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特許権侵害差止請求事件 特許権 民事訴訟
事件番号令和2(ワ)19924
事件名特許権侵害差止請求事件
裁判年月日令和3年12月24日
法廷名東京地方裁判所
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2021-12-24
情報公開日2022-03-15 04:00:33
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令和3年12月24日判決言渡

同日原本領収

令和2年(ワ)第19924号

特許権侵害差止請求事件

口頭弁論終結日

裁判所書記官

令和3年10月6日
判原決告
ワーナー-ランバートカンパニー
リミテッドライアビリティーカンパニー

同訴訟代理人弁護士

村敏明磯田直也森下
同訴訟復代理人弁護士

永島太郎
同訴訟代理人弁理士

泉谷玲子
同補佐人弁理士

小野新次郎被告日式会社
同訴訟代理人弁護士

新保克芳小飯倉拓也主医工梓株文1
原告の請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。

3
この判決に対する控訴のための付加期間を30日と定める。

第1
1実及び理由
請求
被告は,別紙物件目録記載の医薬品を製造し,販売し,販売の申出をしては
ならない。
2
被告は,別紙物件目録記載の医薬品を廃棄せよ。

3
仮執行宣言

第2

事案の概要
本件は,発明の名称をイソブチルGABAまたはその誘導体を含有する鎮痛剤とする発明に係る特許権(特許第3693258号。以下本件特許権といい,同特許権に係る特許を本件特許という。)を有する原告が,被告に対し,被告が別紙物件目録記載の医薬品(以下被告医薬品という。)の製造,
販売及び販売の申出をすることが本件特許権の侵害に当たると主張して,
特許法100条1項及び2項に基づき,被告医薬品の製造,販売,販売の申出の差止め及び廃棄を求める事案である。
1
前提事実(当事者間に争いがない事実並びに後掲証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実。なお,本判決を通じ,証拠を摘示する場合には,特に断ら
ない限り,枝番を含むものとする。)
(1)当事者

原告は,アメリカ合衆国の法人である。


被告は,医薬品の販売等を目的とする会社である。(甲8)

(2)本件特許権
原告は,以下の特許権を有している(以下,本件特許の願書に添付された明細書及び図面を本件明細書等と,本件特許の優先日を本件優先日という。)。原告は,ファイザー株式会社に対して専用実施権を設定し,同社は,神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛の治療薬である先発医薬品(商品名:リリカカプセル,リリカOD錠)を販売している。(甲1,2,
5)
発明の名称:イソブチルGABAまたはその誘導体を含有する鎮痛剤特許番号:特許第3693258号
出願日:平成9年7月16日(特願平10-507062号)
優先日:平成8年7月24日

優先権主張国:米国
登録日:平成17年7月1日
(3)本件特許権の延長登録
原告は,別紙延長登録目録記載のとおり,本件特許権について,延長登録の出願をし,その登録を受けた。(甲1)
(4)本件特許権の特許請求の範囲(後記(7)ウ記載の本件訂正前のもの)ア
請求項1(以下,同請求項に係る発明を訂正前発明1という。)
式I(式中,R1は炭素原子1~6個の直鎖状または分枝状アルキルであり,R2は水素またはメチルであり,3は水素,Rメチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジアステレオマー,もしくはエナンチオマーを含有する痛みの処置における鎮痛剤。イ
請求項2(以下,同請求項に係る発明を訂正前発明2という。)

化合物が,式IにおいてR3およびR2はいずれも水素であり,R1は-(CH2)0-2-iC4H9である化合物の(R),(S),または(R,S)異性体である請求項1記載の鎮痛剤。



請求項3(以下,同請求項に係る発明を訂正前発明3という。)

化合物が,(S)-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸または3-アミノメチル-5-メチルヘキサン酸である請求項1記載の鎮痛剤。



請求項4(以下,同請求項に係る発明を訂正前発明4といい,訂正前発明1~3と併せて訂正前各発明という。)
痛みが炎症性疼痛,神経障害による痛み,癌による痛み,術後疼痛,幻想肢痛,火傷痛,痛風の痛み,骨関節炎の痛み,三叉神経痛の痛み,急性ヘルペスおよびヘルペス後の痛み,カウザルギーの痛み,特発性の痛み,または線維筋痛症である請求項1記載の鎮痛剤。(5)本件特許権の特許請求の範囲
(後記(7)ウ記載の本件訂正後のもの。
下線部
が訂正箇所)

請求項1(以下,同請求項に係る発明を本件発明1という。)
式I(式中,R1は炭素原子1~6個の直鎖状または分枝状アルキルであり,Rは水素またはメチルであり,R3は水素,メチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジアステレオマー,もしくはエナンチオマーを含有する,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤。

請求項2(以下,同請求項に係る発明を本件発明2という。)
式I(式中,R3およびR2はいずれも水素であり,R1は-(CH2)0-2-iC4H9である)の化合物の(R),(S),または(R,S)異性体を含有する,神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤。ウ
請求項3(以下,同請求項に係る発明を本件発明3という。)

(S)-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸または3-アミノメチル-5-メチルヘキサン酸を含有する,炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みの処置における鎮痛剤。



請求項4(以下,同請求項に係る発明を本件発明4といい,本件発明1~3と併せて本件各発明という。)
式I(式中,R1は炭素原子1~6個の直鎖状または分枝状アルキルであり,R2は水素またはメチルであり,3は水素,Rメチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジアステレオマー,もしくはエナンチオマーを含有する,炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤。(6)本件発明1等の構成要件
本件発明1及び訂正前発明1,本件発明2及び訂正前発明2,本件発明3
並びに本件発明4を構成要件に分説すると,以下のとおりである(以下,請求項記載の式1の化合物を本件化合物という。)。

本件発明1及び訂正前発明1

(ア)訂正前発明1
1A

式I

(式中,R1は炭素原子1~6個の直鎖状または分枝状アルキルであり,R2は水素またはメチルであり,R3は水素,メチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジアステレオマー,もしくはエナンチオマーを含有する
1B´痛みの処置における
1C

鎮痛剤。

(イ)本件発明1
1A

式I

(式中,1は炭素原子1~6個の直鎖状または分枝状アルキルであり,R
R2は水素またはメチルであり,R3は水素,メチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩,
ジアステレオ

マー,もしくはエナンチオマーを含有する,
1B
1C

痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における
鎮痛剤。

本件発明2及び訂正前発明2
(ア)訂正前発明2
2A´化合物が,式IにおいてR3およびR2はいずれも水素であり,R1は-(CH2)0-2-iC4H9である化合物の(R),(S),または(R,S)異性体である請求項1記載の
2C

鎮痛剤。

(イ)本件発明2
2A

式I

(式中,R3およびR2はいずれも水素であり,R1は-(CH2)0-2-iC4H9である)の化合物の(R),(S),または(R,S)異性体を含有する,2B

神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの
処置における

2C

鎮痛剤。

本件発明3
3A

(S)-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸または3-アミノメチル-5-メチルヘキサン酸を含有する,

3B
3C


炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みの処置における鎮痛剤。

本件発明4
4A

式I

(式中,1は炭素原子1~6個の直鎖状または分枝状アルキルであり,R
R2は水素またはメチルであり,R3は水素,メチルまたはカルボキシル
である)の化合物またはその医薬的に許容される塩,ジアステレオマー,もしくはエナンチオマーを含有する,
4B

炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みの処置における

4C

鎮痛剤。

(7)本件特許に関する無効審判及び審決取消訴訟

沢井製薬株式会社は,平成29年1月16日付けで,本件特許の特許請求の範囲の請求項1~4に係る発明の特許を無効にすることについて,特許庁に対し,特許無効審判(無効2017-800003号。以下本件無効審判という。)の請求をし,その後,被告ほか14名が,同審判手
続に参加した。(甲9)

特許庁は,平成31年2月28日,訂正前各発明についての特許を無効にする旨の審決の予告をした(甲21)。その理由は,①本件明細書等の記載は,訂正前各発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものということができないので,実施可能要件に違反する,②本件明細書等の記載に接した当業者が,訂正前各発明によりその課題を解決できると認識し得ず,サポート要件に違反する,というものであった。ウ
原告は,上記審決の予告を受け,令和元年7月1日付け訂正請求書(甲3)をもって,本件特許に係る特許請求の範囲の記載を,上記(5)のとおり
訂正すること(以下本件訂正という。なお,本件訂正による本件明細書等の訂正部分はない。)を求める旨の訂正請求を行った。

特許庁は,令和2年7月14日付けで審決(以下本件審決という。甲9)
をし,
新規事項の追加を理由に請求項1及び2に係る訂正を認めず,
訂正前発明1及び2は実施可能要件及びサポート要件に違反するとして,
同各発明に係る特許を無効とし,
請求項3及び4に係る訂正は認めた上で,
本件訂正後の本件発明3及び4についての本件無効審判の請求は成り立たないとした。本件審決のうち請求項3及び4に係る部分は確定した。オ
原告は,令和2年11月19日,本件審決の請求項1及び2に係る部分の取消しを求める審決取消訴訟(知財高裁令和2年(行ケ)第10135
号)を提起した。
(8)被告医薬品の構成等

被告医薬品の構成は,以下のとおりである。
a
(S)-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸(一般名:プレガバリン)を有効成分とし,

bcイ
効能・効果を神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛とする,
疼痛治療剤

被告は,令和2年8月17日付けで,別紙物件目録記載の販売名の被告医薬品の製造販売について,医薬品,医療機器等の品質,有効性及び安全
性の確保等に関する法律
(平成25年法律第84号による改正前の題名は,
薬事法。以下,同改正の前後を通じて医薬品医療機器等法という。)14条1項に基づき,厚生労働大臣の承認を受けた。(甲12)
2
争点
(1)訂正前発明1及び2

訂正前発明1及び2に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきものであるか(争点1)

(ア)無効理由1(実施可能要件違反の有無)(争点1-1)
(イ)無効理由2(サポート要件違反の有無)(争点1-2)

本件発明1及び2に係る訂正の再抗弁の成否(争点2)
(ア)無効理由の解消の有無(争点2-1)
a
無効理由1の解消の有無(争点2-1-1)

b
無効理由2の解消の有無(争点2-1-2)

(イ)訂正要件の具備の有無(争点2-2)
a
b
本件発明1の訂正要件の具備の有無(争点2-2-1)
本件発明2の訂正要件の具備の有無(争点2-2-2)

(2)本件発明3及び4

被告医薬品が本件発明3及び4の技術的範囲に属するか(争点3)(ア)構成要件3B及び4Bの充足性(争点3-1)
(イ)均等侵害の成否(争点3-2)


本件発明3及び4に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきものであるか(争点4)

(ア)無効理由1(実施可能要件違反の有無)(争点4-1)
(イ)無効理由2(サポート要件違反の有無)(争点4-2)
(ウ)無効理由3(訂正要件違反の有無)(争点4-3)
(エ)無効理由4(明確性要件違反の有無)(争点4-4)
(3)延長登録の無効理由の有無(争点5)

延長登録の無効理由1(平成28年法律第108号改正前の特許法(以下旧特許法という。)125条の2第1項1号に定める事由の有
無)(争点5-1)

延長登録の無効理由2(旧特許法125条の2第1項3号に定める事由の有無)(争点5-2)

第3

争点に関する当事者の主張
争点に関する当事者の主張は,別紙原告の主張及び別紙被告の主張(当裁判所の提示した争点に従い,当事者がその主張を総括的にまとめた準備書面の記載に基づくもの)に記載されたとおりである。

第4
1
当裁判所の判断
訂正前各発明及び本件各発明の内容
(1)本件明細書等(甲2)には,以下の記載等が存在する。

発明の詳細な説明
(ア)発明の背景
本発明は,痛みの治療において鎮痛/抗痛覚過敏作用を発揮する化合物としてのグルタミン酸およびγ-アミノ酪酸(GABA)の類縁体の使用である。これらの化合物の使用の利点には,反復使用により耐性を生じないことまたはモルヒネとこれらの化合物の間に交叉耐性がないことの発見が包含される。本発明の化合物は,てんかん,ハンチントン舞踏病,大脳虚血,パーキンソン病,遅発性ジスキネジアおよび痙性のような中枢神経系疾患に対する抗発作療法に有用な既知の薬物である。また,これらの化合物は抗うつ剤,抗不安剤および抗精神病剤としても使用できることが示唆されている。WO92/09560(米国特許出願第618,692号,1990年11月27日出願)およびWO93/23383(米国特許出願第886,080号,1992年5月20日出願)参照。(2頁4~12行目)(イ)発明の概要
本発明は,以下の式Iの化合物の,痛みの処置とくに慢性の疼痛性障害の処置における使用方法である。このような障害にはそれらに限定されるものではないが炎症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み,三叉神経痛,急性疱疹性および治療後神経痛,糖尿病性神経障害,カウザルギー,上腕神経叢捻除,後頭部神経痛,反射交感神経ジストロフィー,線維筋痛症,痛風,幻想肢痛,火傷痛ならびに他の形態の神経痛,神経障害および特発性疼痛症候群が包含される。化合物は式I(式中,1は炭素原子1~6個の直鎖状または分枝状アルキル,Rフェニルまたは炭素原子3~6個のシクロアルキルであり,R2は水素またはメチルであり,R3は水素,メチルまたはカルボキシルである)の化合物またはその医薬的に許容される塩である。式Iの化合物のジアステレオマーおよびエナンチオマーも本発明に包含される。本発明の好ましい化合物は式Iにおいて,R3およびR2は水素であり,R1は-(CH2)0-2-iC4H9の化合物の(R),(S),または(R,S)異性体である。本発明のさらに好ましい化合物は(S)-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸および3-アミノメチル-5-メチルヘキサン酸である。(2頁14~33行目)


発明の詳述
(ア)本発明は,上記式Ⅰの化合物の上に掲げた痛みの処置における鎮痛剤としての使用方法である。痛みにはとくに炎症性疼痛,神経障害の痛み,癌の痛み,術後疼痛,および原因不明の痛みである特発性疼痛たとえば幻想肢痛が包含される。神経障害性の痛みは末梢知覚神経の傷害または感染によって起こる。これには以下に限定されるものではないが,末梢神経の外傷,ヘルペスウイルス感染,糖尿病,カウザルギー,神経叢捻除,神経腫,四肢切断,および血管炎からの痛みが包含される。神経障害性の痛みはまた,慢性アルコール症,ヒト免疫不全ウイルス感染,甲状腺機能低下症,尿毒症またはビタミン欠乏からの神経障害によっても起こる。神経障害性の痛みには,神経傷害によって起こる痛みに限らず,たとえば糖尿病による痛みも包含される。上に掲げた状態が,現在市場にある鎮痛剤たとえば麻薬性鎮痛剤または非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)では,不十分な効果または副作用からの限界により不完全な処置しか行われていないことは周知である。(3頁45行目~4頁6行目)

(イ)ラットホルマリン足蹠試験におけるギャバペンチン,
CI-1008,
および3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸の効果
雄性Sprague-Dawleyラット(70~90g)を試験前に少なくとも15分間パースペックスの観察チャンバー(24cm×24cm×24cm)に馴化させた。ホルマリン誘発後肢リッキングおよびバイティングを5%ホルマリン溶液(等張性食塩溶液中5%ホルムアルデヒド)50μlの左後肢の足蹠表面への皮下注射によって開始させた。ホルマリンの注射直後から,注射した後肢のリッキング/バイティングを60分間5分毎に評価した。結果はリッキング/バイティングを合わせた平均時間として初期相(0~10分)および後期相(10~45分)について示す。ギャバペンチン(10~300mg/kg)またはCI-1008(1~100mg/kg)のホルマリン投与1時間前の皮下投与は,ホルマリン応答の後期相におけるリッキング/バイティング行動を,それぞれ最小有効用量(MED)30および10mg/kgで用量依存性にブロックした(図1)。しかしながら,いずれの化合物も試験した用量では初期相には影響しなかった。3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸の同様の投与は100mg/kgで後期相の中等度のブロックを生じたのみであった。(5頁49行目~6頁10行目)【図1a】

【図1c】

【図1b】

【図1d】

【図1e】

【図1f】

(図面の簡単な説明)
図1.ギャバペンチン[1-(アミノメチル)-シクロヘキサン酢酸],CI-1008[(S)-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸],および3-アミノメチル-5-メチル-ヘキサン酸のラット足蹠ホルマリン試験における効果。試験化合物は50μlのホルマリンの足蹠内注射の1時間前に皮下投与した。初期および後期相に注射された足蹠のリッキング(舐める行動)/バイティング(咬む行動)に費やされる時間を記録した。結果は各群6~8匹の平均±SEMとして示す。*P<0.05および**P<0.01はビヒクル(Veh.)処置対照から有意に異なることを示す(ANOVA,Dunnett'st-検定による)。(2頁35~42行目)(ウ)ギャバペンチンおよびCI-1008のカラニゲン誘発痛覚過敏に対する効果
試験日にラット(雄性Sprague-Dawley70~90g)に2~3のベースライン測定を行ったのち,2%カラゲニン100μlを右後肢の足蹠表面に皮下注射した。痛覚過敏のピークの発症後,動物に試験薬物を投与した。機械的および熱的痛覚過敏に対する試験には別個の動物群を使用した。(6頁12~15行目)a
機械的痛覚過敏
侵害受容圧閾値を,ラット足蹠加圧試験により鎮痛計(UgoBasile)を用いて測定した。足蹠への傷害を防止するため,250gのカットオフ点を使用した。カラゲニンの足蹠内注射は注射後3~5時間の間侵害受容圧閾値を低下させ,痛覚過敏の誘発を示した。モルヒネ(3mg/kg,皮下)は痛覚過敏の完全なブロックを生じた(図2)。ギャバペンチン(3~300mg/kg,皮下)およびCI-1008(1~100mg/kg,皮下)は用量依存性に痛覚過敏に拮抗し,MEDはそれぞれ10および3mg/kgであった(図2)。(6頁17~22行目)【図2a】

【図2b】

(図面の簡単な説明)
図2.ギャンバペンチンおよびCI-1008のカラゲニン誘発機械的痛覚過敏に対する効果。侵害受容圧閾値を,足蹠加圧試験を用いてラットで測定した。足蹠内注射により動物に100μlの2%カラゲニンを投与する前に,ベースライン(BL)の測定を行った。結果は各群について8匹の動物の平均(±SEM)として示す。ギャバペンチン(GP),CI-1008またはモルヒネ(MOR;3mg/kg)をカラゲニン後3.5時間に皮下投与した。*P<0.05および**P<0.01は同時点でのビヒクル対照群と有意に異なる(ANOVA,Dunnett'st-検定による)。(2頁43~48行目)b
熱痛覚過敏
ベースライン足蹠回避潜時(PWL)を各ラットについてHargreavesモデルを用いて測定した。上述のようにカラゲニンを注射した。カラゲニン投与2時間後に,動物を熱痛覚過敏について試験した。ギャバペンチン(10~100mg/kg)またはCI-1008(1~30mg/kg)は,カラゲニン投与後2.5時間に皮下に投与し,PWLをカラゲニン投与3および4時間後に再評価した。カラゲニンは注射後2,3および4時間に足蹠回避潜時の有意な低下を誘発し,熱痛覚過敏の誘発を示した(図3)。ギャバペンチンおよびCI-1008は用量依存性に痛覚過敏に拮抗し,MEDは30および3mg/kgを示した(図3)。(6頁24~30行目)【図3a】

【図3b】

(図面の簡単な説明)

図3.ギャバペンチンおよびCI-1008のカラゲニン誘発熱痛覚過敏に対する効果。侵害受容熱閾値をHargreavesの装置を用いてラットで測定した。足蹠内注射により動物に100μlの2%カラゲニンを投与する前にベースライン(BL)の測定を行った。結果は各群8匹の動物の平均(±SEM)として示す。ギャバペンチン(GP)またはCI-1008はカラゲニン投与後2.5*時間に皮下に投与した。P<0.05および**P<0.01は同時点でのビヒクル対照群から有意に異なる(ANOVA,Dunnett'st-検定による)。(2頁49行目~3頁4行目)
c

これらのデータはギャバペンチンおよびCI-1008が炎症性疼痛の処置に有効であることを示す。

(6頁31~32行目)
(エ)末梢性神経障害の動物モデル
BennettG.J.のアッセイはヒトに認められるのと類似の疼痛感覚の障害を生じるラットにおける末梢性単発神経障害の動物モデルを提供する(Pain,1988;33:87-107)。KimS.H.らのアッセイは,ラットにおける分節脊椎神経の結紮によって生じる末梢神経障害の一つの実験モデルを提供する(Pain,1990;50:355-363)。(6頁33~36行目)(オ)術後疼痛のラットモデル
術後疼痛のラットモデルも報告されている(Brennanら,1996)。それには,後肢足蹠面の皮膚,筋膜および筋肉の切開が包含される。これは数日間続く再現可能かつ定量可能な機械的痛覚過敏の誘発を招く。このモデルはヒトの術後疼痛状態にある種の類似性を示す。本研究においては,本発明者らは術後疼痛のこのモデルでギャバペンチンおよびS-(+)-3-イソブチルギャバの活性を調べ,モルヒネの場合と比較した。
(6頁37~41行目)
a
方法
BantinandKingmen(Hull,U.K.)から入手した雄性SpragueDawleyラット(250~300g)をすべての実験に使用した。手術の前に動物は6匹の群として飼育ケージに入れ,時間明暗サイクル(07時00分に点灯)下に置いて飼料および水は自由に与えた。動物は手術後,同じ条件下に,空気を含んだセルロースから構成される“Aqua-sorb”床(BetaMedicalandScientific,Sale,U.K.)上に対で収容した。すべての実験は薬物処置に盲検とした観察者により行われた。(6頁43~48行目)
b
手術
動物は2%イソフルオランおよび1.4O2/NO2混合物で麻酔し,鼻円錐により手術中を通じて麻酔下に維持した。右後肢足蹠表面を50%エタノールで準備して踵の端から0.5cmに開始し足指の方向に皮膚および筋膜を通して1-cm縦に切開した。足蹠の筋肉は鉗子によって持ち上げ縦に切開した。傷口を編んだ絹の縫合糸によりFST-02の針を用いて2個所で閉じた。傷口の部位はテラマイシンスプレーおよびオーロマイシン末で被覆した。手術後,すべての動物において感染の徴候は認められず,創傷は24時間後には良好に治癒した。縫合糸は48時間後に抜糸した。(6頁50行目~7頁6行目)c
熱痛覚過敏の評価
熱痛覚過敏はラット足蹠試験(UgoBasile,Italy)を用い,Hargreavesらの方法(1988)の改良法に従い評価した。ラットは上方に傾斜したガラステーブル上3個の個々のパースペックスの箱からなる装置に順化させた。テーブルの下に可動性放射熱源を置き,後肢足蹠に焦点を合わせ足蹠回避潜時(PWL)を記録した。組織の傷害を回避するため,自動カットオフ点を22.5秒に設定した。各動物の両後肢について2~3回PWLを測定し,その平均を左右後肢のベースラインとした。装置は約10秒のPWLが得られるように検量した。PWL(秒)は上述のプロトコールに従い術後2,24,48および72時間に再評価した。(7
頁8~14行目)
d
接触異痛の評価
接触異痛はシーメンス・ワインシュタイン・フォン・フライの毛(Stoelting,Illinois,USA)を用いて測定した。動物は,針金の網の底のケージに収容して,足蹠に接触できるようにした。動物は実験の開始前に,この環境に順化させた。接触異痛試験は動物の後肢の足蹠表面に,順次力を増大させて(0.7,1.2,1.5,3.6,2,5.5,8.5,11.8,15.1,および29g)フライの毛で触れ,後肢の回避が誘発されるまで試験した。フライの毛はそれぞれ6秒間または反応が起こるまで後肢に適用した。回避反応が確立されたならば,後肢を次に下降するフライの毛で試験を始めて反応が起こらなくなるまで再試験した。したがって,後肢を上げて反応が誘発される最高の力29gがカットオフ点となった。各動物を,この様式で両後肢について試験した。反応が誘発されるのに必要な最低の力量を回避閾値としてグラムで記録した。化合物を手術前に投与する場合には,接触痛覚過敏,接触異痛および熱痛覚過敏に対する薬物効果の試験に同一の動物を使用し,各動物について熱痛覚過敏試験の1時間後に接触異痛の試験を行った。術後にS-(+)-3-イソブチルギャバを投与する場合には,接触異痛および熱痛覚過敏の検査に別個の群の動物を使用した。(7頁16~28行目)
e
統計

熱痛覚過敏試験で得られたデータは一元(分散分析)ANOVAに付し,ついでDunnett'st-検定を実施した。フライの毛で得られた接触異痛の結果は個別のMannWhitneyt-検定に付した。

(7頁30~32行目)
f
結果

ラット足蹠筋肉の切開は熱痛覚過敏および接触異痛を生じた。いずれの侵害受容反応も手術後1時間以内にピークに達し,3日間維持された。実験期間中,動物はすべて良好な健康状態を維持した。

(7
頁34~36行目)
g
手術前に投与したギャバペンチン,S-(+)-3-イソブチルギャバおよびモルヒネの熱痛覚過敏に対する効果

手術1時間前におけるギャバペンチンの単回用量投与(3~30mg/kg,皮下)は,用量依存性に熱痛覚過敏の発生を遮断し,MEDは30mg/kgであった(図4b)。最大用量のギャバペンチン30mg/kgは痛覚過敏の反応を24時間防止した(図4b)。S-(+)-3-イソブチルギャバを同様に投与した場合も用量依存性(3~30mg/kg,皮下)に熱痛覚過敏の発生が遮断され,MEDは30mg/kgであった(図4c)。30mg/kg用量のS-(+)-3-イソブチルギャバは3日まで有効であった(図4c)。手術0.5時間前のモルヒネの投与は,用量依存性(1~6mg/kg,皮下)は熱痛覚過敏の発生に拮抗し,MEDは1mg/kgであった(図4a)。この作用は24時間維持された(図4a)。(7頁39~4
6行目)
【図4a】

【図4b】

【図4c】

(図面の簡単な説明)
図4.ラット術後疼痛モデルにおける熱痛覚過敏に対する(a)モルヒネ,(b)ギャバペンチン,および(c)S-(+)-3-イソブチルギャバの効果。ギャバペンチンまたはS-(+)-3-イソブチルギャバは術前1時間に投与した。モルヒネは術前0.5時間に投与した。ラット足蹠試験を用いて同側および対側足蹠の両者について熱足蹠回避潜時(PWL)を測定した。明瞭にするため薬物処置動物の対側足蹠のデータは示していない。術前にベースライン(BL)の測定を行い,術後2,24,48および72時間にPWLを再評価した。結果は各群につき8~10匹の動物の平均PWL(秒,縦線は±SEMを示す)として表す。*P<0.05,**P<0.01は各時点で薬物処置群の同側足蹠をビヒクル処置群の同側足蹠と比較して有意に異なる(ANOVA.Dunnett'st-検定による)。図中,図4aでは,-●-はビヒクル対側,-○-はビヒクル同側,-△-,-□-および-◇-はそれぞれモルヒネ1,3および6mg/kgである。図4bでは,-△-は3,-□-は10および-◇-は30mg/kgのギャバペンチンである。図4cでは-△-は3,-□-は10および-◇-は30mg/kgのS-(+)-3-イソブチルギャバである。(3頁5~

17行目)
h
手術前に投与したギャバペンチン,S-(+)-3-イソブチルギャバおよびモルヒネの接触異痛に対する効果
接触異痛の発生に対する薬物の効果は上述の熱痛覚過敏に用いたのと同じ動物で測定した。熱痛覚過敏試験と接触異痛試験の間には1時間の間隔を置いた。ギャバペンチンは,用量依存性に接触異痛の発生を防止し,は10mg/kgであった。MEDギャバペンチン10および30mg/kgの用量はそれぞれ25および49時間有効であった(図5b)。S-(+)-3-イソブチルギャバも同様に用量依存性(3~30mg/kg)に接触異痛の発生を遮断し,MEDは10mg/kgであった(図5c)。この侵害受容応答の遮断は30mg/kg用量のS-(+)-3-イソブチルギャバにより3日間維持された(図5c)。これに反して,モルヒネ(1~6mg/kg)は,6mg/kgの最大用量で術後3時間,接触異痛の発生を防止したのみであった(図5a)。(7頁49行目~8行目6行目)
【図5a】

【図5b】

【図5c】

(図面の簡単な説明)
図5.ラット術後疼痛モデルにおける接触異痛に対する(a)モルヒネ,(b)ギャバペンチン,および(c)S-(+)-3-イソブチルギャバの効果。ギャバペンチンまたはS-(+)-3-イソブチルギャバは術前1時間に投与した。モルヒネは術前0.5時間に投与した。フライ毛フィラメントに対する足蹠回避閾値を同側および対側足蹠の両者について測定した。明瞭にするため,薬物処置動物の対側足蹠のデータは示していない。術前にベースライン(BL)の測定を行い,術後3,25,49および73時間に回避閾値を再評価した。結果は,各群について8~10匹の動物の足蹠回避を誘発するのに要した中間力(g)として表す(縦線は第*1および第3四分位を示す)。P<0.05は各時点において薬物処置群の同側足蹠をビヒクル処置群の同側足蹠と比べた有意差である(MannWhitneyt-検定)。図5中,-●-はビヒクル対側,-○-はビヒクル同側である。モルヒネ(図5a)については-△-は1,-□-は3および-◇-は16mg/kgである。図5b中,ギャバペンチンおよびS-(+)-3-イソブチルギャバについては,-△-は3,-□-は10および-◇-は30mg/kgである。
(3頁18~30行目)
i
手術1時間後に投与したS-(+)-3-イソブチルギャバの接触異痛および熱痛覚過敏に対する効果
接触異痛および熱痛覚過敏はすべての動物で1時間以内にピークに達し,以後5~6時間維持された。30mg/kgのS-(+)-3-イソブチルギャバの手術1時間後における皮下投与は接触異痛および熱痛覚過敏の維持を3~4時間ブロックした。この時間後に,侵害受容の両応答はいずれも対照レベルに復し,これは抗熱痛覚過敏および抗接触異痛作用の消失を示す(図6)。ギャバペンチンおよびS-(+)-3-イソブチルギャバは,すべての実験で試験された最大用量まで,対側後肢の熱痛覚過敏試験または接触異痛評点におけるPWLに影響しなかった。これに反して,モルヒネ(6mg/kg,皮下)は熱痛覚過敏試験おける対側後肢のPWLを増大させた(データは示していない)。ここに掲げた結果はラット足蹠筋肉の切開は少なくとも3時間続く熱痛覚過敏および接触異痛を誘発することを示している。本試験の主要な所見は,ギャバペンチンおよびS-(+)-3-イソブチルギャバがいずれの侵害受容反応の遮断に対しても等しく有効なことである。これに反し,モルヒネは接触異痛よりも熱痛覚過敏に有効であることが見出された。さらに,S-(+)-3-イソブチルギャバは接触異痛および熱痛覚過敏の誘発および維持を完全に遮断した。(8頁9~23行目)
【図6a】

【図6b】

(図面の簡単な説明)
図6.ラット術後疼痛モデルにおける(a)熱痛覚過敏および(b)接触異痛の維持に対するS-(+)-3-イソブチルギャバの効果。S-(+)-3-イソブチルギャバ[S-(+)-IBG]は術後1時間に投与した。熱足蹠回避潜時はラット足蹠試験を用いて測定し,フライ毛フィラメントに対する足蹠回避閾値は同側および対側足蹠の両者について別個の群で測定した。明瞭にするために,同側足蹠のデータのみを示す。術前にベースライン(BL)の測定を行い,術後6時間まで回避閾値を再評価した。熱痛覚過敏については,結果は各群について6匹の動物の平均PWL(秒)として表す(縦線は±SEMを示す)。*P<0.05,**P<0.01は各時点で薬物処置群の同側足蹠をビヒクル(Veh-○-)処置群の同側足蹠と比較した有意差を示す(対のないt-検定)。接触異痛については,結果は各群について6匹の動物の足蹠回避を誘発するのに要した中間力(g)として表す(縦線は,第1および第3四分位を*示す)。P<0.05は各時点において薬物処置群の同側足蹠をビヒクル処置群の同側足蹠と比較した場合の有意差である(MannWhitneyt-検定)。-●-はS-(+)-IBG30mg/kg。(3頁31~43行目)(2)本件特許の特許請求の範囲及び上記(1)の記載によれば,訂正前各発明及び本件各発明は,本件特許出願当時に市場にある鎮痛剤,例えば麻薬性鎮痛剤又は非ステロイド性抗炎症薬ではその効果が不十分であり,又は副作用からの限界により痛みの処置が不完全であるとの課題を解決するため,てんかん等の中枢神経系疾患に対する抗発作療法に有用であるとされていた既知の薬物である本件化合物が,各請求項に記載の痛みの治療において,反復使用
による耐性やモルヒネとの交叉耐性が生じることなく,鎮痛,抗痛覚過敏作用を発揮することを新たに見出したことにより,本件化合物を包含する鎮痛剤の提供を可能にした医薬の用途発明であると認められる。
2
争点1-1(無効理由1(実施可能要件違反の有無))について(なお,以下,証拠の摘示に当たっては,本件無効審判手続で提出された証拠を審判甲1などとして並記する。)(1)判断基準
特許法36条4項(平成14年法律第24号による改正前のもの。以下同じ。
)は,発明の詳細な説明の記載が,
その発明の属する技術の分野における通常の知識を有する者がその実施をすることができる程度に明確かつ十分に,記載しなければならないと定めるところ,この規定にいう実施とは,物の発明においては,当該発明にかかる物の生産,使用等をいうものであるから,実施可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明の記載が,当業者が当該発明に係る物を生産し,使用することができる程度のも
のでなければならないと解される。
そして,医薬の用途発明においては,一般に,物質名,化学構造等が示されることのみによっては,当該用途の有用性及びそのための当該医薬の有効量を予測することは困難であり,当該医薬を当該用途に使用することができないから,医薬用途発明において実施可能要件を満たすためには,明細書の
発明の詳細な説明は,その医薬を製造することができるだけでなく,出願時の技術常識に照らして,医薬としての有用性を当業者が理解できるように記載される必要がある。
(2)本件明細書等の記載内容

訂正前発明1の構成要件1B´及び1Cは,痛みの処置における鎮痛剤」であり,訂正前発明2は訂正前発明1に係る請求項を引用するものであるところ,これらの発明に係る請求項には,構成要件1B´の「痛みの種
類や原因を限定する記載はない。
そして,本件明細書等には,本件化合物を含む鎮痛剤が使用される痛みについて,
本発明は,…痛みの処置とくに慢性の疼痛性障害の処置における使用方法である。このような障害にはそれらに限定されるものではないが,炎症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み,三叉神経痛,急性疱疹性および治療後神経痛,糖尿病性神経障害,カウザルギー,上腕神経叢捻除,後頭部神経痛,反射交感神経ジストロフィー,線維筋痛症,痛風,幻想肢痛,火傷痛ならびに他の形態の神経痛,神経障害および特発性疼痛症候群が包含される。(2頁14~19行目)「痛みにはとくに炎,
症性疼痛,神経障害の痛み,癌の痛み,術後疼痛,および原因不明の痛み
である特発性疼痛たとえば幻想肢痛が包含される。神経障害性の痛みは末梢知覚神経の傷害または感染によって起こる。これには以下に限定されるものではないが,末梢神経の外傷,ヘルペスウイルス感染,糖尿病,カウザルギー,神経叢捻除,神経腫,四肢切断,および血管炎からの痛みが包含される。(3頁46~50行目)との記載がある。


これらの記載によれば,構成要件1B´の痛みには,本件明細書等に記載された上記の様々な痛みが全て包含されるものと解される。イ
証拠(甲78〔審判甲3〕,甲79・乙1〔審判甲4〕,甲80〔審判甲5〕,甲81〔審判甲6〕,甲88〔審判甲14〕,甲90〔審判甲1
8〕,甲91〔審判甲19〕,乙9)によれば,痛みには,様々なものがあり,その発生原因に応じ,①侵害受容性疼痛(組織損傷による侵害受容体への過剰刺激や炎症により発痛増強物質等が同受容体を刺激することにより発生する痛み。炎症性疼痛や術後疼痛等がこれに該当する。),②神経障害性疼痛(末梢神経や中枢神経の損傷に起因して発生する痛み。三叉神経痛,糖尿病性神経障害,カウザルギー,帯状疱疹後神経痛等がこれに該当する。),③心因性疼痛(精密検査を行っても原因となるような器
質的病変ないし病態生理的機序が見出されないにもかかわらず訴えられる疼痛,また,器質的病変が存在する場合であっても,その身体的所見から予期される以上の強さの疼痛の訴えがあり,背景に心理的要因が関与していると考えられるもの。線維筋痛症等がこれに該当する。)に区分されるものと認められる。


本件特許請求の範囲の請求項2に記載された化合物は請求項1記載の化合物(本件化合物)を特定したものであり,請求項3に記載した化合物は請求項2記載の化合物を特定したものであるところ,本件明細書等には,薬理試験結果のデータとして,
①CI-1008
((S)-3-(アミノメチ

ル)-5-メチルヘキサン酸。
請求項3記載の化合物)
及び3-アミノメチ
ル-5-メチル-ヘキサン酸(同請求項記載の化合物)等を用いたラットホルマリン足蹠試験結果,②CI-1008を用いたカラゲニン痛覚過敏に対する試験結果,③本件化合物に該当するS-(+)-3-イソブチルギャバ(先発医薬品の名称や化学構造(甲5)に照らし,CI-1008と
同一であると認められる。)を用いたラット術後疼痛モデルにおける熱痛覚過敏及び接触異痛に対する試験結果が記載されている。
(ア)このうち,術後疼痛が侵害受容性疼痛に当たることは上記イのとおりであり,当業者は,上記③の試験を侵害受容性疼痛に対する医薬品等の効果を評価するための動物実験であると認識すると考えられる。

(イ)次に,本件明細書等には,カラゲニン痛覚過敏に対する試験結果について,

これらのデータは…CI-1008が炎症性疼痛の処置に有効であることを示す。

(6頁31,32行目)と記載されており,本件特許出願前に公表された甲57〔審判乙34〕(Alterationsinneuronalexcitabilityandthepotencyofspinalmu,deltaandkappaopioidsaftercarrageenan-inducedinflammation351頁左欄11,12行目。平成4年公表。なお,文献については著者名,出版社又は雑誌
の名称・号数等の記載は省略する。以下同様。)にも

カラゲニンは,炎症及び痛覚過敏を誘発するために広く使用されている。

などの記載が存在する。これらによれば,当業者は,上記試験を,侵害受容性疼痛に属する炎症性疼痛に対する医薬品等の効果を評価するための試験であると認識するものと認められる。

(ウ)さらに,ラットホルマリン足蹠試験について,本件特許出願前に公表された甲27〔審判乙4〕(Effectsoflocalanaesthesiaonformalin-inducedFosexpressionintheratdorsalhorn2301頁序論左欄1,2行目。平成7年公表)には,

ホルマリン試験は,動物における侵害刺激のモデルとして使用されてきている。

との記載が,
甲45〔審判乙22〕(Theformalintest:anevaluationofthemethod)13頁左欄末行~右欄2行目。平成4年公表)には,

ホルマリン試験は…侵害受容の標準的動物モデルの1つと考えるべきである。

との記載が存在する。これによれば,当業者は,上記試験を,炎症性の痛み,すなわち侵害受容性疼痛に対する医薬品等の効果を評価するため
の試験であると認識するものと認められる。
(エ)以上によれば,本件明細書等に記載された三つの薬理試験は,いずれも,本件化合物が侵害受容性疼痛に対して鎮痛効果を有することを確認したものであり,当業者もそのように認識するものと考えられる。エ
他方,神経障害性疼痛については,本件明細書等にBennettG.J.のアッセイはヒトに認められるのと類似の疼痛感覚の障害を生じるラットにおける末梢性単発神経障害の動物モデルを提供する(Pain,1988;33:87-107)。KimS.H.らのアッセイは,ラットにおける分節脊椎神経の結紮によって生じる末梢神経障害の一つの実験モデルを提供する(Pain,1990;50:355-363)。(6頁33~36行目)との記載が存在するにとどまり,
本件化合物が神経障害性疼痛又は心因性疼痛による痛覚過敏又は接触異
痛の痛みの治療に有効であることを示す薬理試験結果は,動物実験の結果も含め,何ら開示されていない。
医薬の用途発明においては,一般に,物質名,化学構造等が示されることのみによっては,当該用途の有用性を予測することは困難であり,当該医薬を当該用途に使用することができないから,医薬の用途発明において
実施可能要件を満たすためには,明細書の発明の詳細な説明にその医薬の有用性を当業者が理解できるような薬理試験結果を記載する必要があるが,前記判示のとおり,本件明細書等には,本件化合物が神経障害性疼痛又は心因性疼痛による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの治療に有効であると当業者が理解し得るような薬理試験結果の記載は存在しない。

(3)本件特許出願当時の技術常識

本件明細書等には,本件化合物が侵害受容性疼痛による痛覚過敏又は接触異痛に対して有効であれば,神経障害又は心因性による痛覚過敏又は接触異痛についての薬理試験を要することなく治療効果が予測されることを明示又は示唆する技術常識の記載は存在しない。
また,
侵害受容性疼痛,

神経障害性疼痛,心因性疼痛などの種類を問わず,痛覚過敏又は接触異痛などの痛みの発症原因や機序が同一であり,いずれかの種類の痛みに対して有効な医薬品であれば,他の種類の痛みに対しても有効であることが本件特許出願当時の当業者に知られていたなどの記載もない。

本件特許出願前に公表された文献である甲79・乙1〔審判甲4〕(病態生理よりみた内科学652頁2~18行目,653頁7~13行目。平成8年公表)には慢性疼痛は極めて多彩な特徴を持ち,その基礎となる病態生理に著しい差違があるとした上で,
①侵害受容性疼痛について,
侵害受容神経路に進行しつつある侵害刺激による痛みであり,その痛みの質は体性であればチクチクする,脈打つような,あるいは差し込むような痛みであり,内臓性なら鈍いあるいは絞るような痛みであって,鎮痛薬としてのモルヒネは有効である,②神経障害性疼痛について,求心路遮断性,交感神経依存性及び末梢性の三つの亜型に分類され,その痛みは,
神経損傷により急激に現れ,臨床的には,異常感覚…,感覚異常…,あるいは神経学的障害または局在性自律神経障害のような特徴を合併し,
神経障害性疼痛のうち交感神経依存性疼痛と求心路遮断性疼痛にはモルヒネは無効である,③心因性疼痛について,この痛みは,器質性病変を伴うものと伴わないものとがあり,この種の痛みを特徴付けるのは困難で,診断には器質的要因と心理的要因とがどの程度疼痛経験に寄与しているかを識別する必要があり,問題はしばしば複雑となるなどと
記載されている。
同様に,甲80〔審判甲5〕(最新脳神経外科学左欄200頁3~19行目。平成8年公表)には,侵害受容性疼痛について,組織損傷による機械的な侵害レセプターへの過剰刺激や炎症による内因性発痛物質や発痛増強物質がレセプターを刺激することにより発生する痛みであり,
刺激となる組織障害に対処し,抗炎症療法を施行し,それらが効果をみる前には,モルフィンなどの鎮痛薬で対処することが可能であり,神経性疼痛について,
末梢神経に対する圧迫や絞扼によって発生するもので,脱髄や虚血のために異常知覚が発生したり,細系線維と太系線維との間でエファプス伝達…が発生したり,細経(判決注:ママ)線維に過剰興奮を惹起させたりして,脊髄後角へ有害刺激の信号を大量に送り込み,脊髄視床路を介して,激しい痛みとして認識されるなどと記載されている。さらに,甲84〔審判甲9〕(神経内科QuickReference第2版新しい神経学の進歩をふまえた診療の実際-診察から治療まで-199頁下から4行目~200頁7行目。平成7年公表)には,心因性疼痛について,中枢神経系に器質的病変がなく,直接末梢からの侵害刺激がないにもかかわらず存在する痛みで,通常慢性疼痛の形をとるものであって,
痛む部位は精神的な影響を受けやすく,常に1個所に固定しているのでなく,他の部位に移動しやすく,しばしば同時に2個所以上に痛みが存在し,しかもそれぞれが互いに関連のない部位であることも特徴的であり,痛みの強さは一般にあまり強くなく,痛みの内容も漠然としており,治療は精神安定薬,抗うつ薬の投与や精神療法が行われるが,一般になかなか治りにくいなどと記載されている。上記各文献は,本件の技術分野に属する専門家により執筆されたものであり,その当時の技術常識を反映した書籍であるというべきところ,上記に摘示した各記載によれば,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛及び心因性疼痛は,その発症原因,痛みの態様・程度及び治療方法がそれぞれ異なる
というのが本件特許出願当時の技術常識であり,痛みの種類を問わず,痛覚過敏又は接触異痛などの痛みの発症原因や機序は同一であり,いずれかの種類の痛みに対して有効な医薬品であれば,他の種類の痛みに対しても有効であるとの技術常識が存在したということはできない。

以上によれば,本件化合物が神経障害又は心因性による痛覚過敏又は接触異痛の痛みの治療に有効であることを示す薬理試験結果の記載もなく,本件明細書等の記載に接した当業者が,本件化合物がこれらの痛みの治療に有効であると認識し得たとは考えられない。

(4)したがって,本件明細書等の記載は訂正前発明1及び2を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものであるということはできず,実施可能要件を充足しない。
(5)原告の主張について
これに対し,原告は,本件特許出願当時,慢性疼痛は,それが侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛又は心因性疼痛のいずれによるものであっても,末梢や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常で生ずる痛覚過敏や接触異痛の痛みであるとの技術常識が存在したので,
当業者は,本件明細書等の記載及
び同明細書等に記載された薬理試験から,本件化合物が同明細書等に記載された各種の痛みに有用であると認識することができたと主張する。ア
その理由として,原告は,本件特許出願当時,ホルマリン試験等を用いた研究により,組織損傷や炎症の後に,興奮性アミノ酸を伝達物質とする
NMDAレセプター作動性の中枢性感作を生ずることが知られ(甲39,46,47,49等),カラゲニンの炎症や,術後疼痛における感作についても,これと同様の機序であると理解されていた上(甲15の1,甲50,52,57,133,146等),神経損傷の後にも,同様にNMDAレセプター作動性の中枢性感作を生ずることが知られていたこと(甲4
1,42,46,55,59,80,86,128~130,134等)などを指摘する。
(ア)確かに,傷害後疼痛過敏に関し,例えば,甲39〔審判乙16〕(TheinductionandmaintenanceofcentralsensitizationisdependentonN-methyl-D-asparticacidreceptoractivation;implicationsforthetreatmentofpost-injurypainhypersensitivitystates293頁要約14,15行目,序論左欄1~6行目。平成3年公表)には,中枢感作はヒトにおける損傷後疼痛過敏状態の原因となる可能性がある,末梢組織の損傷に続いて生じる痛覚過敏は,損傷付近の一次求心性侵害受容器の感受性の増大(末梢性感作)…および,脊髄におけるニューロンの興奮性の増大(中枢性感作)の結果生じるとの記載が,甲46〔審判乙23〕(EvidenceforspinalN-methyl-D-aspartatereceptorinvolvementinprolongedchemicalnociceptionintherat218頁要約下から3行目~末行。平成2年公表)にはホルマリンによって生成される求心性集中砲火(が)…比較的に短いタイムスパンでNMDA介在性の中枢性活性を誘発し,この誘発された活性が長期間の痛みの状態における侵害受容とその調節の変化の一つの基礎となっている可能性があるとの記載が,甲49〔審判乙26〕(TheRoleofNMDAReceptor-operatedCalciumChannelsinPersistentNociceptionafterFormalin-inducedTissueInjury3671頁左欄の要約部分下から6行目~末行。
平成4年公表)この結果は,にはホルマリン損傷により誘発された組織損傷後の中枢性感作および持続性侵害受容は,主にNMDA受容体作動性(比較的程度は低いが電位依存性の)カルシウムチャネルを介したカルシウム流入に依存することを示す。との記載が存在する。(イ)また,術後疼痛に関し,例えば,甲15の1〔審判丙四6〕(Characterizationofaratmodelofincisionalpain500頁左欄36~39行目。平成8年公表)には,

著者らは,傷の上10cmの位置での疼痛閾値の減少を検出し,これが中枢性感作による二次痛覚過敏であったことを示した。

との記載が,甲50〔審判乙27〕(SpinalnitricoxidesynthesisinhibitionblocksNMDA-inducedthermalhyperalgesiaandproducesantinociceptionintheformalintestinrats291頁要約下から3行目~末行,299頁左欄2~6行目。平成5年公表)には

この痛覚過敏要素は,脊髄のNMDA受容体の活性化によって開始され,それはNO生成を介して求心性インプットの実際の増大処理および続く疼痛行動の関連する痛覚過敏要素に導く。

,ヒトの術後疼痛状態は,…長引く求心性の活動や脊髄のNMDAレセプターを用いた動物モデルやシステムと少なからず類似しているとの記載が,甲146(IntrathecalAmitriptylineActsasanN-Methyl-D-AspartateReceptorAntagonistinthePresenceofInflammatoryHyperalgesiainRats1046頁右欄13~19行目。平成7年公表)には神経損傷と炎症のモデルは,結果として得られる痛覚過敏の脊椎での薬理学及び生理学に一般的に違いはない。両方の種類のモデルにおいて,介入から維持される有害な感覚入力は,脊椎でのN-メチル-D-アスパルテート(NMDA)レセプターの活動に依存して痛覚過敏を生ずるという強い証拠がある。との記載がある。(ウ)さらに,神経障害性疼痛に関し,甲42〔審判乙19〕(Responseofchronicneuropathicpainsyndromestoketamine:apreliminarystudy56頁左欄26~35行目。平成6年公表)には動物の神経障害性疼痛モデルにおいて示唆されるように…,痛覚過敏はNMDA受容体によって介在される「ワインドアップ現象の提示である可能性がある。これに関して神経障害性疼痛症候群における痛覚過敏はホルマ
リン誘発性の痛みの第二相…に類似する。これらはすべて,NMDA受容体介在性の中枢性促通による脊髄レベルでのワインドアップ現象によって生じると思われる。」との記載が,前掲甲46〔審判乙23〕(2
18頁序論1~15行目)には持続したあるいは慢性的な痛みに関連する多くの問題の一つは,長く持続する痛みのある種の形態を緩和する難しさにあり,これは特に,神経損傷に関連する形態についてである。…動物についての様々な研究は,末梢の侵害受容繊維(判決注:ママ)の感作が発生し得ること…を明らかに示し,さらに最近では,マイナー入力に対する後角の侵害受容的システムの反応を顕著に促進する,急速に誘発された中枢性過敏についての証拠が蓄積している。このようなメカニズムは,痛みを増幅し,持続する痛みの状態の問題に貢献する可能性がある。との記載がある。(エ)他方,
前記(3)イ判示のとおり,甲79・乙1〔審判甲4〕,甲80
〔審
判甲5〕,甲84〔審判甲9〕等によれば,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛及び心因性疼痛は,その発生原因,発現する痛みの態様や程度,治療方法等が異なるものと認められ,さらに,本件特許出願前に公表された甲41〔審判乙18〕(Nociceptormodulatedcentralsensitizationcausesmechanicalhyperalgesiainacutechemogenicandchronicneuropathicpain588頁右欄32~43行目。平成6年公表)には,神経障害性疼痛について,神経因性疼痛を有する患者が異種性であることは,以前に指摘されており…本研究により確認された。調査により,異なる型の痛覚過敏が個々の患者に同時に存在し得ること,および単一の感覚異常が必ずしも他の感覚機能障害と関連するわけではないことが明らかとなった。また,機械的疼痛閾値の低下などの1つの症状が,同じ患者においても,異なる神経メカニズムによって媒介され得ることも指摘されている。との記載がある。
また,心因性疼痛に分類される線維筋痛症について,甲60〔審判乙37〕
(BecomingFamiliarwithFibromyalgia33頁左欄5~7行目,右欄下から18行目~末行。平成8年公表)には,
線維筋痛症は,睡眠障害に関連していると思われる筋肉の微小外傷によって引き起こされる可能性があることも示唆されている。…神経伝達物質の不均衡もこの疾患の原因として調査されている。…これらの不均衡に対する遺伝的素因があるかもしれない…身体的外傷,心理社会的外傷,または感染が症状の発現を引き起こす可能性がある,

原因は謎のままである。線維筋痛症に対する治療法はない。

との記載がある。(オ)以上によれば,上記(ア)ないし(ウ)の各記載から,侵害受容性疼痛,神
経障害性疼痛等で出現する痛覚過敏と,脊髄のNMDA受容体の活性化による中枢性感作との間に関連性があるといい得るとしても,本件特許出願当時,本件明細書等に記載された侵害受容性疼痛(炎症性疼痛,術後疼痛,転移癌に伴う骨関節炎の痛み,痛風,火傷痛等)や神経障害性疼痛(三叉神経痛,急性疱疹性神経痛,糖尿病性神経障害,カウザルギー等)により出現する痛覚過敏がすべて末梢や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常により生じるとの技術常識が存在したとは認め難
く,
まして,
これらの記載から,
当業者が,
薬理試験結果の記載もなく,
本件化合物が神経障害性疼痛の治療に有効であると認識し得たということはできない。

原告は,甲129等を根拠に,組織損傷や炎症により神経を損傷し,逆に神経損傷により炎症を生じるなどして,神経細胞の感作を生じて痛覚過敏や接触異痛を生ずることから,痛みを組織損傷,炎症,神経損傷,心因性の要因などの原因では明確に区別することはできず,炎症性疼痛や術後疼痛と神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛とは,相互に重複する痛みであると理解されていたと主張する。

(ア)しかし,本件特許出願当時の技術常識として,痛みは,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛,心因性疼痛に区分され,それぞれの区分により,痛みの態様や程度が異なると認められることは,前記判示のとおりであり,甲129(Painduetonervedamage:Areinflammatorymediatorsinvolved?平成7年公表)にも,痛みを組織損傷,炎症,神経損
傷,心因性の要因などの原因で明確に区別することはできない旨の記載は存在しない。
そうすると,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛,心因性疼痛に共通して痛覚過敏や接触異痛の症状がみられるとしても,そのことから,痛みを組織損傷,炎症,神経損傷,心因性の要因などの原因では明確に区別
することができず,炎症性疼痛,術後疼痛,神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛とが相互に重複する痛みであると当業者から理解されていたということはできない。
(イ)原告は,痛みを原因では明確に区別できず,各種の疼痛が相互に重複する痛みであると理解されていた例として,神経障害性疼痛を生ずる椎間板ヘルニアや手術後に神経障害性疼痛を生ずる複合性局所疼痛症候群において,炎症により神経細胞の感作を生ずることが知られ(甲128,130),神経損傷の後にも神経細胞の感作を生ずることが知られていたことを挙げるが,甲128は神経根の炎症,甲130は反射神経の炎症によりそれぞれ生じた痛みであり,組織の損傷というよりも,神経の損傷に起因して発生する痛みというべきものであるので,これらの
証拠から,本件特許出願当時,痛みを原因では明確に区別できず,各種の疼痛が相互に重複する痛みであると当業者から理解されていたということはできない。
また,原告は,糖尿病性神経障害においては神経損傷により直ちに疼痛を生ずるわけではなく,また,複合性局所疼痛症候群は神経損傷だけ
でなく組織損傷によっても神経障害性疼痛を生ずる疾患とされていたなどと主張するが,仮に原告の主張するとおりであるとしても,そのことは,むしろ,痛みの発生する機序や態様等が多様であり,本件化合物の効果を確認するためには薬理試験が必要であることを示唆するものというべきである。

実際のところ,糖尿病性神経障害については,甲87(糖尿病学
783頁右欄下から9~8行目)に糖尿病神経障害の疼痛に関する病態生理学的な基礎は確立していないとの記載があり,複合性局所疼痛症候群についても,
乙25脳神経外科ハンドブック

537頁
5.診断の補助1行目)に病因もしくは病態生理学に関して意見の一致が得られていないとの記載があり,これらの記載に照らしても,本件化合物の神経障害性疼痛に対する効果を確認するためには薬理試験が必要であったというべきである。

原告は,本件明細書等に記載された炎症性疼痛は,神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛による痛みであり,侵害受容性疼痛を意味しないとした上で,ホルマリン試験は,後期相が痛覚過敏や接触異痛の原因で
ある中枢性感作を反映したものであることが知られ,神経障害性疼痛治療薬の研究に用いられており,本件明細書等においても,本件化合物が,ホルマリンの侵害刺激を反映した前期相には効果を奏さず,痛覚過敏や接触異痛の直接の原因である中枢性感作を反映した後期相に効果を奏することが確認されていると主張する。

(ア)しかし,炎症性疼痛が侵害受容性疼痛に該当することは,前掲甲80〔審判甲5〕(199頁右欄下から9~7行目)に炎症や組織損傷による痛覚レセプターを異常に刺激することにより,痛覚求心系を激しく興奮させる侵害受容性疼痛と記載されていることなどからも明らかであり,本件明細書等における炎症性疼痛が侵害受容性疼痛以外に該
当するとの原告の主張は採用し得ない。
(イ)また,
前記判示のとおり,
本件特許出願前に公表された前掲甲27
〔審
判乙4〕には,

ホルマリン試験は,動物における侵害刺激のモデルとして使用されてきている。

との記載が,前掲甲45〔審判乙22〕には,

ホルマリン試験は…侵害受容の標準的動物モデルの1つと考えるべきである。

との記載があることに加え,乙2〔審判甲11〕(ペインクリニック療法の実際-痛みをもつ患者への集学的アプローチ-18頁10~13行目。平成8年公表)には,ホルマリンをラットの足底に注入したときの痛みの発現は,疼痛回避行動の解析からearlyphase(10分以内)とlatephase(刺激後15~45分)の2相性を示すことはよく知られている。前者はホルマリンそのものが痛覚受容器を刺激することによる痛みで,後者は二次的に起こる炎症性の痛みであると考えられておりとの記載が,乙6〔審判甲22〕(医薬品の開発
106頁22~25行目。平成2年公表)には,侵害受容反応は希釈ホルマリン注射直後より発現し(第1相)5~10分後にいったん収まったのち,15分前後から再度発現し始め30~40分間持続する(第2相)。第1相の反応はホルムアルデヒドにより侵害受容線維が直接刺激されて発現し,第2相は炎症性反応でプロスタグランジンの生成が関与していると考えられている。との記載が存在する。これらの記載によれば,本件特許出願当時,ホルマリン試験は,侵害受容性疼痛に属する炎症性疼痛に対する医薬品等の効果を評価する上で有用なモデルと
当業者から認識されていたと認めるのが相当である。
(ウ)これに対し,原告は,ホルマリン試験は,その後期相が痛覚過敏や接触異痛の原因である中枢性感作を反映したものであることは当業者に知られていたため,神経障害性疼痛治療薬の研究に用いられていたと主張する。

この点について,例えば,甲47〔審判乙24〕(TheContributionofExcitatoryAminoAcidstoCentralSensitizationandPersistentNociceptionafterFormalin-inducedTissueInjury3665頁右欄1~16行目。平成4年公表)には我々は以前…損傷に誘導される中枢性感作の行動モデルとして,ホルマリン試験を用いた。…これは,ホルマリン応答の初期相の間に生じた神経作用が中枢神経系の機能の変化(すなわち,中枢性感作)を引き起こし,それが次いで後期相の間の処理に影響すること,をもたらし得ることを示唆する。との記載が,前掲甲49〔審判乙26〕(3671頁左欄要約1~26行目)には,ラットにおける組織損傷に対する応答である中枢性感作および持続性侵害受容への細胞内カルシウムの貢献が,後肢へのホルマリンの皮下注射の後に調べられた。…この結果は,ホルマリン損傷により誘発された組織損傷後の中枢性感作および持続性侵害受容は,主にNMDA受容体作動性…カルシウムチャネルを介したカルシウム流入に依存することを示すとの記載があり,甲49~51〔審判乙26~28〕の各文献には,ホルマリン試験の後期相を抑制する効果のある化合物が痛覚過敏を抑制したことが記載されている。

上記各記載等によれば,ホルマリン試験による組織損傷に対する応答として中枢性感作が生じ,これが同試験の後期相の発現に影響を及ぼしている可能性があるとはいい得るが,上記各記載等をもって,同試験の後期相が中枢性感作の反映であるという技術常識が存在したとまでは認められず,また,ホルマリン試験が,本件特許出願当時,神経障害性
疼痛治療薬の研究に用いられていたと認めるに足りる証拠は存在しない。
さらに,本件化合物と異なる上記の化合物がホルマリン試験の後期相を抑制したことがあり,また,同試験により神経障害性疼痛治療薬の効果が検討されることがあったとしても,そのことから,本件化合物が薬
理試験もなく神経障害性疼痛や心因性疼痛に効果があると当業者が認識したとは考えられない。

原告は,当業者にカラゲニン試験が侵害受容性疼痛の試験と理解されることはないとした上で,同試験は,神経細胞の感作を反映したものとして
知られ,神経障害性疼痛治療薬の研究にも用いられており,本件明細書等においても,神経細胞の感作で生じた痛覚過敏に対する本件化合物の効果が確認されていると主張する。
(ア)しかし,本件明細書等には,カラゲニン痛覚過敏に対する試験結果について,

これらのデータは…CI-1008が炎症性疼痛の処置に有効であることを示す。

(6頁31,32行目)と記載されている上,本件特許出願前に公表された甲44〔審判乙21〕(Anewandsensitivemethodofmeasuringthermalnociceptionincutaneoushyperalgesia77頁要約3,4行目。昭和63年公表)には

カラゲニンに誘発された炎症は,食塩水で処置した足と比較して有意に短い足回避潜時をもたらし,そしてこれらの潜時変化は熱侵害受容閾値の低下に対応した。

との記載が,前掲甲57〔審判乙34〕(351頁左欄11~17行目)には,カラゲニンは,炎症と痛覚過敏を誘発するために広く使用されている。カラゲニンで処理された動物における多くの行動試験は,炎症状態によって引き起こされる変化およびこれらの変化に対する様々な薬物の効果を決定するために,侵害性の圧力(足圧力試験)および侵害性の熱に対する足蹠回避を使用してきた。との記載が存在する。これらによれば,カラゲニン試験は,本件特許出願当時,侵害受容性疼痛に属する炎症性疼痛に対する医薬品等の効果を評価するものとして,当業者に広く知られていたものと認められる。
(イ)これに対し,原告は,本件特許出願当時,カラゲニン試験が侵害受容
性疼痛の試験と理解されることはなく,同試験により出現する疼痛は,神経細胞の感作を反映したものとして知られ,神経障害性疼痛治療薬の研究にも用いられていたと主張する。
しかし,カラゲニン試験が侵害受容性疼痛の試験として知られていたことは前記判示のとおりであり,原告の挙げる証拠(甲56,57,1
46等。なお甲72は本件特許出願後に公表された文献である。)を総合しても,同試験により出現する疼痛が神経細胞の感作を反映したものとして当業者に認識されていたと認めることはできず,また,同試験が神経障害性疼痛の治療薬の研究に用いられていたとの事実を認めるに足りる証拠もない。

さらに,カラゲニン試験において,神経障害性疼痛治療薬の効果が研究されることがあったとしても,そのことから,本件化合物が薬理試験もなく神経障害性疼痛や心因性疼痛に効果があると当業者が認識したということはできない。

原告は,術後疼痛試験は,神経細胞の感作を反映したものであることが知られており,本件明細書等においても,術後疼痛試験により,切開創の
治癒後も持続する,神経細胞の感作で生じた痛覚過敏や接触異痛に対する本件化合物の効果が確認されていると主張する。
(ア)しかし,術後疼痛が侵害受容性疼痛に該当することは,甲81〔審判甲6〕(TheMassachusettsGeneralHospitalHandbookofPainManagement32頁末行。平成8年公表)に術後疼痛が侵害受容性疼
痛に該当するものとして例示されているとおりであり,術後疼痛試験は,皮膚や筋膜,筋肉を切開することによって生じる侵害受容性疼痛に対する侵害受容反応を評価するものであると認められる。
(イ)これに対し,原告は,甲15の1,甲58等を挙げ,動物の皮膚を切開することにより,神経細胞の感作が起こり,痛覚過敏などの神経の機
能異常による症状が生ずることが知られており,これを痛覚過敏等の研究に使用することが技術常識であったと主張するが,原告の挙げる証拠のうち,例えば,甲15の1には

このモデルにより,手術を原因として生じた感作の機序を理解すること,及びヒトの術後疼痛に対する新たな治療の研究が可能になる。

(493頁要約下から2行目~末行)と
の記載があるにとどまり,これらの証拠から,術後疼痛が神経細胞の感作を反映したものであるとの技術常識があったということはできない。また,原告は,カプサイシン試験やマスタードオイル試験について記載された証拠(甲41等)も根拠に挙げるが,これらの試験は本件明細書等に記載された試験ではなく,術後疼痛試験が侵害受容性疼痛に対す
る医薬品等の効果を評価するためのものとして知られていたとの上記結論を左右するものではない。

原告は,本件化合物は,本件明細書等において中枢神経疾患であるてんかんに対して効果を有する既知の化合物であることが記載され,更に神経障害性疼痛や線維筋痛症を含む慢性疼痛の全体に対し,抗痛覚過敏作用を有することにより効果を奏することが明示されていたと主張する。しかし,本件明細書等には

本発明の化合物は,てんかん…のような中枢神経系疾患に対する抗発作療法に有用な既知の薬物である。

(2頁8~10行目)と記載されているとおり,抗発作作用を有することが既知であったにすぎず,当業者が,同記載から,本件化合物が神経障害性疼痛や線維筋痛症を含む痛み全体に対し鎮痛効果を有すると認識するとは考えられない。


原告は,甲26,42,46,52~55,70等に基づき,ホルマリン試験で中枢性感作を抑制することが確認されたケタミンが,広く神経障害性疼痛や線維筋痛症を含む慢性疼痛に効果を奏することも知られていたと主張する。
しかし,ケタミンが侵害受容性疼痛及び神経障害性疼痛等による痛覚過
敏や接触異痛に効果を奏するとしても,本件化合物とは異なる化合物であり,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛及び心因性疼痛により出現する痛覚過敏や接触異痛がすべて末梢や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常により生じるとの技術常識が存在したとは認められないことにも照らすと,本件特許出願当時の当業者が,ケタミンに関する知見に基づき,
薬理試験結果の記載もなく,本件化合物が神経障害性疼痛や心因性疼痛の治療に有効であると認識し得たとは考えられない。

原告は,本件明細書等において,組織損傷や炎症による通常の痛みに対して効果のあるモルヒネを比較例としていることから,当業者は,本件化
合物が,組織損傷や炎症による侵害刺激で生ずる通常の痛みではなく,神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛に直接効果を奏すると理解すると主張する。
しかし,本件明細書等の薬理試験においては,ラットホルマリン足蹠試験についてギャバペンチンが,カラゲニン試験についてモルヒネ及びギャバペンチンが,術後疼痛試験についてモルヒネ及びギャバペンチンが,それぞれ比較例として使用されているところ,本件明細書等にはモルヒネを比較例として使用した理由の記載はなく,侵害受容性疼痛に対する効果を確認する試験においてモルヒネを比較例として使用したからといって,そのことから,本件化合物が侵害受容性疼痛以外の痛みに効果があると当業者が認識するとは考えられない。
また,原告は,本件明細書等では,慢性疼痛である神経障害性疼痛に有
効なギャバペンチンを比較例としてより優れた効果を有することも確認していることからすると,本件化合物は神経障害性疼痛にも効果があると当業者は認識すると主張する。
しかし,モルヒネと同様に,本件明細書等にはこれらの化合物を比較例として使用した理由の記載はなく,侵害受容性疼痛に対する効果を確認する試験においてギャバペンチンを比較例として使用したからといって,そのことから,本件化合物が侵害受容性疼痛以外の痛みに効果があると当業者が認識するとは考えられない。

原告は,本件明細書等において,当時まだ一般的に用いられていなかった動物モデルであるチャングモデルやベネットモデルがあることについても紹介しており,当業者はこれらの動物モデルにより容易に追試が可能であったと主張する。
しかし,本件明細書等にBennettG.J.のアッセイはヒトに認められるのと類似の疼痛感覚の障害を生じるラットにおける末梢性単発神経障害の動物モデルを提供する…。KimS.H.らのアッセイは,ラットにおける分節脊椎神経の結紮によって生じる末梢神経障害の一つの実験モデルを提供する(6頁33~36行目)との記載が存在するにとどまることは前記判示のとおりであり,他に,本件特許出願当時,本件化合物が侵害受容性疼痛以外の痛みに有効であることを上記動物モデル等により明らかにしたデータや資料等は存在しない。
(6)以上によれば,本件明細書等の記載は訂正前発明1及び2を当業者が実施できる程度に明確かつ十分に記載したものではなく,同各発明に係る特許は特許法36条4項の規定に違反してされたものであるので,特許法123条1項4号に基づき特許無効審判により無効にされるべきものである。3
争点1-2(無効理由2(サポート要件違反の有無))について
(1)特許請求の範囲の記載が,明細書のサポート要件に適合するか否かは,特許請求の範囲の記載と発明の詳細な説明の記載とを対比し,特許請求の範囲に記載された発明が,発明の詳細な説明に記載された発明で,発明の詳細な説明の記載により当業者が当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否か,また,その記載や示唆がなくとも当業者が出願時の技術
常識に照らし当該発明の課題を解決できると認識できる範囲のものであるか否かを検討して判断すべきものである(知財高裁平成17年(行ケ)第10042号同年11月11日判決・判タ1192号164頁参照)。(2)これを本件についてみると,前記1及び2で判示したとおり,訂正前発明1及び2が解決しようとする課題は,本件明細書等記載の神経障害性疼痛や
心因性疼痛を含む様々な痛みの処置に有効な鎮痛剤を提供することにあるところ,本件明細書等には,本件化合物が侵害受容性疼痛に対して効果を有することは記載されているものの,
本件特許出願当時の技術常識を斟酌しても,
それ以外の疼痛に対して効果を有すると当業者が認識することはできない。そうすると,本件明細書等の記載に接した当業者が訂正前発明1及び2に
より,上記の課題を解決できると認識できるということはできない。(3)したがって,
訂正前発明1及び2に係る特許は,
サポート要件に違反する。
4
争点2-1(無効理由の解消の有無)及び争点2-2(訂正要件の具備の有無)について
(1)願書に添付した明細書,特許請求の範囲又は図面の訂正は,その記載した事項の範囲内においてしなければならない(特許法134条の2第9項,1
26条5項)。ここでいう明細書,特許請求の範囲又は図面に記載した事項の範囲内とは,当業者によって,明細書又は図面の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入しないものであることをいう。
(2)これを本件についてみると,本件訂正は,本件訂正請求前の請求項1及び
2に記載された鎮痛剤の処置対象を,それぞれ,痛みから痛覚過敏又は接触異痛の痛みに(構成要件1B),…である請求項1記載の鎮痛剤
から…を含有する,神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置における鎮痛剤(構成要件2A~2C)に訂正しようとするものである。

前記2で判示したとおり,本件明細書等には,本件化合物が侵害受容性疼痛に対して効果を有することは記載されているものの,本件特許出願当時の技術常識を斟酌しても,それ以外の疼痛に対して効果を有すると当業者が認識することはできない。
このように,本件明細書等には,神経障害又は線維筋痛症を含む侵害受容
性疼痛以外の疼痛により生じた痛覚過敏や接触異痛について本件化合物が効果を有すると認識し得るだけの記載はないところ,請求項1を痛覚過敏又は接触異痛の痛みに訂正することは,本件明細書等からはその効果を認識し得ない,侵害受容性疼痛以外の疼痛により生じた痛覚過敏や接触異痛の痛みの処置を請求項1に導入するものであり,また,請求項2に神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みの処置を加えることも,
同様に,本件明細書等からはその効果を認識し得ない,侵害受容性疼痛以外の疼痛である神経障害や線維筋痛症により生じた痛覚過敏や接触異痛の痛みの処置を請求項2に特定して導入するものであるということができる。(3)そうすると,請求項1及び2に係る上記訂正は,いずれも,本件明細書等の全ての記載を総合することにより導かれる技術的事項との関係において,新たな技術的事項を導入するものであるというべきであり,訂正要件を具備
しない。
(4)仮に,請求項1及び2に係る本件訂正が訂正要件を具備するとしても,前記2で判示したとおり,本件明細書等には,神経障害又は線維筋痛症を含む侵害受容性疼痛以外の疼痛により生じた痛覚過敏や接触異痛について本件化合物が効果を有すると認識し得るだけの記載はないので,同明細書等は,当
業者が本件発明1及び2を実施できる程度に明確かつ十分に記載したものとは認められず,また,当業者がその記載により同各発明の課題を解決できると認識し得たとも認められない。
したがって,訂正前発明1及び2に係る特許の無効理由は本件訂正により解消されるものではなく,本件発明1及び2に係る特許は実施可能要件及び
サポート要件に反し,特許無効審判により無効にされるべきものである。5
争点3-1(構成要件3B及び4Bの充足性)について
(1)本件発明3に係る構成要件3Bは炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みの処置におけるというものであり,本件発明4に係る構成要
件4Bは炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みの処置におけるというものである。上記各発明に係る請求項の訂正の趣旨について,原告は,本件訂正の際に原告が特許庁に提出した上申書(甲18)において,訂正発明3及び4において,鎮痛剤の処置対象である痛みを,審決の予告において実施可能要件及びサポート要件を満たすと判断された『炎症を原因とする痛み(炎症性疼痛)』及び『手術を原因とする痛み(術後疼痛)』に限定した。(9頁)などと説明しているところ,前記2(2)イのとおり,構成要件3Bの炎症を原因とする痛み,手術を原因とする痛み及び構成要件4Bの炎症性疼痛,術後疼痛は,いずれも,侵害受容性疼痛に分類される炎症性疼痛や術後疼痛を意味し,神経障害性疼痛や線維筋痛症は含まれないものと解するのが相当である。
(2)被告医薬品の充足性について
前記前提事実(8)アによれば,被告医薬品は効能・効果を神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛とするものであり,
炎症を原因とする痛み

手術を原因とする痛み,炎症性疼痛又は術後疼痛を処置対象と

するものではないから,構成要件3B及び4Bを充足しない。
(3)原告の主張について
原告は,慢性疼痛は,原因にかかわらず,神経細胞の感作という神経の機能異常で生ずることが知られていたことや,痛みを原因で区別することはできず,炎症性疼痛や術後疼痛と,神経障害性疼痛や線維筋痛症とは,相互に
重複することが理解されていたことなどを根拠として,構成要件3B及び4Bの充足性を否定するが,原告のかかる主張が採用し得ないことは前記2で判示したとおりである。
また,原告は,炎症や手術による組織損傷から神経細胞の感作という神経の機能異常を生じ,痛覚過敏や接触異痛を生ずることなどを理由に,神経障
害性疼痛を効能,効果とする被告医薬品は,炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みを用途とするものであると主張するが,侵害受容性疼痛において神経細胞の感作が生じることがあるとしても,そのことから,神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛を効能・効果とする被告医薬品の用途が炎症を原因とする痛み又は手術を原因とする痛み等であるということ
はできない。
さらに,原告は,痛みは患者の主観的心理状態であるから,混合性疼痛において,侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛とは,同一の患者において生ずる一つの痛みであり,両者を区別できないなどと主張するが,実際の臨床の場において患者の訴える痛みがいかなる種類の疼痛に当たるかの判断が困難な場合があるとしても,そのことは,構成要件充足性に関する上記結論を左右しない。

(4)したがって,被告医薬品が本件発明3及び4の技術的範囲に属するということはできない。
6
争点3-2(均等侵害の成否)について
原告は,被告医薬品が構成要件3B及び4Bの文言を充足しない場合であっても,均等侵害が成立すると主張する。

しかし,相手方が製造等をする製品(対象製品)が,特許請求の範囲に記載された構成と均等なものとして,特許発明の技術的範囲に属すると認められるためには,当該対象製品が特許請求の範囲に記載された構成と異なる部分が特許発明の本質的部分ではないことを要する(第1要件)。
本件発明3及び4と被告医薬品との相違部分は,その用途にあるところ,同
各発明は,既知の薬物である本件化合物が,侵害受容性疼痛の治療に有効であることを新たに見出したことにあるので,その用途が同各発明の本質的部分を構成することは明らかである。
したがって,被告医薬品は,第1要件を充足しないので,均等侵害は成立しない。

7
まとめ
以上によれば,訂正前発明1及び2に係る特許は,実施可能要件及びサポート要件の各違反を理由に特許無効審判により無効にされるべきものであり,本件訂正は訂正要件を具備せず,また,同訂正によっても上記各無効理由が解消
されない。また,被告医薬品は,本件発明3及び4の技術的範囲に属しない。したがって,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がない。
第5

結論
よって,その余の争点について判断するまでもなく,原告の請求はいずれも理由がないからこれを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部

裁判長裁判官

佐藤達小田誉齊藤文
裁判官

太郎
裁判官


(別紙)
物件目録

(S)-3-(アミノメチル)-5-メチルヘキサン酸(一般名:プレガバリン)を有効成分とし,効能又は効果として神経障害性疼痛又は線維筋痛症に伴う疼痛を含む医薬品(商品名が以下のものを含む。)・


プレガバリンカプセル75mg日医工



プレガバリンカプセル150mg日医工



プレガバリンOD錠25mg日医工



プレガバリンOD錠50mg日医工



プレガバリンOD錠75mg日医工



プレガバリンカプセル25mg日医工

プレガバリンOD錠150mg日医工
以上

(別紙)
延長登録目録

1
平成22年6月25日

出願番号

2010-700105号

延長の期間

4年9月14日

登録年月日

出願年月日

平成22年11月24日

特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容
(1)特許権の存続期間の延長理由となる処分
薬事法第14条第1項に規定する医薬品に係る同項の承認

(2)処分を特定する番号
承認番号

22200AMX00297000

(3)処分の対象となった物
プレガバリン(販売名:リリカカプセル25mg)
(4)処分の対象となった物について特定された用途

帯状疱疹後神経痛

2
平成22年6月25日

出願番号

2010-700106号

延長の期間

4年9月14日

登録年月日

出願年月日

平成22年11月24日

特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容
(1)特許権の存続期間の延長理由となる処分
薬事法第14条第1項に規定する医薬品に係る同項の承認
(2)処分を特定する番号
承認番号

22200AMX00298000
(3)処分の対象となった物
プレガバリン(販売名:リリカカプセル75mg)
(4)処分の対象となった物について特定された用途
帯状疱疹後神経痛
3
出願年月日
出願番号

平成22年6月25日
2010-700107号

延長の期間

4年9月14日

登録年月日

平成22年11月24日

特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容

(1)特許権の存続期間の延長理由となる処分
薬事法第14条第1項に規定する医薬品に係る同項の承認
(2)処分を特定する番号
承認番号

22200AMX00299000

(3)処分の対象となった物

プレガバリン(販売名:リリカカプセル150mg)
(4)処分の対象となった物について特定された用途
帯状疱疹後神経痛

4
出願年月日
出願番号

平成23年1月14日
2011-700002号

延長の期間

5年

登録年月日

平成24年2月15日

特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容
(1)特許権の存続期間の延長理由となる処分
薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認
(2)処分を特定する番号
承認番号

22200AMX00297000

(3)処分の対象となった物
プレガバリン(販売名:リリカカプセル25mg)
(4)処分の対象となった物について特定された用途

末梢性神経障害性疼痛(帯状疱疹後神経痛を除く)

5
平成23年1月14日

出願番号

2011-700003号

延長の期間

5年

登録年月日

出願年月日

平成24年2月15日

特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容
(1)特許権の存続期間の延長理由となる処分
薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認
(2)処分を特定する番号

承認番号

22200AMX00298000

(3)処分の対象となった物
プレガバリン(販売名:リリカカプセル75mg)
(4)処分の対象となった物について特定された用途
末梢性神経障害性疼痛(帯状疱疹後神経痛を除く)

6
平成23年1月14日

出願番号

2011-700004号

延長の期間
出願年月日

5年

登録年月日

平成24年2月15日

特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容
(1)特許権の存続期間の延長理由となる処分
薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認
(2)処分を特定する番号
承認番号

22200AMX00299000

(3)処分の対象となった物

プレガバリン(販売名:リリカカプセル150mg)
(4)処分の対象となった物について特定された用途
末梢性神経障害性疼痛(帯状疱疹後神経痛を除く)

7
出願年月日

平成24年8月30日

出願番号

2012-700107号

延長の期間

5年

登録年月日

平成25年10月23日

特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容
(1)特許権の存続期間の延長理由となる処分

薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認
(2)処分を特定する番号
承認番号

22200AMX00297000

(3)処分の対象となった物
プレガバリン(販売名:リリカカプセル25mg)

(4)処分の対象となった物について特定された用途
線維筋痛症に伴う疼痛

8
出願年月日

平成24年8月30日

出願番号

2012-700108号

延長の期間

5年
登録年月日

平成25年10月23日

特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容
(1)特許権の存続期間の延長理由となる処分
薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認
(2)処分を特定する番号

承認番号

22200AMX00298000

(3)処分の対象となった物
プレガバリン(販売名:リリカカプセル75mg)
(4)処分の対象となった物について特定された用途
線維筋痛症に伴う疼痛

9
平成24年8月30日

出願番号

2012-700109号

延長の期間

5年

登録年月日

出願年月日

平成25年10月23日

特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容
(1)特許権の存続期間の延長理由となる処分
薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認
(2)処分を特定する番号
承認番号

22200AMX00299000

(3)処分の対象となった物
プレガバリン(販売名:リリカカプセル150mg)
(4)処分の対象となった物について特定された用途
線維筋痛症に伴う疼痛
10

出願年月日

平成25年4月26日
出願番号

2013-700062号

延長の期間

5年

登録年月日

平成26年4月23日

特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容
(1)特許権の存続期間の延長理由となる処分

薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認
(2)処分を特定する番号
承認番号

22200AMX00297000

(3)処分の対象となった物
プレガバリン(販売名:リリカカプセル25mg)

(4)処分の対象となった物について特定された用途
神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛(末梢性神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛を除く)

11

出願年月日

平成25年4月26日

出願番号

2013-700063号

延長の期間

5年

登録年月日

平成26年4月23日

特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容
(1)特許権の存続期間の延長理由となる処分
薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認
(2)処分を特定する番号
承認番号

22200AMX00298000

(3)処分の対象となった物
プレガバリン(販売名:リリカカプセル75mg)
(4)処分の対象となった物について特定された用途
神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛(末梢性神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛を除く)

12

平成25年4月26日

出願番号

2013-700064号

延長の期間

5年

登録年月日

出願年月日

平成26年4月23日

特許法第67条第2項の政令で定める処分の内容
(1)特許権の存続期間の延長理由となる処分
薬事法第14条第9項に規定する医薬品に係る同項の承認
(2)処分を特定する番号
承認番号

22200AMX00299000

(3)処分の対象となった物
プレガバリン(販売名:リリカカプセル150mg)
(4)処分の対象となった物について特定された用途
神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛(末梢性神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛を除く)
以上

(別紙)
原告の主張

第1
1
訂正前発明1及び2
訂正前発明1及び2に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきものであるか(争点1)
(1)無効理由1(実施可能要件違反の有無)
(争点1-1)

本件各発明(及び訂正前各発明)は,これまで有効な治療法の存在しなかった,神経障害性疼痛や線維筋痛症の画期的治療薬であり,多額の研究開発投資を重ねて生まれたパイオニア発明である(訴状。甲123,12
5)。また,本件優先日当時,疼痛分野の技術発展は目覚ましく,本件各発明(及び訂正前各発明)は,本件優先日直前である1990年代中頃までに,組織損傷や炎症の侵害刺激から生ずる通常の痛みと区別された,神経の機能異常による慢性疼痛の存在が理解され,ホルマリン試験等を用いて感作のメカニズムの理解が進んだことにより
(甲68,
69,
124)


中枢神経系に作用する既知の薬剤の疼痛治療効果が再検討され,その中から,本件化合物が感作を抑制することを見出してなされたものである(甲5)。本件明細書等は,本件優先日当時の技術常識に照らして可能な限りの記載がなされているから,記載要件は必要以上に厳格に適用されるべきではない(原告第4準備書面第2の1,原告第7準備書面第1。

甲101)。痛みの詳細なメカニズムを論ずるまでもなく,通常の痛みと区別された慢性疼痛のうち,ホルマリン,カラゲニン,術後の痛みに効果を奏したことで,記載要件としては十分である。

訂正前発明1及び2の痛みは,本件明細書等を参照すると,麻薬性鎮痛剤やNSAID(非ステロイド性抗炎症薬)では効果が不十分な慢性疼痛と解釈できる(原告第4準備書面第7)。
慢性疼痛は,組織損傷や炎症の侵害刺激による通常の痛みとは異なり,原因にかかわらず,組織損傷や炎症によるものであっても,神経損傷その他神経の障害によるものであっても,心因性の要因によるものであっても,神経障害性疼痛や線維筋痛症におけるものであっても,いずれも末梢や中枢の神経細胞の感作という神経の機能異常で生ずる痛覚過敏や接触異痛の痛みである(原告第3準備書面第1,第2,原告第6準備書面
第1原告第7準備書面

第2の3原告第8準備書面

第1の4

第3の4,原告第10準備書面第1,第2,第4等)。
かかる痛覚過敏や接触異痛の痛みに対しては,ケタミン等の研究により,
その直接の原因である神経細胞の感作を抑制することで,原因にかかわらず痛みを治療できることが知られていた(原告第3準備書面第6,原告第8準備書面第2の2(4))。
具体的には,慢性疼痛に共通する痛覚過敏や接触異痛の機序として,ホルマリン試験等を用いた研究により,組織損傷や炎症の後に,興奮性アミ
ノ酸を伝達物質とするNMDAレセプター作動性の中枢性感作を生ずることが知られており(甲39,46,47,49等),カラゲニンの炎症や,術後疼痛における感作も,これと同様の機序であると理解されていた(甲15の1,甲50,52,57,133,146等)。
この結果は,ホルマリン損傷により誘発された組織損傷後の中枢性感作および持続性侵害受容は,主にNMDA受容体作動性(比較的程度は低いが電位依存性の)カルシウムチャネルを介したカルシウム流入に依存することを示す。(甲49〔3671頁左欄Summary下から6行目~末行〕。下線部は本判決において追加したもの。以下同様。)

モデルは急増しているけれども,神経損傷と炎症のモデルは,結果として得られる痛覚過敏の脊椎での薬理学及び生理学に一般的に違いはない。両方の種類のモデルにおいて,介入から維持される有害な感覚入力は,脊椎でのN-メチル-D-アスパルテート(NMDA)レセプターの活動に依存するという強い証拠がある。そのため,NMDAレセプターアンタゴニストのクモ膜下腔内注射は,かかるモデルにおいて痛覚過敏を妨げ,元に戻すのであり,さらにNMDAレセプターアンタゴニストのクモ膜下腔内注射により長く続く神経障害性疼痛の患者の痛覚過敏や異痛が減少するという事実は,これらのモデルが臨床と関係することを示す。(甲146〔1046頁右欄12~25行目〕)

一方,神経損傷の後にも,同様にNMDAレセプター作動性の中枢性感作を生ずることが知られていた(甲41,42,46,55,59,80,86,128~130,134等)。
興奮性アミノ酸(EAA)は,神経系における侵害受容情報の伝達に関与する。N-メチル-D-アスパラギン酸(NMDA)受容体は,EAAグルタミン酸の受容体サブタイプの1つであり,神経傷害疼痛の発症において重要な役割を果たすと考えられる(概説については,Coderreら,1993を参照されたい)。中枢性NMDA受容体の遮断は,神経傷害によって引き起こされる侵害受容挙動を低減し(Seltzerら,1991),一次求心性C線維の刺激の延長によって引き起こされる侵害受容細胞における過剰興奮性を減少させる(DaviesおよびLodge1987;DickensonおよびSullivan1987)。(甲55〔221頁左欄2行目~右欄2行目〕)
過興奮の認められる痛覚求心路では,興奮性アミノ酸を伝達物質とするNMDAレセプターが著しく増加し(図5.46),その拮抗薬であるMK-801の投与で,過興奮を60%以上,用量依存性に抑制できることが判明した。(甲80〔202頁左欄下から3行目~右欄2行目〕)

障害部位での過放電とそれより上位の痛覚求心系を異常興奮させて除神経性疼痛を発生せしめるものと考えられる。

(甲80〔202頁右欄11~13行目〕)
そのため当業者は,原因にかかわらず,痛覚過敏や接触異痛を生ずる感
作の機序は同一であると考えており(甲146等),組織損傷や炎症の疼痛モデルの結果を用いて,神経障害性疼痛や線維筋痛症等の慢性疼痛が研究されていた(甲26,41~43,46,59,64,69,73等)。そして,ホルマリン試験で中枢性感作を抑制することが確認されたケタミンが(甲46),広く神経障害性疼痛や線維筋痛症を含む慢性疼痛に効果
を奏することも知られていた(甲26,42,52~55,70等)。ウ
また,本件優先日当時,上記のように原因にかかわらず神経細胞の感作により痛覚過敏や接触異痛を生ずることに加え
(原告第3準備書面
第2,

組織損傷や炎症により神経を損傷し,逆に神経損傷により炎症を生じ,更
にはストレスで侵害刺激を生じ,侵害刺激がストレスで増幅され,これらの原因で神経細胞の感作を生じて痛覚過敏や接触異痛を生ずることから,痛みを組織損傷,炎症,神経損傷,心因性の要因といった原因では明確に区別できず,炎症性疼痛や術後疼痛と神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛とは,相互に重複する痛みであることが理解されていた(原告第7準
備書面第2の2,
第3,原告第8準備書面第1の1ないし4,
第5の2及び3,原告第10準備書面第5,第6,第8
等)。
例えば,優先日当時,神経障害性疼痛を生ずる椎間板ヘルニアは,筋肉や関節等の末梢組織の損傷と,神経の圧迫等の両方から,炎症により神経
細胞の感作を生ずることが知られており(甲128),神経障害性疼痛を生ずる複合性局所疼痛症候群
(反射性交感神経性ジストロフィーを含む。

も,
炎症により神経細胞の感作を生ずることが知られていた
(甲130)

また,本件優先日当時,組織損傷や炎症の痛みにおいて,マクロファージや交感神経が作用し,プロスタグランジン(PG)E2及びPGI2,IL-1β,IL-6,IL-8,TNFαなどの物質を生じ,これらが神経細胞の感作を生ずることが知られていた(甲9)。
BKはまた,他の細胞や交感神経終末からPGE2やPGI2などのプロスタノイドを放出させ,マクロファージからはIL-1やTNF-αなどのサイトカインを放出させる。(中略)TNF-αや,IL-1β,IL-6,IL-8などのサイトカインも,プロスタノイドの産生を刺激し,交感神経終末を興奮させることにより,炎症時のhyperalgesiaの形成に関与している。(甲9〔50頁13~17行目〕)一方,神経損傷の後にも全く同様に,マクロファージや交感神経が作用し,PGE2及びPGI2,IL-1β,IL-6,IL-8,TNFαなどの物質を生じ,神経細胞の感作を生ずることが知られていた(甲129)。
末梢神経は在住マクロファージを含有し,ラットの坐骨神経細胞の1~4%を構成する[37]。末梢神経が損傷すると,マクロファージが傷害された神経に集まり[38,39],縮退した軸索とミエリン鞘を除去するのに貢献する[40]。マクロファージは,幅広い範囲の物質を分泌し[41],そのいくつかは直接又は間接に侵害受容器を活性化する。これらの物質は,プロスタグランジンE2及びI2を含み,一次求心性入力を感作させる[19,23]。マクロファージはまた,サイトカインであるIL1-β,IL-6,IL-8及びTNFα,更にロイコトリエンLTB4を放出する[41,42]。上記のサイトカインは全て,痛覚過敏を生じるが[24],この場合には間接作用を有する。IL1-β及びIL-6の場合には痛覚過敏の効果はプロスタグランジンの合成により媒介される[24]。ロイコトリエンB4もまたおそらく間接的なメカニズムにより痛覚過敏を生じ[31],多形核ロイコサイトの活性化を伴う(後記)。マクロファージはまた,一酸化窒素を放出し[43],これは末梢の痛覚過敏に寄与し得る[44,45]。それ故に,Frisenにより提案されているとおり[38],神経傷害で生ずる痛覚過敏にマクロファージが寄与するというのがもっともであろう。(甲129〔408頁左欄27行目~右欄4行目〕)
節後交感神経ニューロンは,それ故に,炎症に役割を果たし得る。交感神経切除によるこれらのニューロンの除去により,末梢神経障害の動物モデルにおいて[5,52,53],そしてカウザルギーの患者においても[2]痛覚過敏が緩和された。(甲129〔409頁左欄27~31行目〕)
この考えに従うと,ノルアドレナリンは,交感神経終末に位置するアデノレセプターに作用する[22]。この作用により,プロスタグランジンE2及びI2の合成が促進され[54,55],そしてこれらのプロスタグランジンの放出は痛覚過敏を生じ,交感神経切除により緩和する。それ故に,神経障害による痛覚過敏は,インドメタシン等のプロスタグランジン合成阻害剤によって緩和されるべきであると予期される。これは,神経傷害の2つの動物モデルで示されている[5,22]。(甲129〔409頁左欄42~51行目〕)このように,原因にかかわらず,痛覚過敏や接触異痛は,等しく神経細胞の感作で生ずることに加え(上記イ),感作に至るまでの炎症性メディエーターの動作等を含めて同様のものであり,区別できないことが理解されていた。そのため,神経障害性疼痛に対し,抗炎症薬であるステロイド
の投与による治療も行われていた(甲137,138)。
さらに,手術で末梢神経損傷に至らない場合でも,皮神経終末を損傷するし(甲123,125,126),糖尿病性神経障害の例から明らかなように,神経損傷により直ちに疼痛を生ずるわけではない(甲123,131,132)。また,複合性局所疼痛症候群(反射性交感神経性ジストロフィーを含む。)は,手術後に神経障害性疼痛を生ずるところ,神経損傷だけでなく組織損傷によっても神経障害性疼痛を生ずる疾患とされて
いた(甲62,134)。したがって,手術により神経を損傷したか否かにより,術後疼痛と神経障害性疼痛とを区別できないことも明らかであった。

そのため,当業者は,既に述べたとおり,実験的疼痛状態を生じさせる動物またはヒトの疼痛モデルの症状に着目し,炎症や組織損傷により痛覚過敏や接触異痛を生じさせるモデルを利用して,神経障害性疼痛や線維筋痛症等の慢性疼痛の研究を行っていた(原告第3準備書面第3,第4,原告第8準備書面第2の2(1),第3の2,
第5の1)。
例えば,ホルマリン試験により神経障害性疼痛治療薬であるケタミン,
MK-801,オピオイド,その他中枢神経系抑制薬の効果が検討され(甲46,47,49,64),中枢性感作の機序が研究されていた(甲45~51)。また,カラゲニン試験でも,神経障害性疼痛治療薬であるアミトリプチリン,オピオイド等の効果が検討され(甲56,146),神経細胞の感作の機序も研究されていた(甲57,72)。術後疼痛試験も,
神経細胞の感作を研究する動物モデルとして生み出された
(甲15の1)

さらに,カプサイシン試験やマスタードオイル試験により,神経細胞の感作で生ずるヒトの神経障害性疼痛に対する薬剤の効果及び機序が研究されていた(甲26,39,41,59,73)。
疼痛治療薬の分野だけでなく,
抗がん剤や糖尿病治療薬,
認知症治療薬,

うつ病治療薬等の隣接分野でも,同様の理由から当業者は症状に着目して動物モデルを用いていた(原告第4準備書面第6の9。甲14,31~37)疼痛の動物モデルは,

人工的に痛みを生じさせるモデルであり,
かつヒトではなく動物のモデルであることから,ヒトの具体的な疾患とは原因や病態生理が異なり,動物モデルでは効果のあった薬剤が,ヒトの治療薬として認められないことがあるが,そのことにより,動物モデルが疼痛治療薬のスクリーニングに利用できないということにはならない(原告
第4準備書面第5の3(3),原告第8準備書面第2の2(3),第3の2)。仮に動物モデルによりヒトの疾患の病態生理を正確に模倣することを要求した場合,そのような動物モデルなど存在しないことから,特許の取得は不可能となる(原告第8準備書面第3の2)。

本件優先日当時,ベネットモデルやチャングモデルなどの神経障害によって痛みを生じさせる動物モデルは開発途上であり,広く用いられていなかった(原告第7準備書面第1,原告第8準備書面第2の2(1),第3の2,原告第10準備書面第7。甲2,85)。神経細胞の
感作の機序が共通するのであるから,ベネットモデルやチャングモデルが存在したからといって,ホルマリン試験,カラゲニン試験,術後疼痛試験
を用いて慢性疼痛の研究ができないということにはならない(原告第8準備書面第2の2(1))。

本件化合物は,本件明細書等において,中枢神経系に作用するGABA類縁体であり,中枢神経の過活動により生ずる疾患であるてんかんに対して効果を有する既知の化合物であることが述べられ,更に神経障害性
疼痛や線維筋痛症を含む慢性疼痛の全体に対し,抗痛覚過敏作用を有することにより効果を奏することが明示されている。

ホルマリン試験は,慢性疼痛の試験として誕生し,後期相が痛覚過敏や接触異痛の原因である中枢性感作を反映したものであることが知られてい
たため,神経障害性疼痛治療薬の研究に用いられていた(原告第3準備書面第3,
第6,原告第8準備書面第2の2(2)。甲45~51,
64,86)。本件明細書等では,ホルマリンの侵害刺激を反映した前期相には効果を奏さず,痛覚過敏や接触異痛の直接の原因である中枢性感作を反映した後期相に本件化合物が効果を奏することを確認している。ク
カラゲニン試験は,痛覚過敏の試験として適合されており,神経細胞の感作を反映したものであることも知られており,神経障害性疼痛治療薬の
研究に用いられていた(原告第3準備書面第4,原告第7準備書面第2の4。甲56,57,72,146)。本件明細書等のカラゲニン試験では,神経細胞の感作で生じた痛覚過敏に対する本件化合物の効果を確認している。

術後疼痛試験は,神経細胞の感作を反映したものであることが知られており,感作のメカニズムを研究する動物モデルである(原告第3準備書面第4,原告第10準備書面第8の2。甲15の1)。本件明細書
等では,術後疼痛試験により,切開創の治癒後も持続する,神経細胞の感作で生じた痛覚過敏や接触異痛に対する本件化合物の効果を確認している。

さらに,本件明細書等では,組織損傷や炎症による通常の痛みに対して効果を奏し,慢性疼痛に効果の不十分な麻薬性鎮痛剤であるモルヒネ(甲80,84,90,91)を比較例として,本件化合物の効果を確認している。例えば術後疼痛試験では,本件化合物がモルヒネの効かない痛覚過敏や接触異痛に有効であることや,モルヒネと異なり対側後肢のPWLに
影響を与えないことが示されている。

上に掲げた状態が,現在市場にある鎮痛剤たとえば麻薬性鎮痛剤または非ステロイド性抗炎症薬(NSAID)では,不十分な効果または副作用からの限界により不完全な処置しか行われていないことは周知である。

(甲2〔4頁4~6行目〕)
S-(+)-3-イソブチルギャバも同様に用量依存性(3~30mg/kg)に接触異痛の発生を遮断し,MEDは10mg/kgであった(図5c)。この侵害受容応答の遮断は30mg/kg用量のS-(+)-3-イソブチルギャバにより3日間維持された(図5c)。これに反して,モルヒネ(1~6mg/kg)は,6mg/kgの最大用量で術後3時間,接触異痛の発生を防止したのみであった(図5a)。
(甲2〔8頁2~6行目〕)

ギャバペンチンおよびS-(+)-3-イソブチルギャバは,すべての実験で試験された最大用量まで,対側後肢の熱痛覚過敏試験または接触異痛評点におけるPWLに影響しなかった。これに反して,モルヒネ(6mg/kg,皮下)は熱痛覚過敏試験おける対側後肢のPWLを増大させた(データは示していない)。(甲2〔8頁14~1
7行目〕)
そのため,本件化合物が,麻薬性鎮痛剤やNSAIDの有効な,組織損傷や炎症による侵害刺激で生ずる通常の痛みではなく,神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛に直接効果を奏することが明らかであるし,麻薬性鎮痛剤と同じオピオイド作用や,NSAIDと同じ抗炎症作用を有する
と理解することもない(原告第10準備書面第3)。

本件明細書等では,慢性疼痛である神経障害性疼痛に有効なギャバペンチン(甲61,136)を比較例として,これと同じ作用により,より優れた効果を有することも確認している。ギャバペンチンも本件化合物も,ともにホルマリン試験,カラゲニン試験,術後疼痛試験の全てにおいて用
量依存性で痛覚過敏や接触異痛に拮抗しており,機序の同一性が明らかである(原告第7準備書面第1の2)。

加えて,本件明細書等では,当時まだ一般的に用いられていなかった動物モデルであるチャングモデルやベネットモデルがあることについても紹
介しており,当業者はこれらの動物モデルにより容易に追試が可能である(原告第4準備書面第2,原告第8準備書面第3の2)。

上記アないしシの理由により,当業者は,本件化合物が慢性疼痛に有用であることを十分に理解する。

(被告の主張への反論)

これに対し,被告は,痛みが侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛,心因性疼痛に分類されると主張する。しかし,このことは,原因にかかわらず,
神経細胞の感作により痛覚過敏や接触異痛を生じ,神経細胞の感作を抑制することで鎮痛できることを否定するものではない。

神経障害性疼痛に上腕神経叢捻除,
帯状疱疹後神経痛,
幻肢痛,
視床痛,
カウザルギー,三叉神経痛,糖尿病性神経障害等の様々な疾患が含まれる
としても,それらは結局のところ神経障害性疼痛に分類され,求心路遮断性,
交感神経依存性,
末梢性といった分類にかかわらず
(上腕神経叢捻除,
帯状疱疹後神経痛,幻肢痛,視床痛は求心路遮断痛であり,カウザルギーは交感神経依存性疼痛であり,三叉神経痛,糖尿病性神経障害は末梢性疼痛である。甲79~81等),等しく神経細胞の感作により痛覚過敏や接
触異痛を生ずる。
例えば,求心路遮断痛は,上記イで述べたとおり,中枢性感作の痛みであると理解されていた(甲80)。また,交感神経依存性疼痛も,中枢性感作の痛みであることが理解されていた(甲134)。

機械的受容器が交感神経依存性疼痛(SMP)の接触誘起痛の原因であり,この入力への中枢の侵害受容ニューロンの感作が生じていることの十分な証拠が存在する。

(甲134〔618頁20~22行目〕)
さらに,末梢性疼痛も,例えば椎間板ヘルニアについて(甲80),組織や神経の炎症で生ずる,中枢性感作の痛みであることが理解されていた
(甲128)。

疼痛の状況が末梢組織で生ずると,侵害信号の脊髄への継続的なバラージにより後角における体性感覚ニューロンを感作させ得る。これらの感作されたニューロンは,慢性疼痛状態に寄与し得る。

(甲128〔1808頁右欄14~18行目〕)
心因性疼痛も,結局のところ,心因性の要因で侵害刺激が生じ,又は器質的病変が心理的要因で増幅され,神経細胞の感作により痛覚過敏や接触
異痛を生ずる(原告第3準備書面第2,第5,原告第8準備書面
第1の3)。心因性疼痛に分類されることもある線維筋痛症も,中枢性感作の痛みとされている(甲26,65,88)。

これらの結果は,NMDA受容体が線維筋痛症の疼痛機構に関与するという仮説を支持する。これらの知見から,FMに中枢性感作があること,および圧痛点が二次痛覚過敏を示すことも示唆される。

(甲26〔360頁Summary7行目~末行〕)
一方,侵害受容性疼痛は,侵害受容器への刺激により生じ,侵害刺激に比例する通常の痛みであると理解されており(甲79,80),ホルマリン試験,カラゲニン試験,術後疼痛試験において,神経細胞の感作により
生ずる痛覚過敏や接触異痛等の病的な慢性疼痛を含まない(原告第6準備書面第3の1,原告第8準備書面第1の1。甲2,43,46,
146等)。本件明細書等に記載された炎症性疼痛や術後疼痛も,神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛の痛みであり,侵害受容性疼痛を意味しない。本件明細書等のホルマリン試験,カラゲニン試験,術後疼
痛試験が侵害受容性疼痛の試験と理解されることはない(原告第6準備書面第3の1)。

先行技術文献に示唆されているといった断定形でない記載があるのは,実験結果を論ずる際の作法であり,動物モデルにおける薬剤の作用か
らヒトの疾患の機序を述べる必要があること等によるものであり,神経細胞の感作により痛覚過敏や接触異痛を生ずること,ホルマリン試験が中枢性感作を反映したものであること,ケタミンが中枢性感作を抑制し,神経障害性疼痛や線維筋痛症に効果を奏すること等が仮説であることを意味しない(原告第10準備書面第1)。

末梢及び中枢の神経細胞の感作の意義は明確であり,原因により,発症機序の異なる様々な神経細胞の感作が存在するということはない(原告第
8準備書面第2の2(3),原告第10準備書面第2)。
(2)無効理由2(サポート要件違反の有無)
(争点1-2)
上記第1の1(1)アないしチにおいて述べたことと同様の理由により,当業者は,本件化合物が慢性疼痛に効果を奏することを十分に理解する。2
本件発明1及び2に係る訂正の再抗弁の成否(争点2)
(1)無効理由の解消の有無(争点2-1)

無効理由1の解消の有無(争点2-1-1)
(ア)上記第1の1(1)アないしチにおいて述べたとおり,
当業者は,
痛みの
原因にかかわらず,本件化合物が痛覚過敏や接触異痛に効果を奏するこ
とを十分に理解する。
(イ)また,本件発明1及び2では,処置対象となる痛みが,慢性疼痛のうち痛覚過敏又は接触異痛の痛みに明確に限定されている。これは,ホルマリン試験の後期相に反映された中枢性感作で生じる痛みであり(甲27,86等),本件明細書等のカラゲニン試験及び術後疼痛試験
において,本件化合物の効果が明示的に確かめられた痛みである(原告第3準備書面
第2
ないし
第4原告第7準備書面

第2の4。

(ウ)本件発明2では,処置対象となる痛みが更に神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛に限定されている。本件優先日当時,神経障害性疼痛は,一次的な神経損傷又は神経の機能異常の痛みとして
定義されており(原告第3準備書面第5。甲77),炎症や組織損傷だけでなく,神経損傷によっても神経細胞の感作という神経の機能異常を生じて,神経障害性疼痛における痛覚過敏や接触異痛を生ずることが知られていた(原告第3準備書面第2。甲41,42,46,55,59,80,86,128~130,134等)。また,線維筋痛症も,痛覚過敏を伴う慢性疼痛症候群として定義されており(原告第3準備書面第5),中枢性感作により痛覚過敏や接触異痛を生ずるこ
とが知られていた(原告第3準備書面第2。甲26,65,88)。すなわち,神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏や接触異痛は,神経細胞の感作で生じたものであることがますます明らかである。本件明細書等では,上記のように,本件優先日当時に神経障害又は線維筋痛症の痛みであると理解されていた,神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異
痛に対する本件化合物の効果が確かめられている。
(エ)上記(ア)ないし(ウ)の理由により,当業者は,本件化合物が痛覚過敏又は接触異痛の痛み,並びに神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みに有用であることを十分に理解する。

無効理由2の解消の有無(争点2-1-2)
上記第1の2(1)ア(ア)ないし(ウ)において述べたことと同様の理由により,当業者は,本件化合物が痛覚過敏又は接触異痛の痛み,及び神経障害又は線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みに効果を奏することを十分に理解する。

(2)訂正要件の具備の有無(争点2-2)

本件発明1の訂正要件の具備の有無(争点2-2-1)

(ア)本件明細書等のカラゲニン試験では,機械的痛覚過敏及び熱痛覚過敏に対する本件化合物の効果が確認されており,術後疼痛試験では,熱痛覚過敏及び接触異痛に対する本件化合物の効果が確認されているから,痛覚過敏又は接触異痛の痛みに対して本件化合物を用いることが開示されている。痛覚過敏や接触異痛は痛みの症状を示す用語であり(甲77),痛みの原因に応じて複数の痛覚過敏や複数の接触異痛が存在するわけではない(原告第8準備書面第2の1)。
(イ)さらに,上記第1の1(1)アないしチにおいて述べたとおり,当業者は,痛みの原因にかかわらず,痛覚過敏や接触異痛が神経細胞の感作によって生じ,本件化合物が効果を奏することを十分に理解する。このこ
とからも,原因に応じて複数の痛覚過敏や接触異痛が存在するわけではないことが明らかである。
(ウ)したがって,構成要件1Bは,本件明細書等に記載した事項の範囲内で訂正されたものであり,新規事項の追加に該当しない。訂正の目的が痛みの減縮であり,訂正により拡張変更に該当しないことは明らかであ
る(以上,原告第4準備書面第1の2(1))。
(エ)なお,訂正要件は,訂正事項が明細書等を総合することにより導かれる技術的事項であるか否かによって判断され,本件化合物が痛覚過敏や接触異痛に有用であり,或いは効果を奏することが本件明細書等から理解できるかどうかは,実施可能要件又はサポート要件の問題である(原
告第4準備書面第4,原告第8準備書面第2の1)。仮にそう
でないとしても,上記第1の2(1)で述べたことにより訂正要件を満たす。

本件発明2の訂正要件の具備の有無(争点2-2-2)
(ア)上記第1の2(2)ア(ア)ないし(ウ)において述べたとおり,構成要件2Bのうち,痛覚過敏又は接触異痛の痛みについては,訂正要件を満たす。
(イ)また,本件明細書等には,本件化合物の処置対象となる慢性疼痛に含まれる痛みとして,神経障害の痛み,線維筋痛症が記載されている(原
告第4準備書面第1の2(2)ウ)。
(ウ)さらに,上記第1の1(1)イにおいて述べたとおり,神経障害の痛みや,線維筋痛症において痛覚過敏や接触異痛を生ずることは,本件優先日当時の技術常識である(原告第3準備書面第2,第5)。
(エ)したがって,構成要件2Bは,本件明細書等に記載した事項の範囲内で訂正されたものであり,新規事項の追加に該当しない。訂正の目的が引用関係の解消及び痛みの減縮であり,訂正により拡張変更に該当しな
いことは明らかである(以上,原告第4準備書面第1の2(2))。なお,適用されるべき訂正要件の規範は,上記第1の2(2)ア(エ)のとおりである。
第2
1
本件発明3及び4
被告医薬品が本件発明3及び4の技術的範囲に属するか(争点3)(1)構成要件3B及び4Bの充足性(争点3-1)

本件発明3について(構成要件3Bの充足性)
(ア)神経障害性疼痛が炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みであること

(クレーム解釈)
a
本件発明3の処置対象となる痛みは,炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みである。
b
炎症を原因とする痛みは,本件明細書等のカラゲニン試験の痛
みであり,
手術を原因とする痛み
は,
術後疼痛試験の痛みである。
これらの試験では,炎症や手術から神経細胞の感作を生じ,痛覚過敏
や接触異痛を生ずるまでの機序は限定されていない。
c
本件明細書等では,炎症性疼痛や術後疼痛が,神経障害性疼痛や線維筋痛症と並んで,麻薬性鎮痛剤やNSAIDでは不十分なことのある慢性疼痛として記載されており,カラゲニン試験や術後疼痛試験が
かかる慢性疼痛の試験であることが明らかである(原告第5準備書面第3の1)。
d
そして,上記第1の1(1)イで述べたとおり,慢性疼痛は,原因にかかわらず,神経細胞の感作という神経の機能異常で生ずることが知られており,神経細胞の感作を抑制することで,原因にかかわらず痛みを治療できることも知られていた。

e
また,上記第1の1(1)ウで述べたとおり,本件優先日当時,炎症で神経の病変や疾患を生じ,手術で末梢神経や神経終末を損傷し,神経の損傷によっても炎症が生ずることなどから,痛みを原因で区別できず,炎症性疼痛や術後疼痛と,神経障害性疼痛や線維筋痛症とは,相互に重複することが理解されていた。

f
そのため,上記第1の1(1)エないしケで述べたとおり,当業者は,痛みの症状に着目して動物モデルを用いており,カラゲニン試験や術後疼痛試験は,神経細胞の感作により痛覚過敏や接触異痛を生じさせる動物モデルとして,神経障害性疼痛治療薬の探索や,感作のメカニズムの研究に利用されていた。

g
したがって,
上記第1の1(1)クないしサで述べたとおり,
本件明細
書等のカラゲニン試験や術後疼痛試験は,神経細胞の感作により生ずる,神経障害性疼痛や線維筋痛症などの慢性疼痛に共通する痛覚過敏や接触異痛に対する効果を見たものであることが明らかである。

h
上記aないしgの理由により,本件発明3の技術的範囲には,神経の病変,疾患,損傷が関与するか否かにかかわらず,炎症や手術によ
って生ずる痛覚過敏や接触異痛の全てが含まれる(原告第5準備書面第3,原告第8準備書面第4の1及び2)。
(被告医薬品の充足性)
i
被告医薬品は,変形性関節症,リウマチ性関節炎,癌性疼痛,帯状疱疹後神経痛,
アレルギー性肉芽腫性血管炎,
結合組織病
(血管炎)

結節性多発動脈炎,多発性単神経炎,神経叢炎,炎症性脱髄性多発性神経障害,有痛性糖尿病性神経障害,尿毒症性ニューロパチー,椎間板ヘルニア,反射性交感神経性ジストロフィー,手根管症候群,自己免疫疾患等において,炎症を原因として生じた神経障害性疼痛を用途とする(訴状,原告第5準備書面第2,原告第7準備書面第2の2,第3の2。甲6,11,17,92,95~97,99,
126~130,137~139等)。
j
また,被告医薬品は,術後遷延性疼痛,開胸術後疼痛症候群,外傷後後遺症,手術後後遺症,乳房切除術後痛,ヘルニア縫合術後痛,複合性局所疼痛症候群,手根管症候群,橈骨遠位端骨折,デュプイトラン拘縮,CM関節症,股関節置換術等において,手術を原因として生
じた神経障害性疼痛を用途とする
(訴状,
原告第5準備書面
第2

原告第7準備書面第2の2,第3の3。甲6,23,93,
98,125,139,142等)。
k
上記第1の1(1)イで述べたとおり,上記i及びjで挙げた神経障害性疼痛の疾患において,炎症や手術による組織損傷から神経細胞の感作という神経の機能異常を生じ,痛覚過敏や接触異痛を生ずる(原告第3準備書面第1の1及び2,原告第6準備書面第3の2及び3,原告第7準備書面第2の3,原告第8準備書面第1の1)。それだけでなく,上記第1の1(1)ウで述べたとおり,炎症に
より神経の病変や疾患を生じ,手術により神経を損傷し,これらの神経の病変,疾患,損傷により神経細胞の感作を生じ,痛覚過敏や接触異痛を生ずる。さらに,神経の病変,疾患,損傷により,組織や神経の炎症を生じ,炎症により神経細胞の感作を生じ,痛覚過敏や接触異痛を生ずる(以上,原告第7準備書面第2の2,第3,原告

第8準備書面第1の2,第5の2及び3,原告第10準備書
面第5,第8)。
例えば,帯状疱疹後神経痛は,帯状疱疹ウイルスによる炎症が原因で,神経が変性してしまったことによる痛みである(甲11)。これは,炎症で神経の病変や疾患を生ずる例である。また,手術により末梢神経や神経終末を損傷することは当然である
(原告第7準備書面
第3)。逆に,上記第1の1(1)ウで述べたとおり,椎間板ヘルニア等
の腰部神経根症において,
神経の圧迫により組織や神経の炎症を生じ,
抗炎症薬が投与されていたし(甲128,137,138),複合性局所疼痛症候群(反射性交感神経性ジストロフィーを含む。)も,神経の炎症の痛みである(甲129,130)。さらに,神経損傷による炎症の機序は,組織損傷の場合と全く同じである(甲9,129,
130)。そして,これらの疾患において,炎症を原因として神経細胞の感作を生じ(甲128~130,134),神経障害性疼痛となる。
l
さらに,明確に神経の病変や疾患が見出されない場合でも,痛覚過敏や接触異痛といった,神経細胞の感作で生ずる症状により,神経障害性疼痛と診断され,先発医薬品や被告医薬品が投与される(原告第3準備書面第5,原告第7準備書面第2の2,3及び5,
第3)。そのため,神経障害性疼痛を神経の病変,疾患,損傷が明確な態様に限定することは誤りである。

例えば,有痛性糖尿病性神経障害は神経損傷が原因とされていないし(甲2,81,87,131,132),椎間板ヘルニアや複合性局所疼痛症候群は,神経損傷のみならず,組織損傷で神経障害性疼痛を生ずる疾患である(甲23,128,129,134,142)。このように,神経損傷から痛みを生じていることが明らかでない場
合や,そもそも神経の病変,疾患の有無が不明な場合にも,神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛を基準として被告医薬品が用いられる(甲6,93,125~127,135,142)。
m
上記aないしlの理由により,被告医薬品の効能,効果である神経障害性疼痛は,本件発明3の炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みに該当する。
(イ)神経障害性疼痛を効能,効果とする被告医薬品が,炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みを用途とすること
a
上記第2の1(1)ア(ア)kで述べたとおり,炎症や手術で神経細胞の感作を生ずるし,炎症により神経の病変や疾患を生じ,手術により神経を損傷し,神経の病変や疾患,損傷により,神経細胞の感作を生ずる。さらに,神経の病変や疾患,神経損傷により,組織の炎症や神経
の炎症を生じ,炎症により神経細胞の感作を生ずる。そして,これらは全て神経障害性疼痛を生ずる。そのため,神経障害性疼痛は,侵害受容性疼痛との混合性疼痛とされている(原告第5準備書面第2のの2(2),原告第10準備書面第6)。例えば,腰痛,変形性関節症,リウマチ性関節炎,癌性疼痛,術後
遷延性疼痛は,いずれも侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛との混合性疼痛とされている(甲92~98)。
b
痛みは患者の主観的心理状態であるから,混合性疼痛において,侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛とは,同一の患者において生ずる一つの痛みであり,
両者を区別できない
(原告第5準備書面
第2の2(1)


原告第8準備書面第4の1(2)及び(3)。甲77,92,93)。c
先発医薬品は,適応症に用いられることにより,かかる混合性疼痛を生ずる患者の痛みの処置に用いられて効果を奏しており(原告第7準備書面第3。甲126。なお,本件発明3の痛みが侵害受容性

疼痛であると判断された場合に,本件化合物がかかる痛みに効果を奏することは,本件明細書等の実施例から明らかである。),被告医薬品も,同じ効能,効果を有するジェネリックとして,混合性疼痛を生じた患者の痛みの処置に用いられる
(原告第5準備書面
第2の2(3)及び3,原告第8準備書面第4の1(2)及び(3))。d
上記aないしcの理由により,被告医薬品の用途は,神経障害性疼痛と侵害受容性疼痛との混合性疼痛の処置を含むものである(原告第
5準備書面第2)。
e
したがって,本件発明3の技術的範囲が侵害受容性疼痛に限られるか否かにかかわらず,また,侵害受容性疼痛の定義とは無関係に,神経障害性疼痛を効能,効果とする被告医薬品の処置用途は,本件発明3の炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みに該当す

る。
(ウ)線維筋痛症が炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みであること
a
上記第2の1(1)ア(ア)の理由により,
本件発明3の技術的範囲には,
線維筋痛症に伴って生ずるか否かにかかわらず,炎症や手術によって
生ずる痛覚過敏や接触異痛の全てが含まれる。
b
被告医薬品は,関節炎,胃炎,アレルギー炎症,リウマチ等の炎症性疾患から生ずる線維筋痛症に伴う疼痛を用途とする(原告第5準備書面第2の2(2),原告第6準備書面第3の4,原告第7準備
書面第3の2,原告第10準備書面第8の3。甲7,22)。

また,線維筋痛症は腱付着部炎を生ずる疾患であり,腱付着部炎を生じた線維筋痛症に伴う疼痛は,被告医薬品の保険診療上の適応症である(原告第7準備書面第3の2,原告第8準備書面第5の4。
甲127,140)。
c
同様に,被告医薬品は,手術により生ずる線維筋痛症に伴う疼痛を用途とする
(原告第5準備書面
第2の2(2)原告第6準備書面

第3の4。甲7,22)。
d
上記b及びcで挙げた線維筋痛症に伴う疼痛において,炎症や手術を原因として神経細胞の感作を生じ,
痛覚過敏や接触異痛を生ずる
(原
告第3準備書面第2)。

e
上記aないしdの理由により,被告医薬品の効能,効果である線維筋痛症に伴う疼痛は,本件発明3の炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みに該当する。
(エ)線維筋痛症に伴う疼痛を効能,効果とする被告医薬品が,炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みを用途とすること
a
上記第2の1(1)ア(ウ)b及びcで述べたとおり,線維筋痛症は,炎症性疾患や手術により生じ,更に炎症を生ずる疾患であるので,線維筋痛症に伴う疼痛は,侵害受容性疼痛との混合性疼痛である。

b
そして,上記第2の1(1)ア(イ)bないしdの理由により,被告医薬品の用途は,線維筋痛症に伴う疼痛と侵害受容性疼痛との混合性疼痛の処置を含むものである。このことは,線維筋痛症に伴う疼痛と

の効能,効果の記載からも明らかである。
c
したがって,本件発明3の技術的範囲が侵害受容性疼痛に限られるか否かにかかわらず,また,侵害受容性疼痛の定義とは無関係に,線維筋痛症に伴う疼痛を効能,効果とする被告医薬品の処置用途は,本件発明3の炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みに

該当する。
(オ)神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛が訂正により除外されていないこと
a
禁反言の法理(無効審判における訂正の経緯に基づき,発明の技術的範囲を限定するような他の法理を含む。)は,原告が無効審判と本件訴訟とで矛盾挙動を取ったような場合に生ずる可能性があるが,原告は,訂正の前後にかかわらず,本件発明3の訂正の根拠となったカラゲニン試験や術後疼痛試験により,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛に対する本件化合物の効果を確認できることを一貫して主張しており,矛盾挙動はない(甲18,19)。実際に,参加人1名は,訂正後の本件発明3に侵害受容性疼痛以外の痛みが含まれていると主
張し,原告もこれを争った(原告第5準備書面第4の1及び2。
甲19,20)。また,訂正後になされた審決の判断により,禁反言の法理が成立する余地はない(原告第5準備書面第4の1)。さ
らに,審判請求人が,本件発明3の技術的範囲に神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛が含まれるかどうかを争わなかったことにより,
禁反言の法理が成立することもない。
b
本件訂正前になされた審決の予告は,カラゲニン試験や術後疼痛試験により本件化合物の効果が確かめられた,炎症や手術を原因とする痛み以外の部分について,本件化合物の効果を確認することができないと述べているにすぎず,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛の
うち,カラゲニン試験や術後疼痛試験の痛みに含まれる部分についてまで本件化合物の効果を確認することができないとは判断していないし,カラゲニン試験や術後疼痛試験の痛みが,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛と重複しないという判断もしていない(原告第5準備書面第4の2。甲21)。したがって,審決の予告の判断に基

づき,禁反言の法理が成立する余地はない。
c
さらに,本件発明4に関し,原告は本件訂正において,訂正前発明4に係る請求項から神経障害による痛み及び線維筋痛症との
記載を削除したが,
上記第1の1(1)ウで述べたとおり,
訂正前発明4

に係る請求項の痛みは相互に重複するものであるから,かかる訂正により,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛が本件発明4の技術的範囲から除外されることはない(原告第5準備書面第4の3,原
告第8準備書面第6の1)。
d
また,上記cの事情は,本件発明3とは関係がない(原告第5準備書面第4の3)。

e
上記aないしdの理由により,本件発明3の技術的範囲から,神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛が除外されることはない。

f
なお,
上記第2の1(1)ア(イ)及び(エ)に係る混合性疼痛の主張は,本
件発明3の技術的範囲が侵害受容性疼痛に限られるか否かにかかわらず成り立つ主張であるから,訂正の経緯にかかわらず,被告医薬品の用途は,本件発明3の炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みに該当する。イ
本件発明4について(本件発明4Bの充足性)
(ア)神経障害性疼痛が炎症性疼痛,術後疼痛に該当すること
a
本件発明4の処置対象となる痛みは,炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みであ
る。
b
上記第2の1(1)ア(ア)の理由により,被告医薬品の効能,効果である神経障害性疼痛は,本件発明4の炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みに該当する。

c
本件発明4で特定された炎症性疼痛や術後疼痛は,神経障害性疼痛を含む混合性疼痛として定義されている(原告第5準備書面第2の2(2)。甲95,96,98等)。これも,被告医薬品の用途が本件発明4の痛みに該当することを裏付ける。

(イ)神経障害性疼痛を効能,効果とする被告医薬品が,炎症性疼痛,術後疼痛を用途とすること
上記第2の1(1)ア(イ)aないしeの理由により,本件発明4の技術的範囲が侵害受容性疼痛に限られるか否かにかかわらず,神経障害性疼痛を効能,効果とする被告医薬品の処置用途は,本件発明4の炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みに該当する。
(ウ)線維筋痛症が炎症性疼痛,術後疼痛に該当すること
上記第2の1(1)ア(ウ)aないしeの理由により,被告医薬品の効能,効果である線維筋痛症に伴う疼痛は,本件発明4の炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みに該当する。
(エ)線維筋痛症に伴う疼痛を効能,
効果とする被告医薬品が,
炎症性疼痛,
術後疼痛を用途とすること
上記第2の1(1)ア(エ)aないしcの理由により,本件発明4の技術的範囲が侵害受容性疼痛に限られるか否かにかかわらず,線維筋痛症に伴う疼痛を効能,効果とする被告医薬品の処置用途は,本件発明4の炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みに該当する。(オ)神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛が訂正により除外されていないこと
上記第2の1(1)ア(オ)aないしc,e及びfの理由により,本件発明
4の技術的範囲から,神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛が除外されることはない。
(2)均等侵害の成否(争点3-2)

被告医薬品は本件発明3の構成と均等であること
(ア)第1要件に関し,本件発明3は,本件化合物を慢性疼痛である炎症を原因とする痛み,手術を原因とする痛みの処置に用いることを本質的部分としており,処置対象となる痛みが侵害受容性疼痛であるか,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛であるかは,本質的部分ではない(原告第5準備書面第5の1及び2,原告第8準備書面第4の3)。
本件優先日当時,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛に対しては有効な治療薬がなく,本件化合物を慢性疼痛の処置に用いることも知られ
ていなかったから(訴状,原告第5準備書面第1,原告第7準備書面第1。甲123,125),技術常識を参酌して,本件発明3の本質的部分を侵害受容性疼痛に限定すべき事情もない。
(イ)第2要件に関し,本件発明3は,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛の処置に用いても,
効果を奏する
(原告第5準備書面
第5の2


原告第8準備書面第4の3。甲5)。
(ウ)第3要件に関し,本件化合物を神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛の処置に用いることは,被告医薬品の実施時において容易想到である(原告第5準備書面第5の2。甲5)。
(エ)第4要件に関し,本件優先日当時,本件化合物を痛みの処置に用いることは全く知られておらず,本件優先日当時の公知技術から容易に推考できない(原告第5準備書面第5の2)。
(オ)第5要件に関し,上記第2の1(1)ア(オ)aないしfの理由により,本件発明3の技術的範囲から,神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛が除外されることはない(原告第5準備書面第5の2)。

(カ)上記(ア)ないし(オ)の理由により,仮に本件発明3の炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みが侵害受容性疼痛であると解釈された場合であっても,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛のうち,炎症や手術を原因として生ずる痛みについては,本件発明3の均等の範囲に含まれる。


被告医薬品は本件発明4の構成と均等であること
上記第2の1(2)ア(ア)ないし(オ)の理由により,
仮に本件発明4の
炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みが侵害受容性疼痛であると解釈された場合であっても,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛における痛覚過敏や接触異痛のうち,炎症性疼痛や術後疼痛については,本件発明4の均等の範囲に含まれる。
2
本件発明3及び4に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきものであるか(争点4)
(1)無効理由1(実施可能要件違反の有無)
(争点4-1)

本件発明3及び4は,
既に無効審判の有効審決が確定しており
(甲9)

同一の事実及び証拠に基づき再び無効を争うことは許されない(訴状)。

また,原告は,本件発明3及び4の痛みが,カラゲニン試験や術後疼痛試験において本件化合物の効果が確かめられた,炎症や手術により生じた痛覚過敏や接触異痛であり,これが被告医薬品の処置用途に含まれると主張している(訴状,原告第5準備書面第2,原告第7準備書面第3等)。かかる実施例で確かめられた痛みについて,当業者が本件化合物の
有用性を理解できることは当然である(原告第6準備書面第2)。ウ
さらに,
上記第1の1(1)アないしチにおいて述べたとおり,
本件発明3
及び4の痛みは,
神経障害性疼痛や線維筋痛症を含む慢性疼痛に共通する,
神経細胞の感作により生じた痛覚過敏や接触異痛の痛みであり,
当業者は,

本件明細書等の記載から,本件化合物が慢性疼痛に有用であることを十分に理解する。したがって,本件発明3及び4の技術的範囲に神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛が含まれるとしても,本件発明3及び4の痛みに対する本件化合物の有用性が理解できることは明らかである。
(2)無効理由2(サポート要件違反の有無)
(争点4-2)

上記第2の2(1)アないしウの理由により,
当業者は,
本件化合物が本件発
明3及び4の痛みに効果を奏することを十分に理解する。
(3)無効理由3(訂正要件違反の有無)
(争点4-3)
本件発明3及び4の痛みは,
本件明細書等に記載された範囲のものである。
(4)無効理由4(明確性要件違反の有無)
(争点4-4)
本件発明3及び4の痛みは,カラゲニン試験や術後疼痛試験で確かめられた,炎症や手術により生じた痛覚過敏や接触異痛の痛みであるから,その外
延は明確である。
第3
1
延長登録の無効理由の有無(争点5)
延長登録の無効理由1(旧特許法125条の2第1項1号に定める事由の有無)(争点5-1)
(1)上記第2の1(1)及び(2)において述べたとおり,本件発明3及び4は,被
告医薬品をその技術的範囲に含むものである。処分対象物は,被告医薬品と効能,効果が同一であるから,被告医薬品と同様の理由により,処分対象物は,本件発明3及び4の技術的範囲に含まれる。
(2)また,被告は,脊髄損傷後疼痛,脳卒中後疼痛,多発性硬化症等の中枢性神経障害性疼痛を挙げて,これらが炎症や手術を原因とするものでないと主
張するが,
いずれも炎症又は手術を原因とする神経細胞の感作の痛みであり,本件発明3及び4の技術的範囲に含まれる
(原告第8準備書面
第6の2

原告第10準備書面第9の1)。
(3)したがって,本件特許権の存続期間の延長登録は,本件発明3及び4の実施に政令処分を受けることが必要であった場合の出願に対してされたもので
あり,旧特許法125条の2第1項1号の延長登録無効理由はない(原告第6準備書面第4)。
2
延長登録の無効理由2(旧特許法125条の2第1項3号に定める事由の有無)(争点5-2)

(1)線維筋痛症に係る海外臨床試験の結果は,国内臨床試験の設計に不可欠であり,かつ製造販売承認の審査に直接利用されていることから,製造販売承認に必要不可欠であり,密接に関連する(原告第9準備書面第1の1,原告第8準備書面第6の3,原告第10準備書面第9の2(1)。甲102の22)。
(2)加えて,線維筋痛症についての製造販売承認は,新効能医薬品としてなされたものであり,既に承認された帯状疱疹後神経痛や,末梢性神経障害性疼痛(帯状疱疹後神経痛)の臨床試験を利用して審査がなされることから(甲102の19,22),これらの試験も,線維筋痛症についての製造販売承認に必要不可欠かつ密接に関連する(原告第9準備書面第1の2,原告第10準備書面第9の2(2))。

(3)したがって,線維筋痛症に伴う疼痛に係る延長登録に関し,延長された期間は本件特許に係る発明の実施をすることができなかった期間を超えるものではなく,旧特許法125条の2第1項3号の延長登録無効理由はない。
(別紙)
被告の主張

第1
訂正前発明1及び2

1
訂正前発明1及び2に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきものであるか(争点1)

(1)無効理由1(実施可能要件違反の有無)(争点1-1)

本件特許に係る発明は用途発明である。
本件明細書等(甲2)に,本発明の化合物は…中枢神経系疾患に対する抗発作療法に有用な既知の薬物である(2頁8~10行目)と記載さ
れているとおり,
本件特許に係る発明は新規な医薬用物質を開発したもの
ではなく,あくまでも既存の医薬用化合物について,新たな特定の用途を発見したことを発明とするものである。したがって,特定の用途を発見し効果を確認したといえるだけの内容が明細書に記載されていることは不可欠であり,
単に明細書中に対象になり得る可能性のある疾病名を羅列し

ても,特許権による保護を受けるものではない。
原告は,特許権者の投資保護の点から,わずかな記載要件の疑義で発明を無効とすべきでない(原告第7準備書面3頁)と主張するが,本件で問題となっているのは,
特許権による保護を受けるに足りる新たな用途が確
認されているか否かであって,
わずかな記載要件の疑義などというもので

はない。

痛みの分類
本件無効審判の審決の予告(甲21)の29~30頁に記載のとおり,本件特許出願当時,痛みは,その原因によって,侵害受容性疼痛,神経障
害性疼痛及び心因性疼痛の3つに分類され,
原因や病態に著しい差異があ
るため(乙1〔652頁〕),その分類に従って治療法が異なると考えられていた。
侵害受容性疼痛とは,
侵害受容器の活性化によって発生する痛み
(甲
81〔抄訳1頁〕)をいう。体性痛,癌性疼痛,術後疼痛等が含まれ,炎症性疼痛も侵害受容性疼痛の一つとされる(甲80〔200頁〕)。侵害受容器は侵害刺激によって活性化されるが,侵害刺激には,刺す,切る等の機械的,熱的刺激のみでなく,組織が障害された結果生じてくる化学物質による刺激も含まれる(甲84〔195頁〕)。
神経障害性疼痛とは,
末梢又は中枢の痛みの経路に対する損傷に起因する痛み(甲81〔抄訳1頁〕)をいう。
心因性疼痛は,

神経系の解剖学的分布と一致しない痛み。しばしば,十分な検索を行っても,痛みを説明する器質的障害を認めない

(甲81〔抄訳1頁〕)と説明され,筋力低下,痛覚過敏,自律神経症状を伴うことがある(甲84〔199~200頁〕)とされる。日本医師会雑誌104巻1号に掲載された痛みのメカニズム(乙9
〔33頁左欄〕)に,痛みのメカニズムを考えるときは,痛みをその原因によって侵害受容性のもの,神経因性のものおよび心因性のものに区別すべきである。というのは,この3つのものは痛みの機序が異なるばかりでなく,その治療法も異なるからである。と記載されているように,侵害受容性,神経障害性,心因性の痛みは,それぞれ機序と治療法が異なる
ことが当時の技術常識であった。
同様に,
甲90でも,
発生機序ごとに
侵害受容性疼痛(急性疼痛),末梢神経性疼痛(急性疼痛),除神経性疼痛(慢性疼痛)の3つに痛みを分類し(10頁表1),これら分類が必要とされる理由について,
治療法の選択に際して基本となると説明
されている(10頁左欄第3段落1~3行目)。

このように,侵害受容性疼痛,神経障害性疼痛及び心因性疼痛は,その原因や作用機序によって区別され,
それぞれ治療法が異なることが本件優
先日当時の技術常識であり,
本件明細書等に記載されている侵害受容性疼
痛に対する各試験の結果をもって,
神経障害性疼痛や心因性疼痛にも同様
の効果があるとは考えられていなかった。

本件明細書等に記載の動物実験
(ア)本件明細書等には,ラットホルマリン足蹠試験(5~6頁),カラゲニン誘発痛覚過敏試験(6頁)並びにラット後肢足蹠の皮膚,筋膜及び筋肉を切開することによって作成される術後疼痛モデル(6~7頁)において,本件化合物を使用した結果が開示されている。
ホルマリンを足蹠に注入したときの痛みは,
初期相と後期相を示すと

されているが,
前者はホルマリンそのものが痛覚受容器を刺激すること
による痛み,後者は二次的に起こる炎症性の痛みであるとされており(乙2〔18頁〕,乙6〔106頁〕),いずれも侵害受容性疼痛に分類される。本件明細書等のラットホルマリン足蹠試験において,痛覚過敏に対する試験結果は何ら示されていない。

カラゲニンは,ホルマリン同様に炎症を生じさせる薬物であり,カラゲニンをラットの足蹠皮下に投与する動物モデルは,
急性炎症モデルに
分類されている(甲89〔130頁8.1及び132頁8.1.2〕)。カラゲニン試験が炎症性疼痛に関する試験であることは,
本件明細書等
6頁31行目でも
炎症性疼痛の処置に有効
であると明記されている。

術後疼痛試験は,組織を損傷して痛みを生じさせる試験である。本件明細書等ではラットの後肢足蹠面の皮膚,
筋膜及び筋肉を切開している。
なお,本件明細書等8頁の術後疼痛試験において,慢性疼痛に効果の不十分なことのあるモルヒネと比較して本件化合物の効果が確認されているが,これは,本件明細書等8頁4行目に記載のとおり,侵害受容応答の遮断を見たものであって,神経細胞の感作による痛覚過敏や接触異痛に効果を奏することを示すものではない。また,実際の侵害受容応答遮断効果についても,
モルヒネを含むオピオイドは作用時間が短
く,3から4時間おきの繰り返し投与を必要とする(甲16〔1360頁最下段~1361頁4行目〕)から,3日間の効果と対比できるものではない。
(イ)このように,本件明細書等に記載の各試験は,いずれも炎症や組織損傷によって侵害受容器が活性化される,
侵害受容性疼痛に関する動物モ
デル実験である。
本件明細書等に記載の各試験が神経障害性疼痛に関す
るものでないことは,
本件特許の専用実施権者であるファイザーの研究
者らが,これらのモデル(被告注:ホルマリンテストの第2相,カラゲニン誘発及び外科手術後疼痛モデル)は神経障害性疼痛モデルとしては位置づけられていない(乙4
〔57頁右欄〕と明らかにしている。

そして,本件特許出願当時,侵害受容性疼痛と,神経障害性疼痛や心因性疼痛がその原因や治療法の点で異なることが技術常識であったから,本件明細書等記載の試験結果を見た当業者が,本件化合物が神経障
害性疼痛や心因性疼痛に対して効果があると理解することはできない。(ウ)本件明細書等6頁にはベネットモデルやチャングモデルへの言及があるが,単にモデルとして紹介されているにすぎない。何ら実験は行われていないし,具体的な実験方法すら記載されていないのに,単に実験モデル名の記載のみから当業者が追試できるものではない。また,
侵害受容性疼痛モデルの結果から,
機序の異なるベネットモデルやチャ
ングモデルによる試験の結果を想定できるというような技術常識もない。
仮に,
当業者が新たに本件明細書等で実施されていないこれらモデル
によって特定の疼痛に対する本件化合物の効果を確認したのであれば,
それは,
本件特許に係る発明とは別の新たな用途発明が成立し得るもの
であって,そもそも追試ではない。

小括
以上のように,本件明細書等には,侵害受容性疼痛の特定の痛みに対す
る試験結果のみが示されており,
痛覚過敏又は接触異痛の痛み
(構成要
件1B)や神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛み構成要件2B)(
に対する本件化合物の試験結果は全く示されていない。
当然,本件化合物が痛み
(構成要件1B´)全般に対して効果を有する
との記載もない。
したがって,本件明細書等の記載は,訂正前発明1及び2を実施することができる程度のものとはいえず,実施可能要件を満たさないから,本件審決(甲9)が正しく判断したとおり,訂正前発明1及び2に係る特許は
無効にされるべきものである。

原告の主張について
原告は,審決取消理由と題して,侵害受容性疼痛と神経障害性疼痛や線維筋痛症との分類を否定するべく,以下のような主張をしているが,いず
れも上記無効事由を否定するものではない。
(ア)本件明細書等において,
神経障害性疼痛や線維筋痛症が侵害受容性疼
痛と並記されているとの主張
本件明細書等には,単に神経障害性疼痛や線維筋痛症や痛覚過敏や接触異痛に関する一般的な記載があるのみであり,本件化合物が
それらの痛みに効果があることを示すような記載はない。
本件明細書等
には炎症や手術という侵害受容性疼痛に関する試験の記載しかなく,ま
た,本件優先日当時,侵害受容性疼痛に関する試験の記載しかない本件明細書等から,
神経障害性疼痛や線維筋痛症に対しても効果を有すると
当業者が理解できるような技術常識もないから,
上記主張は成り立たな

い。
(イ)本件明細書等のホルマリン試験,
カラゲニン試験及び術後疼痛試験で
神経障害性疼痛や線維筋痛症の痛みに対する効果が確認できるとの主張
これらの試験はいずれも侵害受容性疼痛に関する試験であり,
神経障
害性疼痛や線維筋痛症に対する効果を確認できる試験ではない。
この点は,本件特許出願後の平成14年に公表された,日本ペイクリニック学会での学術講演
神経因性疼痛の分子構造
(乙10
〔表1〕

においても,3種類の痛みに応じて,対応する動物モデルが分類されているところである。
ホルマリン試験が生理的な痛みまたは炎症性疼痛に
分類されていることからも明らかなとおり,
本件明細書等に記載のいず

れの試験も神経障害性疼痛には分類されていない。また,神経障害性疼痛について,従来から坐骨神経結紮モデルが頻用されてきたことが記載されている(乙10〔51頁〕)。
次に,
ホルマリン試験が中枢性感作を引き起こすことが本件優先日当
時に技術常識であったと原告はいうが,そのような技術常識はない。原
告が根拠とする甲46の下線が引かれた箇所を見てもそのような理解はできない。そして,甲45,47及び48では,示唆するなど,推論や仮説であることが示されているにすぎない。
仮に侵害刺激によっ
て感作が生じるとしても,乙12に記載のとおり,侵害受容器の感作と神経障害性疼痛の機序は異なる(126頁右欄18行目以下)ことが,
本件優先日当時の技術常識であったのだから,
ホルマリン試験の結果か
ら,神経障害性疼痛治療効果を確認できるはずもない。本件審決が仮説又は推論の域にとどまると認定したのは当然のことであり,原告が主張するような技術常識は存在しない。
(ウ)本件明細書等の術後疼痛試験でも,
末梢試験や神経終末が損傷するか

ら,神経損傷の有無により術後疼痛を分類できないとの主張
乙26(78頁)のC.求心路遮断疼痛の動物モデルによると,
手術によって末梢神経切断されたラットにおいて神経障害性疼痛現象が現れるのは,末梢神経切断から1週間目ごろからであり(同頁第3段落),ラットにおける神経障害性疼痛行動と侵害受容性疼痛行動は,明確に分類できる。
ここで,本件明細書等には創傷は24時間後には良好に治癒した
と記載されているが,甲15の1に記載の,ラット足跡切開モデル(495頁のFig.1)の切開から治癒に至るまでの写真において,切開傷が治癒するのは5日後であることからすると,
24時間後には良好に治癒したとの本件明細書等の記載は,治癒を示すものではなく,この記
載をもって術後疼痛試験が完全治癒後に見られる慢性疼痛の試験であると理解することはできない。
したがって,
本件明細書等に記載の創傷後数時間以内のラットの行動
は侵害受容器興奮に対する行動であり,
神経の障害という侵害受容器の
興奮を経ない場合の効果まで確認するものではない。

(エ)ケタミンが中枢性感作を阻害し,
疼痛の原因にかかわらず痛覚過敏及
び接触異痛に奏効していたから,当業者は,中枢性感作を阻害することができる物質であれば,
痛覚過敏や接触異痛に効果があることを理解し
たとの主張
ケタミンの神経障害性疼痛に対する鎮痛効果は,
プラセボに対して認

められず,神経障害性疼痛に対して推奨できる根拠がないとされている(乙11〔84頁〕)。また,甲74の55頁冒頭にも,拮抗薬(ケタミン,デキストロメトルファン,メマンチン)の慢性疼痛疾患に対するRCT(被告注:無作為比較試験)は,プラセボと比較して有意な鎮痛効果を示した試験が少なく,推奨度は低いと記載されている。
したがって,ケタミンが神経障害性疼痛に効果があるとはいえない。しかも,
本件化合物とケタミンは全く異なる化学構造式を有しており,
ケタミンの効果が本件化合物でも認められると予想することはできない。この点,原告は否定する文献の記載がないと主張するが,否定する文献がないことは,
およそ肯定する技術常識の存在を意味するものでは
ない。
(オ)痛覚過敏や接触異痛が末梢や中枢の神経細胞の感作によって生じることが技術常識であったとの主張
原告が根拠として引用する甲77の原文はsuggestとしているにすぎない。原告提出の訳文は,これを示唆するではなく示しているとする誤りを犯している。甲77は可能性に言及した論文にすぎな
いのであって技術常識の根拠にはなり得ない。また,原告が引用する甲86も,後角への感作を生じさせうると可能性を述べているにすぎない。したがって,本件優先日当時,痛覚過敏や接触異痛が末梢や中枢の神経細胞の感作によって生じることが技術常識であったとはいえない。

(カ)心因性疼痛である線維筋痛症の病因が炎症や手術により発症することは技術常識であるとの主張
原告が根拠として引用する乙8の当該記載は,正確には

線維筋痛症は,外傷,手術,又は医学的疾患の後に生ずることがあることが示唆されているが,その関係は因果関係を証明するものではない。

というも
のである。せいぜい先後関係が示唆されているにすぎず,それらのきっかけが病因であるとも記載されていないから,
かかる記載をもって心因
性疼痛の病因が不明であるとの技術常識は何ら否定されていない。本件明細書等においても,原因不明の痛みである突発性疼痛(3
頁47行目)と,心因性疼痛である突発性疼痛の原因が不明であること
が明記されている。
また,
メルクマニュアル第16版線維筋痛

の項(乙24〔1320頁〕)においても,線維組織炎あるいは線維筋肉炎という線維筋痛症の別称について,
線維筋痛症が炎症由来の疾患で
はないことが明記されており,
線維筋痛症が炎症や手術により発症する
という技術常識があったとはいえない。
原告は乙17の一部の記載も根拠として引用しているが,
あくまでも
線維筋痛症が心因性であることを前提として,
継続するうちに二次的な
組織変化が生じる可能性を指摘しているにすぎず,
線維筋痛症の原因で
あるとはいえない。
(キ)原因に関わらず痛覚過敏は1つしかないとの主張
本件審決(甲9)が証拠を引用した上で,

神経損傷による痛覚過敏の痛みに対する作用についても,ホルマリン足蹠試験の後期相において確認されたと同様の結果が得られるということはできない。

(19頁26~33行目)と正しく判断しているとおり,本件優先日当時,痛覚過敏には,少なくとも,ホルマリン第2相によるものと,神経損傷によるものがあるというのが技術常識であった。

この点は,
原告提出の専門家意見書
(甲67)
が引用する甲41でも,
一人の患者の中に異なる型の痛覚過敏が生じうる(differenttypesofhyperalgesiacancoexistinanindividualpatient)(588頁右欄)として,痛覚過敏が1つではないと明記している。
なお,
原告は甲41の588頁右欄の記載は痛覚過敏と接触異痛が同

時に生じ得ることを示すものにすぎないと主張しているが,
甲41にお
いては,
単一の感覚異常が必ずしも他の感覚機能障害と関連するわけではないことが明らかとなった(588頁)
と明確に記載されており,
痛覚過敏と接触異痛が同時に生じ得ると理解する余地はない。そもそも,甲41では接触異痛については何ら言及されていない。

ヒト患者において神経障害性疼痛と侵害受容性疼痛の痛覚過敏の症状/徴候に明確な差が存在することは,
乙27の41頁表4にも明記さ
れている。
したがって,痛覚過敏が一つしかないという技術常識は存在しない。(ク)当業者が症状に着目して利便性の良い動物モデルを用いていたとの主張
原告は,乙10において,髄腔内へのプロスタグランジンの投与によって,
痛覚過敏や接触異痛を生じさせて簡便に薬剤を評価できると記載
されているというが,乙10の55頁には,プロスタグランジン髄腔内投与モデルでの結果が神経因性疼痛にそのまま当てはまるわけではなく,更なる検証が必要であることが明記されており,プロスタグランジ
ンの髄腔内投与モデルが神経結紮モデルと同じ機序であるとか,
神経結
紮モデルと同様の試験結果を示すということは記載されていない。したがって,
利便性によって動物モデルを適宜当業者が選択していた
というような事実はない。
(ケ)ホルマリン試験の後期相が中枢性感作を反映していることは技術常
識であったとの主張
原告が指摘する証拠は,いずれも示唆にとどまるなど,あくまで
仮説に過ぎない。乙12の126頁に記載されているとおり,侵害受容器の感作と神経障害性疼痛の機序は異なることが当時の技術常識であり,
侵害受容性疼痛に関するホルマリン試験の第2相が中枢性感作を反
映したものであるとの技術常識はなかった。
(コ)神経損傷を伴わない手術は考え難いから,
本件明細書等の術後疼痛試
験と同様に,
手術を原因として神経細胞の感作により痛覚過敏や接触異
痛が生じるとの主張
ペインクリニック-症例から学ぶ痛みの臨床-(乙26)による

と,求心路遮断疼痛は,知覚神経障害から数週間~数ヵ月間の期間を経過してから発症するのであり(77頁15行目),本件明細書等記載のような受傷直後に発症する痛みとは明確に区別されている。
また,
原告は甲93として,
神経障害性疼痛薬物療法ガイドライン
の40頁を提出した上で主張しているが,
原告が提出していない同書の
41頁(乙27)の表4には,神経障害性疼痛と侵害受容性疼痛の痛覚過敏の症状/徴候に明確な差が存在することが示されている。
(サ)有痛性糖尿病性神経障害が神経細胞の感作により生ずるとの主張乙12には,
侵害受容器の感作と神経障害性疼痛の機序が異なること
が当時の技術常識であることが示されており(126頁右欄),原告の主張は根拠がない。なお,原告は,乙12の糖尿病ラットの神経も同じく自発的に放電することが知られているとの記載をもって上記のよ
うに主張するが,原告引用箇所は,退行性変性をしている求心性繊維(中略)自発痛には関与しているかもしれないが,
(127頁左欄上)
と述べているにすぎず,自発的放電が自発痛に関与するとはどこにも記載されていない。
さらに,甲87では,有痛性糖尿病性神経障害のメカニズムに関する
様々な仮説を掲げた上で
糖尿病神経障害の疼痛に関する病態生理学的な基礎は確立していないと結論付けている(783頁右欄下から9~8行目)。
したがって,
有痛性糖尿病性神経障害が神経細胞の感作により生ずる
という技術常識は存在しない。
(シ)神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛が炎症等を原因とするとの主張
原告は根拠としていくつか例を挙げているが,
以下のとおりいずれも
誤りである。

a
椎間板ヘルニアについて,甲128に圧迫された組織の炎症や,神経根の炎症を原因として,
末梢や中枢神経細胞の感作を生ずることが
示されているものの,引き起こされうる,寄与し得ると記載
されているにすぎず,炎症のみによって生じるという記載もない。これに対し,甲80の200頁左欄(2)神経性疼痛には,神経性疼痛の代表的疾患とした上で,痛みの発生機序についてこの部分での絞扼や圧迫は簡単に脱髄に陥り,(中略)中枢神経内での生理的痛覚系を異常興奮させて,激しい痛みとして感じられることになると記載されているから,
炎症を原因とする疾患ではないことは明らかである。
むしろ,甲128には,脊柱管において,髄核ヘルニアは神経根及び神経終末の炎症および刺激の原因の強い候補である(1808

頁右欄6~8行目)と記載されており,椎間板ヘルニアが炎症の原因の候補であることが示されているが,
炎症によって椎間板ヘルニアが
生じるものではないことが示されている。
以上のとおり,椎間板ヘルニアが炎症によって生じることは,甲128には記載されていない。

b
複合性局所疼痛症候群(CRPS)について,甲130にはRSDが反射神経の炎症の形態であることを示唆する(suggest)との仮説的な記載があるが,当該記載は,RSDの発現症状の一つとして炎症がみられることを示すにすぎず,
炎症がRSDの原因であること
を示す記載ではない。

この点については,乙25に,CRPSの病因に関する仮説が複数あることが記載された上で,このように,CRPSにみられる変遷の多くは疾病の発生機序の一部というよりも,単なる付帯徴候epiphenomenaである(536頁下から2行目~末行)
と記載されている。
そして,
病因もしくは病態生理学に関して意見の一致が得られていない(537頁5.診断の補助)とも記載されており,病因として複数の仮説があるものの確定していないことが示されている。c
甲129に,神経損傷後,…炎症性メディエーターが合成,放出され,これが感作を生じて痛覚過敏の原因となるとの記載があることを理由に,
原告は神経障害性疼痛が炎症を原因とすると主張してい
る。

しかし,甲129の410頁左欄には,動物モデルとヒト患者の神経障害性疼痛には深刻な差異があること,
NSAIDSは動物モデル
の痛覚過敏を緩和するが,
カウザルギー患者には効果があるようには
見えない(2~8行目)と記載されており,甲129で得られた知見が,
ヒトの神経障害性疼痛治療には当てはまらないことが明記されて

いる。
このように,
炎症を生じさせた動物モデルで炎症を抑制することで
痛覚過敏を緩和させることが可能であっても,
それをヒトに応用でき
ないことは,甲129の著者自ら肯定しているのである。
したがって,
神経障害性疼痛が炎症を原因とするとの原告主張は誤

りである。
(ス)多数の専門家が技術常識を語っているとの主張
これは立証方法に関するものではあるが,
技術常識に関連するのでこ
こで触れておく。
原告は,本技術分野の第一人者で立場のある専門家が,存在しない事
実を述べることなど不可能であると主張する。しかし,原告が提出する各陳述書では,示唆する等の記載があるにすぎない。そもそも,後から集めた特定の専門家の陳述書によって,
優先日当時の技術常識であった
とはいえない。
しかも,甲67が引用する甲41において,異なる型の痛覚過敏が個々の患者に同時に存在し得ること,および単一の感覚異常が必ずしも他の感覚機能障害と関連するわけではないことが明らかとなった。また,機械的疼痛閾値の低下などの1つの症状が,同じ患者においても,異なる神経メカニズムによって媒介され得ることも指摘されている。(588頁右欄36~42行目)とされているとおり,同じ患者の同じ症状であっても,
神経メカニズムが異なる場合があると認識されていたので
あり,症状が同じであれば,その直接の原因も同じであることは当然で
あるというような技術常識があったといえない。
原告は,甲68が引用する甲39は痛覚過敏が末梢神経感作及び中枢性感作の結果生じることを明言しているとし,それらを根拠に専門家の意見が示されているというが,甲39は,末梢組織の損傷に続いて生じる痛覚過敏と明記している。上述のとおり,痛覚過敏には複数
の型が存在するところ,甲39においては,痛覚過敏の種類を末梢組織の損傷に続いて生じると侵害受容性疼痛の場合に限定しており,それ以外の原因による疼痛も同様であるかどうかについての記載はない。その上で,甲39は中枢感作はヒトにおける損傷後痛覚過敏の原因となる可能性がある(293頁Summary下から3~2行目)と単に可
能性が指摘されているだけである。

結論
本件特許に係る発明は公知の医薬用物質について新たな用途を発見・確
認したものであるが,本件明細書等に記載の実際に行われた実験から主張できる用途は侵害受容性疼痛に限定される。にもかかわらず広範な疼痛を
特許請求の範囲に含んでいる点で訂正前発明1及び2に係る特許は実施可能要件に反する。
(2)無効理由2(サポート要件違反の有無)(争点1-2)
上記(1)と同様の理由により,訂正前発明1及び2に係る特許は,サポート要件に違反するから無効にされるべきものである。

2
本件発明1及び2に係る訂正の再抗弁の成否(争点2)
(1)無効理由解消の有無(争点2-1)

無効理由1の解消の有無(争点2-1-1)
本件発明1は,その治療対象を,痛覚過敏又は接触異痛の痛み(一般)として特定し,本件発明2は,その治療対象を,神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みとして特定している。
前述のとおり,本件明細書等に記載された3種の試験結果はいずれも侵害受容性疼痛に分類される痛みに関するものであり,それとは異なる神経障害性疼痛である神経障害による痛覚過敏又は接触異痛の痛みや,心因性疼痛に含まれる線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みに本件化合物が効果を有すると当業者が認識することはできない。この点は,
本件特許出願時の技術常識を踏まえても,同じである。
したがって,本件発明1及び2に係る訂正によっても,実施可能要件違反の無効理由は解消されていない。

無効理由2の解消の有無(争点2-1-2)
上記アと同様の理由により,本件発明1及び2に係る訂正によっても,
サポート要件違反の無効理由は解消されていない。
(2)訂正要件の具備の有無(争点2-2)

本件発明1の訂正要件の具備の有無(争点2-2-1)
本件発明1に係る訂正は,対象となる痛みを,痛覚過敏又は接触異痛の痛みと限定している。ところが,本件明細書等には,侵害受容性疼痛に関する試験結果の記載しかない。本件化合物が神経障害性疼痛である神経障害による痛覚過敏又は接触異痛の痛みや心因性疼痛に含まれる線維筋痛症による痛覚過敏又は接触異痛の痛みに効果があることについては,本件明細書等に記
載されていないし,
本件明細書等の記載から自明な事項であるともいえな
い。この点は,本件特許出願時の技術常識を踏まえても,同じである。したがって,本件発明1に係る訂正は,本件明細書等に記載されていない新規事項を追加するものであり,訂正要件を充足しない(特許法134条の2第9項で準用する126条5項)。

本件発明2の訂正要件の具備の有無(争点2-2-2)
本件発明2に係る訂正は,鎮痛剤の処置対象となる痛みを神経障害又は線維筋痛症による,痛覚過敏又は接触異痛の痛みと限定している。しかし,上記アと同様の理由により,本件発明2に係る訂正は,本件明細書等に記載されていない新規事項を追加するものであるから,訂正要件を充足しない(特許法134条の2第9項で準用する126条5項)。第2
1
本件発明3及び4
被告医薬品が本件発明3及び4の技術的範囲に属するか(争点3)(1)構成要件3B及び4Bの充足性(争点3-1)

構成要件3Bは,
炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み
であり,構成要件4Bは炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みであり,いずれも侵害受容性疼痛を対象とすることが明示されている。そして,本件明細書等3頁45行目以降に,

痛みはとくに炎症性疼痛,神経障害の痛み,癌の痛み,術後疼痛,および原因不明の痛みである特発性疼痛たとえば幻想肢痛が包含される。

と記載されているとおり,神経障害の痛み(神経障害性疼痛),
線維筋痛症(突発性疼痛)と,侵害受容性疼痛である,炎症性疼痛,術後疼痛とは明確に区別されている。
本件審決において,

訂正後の請求項3に『侵害受容性疼痛』に関する規定がなくとも,訂正後の請求項3に係る発明に侵害受容性疼痛以外の概念が含まれる余地はないといえる。

(甲9〔72~73頁〕)と指摘さ
れているとおり,本件発明3及び4は,用途として神経障害性疼痛や心因性疼痛を含むものではない。
これに対して,被告医薬品は,神経障害性疼痛及び線維筋痛症に伴う疼痛を効能とするものであって用途が異なるから,構成要件3B及び4Bを充足しない。

本件明細書等に記載されているホルマリン試験,カラゲニン試験及び術後疼痛試験は,いずれも炎症や組織損傷が生じることによって侵害受容器
が活性化される,侵害受容性疼痛に関する動物モデル実験であり,炎症を契機として神経が傷つくことによって発生する神経障害性疼痛に対する結果を示したものでない。
この点,本件特許権の専用実施権者であるファイザーも,本件明細書等に記載のラットホルマリンテスト及びカラゲニン誘発性痛覚過敏モデル
試験を①く,「②末梢性神経障害性疼痛モデル(乙3〔166頁〕)ではなその他の痛覚過敏モデル」(乙3〔168頁〕)に分類してお

り,両者を明確に区別している。乙4においても同様である(55~57頁)。
これについて原告は,単に神経を直接絞扼するなどして痛みを生じさせ
る動物モデルではないから,痛覚過敏モデルと述べているだけというが,乙4には,神経を直接絞扼しないにもかかわらず,末梢神経障害性疼痛モデルに分類されているSTZ糖尿病モデル(ストレプトゾトシン投与によってインスリン分泌細胞を破壊し高血糖を作り出す動物モデル。乙12〔126頁右欄〕)も記載されている。直接絞扼するか否かでモデ
ルを区別するとの原告の主張は失当である。
そもそも,炎症や手術によって神経の機能異常を生じるのであれば神経障害性の動物モデルに分類されることになるが,そのような分類がなされていないのは,まさに神経機能に影響するとは考えられていないからであって,直接絞扼するか否かは理由にならない。


原告は,
神経障害性疼痛には,
帯状疱疹後神経痛や開胸術後疼痛症候群,
外傷後後遺症,手術後後遺症が含まれるとし,被告医薬品がこれらに用いられた場合,炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みに対して用いられることになると主張している。
しかし,侵害受容性疼痛とは組織損傷による痛みであり,外傷,手術,がん,炎症などが原因となる。一方,神経障害性疼痛とは,神経組織の機能的変化により発生する痛みである。侵害受容性疼痛である炎症疼痛と神経障害性疼痛である神経痛は明確に区別されている。そして,原告が挙げる帯状疱疹後神経痛等は,以下のとおり,炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みではない。
(ア)帯状疱疹後神経症(PHN)は,帯状疱疹の発症後,3~6か月以上経過しても残存する痛みであり(乙5〔123頁中欄〕),炎症性疼痛とは区別されている。この点は,本件特許の専用実施権者であるファイザーも,末梢性神経障害疼痛の代表的な疾患の1つである帯状疱疹後神経痛(乙3〔165頁右欄〕)と説明し,炎症性疼痛とは異なり,解熱鎮痛剤は無効である(乙4〔53頁左欄〕)として,帯状疱疹後神経痛を神経障害性疼痛に分類し,侵害受容性疼痛とは明確に区別している。
さらに,ファイザー運営のサイト中にある乙16には,帯状疱疹後神経痛は,帯状疱疹を発症したときには正常であった神経線維が,ウィルスによって傷つけられてしまうことで発症すると考えられていますと明瞭に記載されている。そして,乙5には,非ステロイド性炎症薬の投与という薬物療法のみでPHNへの移行を減らすという報告はない(124頁中欄)と記載されているから,帯状疱疹後神経痛が炎症を原因としないことは明らかである。なお,帯状疱疹後神経痛が神経線維の
変性疾患であることは,乙13の163頁上段にも記載されている。したがって,帯状疱疹後神経症は神経細胞の破壊によって生じるもので,炎症・手術など侵害受容器の興奮を原因とする痛みではないから,炎症を原因とする痛みや炎症性疼痛による痛覚過敏の痛みに含
まれるものではない。
(イ)甲6の表1には,神経性障害疼痛に分類される疾患として手術後後遺症が記載されているが,それは,手術時の外傷による痛み(侵害受容性疼痛)
ではなく,
神経障害性疼痛である術後遷延する痛みのことである。
このことは,乙13の159頁に,術後慢性痛とは手術創が治癒してからしばらくたった後に現れる痛みであると記載されているとおりであり,術後に神経障害性疼痛が発症するのは,乙26によると,神経障害から
数週間~数カ月の期間経過後である(77頁15行目)。
これに対して,本件明細書等に記載されている術後疼痛モデルによる試験結果は,受傷からせいぜい数時間後の痛みに対する本件化合物の効果しか示していない。このような手術直後の手術創が未治癒な状態で生じる痛みと,手術創が治癒しさらにしばらくたってから現れる手術後後
遺症は明らかに異なる疾患であり,
本件明細書等記載の術後疼痛試験は,
術後遷延性疼痛の効果を示すものではない。
したがって,原告が主張する術後遷延する痛みは,神経障害性由来の手術を原因とする痛み,術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みに該当しない。
(ウ)線維筋痛症は,炎症や手術を原因とする痛みではなく,心因性の疼痛である。このことは,甲88の246頁に,

線維筋痛症は,痛覚中枢の機能的異常により痛みが増幅されて感じられる疾患である。性格,不安,ストレス,不眠などが症状の誘発や増幅に関与している。

と明記されている。
また,
乙17の560頁でも,
線維筋痛症の別名である
結合筋痛症候群(fibromyalgiasyndrome),いわゆる心因性リウマチとして,実際には病理学的な炎症は認められず,むしろ心因的な要素が多いと説明されている。
甲7の101頁には,線維筋痛症の発症の契機としてリストアップされるものに外科的手術が挙げられてはいるが,
ストレスなどと同様,
契機にすぎず,
原因ではない。その上,甲7の84頁では,
FM(被告注:線維筋痛症)の疼痛は,侵害受容性の痛みでなく,病巣が特定されない神経障害性様の中枢性疼痛とされており,侵害受容性疼痛でないことは明らかである。
したがって,線維筋痛症は手術を原因とする痛み,術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みに該当しない。エ
原告は,被告医薬品は混合性疼痛に対して処方され本件発明3及び4の技術的範囲に属すると主張する。
しかし,混合性疼痛に対しては侵害受容性疼痛に有効な薬物と神経障害性疼痛に有効な薬物が併用される。
(ア)例えば,甲92には,プレガバリンが神経障害性疼痛全般に対して第
一選択薬として推奨される(40頁)と記載されるとともに,神経障害性疼痛の要素が少ない腰痛に対するプレガバリンの有効性を示す報告はない(41頁)と記載されている。そして,作用機序の異なる薬物の併用が有効とされており,プレガバリンと,非ステロイド性消炎鎮痛剤との併用について言及されている。プレガバリンはあくまで神経障害
性疼痛に対する効果を期待されて使用されている。
(イ)癌に関連する痛みは,乙13の152頁表4-1に記載されているとおり,非常に多岐にわたり,その原因によって治療方法は異なる。乙14に,癌による直接的な神経障害性疼痛に対して神経障害性疼痛治療薬の有効性が確認されていること,オピオイド鎮痛薬を継続して併用する
と記載されているとおり
(113頁)プレガバリンは癌性疼痛のうち,

神経障害性疼痛の鎮痛を目的として用いられる。
(ウ)上記第1の1(1)オ(サ)で述べたとおり,
糖尿病性神経障害については,
メカニズムの詳細は不明であるが,侵害受容性に相当する炎症・手術を原因とする痛みであるとは考えられていない。また,乙12の126頁右欄に記載のとおり,糖尿病性神経障害は,組織損傷時に見られる現象とは異なる機序を介する疾患であることが,当時の技術常識であった。

被告医薬品は,あくまで神経障害性疼痛の鎮痛を目的として製造販売され,実際にその目的で処方されるから,本件発明3及び4の技術的範囲に属さない。なお,医師が被告医薬品を侵害受容性疼痛の沈痛に処方することはないし,そのような処方は被告が全く想定しないものである。
(2)均等侵害の成否(争点3-2)
均等の第1要件に関し,原告は,本件発明3及び4の本質的部分は,本件化合物を慢性疼痛の処置に用いる点に存し,
対象となる痛みの分類は本質的
部分でないと主張する。
しかし,痛みは,侵害受容性,神経障害性及び心因性のいずれかに分類さ
れ,それぞれ治療法が異なる。その中で,本件発明3及び4は侵害受容性の痛みを対象とする用途発明であり,その本質的部分は,本件化合物を侵害受容性疼痛に用いることにある。
神経障害性疼痛の鎮痛を目的として製造販売
され,実際にその目的で処方される被告医薬品とは本質的に異なり,均等の第1要件を満たさない。

また,
本件明細書等記載の試験で確認されたのはあくまで侵害受容性疼痛に対する効果である。一方,被告医薬品は神経障害性疼痛以外の鎮痛作用を有するとはいえず,均等の第2要件を満たさない。
本件発明3は,
訂正によって炎症または手術を原因とする痛みの処置に限
定され,本件発明4は,訂正によって神経障害による痛みや線維筋痛症を削除しているから,神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛は意識的に除外されており,均等の第5要件も満たさない。
したがって,原告の主張する均等侵害は成り立たない。
2
本件発明3及び4に係る特許は特許無効審判により無効にされるべきものであるか(争点4)
(1)無効理由1
(実施可能要件違反の有無)
(争点4-1)
及び無効理由2
(サ

ポート要件違反の有無)(争点4-2)
本件明細書等3頁45行目以降に,

痛みはとくに炎症性疼痛,神経障害の痛み,癌の痛み,術後疼痛,および原因不明の痛みである特発性疼痛たとえば幻想肢痛が包含される。

と記載されているとおり,神経障害の痛み(神経障害性疼痛)
,線維筋痛症(突発性疼痛)と,炎症性疼痛,術後疼痛とは明確

に区別されている。
本件審決においても,

訂正後の請求項3に『侵害受容性疼痛』に関する規定がなくとも,訂正後の請求項3に係る発明に侵害受容性疼痛以外の概念が含まれる余地はないといえる。(甲9〔72~73頁〕

)と指摘されていると
おり,本件発明3及び4は用途として,神経障害性疼痛や心因性疼痛を含む
ものではない。
それにもかかわらず,原告は,神経障害性疼痛や心因性疼痛についても本件発明3及び4に含まれると主張する。原告の主張を前提とすると,本件発明3及び4に係る特許は,本件明細書等で開示されていない内容を持つことになるから実施可能要件に違反し,また,本件明細書等に本件発明3及び4
の記載がないから,サポート要件に違反する。
(2)無効理由3(訂正要件違反の有無)(争点4-3)
本件発明3及び4に神経障害による痛みや線維筋痛症を含むとす
る原告の主張内容を前提とすれば,本件発明3及び4に係る訂正は,明細書に記載のない新たな事項を追加するものであって,訂正要件に違反する(特
許法134条の2第9項で準用する126条5項)

(3)無効理由4(明確性要件違反の有無)(争点4-4)
構成要件3B及び4Bは,それぞれ炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛み,炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みであるところ,
本件発明3及び4に
神経障害による痛みや線維筋痛症を含むとする原告の主張を前提とすると,構成要件3B及び4Bがいかなる用途を対象とするか,第三者には理解
できず構成要件として不明確となる。
したがって,本件発明3及び4に係る特許は,明確性要件に違反する。第3
1
延長登録の無効理由の有無(争点5)
延長登録の無効理由1(旧特許法125条の2第1項1号に定める事由の有無)(争点5-1)
(1)本件特許は,以下の4種の用途について延長登録を受けている(甲1)。原告は
いずれも本件発明3及び4の実施に該当する
と主張するが,
全て,
訂正前発明についての延長であり,痛みを限定した本件発明3及び4の用途で延長されたものではない。

ア帯状疱疹後神経痛に関する延長登録(出願番号2010-700105~700107)(以下延長登録1という。)

末梢性神経障害性疼痛(帯状疱疹後神経痛を除く。)

に関する延長登録(出願番号2011-700002~700004)(以下延長登録2という。)
ウ線維筋痛症に伴う疼痛に関する延長登録(出願番号2012-700107~700109)(以下延長登録3という。)

神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛(末梢神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛を除く。)

に関する延長登録(出願番号2013-700062~700064)(以下延長登録4という。)

(2)特許権の存続期間延長制度は,
医薬品医療機器等法の処分を受けることが
必要であったために特許発明の実施ができなかった期間の回復を目的とするものであり,
政令で定める処分の対象となった物が延長登録出願に係る特
許発明の実施行為に該当する場合に延長が認められる。そして,用途は処分の対象となった物を特定する重要な要素の一つである。
本件化合物については,
延長登録1~4の上記各用途で特定される範囲で
延長が認められるにすぎないところ,広く痛みを対象としていた訂正前の請求項3は,訂正によって炎症を原因とする痛み,又は手術を原因とする痛みに用途が限定された結果,延長登録1~4の上記各用途が除外されている。同様に,訂正前の請求項4は,訂正により炎症性疼痛による痛覚過敏の痛み,又は術後疼痛による痛覚過敏若しくは接触異痛の痛みに限定
され,請求項にそれらと並列記載されていた神経障害による痛みや線維筋痛症は除外された。この結果,延長登録1~4による延長の根拠となった上記4用途は,訂正後の本件発明3及び4に含まれていない。以下更に敷衍する。
(3)延長登録1の帯状疱疹後神経痛は,
ウイルスによる神経細胞の破壊によっ

て生じるものであり,炎症・手術などの有害刺激による侵害受容器の興奮を原因とする痛みでも,炎症又は手術を原因とする痛みでもない。
(4)延長登録2の末梢性神経障害性疼痛は,侵害受容性に相当する炎症・手術を原因とする痛みではない。この点については,上記第1の1(1)ウ及び第2の1(1)イでも述べたとおり,本件特許権の専用実施権者であるファイザ
ーが本件明細書等に記載のラットホルマリンテスト等と末梢性神経障害性疼痛モデルを明確に区別しており,
末梢性神経障害性疼痛は本件発明3及び
4の用途としてサポートされていない。また,末梢性神経障害性疼痛の一種である糖尿病性末梢神経障害性疼痛が侵害受容性に相当する痛みではないことは,上記第1の1(5)オ(サ)のとおりである。

(5)延長登録3の線維筋痛症に伴う疼痛も,線維筋痛症は心因性疼痛であり,その痛みは炎症や手術を原因とする痛みではない。
(6)延長登録4の神経障害性疼痛,線維筋痛症に伴う疼痛に関して実施された臨床試験は,脊髄損傷に伴う中枢性神経障害性疼痛患者,脳卒中後疼痛患者,並びに多発性硬化症患者に対する試験である(乙18〔5頁下から3行目~6頁〕)。しかし,これらは,以下のとおり,炎症及び手術を原因として生ずるものではない。

脊髄損傷後疼痛
乙19に脊髄損傷にみられる麻痺域の疼痛は,脊髄損傷後に中枢神経内で起こる神経樹状突起の側芽形成,神経伝達物質の生合成の変化などの可塑性変化のため,受傷から数か月ないし半年後ほどで発症し(412頁左欄)と記載されているとおり,脊髄損傷後疼痛は炎症を原因とする痛
みではない。
乙19の表2には,非ステロイド性抗炎症剤(NSAID)が治療薬として挙げられているが,薬物治療(表2)の項で非ステロイド性消炎鎮痛薬は慢性疼痛には理論上は効果がないものの,脊髄損傷者に同時に合併する筋痛や関節炎の改善には有効である(414頁右欄第2段落下

から3行目~末行)と記載されており,非ステロイド性消炎鎮痛薬は脊髄損傷後疼痛自体に対する治療薬とされていない。なお,非ステロイド性消炎鎮痛薬の効果は動物の痛覚過敏に対して確認されているにすぎず(甲1
29),ヒトの神経障害性疼痛患者に対しては確認されていないから,脊髄損傷後疼痛は炎症を原因とする疾患ではないとする乙19の上記記載
に誤りはない。

脳卒中後疼痛
乙20に,
視床痛発症のメカニズムとして脊髄視床路を中心とした感覚路が損傷し,このため視床感覚核の一部が異常な活動亢進状態に陥っているものと理解されるが,そのメカニズムは複雑である(459頁)と記載されているとおり,脳卒中後疼痛(視床痛)は,損傷又は炎症を直接の原因とする疼痛ではない。
原告は乙20の457頁左欄末行を根拠とし
て引用しているが,そこには,脳卒中(出血または梗塞)と,単に脳卒中の症状としての出血が記載されているにすぎない。
そして,乙26でも,視床痛の多くが障害後数週間以上経て発生してくることから,視床の破壊によって発生するのではなく,神経活動の変化に
よって発生していることを示唆すると記載されている(75頁)。さらに,
甲80には,
視床痛の発生機序について,
①病変説,
②興奮説,
③抑制系障害説を挙げた上で,
今日なお実証されていない点が多い
(2
00頁右欄上段)と記載されており,複数の仮説があるものの機序は明らかになっていない旨が明記されている。

原告は,甲91の痛みの求心路が障害された結果,損傷部よりも上位に存在する痛覚伝導路での異常興奮が出現することが原因との記載を以
て,視床痛で中枢性感作が生じていると主張する。
しかしながら,甲80には,痛覚伝導路が異常興奮する原因について,自発的興奮説を含めた様々な説の存在を紹介した上で

これらの説では,障害後一定期間後に,一部の症例にのみ発症する事実を説明するには十分とはいえない。

(201頁右欄~202頁左欄)と記載されている。したがって,視床痛は,炎症,損傷,または侵害刺激に基づく中枢性感作によって生じる疾患ではない。

多発性硬化症
多発性硬化症については,

原因は不明である。免疫学的異常が疑われているが,現在のところ特異的な機構を示す手掛かりはほとんどない。

(乙21〔1431頁〕)と考えられており,炎症による神経細胞感作の結果生じる疾患ではない。

また,乙21には,

ミエリン再生が生じ,神経機能の修復,再生,完全回復が急速に起こりうる。これは多くの末梢神経障害の特徴である節性脱髄後にみられ,多発性硬化症(MS)の再燃,緩解がこのことから説明される

(1430頁)との記載もあり,多発性硬化症が神経線維の障害によるものであることが示されており,
炎症を原因とするものでないこと
は争いようがない。
(7)以上のとおり,延長登録1~4についての処分の根拠となった4種の
用途は,訂正後の本件発明3及び4からはもはや除外されている。除外された上記4種の用途を前提とする処分は,本件発明3及び4に係るものではなく,各延長登録には明らかな無効事由がある(旧特許法125条の2第1項1号)。
(8)原告は,訂正前の請求項4に列挙された各痛みは相互に重複し,訂正によ
って神経障害性疼痛や線維筋痛症に伴う疼痛が除外されたという事情はないと主張する。
しかし,痛みは,その種類により区別されるものであり,訂正前の請求項から神経障害による痛み,線維筋痛症が除外されたことは争いようがない。原告の主張は,自ら特許請求の範囲から削除した用途について権利
範囲を及ぼそうとするもので許されない。したがって,本件特許の延長登録の根拠となった用途に関する試験は,
訂正後の本件発明3及び4の規定する
用途とは別であるから延長には明らかな無効事由がある。
2
延長登録の無効理由2
(旧特許法125条の2第1項3号に定める事由の有
無)(争点5-2)
(1)延長登録3は,
その根拠となった試験内容からして延長可能期間を超えて
いる。すなわち,登録日である平成17年7月1日以降に実施された臨床試験の合計期間分,本件特許に係る発明を実施できなかったとして,5年の延長を受けているが,
その根拠として具体的に主張されている臨床試験及びそ

の期間は,以下のとおりである。
特許発明の実施をすることができなかった期間は,A0081077を実施していた期間(2005年10月24日から2006年7月14日までの8月20日間)及びA0081100を実施していた期間(2006年7月31日から2007年11月20日までの1年3月20日間),並びに国内第Ⅲ相試験(A0081208)の開始日から本件承認日の前日までの期間(2009年3月17日から2012年6月21日までの3年3月4日間)を足した期間であり,これは5年を超える。よって,延長を求める期間は5年である。(乙22〔5頁(2)第2段
落〕)

これらの各試験とその期間を要約すると以下のとおりとなる。
①A0081077(海外実施)

8月20日間

②A0081100(海外実施)

1年3月20日間

③A0081208(国内実施)
④A0081209(国内実施)
(③の開始日から承認日まで)3年3月4日間
(2)このうち,海外で実施された①と②は,処分を受けるために必要不可欠ではなく,特許発明の実施をすることができなかった期間に含めることはできない。これらは,リリカインタビューフォーム(乙23〔34頁〕)に記載のとおり,参考資料としたものにすぎない。このことは,帯状疱疹後神経痛,末梢神経障害性疼痛については,以下のとおりブリッジング試験が行われ,
外挿可能性についても検討が行われている
(乙23
〔32頁〕

こととの対比からも明らかである。

これに対し,線維筋痛症に伴う疼痛については,以下のとおり,ブリッジング試験や外挿可能性についての検討は行われず,
海外での臨床試験は
単に参考とされているにすぎない(乙23〔34頁〕)。

このように,参考資料
単に
とされている海外実施の2つの臨床試験は,
処分を受けるために必要不可欠ではないから,
特許発明の実施をすることができなかった期間は,③の開始日である平成21年3月17日から承認日である平成24年6月22日までの3年3月4日であり,
それを超える5
年の延長を認めた延長登録3には無効事由
(旧特許法125条の2第1項3
号)があり,少なくとも令和2年10月20日を超える期間は延長がなかったものとみなされる(同条3項)から,もはや権利行使はできない。(3)原告は,
①国内臨床試験が海外臨床試験において得られた値に基づき設計されたこと,②用法,用量についても直接参酌されたから,海外臨床試験は必要不可欠であったと主張するが,失当である。
期間延長制度の根拠は,
当該試験等が実施に必要不可欠であったことにあ
るが,疼痛の評価そのものではなく,評価基準設定のための試験はそれに該当しない。用法・用量についても,国内試験で検証できている以上,原告が指摘する海外試験への言及箇所があるからといって,
海外試験が必要不可欠
であったとはいえない。
実際,審査報告書(甲102の22〔11頁〕)に海外臨床試験…を参考に,やや保守的に…仮定して試験計画を立案しと記載されているとおり,
海外臨床試験はあくまで参考に過ぎず,国内試験の設計に必要不可欠であったとはいえない。
用量についても,甲102の22の20頁第2段落下線部に維持用量を300~450mg/日と設定された国内第Ⅲ相試験…において本剤のプラセボに対する優越性が検証されていると記載されているとおり,国内試験で確認されており,海外実施の臨床試験は不可欠ではない。
安全性についても,甲102の22の19頁下から7~4行目に,国内臨床試験…における最頻投与量別の有害事象の発現率は表14のとおりであり…450mg/日で有害事象の発現率が高くなる傾向は認められずと
あるとおり,国内臨床試験で確認されている。
さらに甲102の22では,
海外プラセボ対照試験4試験…を併合した投与量別の有害事象発現件数は表15のとおりであり,300mg/日群と比較して450mg/日群で有害事象の発現率が若干高い傾向が認められた(19頁下から3行目~末行)とされている。このことからすれば,処
分対象物を線維筋痛症に使用した場合の用量(1日最大450mg
甲5

〔1頁右欄〕)の根拠として,海外臨床試験が必要であったとはいえない。(4)原告は,帯状疱疹後神経痛及び末梢性神経障害性疼痛(帯状疱疹後疼痛を除く)についての試験も線維筋痛症に伴う疼痛の製造販売承認に必要不可欠と主張する(原告第9準備書面〔6~7頁〕)。
しかし,線維筋痛症に伴う疼痛の製造販売承認の申請時に,特許発明の実施をすることができなかった期間の試験としては,海外臨床試験2試験(A0081077,
A0081100)
及び国内臨床試験
(A0081208,
A0081209)のみが挙げられている(乙22〔4~5頁〕)。延長登録申請の際に根拠となっていない試験を今になって延長の根拠とすることはできない。

(5)したがって,延長登録3(線維筋痛症に関する延長登録)には無効事由があり,少なくとも令和2年10月20日を経過した時点で,既に存続期間が満了しているからもはや権利行使ができない。

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