判例検索β > 令和1年(わ)第5248号
収賄、有印私文書偽造・同行使、詐欺、詐欺未遂、贈賄
事件番号令和1(わ)5248
事件名収賄,有印私文書偽造・同行使,詐欺,詐欺未遂,贈賄
裁判年月日令和4年2月22日
法廷名大阪地方裁判所
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-02-22
情報公開日2022-03-31 04:00:13
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主文
被告人Aを懲役1年に処する
この裁判確定の日から3年間その刑の執行を猶予する。
本件公訴事実中、収賄の点については、被告人Aは無罪。
被告人Bは無罪。
理由
(罪となるべき事実)
被告人Aは、自己を患者とする処方箋を偽造行使して薬局からED治療薬をだまし取ろうと考え、
第1

平成28年3月31日頃、大阪府C市C市民病院において、行使の目的をもって、無断で入手したD病院Eの記名押印のある処方箋用紙の患者氏名欄にA、処方欄にa(50mg)1Tab835回分、交付年月日欄に231などと書き込み、被告人Aを患者としてa5錠を処方する旨の
平成28年3月31日付けD病院E作成名義の処方箋1通を偽造した上、同日午後6時44分頃、大阪市F薬局G店において、同店従業員に対し、偽造に係る処方箋1通を真正に成立したもののように装って提出行使し、aの購入を申し込み、同店従業員に真正な処方箋による購入の申込みであると誤信させ、同店従業員から、a5錠(販売価格合計8780円)の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させ、
第2

同年6月4日頃、C市民病院において、行使の目的をもって、無断で入手したD病院Hの記名押印のある処方箋用紙の患者氏名欄にA、処方欄にb(20)1錠5回分、交付年月日欄に2864などと書き込み、
被告人Aを患者としてb5錠を処方する旨の平成28年6月4日付けD病院H作成名義の処方箋1通を偽造した上、同月6日午後2時24分頃、F薬局G店において、同店従業員に対し、偽造に係る処方箋1通を真正に成立したもののように装って提出行使し、bの購入を申し込み、同店従業員に真正な処方箋に
よる購入の申込みであると誤信させ、同店従業員から、b5錠(販売価格合計1万310円)の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させ、第3

同年7月27日頃、C市民病院において、行使の目的をもって、無断で入手したD病院Hの記名押印のある処方箋用紙の患者氏名欄にA、処方欄にa(50)1Tab5回分、交付年月日欄に28727などと

書き込み、被告人Aを患者としてa5錠を処方する旨の平成28年7月27日付けD病院H作成名義の処方箋1通を偽造した上、同日午後6時3分頃、F薬局G店において、同店従業員に対し、偽造に係る処方箋1通を真正に成立したもののように装って提出行使し、aの購入を申し込み、同店従業員に真正な処方箋による購入の申込みであると誤信させ、同店従業員から、a5錠(販売価格合計8540円)の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させ、第4

平成30年5月15日頃、C市民病院において、行使の目的をもって、かつて勤務していた際に入手し、すでに閉院していたI会皮膚泌尿器科医院院長Jの記名押印のある2枚綴りの複写式処方箋用紙の1枚目の患者氏名欄にA、処方欄にc(20)1錠5回分、交付年月日欄に30515な

どと書き込み、被告人Aを患者としてc5錠を処方する旨の平成30年5月15日付けI会皮膚泌尿器科医院院長J作成名義の複写式処方箋を偽造した上、同月16日午後2時9分頃、F薬局G店において、同店従業員に対し、偽造に係る複写式処方箋の2枚目部分1通を真正に成立したもののように装って提出行使し、cの購入を申し込み、同店従業員に真正な処方箋による購入の申込みであると誤信させ、同店従業員から、c5錠(販売価格合計9250円)の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させ、
第5

平成31年2月1日頃、C市民病院において、行使の目的をもって、すでに閉院していたI会皮膚泌尿器科医院院長Jの記名押印のある2枚綴りの複写式処方箋用紙の1枚目の患者氏名欄にA、処方欄にa錠(50)1錠回分、交付年月日欄に31231などと書き込み、被告人Aを患者と
してa3錠を処方する旨の平成31年2月1日付けI会皮膚泌尿器科医院院長J作成名義の複写式処方箋を偽造した上、同日午後1時15分頃、F薬局G店において、同店従業員に対し、偽造に係る複写式処方箋の1枚目部分1通を真正に成立したもののように装って提出行使し、aの購入を申し込み、同店従業員に真正な処方箋による購入の申込みであると誤信させ、同店従業員から、a3錠(販売価格合計5730円)の交付を受け、もって人を欺いて財物を交付させ、
第6

同年4月25日頃、C市民病院において、行使の目的をもって、無断で入手したD病院Hの記名押印のある処方箋用紙の患者氏名欄にA、処方欄にa(50)1錠5回分、交付年月日欄に31426などと書き

込み、被告人Aを患者としてa5錠を処方する旨の平成31年4月26日付けD病院H作成名義の処方箋1通を偽造した上、同日午後4時頃、F薬局G店において、同店従業員に対し、偽造に係る処方箋1通を真正に成立したもののように装って提出行使し、aの購入を申し込み、同店従業員に真正な処方箋による購入の申込みであると誤信させ、同店従業員からa5錠を交付させようとしたが、同店従業員に偽造であることを見破られたため、その目的を遂げなかったものである。
(被告人Aについての法令の適用)
1
構成要件及び法定刑を示す規定
判示第1ないし第6の各所為のうち、
有印私文書偽造の点
同行使の点

それぞれ刑法161条1項、159条1項

詐欺の点(第1ないし第5)

それぞれ刑法246条1項

詐欺未遂の点(第6)
2
それぞれ刑法159条1項

刑法250条、246条1項

科刑上一罪の処理
判示第1ないし第6について、いずれも刑法54条1項後段、10条〔有印私
文書の各偽造、各行使、各詐欺(判示第1ないし第5)又は詐欺未遂(判示第6)との間にはそれぞれ順次手段結果の関係があるので、結局以上をそれぞれ1罪として最も重い詐欺(判示第1ないし第5)又は詐欺未遂(判示第6)罪の刑(ただし、短期は偽造有印私文書行使罪の刑のそれによる。)で処断。〕3
併合罪の処理
刑法45条前段、47条本文、10条(犯情の最も重い判示第2の罪の刑に法定の加重)

4
刑の全部の執行猶予
刑法25条1項

(贈収賄罪についての無罪の理由)
第1

収賄罪に係る公訴事実の要旨

収賄の公訴事実の要旨は次のとおりである。
被告人A(以下Aという。)は、C市民病院(以下本件病院という。)医療局呼吸器科医師であり、主任医長兼同病院呼吸器センター長として、患者の診療及び学術的研究等に関する事務を掌理し、所属職員を指揮監督するとともに、同病院が研究機関として臨床研究を行うに当たり、その研究責任者として研究計画書等の作成、同病院倫理委員会への申請及び研究の実施等の職務に従事していたもの、被告人B(以下Bという。)は、医療機関における臨床研究等の立案及び実施などを目的とするK研究所(以下研究所という。)の代表理事であるが、1
Aは、着衣の花粉を粘着クリーナーで除去した場合の花粉症症状の改善効果
の検討に関する臨床研究について、Aを研究責任者として本件病院で実施することを受け入れた上、同研究に関する研究計画書等の作成、同病院倫理委員会への申請及び研究の実施並びにC市と研究所間の共同研究契約の締結に際し、これらを円滑に進めていくことができるよう有利かつ便宜な取り計らいを受けたことに対する謝礼及び今後も同様の取り計らいを受けたいとの趣旨の下に供与されるものであることを知りながら、Bから、平成31年4月23日、研究所名義の預金口座から、A
名義の預金口座に現金20万円(以下本件金員という。)の振込入金を受け、もって自己の職務に関して賄賂を収受し、
2
Bは、1記載のとおり、1記載の趣旨の下にAに20万円の振込入金をし、
もってAの前記職務に関して賄賂を供与した。
第2

争点

AやBが公訴事実記載のとおりの地位等にあったこと、公訴事実記載の臨床研究(以下本件臨床研究という。)が、倫理委員会の審査やC市と研究所の間の共同研究契約の締結を経るなどした後、Aを研究責任者として本件病院で実施されたこと、BがAに対して研究所名義の預金口座から振り込む方法により本件金員の交付をしたことに争いはなく、争点は、本件金員の交付が賄賂の供与に該当するかどうかである。
第3
1
当裁判所の判断
前提事実

関係証拠によれば、以下の事実が認められる(以下、平成31年・令和元年の日付については、月日のみを記載する。)。
本件病院は、C市が設置した病院であり、Aは、本件当時、本件病院の医療局呼吸器科に所属する勤務医であり、患者の診療に関する事務や学術的研究に関する事務等をその職務内容としていた。また、Aは、同病院呼吸器科の主任医長であると同時に、呼吸器内科、同外科を統括する呼吸器センターのセンター長の地位にあり、同センターが所管する事項のうち対外的事項に関して病院を代表する任務も有していた。
本件病院では、治験や特定臨床研究には該当しない臨床研究(人を対象とする医学的研究及び臨床的応用)については、研究責任者が、研究を実施しようとするときに研究計画書を作成し、同病院に設置された倫理委員会に申請をし、倫理的観点から妥当であるかどうかの審査及び院長への報告を経た上で、院長の承認を受けて実施されるとされていたところ、Aは、本件に至るまでの間、本件病院において多
数の治験や臨床研究を研究責任者として実施した実績を有し、Aが作成した研究計画書について、本件病院の倫理委員会の審査を通過せず、本件病院における研究の実施が承認されなかったことはなかった。なお、Aは、前記職務を有する一方で、日本内科学会、日本呼吸器学会等の複数の学会に所属し、多数の論文の執筆や講演、治験を含む臨床研究に関与するなどし、学会等における受賞歴も有する者であった。Bは、本件当時、医療品・医療機器・食品等の調査及び研究並びに提言等を目的とする一般社団法人である研究所の代表理事であった。
株式会社L(以下Lという。)は、平成30年頃、同社の主要商品である粘着クリーナー(商品名M)の海外におけるシェア拡大のために、花粉等によるアレルギー症状への対策商品としての認証を取得する方針を立て、同社の海外事業推進部課長であったOが、その当時同社との間で医療に関するコンサルティング契約を締結していた研究所のBに対し、その相談をした。Bは、同年12月末から翌年1月にかけて、Oらに対し、花粉の発生時期である3月から5月に花粉症患者を対象としてMを使用して着衣の花粉を除去した場合の花粉症症状の改善効果を検証する臨床研究を実施し、そのデータを収集して医学専門家に評価してもらい、最終的には論文化、雑誌投稿もしてもらうことなどを提案するとともに、その際に、試験条件等に関するアドバイス等をしてもらったり、データの評価や論文化をしてもらったりする医学専門家の候補者として、Aを含む3名の呼吸器の専門医(Aのほか、1名は国立病院機構の院長の医師であり、1名は民間の内科クリニックの医師である。)を推薦し、研究費用の見積もりとして医学専門家に対する費用20万円を含む合計442万円をOらに提示した。その後、Bは、まず前記民間の内科クリニックの医師に連絡をとったものの、返答がなかったため、1月20日、かつてBが製薬会社に勤務していた頃に新薬の開発の関係で共同研究をした間柄にあったAに対し、花粉症について教えて欲しい旨のメッセージを送って面会を求め、1月29日、Oらとともに本件病院でAと面談した。この面談の際に、BとOらが、Aに対し、Mの説明や、Mのアレルギー症状への対策商品としての認証を取得するため
に花粉症症状の改善効果を検証する臨床研究を行いたいと考えていること、患者を二群に分け、症状の変化を日記に付けさせて確認する方法を検討していることなどを説明した。これに対し、Aは、Bらの研究計画に興味を示し、鼻汁や好酸球の数などを調査することが適当であること、日記を付けさせる方法では信頼性に問題があるのでスマートフォンのアプリを使用する方法が適当であること、患者の数は多い方がよいこと、鼻以外に目のかゆみや呼吸の苦しさといった症状にも着目すべきであることなど、臨床研究の方法等について具体的な提言をし、論文にしなければ認証が取得できないので、アメリカの学会等で発表することを検討すべきことや、臨床研究の実施機関について、本件病院で行うこともできるが、症例数によっては他の医療機関の患者も加える必要があることなどを伝え、Bらの研究計画に協力する意向を示し、Bも、面談終了後、Aに対し、

また、ご一緒に研究が出来ることも嬉しい限りです。計画書を作成しますので、ご指導のほど宜しくお願い申し上げます。

とのメッセージを送信した。この面談結果を踏まえ、Lは、1月30日の時点で、A及び研究所との間でMを使用して着衣の花粉を除去した場合の花粉症症状の改善効果を検証する共同研究を実施する方針を社内で決定し、その旨をBに伝えると、2月6日には、BとOらLの関係者が、1月29日の面談の際のAからの提言も参考にしながら臨床研究の内容・方法等について協議する打合せを実施し、打合せ終了後、Bが、Aに対し、電子メール等を利用してOらとの打合せ結果を報告するとともに、症例数や患者の群分け方法、本件病院の倫理委員会の開催日などについて質問をした。これに対し、Aは、内服による試験ではないため有意差を出せるまでの症例数は多くなる可能性があること、患者の群分けの際にはランダム化が必要であること、測定方法としてはMSC(Major

Symptom

Complex)スコアが簡便であるこ

となど、臨床研究の方法等についての具体的な提言を、関係する文献を添付して送信したりしながら複数回に分けて行ったほか、本件病院の倫理委員会が適時開催であることをBに伝えた。また、Aは、2月9日、Bに対し、臨床研究を本件病院で
行うことを前提に、臨床研究が他の大学等で妥当性の審議が必要となるヒトを利用した臨床研究に当たらないかどうかを確認し、2月17日、Bから、それには該当せず、本件病院の倫理委員会において承認を受ければ足りる旨の回答を受けると、Bに対し、本件病院のみの倫理委員会への申請であれば速やかに行うことができる旨連絡した。なお、これらのやり取りの最中である2月8日に、Aは、自己に関する費用について、

私に関する費用は、昔と同じように個人とのアドバイザリー契約になります。費用はいつもながらお任せです。

などとBに伝え、Bが、

製薬会社ではありませんので、申し訳ありません。20万円でお願いできればと思っております。手続に関しましては、どちらへ問い合わせればよろしいでしょうか。

などと返信している。Bは、2月14日頃には、臨床研究を本件病院で行うことを前提に、従前から研究所が研究計画書の原案等を作成するに当たりその委託をしていたPに対し、研究計画書の原案の作成を依頼し、2月19日頃、Pから計画書案(研究機関を本件病院、研究責任者をA、共同研究機関の研究責任者をBとし、研究の目的を花粉症における衣服用粘着クリーナーの有効性の検証などとするもの)の送付を受けると、2月22日から3月1日までの間に、これをAに送信するなどしてAの意見を聴取し、観察期間の長さや除外対象とする患者などについてAの意見を踏まえて修正の上、3月3日、Aの了承を得た。
Bは、以上のAとのやり取りと並行して、Oらとの間では、臨床研究を本件病院で行うことを前提に、契約当事者や契約形態、経費負担等について協議を行い、当初はLと研究所と本件病院、Lと研究所とAの各三者間で業務委託契約を締結する準備が進められたが、L側の法務部の見解なども踏まえ、本件病院との関係では、最終的に、Lが研究所に業務委託する旨の契約と、研究所と本件病院が共同研究する旨の契約を締結することとなり、L側の法務部担当者においてそれに沿った内容の契約書案を作成し、Lと研究所の間では3月中旬頃までに1月11日付けとして業務委託契約が締結された。この際に、Lの研究所に対する業務委託費は310万
円で合意され、その中にはA先生への謝礼として20万円が計上されていた。それ以外の契約については、Bが、Lから提供された契約書案をもとにして研究所と本件病院の間の共同研究契約書案と、研究所とAの間の共同研究契約書案(研究所と本件病院の間の共同研究契約書案とは、研究経費欄が

指導料として、200、000円

と変更された点を除き、全て同じ内容のもの)を作成した上で、3月9日、Aに対し、研究計画書やPに作成させた患者への説明文書等と共に送信すると、同日、Aは、Bに対し、早速研究計画書を本件病院の倫理委員会に提出する、自身との契約は適当で構わない旨のメッセージを返信した。
その後、Aは、3月11日、Bから送付を受けた研究計画書を本件病院の倫理委員会に提出すると、持ち回り審査により若干の修正を経て同計画書が承認され、同委員会から報告を受けた院長の承認も3月29日付けで得られたことから、4月1日以降、Aは、本件病院において、研究計画書に基づき、自身が研究責任者となって本件臨床研究を開始した。これと並行して、本件病院内において、研究所と本件病院の間の契約の手続が進められ、4月上旬には、契約主体を本件病院からC市に変更し、作成年月日を3月1日付けとした研究所とC市の間の共同研究契約書が完成し、4月15日頃にBに郵送された。その後、Bは、4月17日、Aに対し、研究所とAの間の共同研究契約書(前記契約書案から内容の変更がないもの。以下本件契約書という。)を送付し、Aが同契約書に押印して返送すると、Bが、4月23日、研究所名義の預金口座からA名義の預金口座に20万円(本件金員)の振込入金をした。本件金員は、4月2日にLが研究所に支払った業務委託費を原資としていた。
その後、本件臨床研究は、症例数が十分な人数に達しなかったことから、7月頃にいったん中断となり、翌年に引き続き実施する予定とされたが、Aらが逮捕されたため、翌年度の実施はされなかった。
2
本件金員がAのどのような行為に対して支払われたか
当事者の主張

本件金員について、検察官は、Aが本件病院において臨床研究の実施を受け入れた上、同病院の倫理委員会に提出する研究計画書等の作成、同委員会への研究の申請及び研究の実施並びに共同研究契約の締結に際し、これらを円滑に進めていくことができるよう有利かつ便宜な取り計らいをしたことに対する謝礼等の趣旨のもとに供与されたものであると主張する。
これに対し、Bは、本件金員は、AがBの依頼に応じ、L及び研究所に対して医学専門家として行ったアドバイス等(L及び研究所が計画していた臨床研究のアイデアの実現可能性の検討や、具体的な試験条件・研究デザインの提案、データの評価、その論文化等)に対して支払った旨の供述をし、Aもこれと同趣旨の供述をし、両名の弁護人も、BとAの間には、医学専門家としてのアドバイス等に対して報酬を提供する旨のアドバイザリー契約ないし合意が成立していたとみるべきであり、本件金員はAの医学専門家としてのアドバイス等に対する正当な対価であって、賄賂に該当しない旨主張している。


B及びAの供述の信用性について

本件では、前記のとおりB及びAのいずれもが、本件金員につき、医学専門家としてのAのアドバイス等に対して支払われた旨の供述をしていることから、その信用性についてみると、両名の供述は、関係者供述や客観的証拠から認定できる本件臨床研究が実施された経過等と良く整合しており、その信用性を否定し難い。すなわち、N証人の証言等によれば、臨床研究には、民間企業が主導する場合と医師ないし医療機関が主導する場合があり、前者の場合は民間企業が研究計画書を作成し、その作成に当たり、医師に報酬を支払いつつ医学専門家ないしアドバイザーとして関与してもらうことが一般的であるとされるところ、本件についても、前記のとおり、当初、海外におけるMのシェア拡大を企図し、花粉症等によるアレルギー症状への対策商品としての認証を取得する方針を立てたLと、その相談を受けたBにおいて、臨床研究の試験条件等についてアドバイスをしてくれたり、データの評価や論文化等をしてくれたりする医学専門家が必要であると考えていた経過や、
Aが複数の呼吸器の専門医の中から選ばれた経過が認められる。また、本件臨床研究の実施に至るまでの準備状況をみても、本件臨床研究に係る研究計画書は、Bが中心となって当初その内容を検討し、最終的な原案も研究所がPに依頼して作成した経過が認められるとともに、最終的な研究計画書が完成するまでの間、AがBに対して、臨床研究の症例数や患者の群分け方法、観察期間、評価項目、記録方法などに関し、呼吸器の専門医としての知識・経験に基づく医学的ないし統計学的なアドバイスというべき具体的な提言等をしていた経過が認められる。さらに、本件臨床研究の実施の際の費用負担等をみても、使用するMや患者に支払う謝礼、倫理委員会への費用、Aに対する本件金員については、いずれもLが拠出している。このほか、Aが、Bに対し、4月下旬頃、本件臨床研究とは別に、黄砂やイネ科抗原、喘息症状との関係での臨床研究を行うことを提案したり、7月下旬頃、翌年度の研究で花粉飛散量と症状の相関が確認できればそれだけで論文を作れる等と述べたり、9月下旬頃、Bから本件臨床研究の解析データの送信を受けると、Bに対し、現時点では学術的ではないが、CMには使えるのではないかなどと返信したりしていた経過も認められる。以上の一連の経過等は、Aに対し、L及び研究所に対する医学専門家としてのアドバイス等を依頼したというB供述とよく整合する。他方、臨床研究が本件病院で実施されることとなった経過についてみると、Lと研究所の間では、Aに依頼する以前の時点では、医学専門家が所属する医療機関等において臨床研究やその前提となる倫理委員会の審査をしてもらうことを想定していた形跡はなく、1月29日の面談の際に、Bらの計画に興味を示したAの側から本件病院においても実施ができる旨Bらに告げたことを契機として、本件病院で行うことを前提とした検討が始められた経過が認められる。また、関係証拠に照らしても、Aに対する本件金員の提供の約束がされたことにより、本件病院における臨床研究の受け入れが促進されたといった事情や、研究所と本件病院・C市の間の共同研究契約の締結、倫理委員会への申請・審査の手続に当たり、他の臨床研究の場合と比較してLや研究所に対して有利な取り計らいというべき便宜供与がされたと
いう事情等は特に見当たらない。
そして、20万円をAのアドバイス等に対して支払ったというBらの供述部分についてみても、金額を20万円とした理由に関する

医師であることから時給を2万円程度とし、情報入手ややり取り等に要する時間として少なくとも10時間ぐらいは必要と考えた

旨のBの説明は、不自然な内容とはいい難いし、Lと研究所の間では、Aに依頼する以前の時点では、臨床研究等の実施場所をどうするかなどとは切り離して、専ら医学専門家に支払う費用として20万円を計上していた経過が認められるところ、その後、臨床研究が本件病院で実施されることとなり、その前提として倫理委員会への申請・審査が行われたり、共同研究契約の契約手続が行われたりした経過がありながら、Aに対して最終的に支払われた額は、当初医学専門家に支払う費用として計上されていた20万円のままであって、本件臨床研究が実施されるなどした経過を踏まえて増額がされたという経過は認められない。このほか、本件臨床研究の準備の過程で、AがBに対して

私に関する費用は、昔と同じように個人とのアドバイザリー契約になります。

とのメッセージを送っていたことや、BがLのOに対して

A先生とはアドバイザー契約を貴社と先生間で締結し、半年間20万円をお支払いする契約して下さい

とのメールを送信していたことも、本件金員はAの医学専門家としてのアドバイス等に対して支払った旨のBらの供述を裏付けているといえる。
以上によれば、Bらの供述は、その信用性を否定し難く、Bらの供述するとおり、本件金員は、AがBの依頼に応じ、L及び研究所に対して医学専門家としてのアドバイス等をしたことに対して支払われたと認められる。


検察官の主張について

以上に対し、検察官は、Bらが供述するようなアドバイザリー契約・合
意自体が存在しないと主張し、その理由として、①AがBらにしたアドバイス等は、臨床研究が本件病院で実施されることが事実上決定し、研究責任者として同研究に従事することとなった後の行為であって、Aが職務として行うべき研究計画書等の
作成に含まれるものであり、実体のある職務外の活動があるわけではないこと、②本件契約書は、アドバイザリー契約・合意の実体を示す記載を欠いており、賄賂の提供を糊塗するための実体のない契約書とみるほかないこと、③Aが本件病院に対して兼業許可願を提出していなかったことなどを指摘する。
このうち①は、Bらが供述するようなアドバイザリー契約・合意がされるような前提事情が存在しないという主張と解し得るところ、1月29日の初回の面談の時点でAがBに対して臨床研究を本件病院で行うこともできるという発言をしたことや、その後、BやLの担当者も本件病院において臨床研究を実施することを前提に検討を進めた経過があること、Aが本件病院で多数の臨床研究等を研究責任者として受け入れてきた実績があり、過去にAが研究責任者となった臨床研究等はいずれも本件病院の倫理委員会で承認が得られていたことは前記のとおりである。しかし、他方で、2月9日頃から2月17日にかけて、AとBとの間で、本件臨床研究に関し、他の大学等で妥当性の審議が必要となるヒトを利用した臨床研究に当たらないかどうかを確認し合っていた経過もあることからすれば、Aを研究責任者として本件病院で臨床研究を実施することが1月29日の時点で既に事実上決定していたとみるには無理がある。他大学等における審査が不要であることが確認できた時点以降は、臨床研究を本件病院で実施することが事実上決定したとみる余地はあるものの、Bらの供述を前提とすると、研究所とAがした合意内容は、Aが、L及び研究所が計画していた臨床研究の実現可能性の検討や、臨床研究の計画書の作成等に当たってのアドバイスを含む具体的な試験条件・研究デザインの提案、データの評価、その論文化等を継続的に行い、研究所がそれに対する対価を支払うことと解し得るところ、臨床研究を本件病院で実施することが事実上決定したことによって、その合意内容につき変更が生じるものではなく、Bらが本件臨床研究の研究計画書を作成したり、データの評価をしたりするに当たって、依然として医学専門家としてのAのアドバイス等が必要となることに変わりはないし、その点のB及びAの認識にも変化が生じるものではない。それゆえ、臨床研究を本件病院で実施することとな
った経過は、アドバイザリー契約・合意が存在したことを疑わせるものとはいえない。検察官は、本件臨床研究の研究計画書の記載内容などを根拠として、Lや研究所が本件臨床研究を主導した要素はないとも主張するが、本件臨床研究が企画された経過や、実施に当たっての準備状況、取り分け最終的な研究計画書の原案は研究所がPに依頼して作成したものであること、実施の際の費用負担等からは、企業主導型と呼ぶかどうかはともかく、本件臨床研究にL及び研究所が主体的に関与していたことは明らかであって、Aがアドバイス等を行う前提に欠けているとか、アドバイザリー契約・合意が実体を欠くとはいえない。
②(本件契約書の記載内容等)についてみても、研究所とAの間で締結された本件契約書が、Bらが供述するようなアドバイス等に係る業務を委託する内容とは必ずしもなっておらず、研究所とC市の間で締結された共同研究契約書と類似する内容となっていることは、検察官が指摘するとおりである。もっとも、本件契約書には指導料という表現に改められた上で20万円の支払いについて記載がされているし、その作成経過に関する

Aから契約書が欲しいと言われ、必要があれば後に修正を求められるであろうし、まずは作成することが第一と考え、研究所と本件病院の間の契約書を一部修正する方法で作成した

旨のBの供述や、

付せんが貼られていたところに判を押して返送しただけで、文言は全然見ていなかった。Bを信頼していた

旨のAの供述は、法律の専門家ではない者の供述としてあながち不自然とはいえないから、契約書の形式・内容もBらの供述の信用性に疑問を生じさせるものとはいえない。検察官は、Bが、賄賂の支払いをあたかも正当なもののように装い、賄賂の提供を糊塗するために実体のない本件契約書を作成するに至ったとも主張するが、そのような意図があるにしては契約書の形式・内容がずさんであり、検察官の主張はこの点からも採用し難い。
③(兼業許可願の不提出)についても、Aが本件病院に対して兼業許可願を提出していなかったことはそのとおりであるものの、本件金員の提供者であるBにおいて、その事情を承知していたと認めるに足りる証拠はない。また、A自身との関係
でも、Aが敢えて兼業許可願を提出しなかったとみたところで、この点が公務員の兼業に係る規制に違反する行為として懲戒等の対象となり得ることは別として、兼業許可願を出さなかったことは、本件金員の受領を本件病院との関係で公にしないという意図をAが有していたことを推認させるにとどまり、検察官が主張するような、アドバイザリー契約・合意の実体がなかったことを推認するに足りるものではない。

検察官は、本件金員は、Aが本件病院で臨床研究を受け入れた上、研究
計画書等の作成や倫理委員会への申請、研究の実施、共同研究契約の締結に際し、これらを円滑に進めていくことができるような有利かつ便宜な取り計らいをしたことに対して供与されたものであると主張し、その根拠として、①Bが、研究所とC市の間の共同研究契約締結に至る一連の作業が行われた直後に、Aに対し、

先生ご尽力のお陰をもちまして病院との契約ができました。ありがとうございました。

などと記載した手紙を添えて、本件契約書を送付するなどしていたことや、②本件契約書の作成等がAのアドバイス等が行われた後、相当期間が経過した後に行われていること、③Aが、研究所とC市の間の共同研究契約の締結に関する指示等と並行して、A個人に対する費用の支払要求と解し得る連絡をBに送っていたことなどを指摘する。
しかし、①感謝の手紙を事後的に送ったり、③Aの方から支払いに関する言及をしたりしていることは、本件金員をAの医学専門家としてのアドバイス等に対して支払ったとのBらの供述を前提としても矛盾なく説明し得る事情であるし、②本件金員が交付された時期が4月以降になったことも、花粉症の季節である3月から5月中に実施するべく本件臨床研究の準備が急ぎ行われたことに照らすと特に不自然とはいえず、本件金員の交付について、検察官が主張するような、Aが臨床研究を本件病院で受け入れるなどしたこと等に対して支払われたとみる根拠としては薄弱である。L及び研究所としては、Mの海外におけるアレルギー症状への対策商品としての認証を取得する前提として必要となる臨床研究を実施するに当たり、その研
究のアイデアの実現可能性の検討や、具体的な試験条件・研究デザインの提案、データの評価、その論文化等をしてくれる医学専門家を探していたものであって、医学専門家が所属する医療機関等において臨床研究を受け入れてもらうことまでを想定していたものではなく、BがAにアドバイス等を依頼したのも、飽くまでAが呼吸器の専門医であったからであって、Aが本件病院の医師であったとか、本件病院の主任医長兼呼吸器センター長として臨床研究に関する対外的な代表権を有していたからではない。このように、BがAに依頼したアドバイス等が、Aが本件病院の医師であることを抜きにしても考え得るものであることからすると、本件金員について、Bらが供述する医学専門家としてのアドバイス等に対する支払いに加えて、本件病院において臨床研究を受け入れてもらったことや、倫理委員会の審査等に当たって、有利かつ便宜な取り計らいをしたことの対価として支払われたと認めることはできない。

以上のとおり、Aの医学専門家としてのアドバイス等に対して本件金員
を支払ったとするBらの供述は、その信用性を否定できず、他に、本件金員につき、検察官が主張するようなAの行為に対して支払われたと認めるに足りる証拠はない。3
賄賂罪該当性について
検察官は、アドバイザリー契約・合意が現にあり、本件金員がそれに基づ
くAのアドバイス等に対して交付されたとしても、本件病院では、研究計画書の作成は研究責任者が行うこととされており、Aによるアドバイス等は、臨床研究計画の作成というAの公務そのものであるから、本件金員の交付は、Aの職務に対する対価として賄賂に該当することは明らかであるとも主張している。そこで、以下、この主張の当否について検討する。
Aのアドバイス等のうち、1月29日の初回面談時にしたアドバイス等は、本件病院で臨床研究を実施することを必ずしも前提とするものではなく、私人としての立場で行ったものであって、Aの公務やその準備行為とはいい難い。他方、Aのアドバイス等のうち、本件臨床研究の研究計画書の作成に際してのアドバイスを
含め、本件病院において臨床研究を実施することを前提として行われたものについては、Aが本件臨床研究の研究責任者の地位にあり、自らも研究計画書を作成する職責にあるとともに、第三者が研究計画書の原案を作成する場合でも、その倫理的妥当性や実現可能性の検討を研究責任者として行うことが予定されていたことからすると、Aの職務そのもの、又は、その準備行為という性質を有することは否定できない。
この点、Bの弁護人は、本件臨床研究は企業主導の臨床研究であるから、研究計画書の作成は研究責任者の責務とはいえず、Aの公務には当たらない旨主張する。確かに、前記のとおり、本件臨床研究にはL及び研究所が主体的に関与していたと認められる。しかし、Aの側も、1月29日の面談の際にBらの研究計画に興味を示し、臨床研究を本件病院において行うこともできる旨告げ、その受け入れ・実施に取り組んだ経過が認められるし、本件臨床研究の研究計画書にはAの研究責任者としての役割及び責任として

研究計画書、説明文書・同意書(中略)研究報告書の作成

と記載されている一方、本件病院の臨床研究の標準業務手順書には

研究責任者の発案による研究でない場合(中略)研究実施計画書あるいは委受託契約書等に業務責任範囲を明記する。

との記載があるにもかかわらず、研究計画書ではそのような責任範囲の限定がされていない。そうすると、本件臨床研究について、研究計画書の作成がAの職務である学術的研究に含まれないとはいい難く、この点のBの弁護人の主張は採用できない。
そこで、さらに、そのような公務ないしその準備行為という性質を有するものも含んだAのアドバイス等に対し、本件金員を交付する行為が、Aの職務と対価関係にある不法な利益の供与であり、社会通念上受領することが許容されない賄賂に該当するかどうかについて検討すると、公務は原則として対価なしで行うことが求められるから、通常は、公務の対価として金品が交付された場合には、そのこと自体から不法な趣旨・目的が推定されるといい得る。しかし、本件のように、Lや研究所のような事業者が、Aのような、研究を職務のひとつとする公務員に対
し、当該公務員の公務としての研究と関係を有する指導や助言等をしてくれたことに対して金品を交付する場合には、事業者側は、研究者個人としての知識、経験、能力、資質、名声、権威等といった個人的属性に対する敬意・評価としての謝礼の趣旨を含めて交付をするのが一般的といえる。それゆえ、事業者の側から公務員に対して当該公務員の公務としての研究と関係を有する指導や助言等に対して金品の交付がされたとしても、交付がされたこと自体から直ちに不法な趣旨・目的が推定されることにはならず、このような場合に、当該金品が賄賂に当たるかどうかは、指導・助言等の内容や、金品が交付された経過、交付額などに照らし、当該金品の交付が賄賂罪としての処罰を要するほどに当該公務員の職務の公正さやそれに対する社会一般の信頼を損なうかどうかという観点から判断すべきであって、指導・助言等自体に不正な点がなく、それに対する金品の交付も当該公務員の個人的属性に対する敬意・評価としての謝礼として社会通念上許容し得る範囲にとどまるなど、理由のある趣旨・目的に基づいて交付されたとみることができ、当該公務員の職務の公正さ等を損なうとはいえないときは、賄賂に当たらないというべきである。これを本件についてみると、Aがしたアドバイス等は、前記のとおり実体を伴うことはもとより、その内容も、花粉症患者を対象としてMを使用して着衣の花粉を除去した場合の花粉症症状の改善効果を検証する臨床研究について、症例数や患者の群分け方法、観察期間、評価項目、記録方法などに関し、医学的・統計学的に有効な試験・評価方法がどのようなものであるかという観点から具体的な提言を行ったものであり、将来的にはデータの評価やその論文化等も予定していたものである。L及び研究所という事業者の事業活動に対するアドバイス等ではあるものの、本件臨床研究自体は、対象者の花粉症の諸症状が改善されるかについて医学的な検証を行うという面で医学的・社会的な意義も有していたし、L及び研究所の利益を図るべく研究結果を歪め得るような不正なアドバイス等がされた形跡は何ら見受けられない。それゆえ、Aのアドバイス等自体に不正な点があるとはいえないし、医学専門家としてのA個人の知識、経験等の属性に対する敬意・評価が向けられてしかる
べき前提は十分にあるといえる。本件臨床研究の研究計画書にLが出資していることの記載を欠いていることや、Aが本件に関連する兼業許可願を本件病院に提出していなかったという事実関係も、Aのアドバイス等自体の不正さを基礎付けるものとはいえない。
他方、本件金員が交付された経過についてみると、BがAにアドバイスを依頼した当初(1月29日)の時点では、Bにおいて、本件病院における臨床研究の実施を前提としていたわけではなく、Aとしても本件病院で臨床研究を実施することを前提にBの依頼に応じたものではないのであって、その日のAのアドバイス等が私人としての立場で行われたものであることは、前記のとおりである。この時点で、医学専門家としての知識、経験等を有するAに対してアドバイス等を依頼することや、その謝礼として金品の交付を考えることに不法な趣旨・目的は見受けられない。その後、臨床研究を本件病院で実施することになったがために、Aが行うアドバイス等について、公務ないしその準備行為という性質を有する部分が生じたとはいえ、そのことから直ちに交付の趣旨・目的に変化が生じるとは考え難く、公務等の性質を有する部分との関係でも、いまだ医学専門家としての知識、経験等に対する敬意・評価としての謝礼として交付したとみる余地は残る。交付額についてみても、20万円という金額は、他の医学専門家による指導・助言への報酬例と比較して、高額とまではいい難いし、Aのアドバイス等には、本件病院における臨床研究の実施を必ずしも前提としない時点におけるアドバイスや、黄砂等との関係での臨床研究の実施の提言などといった、私人としての立場で行われたものも含まれていることからすると、医学専門家としての知識、経験等に対する敬意・評価としての謝礼として、社会通念上許される限度を超えた金額であるとは必ずしもいえない。交付方法としても、研究所名義の預金口座からA名義の預金口座に振り込まれたものであって、不正な金員を隠ぺいしようとする目的を疑わせるような方法が採られたわけではなく、その他、本件金員の交付につき、不法な趣旨・目的をうかがわせる事情は見当たらない。

これらの事情を踏まえると、本件金員の交付は、私的労務に対する対価の支払いのほか、医学専門家としてのAの不正とはいえないアドバイス等に関し、その知識・経験等に対する敬意・評価としての社会通念上許容し得る範囲を超えない謝礼という理由のある趣旨・目的に基づいて交付されたものとみる余地があり、いまだ賄賂罪としての処罰を要するほどにAの職務の公正さやそれに対する社会一般の信頼を損なう行為とはいい難い。
したがって、本件金員の交付は、Aの職務に関する賄賂の供与・収受に当たるとは認められず、贈収賄罪が成立するとはいえない。
第4

結論

以上のとおり、A及びBに関する贈収賄罪に係る公訴事実については、犯罪の証明がないことになるから、刑事訴訟法336条により、Bに対しては無罪を、Aに対しては収賄罪の公訴事実について無罪を、それぞれ言い渡すこととする。(量刑の理由)
被告人Aは、医師という立場にありながら、処方箋に対する社会一般の信頼を損なわせる犯行を繰り返したものである。詐欺の被害総額が高額とはいえず、代金の支払いをしているがために財産上の被害が生じていないことを考慮しても、看過できる犯罪ではないが、前科前歴はなく、罪を認め反省の態度を示しているので、その刑の執行は全部猶予した。
(求刑

被告人A

懲役2年、追徴20万円

被告人B

懲役8月)

大阪地方裁判所第9刑事部
裁判長裁判官


裁判官


裁判官

安野直う藤邦らら諒
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