判例検索β > 令和3年(行コ)第180号
助成金不交付決定処分取消請求控訴事件
事件番号令和3(行コ)180
事件名助成金不交付決定処分取消請求控訴事件
裁判年月日令和4年3月3日
法廷名東京高等裁判所
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号令和1(行ウ)634
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-03-03
情報公開日2022-04-26 04:00:09
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主文1
原判決を取り消す。

2
被控訴人の請求を棄却する。

3
訴訟費用は第1,2審とも被控訴人の負担とする。
事実及び理由

第1

控訴の趣旨
主文と同旨

第2
1
事案の概要(略称は,原判決のものを用いる。)
本件は,映画製作会社である被控訴人が,平成30年11月22日付けで,控訴人理事長(処分行政庁)に対し,劇映画(作品名宮本から君へ。本件映画)の製作事業を助成の対象とする文化芸術振興費補助金による助成金の交付を要望し,控訴人理事長から,平成31年3月29日付けで,上記事業を助成対象活動とし,助成金の額を1000万円とする交付内定(本件内定)を受けたため,本件内定に係る助成金の交付を申請したが,控訴人理事長から,令和元年7月10日付けで,本件映画には麻薬取締法違反の罪で有罪が確定した者が出演しており,これに対し,国の事業による助成金を交付することは公益性の観点から適当ではないことを理由として,
助成金を交付しない旨の決定
(本
件処分)
を受けたため,
控訴人に対し,
本件処分の取消しを求める事案である。
原審は,本件内定を受けた被控訴人に対して助成金を交付しないこととした本件処分は,控訴人理事長が有する裁量権の範囲を逸脱し又はこれを濫用した違法な処分であるとして本件処分を取り消したため,これを不服として控訴人が控訴した。

2
関係法令等の定め,前提事実,争点及び当事者の主張は,以下のとおり原判決を補正し,後記3のとおり当審における当事者の追加的ないし補充的主張を加えるほかは,原判決の第2事案の概要の1ないし3に記載のとおりで
あるから,これを引用する。⑴

原判決2頁22行目の独立行政法人通則法の次に(以下「通則法
という。)」を,同23行目の3条の次に,通則法1条,2条1項及び2項をそれぞれ加える。


原判決3頁16行目の対しての次に文化芸術振興費補助金等から
を加え,同18行目の平成30年度から同21行目末尾までを平成31年度の控訴人の助成事業において,本件助成金のうち劇映画に係るものとしては,応募件数66件のうち24件が採択され,これらに対する助成金交付予定額は合計3億2400万円(1件当たり1350万円)であった(甲10)。に改める。


原判決4頁1行目の被告理事長は,の次に交付要望書を受理したときは,を加える。


原判決4頁7行目のところ,の次に本件映画のようなを加える。



原判決4頁25行目の交付要望等を交付要望や交付申請に,同2
6行目のに関する違反行為をに関して交付内定の内容又はこれに附した条件に違反する行為にそれぞれ改め,同行目のについて,の次に控訴人理事長がを加える。


原判決5頁4行目末尾に

また,本件要綱には,控訴人理事長が交付内定の全部又は一部を取り消す場合に,基金運営委員会の議を経る必要があることについて定めた規定はない。

を,同5行目の交付決定を受けた者の次に(助成対象者)をそれぞれ加える。



原判決5頁10行目の

確定する(16条)。

確定し,所定の通知書により助成対象者に通知する(16条)ところ,この通知を受けて助成対象者は上記助成金支払申請書を提出する。に改め,

同行目末尾に改行の上,
次のとおり加える。
本件要綱には,①交付要望や交付申請等について不正の事実があった場合,②助成対象者が助成金を助成対象活動以外の用途に使用した場合,③助成対象活動の遂行が助成金の交付内定の内容又はこれに附した条件に違反していると認められる場合等について,控訴人理事長が交付決定の全部又は一部を取り消すことができる旨の定めがあるところ(17条1項),控訴人理事長が交付決定の全部又は一部を取り消す場合に,基金運営委員会の議を経る必要があることについて定めた規定はない。⑻

原判決5頁12行目の本件当時を被控訴人が本件助成金の交付要望をした当時に改める。


原判決6頁4行目末尾に改行の上,次のとおり加える。
本件募集案内の「審査後の手続きについて欄には,⑵助成金交付申請書の提出の見出しの下に,内定を受けた団体が,これを受諾した場合には,助成金交付申請書(中略)を所定の期間内に振興会に提出する必要があります。振興会は,申請書の内容を審査し,助成金を交付すべきと認めたときは,助成金の交付決定をし,交付決定通知書により,当該団体に通知します。と記載されており,このうち,申請書の内容から当該団体に通知までの部分に下線が引
かれていた(甲7)。」

原判決6頁7行目の
着手し,の次に
同年9月29日に撮影を開始し,
を加える。


原判決6頁10行目の甲1,2,の次に検甲1,を加える。


原判決6頁22行目のAの次に

。以下,この役を「宮本

という。」を,同23行目のBの次に

。以下,この役を「靖子

という。」を,同26行目のCの次に

。以下,この役を「拓馬

という。」をそれぞれ加える。


原判決7頁8行目の宮本から同10行目末尾までを①宮本と靖子が上記飲み会に行くための待合せ場所に同行した真淵部長が,待合せの時間に遅れた靖子に対し,強い口調で迷惑を掛けたことを詫びるように迫る場面,②真淵部長が,自家用車でラグビーの練習場に向かう途中,宮本から拓馬の居場所を教えるように迫られる場面,③真淵部長が,喫茶店で,宮本に対し,拓馬との喧嘩の原因を問い詰めたところ,宮本から強く反発され喧嘩の原因を聞けないまま苦悩する場面,④真淵部長が,拓馬から殴られ重傷を負い入院中,宮本の訪問を受け,最終的に宮本に対して拓馬の居場所を伝える場面がある。に改める。⒁
原判決8頁7行目の「あるもの。」の次に以下「本件交付申請書という。」を,同8行目末尾になお,本件交付申請書の「主な出演者欄には,A,B,D,E,Fの名前に加え,本件出演者の名前(G)が記載されていた。また,本件交付申請書のメインキャスト費欄には,メインキャストの一人として本件出演者の役名及び名前が記載されていた
(甲5,
乙17)」

をそれぞれ加える。


原判決8頁12行目の14の次に,50の1~8を加える。


原判決8頁13行目の本件専門委員会から同14行目の行われたのはまでを本件部会からの審査の付託を受けて本件専門委員会が本件映画の審査を実際に行ったのはに改める。

原判決8頁19行目末尾に

本件有罪判決は,令和元年6月18日以降,新聞等により広く報道された(乙15,弁論の全趣旨)。

を加える。

原判決8頁20行目の本件処分を本件処分に至る経緯等に改め,
同行目末尾に改行の上,次のとおり加える。
ア控訴人の担当者は,令和元年7月2日から同月4日にかけて,基金運営委員会,本件部会(部会長,部会長代理及び劇作家専門委員会の主査),本件専門委員会の委員ら合計21名に架電し,本件交付申請に対し助成金を交付しない方針であると伝えた。これに対し,反対の意見を明らかにした者はいなかった。(甲23,乙43,52,弁論の全趣旨)⒆
原判決8頁21行目冒頭にイを,同9頁1行目冒頭にウをそれ

ぞれ加える。

原判決9頁5行目の交付内定及びを交付内定やに改める。
原判決9頁6行目末尾に改行の上,次のとおり加える。

⑺本件映画の上映被控訴人は,当初の予定どおり令和元年9月27日に本件映画を劇場公開した。


原判決9頁7行目の⑺を⑻に改める。原判決37頁の第十七条の2番目の(四)を(五)に,3番
目の(四)を(六)にそれぞれ改める。
原判決41頁15行目のまたを削る。
原判決43頁4行目の記載されことを記載されることに改める。
3
当審における当事者の追加的ないし補充的主張


控訴人の主張

本件助成金の交付又は不交付の判断に当たっては,本件助成金が国民の税金という貴重な財源を原資とするため,芸術的観点もさることながら,予算上の制約に対する考慮や,補助金を交付することの効率性・公正性等の専門的技術的な考慮を要する。また,控訴人は,通則法及び振興会法に基づく独立行政法人であるから,国民生活及び社会経済の安定等の公共上の見地に立ち公共の利益の増進を推進することを目的として業務を遂行しなければならず,ここで控訴人が追求すべき公益は,振興会法が定める芸術の創造又は普及を図るための活動等の援助にとどまらず,関係省庁等と緊密に連携して薬物乱用の防止を図ることも当然に含まれる。
したがって,本件助成金の交付又は不交付の判断については,控訴人理事長の広い裁量に委ねられるというべきであるから,本件処分の適法性は,本件処分がこのような控訴人理事長の広い裁量権の行使としてされたものであることを前提として,その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し,その判断が重要な事実の基礎を欠くか,又は社会通念に照らし著しく妥当性を欠くと認められるかどうかを審理し,それが認められる場合に限り,裁量権の範囲を逸脱し又はその濫用があったものとして違法となるという判断枠組みで判断されるべきである。イ
本件要綱は,控訴人理事長のいわゆる裁定として,控訴人の内部的な手続等を定めたものであり,国民に向けた公布の手続は採っておらず,本件助成金を交付する場合に関する実体的な基準を定めたものではない。本件処分は,法律の規定及び行政の本質に基づき求められる公益性の要件に従って行われたものであり,このような法律の規定と行政の本質に基づいてされた行政行為が,控訴人の内部的な手続等を定めたものであるにすぎない本件要綱の定めに左右されることはない。しかも,本件処分は,本件内定後に,本件出演者に対する麻薬取締法違反の罪による有罪判決が確定したことを理由とするものであるから,控訴人理事長が基金運営委員会の答申を踏まえて本件内定をしたことを過度に重視して本件処分に関する控訴人理事長の裁量の幅を限定し,裁判所が本件処分の適法性について全面的に審査するようなことは許されない。


深刻な社会問題である薬物乱用問題の解決に向けて,国や政府が一丸となって取り組んでいる状況の下では,公共上の事務等を取り扱う独立行政法人である控訴人も当然に同じ立場で事業を遂行する必要がある。しかも,
本件助成金による助成事業は,国(文化庁)から国民の税金を原資とする文化芸術振興費補助金の交付を受けて実施されている事業であるから,国が行う薬物乱用の防止に向けた取組に十分配慮しなければならないことは明らかである。
我が国の著名人であり影響力も大きい本件出演者が麻薬取締法違反の罪により逮捕されたことを受けて,民間業者やNHKは,本件出演者が出演する映画等の公開を中止又は延期したり,代役による撮影をしたりするなどの厳しい対応を講じていたところ,本件有罪判決が確定した正にその直後に,本件出演者が重要な役として出演している本件映画に対して,控訴人が本件助成金を交付したとすれば,国民から

国は薬物乱用に対し寛容である。

違法薬物を使用した犯罪者であっても国は大目に見てくれる。

との誤ったメッセージを控訴人が発信したと受け取られるおそれが高く,このような事態は,国が行う薬物乱用の防止に向けた取組に逆行するほか,国民の税金を原資とする本件助成金の在り方に対する国民の理解を低下させ,ひいては,控訴人の目的にも反することになる。

被控訴人は,本件内定前に,本件映画の製作を実質的に完了させていたため,本件内定後に新たに本件助成金の対象経費となり得る製作費の支出を伴う行為は一切生じていない。また,被控訴人は,当初の予定どおり令和元年9月27日に本件映画を劇場公開している。
本件処分は,被控訴人がもともと交付請求権を有していない1000万円の助成金を交付しないという内容のものにすぎず,被控訴人に対して再撮影を命じるようなものでもない。そして,被控訴人は,本件出演者が所属していた事務所から,本件内定が定めた助成金の額と同じ1000万円の賠償を受けている。したがって,本件処分が,被控訴人の本件映画の製作活動に与えた経済的影響は極めて限定的であり,本件処分の適法性の判断に当たって,本件処分により被控訴人が受けたとする不利益を過大に評価することは相当でない。



被控訴人の主張

控訴人は,芸術団体等が行う芸術創造活動に対する援助等を行う団体であり,本質的にその援助は助成の対象となる活動の創造性・芸術性の高さに着目して行われるべきものであり,国内の政治等の諸情勢や国際情勢,外交関係,国際礼譲などの諸事情を考慮した政治的な判断が求められる場合とは大きな違いがある。したがって,本件処分の適法性についての判断枠組みは,このような本件処分の性格を踏まえて検討すべきである。この点について,控訴人は,本件助成金の交付又は不交付の判断は,控訴人理事長の自由ないし広い裁量に委ねられると主張するが,上記のような本件処分の性質に照らしても失当であるし,本件助成金のように意識的に専門家の審査を採択段階に導入している補助金については,専門家の関与がない補助金の交付決定の場合と同列に扱うべきではないから,控訴人の上記主張はそれを支える理論的根拠を欠くというほかない。

国家による文化芸術助成は,憲法が保障する表現の自由を担保し,国民の多様な価値観を醸成するため不可欠なものであるが,様々な危険もはらんでいる。そのため,実際の助成に当たっては,助成の対象となる活動の内容には関与しないという原則(以下内容不関与の原則という。)に基づき,助成自体の自律性と活動主体の自主性・自律性を十分に保護し,これを担保するシステムが構築され,同システムに基づいて行われなければならない。本件助成金による助成制度において,交付内定の審査の過程に専門家の判断を介在させているのは,国家による文化芸術助成に内在する様々な危険を回避するためである。したがって,交付内定の審査の過程における専門家の知見を無視していいはずはなく,むしろ文化芸術助成の特質や内在する危険に鑑みれば,芸術的観点からの専門的知見を最大限に尊重し,その内容を踏まえて交付決定をすべきである。
これに対し,控訴人の主張を前提とすると,控訴人は,控訴人自身が設置し,運営する芸術文化振興基金を組織する専門家の専門的知見による判断に基づく交付内定を内部的・事実上の表示にすぎないとして軽視又は無視するという結果になるが,このような控訴人の姿勢は極めて不当であり,控訴人が自らの存在価値を否定することにも等しい。したがって,すでに交付内定を受けている本件映画に対して,交付内定の段階では検討の基礎とされていなかった新たな検討事実を理由として本件助成金の不交付決定をするのであれば,当該事実を審査の基礎事情に加えた上で,基金運営委員会,本件部会及び本件専門委員会(これらを併せて,以下本件専門委員会等という。)を構成する専門家に対して,本件処分の当否を諮るべきであったのであり,そのような過程を経ていないことは明らかに不当である。

本件要綱は,いわゆる給付規則(給付基準)に該当し,裁量基準の一種に当たるということができるところ,最高裁平成26年(行ヒ)第225号同27年3月3日第三小法廷判決(民集69巻2号143頁,以下最高裁平成27年判決という。)は,平等原則や信義則の見地から,本件要綱のような公表された内部のルールのうち合理的な内容であると認められるものについては,特段の事情がない限り,処分行政庁がその内容に拘束される旨判示している。
この裁量基準の合理性の有無の審査に際しては,裁量基準の前提となる立法事実の存在や裁量基準の制定目的と法令の目的との合理的関連性の有無が重要なポイントになると解されるところ,本件要綱は,特段の事情がない限りは交付内定の判断が維持されるという仕組みを通じて,交付内定の審査における芸術的観点からの専門的知見に基づく判断を尊重し,創作性・芸術性の高い映画作品等に本件助成金を交付することを目的とするものであり,このような本件要綱の制定目的は,振興会法1条及び3条の目的を促進するものであり合理性がある。さらに,本件要綱は,審査基準(本件審査基準)を詳細に規定した上で,交付内定と交付決定の2段階の手続を定めて慎重な審査を行おうとするものであり,その仕組みとしても極めて合理的な内容であるということができる。
本件要綱には行政手続法の直接の適用はないが,控訴人は,本件要綱をインターネット等で広く公表しているから,平等原則や信頼保護原則(信義則)の見地からは,審査基準(同法5条1項)と類似の性質を有していると評価すべきであるし,控訴人においては,交付内定後に一般的な公益に反することを理由に本件助成金を不交付とする処分をした例は過去にないというのであるから,本件要綱や本件要綱に基づいてされた本件処分にも,最高裁平成27年判決の上記判示ないしその趣旨や考え方が妥当するものというべきである。

薬物乱用を防止することも,芸術その他の文化の向上に寄与することもいずれも公益である。しかし,控訴人は,薬物乱用を防止するために存在しているのではなく,芸術その他の文化の向上に寄与するために存在しているのであるから,控訴人が前提とすべき公益は,芸術その他の文化の向上に寄与することであり,薬物乱用の防止は,厚生労働省などの然るべき機関に委ねれば足りる。また,仮に,薬物乱用の防止の必要性を考慮する必要があるとしても,控訴人が第一に考慮しなければならない公益は,芸術その他の文化の向上であるから,本件映画に対して本件助成金を交付することが芸術その他の文化の向上に大いに寄与するという側面を無視して,薬物乱用の防止という漠然とした公益性を重視して本件助成金を不交付とすることは許されない。


本件処分の適法性の判断に当たって本件助成金の交付により損なわれるおそれのある公益を考慮に入れるとしても,当然のことながら,逆に,本件助成金の交付によって得られる公益や,本件助成金を交付しないことによって損なわれる公益も踏まえなければならない。
本件映画は,映画賞や映画祭で極めて高い評価を受けていることから明らかなとおり芸術的文化的価値が極めて高い。このような映画に対して本件助成金を交付するということは,我が国の芸術その他の文化の向上という公益を実現する上で大きな意味がある。これに対し,

国は薬物乱用に対し寛容である。

などという誤ったメッセージを発信したと国民に受け取られるおそれがあるなどという漠然とした理由により,本件専門委員会等による芸術的観点からの専門的知見に基づく審査結果を無視し,控訴人理事長の独断で本件助成金を交付しないことは,控訴人が芸術その他の文化を重要視しないという逆に不合理なメッセージを発信したと国民に受け取られることになり,結果として,我が国の芸術その他の文化の向上という公益が大きく損なわれる。

テレビ,ラジオ,CM,音楽などと異なり,映画は見たくない人は見なくて済むという性質のものである。また,出演者のスキャンダルと当該出演者が出演した作品とは無関係であるとの考え方は,映画業界のみならず一般市民にも広く浸透しているところであり,現に,本件出演者が出演している映画の多くも,本件映画と同様に公開に踏み切っている。そして,このような考え方が一般に広く浸透していることは,本件出演者と同等あるいはそれ以上に知名度があり,本件出演者と同様に,複数の肩書により多方面で活躍しながら薬物の使用により有罪判決を受けた著名人についても,その出演作品について再撮影や編集等の対応を採ることなく公開等に至っていることからも明らかである。したがって,本件出演者及びその出演作品に対して厳しい対応が一般に採られたとする控訴人の主張はその前提を欠く。


本件映画やその原作の漫画には,登場人物が薬物を使用する場面や薬物を称賛容認する場面は一切ないし,本件出演者が演じた真淵部長役も薬物犯罪を連想させるような役ではない。さらに,本件映画のようにノンフィクション映画ではないものについては,出演者の演じる役が現実に存在する人物とは異なるものであることは公知の事実であるし,しかも,本件出演者は,国の機関である裁判所より本件有罪判決を受けている。したがって,控訴人が本件映画に本件助成金を交付したことが本件映画のエンドロールなどで表示されることになったとしても,国が薬物の使用を容認ないし軽視したという真逆のメッセージを発したと捉える国民が現実に存在するとは容易には想定し難い。

本件出演者が所属していた事務所から被控訴人に1000万円の損害賠償ないし損失補填がされた事実は,本件処分後に生じた事情であるから,本件処分の適法性の判断に当たって考慮されるべきものではない。被控訴人は,本件出演者の所属事務所ないし本件出演者の債務不履行又は不法行為により,本件映画の放送権ライセンスによる収入を得られなくなるなどの諸々の損害を被り,その損害額は少なくとも3000万円に上る。しかし,上記事務所との交渉が長引いたことから,やむを得ず解決金ないし示談金として1000万円を受領するにとどまったものであり,被控訴人において経済的な面での実質的な不利益が生じていないとはいえない。したがって,本件処分の適法性を判断する際には,本件処分により受けた被控訴人の不利益も十分に考慮されるべきである。

第3

当裁判所の判断

1
当裁判所は,本件処分は適法であり,被控訴人の請求は棄却すべきであると判断する。その理由は,当審における当事者の追加的ないし補充的主張も踏まえて以下のとおり原判決を補正するほかは,
原判決の
第3当裁判所の判断

の1ないし3に記載のとおりであるから,これを引用する。


原判決10頁16行目末尾に改行の上,次のとおり加える。
エ本件専門委員会は,平成31年2月20日,本件映画の製作活動を採択する旨の決定をし,この結果を受けて,本件部会は,同年3月6日,当該採択を了承する旨の決定をした(乙48,49)。基金運営委員会は,平成31年3月22日,本件映画の製作活動を含む助成対象活動全体について決定し,同日,控訴人理事長に対し,本件交付要望を採択すべき旨の答申をした。⑵
原判決10頁17行目のエをオに,同行目の本件審査の結果を受けたを上記エのに,同25行目のオをカにそれぞれ改める。


原判決11頁15行目冒頭から同20行目末尾までを次のとおり改める。イ本件映画の主な出演者は,主人公である宮本役のA,宮本の恋人である靖子役のB,靖子の元恋人である風間裕二役のD,宮本の対決相手である拓馬役のC,拓馬の父で,宮本の営業先会社の部長である真淵部長役の本件出演者,真淵部長の親友である大野平八郎役のFであり,このほか,宮本の先輩である神保和男役をE,宮本の同僚である田島薫役をH,宮本の勤務先の営業課長の小田三紀彦役をI,同営業部長の岡崎役をJが演じている(前提事実⑶,甲1,2,検甲1,乙1の1)。


原判決11頁21行目の
登場する
から同23行目の
父親でもあり,
までを削り,同行目の喧嘩の次にの原因が拓馬にあることを加え,同24行目の

描かれている。

描かれており,本件映画のパンフレット中の監督と原作者の対談記事では,「拓馬の父・敬三はGさん。コワモテな親子感がいい。

という見出しの下,原作者が,監督に対し,本件出演者が本件映画の重しになっているとの感想を述べ,これに対し,監督が,原作者に対し,拓馬の父親を誰にするかは重要であったと述べており,本件出演者が演じた真淵部長が,本件映画のストーリーの中で重要な役割を果たしていることが紹介されている。」に改める。



原判決11頁26行目の前提事実⑶,甲2,乙1の1を前提事実⑶,甲2,検甲1,乙1の1,弁論の全趣旨に改める。


原判決12頁1行目の本件出演者から同4行目末尾までを上記イの出演者の名前は4段に分けて記載されており,このうち,本件出演者の名前は,上から4段目の中央部分に記載されている。また,本件映画のエンドロールの出演者紹介の場面では,本件出演者は,主人公である宮本役のAや宮本の恋人である靖子役のBと同じ大きさ及びフォントで,一番最後に一人だけで表示されている。(甲1,検甲1,乙1の2)に改める。⑺

原判決12頁5行目の対応の次に等を加え,同7行目の

報道された(前提事実⑸ア)。

を報道され,同日以降も,新聞等の媒体で繰り返し報道された。これらの報道の中には,本件出演者が20代の頃からコカインなどの薬物を使用し,直近の五,六年間は,仕事の合間に使用を繰り返していたなどと伝えるものもあった。前提事実⑸ア,(乙50の11~41)に改める。



原判決12頁11行目のまた,の次に本件出演者が過去に出演したNHKの大河ドラマ「龍馬伝,NHKの連続テレビ小説とと姉ちゃん及びあまちゃんのシリーズ全作品のオンデマンド配信が中止された。さらに,」を加える。



原判決12頁14行目から15行目にかけての

などした(乙25の1~13)。

などした。(乙25の1~13,乙56の1~4,乙57,58の3及び4)

に改める。

原判決12頁17行目の

公開された(乙26)。

公開され,他にも同様の取扱いをした映画等もあった(甲24,乙26,弁論の全趣旨)。

に改め,同行目末尾に改行の上,次のとおり加える。

ウ本件出演者は,平成31年4月2日付けで,所属していた事務所である株式会社ソニー・ミュージックアーティスツから,同社との間で締結していたマネジメント契約を解除された(乙50の23)。



原判決13頁3行目の場面の次にの多くを加え,同行目の真淵拓馬役の俳優を拓馬役のCに,同4行目の30kgを33kgに,同7行目の甲2を甲1,2にそれぞれ改める。


原判決13頁9行目の受け,その事実はを受け,同日以降,その事実は新聞等の媒体により広くに改める。⒀
原判決13頁16行目のイをウに,同19行目の⑴を⑴アに,同26行目の行うことを定めているが,そのを行うこととし,さらに,14条1項各号の業務及びこれに附帯する助成業務に必要な経費の財源をその運用によって得るために芸術文化振興基金を設け,政府から出資があったものとされた金額等をもってこれに充てることを定めているが(16条),上記の資金の支給その他必要な援助を行う場合についてのにそれぞれ改める。


原判決14頁2行目の文化の振興等から同4行目の行うか等を,
までを①本件助成金が,特定の事業を実施する者に対して当該事業を助長するために恩恵的に交付される補助金であること,②本件助成金の交付が授益処分に該当し,処分の名宛人に対して最低生活の保障を図るような性質のものではなく,恩恵的利益の付与に当たるものであること,③本件助成金が,法律の規定に基づかずに給付される予算補助の性質を有する任意的補助金であり,控訴人理事長にその交付を義務付けるものではないこと,④控訴人が,国民の需要に的確に対応した多様で良質なサービスの提供を通じて公共の利益の増進を推進することを目的とする独立行政法人(通則法2条2項の定める中期目標管理法人)であり,本件助成金による助成事業に当たっても,上記の目的に照らした公益性の観点からの業務の遂行が求められていること,⑤本件助成金による助成の対象となる芸術家及び芸術に関する団体が行う活動等は多岐にわたるため,本件助成金を交付する場合についての実体的な基準を網羅的に設けることは困難である上,本件助成金による助成事業の性質に照らしても相当ではないと考えられることなどに照らし,いかなる活動を助成の対象とするか,いかなる手続で助成を行うか,いかなる場合に助成を行うか等を,に改める。

原判決14頁6行目冒頭から同18頁8行目末尾までを次のとおり改める。イそして,振興会法17条により本件助成金について準用される適正化法は,補助金等に係る予算の執行に当たっては,補助金等が国民から徴収された税金その他の貴重な財源でまかなわれるものであることに特に留意し,補助金等が法令及び予算で定めるところに従って公正かつ効率的に使用されるように努めなければならないことを定めているところ(3条1項),適正化法が求める本件助成金の公正かつ効率的な使用を実現するためには,基金運営委員会の「文化芸術振興費補助金による助成金交付の基本方針(甲7の資料3)
が定めるように,芸術団体等の自主性も十分に尊重した上で,我が国の芸術水準の向上に資するような創作性・芸術性の高い舞台芸術や優れた日本映画の製作活動等を助成の対象とし,適切な助成効果が得られるような配慮が必要となり,そのためには,本件審査の中に助成の対象となる各分野における芸術の専門家による芸術的観点からの専門的知見に基づく評価を取り入れることが必要不可欠である。本件助成金の交付について必要な事項を定める本件要綱が,本件助成金の交付要望をした者に対する交付内定の手続と内定者に対する交付決定の手続を定め,第1段階である交付内定の手続において基金運営委員会の議(基金運営委員会に設けられた分野別の
部会及びその下に設けられた各専門委員会における芸術的観点からの専門的知見に基づく審査の結果を踏まえた答申)を経ることを定めているのも(4条),控訴人理事長において,本件助成金の交付に係る裁量権を行使するに当たっては,本件助成金の公正かつ効率的な使用を実現するために,助成の対象となる各分野における芸術の専門家による芸術的な観点からの専門的知見を的確に反映させることが必要不可欠であると考えているからであると解される。もっとも,本件助成金の交付に関する控訴人理事長の処分については行政手続法第2章及び第3章の規定は適用されず(振興会法17条により準用される適正化法24条の2),本件要綱は振興会法その他の法令に根拠を持たない控訴人の内部的な手続細則にとどまるか
ら,本件要綱の定めにより本件助成金の交付又は不交付の判断についての控訴人理事長の裁量権の行使が法的に制限されるものではないし,本件要綱の定める交付内定によって内定者に本件助成金の交付請求権が発生したりするものでもない。
⑵ア

また,既に説示したとおり,振興会法は,本件助成金の交付に関
する具体的な要件を定めていないところ,本件助成金は,国民から徴収された税金(文化芸術振興費補助金)を主な財源として特定の事業を実施する者に対して当該事業を助長するために恩恵的に交付される任意的補助金であり,法令及び予算で定めるところに従って公正かつ効率的に使用されなければならないものであるから(適正化法3条1項),控訴人理事長が行う本件助成金の交付又は不交付の判断は公益に合致したものであることを要するというべきであ
る。したがって,控訴人理事長は,基金運営委員会における,助成の対象となる各分野における芸術の専門家による芸術的観点からの専門的知見に基づく採択を踏まえて交付内定を行った場合であっても,交付申請の審査の手続において,公益性の観点(芸術的観点以外の観点)から本件助成金を交付することが不適当であると認めたときは,本件助成金の不交付決定をすることができるものと解される。このことは,本件要綱が,①控訴人理事長は,内定者から交付申請書を受理したときは,その内容を審査の上,助成金を交付すべきと認めたときは助成金の交付決定をすることを定め
(8条1項)

控訴人理事長が,交付決定の段階で改めて内定者から提出された交付申請書の内容を審査することを前提とした規定を置いているこ
と,
②控訴人理事長は,
交付内定後に事情の変更があった場合等に,交付内定の全部又は一部を取り消すことができることを定め(6条1項,7条3項及び8条3項),一定の要件を満たす場合には,控訴人理事長の判断により交付内定を取り消して本件助成金を不交付とすることができる旨の規定を置く一方で,交付内定を取り消す場合に基金運営委員会の議を経なければならないとする規定を置いていないこと,③本件募集案内の中でも,控訴人が内定者から提出された交付申請書の内容を審査し,本件助成金を交付すべきと認めたときは交付決定をするという部分が下線で強調され,交付内定がされても再度の審査があることを注意喚起していることからも明らかである。

そして,上記のような公益性の観点から控訴人理事長が行う本件
助成金の交付又は不交付の判断は,①助成の交付の対象となる事業の内容,
②助成の対象となる経費及び助成金の額,
③助成の必要性,
④本件助成金を交付しない場合に内定者に生じ得る影響の内容及び程度等,⑤本件助成金を交付した場合に生じ得る影響の内容及び程度等の諸般の事情等を総合考慮した上でされる控訴人理事長の合理的な裁量に委ねられているというべきである。したがって,控訴人理事長の本件助成金の交付に係る裁量権の行使が逸脱濫用に当たるか否かの司法審査においては,その判断が裁量権の行使としてされたものであることを前提とした上で,その判断要素の選択や判断過程に合理性を欠くところがないかを検討し,その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合,又は,事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものと認められる場合に限り,裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものとして違法となり,裁判所は,上記判断に基づいて控訴人理事長がした処分を取り消すことができるもの(行政事件訴訟法30条)と解すべきである。」

原判決18頁9行目冒頭から同19頁16行目末尾までを削る。


原判決19頁15行目末尾に改行の上,次のとおり加える。
⑶被控訴人の主張についてア被控訴人は,本件処分は控訴人理事長による裁量判断に基づくものではあるものの,文化芸術活動に係る市民の表現の自由の保障等の観点から,芸術性に関しての判断は芸術関係の知見を有する専門家に任せて行政や政治家は介入しないという内容不関与の原則が確立されているところ,本件では,被控訴人に対して本件専門委員会等による専門的知見を踏まえた判断に基づいた交付内定がされているから,本件助成金の交付又は不交付についての控訴人理事長の要件裁量の幅は狭いと解すべきであると主張する。しかし,既に説示したとおり,控訴人理事長による本件助成金の交付又は不交付の判断は芸術的観点からのみ行われるものではなく他の公益も含めた諸般の事情を考慮した総合的な観点から行われるものであるから,本件要綱4条が定める「基金運営委員会の議は,芸術的観点からの専門的知見に基づく評価を示すものとして,控訴人理事長が判断をする際の考慮要素の一つとして十分に尊重すべきものではあるけれども,控訴人理事長が芸術的観点以外の考慮要素に基づいて本件助成金の交付又は不交付をする際の裁量についてまで制約するものとはいえない。


また,被控訴人は,控訴人理事長が自ら定めて公表した本件要綱
は裁量基準の一種に当たるから,本件要綱の定めが合理的な内容であると認められる限り,控訴人理事長に対する実体的な拘束力を持ち,本件要綱の定めの中にある基金運営委員会の答申に基づいて本件内定をした控訴人理事長が,本件要綱の定めと異なる取扱いをすることは特段の事情がない限り,信頼の保護や審査の公正性・平等原則の観点から許されないなどと主張し,その根拠として最高裁平成27年判決を挙げる。
しかし,振興会法は,控訴人が助成業務に必要な経費の財源を得
るために芸術文化振興基金を設けることを定めるのみで
(16条)

基金運営委員会の設置についての定めは置いていないから,基金運営委員会は法律上の根拠を有するものではないし,本件要綱が控訴人の内部的な手続細則にとどまることは既に説示したとおりであ
る。被控訴人が自らの主張の根拠として挙げる最高裁平成27年判決は,行政手続法12条1項に基づいて定められ公にされている処分基準に自己拘束性があることを前提として,先行の処分を受けたことと後行の処分における不利益取扱いとの間の法律上の関連性を肯定し,訴えの利益の存続を認めたものであり,処分基準について法規命令と同様の外部的な効果まで認めたものではないし,この点を措くとしても,本件助成金の交付に関する控訴人理事長の処分については行政手続法第2章及び第3章の規定は適用されないから
(振興法17条により準用される適正化法24条の2),本件要綱は,
最高裁平成27年判決が前提とする処分基準とは性格を異にし,
被控訴人の主張は前提を欠くといわざるを得ない。

したがって,被控訴人の上記各主張はいずれも採用することがで
きない。」


原判決19頁18行目の上記2⑷イから同26行目末尾までを上記2⑵イで説示した判断枠組みを前提として,本件内定を受けた被控訴人に対して本件助成金を交付しないこととした控訴人理事長の判断が,その基礎とされた重要な事実に誤認があること等により重要な事実の基礎を欠くこととなる場合,又は,事実に対する評価が明らかに合理性を欠くこと,判断の過程において考慮すべき事情を考慮しないこと等によりその内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くものとして,裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものと認められるか否かについて検討する。に改める。⒆
原判決20頁1行目の本件処分から同2行目末尾までを削り,同6行目の⑹の次にイを加える。


原判決20頁17行目の広告に接した者を広告等に接した一般国民に改める。
原判決20頁23行目冒頭から同25頁14行目末尾までを次のとおり改める。
ウそして,①本件出演者は,本件映画の主演ではないものの,本件映画のストーリーにおいて欠くことのできない重要な役割を果たしているものと認められ(認定事実⑵イ),被控訴人が控訴人に提出した本件交付申請書の中でも,本件出演者は本件映画の主な出演者の一人とされていること(前提事実⑷ウ),②本件出演者は,本件映画のエンドロールの出演者紹介の場面で主演であるAと同じ大きさ・フォントの文字で最後に一人で紹介されていること(認定事実⑵ウ),③本件出演者は,多数の映画作品やテレビドラマ等に出演歴のある著名人であり,本件出演者が逮捕されたことや有罪判決を受けたことは,国民の大きな関心事として新聞等により連日にわたり報道されたこと(上記イ,前提事実⑸ア及びイ,弁論の全趣旨),④本件出演者が犯した犯罪は,麻薬取締法違反(コカインの自己使用)という看過することのできない重大な薬物犯罪であり,上記③の報道の中には,本件出演者が20代の頃からコカインなどの薬物を使用し,直近の五,六年間は仕事の合間に使用を繰り返していたと伝えるものもあったこと(認定事実⑶ア),⑤本件処分当時,本件出演者が出演していた映画やテレビドラマの多くは代役による再撮影がされたり,本件出演者の出演場面がカットされたりするなどの対応が採られていたこと(認定事実⑶イ)が認められる。そして,薬物の使用については,麻薬取締法その他の法令により刑罰規定をもって禁止され,現に,これらの法令に違反する行為については厳正な処罰の対象とされている上,厚生労働省等により薬物乱用の根絶に向けた啓発活動が強化され,そのための様々な取組が実施されているものの依然として深刻な社会問題となっている。このような状況下において,控訴人理事長が,本件出演者が本件内定後に麻薬取締法違反の罪により有罪判決を受け,同判決が確定したという事実を踏まえて,薬物乱用の防止という公益の観点から,国民から徴収された税金を原資とする本件助成金を本件映画に交付しないとする決定をしたからといって,重要な事実の基礎を欠いているとか,その判断の内容が社会通念に照らし著しく妥当性を欠いているということはできない。かえって,上記の状況下において,本件映画に本件助成金を交付すれば,控訴人が主張するとおり,観客等に対し,「国は薬物犯罪に寛容である,違法薬物を使用した犯罪者であっても国は大目に見てくれるという誤ったメッセージを控訴人が発したと受け取られ,薬物に対する許容的な態度が一般的に広まり,ひいては,控訴人が行う助成制度への国民の理解を損なうおそれがあるというべきである。」
原判決25頁15行目冒頭から同27頁23行目末尾までを次のとおり改める。
⑶アこれに対し,被控訴人は,控訴人理事長は,本件助成金の交付又は不交付の判断において本来重視すべき本件映画の文化的芸術的価値を考慮せず又は軽視し,本来考慮すべきではない本件出演者の本件有罪判決という公益に関わる事情を考慮した違法があると主張する。しかし,既に説示したとおり,本件処分は,本件映画のストーリーの中で欠くことのできない重要な役として出演する本件出演者が麻薬取締法違反の罪により本件有罪判決を受け,本件有罪判決が確定したという重要な事実を基礎として,薬物乱用の防止という公益の観点からされたものであり,本件映画の内容等の芸術的観点からされたものではないから,控訴人理事長が本件映画の文化的芸術的価値を考慮せず,又は軽視したということはできない。また,本件助成金が国民の税金を原資とするものであることや控訴人が公共の利益の増進を推進することを目的とする独立行政法人であることなどから公益性に関わる事情も考慮すべきであることは既に説示したとおりであるところ,薬物乱用の防止という公益が抽象的な概念であって,本件助成金の交付又は不交付の判断の考慮要素たり得ないということはできない。イ被控訴人は,控訴人理事長は本件映画における本件出演者の出演時間等の重要な事実を調査していないから,本件処分は重要な事実の基礎を欠くと主張する。確かに,本件出演者が演じた真淵部長が登場する場面は,全129分のうち約11分であり,1割にも満たないものである。しかし,本件出演者が本件映画のストーリーの中で欠くことのできない重要な役割を果たしていることは既に説示したとおりであり,このことは,本件出演者の本件映画の中での出演時間により左右されるものではない。そして,控訴人理事長は,被控訴人から提出された本件交付申請書の内容や初号試写での本件出演者の出演場面の印象等を踏まえて本件処分をしたものと推認することができるところ,本件処分をした控訴人理事長の判断が重要な事実の基礎を欠いているとは認められない。ウ被控訴人は,本件映画に本件助成金が交付されたとしても,控訴人が薬物の使用を公的に容認するかのようなメッセージを発したなどと受け取られる具体的なおそれはないから,本件出演者が本件有罪判決を受けたことに対する控訴人理事長の評価は不合理かつ過大であり,本件処分は,事実に対する評価が明らかに合理性を欠いていると主張する。しかし,本件出演者が本件映画のストーリーの中で欠くことのできない役割を果たしており,本件映画のパンフレットやエンドロールの中でも主要な出演者として位置付けられていること等に照らし,本件映画に対して本件助成金を交付することにより,控訴人が薬物の使用について寛容であるなどとするメッセージを発したと観客等に受け取られるおそれがあると評価したとしても,そのような評価が社会通念に照らし著しく妥当性を欠いているといえないことは上記⑵ウで説示したとおりである。この点は,控訴人が本件訴訟の係属後である令和2年7月に株式会社マクロミル社に委託して行ったアンケート調査の結果(乙24の1~4)においても,本件映画に対して税金を原資とする助成金を交付することについて否定的な見解が相当数見られることによっても裏付けられているというべきである。エ被控訴人は,国家による文化芸術助成は,国による表現の選別のおそれがあるから,恣意的な助成が行われることは許されず,内容不関与の原則に基づいて助成自体の自律性と活動主体の自主性・自律性を保護することが必要であるところ,薬物乱用の防止という考慮し得ない事項を理由に別異の取扱いをした本件処分は平等原則に違反すると主張する。確かに,公益性という名目で控訴人理事長が芸術活動の内容等に着目して恣意的に助成を行うことは許されないというべきであり,芸術的観点からの芸術活動の評価については,助成の対象となる各分野における芸術の専門家による芸術的な観点からの専門的知見に基づく意見が尊重されるべきである。しかし,本件処分は,麻薬取締法違反の罪により有罪が確定した本件出演者が出演する本件映画に国民の税金を原資とする本件助成金を交付することが公益の観点から適当でないことを理由とするものであり,本件映画の芸術的観点に基づいて本件助成金を不交付とするものではないから,内容不関与の原則に反するものではないし,平等原則に反するものでもない。そして,本件助成金の交付又は不交付の判断に当たって,控訴人理事長が薬物乱用の防止という公益を考慮することが当然に許されることは既に説示したとおりである。オ被控訴人は,本件処分に当たり,基金運営委員会による再度の審査を経ていれば,本件助成金の交付決定がされる可能性があったにもかかわらず,これを欠いてされた本件処分には手続的な瑕疵があると主張する。しかし,振興会法や本件要綱の中には,控訴人理事長が本件助成金の交付又は不交付の判断をする際に基金運営委員会の再度の審査を経なければならないことを定めた規定は存在しないから,控訴人理事長が,本件処分に先立って基金運営委員会に諮問していないことをもって,本件処分に手続的な瑕疵があるとはいえない。また,この点を措くとしても,本件要綱が交付内定に際して基金運営委員会の議を経ることとしているのは本件助成金の審査の過程に芸術的観点を適切に反映させることが目的であるから,芸術的観点からではなく他の公益性の観点から本件助成金を交付することが適当でないとの理由で不交付決定をする場合にまで基金運営委員会の議を改めて経る必要があるとは考えられない。カ被控訴人は,本件処分により被控訴人が受ける不利益を十分に考慮していないと主張する。しかし,控訴人の内部的な手続細則にすぎない本件要綱に基づいて交付内定を受けていることから助成金の交付請求権が発生していたということはできないし,本件映画の撮影は,被控訴人が本件交付要望をする前に既に完了している。また,本件助成金の額(1000万円)の本件映画製作の予算全体(助成対象と認定された経費は約7800万円)に占める割合を考慮しても,本件処分により本件映画の製作に重大な支障が生じたとは考え難い。キ被控訴人は,本件処分に係る通知書の理由には,適用された法令の記載がなく,本件要綱と控訴人がいう「公益性との関係の記載も十分ではないから,本件処分には理由付記の不備の違法があると主張する。
しかし,振興会法には本件助成金の不交付決定について理由付記
を求める規定はないし,同法17条により本件助成金について準用される適正化法24条の2は,本件助成金の交付に関する控訴人理事長の処分については行政手続法第2章及び第3章の規定を適用しない旨を定めているから,理由の提示を義務付ける同法8条の規定は本件処分には適用されない。そして,理由付記においてどの程度の記載をなすべきかは,処分の性質と理由付記を命じた各法律の規定の趣旨・目的に照らして判断されることになるところ,本件処分の理由として記載された内容は,公益性が多義的な概念であることを考慮しても,理由の提示として不十分であるとは認められない。ク
以上によれば,被控訴人の上記主張はいずれも採用することがで
きない。」

原判決27頁25行目冒頭から同28頁13行目末尾までを次のとおり改める。
⑷以上によれば,控訴人理事長がした本件処分が重要な事実の基礎を欠くとは認められないし,また,その判断が社会通念に照らし著しく妥当性を欠くとも認められない。したがって,本件処分は,裁量権の範囲を逸脱し,又はこれを濫用したものとは認められないから適法というべきである。
2
以上によれば,被控訴人の請求は棄却するのが相当であるから,これと異なる原判決を取り消すこととし,主文のとおり判決する。
東京高等裁判所第7民事部

裁判長裁判官

足立
裁判官

堀田次
裁判官

富澤賢哲郎一郎
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