判例検索β > 令和3年(行ケ)第31号
選挙無効請求事件
事件番号令和3(行ケ)31
事件名選挙無効請求事件
裁判年月日令和4年2月14日
法廷名東京高等裁判所
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-02-14
情報公開日2022-03-29 04:00:09
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主文1
原告らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由

第1

請求の趣旨
令和3年10月31日に施行された衆議院議員総選挙の比例代表選出議員選挙について,東京都選挙区及び南関東選挙区における選挙をいずれも無効とする。

第2
事案の概要等

1
事案の概要
本件は,令和3年10月31日施行の第49回衆議院議員総選挙(以下本件選挙という。)の比例代表選出議員選挙(以下比例代表選挙といい,本件選挙における比例代表選挙を本件比例代表選挙という。)の東京都選挙区及び南関東選挙区の選挙人である原告らが,本件比例代表選挙について,小選挙区選出議員選挙(以下小選挙区選挙という。)との重複立候補が許
容されていること,公職選挙法(以下公選法という。)13条2項及び同別表第2による定数配分及び選挙区割りが人口に比例していないこと等の点において憲法に違反し,無効であるから,上記各選挙区における選挙も無効であるなどと主張して提起した選挙無効訴訟(公選法204条)である。2
前提事実(証拠によって認定した事実は各項末尾の括弧内に認定に供した証拠を摘示し,その記載のない事実は,当事者間に争いがないか,当裁判所に顕著である。)


本件選挙の施行
令和3年10月31日,本件選挙が施行された。

本件選挙施行当時,衆議院議員の定数は465人とされ,そのうち289人が小選挙区選出議員,176人が比例代表選出議員とされており(公選法4条1項),小選挙区選挙については,全国に289の選挙区を設け,各選挙区において一人の議員を選出するものとされ
(同法13条1項,
別表第1)

比例代表選挙については,全国に11の選挙区を設け,各選挙区において所定数の議員を選出するものとされていた(同法13条2項,別表第2)。衆議院議員総選挙においては,小選挙区選挙と比例代表選挙とを同時に行
い,投票は小選挙区選挙及び比例代表選挙ごとに一人一票とされている(同法31条,36条)。


本件比例代表選挙について
本件比例代表選挙は,平成6年法律第2号,同第10号,同第104号及び同第105号(以下平成6年法という。)並びに平成12年法律第1
号,平成14年法律第95号,平成28年法律第49号(以下平成28年改正法という。)及び平成29年法律第58号(以下平成29年改正法という。)によって改正された公選法13条2項及び同別表第2による選挙区割り及び議員定数の定め(以下本件区割規定という。)に従って施行されたものである。

なお,本件比例代表選挙について,令和2年大規模国勢調査(統計法5条2項本文の規定により10年ごとに行われる国勢調査。以下令和2年国勢調査という。)の結果を基準とした場合の最大較差(選挙区間における議員一人当たりの当該選挙区における日本国民の人口の最大較差)は,四国選挙区(61万0818人)と東京都選挙区(79万7895人)との間の1
対1.306であった(乙1)。


重複立候補制について
本件比例代表選挙に適用された平成6年法による改正後の公選法86条の2は,比例代表選挙における立候補につき,同条1項各号所定の要件のいず
れかを備えた政党その他の政治団体のみが団体の名称と共に順位を付した候補者の名簿を届け出ることができるものとし,上記の名簿の届出をした政党その他の政治団体(衆議院名簿届出政党等)のうち,小選挙区選挙において候補者の届出をした政党その他の政治団体(候補者届出政党)は,その届出に係る候補者を同時に比例代表選挙の名簿登載者とすることができ,両選挙に重複して立候補する者については上記名簿における当選人となるべき順位を同一のものとすることができるという,
いわゆる重複立候補制を採用した。

重複立候補者は,小選挙区選挙において当選人とされた場合には,比例代表選挙における当選人となることはできないが,小選挙区選挙において当選人とされなかった場合には,名簿の順位に従って比例代表選挙の当選人となることができ,後者の場合に名簿において同一の順位とされた者の間における当選人となるべき順位は,小選挙区選挙における得票数の当該選挙区にお
ける有効投票の最多数を得た者に係る得票数に対する割合の最も大きい者から順次に定めるものとされている(公選法95条の2第3ないし第5項)。⑷

原告ら
原告B,同C,同A及び同Dは,いずれも本件比例代表選挙の東京都選挙区(東京都)の選挙人であり,原告Eは,本件比例代表選挙の南関東選挙区
(千葉県,神奈川県,山梨県)の選挙人である。
なお,東京都選挙区と四国選挙区との較差は,前記のとおり1.306で最大であり,
南関東選挙区と四国選挙区との較差は,
1.
189であった
(乙
1)。
3
争点
本件比例代表選挙は,憲法に違反した公選法の規定に基づくものとして,無効となるか。

4
当事者の主張

(原告らの主張)
以下のとおり,公選法の規定は違憲であるから,これに基づいて施行された本件比例代表選挙は無効である。


小選挙区選挙と比例代表選挙が不可分一体であることによる無効(無効理由1)
憲法は,衆議院議員選挙につき総選挙と定め(憲法7条4号,54条1項),小選挙区選出議員と比例代表選出議員との間に,その地位,任期及び権能について,何ら差異を設けていない。これらはいずれも同じく衆議院議
員であり,これらを選出する両選挙は,両者合わせて衆議院議員総選挙を構成するもので,不可分一体である。このように不可分一体の衆議院議員総選挙の一部に違憲無効の重大な瑕疵があれば,これにより総選挙全体が違憲無効の瑕疵を帯びるところ,
本件選挙の小選挙区選挙は,
議員定数
(289人)
が人口に比例して配分されていない(公選法13条1項,同別表第1)など
の点において違憲無効であるから,本件選挙は全体として無効となり,本件比例代表選挙も当然無効となる。


重複立候補制の問題点(無効理由2)

重複立候補制は,選挙人の投票意思をゆがめるものである。
重複立候補制は,小選挙区選挙における落選者が,各政党の名簿の順位いかんによって,あるいは同順位の場合には惜敗率という計数的偶然性によって復活当選する可能性を是認する制度であり,極めて不合理かつ不可思議な制度である。かかる制度により議員の選出を認めるような選挙制度は,憲法前文にいう正当に選挙されたというには程遠
いものであり,憲法43条1項の

両議院は,全国民を代表する選挙された議員でこれを組織する。

との規定に反するものである。重複立候補制を利用する重複立候補者は,そうでない立候補者と比べると,1回の選挙において2回の立候補が認められるに等しいものであり,被選挙権を2倍与えられたのと同一の効果を持つことになる。
他方,選挙人から重複立候補制をみた場合,小選挙区で落選者に投じた一票が,結果的には比例代表選挙についても一票投票したのと同一の効果が生じるのに対し,小選挙区選挙のみに立候補した者に投票した選挙人は,比例代表選挙について何の影響力も行使できない。これは,両者の間に差別的取扱いをし,小選挙区選挙に落選した重複立候補者に投票した選挙人に,複数の投票権を与えたのと同一の効果を認めるものである。

このように投票の効果が異なる投票制度を認めることは,憲法14条1項の法の下の平等の原則及びこれを政治の領域において具現化した憲法15条3項,44条ただし書に反する。
選挙ないし投票は,立候補者が代表者として適任であるかど
うかを選挙人に判断させ,適任者を当選させることのみならず,不適格
者を落選させることをもその目的とするものであるにもかかわらず,重複立候補制は,選挙人の投票による意思表示を適正に評価せず,かえってその意思に反する評価を行うものであり,正当な選挙制度とはいえない。
上記のとおり,重複立候補制に関する平成6年法による改正後の公選
法86条の2の規定は,憲法前文,43条1項,14条1項,15条3項,44条に違反する。

重複立候補制は,直接選挙制に反する。
重複立候補制は,選挙の時点で候補者名簿の順位が確定せず,その順位は,小選挙区選挙の結果に左右されるという不確定的,条件付きのもので
あり,およそ国民が順位の確定した名簿を見た上で投票する制度であるとはいえないから,直接選挙とはいえず,実質的には政党が当選者を選ぶ間接選挙であって,憲法43条1項,15条1項,3項に違反する。ウ
立候補,選挙運動における差別
公選法86条の2第1項各号のうち,比例代表選挙の衆議院名簿届出政党等に係る1号及び2号の要件は,同法86条1項1号及び2号所定の小選挙区選挙における候補者届出政党の要件と同一であるから,これらの要件を充足する政党等に所属する者は,小選挙区選挙及び比例代表選挙に重複して立候補することができるが,上記政党等に所属しない者は,同法86条の2第1項3号所定の要件を充足する政党その他の政治団体に所属する者にあっては比例代表選挙又は小選挙区選挙のいずれかに,上記いずれの政党等にも所属しないその他の者にあっては小選挙区選挙に立候補することができるにとどまり,両方に重複して立候補することはできない。
また,前記候補者名簿(衆議院名簿)に登載することができる候補者
の数は,各選挙区の定数を超えることができないが,重複立候補者はこの計算上除外されるから(公選法86条の2第5項),候補者届出政党の要件を充足した政党等は,上記定数を超える数の候補者を衆議院名簿に登載することができることとなる。
そして,衆議院名簿届出政党等のすることができる自動車,拡声機,
ポスターを用いた選挙運動や,新聞広告,政見放送等の規模は,名簿登載者の数に応じて定められている(公選法141条3項,144条1項2号,149条2項,150条5項等)。
さらに,候補者届出政党は,小選挙区選挙の選挙運動をすることができるほか,衆議院名簿届出政党等でもある場合には,その小選挙区選挙
に係る選挙運動が,同法の許す態様において,比例代表選挙に係る選挙運動にわたることを妨げないものとされている(公選法178条の3第1項)。
平成6年法による改正後の公選法の上記のような規定をみると,立候補の機会において,候補者届出政党に所属する候補者は,重複立候補を
することが認められているのに対し,それ以外の候補者は,重複立候補の機会がないものとされているほか,衆議院名簿届出政党等の行うことができる選挙運動の規模において,重複立候補者の数が名簿登載者の数の制限の計算上除外される結果,
候補者届出政党の要件を備えたものは,
これを備えないものより規模の大きな選挙運動を行うことができることになる。
このように,重複立候補をすることができる者ないし候補者届出政党
の要件を充足する政党等と,重複立候補をすることができない者ないし上記要件を充足しない政党等とを差別的に取り扱うことは,選挙人の選挙権の十全な行使を侵害するものであり,憲法15条1項,3項,44条,14条1項,47条,43条1項に違反する。

小括
以上のとおり,重複立候補を認めた公選法86条の2第4項の規定は違憲無効であり,同項に基づく選挙は違憲な選挙として,無効とされるべきである。


人口比例配分違反による無効(無効理由3)
衆議院議員選挙区画定審議会設置法及び公職選挙法の一部を改正する法律(平成28年改正法)及び平成28年改正法の一部を改正する法律(平成29年改正法)による改正後の公選法13条2項及び同別表第2は,以下のとおり,比例代表選出議員の定数を,各選挙区に対して人口に比例して配分しておらず,かかる定数配分規定は,違憲無効である。

すなわち,
議員定数が各選挙区にその人口に比例して配分されているかは,
平成28年改正法の基準となった平成27年の国勢調査人口(日本国民の人口1億2534万2377人)を衆議院比例代表選出議員の総定数である176人で除し,その商(基準人数=71万2172人)を求め,これに各選挙区に配分された議員定数を乗じて必要人数を求め,各選挙区の人口と
必要人数との差(絶対値)が基準人数以上であれば,人口比例配分原則に照らして許容できる限度を超えるものとして,かかる配分は違憲となる。このような判断基準に沿って検討すると,東京都選挙区(議員定数17)は,実際の人口(1313万6707人)と必要人数(1210万6924人=71万2172人×17)との差(102万9783人)が基準人数を上回っており,この差である102万9783人の都民には,議員定数すなわち自らの代表が与えられていないということである(代表の欠缺)。
よって,かかる定数配分規定は,人口に比例した配分をしていないものとして違憲無効であり,本件比例代表選挙は,このような違憲無効な定数配分規定に基づき施行されたものであるから,無効である。


国会による立法不作為(無効理由4)
国会は,立法により,上記の違憲状態につき是正を図る義務があったのに
(平成28年改正法の附則5条において不断の見直しを国民に確約した選挙制度の中には,比例代表選挙も含まれる。),平成28年改正法による公選法の改正後,
人口の偏在化の進行を漫然と看過し,
定数規定の是正を怠っ
た。かかる国会の不作為は違憲であり,このような違憲の立法不作為により実施された今回の選挙は無効である。



ブロック別配分議員数の不平等(無効理由5)
上記⑴のとおり,小選挙区選挙と比例代表選挙は一つの衆議院議員総選挙と考えるべきであるから,比例区に配分された比例代表選出議員数のみならず,同比例区に含まれる小選挙区選出議員数を合算した議員数(ブロック議
員数)についても,11の比例区(ブロック)に,その人口に比例して配分されなければならない。
平成28年改正法による改正後の公選法による11ブロックヘの議員定数配分(0増10減〈比例代表選出議員数については4減〉後の定数配分)について,平成27年国勢調査人口を使って検討すると,東海ブロック(岐阜
県,静岡県,愛知県,三重県)と九州ブロック(福岡県,佐賀県,長崎県,熊本県,大分県,宮崎県,鹿児島県,沖縄県)との間で逆転現象が生じている。すなわち,人口3位の東海ブロック(1473万8740人)におけるブロック議員数が53人
(比例区21人,
小選挙区32人)
であるのに対し,
人口4位の九州ブロック(1435万3677人)におけるブロック議員数は55人(比例区20人,小選挙区35人)となっている。また,11のブロックのうち,8のブロック(南関東,東海,九州,東京都,東北,中国,
北陸信越,四国)で,過不足人数が基準人数(平成27年国勢調査による日本国民の人口1億2534万2377人を衆議院議員定数465で除した26万9553人)以上となっている。
このような議員定数配分が憲法に違反することは明らかである。


南関東選挙区の区割りについて(無効理由6)
平成6年法による公選法の改正以後,
衆議院議員総選挙の比例代表選挙は,
全国を11の選挙区に区割りして行われている。
このうち,南関東選挙区は,千葉県,神奈川県及び山梨県の3県で構成されているが,千葉県は,他の2県とは飛び地の関係にある。千葉県から見た場合,神奈川県と山梨県との関連性がどこにあるのか全く不明であり,この
ような飛び地を含む3県を一つの選挙区に構成した理由は,政党の利害関係に結び付いていると考えるのが相当である。言い換えれば,この区割りは,立法裁量権を逸脱しており,違憲無効である。


11ブロック制について(無効理由7)
本件比例代表選挙は,全国を11の選挙区に区分けして実施したことによ
り,選挙区ごとに多くの死票を出すことになったが,これは比例代表選挙の長所(少数派も多数派と同じように代表を持つこと)を削ぐもので,憲法に反する。
(被告の主張)


無効理由1について
小選挙区選挙及び比例代表選挙は,それぞれ選挙制度としての機能及び選挙の方法が異なり,両者は異なる選挙であるから,後者の無効を求める訴訟において,前者の仕組みの憲法適合性を問題とすることはできない。原告らの主張は,その前提を欠き,失当である。


無効理由2について
公選法が衆議院議員総選挙につき重複立候補制を採用することには,政策
本位・政党本位の選挙制度の実現という政策目的に照らして十分合理性があり,原告らが主張する事由をもって,国会が重複立候補制について具体的に定めたところが国会の裁量権の限界を超えるものとはいえないから,重複立候補制に関する公選法の規定が憲法14条1項等の規定に違反するものとはいえない。



無効理由3について
投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。
本件比例代表選挙について,令和2年国勢調査の結果を基準とした場合の
最大較差は,四国選挙区と東京都選挙区との間の1対1.306にとどまっており,この程度のごく僅かな較差をもって,憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたとはいえない。


無効理由4について
上記⑶のとおり,そもそも本件比例代表選挙における選挙区間の最大較差
が憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っていたとはいえず,これまで比例代表選挙における区割規定(本件区割規定)が違憲状態にあったこともないのであるから,原告らの主張は前提を欠き,失当である。

無効理由5について
小選挙区選挙と比例代表選挙は,選挙制度としての機能及び方法が異なる選挙であり,選挙制度に関する具体的な定めが憲法の投票価値の平等の要求に反するか否かを判断する場合において,小選挙区選挙の定数と比例代表選挙の定数とを単純に合計して比較することには意味がなく,両選挙はそれぞれ別個独立にこれを判断すべきであるから,原告らの主張は失当である。⑹

無効理由6,7について
千葉県と他の2県は,同じ関東甲信越地域に属するものであり,原告
らがこれら3県の関連性に疑義があるかのように主張するのは,前提において当たらない。
本件区割規定は,従来の中選挙区制から小選挙区比例代表並立制に改められた平成6年法により定められたものであるところ,同改正法が全国を11に分けた広域のブロックを比例代表選挙の選挙区としたのは,全国を単位と
した場合には候補者数が余りにも膨大になり,都道府県を単位とした場合には比例代表制の趣旨が生かされないこととなること,今日では行政を始め経済その他の面において都道府県を超えた広域的な結び付きがみられ,今後更に国民の生活圏の拡大が予想されることなどを考慮したことによるものであり,このように定められた各選挙区の定数は人口比例により配分されたもの
である。そうすると,公選法別表第2が比例代表選挙の選挙区として全国を11のブロックに分けたからといって,憲法が認めた国会の裁量権の限界を超えるものということはできない。
第3
当裁判所の判断

1
認定事実


昭和25年に制定された公選法(昭和25年法律第100号)は,衆議院議員の選挙制度につき,中選挙区単記投票制を採用していたが,平成6年法によりその一部が改正され,これらにより,従来の中選挙区単記投票制に代わって小選挙区比例代表並立制が導入された(公知の事実)。



衆議院議員の総定数は,平成6年法により上記⑴の小選挙区比例代表並立制が導入された当初は500人(小選挙区選出議員300人,比例代表選出議員200人)であったが,その後,平成12年法律第118号による公選法の改正により,比例代表選出議員の定数が20人削減されて,総定数が480人(小選挙区選出議員300人,比例代表選出議員180人)となり,続いて,平成25年法律第68号により小選挙区選出議員の定数が5人削減されて,総定数が475人(小選挙区選出議員295人,比例代表選出議員
180人)となっていた(公知の事実)。


本件選挙施行当時,平成28年改正法により,衆議院議員の総定数は465人とされ(0増10減),そのうち289人が小選挙区選出議員,176人が比例代表選出議員とされ
(公選法4条1項)小選挙区選挙については,

全国に289の選挙区を設け,各選挙区において一人の議員を選出するもの
とされ(同法13条1項,別表第1),比例代表選挙については,全国に11の選挙区を設け,各選挙区において所定数の議員を選出するものとされていた(同法13条2項,別表第2)。総選挙においては,小選挙区選挙と比例代表選挙とを同時に行い,投票は小選挙区選挙及び比例代表選挙ごとに一人一票とされている(同法31条,36条)(前提事実⑴)。


令和3年10月14日,衆議院が解散され,同月31日,上記⑶の定数配分,区割等に基づき,本件選挙が実施された(前提事実⑴,公知の事実)。本件比例代表選挙について,令和2年国勢調査の結果を基準とした場合の最大較差は,四国選挙区(61万0818人)と東京都選挙区(79万7895人)との間の1対1.306であった(前提事実⑵)。
2
原告らの主張する各無効理由についての判断


無効理由1(小選挙区選挙と比例代表選挙が不可分一体であることによる無効)について
原告らは,小選挙区選挙と比例代表選挙は不可分一体であり,その一部に
違憲無効の重大な瑕疵があれば,それにより総選挙全体が違憲無効の瑕疵を帯びるところ,小選挙区選挙については,議員定数(289人)が人口に比例して配分されていない(公選法13条1項,同別表第1)などの点において違憲無効であるから,本件選挙が全体として無効となり,本件比例代表選挙も当然に無効となる旨を主張する。
しかしながら,平成6年法により導入された小選挙区比例代表並立制において,小選挙区選挙と比例代表選挙は,それぞれの選挙ごとに選挙区が定め
られており
(公選法13条1項及び同別表第1,
同条2項及び同別表第2)

選挙の方法についても,小選挙区選挙においては,立候補は候補者個人による届出が認められ(同法86条2項,6項),その投票は,投票用紙に公職の候補者一人の氏名を自書することとされ(同法46条1項),当選人の決定は,有効投票の最多数を得た者をもって当選人とするものとされている(同
法95条1項)のに対し,比例代表選挙においては,立候補は候補者個人による届出は認められず,一定の要件を満たす政党その他の政治団体に限り届出が認められており(同法86条の2第1項),その投票は,投票用紙に一つの衆議院名簿届出政党等の届出に係る名称又は略称を自書することとされ(同法46条2項),当選人の決定は,各衆議院名簿届出政党等の得票数に基
づき,いわゆるドント方式により行うこととされている(同法95条の2第1項)など,両選挙は,別個のものとして施行されているものと認められる。
このように,小選挙区選挙と比例代表選挙は,選挙制度としての機能及び選挙の方法が異なる選挙であり,選挙人は,それぞれの選挙において別個の
選挙権を行使するものというべきであって,比例代表選挙の無効を求める訴訟において,小選挙区選挙についての憲法適合性を問題とすることはできないというべきであるから(最高裁平成11年(行ツ)第8号同年11月10日大法廷判決・民集53巻8号1577頁。以下最高裁平成11年大法廷判決という。),原告らの主張は理由がない。


無効理由2(重複立候補制の問題点)について

前提事実⑶のとおり,平成6年法による改正後の公選法86条の2は,比例代表選挙における立候補につき,同条1項各号所定の要件のいずれかを備えた政党その他の政治団体のみが団体の名称と共に順位を付した候補者の名簿を届け出ることができるものとし,上記の名簿の届出をした政党その他の政治団体(衆議院名簿届出政党等)のうち,小選挙区選挙におい
て候補者の届出をした政党その他の政治団体(候補者届出政党)は,その届出に係る候補者を同時に比例代表選挙の名簿登載者とすることができ,両選挙に重複して立候補する者については上記名簿における当選人となるべき順位を同一のものとすることができるという,いわゆる重複立候補制を採用している。


原告らは,重複立候補制について,①重複立候補者が小選挙区選挙で落選しても,比例代表選挙で復活当選することができるなどの点において,選挙人の投票意思をゆがめるものであり,正当な選挙とはいえず,法の下の平等の原則にも反するものとして,憲法前文,43条1項,14条1項,15条3項,44条に違反する,②選挙の時点で候補者名簿の順位
が確定しないから直接選挙とはいえず,憲法43条1項,15条1項,3項に違反する,③重複立候補をすることができる者とできない者,また,候補者届出政党の要件を充足する政党等と同要件を充足しない政党等をいずれも差別的に取り扱うものであり,選挙人の選挙権の十全な行使を侵害するものであって,
憲法15条1項,3項,44条,14条1項,47条,

43条1項に違反する旨主張する。

しかしながら,憲法は,国会の両議院の議員の選挙について,およそ議員は全国民を代表するものでなければならないという制約の下で,議員の定数,選挙区,投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきも
のとし(43条,47条),両議院の議員の選挙制度の仕組みの決定を国会の広い裁量に委ねているのである。このように,国会は,その裁量により,衆議院議員及び参議院議員それぞれについて公正かつ効果的な代表を選出するという目標を実現するために適切な選挙制度の仕組みを決定することができるのであるから,国会が新たな選挙制度の仕組みを採用した場合には,その具体的に定めたところが,上記の全国民の代表という制約や法の下の平等などの憲法上の要請に反するため,上記のような国会の広い裁量権を考慮してもなおその限界を超えており,これを是認することができない場合に,初めてこの具体的な定めが憲法に違反することになるものと解すべきである(最高裁昭和49年(行ツ)第75号同51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁,最高裁昭和54年(行ツ)第65号
同58年4月27日大法廷判決・民集37巻3号345頁,最高裁昭和56年(行ツ)第57号同58年11月7日大法廷判決・民集37巻9号1243頁,最高裁昭和59年(行ツ)第339号同60年7月17日大法廷判決・民集39巻5号1100頁,最高裁平成3年(行ツ)第111号同5年1月20日大法廷判決・民集47巻1号67頁,最高裁平成6年(行ツ)第
59号同8年9月11日大法廷判決・民集50巻8号2283頁及び最高裁平成9年(行ツ)第104号同10年9月2日大法廷判決・民集52巻6号1373頁等参照)。
そして,同時に行われる二つの別個の選挙に同一の候補者が重複して立候補することを認めるか否かは,上記のとおり,選挙制度の仕組みの一つ
として,国会が裁量により決定することができる事項であり,重複して立候補することを認める制度においては,一の選挙において当選人とならなかった者が他の選挙において当選人とされること(復活当選)があり得ることは,当然の帰結であるから,重複立候補制を採用したこと自体が憲法前文,43条1項,14条1項,15条3項,44条に違反するとはいえ
ない(最高裁平成11年大法廷判決)。
また,政党等にあらかじめ候補者の氏名及び当選人となるべき順位を定めた名簿を届け出させた上,選挙人が政党等を選択して投票し,各政党等の得票数の多寡に応じて当該名簿の順位に従って当選人を決定する方式は,投票の結果,
すなわち選挙人の総意により当選人が決定される点において,
選挙人が候補者個人を直接選択して投票する方式と異なるところはない。複数の重複立候補者の比例代表選挙における当選人となるべき順位が名簿において同一のものとされた場合には,それらの者の間では当選人となるべき順位が小選挙区選挙の結果を待たないと確定しないことになるが,結局のところ,当選人となるべき順位は,投票人の総意である投票の結果によって決定されるのであるから,このことをもって,比例代表選挙が直接
選挙に当たらないということはできず,憲法43条1項,15条1項,3項に違反するとはいえない(最高裁平成11年大法廷判決)。
さらに,政策本位,政党本位の選挙制度というべき比例代表選挙と小選挙区選挙とに重複して立候補することができる者が候補者届出政党の要件と衆議院名簿届出政党等の要件の両方を充足する政党等に所属する者に限
定されていることには,政党等が議会制民主主義を支える不可欠の要素であり,国民の政治意思を形成する最も有力な媒体として重要な意義を有することに照らすと,相応の合理性が認められるのであって,不当に立候補の自由や選挙権の行使を制限するとはいえず,これが国会の裁量権の限界を超えるものとは解されない。そして,行うことができる選挙運動の規模
が候補者の数に応じて拡大されるという制度は,衆議院名簿届出政党等の間に取扱い上の差異を設けるものではあるが,選挙運動をいかなる者にいかなる態様で認めるかは,選挙制度の仕組みの一部を成すものとして,国会がその裁量により決定することができるものというべきであり,一般に名簿登載者の数が多くなるほど選挙運動の必要性が増大するという面があ
ることは否定することができないところであって,重複立候補者の数を名簿登載者の数の制限の計算上除外することにも合理性が認められるから,重複立候補をすることができる者とできない者,また,候補者届出政党の要件を充足する政党等と同要件を充足しない政党等の間に選挙運動上の差異が生ずることは,合理的理由に基づくものであって,これをもって国会の裁量の範囲を超えるとはいえず,これが選挙権の十全な行使を侵害するものでないことも明らかである。したがって,上記のような差異を設けた
ことが憲法15条1項,3項,44条,14条1項,47条,43条1項に違反するとはいえない(最高裁平成11年大法廷判決)。


以上のとおり,無効理由2に係る原告らの主張は理由がない。
無効理由3(人口比例配分違反による無効)及び同4(国会による立法不
作為)について

原告らは,平成28年改正法及び平成29年改正法による改正後の公選法13条2項及び同別表第2(本件区割規定)は,比例代表選出議員の定数を各選挙区に対して人口に比例して配分しておらず,違憲無効である旨主張する。

確かに,憲法は,選挙権の内容の平等(投票価値の平等)を要求しているものと解されるから,衆議院議員の選挙につき全国を多数の選挙区に分けて実施する制度が採用される場合には,選挙制度の仕組みのうち定数配分及び選挙区割りを決定するに際し,議員一人当たりの選挙人数ないし選挙区内の人口ができる限り平等に保たれることを,最も重要かつ基本的な
基準とすることが憲法上求められているというべきである。
しかしながら,他面において,憲法は,両議院の議員の選挙について,議員の定数,選挙区,投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるものと規定し(43条2項,47条),国民の利害や意見を公正かつ効果的に国政に反映させるためにどのような選挙制度を採用するかの決定を国
会の広範な裁量に委ねているのであるから,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準となるものではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において,調和的に実現されるべきものである(最高裁昭和49年(行ツ)第75号同51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁等)。したがって,具体的な選挙区を定めるに当たっては,都道府県を細分化した市町村その他の行政区画などを基本的な単位として,
地域の面積,
人口密度,
住民構成,
交通事情,地理的状況などの諸要素を考慮しつつ,国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに,投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが求められているのであって,国会がかかる選挙制度の仕組みについて具体的に定めたところが,上記のような憲法上の要請に
反するため,上記の裁量権を考慮してもなおその限界を超えており,これを是認することができない場合に,初めてこれが憲法に違反することになると解すべきである。
これを本件についてみるに,
本件比例代表選挙における選挙区
(比例区)
間の選挙区内の日本国民の人口の最大較差は,令和2年国勢調査の結果を
基準とした場合,四国選挙区(61万0818人)と東京都選挙区(79万7895人)との間の1対1.306にとどまっていたこと(前提事実⑵)を考慮すれば,本件比例代表選挙に係る本件区割規定は,国会に与えられた裁量権の行使の結果として合理性を有するものといえるから,憲法が要求する投票価値の平等を損なうところがあるとは認められず,憲法に
違反するとはいえない。
原告らは,いわゆる基準人数に基づく主張(日本国民の人口を比例代表選出議員の総定数で除し,その商を基準人数として,人口比例配分原則に反するか否かを論じるもの)をするが,上記において説示したところに照らし,このような基準人数に基づく人口比例配分を実施するか否かも国会
に与えられた裁量権の範囲内にあるというべきであり,無効理由3に係る原告らの主張は理由がない。

上記アのとおり,
本件区割規定が違憲無効であるとは認められないから,
国会がその是正を怠ったこと(立法不作為)を違憲とする原告らの主張はその前提を欠くものであり,
無効理由4に係る原告らの主張も理由がない。



無効理由5(ブロック別配分議員数の不平等)について
原告らは,小選挙区選挙と比例代表選挙は一つの衆議院議員総選挙と考え
るべきであるから,比例区に配分された比例代表選出議員数のみならず,同比例区に含まれる小選挙区選出議員数を合算した議員数(ブロック議員数)についても,11の比例区(ブロック)に,その人口に比例して配分されなければならないところ,本件選挙においては,人口3位の東海ブロック(定数53人)と人口4位の九州ブロック(定数55人)との間で逆転現象が生
じているほか,11のブロックのうち,8のブロック(南関東,東海,九州,東京都,東北,中国,北陸信越及び四国)で,過不足人数が基準人数(平成27年国勢調査による日本国民の人口1億2534万2377人を衆議院議員定数465で除した26万9553人)以上となっており,かかる定数配分規定は違憲無効である旨主張する。

しかしながら,上記⑴において説示したとおり,小選挙区選挙と比例代表選挙は,選挙制度としての機能及び選挙の方法が異なる別個の選挙であり,選挙区割りを異にする二つの別個の選挙の議員定数を一方の選挙の選挙区ごとに合計して当該選挙区の人口と議員定数との比率の平等を問題とすることに合理性があるとはいえない(最高裁平成11年大法廷判決)。

そして,本件比例代表選挙についてみれば,投票価値の平等を損なうところがあるとは認められず,その定数配分や選挙区割りに憲法に違反するところがあるとはいえないことは,上記⑶アにおいて説示したとおりであり,無効理由5に係る原告らの主張は理由がない。


無効理由6(南関東選挙区の区割りについて)及び同7(11ブロック制について)について
原告らは,本件比例代表選挙を11の選挙区(ブロック)に区分けして実施したことにより,多くの死票を出すことになったが,これは比例代表選挙の長所(少数派も多数派と同じように代表を持つこと)を削ぐもので,憲法に反するし,また,南関東選挙区(千葉県,神奈川県,山梨県)については,飛び地である千葉県を他の2県と同じ選挙区に構成する理由はなく,立法裁量権を逸脱するものとして,違憲無効である旨主張する。
しかし,上記⑶アにおいて説示したとおり,憲法は,両議院の議員の選挙について,議員の定数,選挙区,投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるものと規定し(43条2項,47条),どのような選挙制度を採用
するかの決定を国会の広範な裁量に委ねているところ,平成6年法により改正された公選法が全国を11に分けた広域のブロックを比例代表選挙の選挙区としたのは,
①全国を単位とした場合には候補者数が余りにも膨大になり,他方,都道府県を単位とした場合には比例代表制の趣旨が生かされないこととなること,②今日では行政を始め経済その他の面において都道府県を超え
た広域的な結び付きがみられ,今後,更に国民の生活圏の拡大が予想されることなどを考慮したことによるものであり,このように定められた各選挙区の定数は,人口比例により配分されたものというべきである(乙2,3)。したがって,本件比例代表選挙を11の選挙区(ブロック)に区分けして実施したことには合理性があり,国会に与えられた上記裁量権の範囲を逸脱す
るものとは認められない。
さらに,千葉県,神奈川県及び山梨県は,関東甲信越地域として行政,司法上同一の区分に分類されることがあり,地理的に近接し,海上を含む交通上のつながりもあり,いずれも東京都に隣接する地域として共通していること(当
裁判所に顕著な事実)
を考慮すれば,これら3県を同一ブロックとして南関東

選挙区としたことについても,国会に与えられた裁量権の行使として合理性を欠くものとは認められない。
したがって,無効理由6及び同7に係る原告らの主張も理由がない。第4

結論
よって,原告らの請求は理由がないから,いずれも棄却することとして,主文のとおり判決する。

東京高等裁判所第9民事部

裁判長裁判官

小出邦夫
裁判官

鈴木和典
裁判官

佐木健二々
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