判例検索β > 令和3年(わ)第204号
被告人A及び被告人Bに対する各補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律違反被告事件
事件番号令和3(わ)204
事件名被告人A及び被告人Bに対する各補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律違反被告事件
裁判年月日令和4年3月28日
法廷名福岡地方裁判所  小倉支部
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-03-28
情報公開日2022-04-23 04:00:08
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令和4年3月28日宣告
令和3年

第204号、第368号

被告人A及び被告人Bに対する各補助金等に係る予算の執行の適正化に関する法律(以下補助金適正化法という。)違反被告事件

主文
被告人両名をそれぞれ懲役1年6月に処する
被告人両名に対し、この裁判確定の日から3年間、それぞれその刑の執行を猶予する。
理由
【罪となるべき事実】
被告人Aは、Cの振興に努めることなどを目的とするC振興会(以下振興会という。の修理委員会委員として、

C行事の用具等の修復に関する専門的な検討等
を行う職務に従事し、民俗文化財伝承・活用等事業を対象とする文化庁所管の国宝重要文化財等保存整備費補助金(以下本件補助金という。
)に係るC行事用具等
整備事業(以下本件事業という。
)に関する検討等を行っていたもの、被告人B
は、祭礼幕等の制作等の事業を営み、平成28年3月1日以降は、株式会社Dの代表取締役として、同事業を営む同会社の業務全般を統括し、振興会から本件事業に係る作業の委託を受けていたものであるが、被告人両名は、前記修理委員会副委員長として前記職務に従事し、本件事業に関する検討等を行うとともに、本件補助金の交付申請手続等を行う職務に従事していたEと共謀の上、振興会の業務に関し、不正に本件補助金の交付を受けようと考え、真実は、交付を受ける本件補助金の全額を本件事業に必要な作業に使用する意思はなく、被告人Bが振興会から本件事業に係る委託費の支払を受けた後、被告人Aらに本件補助金の一部を含む委託費の15パーセントに相当する金額を還流させて利得させる意図であるのにこれを秘し、第1

Eが、平成27年2月10日頃、本件事業に関し、被告人Aらの利得分を含ませて見積金額を1749万5000円(税抜き)と過大に算定した内容虚偽の見積書とともに、同見積書に基づき補助金の額を985万5000円とする平成27年度本件補助金交付申請書を、北九州市小倉北区城内1番1号北九州市市民文化スポーツ局文化部文化企画課に送付し、福岡県教育庁教育総務部文化財保護課を経由して、
同月13日、
文化庁長官に提出し、
同年4月23日頃、
本件事業に関し、被告人Aらの利得分を含ませて見積金額を3576万円(税抜き)と過大に算定した内容虚偽の見積書とともに、同見積書に基づき変更により増額すべき補助金の額を985万5000円とする計画変更承認申請書を、前記文化企画課に送付し、前記文化財保護課を経由して、同月30日、文化庁長官に提出し、同年12月11日頃、本件事業に関し、被告人Aらの利得分を含ませて見積金額を312万円(税込み)と過大に算定した内容虚偽の見積書とともに、同見積書に基づき変更により増額すべき補助金の額を156万円とする計画変更承認申請書を、前記文化企画課に送付し、前記文化財保護課を経由して、同月15日、文化庁長官に提出し、平成28年2月1日、本件補助金の交付事務に関する決裁権者である文化庁文化財部長Fをして、振興会に対して補助金として2127万円を交付する旨決定させた上、同年4月中旬頃、前記文化企画課を経由して、前記文化財保護課に対し、前記本件補助金申請書及び前記各計画変更承認申請書に記載の委託費を実績額とする平成27年度本件補助金実績報告書を提出し、平成28年4月20日、本件補助金の額を2127万円に確定させ、同月21日、同課を介して福岡県会計管理者に対し、確定した同補助金の交付を請求する補助金等精算請求書を提出し、よって、同月27日、福岡県会計管理局会計課職員をして、株式会社G銀行本店営業部に開設されたC振興会会長H名義の普通預金口座に2127万円を振込入金させ、もって偽りその他不正の手段により本件補助金2127万円のうち313万0560円の交付を受け
第2

Eが、平成28年2月10日頃、本件事業に関し、被告人Aらの利得分を含ませて見積金額を3911万1111円(税抜き)と過大に算定した内容虚偽の見積書とともに、同見積書に基づき補助金の額を2164万円とする平成28年度本件補助金交付申請書を、前記文化企画課に送付し、前記文化財保護課を経由して、同月12日、文化庁長官に提出し、同年12月7日頃、本件事業に関し、被告人Aらの利得分を含ませて見積金額を170万円(税抜き)と過大に算定した内容虚偽の見積書とともに、同見積書に基づき変更により増額すべき補助金の額を91万8000円とする計画変更承認申請書を、前記文化企画課に送付し、前記文化財保護課を経由して、同月16日、文化庁長官に提出し、平成29年1月31日、本件補助金の交付事務に関する決裁権者である文化庁文化財部長Iをして、振興会に対して補助金として2255万8000円を交付する旨決定させた上、同年4月頃、前記文化企画課を経由して、前記文化財保護課に対し、前記本件補助金申請書及び前記計画変更承認申請書に記載の委託費を実績額とする平成28年度本件補助金実績報告書を提出し、平成29年4月24日、本件補助金の額を2255万8000円に確定させ、同日、同課を介して前記会計管理者に対し、確定した同補助金の交付を請求する補助金等精算請求書を提出し、よって、同月27日、前記会計課職員をして、前記普通預金口座に2255万8000円を振込入金させ、もって偽りその他不正の手段により本件補助金2255万8000円のうち330万5700円の交付を受け
第3

Eが、平成29年2月8日頃、本件事業に関し、被告人Aらの利得分を含ませて見積金額を3990万5371円(税抜き)と過大に算定した内容虚偽の見積書とともに、同見積書に基づき補助金の額を2200万円とする平成29年度本件補助金交付申請書を、前記文化企画課に送付し、前記文化財保護課を経由して、同月15日、文化庁長官に提出し、同年3月29日頃、本件補助金の交付事務に関する決裁権者である前記Iをして、振興会に対して補助金として2200万円を交付する旨決定させた上、平成30年4月頃、前記文化企画課を経由して、前記文化財保護課に対し、前記補助金申請書に記載の委託費を実績額とする平成29年度本件補助金実績報告書を提出し、平成30年4月19日、本件補助金の額を2200万円に確定させ、同月20日、同課を介して前記会計管理者に対し、確定した同補助金の交付を請求する補助金等精算請求書を提出し、よって、同月26日、前記会計課職員をして、前記普通預金口座に2200万円を振込入金させ、もって偽りその他不正の手段により本件補助金2200万円のうち323万2335円の交付を受けた。
【事実認定の補足説明】
第1

争点
判示第1ないし第3の各事実(以下、まとめて本件という。
)における争
点は、①偽りその他不正の手段
(補助金適正化法29条1項)が認められる
か否か(被告人A関係)
、②偽りその他不正の手段と本件補助金の受交付との間に因果関係が認められるか否か(被告人A関係)
、ないし、因果関係が認め
られる範囲は受交付に係る本件補助金の全額か一部か
(被告人B関係)③被告

人Aに故意並びに被告人B及びEとの間の共謀が認められるか否か(被告人A関係)である。
当裁判所は、各争点について、判示のとおり、いずれも認める(ただし②については一部)認定をしたので、以下、その理由を補足して説明する。
第2

争点①(
偽りその他不正の手段が認められるか否か)について

1
争点判断の前提となる本件補助金額の決定基準等について、関係証拠によれば、
以下の事実が認められ、
これらの点については当事者間に特段争いはない。


C行事は、国の重要無形民俗文化財に指定され、本件事業については、本件補助金が交付され得るところ、その交付額は、文化財保護法に基づき必要な事項を定めた民俗文化財伝承・活用等事業費国庫補助要項に従い、補助対象経費の2分の1と定められていた。



振興会は、祭礼幕等の制作等を営む被告人Bに対し、本件事業であるCの祭礼幕の復元新調等を委託したところ(なお、被告人Bは、平成28年3月1日に株式会社Dを設立し、その後は同社の業務として本件事業に関与していたが、以下、便宜上、被告人B個人と同社とを区別せずに述べることがある。、その委託費は、補助対象経費に当たり、本件補助金を含む国等からの)
振興会に対する補助金及び振興会の自己資金を原資として支払われることが予定されていた。
そのため、本件補助金の申請及び計画変更承認の申請に当たっては、被告人B作成の見積書を添付して、その提出がなされ(以下、被告人B作成に係る判示第1ないし第3記載の各見積書をまとめて
本件各見積書
という。、

それに基づき決定された額の補助金が振興会に交付された。


振興会には、C行事の用具等の修復に関し、学識経験者等による専門的な検討等を行うため、修理委員会が設置されていたところ、被告人Aは、平成10年頃から平成30年までの間、C四団体のうちの一つであるJの総代表を務めるとともに、本件当時、修理委員会の委員も務めていた。また、Eは、本件当時、Jの副総監督を務めるほか、修理委員会の副委員長も務め、本件事業に関し、補助金の申請や被告人Bとのやり取りの一切を担っていた。


被告人BとEは、本件補助金の申請をする時点において、被告人Bが、振興会から委託費の支払を受けた後、被告人Aらに対し、委託費の15パーセントに相当する金額ないしこれと同程度の金額を、特段使途を定めずに支払う旨の合意をしていた(以下本件合意という。また、これに基づき被告人Bが被告人Aらに支払う上記金額の金員を被告人Aらの利得分という。。なお、本件各見積書に、被告人Aらの利得分に関する記載はなかった。)

2⑴

そうしたところ、
被告人Aの弁護人は、
本件合意の存在を前提にした上で、
①被告人Bは、あくまで自己の利益の中から被告人Aらの利得分を支払っており、実際、本件各見積書には不要な作業は記載されておらず、その見積金額が相場より高いということもないのであって、被告人Bが、被告人Aらの利得分を含ませて過大に算定した事実はなく、
②そもそも、
受託業者に対し、
支払を受けた委託費の使途を拘束する趣旨のルールは存しない中、本件各見積書に、被告人Bによる被告人Aらの利得分の支払という委託費の使途が記載されていなかったからといって、虚偽があるとはいえない、結論として、被告人Aらの利得分を含ませて見積金額を……過大に算定した内容虚偽の見積書とともに……提出したとは認められず、ひいては、偽りその他不正の手段があったとは認められない旨主張する。
⑵ア

そこで検討すると、確かに、被告人Bの供述を含め、本件で取調べ済みの証拠を見る限り、本件各見積書に、本来、補助対象経費に該当しない不必要な作業等が記載されたり、その見積金額が相場よりも高く設定されたりしたことを窺わせるものはなく、被告人Bが完成させた作業等の結果も計画内容に照らして問題ないものであった。
そのため、
検討に当たっては、
これらの点を前提とする必要があるが、本件では、それでもなお、被告人Aらの利得分を含ませて見積金額を……過大に算定した内容虚偽の見積書とともに……提出したと認められるというべきである。

すなわち、事の良し悪しは別にして、証拠上、当該業界内では、本件合意と同様に、委託費の一定割合の金額を受託業者が事業者側に支払うとの慣行が存在していたことが窺われるところ、実際、本件では、証拠上、被告人Bが、振興会から本件補助金等を原資とする委託費の支払を受けた後、
本件合意に基づき、
被告人Aらの利得分の支払をしたことが認められ、
被告人B自身、仮に受注した仕事が赤字であっても被告人Aらの利得分については支払う旨述べていることに照らすと、本件合意は、当事者間において、上記慣行に従うものとして、事実上拘束力のある実現可能性の高いものであったということができる。しかも、本件合意に基づき支払われる被告人Aらの利得分は、委託費に占める割合が15パーセントと大きい上、具体的な使途・目的が定められているわけではなく、支払を受ける側が自由に使用できるものであったことも併せ考慮すると、実際の金銭の流れがどのようになっていたかにかかわらず、本件各見積書の作成時点で、被告人Bの利益とは別のものとして確保され、確定的に存在していたと認められる(被告人Aの弁護人が主張するように、単に委託費の定まった使途を明らかにしなかったにとどまるなどと見ることはできない。。)
したがって、かかる被告人Aらの利得分については、その実態どおり本件各見積書に記載すべきであるのに、本件各見積書にはその記載がない。本件各見積書には、被告人Bの利益についても明示の記載はないものの、受託業者が営利を目的とする企業等の場合、無償で従事することは通常あり得ず、見積書一般の例と同様に、本件各見積書記載の必要な作業等に対応する金額の一部に被告人Bの利益が含まれているものと合理的に捉えることができるが、そこに被告人Aらの利得分が含まれるとはおよそ読み取ることができない。
結局、
補助対象経費ではない被告人Aらの利得分が、
実際は費目として存在するにもかかわらず、本件各見積書記載のいずれの項目の中にも含まれておらず、記載を欠くため虚偽があるといえるとともに、本件各見積書の費目は補助対象経費のみで構成されているように仮装されているのであるから、前記のとおり、本件各見積書記載の作業等に不要なものがなかったことや、その見積金額が相場と比較して高いわけではないことなどを前提にしても、本件各見積書は被告人Aらの利得分だけ過大に算定されたものといえる。このことは、被告人Bが、被告人Aらの利得分が不要であれば、見積りを減額することは可能であった旨供述していることとも整合するものである。

以上のとおり、本件においては、判示のとおり被告人Aらの利得分を含ませて見積金額を……過大に算定した内容虚偽の見積書とともに……提出したと認められる。
そして、
かかる行為が、
補助金等の交付を受け
(補助金適正化法29条1項)る具体的可能性を生じさせる行為であることは明らかであり、被告人Aの弁護人がそのほか種々主張するところを踏まえて検討しても、
偽りその他不正の手段に当たると認められる。被告
人Aの弁護人の前記主張は採用できない。
第3

争点②偽りその他不正の手段

と本件補助金の受交付との間に因果関係が
認められるか否か、ないし、因果関係が認められる範囲は受交付に係る本件補助金の全額か一部か)について

1⑴

被告人Aの弁護人は、本件事業により文化財を伝承する必要性があった
上、本件補助金の交付に当たり、資金の還流を禁止する条件も付されておらず、本件各見積書の審査も見積金額が適正な範囲内に収まっているかどうかという観点のものであることなどを指摘して、本件では、被告人Aらに資金を還流させる意図が判明したとしても、本件補助金の全額が交付されたといえ、同全額の受交付について因果関係が認められない旨主張する。⑵

そこで検討すると、まず、本件における偽りその他不正の手段の内容は、
前記第2で認定したとおり、
被告人Aらの利得分を含ませて見積金額を……過大に算定した内容虚偽の見積書とともに……提出したというものである。すなわち、本件各見積書の作成時点で、補助対象経費ではない被告人Aらの利得分が被告人Bの利益とは別のものとして確保され、確定的に存在していたのに本件各見積書には記載されず、実際の記載は、すべて補助対象経費に該当するもののみからなるとして記載されていたのであるから、本件各見積書を提出した行為は、補助対象経費ではない被告人Aらの利得分を、補助対象経費に含める形で仮装したということを意味し、その分だけ補助対象経費が過大になっているといえる。
そして、前記のとおり、本件補助金の額は、補助対象経費の2分の1として算出されるのであるから、本件補助金のうち少なくとも被告人Aらの利得分の2分の1に当たる部分については、
被告人Aらの利得分を含ませて見積金額を……過大に算定した内容虚偽の見積書とともに……提出した行為により補助金を受交付したといえ、ひいては、同行為が有する補助金の受交付に対する具体的可能性が現実化したものとして、因果関係が認められる(このことは、被告人Aの弁護人が指摘する本件各見積書に記載された金額が相場よりも安いといった事情等があっても変わらない。そもそも、同弁護人の主張は、前記第2の認定と同様の事態を仮定しての検討とはするものの、実際は、本件各見積書の作成時点で、被告人Aらの利得分が、被告人Bの利益とは別のものとして確保され、確定的に存在し、それ故、本来、本件各見積書にこれを記載すべきであることの捉え方ないしその前提設定が不十分である。その結果、本来は、被告人Aらの利得分を本件各見積書に記載していた場合の帰結を想定して検討すべきであるのに、同弁護人の主張は必ずしもそのような検討になっていない。)。本件補助金全額の受交付について因果関係が認められない旨の同弁護人の主張は採用できない。
2⑴

他方、検察官は、因果関係が認められる範囲に関し、

本件補助金は、被

告人Aらの利得分を必要な作業経費に含ませて計上するという仮装行為があったからこそ、その全額が交付されたと認められ、⒝文化庁職員の証言を前提にすると、被告人Aらの利得分を含む本件補助金申請の実態が明らかになれば、本件補助金全体について交付決定がされないのは当然であることなどを指摘して、本件補助金全額の受交付について偽りその他不正の手段との因果関係が認められる旨主張する。
⑵ア

そこで検討すると、証拠上、本件事業に必要性が存したことに疑いはない上、前記のとおり、本件各見積書に実際に記載されていた作業等に不要なものはなく、補助対象経費として問題なく認められるものであったといえる。そして、被告人Bが完成させた作業等の結果は、計画内容に照らして何ら問題がないものであった。そうすると、本件事業は、本件各見積書が被告人Aらの利得分を含ませて見積金額を……過大に算定した内容虚偽である点を除けば、内容に問題はなく、本件補助金が交付されるべきものであったことは否定できない。そして、本件補助金に係る法令の仕組みとしても、何らかの不正又は不当な点があったからといって、補助金全額について直ちに交付する余地がなくなるとはいえず、実際に審査に当たる文化庁職員も、協議等をして計画変更等により対応して補助金を交付することはあり得る旨供述している。
これらの事情を踏まえると、本件補助金のうち被告人Aらの利得分の2分の1に当たる部分以外の部分については、
被告人Aらの利得分を含ませて見積金額を……過大に算定した内容虚偽の見積書とともに……提出した行為により補助金の交付を受けたとは必ずしもいえず、同行為が有する補助金の受交付に対する具体的可能性が現実化したと評価するには疑問が残るといわざるを得ない。

この点に関し、検察官の前記⒝の主張は、補助金交付の目的や公正性等を踏まえたもの、あるいは、交付決定に至る手続の過程に着目したものと理解されるところ、補助金適正化法は、全体としては、補助金等が公正かつ効率的に使用されることも目的としていると考えられるとしても(同法3条1項参照)、補助金等不正受交付罪(同法29条1項)については、未遂犯を処罰する規定がないこと等を踏まえると、同罪は、不正の手段によって国庫の損失が生じた場合に限って処罰する趣旨の規定と解するのが相当である。そして、検察官が指摘する文化庁職員の証言の意味するところは、本件で、偽りその他不正の手段が判明していたとすれば、本件補助金と同じ時期に同じ金額で交付されることにはならないというにとどまり、本件補助金全額についておよそ交付する余地がないという趣旨のものではないことに照らすと、前記疑問が残り、前記⒝を踏まえても、本件補助金全額の受交付について因果関係が認められる旨の検察官の主張は採用できない。


以上より、本件においては、本件補助金の受交付のうち、被告人Aらの利得分に基づいて算出される後記3の部分に限って、偽りその他不正の手段との間に因果関係を認めるのが相当である(因果関係が認められる範囲が受交付に係る本件補助金の一部にとどまるという限度では、被告人Bの弁護人の主張は理由がある。。

なお、
被告人Bの弁護人及び被告人Aの弁護人は、
偽りその他不正の手段との間に因果関係が認められるのは、本件補助金の受交付のうち実際に利得分として振り込まれた金額に相当する部分に限られる旨主張する(被告人Aの弁護人の主張は、仮に、因果関係が肯定されるとしても、という前提のものである。。しかしながら、被告人Bから被告人Aらの利得)
分の振込があったことは、実際は検挙に至るまで外部に判明しておらず、本件補助金の申請及び計画変更承認申請から交付決定等を経て本件補助金の受交付という結果に至る因果経過に影響を及ぼした事情とはいえず、前記振込の額が、本件補助金の申請時点における被告人Aらの利得分の裏付けになることはあっても、これをもって因果関係が認められる範囲を検討するのは相当でない。そもそも、平成29年度の本件補助金(判示第3)については、被告人Bから、被告人Aらの利得分の振込があったのは、本件補助金の受交付後(言い換えれば、犯罪成立後)であり、なおさら、それに基づいて因果関係を検討するのは理由がない。
3⑴

そこで、前記1及び2を前提に、本件において偽りその他不正の手段との間に因果関係が認められる補助金の受交付額について、具体的に検討する。
被告人Bの供述や、被告人Bが委託費の15パーセントの金額を計算しているメモ等の証拠に照らすと、
被告人Bは、
委託費として見積もった金額
(税
込み)の15パーセントを被告人Aらの利得分として本件各見積書を作成したと認められる。そして、前記のとおり、本件補助金の額は補助対象経費の2分の1とされている。そうすると、本件補助金のうち、それぞれ、委託費の15パーセントに当たる金額の2分の1の額の受交付部分に限って、偽りその他不正の手段との間に因果関係が認められ、これに従って計算すると以下のとおりとなる(なお、計算上小数点以下の端数が生じる場合には、被告人らに有利に考え、同端数は切捨てとする。また、本件当時の消費税がいずれも8パーセントであることは当裁判所に顕著な事実であるところ、証拠上、被告人Bが消費税の計算における端数処理をどのように行っていたかは判然としないことから、これについても同様とする。。


まず、平成27年度申請分(判示第1の事実)については、最終的な委託費(税込み)は4174万0800円(甲7添付資料7の計画変更承認申請書中の補助事業に係る収支予算書
支出の部
における委託費欄参照。
同金額は、①1回目の計画変更承認申請における委託費3862万0800円〔甲7添付資料4の計画変更承認申請書中の補助事業に係る収支予算書支出の部における委託費欄参照。同申請書添付見積書の税抜き金額3576万円に当時の消費税8パーセントを加えた金額〕に、②2回目の計画変更承認申請書添付見積書の税込み額312万円〔甲7添付資料7の見積書参照〕を加えた金額である。
)であるところ、その15パーセントに
当たる金額の2分の1の額は、313万0560円と認められる。

次に、平成28年度申請分(判示第2の事実)については、最終的な委託費(税込み)は4407万6000円(同金額は、①本件補助金申請における委託費〔税込み〕4224万円〔甲14添付資料1の見積書参照。なお、税抜き金額は3911万1111円〕に、②計画変更承認申請における委託費〔税込み〕183万6000円〔甲14添付資料4の見積書参照。なお、税抜き額は170万円〕を加えた金額である。
)であるところ、
その15パーセントに当たる金額の2分の1の額は330万5700円と認められる。


さらに、平成29年度申請分(判示第3の事実)については、委託費(税込み)は4309万7800円(同金額は、本件補助金申請における委託費〔税抜き〕3990万5371円〔甲15添付資料1の見積書参照〕に、消費税率8パーセントを加えた金額で、1円未満の端数については、切り捨てたものである。であるところ、

その15パーセントに当たる金額の2
分の1の額は323万2335円と認められる。


したがって、本件補助金のうち前記アないしウの各認定金額の受交付についてのみ、
偽りその他不正の手段との間に因果関係が認められる。

第4

争点③(被告人Aに故意並びに被告人B及びEとの間の共謀が認められるか否か)について

1
被告人Aの弁護人は、被告人Aが本件補助金申請手続自体に関与していないことや、公務員であるEから問題ない旨聞いていたことなどを指摘して、被告人Aには故意及び共謀が認められない旨主張する。

2
そこで検討すると、関係証拠によれば、被告人Aは、振興会から被告人Bに対して支払われる委託費の原資の中に、本件補助金が含まれることを認識した上で、本件合意を踏まえたEからの報告により、振興会から被告人Bに対する委託費の支払後、被告人Bから、少なくとも、委託費の10パーセント程度という相当大きい金額の支払を受けられる旨報告を受けていたことが認められる。
このような事実関係からすれば、
被告人Aは、
被告人Aらの利得分を含ませて見積金額を……過大に算定した内容虚偽の見積書とともに……提出する行為について、E等から具体的に聞いていないとしても、当然同行為を想定したことが推認される。そして、被告人Aとしては、前記のとおり、被告人Bから支払を受ける金額について、Eから、委託費の10パーセント程度と聞いていたとしても、あくまでそれは目安であって、それ以上の金額であれば受領を拒む意思であったとの疑いは存せず、被告人Bから支払われるままに受領する意思を有したと認められ、被告人Bが本件合意に基づき想定していた委託費の15パーセントという金額は、被告人Aの概括的な認識の範囲内と認められる。そうすると、被告人Aについて、本件の故意に欠けるところはなく、これを認めることができる。
そして、前記のとおり、被告人Aは、Eからの報告により、
被告人Aらの利得分を含ませて見積金額を……過大に算定した内容虚偽の見積書とともに……提出することを含めて本件について認識した上で、E及びEを介して被告人Bと意思を通じていたといえることから、被告人B及びEとの間の共謀も認められる。
被告人Aの弁護人が指摘する前記事情は、被告人Aの認識等に関する認定を左右する事情とはいえず、同弁護人の前記主張は採用できない(なお、同弁護人は、被告人Aが、被告人BからEに直接支払われた金員があることについて認識していなかったことを指摘するが、本件で問題となるのは、各申請時における本件合意及び被告人Aらの利得分についての認識であり、同弁護人指摘の事情は、被告人Aの故意等の存否に影響を及ぼすものではない。。)
第5

総括
以上の次第で、判示のとおり認定した。

【法令の適用】
被告人Aについて


判示第1ないし第3

各刑法60条、補助金適正化法32条1項、
29条1項

刑種の選択
判示第1ないし第3
併合罪の処理

いずれも懲役刑を選択
刑法45条前段、47条本文、10条(犯情
の最も重い判示第2の罪の刑に法定の加重)

刑の執行猶予

刑法25条1項
訴訟費用の不負担

刑訴法181条1項ただし書

被告人Bについて


判示第1ないし第3

各刑法65条1項、60条、補助金適正化法
32条1項、29条1項

刑種の選択
判示第1ないし第3
併合罪の処理

いずれも懲役刑を選択
刑法45条前段、47条本文、10条(犯情
の最も重い判示第2の罪の刑に法定の加重)

刑の執行猶予

刑法25条1項

訴訟費用の不負担

刑訴法181条1項ただし書

【量刑の理由】
1
本件は、被告人A、被告人B及びEが共謀して、振興会が、国指定重要無形民俗文化財であるC行事に使用する祭礼幕の復元新調等を行うに当たり、当該復元新調等の作業の委託を受ける被告人Bにおいて、
振興会の修理委員会委員であり、
Cの四団体のうちの一つであるJの総代表でもあった被告人Aらに対し、委託費の15パーセントに相当する金額を還流させて利得させる意図であるのにこれを秘し、被告人Aらの利得分を含ませて見積金額を過大に算定した内容虚偽の本件各見積書を作成し、Eが、本件各見積書等を送付して補助金の申請を行い、補助金のうち、被告人Aらの利得分に基づいて算定される部分の交付を受けたという事案である。
本件における不正の手段の態様は、審査する文化庁において実態を把握することを困難にするものであり、巧妙で悪質な手口といえる。そして、本件で補助金等不正受交付罪が成立する補助金の額は、合計966万8595円と多額で、結果も大きい。そして本件は、振興会関係者である被告人Aらと受託業者である被告人B双方の関与がなければ、実現し得なかったもので、両被告人の関与は、いずれも不可欠かつ重要なものといえる。
そうした中、本件補助金等に関する規定上、事業総額の約4分の1については振興会の自己資金で賄う必要があったことを前提に、被告人Aは、同人らの利得分について、次回以降の事業の自己資金に充てるつもりであったなどと供述し、個人の利欲目的があったわけではないという趣旨の供述をするが、仮にそうであったとしても、一部の者の利益のために、税金を財源とする補助金の交付を不正に受け、国庫に損失を与えることが許されるものではないことは明らかであり、非難の程度は高い。また、被告人Bは、本件によって直接の利益を得たわけではないものの、将来的な仕事の獲得等、間接的な影響も考慮した上で本件に関与したと認められ、やはり非難の程度は高い。
以上によれば、被告人両名の刑事責任は軽くはない。
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他面、被告人Aは、補助金の返還に応じる意思があると述べ、被告人Bも、少なくともEに支払った分については返還する意思があると述べている。加えて、被告人Bには前科がなく、被告人Aについても量刑上考慮すべき前科はないことなどの諸事情も考慮の上、同種事案における量刑傾向を踏まえて検討すると、被告人両名に対しては、その刑事責任を明確にするため、それぞれ主文の刑を科した上、
今回に限り、
いずれもその刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。

(検察官の求刑

被告人両名に対し各懲役2年6月、被告人Bの弁護人の科刑意見

刑の執行猶予)
令和4年3月28日
福岡地方裁判所小倉支部第1刑事部

裁判長裁判官

森喜史
裁判官

内山香奈
裁判官

鈴木紫

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