判例検索β > 令和3年(行ケ)第1号
選挙無効請求事件
事件番号令和3(行ケ)1
事件名選挙無効請求事件
裁判年月日令和4年3月9日
法廷名広島高等裁判所
結果棄却
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-03-09
情報公開日2022-03-30 04:00:09
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主文1
原告らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実

及び理由
第1請求
1令和3年10月31日に行われた衆議院(小選挙区選出)議員選挙の広島県第1区ないし第7区における選挙を無効とする。
2令和3年10月31日に行われた衆議院(小選挙区選出)議員選挙の山口県第1区ないし第4区における選挙を無効とする。
第2事案の概要
1事案の要旨
本件は,令和3年10月31日施行の衆議院議員総選挙(以下本件選挙という。)について,広島県第1区ないし第7区及び山口県第1区ないし第4区の各選挙区の選挙人である原告らが,衆議院小選挙区選出議員の選挙(以下小選挙区選挙という。)の選挙区割りに関する公職選挙法等の規定は憲法56条2項,1条,前文1項等によって要求されている人口比例選挙制度に違反し無効であるから,
これに基づき施行された本件選挙の上記各選挙区における選挙も無効であるなどと主張して,
公職選挙法204条に基づき提起した選挙無効訴訟で
ある。
2前提事実
(1)

昭和25年に制定された公職選挙法は,衆議院議員の選挙制度につき,中選挙区単記投票制を採用していたが,
平成6年に公職選挙法の一部を改正する法
律(平成6年法律第2号)が成立し,その後,同年法律第10号及び同第104号によりその一部が改正されたことにより,
従来の中選挙区単記投票制に代
わって小選挙区比例代表並立制が導入された。
本件選挙施行当時,衆議院の定数465人のうち289人が小選挙区選出議員,176人が比例代表選出議員であり(公職選挙法4条1項),小選挙区選挙については,全国に289の選挙区を設け,各選挙区において1人の議員を選出するものとされ(同法13条1項,別表第1。以下,後記の改正の前後を通じてこれらの規定を併せて区割規定という。),比例代表選出議員の選挙
(以下
比例代表選挙
という。については,

全国に11の選挙区を設け,
各選挙区において所定数の議員を選出するものとされている
(同法13条2項,
別表第2)総選挙においては,

小選挙区選挙と比例代表選挙とを同時に行い,
投票は小選挙区選挙及び比例代表選挙ごとに1人1票とされている(同法31
条,36条)。
(2)

平成6年に前記の公職選挙法の一部を改正する法律と同時に成立した衆議院議員選挙区画定審議会設置法(以下,後記の改正の前後を通じて区画審設置法という。)によれば,衆議院議員選挙区画定審議会(以下区画審という。)は,衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定に関し,調査審議し,必要があると認めるときは,
その改定案を作成して内閣総理大臣に勧告するもの
とされている(同法2条)。
上記の改定に係る選挙区の区割りの基準(以下,後記の改正の前後を通じて区割基準という。)について,平成28年法律第49号(以下平成28年改正法という。)による改正後の区画審設置法(以下新区画審設置法という。)3条は,①1項において,上記の改定案を作成するに当たっては,各選挙区の人口
(同条においては最近の国勢調査の結果による日本国民の人口
をいう。)の均衡を図り,各選挙区の人口のうち,その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上とならないようにすることとし,行政区画,地勢,
交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならないものと定め,②2項において,各都道府県の区域内の選挙区の数は,各都道府県の人口を小選挙区基準除数(その除数で各都道府県の人口を除して得た数(1未満の端数が生じたときは,これを1に切り上げるものとする。)の合計数が衆議院小選挙区選出議員の定数に相当する数と合致することとなる除数をいう。)で除して得た数(1未満の端数が生じたときは,これを1に切り上げるものとする。)とするとし(いわゆるアダムズ方式),③3項において,下記の同法4条2項の規定による勧告に係る改定案の作成に当たっては,
各都道府県の区
域内の衆議院小選挙区選出議員の選挙区の数は変更しないものとすると定めている。
そして,選挙区の改定に関する区画審の勧告は,統計法5条2項本文の規定により10年ごとに行われる国勢調査(以下大規模国勢調査という。)の結果による人口が最初に官報で公示された日から1年以内に行うものとされ(新区画審設置法4条1項),さらに,区画審は,統計法5条2項ただし書の規定により上記の国勢調査が行われた年から5年目に当たる年に行われる各選挙区の国勢調査(以下簡易国勢調査という。)の結果による日本国民の人口のうち,
その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上とな
ったときは,
当該国勢調査の結果による人口が最初に官報で公示された日から
1年以内に,
上記の勧告を行うものとされている
(新区画審設置法4条2項)

なお,平成24年法律第95号(以下平成24年改正法という。)による改正前の区画審設置法(以下旧区画審設置法という。)3条は,①1項において,上記の改定案を作成するに当たっては,各選挙区の人口の均衡を図り,各選挙区の人口のうち,その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上とならないようにすることを基本とし,行政区画,地勢,交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならないものと定めるとともに,②2項において,各都道府県の区域内の選挙区の数は,各都道府県にあらかじめ1を配当することとし
(以下,
このことを
1人別枠方式
という。,

この1に,
小選挙区選出議員の定数に相当する数から都道府県の数を控除した数を人口に比例して各都道府県に配当した数を加えた数とすると定めていた(以下,この区割基準を旧区割基準といい,この規定を旧区割基準規定ともいう。)。
(3)

平成21年8月30日施行の衆議院議員総選挙(以下平成21年選挙という。)の小選挙区選挙は,平成14年に成立した公職選挙法の一部を改正する法律(同年法律第95号)により改定された選挙区割り(以下旧選挙区割りという。)の下で施行されたものであり,選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較差は1対2.304(以下,較差に関する数値は,全て概数である。)であり,選挙人数が最も少ない選挙区と比べて較差が2倍以上の選挙区は45選挙区であった(乙2の1。以下,平成21年選挙に係る衆議院小選挙区選出議員の選挙区を定めた平成24年改正法による改正前の公職選挙法13条1項及び別表第1を併せて旧区割規定という。)。
平成21年選挙につき,最高裁平成23年3月23日大法廷判決・民集65巻2号755頁(以下平成23年大法廷判決という。甲14)は,選挙区の改定案の作成に当たり,
選挙区間の人口の最大較差が2倍未満になるように
区割りをすることを基本とすべきものとする旧区画審設置法3条1項の定めは,
投票価値の平等の要請に配慮した合理的な基準を定めたものであると評価する一方,平成21年選挙時において,選挙区間の投票価値の較差が拡大していたのは,
同条2項の1人別枠方式がその主要な要因となっていたことが明らかであり,かつ,人口の少ない地方における定数の急激な減少への配慮等の視点から導入された1人別枠方式は既に立法時の合理性が失われていたものというべきであるから,
旧区割基準のうち1人別枠方式に係る部分及び旧区割基
準に従って改定された旧区割規定の定める旧選挙区割りは憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたと判示した。そして,同判決は,これらの状態につき憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず,
旧区割基準規定及び旧区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできないとした上で,
事柄の性質上必要とされる是
正のための合理的期間内に上記の状態を解消するために,
できるだけ速やかに
旧区割基準中の1人別枠方式を廃止し,
旧区画審設置法3条1項の趣旨に沿っ
て旧区割規定を改正するなど,
投票価値の平等の要請にかなう立法的措置を講
ずる必要があると判示した。
(4)

平成23年大法廷判決を受けて,平成24年11月16日,旧区画審設置法3条2項の削除及びいわゆる0増5減
(各都道府県の選挙区数を増やすことな
く議員1人当たりの人口の少ない5県の各選挙区数をそれぞれ1減ずることをいう。以下同じ。)を内容とする公職選挙法及び区画審設置法の一部を改正する法律案が平成24年改正法として成立した。この改正により,旧区画審設置法3条1項が同改正後の区画審設置法3条となり,
同条の内容のみが区割基
準となった(乙3の1〔22ないし28頁〕,乙4〔241,242頁〕)。平成24年改正法の成立と同日に衆議院が解散され,平成24年12月16日に施行された衆議院議員総選挙(以下平成24年選挙という。)までに新たな選挙区割りを定めることは時間的に不可能であったため,
同選挙は平成
21年選挙と同様に旧選挙区割りの下で施行された。
平成24年選挙につき,最高裁平成25年11月20日大法廷判決・民集67巻8号1503頁(以下平成25年大法廷判決という。甲16)は,同選挙時において旧区割規定の定める旧選挙区割りは平成21年選挙時と同様に憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったものではあるが,憲法上
要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず,旧区割規定
が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできないとした上で,
国会においては今後も平成24年改正法による改正後の区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備に向けた取組が着実に続けられていく必要があると判示した。

(5)

平成24年改正法の成立後,同法の附則の規定に基づく区画審の勧告を受けて,平成25年6月24日,各都道府県の選挙区数の0増5減を前提に,選挙区間の人口の較差が2倍未満となるように17都県の42選挙区において区割を改めることを内容とする平成24年改正法の一部を改正する法律案が,平
成25年法律第68号(以下平成25年改正法という。)として成立した(乙4〔241,242頁〕)。
上記の改定の結果,平成22年10月1日を調査時とする大規模国勢調査(以下平成22年大規模国勢調査という。)の結果によれば選挙区間の人口の最大較差は1対1.
998となるものとされたが
(乙3の2
〔37,
53,
55頁〕,乙4〔242頁〕),平成26年12月14日施行の衆議院議員総選挙(以下平成26年選挙という。)当日においては,選挙区間の選挙人数の最大較差は1対2.129であり,選挙人数が最も少ない選挙区と比べて較差が2倍以上の選挙区は13選挙区であった(乙2の3)。
平成26年選挙につき,最高裁平成27年11月25日大法廷判決・民集69巻7号2035頁(以下平成27年大法廷判決という。甲18)は,上記0増5減の措置における定数削除の対象とされた県以外の都道府県について旧区割基準に基づいて配分された定数の見直しを経ておらず,
上記のような
投票価値の較差が生じた主な要因は,
いまだ多くの都道府県において1人別枠
方式を定めた旧区画審設置法3条2項が削除された後の区割基準に基づいて定数の再配分が行われた場合とは異なる定数が配分されていることにあり,こ
のような投票価値の較差が生じたことは,
全体として平成24年改正法による
改正後の区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備が実現されていたとはいえないことの表れというべきであるとして,
平成25年改正法による改
正後の平成24年改正法により改定された選挙区割りはなお憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったものといわざるを得ないと判示した。そし
て,同判決は,同条の趣旨に沿った選挙制度の整備については,漸次的な見直しを重ねることによってこれを実現していくことも国会の裁量に係る現実的な選択として許容されていると解されるとし,
上記の選挙区割りの改定後も国
会において引き続き選挙制度の見直しが行われていること等を併せ考慮すると,
平成23年大法廷判決の言渡しから平成26年選挙までの国会における是正の実現に向けた取組は,
立法裁量権の行使として相当なものでなかったとい
うことはできず,
憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかった
とはいえないと判示した。
(6)

平成25年改正法の成立の前後を通じて,国会においては,今後の人口異動によっても憲法の投票価値の平等の要求に反する状態とならないようにするための制度の見直しについて,総定数の削減の要否等を含め,引き続き検討が続けられ,
平成26年6月19日の衆議院議院運営委員会における議決により,衆議院選挙制度に関する調査,検討等を行うため,衆議院に有識者により構成される議長の諮問機関として衆議院選挙制度に関する調査会(以下選挙制度調査会という。)が設置された(乙4〔244,245頁〕,9,11の1〔2頁〕)。
選挙制度調査会は,平成26年9月以降,定期的な会合を開催し,衆議院議員の選挙制度の在り方,議員定数の削減,投票価値の較差の是正等の問題について,各政党からの意見聴取を含めた調査,検討を行い,平成28年1月14日,衆議院議長に対し,衆議院選挙制度に関する調査会答申を提出した(乙10)。
上記答申は,①衆議院議員の選挙制度の在り方については,現行の小選挙区比例代表並立制を維持し,②議員定数の削減については,衆議院議員の定数を10削減して465人(小選挙区選出議員の定数につき6削減して289人,比例代表選出議員の定数につき4削減して176人)
とする案が考えられると
した。また,③投票価値の較差の是正については,小選挙区選挙における各都道府県への議席配分方式について満たすべき条件として,
比例性のある配分方
式に基づいて配分すること,
選挙区間の投票価値の較差を小さくするために各
都道府県間の投票価値の較差をできるだけ小さくすること,
各都道府県の配分
議席の増減変動が小さいこと,
一定程度将来にわたっても有効に機能し得る方
式であることとした上で,この諸条件に照らして検討した結果として,各都道府県への議席配分につき,各都道府県の人口を小選挙区基準序数で除し,それぞれの商の整数に小数点以下を切り上げて得られた数の合計数が小選挙区選挙の定数と一致するようにするアダムズ方式により行うものとした。そして,各都道府県への議席配分の見直しは,選挙制度の安定性を勘案し,10年ごとに行われる大規模国勢調査の結果による人口に基づき行うものとし,その5年
後に行われる簡易国勢調査の結果,
選挙区間の人口の較差が2倍以上の選挙区
が生じたときは,各都道府県への議席配分の変更は行わず,区画審において上記の較差が2倍未満となるように関係選挙区の区画の見直しを行うものとした(乙10)。
(7)

選挙制度調査会の前記答申を受けて,平成28年5月20日,衆議院議員の定数を475人から10削減して465人
(小選挙区選出議員の定数につき6
削減して289人,比例代表選出議員の定数につき4削減して176人)とするとともに,前記(2)のとおり,各都道府県への定数配分の方式としてアダムズ方式を採用すること等を内容とする衆議院議員選挙区画定審議会設置法及び公職選挙法の一部を改正する法律(平成28年改正法)が成立した。平成28年改正法においては,選挙制度の安定性を勘案し,アダムズ方式による各都道府県の選挙区数の変更は平成32年(令和2年)以降10年ごとに行われる大規模国勢調査の結果に基づき行うこととされ,
その5年後に行われる簡易国
勢調査の結果,選挙区間の日本国民の人口(以下,単に人口という。)の較差が2倍以上の選挙区が生じたときは,
各都道府県の選挙区数の変更はせず,
同較差が2倍未満となるように選挙区割りの改定を行うこととされた(乙4〔249ないし252頁〕,11の1〔10ないし20頁〕,12の1ないし7)。
他方,平成28年改正法は,アダムズ方式による各都道府県の選挙区数の変更が行われるまでの投票価値の較差是正のための措置として,附則により,小選挙区選出議員の定数を6削減することを前提として,
区画審において平成2
7年に行われた簡易国勢調査(以下平成27年簡易国勢調査という。)の結果に基づく選挙区割りの改定案の作成及び勧告を行うこととした。そして,同改定案の作成に当たっては,各都道府県の選挙区数につき,定数の削減による影響を受ける都道府県を極力減らすことによって選挙制度の安定性を確保する観点から,減少の対象となる都道府県は,アダムズ方式により得られる選挙区数が改正前の選挙区数より少ない都道府県のうち,
当該都道府県の平成2
7年簡易国勢調査の結果による人口を同方式により得られる選挙区数で除して得た数が少ない順から6都道府県とし,
それ以外の都道府県は改正前の選挙
区数を維持することとした。また,選挙区割りにつき,平成27年簡易国勢調査の結果に基づく選挙区間の人口の較差が2倍未満となるようにし,かつ,次回の大規模国勢調査が実施される平成32年(令和2年)見込人口に基づく選挙区間の人口の較差が2倍未満であることを基本とするとともに,各選挙区の
平成27年簡易国勢調査の結果による人口及び平成32年(令和2年)見込人口の均衡を図り,行政区画,地勢,交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行うこととした(新区画審設置法附則2条3項1号。乙4〔249ないし251頁〕,11の2,13の1ないし4)。
平成28年改正法の成立後,区画審による審議が行われ,平成29年4月19日,区画審は,内閣総理大臣に対し,上記のとおり各都道府県の選挙区数の0増6減の措置を採ることを前提に,
19都道府県の97選挙区において区割
りを改めることを内容とする改定案の勧告を行った
(乙14の12,
・乙16)

これを受けて,内閣は,同年5月16日,平成28年改正法に基づき,同法のうち上記0増6減を内容とする公職選挙法の改正規定の施行期日を定めるとともに,
上記改定案に基づく選挙区割りの改定を内容とする公職選挙法の改正事項を定める法制上の措置として,
平成28年改正法の一部を改正する法律案
を国会に提出し,平成29年6月9日,この改正法案が平成29年法律第58号(以下平成29年改正法という。)として成立した(乙16,18の1ないし5)。上記0増6減及びこれを踏まえた選挙区割りの改定を内容とする公職選挙法の改正規定は平成29年7月16日から施行され,
この改正により,
各都道府県の選挙区数の0増6減とともに上記改定案のとおりの選挙区割りの改定が行われた(以下,上記改正後の公職選挙法13条1項及び別表第1を併せて本件区割規定といい,本件区割規定に基づく上記改定後の選挙区割りを本件選挙区割りという。)。
(8)

平成29年10月22日に施行された衆議院議員総選挙(以下平成29年選挙という。)では,本件選挙区割りの下において,平成27年10月1日を調査時とする平成27年簡易国勢調査の結果によれば選挙区間の人口の最大較差は1対1.956となるものとされ,平成29年選挙当日における選挙区間の選挙人数の較差は,最大で1対1.979であり,選挙人数が最も少ない選挙区と比べて較差が2倍以上の選挙区は存在しなかった(乙2の4)。平成29年選挙につき,最高裁平成30年12月19日大法廷判決・民集72巻6号1240頁(以下平成30年大法廷判決という。甲20)は,本件区割規定は,
投票価値の平等の要請にかなう立法的措置を講ずることを求め
た平成23年大法廷判決以降の各大法廷判決の趣旨に沿って較差の是正を図ったものであり,投票価値の平等を最も重要かつ基本的な基準としつつ,新たな定数配分の方式をどの時点から議員定数の配分に反映させるかという点も含めて,
国会において考慮することができる諸要素を踏まえた上で定められたものということができ,平成29年選挙当時においては,新区画審設置法3条1項の趣旨に沿った選挙制度の整備が実現されていたということができるから,平成28年改正法及び平成29年改正法による選挙区割りの改定等は,国会の裁量権の行使として合理性を有するというべきであり,
平成27年大法廷
判決が平成26年選挙当時の選挙区割りについて判示した憲法の投票価値の平等の要求に反する状態は,
平成29年改正法による改正後の平成28年改正
法によって解消されたものと評価することができるとした上で,
平成29年選
挙当時において,本件区割規定の定める本件選挙区割りは,憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったということはできず,
本件区割規定が憲法1
4条1項等に違反するものということはできないと判示した。
(9)

前記のとおり,新区画審設置法は,4条1項において,10年ごとに行われる大規模国勢調査の結果による人口が最初に官報で公示された日から1年以内に,区画審が選挙区割りの改定案を作成し,内閣総理大臣に勧告することと定めているところ,
平成28年改正法に基づきアダムズ方式による各都道府県
の選挙区数の変更が実際に行われると見込まれるのは,
令和2年に行われた大
規模国勢調査(以下令和2年大規模国勢調査という。)の結果が官報で公示された令和3年6月25日(乙1の1の1〔1枚目〕)から1年(令和4年6月25日)以内に区画審による選挙区割りの改定案の勧告がされ,同勧告を受けて立法的措置が講じられ,その立法が施行された時である。
そのため,本件選挙時点では,本件区割規定の定める本件選挙区割りは,平成29年選挙時点から変更がなかった。
本件選挙当時の各都道府県別の議員定
数と,
平成27年簡易国勢調査の結果による人口を基にアダムズ方式で計算した都道府県別の議員定数とを比較した場合,
定数が異なるのは11都県である
(当該都県の定数は,1人別枠方式が廃止される前の定数と同じである)。
(10)平成29年改正法により,19都道府県の97選挙区において区割が改められ,これにより,平成27年簡易国勢調査に基づく選挙区間の人口の最大較差は1対1.
956となっただけでなく,
平成32年
(令和2年)
の見込人口
(平
成27年簡易国勢調査による人口に,
平成22年大規模国勢調査までの人口の
伸び率を乗じて得た人口)を前提としても,選挙区間の人口の最大較差が1対1.999となっていた(乙14の1,乙18の1)。
しかし,令和2年大規模国勢調査の結果によれば,同調査時点である令和2年10月1日における選挙区間の人口の最大較差は1対2.096であり(乙1の1の2),最も人口の少ない選挙区と比べて人口の較差が2倍以上の選挙区は23選挙区となっていた。また,本件選挙施行日の選挙区間の選挙人数の最大較差は1対2.079であり(乙1の2),選挙人数が最も少ない選挙区と比べて較差が2倍以上の選挙区は29選挙区であった(乙1の2)。3争点及び争点に対する当事者の主張
(1)

憲法における投票価値の平等の要求について

原告らの主張
以下のとおり,本件選挙における本件選挙区割りの規定は,憲法が56条2項,1条,前文1項によって要求している人口比例選挙によって保障されている一人一票の投票価値の平等に違反するから,憲法98条1項により無効である。

(ア)

国会議員は,過半数の代表によって選出されるべきであること
一票の投票価値の不平等の憲法問題については,統治論と人権論のいずれのハードルもクリアしなければならない。
以下,統治論から主張するが(原告らは,憲法14条の人権論の観点から主張しているのではない。),憲法は,統治論に関し次のとおり定めている。
①国民は,主権を有する(憲法1条,憲法前文1項1文後段)。②国民は,主権の行使として,選挙権を行使する(憲法15条1項,3項,43条1項,44条)。
③国民は,正当に選挙された国会議員を通じて,主権を行使する(憲法前文1項1文前段,同後段及び憲法1条)。すなわち,正当に選挙された国会議員は,主権を有する国民の国会における代表者である(憲法前文1項1文前段)。④正当に選挙された国会議員(憲法前文1項1文前段)は,主権を有する国民を代表して(憲法前文1項1文前段),全出席議
員の過半数で両議院の議事を決する(憲法56条2項)。
⑤各院の全出席議員の過半数は,正当(な)選挙たる人口比例選挙で,(各院の全議員との関係で按分される)全出席議員の過半数の比率の主権を有する全国民から選出されることが要求される(憲法前文1項1文前段)。
以上の憲法の各条項等の文言からは,国会議員は国民の過半数の代表によって選出されるべきであることが導かれる。
(イ)

憲法が制度論として人口比例選挙を要求していること
国会議員による国家権力の行使の民主的正当性は,正当な選挙によってのみ保障されるところ,非人口比例選挙では,全人口の過半数が衆参両議院の全議員の過半数を選出することが保障されていないことになり,主権
を有する全国民の過半数ではなく,
半数未満から選出されたに過ぎない各
国会議員の過半数が主権を有する,
いわば国会議員主権国家となるのであ
り,憲法前文1項1文後段及び憲法1条の国民主権に反することになる。そのため,憲法は,実務上できる限りの人口比例選挙が行われることを要求しているといえる。

(ウ)

1人別枠方式について
1人別枠方式については,平成23年大法廷判決(甲14)は,できるだけ速やかに廃止する必要があると判示した。平成25年大法廷判決(甲16)及び平成27年大法廷判決(甲18)も,憲法の投票価値の平等の要求に反すると判断している。具体的には,平成27年大法廷判決は,1人別枠方式を廃止した上で1人別枠方式による議員定数を見直す必要があるのに,1人別枠方式による議員定数の配分が存在するから,当該選挙は違憲状態である旨判示していた。それにもかかわらず,本件選挙では,平成29年選挙における選挙区割りと同じ選挙区割りで定数配分がされており,11都県で1人別枠方式により分配される各定数が維持されている(11都県において,平成27年簡易国勢調査の結果による人口を基にアダムズ方式で計算した都道府県別定数を比較した場合とは定数が異なっている。)。その結果,選挙人の投票価値の較差が最大1対2.066となっている(平成29年選挙での較差は最大1対1.979であった。)。ある地域の選挙人の投票価値は,他の地域の選挙人の0.48票分の投票価値しかないのである。
このように,本件区割規定のうち1人別枠方式に係る部分は憲法の投票価値の平等の要求に反しており,本件区割規定に基づく本件選挙区割りも憲法の投票価値の平等の要求に反している。
(エ)

平成30年大法廷判決(甲20)の不合理性
a
平成30年大法廷判決は,最高裁昭和51年4月14日大法廷判

決・民集30巻3号24頁(甲1。以下昭和51年大法廷判決と
いう。)が示した違法判断の基準時の解釈を不当に変更している。すなわち,平成30年大法廷判決は,アダムズ方式を採用した平成28年改正法が成立したことを考慮して,平成29年選挙は違憲状態ではない旨判示した。しかし,平成28年改正法及び平成29年改正法により,令和2年大規模国勢調査の結果に基づきアダムズ方式を用いて各都道府県に議員定数を配分する選挙区割りの立法的措置がとられることになったものの,当該立法的措置の対象となる選挙は,令和4年以降に施行される衆議院議員総選挙(小選挙区)であるため,当該立法的措置は,違憲判断の基準時である本件選挙の施行日時点での違法性の有無や程度に影響しない。違法判断の基準時は,本件選挙の選挙投票日であり,選挙時の違法性・違憲性の判断に当たって,本件選挙区割りに未だ反映されていない法律の存在を考慮することはできない。平成28年改正法及び平成29年改正法は,平成29年選挙の選挙区割りに何らの影響も及ぼしていないにもかかわらず,これらを違法性判断の中に考慮するのは,選挙区割りに影響を及ぼさない改正法の成立を考慮しないとする昭和51年大法廷判決の解釈を不当に変更するものである。
b
また,平成30年大法廷判決は,前記のとおり,平成29年選挙において,1人別枠方式により11都県に配分された議員定数(アダムズ方式により配分される議員定数とは異なる議員定数)が存在するにもかかわらず,当該選挙全体の選挙区割りは違憲状態ではない旨判示した。これは,平成27年大法廷判決の解釈を不当に変更するものである。

c
判例変更という,
法的安定性を害する判断をあえて行うのであれば,
判例変更をした旨を記述するとともに,真に説得力を持つ判例変更の理由を示すことが求められている。
しかし,
平成30年大法廷判決は,
昭和51年大法廷判決や平成27年大法廷判決から判例変更した旨を明示せずに判例変更するものであり,かつ,真に説得力を有するような判例変更の理由を記述していない。これらの点でも,平成30年大法廷判決は不合理なものである。

(オ)

立証責任について
一票の投票価値の平等からの乖離が合理的であることの立証責任は,国(被告ら)が負うところ,本件選挙においては,投票価値の不均衡により,一定の人々が不利益を受けているという具体的かつ重大な疑念があるのであって,国の立証責任は尽くされていない。


(ア)

被告らの主張
選挙無効請求訴訟における区割規定及びそれに基づく選挙区割りの合憲性の判断枠組みについて
憲法は投票価値の平等を要求しているが,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一絶対の基準ではなく,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。
選挙制度の仕組みの決定については国会の広範な裁量に委ねられているから,小選挙区制度における具体的な選挙区割りや,その前提となる区割規定を定めるに当たっては,投票価値の平等を最も重要かつ基本的な基準としつつも,較差という客観的かつ形式的な数値だけでなく,当該較差の数値の背後にある選挙制度の仕組みや,当該較差を生じさせる要因等も含めて種々の政策的考慮要素を総合的に考慮した上で,国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに,投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが求められている。その調和が保たれる限り,当該選挙制度の仕組みを決定したことが国会の合理的な裁量の範囲を超えるということにはならないというべきである。
したがって,国会が選挙制度の仕組みについて具体的に定めたところが,投票価値の平等の要請に反するため,国会に認められる裁量権を考慮してもなおその限界を超えており,これを是認することができない場合に初めてこれが憲法に違反することになるものと解すべきである。(イ)

本件選挙施行時,本件区割規定の定める本件選挙区割りは,憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていないこと
a
平成24年以降の各改正は,国会が,選挙区間の最大較差が2倍未満となる状態を安定的に維持すべく,1人別枠方式を廃止し,人口比例による議席配分の見直しを定期的に実施する仕組みを確立させる内容となっており,平成23年から平成27年までの各大法廷判決が繰り返し国会に求めてきた立法的措置の内容に適合し,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において,投票価値の平等の要請を調和的に実現した立法的措置と評価することができる。平成30年大法廷判決も,違憲状態は本件区割規定が成立した時点で解消された旨を明示的に判断している。
b
本件選挙区割りは,平成29年選挙時と同一のものであり,平成30年大法廷判決によるそれらの評価と同様の評価がされるべきである。
この点,令和2年大規模国勢調査の結果によれば,本件選挙時,選挙区間の人口の最大較差が1対2.096(選挙人の最大較差は1対2.079)であり,その他にも2倍以上の較差が生じた選挙区が生じたことは事実である。しかし,区割規定やそれに基づく選挙区割りの憲法適合性を判断するに当たっては,最大較差の数値や較差が2倍以上となった選挙区の数という客観的かつ形式的な数値だけでなく,当該較差の数値の背後にある選挙制度の仕組みや,当該較差を生じさせる要因等も含めて種々の政策的考慮要素を総合的に考慮する必要がある。
平成28年改正法は,平成32年(令和2年)の見込人口を基準としても最大較差を2倍未満とすることを基本としている。実際には当該増減率と異なる人口移動が生じて結果的に2倍以上の較差が生じることも当然あり得るし,1人別枠方式のように選挙制度自体の構造的な問題により2倍以上の較差が生じたのでもない。むしろ,現行の選挙制度では,選挙制度の安定性の要請を勘案し,10年単位又は5年単位で選挙区割りの改定を行うこととしており,アダムズ方式に基づく議席配分を最初に実施する時期も,諸般の事情を考慮した平成28年改正当時の国会の判断により,令和2年大規模国勢調査以降とされている。そうすると,アダムズ方式に基づく最初の選挙区割りが決定されるまでの間や,今後の10年又は5年単位の選挙区割りの改定と改定の間に,ある程度の較差の変動が生じることは当然にあり得る。なお,
今後,
アダムズ方式に基づいて都道府県別に定数配分をすれば,
都道府県間の最大較差は1対1.697まで下がることが見込まれ,この都道府県別定数を前提に,国勢調査人口による選挙区間の最大較差が2以上とならないような選挙区割りの改定案の勧告が令和4年6月25日までに行われることが法律上予定されており,較差の問題も早晩確実に解消される見込みである。よって,本件選挙区割りが違憲状態に至っているとはいえない。
(2)

合理的期間内における是正がされなかったといえるか否かについてア
被告らの主張

(ア)

仮に本件選挙が憲法による投票価値の平等の要求に反する,いわゆる違憲状態にあったと評価されたとしても,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえない。

(イ)

すなわち,平成30年大法廷判決は,平成27年大法廷判決が平成26年選挙当時の選挙区割りについて判示した憲法の投票価値の平等の要求に反する状態が,平成29年改正法による改正後の平成28年改正法によって解消された旨判断した。
本件選挙は,平成30年大法廷判決後に初めて行われた総選挙であるから,仮に何らかの事情により同判決における本件選挙区割りに関する評価が覆り,違憲状態に至っているとしても,国会において,その状態を認識し得ない状況であった。
また,平成28年改正の時点で,国会がアダムズ方式による議席配分を実施するのが令和2年大規模国勢調査以降とされており,それまでの間にある程度の較差の変動が生じることは当然にあり得ることであり,そのような場合に備えて10年又は5年単位で選挙区割りを行い,是正するという現行の選挙制度が整備されている。

(ウ)

よって,仮に本件選挙区割りが違憲状態に至っているとしても,国会が憲法上要求される合理的期間にその是正をしなかったとはいえない。イ
原告らの主張
被告らの主張は争う。
憲法上要求される合理的期間内における是正はされていない。

(3)

事情判決の法理について

原告らの主張
昭和51年大法廷判決及び最高裁昭和60年7月17日大法廷判決・民集39巻5号1100頁(以下昭和60年大法廷判決という。甲4)が示した事情判決の法理は,①提訴の対象となったのは一部の選挙区の選挙のみであり,かつ,②その当時比例代表選挙が存在しなかったという2つの事情の下で,利益の比較衡量をして,違憲の選挙を有効と判断したものである。
しかし,本件訴訟においては,①比例代表選挙選出の衆議院議員が衆議院の定足数(憲法56条1項)を超えて存在し,かつ,②全289小選挙区において,原告ら及びその余の選挙人が提訴したという,昭和51年大法廷判決及び昭和60年大法廷判決当時とは2つの異なる事情がある。こうした事情の下では,衆議院小選挙区全体につき違憲無効の判断がされても,定足数を満たす比例代表選出議員が存在するから,衆議院は国会活動を有効に行いうるし(選挙が無効とされても,それは憲法が予定する範囲内のことであり,これにより内閣総理大臣がその地位を喪失しても,新たに内閣総理大臣の任命がされるまでの間は従前の内閣総理大臣が引き続きその職務を行うため,憲法の所期しない社会的混乱や不都合は生じない。),各小選挙区によって選挙の有効無効が別になるという事態も生じない。よって,裁判所は,事情判決の法理に従い,利益の比較衡量をした上で,憲法98条1項後段により本件選挙が無効である旨判決すべきことになる。

被告の主張
原告らの主張は争う。

第3当裁判所の判断
1
本件選挙区割りが投票価値の較差において憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたか否か

(1)

憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば投票価値の平等を要求しているものと解される。他方,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する絶対の基準ではなく,
国会が正当に考慮することのできるほかの政策的目的ないし理
由との関連において調和的に実現されるべきものであるところ,
国会の両議院
の議員の選挙については,憲法上,議員の定数,選挙区,投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとされ(43条2項,47条),選挙制度の仕組みの決定について国会に広範な裁量が認められている。衆議院議員の選挙につき全国を多数の選挙区に分けて実施する制度が採用される場合には,
選挙制度の仕組みのうち定数配分及び選挙区割りを決定する
に際して,憲法上,議員1人当たりの選挙人数ないし人口ができる限り平等に保たれることを最も重要かつ基本的な基準とすることが求められているというべきであるが,
それ以外の要素も合理性を有する限り国会において考慮する
ことが許容されているものと解されるのであって,
具体的な選挙区を定めるに
当たっては,
都道府県を細分化した市町村その他の行政区画などを基本的な単
位として,地域の面積,人口密度,住民構成,交通事情,地理的状況などの諸要素を考慮しつつ,国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに,投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが求められているところである。したがって,このような選挙制度の合憲性は,これらの諸事情を総合的に考慮した上でなお,
国会に与えられた裁量権の行使として合理性を
有するといえるか否かによって判断されることになり,
国会がこのような選挙
制度の仕組みについて具体的に定めたところが,
上記のような憲法上の要請に
反するため,上記の裁量権を考慮してもなおその限界を超えており,これを是認することができない場合に,
初めてこれが憲法に違反することになるものと
解すべきである(平成27年大法廷判決,平成30年大法廷判決等参照)。これに対し,原告らは,
憲法1条,15条1項,3項,43条1項,44条,
56条2項,
憲法前文1項等の文言から国会議員は国会の過半数の代表によっ
て選出されるべきであることが導かれ,また,国会議員による国家権力の行使の民主的正当性は,正当な選挙によってのみ保障されるところ,非人口比例選挙では,
全人口の過半数が衆参両議院の全議員の過半数を選出することが保障されていないことになるなどして,憲法は,人口比例選挙制度を要求していると主張する。しかし,上記のとおり,国会の両議院の議員の選挙については,憲法上,議員の定数,選挙区の投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるものとされているのであり,
原告らが根拠として挙げる憲法上の文言から
直ちに原告らが主張するような憲法解釈が導かれるとはいえないし,憲法上,議員1人当たりの選挙人数ないし人口ができる限り平等に保たれることを最も重要かつ基本的な基準とすることが求められているとはいうべきであるが,それ以外の要素も合理性を有する限り国会において考慮することが許容されているものというべきであるから,原告らの上記主張は採用できない。(2)ア

前提事実で示したとおり,平成26年選挙の施行前に設置された選挙制度調査会において,衆議院選挙制度に関する検討が重ねられ,平成27年大法廷判決の言渡し後に,小選挙区選出議員の定数を6削減するとともに,投票価値の較差を是正するための新たな議席配分方式としてアダムズ方式を採用すること等を内容とする答申がされ,
これを受けて制定された平成28年
改正法は,これと同内容の規定を設けた上で,アダムズ方式による各都道府県への定数配分を平成32年(令和2年)以降10年ごとに行われる大規模国勢調査の結果に基づいて行うこととし,
その5年後に行われる簡易国勢調
査の結果に基づく選挙区間の人口の較差が2倍以上となったときは同較差が2倍未満となるように各都道府県内の選挙区割りの改定を行うことを定めたものである。
さらに,平成28年改正法は,アダムズ方式による定数配分が行われるまでの措置として選挙制度の安定性を確保しつつ較差の是正を図るため,附則
において,
平成27年簡易国勢調査の結果に基づきアダムズ方式により定数
配分を行った場合に選挙区数の削減が見込まれる議員1人当たりの人口の少ない6県の選挙区数をそれぞれ1減ずる0増6減の措置を採るとともに,新区画審設置法3条1項と同様の区割基準に基づき,
次回の大規模国勢調査
が行われる平成32年(令和2年)までの5年間を通じて選挙区間の人口の較差が2倍未満となるように選挙区割りの改定を行うこととしたものである。その上で,区画審による改定案の勧告を経て制定された平成29年改正法により,19都道府県の97選挙区における選挙区割りの改定が行われ,同改正後の本件区割規定の定める本件選挙区割りの下において平成29年選挙及び本件選挙が行われたところである。

このように,
本件区割規定による改正を含む平成28年改正法及び平成2
9年改正法による改正は,
令和2年大規模国勢調査の結果に基づく選挙区割
りの改定に当たり,
各都道府県への定数配分を人口に比例した方式の一つで
あるアダムズ方式により行うことによって,
選挙区間の投票価値の較差を相
当程度縮小させ,
その状態が安定的に持続するよう立法的措置を講じた上で,
同方式による定数配分がされるまでの較差是正の措置として,
各都道府県の
選挙区数の0増6減の措置を採るとともに選挙区割りの改定を行うことにより,
上記のように選挙区間の人口等の最大較差を縮小させたものであって,投票価値の平等を確保するという要請に応えつつ,
選挙制度の安定性を確保
する観点から漸進的な是正を図ったものと評価することができる。もっとも,平成29年選挙及び本件選挙においては,いずれも,平成24年改正法及び平成28年改正法により選挙区数が減少した県以外の都道府県について1人別枠方式を含む旧区割基準に基づいて配分された定数に変更はなく,その中には,アダムズ方式による定数配分が行われていれば異なる定数が配分されることになる都道府県が含まれている。
しかし,
平成24年改正法から平成29年改正法までの立法的措置によっ
て,1人別枠方式を定めた旧区画審設置法3条2項が削除されたほか,1人別枠方式の下において配分された定数のうち議員1人当たりの人口の少ない合計11県の定数をそれぞれ1減ずる内容の定数配分の見直しや,選挙区
間の投票価値の較差を縮小するための選挙区割りの改定が順次行われたことにより,選挙区間の人口(平成27年簡易国勢調査の結果によるもの。)ないし選挙人数(平成29年選挙の施行日のもの。)の最大較差は平成29年選挙当時には1対1.979に縮小し,本件選挙時にも1対2.079とわずかに拡大したにとどまったことに加え,本件選挙の施行時には,既に,平成32年(令和2年)以降10年ごとに行われる大規模国勢調査の結果に基づく各都道府県への定数配分をアダムズ方式により行うことによって,1
人別枠方式の下における定数配分の影響を完全に解消させる立法的措置が講じられていた。

たしかに,
本件選挙施行日までに平成28年改正法及び平成29年改正法
に続く新たな立法的措置が講じられることはなく,
本件選挙における選挙区
間の最大較差は,令和2年大規模国勢調査の結果では人口にして1対2.096,本件選挙施行日の選挙人数にして1対2.079と2倍を超え,選挙人数の最も少ない選挙区と比べて較差が2倍以上の選挙区も29と,平成2
9年選挙当時よりも較差が拡大した。
しかし,平成28年改正法及び平成29年改正法は,アダムズ方式により各都道府県への定数配分が行われる前の本件選挙区割りについても,平成2
7年簡易国勢調査に基づく選挙区間の人口の最大較差を2倍未満である1対1.956倍とするとともに,平成32年(令和2年)の見込人口に基づく選挙区間の人口の最大較差も1対1.999倍になるようなものとした(新区画審設置法附則2条3項1号。乙18の1)。この人口移動の見込みは,
平成22年大規模国勢調査から平成27年簡易国勢調査までの人口移動を踏まえて算出したものであり,
この見込みは同法附則2条3項1号ロに則
ったものであり,不合理なものとは認められない。実際には,本件選挙の施行時には最大較差が2倍以上となった選挙区が少なからず生じるに至っており,これは上記の見込みを超える人口の移動が生じたためであるが,かかる実際の人口移動を平成29年改正法の立法当時に予測できたとは認め難いし,
同法附則2条3項1号ロの定めを超える較差が生じるような見込人口を設定して選挙区割りを行うことが国会に求められていたとも認められない。
付言すると,
平成28年改正法及び平成29年改正法に基づくアダムズ方
式により各都道府県への定数配分を行うのは平成32年(令和2年)大規模国勢調査の結果を踏まえた後であるのに対し,
衆議院議員の任期は最大4年
間であるから,平成28年改正法の附則が見込人口を設定した平成32年(令和2年)よりも後に衆議院議員総選挙が行われたとしても,新区画審設置法附則2条1項ないし3項に基づく定数配分に基づく本件区割規定により改定された本件選挙区割りをもって衆議院議員総選挙が行われることを平成28年改正法及び平成29年改正法は予定しているし,
そのような場合
に上記附則による定数配分に基づく衆議院議員総選挙が行われるとしても,それは選挙制度の安定性を確保する観点から見て不合理とは認められない。加えて,平成28年改正法及び平成29年改正法の中に,旧区画審設置法3条2項が定めていた1人別枠方式のような法制度上の問題が存在したとも認められない。
アダムズ方式を採用する前の区割基準及び本件選挙区割り
が不合理でないことは上記で判断したとおりであるし,
平成28年改正法の
立法時には直近の平成22年大規模国勢調査から相当期間が経過していたほか,平成32年(令和2年)には次の大規模国勢調査が控えていたことから,
短期間に立て続けに定数配分の見直しを行うのは選挙制度の安定性を損ねることが懸念されたために,
新区画審設置法附則2条1項ないし3項が設
けられたという立法経緯などにかんがみれば(乙11の1〔13ないし15頁〕,12の3・5),令和2年大規模国勢調査の結果を待つことなく,前倒しでアダムズ方式によるなどして定数配分を改めることが必要かつ相当であったとまでは認められない。
選挙区割りの改定に向けた検討を10年又
は5年ごとに行うという期間設定が,
諸外国の法制度と比較しても殊更長い
とも認められない(乙25の2〔2頁〕。10年又は5年よりも短い期間のうちに選挙区間の人口の最大較差が2倍以上となる事態が生じる可能性も否定できないが,かかる事態が生じた都度,選挙区割りの改定が義務付けられるとすると,選挙制度が混乱し,その安定性を損なうことになることも懸念されるところである。)。
このような平成28年改正法及び平成29年改正法の内容
(中でも立法時
だけでなく,将来的にも較差が是正されるような制度枠組みを固めたこと)や,その結果縮小した較差の状況を考慮すると,本件選挙において,1人別枠方式を含む旧区割基準に基づいて配分された定数とアダムズ方式により各都道府県の定数配分をした場合に配分されることとなる定数を異にする都道府県が存在し,
選挙区間の人口ないし選挙人数の最大較差が2倍をわず
かに超える状態が生じたことをもって,
直ちに本件選挙区割りが憲法の投票
価値の平等の要求に反するものになるということはできないのであって,こ
の理は,
同最大較差が2倍未満であった平成29年選挙施行時に妥当していただけでなく,本件選挙施行時にも妥当するものというべきである。エ
以上の事情を総合的に考慮すれば,本件区割規定は,投票価値の平等の要請に適う立法的措置を講ずることを求めた平成23年大法廷判決以降の各大法廷判決の趣旨に沿って較差の是正を図ったものであり,
投票価値の平等
を最も重要かつ基本的な基準としつつ,
新たな定数配分の方式をどの時点か
ら議員定数の配分に反映させるかという点も含めて,
国会において考慮する
ことができる諸要素を踏まえた上で定められたものということができ,平成
29年選挙当時のみならず本件選挙当時においても,
新区画審設置法3条1
項の趣旨に沿った選挙制度の整備が実現されていたということができる。そ
うすると,
平成28年改正法及び平成29年改正法による選挙区割りの改定
等は,国会の裁量権の行使として合理性を有するというべきであり,平成27年大法廷判決が平成26年選挙当時の選挙区割りについて判示した憲法の投票価値の平等の要求に反する状態は,
平成29年改正法による改正後の
平成28年改正法によって解消されたものと評価することができる。したがって,本件選挙当時において,本件区割規定の定める本件選挙区割りは,
憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったということはできず,
本件区割規定が憲法56条2項等に違反するものということはできない。(3)

なお,原告らは,本件選挙の違法性の判断基準時は本件選挙施行時であるべきであるのに,平成30年大法廷判決は,平成29年選挙の後の事情を考慮して違法性の判断をしており,判断の基準時の設定が不合理であり,不当に判例変更をするものであると主張する。
しかし,
平成30年大法廷判決が平成29年選挙施行時の本件選挙区割りには適用されなかった平成28年改正法及び平成29年改正法の本則の内容等(アダムズ方式等)に言及したのは,選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあるか否かを判断するに当たり,較差という数値だけでなく,当該較差の背後にある選挙制度の仕組みや当該較差を生じさせる要因等をも考慮する必要があるところ,平成28年改正法の附則の下で設けられた本件区割規定の定める本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあるか否かを判断するに当たって,
その前提となる平成28年改正
法の本則の定めが,
安定的に選挙区間の投票価値の較差を相当程度縮小させる
ことを可能とする立法的措置であることを示し,ひいては,附則の定めが漸進的であることを示すものであったと解されるのであり,
いまだ本件選挙区割り
に反映されていないアダムズ方式等を定めた平成28年改正法及び平成29年改正法の本則を,
憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあるか否かの
判断に当たって斟酌したものとは解せられない。
よって,平成30年大法廷判決は,違法性の判断基準時を平成29年選挙施行時よりも後に設定したものとは解されないのであって,
不当な判例変更をし
たとの上記原告らの主張も採用できない。
その他原告らは,憲法の投票価値の平等の要求に関しるる主張するが,いずれも,当裁判所の判断を左右しない。
2したがって,原告らの請求は,その余の点について判断するまでもなく,いずれも理由がない。
第4結論
よって,
原告らの請求をいずれも棄却することとして,
主文のとおり判決する。

広島高等裁判所第4部

裁判長裁判官

横溝邦彦
裁判官

梅本幸作
裁判官

佐木清一々
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