判例検索β > 平成31年(ワ)第1439号
損害賠償等請求事件
事件番号平成31(ワ)1439
事件名損害賠償等請求事件
裁判年月日令和3年11月4日
法廷名大阪地方裁判所
判示事項1 市が介護保険法上の指定居宅サービス事業者等の指定を市長から受けた事業者に対してした実地指導及びその後の指導が,強制にわたる違法なものであるとはいえないとされた事例 2 市が,介護保険法上の指定居宅サービス事業者等の指定を市長から受けた事業者に対し,事業者が提供したとする指定居宅サービスに関して同法や「高槻市指定居宅サービス事業者の指定並びに指定居宅サービス等の事業の人員,設備及び運営に関する基準を定める条例」等の規定に違反していないかを検討させ,違反がある場合には当該指定居宅サービスに関して受領していた居宅介護サービス費等を市に返還するように促す指導をしたことが,同法及び同条例等の趣旨に反するものではないとされた事例
裁判要旨1 市が介護保険法上の指定居宅サービス事業者等の指定を市長から受けた事業者に対してした実地指導及びその後の指導は,次の⑴~⑶など判示の事情の下においては,強制にわたる違法なものであるということはできない。  ⑴ 上記実地指導及びその後の指導は,同法に係る介護保険給付における事業者等による不適正な請求の防止等の実現を図るためにその一環としてされたものであり,その内容も,飽くまで上記事業者が提供したとする指定居宅サービスについて任意に点検することを促した上で,法令に違反する指定居宅サービスの提供があった場合には当該指定居宅サービスに関して受領していた居宅介護サービス費を自主的に返還するように促すものであった。  ⑵ 上記実地指導をした際に,上記事業者の運営する事業所において,指定居宅サービスに関して作成・保管すべき訪問介護計画書等の書類が存在しないなど,書類の管理について重大な不備が多数あることが判明しており,市は,上記の書類の管理状況を踏まえて実地指導後の指導をしたものであった。  ⑶ 上記事業者の代表者は,上記⑵の不備があることを認めた上で,長期にわたり継続的に,上記実地指導及びその後の指導に関する市の職員との協議に応じていた。 2 市が,介護保険法上の指定居宅サービス事業者等の指定を市長から受けた事業者に対し,事業者が提供したとする指定居宅サービスに関して同法や「高槻市指定居宅サービス事業者の指定並びに指定居宅サービス等の事業の人員,設備及び運営に関する基準を定める条例」等の規定に違反していないかを検討させ,違反がある場合には当該指定居宅サービスに関して受領していた居宅介護サービス費等を市に返還するように促す指導をしたことは,次の⑴,⑵など判示の事情の下においては,同法及び同条例等の趣旨に反するものではない。 ⑴ 市が上記事業者に対して実地指導をした際に,上記事業者の運営する事業所において,指定居宅サービスを提供する前提となる訪問介護計画書等の書類に関し,書類が存在しない,同条例に定められたサービス提供責任者以外の者が書類を作成している,利用者に対する説明日の記載が不完全であるなど同法及び同条例に違反する不備が多数あることが判明していた。 ⑵ 上記事業所において,訪問介護計画書等の同法及び同条例に定められた書類を作成しないまま指定居宅サービスを提供することなどが常態化していたのではないかとの疑義が生じていた。
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2021-11-04
情報公開日2022-03-24 04:00:12
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
令和3年11月4日判決言渡
平成31年(ワ)第1439号

損害賠償等請求事件
主文12
原告の請求をいずれも棄却する。
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求

(主位的請求)
被告は,原告に対し,2020万1697円及びこれに対する平成28年11月1日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

(予備的請求)
被告は,原告に対し,1978万7270円及びこれに対する平成31年2月28日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2
事案の概要
原告は,高槻市長から居宅サービス事業者等として指定を受け,指定居宅サー
ビス事業等を営む法人であったところ,被告の職員による指導を受けて,平成28年,被告及び上記サービスの利用者に対し,受領済みの居宅介護サービス費等合計約2000万円を返還した。
本件は,原告が,被告に対し,①被告の上記指導は,㋐被告の職員が原告に対して上記返還を強要した点において違法なものであり,また,㋑介護保険法等の趣旨に反するものであった点において違法なものであったなどと主張して,主位的に,国家賠償法1条1項に基づき,損害賠償金2020万1697円及びこれに対する居宅介護サービス費等を最後に返還した日の翌日である平成28年11月1日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所
定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるとともに,②被告が法律上の原因がないのに上記居宅介護サービス費等のうち被告に返還された部分を受
領して利益を受けたなどと主張して,予備的に,民法703条に基づき,不当利得金1978万7270円及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成31年2月28日から支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。1
関係法令等の定め等


介護保険法
介護保険法は,同法による保険給付を主として介護給付(要介護状態に関するもの)と予防給付(要支援状態に関するもの)に大別し(同法18条,7条1項,同条2項),保険給付に係る通則的な規定(第4章第1節。下記ア,
イ参照)を置くとともに,介護給付(居宅介護サービス費の支給等)に関する規定(第4章第3節。下記ウ参照),予防給付(介護予防サービス費の支給等)に関する規定(第4章第4節。下記キ参照)を置き,また,指定居宅サービス事業者に関する規定(第5章第2節。下記エ~カ参照),指定介護予防サービス事業者に関する規定(第5章第6節。下記キ参照)を置いている。

不正利得の徴収等
介護保険法22条3項は,市町村は,同法41条1項に規定する指定居宅サービス事業者又は同法53条1項に規定する指定介護予防サービス事業者等が,偽りその他不正の行為により同法41条6項又は同法53条4項等の規定による支払を受けたときは,当該指定居宅サービス事業者又は当該指定介護予防サービス事業者等から,その支払った額につき返還させ
るべき額を徴収するほか,その返還させるべき額に100分の40を乗じて得た額を徴収することができる旨定める。

文書の提出等,帳簿書類の提示等
(ア)

文書の提出等
介護保険法23条は,市町村は,保険給付に関して必要があると認め
るときは,当該保険給付を受ける者若しくは当該保険給付に係る居宅サ
ービス等(訪問介護等の居宅サービス〔介護保険法8条1項〕及び介護予防訪問入浴介護等の介護予防サービス〔介護保険法8条の2第1項。なお,平成26年法律第83号による改正前の同項においては,介護予防訪問介護が介護予防サービスの1つとして定められていた。〕等)を担当する者に対し,文書その他の物件の提出若しくは提示を求め,若し
くは依頼し,又は当該職員に質問若しくは照会をさせることができる旨定める。
(イ)

帳簿書類の提示等
介護保険法24条1項は,厚生労働大臣又は都道府県知事は,介護給
付等に関して必要があると認めるときは,居宅サービス等を行った者又
はこれを使用する者に対し,その行った居宅サービス等に関し,報告若しくは当該居宅サービス等の提供の記録,帳簿書類その他の物件の提示を命じ,又は当該職員に質問させることができる旨定める。

居宅介護サービス費の支給
(ア)

居宅介護サービス費の支給
介護保険法41条1項本文は,市町村は,要介護認定を受けた被保険
者のうち居宅において介護を受けるもの(以下居宅要介護被保険者という。)が,都道府県知事(地方自治法252条の19第1項の指定都市及び同法252条の22第1項の中核市については,市長。以下同じ。)が指定する者(以下指定居宅サービス事業者という。)から当該指定に係る居宅サービス事業(居宅サービスを行う事業)を行う事業所により行われる居宅サービス(以下指定居宅サービスという。)を受けたときは,当該居宅要介護被保険者に対し,当該指定居宅サービスに要した費用(一部を除く。)について,居宅介護サービス費を支給す
る旨定める。
(イ)

居宅介護サービス費の額

介護保険法41条4項は,居宅介護サービス費の額は,同項各号に掲げる居宅サービスの区分に応じ,当該各号に定める額とする旨定め,同項1号は,
訪問介護,訪問入浴介護,訪問看護,訪問リハビリテーション,居宅療養管理指導,通所介護,通所リハビリテーション及び福祉用具貸与については,これらの居宅サービスの種類ごとに,当該居宅サービスの種類に係る指定居宅サービスの内容,当該指定居宅サービスの事業を行う事業所の所在する地域等を勘案して算定される当該指定居宅サービスに要する平均的な費用の額を勘案して厚生労働大臣が定める基準により算定した費用の額(その額が現に当該指定居宅サービスに要し
た費用の額を超えるときは,当該現に指定居宅サービスに要した費用の額とする。)の100分の90に相当する額とする旨定める。
(ウ)

市町村の支払の要件
介護保険法41条6項は,居宅要介護被保険者が指定居宅サービス事
業者から指定居宅サービスを受けたとき(当該居宅要介護被保険者が同法46条4項の規定により指定居宅介護支援〔都道府県知事の指定に係る居宅介護支援事業を行う事業所により行われる居宅介護支援。平成26年法律第83号による改正前の同条1項参照。〕を受けることにつきあらかじめ市町村に届け出ている場合であって,当該指定居宅サービスが当該指定居宅介護支援の対象となっている場合その他の厚生労働省令
で定める場合に限る。)は,市町村は,当該居宅要介護被保険者が当該指定居宅サービス事業者に支払うべき当該指定居宅サービスに要した費用について,居宅介護サービス費として当該居宅要介護被保険者に対し支給すべき額の限度において,当該居宅要介護被保険者に代わり,当該指定居宅サービス事業者に支払うことができる旨定める。

介護保険法施行規則64条(平成27年厚生労働省令第4号による改正前のもの。以下同じ。)柱書きは,介護保険法41条6項の厚生労働
省令で定める場合は,次のとおりとする旨定め,介護保険法施行規則64条1号は,居宅要介護被保険者が指定居宅サービスを受ける場合であって,同号イ~ニのいずれかに該当するときとする旨定める。そして,同号イは,当該居宅要介護被保険者が介護保険法46条4項の規定により指定居宅介護支援を受けることにつきあらかじめ市町村に届け出ている場合であって,当該指定居宅サービスが当該指定居宅介護支援に係る居宅サービス計画の対象となっているときを掲げる(なお,居宅介護支援とは,居宅要介護者が指定居宅サービス等の適切な利用等をすることができるよう,当該居宅要介護者の依頼を受けて,その心身の状況等を
勘案し,利用する指定居宅サービス等の種類及び内容,これを担当する者その他厚生労働省令で定める事項を定めた計画〔居宅サービス計画〕を作成するとともに,当該居宅サービス計画に基づく指定居宅サービス等の提供が確保されるよう,指定居宅サービス事業者等との連絡調整その他の便宜の提供等を行うことである。)。

(エ)

市町村の支払の効果
介護保険法41条7項は,
同条6項の規定による支払があったときは,

居宅要介護被保険者に対し居宅介護サービス費の支給があったものとみなす旨定める。
(オ)
市町村の支払の際の審査
介護保険法41条9項は,市町村は,指定居宅サービス事業者から居
宅介護サービス費の請求があったときは,同条4項各号の厚生労働大臣が定める基準並びに同法74条2項に規定する指定居宅サービスの事業の設備及び運営に関する基準(指定居宅サービスの取扱いに関する部分に限る。)に照らして審査した上,支払うものとする旨定める。
介護保険法74条2項は,同条1項に規定するもののほか,指定居宅サービスの事業の設備及び運営に関する基準は,都道府県の条例で定め
る旨定める。

指定居宅サービス事業者の指定
介護保険法70条1項は,同法41条1項本文の指定は,厚生労働省令で定めるところにより,居宅サービス事業を行う者の申請により,居宅サービスの種類及び当該居宅サービスの種類に係る居宅サービス事業を行う
事業所ごとに行う旨定める。

指定居宅サービスの事業の基準
介護保険法73条1項は,指定居宅サービス事業者は,同法74条2項に規定する指定居宅サービスの事業の設備及び運営に関する基準に従い,要介護者の心身の状況等に応じて適切な指定居宅サービスを提供するとと
もに,自らその提供する指定居宅サービスの質の評価を行うことその他の措置を講ずることにより常に指定居宅サービスを受ける者の立場に立ってこれを提供するように努めなければならない旨定める。

指定居宅サービス事業者に対する勧告,公表,命令,指定の取消し等(ア)

勧告
介護保険法76条の2第1項(平成29年法律第52号による改正前
のもの)柱書きは,都道府県知事は,指定居宅サービス事業者が,同項各号に掲げる場合に該当すると認めるときは,当該指定居宅サービス事業者に対し,期限を定めて,それぞれ当該各号に定める措置をとるべきことを勧告することができる旨定め,同項3号は,介護保険法74条2項に規定する指定居宅サービスの事業の設備及び運営に関する基準に従って適正な指定居宅サービスの事業の運営をしていない場合について,当該指定居宅サービスの事業の設備及び運営に関する基準に従って適正な指定居宅サービスの事業の運営をすることを掲げる。

(イ)

公表
介護保険法76条の2第2項は,都道府県知事は,同条1項の規定に
よる勧告をした場合において,その勧告を受けた指定居宅サービス事業者が同項の期限内にこれに従わなかったときは,その旨を公表することができる旨定める。
(ウ)

命令
介護保険法76条の2第3項は,都道府県知事は,同条1項の規定に
よる勧告を受けた指定居宅サービス事業者が,正当な理由なくその勧告に係る措置をとらなかったときは,
当該指定居宅サービス事業者に対し,
期限を定めて,その勧告に係る措置をとるべきことを命ずることができる旨定める。
(エ)

指定の取消し等
介護保険法77条1項
(平成29年法律第52号による改正前のもの)

柱書きは,都道府県知事は,同項各号のいずれかに該当する場合においては,当該指定居宅サービス事業者に係る同法41条1項本文の指定を取り消し,又は期間を定めてその指定の全部若しくは一部の効力を停止することができる旨定める。


指定介護予防サービスについて
介護保険法は,指定介護予防サービスや,指定介護予防サービス事業者が指定介護予防サービスを利用者に提供した場合の介護予防サービス費の支給等について,上記ウ~カと同様の定めを置いている(上記ウにつき介護保険法53条1項,同条2項,同条4項,同条6項,115条の4第2
項及び介護保険法施行規則83条の91号イ。また,上記エにつき介護保険法115条の2第1項,上記オにつき同法115条の3第1項,上記カにつき同法115条の8第1項柱書き,同項3号,同条2項,同条3項,115条の9第1項)(上記⑴ウ~カ参照)。


指定居宅サービス等基準条例
高槻市指定居宅サービス事業者の指定並びに指定居宅サービス等の事業の人員,設備及び運営に関する基準を定める条例(平成24年高槻市条例第54号。乙2,23。以下指定居宅サービス等基準条例という。)は,次のとおり定める。

居宅サービス計画に沿ったサービスの提供
指定居宅サービス等基準条例17条は,指定訪問介護事業者(指定居宅
サービスに該当する訪問介護の事業を行う者)は,居宅サービス計画が作成されている場合は,当該計画に沿った指定訪問介護を提供しなければならない旨定める。

サービスの提供の記録
指定居宅サービス等基準条例20条1項は,指定訪問介護事業者は,指
定訪問介護を提供した際には,当該指定訪問介護の提供日及び内容,当該指定訪問介護について介護保険法41条6項の規定
(上記⑴ウ(ウ))
により
利用者に代わって支払を受ける居宅介護サービス費の額その他必要な事項を,利用者の居宅サービス計画を記載した書面又はこれに準ずる書面に記載しなければならない旨定める。

指定居宅サービス等基準条例20条2項は,指定訪問介護事業者は,指定訪問介護を提供した際には,提供した具体的なサービスの内容等を記録するとともに,利用者からの申出があった場合には,文書の交付その他適切な方法により,その情報を利用者に対して提供しなければならない旨定める。


サービス提供責任者による訪問介護計画の作成等
(ア)

指定居宅サービス等基準条例25条1項は,
サービス提供責任者
(指

定居宅サービス等基準条例6条2項)は,利用者の日常生活全般の状況及び希望を踏まえて,指定訪問介護の目標,当該目標を達成するための具体的なサービスの内容等を記載した訪問介護計画を作成しなければならない旨定める。

(イ)

指定居宅サービス等基準条例25条2項は,
訪問介護計画は,
既に居

宅サービス計画が作成されている場合は,当該計画の内容に沿って作成しなければならない旨定める。
(ウ)

指定居宅サービス等基準条例25条3項は,サービス提供責任者は,
訪問介護計画の作成に当たっては,その内容について利用者又はその家
族に対して説明し,利用者の同意を得なければならない旨定める。(エ)

指定居宅サービス等基準条例25条4項は,サービス提供責任者は,
訪問介護計画を作成した際には,当該訪問介護計画を利用者に交付しなければならない旨定める。

訪問介護計画の変更
(ア)

指定居宅サービス等基準条例25条5項は,サービス提供責任者は,
訪問介護計画の作成後,当該訪問介護計画の実施状況の把握を行い,必要に応じて当該訪問介護計画の変更を行うものとする旨定める。
(イ)

指定居宅サービス等基準条例25条6項は,同条1項から同条4項
までの規定は,同条5項の訪問介護計画の変更について準用する旨定め
る。

記録の整備
指定居宅サービス等基準条例42条2項は,指定訪問介護事業者は,利用者に対する指定訪問介護の提供に関する訪問介護計画(1号)及び指定居宅サービス等基準条例20条2項に規定する提供した具体的なサービス
の内容等の記録(2号)等を整備し,その完結の日から2年間保存しなければならない旨定める。


指定介護予防サービス等基準条例
高槻市指定介護予防サービス事業者の指定並びに指定介護予防サービス等の事業の人員,設備及び運営並びに指定介護予防サービス等に係る介護予防のための効果的な支援の方法に関する基準を定める条例(平成24年高
槻市条例第55号。乙22。以下指定介護予防サービス等基準条例といい,上記⑵の指定居宅サービス等基準条例と併せて本件各条例という。)は,指定介護予防サービス事業者の指定並びに指定介護予防サービス等の事業の人員,設備及び運営に関する基準等を定める条例であるところ(1条),指定介護予防訪問介護について,
上記⑵ア~オと同様の定めを置いている
(指

定介護予防サービス等基準条例17条,20条1項,同条2項,41条1項2号~5号・11号,同条2項,39条2項)
(以下,介護保険法74条2項
及び115条の4第2項並びにこれらを受けて定められた指定居宅サービス等基準条例25条1項~3項及び指定介護予防サービス等基準条例41条1項2号~4号の定めを総称して運営基準ともいう。)(上記⑴キ参照)。


介護保険給付に関する市町村等による指導,監査の概要等

指導
介護保険法上,保険給付に関して必要がある場合,市町村等は事業者等に文書の提出等を求めることができるところ(上記⑴イ),指導とは,こ
れらに基づく措置として,利用者の自立支援と尊厳の保持を念頭に,制度管理の適正化とより良いケアの実現に向け,サービスの質の確保・向上を図ることを主眼として行われるものである。
指導には,集団指導と実地指導がある。このうち,実地指導とは,指導マニュアル等を活用し,不適正な請求の防止等に向けた事業者等の取組み
に実地での援助的指導を行うものである。そして,実地指導の結果,改善事項がある場合や介護報酬の過誤調整が必要な場合には,事業者等に通知され,事業者等は都道府県・市町村に報告するものとされている。なお,実地指導のうち,報酬請求指導とは,各種加算等について,報酬基準等に基づき体制が確保されているか,個別ケアプランに基づきサービ
ス提供がされているか,他職種との協働は行われているかなど届け出た加算等に基づいた運営が適切に実施されているかをヒアリングし,請求の不適正な取扱いについて是正を指導するというものである(以上につき,乙26,27)。

監査
監査とは,サービス事業者等に対する都道府県知事・市町村長の指導監督権限に基づく措置として,利用者からの情報等により権限行使を適切に
行い,適切な運営を行っている事業者等を支援しつつ,介護保険給付を適正化するために行われるものであり,サービス提供や介護報酬請求について不正や著しい不当が疑われる場合には,事実関係を把握し,公正かつ適切な措置をとることを主眼とするものである。
監査の結果,指定基準違反等が認められた場合には,勧告,命令,指定
の取消し等の措置が行われることがある(上記⑴カ)(以上につき,乙26,27)。
2
前提事実(当事者間に争いがない事実,各項掲記の証拠及び弁論の全趣旨により容易に認められる事実)



当事者等

原告
(ア)

原告は,
平成13年7月12日に設立された,
介護保険法による訪問

介護サービス事業等を目的とする会社である。
原告は,大阪府知事から居宅サービス事業者(訪問介護),介護予防サービス事業者(介護予防訪問介護〔平成26年法律第83号による改正前の介護保険法8条の2第1項及び第2項参照〕)の各指定を受け,指定居宅サービス事業等を営んでいた。原告は,平成24年4月に大阪府知事から介護予防サービス事業者の指定の更新を受け,平成26年12月に高槻市長から居宅サービス事業者の指定の更新を受けた(以上に
つき,甲1の1~3,乙5,19,弁論の全趣旨。なお,地方自治法施行令174条の49の11の2により,平成24年4月1日以降は,高槻市長から上記指定の更新を受けることとされていた。)。
原告は,平成26年8月当時,事業所である有限会社A
(以下本件事業所という。)を運営していたが,平成28年11月に本件事業所の事業を廃止した。原告は,現在,障害者短期入所事業等のみを行っている(甲60,乙19,原告代表者)。

(イ)

原告代表者(昭和▲年生まれ)は,古書販売業等を経て平成12年頃
から訪問介護事業所で従事し(同年頃より前には訪問介護等の居宅サービス等に従事したことはなかった。),平成13年に原告を設立した(甲60,64,原告代表者)。
(ウ)

B(以下Bという。)は,平成17年~平成23年,本件事業所

のサービス提供責任者を務めており,その後もケアマネージャー(介護支援専門員。介護保険法7条5項参照)等として本件事業所に勤務していた(甲52,63,乙34,証人C)。
(エ)

C(以下Cという。)は,平成24年~平成28年,本件事業所

のサービス提供責任者を務めていた(甲2,63,証人C)。


被告
(ア)

被告は,中核市(地方自治法252条の22第1項)に指定されてい
る普通地方公共団体であり,介護保険法に基づき,居宅要介護被保険者が指定居宅サービスを受けたときは,指定居宅サービス事業者に居宅介護サービス費を支給するなどの行政事務を行っている。
(イ)

D主査(以下D主査という。)は,平成26年8月頃,E部F課

(以下F課という。)に所属し,下記⑵の実地指導の担当者であった(乙40,証人D)。
(ウ)
G主査(以下G主査という。)は,平成26年8月頃,F課に所

属していた(乙41,証人G)。
(エ)

H(以下Hという。)は,平成27年8月頃,I部J課(以下J課という。)に所属していた(乙42,証人H)。⑵

本件実地指導及びその後の経緯等

本件実地指導(平成26年8月)
F課は,平成26年7月1日付けで,原告に対し,原告が設置・運営する事業所が提供する指定居宅サービス等につき介護保険法23条等に基づ
き実地指導(これは6年に1回程度行っているものである。)を実施する旨の通知をした。
D主査を含むF課職員4名は,平成26年8月7日及び同月8日,本件事業所について,実地指導を実施した(以上につき,乙39,40,証人D。以下,この実地指導を本件実地指導という。)。


本件実地指導時の本件事業所の書類の管理状況-本件各指導項目
(ア)

F課職員は,本件実地指導において,本件事業所が作成・管理してい
た資料を確認した結果,本件事業所が居宅介護サービス費等を受領した指定居宅サービス及び指定介護予防サービス
(以下,
これらを併せて
指定居宅サービス等という。)に関し,下記①~④等の各問題が認められるとして,原告代表者に対して口頭でその旨指導するとともに(以下,これらの指導項目を併せて本件各指導項目といい,個別の指導項目をいうときは本件指導項目①などという。),後日,文書でその是正又は改善を求めることとした(甲3,乙1)。



本件指導項目①(サービス提供責任者以外の者が作成した訪問介護計画書等)
サービス提供責任者(上記1⑵ウ,⑶参照)以外の者が訪問介護計画又は介護予防訪問介護計画(以下,これらを併せて訪問介護計画等といい,訪問介護計画等が記載された書面を訪問介護計画書等という。)を作成していること。


本件指導項目②(居宅サービス計画書等の不存在)居宅サービス計画書(居宅サービス計画〔ケアプラン〕が記載された書面)又は介護予防サービス計画書(介護予防サービス計画が記載された書面。
以下,
これらを併せて
居宅サービス計画書等
という。

が存在しないこと。



本件指導項目③(訪問介護計画書等の不存在)
訪問介護計画書等が存在しないこと。



本件指導項目④(同意日漏れ,利用者の署名・押印漏れ,同意日遅れ)
訪問介護計画書等について,㋐指定居宅サービス等の利用者(以下,
単に利用者という。)に対する説明日の記載がないこと(以下,訪問介護計画書等における説明日の記載がない又は説明日の年月日のうち月日若しくは日の記載がないという不備を
同意日漏れ
という。,

㋑利用者の署名・押印がないこと,㋒利用者の同意を得たとされる日がサービスの提供開始日よりも後の日であること(以下,訪問介護計
画書等に記載された同意日〔説明日〕が,サービス提供が開始された日よりも後の日付であるという不備を同意日遅れという。)。
(イ)

なお,実際に,本件実地指導が実施された当時,本件事業所において
は,居宅介護サービス費等を受領した指定居宅サービス等に関し,①訪問介護計画書等について,作成名義が当該訪問介護計画書等に記載された作成日付当時のサービス提供責任者以外の者となっているもの(本件指導項目①の関係),②居宅サービス計画書等が存在しないもの(本件指導項目②の関係),③訪問介護計画書等が存在しないもの(本件指導項目③の関係),④訪問介護計画書等の利用者に対する説明日の記載の
うち一部の記載を欠くもの又は利用者の署名を欠くもの(本件指導目④の関係)が,それぞれ複数あった(甲3,乙1)。

本件通知(平成26年10月)
F課は,本件実地指導の結果を踏まえ,原告に対し,平成26年10月16日付け平成26年度訪問介護事業所(介護予防含む)の実地指導結果について(通知)と題する書面(乙1。以下本件通知という。)を送付した。

本件通知には,本件実地指導の結果を踏まえた指摘として,文書指摘事項が12項目記載され,その中には,㉒サービス提供責任者は,利用者の日常生活全般の状況及び希望を踏まえて,指定訪問介護の目標,当該目標を達成するための具体的なサービスの内容等,居宅サービス計画の内容に沿った訪問介護計画を作成し,作成した訪問介護計画は利用者の同意を得ること。なお,提供した訪問介護サービスの中で,訪問介護計画が作成されないまま実施されている場合は,当該サービス提供で生じた介護給付費を自主返還すること。との文書指摘事項があり,同文書指摘事項に関する条例として,指定居宅サービス等基準条例25条(上記1⑵ウ)並びに指定介護予防サービス等基準条例41条1項及び2項(上記1⑶)が
記載されていた(以下,この指摘事項を文書指摘事項㉒ともいう。)。被告は,本件通知において,原告に対し,本件通知に記載された12項目の文書指摘事項について,所要の措置を講ずるとともに,その結果及び改善報告を平成26年11月14日までにするよう求めた。
なお,本件通知に記載された文書指摘事項のうち,居宅介護サービス費
の返還に関する記載があるのは,文書指摘事項㉒のみであった(文書指摘事項㉒のほかには,訪問介護計画の作成に当たっては利用者やその家族に対して説明して利用者の同意を得た年月日を記入することを求める旨や,訪問介護計画や居宅サービス計画等を適切に管理することを求める旨等の文書指摘事項が記載されていた。)(以上につき,乙1)。



本件通知に対する改善報告等

平成26年11月改善報告書の提出(平成26年11月)
原告代表者は,平成26年11月14日,本件通知に対する同日付けの是正・改善報告書(甲4。以下平成26年11月改善報告書という。)を提出した。平成26年11月改善報告書には,文書指摘事項㉒について,対応する是正・改善内容が記載されていなかった(本件通知で指摘された
その他の各文書指摘事項については,改善策を記載する欄がそれぞれ設けられ,改善内容が記載されていた。)。そこで,F課職員は,平成26年11月改善報告書について,記載内容が不十分であるなどとして受領せず,原告代表者に対し,再度,是正・改善報告書を提出するよう求めた。原告代表者とF課職員は,平成26年11月14日以降も継続的に,F
課の窓口や相談室等において,本件実地指導を踏まえた協議等を行っていた。

平成27年7月改善報告書の提出(平成27年7月)
原告代表者は,平成27年7月17日,本件通知に対する同日付けの是正・改善報告書(乙6。以下平成27年7月改善報告書という。)を提
出した。平成27年7月改善報告書には,文書指摘事項㉒に対応する是正・改善内容として,

自主返還対象利用者と,金額が決定し,支払方法が決まり次第返還していきます。

と記載されていた。ウ
本件一覧表及び本件資料(平成27年10月頃,平成28年1月)(ア)

本件一覧表
F課職員は,平成27年10月頃までに,自主点検期間一覧表と

題する書面(乙7。以下本件一覧表という。)を作成し,原告代表者に対して交付した。
本件一覧表は,本件事業所が利用者に対して提供したとして居宅介護サービス費等を受領した指定居宅サービス等に関し,本件各指導項目の事由を点検理由として掲げるとともに,これらの事由が存在する指定居宅サービス等が提供されたとされる期間をまとめたものであった(以上につき,乙7,41,証人G)。
(イ)

本件資料
また,F課職員は,平成28年1月頃,原告が受領した居宅介護サー
ビス費等の自主返還額に関する資料(乙9。以下本件資料という。)
を作成し,原告代表者に対して交付した。
本件資料は,本件各指導項目の不備があるなどの理由により原告が被告に対して居宅介護サービス費等を返還する場合の金額をまとめたものであり,3年間で毎月約60万円の分割金(合計1994万0646円)を返還する内容であった(なお,本件資料は,一欄表の体裁をとり,その
1行目には,左から過誤月,
返済月及び合計との記載があり,
過誤月と記載された列には平成22年11月~平成25年10月の各月が,
返済月と記載された列には,同じ行の過誤月の列に記載
された月の5年2か月後に相当する平成28年1月~平成30年12月の各月が,
合計と記載された列には,同じ行の返済月の列に記載

された月に返済するものとされる各金額が,それぞれ記載されていた。)(以上につき,乙9)。


休止届の提出(平成28年)
原告は,被告に対し,平成28年2月26日,同年4月1日から半年間,本件事業所の事業を休止する旨の届出をし,また,同年8月31日,同年1
0月1日から半年間,本件事業所の事業を休止する旨の届出をした(乙8,14)。


原告による居宅介護サービス費等の返還等-本件返還金(対被告返還部分・対利用者返還部分)(平成28年)

原告は,本件通知やその後のF課職員とのやり取りを踏まえ,既に受領していた居宅介護サービス費等のうち,それぞれ下記の金額を,被告又は利用者らに対して返還した(以下,原告が返還した下記ア及びイの金員を併せて本件返還金といい,本件返還金のうち,被告に対して支払われた下記ア,イ(イ)及び(ウ)を
対被告返還部分利用者らに対して支払われた下記イ(ア)

を対利用者返還部分という。)。

居宅介護サービス費等の返還(対被告返還部分〔その1〕)
原告は,平成28年4月1日,被告に対し,既に被告から受領していた介護保険給付費(居宅介護サービス費)等のうち合計1909万4631円を返還する旨記載した同日付けの返還申出書(甲6の1・2。以下本件返還申出書という。)を提出した。被告は,同月25日,原告に対し,介護保険給付費に係る返還通知及び納付書を交付した
(甲6の3,
乙10)


原告は,平成28年4月28日,被告に対し,1909万4631円を支払った(甲6の3,乙12)。

利用者の自己負担額等の返還
(ア)

自己負担部分の返還(対利用者返還部分)
原告は,平成28年6月から同年7月にかけて,利用者らに対し,本
件事業所が指定居宅サービス等に関して利用者から既に受領していた金員(自己負担部分)のうち,合計41万4427円を返還した(甲8の1~18,乙12)。
(イ)
高額介護サービス費の返還(対被告返還部分〔その2〕)
被告は,原告に対し,平成28年7月25日付けで,高額介護サービ
ス費(過払額)に関する利用者宛て返還通知を,納付書と共に交付し,原告は同返還通知を利用者らに交付した。原告は,同年10月27日,被告に対し,利用者が被告に対して返還すべき高額介護サービス費に相当する金額として,24万7411円を支払った(甲9の1・2,乙13,18,35の1~7,36)。
なお,高額介護サービス費とは,指定居宅サービスの利用者が支払った負担額が1か月当たりで一定の金額を超え,
著しく高額である場合に,
市町村から利用者に対してその超えた額に応じた金額が支払われるというものである(介護保険法51条参照)。上記返還通知は,手続の簡略化のために,高額介護サービス費を受領していた利用者に対し,利用者の同意があれば,原告から被告に対して直接に高額介護サービス費に相当する金額の返還をすることができることを説明するものであった(すなわち,本来は,原告が上記アの返還をすることにより,一部の利用者らの自己負担額に変更が生じ,当該利用者らが被告から既に受領していた高額介護サービス費について被告に返還する必要が生ずる関係にあ
り,①原告が高額介護サービス費を受領していた利用者らに対して指定居宅サービス等の利用料の自己負担部分を返還する手続及び②利用者らが被告に対して既に受領していた高額介護サービス費を返還する二段階の手続が必要になるが,このような手続は面倒であるため,これを簡略化するために利用者の同意による直接の返還手続が利用できるものとさ
れ,上記返還通知は,そのことを説明するものであった。)。そして,上記返還通知を原告から受領した利用者らのうち7名が上記の方法による返還手続をすることに同意したため,原告が被告に対して24万7411円を支払ったものであった(甲9の1・2,乙35の1~7)。(ウ)

生活保護介護扶助分の返還(対被告返還部分〔その3〕)
原告は,平成28年10月25日頃,被告に対し,既に受領した介護
給付費返還金(生活保護介護扶助分)のうち合計44万5228円を返還する旨記載した同日付け返還申出書を提出した。被告は,これを受けて,原告に対し,同月31日付けで介護給付費(生活保護介護扶助分)として44万5228円を返還するよう求める旨の返還通知を,納付書と共に交付した。原告は,同月31日,被告に対し,44万5228円を支払った(甲7の1・2,乙15~18)。
なお,上記介護給付費(生活保護介護扶助分)は,いわゆる生活保護(生活保護法による保護)を受けている者が指定居宅サービス等を利用した場合の利用料の自己負担部分については市町村が支払うものとされていたところ,本件事業所が提供したとする指定居宅サービス等についてこのような場合に該当するものがあったため,被告が原告に対して既
に支払っていたものである。


廃止届の提出(平成28年)
原告は,平成28年10月31日,被告に対し,同年11月30日付けで本件事業所の事業を廃止する旨の届出をした(乙19)。



本件訴えの提起(平成31年)
原告は,平成31年2月19日,本件訴えを提起した。

3
争点
本件の争点は,原告の国家賠償請求権の成否及び不当利得返還請求権の成否であり,具体的には次のとおりである。


行政指導の違法性-任意性の有無(争点⑴)



行政指導の違法性-行政指導の内容が介護保険法等の趣旨に反するものであるか否か(争点⑵)



損害の発生及びその数額(争点⑶)
不当利得返還請求権の成否(返還合意の有無及び利得額)(争点⑷)
4
争点に関する当事者の主張


争点⑴(行政指導の違法性-任意性の有無)について(原告の主張)
次のとおり,原告は,被告の行政指導に応じて本件返還金を任意に返還したものではなく,被告の行政指導は,原告に対して本件返還金の返還を強制
する違法なものであった。

本件返還金の返還の強制
(ア)

原告代表者は,
当初,
本件返還金を返還する必要はないと考えていた

ため,文書指摘事項㉒に関し,居宅介護サービス費等を自主返還する旨の申出をしていなかった。それにもかかわらず,本件実地指導に関する被告の担当者であったD主査は,原告代表者がD主査の言うとおりに是正・改善報告書を作成しなければ,これを受領しないとして,何度も是正・改善報告書を作り直させるなどし,原告が本件返還金を返還することを強要した。その他,D主査は,居宅介護サービス費等の分割返還を申し出た原告代表者に対し,原告代表者個人の財産である不動産を差し押さえる旨発言するなどし,本件返還金を返還することを強要した。
(イ)

被告の行政指導が原告に対して本件返還金の返還を強制するもので
あったことは,①平成26年11月改善報告書には本件返還金の返還をする旨の記載はなく,本件実地指導から1年近く経過して提出された平成27年7月改善報告書において初めて自主返還する旨の記載がされたこと,
②本件返還金の金額の算定資料となる本件一覧表及び本件資料を,返還をする原告ではなく,
返還を受ける被告の職員が作成していること,
③原告による自主返還であれば,利用者に対しては実際に指定居宅サービス等を提供していたのであるから,同サービス等に対する支払のうち利用者が負担する部分(対利用者返還部分)を返還する理由はないこと,④原告による自主返還であれば,事業継続のため,分割払による返還を
行うのが通常であるにもかかわらず,本件返還金は一括払により支払われていること(なお,被告が原告の分割払の提案を拒否したため,やむなく一括払となったものである。),⑤D主査が原告代表者に対して監査の手続の説明をしたこと等の各事情からも裏付けられる。また,原告代表者がD主査の対応により鬱病になったり,原告の職員がD主査の対
応に嫌気がさして全員退職したりしたこと等も,D主査の対応が非常に厳しいものであったことを裏付けるものである。

被告の主張について
これに対し,被告は,本件一覧表や本件資料の作成は,原告代表者がF課職員に対して依頼したものであるとして,原告が行政指導に応じて本件返還金を任意に返還した旨主張する。しかし,D主査が原告代表者に対して居宅介護サービス費等の一括返済を強硬に迫るため,原告代表者が,D
主査に対し,返還を求められている金額を聞いたり,返還額を減額してくれるように懇願したりしていたにすぎず,これをもって原告が行政指導に応じて本件返還金を任意に返還したということはできない。
(被告の主張)
次のとおり,原告は,被告により本件返還金の返還を強制されたものでは
なく,被告の行政指導に応じて本件返還金を任意に返還したものであり,被告の行政指導は,違法なものであったとはいえない。

本件返還金の返還の任意性
被告は,原告に対し,介護保険法23条に基づく措置として本件実地指導を実施し,その際に報酬請求指導(請求の不適切な取扱いの是正の指導)
をしたところ,原告は,本件実地指導後の本件通知や,その後の長期にわたる原告代表者・F課職員間の自主返還のための協議を踏まえて,自ら本件返還申出書を作成して被告に提出した。原告は,本件返還申出書を作成する際に,居宅介護サービス費等を受領済みの指定居宅サービス等に関して自主的に点検等をした上で,不適切な処理等があると判断したため,行
政指導に応じて本件返還金を任意に返還した(過誤調整をした)ものである。

原告の主張について
(ア)

平成26年11月改善報告書に文書指摘事項㉒に対する改善内容が
記載されていなかったことについて
平成26年11月改善報告書には,文書指摘事項㉒に対する改善内容は記載されていなかったが,行政指導に対する反論等がされたものではないし,ほかに原告代表者から文書又は口頭で行政指導に対する反論等がされたこともなかった。原告代表者・F課職員間で自主返還のための協議を約1年5か月と長期にわたって行っていたことも,原告の事情を考慮するために継続的に協議を続けていたものであって,上記行政指導が強制にわたるものではなかったことを裏付けるものである。
また,原告から提出された是正・改善報告書の再提出を求めたのも,本件通知で指摘した事項に対する対応が欠落していたり,是正・改善報告書に記載された日本語に不適切な点がみられたりしたことによるもの
であるから,これをもって行政指導が強制にわたるものであったということもできない。
(イ)

被告による本件一覧表及び本件資料の作成について
原告は,本件一覧表及び本件資料を被告の職員が作成したことをもっ
て,被告の行政指導が強制にわたるものであった旨主張するが,本件一覧表は,原告代表者からの求めに応じてF課職員において作成したにすぎないし,本件資料も,原告が本件一覧表を交付された後に自主点検を行い,特段の改善,弁明,弁明に関する疎明・説明等をすることなく,被告に対して自主返還額に係る資料の作成を求めたことを受けて,F課職員において作成したものにすぎないから,
これらの資料の作成をもって,

被告が原告に対して本件返還金の返還を強制したということはできない。
(ウ)

対利用者返還部分の返還について
原告が利用者の自己負担部分(対利用者返還部分)を返還したことに
ついても,介護保険法41条4項等において,指定居宅サービス等に要した費用の額は,
厚生労働大臣が定める基準により算定した費用の額
(以
下算定基準額という。)とされ,その内訳は居宅介護サービス費等と利用者の自己負担額との合算から成るものであり,これらは独立したものではなく不可分一体なものであるから,算定基準額が不適切である場合は,
利用者の自己負担額についても適切な額の返還を行うべきである。したがって,被告が行政指導として利用者の自己負担部分の返還を促すことは通常の範囲での指導であるし,被告からの行政指導がなければ原
告において返還する理由がないというものではないから,原告が利用者の自己負担部分を返還したことは,被告による行政指導が強制にわたるものであったことを裏付けるものではない。
(エ)

本件返還金の支払方法が一括払であったことについて
原告が本件返還金を一括払により支払ったことについても,その理由
は不明である。被告の職員は,原告が申し出た1か月当たり3万円の返還による支払計画について,支払期間が長期である旨指摘したことはあるが,一括返還を強要したことはない。
(オ)

D主査の言動について
D主査が,原告代表者又は原告のスタッフ等に対して,原告代表者の
自宅を差し押さえる旨の発言をしたり,命令口調で指示をしたりしたことはない。


争点⑵(行政指導の違法性-行政指導の内容が介護保険法等の趣旨に反するものであるか否か)について

(原告の主張)
次のア~エのとおり,被告の行政指導は,原告に対して本件返還金の返還を求める法的根拠がなかったにもかかわらずされたものであるところ,そのような行政指導をすることは介護保険法等の趣旨に反するものとして許されないから,違法である。


原告が受領した居宅介護サービス費等の返還義務と原告が受けた指定居宅サービス事業者の指定の取消しの要否
最高裁平成21年(行ヒ)第401号同23年7月14日第一小法廷判決・裁判集民事237号247頁
(以下
最高裁平成23年判決
という。

に照らせば,指定居宅サービス事業者の指定を取り消すことなく,個々のサービスについて,訪問介護計画書等を紛失していたり,訪問介護計画書等に対する利用者の同意を得る前にサービス提供がされていたりする(同意日遅れ)など,指定居宅サービス等基準条例25条1項~3項等の指定居宅サービス等の運営に関する基準(運営基準)に違反することを理由として,居宅介護サービス費等を返還させることはできない。したがって,本件においても,指定居宅サービス事業者等の指定を取り消すことなく,
強制的な行政指導により居宅介護サービス費等を返還させることは許されない。

居宅介護サービス費等の返還を求める行政指導をすることができる場合
居宅介護サービス費等の返還を求める行政指導をすることができるのは,居宅介護サービス費等について返還請求権が存在する場合に限られる
というべきである。
被告が主張する居宅介護サービス費等の返還事由は,本件事業所における訪問介護計画書等の書類の不存在や利用者の同意日の記載の不備等にすぎず(なお,被告が主張する書類の不存在は,指定居宅サービス等が提供された時点では作成されていた書類を事後的に紛失したというものに
すぎない。),不正な行為をしたわけではないから,介護保険法22条3項に該当しない。したがって,被告は,原告に対し,同項に基づく返還請求権があるとして居宅介護サービス費等の返還を求める行政指導をすることもできない。

本件における居宅介護サービス費等の返還を求める行政指導の可否次のとおり,被告は,原告に対し,不当利得返還請求権も有していなかったから,本件において,被告は,原告に対し,居宅介護サービス費等の返還を求める行政指導をすることができなかった。
(ア)

介護保険法や本件各条例に違反するものでなかったこと
そもそも,本件事業所においては,サービス提供責任者が居宅サービ
ス計画等に基づき訪問介護計画等を作成するなどした上で,利用者に対して訪問介護計画等を事前に説明し,同意を得た上で,介護保険法の定める水準の指定居宅サービス等を提供していたのであるから,運営基準違反はなく,介護保険法41条9項の要件を充足している。被告から指摘された本件各指導項目についても,まず,本件指導項目①については,
過去の訪問介護計画書等のうち紛失しているものがあったため,本件実地指導を行う旨の通知を受けて作成し直したものにすぎず,指定居宅サービス等が提供された時点では訪問介護計画等は作成されていた(作成し直した時点においては,紛失した訪問介護計画書等が作成された時点とはサービス提供責任者が異なるため,作成し直した訪問介護計画書等
に記載された作成日付と,当該訪問介護計画書等を作成し直したサービス提供責任者の氏名の記載との間に食い違いが生じたにすぎない。)。また,本件指導項目②及び同③についても,単に居宅サービス計画書等や訪問介護計画書等を事後的に紛失していたにすぎない(これらの書類の紛失は,
サービス提供時にこれらの書類の持ち出しを要することから,

多くみられるものである。)。さらに,本件指導項目④についても,実際には利用者に対して事前に訪問介護計画等を説明し,同意を得ていたのであるから(現実にサービスを提供している以上,利用者の同意がないということは考え難い。),運営基準に違反するものではなかった。したがって,本件事業所が提供していた指定居宅サービス等は介護保
険法41条9項や運営基準に違反していなかったから,被告の原告に対する不当利得返還請求権は発生しない。
(イ)

介護保険法や本件各条例に違反するものであったとしても被告の原
告に対する不当利得返還請求権は発生しなかったこと
a
介護保険法や本件各条例に違反するものであったとしても直ちに不当利得が成立するものではないこと
次に,介護保険法41条9項や本件各条例に違反する事由があった
としても,同法の定める水準の指定居宅サービス等が実際に提供されていた場合には,原告に利得はなく,被告や利用者に損害もないから,同法41条9項や本件各条例に違反することのみをもって不当利得が成立するということはできない。
本件事業所においては,
上記(ア)のとおり,
利用者に対して実際に適

切な指定居宅サービス等を提供している以上,原告に利得はなく,利用者にも被告にも損失は発生していない。したがって,本件事業所が提供した指定居宅サービス等が運営基準に違反したという事情のみでは,被告の原告に対する不当利得返還請求権は発生しない。
b
介護保険法や本件各条例に違反することにより不当利得が成立し得るとしても,著しい法令違反の場合に限られること
仮に,介護保険法41条9項等を根拠として,運営基準に違反する態様で指定居宅サービス等が提供されていた場合には不当利得返還請求権が発生し得ると解したとしても,不当利得の法理に照らせば,介
護保険法の趣旨を没却するような著しい法令違反の場合に限って,不当利得返還請求権が発生するというべきである。
本件において,仮に,原告の提供した指定居宅サービス等が運営基準に違反するものであったとしても,①本件各条例は訪問介護計画等の作成を義務付けているものの,訪問介護計画等を作成していない場
合やその記載に不備がある場合に居宅介護サービス費等の返還を求めることができるという旨の定めはないこと,②指定居宅サービス等の内容は,居宅サービス計画(ケアプラン)等において策定・記載されており,訪問介護計画等はこれをなぞっているだけのものにすぎないこと,③上記(ア)のとおり,被告が指摘する運営基準違反は,訪問介護計画等が適正に作成された後に,訪問介護計画書等を紛失したなどの事情によるものにすぎず(なお,訪問介護計画書等を作成し直した者
は,ケアマネージャーというサービス提供責任者よりも上位の資格を有する者であった。),被告が指摘するような訪問介護計画が作成されないまま実施されている場合には該当しないこと等の各事情を踏まえれば,法令違反の程度が著しいということはできない。したがって,被告の原告に対する不当利得返還請求権は発生しない(仮に,
不当利得返還請求権が生ずることがあるとしても,訪問介護計画書等を作成していないなどの軽微な違反があることをもって居宅介護サービス費等の全額の返還を求めるのは,過度な制裁である。)。

利用者の自己負担部分(対利用者返還部分)の返還の促し
利用者の自己負担部分についても,原告が実際に介護保険法の定める水
準に達する指定居宅サービス等を提供している以上,仮に指定居宅サービス等が運営基準に違反するものであったとしても,利用者の自己負担額等についてまで返還しなければならない理由はない。したがって,上記部分について,被告が原告に対して利用者への返還を促すことはできない。(被告の主張)
次のア~エのとおり,被告の行政指導は,介護保険法等の趣旨に反するものではないから,違法なものではない。

原告が受領した居宅介護サービス費の返還義務と原告が受けた指定居宅サービス事業者の指定の取消しの要否について

被告がした行政指導は,個別の居宅介護サービス費等の支払に関して不正請求等の事由があるとするものであって,介護保険法22条3項による請求ではなく,自主返還(一旦支払が確定した居宅介護サービス費等の介護給付費について,請求の過誤を調整して,申立ての上で介護給付費を返還すること)を促したものにすぎないから,原告に対する指定居宅サービス事業者の指定が取り消されていないとしても,居宅介護サービス費等の返還を求めることができるというべきである。原告は,最高裁平成23年判決を指摘するが,本件は,最高裁平成23年判決とは事案を異にするものである。

居宅介護サービス費等の返還を求める行政指導をすることができる場合について
居宅介護サービス費等に関する行政指導は,適正な居宅介護サービス費
等の支払という行政目的のために,特定の者に一定の作為又は不作為を求める指導,勧告,助言等をするものであって,そもそも,不当利得返還請求権を有している場合でなければそのような行政指導を行うことができないというものではない。原告は,事業者に対する不当利得返還請求権を有している場合でない限り自主返還を促す行政指導をすることが違法であるかのように主張するが,そのような解釈は,適法な行政指導を行う機会を著しく損なうものであって,不合理である。

本件における居宅介護サービス費等の返還を求める行政指導の可否について

(ア)

被告が原告に対して過誤調整や自主返還を行うように促したことが
違法でないこと
次のa~cのとおり,本件においては,本件通知において指摘されたような不適切な指定居宅サービス等が提供されていたから,被告が原告に対して過誤調整や自主返還を行うように促したことは,
違法ではない。
本件事業所においては,本件各指導項目のとおり,指定居宅サービス等の提供に関して不適切な点が多数みられたため,被告は,文書指摘事項㉒において,原告に対し,利用者らに提供した指定居宅サービス等の中で,訪問介護計画等が作成されないまま実施されている場合は,当該サービスについて受領した居宅介護サービス費等を自主返還するように指摘するなどして,本件返還金の自主返還を促したものである。したがって,被告が原告に対してした行政指導は,介護保険法の趣旨に沿う適法なものである。
a
本件指導項目①及び③について
本件事業所においては,訪問介護計画書等が作成された当時においてはサービス提供責任者でなかった者の名義で訪問介護計画書等が作
成されていたり,提供したとする指定居宅サービス等に対応する訪問介護計画書等が存在しなかったりしたのであるから,指定居宅サービス等基準条例25条1項~3項等に反し,居宅介護サービス費等の支払の要件を欠くにもかかわらず,居宅介護サービス費等が支給されていた疑いがあったものである。したがって,そのような違反があると
確認された場合には自主返還の対象になるという説明・行政指導を行うことは違法ではない。なお,本件通知の記載は,飽くまで訪問介護計画等が作成されていないなどの場合には過誤調整の対象になり得る旨記載したものにすぎず,本件実地指導をした時点で,本件事業所において訪問介護計画等が作成されないまま指定居宅サービス等が提供
されていたと断定したものではない。
これに対し,原告は,過去の訪問介護計画書等のうち紛失しているものがあったにすぎない旨主張する。しかし,訪問介護計画書等は利用者に対しても交付するものであり,利用者も保管しているはずであって(なお,事業者においても,指定居宅サービス等基準条例42条
2項等において2年間は訪問介護計画書等を保存することが定められている。),容易に入手することができたはずであるから,原告の上記主張は理由がない。
b
本件指導項目②について
居宅サービス計画(ケアプラン)等の対象でない指定居宅サービス等が提供された場合については,介護保険法41条6項のいわゆる代理受領をすることはできない(介護保険法41条6項,介護保険法施
行規則64条1号イ)。しかし,本件事業所においては,居宅サービス計画等に沿わない訪問介護計画等が複数存在しており,居宅サービス計画書等の写しが存在しない場合には居宅サービス計画等に沿わない訪問介護計画等である可能性が否定できないから,そのような違反があると確認された場合には自主返還の対象になるという説明・行政
指導を行うことは違法ではない。
c
本件指導項目④について
本件事業所において作成された訪問介護計画書等に関する同意日漏れについては,利用者の同意をいつ得たものであるかについて原告か
ら説明や疎明がなかったことや,多数の訪問介護計画書等に利用者の署名がないなど不備が多数存在したことからすれば,同意日の記載を欠く訪問介護計画書等が,真に利用者の同意を得たものであるかどうか疑わしいものであった。これに加えて,本件事業所において同意日遅れの訪問介護計画書等が存在したことも併せ考慮すれば,少なくと
も,同意日漏れという不備がある訪問介護計画書等については,利用者からの同意をいつ得たものであるかを認定することが困難であった。そうすると,そのような利用者からの同意を得ずに提供された可能性がある指定居宅サービス等について支払われた居宅介護サービス費等については,適切な訪問介護計画書等に基づかない指定居宅サー
ビス等に対する支払である可能性が高いというべきである。したがって,被告が,そのような違反がある場合には運営基準に違反しており居宅介護サービス費等の支払の要件を欠くものであるから自主返還の対象になるという説明・行政指導を行うことは違法ではない。
また,同意日遅れについては,同意を得る前の指定居宅サービス等の提供は,指定居宅サービス等基準条例25条1項~3項等の要件を欠く支給であるというべきであるから,そのような違反がある場合に
は,同意日前に提供された指定居宅サービス等について自主返還の対象になるという旨の説明・行政指導を行うことは違法ではない。なお,この点につき,事後的に同意があったとして瑕疵の治ゆを認めることは,介護保険法や本件各条例の趣旨を没却するものであるから妥当でない。

(イ)

原告の主張について
原告は,本件事業所の運営基準違反が軽微なものである旨主張する。
しかし,①訪問介護計画等は,訪問介護事業者が解決すべき問題状況を明らかにし,援助の方向性等を明確にし,指定居宅サービス等の具体的な日時や内容を記載するという点で重要なものであって,サービス提供
に不可欠なものであること,②訪問介護計画等に対する利用者の同意を事前に得ることは,指定居宅サービス等の内容等についての利用者の意向を反映する機会を保障するものであり,同意がない場合には利用者の意に沿わない指定居宅サービス等が提供される可能性があること,③本件事業所においては,訪問介護計画書等への同意について,同意日漏れ
や同意日遅れ等といった不備が多数存在していたこと等の各事情からすれば,本件事業所において,介護保険法の定める水準に達する指定居宅サービス等を実際に提供していたということはできず,違反の程度が軽微なものであるということはできない。

利用者の自己負担部分(対利用者返還部分)の返還の促しについて原告は,被告が原告に対して利用者の自己負担部分についても返還を促したことが違法である旨主張するが,介護保険法41条4項等にいう費用の額とは,市町村が指定居宅サービス事業者等に対して支払う居宅介護サービス費等(上記費用の額の100分の90)と,利用者の自己負担額(同100分の10)との合算から成るものであり,居宅介護サービス費等と利用者の自己負担額とは,独立のものではなく不可分一体のもので
あるから,上記費用の額が不適切である場合には,利用者の自己負担額についても,適切な額で返還をさせるべきである。


争点⑶(損害の発生及びその数額)について
(原告の主張)
原告は,被告の違法な行政指導により,居宅介護サービス費等の返還を強
要され,次の損害を被った。

居宅介護サービス費相当額

1909万4631円


利用者の自己負担額等相当額

合計110万7066円

(ア)
(イ)

高額介護等サービス費分相当額

(ウ)

生活保護介護扶助分相当額

利用者の自己負担金分相当額


合計

41万4427円
24万7411円

44万5228円

2020万1697円

(被告の主張)
原告の主張は否認し,又は争う。


争点⑷(不当利得返還請求権の成否〔返還合意の有無及び利得額〕)について
(原告の主張)

原告は,被告に対し,合計1978万7270円(対被告返還部分の合計金額)の居宅介護サービス費等を返還したが,当該返還は法律上の原因がないものであり,これにより原告には損失が,被告には利得がそれぞれ発生した。

これに対し,被告は,対被告返還部分については,原被告間に返還合意がある旨主張する。しかし,原告が本件返還申出書を提出したことや本件返還金を被告が受領したことは,単なる事実行為にすぎず,法的な効力を発生させるという意味での返還の意思表示があったということはできないから,法的な返還合意があったということはできない。

(被告の主張)
原告は,自らその意思に基づいて居宅介護サービス費等について過誤調整を行い,本件返還申出書(甲6の1)等を作成して被告に返還を申し出て,被告はこれに応じて納付書等を原告に交付した。そうすると,対被告返還部分については,原被告間に返還合意があるから,被告が原告から居宅介護サ
ービス費等の返還を受領したことについては法律上の原因がある。第3

当裁判所の判断

1
認定事実
前記前提事実に加え,各掲記の証拠及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実
が認められる。


本件事業所のサービス提供責任者の変更等
本件事業所においては,平成17年12月1日以降,B,K及びLがサービス提供責任者(前記第2の1⑵ウ,⑶参照)を務めていたところ,平成23年8月1日,サービス提供責任者がM及びLに変更され,さらに,平成24年10月1日,サービス提供責任者がN及びCに変更された(甲2,52,
乙34)。


本件事業所の運営規程の内容,重要事項説明書の記載内容等

本件事業所の運営規程の内容
平成27年当時の本件事業所の運営規程有限会社A指定訪問介護(〔指定介護予防訪問介護〕事業運営規程)には,本件各条例に定める内容を遵守する旨(2条5項,3条5項),指定訪問介護又は指定介護予防訪問介護の提供の開始に際しては,あらかじめ,利用者又はその家族に対し,当該サービスの内容及び費用に関し事前に文書で説明した上で,その内容及び支払に同意する旨の文書に署名
(記名押印)
を受けるものとする旨
(1
0条5項),及び,本件事業所は,指定訪問介護又は指定介護予防訪問介護に関する諸記録を整備し,その完結の日から最低2年間は保存するもの
とする旨(17条4項)等が定められていた(乙6・12~16頁)。イ
重要事項説明書の記載内容
また,原告が利用者に対する説明に用いていた重要事項説明書(A重要事項説明書(訪問介護(予防訪問)))には,15サービス提供の記録として,①指定訪問介護の実施ごとに,そのサービスの提供日,内
容及び利用料等について,サービス提供の終了時に利用者の確認を受けることとし,利用者の確認を受けた後は,その控えを利用者に交付すること,②指定訪問介護の実施ごとにサービス提供の記録を行うこととし,その記録についてはサービスを提供した日から5年間保存すること,
③利用者は,
事業者に対して保存されているサービス提供記録の閲覧及び複写物の交付
を請求することができること等が記載されていた(乙6・17~27頁)。⑶

本件実地指導時の本件事業所における書類の作成・管理状況等(乙7,9,25)

本件事業所の書類の管理方法
平成26年7月頃,本件事業所において,居宅サービス計画書等や訪問
介護計画書等の指定居宅サービス等に関する書類は,利用者ごとにまとめられ,書庫に保管されており,同書庫は,毎日,本件事業所の業務が終了した後に施錠されていた(証人C)。

本件事後作成計画書等の作成
本件事業所の職員は,平成26年7月に被告から実地指導を実施する旨の通知を送付されたことを受けて,指定居宅サービス等に関する書類(居宅介護サービス費等を受領済みの分)に不備や不足があるか否かを確認したところ,訪問介護計画書等が存在しないものが少なくとも数十件程度あることが判明した。
このような状況を受け,原告代表者は,平成26年7月,Cに対し,利用者に提供したとして居宅介護サービス費等を既に受領していた指定居宅サービス等のうち,同月時点で対応する訪問介護計画書等が存在しないものに関し,訪問介護計画書等を作成するよう指示した。Cは,原告代表者の指示を受けて,上記の指定居宅サービス等について,対応する訪問介護計画書等を少なくとも数十通程度作成した(以下,同月に作成された訪問
介護計画書等のうち,このような経緯で作成されたものを本件事後作成計画書等という)。本件事後作成計画書等の作成日付欄には,本件事後作成計画書等が実際に作成された平成26年7月頃の日付ではなく,原告において対応する指定居宅サービス等を提供したとする頃の日付が記載された。しかし,同作
成日として記載された日においてサービス提供責任者であった者が,同月までに既に退職するなどしていたため,本件事後作成計画書等は,B又はCの名義で作成された。そのため,本件事後作成計画書等は,指定居宅サービス等が提供されたとされる日においてサービス提供責任者ではなかった者によって作成されたものであり,また,その外観上も,記載された作
成日においてサービス提供責任者ではなかった者の名義で作成されたものとなっている(以上につき,甲11の3・4,12の1~6,14の1・2,15の2,16の1,17の1・2,19の1・2,20の5~10,22の2~6,23の1・2,24の4・5,25の5・6,26の4~6,28の1,29の4,30の2,31の4~6,32の1~3,33の
2・3,34,35の1・2,36の3,37の1~6,38の1,39の1・2,40の1,41の4・5,42の2,43,45の3・4,60,乙7,25,40,証人C,証人D,原告代表者)。
なお,本件事業所においては,平成18年に行われた大阪府による実地指導においても,提供したとする指定居宅サービス等に関する訪問介護計画書等が存在しないことを指摘されたことがあったが,その後の訪問介護計画書等の紛失防止に関しては,
口頭での注意喚起等がされたのみであり,

それ以上の紛失防止対策はとられていなかった(証人C,原告代表者)。ウ
訪問介護計画書等の不存在等
また,本件実地指導がされた平成26年8月時点において,本件事業所においては,利用者に提供したとする指定居宅サービス等に関し,①対応する訪問介護計画書等が存在しないもの,②特定の利用者についての居宅
サービス計画書等に記載されたサービス内容のうち一部のサービス内容が,対応する訪問介護計画書等に記載されていないまま実施されていたもの(居宅サービス計画等が変更されたため,同変更を受けて訪問介護計画等も変更すべきであるにもかかわらず,居宅サービス計画等が変更された後の訪問介護計画書等が存在しないものも含む。),③対応する居宅サー
ビス計画書等及び訪問介護計画書等の双方が存在しないものがそれぞれ複数あった(乙7,25,弁論の全趣旨)。

同意日漏れ,同意日遅れ等の不備
さらに,本件事業所においては,訪問介護計画書等が存在するものの,
訪問介護計画書等の末尾の利用者同意署名欄の左側の説明日欄に,年月日のうち年や年月のみ記載されたもの(同意日漏れ)や,指定居宅サービス等を提供したとする日よりも後の年月日が記載されているもの(同意日遅れ)が複数存在した(甲11の2,12の3~6,13の1,16の1,17の5・6,18,20の5~7,22の1~6,26の8・9,2
8の3,29の3,31の1~3,35の2・3,39の1・2・4,40の2,41の1・2・6・7,60,乙7,25,40,証人D,原告代表者)。

本件実地指導で発見された上記イ~エの不備の数量等
本件実地指導は,平成26年8月7日及び同月8日,平成21年8月8日~平成26年8月7日の利用者合計61人に対して本件事業所が提供したとする指定居宅サービス等を対象として行われた。

本件実地指導の結果,上記利用者61人のうち,上記イ~エの不備の数量等は,次のとおりであった(次の(ア)~(ウ)について,同一利用者について複数の種類の不備がある場合も複数存在し,同種の不備が同一利用者について複数の期間にわたって存在するものもみられた。)(以上につき,乙25)。

(ア)

上記イ記載の不備(サービス提供責任者以外の者が作成した訪問介
護計画書等)がある指定居宅サービス等が提供されたとされている利用者(本件指導項目①関係)
(イ)

37人

上記ウ記載の不備
(訪問介護計画書等の不存在等)
がある指定居宅サ

ービス等が提供されたとされている利用者(本件指導項目②・③関係)
23人
(ウ)

上記エ記載の不備
(同意日漏れ又は同意日遅れ)
がある指定居宅サー

ビス等が提供されたとされている利用者(本件指導項目④関係)
27


(エ)

平成21年8月8日~平成26年8月7日を通じて,上記イ~エの
不備がない指定居宅サービス等が提供されていた利用者


12人

本件実地指導時のD主査の指示等
D主査は,本件実地指導時,原告代表者又はCに対し,上記⑶イ~エの各不備がある旨を口頭で指摘するとともに,その内容を記載したメモを交付し
た。
D主査らF課職員は,本件実地指導時,原告代表者,C,Bらに対して書類の管理状況等を尋ねたりするとともに,本件事業所が利用者に提供していたとする指定居宅サービス等に関し,2年分の居宅サービス計画書等や訪問介護計画書等をコピーして交付することを求めた。原告代表者は,これらをF課職員に交付した。
また,F課職員は,本件実地指導後,平成26年10月までの間に,再度,
本件事業所を訪れ,更に3年分の居宅サービス計画書等及び訪問介護計画書等をコピーして交付することを求めた。原告代表者らは,これらをF課職員に交付した(以上につき,甲60,乙1,40,証人D,原告代表者)。⑸
本件実地指導後の原告代表者とF課職員とのやり取り等

平成26年10月頃の協議
F課は,平成26年10月16日頃,原告に対し,本件通知を送付した(前記前提事実⑵ウ)。
原告代表者と,G主査,D主査及びF課職員1名は,平成26年10月頃,F課の相談室において,本件通知を踏まえた対応に関する協議をした。当日の協議の時間は,30分程度以上であった(乙41,証人G)。

平成26年11月改善報告書の提出とその後の協議等(平成26年11月以降)
前記前提事実⑶ア,イのとおり,原告代表者は,平成26年11月14日付けで平成26年11月改善報告書を提出した後,F課の窓口を何度か訪れ,F課職員と協議等をし,対応したF課職員やD主査から是正・改善
報告書の記載内容等について助言を受けるなどした上で,平成27年7月17日付けの平成27年7月改善報告書を提出した。
この間,原告代表者は,F課職員に対し,具体的にどのサービスについて自主返還を検討すればよいか確認したい旨の要望を伝えていた(以上につき,甲4,60,乙6,40,41,証人D,証人G,原告代表者)。

本件一覧表及び本件資料の交付等(平成27年10月頃,平成28年1月頃)
F課職員は,平成27年10月頃までに,原告代表者から上記のとおり自主返還を検討すべき対象となるサービスを確認したい旨の要望があったこと等を受けて,本件一覧表を作成し,原告代表者に交付した。原告代表者は,本件一覧表の交付を受けた際,居宅介護サービス費等を返還するこ
とに関する不服等を述べなかった。
また,F課職員は,平成28年1月頃,本件資料を作成し,原告代表者に対して交付した。原告代表者は,本件資料の交付を受けた際,居宅介護サービス費等を返還することに関する不服等を述べなかった。
なお,本件一覧表及び本件資料のように,自主点検の対象となるサービ
スを特定した書面をF課職員が作成して事業者に交付することは,少なくとも平成27年当時のF課において,一般的には行われていなかった。しかし,F課職員は,上記のとおり,原告代表者から,自主返還を検討すべき対象となるサービスを確認したい旨の要望があったことに加え,本件事案が相当に悪質な事案と考えられたにもかかわらず本件実地指導や上記ア
及びイの協議における原告代表者の発言等から原告代表者の介護保険法に関する理解が相当に不十分であると認識していたため,本件一覧表及び本件資料を作成したものであった(以上につき,前記前提事実⑶ウ,甲60,64,乙40,41,証人D,証人G,原告代表者)。

平成28年1月頃の協議等
原告代表者と,G主査ほかF課職員1名及びHは,平成28年1月頃,J課の相談室において,30分から1時間程度,居宅介護サービス費等の返還方法等について協議をした。Hは,この頃の協議において,原告代表者に対し,居宅介護サービス費等を返還する場合には原則として一括返還
である旨伝えたことがあった。また,原告代表者は,この頃の協議において,Hに対し,毎月3万円ずつの分割払により居宅介護サービス費等を返還する旨の申出をしたが,これに対し,Hは,支払期間が長期であるため受け入れられない旨答えた(甲60,乙41,42,証人G,証人H,原告代表者)。
なお,平成26年8月頃~平成28年1月頃の原告の売上げは,1か月100万円程度であった(原告代表者)。


その他の原告代表者と被告の職員との間のやり取り等
D主査は,本件実地指導後の原告代表者とF課職員やHとの間の協議等において,一般論として,実地指導において指摘された事項に関して改善がみられない場合にはその後に監査が行われる可能性がある旨述べたことがあった(証人D)。



原告による本件返還金の返還等(平成28年4月頃)
原告は,平成28年,被告に対し,前記前提事実⑸のとおり,対被告返還部分を返還した。このうち,同年4月28日の1909万4631円の支払は,新事業のための運転資金として国民生活金融公庫から借り入れた金員により賄った(甲60,原告代表者)。

原告が返還した居宅介護サービス費等の金額(前記前提事実⑸ア)は,被告から交付された本件資料等を受けて,原告代表者において,居宅介護サービス費等を受領済みの指定居宅サービス等について被告から指摘された本件各指導項目の不備があるか否かを点検し,不備がある場合にその返還する金額の算定をしたものであった(原告代表者)。



原告又は原告代表者に関するその他の事情

原告代表者は,平成12年頃から訪問介護事業所で従事し,平成13年に原告を設立したが,平成12年以前は訪問介護等の居宅サービス等に従事したことはなかった(前記前提事実⑴ア)。


原告代表者は,平成28年3月25日,不眠や精神不安定を訴えて医療機関を受診し,受診票に

平成26年11月頃から徐々に眠れず,精神不安定になり,その原因としては仕事が考えられる。

旨記載するとともに,医師に対し,

計画書を提出しなくて,2000万円返還しろと市から言われた。

旨話した。原告代表者は,その後も継続的に(同年4月22日,同年6月6日,同年7月13日,同年8月8日,同年9月13日,同月26日)上記医療機関を受診し,同年10月3日,鬱病である旨診断され,
その後現在まで通院を継続している(甲53,54,原告代表者)。ウ
本件事業所においては,平成28年3月頃,Cを含む全職員が退職した(甲64,証人C,原告代表者)。


原告代表者は,平成28年4月28日の支払(上記⑹)の頃からF課の対応に不満を有していたが,同年10月頃,大阪府の高齢介護室介護事業
者課に対し,F課の対応に問題がある旨の苦情を申し立てた(甲60,原告代表者)。
2
争点⑴(行政指導の違法性-任意性の有無)について⑴

判断枠組み
行政指導は,行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行
政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求めるものである(行政手続法2条6号)から,相手方の任意の協力において行われている限り,違法となるものではない。もっとも,行政指導により相手方に求める作為又は不作為は,飽くまで相手方の任意の協力に基づくものであるから,行政指導の目的・内容,指導の方法・態様,相手方が表明した意思内容等を総
合的に考慮して,行政指導が強制にわたるものと認められる場合には,そのような行政指導は違法となる場合があるというべきである。
そこで,以下検討する。

検討

行政指導の目的・内容
(ア)

前記第2の1⑴カ,キ,⑷ア,イのとおり,介護保険給付に関する市町村による事業者に対する行政指導は,介護保険法を受けて,利用者の自立支援と尊厳の保持を念頭に,制度管理の適正化とより良いケアの実現に向け,サービスの質の確保・向上を図ることを主眼として行われるものである。この場合の行政指導のうち実地指導は,不適正な請求の防止等に向けた事業者等の取組に実地での援助的指導を行うものであ
り,実地指導の結果,介護報酬の過誤調整が必要な場合等には,事業者等に通知される。また,行政指導と並んで,サービス事業者等に対する市町村長等の指導監督権限に基づく措置として,監査の手続も予定されており,最終的には,勧告・公表・命令・指定の取消し等の手続も介護保険法に規定されているところである。

(イ)

本件実地指導及びその後の経緯等(前記前提事実⑵)に照らすと,
被告の行政指導は,原告において,既に居宅介護サービス費等を受領した指定居宅サービス等に関して,介護保険法や本件各条例に違反する点があるか否かを確認させ,違反がある場合には当該指定居宅サービス等に係る受領済みの居宅介護サービス費等の返還を促すという基本的な方
針に基づいてされたものであり,飽くまで原告の任意の点検等を促すものであったといえる。

指導の方法・態様
(ア)

前記前提事実⑵,⑶,上記認定事実⑷,⑸によれば,F課職員は,
平成26年8月の本件実地指導の後,本件通知を受けて原告が提出した是正・改善報告書について再提出を求めたり,同年10月以降,原告代表者との間で約1年半という長期にわたり複数回の協議をしたりしており,この間に本件一覧表や本件資料を原告代表者に交付するなどして原告による自主点検を促していたと認められる一方で,上記の期間を通じ
て,本件実地指導において指摘した書類の作成・管理に関する不備を理由として介護保険法22条3項に基づく返還請求(前記第2の1⑴ア参照)をしたことはなく,また,同返還請求をすることを原告代表者に対して示唆したというような事情もみられない。
(イ)

文書指摘事項㉒は,提供した訪問介護サービスの中で,訪問介護計画が作成されないまま実施されている場合は,自主返還することとするものであり(前記前提事実⑵ウ),原告に対し,介護保険法及び本件各条例に違反するサービスの提供があったか否かについて点検を促し,その結果,違反があることが判明した場合には居宅介護サービス費等の返還を求めるものにすぎないから,このような記載自体が特段強制的なものとはみることはできない。

(ウ)

F課職員は,本件実地指導を実施し,本件事業所における書類の管
理に不備があったり,訪問介護計画書等がサービス提供責任者という適切な作成者により作成されていないものがあったりしたため,そのような不備があることを口頭で指摘し,本件通知においても同旨の指摘をしたものであるところ(前記前提事実⑵,上記認定事実⑶),少なくとも外形的には上記の不備等が実際にあったのであるから(前記前提事実⑵イ,上記認定事実⑶),訪問介護計画等が作成されないまま指定居宅サービス等が提供されていた可能性が認められる状況であった。このような状況に照らせば,文書指摘事項㉒等が記載された本件通知は,一定の客観的状況を踏まえた暫定的な被告の判断を示して原告における自主的
な改善を促す指導をするにとどまるものであり,その内容も自然なものであるから,不合理な内容の指示を強制的にするものであるともいい難いものである。
(エ)

F課職員は,本件事案が相当に悪質な事案と考えられたにもかかわ
らず,本件実地指導やその後の協議における原告代表者の発言等から原告代表者の介護保険法に関する理解が相当に不十分であると認識していた(上記認定事実⑸ウ)。そうすると,F課職員が,原告代表者からの要望を受けて本件一覧表及び本件資料を作成したことは,指導の相手方の介護保険法に関する理解度に応じた指導の方法・態様として,合理的なものであったといえるから,これをもって行政指導に従うことを強制したということはできない。

原告代表者が表明した意思内容等
原告代表者が,平成26年11月改善報告書を提出したときや,本件一覧表又は本件資料を受領したときに,居宅介護サービス費等を返還するように促す指導に対し,特に異議を述べていたとも認められず,返済方法について被告と協議をしていたこと(前記前提事実⑶,上記認定事実⑸)に加え,最終的には原告において被告や利用者に対して返還すべき金額を算
定し,返還申出書を提出するなどしていること(前記前提事実⑸,上記認定事実⑹。なお,原告が返還した金額は,被告が作成した本件資料において返還をするものとして記載された金額の合計とも一致しないものである。)を踏まえれば,原告が,被告がした行政指導に従わない意思を明確にしていたということもできない。


小括
上記ア~ウの各事情に照らせば,原告に対する被告の行政指導は,介護保険法に係る介護保険給付における事業者等による不適正な請求の防止等の実現を図るためその一環としてされたものであって,長期にわたって継
続的に行われ,他方で,原告の本件事業所における書類の管理には多数かつ重大な不備がみられ,原告代表者もそのこと自体は認めた上で協議に応じていた(もっとも,返還額は約2000万円と相当多額に及ぶため,支払方法等については慎重に協議が重ねられていた)といえるのである。したがって,行政指導の内容,指導の方法・態様,原告代表者が表明した意
思内容等を総合的に考慮して,本件において被告がした行政指導が強制にわたるものであったということはできない。


原告の主張について
これに対し,原告は,前記第2の4⑴(原告の主張)アのとおり,被告の行政指導が強制にわたるものであったことの理由として,①原告が最初に提出した平成26年11月改善報告書には文書指摘事項㉒に対する改善内容は
記載されておらず,F課職員が,是正・改善報告書を何度も再提出させたこと,②本件一覧表及び本件資料を被告において作成したこと,③原告が対利用者返還部分も返還していること,④合計2000万円を超える本件返還金の支払方法が一括払であったこと,⑤D主査が,原告代表者に対して監査に切り替えて自宅を差し押さえるなどと発言するなど脅迫的・威圧的な言動を
とったこと等がある旨主張する。

しかし,上記①(平成26年11月改善報告書に文書指摘事項㉒に対する改善内容が記載されていなかったこと)については,原告が提出した平成26年11月改善報告書に文書指摘事項㉒に対する改善内容が記載されていないこと(前記前提事実⑶ア。なお,平成26年11月改善報告書に
は,文書指摘事項㉒で指摘された事項や自主返還の方針に積極的に異議を述べる旨の記載はない。)をもって,原告が文書指摘事項㉒に従わない意思を明示したということは困難である。また,上記のような平成26年11月改善報告書の記載内容に加えて,平成26年11月改善報告書が提出されたのが本件通知を受けてから僅か1か月後のことであり,文書指摘事
項㉒において指摘された不備は,そのような不備が相当数存在したため,不備の有無等を確認するために一定の期間を要したとみられること(前記前提事実⑵,⑶)等をも踏まえれば,むしろ,原告において改善内容や改善の方向性を記載するのがまだ困難であったために改善内容が記載されていなかったものと解される。そして,少なくとも平成26年11月改善報
告書の記載内容(前記前提事実⑶ア)等に照らせば,原告が提出した是正・改善報告書は,実質的な改善内容を記載しているとはいい難いものであったとみられるから,F課職員がそれらの再提出を求めることも,ごく自然な対応であるというべきである。加えて,D主査やF課職員が,F課の窓口において原告代表者に対し,是正・改善報告書の書き方等を助言した際に,返還を強要するような言動をしたとも認められない(上記認定事実⑸)。

そうすると,上記①の事情をもって,被告が原告に対して居宅介護サービス費等の返還を強要したということは困難である。

上記②(被告による本件一覧表及び本件資料の作成)について検討すると,本件一覧表は点検の対象となる指定居宅サービス等の特定に関する資
料であるが,このような資料を本件実地指導の結果に基づいて被告が作成すること自体は,特段居宅介護サービス費等の返還を強要するものであるとはみられないし,原告代表者からも点検の対象となるサービスがどのサービスであるか確認したい旨言われたことがあったというのであるから(上記認定事実⑸イ),F課職員が本件一覧表を作成したことをもって,
居宅介護サービス費等の返還を強要するものであったとはいい難い。他方,本件資料は,返還する金額が記載されたものであるから,被告において返還すべきと考える金額を算定したものとも解され,原告に対して本件資料に記載された金額の返還を強く促すものであるとも解する余地がないわけではない。しかし,本件においては,本件実地指導から約1年が
経過し,平成27年7月改善報告書が提出された平成27年7月時点においても,原告において文書指摘事項㉒で指摘された違反の有無等を確認する作業が完了しておらず,かえって,違反の有無を検討すべきサービスの特定を原告において自ら行うことが困難な状況であったとみられ,平成28年1月頃に至るまでに原告から具体的な返還金額等が整理された書面等
が提出されたこともなかったというのである(上記認定事実⑸)。そのような状況を踏まえれば,被告が本件資料により一定の算定に基づく返還金額の案や返還計画を示したのは,原告における自主的な検討を促進させるためにやむを得ずした対応であると解され,平成28年1月頃に本件資料を交付したことにより,居宅介護サービス費等の返還を強要したものということは困難であるというべきである。

上記③(対利用者返還部分の返還)については,原告が返還すべき居宅介護サービス費等の範囲について,被告から一定の指導があったことをうかがわせるものではあるが,そのことから直ちに被告がした行政指導が強制にわたるものであったということができるものではない。また,介護保険法や本件各条例に違反した指定居宅サービス等が提供されていたとして,居宅介護サービス費等の返還をする必要がある場合には,適切な指定
居宅サービス等が提供されていなかった可能性があるといえるから,そのような場合に利用者の自己負担部分についても返還をすること自体は,介護保険法の定め(41条4項等)に照らしても一定の合理性を有するものである。
そうすると,原告が対利用者返還部分を返還したことをもって,被告の
行政指導が強制にわたるものであったということもできない。

上記④(本件返還金の支払方法が一括払であったこと)についても,Hが原告代表者に対して原則として一括返還である旨述べた事実は認められるものの(上記認定事実⑸エ),そのような程度を超えて,必ず一括返還をするように強要したというような事情は認められないし,そもそも,被
告においても,平成28年1月頃に原告代表者に交付した本件資料の記載内容(前記前提事実⑶ウ(イ))に照らせば,分割払を前提としていたものと解されるから,被告による強要により原告が本件返還金を一括払で返還することを余儀なくされたということはできない。

上記⑤(D主査の言動)についても,D主査が原告代表者に対して監査の手続に関する一般的な説明をしたことは認められるものの,一般的な手続説明を超えるものであったとは認め難い。また,D主査が,本件について監査に切り替える旨の具体的な発言をしたことや,脅迫的又は威圧的な言動等をしたことを認めるに足りる的確な証拠はなく(なお,原告が受診した医療機関の診療録にもそのような記載は見当たらない。),原告代表者が鬱病を発症したこと(上記認定事実⑺イ)や,本件事業所の全職員が
平成28年3月頃に退職したこと(上記認定事実⑺ウ)等をもってしても,D主査が原告の主張する各言動をしたとは認められない。



したがって,原告の上記主張はいずれも理由がない。
小括
以上によれば,被告がした行政指導が,強制にわたる違法なものであった
ということはできない。
3
争点⑵(行政指導の違法性-行政指導の内容が介護保険法等の趣旨に反するものであるか否か)について


判断枠組み
上記2⑴において説示した行政指導の性質に照らせば,行政指導が目的と
する行政目的は正当なものである必要があるから,法令の趣旨に反するような行政指導は,違法なものとして許されない場合があるというべきである。そこで,以下では,本件実地指導においてF課職員がした指導や,本件実地指導後にF課職員がした指導等が,介護保険法等の趣旨に反するものであるか否かについて検討する。



検討

訪問介護計画等は,利用者の状況等を把握・分析した上で,訪問介護の目的を達成するための具体的なサービス内容等を記載して作成されるものであり,その内容については,サービス提供責任者が,利用者又はその家
族に対して説明し,利用者の同意を得なければならないとされ(介護保険法74条2項,115条の4第2項,指定居宅サービス等基準条例25条1項,3項,指定介護予防サービス等基準条例41条1項2号,4号),適切な指定居宅サービス等を提供するために,また,サービス内容等への利用者の意向を反映する機会を保障するために,重要なものとして位置付けられている。そして,既に居宅サービス計画又は介護予防サービス計画が作成されている場合には,当該計画の内容に沿って訪問介護計画等を作成しなければならないものとされ(介護保険法74条2項,115条の4第2項,指定居宅サービス等基準条例25条2項,指定介護予防サービス等基準条例41条1項3号),これにより,利用者に対する適切な指定居宅サービス等の提供が実現されるよう定められている。

これらの定めを踏まえれば,訪問介護計画等が作成されていない又は利用者の同意が得られていないにもかかわらず指定居宅サービス等が提供されることは,介護保険法及び本件各条例に違反するものであって,このような場合に居宅介護サービス費等を支給することは,一定の資格を有するサービス提供責任者により訪問介護計画等を作成させ,これについて利用
者の同意を得ることを義務付けることによって,被保険者が適切な福祉サービスを受けられるようにすることを図る介護保険法に反するか,又は少なくともその趣旨に反するものである。
そうすると,上記のような介護保険法及び本件各条例に違反する指定居宅サービス等について居宅介護サービス費等が支給されている場合には,
介護保険法22条3項又は不当利得返還請求権に基づいて,その返還を求めることができる場合があるというべきである。したがって,市町村が行う行政指導において,介護保険法及び本件各条例に違反する指定居宅サービス等について居宅介護サービス費等が支給されている可能性がある場合に,事業者に対し,上記の違反の有無を検討させ,上記の違反がある場合
に,当該サービスについて受領した居宅介護サービス費等の返還をするように促す行政指導をすることも,介護保険法等の趣旨に沿うものとして許されるというべきである。

本件において,F課職員は,原告が居宅介護サービス費等を受領した指定居宅サービス等に関し,本件各指導項目のような不備がある旨の指摘をしているところ,上記認定事実⑶イ~オのとおり,本件事業所においては,
指定居宅サービス等に関し,居宅サービス計画書等や訪問介護計画書等が存在しないものや,記載された作成日付時点におけるサービス提供責任者ではない者の名義において作成された訪問介護計画書等(本件事後作成計画書等)が多数存在し,また,訪問介護計画書等の利用者に対する説明日の記載にも不備が多数みられたというのである。そして,居宅サービス計
画書等や訪問介護計画書等が指定居宅サービス等を提供するに当たってその前提となる重要な書類であること(前記第2の1⑴ウ,⑵,⑶),訪問介護計画書等を始めとするこれらの書類については,本件各条例において保管期間が定められていること(前記第2の1⑵オ,⑶),これらの不備がある指定居宅サービス等が多数にわたること(前記前提事実⑵イ,上記
認定事実⑶)等を踏まえれば,本件実地指導においてF課職員が確認した本件事業所における書類の作成・管理状況は,そもそも本件事業所において,訪問介護計画書等が指定居宅サービス等の提供を開始する前に作成されず,訪問介護計画書等が作成されないまま指定居宅サービス等が提供されていたり,サービスが提供された後に訪問介護計画書等が作成されたり
することが常態化していたのではないかとの疑義を生じさせるものであったといえる。
そうすると,F課職員が,上記の本件事業所の書類の作成・管理状況に照らして,介護保険法や本件各条例の定め(介護保険法74条2項,指定居宅サービス等基準条例25条1項,同条2項,同条3項,同条6項等)
に反して,訪問介護計画等が作成されず,又は,利用者に対する事前の同意を得ることなく,指定居宅サービス等が提供されている可能性があると判断したことは合理的である。
そして,そのような違反がある場合には,適切な指定居宅サービス等の提供を制度的に担保しようとした介護保険法及び本件各条例の趣旨に反する重大な違反があるといい得るものであるから,F課職員が,①原告に対して上記違反の有無を検討させ,違反がある場合には当該サービスに係る
居宅介護サービス費等を返還するように指導したこと,②更に,原告が被告に返還すべき居宅介護サービス費等の存在を前提としてその返還協議に応じるときに,その返還方法等について指導をしたことは,いずれも介護保険法や本件各条例の趣旨に沿うものであり,行政指導の一環として行われる報酬請求指導の趣旨にも沿うものであったというべきである。

したがって,被告がした行政指導が,介護保険法等の趣旨に反するものであったということはできない。



原告の主張について
これに対し,
原告は,
①原告が受けた指定居宅サービス事業者の指定を取り
消さなければ,原告が受領した居宅介護サービス費の返還義務が生ずることはない(前記第2の4⑵〔原告の主張〕ア),②介護保険法22条3項に基づく請求権又は不当利得返還請求権が認められる場合でなければ,居宅介護サービス費等の返還を求める行政指導をすることはできない
(同イ),③本件各
指導項目のような不備は軽微なものであって原告に不当利得は成立しておら
ず,
具体的には,㋐訪問介護計画書等を作成後に紛失したものについては,実質的には介護保険法や本件各条例に違反するものでなかった,㋑仮に本件各条例に違反していたとしても,その違反は軽微なものであった(同ウ),④利用者の自己負担部分(対利用者返還部分)
の返還を促すことは違法である(同
エ)旨主張する。


しかし,上記①(原告が受領した居宅介護サービス費の返還義務と原告が受けた指定居宅サービス事業者の指定の取消しの要否)については,最高裁平成23年判決は,不正の手段によって指定居宅サービス事業者の指定を受けた事業者が,受領した居宅介護サービス費について介護保険法22条3項(ただし,平成17年法律第77号による改正前のもの)に基づく返還義務を負うか否かが問題とされた事案であるところ,本件は,そもそも介護保険法22条3項に基づく請求がされたものではなく,F課職員
による行政指導の違法性の有無が争われているものである上,原告が提供したとする個々の指定居宅サービス等について,本件各条例に定める訪問介護計画等の作成の不備や利用者の同意に関する記載の不備等の,居宅介護サービス費等の個別的な返還事由の有無が問題とされている事案である。そうすると,最高裁平成23年判決は,事案を異にし,本件に適切で
ない。
そして,介護保険法41条1項,同条4項,同条6項,同条9項及び介護保険法施行規則64条の各定め等を踏まえれば,指定居宅サービス事業者の指定を受けた事業者が,これらの定めに違反して指定居宅サービス等を提供し,居宅介護サービス費等を受領している場合には,そもそも支払
の要件を満たさない居宅介護サービス費等の支払がされているのであるから,指定居宅サービス事業者の指定が取り消されていなくとも,介護保険法22条3項又は不当利得等に基づいて居宅介護サービス費等の返還義務を負う場合があるというべきである。

次に,上記②(居宅介護サービス費等の返還を求める行政指導をすることができる場合)については,上記2⑴のとおり,行政指導は,行政機関がその任務又は所掌事務の範囲内において一定の行政目的を実現するため特定の者に一定の作為又は不作為を求めるものであって(行政手続法2条6号),一般に相手方の任意の協力において行われるものであるから,被
告において,介護保険給付の請求事務の適正化を図るという介護保険法の趣旨・目的を実現するために必要であるにもかかわらず,介護保険法22条3項に基づく請求権又は不当利得返還請求権が認められる場合でなければ居宅介護サービス費等の返還を促す内容を含む行政指導をすることができないと解することは,上記行政指導の性質に沿うものとはいい難い。むしろ,介護保険法22条3項に基づく返還請求という強制的な手段のみならず,行政指導という非強制的な手段を柔軟に行使し,個別的な状況に応
じて,適時に適切な内容の指導をすることにより,柔軟に介護保険給付の請求事務の適正化を確保することこそが介護保険法の趣旨に沿うものであるといえる。
また,本件において,F課職員は,原告に対して自主的な検討を促し,本件各条例に違反して指定居宅サービス等が提供されていた場合には,受
領した居宅介護サービス費等を任意に返還するよう促す旨の指導をしており,その指導の具体的な方法として,途中から,自主返還を検討すべき対象となるサービスを確認したいとする原告代表者の要望を受けて本件一覧表を作成して原告代表者に交付し,原告代表者が本件一覧表の記載内容や居宅介護サービス費等を返還することについて不服を述べなかったことか
ら,原告代表者と居宅介護サービス費等の返還方法等について協議するという方法がとられたというのであって(上記認定事実⑸ウ,エ),上記違反があると断定した上で返還を請求する場合とは状況を異にするものであるというべきである。

上記③(本件における居宅介護サービス費等の返還を求める行政指導の可否)について検討する。
まず,上記③㋐については,上記の本件事業所における書類の作成・管理状況に照らせば,少なくとも本件各条例に違反して,訪問介護計画等が事前に作成されておらず,又は事前に利用者からの同意が得られていない
指定居宅サービス等の提供がされていた蓋然性が認められるから,理由がない(なお,この点について本件実地指導時において原告代表者や本件事業所の職員が合理的な説明をしていたともみられない。この点に関し,原告代表者は,本件実地指導において,本件事後作成計画書等は,サービス提供前に作成されていた訪問介護計画書等を紛失したために再度作成したものであると説明した旨供述するが,本件事後作成計画書等が多数存在することや,同意日の記載についての不備が多数存在すること等を踏まえれ
ば,F課職員において,少なくとも本件事業所においては本件各条例の定めを軽視した不適切な運営がされていたことが強くうかがわれると判断したとしてもやむを得ないものである。)。
次に,上記③㋑については,そもそも不当利得に基づく返還請求権が成立すると認められる場合でなければ居宅介護サービス費等の返還を促す行
政指導をすることができないというものではないし(上記⑵ア及び上記イ),上記⑵イのとおり,訪問介護計画書等を作成することや訪問介護計画書等について利用者から事前の同意を得ることの重要性に加えて,本件各指導項目で指摘された書類の不備等が多数存在することをも考慮すれば,本件事業所においてみられた介護保険法又は本件各条例の違反が軽微
であるなどということはできず,適切な指定居宅サービス等が提供されていたかについても疑義がある状況であったというべきである。
そうすると,
上記のような違反がある場合には当該違反が認められる指定居宅サービス等に関して受領した居宅介護サービス費等の全額を返還するように促すことも,一定の合理性を有するものであるといえるし,行政指導によって将
来にわたる報酬請求事務の適正化を図るという目的にも合致するものであるから,
違反の程度に対する過度な制裁であるなどということもできない。エ
上記④(利用者の自己負担部分〔対利用者返還部分〕の返還の促し)について,上記のとおり,原告が提供したとする指定居宅サービス等が介護
保険法及び本件各条例の定めに反するものであることがうかがわれ,適切な指定居宅サービス等が提供されたものであるか否かが疑わしいものであったところ,被告が原告に対して支給する居宅介護サービス費等及び利用者が原告に対して支払う自己負担部分は,いずれも利用者に対して介護保険法や本件各条例の定めを踏まえた適切な指定居宅サービス等が提供されたことを前提とするものであるから,被告において,原告に対し,上記違反があるか否かを自主的に検討するように促した上で,違反がある場合に
は利用者から受領した自己負担部分について返還するように促すことも,介護保険法等の趣旨に反するものとはいえない。

その他,原告代表者は,指定居宅サービス等の実情等からすれば,同意日の記載の不備や同意日がサービス提供開始日よりも後になっていること等は,指定居宅サービス等の提供に当たり,事実上やむを得ないものであ
る旨供述する。
しかし,本件各指導項目で指摘された不備は,上記認定事実⑶オのとおり,本件実地指導において調査の対象とされた期間の指定居宅サービス等の利用者61名のうちごく一部の利用者に関するサービスについてのみ存在したというものではなく,利用者のうち大半の者に関するサービスにつ
いて存在したというのであるから,本件事業所においては事実上やむを得ないような場合にのみ訪問介護計画書の記載等に欠落等があったにすぎないとはいい難く,本件各条例の定めに違反するサービス提供が恒常的にされていた可能性があると認められる。
そうすると,原告の上記主張をもって,被告がした行政指導が,介護保
険法や本件各条例の趣旨に反し,違法であるということはできない(なお,そもそも,原告代表者の供述や,本件において提出されたその他の証拠によっても,訪問介護計画書等を作成し,サービス提供前にこれについて利用者の同意を得て,その旨を訪問介護計画書等に記入することが事実上困難であるといった事実は認められない。)。


したがって,原告の上記主張はいずれも理由がない。


小括
以上によれば,被告がした行政指導が,介護保険法等の趣旨に反する違法なものであったということはできない。

4
争点⑷(不当利得返還請求権の成否〔返還合意の有無及び利得額〕)について
原告は,対被告返還部分について,法律上の原因なく被告が利益を受けた旨主張する。
しかし,対被告返還部分のうち,①居宅介護サービス費等1909万4631円(前記前提事実⑸ア)及び②生活保護介護扶助分44万5228円(前記
前提事実⑸イ(ウ))については,いずれも,被告が原告に対してした行政指導を受けて,原告が,介護保険法及び本件各条例に反する指定居宅サービス等を提供していたとして,受領済みの居宅介護サービス費等の返還を申し出て(甲6の1~3,7の1・2),被告がこれを受けて返還を受けることとし,原告が被告に対して実際に返還したものであるから(前記前提事実⑸ア,イ(ウ)),遅
くとも原告が被告に対して上記各金額を返還した時点までに,原被告間に,上記各金額を返還する旨の合意が成立していたと認められる。また,③高額介護サービス費相当分(前記前提事実⑸イ(イ))についても,前記前提事実⑸イ(イ)のとおり,遅くとも原告が被告に対して高額介護サービス費相当分を返還した時点までに,原告,被告及び各利用者との間に,これを被告に返還する旨の合
意が成立していたと認められる。
したがって,対被告返還部分については,いずれについても,原被告間に法律上の返還義務を発生させる合意があったというべきであるから,被告がこれを取得することにつき法律上の原因があるということができ,原告が被告に対して不当利得返還請求権を有しているとはいえない(なお,原告は,返還
申出書等の提出は事実行為であり,意思表示ではないなどと主張するが,原告が提出した各返還申出書の体裁,提出に至る経緯,記載内容,その後の支払等の各事情を踏まえれば,返還合意に向けた意思表示であると認められるから,原告の上記主張は採用することができない。)。
5
まとめ
以上のとおり,本件において被告がした行政指導が違法であるとは認められないから(上記2,3),争点⑶について判断するまでもなく,原告が被告に対
し,国家賠償法1条1項に基づく損害賠償請求権を有しているとは認められない。
また,原告が被告に対し,対被告返還部分に相当する金額について不当利得返還請求権を有しているということもできない(上記4)。
第4

結論
よって,原告の請求は理由がないからこれらをいずれも棄却することとして,
主文のとおり判決する。
大阪地方裁判所第7民事部

裁判長裁判官

山地
裁判官

新宮
裁判官

関修智之尭熙
トップに戻る

saiban.in