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特許権侵害差止等請求控訴事件、同附帯控訴事件 特許権 民事訴訟
事件番号令和3(ネ)10055
事件名特許権侵害差止等請求控訴事件,同附帯控訴事件
裁判年月日令和4年2月10日
法廷名知的財産高等裁判所
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成30(ワ)21900
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-02-10
情報公開日2022-04-13 04:00:30
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令和4年2月10日判決言渡
令和3年(ネ)第10055号

特許権侵害差止等請求控訴,同附帯控訴事件

(原審・東京地方裁判所平成30年(ワ)第21900号)
口頭弁論終結日

令和3年11月8日
判決
控訴人兼附帯被控訴人

ビッグボーン商事株式会社
(以下一審被告という。)

同訴訟代理人弁護士

堀籠林佳い典づみ牧野知岡田健福田伸水﨑
同補佐人弁理士

高橋
被控訴人兼附帯控訴人

株式会社セフト研究所

同訴訟代理人弁理士

彦太郎一慎克宗
(以下一審原告という。)

同訴訟代理人弁護士

鮫正洋高橋正憲山主島崎臨在文1
本件控訴及び本件附帯控訴をいずれも棄却する

2
控訴費用は一審被告の負担とし,附帯控訴費用は一審原告の負担とす
る。
事実及び理由
第1

当事者の求めた裁判

1
一審被告の控訴の趣旨


原判決中,一審被告敗訴部分を取り消す。



前項の部分につき,一審原告の請求を棄却する。

2
一審原告の附帯控訴の趣旨


原判決主文第3項及び第4項を次のとおり変更する。



一審被告は,一審原告に対し,3億3000万円及びうち2000万円に対する平成30年7月15日から,うち3憶1000万円に対する令和元年11月7日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2
1
事案の概要(略称は,特に断りのない限り,原判決に従う。)
事案の要旨
本件は,発明の名称を空調服の空気排出口調整機構,空調服の服本体及び空調服とする特許第6158675号の特許(以下本件特許といい,本件特許に係る特許権を本件特許権という。)の特許権者である一審原告が,一審被告に対し,原判決別紙1被告製品目録記載の各製品(以下,同目録の番号に応じて被告製品1などといい,これらを総称して被告各製品という。)が本件特許の特許請求の範囲の請求項3に係る発明(以下本件発明1という。)及び請求項9に係る発明(以下本件発明2といい,本件発明1と併せて本件各発明という。)の各技術的範囲に属し,一審被告による被告各製品の製造等が本件特許権の侵害に該当すると主張して,特許法100条1項及び2項に基づき,被告各製品の製造,譲渡,輸出,輸入及び譲渡の申出の差止め並びに廃棄を求め,本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償として3億3000万円及びうち2000万円に対する不法行為の後である平成30年7月15日(訴状送達日の翌日)から,うち3億1000万円に対する不
法行為の後である令和元年11月7日(同年10月31日付け訴えの変更申立書送達日の翌日)から各支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法所定(以下改正前民法所定という。)の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
原審は,一審原告の請求のうち,差止請求に関する部分については,被告各製品の製造,譲渡又は譲渡の申出の差止め並びに廃棄を認める限度で,損害賠償請求に関する部分については,625万2147円及びうち284万5159円に対する平成30年7月15日から,うち340万6988円に対する令和元年11月7日から各支払済みまで年5分の割合による金員の支払を求める限度で一部認容し,その余の請求を棄却した。
そこで,一審被告は,原判決中,一審被告敗訴部分を全部不服として本件控訴を提起し,また,一審原告は,損害賠償請求に関する部分について附帯控訴の趣旨の限度で原判決を不服として本件附帯控訴を提起した。
2
前提事実
原判決の事実及び理由の第2の2記載のとおりであるから,これを引用する。

3
争点


被告各製品の本件各発明の技術的範囲の属否(争点1)



無効の抗弁の成否(争点2)

明確性要件違反(争点2-1)


特開2006-132040号(乙2。以下乙2公報という。)を
主引用例とする新規性欠如(争点2-2)

乙2公報を主引用例とする進歩性欠如(争点2-3)

(3)
(4)
第3

差止めの必要性(争点3)
一審原告の損害額(争点4)

争点に関する当事者の主張

1
争点1(被告各製品の本件各発明の技術的範囲の属否)について
以下のとおり訂正するほか,原判決の事実及び理由の第3の1記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)

原判決9頁10行目及び10頁8行目から9行目にかけての各予め定められた開口度をいずれも開口の度合いと改める。⑵

原判決13頁12行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
(ア)構成要件Dの「前記第一取付部を前記複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付けることで前記空気流通路内を流通する空気の圧力を利用することにより…複数段階の予め定められた開口度にいう予め定められた開口度とは,①前記第一取付部を前記複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付けること及び②前記空気流通路内を流通する空気の圧力を利用することにより複数段階の開口の度合いが形成されることを意味する。
したがって,着用者の体格等の影響があったとしても,①及び②の作用により複数段階の開口の度合いが形成されれば,予め定められた開口度を充足するといえる。」⑶

原判決13頁13行目の(ア)を(イ)と,同頁17行目の予め定められた開口度でを開口の度合いのと改める。


原判決14頁6行目の(イ)を(ウ)と改める。



原判決16頁15行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
また,一審被告提出の乙109,110の追加実験は,熱線式風速計(型式「TM-4001)を使用して風速を計測したものであるところ,その取扱説明書(甲41)には,センサーの測定方向に測定したい風の方向を合わせて測定しなければならないとの記載がある。しかるところ,追加実験は,測定したい風の方向とセンサーの測定方向が一致しておらず,また,各実験における不一致の程度が異なっており,さらに,
風源とセンサーの距離,測定位置が一定でなく,不適切である。加えて,追加実験は,被測定者の測定姿勢が変化している点でも適切性を欠くものである。このように追加実験は,上記熱線式風速計の使用方法及び被測定者の測定姿勢が不適切であり,客観性を欠き,不正確である。」⑹

原判決16頁17行目の(ウ)を(エ)と改める。



原判決21頁2行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
(ウ)原判決は,被告各製品の布ベルト及びゴムベルトは,「着用者の首後部と肩甲骨の上部との間に位置しており,この位置は,背面全体から見ても,着用者の首後部との間に隙間を形成する襟部に相当近く,むしろ,その襟部のすぐ下ということができるとして,襟後部と人体の首後部との間に形成される空気排出口の開口度を複数段階の予め定められた開口度に調整できると認められる程度に襟後部に近接しているかを問うことなく,前記襟後部又はその周辺にいうその周辺(構成要件B及びC)の要件を満たすと判断した。しかしながら,本件各発明は,空調服の襟後部と人体の首後部との間に形成される空気排出口の開口度を簡単に調整することができる空気排出口調整機構を提供することを課題とするものであり,この課題を解決するために,第一調整ベルト及び第二調整ベルトの取り付け位置におのずから制限があることは明らかである。
また,構成要件B及びCは,単に襟後部又はその周辺と規定
するのみであって,調整ベルトと襟後部の距離が背面全体や
何らかの他の部材の大きさ等と比較して相対的に近いということを規定したものではないから,周辺か否かは,襟後部自体と対比
することにより判断するほかないところ,本件明細書の図4も参酌すれば,周辺といえるためには,少なくとも,襟後部の高さと
比較しても襟後部のすぐ下にあることが必要であるというべきで

ある。
しかしながら,被告各製品の少なくともゴムベルトは,襟後部
からその高さと比較しても相当離れた位置に取り付けられているから,その周辺の要件を満たさない。
したがって,被告各製品の構成要件B及びCの充足性を認めた原判決は誤りである。」


原判決23頁1行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
また,一審被告がマネキンに空調服を着用させてファンを作動させる実験(乙138,139の1ないし3)を行った結果,ボタンを留める位置によって開口の大きさに有意な差はみられなかったことに照らすと,一審原告の甲8及び9に基づく実験結果は,採用すべきではない。


原判決23頁6行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
(ウ)原判決は,構成要件Dの「予め定められた開口度とは,必ず
しも第一取付部と第二取付部の取り付け位置によってのみ定まるものではなく,第一取付部を複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付けること及び空気流通路内を流通する空気の圧力を利用することにより,複数段階の開口の度合いが形成されれば足りると解するが相当であるとした上で,被告各製品は,布ベルトのボタン(第一取付部)をゴムベルトの中央部から端部にかけて予め設けられた複数のボタンホール(第二取付部)のうちのいずれかに取り付けること及び空気流通路内を流通する空気の圧力を利用することにより,複数段階の開口の度合いを形成するといえるから,空気排出口を複数段階の予め定められた開口度で形成するものと認めるのが相当であるとして,被告各製品が構成要件Dを充足すると判断したが,以下のとおり原判決の判断は誤りである。
a
構成要件Dは,複数段階の予め定められた開口度で前記空気排出口を形成すると記載されるとおり,空気排出口を複数段階の予め定められた開口度で形成することを規定しており,
開口度は予め定められたものでなければならない。
しかるところ,原判決は,構成要件Dの解釈につき,複数段階の開口の度合いが形成されれば足りるとしているが,かかる解釈は,開口度が予め定められたものであるという上記
限定を無視するものであるから,誤りである。
そして,本件各発明は,空調服の襟後部と人体の首後部との間に形成される空気排出口の開口度を簡単に調整することができる空気排出口調整機構を提供することを目的とするものであること,空調服において,送風手段を作動させたときの空調服の襟後部と人体の首後部との間に形成される隙間(構成要件Dの「空気排出口)の形状は,ファンの風力,前部ファスナーの締め具合,着用者の姿勢や体格,服の布地や布ベルト,ゴムベルト
等の素材,襟部の形状等の影響も受ける」ものであることからす
ると,構成要件Dの複数段階の予め定められた開口度で前記空気排出口を形成するというためには,これらの要因に比して,前記第一取付部の複数の第二取付部への取り付け位置
(第一取付部をいずれの第二取付部に取り付けるか)の開口度に
対する影響が支配的であることを要するというべきである。
また,本件明細書には,本件各発明に係る空気排出口調整機構に
よる空気排出口の開口度や空気排出量の調整につき,調整ベルトをつないだ時の長さを短くすると,空気排出口が大きくなり,より多くの空気が排出されることが説明されているが(【0024】ないし【0026】,【0030】,【0040】,【0041】,
【0044】,【0048】),それ以外に空気排出口の大きさや
空気排出量を調整することについての記載は一切ない。
そうすると,前記第一取付部を前記複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付けることで前記空気流通路内を流通する空気の圧力を利用することにより,前記襟後部と人体の首後部との間に,複数段階の予め定められた開口度で前記空気排出口を形成する(構成要件D)とは,調整ベルトをつないだ時の長さを短くすると,空気排出口が大きくなり,より多くの空気が排
出されることを意味し,調整ベルトをつないだ時の長さを短くす
ると,空気排出口が小さくなり,空気排出量が減少する形態を含
まないと解すべきである。
b
これを被告各製品についてみるに,乙1,9,10に示されると
おり,被告各製品を着用したときに襟後部と首後部の間に形成さ
れる隙間の形状は,主として前ファスナーの開閉の程度,人体の
体格,姿勢等に依存し,また,乙109,110に示されるよう
に,着用の仕方(空調服を一旦持ち上げない場合と,一旦持ち上
げた場合など)に依存しており,布ベルトのボタンをゴムベルト
(第二調整ベルト)のボタン穴(ボタンホール)に取り付ける位
置の影響が支配的でないから,複数段階の予め定められたも
のではない。もとより,被告各製品において,ゴムベルトは,そ
の中央が襟後部の中央に取り付けられた形態であり,かつ,襟後
部からかなり離れた位置に取り付けられており,ボタン留めの位
置を変えても,首後部の開口の大きさや空気の流量自体にはほと
んど影響を与えないから,ゴムベルトは,襟後部に開口を形成す
るきっかけを与えるものであって,開口の大きさを調整するもの
ではない。被告各製品のゴムベルトに複数のボタンホールがある
のは,着用者の体型の違いに配慮したにすぎない。

次に,開口の大きさ自体についていえば,被告各製品では,ボタ
ンをゴムベルトの(中心から)一番遠いボタンホール(1番目)
に取り付けた方が,形成される開口を大きくすることができ,こ
の場合,排出される空気の量(ここでは,風速を意味する。)
も多くなる。逆に一番中心寄りのボタンホール(5番目)に取り
付けると,形成される開口は大きく広がることができず,排出さ
れる空気の量は少なくなる(乙109,110)。
以上のとおり,被告各製品における布ベルト及びゴムベルト
(第二調整ベルト)は,形成される開口の大きさにほとんど影響
を与えておらず,布ベルトのボタンとゴムベルトのボタン穴を取
り付ける位置の影響が支配的であるとはいえず,また,被告各製
品は,調整ベルトをつないだ時の長さを短くすると,空気排出口
が大きくなり,より多くの空気が排出される構成のものではない
から,被告各製品は,複数段階の予め定められた開口度で空気排出口を形成するものではなく,構成要件Dを充足しない。」2
争点2-1(明確性要件違反),争点2-2(乙2公報を主引用例とする新規性欠如)及び争点2-3(乙2公報を主引用例とする進歩性欠如)について原判決の事実及び理由の第3の2ないし4記載のとおりであるから,これを引用する。

3
争点3(差止めの必要性)について
以下のとおり訂正するほか,原判決の事実及び理由の第3の6記載のとおりであるから,これを引用する。


原判決56頁5行目末尾に行を改めて次のとおり加える。

一審被告が,被告各製品を保有していないことや,被告各製品を製造販売できる設備を有していないことについて証拠の提出はなく,一審被告は,いつでも被告各製品を製造販売することが可能な状態にある。




原判決56頁9行目末尾に行を改めて次のとおり加える。

一審被告は,被告製品1ないし15の販売を既に終了し,2020年以降のカタログにも掲載しておらず(乙60,63),上記販売を再開する経済的合理性はない。そして,


4
争点4(一審原告の損害額)について
以下のとおり訂正するほか,原判決の事実及び理由の第3の5記載のとおりであるから,これを引用する。


原判決46頁5行目から13行目までを次のとおり改める。
(1)ア特許法102条2項に基づく損害額一審被告は,平成29年6月16日から令和元年10月31日までの間,被告各製品を販売し,その売上高は●●円を下ることはなく,これにより●●●●●●●円の利益を得た。一審被告による被告各製品の販売は本件各発明に係る本件特許権の侵害行為に当たるから,特許法102条2項により,一審被告が得た上記利益の額は,一審原告が上記侵害行為により受けた損害額と推定される(以下,この推定を「本件推定という場合がある。)。」
(2)

原判決47頁10行目の(2)推定の覆滅事由を(2)推定覆滅事由の不存在と改める。(3)
原判決50頁17行目末尾に行を改めて次のとおり加える。カ原判決の覆滅事由に関する認定判断の誤り原判決は,本件各発明が被告各製品の部分にのみ実施されていることを理由に損害額の80%について本件推定の覆滅を認め,さらに,市場における競合品の存在を理由に50%の覆滅を認めた結果,特許法102条2項に基づく一審原告の損害額を565万2147円(5652万1465円×(1-0.8)×(1-0.5)))と認定判断したが,以下のとおり,原判決の上記認定判断には誤りがある。(ア)本件各発明が被告各製品の部分にのみ実施されていることについて原判決は,本件発明1の技術的意義や作用効果,被告各製品のうち本件発明1が実施された部分の顧客誘引力等に照らすと,本件特許権を侵害する同部分が被告各製品の販売に貢献したところは小さいといわざるを得ないから,この事情に基づき,損害額の80%について本件推定の覆滅を認めるのが相当である旨判断した。しかしながら,本件各発明は,市場に他のプレーヤーが存在しない市場開拓期において,空気排出口調整機構を取り付けることで生じる空気排出口をいかに複数段階に調整するかを実現しようとしたものであり,参考にする技術も存在しない中,保有する知見も僅かな状態で実現させたものであるから,その技術的意義は,従来技術に比して大きいものである。また,本件発明1は,ファンの大型化(空調服における空気の取り込み量の増加)に伴い,空気排出機構を適切に形成する必要性から生まれた,機能上重要な発明であり,顕著な作用効果を有するものである(甲5)。さらに,仮に被告各製品の本件各発明を実施する部分の価格割合が,原判決の認定するとおり,被告各製品の販売価格の1ないし2%であるとしても,本件各発明の技術的意義及び作用効果が顕著であることに照らすと,かかる部材の価格割合の点は覆滅事由にならない。加えて,一審被告のウェブサイト(甲3の1)では,顧客に対し「調整ゴムについて大々的に特長を訴求していること,被告各製品のパッケージ(甲6)では,調整ゴムによる効果を大
々的に訴求しており,パッケージ同封のチラシにも

衿についているゴムをボタンで留めることにより首の後ろにスペースが開き首の後ろからより多くの空気を排出し,空調効果を高めることが出来ます。

と記載され,調整ゴムを顧客に分かりやすく説明し,強く訴求していること,一審被告の製品のパンフレット
(乙57)においても,紹介されている各機能のうち調整ゴム
だけが,最重要機能の一つである空気の流れを調整する技術であ
り,服の横に付随して説明され,目立つように掲載されているこ
となどからすると,被告各製品の備える機能のうち,本件各発明
を実施する部分の顧客吸引力は高いといえる。
したがって,原判決の上記判断は誤りである。
(イ)

市場における競合品の存在について
原判決は,首後部からの空気の排出をより効率的に行うための

機能を備えた空調服やその他種々の機能を備えた空調服(乙39
ないし45)は,被告各製品の競合品に当たるとして,損害額の
50%について本件推定の覆滅を認めるのが相当である旨判断し
た。
しかしながら,覆滅事由となる競合品は,抽象的に同種の商品
というだけでは足りず,需要者が着目する特徴において代替可能
性のある商品である必要があるというべきである。
しかるところ,前記(ア)のとおり,被告各製品の備える機能のうち本件各発明を実施した部分の顧客吸引力は高く,顧客は調整ゴムを重視して購買するといえるのに対し,乙39ないし45の空調服は,予め定められた開口度に調整できる機能を有するも
のではなく,被告各製品と代替可能性がある商品とはいえないか
ら,被告各製品の競合品とはいえない。
したがって,原判決の上記判断は誤りである。

(3)

弁護士費用
一審被告による本件特許権の侵害行為と相当因果関係のある弁護士費
用相当の一審原告の損害額は,1000万円を下らない。
(4)

小括
よって,一審原告は,一審被告に対し,本件特許権侵害の不法行為に
基づく損害賠償として●●●●●●●円及びうち●●●●●円に対する不法行為の後である平成30年7月15日(訴状送達日の翌日)から,うち●●●●●●●円に対する不法行為の後である令和元年11月7日(同年10月31日付け訴えの変更申立書送達日の翌日)から各支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める。」
(4)

原判決50頁19行目の(1)原告が被った損害額についてを(1)特許法102条2項に基づく損害額の主張に対しと,同頁24行目の考えられ,の次に一審被告は,現に,「調整ゴム以外の構造(首背中風気路メッシュ)により,空調服の襟後部に空気の流通路を作り,首後部の空気の抜けを良くすることによって,空調服の冷却効果を高める製品(乙58)を販売していた。」を加える。
(5)
原判決51頁12行目末尾に行を改めて次のとおり加える。●●●●●●●●に対する業務委託費は,取り扱う製品の点数によって変動するものであり,このことは乙62に添付された覚書において月額の報酬額が変更されていることからも明らかである。一審被告が被告各製品を販売したことによって,●●●●●●●●が取り扱う製品の点数が増加しているのであり,その分,同社に対する業務委託費が増加する関係にあるから,被告各製品の売上額から同社に対する業務委託費を控除すべきである。
(6)

原判決52頁14行目末尾に行を改めて次のとおり加える。

また,襟後部からの空気排出を適切に確保することは,空調服の開発段階から認識されていた課題であり,従来技術である調整紐型の空調服において首後部の開口度を調整することによって襟後部からの空気排出を適切に確保することが可能であった。調整紐を結ぶタイプの従来技術をボタン型に置き換えただけの本件発明1は,紐を結ぶ手間が省けるという程度の効果しか奏せず,空調服の冷却効果に差が出るわけではないから,顕著な作用効果を有するものではない。本件発明1の作用効果は,ファンの高出力化や大型化による空気の取り込み量増加とは無関係である。
(7)
原判決54頁14行目末尾に行を改めて次のとおり加える。この点に関し一審原告は,一審被告のウェブサイト(甲3の1),被告各製品のパッケージ(甲6),一審被告の製品のパンフレット(乙57)の記載事項を挙げて,被告各製品の備える機能のうち,本件各発明を実施する部分の顧客吸引力は高い旨主張する。しかしながら,一審原告の挙げる甲3の1,6,乙57は,従来技術による効果を表示したものであって,従来技術と異なる本件各発明の効果を訴求するものではないから,本件各発明の顧客吸引力の根拠にはならない。したがって,一審原告の上記主張は失当である。
(8)
原判決55頁1行目末尾に行を改めて次のとおり加える。顧客が空調服を選択する際,空調服の価格,デザイン,服の素材並びに電動ファン及びバッテリーの性能に着目することが多いといえるから,このような顧客の着目点を前提にすれば,本件各発明の技術的範囲に属さない原告製品と他社製品とは何ら変わりがなく,原告製品が被告各製品の競合品に当たるとすれば,当然,他社製品も競合品に当たることになる。また,他社製品も,首後部の空気の抜けを良くする機能を有するという点において(乙39ないし45),被告各製品や原告製品と共通する。(9)

原判決56頁3行目末尾に行を改めて次のとおり加える。

(3)弁護士費用の主張に対し一審原告の主張は争う。


第4

当裁判所の判断

1
本件明細書の記載事項等
原判決61頁19行目から65頁1行目までを次のとおり改めるほか,原判決の事実及び理由の第4の1記載のとおりであるから,これを引用する。【0017】以下に,図面を参照して,本願に係る発明を実施するための形態について説明する。【0018】[第一実施形態]まず,本発明の第一実施形態について図面を参照して説明する。図1は本発明の第一実施形態である空気排出口調整機構を備える空調服の概略正面図である。図2(a)は第一実施形態の空気排出口調整機構における調整ベルトの概略平面図,図2(b)はその空気排出口調整機構における貫通孔が形成された空調服の襟部の概略展開図,図2(c)はその空気排出口調整機構における調整ベルトが取り付けられた空調服の襟部の概略展開図である。図3(a)は第一実施形態の空気排出口調整機構により空気排出口が形成された空調服の襟部を上から見たときの状態を示す概略図,図3(b)はその空調服の襟部のA-A矢視方向概略断面図,図3(c)はその空調服の襟部における留め具付近の概略拡大図である。【0019】第一実施形態の空気排出口調整機構50は,図1に示すように,空調服1の襟後部12に設けられており,空調服1の襟後部12と人体の首後部との間に形成される空気排出口の開口度を調整するためのものである。ここで,空調服1は,送風手段を用いて人体との間に形成された空気流通路内に空気を流通させることにより人体を冷却するものであり,空気排出口は,空気流通路内を流通する空気を外部に排出するものである。また,首後部には,着用者の体形にもよるが,背中の上部も含まれるものとする。尚,第一実施形態では,説明を容易にするため,図1に示すように,空気排出口調整機構50を備える空調服1が,襟部として,襟を折り返えさない立ち襟部2を有するものである場合について説明する。また,この空調服1の前側には開閉用のファスナー3が設けられている。【0020】第一実施形態の空気排出口調整機構50は,図2及び図3に示すように,調整ベルト51と,空調服1の襟後部の所定位置に形成された二つの貫通孔52a,52bとを備える。尚,図2(b),(c)には,空調服1の立ち襟部2について,それを展開して平面状に広げたときの状態であって,着用者の首と対向する立ち襟部2の内表面を上にしたときの状態が示されている。したがって,図2(b),(c)においては立ち襟部2の中央部が空調服1の襟後部12に対応する。【0021】調整ベルト51は,図2(a)に示すように,帯状部材511と,一つの留め具512とを有する。留め具512は帯状部材511の一方の端部に設けられている。第一実施形態では,留め具512としてボタンを用いており,このボタン512を帯状部材511の一方の端部に縫い付けている。実際,留め具512としてのボタンは市販されているボタンをそのまま使用することができる。【0022】また,帯状部材511の他方の端部は,図2(c)及び図3に示すように,空調服1の服地の内表面であって襟後部12の所定位置に取り付けるための取付部513である。具体的には,帯状部材511の取付部513を,図2(c)に示すように,空調服1の立ち襟部2の中央から少し右側の部分であってその下部に縫合している。このとき,留め具512が立ち襟部2(襟後部12)の内表面と対向するように調整ベルト51を配置している。【0023】貫通孔52a,52bは,留め具512と係合して留め具512であるボタンを取り付けるためのものである。この貫通孔52a,52bは本発明の係合部に該当する。第一実施形態では,貫通孔52a,52bとしては,切り込み線を入れて作製される通常のボタン孔を用いている。したがって,留め具512であるボタン及び貫通孔52a,52bであるボタン孔はそれぞれ,例えばワイシャツ等におけるボタン及びボタン孔と同様な形状のものであり,留め具512であるボタンと貫通孔52a,52bであるボタン孔との関係は,ワイシャツ等におけるボタンとボタン孔との関係と同様である。二つの貫通孔52a,52bは,調整ベルト51が取り付けられた位置とは異なる立ち襟部2(襟後部12)の所定位置に形成される。具体的には,二つの貫通孔52a,52bを,図2(b),(c)に示すように,空調服1の立ち襟部2の中央からやや左側の部分であってその下部に並べて形成している。ここで,貫通孔52bは貫通孔52aの左側に形成されている。以下では,貫通孔52aを第一貫通孔とも称し,貫通孔52bを第二貫通孔とも称することにする。また,ボタン孔の切り込み方向が立ち襟部2の高さ方向(上下方向)と略平行な方向となるように,各貫通孔52a,52bを形成している。【0024】いま,図2(c)に示すように,帯状部材511の取付部513から留め具512までの調整ベルト51の長さをL2,調整ベルト51が取り付けられた位置(帯状部材511の取付部513)から第一貫通孔52aまでの立ち襟部2(空調服1の服地)に沿った距離をL1a,調整ベルト51が取り付けられた位置(帯状部材511の取付部513)から第二貫通孔52bまでの立ち襟部2(空調服1の服地)に沿った距離をL1bとする。このとき,L1a<L1bであり,且つ,L1a>L2である。すなわち,帯状部材511の取付部513から留め具512までの調整ベルト51の長さL2は,調整ベルト51が取り付けられた位置から各貫通孔52a,52bまでの立ち襟部2(空調服1の服地)に沿った距離L1a,L1bよりも短くなっている。【0025】第一実施形態の空気排出口調整機構50をこのように構成したことにより,留め具512を貫通孔52a,52bのいずれかに通して掛けると,図3に示すように,留め具512の内面が当該貫通孔の形成された部分における襟後部12の外表面に当接し,留め具512が襟後部12にしっかりと固定される。このとき,帯状部材511の取付部513から留め具512までの調整ベルト51の長さL2が,調整ベルト51が取り付けられた位置から各貫通孔52a,52bまでの立ち襟部2に沿った距離L1a,L1bよりも短いので,空調服1を着用したとき,空調服1の襟後部12の付近が弛み,襟後部12と着用者の首後部との間に空気排出口13を形成することができる。また,調整ベルト51が取り付けられた位置から第二貫通孔52bまでの立ち襟部2に沿った距離L1bが,調整ベルト51が取り付けられた位置から第一貫通孔52aまでの立ち襟部2に沿った距離L1aよりも大きいので,留め具512を第二貫通孔52bに取り付けた場合における空気排出口13の開口度は,留め具512を第一貫通孔52aに取り付けた場合における空気排出口13の開口度よりも大きくなる。【0026】具体的に,空調服1の着用者は,空気排出口13から少量の空気を排出したい場合には,留め具512をいずれの貫通孔52a,52bにも取り付けないようにすればよい。このように空気排出口調整機構50を利用して空気排出口13を形成しなくとも,空調服1の送風手段11を作動させると,空気流通路内を流通する空気の圧力により襟後部12と首後部との間に自動的にある程度の開口部が確保されるので,この開口部が空気排出口13となって,ここから少量の空気を外部に排出することができる。また,着用者は,空気排出口13から通常の量の空気を排出したい場合には,留め具512を第一貫通孔52aに取り付ければよく,空気排出口13から多量の空気を排出したい場合には,留め具512を第二貫通孔52bに取り付ければよい。このように,第一実施形態の空気排出口調整機構50を用いると,着用者は,空調服1の使用目的に応じて空気排出口13の開口度を3段階の開口度の中から選択し,所期の冷却効果を得ることができる。【0030】第一実施形態の空気排出口調整機構は,帯状部材の一方の端部に設けられた留め具を有し,帯状部材の他方の端部が空調服の服地の内表面であって襟後部の所定位置に取り付けられた調整ベルトと,調整ベルトが取り付けられた位置とは異なる襟後部の所定位置に形成された,留め具と係合して留め具を取り付けるための二つの貫通孔とを備え,帯状部材の上記他方の端部から留め具までの調整ベルトの長さが,調整ベルトが取り付けられた位置から各貫通孔までの空調服の服地に沿った距離よりも短くなっている。これにより,留め具を貫通孔に取り付けるだけで,空調服の襟後部の付近に弛みを確保して,空気排出口を容易に且つ確実に形成することができる。また,留め具をいずれの貫通孔に取り付けるか,若しくは貫通孔に取り付けないかに応じて,空気排出口の開口度を3段階に簡単に調整することができる。尚,第一実施形態の空気排出口調整機構は調整ベルトと二つの貫通孔とを備えて構成されるものであるので,空気排出口を形成する必要がない場合,この空気排出口調整機構が着用者の邪魔になることはない。【0033】また,第一実施形態の空気排出口調整機構を備える空調服には,従来の空気排出口調整機構である一組の調整紐を備える空調服に比べて,次のような利点がある。従来,一組の調整紐を備える空調服の使用に際して,大半の着用者は,一組の調整紐を結ばず,襟後部と首後部との間に空気排出口を形成していなかった。そして,使用目的に応じて一組の調整紐の長さを調整することも行っていなかった。このため,一組の調整紐を備える空調服は,その性能を十分に発揮することができる状態で使用されていなかった。これに対し,第一実施形態の空気排出口調整機構を備える空調服を,予め留め具を貫通孔に取り付けた状態で出荷することにより,着用者がその空調服を出荷時の状態のまま使用しても,空調服の性能を十分に発揮させることができる。したがって,第一実施形態の空気排出口機構を備える空調服が普及すれば,空調服の性能に関する着用者の評価を大幅に高めることができる。また,第一実施形態の空気排出口調整機構を備える空調服を洗濯する際には,ボタン(留め具)をボタン孔(貫通孔)から外しておくようにする。これにより,洗濯時にボタンに無理な力がかかることがないので,空調服を何ら支障なく洗濯することができる。更に,一組の調整紐を備える空調服では,調整紐の結び目付近に集まった調整紐の先端部分が空気排出の障害になっていたが,第一実施形態の空気排出口調整機構を備える空調服では,調整ベルトに余分な部分がなく,調整ベルトが空気に及ぼす抵抗は非常に小さいので,空気排出口調整機構自体が空気排出の妨げになることはない。エ【0035】[第二実施形態]次に,本発明の第二実施形態である空気排出口調整機構について説明する。図4は第二実施形態の空気排出口調整機構を備える空調服を展開して内側から見たときの概略平面図,図5は第二実施形態の空気排出口調整機構における第一調整ベルト及び第二調整ベルトの概略平面図,図6は第二実施形態の空気排出口調整機構により空気排出口が形成された空調服の襟部を上から見たときの状態を示す概略図である。尚,第二実施形態において,第一実施形態のものと同一の機能を有するものには,同一の符号を付すことにより,その詳細な説明を省略する。【0036】第二実施形態の空気排出口調整機構50aは,図4に示すように,襟を折り返えすことができる通常の襟部2aを有する空調服1に設けられる。ここで,図4には,襟部2aについて,折り返し部分Pを折り返さずに広げたときの状態が示されている。また,図6では,襟部2aについて折り返し部分Pを省略して示している。第二実施形態では,空気排出口調整機構50aは,襟部2aの中央部(襟後部12)ではなく,襟後部12の周辺の所定箇所,具体的には襟後部12の少し下側の箇所に設けられる。空調服の形状にもよるが,通常の空調服では,空気流通路内を流通する空気を空気排出口から外部にスムースに排出するには,空気排出口を,襟後部12に設けるよりも,襟後部12の少し下側に設ける方が合理的であるからである。【0037】この第二実施形態の空気排出口調整機構50aは,図4,図5及び図6に示すように,第一調整ベルト51aと,第二調整ベルト53とを備える。第一調整ベルト51aは,図5(a)に示すように,第一の帯状部材511aと,第一の帯状部材511aの一方の端部に設けられた一つの留め具512とを有するものである。第二実施形態でも,留め具512としてボタンを用いる。第一の帯状部材511aの他方の端部は,空調服1の服地の内表面であって襟後部12の周辺の所定の第一位置に取り付けるための取付部513である。ここで,留め具512が空調服1の服地の内表面と対向するように且つ第一の帯状部材511aの長手方向が襟部2aの長手方向と略平行になるように第一調整ベルト51aを配置して,第一の帯状部材511aの取付部513を上記第一位置に縫合している。【0038】第二調整ベルト53は,図5(b)に示すように,第二の帯状部材531と,第二の帯状部材531の一方の端部に形成された,留め具512と係合して留め具512を取り付けるための一つの貫通孔532とを有するものである。第二の帯状部材531としては,強度のある布を用いることが望ましい。また,貫通孔532は本発明の係合部に該当する。この貫通孔532は,切り込み線を入れて作製されるボタン孔である。このボタン孔の切り込み方向は第二の帯状部材531の長手方向と略平行な方向である。第二の帯状部材531の他方の端部は,空調服1の服地の内表面であって第一調整ベルト51aが取り付けられた第一位置とは異なる襟後部12の周辺の所定の第二位置に取り付けるための取付部533である。ここで,第二の帯状部材531の長手方向が襟部2aの長手方向と略平行になるように且つ貫通孔532が第一調整ベルト51aの側に位置するように第二調整ベルト53を配置して,第二の帯状部材531の取付部533を上記第二位置に縫合している。したがって,第二調整ベルト53を空調服1の服地の内表面に取り付けると,ボタン孔の切り込み方向は襟後部12の長手方向と略平行になる。【0039】このように,第二実施形態では,貫通孔532を空調服1の服地に直接形成するのではなく,空調服1の服地の内表面に第二調整ベルト53を取り付け,この第二調整ベルト53に貫通孔532を設けている。これは次の理由による。すなわち,空気排出口機構50aが設けられる,襟後部12の少し下側の部位は,襟部2aと異なり,通常は一枚の布で構成されているので,この部位に貫通孔を直接設けることにすると,当該部位において十分な強度が得られなくなり,しかも,留め具を貫通孔に取り付けたときに留め具が空調服の外側に露出し,外観が損なわれてしまうからである。【0040】いま,第一の帯状部材511aの取付部513から留め具512までの第一調整ベルト51aの長さをL3,第二の帯状部材531の取付部533から貫通孔532までの第二調整ベルト53の長さをL4,そして,第一調整ベルト51aが取り付けられた第一位置(第一の帯状部材511aの取付部513)から第二調整ベルト53が取り付けられた第二位置(第二の帯状部材531の取付部533)までの空調服1の服地に沿った距離をL5とする。第一調整ベルト51aと第二調整ベルト53の長さ,及び,上記第一位置及び第二位置は,L3+L4<L5となるように設計されている。すなわち,第一の帯状部材511aの取付部513から留め具512までの第一調整ベルト51aの長さL3と第二の帯状部材531の取付部533から貫通孔532までの第二調整ベルト53の長さL4との合計の長さが,第一調整ベルト51aが取り付けられた第一位置から第二調整ベルト53が取り付けられた第二位置までの空調服1の服地に沿った距離L5よりも短くなっている。【0041】留め具512を貫通孔532に通して掛けると,図6に示すように,留め具512の内面が貫通孔532の形成された部分における第二調整ベルト53の外表面に当接し,留め具512が第二調整ベルト53にしっかりと固定される。このとき,空調服1の襟後部12の付近が弛み,襟後部12と着用者の首後部との間に空気排出口13が形成される。また,空気排出口13から少量の空気を排出したい場合には,留め具512を貫通孔532に取り付けないようにする。この場合には,空気流通路内を流通する空気の圧力により襟後部12と首後部との間に自動的にある程度の開口部が確保されるので,この開口部が空気排出口13となって,ここから少量の空気を外部に排出することができる。したがって,第二実施形態の空気排出口調整機構50aを用いると,着用者は,空調服1の使用目的に応じて空気排出口13の開口度を2段階の開口度の中から選択し,所期の冷却効果を得ることができる。【0044】第二実施形態の空気排出口調整機構は,第一の帯状部材の一方の端部に設けられた留め具を有し,第一の帯状部材の他方の端部が空調服の服地の内表面であって襟後部の周辺の所定の第一位置に取り付けられた第一調整ベルトと,第二の帯状部材の一方の端部に形成された,留め具と係合して留め具を取り付けるため貫通孔を有し,第二の帯状部材の他方の端部が,空調服の服地の内表面であって第一調整ベルトが取り付けられた第一位置とは異なる襟後部の周辺の所定の第二位置に取り付けられた第二調整ベルトとを備え,第一の帯状部材の上記他方の端部から留め具までの第一調整ベルトの長さと第二の帯状部材の上記他方の端部から貫通孔までの第二調整ベルトの長さとの合計の長さが,第一調整ベルトが取り付けられた第一位置から第二調整ベルトが取り付けられた第二位置までの空調服の服地に沿った距離よりも短くなっている。これにより,留め具を貫通孔に取り付けるだけで,空調服の襟後部の付近に弛みを確保して,空気排出口を容易に且つ確実に形成することができる。また,留め具を貫通孔に取り付けるか,若しくは貫通孔に取り付けないかに応じて,空気排出口の開口度を2段階に簡単に調整することができる。更に,貫通孔を有する第二調整ベルトを備えることにより,留め具を貫通孔に取り付けたときに,留め具が空調服の内側にとどまり,外部から見えることがないので,外観が損なわれることがない。オ【0046】[他の実施形態]尚,本発明は上記の各実施形態に限定されるものではなく,その要旨の範囲内において種々の変形が可能である。【0047】例えば,上記の第一実施形態では,空気排出口調整機構を空調服の襟後部に設ける場合について説明したが,この第一実施形態の空気排出口調整機構を空調服の襟後部の周辺に設けるようにしてもよい。また,上記の第二実施形態では,空気排出口調整機構を空調服の襟後部の周辺に設ける場合について説明したが,この第二実施形態の空気排出口調整機構を空調服の襟後部に設けるようにしてもよい。【0048】また,上記の第一実施形態では,貫通孔を空調服の襟後部に二つ設ける場合について説明したが,貫通孔を空調服の襟後部に一つだけ又は三つ以上設けるようにしてもよい。更に,上記の第二実施形態では,貫通孔を第二調整ベルトに一つ設ける場合について説明したが,貫通孔を第二調整ベルトに二つ以上設けるようにしてもよい。貫通孔を多く設けるほど空気排出口の開口度を細かく調整することが可能となる。【0051】加えて,上記の第一実施形態において,帯状部材における留め具が設けられた端部と反対側の端部を,空調服の服地に着脱自在に取り付けるようにしてもよい。同様に,上記の第二実施形態において,第一の帯状部材における留め具が設けられた端部と反対側の端部を,空調服の服地に着脱自在に取り付けるようにしてもよく,また,第二の帯状部材における貫通孔が形成された端部と反対側の端部を,空調服の服地に着脱自在に取り付けるようにしてもよい。これにより,空気排出口調整機構を空調服から取り外すことができるので,空調服及び空気排出口調整機構を何ら支障なく洗濯することができる。また,空気排出口調整機構が壊れたときに,新しい空気排出機構部に容易に交換することができる。カ【産業上の利用可能性】【0052】以上説明したように,本発明の空気排出口調整機構では,空調服の襟後部付近に空気排出口を容易に形成することができると共に,空気排出口の開口度を複数段階に簡単に調整することができる。したがって,本発明は,空調服の襟後部付近に形成される空気排出口の開口度を調整する機構として使用するのに好適である。
2
争点1(被告各製品の本件各発明の技術的範囲の属否)について
以下のとおり訂正するほか,原判決の事実及び理由の第4の2記載のとおりであるから,これを引用する。


原判決67頁14行目の左右端かけてを左右端にかけてと,同頁
19行目の被告各品を被告各製品と改める。



原判決69頁1行目のは「留め具」の次に(「第一取付部に相当
する。)」を,同頁3行目のための「貫通孔」の次に(「第二取付部に相当する。)」を加える。



原判決71頁12行目の人体のから16行目末尾までを「前記空調服の服地の内表面であって人体の首後部との間に空気流通路内を流通する空気を外部に排出する空気排出口が形成される部分である前記襟後部又はその周辺の第一の位置(構成要件B)に取り付けられたと認めるのが相当である。」と改める。



原判決71頁20行目のこの位置をこの取り付け位置と改め,同
頁24行目の第二の位置」の次に(構成要件C)を加える。



原判決72頁1行目の被告は,をa(6)一審被告は,と改める。
原判決73頁11行目末尾に行を改めて次のとおり加える。

b次に,一審被告は,①本件各発明は,「空調服の襟後部と人体の首後部との間に形成される空気排出口の開口度を簡単に調整することができる空気排出口調整機構を提供することを課題とするものであり,この課題を解決するために,第一調整ベルト及び第二調整ベルトの取り付け位置におのずから制限がある,②構成要件B及びCは,単に襟後部又はその周辺と規定するのみであって,調整ベルトと襟後部の距離が背面全体や何らかの他の部材の大きさ等と比較して相対的に近いということを規定したものではないから,前記襟後部又はその周辺にいう周辺か否かは,襟後部自体と対比することにより判断す
るほかないところ,本件明細書の図4も参酌すれば,その周辺といえるためには,少なくとも,襟後部の高さと比較しても襟後部
のすぐ下にあることが必要である,③被告各製品の少なくともゴムベルトは,襟後部からその高さと比較しても相当離れた位置に取り付けられているから,その周辺の要件を満たさない旨主張する。

しかしながら,前記aのとおり,本件明細書の図4は,本件発明1の一実施例を示したものにすぎないこと,本件明細書の【0046】に

尚,本発明は上記の各実施形態に限定されるものではなく,その要旨の範囲内において種々の変形が可能である。

との記載があることに照らすと,その周辺の要件について図4を参酌して上記のように限定して解釈することはできない。
また,本件各発明の上記課題から直ちに,その周辺といえるため
には,少なくとも,襟後部の高さと比較しても襟後部のすぐ下
にあることが必要であるとの解釈を導出することはできない。
したがって,一審被告の上記主張は採用することができない。」
(7)

原判決73頁23行目のaをa(a)と改める。

(8)

原判決75頁18行目の

解するが相当である。

解するのが相当である。

と改め,同行末尾に行を改めて次のとおり加える。⒝これに対し一審被告は,①空調服において,「送風手段を作動させたときの空調服の襟後部と人体の首後部との間に形成される隙間(構成要件Dの「空気排出口)の形状は,ファンの風力,前部ファスナーの締め具合,着用者の姿勢や体格,服の布地や布ベルト,ゴムベルト等の素材,襟部の形状等の影響も受ける」ものであることからすると,構成要件Dの複数段階の予め定められた開口度で前記空気排出口を形成するというためには,これらの要因に比して,前記第一取付部の複数の第二取付部への取り付け位置の開口度に対する影響が支配的であることを要するというべきである,②本件明細書には,本件各発明に係る空気排出口調整機構による空気排出口の開口度や空気排出量の調整につき,調整ベルトをつないだ時の長さを短くすると,空気排出口が大きくなり,より多くの空気が排出されることが説明されているが(【0024】ないし【0026】,【0030】,【0040】,【0041】,
【0044】,【0048】),それ以外に空気排出口の大きさや空気排出量を調整することについての記載は一切ないことからすると,構成要件Dの前記第一取付部を前記複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付けることで前記空気流通路内を流通する空気の圧力を利用することにより,前記襟後部と人体の首後部との間に,複数段階の予め定められた開口度で前記空気排出口を形成するとは,調整ベルトをつないだ時の長さを短くすると,空気排出口が大きくなり,より多くの空気が排出されることを意味し,調整ベルトをつないだ時の長さを短くすると,空気排出口が小さくなり,空気排出量が減少する形態を含まないと解すべきである旨主張する。
しかしながら,①については,本件各発明の特許請求の範囲(請求項3及び9)には,構成要件Dの複数段階の予め定められた開口度で前記空気排出口を形成するというためには,ファンの風力,前部ファスナーの締め具合,着用者の姿勢や体格,服の布地や布ベルト,ゴムベルト等の素材,襟部の形状等の開口度に対する影響に比して,前記第一取付部の複数の第二取付部への取り付け位置の開口度に対する影響が支配的であることを要することを規定した記載はなく,また,本件明細書の記載全体をみても,そのように解釈すべき根拠となる記載は見当たらない。
次に,②については,本件各発明の特許請求の範囲(請求項3及び9)には,構成要件Dの前記第一取付部を前記複数の第二取付部の少なくともいずれか一つに取り付けることで前記空気流通路内を流通する空気の圧力を利用することにより,前記襟後部と人体の首後部との間に,複数段階の予め定められた開口度で前記空気排出口を形成するとは,調整ベルトをつないだ時の長さを短くすると,空気排出口が大きくなり,より多くの空気が排出される構成のものに限定することを規定した記載
はない。
また,一審被告が挙げる本件明細書の上記記載は,本件各発明の実施例である第一実施形態及び第二実施形態に関する説明にすぎず,
本件各発明の実施形態は,第一実施形態及び第二実施形態に限
定されるものではないこと(【0046】)からすると,一審被告が挙げる本件明細書の上記記載から直ちに上記のように限定して解釈することはできないし,本件明細書の記載全体をみても,上記のように限定して解釈すべき根拠となる記載は見当たらない。
以上のとおり,一審被告の上記主張は,本件各発明の特許請求の範囲の記載及び本件明細書の記載に基づかないものであるから,採用することができない。」
(9)

原判決76頁4行目の前者のから7行目の

考えられる。

までを

前者の場合と後者の場合とでは,ゆるみの大きさが異なることによって襟後部と首後部との間に形成される開口の形状も異なり,その結果,空気の排出のされ方が変化するものと考えられる。

と改める。(10)
原判決76頁8行目末尾に行を改めて次のとおり加える。これに対し,一審被告は,マネキンに空調服を着用させてファンを作動させる実験(乙138,139の1ないし3)を行った結果,ボタンを留める位置によって開口の大きさに有意な差はみられなかったことに照らすと,一審原告の甲8及び9に基づく実験結果は採用すべきではない旨主張する。しかしながら,乙138,139の1ないし3によれば,一審被告が行った実験において,布ベルトのボタンをゴムベルトのボタンホールに取り付ける位置によって,首後部と襟後部との間に形成される開口の形状が変化したこと(特に,空調服を一旦持ち上げた場合には有意に変化したこと)が認められること,一審原告の甲8及び9の実験と一審被告の上記実験とでは,実験で用いられた空調服が異なり,マネキンの大きさ,着用のさせ方等の条件が同一であるものとは認められないことからすれば,一審被告の上記実験の結果によっても,一審原告の上記実験の結果が合理的であるとの前記認定を左右するものではない。したがって,一審被告の上記主張は採用することができない。(11)

原判決77頁8行目の隙間はから9行目末尾までを

隙間がほとんど形成されないことがあるとの記載がある。

と,同頁10行目の首後部とのにを首後部との間にと改める。(12)
原判決78頁2行目末尾に行を改めて次のとおり加える。加えて,被告各製品は,前記のとおり首後部から空気を排出させることを予定した製品であるから,着用の仕方等によって首後部から空気が排出されないような場合には,着用の仕方を整えるなどして,首後部から空気が排出されるように調整することが当然に予定されているものといえる。しかしながら,上記実験で隙間がほとんど形成されなかったという場合について,そのような調整をしたか否か明らかでなく,この点においても,上記実験は,適切さに欠けるものである。
(13)

原判決79頁6行目の「できない。」の次に

また,いずれの実験においても,着用者の着用の仕方や姿勢を統一した上で,完全な鉛直方向から撮影された写真や映像を比較したものが存在しないため,開口部の形状を対比して確認することもできない。

を加える。3
争点2-1(明確性要件違反)について
原判決81頁22行目のここにいうから末行末尾までを次のとおり訂正するほか,原判決の事実及び理由の第4の3記載のとおりであるから,これを引用する。
上記記載中の「空気排出口13は,文脈から空気排出口調整機構によって形成されるものを指すと理解されるが,空気排出口には,空気排出口調整機構により形成されるものと,空気排出口調整機構を用いることなく,送風手段を作動させることで空気流通路内を流通する空気の圧力により自動的に形成されるものとがあることは前記のとおりであり,上記記載から,本件明細書における空気排出口には,送風手段を作動させることで空気流通路内を流通する空気の圧力により自動的に形成されるものが含まれないものとはいえない。」
4
争点2-2(乙2公報を主引用例とする新規性欠如)及び争点2-3(乙2公報を主引用例とする進歩性欠如)について
原判決の事実及び理由の第4の4及び5記載のとおりであるから,これを引用する。

5
争点3(差止めの必要性)について
原判決の事実及び理由の第4の7記載のとおりであるから,これを引用する。

6
争点4(一審原告の損害額)について
以下のとおり訂正するほか,原判決の事実及び理由の第4の6記載のとおりであるから,これを引用する。
(1)

原判決102頁末行の(1)推定される損害額を(1)特許法102条2項に基づく損害額と改める。(2)
原判決103頁5行目から6行目までを次のとおり改める。そうすると,一審被告が被告各製品の販売により得た限界利益の額は,5652万1465円(消費税相当分を含む。)と認められる。そして,一審被告が得た上記限界利益の額は,特許法102条2項により,一審原告の受けた損害額と推定される。


原判決104頁19行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
これに対し一審被告は,●●●●●●●●に対する業務委託費は,取り扱う製品の点数によって変動するものであり,被告各製品の製造及び販売に直接関連して追加的に必要となった経費に当たる旨主張し,その根拠として,乙62に添付された覚書(一審被告と●●●●●●●●との間で平成28年6月20日付けで締結した業務委託契約の報酬額を変更する旨の2017年7月31日付け覚書)において月額の報酬額が変更されていることを指摘する。しかしながら,上記覚書の記載からは上記報酬額の変更の理由は明らかでないから,上記報酬額の変更の事実を踏まえても,一審被告の上記主張は採用することができない。⑷

原判決106頁14行目の本件発明を本件発明1と改める。



原判決107頁23行目のこの事情に基づき,から24行目末尾までを次のとおり改める。
本件各発明が被告各製品の部分にのみ実施されていることは,本件推定の覆滅事由に該当するものと認められる。(オ)一審原告は,当審において,①本件各発明は,市場開拓期において,空気排出口調整機構を取り付けることで生じる空気排出口をいかに複数段階に調整するかを実現しようとしたものであり,その技術的意義は,従来技術に比して大きいものである,②本件発明1は,ファンの大型化に伴い,空気排出機構を適切に形成する必要性から生まれた,機能上重要な発明であり,顕著な作用効果を有するものである(甲5),③本件各発明の技術的意義及び作用効果が顕著であることに照らすと,被告各製品の本件各発明を実施する部分の部材の価格割合の点は覆滅事由とならない,④一審被告のウェブサイト(甲3の1),被告各製品のパッケージ(甲6)及び同封されているチラシは「調整ゴムについて強く訴求しており,一審被告の製品のパンフレット(乙57)においても,調整ゴムが目立つように掲載されて
いることなどからすると,被告各製品の備える機能のうち,本件各発
明を実施する部分の顧客吸引力は高い旨主張する。
しかしながら,①については,従来技術と比較したときの本件各発明の技術的意義が必ずしも大きいものではなかったことは,前記(ア)で説示したとおりである。
②については,本件発明1のいかなる作用効果について顕著な作用効果であると主張するのか明らかでなく,甲5によっても,本件発明1には従来技術に比して顕著な作用効果があるものとは認められない。③については,本件各発明の技術的意義及び作用効果を根拠として,本件各発明が被告各製品の部分にのみ実施されていることが本件推定の覆滅事由となることを否定することはできない。
④については,一審原告が指摘する甲3の1,6,乙57の記載は,調整ゴムの機能について説明するものであるが,その説明は,従
来技術でも得られた首後部からの空気の排出自体について説明するものであり,開口度を複数段階に簡単に調整することができるという本件各発明の技術的特徴を説明するものではない。加えて,上記各記載自体,調整ゴムの機能を他の機能に比して強く訴求するものとは
いえないから,被告各製品の上記広告宣伝は,被告各製品において本件各発明を実施する部分の顧客吸引力を高めるものとはいえない。したがって,一審原告の上記主張は,いずれも理由がない。」


原判決108頁17行目の購入したとはいえないからから19行目末尾までを

購入したものと認めることはできないから,上記競業他社の空調服の存在は,本件推定の覆滅事由に該当するものと認められる。

と改める。


原判決108頁25行目から26頁1行目までを次のとおり改める。しかし,一審被告が被告各製品を製造販売しなかったとしても,被告各製品を購入しようとしていた顧客が一審被告の他の製品(例えば,乙58の25頁及び29頁に掲載の「首背中風気路メッシュを有する製品
など)を購入したことを認めるに足りる証拠はないから,一審被告の上記主張は採用することができない。」


原判決110頁2行目から11行目までを次のとおり改める。
オ小括前記ア及びイの認定事実によれば,本件各発明が被告各製品の部分にのみ実施されていること,電動ファン付きウェアの市場において,他社の販売する被告各製品の競合品が存在していたことは,本件推定の覆滅事由に該当するものと認められる。そして,本件推定の上記覆滅事由に加えて,①前記アで説示したとおり,本件各発明は,空調服の襟後部と首後部との間に形成される開口部の大きさを襟後部の内表面に設けた一組の調整紐で調整する従来技術における一組の調整紐を,取付部を有する二つの調整ベルトに置き換えて,一方の調整ベルトの取付部と他方の調整ベルトの複数ある取付部のうちいずれか一つを取り付けることによって,襟後部と首後部との間に形成される開口部の大きさを調整することを可能にし,より適切な空調服の冷却効果を,より簡単に得ることを目指したものであり,開口部からの空気の排出の効率化という点では,従来技術の延長線上に位置づけられるものであること,本件特許の出願当時,ボタン及びボタンホール等を使用し,衣服におけるサイズを複数段階で調整することは,周知慣用の技術であったことに照らすと,本件各発明の技術的意義は必ずしも大きいものとはいえず,その作用効果も従来技術と比較して大きなものとは認められないから,被告各製品において本件各発明を実施した部分の顧客吸引力は高いものとはいえないこと,②電動ファン付きウェアの市場における一審原告,一審被告及び競業他社のシェアの割合(前記イ(ア)),③一審被告における被告各製品の広告宣伝の態様(甲3の1,6,乙57等)を総合考慮すると,被告各製品の購買動機の形成に対する本件各発明の寄与割合は10%と認めるのが相当であり,上記寄与割合を超える部分については被告各製品の限界利益の額と一審原告の受けた損害額との間に相当因果関係がないものと認められる。したがって,本件推定は上記限度で覆滅されるものと認められるから,特許法102条2項に基づく一審原告の損害額は,被告各製品の限界利益の額(5652万1465円)の10%に相当する565万2147円と認められる。⑶弁護士費用本件事案の性質・内容,本件の認容額,原審及び当審の審理経過等諸般の事情を斟酌すると,一審被告による本件特許権侵害の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当の一審原告の損害額は,60万円と認めるのが相当である。⑷まとめ以上によれば,一審被告の本件特許権侵害の不法行為によって一審原告が受けた損害額は,625万2147円と認められる。


原判決110頁21行目末尾に行を改めて次のとおり加える。
よって,一審原告は,一審被告に対し,本件特許権侵害の不法行為に基づく損害賠償として625万2147円及びうち284万5159円に対する不法行為の後である平成30年7月15日(訴状送達日の翌日)から,うち340万6988円に対する不法行為の後である令和元年11月7日(同年10月31日付け訴えの変更申立書送達日の翌日)から各支払済みまで改正前民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めることができる。
7
一審被告による当審における無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張について

当裁判所は,令和3年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において,一審被告が同年7月9日付け控訴理由書に基づいて提出した無効理由5ないし9に基づく無効の抗弁(同理由書第3ないし第6記載)及び権利の濫用の抗弁(同理由書第8記載)の主張について,一審原告の申立てにより,時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下したが,その理由は,以下のとおりである。


一件記録により認められる本件訴訟の経緯等は,次のとおりである。ア
一審原告は,平成30年7月6日,原審に本件訴訟を提起した。
一審被告は,同年11月12日の原審第1回弁論準備手続期日において,同年10月31日付け被告第1準備書面に基づいて,本件各発明(請求項3及び9)に係る本件特許に明確性要件違反の無効理由(本件の争点2-1)が存在するとして,特許法104条の3第1項の無効の抗弁を主張した。その後,一審被告は,平成31年3月7日の原審第3回弁論準備手続期日において,同年2月28日付け被告第3準備書面に基づいて,上記無効の抗弁について,乙2公報を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如の無効理由(本件の争点2-2及び2-3)を追加して主張した。
一審原告及び一審被告は,令和元年6月27日の原審第5回弁論準備手続期日において,侵害論についての主張立証は終了した旨陳述した。その後,本件訴訟は,同年7月19日の原審第6回弁論準備手続期日から,損害論の審理に入った。


株式会社サンエスは,令和2年10月15日,本件特許のうち,請求項3ないし10に係る特許について,明確性要件違反(無効理由1),冒認出願又は共同出願要件違反(無効理由2),公然実施発明(結び紐タイプの空調服に係る発明)を主引用例とする進歩性欠如(無効理由3),乙2公報を主引用例とする進歩性欠如(無効理由4)(ただし,本件の
争点2-3とは,乙2公報記載の発明の内容,副引用例等の主張が異なる。)を無効理由として特許無効審判(無効2020-800103号事件。以下別件無効審判という。乙104)を請求した。

一審被告は,令和2年10月22日の原審第14回弁論準備手続期日において,同月16日付けの被告第10準備書面に基づいて,本件各発明に係る本件特許に別件無効審判の無効理由1ないし4と同一の無効理由が存在するとして,新たな無効の抗弁の主張をした。
原審は,同年12月18日の第15回弁論準備手続期日において,一審原告の申立てにより,被告第10準備書面で追加された上記無効の抗弁の主張を時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下した。原審は,令和3年1月28日の第16回弁論準備手続期日で弁論準備手続を終結した後,同年2月26日の原審第2回口頭弁論期日において口頭弁論を終結し,同年5月20日,一審原告の請求を一部認容する原判決を言い渡した。


一審被告は,令和3年5月20日,本件控訴を提起し,一審原告は,同年6月3日,本件附帯控訴を提起した。
一審被告は,同年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において,同年7月9日付け控訴理由書に基づいて,本件各発明に係る本件特許に無効理由5(別件無効審判の無効理由2と同じ),無効理由6(別件無効審判の無効理由3と同じ),無効理由7(別件無効審判の無効理由4と同じ),無効理由8(サポート要件違反)及び無効理由9(実施可能要件違反)が存在するとして無効の抗弁の主張を追加し,また,権利の濫用の抗弁の主張を追加した。
これに対し一審原告は,同年8月26日付け控訴答弁書に基づいて一審被告の無効理由5ないし9に基づく無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張は,時機に後れた攻撃防御方法に当たるものであるから,却
下を求める旨の申立てをした。

なお,別件無効審判は,当審の本件口頭弁論終結時(令和3年11月8日)において,特許庁に係属中である。



前記⑴の事実関係によれば,①一審被告は,原審において,平成31年3月7日の原審第3回弁論準備手続期日までに,本件各発明に係る本件特許に明確性要件違反の無効理由,乙2公報を主引用例とする新規性欠如及び進歩性欠如の無効理由(本件の争点2-1ないし2-3)が存在するとして無効の抗弁を主張し,その上で,令和元年6月27日の原審第5回弁論準備手続期日において,侵害論についての主張立証は終了したと陳述した後,同年7月19日の原審第6回弁論準備手続期日から,本件訴訟は損害論の審理に入ったこと,②その後,一審被告は,令和2年10月22日の原審第14回弁論準備手続期日において,本件各発明に係る本件特許に別件無効審判の無効理由1ないし4と同一の無効理由が存在するとして,新たな無効の抗弁の主張をしたが,原審が,同年12月18日の第15回弁論準備手続期日において,上記主張を時機に後れた攻撃防御方法に当たるものとして却下したこと,③一審被告は,令和3年11月8日の当審第1回口頭弁論期日において,控訴理由書に基づいて,本件各発明に係る本件特許に別件無効審判の無効理由2ないし4と同じ無効理由である無効理由5ないし7,原審で主張しなかった無効理由8(サポート要件違反)及び無効理由9(実施可能要件違反)が存在するとして無効の抗弁の主張をするとともに,新たに権利の濫用の抗弁の主張をしたこと,④別件無効審判は,当審の本件口頭弁論終結時において,特許庁に係属中であることが認められる。
以上を前提に検討するに,侵害論に関する抗弁の主張は,本来,原審において適時に行うべきものであるところ,一審被告が,原審において,令和元年6月27日の原審第5回弁論準備手続期日に侵害論についての主張立証は終了したと陳述するまでの間に,当審で主張する無効理由5ないし9
に基づく無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張をしなかったことについて,やむを得ないといえるだけの特段の事情はうかがわれないから,当審における上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張は,一審被告の少なくとも重大な過失により時機に後れて提出された攻撃防御方法であるものというべきである。
そして,当審において,一審被告に上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張を許すことは,一審原告に対し,上記各主張に対する更なる反論の機会を与える必要が生じ,これに対する一審被告の再反論等も想定し得ることから,これにより訴訟の完結を遅延させることとなることは明らかである。そこで,当審は,民事訴訟法297条において準用する同法157条1項に基づき,一審被告の上記無効の抗弁及び権利の濫用の抗弁の主張を却下したものである。
第5

結論
以上によれば,一審原告の請求は原判決が認容した限度で理由があり,その余は理由がないから,これと同旨の原判決は相当であって,本件控訴及び附帯控訴はいずれも理由がないからこれを棄却することとして,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第1部

裁判長裁判官

大鷹一郎
裁判官

小林康彦
裁判官

小川卓逸
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