判例検索β > 令和1年(ワ)第10829号
意匠権侵害差止等請求事件 意匠権 民事訴訟
事件番号令和1(ワ)10829
事件名意匠権侵害差止等請求事件
裁判年月日令和4年2月10日
法廷名大阪地方裁判所
全文全文添付文書1添付文書2添付文書3添付文書4添付文書5
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-02-10
情報公開日2022-03-26 04:00:26
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令和4年2月10日判決言渡
令和元年(ワ)第10829号
口頭弁論終結の日

同日判決原本交付

裁判所書記官

意匠権侵害差止等請求事件

令和3年11月12日
判決
原告
同訴訟代理人弁護士

希世士

辻󠄀本

良知


松田

さとみ

同補佐人弁理士

丸山

英之

被告

オーサム株式会社

同訴訟代理人弁護士

古庄

俊哉


杉野

文香


辻󠄀本


株式会社満天社

岩﨑

翔太

主1文
被告は、別紙物件目録記載1及び2の物件を製造し、販売し、輸入し、又は
販売の申出をしてはならない。
2
被告は、前項記載の物件を廃棄し、その製造に必要な金型を除去せよ。
3
被告は、原告に対し、703万9732円並びにうち22万1446円
に対する平成28年12月3日から支払済みまで年5%の割合による金員、うち544万7475円に対する令和2年4月1日から支払済みまで年5%の割合による金員、及びうち137万0811円に対する令和3年4月1日から年3%の割合による金員を支払え。
4
原告のその余の請求をいずれも棄却する。

5
訴訟費用は、これを15分し、その4を原告の負担とし、その余は被告の負
担とする。
6
この判決は、第3項に限り、仮に執行することができる。

第1

実及び理由
請求

1
主文第1項及び第2項と同旨

2
被告は、原告に対し、1519万8564円並びにうち67万1916
円に対する平成28年12月3日から支払済みまで年5%の割合による金員、うち1058万2315円に対する令和2年4月1日から支払済みまで年5%の割合による金員、及びうち394万4333円に対する令和3年4月1日から支払済みまで年3%の割合による金員を支払え。
第2
1
事案の概要
本件は、意匠に係る物品をそれぞれ頭部マッサージ具及び指マッサージ器とする各意匠権(以下、前者を本件意匠権1、後者を本件意匠権2といい、両者を併せて本件各意匠権という。また、本件各意匠権に係る意匠をそれぞれ本件意匠1などといい、両者を併せて本件各意匠という。)を有する原告が、被告の製造、販売、輸入等に係る別紙物件目録記載の各製品(以下、同別紙記載1及び2の各製品をそれぞれ被告製品1などといい、両者を併せて被告各製品という。)の意匠は本件各意匠にそれぞれ類似するなどとして、被告に対し、以下の請求をする事案である。

(1)差止及び廃棄請求
本件各意匠権に基づく被告各製品の製造、販売、輸入等の差止(意匠法(以下法という。)37条1項)並びに被告各製品の廃棄及びその製造に必要な金型の除去(同条2項)
(2)損害賠償請求

被告の各行為のうち、平成28年12月3日以降のものにつき、本件各意匠権侵害の不法行為(民法709条)に基づく●(省略)●の損害賠償及びこれに対する
不法行為後の日である令和2年4月1日から支払済みまで平成29年法律第44号による改正前の民法(以下改正前民法という。)所定の年5%の割合による遅延損害金及並びに●(省略)●の損害賠償及び令和3年4月1日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の支払
(3)不当利得返還請求
被告の各行為のうち、平成27年10月~平成28年12月2日の間のものにつき、本件意匠権1に係る不当利得(民法703条、704条)に基づく返還請求及びこれに対する利得後の日である平成28年12月3日から支払済みまで改正前民法所定の年5%の割合による遅延利息の支払

2
前提事実(争いのない事実、後掲の証拠及び弁論の全趣旨より容易に認定で
きる事実。なお、枝番号のある証拠で枝番号の記載のないものは全ての枝番号を含む。)
(1)当事者
原告は、美容製品の製造販売等を業とする株式会社である。
被告は、生活雑貨品の製造輸入販売等を業とする株式会社である。(2)本件各意匠権
原告は、以下の各意匠権(本件各意匠権)を有する。

本件意匠権1

登録番号
出願日

平成20年3月6日(以下本件出願日1という。)

登録日

平成20年9月12日

意匠に係る物品

頭部マッサージ具

図面

意匠登録第1341897号

別紙意匠公報(上記登録番号のもの)記載の図面(以下本件図面1という。)のとおり(本件図面1中、紫色で示された部分以外の部分が部分意匠として登録を受けた部分である。)

本件意匠権2

登録番号
出願日

平成19年2月2日(以下本件出願日2という。)

登録日

平成19年9月28日

意匠に係る物品
意匠登録第1313704号

指マッサージ器

図面

別紙意匠公報(上記登録番号のもの)記載の図面(以下本件図面2という。)のとおり(本件図面2中、実線で表した部分が部分意匠として意匠登録を受けた部分である。)
(3)被告の行為等

被告は、遅くとも、被告製品1については平成27年10月以降、被告製品
2については令和元年8月以降、それぞれ製造、輸入、販売している(ただし、後記のとおり、被告各製品の販売の終期については当事者間に争いがある。)。イ
被告各製品の形態は、それぞれ、別紙被告製品1の構成及び被告製品2の構成のとおりである(以下、被告各製品の意匠をそれぞれ被告意匠1などといい、両者を併せて被告各意匠という。)。

被告製品1は本件意匠1に係る物品である頭部マッサージ具に、被告製
品2は本件意匠2に係る物品である指マッサージ器に、それぞれ相当する。すなわち、被告各製品の意匠(被告各意匠)に係る物品と本件各意匠に係る物品は、それぞれ同一である(弁論の全趣旨)。
3
争点

(1)本件意匠権1について

本件意匠1と被告意匠1の類否(争点1)


無効理由の有無(争点2)

(2)本件意匠権2について
本件意匠2と被告意匠2の類否(争点3)
(3)原告の損害額ないし損失額(争点4)
第3

当事者の主張

1
本件意匠1と被告意匠1の類否(争点1)

〔原告の主張〕
(1)本件意匠1の構成態様
本件意匠1の構成態様は、別紙本件意匠1の構成態様の原告の主張欄記載のとおりである。
(2)被告意匠1の構成態様
被告意匠1の構成態様は、別紙被告意匠1の構成態様の原告の主張欄記載のとおりである。
(3)本件意匠1と被告意匠1の対比

本件意匠1と被告意匠1とを対比すると、基本的構成態様A1とa1、具体的構成態様C1及びD1とc1及びd1の全てにおいて共通する。
(4)本件意匠1の要部

本件意匠1の需要者は頭部をマッサージする者であるところ、頭部に対する
マッサージは、本件意匠1が部分意匠として特定された箇所によって施される。このことに鑑みれば、本件意匠1の要部は、当該箇所から感得される全体を大掴みした形状を中心に特定されるべきである。
また、本件意匠1の需要者は、頭部マッサージ具において、腕に余計な力を入れずとも地肌に力が届き、爪が長くても頭皮を傷つけることなく程よい力加減でマッサージでき、あたかも人の手でマッサージされているような感覚であることなどに
着目しているところ、このような作用効果は、本件意匠1の基本的構成態様A1、具体的構成態様C1及びD1の配置ないし組合せにより実現することが企図されている。したがって、頭部マッサージ具の需要者は、これらの各部材ないし形状等の配置ないし組合せに特に注意を惹かれるといえる。すなわち、本件意匠1では、人の手と同じように熊手状に分岐させつつ緩やかに湾曲させた5本の枝部により、腕
に余計な力を入れなくても地肌に程良い力を届け、人の手でマッサージされているような感覚を実現しつつ、同枝部の先端に形成された各涙滴状部により使用者の頭
皮を傷つけることなく頭部を程よく刺激できるように形成されており、このような形状を備えることにより、中央の枝部を中心にシンメトリックに配置された5本の枝部が基端から先端に至るまで緩やかな曲線により形成されることで柔らかく軽やかで優美な印象(美感)を看者に与える。
したがって、本件意匠1においては、基本的構成態様A1、具体的構成態様C1及びD1の配置ないし組合せが要部とされるべきである。

被告指摘に係る公知意匠について

被告指摘に係る登録実用新案第3041384号公報(乙2。以下乙2文献という。)記載の意匠(以下乙2意匠という。)及び米国特許公報(US6,994,680B1。乙3。以下乙3文献という。)記載の意匠(以下乙3意匠という。また、これと乙2意匠を併せて本件公知意匠1という。)は、いずれも背中など手の届かない身体の箇所を掻くために用いられる孫の手であり、本件意匠1とは物品において同一ではなく、類似もしていない。同一でも類似でもない物品の形状から意匠の要部を認定することは認められないから、本件公知意匠1は、本件意匠
1の要部を認定する上で参酌されるべきではない。そうすると、本件意匠1の出願前にはその要部を特定する上で参酌されるべき公知意匠は存在しなかったことになるから、その要部を殊更に限定して特定すべきではない。
仮に本件公知意匠1の構成態様を踏まえたとしても、乙2意匠は基端から伸びる5本の枝部が板状であって柄の長手方向に沿って同じように湾曲しながら伸びて先
端にて丸まった形状をしている。また、乙3意匠は人間の指を模した5本の枝部が基端から伸びる形状をしているに過ぎない。このため、本件公知意匠1は、本件意匠1のような美感を想起させることもない。

被告指摘に係る後願意匠について

本件意匠1の要部の認定が出願後の意匠により影響されることはない。また、被告指摘に係る意匠登録第1516211号公報(乙4。以下乙4文献という。)記載の意匠(以下乙4意匠という。)は、先端に金属球を備える点に
大きな特徴があり、枝部の先端において涙滴状に膨らんで形成されているとは評価できないし、先端に金属球を備えるという別の構成によって登録が認められたと解される。
意匠登録第1551631号公報(乙5。以下乙5文献という。)記載の意匠(以下乙5意匠という。また、これと乙4意匠を併せて本件後願意匠という。)は、人体の手を模したものであり、枝部の基端から先端まで熊手状になっているとは評価できないし、枝部の先端において涙滴状に膨らんで形成されている態様も見られない。したがって、仮に本件意匠1の要部の認定に際して本件後願意匠を参酌するとしても、基本的構成態様A1、具体的構成態様C1及びD1の態様が本
件意匠1の要部と特定されることに変わりはない。

被告のその余の主張について

本件意匠1の実施品である原告の製品(以下原告製品1という。)を需要者が実際の店舗等で見かけた場合、本件図面1の斜視図(1)等のような斜め方向から見た立体的な形状を認識し、一の側面から注視することはおよそないところ、被告指摘に係る具体的構成態様C1-2及びE1-2は、需要者が斜め方向からみた立体的形状において認識できないものであるため、需要者の注目の程度は低く、また、当業者が長時間注視してようやく認識できる程度の形態である。数百円から1000円前後で販売される日用品である頭部マッサージ具の需要者が、それほどまでに詳細な形状に注目することはあり得ない。

(5)本件意匠1と被告意匠1の類否
前記(3)のとおり、被告意匠1は、基本的構成態様及び具体的構成の全てにおいて本件意匠1と共通することから、要部において共通し、本件意匠1と類似する。仮に本件意匠1と被告意匠1の構成態様において被告指摘に係る差異点があるとしても、当該差異点は、いずれも頭部マッサージ具の作用効果等と関連性を有しな
い形状に関するものである。また、需要者は、本件意匠1及び被告意匠1に係る物品を斜め上方向から見た立体的な形状として認識するところ、当該差異点は、需要
者には斜め方向から見た立体的な形状において捉えづらい態様である。このため、当該差異点は、いずれも需要者が特に注意を払うものではなく、本件意匠1と被告意匠1の共通性の中に埋もれる程度の微差であって、全体的な美感に影響を及ぼすものではない。
〔被告の主張〕
(1)本件意匠1の構成態様
本件意匠1の構成態様は、別紙本件意匠1の構成態様の被告の主張欄記載のとおりである。
本件意匠1に係る物品は頭部マッサージ具であることから、需要者は、頭部
へのマッサージ効果に影響をもたらす枝部の形状に注目するといえる。また、涙滴状部を含む枝部の形状は一見して明らかである。したがって、本件意匠1を大掴みに把握すると、構成態様A1-2及びB1-2をもって基本的構成態様として特定されるべきである。
さらに、枝部の湾曲の程度が枝部によって異なることは本件図面1の平面図から
一見して明らかであり、その結果、各涙滴状部が全体として弧を描くように配置されていることも、左右各側面図から容易に理解できる。また、正面図からは、枝部が外側に広がるように湾曲しているだけでなく、各涙滴状部が等間隔に並んでいること、その距離が涙滴状部約2個分であることが把握される。したがって、構成態様C1-2~E1-2をもって具体的構成態様として特定すべきである。
(2)被告意匠1の構成態様
被告意匠1の構成態様は、別紙被告意匠1の構成態様の被告の主張欄記載のとおりである。
(3)本件意匠1と被告意匠1の対比
本件意匠1と被告意匠1は、基本的構成態様においてはいずれも共通しているが、
具体的構成態様に共通点はなく、以下の差異点のみが存在する。

差異点1-1

本件意匠1は、中央の枝部を中心として外側になるにつれてより熊手状に湾曲するように形成されている。すなわち、本件意匠1は、平面視において、中央の枝部からひとつ外側にある2つの枝部が中央の枝部に比して僅かに熊手状に湾曲し、最も外側にある2つの枝部が中央部のひとつ外側にある枝部に比してさらにきつく熊手状に湾曲し、その結果、各側面視において、各枝部の先端にある各涙滴状部が全体として弧を描くように配置されている。
これに対し、被告意匠1における各枝部は、揃って熊手状に湾曲し、その湾曲の程度に差がない。その結果、各側面視において、各枝部の先端にある各涙滴状部は全体として直線状に配置されている。


差異点1-2

正面視において、本件意匠1の中心の枝部はほぼ直線状にまっすぐ延び、その各隣の枝部は外側に広がるように湾曲しており、一番外側の各枝部はさらにきつく外側に広がるように湾曲している。
これに対し、被告意匠1の中心の枝部はほぼ直線状にまっすぐ延びているものの、その各隣の枝部は外側に広がるように僅かに湾曲し、一番外側の各枝部はきつく外側に湾曲している。また、一番外側の各枝部は、先端から3分の1のところで大きく湾曲し、内側に入り込んでいる。

差異点1-3

正面視において、本件意匠1の各涙滴状部は涙滴状部約2個分離れているのに対し、被告意匠1は涙滴状部約1個分離れているにとどまる。
(4)本件意匠1の要部

需要者が注意を惹かれる部分

本件意匠1に係る物品は頭部マッサージ具であり、その需要者としては、頭部をマッサージするために頭部マッサージ具を購入する顧客が想定される。頭部マッサージ具の用途や使用態様からすると、需要者は、本件意匠1のうち頭部に触れる部分である枝部や涙滴状部の形状、中でも、頭部へのフィット感を左右する要素であ
る枝部の湾曲具合や涙滴状部の配置に注目する。本件意匠1の実施品である原告製品1つき、原告は、そのパッケージの記載や原告の運営するウェブサイト(以下原告サイトという。)での表示において、ヘッドラインに沿ったマッサージができる形状として、湾曲された枝部の先端に形成された涙滴状部が弧を描くように配置されていることをアピールしている。需要者も、原告製品1のこのような形状を評価している。
高価ではない日用品の需要者にとっても、製品のデザインは重視されており、製品デザインを詳細に観察することは十分に想定し得る。

公知意匠等

孫の手は、一般的には背中等の手の届かないところを掻くために用いる器具であるものの、頭皮等をマッサージする器具としても使用できる。
乙2文献の図1及び図2に示される孫の手の形状(乙2意匠)は、先端が5本に分かれ櫛状となっており、基端から先端までが熊手状に湾曲し、先端部は丸みを帯びている。また、乙3文献の図1に示される孫の手の形状(乙3意匠)は、人間の
右手を象った装置を棒に取り付けた構成であり、基端から5本に分岐した指に見立てた棒がついている。
これらの本件公知意匠1は、いずれも本件意匠1の意匠登録出願前に公知になった意匠であるところ、本件意匠1のうち、基端から5本に分岐した丸棒状の枝部を有する形状と5本に分岐した枝部を基端から先端まで熊手状に湾曲させる形状は、
これらの本件公知意匠1により公知な形状である。元来、マッサージは人の手によってなされていたところ、頭部を掻く等のマッサージを施す場合には、丸棒状で5本に分岐した手指を熊手状に曲げることが多い。本件公知意匠1の形状は、このような人間の手指に合わせて創作されたものといえ、ありふれた形状に過ぎず、需要者の関心を強く惹く部分ではないから、この形状は本件意匠1の要部ではない。
このことは、本件後願意匠が、基端から5本に分岐した丸棒状の枝部について基端から先端まで熊手状に湾曲させる形状において共通するにもかかわらず意匠登録されたことからもうかがわれる。なお、乙4意匠について、金属球に特徴があることと上記形状がありふれた形状であることとは矛盾しない。

本件意匠1の要部

以上より、本件意匠1の要部は、基本的構成態様B1-2及び具体的構成態様C1-2~E1-2である。
(5)本件意匠1と被告意匠1の類否

共通点について

本件意匠1と被告意匠1の共通点のうち、基端から5本に分岐した丸棒状の枝部を基端から先端まで熊手状に湾曲させて形成されている点(基本的構成態様A1-2とa1-2)は、本件公知意匠1にも見られるありふれた形状であり、本件意匠1の要部ではない。
また、枝部の先端に涙滴状に膨らんだ涙滴状部が形成されている点(基本的構成態様B1-2とb1-2)についても、身体に触れる部分につき丸みを帯びた形状を採用した公知意匠は存在し(乙2意匠)、涙滴状部を設けて先端に丸みを持たせた
こと自体珍しいことではない。さらに、本件意匠1において、涙滴状部の幅は枝部の幅とほとんど同じであるため、涙滴状部が目立つことはなく、需要者の関心を強く惹くこともない。

差異点について

(ア)差異点1-1
差異点1-1は、本件意匠1の要部である具体的構成態様C1-2に関するものであり、本件意匠1と被告意匠1は、枝部の熊手状の湾曲の程度が大きく相違する。需要者は、頭部に触れる部分である枝部及び涙滴状部の形状に注目するところ、各枝部の湾曲具合が異なる場合と揃っている場合とでは、頭部に触れる箇所や施術範囲が変わってくるため、そのような形状の差異は需要者に対し異なった印象を与
える。また、各涙滴状部の配置態様について、弧を描くように配置する場合と直線状に配置する場合とでは各涙滴状部の描く図形が異なるため、需要者に与える美感は全く異なる。
(イ)差異点1-2
差異点1-2は、本件意匠1の要部である具体的構成態様D1-2に関するものである。正面視にて、本件意匠1における中央の枝部の外側の各枝部は大きく外側に広がるように湾曲しているのに対し、被告意匠1においては、中央の枝部の1つ外側の各枝部は僅かしか湾曲せず、一番外側の各枝部は、きつく外側に湾曲するものの、先端から3分の1のところで大きく湾曲し内側に入り込んでいる。被告意匠1のこの一番外側の各枝部の形状は非常に独特のものであり、本件意匠1に比して横幅が狭く纏まった印象を与えることから、需要者にとって美感が大きく異なる。
(ウ)差異点1-3
差異点1-3は、本件意匠の要部である具体的構成態様E1-2に関するものであるところ、これにより、被告意匠1は本件意匠1よりも横幅が狭く纏まった印象を与え、正面視においても横幅が異なることから、両意匠の美感は全く異なる。(エ)本件意匠1と被告意匠1の形状の違いは、頭部にマッサージ効果を与える方
法が本件意匠1に係る物品(原告製品1)と被告製品1とで異なることに由来する。すなわち、原告製品1は、柄の部分を手で持ち、本件意匠1に係る部分を頭部のラインに沿って動かすことで、頭部の広い範囲をマッサージすることを想定し、頭部のラインに沿うように涙滴状部を弧型に配置し、その間隔も広くとっている。他方、被告製品1は、電源を入れることで枝部が振動する構造になっており、頭部の特定
の箇所に当てて振動させることでピンポントにマッサージをすることを想定し、頭部のラインに沿わせることをそもそも想定しておらず、振動を均一に伝えるという観点から枝部の湾曲具合や涙滴状部の配置を揃えている。

小括

以上のとおり、本件意匠1と被告意匠1は、基本的構成態様において共通するものの、具体的構成態様において差異点が複数存在し、それらは全て需要者の注意を強く惹く要部に関するものであり、それぞれ需要者に全く異なる印象を与える。両意匠の共通点である基本的構成態様は、要部ではないか、少なくとも需要者の関心を強く惹くものではなく、差異点から受ける印象を凌駕するものではない。したがって、被告意匠1は本件意匠1と類似しない。
2
無効理由の有無(争点2)

〔被告の主張〕
本件意匠1の実施品である原告製品1は、ECサイト(Amazon.co.jp。以下本件サイトという。)において取扱い開始日が2007/12/10と表示されている(以下本件表示という。)とおり、本件出願日1(平成20年3月6日)よりも前の平成19年12月10日より本件サイトでの取扱いが開始されている。この
ため、本件意匠1は、意匠登録出願前に日本国内において公然知られた意匠(法3条1項1号)として新規性を喪失している。
したがって、本件意匠権1に係る意匠登録は、法3条1項1号に違反してされたものとして無効審判により無効にされるべきものであるから(法48条1項1号)、原告は、被告に対し、本件意匠権1を行使することができない(法41条、特許法
104条の3第1項)。
〔原告の主張〕
(1)原告製品1の初回販売日
原告製品1は、本件出願日1より前の平成19年12月10日に販売されたものではない。

原告製品1は、平成19年10月26日にデザインの原案が創作され、平成20年3月4日にこれに用いられる樹脂原料が決定し、また、同月頃に金型が完成すると共に、パッケージ台紙用の木型が発注され、本件出願日1より後の平成20年3月27日に初回分が販売されたものである。
(2)本件サイトの表示について

原告製品1は、本件サイトにおいて多数の出品者を通じて販売されているところ、本件サイトの取り扱い開始日は、出品者が商品登録画面の販売開始日欄に任意に入力した日付が表示されるため、真実の販売開始日が表示されるとは限らない。入力の誤りや入力する業者側の事情等により取り扱い開始日欄に真実の販売開始日が表示されないことは十分にあり得る。
3
本件意匠2と被告意匠2の類否(争点3)

〔原告の主張〕
(1)本件意匠2の構成態様
本件意匠2の構成態様は、別紙本件意匠2の構成態様の原告の主張欄記載のとおりである。
(2)被告意匠2の構成態様

被告意匠2の構成態様は、別紙被告意匠2の構成態様の原告の主張欄記載のとおりである。
(3)本件意匠2と被告意匠2の対比
本件意匠2と被告意匠2とを対比すると、基本的構成態様A2とa2、具体的構成態様E2及びK2とe2及びk2の全てにおいて共通する。

(4)本件意匠2の要部

要部

本件意匠2の需要者は指部をマッサージする者である。需要者は、柄を把持し、略棒状で一対の支持部を設けた箇所の先端に設けられた車輪状の部材等によってマッサージを行う。このことに鑑みれば、本件意匠2の要部は、本件図面2のうち破線で示された箇所を除く部分から感得される全体を大掴みした形状を中心に特定されるべきである。
また、本件意匠2の需要者は、指マッサージ器における指の挟みやすさ、柄のつまみやすさ、柄をつまんだ力の指への伝わりやすさ、力加減のしやすさ及び人の手でマッサージされるのとは全く異なる心地良さなどの作用効果に注目し、無意識的
にこのような作用効果に関連する構成態様へと意識を向ける。このような作用効果は、基本的構成態様A2、具体的構成態様E2及びK2を組み合わせた総合的な構造等により実現することが企図されている。したがって、需要者は、これらの各部材ないし形状等の総合的な構成態様等に特に注意を惹かれるといえる。したがって、基本的構成態様A2と具体的構成態様E2及びK2を組み合わせた総合的な構造等が本件意匠2の要部である。

公知意匠について

被告指摘に係る意匠登録第1291048号公報(乙10。以下乙10文献という。)記載の意匠(以下乙10意匠という。)及び意匠登録第1286474号公報(乙11。以下乙11文献という。)記載の意匠(以下乙11意匠という。また、これと乙10意匠を併せて本件公知意匠2という。)は、それぞれ顔や首をマッサージするために用いられる美容用ローラーであり、本件意匠2に係る物品である指マッサージ器とは用途・機能・効能が異なるから、物品において同一でもなく類似もしない。また、本件公知意匠2は、その性質上、指マッサージ器より大きく、需要者が指マッサージ器と見比べるものでもない。これらの事情から、本件公知意匠2は、本件意匠2の要部を認定する上で参酌されるべきではない。そ
うすると、本件意匠2の出願前には本件意匠2の要部を特定する上で参酌されるべき公知意匠は存在しなかったことになるから、その要部を殊更に限定して特定すべきではない。
仮に本件公知意匠2の各構成態様を踏まえたとしても、乙10意匠は、角が丸い平板状の柄の一端から、先端にてローラーを挟持する棒状の支持部2本が一対とし
て緩やかに対称に湾曲しながら伸びている態様をしており、乙11意匠は、棒状でU字状に形成された柄の一端から、先端にてローラーを支持する棒状の支持部2本が一対として緩やかに対称に湾曲しながら伸びている態様をしているに過ぎない。このため、本件意匠2の基本的構成態様A2並びに具体的構成態様E2及びK2は、本件公知意匠2には見られず、また、本件意匠2に係る美感を想起させることもな
い。したがって、仮に本件意匠2の要部の認定に当たり本件公知意匠2を参酌するとしても、需要者は、これらの態様に注意が惹かれ、強く印象に残る。ウ
後願意匠について

本件意匠2の要部の認定が出願後の意匠により影響されることはない。また、被告指摘に係る意匠登録第1396724号公報(乙23。以下乙23文献という。)記載の意匠(以下乙23意匠という。)は、吊下げ紐等を挿通する透孔を形成した柄の形状に特徴があるとされているところ、本件意匠2にそのような透孔は存在しないことから、このような透孔の存在により意匠登録を受けたものである。加えて、柄と支持部の形状も、本件意匠2とは異なる。このように、乙23意匠は本件意匠2の構成態様とは異なる。

その余の被告の主張について

本件意匠2は図面としてその形態を表しているため、被告指摘に係る支持部の内側部分の略V字状のくぼみ及びそれに関連する稜線や傾斜面が現物以上に強調されて視認される。しかし、本件意匠2の実施品(以下原告製品2という。また、これと原告製品1を併せて原告各製品という。)を実際の店舗等で見たとき、需要者は、斜め方向から見た立体的な形状として認識するところ、その場合、それ
らの態様は視認しにくくなる。
また、被告が要部と主張する各構成態様は、全て柄や支持部の極めて微細な形状に着目するものであり、いずれも指マッサージ器の需要者が特に注目している作用効果と何ら関連性を有するものではなく、また、当業者が長時間注視してようやく認識できる程度の形態であり、数百円から1000円前後で販売される日用品であ
る指マッサージ器の需要者がそれほどまでに詳細な形状に着目することはあり得ない。
(5)本件意匠2と被告意匠2の類否
前記(3)のとおり、被告意匠2は、基本的構成態様及び具体的構成の全てにおいて本件意匠2と共通することから、要部において共通する。さらに、本件意匠2の
支持部の柄が先端側において二股に分岐して並走する態様(基本的構成態様A2)は、本件公知意匠2と比較しても本件意匠2及び被告意匠2にしか見られない特有の形状であり、被告も、その運営管理する通販サイト(以下被告サイトという。)において、被告製品2のうち、柄より先端側において平面視にて二股に分岐し並走する略棒状で一対の支持部を、積極的に需要者に視認されやすいように手前側に配置しており、そのような支持部が需要者の注意を強く惹いている。以上のとおり、本件意匠2と被告意匠2は、その共通点が指マッサージ器の要部であり、また、略U字状の板状の柄のそれぞれの先端側において、略棒状の支持部が二股に分岐してやや大きく外側に膨らんで湾曲し対をなして形成されることで機能的で洗練されながらも穏やかで優しい印象を看者に与え、需要者に共通の美感を想起させるものである。このため、仮に被告指摘に係る差異点があるとしても、そ
の差異点は両意匠の共通性の中に埋もれる程度の微差であり、全体的な美感に影響を及ぼすものではない。
したがって、被告意匠2は、本件意匠2と類似する。
〔被告の主張〕
(1)本件意匠2の構成態様

本件意匠2の構成態様は、別紙本件意匠2の構成態様の被告の主張欄記載のとおりである。
平面視における支持部の形状は、手持ち部側から先端に向かうにつれて細くなっており、単なる略棒状ではない。また、平面視において支持部に大きなくぼみが設けられており、本件意匠2の全体的な骨格として、くぼみが基本的構成態様として
特定されるべきである。
さらに、平面視にて把持部に略V字状の同くぼみが存在することは一見して明らかであること、支持部内縁の空洞が需要者にとって美感に影響を与える構成であることから、これらの形状も具体的構成態様として特定されるべきである。(2)被告意匠2の構成態様

被告意匠2の構成態様は、別紙被告意匠2の構成態様の被告の主張欄記載のとおりである。
平面図における支持部の内縁が略U字状であること及び略棒状の一対の支持部の太さが略一定であることは、基本的構成態様として特定されるべきである。また、原告主張に係る具体的構成態様は、被告意匠2を正面視にて観察したときの外縁を特定しているに過ぎず、極めて不十分であり、特に、支持部内縁側の空洞は一見して明らかであり、被告意匠2全体に占める比率が大きいことから、具体的構成態様として特定されるべきものである。
(3)本件意匠2と被告意匠2の対比

共通点

本件意匠2と被告意匠2は、基本的構成態様につき、A2-2及びB2-2とa2-2及びb2-2が共通すると共に、C2-2とc2-2のうち、把持部に、二股に分岐した略棒状の一対の支持部を有する点が共通する。
また、具体的構成態様につき、D2-2及びE2-2とd2-2及びe2-2のうち、手持ち部の板状の形状は、平面図において、把持部側が最も太く中間部にかけて緩やかに幅が狭くなり、正面図において、把持部側から緩やかに内側に向かって湾曲してい
る点と、G2-2とg2-2のうち、支持部の外縁は、平面図において、手持ち部側から把持部の中間部にかけて緩やかに外側に広がった後、中間部から支持部の先端にかけて緩やかに内側に湾曲している点が共通する。

差異点

本件意匠2と被告意匠2には、以下の差異点がある。このうち、差異点2-1及び2-2は基本的構成態様に関するもの、その余は具体的構成態様に関するものである。
(ア)差異点2-1
本件意匠2は、支持部の内側部分に、略V字状のくぼみを備えているのに対し、被告意匠2は、支持部の内側部分にそのようなくぼみが設けられていない(C2-2
の一部)。
(イ)差異点2-2
本件意匠2の略棒状の支持部は手持ち部から先端に向かうにつれて細くなるのに対し、被告意匠2は略一定の太さである(C2-2とc2-2の一部)。(ウ)差異点2-3
本件意匠2の手持ち部の板状の形状は、平面図において、中間部から末端にかけて極めて緩やかに幅が広くなっており、正面図において、末端が略半円状に形成されている。これに対し、被告意匠2の手持ち部の板状の形状は、平面図において、中間部から末端に至るまで幅が一定であり、正面図において、末端が略コ字状に形成されている(D2-2及びE2-2とd2-2及びe2-2の各一部)。(エ)

差異点2-4

正面図から見た略U字状の手持ち部の厚さにつき、本件意匠2は概ね平面図から見た板状の手持ち部の幅の3分の1から2分の1程度であるのに対し、被告意匠2は、5分の1から4分の1程度である(F2-2とf2-2)。
(オ)

差異点2-5

本件意匠2の支持部の内縁は、平面図において、先端から手持ち部側に向かうにつれて大きく窄まり、略V字状であるのに対し、被告意匠2の支持部の内縁は、平面図において、手持ち部側部分において緩やかに窄まり、略U字状である(G2-2とg2-2の一部)。
(カ)

差異点2-6

本件意匠2の支持部の内側部分に略V字状に形成されたくぼみは、先端部から手持ち部側にかけて徐々に幅が広くなるよう形成されているのに対し、被告意匠2の支持部の内側部分には、くぼみは存在しない(H2-2とh2-2)。(キ)差異点2-7
支持部の断面図につき、本件意匠2は角丸四角形からくぼみ部分が欠けた形状となっているのに対し、被告意匠2は、やや縦が長く角が少し丸みを帯びた長方形状
になっている(I2-2とi2-2)。
(ク)差異点2-8
平面図における一対の支持部の間につき、本件意匠2は、全体の長手方向の長さの約7分の2にわたる空洞となっているのに対し、被告意匠2は、約2分の1にわたる空洞となっている(J2-2とj2-2)。
(4)本件意匠2の要部

需要者が注意を惹かれる部分

本件意匠2に係る物品は指マッサージ器であるから、その需要者は指マッサージ器の使用者である。片手で指マッサージ器を持ち、もう片方の手の指をローラーに挟む方法でマッサージするという指マッサージ器の通常の使用態様に鑑みれば、需要者は、同器具につき、指を挟むローラーの把持部の平面図側及び斜視図側から常に視認することとなる。そうすると、需要者は、平面図において支持部の内側部分に大きくV字状のくぼみを設けたユニークなデザインに目を奪われることになる。また、上記使用態様からは、マッサージしている指に適切な力を加えることができるかという観点やつかみやすさの観点から、平面図や斜視図における全体的なバランスや厚みに目を奪われるといえる。現に、原告も、需要者に対し、斜め平面視か
ら胴長の実施品の全体を示すと共に、くぼみが存在する把持部部分の形状を強調する態様で宣伝広告をしており、また、通販サイトや原告製品2等の使用者の商品紹介ブログにおいても同様の表示がされている。
他方、本件意匠2の平面図において一対の支持部がローラーを両端から挟むような形状をしている点は、指マッサージ器のローラーを回転させるという機能上必要
な形態であって、公知意匠にも見られるありふれた形態であり、特に需要者の注意を強く惹くものとはいえない。
指マッサージ器のような高価でない日用品の需要者にとっても製品のデザインは重視されており、製品デザインを詳細に観察することは十分に想定し得る。イ
公知意匠等

乙10意匠に係る物品は素肌マッサージ用美容ローラー、乙11意匠に係る物品は顔用マッサージローラーであって、本件公知意匠2の用途はいずれもマッサージである。また、その使用態様は、片手でマッサージ器を持ち、顔をローラーで挟むというものであって、本件意匠2とは、ローラーで挟む対象が指か顔かという点に違いがあるのみである。したがって、本件公知意匠2に係る物品は、本件意匠2に係る物品である指マッサージ器と類似する。
乙10意匠においては、ローラーは2つ備えられ、各々が一対の支持部によりその両端を把持されている。また、支持部の外縁は、平面図において、手持ち部側から中間部にかけて外側に広がっており、支持部の内縁が、先端から手持ち部側に向かうにつれて大きく窄まっている。
乙11意匠は、全体がローラーを把持する本体であって、実際に手で掴む手持ち部とローラーを把持する把持部とからなる。このうち手持ち部は、正面図において、略U字状にくびれを加えた形状をしている。
以上によれば、全体がローラーを把持する本体であって、実際に手で掴む手持ち部とローラーを把持する把持部とからなる形状は公知な形状であるから、このような形状は、本件意匠2の要部とは評価できない。また、ローラーを2つ備
え、各々の両端を略棒状の一対の支持部により把持する形状も公知な形状であるから、本件意匠2の要部とはいえない。さらに、正面図において、略U字状の形状はありふれた形状であるし、手持ち部がくびれた形状自体もありふれたものであるから、正面図において、手持ち部が略U字状となっていることも、本件意匠2の要部ではない。


後願意匠

乙23意匠は、本件意匠2と比較した場合、平面視(乙23意匠における正面図側)において支持部の内側部分にくぼみが存在しない点が大きく相違し、これにより両意匠は美感を異にしている。このような乙23意匠を参酌すれば、少なくとも、平面視において支持部の内側部分にくぼみが存在するか否かは指マッサージ器の意匠の美感に大きな影響を与える要素であると評価すべきである。

本件意匠2の要部
以上によれば、本件意匠2の要部は、基本的構成態様のうち、二股に分岐した略棒状の一対の支持部が手持ち部側から先端に向かうにつれて細くなり、支持部の内側部分に略V字状のくぼみを備えている点(C2-2)と、具体的構成態様のうち、くぼみの幅が先端部から手持ち部側にかけて徐々に広くなっている点(H2-2)、支持部の断面図が角丸四角形からくぼみが欠けたような形状となっている点(I22)、平面図において、支持部内縁側が本件意匠2の全体の長手方向の長さの約7分の2にわたる空洞となっている点(J2-2)、及び正面図から見た略U字状の手持ち部の厚さが、概ね平面図から見た板状の手持ち部の幅の3分の1から2分の1程度である点(F2-2)である。

(5)本件意匠2と被告意匠2の類否

共通点について

本件意匠2と被告意匠2の共通点は、いずれも、本件公知意匠2に属し需要者の注意を惹かないありふれた形状ないし機能との関係で指マッサージ器の構造上必要な形状のものであるか、その変化が極めて小さく、需要者の注意を惹くとはいえないものであるため、本件意匠2の要部における共通点とはいえない。したがって、これらの共通点をもって、本件意匠2と被告意匠2とが美感を共通にするとはいえない。

差異点について

(ア)差異点2-1及び2-2
需要者である指マッサージ器の使用者は、平面側ないし斜面側から本件意匠2を観察することとなり、支持部の内側に大きくくぼみを設けたユニークなデザインや、平面図や斜視図における全体的なバランスや厚みに目を奪われる。本件意匠2は、全体的に厚みがあり、重厚感のあるデザインであるところ、支持部内側部分にこのようなくぼみを設けると共に、略棒状の支持部を手持ち部側から先端に向かうにつ
れて細くすることで、把持部にシャープな印象を加え、デザインを引き締める役割を果たしている。とりわけ、指を挟むローラーの把持部は指マッサージ器の使用者にとって重要であり注意を最も惹きやすい部分であるため、このようなシャープさは需要者に強烈な印象を与える。
他方、被告意匠2には、本件意匠2のようなくぼみは設けられておらず、略棒状の支持部の太さも略一定であることから、使用者に本件意匠2のようなシャープな印象を与えない。
このように、両意匠のくぼみの有無、略棒状の支持部の形状という基本的構成態様の差異点2-1及び2-2は、需要者に対し、全く異なった美感を生じさせる。(イ)差異点2-3
平面図及び正面図における手持ち部の板状の形状に関する差異点2-3により、
手持ち部において、本件意匠2は柔らかそうな印象を与えるのに対して、被告意匠2は角張った印象を与える。これにより、両意匠は、需要者に全く異なった美感を与える。
(ウ)差異点2-4
正面図における手持ち部の厚さに関する差異点2-4により、手持ち部につき、
本件意匠2はその厚さが全体として分厚い印象を与えるのに対して、被告意匠2は全体として薄い印象を与える。需要者は、指マッサージ器を手で持つため、その分厚さについても注意を惹かれるところ、このような厚さの違いは、需要者に全く異なった美感を与える。
(エ)差異点2-5

平面図における支持部の内縁の形状に関する差異点2-5により、同形状につき、本件意匠2は引き締まった印象を与えるのに対し、被告意匠2は緩やかな印象を与える。需要者は、指を挟んだ際にどこまで自分の指が見える形状かにも注意を惹かれるところ、このようなローラーと二股の分岐の間の空間の広さの違いは、需要者に全く異なった美感を与える。

(オ)差異点2-6
くぼみの形状に関する差異点2-6により、本件意匠2はシャープな印象を与える。このため、本件意匠2とそもそもそのようなくぼみが形成されていない被告意匠2とは、需要者に全く異なった美感を与える。
(カ)差異点2-7
支持部の断面図の形状に関する差異点2-7により、本件意匠2は、角丸四角形からくぼみ部分が欠けた形状により外側から見れば柔らかな印象を与え、内側から見ればシャープな印象を与えるという両面性のあるデザインであるのに対し、少し丸みを帯びた四角状の被告意匠2は角張った印象を与える。このような形状の違いは、需要者に全く異なった美感を与える。
(キ)差異点2-8

一対の支持部の間の空洞の全体に占める割合に関する差異点2-8により、本件意匠2は胴長な印象を与えるのに対し、被告意匠2は脚長な印象を与える。このように、差異点2-8は、需要者に全く異なった美感を与える。

小括

以上のとおり、本件意匠2と被告意匠2は、基本的構成態様において大きな差異がある上、具体的構成態様においても、需要者の注意を強く惹く要部において数多くの差異点を有する。これらの差異点により、本件意匠2は、全体的に厚み、重厚感がありながら把持部がシャープで引き締まっており、かつ、胴長な印象を与えるのに対し、被告意匠2は、全体的に薄く、把持部は緩やかであり、かつ、脚長な印象を与えるため、両意匠が与える美感の差異は大きい。両意匠にはいくつかの共通
点があるものの、差異点が共通点による美感の同一性を上回っており、全体としては、本件意匠2と被告意匠2が与える美感は全く異なる。
したがって、本件意匠2と被告意匠2とは類似しない。
4
原告の損害額ないし損失額(争点4)

〔原告の主張〕
(1)被告製品1

売上額
(ア)販売数量
被告は、平成26年5月27日~平成31年3月18日の間、被告製品1を少なくとも●(省略)●個輸入し、平成27年10月~令和3年3月の間にこれを販売した。その間の月別販売数量は、別紙被告各製品売上表(原告主張)の被告製品1(不当利得期間)及び被告製品1(損害賠償期間)の各販売数量(個)欄記載のとおりである。(イ)単価
被告製品1の単価は390円(税抜)であり、令和元年9月までは421円(税込)、同年10月以降は429円(同前)で販売された。なお、原告の損害額ない
し損失額の算定に当たっては、消費税相当額も加算される(以下同じ。)。イ
不当利得返還請求

(ア)売上額
被告製品1の平成27年10月~平成28年12月2日の間の売上額の合計は、別紙被告各製品売上表(原告主張)の被告製品1(不当利得期間)の総計(円)欄記載のとおり、合計●(省略)●円である。(イ)実施料率
被告による被告製品1の販売に対して原告が受けるべき実施料相当額すなわち実施料率は、業界における実施料の相場等に加え、以下の事情を総合的に考慮すると、少なくとも15%を下回ることはない。

すなわち、本件意匠1に係る物品においては、本件意匠1の要部を構成する構成態様によりその作用効果が実現されており、このような作用効果は、需要者に対して無意識的に構成態様を取捨選択させ、その作用効果に関連する構成態様へと意識を向けさせる影響が大きい。また、被告製品1のような器具においては、デザインから導かれる作用効果をもって機能が実現されることが多く、機能自体よりもデザ
イン性自体が製品の魅力に直結することも多い。このため、本件意匠1は、意匠自体の価値が高く実施品の売上・利益に大きく貢献している。
さらに、ヘルスケアのためのプラスチック製品の製造販売を業とする点で、原告と被告の事業は完全に競合するところ、原告は、品質やデザイン性により顧客を誘引する事業戦略を採用し、模倣品が日本国内に流通することを避けるべく、可能な限りの権利行使を継続し、安価な外国製の侵害品に対しては極めて厳しい対応を取る方針である。
(ウ)原告の損失額及び被告の利得額
したがって、被告は、原告に対し、上記期間の販売について、●(省略)●円(=●(省略)●*15%)の不当利得を返還する義務を負う。

損害賠償請求

(ア)売上額
被告製品1の平成28年12月3日~令和3年3月の間の売上額の合計は、別紙被告各製品売上表(原告主張)の被告製品1(損害賠償期間)の総計(円)欄記載のとおり、合計●(省略)●円である。(イ)経費

a
仕入原価

被告は、被告製品1を1個当たりUS$●(省略)●で輸入した。対象期間に対応する輸入につき、発注月における為替レートにより日本円に換算すると、被告製品1の仕入に要する費用は合計●(省略)●円となる。
b
物流費等

製品の販売に際して物流等に経費を要するとしても、当該経費は、売上高に対して平均4.7%であることから、その限度でこれを認める。したがって、被告製品1の販売に際して必要となる物流費等は、●(省略)●円(=●(省略)●*4.7%)を上回ることはない。
(ウ)利益

以上より、被告が対象期間に被告製品1を販売することにより得た利益は、●(省略)●円(=●(省略)●)であり、これをもって原告が受けた損害の額と推定される(法39条2項)。
(2)被告製品2

売上額

(ア)販売数量
被告は、現在に至るまでの間、被告製品2を、少なくとも●(省略)●個輸入し、令和元年8月~令和3年3月の間にこれを販売した。その間の月別販売数量は、別紙被告各製品売上表(原告主張)の被告製品2(損害賠償期間のみ)の各販売数量(個)欄記載のとおりである。
(イ)単価

被告製品2の単価は290円(税抜)であり、令和元年9月までは313円(税込)、同年10月以降は319円(同前)で販売された。
(ウ)売上額
上記期間の売上額の合計は、別紙被告各製品売上表(原告主張)の被告製品2(損害賠償期間のみ)の総計(円)欄記載のとおり、合計●(省略)●
円である。

経費

(ア)仕入原価
被告は、被告製品2を1個当たりUS$●(省略)●で輸入した。対象期間に対応する輸入につき、発注した令和元年5月における為替レートにより日本円に換算すると、被告製品2の仕入に要する費用は、合計●(省略)●円となる。(イ)物流費等
被告製品1の場合と同じく、被告製品1の販売に際して必要となる物流費等につき、売上高に対する4.7%の範囲で経費とすることを認める。したがって、物流費等は、●(省略)●円(=●(省略)●*4.7%)を上回ることはない。

利益

以上より、被告が対象期間に被告製品2を販売することにより得た利益は、●(省略)●円(=●(省略)●)であり、これをもって原告が受けた損害額と推定される。
(3)損害賠償額について

弁護士費用

原告は、被告の本件各意匠権に対する侵害行為により、弁護士に委任して訴訟を提起することを余儀なくされた。これに要した費用は、原告の損害額合計●(省略)●円の10%である●(省略)●円を下らない。

小括

以上より、被告が被告各製品を製造、輸入及び販売したことにより原告が受けた損害額は、合計●(省略)●円である。
(4)遅延損害金等

不当利得返還請求について

被告は、原告から、平成27年9月24日付け書面にて本件意匠権1と被告製品1との関係を指摘されていたことから、被告が被告製品1の販売により得た利益は、被告の悪意によるものである。
したがって、被告は、原告に対し、不当利得額●(省略)●円の返還について、年5%の割合による遅延利息の支払義務を負う。

損害賠償請求について

被告は、被告各製品の販売について、令和2年3月までの販売分については年5%、同年4月以降の販売分については年3%の割合により、遅延損害金の支払義務を負う。
そのため、上記各期間の損害賠償額につき、別紙遅延損害金(原告主張)記載のとおり、令和2年3月までの損害額合計に対しては同年4月1日を起算日として年5%の、同年4月以降の損害額合計に対しては令和3年4月1日を起算日とし
て年3%の割合による遅延損害金を請求する。
(5)重畳適用
仮に、法39条2項に基づく推定が一部覆滅される場合、覆滅される部分については、同条3項が適用される。
この場合、被告による被告各製品の販売金額に対して、原告が受けるべき料率を乗じた金銭が損害額とされるところ、この実施料率は、本件意匠1については、前記((1)イ(イ))のとおり、15%を下回ることはない。本件意匠2に係る実施料率についても、本件意匠1と同様に、15%を下回ることはない。
(6)被告の主張について

在庫品及びロスについて

被告が主張する在庫数量は、被告の販売管理システム(以下被告販管システムという。)の記録から抽出したというものであるところ、同システムの信用性が客観的に担保されていない。
万引きや不良品等によるロスの数量については、客観的な裏付けがなく、また、被告の説明が合理的説明なく変遷している上、販売態様に特段差異がないはずの被告各製品のロス率が約●(省略)●%~約●(省略)●%の幅に及んでおり、不合
理であるし、消費期限のない雑貨品を数年にわたって1年あたり●(省略)●%以上もロスすることは現実的にあり得ない。万引きや不良品等を理由に生じるロスは、仮に存在したとしても販売数量の1%にも満たないから、考慮するに値しない。イ
被告製品2のデザイン費用

被告製品2に係るデザイン及び金型を外注した根拠とされる請求書には、データ作成や意匠権調査と記載されているから、デザイン等の外注を裏付けるものとはいえない。仮にこれらを外注していたとしても、デザイン及び金型は、被告製品2の製造を開始するために必要であるにとどまり、被告製品2の販売数量が追加されるに伴って追加的に発生するものではない。

その余の経費について

被告が経費として主張する輸入経費、検品費用、倉庫保管料及び配送費用については、被告製品1ないし2に係るものであることの客観的な裏付けがないか、他の製品分との按分方法の正確性・客観性が担保されていない。もっとも、被告各製品の輸入に際し一定の物流費等が発生すること自体は否定し得ないことから、前記((1)ウ(イ)b、(2)イ(イ))のとおり、売上高の4.7%の限度でそれらの経費とすることは認める。

推定覆滅について

(ア)業務態様等の相違について
被告の実店舗は、様々な店舗が出店する大型ショッピングモール内に設けられているものが多く、ショッピングモールによっては、原告の製品を取り扱う店舗も数多く出店しており、原告と被告の製品を取り扱う実店舗が隣接して出店している例もある。また、ショッピングモールを訪れた需要者がモール内の各店舗を回って様々な商品の購入を比較検討することは経験則上明らかである。
他方、被告が専門のECサイト(被告サイト)のみで被告の製品を取り扱っているとしても、インターネット上で製品を検索等して購入するサイトであり、原告の製品が出品されているECサイトも、同じくインターネット上で製品を検索等して
購入するサイトである。何らかの製品を探している需要者がインターネット上で当該製品に関連するキーワード等を入力して検索することで、様々なサイトで紹介されている商品等を比較検討することは経験則上明らかである。現に、原告製品1と被告製品1が競合的に紹介されているウェブサイトも存在する。
さらに、原告各製品及び被告各製品は、市場においていずれも安価な生活雑貨品
として位置付けられており、その価格差をもって市場が異なるとはいえず、むしろ市場において完全に競合している。そもそも、他社の意匠権の侵害品が比較的安価に販売し得ることは、開発コストの要否等に照らせば当然であり、侵害品が正規品と比較して安価であることを理由に市場の同一性が否定されることは相当でない。(イ)競合品の存在について

需要者が市場において購入動機を形成するにあたっては、当該製品の具体的な機能が第一次的に重要である。原告各製品及び被告各製品は、いずれも、需要者が自らの身体に用いて作用効果を体感するものであり、その商品選択にあたっても、この体感が重要なポイントとなる。
原告製品1の需要者は、爪が長くても頭皮を傷つけることなく程よい力加減でマッサージでき、人の手でマッサージされているような感覚であることなどに着目していることから、そのような体感を奏し得る頭部マッサージ具をもって原告製品1及び被告製品1の競合品とすべきところ、被告が競合品として列挙するものはいずれも人の手の形状とは明らかに異なるものであり、競合品とはいえない。また、原告製品2の需要者は、指マッサージ器における指の挟みやすさ、柄のつまみやすさ、柄をつまんだ力の指への伝わりやすさ、力加減のしやすさ、人の手で
マッサージされるのとは全く異なる心地良さなどに着目する。このため、そのような体感を奏し得る指マッサージ器をもって原告製品2及び被告製品2の競合品とすべきである。しかるに、被告が競合品として列挙するものは、柄の部分の形状が、保持する指が痛くなるように感じられる形状のものや、指の挟みやすさ等の点で難点が感じられる形状のもの、本件意匠2の類似範囲に含まれ侵害品と評価されるも
のであり、競合品とはいえない。
(ウ)被告の営業努力について
被告は、平成26年4月に1号店をオープンしたものであって、社会全体に広く認知されるにはあまりにも期間が短く、店舗数も特筆すべき数には及んでいない。現に、雑貨業界の売上ランキング等においても、被告の企業名ないしブランド名は
特に掲載されていない。加えて、原告も、人気媒体において商品が紹介されており、むしろブランド力としては被告よりも原告の方が上位にある。被告の製品が被告の運営する特定のチャンネルでしか入手することができないとしても、前記(ア)のとおり、結果的に被告の商品を購入した需要者であっても、他社の商品との比較検討の上で商品を選択しているのであって、被告の商品しか考慮に入れなかったわけで
はないから、被告各製品の売上が被告のブランド力や営業努力に負うところ大であることの根拠とはならない。
(エ)侵害品の性能について
本件各意匠と被告各意匠の要部に係る各形状が共通しているところ、被告の運営するサイトに掲載された被告製品1の写真にも当該形状が表現されており、また、被告の取扱商品を紹介するインターネット上の記事においても被告各製品のデザイン性に言及するものが多いことなどから、本件各意匠及び被告各意匠の形状等が顧客誘引力として寄与していないとはいえない。
また、被告製品2において、需要者が着目する作用効果は、本件意匠2の要部を構成する各形状の組合せに大きく左右される。このため、需要者は、このような各部材の形状等の総合的な構成態様等に特に注意を惹かれる。そもそも、指マッサー
ジ器の機能は、単にローラー部の形状や硬さのみならず、全体的な形状や柄の部分、ローラーへと繋がる支持部の形状や態様等にも左右されることから、本件意匠2の要部に係る形状等と類似した形状等を採用する被告製品2において、このような形状等は売上に大きく貢献している。
(7)まとめ

以上より、原告は、被告に対し、●(省略)●円の不当利得返還請求権及び不法行為に基づく●(省略)●円の損害賠償請求権(合計●(省略)●円)を有すると共に、不当利得●(省略)●円に対する平成28年12月3日から支払済みまで年5%の割合による遅延利息と、損害賠償のうち●(省略)●円に対する令和2年4月1日から支払済みまで改正前民法所定の年5%の割合による遅延損害金及びうち
●(省略)●円に対する令和3年4月1日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金の各支払請求権を有する。
〔被告の主張〕
(1)被告製品1の売上額及び経費

売上額

(ア)被告製品1の単価が390円(税抜)であること、1個当たりの輸入価格がUS$●(省略)●であることは認め、その余は否認ないし争う。(イ)販売数量について
被告による被告製品1の輸入数量は、平成28年12月2日以前が●(省略)●個、同月3日以降が●(省略)●個の合計●(省略)●個である。このうち、令和3年5月6日時点で●(省略)●個の在庫が残っている。
また、被告製品1の販売に当たっては、万引きや不良品等により販売に至らない商品(ロス)が存在する。令和元年7月1日~令和2年12月7日の間のデータに基づきロス率を算定すると、被告製品1のうち白色のもの(被告製品1(白)という。)は約●(省略)●%、黒色のもの(以下被告製品1(黒)という。)は約●(省略)●%である。

したがって、被告製品1の販売数量の算定に当たっては、上記の在庫数とロス品分を控除するべきである。
原告は、毎月同一数量が販売されている旨主張するが、被告は、少なくとも令和2年12月7日以降被告製品1を販売していないこと、被告の取扱商品は販売開始当初の時期が最もよく売れることから、原告の主張は実態に反し、あり得ない。
(ウ)消費税について
商品を販売する際に課せられる消費税は、商品の購入者が負担し、商品を販売した事業者が国に納付するものであるため、損害賠償金に掛かる消費税とは異なり、被告の利益となるものではない。したがって、損害賠償又は不当利得を算定するに際して考慮すべき性質のものではない。


経費

被告は、国外で製造された被告製品1を国内に輸入して販売しているところ、その販売に直接関連して追加的に必要になった以下の経費は売上高から控除されるべきである。
(ア)製造・仕入原価
●(省略)●円

被告製品1の1個あたりの製造・仕入原価US$●(省略)●に輸入数量を乗じた上、送金時の為替レートで日本円に換算したもの。
(イ)輸入経費

●(省略)●円

被告製品1の輸入に際して運送会社に支払った海上運賃、通関料等。なお、支払った輸入経費に被告製品1に係るものと他の被告製品に係るものが含まれる場合、当該輸入経費を被告製品1と他の被告製品の製造原価比で按分し、被告製品1に係る輸入経費を算出した。
(ウ)検品費用

●(省略)●円

被告製品1の仕入に当たり実施した検品につき、被告が検品会社に支払ったもので、請求書記載の金額を当時の為替レートで日本円に換算したもの。(エ)倉庫保管料
●(省略)●円

輸入した被告製品1につき、被告が倉庫業者に対して支払ったもの。被告と倉庫業者との取決めにより保管物の坪数に月額の保管料が支払われるところ、輸入時の積載量等をもとに算定すると、坪単価月額●(省略)●円となる。(オ)配送費用

●(省略)●円

輸入した被告製品1の倉庫への搬入時及び倉庫から各店舗への配送時に、配送担当業者に対して支払う●(省略)●である。
このうち、●(省略)●
(2)被告製品2の売上額及び経費

売上額

被告が被告製品2を●(省略)●個輸入したこと、被告製品2の単価が290円(税抜)であること、1個あたりの輸入価格がUS$●(省略)●であることは認め、その余は否認ないし争う。
被告製品2は、令和3年5月6日時点で●(省略)●個の在庫が残っている。また、そのロス率は約●(省略)●%である。
被告が少なくとも令和2年12月7日以降被告製品2を販売していないこと及び
被告の取扱商品は販売開始当初の時期が最もよく売れることから、原告の主張は実態に反し、あり得ないこと、損害賠償を算定するに際して消費税を考慮すべきでないことは、被告製品1と同様である。

経費

被告製品1と同様に、以下の経費は売上高から控除されるべきである。各項目の内容及び算定方法は、特に示さない限り被告製品1と同様である。(ア)製造・仕入原価

●(省略)●円

(イ)輸入経費

●(省略)●円

(ウ)検品費用

●(省略)●円

被告製品2については、他の被告製品と合わせて検品費用が請求されていたことから、被告製品2と他の被告の製品の製造原価費で按分して被告製品2に係る検品費用を算出した。
(エ)倉庫保管料
(オ)配送費用

●(省略)●円
●(省略)●円

被告製品2の●(省略)●
●(省略)●については被告製品1と同様である。
(カ)デザイン・金型費用等

●(省略)●円

被告は、被告製品2の開発にあたり、デザイン及び金型等を外注し、その費用を支払った。これに関する請求書記載の項目のうち、●(省略)●に係る金額は、他の製品に係るものと被告製品2に係るものとを合わせた金額であり、このうち被告製品2に係るもののみを計上した。●(省略)●は被告製品2に係る費用である。(3)推定覆滅事由

被告製品1

(ア)業務態様等の相違
a
業務態様、流通経路・販売チャンネルの相違

被告は、低価格の生活雑貨ブランドAWESOMESTORE(以下被告ブランドという。)を主力ブランドとして、生活雑貨店を運営する小売業者である。また、被告は、被告製品1を、被告が運営する被告ブランド等の実店舗(以下被告店舗という。)及び専用通販サイト(被告サイト。以下、これと被告店舗を併せて被告店舗等という。)のみで販売し、その他の小売店やECサイトでは販売していない。すなわち、被告の業務態様は小売業であり、被告独自のブランドを自ら運営する店舗等の限定された販売チャンネルで消費者向けに販売するというものである。
他方、原告は、自らオンラインショップも開設しているものの、基本的には卸問屋や量販店向けに製品を製造・販売等する製造・卸売業者であり、原告の製品は、量販店や一般的なECサイトなど一般小売店で取り扱われている。また、被告店舗では5000点近くの生活雑貨品が取り扱われており、被告製品
1はそのうちの1つに過ぎず、主力商品として販売されていたわけではない。このため、ほとんどの需要者は、被告店舗で頭部マッサージ具が購入できるとは認識していない。そうすると、被告店舗で被告製品1を購入した需要者には、当初から頭部マッサージ具に対する購買意欲を有していた者よりも、被告店舗で被告製品1に惹かれて初めて購買意欲を生じ、衝動買いをした者の方が圧倒的に多いと考えられ
る。被告製品1が被告店舗等でしか購入できないという事情の下では、被告製品1の販売行為等がない場合、被告製品1を衝動買いした需要者の需要はそもそも生じなかったといえ、被告製品1に向けられた需要が原告製品1に向かうとは考えられない。
しかも、被告製品1は、インターネット上では被告サイトでしか販売されておら
ず、商品名(HeadWaveBar)で検索しない限り、検索結果として表示されない。このため、被告サイトにおいて被告製品1を購入する者は、インターネット検索における一般的な方法で頭部マッサージ具を探した者ではなく、当初より被告製品1を購入する予定であった者と考えられる。
以上のような原告製品1と被告製品1の流通経路・販売チャンネル等の差異等に
鑑みると、被告製品1の販売行為等がなかった場合に、被告製品1に対する需要全てが原告製品1に吸収されるとは考え難い。
b
販売価格の差異

被告製品1の販売価格は390円(税抜)であるのに対し、原告製品1は1000円(同前)であり、いずれも日用品雑貨に属するものであるとはいえ、低価格の日用品雑貨はプチプラ市場という一市場を築いていることから、被告製品1と原告製品1とでは市場が異なる。被告製品1を購入する需要者は、その価格に注目していると考えられることから、そのような需要者が、被告製品1の販売行為等がなかった場合に、これに比して価格が高いと評価されるような原告製品1を購入するとは考えられない。
(イ)競合品の存在

被告製品1は頭部をマッサージする器具、より具体的には、頭部の数か所を刺激することで頭部にマッサージ効果をもたらすものであり、そのような機能を持つ製品は全て被告製品1及び原告製品1の競合品である。
このうち、被告製品1と同じ価格帯で頭部をマッサージする器具は多数存在することから、被告製品1の販売行為等がなかったとしても、被告製品1に向けられた
需要はこれらの競合品に向かうといえ、原告製品1に需要が向くとは考えられない。仮に販売価格の差異をもって被告製品1と原告製品1の市場が相違するといえないとしても、原告製品1と同じ価格帯で頭部をマッサージする器具も多数存在する。したがって、仮に需要者が価格に関係なく商品を選択したとしても、被告製品1に向けられた需要が全て原告製品1に向かうとは考えられず、競合品にも向かう。
このため、被告製品1の販売行為等と原告の損害との間に相当因果関係はない。(ウ)被告の営業努力等
被告店舗は、平成26年4月に1号店を開店し、現在全国に62店舗を構え、低価格であるにもかかわらず、デザイン性及び機能性を備えたプチプラ雑貨を販売する店舗として需要者に広く認知されるようになった。また、被告の商品は、被告店
舗等という特定のチャンネルによってのみ入手することのできるデザイン性や機能性の高いプチプラ雑貨としての価値を有する。
このため、被告製品1が存在しない場合に、同種商品であるからといって、需要者が被告ブランド以外の商品を購入することにはならない。このように、被告の営業努力及びブランド力は被告製品1の売上に多大な貢献をしている。(エ)侵害品の性能
被告製品1は、ヘッド部分が振動する構造になっており、頭部のマッサージ効果はこの振動によりもたらされる点に特徴がある。被告による商品紹介においてもこの点を訴求しており、需要者の口コミも、この点に関する言及がされているのに対し、本件意匠1に関するコメントはされていない。
このように、被告製品1の顧客誘引力は振動の点にあり、本件意匠1は何ら寄与
していない。
(オ)小括
以上の事情に鑑みれば、被告が被告製品1を販売したことにより得た利益は、原告の受けた損害との間に相当因果関係はなく、法39条2項に基づく推定は、少なくとも95%覆滅される。


被告製品2

(ア)被告製品2についても、法39条2項に基づく推定を覆滅すべき事情は、おおむね被告製品1と同様である。なお、被告製品2の販売価格は290円(税抜)であるのに対し、原告製品2は900円(同前)である。また、原告製品2及び被告製品2は、指のマッサージ効果を得るという用途のために、片方の手で指マッサージ器を持ち、もう片方の手の指をローラーに挟む方法で使用する製品であるから、これらと同種の用途や使用方法を採る指マッサージ器は全て原告製品2及び被告製品2の競合品となる。
(イ)また、本件意匠2は、ローラーとそれを把持する本体とを有する指マッサージ器の本体(柄)の部分のみを対象とする部分意匠である。被告製品2のような指
マッサージ器を購入するに当たり、需要者は、所望のマッサージ効果を得ることができるか否か、どの程度の効果を得ることができるかといった指マッサージ器の性能に着目する。被告製品2においては、ローラー部が指に与えるマッサージ感、2個のローラー部に指を挟む際の挟み具合・力加減の調節のしやすさがマッサージ性能に影響を与えることから、需要者は、これらに直接的に影響するローラー部の形状、材質、硬さ、挟み具合・力加減の調節に影響する柄の材質に注目する。本件意匠2は、これらの要素をその範囲内に含まず、又はこれと無関係であるから、被告製品2に本件意匠2の実施部分があるとしても、当該実施部分には顧客誘引力は全くないか、著しく低い。
(ウ)小括
以上の事情に鑑みれば、被告が被告製品2を販売したことにより得た利益は、原
告の受けた損害との間に相当因果関係はなく、法39条2項に基づく推定は、少なくとも95%覆滅される。
(4)重畳適用について
法39条3項を適用するためには侵害者による登録意匠又はこれに類似する意匠の実施行為が観念できる必要がある。しかし、同条2項は、侵害者が侵害行為によ
って得た利益の額を損害と推定すると規定しており、2項の適用によって算出された利益の額をもって侵害行為に対する損害評価は尽きている。したがって、覆滅対象とされた利益の額については、もはや、侵害者の実施行為を観念することはできない。
この点を措くとしても、それは、ライセンス機会の喪失に係る部分に限定される
べきである。本件における推定覆滅事由との関係でみると、少なくとも、被告製品1の侵害品の性能(機能、性能等意匠以外の特徴)が顧客誘引に寄与している部分については、本件意匠1は寄与していない以上、権利者によるライセンス付与を想定することはできない。また、被告製品2の登録意匠が実施されている部分の侵害品中における位置付けを理由に覆滅が認められる部分については、本件意匠権2の
権利範囲外の部分であり、これにライセンス付与をすることは想定し得ないことから、同条3項の併用は否定されるべきである。
(5)実施料率
本件各意匠権の実施料率の相場に係る適切な資料はない。また、被告各製品は、本件各意匠権の権利範囲外の部分に顧客誘引力を有し、本件各意匠は価値が高いとはいえず、被告各製品の売上及び利益に与える影響は著しく低い。加えて、原告と被告は、その業態等の相違から競業関係になく、模倣品対策に注力するという原告の営業方針も実施料率に影響を与えるとは考えられない。
このような事情を踏まえると、仮に、侵害者に対して事後的に定められるべき実施に対し受けるべき料率が通常の実施料率に比べて自ずと高額になることを考慮したとしても、その実施料率は、高くても2%を上回らない。

第4
1
当裁判所の判断
本件意匠1と被告意匠1の類否(争点1)

(1)登録意匠とそれ以外の意匠の類否の判断は、需要者の視覚を通じて起こさせる美感に基づいて行う(法24条2項)。この判断に当たっては、両意匠の基本的構成態様及び具体的構成態様を全体的に観察するとともに、意匠に係る物品の用途や使用態様、公知意匠等を参酌して、需要者の最も注意を惹きやすい部分、すなわち要部を把握し、要部において両意匠の構成態様が共通するか否か、差異がある場合はその程度や需要者にとって美感を異にするものか否かを重視して、両意匠が全体として美感を共通するか否かによって判断するのが相当である。(2)本件意匠1の構成態様


本件図面1によれば、本件意匠1の基本的構成態様及び具体的構成態様は、
別紙本件意匠1の構成態様の裁判所の認定欄記載のとおりと認められる。イ
原告の主張について

基本的構成態様A1-3及びB1-3について、本件図面1によれば、枝部が5本に分岐していること、その形状が丸棒状であること、その先端に涙滴状に膨らんだ涙滴状部が形成されていることは、本件意匠1の構成を大掴みに把握するという観点からも、一見して看取できるものといえる。
また、具体的構成態様C1-3については、平面視において、枝部の先端に形成され配置された各涙滴状部がなす形状も、本件意匠1において需要者の視覚を通じて美感を生じさせるものといえるから、具体的構成態様の認定にあたっては、これをも考慮するのが相当である。
さらに、具体的構成態様E1-3については、本件図面1の正面図、背面図及び左右各側面図によれば、各涙滴状部は等間隔に配置され、その相互間の距離は、いずれの視点から見ても、涙滴状部それ自体の1個分の大きさより広く、3個分の大きさより狭いことが明らかにうかがわれる。そこで、本件意匠1の具体的構成態様として、各涙滴状部間の距離が涙滴状部約2個分である旨を認定するのが相当である。
以上のとおり、この点に関する原告の主張は採用できない。
(3)被告意匠1の構成態様
別紙被告製品1の構成によれば、被告意匠1の基本的構成態様及び具体的構成態様は、それぞれ、別紙被告意匠1の構成態様の裁判所の認定欄記載のとおりと認められる。

このうち、基本的構成態様a1-3及びb1-3については、本件意匠1の基本的構成態様A1-3及びB1-3と同様の理由による。具体的構成態様c1-3についても、平面視において枝部の先端に形成され配置された各涙滴状部がなす形状が需要者の視覚を通じて美感を生じさせるという点では、本件意匠1の具体的構成態様C1-3と同様である。

具体的構成態様d1-3については、別紙被告製品1の構成によれば、正面視において、他の枝部に比して外側にきつく広がるよう湾曲した一番外側の2つの枝部が、その先端から約3分の1のところで、基端からの湾曲の程度に比してきつく湾曲して内側に入り込んでいることが容易に看取される。そこで、被告意匠1の具体的構成態様の認定にあたっては、これをも考慮するのが相当である。
具体的構成態様e1-3については、別紙被告製品1の構成の正面図、背面図及び左右各側面図によれば、各涙滴状部は等間隔に配置され、その相互間の距離は、いずれの視点から見ても、涙滴状部それ自体の1個分とほぼ異ならないことが明らかにうかがわれる。そこで、被告意匠1の具体的構成態様として、各涙滴状部間の距離が涙滴状部約1個分である旨を認定するのが相当である。以上に反する原告及び被告の主張は、いずれも採用できない。
(4)本件意匠1と被告意匠1との共通点及び差異点
本件意匠1及び被告意匠1の各構成態様を対比すると、本件意匠1と被告意匠1とは、まず、基本的構成態様A1-3及びB1-3とa1-3及びb1-3において共通する(以下共通点Aという。)。また、具体的構成態様は、正面視にて、中央の枝部はほぼ直線状に延び、その一つ外側の枝部は外側に広がるよう湾曲しており、一
番外側の2つの枝部は更にきつく外側に広がるよう湾曲している点(具体的構成態様D1-3とd1-3の各一部。以下共通点Bという。)及び各涙滴状部が等間隔に配置されている点(具体的構成態様E1-3とe1-3の各一部。以下共通点Cという。)において共通する。
他方、本件意匠1と被告意匠1は、まず、具体的構成態様C1-3とc1-3において
差異がある(以下差異点Aという。)。また、被告意匠1においては、正面視にて、他の枝部に比してさらにきつく外側に広がるよう湾曲した一番外側の2つの枝部が、先端から約3分の1のところで大きく内側に入り込んでいる(具体的構成態様d1-3の一部)のに対し、本件意匠1においては、そのような構成が見られない(以下差異点Bという。)。さらに、等間隔に配置された各涙滴状部間の距
離が、本件意匠1では涙滴状部約2個分である(具体的構成態様E1-3の一部)のに対し、被告意匠1においては約1個分である(具体的構成態様e1-3の一部。以下差異点Cという。)。
(5)本件意匠1の要部

本件意匠1に係る物品の需要者、用途及び使用態様等

(ア)本件意匠1に係る物品である頭部マッサージ具の需要者が頭部マッサージ具の購入者・使用者であることは、当事者間に争いがない。
(イ)本件意匠1の実施品である原告製品1は、使用者がその柄を握り、枝部の先端の涙滴状部を頭部(頭皮)に当てた状態で、枝部から涙滴状部にかけて力を加えて動かしながら、頭部をマッサージするものである。
(ウ)このような頭部マッサージ具の購入に当たり、需要者は、通常、店舗であれば店頭に置かれた商品そのものないし商品パッケージに付された商品画像等を、インターネット上であればECサイト等に掲載された商品画像等を視認する。原告製品1のパッケージ(以下本件パッケージ1という。)は、台紙上に製品を正面側から視認できる状態で設置し、これを透明なプラスチックケースで覆うものである。台紙の表面(商品側)には、頭のラインに沿って/頭皮をかき上げ/キュっと引き締め(/は改行部分を示す。以下同じ。)という説明文と、使用者が原告製品1の柄を持ち、その涙滴状部を頭皮に当てている画像(以下本件画像1-1という。)及び人物の頭部を他者が両手の手指を広げてマッサージするイメージ画像と、涙滴状部を頭皮に当て枝部の先端方向に動かしてマッサージすることをうかがわせるイラスト(以下本件イラスト1という。)等が掲載さ
れている。本件画像1-1及び本件イラスト1に掲載された原告製品1の画像等は、いずれも、正面側を斜め上方向から見たものである。また、台紙の裏側には、使用方法として

突起部分をヘッドラインに沿って頭皮に当て、押しながらかき上げてください。

との説明文(以下本件説明文1という。)や、本件画像1-1と同様のイラスト及び本件イラスト1が掲載されている。(乙1)
他方、原告サイトの原告製品1の紹介ページ(乙12)には、上部に商品画像として本件パッケージ1の画像及び以下の画像から説明文や矢印等を除いた商品自体のみの画像の2つの画像のうち1画像が拡大表示可能とされているほか、ヘッドラインタイプ/頭のラインに沿って/頭皮をかき上げてキュッという説明文、本件画像1-1と同様の画像に人物の頭部に使用方向を示す矢印が三本描かれている
画像、本件イラスト1及び本件説明文1が掲載されているほか、次の画像(以下本件画像1-2という。)が掲載されている。
(エ)需要者が注意を惹かれる部分
上記各事情に照らせば、需要者は、原告製品1の使用に当たり、頭部マッサージの効果に直截的に影響を与える部分である枝部の本数、頭皮に直接当たる部分である枝部の先端の形状、柄から涙滴状部に力を伝える部分である枝部の形状に主に注目すると考えられる。他方、各涙滴状部間の距離については、さほど注意を惹かれないと思われる。
また、性質上頭部マッサージを現に実施している間に原告製品1を直接視認することは困難と思われるものの、事前ないし事後の時点では、これを正面側ないし正
面側に向かって前後左右いずれかのやや斜め方向から視認することが多いものと考えられる。他方、原告製品1の購入に当たっては、需要者は、これを正面側ないし正面側に向かって前後左右いずれかのやや斜め方向から視認することが多く、左右各側面側、平面側及び背面側から視認する機会は乏しいと考えられる。イ
(ア)

本件公知意匠1について
証拠(乙2、3)によれば、本件公知意匠1は、いずれも本件出願日1
(平成20年3月6日)前に公知となった意匠と認められる。
(イ)乙2意匠
証拠(甲17、乙2、15、24)及び弁論の全趣旨によれば、乙2意匠は、次のとおりのものと認められる。
乙2意匠は、いわゆる孫の手であり、背中を掻いたり、身体を叩いたりする目的で使用される物品に係る意匠である。この種の商品は、頭部を掻いたり叩いたりする方法で頭部に刺激を与える目的で使用される場合もある。そのため、乙2意匠は、本件意匠1の属する分野と同一の分野に属しないものとはいえない。もっとも、乙2意匠は、正面視において、柄の先端に接続された板状の部材が、接続部側と先端側との間の中央付近で湾曲し、湾曲した先の先端側部分が平行な5本の枝部に枝分かれしているものである。乙2意匠における基端を柄の先端との接続部と捉えるならば、枝部は、熊手状に湾曲させて形成されてはいるものの、基端からは分岐しておらず、また、各枝部は丸棒状ではなく板状に形成されている。
他方、板状の部材の接続部側と先端側との間の中央付近の湾曲部付近を基端と捉えるならば、乙2意匠の枝部は、基端から5本に分岐し、熊手状に湾曲させて形成されたものとはいえるものの、各枝部が丸棒状ではなく板状に形成されていることは、同様である。
さらに、基端をいずれと捉えるかにかかわらず、各枝部の先端部は、丸みの
ある形状とされてはいるものの厚みに変化はなく、涙滴状部に相当するものはない。各枝部間の距離も、各枝部の先端部の幅に比してかなり狭い。
(ウ)乙3意匠
証拠(乙3)及び弁論の全趣旨によれば、乙3意匠は次のとおりのものであると認められる。

乙3意匠は、人やペット等の背中や腹部を掻いたり、マッサージするためなどに使用される物品に係る意匠である。これも、乙2意匠と同様に、本件意匠1の属する分野と同一の分野に属しないものとはいえない。
乙3意匠は、人の手をそのまま模した形状であり、その指部をもって基端から5本に分岐した丸棒状の枝部と捉えることは、一応可能である。もっとも、乙3
文献を見る限り、指部(枝部)は、基端から先端まで熊手状に湾曲しているとはいえず、また、その先端に涙滴状部が形成されていない。さらに、乙3意匠が本件意匠1の具体的構成要件C1-3~E1-3に相当する構成を有するとも認められない。(エ)以上のとおり、本件公知意匠1のうち、乙2意匠は、5本に分岐した枝部が形成されている点及び枝部が熊手状に湾曲させて形成されている点で、また、乙3意匠は、基端から5本に分岐した丸棒状の枝部と捉えることが可能な部分がある点で、それぞれ本件意匠1と共通する部分があるといえるにとどまる。もっとも、その共通するといえる部分の具体的形状は、本件意匠1とは大きく異なる。そうである以上、本件公知意匠1は、本件意匠1の基本的構成態様及び具体的構成態様いずれとの関係でも、本件意匠1に先行する公知意匠ということはできない。その他本件意匠1の要部を判断するにあたり参考とすべき公知意匠は、証拠上見当
たらない。

本件後願意匠

登録意匠の要部認定に当たっては、先行する公知意匠を考慮すべきではあっても、登録意匠の出願に後れる後願意匠を考慮することは、原則として相当でない。また、この点を措くとしても、証拠(乙4)によれば、乙4意匠は、涙滴状部に金属球を有する点で本件意匠1の形状と明確に異なること、証拠(乙5)によれば、乙5意匠は、基端から5本に分岐した丸棒状の枝部が全体として人の手指の指部を想起させる形状となっており、その先端に涙滴状部がない点で本件意匠1の形状と明確に異なることなどから、本件後願意匠は、翻って本件意匠1の要部を判断するものとして参考となり得るものではない。


小括

以上の事情を総合的に考慮すれば、本件意匠1の要部は、基本的構成態様A1-3及びB1-3並びに具体的構成態様D1-3であると見るのが相当である。オ
被告の主張について

被告は、本件意匠1の基本的構成態様B1-2(B1-3に相当)及び具体的構成態様C1-2~E1-2(おおむねC1-3~E1-3に相当)をもって、本件意匠1の要部である旨主張する。
このうち、基本的構成態様B1-3及び具体的構成態様D1-3が要部にあたると見られることはそのとおりである。
他方、基本的構成態様A1-3につき、本件意匠1の骨格的部分の形状であるにもかかわらず、先行する意匠にはこれと同一ないし類似するといえるものが見当たらないことに鑑みると、これを本件意匠1の要部に含まれないとすることは相当でない。また、具体的構成態様C1-3については、本件画像1-1及び1-2、本件イラスト1及び本件説明文1から、使用に際し、本件意匠1に係る物品である頭部マッサージ具の枝部の先端が頭部のラインに沿って配置されることがうかがわれる。もっとも、それが枝部の先端の涙滴状部の配置によって直ちに実現されるものか、
枝部の素材の弾力性等他の要因によって実現されるものかは必ずしも明らかでない。このことと、需要者が視認する機会の乏しい部分に関するものであることとを併せ考えると、具体的構成態様C1-3を本件意匠1の要部に含めるのは相当でない。このことは、原告製品1が、標準小売価格1000円(税抜。乙12)と比較的低価格な生活雑貨品といえる範疇のものであり、購入に際し需要者が機能及びデザイン
性を考慮するとしても、通常、その形状の細部まで子細に検討する場合が多いとはいえないと見られることを踏まえると、尚更である。
具体的構成態様E1-3については、涙滴状部間の距離が涙滴状部約2個分であることに需要者がさしたる注意を払うとも思われない。
その他被告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する被告の主張は採用
できない。
(6)本件意匠1と被告意匠1の対比

共通点について

本件意匠1と被告意匠1の共通点のうち、共通点Aは、基本的構成態様に関するものである上、本件意匠1の要部に含まれるものである。このため、この共通点が意匠全体の印象に与える影響は非常に強く、本件意匠1と被告意匠1とに接した需要者は、両意匠から共通する印象を強く感じるといえる。
また、共通点B及びCは、いずれも具体的構成態様に関するものであるところ、共通点Bは本件意匠1の要部に含まれるものであるし、いずれの共通点も、需要者が目にする機会の多い正面側から容易に認識できるものである。したがって、これらの共通点は、本件意匠1と被告意匠1の印象の共通性を一層高めるものといえる。イ
差異点について

(ア)差異点Aについて
差異点Aは、平面視における枝部の湾曲の程度と、これによる左右各側面視における涙滴状部の配置に係るものである。需要者が原告製品1及び被告製品1を平面側及び左右の側面側から視認する機会が乏しいこと等を踏まえれば、差異点Aは、本件意匠1と被告意匠1とで異なる印象を需要者に与えるほどの差異とはいえない。(イ)差異点B及びCについて
差異点Bは、正面視における一番外側の枝部の湾曲の形状に係るもの、差異点Cは、等間隔に配置された涙滴状部間の距離に係るものである。
これらの差異点は、いずれも、原告製品1及び被告製品1を正面側から視認する
ことにより認識し得るものであり、需要者はこれを目にする機会が多いといえる。もっとも、上記各差異点は、中央の枝部がほぼ直線状に伸び、外側にいくにつれて枝部の湾曲の程度が大きくなるという共通点Bや、枝部の先端の涙滴状部が等間隔に配置されているという共通点Cがある中で、一番外側の枝部の先端近くの形状や、涙滴状部間の距離がいささか異なるというにとどまり、顕著に特徴的なものとまで
はいえず、本件意匠1と被告意匠1とで異なる印象を需要者に与えるほどの差異ではない。

小括

以上の事情を総合的に考慮すると、本件意匠1と被告意匠1は、その骨格的な構成態様において共通し、両意匠の差異点は、それ自体も、また、これらを組み合わせたとしても、そのもたらす印象をもって共通点により需要者に生じる美感の共通性を凌駕するほどのものということはできない。
したがって、本件意匠1と被告意匠1とは、全体として需要者の視覚を通じて起こさせる美感が共通しており、類似するというべきである。これに反する被告の主張はいずれも採用できない。
2
無効理由の有無(争点2)

(1)本件表示について
証拠(乙6)及び弁論の全趣旨によれば、令和2年2月22日時点で、原告製品1を販売するサイトの一つである本件サイトにおいて、Amazon.co.jpでの取り扱い開始日:2007/12/10との表示(本件表示)があることが認められる。本件サイトにおけるAmazon.co.jpでの取り扱い開始日欄の記載は、原告製
品1の出品にあたり、これを販売する業者が原告製品1の商品情報として登録する多数の情報のうち、任意に入力し得るものであり、必須の入力項目ではない。またその入力は、個別の手入力のほか、過去に登録済みの商品に係るデータファイルをコピーし、必要な箇所を修正し、修正後のファイルをアップロードする方法によることも可能である。(甲11~14、25~33、40、乙18、弁論の全趣旨)
(2)原告製品1の製造、販売に係る資料等

平成19年10月26日付けデザイン画(甲9)には、スカルプケアGoods-Gとの記載と共に、本件意匠1の正面図及び平面図に相当する方向から見た製品のデザインが描かれている(ただし、柄の末端付近に穴が形成されている。以下本件デザイン画という。)。
本件デザイン画には、人の頭部に製品を接触させているイメージで製品のデザインが描かれると共に、

先端部5点の球体で頭皮を撫でることで程よい快感を与え、優しく刺激する。

などといった説明が付記されている。製品のデザインそれ自体に加え、上記イメージ及び説明等に鑑みると、本件デザイン画に示された製品のデザインは、本件意匠1に係る製品である原告製品1のデザインとおおむね一致する
といってよい。

平成20年2月28日付け書面(3種の樹脂のサンプル写真が示されたもの。甲24)には、色名、使用樹脂、着色剤添加量等の欄に活字による記載が上部にあるほか、下部には、下限等の記載及びこれに対応する樹脂のサンプル写真3種があると共に、柄部と5本に分岐した枝部からなるイメージ図、ヘッドスパハンドプロシリーズ、スピットタイプ用(仮名)、決定3/4といった手書きの記載がある。このうち、決定3/4との記載は、サンプル写真に対応する下限との記載に付した丸印の直上に置かれている。
なお、ヘッドスパハンドプロとは、原告の製品のうち、原告製品1が含まれる商品シリーズの名称と一致する。
(以上につき、甲24、62、乙1、12、弁論の全趣旨)


平成20年4月頃作成に係る原告宛て請求書(甲23)には、同年3月
25日の欄の商品名欄にヘッドスパハンドプロ(ヘッドラインタイプ)台紙、同製版代、同木型代等の記載がある。
なお、ヘッドスパハンドプロ(ヘッドラインタイプ)は、原告製品1の商品名と一致する(乙1、12)。

原告において製品の販売在庫管理を行うシステム上、原告商品1の最も早い
取引日付は、平成20年3月27日である(甲18~22)。
なお、原告製品1について、同日付け売上伝票(甲8)も存在する。(3)検討
上記(1)認定のとおり、本件サイトに商品情報を登録するにあたり、本件表示に係る項目は、任意の入力項目とされ、出品者が自ら入力を行うものである。しかも、商品情報の登録に際し入力すべき項目は多数に及ぶこと、その入力は、個別の手入力のほか、過去に登録済みの商品に係るデータファイルをいわば流用することも可能であることなどに鑑みると、本件表示が誤りである可能性は、無視し得ない程度に存在すると思われる。

また、前記(2)認定に係る各種取引書類及びシステムの検索結果の信用性につき疑義を抱くべき具体的な事情は見当たらないところ、これらの記載等を総合的に考慮すれば、原告製品1は、平成20年3月27日頃にその販売が開始された蓋然性が高いと見られる。
そうすると、本件表示のとおり、本件出願日1(平成20年3月6日)より前である平成19年12月10日から本件サイトで原告製品1の取扱いが開始されたことを認めるに足りる的確な証拠はないというべきである。すなわち、本件意匠1につき、意匠登録出願前に日本国内において公然知られた意匠(法3条1項1号)と認めることはできない。
したがって、本件意匠権1について、意匠登録無効審判請求により無効にされるべき理由(法48条1項1号)があるとは認められない。これに反する被告の主張
は採用できない。
(4)小括
以上により、被告による被告製品1の製造、輸入、販売等の行為は、本件意匠権1を侵害するものといえる。そうである以上、原告は、被告に対し、本件意匠権1に基づき、被告製品1の製造、販売等の差止請求権並びに被告製品1及びその製造
に必要な金型の廃棄請求権を有する。
3
本件意匠2と被告意匠2の類否(争点3)

(1)本件意匠2の構成態様

本件図面2及び証拠(乙7)によれば、本件意匠2の基本的構成態様及び具
体的構成態様は、別紙本件意匠2の構成態様の裁判所の認定欄記載のとおりと認められる。
なお、柄と把持部の境は、以下の図の縦の黒線を目安とする(以下では、同図中の手持ち部をもって柄と呼称する。)。

原告の主張について

原告は、本件意匠2の構成態様につき、基本的構成態様A2並びに具体的構成態様E2及びK2を主張するにとどまる。このうち、基本的構成態様A2は、当裁判所の認定した基本的構成態様A2-3~C2-3と実質的に異ならない。他方、具体的構成態様E2及びK2のみによっては、本件意匠2の具体的構成態様の特定として十分といえない。
したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。

被告の主張について

被告は、把持部に設けられた支持部の内側部分のくぼみの形状をもって基本的構成態様とすべき旨(基本的構成態様C2-2)、支持部の内縁の形状が、先端から柄側に向かうにつれて大きく窄まり、略V字状である旨(具体的構成態様G2-2)、及び支持部の内側部分に形成されたくぼみが略V字状である旨(具体的構成態様H2-2)を主張する。

しかし、把持部が略棒状の一対の支持部を有することは本件意匠2の構成態様として骨格的なものと位置付けるべきであるものの、支持部の内側部分の厚み方向における形状は、支持部の具体的な形状であるにとどまり、具体的構成態様と位置付けるのが相当である。また、支持部の内縁の形状については、先端から柄側に向かうにつれて緩やかに湾曲し、平面図上下方向の中間付近で接続していることから、
全体としては略V字状といってよいものの、緩やかな湾曲及び接続部が円弧状をなすことも、具体的構成態様として特定するのが相当である。このことは、支持部の内側部分に形成されたくぼみの形状についても同様である。
したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
(2)被告意匠2の構成態様

証拠(甲7、乙8)及び別紙被告製品2の構成によれば、被告意匠2の
基本的構成態様及び具体的構成態様は、別紙被告意匠2の構成態様の裁判所の認定欄記載のとおりと認められる。イ
原告の主張について

原告は、被告意匠2の構成態様につき、基本的構成態様a2並びに具体的構成態様e2及びk2を主張するにとどまる。このうち、基本的構成態様a2は、当裁判所の認定した基本的構成態様a2-3~c2-3と実質的に異ならない。他方、具体的構成態様e2及びk2のみによっては、被告意匠2の構成態様の特定として十分といえない。
したがって、この点に関する原告の主張は採用できない。

被告の主張について
被告は、把持部に設けられた支持部の内側の形状をもって基本的構成態様とす
べき旨(基本的構成態様c2-2)を主張する。
しかし、把持部が略棒状の一対の支持部を有することは被告意匠2の構成態様として骨格的なものと位置付けるべきであるものの、支持部の内側部分の厚み方向における形状は、支持部の具体的な形状であるにとどまり、具体的構成態様と位置付けるのが相当である。
したがって、この点に関する被告の主張は採用できない。
(3)本件意匠2と被告意匠2の共通点及び差異点
本件意匠2及び被告意匠2の各構成態様を対比すると、以下のとおりである。ア
共通点

(ア)共通点a
本件意匠2と被告意匠2とは、基本的構成態様A2-3~C2-3とa2-3~c2-3において共通する(以下共通点aという。)。
(イ)共通点b
平面視にて、柄の幅につき、把持部側から中間部にかけて緩やかに幅が狭くなっている(D2-3とd2-3の各一部。以下共通点bという。)。(ウ)共通点c
正面視にて、柄が、把持部側から中間部にかけて上下対称に緩やかに内側に向かって湾曲し、その後、末端にかけて極めて緩やかに幅が広くなり、末端において略半円状に形成されている(E2-3とe2-3。以下共通点cという。)。(エ)共通点d

平面視にて、上下対称の支持部の外縁が、柄側から把持部の中間部にかけて緩やかに外側に広がった後、中間部から支持部の先端にかけて緩やかに内側に湾曲している(G2-3とg2-3の各一部。以下共通点dという。)。
(オ)共通点e
支持部が、正面視にて上下対称に柄側から先端に向かって柄よりもやや太く外側
に膨らむよう形成されている(K2-3とk2-3。以下共通点eという。)。イ
差異点

本件意匠2と被告意匠2とは、いずれも具体的構成態様において、以下の差異がある。
(ア)差異点a
平面視における柄の幅につき、中間部から末端にかけて、本件意匠2では極めて緩やかに幅が広くなっているのに対し、被告意匠2では、その幅の広さにほとんど変化はない(D2-3とd2-3の各一部。以下差異点aという。)(イ)差異点b
正面視による略U字状の柄の厚さが、本件意匠2では、おおむね平面視による板
状の柄の幅の3分の1から2分の1程度であるのに対し、被告意匠2では、5分の1から4分の1程度である(F2-3とf2-3。以下差異点bという。)。(ウ)差異点c
平面視にて、一対の支持部の内縁が、本件意匠2では、いずれも先端から柄側に向かうにつれて緩やかに湾曲し、平面図上下方向の中間付近で円弧状に接続し、略V字状を形成しているのに対し、被告意匠2では、柄との境付近で窄まり円弧状を成す略U字状を形成している(G2-3とg2-3の各一部。以下差異点cという。)(エ)差異点d
把持部には、本件意匠2では、平面視にて、先端から柄との境にかけて、支持部の内縁から把持部の表面に向けて傾斜したくぼみが形成されており、このくぼみの傾斜面は、先端部から柄側にかけて徐々に幅が広くなるよう形成されているのに対
し、被告意匠2では、先端から柄との境にかけて、支持部の内側部分に傾斜部が形成されていない(H2-3とh2-3。以下差異点dという。)。(オ)差異点e
支持部の断面図は、本件意匠2では、角丸四角形からくぼみ部分が欠けた形状となっているのに対し、被告意匠2では、やや縦が長く角が少し丸みを帯びた長方形
状になっている(I2-3とi2-3。以下差異点eという。)。(カ)差異点f
平面視における一対の支持部の間が、本件意匠2では、全体の長手方向の長さの約7分の2にわたる空洞となっているのに対し、被告意匠2は、約2分の1にわたる空洞となっている(J2-3とj2-3。以下差異点fという。)
(4)本件意匠2の要部

本件意匠2に係る物品の需要者、用途及び使用態様等

(ア)本件意匠2に係る物品である指マッサージ器の需要者が指マッサージ器の購入者・使用者であることは、当事者間に争いがない。
(イ)用途及び使用態様等
本件意匠2の実施品である原告製品2は、使用者が片方の手で柄を握り、もう片方の手の指等を支持部の先端において支持されるローラーで挟み、指の指先側と根元側との間を適宜行き来させるなど、柄をローラーの回転可能な方向に前後させることにより指等をマッサージするものである。マッサージの対象となる指の部分や向きに特に限定はないと見られる。
(ウ)このような指マッサージ器の購入にあたり、需要者は、店舗であれば店舗に置かれた商品それ自体ないし商品パッケージに付された商品画像等を、インターネット上であればECサイトに掲載された商品画像等を視認する。
原告製品2のパッケージ(以下本件パッケージ2という。)は、台紙上に製品を正面側から視認できる状態で設置し、これを透明なプラスチックケースで覆うものである。台紙の表面(商品側)には、ローラーに挟んだ手指の側の斜め上方か
ら見た原告製品2の使用イメージを示すイラスト(以下本件イラスト2-1という。)が掲載されているところ、これによれば、原告製品2の正面、平面及び側面側の形状を視認し得る。また、台紙の裏側には、本件イラスト2-1のほか、原告製品2の平面図(同台紙では正面とされる。)及び正面図(同側面とされる。)の各イラスト(これらを併せて本件イラスト2-2という。)が掲載
されているほか、ローラーに挟んだ人差し指と親指の間の部分をマッサージする原告製品2のイラスト(以下本件イラスト2-3といい、本件イラスト2-1、2-2と併せて本件各イラスト2という。)が掲載されているところ、これらによれば、原告製品の平面側の形状を視認し得る。(乙9)
他方、原告サイトの原告製品2の紹介ページ(乙20)には、上部に商品画像と
して本件パッケージ2の画像及び本件イラスト2-1と同じアングルから見た原告製品2全体の画像(以下本件画像2-1という。)が拡大表示可能とされているほか、本件イラスト2-2及びこれに含まれる各イラストのローラーに指を挟んだ状態の拡大図が掲載されると共に、使い方として、本件各イラスト2-1及び2-3とほぼ同様の角度及び構図の画像(以下、これらの2つの画像及び本件画
像2-1を併せて本件各画像2という。)が掲載されている。
また、Amazon.co.jpの原告製品2取扱いページ(乙21)では、商品画像として本件各画像2及び本件パッケージ2の画像が掲載されている。

需要者が注目する部分

上記各事情に照らせば、需要者は、原告製品2の使用に当たり、手指等のマッサージに直截的に影響を与える部分であるローラーの形状に注目することはもちろん、それと同時に、これを支持し、回転させる把持部、とりわけ支持部の形状にも同程度に注目すると考えられる。視認する方向については、正面、平面いずれも同程度にあり得ると共に、これらを斜め上方向から視認することも多いと見られる。他方、柄の部分については、原告製品2を使用するにあたりこれを手にする際に視認するとはいえ、これに注目する程度は把持部ほどではないと考えられる。また、
原告製品2を左右各側面から視認する機会は乏しいというべきである。さらに、支持部に関する構成のうち、平面視における一対の支持部の間に形成される空洞が本件意匠2の全体の長手方向の長さに占める割合(具体的構成態様J23)については、マッサージ中のマッサージ部位の状態の確認等に関わる点で、需要者は、そのような空洞の存在そのものには着目すると思われる。もっとも、それ
がマッサージ具全体の長手方向の長さに占める割合の多寡についてまで強く注意を惹かれると見るべき事情はうかがわれない。

本件公知意匠2について

(ア)証拠(乙10、11)によれば、本件公知意匠2は、いずれも本件出願日2(平成19年2月2日)前に公知となった意匠と認められる。
(イ)乙10意匠
証拠(乙10)によれば、乙10意匠の意匠に係る物品は素肌マッサージ用美容ローラーであり、ローラー間に頬、顎、首等を挟み、上下に転がすことでマッサージ効果を得るものと説明されていることから、本件意匠2の属する分野と同一ないし類似の分野に属しないものとはいえない。

乙10意匠は、柄と先端側においてローラーを支持する一対の支持部とからなるが、正面視にて、トング状ではなく、柄は平板状に形成され、このような柄から、先端にてローラーを挟持する棒状の一対の支持部が緩やかに対称に湾曲しながら伸びている態様のものである。また、平面視にて、柄は板状に形成され、把持部は、柄との境部分から先端に向けて、柄と同程度の厚さから徐々に厚さを減じつつ先端に向かい、ローラーの手前で二股に分岐して支持部を形成している。(ウ)乙11意匠
証拠(乙11)によれば、乙11意匠の意匠に係る物品は顔用マッサージローラーであり、4つの大きなローラーで顔(両頬)を横方向にマッサージするマッサージローラーと説明されていることから、本件意匠2の属する分野と同一ないし類似の分野に属しないものとはいえない。

乙11意匠は、柄とそれより先端側においてローラーを支持する一対の支持部とからなり、正面視において、柄の末端が半円状で、柄の上下が柄と支持部との境付近で最接近するように相互に内側に緩やかに湾曲した後、先端に向かって支持部が互いに離れるように緩やかに湾曲しており、全体としてはトング状の形状といい得る。他方、一対の支持部は、それぞれ、2つのローラーの間に位置してこれらを支
持するように配置されている。
(エ)以上のとおり、本件公知意匠2のうち、乙10意匠は、先端にてローラーを挟持する棒状の一対の支持部が緩やかに対称に湾曲しながら伸びている態様であるという点で、また、乙11意匠は、柄及び支持部が全体としてはトング状の形状といい得る点で、それぞれ本件意匠2と共通する部分があるといえるにとどまる。し
かも、これらの共通部分についても、そもそも指マッサージ器を意匠に係る物品とする本件意匠2と、いずれも頬や顎、首等のマッサージ器を意匠に係る物品とする本件公知意匠2とでは、その大きさが大きく異なる。その点を措くとしても、本件意匠2と本件公知意匠2とでは、柄及び支持部の具体的な構成には明確な違いがある。そのため、本件意匠2と本件公知意匠2との上記共通部分にかかわらず、当該
共通部分に係る本件意匠2の構成をもって、ありふれたものであり需要者の注目を惹かないと見るのは相当でない。

乙23意匠について

登録意匠の要部認定に当たり後願意匠を考慮することが原則として相当でないことは、前記1(5)ウのとおりである。乙23意匠は、本件出願日2に後れた日(平成21年10月29日)に出願されたものであるから、本件意匠2の後願意匠に当たる。
また、この点を措くとしても、証拠(乙23)によれば、乙23意匠は、本件意匠2に比して柄の部分の全体に占める割合が大幅に低い上、正面図(乙23文献の平面図)において、本件意匠2と異なり、柄の末端部と支持部との境側部分との間に透孔が形成されていることなどから、乙23意匠は、翻って本件意匠2の要部を
認定するに当たり参考となり得るものではない。

小括

以上の事情を総合的に考慮すれば、本件意匠2の要部は、基本的構成態様A2-3~C2-3及び把持部ないし支持部に係る具体的構成態様G2-3、H2-3及びK2-3であると認めるのが相当である。

被告の主張について

被告は、本件意匠2の基本的構成態様C2-2(C2-3に相当)及び具体的構成態様H2-2(H2-3に相当)、I2-2(I2-3に相当)、J2-2(J2-3に相当)及びF2-2(F23に相当)が要部と認定されるべき旨を主張する。このうち、各構成態様の認定については前記(1)のとおりである。また、具体的構成態様I2-3は、左右各側面図の方向から見た支持部の断面の形状に関するものであることから、需要者が視認する機会は乏しく、これをもって要部とするのは相当でない。他方、具体的構成態様J2-3については、前記イのとおり、需要者は、空洞が本件意匠2の全体の長手方向の長さに占める割合の多寡にまでは着目しないと考えられるから、これも要部とするのは相当でない。このことは、
原告製品2が、標準小売価格900円(税抜。乙20)と比較的低価格な生活雑貨品といえる範疇のものであり、購入に際し需要者が機能及びデザイン性を考慮するとしても、通常、その形状の細部まで子細に検討する場合が多いとはいえないと見られることを踏まえると、尚更である。
その他被告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する被告の主張は採用できない。
(5)本件意匠2と被告意匠2の対比

共通点について

本件意匠2と被告意匠2の共通点のうち、共通点aは、基本的構成態様に関するものである上、本件意匠2の要部に含まれるものである。このため、この共通点が意匠全体の印象に与える影響は非常に強く、本件意匠2と被告意匠2とに接した需要者は、両意匠から共通する印象を強く感じるといえる。
また、共通点b~eは、いずれも具体的構成態様に関するものであるところ、このうち共通点d及びeは本件意匠2の要部に含まれるものであるし、共通点b及びcも含め、いずれも需要者が目にする機会の多い正面及び平面側から容易に認識し得るものである。したがって、これらの共通点は、本件意匠2と被告意匠2の印象
の共通性を一層高めるものといえる。

差異点について

(ア)差異点aについて
差異点aは、平面視における柄の幅の中間部から末端にかけての変化に関するものであるところ、要部に関する差異点ではない上、本件意匠2の柄の幅が変化しているとはいえ、極めて緩やかに幅が広くなっているというにとどまることを踏まえれば、本件意匠2と被告意匠2とで異なる印象を需要者に与えるほどの差異とはいえない。
(イ)差異点bについて
差異点bは、正面視における略U字状の柄の厚さに関するものであるところ、要
部に関する差異点ではない上、需要者が正面視による柄の厚さと平面視による板状の柄の幅の比率に関心を持つと見るべき事情はうかがわれないことを踏まえれば、本件意匠2と被告意匠2とで異なる印象を需要者に与えるほどの差異とはいえない。(ウ)差異点c及びdについて
差異点cは、平面視における一対の支持部の内縁の形状に関するもの、差異点dは、同支持部の内側部分に形成されたくぼみの有無等に関するものである。これらは、いずれも本件意匠2の要部に係る差異点である。
もっとも、前記(4)イのとおり、支持部に関する構成のうち、平面視における一対の支持部の間に形成される空洞については、マッサージ中のマッサージ部位の状態の確認等に関わる点で、需要者は、そのような空洞の存在そのものには着目すると思われるが、差異点c及びdは、いずれも、そのような空洞の周囲に存在する構
成に係るものにすぎず、視覚を通じて需要者に美感を起こさせるにあたっての影響の程度は、本件意匠2及び被告意匠2の各基本的構成態様に比してやや低いと見るのが相当である。また、差異点cに関しては、一対の支持部の内縁が、本件意匠2においてはいずれも先端から柄側に向かうにつれて緩やかに湾曲し、平面図上下方向の中間付近で円弧状に接続して略V字状を形成している(G2-3)のに対し、被
告意匠2においては、柄との境付近で窄まり円弧状をなす略U字状を形成している(g2-3)というにとどまり、両意匠につき異なる印象を需要者に与えるというほどのものとはいえない。
したがって、差異点c及びdについては、いずれも、それ自体として、また、これらを併せても、本件意匠2と被告意匠2との各共通点によって需要者に生じる美
感の共通性を凌駕するほどのものとまではいえないと見るのが相当である。(エ)差異点eについて
差異点eは、支持部の断面の形状に関するものであるところ、前記(4)イのとおり、これを需要者が視認する機会は乏しく、本件意匠2の要部には含まれないことに鑑みると、本件意匠2と被告意匠2とで異なる印象を需要者に与えるほどの差異
とはいえない。
(オ)差異点fについて
差異点fは、平面視における一対の支持部の間に形成される空洞が本件意匠2及び被告意匠2の全体の長手方向の長さに占める割合に関するものであるところ、前記(4)イのとおり、需要者がこの点に強く注意を惹かれるとは考え難いことを踏まえると、本件意匠2と被告意匠2とで異なる印象を需要者に与えるほどの差異とはいえない。

以上の事情を総合的に考慮すると、本件意匠2と被告意匠2は、その骨格的
な構成態様において共通し、両意匠の差異点は、それ自体も、また、これらを組み合わせたとしても、そのもたらす印象をもって共通点により需要者に生じる美感の共通性を凌駕するほどのものということはできない。
したがって、本件意匠2と被告意匠2とは、全体として需要者の視覚を通じて起こさせる美感が共通しており、類似するというべきである。これに反する被告の主張はいずれも採用できない。
(6)小括
以上により、被告による被告製品2の製造、輸入、販売等の行為は、本件意匠権
2を侵害するものといえる。そうである以上、原告は、被告に対し、本件意匠権2に基づき、被告製品2の製造、販売等の差止請求権並びに被告製品2及びその製造に必要な金型の廃棄請求権を有する。
4
原告の損害額ないし損失額(争点4)

(1)本件意匠権1関係
(内訳等の詳細は、別紙損害額等一覧表(裁判所の認定)の本件意匠権1の各欄及び別紙被告各製品売上表(裁判所の認定)の被告製品1の各欄参照)

売上額について

(ア)仕入数量
被告製品1の仕入数量については、注文数量が記載されたPURCHASEORDER(乙33)ではなく、現にこれを輸入するにあたり作成されるPACKINGLIST(乙38)に基づく輸入数量をもって把握するのが適当である。もっとも、平成26年5月27日付け注文に係るPURCHASEORDER(乙33の1)に対応するPACKINGLISTは証拠上見当たらない。したがって、同注文分については、PURCHASEORDER(乙33の1)記載の数量をもって仕入数量と認める。
そうすると、被告製品1の仕入数量は、合計●(省略)●個と認められる。(上記のほか、乙63、弁論の全趣旨)
(イ)在庫数量
証拠(乙32の1、32の2、63)及び弁論の全趣旨によれば、令和3年5月
6日時点における被告製品1の在庫数量は、●(省略)●個と認められる。なお、この在庫数量は被告販管システムに基づき計上されたものとされるところ、その信用性に疑義を抱くべき具体的な事情はうかがわれない。(ウ)ロス率
a
被告のように、多種多様な大量の生活雑貨品を店舗等を通じて消費者に販売
する業態において、取扱商品の紛失、不良、破損、サンプル品としての使用等により、仕入数量の全てを販売することはできず、販売不能となる商品(ロス)が一定量発生することは、経験則上明らかである。
b
証拠(乙32の1、32の2、38の4、42の1、63、68)及び弁論
の全趣旨によれば、次のとおり認められる。
すなわち、被告は、被告販管システムにおいて、商品の紛失、破損、サンプルとしての使用、閉店した店舗における実際の在庫数とシステム上の在庫数との差等をロス数として管理しているところ、これによれば、令和元年7月1日~令和2年12月7日の526日間における被告製品1(黒)のロス数は●(省略)●個とされる。また、被告製品1(黒)は、平成31年3月14日に輸入され、同年4月5日
~令和2年12月17日(623日。なお、同期間の仕入数量は●(省略)●個である。また、販売終期については、後記(カ)のとおり。)まで販売された。これによれば、同製品のロス率は、●(省略)●%となる(小数点以下切り捨て。以下同じ)。
●(省略)●%
他方、被告製品1(白)について同様の計算によれば(ただし、ロス数算出の対象期間を令和元年7月1日~令和2年12月7日の17か月、同製品の販売期間を平成26年8月15日~令和2年12月7日の76か月として計算した場合。その期間中の仕入数量は●(省略)●個、ロス数は●(省略)●個である。)、そのロス率は約●(省略)●%となる。
●(省略)●%

c
上記算出に係るロス率は、被告製品1(白)と被告製品1(黒)とで大きく
異なるところ、少なくとも両製品の販売が重複する期間において、これらの販売の場所、方法、態様等が異なっていたことをうかがわせる事情はない。もっとも、被告製品1(白)の販売期間は被告製品1(黒)に比して長期間であり、後者の販売開始前の段階では販売態様等が異なっていた可能性は少なくなく、これがロス率の差に反映されたと考えることもできる。また、平成26年11月6日付け記事(甲108)によれば、広く小売業一般に関するものではあるものの、日本における小売業のロス率が0.97%とされていることをも踏まえると、●(省略)●%というロス率が著しく高いというべきことはもちろん、●(省略)●%であってもなお高率と見られる。

これらの事情を総合的に考慮すると、被告製品1については、両製品を通じて、●(省略)●%のロス率を認めるのが相当である。これに反する原告及び被告の主張はいずれも採用できない。
(エ)販売数量
以上を踏まえると、被告による被告製品1の販売数量は、合計●(省略)●個と
認められる。
●(省略)●個
(オ)単価
被告製品1の単価が390円(税抜)であることは、当事者間に争いがない。また、消費税法基本通達5-2-5に鑑みると、法39条2項の利益の額は、消費税込の売上額をもとに算定すべきであり、不当利得における利得額も同様に考えられる。そうすると、被告製品1の税込単価は、令和元年9月30日までは421円、同年10月1日以降は429円となる。これに反する被告の主張は採用できない。
(カ)販売期間及び各月の販売数量等
証拠(甲102、104)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、被告製品1を遅
くとも平成27年10月1日から令和2年12月17日頃までの間販売したことが認められる。これに反する被告の主張は採用できない。
また、被告製品1の各月の販売数量を直接示す証拠は見当たらず、また、販売開始当初に顧客向けに積極的に宣伝広告したことなど、その販売期間内における各月の販売数量の大きな変動をうかがわせる証拠も見当たらない。そこで、販売期間中
の各月の販売数量については、概ね均等に販売されたものと見て、被告製品1の販売数量(●(省略)●個)及び販売期間(平成27年10月1日~令和2年12月17日。62か月17日)に基づき、1か月あたり●(省略)●個(1日当たり●(省略)●個)とし、令和2年12月は17日間で●(省略)●個販売されたものと認めるのが相当である。

●(省略)●個/月
●(省略)●個
(キ)売上額
以上によれば、各期間における販売数量及び売上額は、以下のとおりとなる。・平成27年10月~平成28年12月2日(不当利得返還請求の対象期間。以
下期間①という。)
販売個数

●(省略)●個(=●(省略)●)
売上額

●(省略)●円(=●(省略)●個*―421)

・平成28年12月3日~令和元年9月30日(損害賠償請求の対象期間のうち、消費税率8%の期間。以下期間②-1という。)販売個数
売上額

●(省略)●個(=●(省略)●)
●(省略)●円(=●(省略)●個*―421)

・令和元年10月1日~令和2年12月17日(損害賠償請求の対象期間のうち、消費税率10%の期間。以下期間②―2といい、これと期間②-1を併せて期間②という。)
販売個数
売上額

●(省略)●個(=●(省略)●)
●(省略)●円(=●(省略)●個*―429)

・期間②の売上額

合計●(省略)●円

控除すべき経費の額

(ア)侵害行為により侵害者が受けた利益の額(法39条2項)とは、侵害者の侵害品の売上高から、侵害者において侵害品を製造、販売することによりその製造、販売に直接関連して追加的に必要となった経費を控除した限界利益の額である。(イ)仕入原価
被告が被告製品1を1個あたりUS$●(省略)●で輸入したことは、当事者間に争いがない。また、後掲の証拠によれば、被告は、この被告製品1の輸入分の仕向送金決済として、以下のとおり支払ったこと(手数料を除く。)が認められる。


平成26年5月27日頃

●(省略)●円(甲79、乙33の1、弁論の全

趣旨。なお、算定に当たっては仕向送金決済時の為替レートに基づき円換算するのが本来相当であるが、同日発注分の決済時期は不明であることから、発注時の為替レートによることとする。)
●(省略)●


平成27年2月16日



平成27年12月2日

●(省略)●円(乙33の2、60の1)
●(省略)●円(乙33の3、60の2)


平成30年9月19日

●(省略)●円(乙33の4、60の3)

●(省略)●


平成31年3月20日

●(省略)●円(乙33の5、乙60の4)

以上の合計額は●(省略)●円であるところ、被告主張に係る製造・仕入原価は●(省略)●円であることにも鑑み、●(省略)●円をもって仕入原価として認める。
(上記のほか、乙63)
(ウ)輸入経費
証拠(乙33の2~33の5、34の2~34の5、63)及び弁論の全趣旨に
よれば、被告は、被告製品1の輸入に伴う海上運賃及び通関料等として、合計●(省略)●円を支払ったことが認められる。
これに加え、被告は、平成26年8月25日付の請求書(乙34の1の1)に係る被告製品1と他の製品(乙34の1の2はそのPURCHASEORDER)との海上運賃等についても、両製品の製造原価比で按分した分を被告製品1に係るものとし
て控除すべき旨を主張する。しかし、製造原価比で按分することの合理性を示す具体的な事情は見当たらないことなどから、当該海上運賃等をもって被告製品1の販売等に直接関連して追加的に必要となったものとはいえない。この点に関する被告の主張は採用できない。
(エ)検品費用

証拠(後掲のもの及び乙63)によれば、被告は、被告製品1の輸入に伴う検品費用として、以下のとおり、合計●(省略)●円を支払ったことが認められる(なお、為替レートについては、支払時期に最も近い時期の為替レートを採用した。)・
の1)

平成26年8月11日
●(省略)●


2)

平成27年3月4日

●(省略)●円(乙33の1、35の1、61

●(省略)●円(乙33の2、35の2、61の

●(省略)●

3)


同年12月14日

●(省略)●円(乙33の3、35の3、61の

●(省略)●
平成30年9月30日頃

●(省略)●円(乙33の4、35の4、60の

3。なお、この決済当時の為替レートは証拠上不明であることから、同一製品の仕入代金に係る仕向送金決済時のものによる。)
●(省略)●

4)

平成31年4月4日

●(省略)●円(乙33の5、35の5、61の

●(省略)●

(オ)倉庫保管料
被告は、輸入した被告製品1を倉庫で保管し、倉庫業者に対し坪数に応じた保管料を月額で支払っているとして、輸入の際の積載量等から算出した金額を経費として主張する。しかし、被告製品1の出入庫が随時行われていること(乙37の1、37の2)などを踏まえると、被告主張に係る計算方法により被告製品1に係る倉庫保管料を正確に算出し得ると考えることは必ずしもできないから、これをもって
被告製品1の販売等に直接関連して追加的に必要となったものとはいえない。この点に関する被告の主張は採用できない。
(カ)配送費用
証拠(乙36、37の1、37の2、39の1の1、39の2、63)によれば、被告製品1に係る●(省略)●は●(省略)●円、配送料は●(省略)●円
(合計●(省略)●円)であることが認められる。
また、証拠(乙34の1の1、34の1の2、34の2~34の5、36、40の1、63)によれば、●(省略)●について、輸入ごとに●(省略)●円、合計●(省略)●円であることが認められる。
被告は、さらに、コンテナ内に被告製品1以外の製品が積まれていた場合につい
て、被告製品1と他の製品との容積比で按分した分を被告製品1に係るものとして控除すべき主張する。しかし、他の製品が同一コンテナ内に積まれていた以上、その分の●(省略)●をもって被告製品1の販売等に直接関連して追加的に必要となったものとはいえない。また、●(省略)●との記載があることに鑑みると、当該コンテナに被告製品1のみが積まれていたか否かは不明であるため、この分の●(省略)●についても、被告製品1の販売等に直接関連して追加的に必要となったものとは認められない。
ウ限界利益の額
以上によれば、被告製品1を製造、販売等するに当たり直接関連して追加的に必要となった費用としては、合計●(省略)●円が認められる。
このうち、損害賠償請求の対象期間に販売された被告製品1に係る分は、総販売
数量●(省略)●個のうち、不当利得返還請求の対象期間に販売された被告製品1の数●(省略)●個を除いた数量である●(省略)●個に係るものといえる。したがって、売上額から控除すべき費用の額は、合計●(省略)●円と認められる。●(省略)●
これを損害賠償請求の対象である期間②の売上額(●(省略)●円)から控除し
た額である●(省略)●円が、被告製品1の限界利益となる。これに反する原告及び被告の主張はいずれも採用できない。

推定覆滅事由の有無等

(ア)法39条2項により、原則として侵害者が得た利益全額につき意匠権者の損害額として推定が及ぶものの、侵害者の側で、侵害者が得た利益の一部又は全部について、意匠権者が受けた損害との相当因果関係が欠けることを主張立証した場合には、その限度で上記推定は覆滅されるものと解される。推定を覆滅させる事情としては、侵害者が得た利益と意匠権者が受けた損害との間との相当因果関係を阻害する事情、例えば、意匠権者と侵害者の業務態様等の相違(市場の非同一性)、市場における競合品の存在、侵害者の営業努力(ブランド力、宣伝広告)、侵害品の
性能(機能その他意匠以外の特徴)等が挙げられる。
(イ)業務態様等の相違
a
証拠(後掲のもの)及び弁論の全趣旨によれば、次の事実が認められる。
すなわち、被告は、被告各製品を含む商品を、被告ブランドを付した生活雑貨品を販売する被告店舗等において販売している。被告店舗は、令和3年5月時点で全国に62店舗存在し、路面店もあるものの、ショッピングモール等商業施設のテナントとして開設されている店舗が多い。被告各製品は、被告店舗等以外の小売店やECサイトでは販売されていない。(甲41、81、109、乙43、50、57~59、弁論の全趣旨)
他方、原告は、原告各製品を、商業施設等に開設された小売店、ドラッグストア及び量販店等を通じて、また、原告サイトのほか一般的なECサイトの販売業者を
通じて販売している。(甲42、48、51、52、56~58)被告店舗が開設されている商業施設内において、原告の製品の取扱い実績がある店舗が開設されている例は、少なくとも140例ある(甲42。ただし、ここでいう取扱い実績のある原告の製品に原告各製品が含まれるかは不明である。)。また、アウトバスヘアグッズのプチプラコスメ人気おすすめランキングと題する
ウェブサイト(甲45)では、人気のプチプラアウトバスヘアグッズとして、原告製品1と被告製品1がいずれも取り上げられている。
販売価格は、被告製品1は390円(税抜)、原告製品1は1000円(税抜)である(甲3、4、乙6、12)。
b
検討

被告製品1と原告製品1は、共に頭部マッサージ具である。原告製品1は枝部の先端に形成された涙滴状部を頭部の形状に沿って押し当て、押しながらかき上げるといった使用方法が想定されている(乙1)のに対し、被告製品1は、枝部の先端に形成された涙滴状部を頭皮に押し当て、微細な振動を与えるといった使用方法が想定されている(甲3、4、乙29)。このように、両製品は、具体的な使用方法
は異にするものの、枝部の先端に形成された涙滴状部を頭皮等のマッサージ対象部位に押し当ててマッサージを行うものである点で、その基本的な用途を同じくする。両製品の販売価格には2倍以上の差があるものの、具体的な価格差は610円(税抜)であり、プチプラのもともとの意義はともかく、市場においてプチプラと呼ばれる廉価な生活雑貨品のカテゴリーにいずれも分類されることがある以上、両製品は、その価格差を踏まえても、市場において競合するものといえる。また、被告は、被告各製品を被告店舗等のみで販売しているものの、被告店舗の出店先の商業施設に原告の製品を取り扱う店舗も出店している例が多数ある。こうした商業施設では、需要者は、商業施設内の各店舗を巡って目的に適う同種製品を比較検討して購入することが可能であり、実際上も、このような行動はしばしば見受けられる。さらに、被告製品1が販売されているECサイトは被告サイトのみで
あるとしても、被告店舗等で被告製品1に触れた需要者が、他のECサイトで頭部マッサージ具を検索することは容易であり、これもしばしば見受けられる行動といえるのであって、その結果、複数のECサイトにおいて販売されている原告製品1が検索結果として表示されることも容易に推察される。
このような事情を踏まえれば、業務態様ないし販売チャンネルのあり方における
原告と被告との違いや被告製品1と原告製品1との価格差は、損害額の推定を覆滅すべき事情とはいえないか、いえるとしてもその程度は限られる。これに対し、被告は、被告店舗での取扱商品の多様さや、商品ラインナップにおける被告製品1の位置付けなどから、需要者は、被告店舗を訪れて被告製品1に触れた際に始めて被告製品1の存在を知り、そのまま衝動的に購入する場合が多く、
被告製品1が存在しなければそもそも頭部マッサージ具の需要が発生しないか、需要者が当初より被告製品1を購入する意思をもって被告サイトで被告製品1を購入しているため、被告製品1が販売されなくともその分の需要が原告製品1に吸収されるとはいえないなどと主張する。しかし、そのような需要者の購買行動等があり得るとしても、被告製品1の需要者の全てないし多くがそのように行動すると考え
るべき根拠はない。被告製品1が廉価なことを踏まえても、価格のみならずその機能やデザイン等を含む総合的な評価に基づいて、同種製品と比較検討の上で購入に至る需要者も一定数存在すると考えるのが、むしろ経験則に合致する。その他被告が縷々指摘する事情を考慮しても、この点に関する被告の主張は採用できない。
(ウ)競合品の存在
本件意匠1及び被告意匠1の各構成態様並びに原告製品1及び被告製品1の具体的な使用態様等を踏まえると、乙28の各ウェブサイト掲載商品に係る別紙被告主張の競合品一覧(本件意匠1)のうち、少なくとも①、②、④~⑥、⑨、⑩、⑮、⑳、㉑は、原告製品1及び被告製品1の競合品と認められる。そうすると、被告製品1が市場に存在しない場合、被告製品1に係る需要の全て
が原告製品1に吸収されるとは限らないから、これらの競合品の存在は、被告が得た利益と原告が受けた損害との間との相当因果関係を阻害するものとして、損害額の推定を一定程度覆滅させる事情として考慮すべきである。
(エ)被告の営業努力等
証拠(甲41、乙45~49)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、約6年の間
に全国的に被告店舗を多数展開し(令和3年5月時点で62店舗)、複数のウェブサイトで人気の生活雑貨店として取り上げられていることが認められることなどを踏まえると、被告ブランドは一定程度需要者に認知されているとうかがわれる。もっとも、被告自身、被告製品1につき被告の主力商品として販売されていたものではないと主張していることに加え、被告製品1に特化した宣伝広告等がされた
ことを認めるに足りる証拠もないこと、廉価な生活雑貨品という被告製品1の性格等を踏まえると、被告製品1を購入する需要者にとって、被告ブランドの取扱商品であることが主な購入の理由ないし動機となっているとは考え難い。その他被告の格別な営業努力が被告製品1の売上増加に貢献していると見るべき具体的な事情はない。

したがって、被告の営業努力等は、損害額の推定を覆滅すべき事情とはいえないか、いえるとしてもその程度は限られる。
(オ)侵害品の性能
前記((イ)b)のとおり、被告製品1は、枝部の先端に形成された涙滴状部を頭皮に押し当て、微細な振動を与えることにより頭皮をマッサージする効果を奏する商品であり、涙滴状部を頭部の形状に沿って押し当て、押しながらかき上げるといった使用方法が想定されている原告製品1とは、その具体的な使用方法において異なる。この使用方法の相違は、実用品である頭部マッサージ具の機能に関わるものである。実用品である以上、商品の機能性は、デザインと同等かそれ以上に需要者の商品選択において重要な要因として位置付けられる。このことは、被告が商品デザインを重視した商品開発を行い、需要者に対してこれを訴求していることがうか
がわれること(甲81~83)などを考慮しても異ならない。
したがって、原告製品1と被告製品1の具体的な使用方法の相違すなわち機能面の相違は、損害額の推定を相当程度覆滅すべき事情といえる。
(カ)覆滅の程度
以上の事情を総合的に考慮すると、本件では、被告製品1に係る原告の損害額の
推定につき、4割の限度で覆滅されるとするのが相当である。これに反する原告及び被告の各主張はいずれも採用できない。
そうすると、被告の本件意匠権1侵害による原告の損害額は、●(省略)●円(=―●(省略)●*(1-0.4))となる。

法39条2項及び3項の重畳適用、実施料率

(ア)法39条2項による損害額の推定覆滅に係る部分については、同項に基づく推定が覆滅されるとはいえ、無許諾で実施されたことに違いはない以上、当該部分に係る損害評価が尽くされたとはいえない。したがって、当該部分については、同条3項が重畳的に適用されると解するのが相当である。この点に関する被告の主張は採用できない。

(イ)実施に対し受けるべき金銭の額
意匠の実施に対し受けるべき金銭の額(法39条3項)すなわち意匠の実施に対し受けるべき料率は、当該意匠の実際の実施許諾契約における実施料率や、それが明らかでない場合には業界における実施料の相場等も考慮に入れつつ、当該意匠自体の価値、当該意匠を当該製品に用いた場合の売上及び利益への貢献や侵害の態様、意匠権者と侵害者との競業関係や意匠権者の営業方針等訴訟に現れた諸事情を総合的に考慮して、合理的な料率を定めるべきである。また、その際、必ずしも当該意匠権についての実施許諾契約における実施料率に基づかなければならない必然性はなく、意匠権侵害をした者に対して事後的に定められるべき、実施に対し受けるべき料率は、むしろ、通常の実施料率に比べて自ずと高額になるであろうことを考慮すべきである。

また、不当利得返還請求に関し、当該受けるべき金銭の額に相当する額は、本来、意匠権者がその登録意匠の実施に当たり意匠権者に対して支払うべきであった実施料相当額であるから、侵害者がこれを支払うことなく登録意匠を実施した場合は、その実施により、侵害者は同額の利得を得、意匠権者は同額の損失を受けたものと評価することができる。したがって、法39条3項の受けるべき金銭の額に相当する額が不当利得における受益者の利得の額に相当し、かつ、権利者の損失の額に相当すると認めるのが相当である。
(ウ)まず、本件意匠権1に係る実施許諾契約が締結されたことを認めるに足りる証拠はなく、その他原告が本件意匠権1に係る実施許諾契約を締結する場合に定める実施料率をうかがわせる事情はない。

また、実施料率〔第5版〕技術契約のためのデータブック(甲59)によれば、プラスチック製品の技術分野(その対象には、

プラスチック板・棒・管・継手・異形押出製品製造技術、…その他のプラスチック製品製造技術

であり、その他のプラスチック製品とはプラスチック製台所用品・浴室用品等であるが、プラスチック製の家具(29)・ブラシ(31)・履物(27)等は含まれ
ない。)における外国技術導入契約の実施料(許諾製品の出来高にリンクした料率表示であったもの)につき、平成4年度~平成10年度の外国技術導入契約(イニシャルロイヤリティがないもの。63件)の場合、平均値は3.9%、中央値は3%であった(なお、甲59には、このほかに技術分野をゴム製品とする項も存するが、その対象は、タイヤ・チューブ製造技術、ゴム製・プラスチック製履物・同付属品製造技術等であり、被告製品1の分野と類似するものがないから、これを参考とするのは相当でない。)。また、ロイヤルティ料率データハンドブック~特許権・商標権・プログラム著作権・技術ノウハウ~(甲60)によれば、個人用品または家庭用品の技術分類における実施料率(13件)は、平均が3.5%、標準偏差1.6%、最大値7.5%、最小値0.5%であり、健康;人命救助;娯楽の技術分類(54件)では、平均5.3%、標準偏差3.2%、最大値
14.5%、最小値0.5%である。
さらに、前記(エ(イ)b、エ(オ))のとおり、被告製品1の需要者は、製品の機能を中心に、デザイン及び価格性を総合的に考慮した上で商品選択を行うものと見られることから、本件意匠1ないしこれに類似する被告意匠1を用いた場合の売上及び利益への貢献の程度の評価にあたっても、これを踏まえる必要がある。
加えて、原告製品1と被告製品1はいずれも頭部マッサージ具であることに加え、原告と被告は、取扱い商品や販売店舗の出店先が相当程度に重複していることから、高い程度で競合関係にあるといえる。このため、仮に原告が被告に対し本件意匠権1に係る実施許諾契約を締結するならば、その実施料は高めに設定されるのが通常であると考えられる。しかも、証拠(甲64~69)及び弁論の全趣旨によ
れば、原告は、自己の保有する登録意匠に係る侵害品の防止に積極的に努めていることがうかがわれる。
以上の事情に加え、意匠権侵害に基づく損害賠償請求の場面での仮想実施料率の考察であることを総合的に考慮すると、本件意匠権1を侵害した者に対して事後的に定められるべき、実施に対し受けるべき料率は5%を下らないというべきであ
る。これに反する原告及び被告の主張はいずれも採用できない。
そうすると、法39条3項により認められる損害賠償請求の額は、●(省略)●円(≒―●(省略)●*0.4*0.05)となる。
カ弁護士費用相当額
原告は、本件訴訟の提起及び追行につき弁護士に委任したところ、被告の本件意匠権1侵害の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額は、法39条2項及び同項3項による損害賠償請求の合計額●(省略)●円の10%である●(省略)●円と認めるのが相当である。
キ小括
以上によれば、本件意匠権1につき、原告が被告に対して請求し得る損害賠償額及び不当利得返還請求額は、次のとおりである。

(ア)不当利得返還請求額

●(省略)●円

―●(省略)●(期間①の売上額)*0.05(実施料率)=―●(省略)●(イ)損害賠償請求額

合計●(省略)●円

―●(省略)●(法39条2項及び3項)+―●(省略)●(弁護士費用相当額)
=―●(省略)●

(ウ)遅延利息・遅延損害金
a
遅延利息

原告は、被告に対し、平成27年9月24日付け書面(乙26)により、被告製品1が本件意匠権1の侵害と考えられる旨等を通知し、同書面は、その頃、被告に到達した。したがって、被告は、遅くとも平成28年12月3日以前の時点で、原告に対して実施料を支払わないことにより同額分の利益を受けていることについて悪意であったといえる。したがって、原告の被告に対する不当利得返還請求については、平成28年12月3日以降の改正前民法所定の5%の割合による遅延利息の請求が認められる(民法704条)。

b
遅延損害金

原告は、令和2年3月までの被告製品1の販売分については不法行為後である同年4月1日以降の改正前民法所定の5%の割合による遅延損害金の、同年4月以降の販売分については不法行為後の令和3年4月1日以降の民法所定の3%の割合による遅延損害金の支払を求めているところ、損害賠償請求の合計額●(省略)●円を対応する期間の販売数量により按分すると、令和2年3月まで(販売数量●(省略)●個)が●(省略)●円、同年4月以降(販売数量●(省略)●個)が●(省略)●円となる。したがって、それぞれにつき、原告は、被告に対し、上記各割合による遅延損害金請求権を有する。
(2)本件意匠権2関係
(内訳等の詳細は、別紙損害額等一覧表(裁判所の認定)の本件意匠権2の各欄及び別紙被告各製品売上表(裁判所の認定)の被告製品2の各欄参照)

売上額について

(ア)仕入数量
被告が被告製品2を●(省略)●個輸入したことは、当事者間に争いがない。(イ)在庫数量
証拠(乙32の3、63)及び弁論の全趣旨によれば、令和3年5月6日時点における被告製品2の在庫数量は、●(省略)●個と認められる。
(ウ)ロス率
被告製品2が遅くとも令和元年8月1日から販売されたことは、当事者間に争い
がない。他方、販売期間の終期については、証拠(甲100、101、103、105~107)及び弁論の全趣旨によれば、被告製品2は、少なくとも令和2年12月17日頃まで販売されたことが認められる。
また、証拠(乙32の3、63、68)によれば、被告販管システム上、令和元年7月1日~令和2年12月7日の間における被告製品2のロス数は、●(省略)
●個とされていることが認められる。ロス数計上の対象期間と上記認定に係る被告製品2の販売期間と概ね一致することなどから、被告製品2のロス率については、●(省略)●%と認めるのが相当である。
●(省略)●%
(エ)販売数量
以上より、被告による被告製品2の販売数量は、合計●(省略)●個と認められる。
●(省略)●個
(オ)単価
被告製品2の単価が290円(税抜)であることは、当事者間に争いがない。法39条2項の利益の額の算定にあたり消費税込の売上額をもとに算定すべ
きことは、前記((1)ア(オ))のとおりである。
そうすると、被告製品2の税込単価は、令和元年9月30日までは313円、同年10月1日以降は319円となる。
(カ)売上額
被告製品1の場合と同様に、被告製品2についても、各月の販売数量を直接示す
証拠は見当たらず、また、その販売期間内における各月の販売数量の大きな変動をうかがわせる証拠も見当たらない。そこで、被告製品2に関しても、各月に概ね均等に販売されたものと見て、販売数量(●(省略)●個)及び販売期間(令和元年8月1日~令和2年12月17日。16か月17日)に基づき、1か月あたり●(省略)●個(1日あたり●(省略)●個)とし、令和2年12月は17日間で●
(省略)●個販売されたものと認めるのが相当である。
●(省略)●個/月
●(省略)●個
そうすると、各期間における販売個数及び売上額は、以下のとおり、合計●(省略)●円となる。

・令和元年8月及び同年9月
販売個数

●(省略)●個(=●(省略)●個*2)
売上額

●(省略)●円(=●(省略)●個*―313/個)

・同年10月1日~令和2年12月17日
販売個数
売上額

●(省略)●個(●(省略)●個*14月+●(省略)●個)
●(省略)●円(=●(省略)●個*―319/個)=―●(省略)●
控除すべき経費の額

(ア)仕入原価
被告が被告製品2を1個当たりUS$●(省略)●で輸入したことは、当事者間に争いがない。また、証拠(乙33の6、38の5、60の5)及び弁論の全趣旨によれば、被告は、被告製品2の仕向送金決済として、●(省略)●円を支払ったことが認められる。
●(省略)●
(イ)輸入経費及び検品費用
証拠(乙33の6、34の6、63)によれば、被告製品2は、他の製品と同梱されて輸入されたことが認められる。このため、被告が被告製品2の輸入に伴う海
上運賃及び通関料等として支払った金額を具体的に特定することはできないから、これを控除すべき経費とすることはできない。この点につき、被告は、被告製品2と他の被告製品と製造原価比で按分した分を被告製品2に係るものとして控除すべき旨を主張するところ、これをもって被告製品2の販売に直接関連して追加的に必要となったものとはいえないことは、前記(1)イ(ウ)と同様である。
検品費用についても、証拠(乙33の6、35の6、61の5)によれば、被告が被告製品2の検品費用として支払った金額を具体的に特定することはできないから、上記と同様に、これを控除すべき経費とすることはできない。(ウ)倉庫保管料
被告主張に係る倉庫保管料については、被告製品1の場合(前記(1)イ(オ))と同
様に、これを控除すべき経費とすることはできない。
(エ)配送費用
証拠(乙36、37の3、39の3の1、63)によれば、被告製品2に係る●(省略)●、合計●(省略)●円であることが認められる。
他方、●(省略)●というのであり、被告製品2のためのものとして支払った金額を具体的に特定することができない。したがって、これらは、いずれも控除すべき経費とすることはできない。この点につき、被告は、●(省略)●をもって被告製品2の出荷の際に要したものとして控除すべき旨を主張する。しかし、その割合を具体的に裏付ける証拠もないことなどから、この点に関する被告の主張は採用できない。
●(省略)●については、被告製品2は●(省略)●というのであるから、被告
製品1の場合(前記(1)イ(カ))と同様に、これをもって被告製品2の販売等に直接関連して追加的に必要となったものとはいえない。
(オ)デザイン・金型費用等
被告は、被告製品2の開発にあたり外注先に支払ったデザイン・金型費用等につき、控除すべき経費である旨主張する。

しかし、その裏付け資料とされる平成30年7月31日付け御請求書(乙41)によれば、商品名欄には、●(省略)●との記載があるものの、これらの記載と被告製品2(なお、商品名はフィンガーリフレッシャーである。甲7等)との関連性は証拠上明らかでない。また、被告の主張を前提としても、上記請求書の商品名欄記載の項目のうち前2者については被告製品2以外の製品に係
る費用が含まれているところ、上記各項目につき、被告の主張額が被告製品2に係る費用であることを的確に裏付ける証拠もない。
したがって、上記費用等につき、被告製品2の販売に直接関連して追加的に必要となったものとはいえない。この点に関する被告の主張は採用できない。ウ限界利益の額

以上によれば、被告製品2を製造、販売等するに当たり直接関連して追加的に必要となった経費としては、合計●(省略)●円が認められる。
そうすると、被告製品2に係る限界利益の額は、売上額合計●(省略)●円から経費合計●(省略)●円を控除した●(省略)●円と認められる。エ
推定覆滅事由の有無等

(ア)業務態様等の相違
業務態様等の相違に関しては、概ね被告製品1の場合(前記(1)エ(イ))と同様である。
販売価格につき、被告製品2が290円(税抜)であり、原告製品2が900円(税抜)であるところ(甲7、乙21)、約3倍の価格差とはいえ、具体的には610円であること、より販売価格の高い被告製品1と原告製品1とがプチプラ
と呼ばれる廉価な生活雑貨品のカテゴリーに分類される以上、被告製品2と原告製品2も同様に分類されると考えられることに鑑みれば、被告製品2と原告製品2は、その価格差を踏まえても、市場において競合するものといえる。(イ)競合品の存在
本件意匠2及び被告意匠2の各構成態様並びに原告製品2と被告製品2の具体的
な使用態様等を踏まえると、乙31の各ウェブサイト掲載商品に係る別紙被告主張の競合品一覧(本件意匠2)の①~⑪は、いずれも原告製品2及び被告製品2の競合品であると認められる。
そうすると、被告製品2が市場に存在しない場合、被告製品2に係る需要の全てが原告製品2に吸収されるとは限らないから、これらの競合品の存在は、被告が得
た利益と原告が受けた損害との間との相当因果関係を阻害するものとして、損害額の推定を一定程度覆滅させる事情として考慮すべきである。
(ウ)被告の営業努力等
被告製品1の場合(前記(1)エ(エ))と同様に、被告の営業努力等は、損害額の推定を覆滅すべき事情とはいえないか、いえるとしてもその程度は限られる。
(エ)被告製品2における本件意匠2の位置付け等
本件意匠2は、本件図面2のとおり、指マッサージ器の構成のうち、ローラー及びこれを直接支持する先端部分を除いた支持部を含む把持部と柄からなる部分意匠である。
被告製品2及び原告製品2の指マッサージ器は、いずれも、2つのローラーの間に施術対象である手指等を挟み、その状態でローラーを往復させることにより所望のマッサージ効果を得るものである。このように、両製品はいずれも実用品である以上、商品の機能性は、デザインと同等かそれ以上に需要者の商品選択において重要な要因として位置付けられる。しかも、上記マッサージ効果は、直接的には手指等を挟むローラーによって実現されるものであるから、機能性及びデザイン性のいずれの観点からも、需要者は、指に直接当たり、マッサージ効果や使い心地に直結
するローラー自体の形状、材質、硬さ等に最も注目するといえる。他方、それ以外の把持部及び柄については、持ちやすさや操作性(挟みやすさ、力加減の調整のしやすさ等)に影響することから、需要者にとって、機能性の観点から相応の注目を引くものの、ローラー部分と比較すると二次的なものにとどまると思われる。さらに、これらの部分のデザイン性は、機能性の観点から需要者の注目を引く程度を少
なくとも超えるものではないと考えられる。このことは、前記(1)エ(オ)のとおり、被告が商品デザインを重視した商品開発を行い、需要者に対してこれを訴求しているとうかがわれることなどを考慮しても異ならない。
したがって、本件意匠2は指マッサージ器のローラー部分を含まない部分意匠であることは、被告製品2の販売等により被告が得た利益と原告が受けた損害との相
当因果関係を阻害する事情として、相当程度考慮すべきである。
(オ)覆滅の程度
以上の事情を総合的に考慮すると、本件では、被告製品2に係る原告の損害額の推定につき、6割の限度で覆滅されるとするのが相当である。これに反する原告及び被告の主張はいずれも採用できない。

そうすると、被告の本件意匠権2の侵害による原告の損害額は、●(省略)●円(=―●(省略)●*(1-0.6))となる。
オ法39条2項及び3項の重畳適用、実施料率
被告製品2に係る実施に対し受けるべき金銭の額については、概ね被告製品1の場合(前記(1)オ)と同様に考えられる。もっとも、被告製品2は、指マッサージ器において需要者の注意を最も惹く部分であるローラー部分を除いた部分意匠である本件意匠2を実施したものであることを踏まえると、頭部マッサージにあたり直接頭皮に触れる部分の意匠である本件意匠1を実施した被告製品1の場合に比して、より控えめに考えるのが相当である。
したがって、本件意匠権2を侵害した者に対して事後的に定められるべき、実施に対し受けるべき料率は3%を下らないというべきである。これに反する原告及び
被告の主張はいずれも採用できない。
そうすると、法39条3項により認められる損害賠償請求の額は、●(省略)●円(=―●(省略)●*0.6*0.03)となる。

弁護士費用相当額

原告は、本件訴訟の提起及び追行につき弁護士に委任したところ、被告の本件意匠権2侵害の不法行為と相当因果関係のある弁護士費用相当額は、法39条2項及び同項3項による損害賠償請求の合計額●(省略)●円の10%である●(省略)●円と認めるのが相当である。

小括

以上によれば、本件意匠権2につき、原告が被告に対して請求し得る損害賠償額は、次のとおりである。
(ア)損害賠償請求

合計●(省略)●円

―●(省略)●(法39条2項及び3項)+―●(省略)●(弁護士費用相当額)
=―●(省略)●
(イ)遅延損害金
原告は、令和2年3月までの被告製品2の販売分については不法行為後の同年4月1日以降の改正前民法所定の5%の割合により、同年4月以降の販売分については不法行為後の令和3年4月1日以降の民法所定の3%の割合による遅延損害金の支払を求めているところ、損害賠償請求の合計額●(省略)●円を対応する期間の販売数量により按分すると、令和2年3月まで(販売数量●(省略)●個)が●(省略)●円、同年4月以降(販売数量●(省略)●個)が●(省略)●円となる。したがって、それぞれにつき、原告は、被告に対し、上記各所定の割合による遅延損害金請求権を有する。
(3)まとめ
以上より、原告は、被告に対し、以下の請求権を有する。


本件意匠権1について

・●(省略)●円の不当利得返還請求権及びこれに対する平成28年12月3日から支払済みまで年5%の割合による遅延利息支払請求権
・不法行為に基づく●(省略)●円の損害賠償請求権、並びにうち●(省略)●円に対する令和2年4月1日から支払済みまで改正前民法所定の年5%の割合による遅延損害金請求権、及びうち●(省略)●円に対する令和3年4月1日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金請求権

本件意匠権2について

不法行為に基づく●(省略)●円の損害賠償請求権、並びにうち●(省略)●円に対する令和2年4月1日から支払済みまで改正前民法所定の年5%の割合による遅延損害金請求権、及びうち●(省略)●円に対する令和3年4月1日から支払済みまで民法所定の年3%の割合による遅延損害金請求権
第5

結論

よって、原告の請求は、主文の限度で理由があるから、その限度で認容し、その余の請求は理由がないから、これらをいずれも棄却することとする。なお、主文第1項及び第2項については、仮執行の宣言を付すのは相当でないから、これを付さないこととする。
大阪地方裁判所第26民事部

裁判長裁判官

杉浦正樹杉浦一輝布目真
裁判官

裁判官

別紙意匠公報省略
別紙被告主張の競合品一覧省略
利子
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