2と比較して
低価格であること、⑤被控訴人の市場開発努力、営業努力、販売力等は、いずれも推定覆滅事情に当たる。
b
前記【被控訴人の主張】ア

bのとおり、●●●社は、容量制御弁

の耐食性については、鉄製材料でのメッキ処理がされていればよく、組立性に関しては、コンプレッサ側に取付孔を設けて容量制御弁を挿入する技術は公知の技術(乙30、31)であった。また、被告製品は容量制御弁であって、弁本体(バルブ部)の構造ないし動作が最も重要である。このように、●●●社が被告製品を購入した動機において、本件発明は全く寄与していない。

また、被告製品において本件発明を採用しているのは全体の一部であり、構成部品の比率で見ても10%を上回るものではないことは、
被告製品における本件発明の寄与度において考慮されるべきである。本件特許が控訴人及び●●●●●●と共有関係にあること
本件特許は控訴人及び●●●●●●との共有関係にあるため、仮に、特許法102条2項による損害が認められるとしても、共有持分に応じて按分されるべきである。そうでないとしても、●●●●●●は、被控
訴人に対して、同条3項に基づく損害賠償請求権を有しており、被控訴人が二重の損害賠償債務を負うことのリスクがあるから、同条3項により算定される損害額については同条2項による損害賠償額から控除されるべきである。

争点3-3(特許法102条3項による損害額)について
【控訴人の主張】
被告製品の譲渡数量
前記【控訴人の主張】ア

のとおり、平成27年10月1日から本件

特許権の存続期間満了日である平成30年7月9日までの被告製品の販売数量は、総合計●●●●●●●●個である。
実施料率
知的財産の価値評価を踏まえた特許等の活用の在り方に関する調査研究報告書~知的財産(資産)価値及びロイヤルティ料率に関する実態把握~本編)」(平成22年3月株式会社帝国データバンク発行)
(甲

79。以下甲79報告書という。)によれば、2.技術分類別ロイヤルティ料率(国内アンケート調査)の図Ⅱ―1、表Ⅱ―3(52頁)に各種の技術分野が列挙されており、本件発明に最も近い技術分野である精密機器のロイヤルティ料率の平均値は3.5%、最大値は9.5%、最小値は0.5%である。

また、同報告書一般データ調査結果(社団法人発明協会研究

センター実施料率〔第5版〕11項(社団法人発明協会2003年。
以下実施料率〔第5版〕データという。)から各分野の平成4年度から平成10年度のイニシャル無を集計し、作成されたもの。)の表Ⅲ―3、図Ⅲ―1に各種の技術分野が列挙されており(93頁)、精密機器のロイヤルティ料率の平均値は6.8%、最頻値は5.0%、中央値は6.0%である。そして、同報告書の同表Ⅱ―6(55頁)には、技術分類別のロイヤルティ料率決定要因の重要度として、①当事者におけるライセンスの必要性、②ライセンス対象(特許権)の価値、③特許権の存続期間、権利範囲の広さ、④技術の商業的完成レベル、代替的技術有無等が挙げられている。本件発明は、被控訴人にとってライセンス
が必要なものであり、本件発明はパイオニア発明であってその効果は著しく高いこと、被控訴人は、本件特許権の存続期間満了日まで実施を続けており、技術サイクル期間は極めて長期であること、本件発明の技術の商業的完成レベルが高く、代替的技術も現れないことに鑑みると、本件においては上記①から④のロイヤルティ料率決定要因の重要度の全て
を満たしている。
先進諸国(米国、カナダ、欧州、日本、オーストラリア)の主要各社を対象とした最近のアンケート調査(有効回答数428)では、各技術分野にまたがった各種ライセンス契約(ライセンスインとライセンスアウトの双方を含む。)におけるランニングロイヤルティ料率の平均は、
革新的発明で7~14%、重要改良発明で4~9%であり(東京地方裁判所平成10年3月30日判決判例タイムズ977号243頁以下)・

本件発明は重要改良発明に当たる。
そして、特許法102条3項に基づく損害の算定に当たっては、必ずしも当該特許権についての実施許諾契約における実施料率に基づかなけ
ればならない必然性はなく、特許権侵害をした者に対して事後的に定められるべき実施に対して受けるべき料率は、通常の実施料率に比べて自
ずと高額になることを考慮すべきであり、被控訴人が被告製品を安価に製造及び販売して控訴人のシェアを奪ったという侵害の悪質性や、被控訴人が巨額の利益を得てきたこと等の諸事情を考慮すると、実施料率は12%を下るものではない。
損害の算定
平成27年10月から平成30年7月までの被告製品の1個当たりの販売価格は●●●●●●●円(平成27年10月から平成30年7月までの総販売金額/総製造数)であり、侵害期間における被告製品の販売数量は●●●●●●●●●であるから、特許法102条3項による損害
は、本件特許が共有でありその持分割合は2分の1であることを踏まえると、●●●●●●●●●●●円(●●●●●●●円×●●●●●●●●個×12%×1/2。ただし、1円未満は切り捨て。)を下るものではない。
弁護士費用及び弁理士費用

上記

のとおり、同条3項による控訴人の損害額は●●●●●●●●

●●●円であるところ、本件事案の内容、認容額及び本件訴訟に至る経過に鑑みれば、弁護士費用及び弁理士費用は少なくとも●●●●●●●●●●を下らない。
小括
以上によれば、控訴人に生じた損害額は、●●●●●●●●●●●円である。
【被控訴人の主張】
控訴人の主張する損害額は否認ないし争う。なお、個々の項目について特に反論等すべき点は以下のとおりである。

被告製品の譲渡数量
控訴人の主張する譲渡数量は争わない。

実施料率
実施料の相場について、実施料率〔第5版〕データは、平成4年度から平成10年度のものであって経済情勢等が異なるから、参考とすることはできず、平成22年の調査である甲79報告書を参考として考えるべきであり、同報告書の精密機器のロイヤルティ料率の平均値3.5%が基準となる。
次に、●●●社は、端部部材に鉄製材料部分にメッキを施した容量制御弁でも仕様を満たすものとして原告製品2を採用していることから明らかなように、本件発明の構成を全く重視していない。本件発明の実施
品である原告製品1と原告製品2は代替可能性のある製品であり、性能上もコスト面でも差異がないものであるから、技術内容における重要性は低いものである。被告製品は容量制御弁であり、弁本体(バルブ部)の構造ないし動作が最も重要であって、●●●社に対する被告製品の販売において本件発明は全く重要ではなく、被告製品が●●●社に採用さ
れたのは当該製品がベローズタイプとなったことが主たる要因であり、被告製品の売上及び利益において本件発明の貢献はない。
また、被控訴人は、端部部材のみで外部雰囲気の進入の抑制がさ
れない限り、本件発明の技術的範囲に属さないと判断しており、端部部材とシール部材の構成が本件発明の技術的範囲に属するもので
あれば、そのような構成は採用しておらず、本件特許のライセンスを積極的に得なければならない状況になく、侵害の態様も軽微であって、悪質性はない。
控訴人と被控訴人は競業関係にあるが、控訴人は、本件発明とは関係のないベローズタイプの容量制御弁の領域を独占すべく、競業者で
ある被控訴人を締め出そうとしているにすぎない。
以上からすれば、実施料率は限りなくゼロに近い。

第3

当裁判所の判断

1
本件発明の意義
本件明細書には別紙1のとおりの記載があり、この開示事項によれば、本件発明の意義について、以下のとおり認められる。

従来より各種流体の制御等に一般的に利用されているソレノイドバルブの構成は、ソレノイド部が相手側のハウジングから突出して設けられているため、特に外部へ露出した使用環境においては、高い耐食性(防錆)を備えたものが必要であることから、耐食性を必要とする構成部材にメッキ等の防錆処理を施すことが行われるが、より高い耐食性を得るためにメッキ厚を厚く
したり、耐食性に対して有利な種類のメッキ等を採用するなどの対策がとられてコストアップの要因となっており、また、こうした構成のソレノイドバルブの信頼性や寿命に関係する耐食性は、メッキ(防錆処理)の性能によって決定されるため、より高い信頼性や長寿命が求められた場合には対応が困難であり、さらに、ソレノイドバルブをハウジングにボルト等により締結す
る際に位置決め作業やボルト締め作業が必要となるため、取付作業の効率性が求められていた(【0002】、【0010】ないし【0013】)。本件発明の目的は、
こうした従来技術の問題を解決するためのものであり、
耐食性に対して有利な構造であり、高い信頼性及び長寿命を得ること、取付容易なソレノイドを提供することにある(【0014】)。

本件発明は、このような目的を達成するため、相手側ハウジング部材に備えられた取付孔に収容されるソレノイドであって、前記取付孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材を備えることにより、取付孔の内部に収容されたソレノイドの端部部材より奥側の部材は外部に露出されることはなく、外部雰囲気(湿気や水等の流体)の進入が端部部材に
より抑制されるので、相手側ハウジング部材に組み付けられた状態における耐食性を向上させることが可能となるとともに、ハウジングの取付孔に挿入
するだけで正確な位置決めができ、ボルトによるハウジングへの締結等も不要となり、取付性が向上し、さらに、前記取付孔と端部部材との間にシール部材を備えることにより、
より外部雰囲気の進入が抑制される【0015】

ないし【0017】、【0019】)。
本件発明により、ソレノイドの耐食性を向上させ、高い信頼性や長寿命を
得ることができ、また、取付性が向上するほか、取付孔と端部部材との間にシール部材を備えることにより、外部雰囲気の進入が抑制されてより耐食性が向上するという発明の効果を奏する(【0046】、【0048】)。2
争点1(被告製品の本件発明の構成要件充足性)について
争点1-1(構成要件B6の充足性)について


構成要件B6の該アッパープレートの外側で前記取付孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材における密封嵌合の意義について一般に、密封とはぴっちりと封をすること
(大辞林第二版新装版・

甲21)、隙間なく堅く封をすること(広辞苑第6版・乙10)、嵌合とは

機械部品の、互いにはまり合う丸い穴と軸について、機能に適するように公差や上下の寸法差を定めること

(大辞林第二版新装版・甲21)、

軸が穴にかたくはまり合ったり、滑り動くようにゆるくはまり合ったりする関係をいう語

(広辞苑第6版・乙10)をい
うとされているから、こうした一般的用語からすると、密封嵌合とは、ぴっちりと封をするように機械部品がはまり合う関係を意味すると解される。
もっとも、どの程度のぴっちりと封をするように機械部品が嵌合すれば本件発明における密封嵌合に当たるかについては特許請
求の範囲の記載からは必ずしも一義的に特定されるものではないから、用語の意義を解釈するために本件明細書の記載を見てみると、本件明細
書には、

前記取付孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材を備えることを特徴とする。

(【0015】)、
これにより、取付孔の内部に収容されたソレノイドの端部部材より奥側の部材は外部に露出されることはなく、また、外部雰囲気(湿気や水などの流体)の進入が端部部材により抑制されるので、相手側ハウジング部材に組み付けられた状態における耐食性を向上させることが可能となる。(【0016】)との記載がある。こうした本件明細書の記載を踏まえると、構成要件B6の密封嵌合における密封とは、外部
雰囲気(湿気や水等の流体)の進入を抑制する程度のものを指すも
のと解される。
また、本件発明は、外部雰囲気の進入を抑制するために前記取付孔と前記端部部材との間に配置されるシール部材(構成要件B7)との発明特定事項を有しており、本件明細書には、

前記取付孔と端部部材との間にシール部材を備えることも好適である。これによって、より外部雰囲気の進入が抑制される。

(【0019】)との記載があることから、本件発明における取付孔と端部部材との間に配置されるシール部材も、より外部雰囲気の進入を抑制するために設けられる部材であるということができる。
このように、本件発明は、外部雰囲気の進入を抑制する構成として、
①アッパープレートの外側で取付孔に嵌合して取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材と、②取付孔と端部部材の間に配置されるシール部材の2つの構成によって、外部雰囲気の進入を抑制し、こうした構成により、

耐食性に対して有利な構造であり、高い信頼性や長寿命を得ること、また取り付けの容易なソレノイドを提供すること

【0(

014】にあるものと解される。このような解釈は、ソレノイド1の構成を、このように取付孔Haに収容されるようにすることにより、取付孔Haの内部に収容されたソレノイド1のヘッド部8より奥側の部材(ケース部材2、コイル部材3、アッパープレート6等の部材)は外部に露出されることはなく、外部雰囲気(湿気や水などの流体等をも含む)の進入がヘッド部8と取付孔Haとの嵌め合い及びOリング13により抑制されるので、ハウジングHに組み付けられた状態における耐食性を向上させることが可能となる。(【0034】)との記載と整合する。
これに対し、被控訴人は、密封嵌合といえるには、液体の漏れ又
は外部からの異物進入を防止できる程度にぴっちりとはまっていることが必要であり、隙間が存在していたり、若干の流体の漏れがあっても
よいということにならず、端部部材のみによって外部雰囲気の進入を抑制することができる必要がある旨主張する。
しかし、前記

のとおり、構成要件B6の密封嵌合における密封は、本件明細書の記載を参酌すると、外部雰囲気(湿気や水等の流体)の進入を抑制する程度のものと理解すべきであり、外部からの異物進入を防止できる、若干の流体の漏れもあってはならないという程度のものを指すと解すべき理由は見当たらない。そして、前記のとおり、端部部材(構成要件B6)と(取付孔と端部部材との間に配置される)
シール部材
(構成要件B7)
の構成を備えることによって、
ソレノイドの耐食性の向上という本件発明の効果がもたらされると解さ
れるのであるから、端部部材のみによって外部雰囲気の進入を完全に抑制する必要があると限定して解釈する理由もない。
なお、被控訴人は、前記第2の4

【被控訴人の補充主張】ア

のと

おり、出願段階における請求項1についての拒絶理由通知書に対する意見書
(乙18)
の記載を取り上げて、
端部部材の密封嵌合とOリング
(シ
ール部材)による外部雰囲気の進入の抑制が相互補完の関係にある旨の控訴人の主張と相いれない旨主張するが、上記意見書で取り上げられて
いる本願発明の構成には構成要件B7が含まれておらず、補正後の本件発明と異なるものであるから、そこで記載されている意見が本件発明の出願段階における主張と相いれない旨の控訴人の上記主張は理由がない。

被告製品の構成要件B6の充足性について
被告製品は、構成要件B6及びB7に関する構成として、プレートの外側に合成樹脂製の端部部材(H)が設けられており、端部部材(H)は、ボディ
の第2の2

の上方の開口部を嵌合して塞いでおり(引用に係る原判決
キ)、前記プレート

の外側の端部にはシール部材

けられており、前記取付孔に収容されると、ボディ

が設

と取付孔の間を密

封して外部の空気、水分等が進入するのを抑制する(同2

ク)構成を

有していることは当事者間に争いがない。
本件発明は、耐食性材料による端部部材とシール部材によって外部雰囲気(湿気や水等の流体)の進入を抑制する構成を備えるものであることは前記ア

のとおりであるところ、被告製品における開口部を嵌合す

る端部部材(H)の外部雰囲気(湿気や水等の流体)の抑制の程度に関する各種実験の結果は、それぞれ該当書証の記載によれば、以下のとおりである。
a
乙1実験
被控訴人が、●●●●●製コンプレッサを使用し、その取付孔にOリング(シール部材

)を取り付けた通常の使用状態で被告製品を挿

入し、
取付孔の外部から液体
(LLC)
を数滴投下し、
10秒経過後、
端部材上の水分を拭き取り、被告製品を抜き取ったところ、被告製品のコイル側面及び取付孔の内部に水分が進入していないことが確認された。これに対し、Oリングを外した被告製品で同様の実験を行ったところ、被告製品の側面部及び取付孔に液体が付着していることが確
認された。
b
甲33実験
控訴人が乙1実験の追試として、●●●●●製コンプレッサを用いて、Oリングを外した被告製品を取付孔に挿入し、端部材との嵌合部にマイクロペピットで水分(LLC)を数滴投入して10秒放置した
後、端部材上に溜まっている水分を拭き取り、取付孔から被告製品を引き抜いたところ、被告製品の端部材のOリング取付溝付近及びコンプレッサの取付孔にわずかにLLCが付着していた。他方、LLCの進入状態を外側から視認できるように、●●●●●●製コンプレッサと同一の取付孔形状を有する透明なポリカーボネート製の孔模型を作
製し、同様の実験を行ったところ、被告製品の端部材のOリング取付溝付近にわずかにLLCが付着していたが、被告製品と孔模型の間をLLCが落下するのを視認することができず、LLCを10滴滴下する実験でも同様であった。
c
乙14実験
塩水噴霧試験装置
(板橋理化工業SQ-900-FAC2015年製)
を用いて、
●●●●●製圧縮機の取付孔と同形状のアルミ製冶具に、端部部材にOリングを装着した通常の使用状態の被告製品と、Oリングを外した被告製品を取り付け、上記装置内に被告製品を取り付けたアルミ製冶具を400時間載置し、霧状の塩水を噴霧したところ、通常の使用状
態(端部部材にOリングを装着したもの)の被告製品のボディ部分には腐食は生じないが、Oリングを外した被告製品のボディ部分には腐食が見られた。
d
乙15実験
①●●●●●製コンプレッサの取付孔に被告製品(端部材側及び弁本体側のOリングを外したもの。)を取り付け、当該取付孔部分に水
道水
(吸入室側ポートまでたどり着く量の水)
を滴下した
(第1実験)
ところ、吸入室側ポートから水が流出した。②●●●●●製コンプレッサの取付孔を模したポリカーボネート製模型を作製し、
被告製品
(O
リングを外したもの)を取り付け、当該取付孔開口部分に不凍液(LLC)10数滴を同じ場所に滴下した(第2実験)ところ、取付孔部
分にLLCが進入した。③●●●●●製コンプレッサの取付孔を模したポリカーボネート製模型を作製し、被告製品(Oリングを外したもの)
を取り付け、
当該取付開口部の周縁上の5か所に1滴ずつ滴下し、
滴下後同模型を手で振って振動を与えた(第3実験)ところ、滴下時点で端部材の溝部に溜まっていたLLCが取付孔に進入した。

e
甲49実験、甲50実験
控訴人が乙15実験の追試として、(ⅰ)端部部材を削り取った被告製品、(ⅱ)Oリングのみを取り外した被告製品、(ⅲ)端部部材もOリングも装着した被告製品を用意し、それぞれポリカーボネート
製模型の取付孔に嵌め込んで当該嵌合部に、①液体(LLC)10滴程度をシリンジで滴下する実験(実験1)、②液体(LLC)1mlをマイクロピペットで連続注入する実験
(実験2)③液体

(LLC)
20滴程度をシリンジで滴下した後、被告製品の底部を4回程度下方の緩衝材に叩たきつける実験(実験3)をそれぞれ行った(甲49実
験)。
実験1では、
(ⅰ)
はLLCがケース側へ一瞬で漏れてしまい、
(ⅱ)
及び(ⅲ)はケース側の漏れは確認できなかった。実験2では、
(ⅰ)
はLLCがケース側へ一瞬で漏れてしまい、(ⅱ)は最初はケース側への漏れは確認できなかったが、しばらくたってから一部の箇所から
ケース側へLLCが漏れるのが確認され、それ以外の箇所からはLLCは漏れず、(ⅲ)はケース側への漏れは確認できなかった。実験3
では、(ⅰ)はLLCがケース側へ一瞬で漏れてしまうため、叩きつけの前後による影響はなく、(ⅱ)はケース側へのLLCの漏れは確認できなかったが、叩きつけた後に一部LLCがケース側に漏れているのが確認され、(ⅲ)滴下後に叩きつけた後も含めてケース側への漏れは確認できなかった。

また、控訴人が乙15実験の第1実験の追試として、●●●●●製コンプレッサの取付孔に、端部材(H)側に取り付けられたOリングを外したものを取り付け、
当該取付孔部分に水を滴下した
(甲50実験)
ところ、リアハウジングの吸入室側ポートからの水の流出は確認できず、他方で、被告製品から端部材(H)及びバルブ側のシール部材(O
リング)を取り外したものを取付孔に取り付け、当該取付孔部分に水を滴下したところ、滴下約7秒後にリアハウジングの吸入室側ポートから水が流出するのが確認できた。
f
乙16実験
●●●●●製圧縮機の取付孔側面に穴を穿設し、端部部材側Oリン
グを取り外した被告製品を同圧縮機の取付孔に取り付け、当該取付孔部分に水(穿設した孔からの水の流出の有無が確認できる程度の量の水)を滴下したところ、穿設した孔から水が流出した。
g
甲58実験
端部材の外周におけるOリングが未装着の被告製品(被告製品A)と、端部材を除去し、同部材の外周におけるOリングも未装着の被告製品(被告製品B)を用意し、ボディ周囲に湿気で色が青に変色する試験紙を貼り付けた被告製品A及びBをポリカーボネート製模型に装着した上で、①被告製品A及びBから上方に約20㎝離れた位置で霧
吹き器を用いて霧を120秒間噴霧した(試験1)ところ、被告製品Bは時間が経つにつれて変色域が大きくなっていったが、被告製品A
は試験紙の変色が認められなかった、②透明なアクリル容器内に、被告製品A及びB、加湿器2台(水に超音波振動子により振動を与えて霧が発生するもの)を設置し、アクリル容器内の開放部を食品用ラップフィルムで蓋をした上で加湿器の運転を開始した
(試験2)
ところ、
被告製品Bは時間が経つにつれて試験紙の上端部から徐々に変色した
が、
被告製品Aは60分経過後でも試験紙の変色は認められなかった。h
乙19実験、乙20実験
甲58実験で用いられた試験紙を、Oリングを外した被告製品とOリングを装着した被告製品のそれぞれのソレノイド部に巻き付けた後、
コンプレッサのソレノイドバルブ取付孔にそれぞれ取り付け、実験室内(温度は26~27℃。湿度は50~60%)にそれぞれ約2週間放置した(乙19実験)ところ、Oリングを装着した被告製品の試験紙は色の変化は見られなかったが、Oリングを外した被告製品は色の変化を示した。

また、
上記コンプレッサをエスペック株式会社製
(PL-2KPH)
恒温恒湿度槽内
(40℃、
湿度95%)
にそれぞれ24時間置いた
(乙
20実験)ところ、Oリングを装着した被告製品は、コンプレッサのソレノイドバルブ取付孔に取り付ける前後で試験紙の色の変化は見られなかったが、Oリングを外した被告製品は、恒温恒湿度槽内に置い
た試験紙と同様の色の変化を示した。
上記の各種実験結果によると、
被告製品は、
長時間の塩水噴霧試験
(乙
14実験)試験紙を用いた湿気の流入実験

(乙19実験、
乙20実験)
の結果からすると、端部部材だけで外部雰囲気(湿気や水等の流体物)の流入を遮断するものとはいえないが、同じ場所に10数滴の液体を滴
下したり(乙15実験の第2実験)、連続して液体を注入したり(甲49実験の実験2)、液体を滴下後に強い衝撃を加える(乙15実験の第
3実験、甲49実験の実験3)といった条件がない限り、少量の水滴を滴下した実験では、端部部材だけでも液体の流入は抑制されており(甲33実験、甲49実験の実験1)、また、湿気の流入も短時間であれば抑制されている(甲58実験の試験1及び試験2)ことからすると、被告製品の端部部材は外部雰囲気(湿気や水等)の進入を抑制するものといえる(なお、乙15実験の第1実験は、被告製品の端部部材及びOリングのみならず弁本体側のOリングも外しており、甲50実験の試験結果からすると、
上記認定を左右するものではなく、
また、
乙16実験は、
圧縮機の取付孔側面に穴を穿設しており、実験条件の前提が異なるため、
上記認定を左右するものではない。)。
また、乙1実験、乙14実験、甲49実験、甲58実験、乙19実験及び乙20実験の試験結果によれば、
端部部材とシール部材
(Oリング)
を備えた被告製品においては、外部雰囲気(湿気や水等)の流入が完全に抑制されていることが認められる。

そうすると、被告製品は、端部部材(H)をボディ

の上部側の開口部

に嵌合させることにより外部雰囲気の流入を抑制し、シール部材
成を備えることにより、ボディ

の構

と取付孔の間を密封して外部雰囲気の

流入をより抑制する効果を奏するものであるから、被告製品は、構成要件B6の『密封』嵌合の文言も充足する。
したがって、被告製品は、構成要件B6を充足する。
これに対し、被控訴人は、前記第2の4

【被控訴人の補充主張】イ

及びウのとおり、構成要件B6の密封嵌合は、端部部材それ自体によってソレノイドの腐食を防止できるという効果を発揮することができる程度に外部雰囲気の進入が抑制されなければならないことを前提とし、各試験結果からすると、Oリングを外した被告製品は取付内部への外部雰囲気の進入を抑制することができていない旨主張するが、前記アのと
おり構成要件B6の密封嵌合に関する被控訴人の解釈には誤りがあるから、
被控訴人の主張はその前提を欠いており、
採用の限りではない。
争点1-2(構成要件Cの充足性)について

構成要件Cは、前記ソレノイドの前記バルブ部側の外周に前記バルブ部側からの流体の進入を防止するシール部材を設けるという構成であり、
ここでいう前記ソレノイドは、相手側ハウジング部材に備え付けられた取付孔に収容されるソレノイド(構成要件A)をいうものであると解される。
ところで、ソレノイドは、日本工業規格(JIS)では

交流又は直流の励磁コイル・・・に通電し、可動鉄心を動かすことによって、電磁エネルギーを機械的運動に変換するプランジャ形の電磁石

(甲6)と定義されているが、少なくとも本件発明におけるソレノイドは、こうしたプランジャ形の電磁石だけではなく、前記プランジャに接続されバルブの弁体の開閉動作を可能とするロッドを備え(構成要件B8)ることをその構成に含むものであるから、上記ロッドは、ソレノイドの一部を構
成するものといえる。
そうすると、
構成要件Cの
前記ソレノイドの前記バルブ側の外周
は、
電磁石とバルブの弁体の開閉動作を可能とするロッドの構成を備えたソレノイドのうちのバルブ側(ソレノイドの下端側)の外周を指すものと解される。


引用に係る原判決第3の【原告の主張】及び【被告の主張】の各

のと

おり、
被告製品の構成につき、
控訴人は、
原判決別紙被告製品目録
(原告)
(以下原告作成目録という。)記載のとおりであると、被控訴人は、同被告製品目録(被告)(以下被告作成目録という。)記載のとおりであるとそれぞれ主張する。原告作成目録の写真2と被告作成目録の写真1がそれぞれ被告製品の外観形状を、原告作成目録の図1と被告作成目録
の写真2がそれぞれ同内部構造を明らかにするものであるところ、これらを対比すると、被告製品の構成部材の名称や配置についてはほぼ争いがなく、争いがあるのは、ソレノイドと弁本体の境界をどの部分と位置付けるかに関してのみであり、この点に関する当事者双方の主張は、上記原判決第3の【原告の主張】及び【被告の主張】の各

及び

のとおりである。

そこで、原告作成目録の図1と被告作成目録の写真2を見ると、いずれにおいても構成要件B8のプランジャはプランジャは「弁本体(V)、ロッドは作動ロッド動ロッドは電磁コイル

を含むボディ

」、
バルブ

」にそれぞれ当たり、

作やシール部材より下部まで上下に可動する構成となっている。そして、前記アにおいて説示したとおり、ロッドは、本件発明におけるソレノイドの一部を構成するものといえるから、本件発明における「ソレノイド

部は、
控訴人が主張するとおり、
原告作成目録の図1のソレノイドの矢印で示される範囲までを指す
ものと理解するのが相当である。そうすると、同図1のとおり、被告製品におけるシール部材
(ソレノイド

は、本件発明との対比におけるソレノイド

の部分

の下端側である弁本体(V)側)の外周に設けられたもので

あり、弁本体(V)からの流体の進入を防止するものであるといえる。これに対し、被控訴人の主張は、被告製品のうちソレノイド

はソレノ

イド機能を有する部分(励磁コイル部分とこれにより励磁された磁力線が通過する部分)であり、弁本体(V)に該当する部分はシール部材
の上部

までであるとするものである。しかし、前示のとおり、本件発明の構成要件B8との関係においては、本件発明のソレノイドがロッドを備えるものである以上、その可動領域については、ソレノイド部分と理解すべきであるから、上記のようなソレノイド機能を有する部分が本件発明のソレノイドであるとの被控訴人の主張は、その前提を誤るものというべきである。なお、実質的に考えても、本件発明の構成要件Cにおけるソレノイドとバ
ルブ部の境界を厳密に認定し、そのどちら側にシール部材が位置するかを議論することに意味があるとは解し難く、要するに、バルブ部側からの流体の進入を防止するために、ソレノイドとバルブ部の接合部付近の外周にシール部材を設けることが求められているというべきであるから、被告製品は、いずれにしても構成要件Cを充足する。

小括
被告製品は、構成要件B6及びCを充足するものであり、その他の構成要件の充足性については引用に係る原判決の第2の2

のとおりであるから、

争点2(均等論)について判断するまでもなく、本件発明の技術的範囲に属するものである。

3
争点3(控訴人の損害額)について
認定事実
引用に係る原判決の第2の2記載の前提事実及び証拠(甲3、4、18、66、67、77、78、101、乙22、25、26、32(枝番を含む。
以下同じ。)、35、46、48、52)によれば、以下の事実が認められる。

●●●●●●と●●●は、平成8年3月20日、容量制御弁の共同開発を開始し、平成10年7月9日、特許出願(平成10-210450号。本件発明。ただし補正前のもの)をし、平成16年10月29日、設定登
録を受けた(特許第3611969号)。控訴人は、平成22年12月8日
(受付日)●●●の共有持分の譲渡を受け、

その旨の登記を経由した。
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●イ
可変容量コンプレッサ容量制御弁は、ソレノイドを備えない内部制御弁タイプ(MCV)とソレノイドを備えた外部制御弁タイプ(ECV)があり、平成23年当時、外部制御弁タイプの可変容量コンプレッサ容量制御
弁について、ベローズタイプは控訴人が、ダイアフラムタイプは被控訴人が、それぞれほぼ全世界における販売を独占していた。

控訴人は、ベローズタイプの容量制御弁として、以下の2製品の製造及び販売をしている。

原告製品2
端部部材はあるが、端部部材と取付孔との間のOリングはなく、腐食防止のために鉄系材料にメッキを施した、ソレノイドを有する可変容量コンプレッサ容量制御弁。この容量制御弁は、本件発明の実施品ではない。

原告製品1
耐食性を必要とする鉄系材料による構成部材に安価な防錆処理を施した上で、耐食性を満たすように端部部材にOリングを装着した、ソレノイドを有する可変容量コンプレッサ容量制御弁。この容量制御弁は、本件発明の実施品である。

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●
他方、被控訴人は、●●●社に対して、ダイアフラムタイプの可変容量コンプレッサ容量制御弁を販売していた。

被控訴人は、平成24年2月頃以降、ベローズタイプの可変容量コンプレッサ容量制御弁(ECV13E)の開発に着手したが、量産試作の段階で、●●●社からの要請により、弁部分の構造を変更したベローズタイプの容量制御弁(ECV13Ei)を開発した。
被控訴人が●●●社向けに作成したプレゼンテーション資料(乙25。平成26年4月9日付け)には、従前のダイアフラムタイプの容量制御弁
とECV13Eiとの比較のほか、原告製品2との起動性に関する比較がある。また、同資料には、ECV13Eiの構造が示されており、ソレノイド部分に関して、本件発明である端部部材が取付孔に密封嵌合され、取付孔の開口部を塞ぎ、端部部材と取付孔との間にシール部材が配置されたものが掲載されている。

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

被控訴人は、平成27年10月から本件特許の存続期間が満了した平成30年7月9日までの間、合計●●●●●●●●個の被告製品を●●●社に販売した。
適用法令について
令和元年法律第3号特許法等の一部を改正する法律は、令和元年政令
第145号により令和2年4月1日に施行されており、同法には経過規定が置かれていないことから、本件特許権侵害の不法行為時及び本件訴え提起時
は改正特許法の施行日前であるが、本件については、上記改正後の特許法が適用される(したがって、改正前特許法102条の適用があることを前提として、同条1項ただし書の事情に当たる数量について特許権者等が侵害者に対して同条3項を適用して実施料相当額の損害を更に求め得るかについては、上記改正により立法的に解決されたため、本件の争点にならない。)。当事者の主張は、上記改正前の特許法の法条を前提としたものであるが、以下では、特に断らない限り、上記改正後の特許法が適用されることとして判断する。
特許法102条3項による損害について
事案に鑑み、特許法102条3項による損害の算定を先に認定する。

侵害期間における被告製品の総販売個数が●●●●●●●●個であることは当事者間に争いがなく、本件侵害期間における被告製品の1個当たりの販売価格は、本件侵害期間の総販売金額●●●●●●●●●●●●●●●円を、
同期間における総製造数●●●●●●●●個で割る
(乙23参照)
と、●●●●●●●円であると認められる。


被告製品の実施料率について判断する。
甲79報告書によれば、日本国内で特許出願を行った国内企業・団体のうち上位となっている企業・団体(対象2031件)及び株式会社帝国データバンク保有データ信用調査報告書ファイル
(約143万社収録)

の中からライセンス契約を実施していると判断できる企業(対象975件)につき、重複データを削除した合計3006件を調査対象とし、平成21年11月5日から平成22年2月15日までを調査対象期間として、技術分類別ロイヤルティ率のアンケート調査を実施した結果(有効回答は563件)によると、本件発明に最も近い技術分野である精密機械のロイヤルティ率は、最大値9.5%、最小値0.5%、平均値3.5%であった(同報告書52頁)ことが認められる。また、同報告
書によると、実施料の決定要因の重要度としては、①当事者におけるライセンスの必要性、②ライセンス対象(特許権の評価)の重要度が高いことが挙げられている。
なお、控訴人は、前記第2の4
ウ【控訴人の主張】

のとおり、平

成4年度から平成10年までのデータによる実施料率〔第5版〕データや平成10年3月30日言渡しの別件判決の説示を基にした主張もするが、平成27年から平成30年までの間の実施料率を問題とする本件では参考とならず、採用の限りではない。
本件発明の特許請求の範囲及び本件明細書の記載を総合すると、本件
発明は、ソレノイドを備えた制御弁の発明であるが、その特徴的部分は、①アッパーブレードの外側で取付孔に嵌合して取付孔の開口部を塞ぐ端部部材と、②取付孔と端部部材との間に配置されるシール部材の2つの構成を採用したことにあり、これらの構成によって、外部雰囲気(湿気や水等の流体)の進入が抑制されて、ソレノイドの耐食性を向上
させるとともに、ハウジングの取付孔に挿入するだけで正確な位置決めができ、ボルトによるハウジングへの締結等も不要となり、取付性が向上するという効果を奏するものである。
これに対し、相手方ハウジング部材に取付孔を設けてこの部分に容量制御弁を挿入するという技術は、本件発明の出願時には公知の技術であ
る(乙8、9)。また、シール部材の配置については、原告製品2のように、取付孔と端部部材の間のシール部材を設けることなく、腐食防止のために鉄系材料にメッキを施して可変容量制御弁の耐久性を保つ代替技術(従来技術。本件明細書の【0011】)があることから、ソレノイドの耐食性の向上という観点からいえば、当事者のライセンスの必要
性の程度が高いとはいえず、特許としての重要度も高いとはいえない。そして、被控訴人が●●●社向けに作成した、原告製品2との比較を
含む被告製品のプレゼンテーション資料(乙25)には、重要設計項目として、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●が挙げられているように、弁本体の機能や動作性等が重視され、本件発明
の上記特徴的部分については何ら言及されていないから、被告製品における本件発明の実施の程度及びその価値は相対的に低いと言わざるを得ない。
以上のような本件各事情を総合すると、前記

のとおり、控訴人と被

控訴人は、可変容量制御弁の分野では国際的にシェアを分かち合う競業
関係にあるといった事情を考慮しても、被告製品における本件特許の実施料率は2%程度であると認めるのが相当である。

ところで、前記

アのとおり、本件特許は控訴人及び●●●●●●の共

有関係にあり、その持分割合について両社で特段の合意がされたと認めるに足りないから、民法250条により共有持分は相等しい割合に推定され
る。
そうすると、
特許法102条3項による損害は、
以下の計算式のとおり、
●●●●●円であると認定するのが相当である。
[計算式]

●●●●●●●●●●●●●●●●●●

特許法102条1項による損害について


侵害の行為を組成した物の譲渡数量
平成27年10月1日から本件発明の存続期間が満了した平成30年7月9日までの期間における被告製品の販売個数は●●●●●●●●個であることは当事者間に争いがない。


侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益の額
侵害行為がなければ販売することができた物
特許法102条1項は、民法709条に基づき販売数量減少による逸失利益の損害賠償を求める際の損害額の算定方法について定めた規定であり、同項1号において、侵害者の譲渡した物の数量(譲渡数量)に特許権者又は専用実施権者(以下特許権者等という。)がその侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益額を乗じた額を、
特許権者等の実施の能力の限度で損害額とし、
同号の括弧書き、
すなわち、譲渡数量の全部又は一部に相当する数量(特定数量)を特許権者等が販売することができないとする事情を侵害者が立証したときは、
当該事情に相当する数量に応じた額を控除するものと規定している。こうした規定は、侵害行為と相当因果関係のある販売減少数量の立証責任の転換を図ることにより、より柔軟な販売減少数量の認定を目的とするものと解される。そうすると、特許権者等が侵害行為がなければ販売することができた物とは、侵害行為によってその販売数量に影響を受
ける特許権者等の製品、すなわち、侵害品と市場において競合関係に立つ特許権者等の製品であれば足りると解すべきである(知財高裁令和2年2月28日大合議判決・判例時報2464号61頁以下参照)。本件についてみるに、前記

ウないしオによれば、原告製品2は本件

発明の実施品ではないが、原告製品2と被告製品は、ともにソレノイドを有する可変容量コンプレッサ容量制御弁であり、ベローズタイプのものであるから、原告製品2と被告製品は、市場において代替可能な競合関係に立つ製品であるということができる。そうすると、被控訴人が●●●社に対して被告製品を販売すると、原告製品2は、被控訴人の侵害行為によってその販売数量に影響を受ける製品であるということができ
る。
これに対し、被控訴人は、前記第2の4

ア【被控訴人の主張】


とおり、控訴人は、●●●●●●との関係上、特許の実施品を納入することができなかったから、●●●社による被告製品の購入動機において被告製品が本件発明の実施品であったことにあるとすれば、被告製品が販売されなかったとしても、控訴人は侵害行為がなければ販売することができたものは存在しないので、控訴人には損害が生じていない旨主張する。
しかし、被控訴人が、本件発明の構成を含むベローズタイプの可変容量制御弁を開発し、
●●●社に販売したこと
(特許権侵害行為)
により、
特許実施品ではないが同じくベローズタイプの商品である原告製品2を
●●●社に納入していた控訴人の商圏が奪われたのであるから、これにより生じた控訴人の発生した損害は、本件特許権侵害と事実的因果関係はもとより相当因果関係もあるというべきである。
したがって、被控訴人の上記主張は理由がない。
単位数量当たりの利益の額
特許法102条1項1号所定の単位数量当たりの利益の額は、特

許権者等の製品の売上高から、特許権者等において上記製品を製造販売することによりその製造販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額であり、その主張立証責任は特許権者側にあるものと解するべきである(前掲知財高裁大合議判決参照)。
以下これを前提として検討する。

a
控訴人における容量制御弁の生産能力及び原告製品2の生産体制等証拠(甲57、66、67、103、105)によれば、控訴人における容量制御弁の生産能力及び原告製品2の生産体制等について、以下のとおりの事実が認められる。

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
(省略))

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●


控訴人●●事業場におけるフロア内の設備に対する電力及び水は、共通の電源及び水源から各設備に供給されている。

b
原告製品2の限界利益の額
控訴人は、原告製品2の限界利益の額を求めるに当たり、控訴人従業員作成の報告書(甲103)により算出された経費等に基づいて主張しているところ、同報告は、控訴人●●事業場で採用されている会
計システム●●●●●●●●(甲103の3の添付資料9、10)により出力されたエクセルデータに基づいて各経費等を算出しており、この算出過程に特段の不自然な点が見当たらないから、以下のとおり、同報告に基づいて原告製品2の限界利益の額を求めるのが相当である。原告製品2の1個当たりの売価証拠(甲67、103)によれば●●●●●●●●●●●●●●●●●までの各月における原告製品2の生産個数は、別紙2-2の「生産個数⑨の欄に記載のとおりであり、合計●●●●●●●個(

)であり、上記期間の各月の原告製品2の生産金額は、別紙の

生産金額⑩の欄に記載のとおりであり、合計●●●●●●●●
●●●円(Ⓑ)であると認められる。
したがって、原告製品2の1個あたりの売価(Ⓑ÷

=)は、●

●●●●●●円である(Ⓒ)。


原告製品2の1個当たりの製造原価
前記期間における各月の原告製品2の直材費、ベローズの組立て
作業のために必要となる補助材料(測定工具器具備品、包装材料、ガス、溶剤、油脂等)の費用、外注に係る加工費は、それぞれ、別
紙2-2の直材費①、補助材料費②、外注加工費③の欄に記載のとおりであり、月毎の製造原価は、上記の①ないし③の合計額に月毎の生産個数の⑨を乗じた、同別紙の月毎の製造原価⑫の欄に記載のとおりであり、合計●●●●●●●●●●●円である(Ⓓ)と認められる。

したがって、
原告製品2の1個あたりの製造原価
(Ⓓ÷

=)
は、

●●●●●●円(Ⓔ)であると認められる。


原告製品2の1個当たりの変動費

各工程における人件費及び電力料
前記期間における各月の原告製品2の1個を製造するに当たり
要した人件費及び電力料のうち、ベローズASY工程における人
件費(●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●)及び電力料(●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●)はそれぞれ
別紙2-2のベローズASY工程の人件費④及び電力料⑤の欄に記載のとおりであり、本体ASY工程における人件費(●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●)及び電力料(●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●)は別紙2-2

の本体ASY工程の人件費⑥及び電力料⑦の欄に記載のとおりであると認められる。

水道料
前記期間における原告製品2の1個を製造するにあたり要した
水道料は、各月の施設全体の水道料を原告製品1及び2の生産個

数で除して求めると、別紙2-2の水道料⑰の欄に記載のと
おりであると認められる。

運賃・梱包費
甲103によれば、前記期間における各月の原告製品2の運賃
梱包費は、別紙2-2の運賃・梱包費⑧の欄に記載のとおり
であると認められる。

設備に係る減価償却費
控訴人●●事業場で採用されている会計システムにより、ベロ
ーズASY工程と本体ASY工程における各固定資産リスト(●

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●)から減価償却中
の月次償却費の合計をそれぞれ求めた上で、前者についてはベロ
ーズASY工程における該当月のベローズの生産個数で除し、後
者については原告製品2の生産個数で除すと、その合計額は、別
紙2-2の固定費合計の(月次減価償却費⑱)の欄に記

載のとおりであると認められる。
なお、被控訴人は、前記第2の4

ア【被控訴人の主張】


とおり、
原告製品2の製造設備が高度に自動化されたものであり、
被控訴人の製造ラインの製造能力よりも大きいことを前提として
控訴人の製造ラインの設置費用を推測した上で、控訴人の製造ラ
インは●台分であり、製造ライン1台当たりの減価償却費と減価
償却期間からすると、推測される設置費用の償却額が合致しない

などと主張するが、同主張の基礎となる控訴人の製造ラインの設
置費用は、自社の製造ラインの設置費用と対比した上での、あく
までも推測に基づくものというほかなく、これを裏付ける客観的
資料に乏しいものであるから、被控訴人の上記主張を直ちに採用
することはできない。


保守点検・維持管理等の人件費
毎月の控訴人生産工場の設備の設計関連、ライン改善等を担当
業務とする控訴人生産技術一課の人件費と同生産設備の保守点検
及び維持管理等を担当業務とする設備管理課の人件費の合計額を、当該月のベローズASY工程の減価償却費の合計額及び本体AS

Y工程の減価償却費の合計額の比率でそれぞれ按分し、前者を当
該月のベローズの生産個数で除し、後者を当該月の原告製品2の
生産個数で除して得られた合計額は、
別紙2-2の
間接費合計
の(保守点検・維持管理等の人件費⑲)の欄に記載のとおり
であると認められる。


合計
上記ⅰからⅴの合計額が原告製品2の1個当たりの毎月の変動
費となる。
そして、
これに原告製品2の当該月の生産個数生産個数⑨


欄)を乗じた合計額●●●●●●●●●円を●●●●●●●●●
●●●●●●●までにおける原告製品2の生産個数の合計額●

●●●●●個で除すと、別紙2-2のとおり、原告製品2の1個
当たりの変動費は●●●●●円(Ⓕ)であると認められる。


小括
以上によると、●●●●●●●●●●●●●●●●までの間の原
告製品2の1個当たりの限界利益は、別紙2-2のとおり、●●●
●●●円(=Ⓒ-(Ⓔ+Ⓕ))であると認められる。
c
原告製品2の限界利益額に関する覆滅事由について
前記3


のとおり、本件発明は、ソレノイドを備えた制御

弁の発明であるが、その特徴的部分は、①アッパープレートの外側で取付孔に嵌合して取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材と、②取付孔と端部部材の間に配置されるシール部材の2つの構成を採用したことにあり、これらの構成によって、外部雰囲気(湿気や水等の流体)の進入が抑制されて、ソレノイドの耐食性を向上させるとともに、ハウジングの取付孔に挿入するだけで正確な位置決めができ、ボ
ルトによるハウジングへの締結等も不要となり、取付性が向上するという効果を奏するものである。
前記


のとおり、原告製品2は、取付性の向上及び端部部材に

よる外部雰囲気(湿気や水等の流体)の進入の抑制といった本件発明の作用効果を備えているといえるが、アッパープレードの外側で取付孔に嵌合して取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材を備えている(上記①を備える。)ものの、端部部材と取付孔との間のシール部材(Oリング)を備えておらず(上記②を備えておらず)、腐食防止のために鉄系材料にメッキを施している。また、原告製品2は、自動車に搭載するソレノイドを有する可変容量コンプレッサ制御弁で
ある以上、自動車メーカーとしては、外部雰囲気の進入の抑制というよりは、原告製品2の制御弁としての機能及び動作性に最も着目する
ものといえる。
このように、原告製品2は、本件発明の従来技術の課題とされている、耐食性を必要とする構成部材にメッキ処理を施したものであることや、原告製品2は可変容量コンプレッサ容量制御弁であって、制御弁としての機能及び動作性の点に強い顧客吸引力があるといえるから、
原告製品2の販売によって得られる限界利益の全額を控訴人の逸失利益と認めるのは相当ではないところ、原告製品2が備える機能等や顧客誘引力等の本件諸事情を総合考慮すると、事実上推定される限界利益の全額から95%の覆滅を認めるのが相当である。
これに対し、控訴人は、前記第2の4

ア【控訴人の主張】

bの

とおり、原告製品2は通常の使用状態であれば本件発明の実施品である原告製品1と同等の効果を奏しており、本件発明の特徴的部分は●●●社に対して強い顧客吸引力を有しており、事実上の推定の覆滅事由は存在しないか、あるとしてもその割合はさほど大きいものではない旨主張するが、上記本件諸事情に照らせば、事実上の推定の覆滅割
合は極めて大きいものといわざるを得ないことは明らかであり、控訴人の上記主張は理由がない。
d
原告製品2の単位数量当たりの利益の額
以上によれば、原告製品の単位数量当たりの利益の額を算定す
るに当たっては、原告製品2の限界利益の額である●●●●●●円か
らその95%を控除するのが相当であり、原告製品2の単位数量当たりの利益の額は、●●●●●円(●●●●●●×0.05)となる。ウ
実施能力に応じた数量
別紙3-1のとおり、
被控訴人は、
本件侵害期間中に、
●●●社に対し、

最も多い月で●●●●●●●個の被告製品を販売したことが認められるところ、前記イ

a⒝によれば、控訴人は、ベローズ生産量は●●●●●

●●●で●●●●●●●●個、原告製品2は●●●●●●●●個の生産稼働能力を有していたことが認められ、この生産稼働実績からすると、その1割程度の数量である原告製品2を生産して販売する能力を有していたものと認めるのが相当である。
したがって、控訴人は、被控訴人が本件侵害期間中に販売した被告製品
の数量の原告製品2を販売する能力を有していたと認められる。

控訴人が販売することができないとする事情
特許法102条1項1号に規定するところの侵害品の譲渡数量の全部又は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができないとする事
情は、侵害行為と特許権者等の製品の販売減少と相当因果関係を阻害する事情であり、例えば、①特許権者と侵害者の業務態様や価格等に相違が存在すること(市場の非同一性)、②市場における競合品の存在、③侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、④侵害品及び特許権者の製品の機能(機能、デザイン等特許発明以外の特徴)に相違が存在すること等の事
情がこれに該当するというべきである(前掲知財高裁大合議判決)。以下これを前提として検討する。
前記第2の4

ア【被控訴人の主張】aのとおり、被控訴人は、
販売することができない事情として、●●●社の前身である●●●社及び同社が買収した●社と被控訴人との間では、長年の取引関係があり、被控訴人は、
こうした取引関係を通じて構築された信頼関係に基づいて、
●●●社との間で年間●●●●個に及ぶ被告製品の取引を行ってきたが、控訴人は、●●●社の事業領域については何らの商圏を有していなかったのであるから、容量制御弁を年間●●●●個生産する能力があるとしても、せいぜい従前●●●社に納入していた程度の数量である●●万個
程度の数量しか販売することができなかったというべきである旨主張する。

確かに、被控訴人は、●●●社の前身である●●●社及び●社、●●●●社と長年の取引関係にあり、価格競争や開発対応等の点で表彰を受けるなど、一定の信頼関係を築いてきたこと(乙36ないし40)は認められるものの、前記
カ及びキのとおり、●●●●●●●●●●●●

●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●
●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●、こうした事情に照らせば、原告製品2について本件侵害期間より前の期間に納入していた数量の限度でしか販売することができなかったとはいえないから、被控訴人の上記主張は
理由がない。
前記第2の4

ア【被控訴人の主張】bのとおり、被控訴人は、
販売することができない事情として、●●●社は、防水手段についてメッキ処理で行うか、端部部材へのシール部材の装着で行うかについては全く重視しておらず、被告製品が本件発明の技術的範囲に属すると被控訴人において認識すれば、メッキ処理に変更した代替品に転換することは容易に可能であったから、被告製品に代わって控訴人が原告製品2を納入することができるというものではない旨主張する。
しかし、販売することができない事情で考慮されるべき事情は、
本件侵害期間中に原告製品2を被告製品の販売個数では販売することが
できなかった事情が問題となるのであって、被控訴人が主張する上記のような仮定的事情はこれに当たらないから、被控訴人の上記主張は理由
がない。
前記第2の4

ア【被控訴人の主張】

cないしeのとおり、被控訴

人は、販売することができない事情として、●●●社の購入動機や信頼関係の存否等につき主張する。
そこで、検討するに、前記

キによれば、●●●●●●●●●●●●

●●●●●●被告製品を選択した理由の1つとして価格面を挙げていることが認められる。
実際、
控訴人の担当部長が作成した報告書
(甲67)
の添付資料によると、●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●●ことが認められる。被告製品が原告製品2と比較して価格面で有利であったという点は、本件侵害期間中における原告
製品2の販売個数に少なからず影響する事情であるということができる。また、前記

のとおり、被控訴人は、●●●社の前身である●●●社

及び●社、●●●●社と長年の取引関係にあり、価格競争や開発対応等の点で表彰を受けるなど、サポート面や協力態勢の面で一定の信頼関係を築いてきており、実際のところ、●●●社が原告製品2から被告製品に切り替えた理由の1つとして、被控訴人のサポート態勢等を挙げている。被控訴人が被告製品の販売個数を順調に維持することができた背景には、こうした事情が影響しているものと認められるから、被控訴人と●●●社との信頼関係の構築は、本件侵害期間中における原告製品2の販売個数に影響する事情であるといえる。

さらに、証拠(乙25、32、48)によれば、被控訴人は、原告製品2と被告製品の起動性に関する対比実験を提示し(乙25)、●●●
社の仕様等に関する要望を受けて改良し、●●●社は、被告製品の制御弁としての性能面を評価して被告製品を採用したことが認められるから、こうした事情は、本件侵害期間中において、被告製品の販売実績に相当する原告製品2を販売し得たことを阻害する事情であるといえる。以上で指摘した事情を総合考慮すると、侵害品である被告製品の譲渡
数量を控訴人が販売することができない事情に相当する数量は、譲渡数量全体の2割であると認めるのが相当である。

本件特許が共有であることについて
被控訴人は、前記第2の4

ア【被控訴人の主張】

のとおり、本件特

許が控訴人及び●●●●●●が共有する関係にあるところ、●●●●●●が本件発明を実施している可能性があるが、いずれにしても控訴人は、●●●●●●の実施割合について証明できていないから、共有者間の損害賠償請求権の行使の原則に立ち戻り、持分割合に基づいて損害賠償額を按分すべきである旨主張する。

しかし、前記

アによれば、●●●●●●は、●●●との間で交わした

共同開発契約書において、原則として、●●●●●●の開発に係るコンプレッサに使用される設定圧可変弁を●●●から購入する旨合意しており、本件侵害期間中においても、控訴人から購入した容量制御弁を自社で開発する可変容量コンプレッサに装着していたと認めるのが相当である。また、被控訴人は、●●●●●●が容量制御弁以外に本件発明を実施していた可能性を指摘するが、本件全証拠を検討してみても、同社がそのような実施をしていたと認めるに足りる証拠はない。そうすると、●●●●●●は、少なくとも本件侵害期間中においては本件発明を実施していないものと認められるから、控訴人と●●●●●●の本件発明の実施割合に応じて損
害賠償額を按分すべきである旨の被控訴人の主張はその前提を欠いている。

なお、共有に係る特許権であっても、各共有者は、契約で別段の定めをした場合を除いて他の共有者の同意を得ることなく特許発明の実施をすることができる(特許法73条2項。なお、本件では、控訴人が●●●●●●との間で実施割合に関する特段の合意をしたと認めるに足りる証拠はない。ところ、

特許法102条1項により算定される損害については、

侵害者による侵害組成物の譲渡数量に特許権者等がその侵害行為がなければ販売することができた物の単位数量当たりの利益額を乗じて算出される額には、特許権の非実施の共有者に係る侵害者による侵害組成物の譲渡数量に応じた実施料相当額の損害が含まれるものではなく、その全部又は一部に相当する数量を特許権者等が販売することができないとする事
情にも当たらないから、後記の同条2項による損害の推定における場合と異なり、非実施の共有者の実施料相当額を控除することもできない。したがって、被控訴人の上記主張は理由がない。

特許法102条1項1号による損害賠償額の算定について
上記アないしオを前提として、特許法102条1項1号により算定され
る控訴人の損害額は、譲渡数量●●●●●●●●個のうち約2割については販売することができない事情があるからその分を控除し、控除後の販売数量に原告製品2の単位数量当たりの利益額●●●●●円を乗じると、以下の計算式のとおり、●●●●●円であると認められる。
[計算式]●●●●×0.8×●●●≒●●●●


特許法102条1項2号による実施料相当額ついて
前記エ

のとおり、特許法102条1項1号のその全部又は一部に相当する数量を当該特許権者又は専用実施権者が販売することができないとする事情としては、侵害品である被告製品と原告製品2の価格差、被控訴人によるサポート面や協力態勢の面で●●●社との間との一定の信頼関係の構築、被告製品と原告製品2の性能面の差異といった事情がある
と認められる。
ところで、特許法102条1項2号は、括弧書で

特許権者…が、当該特許権者の特許権についての専用実施権の設定若しくは通常実施権の許諾…をし得たと認められない場合を除く。

と規定するところ、この括弧書部分は、特定数量がある場合であってもライセンスをし得たとは認められないときは、その数量に応じた実施相当額を損害として合算しないことを規定するものであると解される。
これを前提として本件についてみると、特許法102条1項1号に規定する特定数量に該当するとされた事情は、上記のとおりであるところ、被
告製品と原告製品2の性能面の差異については、その性質上、控訴人が被控訴人にライセンスをし得たのに、その機会を失ったものとは認められないが、被控訴人の営業努力等に関わる点については、本件発明の存在を前提にした上でのものというべきであるから、控訴人が被控訴人にライセンスをし得たのに、その機会を失ったものといえる。

これらの事情を総合考慮すると、特定数量2割のうちライセンスの機会を喪失したといえる数量は、その半分に当たる譲渡数量の1割とするのが相当である。
また、前記

アのとおり、本件侵害期間中の被告製品の1個当たりの販

売価格は●●●●●●●円(本件侵害期間の総販売金額●●●●●●●●●●●●●●●円を、同期間における総製造数●●●●●●●●個で割った額(乙23参照)。)であり、前記

イのとおり、被告製品の実施料率

は2%程度とするのが相当であり、本件特許は控訴人及び●●●●●●の共有関係にあることも前記認定事実のとおりである。
以上を前提とすると、特許法102条1項2号により算定される控訴人の損害額は268万円と認められる。
[計算式]

●●●●●●●●●×0.1)×0.02×0.5≒2680000

小括
以上のとおりであるから、特許法102条1項により算定される損害額は、前記カの●●●●●円に前記キの268万円を加えた合計●●●●●円となる。
特許法102条2項による損害について


覆滅事由について
本件侵害期間中における月別の被告製品の生産個数及び売上高は当事者間に争いがないが、控除すべき経費の範囲及びその額について争いがある。ところで、特許法102条2項における推定の覆滅については、同条1
項ただし書の事情と同様に、侵害者が主張立証責任を負うものであり、侵害者が得た利益と特許権者が受けた損害との相当因果関係を阻害する事情がこれに当たると解され、例えば、①特許権者と侵害者の業務態様等に相違があること(市場の非同一性)、②市場における競合品の存在、③侵害者の営業努力、
④侵害品の性能
(機能、
デザイン等特許発明以外の特徴)

等の事情がこれに当たり、また、特許発明が侵害品の一部分のみに実施されている場合には、この点も、推定覆滅の事情として考慮することができるが、特許発明が侵害品の一部分のみに実施されていることから直ちに上記推定の覆滅が認められるのではなく、特許発明が実施されている部分の侵害品中における位置付け、当該特許発明の顧客誘引力等の事情を総合的
に考慮して決するのが相当である(知財高裁令和元年6月7日大合議判決・判例時報2430号34頁以下参照)。
控訴人は、特許法102条2項による損害の算定に当たり、覆滅事由はないと主張しているところ、被控訴人は、1項ただし書と同様の事由、すなわち、①●●●社における事情、②代替品の納入が可能であること、③
原告製品2と被告製品の性能に本件発明以外に相違があること、④被告製品が原告製品2と比較して低価格であること、⑤被控訴人の市場開発努力、
営業努力、販売力の事情を指摘して、覆滅事由を主張するので、この点につき、まず検討を加える。
前記

エで説示したのと同様に、●●●社が原告製品2の供給を打ち切

って被告製品を採用したのは、被告製品が原告製品2と比較して価格面で有利であったこと、被控訴人は、●●●社及びその前身の●●●社(●●
●社が買収した●社を含む。)と長年取引関係にあって信頼関係を醸成しており、被告製品の販売個数を順調に伸ばしてきたのはこうした事情が背景にあるものと推認されること、被控訴人は、原告製品2と被告製品の起動性に関する対比実験を提示し、●●●社の仕様等の要望を受けて改良したことにより、被告製品の採用に至ったものと認められる。

こうした被告製品の価格面での優位性、被控訴人の企業努力等の事情に加えて、被告製品における本件発明が実施されている部分の位置付け、本件発明の顧客吸引力等の事情についてみると、被告製品は容量制御弁であり、ソレノイドの耐食性や取付容易性といった本件発明の特徴的部分もさることながら、弁本体の機能がむしろ重要であり(被控訴人が●●●社向
けに作成した被告製品のプレゼンテーション資料(乙25)には、本件発明の特徴的部分については何ら触れるところはないことは既に説示したとおりである。)、また、前記


のとおり、相手側ハウジング部材に取

付孔を設けてこの部分に容量制御弁を挿入するという技術は、本件発明の出願時には公知の技術であり、密封構造に関しても、容量制御弁の高耐食
性については、鉄製材料をメッキ処理するといった従来技術(代替技術)が存在していたことからすると、被告製品における本件発明の位置付けは重要なものとはいえず、顧客吸引力も低いものと言わざるを得ない。被控訴人の主張する覆滅事情は上記の限度で理由があり、これらの事情を総合考慮すると、覆滅割合は9割とするのが相当である。


本件特許が共有であることについて

本件特許権は、控訴人及び●●●●●●の共有に係るものであり、前記
オで説示したとおり、●●●●●●は、少なくとも本件侵害期間中
において本件特許権を実施していない。
ところで、特許権が共有に係るときは、各共有者は、契約で別段の定めをした場合を除き、他の共有者の同意を得ないでその特許発明の実施をすることができる(特許法73条2項)。本件では、控訴人が●●●●●●との間で実施割合に関する特段の合意をしたと認めるに足りる証拠はないから、本件特許権の共有者である控訴人は、共有持分割合に応じて特許法102条2項により推定される損害の按分割合に応じた損害
賠償を請求することができるにすぎない旨の被控訴人の主張は理由がない。
他方で、実施料に相当する損害は、特許権の実施の有無にかかわらず請求することができるから、特許権を共有するがその特許を実施していない共有者であっても、その特許が侵害された場合には、特許法102
条3項により推定される実施料相当額の損害賠償を受けられる余地があるところ、仮に、同条2項により推定される全額を共有に係る特許権を実施する共有者の損害額であると推定されると、侵害者は実際に得た利益以上に損害賠償の責めを負うことになることからすると、共有に係る特許権を実施する共有者が同条2項に基づいて侵害者が得た利益を損害
として請求するときは、同条3項に基づいて推定される共有に係る特許権を実施していない共有者の損害額は控除されるべきである。そして、侵害に係る特許権が共有に係るものであるといった事情は、同条2項により推定される損害の覆滅事情に当たるものであるから、侵害者がその立証責任を負うというべきである。

次に、前記第2の4

イ【控訴人の主張】

のとおり、控訴人は、●

●●●●●が特許法102条3項に基づく損害賠償請求権について控訴
人が消滅時効を援用することにより、被控訴人は、控訴人に対して●●●●●●の被控訴人に対する実施相当額を控除すべき旨を主張することができない旨主張する。
しかし、控訴人の被控訴人に対する損害賠償請求権と、●●●●●●の被控訴人に対する損害賠償請求権は、いずれも金銭債権であって可分
であり、可分債権である●●●●●●の損害賠償請求権が時効により消滅したからといってその損害賠償請求権があたかも復帰的に控訴人に帰属したかのように控訴人がこれを行使することができるわけではないから、控訴人が●●●●●●の被控訴人に対して有する損害賠償請求権を援用することができる正当な利益を有する者ではなく、控訴人の上記主
張は明らかに失当である。
もっとも、●●●●●●の特許法102条3項に基づく損害賠償請求権が時効により消滅している場合には、被控訴人は、これを援用することにより、その支払を免れることができるのであるから、いわゆる二重払いにより、実際に得た利益以上に損害賠償の責めを負うことになるリ
スクは生じないし、このような特殊事情がある場合にまで、特許権侵害により得た利益の留保を被控訴人に許すことは、法の趣旨に照らし相当とはいえないというべきである。

損害額の算定
前記アのとおり、特許法102条2項に基づき、被控訴人が特許権侵害により受けた利益の額を算定するに当たり、控除すべき経費については前記第2の4


のとおり当事者間に争いがあり、仮に、被控訴人が主張

するところの覆滅事由を考慮せずに控訴人が請求する●●●●●●●●●●●円を前提としたとしても、前記アの覆滅割合(約90%)分を控除すると、●●●●●円である。そうすると、前記イ

のとおり、●●●●

●●の特許法102条3項に基づく損害賠償請求権が時効により消滅し
ている場合には、その実施料相当額を覆滅事由として控除しないと解する余地があるものの、このような場合を仮定しても、特許法102条2項により算定される損害額は、上記●●●●●円を上回ることはない。小括
以上によれば、特許法102条1項による損害額は●●●●●円であり、
同条2項による損害額は●●●●●円を上回ることはなく、同条3項による損害額は●●●●●円であるから、特許法102条により算定される損害額は●●●●●円をもって相当と認める。
また、控訴人は、本件において弁護士及び弁理士に委任して訴訟を遂行しているところ、被控訴人による特許権侵害行為と相当因果関係のある弁護士
費用及び弁理士費用は、本件事案の性質及び内容、認容額、本件事案の難易度等を考慮すると、●●●●●円とするのが相当である。
そうすると、本件特許権侵害による損害額は8920万円となる。4
結論
以上によれば、控訴人の請求は、8920万円及びこれに対する遅滞に陥ったことが明らかな日である平成31年4月12日(控訴状変更申立書の送達の日の翌日)から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、これを認容し、その余は理由がないから、これを棄却し、なお、原判決は控訴人の請求の減縮(原審で求めていた訴えの取
下げ)により失効しているから、その旨を明らかにすることとして、主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部

裁判長裁判官
菅野雅之
裁判官
中村岡山恭
裁判官

忠広
(別紙1)
【発明の詳細な説明】
【0001】
【発明の属する技術分野】本発明はソレノイドに関し、耐食性に対して有利な構造であり、高い信頼性や長寿命を得ることの可能なソレノイドを提供する技術に関する。
【0002】
【従来の技術】図3(a)は、従来より各種流体の制御等に一般的に利用されているソレノイドバルブ101のソレノイド部101Aの断面構成を示した図であり、
図3(b)はソレノイドバルブ101の上視図である。
【0003】図に基づいてソレノイド部101Aの構成を説明すると、ソレノイド部101Aは筒状のケース102の両端部にそれぞれ、センタポスト部材103が嵌め込まれるボディ104とアッパープレート105が固定され、両部材の間にモールドコイル106を挟み込むように配置している。

【0004】モールドコイル106の内側には非磁性のステンレス材による有底円筒状部材のスリーブ107を介し、プランジャ108が軸方向に摺動自在に収容されている。
【0005】モールドコイル106は、コイル106aを巻き付けたコイルボビン106bの周囲をモールド部106cで覆うように一体成形したものであり、コイ
ル106aのリード線106dがグロメット106eを介して外部へ出ている。【0006】プランジャ108はロッド109と係合しており、モールドコイル106により励磁され、軸方向の駆動力をバルブ部V100へと伝達する。尚バルブ部V100においては、周知技術によるバルブ手段が配置されている。【0007】ボディ104は、略円筒状を呈した部材であり、内周側にはセンタポ
スト部材103が嵌め込まれ、外周側にはケース102の内向きフランジ部102aが嵌合している。そして、バルブ部V100側の端部に外向きの環状突出部10
4aが形成され、この環状突出部104aとフランジ部102aとの間にブラケット110が挟み込まれ固定されている。
【0008】ブラケット110はフランジ110a、110b(図3(b)参照)を備え、ソレノイドバルブ101は相手側のハウジング150にボルト等により締結される。
【0009】111はソレノイドバルブ101の接合部のシール性を発揮させるOリングである。
【0010】
【発明が解決しようとする課題】しかしながら、このような構成のソレノイドバル
ブ101においては、ソレノイド部101Aが相手側のハウジング150から突出して設けられているため、
特に外部へ露出した使用環境においては、
高い耐食性
(防
錆)を備えたものとする必要がある。
【0011】
従って、
耐食性を必要とする鉄系材料による構成部材
(ケース102、
アッパープレート105、ブラケット110等)では、メッキ等の防錆処理を施す
ことが行なわれているが、より高い耐食性を得るために、メッキ厚を厚くしたり耐食性に対して有利な種類のメッキ等を採用する等の対策がとられ、コストアップの要因となっていた。
【0012】また、このような構成では、ソレノイドバルブ101の信頼性や寿命に関係する耐食性はメッキ(防錆処理)の性能によって決定されるため、より高い
信頼性や長寿命が求められた場合には対応が困難であった。
【0013】さらに、ブラケット110でソレノイドバルブ101をハウジング150にボルト等により締結する際に位置決め作業やボルト締め作業が必要となり、取り付け性の改善が望まれていた。
【0014】本発明は上記従来技術の問題を解決するためになされたもので、その
目的とするところは、耐食性に対して有利な構造であり、高い信頼性や長寿命を得ること、また取り付けの容易なソレノイドを提供することにある。
【0015】
【課題を解決するための手段】上記目的を達成するために本発明にあっては、相手側ハウジング部材に備えられた取付孔に収容されるソレノイドであって、前記取付孔に密封嵌合して該取付孔の開口部を塞ぐ耐食性材料による端部部材を備えることを特徴とする。
【0016】これにより、取付孔の内部に収容されたソレノイドの端部部材より奥側の部材は外部に露出されることはなく、
また、
外部雰囲気
(湿気や水などの流体)
の進入が端部部材により抑制されるので、相手側ハウジング部材に組み付けられた状態における耐食性を向上させることが可能となる。

【0017】また、ハウジングの取付孔に挿入するだけで正確な位置決めができ、ボルトによるハウジングへの締結等も不要となり、取り付け性が向上する。【0019】
前記取付孔と端部部材との間にシール部材を備えることも好適である。これによって、より外部雰囲気の進入が抑制される。
【0022】

【発明の実施の形態】
(実施の形態1)
図1は本発明を適用した第1の実施の形態に
おけるソレノイド1を説明する断面構成説明図である。
【0023】このソレノイド1は、円筒状のケース部材2、ケース部材2の内側に収納されるコイル部材3、ケース部材2の一方の開口端部2aの内側に固定されコイル部材3の内筒部に延出するセンタポスト部材4、同じくコイル部材3の内筒部
に位置するプランジャ室PRを備えている。
【0024】プランジャ室PRの中には、軸方向に往復動可能に収容されたプランジャ5が配置され、アッパープレート6がケース部材2の他方の開口端部2bにおいてプランジャ室PRとの環状間隙を塞ぐと共に、コイル部材3で発生された磁束をプランジャ5へと導く。

【0025】プランジャ室PRは、有底円筒状である非磁性ステンレス材によるスリーブ7により囲まれている。このスリーブ7はコイル部材3とセンタポスト部材
4の間をケース部材2の一方の開口端部2aまで延出している。
【0026】アッパープレート6の外側(コイル部材3の反対側)には、端部部材としてのコイル部材3と一体的に樹脂成形されたヘッド部8が備えられている。【0027】ヘッド部8には、外側端面としての肩部8aと、肩部8aの内周側に一段突出したハーネス取り出し部8bが形成され、コイル部材3からのリード線3aがグロメット9を介して外部へ出ている。
【0028】また、ヘッド部8の外周には凹溝8cが形成され、凹溝8cの内部にはシール部材としてのOリング13が配置されている。
【0029】プランジャ5はスプリング10により一方向(図において上側)に付
勢されると共に、プランジャの軸方向の移動動作を伝達するロッド11が接続されている。
【0030】ロッド11はセンタポスト4の内筒部を通過し、不図示のバルブ部Vにおける弁体の開閉動作を可能としている。
【0031】一方、ソレノイド1が収容される相手側のハウジングHには、ケース
部材2とヘッド部8が入り込む取付孔Haが備えられている。そして、取付孔Haの開口部には環状溝Hbが形成されており、取付孔Haに収容されたソレノイド1の抜け止め部材としてのC形リング12が嵌め込まれる。
【0032】取付孔Haの内径寸法とヘッド部8の外径寸法は、両者が嵌合した場合に密封性を発揮し得ると共に、かつ容易に取り外しが行なえるような嵌め合い寸
法に設定されている。尚、Oリング13は、ヘッド部8の密封嵌合を補助する目的で設けられている。
【0033】取付孔Haの底部は、ケース部材2の一方の開口端部2aの外周に設けられた凹溝8dとOリング14によりバルブ部Vからの流体の浸入を防止している。

【0034】ソレノイド1の構成を、このように取付孔Haに収容されるようにすることにより、取付孔Haの内部に収容されたソレノイド1のヘッド部8より奥側
の部材(ケース部材2、コイル部材3、アッパープレート6等の部材)は外部に露出されることはなく、外部雰囲気(湿気や水などの流体等をも含む)の進入がヘッド部8と取付孔Haとの嵌め合い及びOリング13により抑制されるので、ハウジングHに組み付けられた状態における耐食性を向上させることが可能となる。【0035】従って、ケース部材2、コイル部材3、アッパープレート6等の部材の防錆が必要となる部材を一般的な耐食防止処理(安価なメッキ防錆処理等)を採用しても信頼性や耐久性に重大な影響を及ぼすことがなく、コスト低減を図ることも可能となる。
【0036】また、ハウジングHの取付孔Haに挿入するだけで正確な位置決めが
でき、ボルトによるハウジングHへの締結等も不要となり、組立性が向上する。【0037】この実施の形態では、ヘッド部8がコイル部材3と一体化された樹脂成形部材であるので、ソレノイド1の部品構成が簡易なものとなり、より組立性が向上する。
【0038】
また、
ソレノイド1の抜け止めをC形リング12により行なったので、

ハウジングHへのソレノイド1の固定が簡単に行なえ組立性が向上する。そして、ソレノイド1の軸方向の組立強度を高める必要がなく、ソレノイド1自体の構成を簡素化することもできる。
【0039】尚、ヘッド部8は耐食性材料であるが、樹脂材料としてはナイロン66、PBT、PPS、また、金属系材料としてはステンレス(SUS304)等の
耐食性に優れた材料を用いることができる。
【0041】
(実施の形態2)
図2は本発明を適用した第2の実施の形態におけるソ
レノイド21を説明する断面構成説明図である。
【0042】ソレノイド21において、第1の実施の形態のソレノイド1と同様の構成部材には同じ符号が付されている。

【0043】この実施の形態の特徴的な構成は、ソレノイド21の全長を抑え、かつプランジャ5の長さを長くした場合において、スリーブ7の端面7aがヘッド部
28の肩部28aから突出させ、取付孔Haの開口部に露出させるような構成を採用している。
【0044】このような構成においては、スリーブ7が耐食性に優れたステンレス材によって作られているので、外部の雰囲気による影響を受けることはなく、第1の実施の形態と同様に、信頼性や耐久性を向上させることが可能である。【0045】尚、スリーブ7とヘッド部28の間のシール性を向上させるために、Oリング23が備えられている。その他の構成は第1の実施の形態のソレノイド1と同様である。
【0046】

【発明の効果】上記のように説明された本発明にあっては、ソレノイドの耐食性を向上することが可能となり、高い信頼性や長寿命を得ることができる。また、ハウジングの取付孔に挿入するだけで正確な位置決めができ、ボルトによるハウジングへの締結等も不要となり、取り付け性が向上する。
【0048】取付孔と端部部材との間にシール部材を備えることにより、外部雰囲
気の進入が抑制されてより耐食性が向上する。

【図1】

【図2】

【図3】

(別紙2-1、2-2、3-1、3-2省略)

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