判例検索β > 令和3年(行コ)第91号
憲法53条違憲国家賠償等請求控訴事件
事件番号令和3(行コ)91
事件名憲法53条違憲国家賠償等請求控訴事件
裁判年月日令和4年2月21日
法廷名東京高等裁判所
結果棄却
原審裁判所名東京地方裁判所
原審事件番号平成30(行ウ)392
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-02-21
情報公開日2022-03-31 04:00:14
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主文
1本件控訴を棄却する
2控訴費用は控訴人の負担とする。
事実及び理由
第1控訴の趣旨
1原判決を取り消す。
2
主位的請求
内閣が,次に控訴人が参議院の総議員の4分の1以上の一人として連名をもって議長を経由して内閣に臨時会の召集の決定を要求した場合に,20日以内に臨時会を召集できるように召集決定をする義務を負っていることを確認する。
予備的請求
控訴人が,次に参議院の総議員の4分の1以上の一人として連名をもって議長を経由して内閣に臨時会の召集の決定を要求した場合に,20日以内に臨時会の召集を受けられる地位を有することを確認する。

3被控訴人は,控訴人に対し,1万円及びこれに対する平成29年7月13日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2事案の概要(以下,略語は,特に定めない限り,原判決の表記に従う。)1平成29年6月22日,衆議院及び参議院の各総議員の4分の1以上の議員が,憲法53条後段及び国会法3条に基づき,連名で,各院の議長を経由して内閣にそれぞれ要求書を提出することにより,臨時会の召集の決定を要求し(本件召集要求),安倍晋三元内閣総理大臣(以下安倍元首相という。)を首長とする内閣(安倍内閣)は,同日,上記の各要求書(本件各要求書)を受理した。これに対し,安倍内閣が臨時会の召集を決定したのは同年9月22日であり,現実に臨時会が召集されたのは同月28日であったところ,同日,衆議院が憲法7条の規定に基づき解散された(本件解散)。
本件は,本件召集要求をした参議院議員の一人である控訴人が,安倍内閣が上記のとおり同年9月22日に至って臨時会の召集の決定をしたこと又は安倍内閣が少なくとも92日間にわたって本件召集要求に対応する臨時会の召集を決定しなかったこと(本件不作為等)が憲法53条後段に違反するものであるとして,控訴人が次に参議院の総議員の4分の1以上の一人として連名で議長を経由して内閣に対して臨時会の召集の決定を要求した場合に,主位的に,内閣が20日以内に臨時会を召集することができるようにその召集を決定する義務を負うことの,予備的に,控訴人が20日以内に臨時会の召集を受けられる地位を有することの各確認を求める(本件確認訴訟部分)とともに,控訴人においては,本件不作為等により,臨時会の召集の決定を要求する権能だけではなく参議院議員として有する諸権能も長期間にわたり行使することができなかったという損害を被ったなどとして,被控訴人に対し,国家賠償法1条1項に基づき,損害金(慰謝料)100万円のうち1万円及びこれに対する同年7月13日(安倍内閣が本件各要求書を受理した日(同年6月22日)から20日を経過した後の日)から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める(本件国賠請求部分)事案である。
原審は,本件確認訴訟部分に係る各訴えをいずれも不適法なものであるとして却下し,本件国賠請求部分に係る請求を棄却した。
控訴人は,これを不服として控訴した。
2国会法の定め及び前提事実
次のとおり補正するほか,原判決の第2事案の概要の1及び2記載のとおりであるから,これを引用する。
3頁22行目の別紙を原判決別紙(以下「別紙という。)」に改
める。
4頁4行目及び13行目の各安倍前首相をいずれも安倍元首相に
改める。
4頁24行目の大島理森の次に

(当時。以下同じ。)

を加える。5頁11,12行目の安倍前首相を安倍元首相に改める。
3争点及び争点に関する当事者の主張の要点
次のとおり補正し,当審における控訴人の主張の要点を付加するほか,原判決の第2事案の概要の3及び4記載のとおりであるから,これを引用する。
原判決の補正
ア9頁5行目の現在のを前に,12頁24行目の安倍前首相
を安倍元首相にそれぞれ改める。
イ17頁12,13行目の安倍前首相を安倍元首相に,22頁1
7行目の要求を受けてからを要求があった日からに,28頁17
行目の裁判所時報1757号3頁を

民集74巻8号2229頁。以下「最高裁令和2年判決

という。」にそれぞれ改める。当審における控訴人の主張の要点
ア憲法53条後段に基づいて国会議員が有する臨時会の召集の決定の要求権(以下臨時会召集決定要求権ともいう。)は,以下に述べるところからしても,単に国会議員という国の機関としての地位に基づいて有する権限にとどまるものではなく,個々の国会議員が有する主観的な権利又は利益であって,本件不作為等は,控訴人のそのような主観的な権利又は利益を侵害する違法なものというべきである。
職業活動の自由により保障された権利であることについて
国民を代表して,国民の意見を国会活動(質問,議論,調査,議決など)を通じて国政に反映させることは,国会議員としての中核的な活動である(最高裁令和2年判決参照)。
そして,国会議員の地位は月額129万4000円の報酬を得て行う職業であるから,国会議員の活動は,職業活動の自由(憲法22条1項。最高裁昭和43年(行ツ)第120号同50年4月30日大法廷判決・民集29巻4号572頁参照)により保障されている。内閣が国会議員による臨時会の召集の決定の要求に応じないことは,国会議員がその中核的な活動を行うことを妨害するものであって,国会議員の職業活動の自由を不当に侵害するものである。
表現の自由により保障された権利であることについて
地方議会の議員には,表現の自由(憲法21条1項)及び参政権の一態様として,地方議会等において発言する自由が保障されており,議会等で発言することは,議員としての最も基本的・中核的な権利というべきである(名古屋高裁平成22年(ネ)第1281号同24年5月11日判決・判例時報2163号10頁)。議会等で発言することが議員としての最も基本的・中核的な権利であり,表現の自由により保障されていることは,国会議員についても全く同様に当てはまる(最高裁平成24年(オ)第888号同26年5月27日第三小法廷判決・裁判集民事247号1頁においても,議員の議員活動の自由に憲法21条1項の保障が及ぶことが前提とされている。)。
本件不作為等により,控訴人は,質問主意書を提出したほかは,臨時会における国会議員としての権利・権限行使を全く行い得なかったのであるから,本件不作為等は,控訴人の表現の自由を侵害するものである。
参政権として保障された権利であることについて
国会議員が国会において国会議員としての活動ができないのであれば,国民に選挙権及び被選挙権を認めた意味がないから,国民の参政権を保障した憲法15条1項は,国会議員が国会において国会議員としての活動を行うことまでも当然に保障していると考えるべきであり,臨時会召集決定要求権は,上記の参政権を実効性あらしめるために憲法が個々の国会議員に付与した権利というべきである。
国会議員の立場について
原判決は,国会議員が統一的な国家意思を形成することに向けた職務上の権限(立法行為に係る権限)を有する立場であることを理由として,臨時会召集決定要求権は国会議員という国の機関が憲法及び国会法の規定に基づいて有する権限である旨判示する。
しかしながら,国会議員は,立法行為に係る権限のみならず,広く行政監督を行う権限も有しているのであって,法的に何らかの決議・立法など統一的国家意思形成を行うことが要請されているものではない。原判決の上記説示は,立法府としての国会の権限と,独立して職務を行うべき個別の国会議員の権限・権利とを混同するものであって,臨時会召集決定要求権が国の機関として付与された権限であることを理由付けるものとはいえない。
イ仮に臨時会召集決定要求権が国会議員という国の機関としての地位に基づいて有する権限であるとしても,本件不作為等の違法性は,その性質上,法令の適用によって解決し得るものである。
市議会が市議会議員に対して行った出席停止の懲罰の違法性という,市議会議員と市議会(いずれも市の機関)との間の争いについて,その性質上法令の適用によって終局的に解決し得るものであり,裁判所は常にその適否を判断することができるとした最高裁令和2年判決の趣旨に照らしても,控訴人が憲法53条後段に基づいて有する臨時会召集決定要求権の侵害があることの確認を求める本件確認訴訟部分に係る訴えは,法律上の争訟に該当し,司法審査の対象となるというべきである。
第3当裁判所の判断
1当裁判所も,本件確認訴訟部分に係る各訴えはいずれも不適法であり,本件国賠請求部分に係る請求は理由がないものと判断する。その理由は,次のとおり補正し,当審における控訴人の主張に対する判断を付加するほか,原判決の第3当裁判所の判断の1及び2記載のとおりであるから,これを引用する。
原判決の補正
ア41頁10行目のものでありをとともに,憲法上,国政に係る諸般の権能を有しに改め,同行目の国会議員もの次に,「全国民を代表(憲法43条1項)して」を,13行目の権限)の次にその他国会が有する権能に係る職務上の権限をそれぞれ加える。イ43頁11行目のというをなどのに改める。
ウ44頁5行目の甲A126の次に,146,150,170を
加える。
エ47頁1行目の立法行為の次に等を加え,3行目の当該立法行為に係るを上記の職務上のに改める。オ48頁2行目の権限)の次にその他国会が有する権能に係る職務上の権限を加える。当審における控訴人の主張について
ア控訴人は,①内閣が国会議員による臨時会の召集の決定の要求に応じないことは,国民を代表して国民の意見を国会活動(質問,議論,調査,議決など)を通じて国政に反映させるという,国会議員としての中核的な活動を行うことを妨害するものであって,控訴人の職業活動の自由を侵害するものであること,②本件不作為等により,控訴人は,質問主意書を提出したほかは,臨時会における国会議員としての権利・権限行使を全くなし得なかったのであるから,本件不作為等は,控訴人の表現の自由を侵害するものであること,③国民の参政権を保障した憲法15条1項は,国会議員が国会において国会議員としての活動を行うことまでも当然に保障していると考えるべきであり,臨時会召集決定要求権は,上記の参政権を実効性あらしめるために憲法が個々の国会議員に付与した権利というべきであることなどを理由として,臨時会召集決定要求権については,単に国会議員という国の機関としての地位に基づいて有する権限にとどまるものではなく,個々の国会議員が有する主観的な権利又は利益であって,本件不作為等は控訴人のそのような主観的な権利又は利益を侵害する違法なものというべきである旨を主張する。
しかしながら,召集された国会における国会議員としての活動が職業活動の自由(憲法22条1項),表現の自由(同21条1項),参政権(同15条1項)などにより保障されているか否かという問題と,個々の国会議員が主観的な権利又は利益として臨時会召集決定要求権を有しており,本件不作為等が控訴人のそのような主観的な権利又は利益を侵害したものといえるか否かという問題とは,自ずから別問題であって,召集された国会における国会議員としての活動が憲法上保障されているということから,直ちに個々の国会議員が主観的な権利又は利益として臨時会召集決定要求権を有しているということはできず,控訴人の上記主張は採用することができない。
イ控訴人は,国会議員について,立法行為に係る権限のみならず,広く行政監督を行う権限も有する立場にあるのであって,法的に何らかの決議・立法など統一的国家意思形成を行うことが要請されているものではなく,原判決が,国会議員が統一的な国家意思を形成することに向けた職務上の権限(立法行為に係る権限)を有する立場であることを理由として,臨時会召集決定要求権は国会議員という国の機関が憲法及び国会法の規定に基づいて有する権限であると結論付けるのは不当である旨主張する。しかしながら,国会議員の権限に係る控訴人の上記主張を踏まえても,国の立法機関である国会の召集の決定を要求するという臨時会召集決定要求権の内容及び性質に照らせば,臨時会の召集の決定を要求することは,国会議員という国の機関が,憲法及び国会法の規定に基づいて有する権限を行使するものと解すべきであることは,前記引用に係る原判決の第3当裁判所の判断の1イ(41頁7行目から21行目まで。当審における補正部分を含む。)における説示のとおりであって,控訴人の上記主張は,上記説示に照らし,採用することができない。
ウ控訴人は,仮に臨時会召集決定要求権が国会議員という国の機関としての地位に基づいて有する権限であったとしても,本件不作為等の違法性は,その性質上,法令の適用によって解決し得るものであり,最高裁令和2年判決の趣旨に照らしても,控訴人の臨時会召集決定要求権の侵害があることの確認を求める本件確認訴訟部分に係る訴えは法律上の争訟に該当し,司法審査の対象となるというべきである旨を主張する。
しかしながら,個人が提起した,法令の適用によって解決し得るものに関する訴訟であっても,当該個人が有する法律上の権利又は利益の保護救済を求めるのではなく,当該個人が国又は地方公共団体の機関として有する権限の侵害を理由としてその保護救済を求めるような場合は,当該訴訟の実質は法規の適用の適正ないし一般公益の保護を目的とするものであるか,又は機関相互間の権限の争いを内容とするものであるかのいずれかであって,自己の権利又は利益の保護救済を目的とするものということはできないから,法律上の争訟として当然に裁判所の審判の対象となるものではないことは,前記引用に係る原判決の第3当裁判所の判断の1
ア(40頁14行目から41頁6行目まで)における説示のとおりである。控訴人において引用する最高裁令和2年判決は,市議会議員個人がその有する法律上の権利又は利益の保護救済を求めた事案(当該市議会議員が市議会から科された出席停止の懲罰の取消し及び当該懲罰による議員報酬の減額分の支払を求めた事案)に関するものであり,市の機関(市議会議員)として有する権限の侵害を理由としてその保護救済を求めた事案に関するものではなく,本件とは事案を異にするものというべきであって,控訴人の上記主張は採用することができない。
エその他,控訴人が種々主張するところは,いずれも,以上の判断を左右するものとはいえず,採用することができない。
2よって,原判決は相当であって,本件控訴は理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第22民事部

裁判長裁判官

相澤
裁判官

伊藤一夫
裁判官

髙木勝己哲
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