判例検索β > 令和3年(わ)第169号
収賄
事件番号令和3(わ)169
事件名収賄
裁判年月日令和4年2月22日
法廷名那覇地方裁判所
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-02-22
情報公開日2022-03-25 04:00:08
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主文
被告人を懲役3年に処する
この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
被告人から金600万円を追徴する。

訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
(罪となるべき事実)
被告人は、宮古島市長として、宮古島市の事務を統括執行し、防衛省から同市への陸上自衛隊の配備計画の受入れを要請され、これに対応するなどの職務を担当していたものであるが、同市に陸上自衛隊を配備する計画が進められ、同市に陸上自衛隊が配備されることとなった場合には、陸上自衛隊の用地として株式会社A所有に係る土地が有力な候補となっていたところ、被告人が宮古島市議会での一般質問に対する答弁として同市への陸上自衛隊の配備計画の受入れを表明したことにより、
同土地を陸上自衛隊の駐屯地用地として国に売却することができたことに対する謝礼の趣旨の下に供与されるものであることを知りながら、平成30年5月24日、東京都千代田区(住所省略)において、同社代表取締役として同社の業務全般を統括していたBから、現金600万円の供与を受け、もって自己の職務に関して賄賂を収受した。

(証拠の標目)

(事実認定の補足説明)
1
争点
被告人が、宮古島市議会での一般質問に対する答弁として陸上自衛隊配備計画
の受入れを表明したこと(以下本件表明という。、判示記載の日時場所で、)
Bから現金600万円(以下本件金員という。
)の供与を受けたことは、証拠
上明らかである。ここで、被告人は、本件表明は、宮古島市長の職務権限に含まれないし、本件金員は、政治献金として受け取ったものであるなどと供述し、弁護人も、①本件表明は宮古島市長の職務権限に属さないため、本件金員は職務に関して収受されたものではない、②本件金員は本件表明の対価ではないから賄賂性を欠く、③被告人には賄賂性の認識がなく故意を欠くとして、無罪である旨主
張する。本件の争点は、公判前整理手続で整理されたとおり、①職務性、②対価性、③賄賂性の認識である。
2
前提となる事実関係
被告人の供述やこれに合致することなどから信用性に疑いがないBの供述部分
を含む関係証拠によれば、以下の事実を容易に認定することができる。被告人及びBの経歴等

被告人は、平成21年1月に施行された宮古島市長選挙に当選して以降、令和3年1月24日に三期目の任期を満了するまでの間、同市長を務めた。

Bは、宮古島市に本店を置き、ゴルフ場であるAを運営する株式会社Aの代表取締役を平成11年頃から令和3年3月末日まで務めるとともに、平成
26年5月27日から平成27年4月24日までCの事務局長をしていた。⑵

宮古島市における陸上自衛隊配備計画の概要
防衛省では、中期防衛力整備計画が閣議決定されて以降、宮古島市への陸上自衛隊配備の検討を進めており、平成26年夏頃には、宮古島市内にあるAの
土地(以下本件土地という。
)とDの土地の2か所を駐屯地用地の有力候補
として絞り込んでいた。
防衛省(沖縄防衛局)と宮古島市との間では、この頃から、防衛省職員らが宮古島市長であった被告人と面談して、陸上自衛隊配備計画を説明したり、被告人との間で意見交換をしたりするなどの折衝が行われるようになった。被告
人は、その中で、宮古島市内のインフラ整備の必要性や振興のバランス、市議会の政治情勢等を踏まえつつ、隘路やこれを克服する段取りなどに関する意見を沖縄防衛局職員に述べ、時には強い意向を示して自らの提案を本省に持ち帰らせることもあった。


Bの被告人に対する陳情等

Bは、平成26年末頃、Dの土地と本件土地が駐屯地用地の候補になっていることを知った。他方、株式会社Aは、この頃、競合するゴルフ場などの
影響により、
多額の債務を抱え、
同年4月には不動産競売開始決定を受けた。
被告人も、このような経済的苦境について、認識していた。

Bは、平成27年4月頃、Cの会長を務めていた被告人と総会の日程調整等をするため、宮古島市長室を訪問して被告人と面会をすることが二、三回ほどあり、その中で、被告人に対して、

Aのこともよろしく。、

自衛隊の誘致についてもし認められなければ自分はもう本当に破産をして死んでしまうかもしれない。、

お礼をします。

等と発言をした。被告人は、これらのBの発言を聞き、同発言は、Bが経営する株式会社Aが多額の債務を抱えていたことから追い詰められており、本件土地に陸上自衛隊を誘致してほしいという意味、及び、仮に誘致がされ本件土地が売れた
場合には、何らかの形でお礼をするという意味であると理解した。しかし、被告人は、宮古島市への陸上自衛隊配備計画への対応は、宮古島市長である被告人の政治信条・信念に従って決める問題であり、Bの陳情によって決めるという考えはなかったことから、同発言に対して、

そんなばかなことをここで言うな、私はそういうつもりで自衛隊の誘致の場所を決めとるわけではない、だからそういう話は二度とここではするな。と返答したり、

はいはい。」と適当に返事をしたりした。


本件表明に至る経緯等

平成27年5月11日、当時の防衛副大臣が、陸上自衛隊の駐屯地、訓練場、隊員宿舎を整備するために、Dの土地と本件土地の2か所を取得する方針を表明した。防衛省では、駐屯地の中心的な用地としてはDの土地が適地であると考えて検討を進めていたが、Dの駐屯地施設建設予定場所が、宮古島市地下水保全条例の保全区域に該当し、同条例により宮古島市との事前協議が必要であったことから、平成28年1月、Dの土地への駐屯地施設建設の可否を判断する地下水審議会が開始された。この頃には、Dに駐屯地施設を建設することに反対する声が強まっていた。


防衛省は、
地下水審議会の専門部会であった学術部会における審議の結果、
Dの土地への駐屯地施設建設が認められない可能性があったことから、同年3月に協議書を撤回し、同年5月には、駐屯地計画を一部変更し、駐屯地施設建設予定場所を保全区域外とした。しかし、反対の声は続き、同年6月には、宮古島市議会与党議員の過半数がDへの陸上自衛隊配備に反対した。そ
して、宮古島市に陸上自衛隊を配備することそのものに対して反対する声も強かった。

そのような状況の中、被告人は、同月20日、宮古島市議会(平成28年第4回宮古島市議会定例会)において、一般質問に対する答弁として、市政を担う市長の責務にも言及しつつ、水道資源への影響を考慮してD周辺地域
での駐屯地施設建設を認めない旨表明するとともに、市民の生命、財産を守るなどの観点から、宮古島市への陸上自衛隊配備を了解する旨を表明(本件表明)した。

防衛省は、本件表明を受けて、Dの土地を中心にした配備計画から、本件土地に駐屯地主要施設を配置する計画に変更することとした。沖縄防衛局長
は、同月22日、宮古島市役所を訪ね、陸上自衛隊駐屯地用地として、本件土地の取得手続を進めることを被告人に伝達した。


本件土地の売買等
沖縄防衛局は、本件土地を陸上自衛隊駐屯地用地として取得するに伴い、平
成29年10月10日、株式会社Aとの間で、損失補償契約及び不動産売買契約(以下本件売買契約等という。
)を締結し、その後、沖縄防衛局から同年
11月に15億2453万7690円、12月に2億円、平成30年9月に6451万4000円が同社の預金口座に入金された。


本件金員供与の経緯

Bは、親戚であるEから、株式会社AとEとの架空の契約に基づいてEの預金口座に振込み入金をし、これを還流して裏金を作る話を持ち掛けられ、
平成30年3月30日、従業員に指示をして、株式会社A名義の預金口座から、E名義の預金口座に1000万円を入金した。

Bは、平成30年5月、被告人の携帯電話に、宮古島の外で面会したい旨連絡を入れた。被告人は、北海道で公務があり、北海道から宮古島への帰路の途中東京で1泊する予定であったため、そこでの面会を約した。

Bは、同月21日、Eに前記E名義の口座から1000万円を現金で引き出してもらい、そのうち600万円を受け取った。


被告人は、同月24日、北海道出張の後、判示記載の東京都千代田区(住所省略)の喫茶店で、Bと会った。Bは、被告人に対し、

ありがとうございました。

などと申し向けながら、現金600万円(本件金員)入りの紙製手
提げ袋を渡した。


過去のBの選挙資金提供
Bは、被告人に対し、平成29年1月の選挙期間中にお茶代として25万円を提供したことがあったが、平成30年6月までの間、他に、被告人に対して現金を供与したことはなかった。

3
①職務性について

刑法197条1項にいう職務とは、公務員がその地位に伴い公務として取り扱うべき一切の執務をいう。ここで、市長の職務に関する法令の定めをみると、まず、地方自治法147条は、

普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体を統轄し、これを代表する。

と定める。また、同法148条は、

普通地方公共団体の長は、当該普通地方公共団体の事務を管理し及びこれを執行する。

と定め、同法149条は、普通地方公共団体の長が概ね担任する事務として、1号から8号まで具体的に長の権限を列挙するとともに、9号で

前各号に定めるものを除く外、当該普通地方公共団体の事務を執行すること

と、
概括的に権限を定めている。
このような規定ぶりに照らすと、
普通地方公共団体の事務の執行と認められるものは、法令の規定等により他
の機関の権限に属するとされているなどの特別の事情がある場合を除き、長の法令上の職務に属するものと解される。そして、同法2条2項が、普通地方公共団体は地域における事務…を処理する旨を規定し、同条3項が

市町村は、…一般的に、前項の事務を処理する

旨を規定していることからすれば、被告人による本件表明が地域における事務
(同法2条3項、2項)

の執行といえる場合には、地方自治法上の市長の権限(同法149条9号)に属するものといえ、刑法197条1項にいう職務に該当するものといえる。
そして、本件表明が地域における事務の執行に当たるかを検討するに際しては、市町村が、国や都道府県との役割分担を前提としつつも、住民に
最も身近である基礎的な地方公共団体として、

住民の福祉の増進を図ることを基本として、地域における行政を自主的かつ総合的に実施する役割を広く担うもの

とされていることを基本的な視座に据えるべきである(地方自治法1条の2第1項、
第2項、
2条3項、
5項参照)このような観点から、

宮古島市への陸上自衛隊配備計画を受け入れる旨の本件表明が市町村が処理
する地域における事務の執行に該当するか検討する。

ここで、陸上自衛隊配備は、国防のあり方に直結するのみならず、その性質上、大型車両等の通行や装備の配備、非常時の住民保護などといった両面で地域住民の保護や安全、地域の環境に多大な影響を与えるものであるし、
また、納税の増加や各種補助金等による歳入増、消費や施策を通じた経済振興、上下水道、道路、学校といったインフラの新設や増強、その予算化、港湾施設を含む公共施設の使用なども含め、あらゆる面において、地域住民の生活や、地域のあり方に多大な影響を与えるものといえる。そして、宮古島市においては、陸上自衛隊配備計画を受け入れるかどうかは、容認派も存在する一方で、反対運動も巻き起こり、市議会与党議員の過半数もDへの駐屯地施設建設には反対するなど、地域住民にとって一大関心事といえる事柄で
あり、まさに、地域住民を二分するような重要な政策課題であった。被告人自身、陸上自衛隊配備に関する最終的な決定権限を有しないことを前提としつつも、従前から、宮古島市の実情や、時々の情勢に応じた自身の見解を、沖縄防衛局職員に述べて折衝していたところ、最終的には、当時の国際情勢や沖縄県、宮古島市の置かれた状況なども考慮し、宮古島市民の生命や財産
を保全する観点から陸上自衛隊配備が必要であると考え、また、Dの土地には地下水保全区域が含まれ、その点を捉えた反対運動が起きていることなども考慮した上で、本件表明をするに至ったというのである。
このような被告人の政策判断は、地域住民を二分するような地域の重要な政策課題に道筋をつけるべく、住民に最も身近な地方公共団体である市を代
表する者として、前記のような住民の福祉の増進に関する様々な要素を総合的に考慮した上で一定の見解を示し、市政を導こうとする、まさに政治家である市長にしかなし得ない、
その本分ともいい得る行動である。
そうすると、
本件表明の内容が市町村が処理する地域における事務に関するものであることは明らかであるし、これを議会における一般質問という公式な場で行
うことが、
市長としての立場に基づく事務の執行であることにも疑いはない。ウ
そして、このような解釈適用は、地方自治法以外の法令の定めとも整合的といえる。例えば、防衛省は、

陸上自衛隊…の組織、定員、編成、装備及び配置に関する

事務(防衛省設置法4条3号)をつかさどり、地方防衛局企
画部は、上記事務を円滑かつ効果的に実施するための地方公共団体及び地域住民の理解及び協力の確保に関する事務
(地方防衛局組織規則5条1項1号)
をつかさどるものとされている。陸上自衛隊配備が国防に直結するのみならず、あらゆる面において地域住民の生活や地域のあり方に多大な影響を与えることに鑑み、
地域の実情に明るい地方公共団体の意向に配慮する趣旨から、
このような協力を確保する調整が予定されているものと解され、地方公共団体の側でも、これに応対する事務が存在することが当然に想定されている。
実際にも、防衛省側は、陸上自衛隊配備にあたり、地元の理解等を得ることが重要な要素となるとの認識の下、
地方公共団体に要請や調整を行ってきた。
そうすると、このような他の法令の定めに照らしても、市長が防衛省側との調整に応対したり、地域を代表する者として意見を述べたりすることは、まさに地域における事務の執行として法が想定しているものというほかな
い。

このように、あらゆる角度から観察してみても、本件表明は、宮古島市の地域における事務
(地方自治法2条3項、2項)の執行として、市長の職
務権限(同法149条9号)に属するものと認められ、刑法197条1項に
いう職務に該当する。
弁護人は、これに対し、陸上自衛隊配備の決定権限は防衛省側にあって被告人にはなく、地方公共団体側が受入れに同意せずとも、防衛省側が駐屯地用地を取得し、駐屯地施設を建設することは可能であるなどと指摘して、本件表明は、被告人が個人の考えを述べたものに過ぎないから、職務に当たらない旨主
張する。
しかし、本件で問われているのは、陸上自衛隊配備の決定等ではなく、本件表明が市長としての職務といえるかである。また、陸上自衛隊配備の決定権限が最終的には国防を担う防衛省側にあるとしても、陸上自衛隊配備が、あらゆる面において、地域住民の生活や、地域のあり方に多大な影響を与えるもので
あって、それゆえに、法の趣旨に則り、防衛省側と地方公共団体側との間で、調整等が行われてきたことは先に説示したとおりである。市長として、住民の福祉の増進のため、被告人が折衝や熟慮を重ねた上で市議会でした本件表明を個人の考えとみる余地は、先に認定した経緯に照らしても皆無である。主張は採用できない。
4
②対価性及び③賄賂性の認識についてア
先に説示ないし認定したとおり、本件表明に至るまでの間、防衛省側は、陸上自衛隊配備にあたり、地元の理解等を得ることが重要な要素となるとの認識の下、地方公共団体に要請や調整を行ってきたこと(前記3⑴ウ)、陸上
自衛隊の配備場所としてDの土地と本件土地が有力な候補となっており、宮古島市への陸上自衛隊配備が決定された場合には、本件土地がその駐屯地用
地として選定される可能性があったこと(前記2⑵)からすれば、宮古島市が陸上自衛隊配備計画に対して受入れを表明するか否かが宮古島市への陸上自衛隊配備の決定に一定の影響を与え、ひいては、本件土地の売却の可否にも影響するという関係を認めることができる。そして、Bは、本件表明の当時、代表取締役を務める株式会社Aが多額の債務を抱えて経営困難に陥って
おり(前記2⑶ア)
、本件土地の売却に強い利害を有していたところ、被告人
が受入れ表明をするかどうかが本件土地の売却の可否に具体的・現実的に影響を与えることを前提として、被告人に対して受入れを表明するよう陳情するなどの行為をしていた(前記2⑶イ)
。その後、Dの土地への駐屯地施設建
設に反対の声が強まる中、宮古島市への陸上自衛隊配備そのものへの反対の
声も強まっていた(前記2⑷ア、イ)

このような状況の下、被告人は、宮古島市への陸上自衛隊配備計画を受け入れる本件表明をし、それを踏まえて、配備の決定及びその駐屯地用地として本件土地が選定され、株式会社Aが本件土地を売却することができた(前記2⑷エ、⑸)という経過が認められることからすると、被告人がBの陳情
を受け入れたとか、それによって市の方針を歪めたとはうかがわれないものの(前記2⑶イ)
、結果的に本件土地を売却して同社の多額の債務を支払うこ
とができたBが、本件表明に対して感謝の念を抱くことは当然といえる。Bにとって本件土地が売却できるか否かは死活問題であったのであり、本件表明によって得たBの利益は、政治献金をする一般的な支援者の利益を遥かに超えた具体的な利益といえ、Bもこれを期待していたといえる。そして、株式会社Aに対して本件土地の売却代金等が支払われた後、Bは、被告人に対
し、感謝の言葉とともに本件金員を供与しており(前記2⑹エ)、本件表明以
外に被告人に対して感謝を伝えるべき事情もうかがわれないことも考慮すると、本件金員の供与は、本件表明が本件土地の売却につながったことに対する謝礼の趣旨を含むものと強く推認される。本件金員の額が、Bが被告人に対して従前供与した選挙資金や、他の支援者が政治献金として被告人に渡す
金員の額に比して、かなり大きいこと(前記2⑺)、は、本件金員の供与の趣
旨が、選挙資金や政治献金とは異質なものであるか、あるいは、それらの趣旨に加えて他の特別な趣旨を含んだ金員であることをうかがわせるものであり、上記推認を支える事情となる。また、本件金員を供与した態様についてみても、Bと被告人は、各居住地である宮古島ではなく、あえて東京に赴い
た上で供与しており(前記2⑹イ)
、本件金員の供与が人目をはばかるべきも
のと認識していたという限度で上記推認と整合する。
以上述べてきたところによれば、本件金員は、本件表明に対する謝礼の趣旨を含むものと認められるから、本件表明の対価であり、
賄賂に該当する
(②)



また、被告人は、本件表明によって、結果的に破産を免れ、大金を得て被告人に感謝しているであろうBが、被告人と島外で面会する約束を取り付けた上で、被告人に現金を渡そうとしたなどという上記の賄賂性を基礎づける事実経過の根幹を認識していたのであるから、名目は何であれ、この現金が
本件表明に対する謝礼の趣旨を含むものであると認識し、受け取らない意思決定をすることは十分に可能であったといえる。そうすると、賄賂性に関する被告人の故意も推認することができる(③)。

被告人は、この点につき、本件金員は政治献金として供与されたものと認識していた旨供述する。しかし、上記事実関係を認識しながら、本件金員が本件表明に対する謝礼の趣旨を含むものであることを認識しないことは常識的に考え難い。また、被告人は、上記のとおり供述する一方で、公判廷にお
いて、本件表明が陸上自衛隊配備計画や駐屯地用地決定の判断要素となることを理由に、Bが、被告人に対して、本件土地を売却できたことによって破産状態から解放された感謝の気持ちをもっており、その謝礼としてお金をもってくる可能性も考えていたなどとも供述している。そうすると、先の被告人の供述は、被告人質問内においても一貫しないものであるし、政治献金名
目での現金供与であっても収賄罪が成立し得ることなどからすれば、せいぜい法の不知をいうものにすぎないというべきであって、故意の推認を妨げるものではない。

被告人の供述及び弁護人の主張について

弁護人は、Bが被告人に対して本件金員の供与の以前・以後にも選挙資金を提供した事実を指摘して、本件金員が政治献金等であった疑いが残ると主張する。しかし、仮に本件金員の供与に政治献金等の趣旨が含まれていたとしても、
これは本件表明に対する謝礼の趣旨と両立・併存し得るのであって、賄賂性が排除されることにはならない。また、先に指摘した金額の大きさな
どのほか、
本件金員の供与の前後に選挙戦の予定があったとはうかがわれず、供与の時期に質的な差異があることなどからしても、本件金員が専ら政治献金等として供与されたとは認め難いところである。
また、弁護人は、Bが、宮古島市の保有するゴルフ場の指定管理や経営を行うための便宜を図ってもらう趣旨など謝礼以外の趣旨があった旨供述して
いることも指摘する。しかし、B自身も、その供述を全体としてみれば、謝礼の趣旨もあった旨を供述しており、専ら謝礼以外の趣旨で本件金員を供与したとは供述していない。結局、本件金員に本件表明に対する謝礼の趣旨が含まれる以上、政治献金等、謝礼以外の趣旨が併存する場合であっても、本件金員全体について対価性が損なわれることはない。弁護人の上記各主張は、採用できない。イ
弁護人は、本件土地の売却代金約18億円に比して600万円が少額であると指摘して、本件金員が本件表明に対する対価ではない旨主張する。しかし、少なくとも、本件金員が過去にBが供与した選挙資金や他の支援者の政治献金と比してかなり高額であることは前示のとおりであって、これは被告人も認めるところであるし、社会通念に照らしても、600万円を少額という評価自体が誤っている。さらに、現に、Bが親戚の協力の下、架空
の契約を締結するなどして本件金員を捻出した経過も考慮すると、600万円という本件金員は、Bが容易に準備できる金額を超えていると考えられ、賄賂性が否定されるような少額とはいえない。

弁護人は、本件表明から本件金員を供与するまで約2年が経過しており、この間、Bが被告人に対して本件表明に対する謝礼の意思を示したことがないにもかかわらず、Bが唐突に本件表明に対する謝礼を渡すことは極めて不自然である旨主張する。
しかし、Bが、本件表明によって利益を得られたのは、株式会社Aに不動産の売却代金等が最初に支払われた平成29年11月であるから、本件表明
から本件金員の供与に至るまでに時間が経過していることが不自然ということはできない。むしろ、売却代金の最初の支払時期から本件金員の供与に至るまでが約5か月と近接していることからすれば、かえって、本件表明に対する謝礼であることをうかがわせる事情といえる(被告人自身も、詳細な時期はさておき、当時、本件土地の売却によりBが得た大金の使途は、島内の
関心事であった旨述べている。。そうすると、弁護人の主張は、本件金員が)
本件表明に対する謝礼の趣旨であったとの推認を左右するものではない。エ
弁護人は、本件表明に当たってBからの請託がないことも指摘する。しかし、本件は、贈賄者からの請託によらず、職務の対価として賄賂を受け取ったことを刑法上処罰する単純収賄として起訴されたものである。
また、
Bが、
本件土地売却によって経済的苦境を免れるべく、被告人による陸上自衛隊配備計画の受入れを期待しており、このようなBの期待を被告人も認識してい
たことは、先に認定した事実経過に照らしても明らかである。弁護人の主張は採用できない。



その他、
弁護人がるる主張する点を踏まえても、
前記認定は左右されない。
よって、本件金員は本件表明の対価であり、被告人には賄賂性の認識があっ
たものと認められる。

5
結論
以上によれば、
本件金員の供与は、
被告人の職務である本件表明の対価であり、
被告人もこれを認識していたと合理的な疑いをいれる余地なく認めることができる。したがって、被告人には、判示のとおりの収賄罪が成立する。
(法令の適用)

(量刑の理由)
被告人は、自らの職務によって結果的に利益を受けた支援者から、安直に賄賂を受け取っており、その金額も相応に大きい。被告人が市民の負託を受けた市長とい
う責任ある立場にあったにもかかわらず、市政を左右するような重要な政治課題に関連して賄賂を収受したことを併せ考えると、
本件犯行は、
市長の職務、
ひいては、
市政の公正さや廉潔性に対する市民の期待や信頼を大きく裏切るものであったというべきである。
もっとも、被告人は、本件において、金員の供与を期待していたとまではうかが
われないし、賄賂を受け取るために、主体的・能動的に行動したともうかがわれないのであって、同種事案の量刑傾向をみたとき、行為責任に見合った量刑として、実刑が不可避であるとまではいいがたい。このことに加え、被告人に前科前歴がないことなど、被告人のために酌むべき一般情状を考慮すれば、本件については、被告人を主文の刑に処してその刑事責任を明確にした上、刑の執行を猶予することが相当であると判断した。(検察官の求刑・懲役3年、追徴600万円)
令和4年2月25日
那覇地方裁判所刑事第1部

裁判長裁判官

小野裕信
裁判官

坂本辰仁
裁判官

山本隼

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