判例検索β > 令和3年(ワ)第106号
損害賠償請求事件
事件番号令和3(ワ)106
事件名損害賠償請求事件
裁判年月日令和4年2月8日
法廷名札幌地方裁判所
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-02-08
情報公開日2022-04-12 04:00:27
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
判決主文
1本件訴えを却下する。
2訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由
第1請求の趣旨
1第1次的請求
被告らは,原告ら各自(原告らの連帯債権という趣旨。以下同じ。)に対し,連帯して,
22億4654万1490円及びこれに対する平成28年1月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
2第2次的請求


被告アクティブは,原告ら各自に対し,22億4654万1490円及びこれに対する平成30年4月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。



被告つうけん及び被告Aは,原告ら各自に対し,連帯して,22億4654万1490円及びこれに対する平成28年1月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

3第3次的請求


被告アクティブは,原告ら各自に対し,22億4654万1490円及びこれに対する平成28年1月21日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。



被告つうけんは,原告ら各自に対し,22億4654万1490円及びこれに対する平成26年3月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4第4次的請求


被告アクティブは,原告ら各自に対し,22億4654万1490円及びこれに対する平成30年4月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。


被告つうけんは,原告ら各自に対し,22億4654万1490円及びこれに対する平成26年3月14日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

第2事案の概要等
1事案の概要
本件は,原告ら(なお,原告創配は,原告重機の太陽光発電事業に係る権利義務を吸収分割により承継した会社である。
)が,原告重機が被告アクティブとの
間で太陽光発電設備の設計及び施工並びに同設備の敷地の造成工事を内容とする請負契約を締結したところ,被告アクティブの設計及び施工に瑕疵があったために土地及び発電設備につき修補工事を実施する必要が生じたなどとして,①被告アクティブに対し,
請負契約に基づく瑕疵修補に代わる損害賠償請求
(民法
(平
成29年法律第44号による改正前のもの。
以下同じ。634条2項)

又は不法
行為に基づく損害賠償請求として,修補工事費用等の損害合計22億4654万1490円及び遅延損害金の支払を,②被告アクティブ及びその親会社である被告つうけんの従業員として,前記請負契約の締結交渉に当たり,工事の設計及び施工も担当した被告Aに対し,前記瑕疵は被告Aの重大な過失によるものであると主張して,不法行為に基づき,前記被告アクティブに対する請求と同額の金員の賠償及び遅延損害金の支払を,③被告つうけんに対し,被告つうけんは,被告Aの使用者として被告Aの前記不法行為につき使用者責任(民法715条)を負うとともに,前記請負契約の締結に当たって,被告アクティブに太陽光発電の建設工事を行うことができるような設計及び施工の能力がなかったことを原告重機に伝えるべきであったにもかかわらずこれを怠った情報提供義務違反があり,これが不法行為を構成すると主張して,前記各請求と同額の金員の賠償及び遅延損害金の支払をそれぞれ求める事案である。
なお,第1次請求ないし第4次請求までの各請求は,訴訟物ごとに被告らの連帯関係並びに遅延損害金の起算日及び利率が異なることによる区別であり,❶第1次的請求は,
前記請負契約に係る設計及び施工の瑕疵を理由とする被告らに対
する不法行為(被告つうけんについては使用者責任)に基づく損害賠償請求権,❷第2次請求は,
被告アクティブについては請負契約に基づく瑕疵修補に代わる
損害賠償請求権,
被告つうけん及び被告Aについては設計及び施工の瑕疵を理由
とする不法行為
(被告つうけんについては使用者責任)
に基づく損害賠償請求権,
❸第3次請求は,
被告アクティブについては設計及び施工の瑕疵を理由とする不
法行為に基づく損害賠償請求権,被告つうけんについては前記情報提供義務違反を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権,❹第4次請求は,被告アクティブについては請負契約に基づく瑕疵修補に代わる損害賠償請求権,被告つうけんについては前記情報提供義務違反を理由とする不法行為に基づく損害賠償請求権にそれぞれ対応するものである。
原告らの請求に対し,被告らは,前記請負契約において,原告重機と被告アクティブとの間で,同契約に関して生じた紛争について,建設工事紛争審査会の仲裁に服する旨の仲裁合意がされているところ,同合意の効力は当事者である原告重機及び被告アクティブのみならず,
原告創配並びに被告つうけん及び被告Aに
も及ぶものであると主張して,本案前の答弁として訴えの却下を求めた。当裁判所は,
この点についてまず審理,
判断することとして,
弁論を終結した。
2前提事実
以下の事実のうち,証拠の掲記がない事実は当事者間に争いがない。⑴

当事者
原告重機は,荷役作業請負等を業とする株式会社であり,主として大型機材を工場等へ運搬し,据え付ける業務を行っているが,後述するとおり,平成24年頃から,北海道阿寒郡鶴居村において太陽光発電事業を行っている。原告創配は,平成29年6月1日に,原告重機の太陽光発電事業部門を分社化するために設立され,平成30年3月26日に,原告重機の太陽光発電事業に係る権利義務
(後述する原告重機と被告アクティブとの間の本件請負契約に
基づく権利義務を含む。
)を吸収分割によって承継した株式会社である。
被告アクティブは,電気通信設備,電気設備及び建設工事の設計,施工等を業とする株式会社である。
被告つうけんは,被告アクティブと同様に電気通信設備等の設計,施工等を目的とする株式会社であり,被告アクティブの親会社である。
被告Aは,
原告重機と被告アクティブとの間の後記⑵記載の請負契約に関して,当初被告つうけんの担当者として契約締結交渉に関与し,平成26年5月1日以降は転籍先である被告アクティブの担当者として当該請負契約に基づく工事の設計及び施工に関与した者である。なお,被告Aは,平成29年1月31日に被告アクティブを退職した(乙12)



原告重機の太陽光発電事業と被告アクティブとの請負契約の締結
原告重機は,平成24年頃,鶴居村に所在する土地を購入し,同土地に太陽光発電設備を建設して,太陽光発電事業を行うこととした。
そこで,原告重機は,同年10月以降,太陽光発電設備に係る設備認定や林地開発許可等の所定の手続を経た上で,太陽光発電設備の設置予定地の伐採開墾を訴外有限会社川上産業(以下川上産業という。
)に依頼したが,工事開
始後の平成25年10月頃,設置予定地の置土が雨で流出する事故が発生するなどしたため,川上産業は工事から撤退することとなった(甲1~3,弁論の全趣旨)

そうしたところ,同年12月頃,当時被告つうけんの従業員であった被告Aが,原告重機に対し,原告重機の太陽光発電事業について話を聴きたいと申し向けた。後日,原告重機が被告Aに事業の詳細を伝えると,被告Aから,被告つうけんで原告重機の太陽光発電設備の建設工事を行いたい旨の申出があった。
これ以降,
原告重機と被告つうけんとの間で前記工事に係る請負契約の締結
に係る交渉が行われたが,その後,被告らの事情により,実際の工事は被告アクティブが行うこととなったため,原告重機と被告アクティブとの間で交渉が行われた。
そして,平成26年3月14日,原告重機と被告アクティブとの間で,原告重機が設置を予定していた2つの太陽光発電所のうちの1つ(以下1号発電所という。)の発電設備設置工事及び同設備の敷地の造成工事を内容とする
請負契約が締結された(以下1号請負契約という。なお,代金は,同契約締結後の変更を経て最終的に3億2400万円となった(甲41の2))。。1
号発電所は,同年10月1日に工事が完了(予定された工程の一応の終了を意味し,
約定されたとおりの工事の完成については当事者間に争いがある。し,)
同日から売電が開始された。
また,同年9月9日,原告重機と被告アクティブとの間で,もう1つの太陽光発電所(以下2号発電所という。
)の発電設備設置工事及び同設備の敷地
の造成工事を内容とする請負契約が締結された
(以下
2号請負契約
といい,
1号請負契約と併せて
本件請負契約
という。
なお,
2号請負契約の代金は,
同契約締結後の変更を経て最終的に7億4520万円となった
(甲5の3))
。。
2号発電所は,平成28年1月21日に工事が完了(ここにおける完了の意味も,
1号請負契約において記載したのと同様である。し,

同日から売電が
開始された。
原告重機と被告アクティブとの間では,本件請負契約の締結に当たって,それぞれ契約書が作成されたが(甲5の1,41の1)
,これらの契約書には,い
ずれも,第45条1項において,
この契約の条項で甲乙(注:「甲は原告重
機,
乙は被告アクティブを指す。
)協議を要するものにつき協議がととのわ
ない場合,その他この契約に関して甲乙間に紛争が生じた場合は,建設業法による建設工事紛争審査会のあっせん又は調停によって,その解決を図る。」と
定められ,
また,
同条2項においては,

前項の審査会があっせん若しくは調停しないとき,又はこれを打ち切った場合においては,その旨を当事者が受けたときは,紛争を同審査会の仲裁に付し,その判断に服する。(以下,この規定

を本件仲裁規定という。
)と定められていた。


紛争の発生と中央建設工事紛争審査会における調停手続
2号発電所の工事中である平成27年4月10日,同発電所設置予定地の高盛土部分が崩壊する事故が発生した。その後,被告アクティブが修復工事を実施し,平成28年1月21日に工事を完了し,2号発電所の売電が開始されたものの,同年4月8日に,同じ箇所が再び崩壊する事故が発生した。前記事故の発生後,原告重機が,被告アクティブに対し,同事故に関する修復工事を行うことを求めるとともに,1号発電所及び2号発電所の工事に関して多数の瑕疵が発覚したなどと主張して,これについても修復工事を行うことを求めた。そこで,以後,原告らと被告アクティブとの間で修復工事に係る協議が行われ,
被告アクティブが原告重機に対して修復工事計画案を提示するな
どしたが,平成30年12月17日に,原告らが前記計画案を受け容れないとしたため,協議が打ち切られた。なお,原告創配は,上記協議中である同年8月16日,被告アクティブに対し,同原告が提示する和解案による早期の合意が実現できない場合には,
ADR(建設工事紛争審査会)における解決を求
める予定である旨を伝えた(乙4)

被告アクティブは,
平成31年3月1日,
本件請負契約45条1項に基づき,
原告らを相手方として,中央建設工事紛争審査会(以下,単に審査会という。
)に対して調停を申し立てた(以下先行調停事件という。。

その後,先行調停事件で9回の期日が実施されたが,令和2年12月18日の第9回調停期日において,審査会が,被告アクティブ及び原告らに対して,被告アクティブが先行調停事件の手続において提示した瑕疵修補工事案を基本としつつ若干の修正を加えた調停案を提示した。
これに対し,原告らは,前記調停案は受け容れ難いとして,令和3年1月19日,当裁判所に対し,被告アクティブに加えて,先行調停事件の当事者ではなかった被告つうけん及び被告Aをも被告として,本件訴えを提起した。これを受けて,審査会は,同月21日,当事者間に合意の見込みがないとして先行調停事件を打ち切った。


仲裁事件の係属
被告アクティブは,本件訴え提起後の令和3年2月3日,原告らを相手方として,審査会に対し,仲裁の申立てをした(以下,同申立てに係る事件を仲裁事件という。。そして,同年3月31日,審査会に対し,審査会が仲裁権)
限を有する旨の仲裁判断前の独立の決定(仲裁法23条1項及び4項1号)をすることを求めた。
審査会は,
同年6月30日に実施された仲裁事件の第1回審理期日において,被告アクティブ及び原告らに対し,仲裁合意の効力等についての審理判断の重複を避けるために,当裁判所の判断を先行させるのが望ましい旨述べた。これについて,被告アクティブ及び原告らが,当裁判所の判断を先行させることについて了承したため,仲裁事件の次回期日は追って指定することとされた。これにより,仲裁事件の審理は,本件口頭弁論終結時点において,事実上中断している。

3争点
本件の仲裁合意に関する争点は,以下のとおりである。


原告重機と被告アクティブとの間の仲裁合意の成否及び有効性



前記仲裁合意の効力が被告つうけん及び被告Aに及ぶか否か

4当事者の主張


原告重機と被告アクティブとの間の仲裁合意の成否及び有効性

【被告らの主張】
原告重機は,本件請負契約の各契約書の内容を確認した上で押印し,本件請負契約を締結したのであるから,原告重機と被告アクティブとの間で,本件仲裁規定のとおり仲裁合意が成立している。
本件請負契約は,原告重機と被告アクティブという業者間の契約であり,2つの契約代金の合計が10億円を超える高額な契約であって,契約書ひな形の交付から契約の締結までに1号請負契約については約10日間,2号請負契約については約1週間の期間があったことからすれば,原告重機が契約書の内容を確認していなかったなどということはあり得ない。現に,原告重機の代表者は,1号請負契約の締結に際し,契約書について内容は確認済みですと述べ,契約書の内容について何の質問もしなかった。これらの事実から,原告重機が,契約書を確認した上で1号請負契約を締結したことは明らかである。2号請負契約についても,原告重機と被告アクティブは,1号請負契約と同じ内容の契約書であることを確認した上で締結しているのであり,仲裁合意が含まれることを前提として契約を締結したものである。
以上より,原告重機は,本件仲裁規定を含む契約書の内容を確認した上で本件請負契約を締結したものであるから,原告重機と被告アクティブとの間で仲裁合意が有効に成立していたことは明らかである。また,仮に原告重機に錯誤があったとしても,原告重機には重過失があるというべきである。なお,原告らは,審査会に調停手続が係属する以前に,被告アクティブに対し,
ADR(建設工事紛争審査会)における解決を求める予定でおりますと記載した文書を送付していたところ,原告らにおいても,本件請負契約に仲裁合意が含まれていることを前提としていた。原告らは,先行調停事件において約2年間にわたり,調停期日が9回も重ねられたにもかかわらず,審査会が原告に不利な調停案を出すや否や,調停案は受諾できないとして突如被告つうけん及び被告Aを巻き込んで本件訴訟を提起したものであるから,原告らが仲裁合意を潜脱しようと意図していることは明らかである。
【原告らの主張】
仲裁合意の成立は否認する。また,仮に仲裁合意が成立していると認められた場合でも,錯誤又は通謀虚偽表示によって無効である。
原告重機は,本件請負契約の各締結当時,請負契約書に本件仲裁規定が含まれていることを認識しておらず,仲裁合意をする意思を有していなかった。すなわち,原告重機は,本件請負契約に関して,契約の細かい技術的な部分については,公共工事等で実績を有し,太陽光発電施設に係る工事にもノウハウがある被告つうけん及び被告アクティブを信頼して進めていけば問題ないと認識しており,
契約書1枚目に記載されている支払条件等の本件請負契約に特有
の部分だけ確認すればよいと考え,契約書の2枚目以降の記載を仔細に確認することはなかったし,
弁護士等の法律専門家にアドバイスを求めるなどもしな
かった。そして,本件請負契約の締結の際にも,条項の読み合わせや被告アクティブからの説明がされるといったこともなかったため,本件仲裁規定の存在に気が付くことのないまま,本件請負契約を締結したのである。
また,かかる経緯に加えて,原告重機と被告アクティブとの間では,契約書記載の条項の多くが履行されておらず,図面・仕様書を引用しながらその添付がないといった不備があることに照らせば,本件請負契約にかかる契約書は,他の書式を流用した形式的なものに過ぎず,
原告重機と被告アクティブとの間
で,同契約書記載の条項で合意する意思がなかったことは明らかである。以上のとおり,原告重機と被告アクティブには,仲裁合意をする意思がなかったのであるから,仲裁合意の成立は認められず,仮に仲裁合意の成立が認められたとしても,仲裁合意を行うという効果意思がないため,錯誤又は通謀虚偽表示により無効である。
被告らは,
原告らが仲裁合意を潜脱して本件訴訟を提起したなどと主張する
が,
仲裁合意が不成立又は無効であることは前記のとおりであるし,
原告らは,
審査会における解決とともに,
訴訟による解決も先行調停事件の当初から検討
しており,先行調停事件において自己の求める解決を模索したが,納得のいく調停案が審査会から示されなかったため,当初の予定どおり本件訴訟を提起したものである。本件訴えにおいて被告つうけん及び被告Aを被告としたのは,被告らそれぞれの役割に応じた責任を追及するためである。このように,原告らにおいて仲裁合意を潜脱する意図はない。


前記仲裁合意の効力が被告つうけん及び被告Aに及ぶか否か

【被告らの主張】
本件請負契約は,
当時被告つうけんの甲事業所技術担当課長であった被告A
が原告重機に対する営業を行ったことが発端となっており,また,被告Aは,本件請負契約の締結後も,被告アクティブに転籍して工事の設計を自ら行い,現場代理人として施工に関与したところ,被告Aは,本件請負契約の締結に至る過程及び施工過程における被告アクティブ及び被告つうけんの中心的存在であって,原告重機もそのように認識していた。また,本件請負契約は,もともと被告つうけんと原告重機との間で契約締結に係る協議が行われていたが,つうけんグループ内における業務分担の関係から被告アクティブが契約主体となったものであるし,
契約締結後も,
被告つうけんの社員であった被告Aが,
被告アクティブに転籍して工事の設計及び施工に従事していたのであるから,かかる本件請負契約の締結に至る経緯及び被告Aの関与の在り方等に照らせば,原告重機は,本件請負契約の相手方として,被告アクティブと被告つうけんを一体的に捉えていた。
そして,
原告らの被告アクティブに対する請求と被告つうけん及び被告Aに対する請求は,いずれも本件請負契約に基づく工事の瑕疵を理由とする損害賠償請求であって,請求の基礎は同一であり,実質的に一体の紛争というべきである。そうすると,原告らの被告らに対する紛争は統一的に判断する必要があるというべきである。
これらのことからすれば,本件請負契約に関する紛争を審査会の仲裁に付する旨合意した当事者の合理的な意思に照らして,被告つうけん及び被告Aに対しても,仲裁合意の効力が及ぶと解すべきである。
また,前記のとおり,原告らが,仲裁合意を潜脱する意図で被告つうけん及び被告Aを被告に加えて本件訴訟を提起したことは明らかであるところ,このように法人の代表者等を被告に加えるだけで容易に仲裁合意を潜脱できると解するのは,
仲裁合意の安定性及び当事者の期待を害するものであって相当で
なく,かかる観点からも,被告つうけん及び被告Aに仲裁合意の効力が及ぶと解するのが相当というべきである。
【原告らの主張】
争う。仲裁合意の効力は,合意の当事者についてのみ及ぶのが原則である。被告らの主張は,
仲裁合意の効力が当事者にのみ及ぶという前記原則を覆す根
拠とはなり得ない。また,前記のとおり,原告らにおいて,仲裁合意を潜脱する意図などない。
第3当裁判所の判断
1原告重機と被告アクティブとの間の仲裁合意の成否及び有効性(争点⑴)⑴

原告重機と被告アクティブは,本件請負契約の締結に当たって,それぞれ契約書を作成しているところ(甲5の1,41の1)
,本件請負契約は,各契約書
の末尾に原告重機と被告アクティブがそれぞれ押印することによって締結されたものと認められる。
本件仲裁規定は,これらの契約書の条項に含まれていたものであり,これらの契約書はいずれも被告アクティブが案文を用意して,原告重機に交付したものであるが(争いなし)
,原告重機が案文の交付を受けてから契約書の押印を
するまでの間に,1号請負契約については約10日間,2号請負契約については約1週間の期間があったと認められるところ(争いなし)
,本件請負契約締
結の前には,
いずれも原告重機が契約書の内容を確認するための十分な期間が
設けられていたといえる。そして,本件請負契約が,それぞれ代金が3億円ないし7億円を超える高額な契約であったこと(前提事実⑵)からすれば,請負を業とする会社である原告重機としては,事後の紛争を防止するために,契約書記載の条項を確認するのが当然であるし,前記期間はまさに契約書の内容の確認のために設けられていた期間というべきである。現に,原告重機は,1号請負契約に際し,被告アクティブに対し,支払条件の変更を申し出るなどしているところ(争いなし)
,契約書の内容を実際に確認していたことがうかがわ
れる。これらのことからすれば,原告重機は,前記期間において,本件請負契約の各契約書の内容を確認し,本件仲裁規定についても,その存在を認識していたと合理的に推認される。そして,原告重機は,本件仲裁規定の存在を認識した上で契約書に押印したのであるから,本件仲裁規定を含む契約書記載の内容で合意する意思を有していたと認められる。
したがって,原告重機と被告アクティブとの間で,本件仲裁規定のとおり,仲裁合意が成立したと認められる(以下,原告重機と被告アクティブとの間で成立した仲裁合意を本件仲裁合意という。。



これに対し,原告らは,本件請負契約締結当時,契約書の細かい条項については大手企業である被告らを信用しており,契約書のうち,代金額や支払条件等の主な内容が記載されている1頁目のみ確認して,2頁目以降は内容を子細に確認していなかったため,契約書に本件仲裁規定が含まれていることを認識していなかったなどと主張する。
しかし,本件請負契約の契約書は,いずれも,全部で5枚(1枚目に工期,請負代金額,支払条件,附記事項等が記載され,2枚目から4枚目にかけて全46条にわたる契約条項が記載され,5枚目に各当事者の記名及び押印がある。であるところ,

前記⑴で述べた事情からすれば,
原告重機が契約書の内容
を確認していなかったなどとは考え難い。また,原告らが指摘する,本件請負契約の締結に当たって契約書の読み合わせが行われていない事実,被告アクテ
ィブから原告重機に対して本件仲裁規定についての説明がなかった事実,別途の仲裁合意書が作成されていない事実はいずれも認められるものの(争いなし)
,これらの事実は,必ずしも原告重機が契約書の記載を確認していなかったことを推認させるものとはいえず,前記認定を左右するものではない。さらに,
契約書は他の書式を流用しただけでそれに記載された条項で合意する意思がなかったと原告らが主張する点についても,契約書1枚目の附記事項において,契約条項のうち前払金を定める第36条は適用しないと明記され,契約条項の第36条の部分に×印がされていることに照らすと,契約書に記載された他の条項については,
基本的に適用されることを前提として契約書が作成され
たと認めるのが相当である。したがって,原告らの主張は採用できない。2前記仲裁合意の効力が被告つうけん及び被告Aに及ぶか否か(争点⑵)⑴

仲裁合意の効力は,原則として合意をした当事者のみに及ぶと解されるが,例外的に,仲裁合意の当事者以外の者であっても,その者の地位,当事者との関係,当事者間の紛争に対する関与の程度等の個別事情を考慮した上で,当該仲裁合意をした当事者において,
当該当事者以外の者との間の紛争も仲裁によ
って解決する合理的意思があると解される場合には,
当該当事者以外の者が示
す仲裁合意の効力の享受に関する態度いかんも踏まえて,当事者以外の者に対しても仲裁合意の効力が及ぶ場合があると解される。



これを踏まえて検討するに,本件では,当時被告つうけんの従業員であった被告Aが,原告重機の下に営業に訪れたことをきっかけとして,原告重機と被告つうけん及び被告アクティブとの間で本件請負契約の締結に係る協議が開始されたこと,本件請負契約については,当初,原告重機と被告つうけんとの間で協議がされていたが,後に被告つうけん及び被告アクティブの業務分担の都合から,被告アクティブが契約の主体となることが決まったこと,1号請負契約の締結後,被告Aが被告つうけんから被告アクティブに転籍し,本件請負契約の工事についての設計を担当し,現場代理人として工事の施工に関与したことが認められる(いずれも争いなし)

かかる事実関係を踏まえると,被告つうけんは,被告アクティブが契約主体となる前に本件請負契約に関して原告重機との間で協議をしていた者であり,被告アクティブとのグループ内における業務分担の都合で契約主体とならなかったに過ぎないのであるから,本件請負契約に関して,実質的にみて被告アクティブと同様の立場にあり,同被告と別個の地位ないし役割を果たしていたものではない。また,被告Aは,本件請負契約の締結及び履行(工事の設計及び施工)に当たって,被告つうけん及び被告アクティブの従業員として行動した者であるところ,被告Aのこの行動は,専ら被告つうけん及び被告アクティブの組織としての業務を一従業員の立場から遂行したものであって,それとは
異なる個人的な行為であったことをうかがわせる事情はない。以上のことから,本件請負契約の締結及び履行に関連して生じた民事紛争において,被告つうけ
ん及び被告Aは,基本的に,被告アクティブと別個独立に解決されるべき立場にはないとみるのが相当である。
そして,訴状等における原告らの主張に照らせば,本件における原告らの被告Aに対する請求及び被告つうけんに対する請求のうち使用者責任を請求原因とする部分は,いずれも本件請負契約に基づいて被告アクティブが実施した工事の設計及び施工の瑕疵を理由とするものであるから,被告アクティブに対する請求と責任を基礎付ける重要な事実を共通にしている。また,被告つうけんに対する請求のうち情報提供義務違反を請求原因とする部分についても,結局のところ,
被告アクティブの設計及び施工に瑕疵があったことを根拠として,被告アクティブの工事を実施する能力の欠如を主張し,被告つうけんの情報提供義務を基礎付けるものであるし,損害についても,設計及び施工の瑕疵により発生した損害を主張するものと解されるから,やはり被告アクティブに対する請求と基礎となる重要な事実を共通にしている。そうすると,本件訴訟で問題となる被告らとの間の紛争は,その内容に照らして,全ての被告との関係で同一の手続において一体として審理判断されるにふさわしい性質のものといえる。仮に,被告つうけん及び被告Aとの関係では訴訟による解決を図るということになると,訴訟において,被告つうけん及び被告Aが,本件請負契約及びその履行に関連する資料を有し,敗訴の場合には求償権を行使する相手となり得る被告アクティブに対して訴訟告知をし,被告アクティブが訴訟に補助参加する事態が生じることが容易に想定されるが,訴訟ではなく仲裁による解決を目的として本件仲裁合意をした被告アクティブにおいて,仲裁手続で原告らの主張を争いつつ,
訴訟においても補助参加をして争うという事態が生じるこ
とを想定ないし許容しているとは考え難い。
これらを踏まえると,
原告らと被告らとの間の本件紛争が異なる紛争解決手
続に係属することは,
紛争の統一的解決及び手続負担の観点から相当ではなく,
同一の手続による解決を図ることが,当事者の合理的意思にかなうというべきである。
これらのことからすれば,原告重機と被告アクティブとの間の本件仲裁合意においては,本件請負契約の締結及び履行について生じた紛争は,全て仲裁手続において統一的に解決することが意図されていたと解され,そうすると,本件における被告つうけん及び被告Aに対する責任追及も,
仲裁手続において解
決することが予定されていたというべきである。
そして,本件仲裁合意の当事者(及びその包括承継人)である原告らが訴えを提起したのに対し,
本件仲裁合意の当事者でない被告つうけん及び被告Aは,
本件仲裁合意の存在を主張して訴えの却下を求めており,本件仲裁合意の効力を享受して仲裁手続によって紛争解決を望む態度を示しているから,これら被告について本件仲裁合意の効力を及ぼしても,これら被告の裁判を受ける権利を一方的に奪うことにはならない。


そうすると,前記のとおりの本件の事情の下では,本件仲裁合意の効力は,被告つうけん及び被告Aに対しても及ぶと解するのが相当である。
3結論
以上より,本件訴えは,仲裁合意の対象となる民事上の紛争について提起されたものと認められるから,仲裁法14条1項本文に基づき,本件訴えを却下することとして,主文のとおり判決する。
札幌地方裁判所民事第1部

裁判長裁判官

谷口哲也
裁判官

亀井佑樹
裁判官

木村大慶
トップに戻る

saiban.in