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損害賠償請求控訴事件
事件番号令和3(ネ)228
事件名損害賠償請求控訴事件
裁判年月日令和4年2月22日
法廷名大阪高等裁判所
結果その他
原審裁判所名大阪地方裁判所
原審事件番号平成30(ワ)8619
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-02-22
情報公開日2022-03-23 04:00:09
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令和4年2月22日判決言渡
令和3年(ネ)第228号

同日原本領収

裁判所書記官

損害賠償請求控訴事件(原審・大阪地方裁判所平成30

年(ワ)第8619号・平成31年(ワ)第727号)
口頭弁論の終結の日

令和3年11月30日

【当事者の表示


記載省略】
主文1
原判決を次のとおり変更する。

2
被控訴人は、控訴人1に対し、1430万円及びこれに対する平成30年10月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3
被控訴人は、控訴人2に対し、1100万円及びこれに対する平成31年2月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

4
被控訴人は、控訴人3に対し、220万円及びこれに対する平成31年2月6日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。

5
控訴人1及び控訴人3のその余の請求をいずれも棄却する。

6
訴訟費用は、第1、2審を通じて、控訴人1に生じた費用の5分の3と被控訴人に生じた費用の5分の1を控訴人1の負担とし、控訴人3に生じた費用の5分の4と被控訴人に生じた費用の15分の4を控訴人3の負担とし、その余の費用を被控訴人の負担とする。

7
この判決は、第2項ないし第4項に限り、仮に執行することができる。ただし、被控訴人が控訴人1に対して1300万円、控訴人2に対して1000万円、控訴人3に対して200万円の各担保を供するときは、それぞれ主文第2項、第3項及び第4項に係る仮執行を免れることができる。事
第1
1実及び理
控訴の趣旨
原判決を取り消す。由

2
被控訴人は、控訴人1に対し、3300万円及びこれに対する平成30年1
0月12日から支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
3
被控訴人は、控訴人2及び控訴人3に対し、それぞれ1100万円及びこれ
に対する平成31年2月6日から各支払済みまで年5分の割合による金員を支払え。
第2
1
事案の概要
本件は、優生保護法(平成8年法律第105号による改正前のもの。以下旧優生保護法という。)に基づく不妊手術(人の生殖腺を除去することなしに、生殖を不能にする手術。以下優生手術という。)を受けたという本人又はその配偶者である控訴人らが、旧優生保護法が人の性と生殖に関する権利であるリプロダクティブ・ライツ、自己決定権、平等権等を侵害する違憲なものであるにもかかわらず、①国会議員が旧優生保護法を立法したこと、②国会議員が被害救済立法を行わなかったこと、③厚生労働大臣及び内閣総理大臣が被害救済措置を講じなかったことがいずれも違法であると主張して、被控訴人に対し、国家賠償法1条1項に基づく損害賠償として、控訴人1について3300万円(慰謝料3000万円、弁護士費用相当額300万円)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成30年10月12日から、控訴人2及び控訴人3について一部請求としてそれぞれ1100万円(慰謝料1000万円、弁護士費用相当額100万円)及びこれに対する訴状送達の日の翌日である平成31年2月6日から各支払済みまで民法(平成29年法律第44号による改正前のもの。以下同じ。)所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。

2
原審は、控訴人らの請求をいずれも棄却したところ、これを不服として、控訴人らが本件控訴を提起した。

3
前提事実(当裁判所に顕著な事実、当事者間に争いがない事実並びに後掲の証拠(枝番号のある証拠は、特に断らない限り、全ての技番号を含む趣旨である。以下同じ。)及び弁論の全趣旨から容易に認定できる事実)


関係法令の定め

旧優生保護法の定めは、原判決別紙のとおりであり、そのうち本件で問題となる主要な条文は以下のとおりである。
1条(この法律の目的)
この法律は、優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するとともに、母性の生命健康を保護することを目的とする。
2条1項(定義)
この法律で優生手術とは、生殖腺を除去することなしに、生殖を不能にする手術で命令をもって定めるものをいう。
3条1項(医師の認定による優生手術)
医師は、左の各号の一に該当する者に対して、本人の同意並びに配偶者(中略)があるときはその同意を得て、優生手術を行うことができる。但し、未成年者、精神病者又は精神薄弱者については、この限りでない。a
1号

b略
2号
本人又は配偶者の四親等以内の血族関係にある者が、遺伝性精神病、遺伝性精神薄弱、遺伝性精神病質、遺伝性身体疾患又は遺伝性畸形を有しているもの

c
3号ないし5号


4条(審査を要件とする優生手術の申請)
医師は、診断の結果、別表(原判決別紙の末尾参照。以下同じ。
)に
掲げる疾患に罹っていることを確認した場合において、その者に対し、その疾患の遺伝を防止するため優生手術を行うことが公益上必要であると認めるときは、都道府県優生保護審査会に優生手術を行うことの適否に関する審査を申請しなければならない。12条(精神病者等に関する優生手術)医師は、別表第1号又は第2号に掲げる遺伝性のもの以外の精神病又は精神薄弱にかかっている者について、精神保健及び精神障害者福祉に関する法律(昭和25年法律第123号)第20条(後見人、配偶者、親権を行う者又は扶養義務者が保護者となる場合)又は同法第21条(市長村長が保護者となる場合)に規定する保護者の同意があった場合には、都道府県優生保護審査会に優生手術を行うことの適否に関する審査を申請することができる。

旧優生保護法施行規則(昭和27年8月4日厚生省令第32号)1条の定めは、次のとおりである。
旧優生保護法2条に規定する優生手術は、左に掲げる術式によるものとする。
1、2号
3号


卵管圧ざ結さつ法(マドレーネル氏法)

卵管をおよそ中央部では持し、直角又は鋭角に屈曲させて、その両脚を圧ざかん子で圧ざしてから結さつするものをいう。
4号

卵管間質部けい状切除法

卵管峡部で卵管を結さつ切断してから子宮角にけい状切開を施して間質部を除去し、残存の卵管断端を広じん帯又は腹膜内に埋没するものをいう。


旧優生保護法4条又は12条の申請による優生手術の手続の概要

旧優生保護法4条の申請による場合
都道府県優生保護審査会は、旧優生保護法4条の規定による申請を受けたときは、対象者に対してその旨を通知するとともに、同条に規定する要件を満たしているか否かを審査し、優生手術を行うことの適否を決定する。そして、都道府県優生保護審査会は、同決定後、申請者及び関係者の意見を聴いて、その手術を行うべき医師を指定し、対象者、申請者及び当該担当医師にその旨を通知する。
(同法5条参照)
優生手術を行うことが適当である旨の決定に対する異議がないとき又はその決定若しくはこれに関する判決が確定したときは、上記医師が優生手術を行う。
(同法6条ないし10条参照)

旧優生保護法12条の申請による場合
都道府県優生保護審査会は、旧優生保護法12条の規定による申請を受けたときは、対象者が同条に規定する精神病又は精神薄弱に罹っているかどうか及び優生手術を行うことが本人保護のために必要であるかどうかを審査した上、優生手術を行うことの適否を決定して、その結果を申請者及び同条の同意者に通知する。医師は、優生手術を行うことが適当である旨の決定があったときは、優生手術を行うことができる。
(同法13条参照)



旧優生保護法の制定と改正及びその後の経過

旧優生保護法は、昭和23年に制定され、平成8年6月に成立した優生保護法の一部を改正する法律(平成8年法律第105号)によって、題名が母体保護法に改められるとともに、1条及び2条1項の文言が次のとおり変更され、第2章の標題及び3条1項柱書の優生手術との記載が不妊手術と変更され、同項1号ないし3号及び4条ないし13条が削除された(乙1~4)

1条
この法律は、不妊手術及び人工妊娠中絶に関する事項を定めること等により、母性の生命健康を保護することを目的とする。
2条1項
この法律で不妊手術とは、生殖腺を除去することなしに、生殖を不能にする手術で厚生労働省令をもって定めるものをいう。


厚生労働大臣は、平成16年3月24日の参議院厚生労働委員会において、優生手術の実態を調査し救済制度を導入すべきではないかという国会議員からの質問に対し、
こういう歴史的な経緯がこの中にあったということだけは、これはもう、ほかに言いようのない、これはもう事実でございますから、そうした事実を今後どうしていくかということは、今後私たちも考えていきたいと思っております。と述べた(甲共17。以下、この発言を本件発言という。。


平成30年1月30日、優生手術の対象者の一人が、仙台地方裁判所に対し、国を相手方として、優生手術による被害について国家賠償を求める訴訟(同裁判所平成30年(ワ)第76号。以下仙台訴訟という。)
を提起した(顕著な事実)



平成31年4月24日、旧優生保護法に基づく優生手術等を受けた者に対する一時金の支給等に関する法律(以下一時金法という。
)が制定
された。一時金法は、優生手術等を受けた者に対する一時金の支給に関し必要な事項等を定めるものであり(同法1条)
、一時金の額は320万円
とされ(同法4条)
、また、国及び地方公共団体は、優生手術等を受けた
者に対し一時金の支給手続等について十分かつ速やかに周知するための措置を適切に講ずるものとされている(同法12条1項)(甲共46、47)。



控訴人ら

控訴人1(昭和■■年■月生まれの女性)は、中学校の3年生の時に日本脳炎にり患し、その後遺症として知的障害(障害の程度は、B1(中度)である。
)を負った者である(甲A1、3~5、18、19、控訴人1、
証人控訴人1の姉)



控訴人2(昭和■■年■■月生まれの女性)は、出生時から耳が全く聞こえず、聴力障害2級(両耳全ろう)及び音声・言語機能障害3級(言語機能の喪失)の障害を有する者である(甲B1、3、4)



控訴人3(昭和■■年■月生まれの男性)は、控訴人2の夫であり、3歳の時に発熱によって聴覚を失い、聴力障害2級(両耳全ろう)及び音声・言語機能障害3級(言語機能の喪失)の障害を有する者である(甲B1、甲C1、2)


なお、控訴人1及び控訴人2に対する優生手術の実施の有無・内容等を記録した資料は、仮に存在していたとしても、保存期間が経過して廃棄されており、いずれも現存しない(甲A13、14、甲B5~7)




本件訴訟の提起
控訴人1は、平成30年9月28日に、控訴人2及び控訴人3は、平成31年1月30日にそれぞれ本件訴訟を提起した(顕著な事実)


4
争点


控訴人1に対する優生手術の有無(争点1)



控訴人2に対する優生手術の有無(争点2)



国会議員による旧優生保護法の立法行為の違法性(争点3)



国会議員による救済法の立法不作為の違法性(争点4)



厚生労働大臣による救済措置の不作為の違法性(争点5)



内閣総理大臣による救済措置の不作為の違法性(争点6)



控訴人らの損害(争点7)



除斥期間の適用の可否(争点8)

5
争点に関する当事者の主張
次のとおり補正するほかは、原判決の事実及び理由中の第2事案の概要等の3(原判決8~21頁)に記載のとおりであるから、これを引用する。


原判決12頁6行目の「いえる。」の次にまた、先行する不法行為について、これを救済する立法措置を講じなかった不作為が別途独立の不法行為を構成すると解することは、国家賠償制度における消滅時効・除斥期間などの規定の趣旨を没却するものとして、採り得ない解釈である。を加える。⑵
原判決14頁26行目の絶たれたの次に

ほか、このことに伴って社会生活上の困難や苦痛を受け続けた

を加える。
⑶ア

原判決15頁7行目の受けたを受け続けたに改める。


原判決15頁18行目末尾の次に行を改めて以下のとおり加える。また、控訴人らの主張する各損害は、いずれも控訴人1及び控訴人2に対する優生手術によって生じたものであるところ、争点5ないし7に係る国会議員の立法不作為並びに厚生労働大臣及び内閣総理大臣の不作為によって発生したものとはいえない。


原判決16頁22行目の根拠となる規定の次に

、すなわち、類似の事案において被害者救済のために借用することができる実体法上の手がかり

を加え、26行目の

基礎付けるものではない。

基礎付けるものではなく、障害者一般に対する差別や偏見は、様々な歴史的・社会的要因等が複合的に影響して創出・助長されたものというほかない。

に改める。


原判決20頁3行目の制定するから5行目末尾までを

制定するという戦後最大の人権侵害を行うとともに司法アクセスの障害の除去について何ら積極的な対策を採らなかったという被控訴人の本件における違法行為そのものである。

に改める。
第3

当裁判所の判断

1
認定事実
各争点を検討するに当たって、証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実は、次のとおり補正するほかは、原判決の事実及び理由中の第3当裁判所の判断の1(原判決21~28頁)に記載のとおりであるから、これを引用する。


原判決21頁23行目から22頁2行目までを以下のとおり改める。旧優生保護法は、不良な子孫の出生を防止するという優生思想に基づく規定が障害者に対する差別になっていること等に鑑み、平成8年6月18日に成立した優生保護法の一部を改正する法律(平成8年法律第105号)によって題名が「母体保護法に改められるとともに、旧優生保護法1条、2条及び3条1項柱書の文言が変更され、同項1号ないし3号及び4条ないし13条が削除され、優生思想や優生手術に関する規定・文言は全て改められた。同法改正は、同月26日に公布された後、同年9月26日に施行された(乙1~4)。」


原判決26頁12行目の

原告1の姉は、

の次に

18歳の時に実家を離れて以降、控訴人1とは別に生活しているが、控訴人1との交流は続けており、平成30年当時も、何か月かに1回程度控訴人1の下を訪れていたほか、電話で会話することもあったが、

を加え、15行目の控訴人1はを

控訴人1も、間もなくして上記ニュースの内容を知らされた上

に改める。



原判決27頁21行目の

提起したことを、

の次にその提起日である平成30年9月28日から間もなくしてを加える。
2
争点1(控訴人1に対する優生手術の有無)について
当裁判所も、昭和40年ないし昭和41年頃、控訴人1に対し、旧優生保護法12条の申請に基づく優生手術が実施されたと認定する。
その理由は、原判決の事実及び理由中の第3当裁判所の判断の2

(原判決28~29頁)に記載のとおりであるから、これを引用する。3
争点2(控訴人2に対する優生手術の有無)について
当裁判所も、昭和49年5月■■日頃、控訴人2に対し、旧優生保護法4条の申請に基づく優生手術が実施されたと認定する。
その理由は、原判決の事実及び理由中の第3当裁判所の判断の3

(原判決29~33頁)に記載のとおりであるから、これを引用する。4
争点3(国会議員による旧優生保護法の立法行為の違法性)について⑴

判断枠組み国会議員の立法行為又は立法不作為が国家賠償法1条1項の適用上違法となるかどうかは、当該立法の内容又は立法不作為の違憲性の問題とは区別されるべきであり、仮に当該立法の内容又は立法不作為が憲法の規定に違反するものであるとしても、直ちに違法の評価を受けるものではない。しかし、その立法の内容又は立法不作為が国民に憲法上保障され、又は保護されている権利利益を違法に侵害するものであることが明白な場合や、国民に憲法上保障されている権利行使の機会を確保するために所要の立法措置をとることが必要不可欠であり、それが明白であるにもかかわらず、国会が正当な理由なく長期にわたってこれを怠る場合などには、国会議員の立法又は立法不作為は、例外的に、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けるものというべきである。(最高裁平成17年9月14日大法廷判決・民集59巻7号2087頁、最高裁平成27年12月16日大法廷判決・民集69巻8号2427頁参照)


旧優生保護法4条ないし13条の違憲性
旧優生保護法4条ないし13条の立法目的は、専ら優生上の見地から不良の子孫の出生を防止するというもの(同法1条)であるが、これは特定の障害ないし疾患を有する者を一律に不良であると断定するものであり、それ自体非人道的かつ差別的であって、個人の尊重という日本国憲法の基本理念に照らし是認できないものといわざるを得ない。本件各規定は、このように立法目的の合理性を欠いている上、手段の合理性をも欠いており、特定の障害等を有する者に対して優生手術を受けることを強制するもので、子を産み育てるか否かについて意思決定をする自由及び意思に反して身体への侵襲を受けない自由を明らかに侵害するとともに、特定の障害等を有する者に対して合理的な根拠のない差別的取扱いをするものであるから、公共の福祉による制約として正当化できるものではなく、明らかに憲法13条、14条1項に反して違憲である。その理由は、原判決の事実及び理由中の第3当裁判所の判断の
4⑵(原判決33~36頁)に記載のとおりであるから、これを引用する。⑶

旧優生保護法の立法行為の違法性
前記⑵で引用した原判決の認定・説示のとおり、旧優生保護法4条ないし13条(本件各規定)は、その内容に照らして明らかに憲法13条、14条1項に違反しているのであるから、前記⑴の判断枠組みの下、国会議員による旧優生保護法の本件各規定に係る立法行為は、当該立法の内容が国民に憲法上保障されている権利を違法に侵害するものであることが明白であるにもかかわらずこれを行ったものとして、国家賠償法1条1項の規定の適用上、違法の評価を受けるというべきである。そして、日本国憲法の理念、規定に照らしてその内容が明らかに違憲である以上、立法当時の時代状況を踏まえてもなお、その立法を行った国会議員には少なくとも過失があるといえる。したがって、被控訴人は、控訴人らに対し、国家賠償法1条1項に基づき、本件各規定に係る違法な立法行為による権利侵害につき損害賠償義務を負うものというべきである。

5
争点4(国会議員による救済法の立法不作為の違法性)について
当裁判所も、前記4⑴で説示の判断枠組みの下、障害者の司法アクセス(国民が弁護士その他の法律専門職に相談したり、裁判手続を中心とする司法制度を利用したりすること)に対する制約など、控訴人らの主張する事情を踏まえても、厚生労働大臣が本件発言を行った平成16年3月当時、国家賠償請求権(憲法17条)行使の機会を確保するために、優生手術の被害者に対する1000万円を優に超える額の金銭的な補償や、障害者である被害者らにも容易に認識できる手段及び態様による積極的な広報・情報提供を盛り込んだ立法措置(本件立法措置)をとることが必要不可欠であり、それが明白であったということはできず、本件立法措置を怠ったこと(本件立法不作為)が、国家賠償法1条1項の適用上、違法の評価を受けるものではないと判断する。その理由は、原判決の事実及び理由中の第3当裁判所の判断の5
(原判決36~39頁)に記載のとおりであるから、これを引用する。なお、控訴人らの司法アクセスを妨げる事情については、後記争点8(除斥期間の適用の可否)に関する判断上の考慮要素として、別途検討する。6
争点5(厚生労働大臣による救済措置の不作為の違法性)及び争点6(内閣総理大臣による救済措置の不作為の違法性)について
当裁判所も、歴代の厚生労働大臣及び内閣総理大臣による救済措置の不作為について、国家賠償法上の違法性を認めることはできないものと判断する。その理由は、原判決の事実及び理由中の第3当裁判所の判断の6

(原判決39~40頁)に記載のとおりであるから、これを引用する。7
争点7(控訴人らの損害)について


控訴人1及び控訴人2の被害及び慰謝料
前記2及び3での認定・説示のとおり、控訴人1及び控訴人2は、本人の同意のないまま、それぞれ旧優生保護法12条の申請ないし4条の申請に基づく優生手術を受けさせられ、身体への侵襲を受けた上、生殖機能を不可逆的に喪失したことで、子をもうけるか否かという幸福追求上重要な意思決定の自由を侵害され、子をもうけることによって生命をつなぐという人としての根源的な願いを絶たれたものであり、本件各規定に係る違法な立法行為(前記4)による権利侵害を受けたといえる。
加えて、控訴人1及び控訴人2の被害は、このような身体への侵襲及び身体的機能の喪失というにとどまらない。すなわち、旧優生保護法は、優生上の見地から不良な子孫の出生を防止することを目的とし、本件各規定において、本人の同意なく優生手術の対象となる障害ないし疾患を有する者を特定・列挙するものであるところ、控訴人1及び控訴人2のように本件各規定に基づき優生手術を受けさせられた者は、旧優生保護法の下、一方的に不良との認定を受けたに等しいと言わざるを得ない。制定法に基づくこのような非人道的かつ差別的な烙印ともいうべき状態は、控訴人1及び控訴人2の個人の尊厳を著しく損ねるもので、違法な立法行為による権利侵害の一環をなすものであって、そのような権利侵害は、上記のような優生思想に基づく規定を改める優生保護法の一部を改正する法律(平成8年法律第105号)の施行日前日の平成8年9月25日まで継続したものといえる。以上のような控訴人1及び控訴人2の生殖機能喪失をはじめとする被害の内容を踏まえると、その精神的苦痛に対する慰謝料はそれぞれ1300万円と認めるのが相当である。


控訴人3の被害及び慰謝料
控訴人3は、控訴人2との婚姻後に、控訴人2がその同意なく優生手術を受けさせられ、生殖機能を不可逆的に喪失したことで、控訴人2との間の子をもうけることができなくなったもので、配偶者との子をもうけるか否かという幸福追求上重要な意思決定の自由を妨げられるなど、控訴人2の生命を害された場合にも比類すべき精神上の苦痛を受けたといえるから、やはり本件各規定に係る違法な立法行為(前記4)によって権利を侵害されたというべきである。
そして、その精神的苦痛に対する慰謝料は、上記のとおり控訴人2に対する慰謝の措置が別途講じられるべきであることも踏まえ、200万円と認めるのが相当である。



弁護士費用
本件各規定に係る違法な立法行為と相当因果関係のある弁護士費用としては、控訴人1及び控訴人2については各130万円、控訴人3については20万円と認めるのが相当である。



まとめ
以上より、本件各規定に係る違法な立法行為によって控訴人1及び控訴人2が被った損害の額は各1430万円、控訴人3の被った損害の額は220万円である。8
争点8(除斥期間の適用の可否)について
被控訴人は、控訴人らの取得した上記各損害賠償請求権は、不法行為の時から20年を経過しており、国家賠償法4条及び民法(第2事案の概要
の1記載のとおり、平成29年法律第44号による改正前のものである。)724条後段の適用によって消滅した旨主張するので、以下検討する。民法724条後段の法的性質について
民法724条後段の規定は、不法行為による損害賠償請求権の除斥期間を定めたものと解される(最高裁平成元年12月21日第一小法廷判決・民集43巻12号2209頁参照)。


除斥期間の起算点について

民法724条後段は、その除斥期間の起算点について、不法行為の時と定めているところ、被控訴人は、それは控訴人1及び控訴人2に対する優生手術がされた時である旨主張する。
昭和23年の違法な立法行為によって制定された旧優生保護法中の本件各規定の下、控訴人1及び控訴人2に対する優生手術により身体への侵襲に加えてその生殖機能を不可逆的に喪失させるという具体的な侵害行為がされたのは、控訴人1につき昭和40年ないし昭和41年頃、控訴人2につき昭和49年5月■■日頃である。
しかし、前記7で説示のとおり、本件の違法な立法行為による控訴人1及び控訴人2に対する権利侵害は、そのような身体的機能に対する侵襲によるもののみに限定されるものではなく、旧優生保護法の下、一方的に不良との認定がされたに等しく、非人道的かつ差別的な烙印を押されたともいうべき状態に置かれ、個人の尊厳が著しく損なわれたことも、違法な立法行為による権利侵害の一部を構成するというべきであり、そのような違法な侵害は、優生保護法の一部を改正する法律(平成8年法律第105号)の施行日前日の平成8年9月25日まで継続したものといえる。また、控訴人3は、自らが手術による身体的侵襲を受けたものではないが、控訴人3に対する権利侵害は、妻である控訴人2に対する権利侵害と不可分一体の関係にあるというべきである。
以上のような具体的な権利侵害の内容とその継続性に照らすと、本件における不法行為の時は、控訴人らのいずれについても、違法な侵害の終期である平成8年9月25日といえる。したがって、被控訴人の上記主張は、採用することができない。

これに対し、控訴人らは、控訴人らにおいて、優生手術による被害が重大な人権侵害であって救済を受けるべきものであると認識し得たのは平成16年3月24日(厚生労働大臣による本件発言の日)であるなどの事情を踏まえれば、除斥期間の起算点につき、早くとも同日である旨主張する。しかし、民法724条後段は、20年の期間を不法行為の時から起算するものとしていたところ、除斥期間の定めは、不法行為をめぐる法律関係の速やかな確定を意図して、被害者側の認識のいかんを問わず、一定の時の経過によって法律関係を確定させるため、請求権の存続期間を画一的に定めたものと解される(前記最高裁平成元年12月21日第一小法廷判決参照)。上記の判示のとおり、平成8年9月26日に優生保護法の一部を改正する法律(平成8年法律第105号)が施行され、優生思想に関する規定が改められたことによって、権利侵害自体は止んだものといわざるを得ない。
したがって、控訴人らの上記主張は、採用することができない。


以上によれば、控訴人らによる本件訴訟の提起の時点(控訴人1については平成30年9月28日、控訴人2及び控訴人3については平成31年1月30日)では、上記起算点から20年が経過していたことになる。除斥期間の適用の制限についてア

控訴人らは、それぞれが抱える障害のために、優生手術の違法性を理解し、法的な救済手段があることを認識し、訴訟を提起することが不可能又は著しく困難であったこと、その要因として、障害者による司法アクセスに対する制約が除去されなかったことや旧優生保護法の制定により社会的差別や偏見が強化・増幅されたことがあったところ、これらはいずれも被控訴人によって作出されたものであること、除斥期間の制度趣旨は、本件のように国家が重大な人権侵害を行った場合において、被害者である控訴人らの犠牲の下、加害者である被控訴人の利益を保護することを許容する趣旨ではないことなどを指摘し、本件に除斥期間の規定を適用すれば、正義・公平に反する結果となることは明らかであるから、その適用は制限されるべきであると主張する。


既に説示したとおり、民法724条後段の規定は、不法行為をめぐる法律関係の速やかな確定を意図して、一定の時の経過によって法律関係を確定させるため、請求権の存続期間を画一的に定めたものと解される。不法行為をめぐる権利関係を長く不確定の状態に置くと、その間に証拠資料が散逸し、加害者ではない者が反証の手段を失って訴訟上加害者とされるという事態を招くなどの問題が生じ得る。そこで、被害者側の認識のいかんを問わず、一定の時の経過により法律関係を確定させ、被害者の保護とその加害者と目される者の利害との調整を図ったのである。このような除斥期間の制度目的・趣旨に鑑みれば、被害者側の固有の事情を考慮して除斥期間の規定の適用を制限するような例外を認めることは、基本的に相当ではない。
もっとも、このような除斥期間の規定も例外を一切許容しないものではなく、①不法行為の被害者が当該不法行為を原因として心神喪失の常況にあるのに法定代理人を有しなかった場合(最高裁平成10年6月12日第二小法廷判決・民集52巻4号1087頁参照)や、②被害者を殺害した加害者が被害者の相続人において被害者の死亡の事実を知り得ない状況を殊更に作出し、そのために相続人がその事実を知ることができず、民法915条1項所定のいわゆる熟慮期間が経過しないために相続人が確定しないまま、上記殺害の時から20年が経過した場合(最高裁平成21年4月28日第三小法廷判決・民集63巻4号853頁参照)など、被害者や被害者の相続人による権利行使を客観的に不能又は著しく困難とする事由があり、しかも、その事由が、加害者の当該違法行為そのものに起因している場合のように、正義・公平の観点から、時効停止の規定の法意(民法158~160条)等に照らして除斥期間の適用が制限されることは、これが認められる場合が相当に例外的であったとしても、法解釈上想定されるところである。

この点につき、控訴人らは、上記のとおり、本件において訴えの提起が著しく困難であったとした上、その要因として、障害者による司法アクセスに対する制約が除去されなかったことや旧優生保護法の制定により社会的差別や偏見が強化・増幅されたことがあったこと、これらはいずれも被控訴人によって作出されたものであることを主張しているので、控訴人らによる本件訴訟の提起が、旧優生保護法廃止から更に20年を経過した後にされた経緯ないし理由について検討する。
控訴人1について
前記1で補正の上で引用した原判決の1の認定事実⑵のとおり、控訴人1は、中学生の時に日本脳炎にり患して高熱を出し、その後遺症として中度の知的障害を有することとなったところ、昭和40年ないし昭和41年頃に産婦人科において手術を受けてから比較的間もない時期に、その手術が不妊手術であった旨を母から聞いた。しかし、その際、母から、当該手術を受けたことを口外しないように言われたため、控訴人1は、姉以外には不妊手術を受けたことを話さなかった。そうしたところ、控訴人1の姉は、平成30年5月21日、仙台訴訟の提起を受けて弁護士による優生手術に関する法律相談が実施されているというニュースに接し、翌22日、大阪弁護士会に法律相談を行った。これが契機となり、控訴人1も、間もなくして上記ニュースの内容を知らされた上、自己の受けた不妊手術について弁護士に相談する機会を得て、同年9月、本件訴訟の提起に至ったものである。そして、控訴人1は、弁護士に相談するまで、自己の受けた不妊手術が旧優生保護法に基づくものであることは知らなかった。
以上の経緯に照らすと、控訴人1は、遅くとも昭和41年頃には、自己が不妊手術を受けたことを認識したが、それが優生手術であったことは母から知らされず、また不妊手術を受けたことを第三者に口外しないように言われたこともあり、姉以外には相談できなかったため、仙台訴訟の提起を知った姉から、同訴訟提起のことを知らされるまで、国家賠償請求訴訟を提起できるなどと考える機会がなかったことが、控訴人1が提訴に至ることができなかった原因であると認められる。そして、控訴人1の母が、控訴人1に対し、手術に関する詳細な説明をしなかったり、第三者への口外を禁じるような話をしたりしたのは、優生手術の対象となった障害者に対する社会的な差別や偏見に控訴人1が晒されることを危惧したことが理由であると推認される。
控訴人2及び控訴人3について
前記1で補正の上で引用した原判決の1の認定事実⑶のとおり、控訴人2は、出生時から両耳全ろう及び言語機能喪失の障害を有していたところ、昭和49年5月に帝王切開手術を受けて以降、月経が止まったことを不審に思い、ろう学校の先輩に相談し、不妊手術が実施されたのではないかと疑い、母に対し、不妊手術をされたのかと何度か尋ねたが、明確な回答は得られなかった。そうしたところ、控訴人2は、大阪聴力障害者協会のヘルパーから、優生手術による被害に関する訴訟が兵庫県で提起されたことを、その提起日である平成30年9月28日から間もない時期に手話で教えてもらい、新聞記事を読んでそのことを確認し、これを契機として、大阪聴力障害者協会の役員等から助言を得て、夫である控訴人3とともに弁護士に相談をし、平成31年1月、本件訴訟の提起に至ったものである。そして、控訴人2は、ヘルパーから兵庫県で提起された上記訴訟のことを教えてもらうまで、旧優生保護法の存在を知らなかった。
以上の経緯に照らすと、控訴人2は、昭和49年5月に帝王切開手術を受けて以降に月経が止まったことなどから、不妊手術が行われたのではないかとの疑いを持っていたが、母がその疑問に明確に答えることはなかったため、優生手術による被害に関する兵庫県での訴訟のことを、その提起日である平成30年9月28日から間もない時期に、上記ヘルパーから教えられるまで、国家賠償請求訴訟を提起できるなどと考える機会がなかったことが、控訴人2及び控訴人3が提訴に至ることができなかった原因であると認められる。そして、控訴人2の母が、控訴人2に対し、優生手術の実施の有無等について明確な説明を避けたのは、控訴人1の場合と同様、優生手術の対象となった障害者に対する社会的な差別や偏見に控訴人2が晒されることを危惧したことが理由であると推認される。
小括
以上のとおり、控訴人らが長期にわたり本件訴訟を提起できなかったのは、自己の受けた不妊手術が旧優生保護法に基づくものであることを知らされず、平成30年まで、国家賠償を求める手段があることを認識していなかったためであるが、更にいえば、優生手術の対象となった障害者に対する社会的な差別・偏見やこれを危惧する家族の意識・心理の下、控訴人らが、訴訟提起の前提となる情報や相談機会へのアクセスが著しく困難な環境にあったことによるものといえる。
そして、そのような社会的な差別・偏見やこれを危惧する家族の意識・心理は、旧優生保護法が優生上の見地から不良な子孫の出生を防止することを目的とし、本件各規定において、特定の障害ないし疾患を有する者を一方的に不良と扱って、本人の同意なしの優生手術を法的に認めていたという本件の違法な立法行為と軌を一にするものであり、密接な関係にあると理解される。

以上を前提として、控訴人らについて、除斥期間の規定の適用の制限を認めるのが相当かどうかを判断する。
上記ウで認定・説示のとおり、控訴人らは、知的障害や聴力障害などといった障害を有すること自体に起因して、健常者と比較すると、司法アクセスに対する制約があったが、控訴人らの有する障害そのものは、被控訴人の違法行為によって生じたものではない。また、障害者一般に対する差別や偏見は、様々な歴史的・社会的要因等が複合的に影響して創出・助長されるものであると考えられるのであり、被控訴人において、控訴人らが優生手術に係る国家賠償請求訴訟の提起ができない状況を意図的・積極的に作出したと認めることもできない。
しかしながら、日本国憲法は、個人の尊重を基本理念として、特定の障害ないし疾患を有する者も人は平等に取り扱われることを明らかにしているものであり、被控訴人は、その趣旨を踏まえた施策を推進していくべき地位にあった。ところが、前記説示のとおり、削除された旧優生保護法の規定は、優生上の見地から不良な子孫の出生を防止するという優生思想を正面から目的に掲げ(1条)、特定の障害ないし疾患を有する者を一方的に不良と扱った上、生殖機能を不可逆的に喪失させる優生手術につき、本人の同意がなくても法的に許容し、かつ、これを推進しようという非人道的かつ差別的な内容の法律であり、その人権侵害の程度は強いといわざるを得ない。そして、国家のこのような立法及びこれに基づく施策が、その規定の法的効果をも超えた社会的・心理的影響を与えたことは、例えば、劣悪な遺伝素質をもっている人びとに対しては、できるかぎり受胎調節をすすめ、必要な場合は、優生保護法により、受胎・出産を制限することができる。また、国民優生思想の普及により、人びとがすすんで国民優生政策に協力し、劣悪な遺伝病を防ぐことがのぞましい(甲共49の1、238頁)、

劣悪な遺伝を除去し、健全な社会を築くために優生保護法があり

(甲共49の2、228頁)、国民優生の目標は、国民の資質向上を図ることで、母体の健康および経済的保護と、不良な子孫の出生を予防するという二つの目的が含まれている。(中略)第2の目的は、国民優生本来のもので、(中略)悪質な遺伝性疾病が子孫にあらわれるのを予防するために、優生保護法により、優生手術や人工妊娠中絶を行ないうることとなった(甲共49の3、240頁)など優生政策や優生手術を肯定的に記述した高等学校用教科書(昭和45年頃)をはじめとする各種資料などが歴史の記録・記憶として残されているところであって(甲共49~54、56)、旧優生保護法の存在とこれに基づく被控訴人の施策が、同法の優生手術の対象となった障害ないし疾患につき、かねてからあった差別・偏見を正当化・固定化した上、これを相当に助長してきたことを否定することはできない。そうすると、控訴人らにおいて、優生手術に係る国家賠償請求訴訟提起の前提となる情報や相談機会へのアクセスが著しく困難な環境にあったのは、控訴人1及び控訴人2の障害を基礎に、違法な立法行為によって制定された旧優生保護法の本件各規定の存在及びこれに基づく被控訴人の施策と社会的な差別・偏見が相まったことに起因するものというべきである(一般に、障害者による民事訴訟の提起は相応に見受けられるところであるが、本件各規定に基づく優生手術が、記録上判明している限りにおいても1万5000件以上実施されてきた[甲共4]にもかかわらず、旧優生保護法の優生思想等が問題視され、その改正がされた平成8年6月以降も、平成30年より前には、優生手術に係る国家賠償請求訴訟の提起は一切なかった[原判決の認定事実⑴ス]。このことも、旧優生保護法及びこれに基づく優生手術が、障害者を取り巻く社会・心理及びこれを前提とする司法アクセスにどのような影響を与えてきたかを物語るものといえる。)。
以上のとおり、旧優生保護法の本件各規定による人権侵害が強度である上、憲法の趣旨を踏まえた施策を推進していくべき地位にあった被控訴人が、上記立法・施策によって障害者等に対する差別・偏見を正当化・固定化、更に助長してきたとみられ、これに起因して、控訴人らにおいて訴訟提起の前提となる情報や相談機会へのアクセスが著しく困難な環境にあったことに照らすと、控訴人らについて、除斥期間の適用をそのまま認めることは、著しく正義・公平の理念に反するというべきであり、権利行使を不能又は著しく困難とする事由がある場合に、その事由が解消されてから6か月を経過するまでの間、時効の完成を延期する時効停止の規定(民法158~160条)の法意に照らし、訴訟提起の前提となる情報や相談機会へのアクセスが著しく困難な環境が解消されてから6か月を経過するまでの間、除斥期間の適用が制限されるものと解するのが相当である。オ
そこで、控訴人らについて、上記6か月が経過する前に本件訴えが提起されたものと認められるかを判断する。
前記ウ

の認定・説示によれば、控訴人1は、優生手術を受けて以降、

長らく優生手術に係る国家賠償請求訴訟提起の前提となる情報や相談機会へのアクセスが著しく困難な環境にあったところ、控訴人1との交流が続いているその姉が、平成30年5月21日、仙台訴訟の提起を受けて弁護士による優生手術に関する法律相談が実施されているというニュースに接し、間もなくして、控訴人1にもその内容が知らされたという経過の中で、そのような状況が解消され、それから6か月以内である平成30年9月28日に本件訴訟を提起したものである。そうすると、控訴人1の本訴請求権については、上記時効停止の規定の法意に照らし、除斥期間の適用は制限され、その効果は生じない。
前記ウ

の認定・説示によれば、控訴人2については、優生手術を受

けて以降、長らく優生手術に係る国家賠償請求訴訟提起の前提となる情報や相談機会へのアクセスが著しく困難な環境にあったもので、夫である控訴人3についても、控訴人2の置かれた状況に伴って、同様に上記アクセスが著しく困難な環境にあったものといえるところ、控訴人2において、ヘルパーから、優生手術による被害に関する訴訟が兵庫県で提起されたことを、その提起日である平成30年9月28日から間もない時期に教えてもらうことで、そのような状況が解消され、それから6か月以内である平成31年1月30日に本件訴訟を提起したものである。そうすると、控訴人2及び控訴人3の本訴請求権についても、上記時効停止の規定の法意に照らし、除斥期間の適用は制限され、その効果は生じない。

なお、控訴人らは、本件において除斥期間の規定の一部ないしその適用を認めることが憲法17条に反し違憲である旨も主張するが、控訴人らの本訴請求権については、上記の理由により除斥期間の適用が制限され、その効果は生じないことから、上記主張について判断するまでもない。


まとめ
以上のとおり、控訴人らの被控訴人に対する国家賠償法1条1項に基づく各損害賠償請求権は、除斥期間の経過によって消滅したものとはいえず、その消滅をいう被控訴人の主張は採用することができない。

第4


論以上によれば、①控訴人1の請求は、損害賠償として1430万円及びこれに対する平成30年10月12日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、その限りで認容し、その余の請求を棄却し、②控訴人2の請求(損害賠償の一部請求として1100万円及びこれに対する平成31年2月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求めるもの)は理由があるから、これを認容し、③控訴人3の請求(一部請求)は、損害賠償として220万円及びこれに対する平成31年2月6日から支払済みまで民法所定の年5分の割合による遅延損害金の支払を求める限度で理由があるから、その限りで認容し、その余の請求を棄却すべきである。
よって、これと異なる原判決を変更することとして、主文のとおり判決する。
大阪高等裁判所第5民事部

裁判長裁判官

太田晃詳
裁判官

河本寿一
裁判官

松川充

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