判例検索β > 令和2年(わ)第155号
ストーカー行為等の規制等に関する法律違反
事件番号令和2(わ)155
事件名ストーカー行為等の規制等に関する法律違反
裁判年月日令和4年2月17日
法廷名佐賀地方裁判所
結果その他
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-02-17
情報公開日2022-03-10 04:00:15
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令和4年2月17日宣告
令和2年

第155号

ストーカー行為等の規制等に関する法律違反被告事件
主文
被告人は無罪

第1
1由
本件の経過及び公訴事実
本件の経過
被告人は、別紙記載の者(以下Aという。
)使用車両にGPS機能付き

電子機器(以下GPS機器という。
)を取り付け、同車の位置を探索して同人
の動静を把握したこと(以下GPS位置情報探索行為という。
)が当時のスト
ーカー行為等の規制等に関する法律(令和3年法律第45号による改正前のもの)上の見張りに当たるとして、平成29年5月26日、下記の公訴事実で佐賀地方裁判所に起訴され、同裁判所は、平成30年1月22日、これを認める有罪判決をした。

被告人は,甲と共謀の上,Aに対する被告人の恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で,平成28年4月23日頃から同29年2月23日までの間,長崎県佐世保市a町b番地所在の乙パーキング等において,多数回にわたり,Aが使用している自動車にGPS機能付き電子機器を密かに取り付け,同車の位置を探索して同人の動静を把握する方法により同人の見張りをし,もって,同人の身体の安全,住居等の平穏が害され,又は行動の自由が著しく害される不安を覚えさせるような方法によりつきまとい等を反復して行い,ストーカー行為をしたものである。
被告人は控訴し、平成30年9月21日、福岡高等裁判所は、本件GPS位置情報探索行為は見張りに該当しないとして原判決を破棄した上、公訴事実に被告人がAの車にGPS機器を取り付ける際に付近にAがいないかどうか
を確認するなどしてAの動静を観察する行為が含まれるか等について検察官に明確にさせた上で審理を尽くす必要があるとして本件を佐賀地方裁判所に差し戻した。検察官は上告したが、令和2年7月30日、最高裁判所第一小法廷は上告を棄却し、同判決は確定した。令和2年9月23日、本件は佐賀地方裁判所に係属した。
その後、後述の第2の2⑴イないしキの経過を辿った後、令和3年9月2日、裁判所は、差戻後当審第3回公判期日において、検察官の令和3年7月29日付け訴因及び罰条変更請求書による訴因及び罰条変更請求を許可し、公訴事実は次のとおりに変更された。
2
公訴事実
令和3年7月29日付け訴因及び罰条変更請求書による訴因変更後の訴因
は以下のとおりである。
被告人は、甲と共謀の上、Aに対する被告人の恋愛感情その他の好意の感情又はそれが満たされなかったことに対する怨恨の感情を充足する目的で1
平成28年4月3日頃から同月23日頃までの間に、Aの立ち寄り先であ
る長崎県佐世保市c町d番地eヘアースタジオ丙併設駐車場若しくは同店顧客用契約駐車場である同市c町f番地g
パーキング丁
又は同市a町b番地
乙パーキングに駐車されていた同人使用の自動車に全地球測位システム(略称GPS)機能付き電子機器を密かに取り付けるため、同所に押し掛け2
同年6月1日頃から同月7日頃までの間に、Aの立ち寄り先である前記
ヘアースタジオ丙又は前記乙パーキングの付近において、同人が使用する自動車に乗車していた同人の様子をうかがうなどして見張りをし3
同月25日頃から同月27日頃までの間に、前記ヘアースタジオ丙又
は前記乙パーキングの付近において、同人が使用する自動車に乗車していた同人の様子をうかがうなどして見張りをし
もって同人の身体の安全、住居等の平穏が害され、又は行動の自由が著しく害さ
れる不安を覚えさせるような方法によりつきまとい等を反復して行い、ストーカー行為をしたものである。
第2

当裁判所の判断

以下、ストーカー行為等の規制等に関する法律(平成28年法律第102号による改正前のもの)をストーカー規制法又は単に法という。また、訴因1ないし3は、いずれも令和3年7月29日付け訴因及び罰条変更請求書による訴因変更後のものをいう。
1
訴因1について

検察官は、被告人が初めてAの使用車両にGPS機器を取り付けるために、丙併設駐車場、パーキング丁又は乙パーキングのいずれかに赴いた行為がAの通常所在する場所への押し掛けに当たると主張する。しかし、本件においては、以下に述べるとおり、被告人が、Aの通常所在する場所に押し掛けたものとは認められない。


通常所在する場所への押し掛けについて


ストーカー規制法2条1項1号の解釈

法1条に掲げられている目的及び同法の立法過程からすれば、同法の趣旨は、つきまとい等ないしストーカー行為がエスカレートし、殺人等の重大犯罪に発展するのを未然に防止することや、つきまとい等ないしストーカー行為がそれ自体として相手方に強い不安感を与えることに鑑み、そうした行為から国民の生活の安全・平穏を守ることにあると解される。そして、同法2条1項1号は、つきまとい待ち伏せ進路に立ちふさがりに引き続いて、住居等の付近におい、

ての見張り及び住居等への押し掛けを構成要件該当行為として定めている。
つきまとい待ち伏せ進路に立ちふさがりは、相手方に対して直接


的な接触を伴うことが予定されている行為類型であることから、他の号との区別の観点からすると、1号の類型は、第一次的には、行為者が相手方の身近に存在して、両者が直接接触することにより、重大犯罪へと発展する可能性が問題視さ
れた類型と考えられる。そして、同号中に、前三者に引き続いて住居等の付近においての見張り及び住居等への押し掛けが規定されていることからすると、
見張りと押し掛けは、それぞれ住居等の付近において住居等に

という場所的制限をかけることで、相手方への直接接触の可能性が前三者に準ずることとなり、前三者と同等の可罰性を有すると評価されたものと考えられる。イ
通常所在する場所及び押し掛けの解釈

前記アで述べたとおり、法は、
見張りと押し掛けについてそれぞれ住居等の付近において住居等にという場所的制限をかけることにより、相手、
方への直接接触の可能性が、
つきまとい待ち伏せ進路に立ちふさがり


に準ずるものとなり、それゆえ、可罰性を有すると評価していると考えられる。以上のような、法が通常所在する場所に持たせた機能に加え、
通常所在する場所が

住居、勤務先、学校

という例示に引き続いて規定されていることも踏まえると、
通常所在する場所とは、その場所に押し掛けたり、その場所の
付近で見張りを行えば、相手方との直接接触の可能性が類型的に高くなる場所をいい、住居、勤務先、学校のように、相手方が日常的に訪れ、一定時間継続的に所在することが通常予定されている場所をいうものと解するのが相当である。また、
押し掛け
についても、
法の
押し掛け
の規定の仕方及び
押し掛け
という語の日常的な意味内容からすれば、
押し掛けとは、必ずしも相手方が現
在することを要するものではないが、相手方との接触の可能性が見込まれるような態様で行われる必要があると解するのが相当である。
なお、令和3年法律第45号による改正後の現行法では、恋愛感情等充足目的で相手方の所持する物に無承諾でGPS機器を取り付ける行為自体が処罰の対象となっているが、法改正前の行為について、GPS機器を取り付けるための準備行為であるからといって、法の文言を文理に即した解釈に比して広く緩やかに解釈することは相当でない。


被告人の行為が通常所在する場所への押し掛けに当たるか


被告人が最初にAの車にGPS機器を取り付けた場所

被告人は、差戻前第一審第7回公判期日の被告人質問において、最初にGPS機器をAの車に取り付けたのは佐世保市内のa町の駐車場若しくは丙の駐車場のどちらかと思う旨供述し(なお、被告人は、差戻前第一審第7回公判期日の被告人質問においては、丙併設駐車場とパーキング丁とを区別せずに、まとめて丙の駐車場と供述し、a町の駐車場とは乙パーキングを指している)
、差戻後当審第4
回公判期日の被告人質問において、最初にAの車にGPS機器を取り付けた場所はパーキング丁か乙パーキングのどちらかであり、おそらくパーキング丁で取り付けたと思う、丙併設駐車場は人目が多いため、丙併設駐車場で取り付けた可能性はない旨供述しているところ、この供述は理由も含めて合理性があり、これを排斥するに足りる証拠はないため、被告人が最初にAの車にGPS機器を取り付けた場所は、パーキング丁又は乙パーキングのいずれかであると認定できる。イ
パーキング丁及び乙パーキングのAの利用状況及び被告人のGPS機器
取付けの態様
Aの証言(なお、Aの証人尋問において丙併設駐車場パーキング丁と、
の呼称は用いられていないが、Aが証人尋問において丙を利用する際に車を駐車していた場所として甲23号証添付の見取図2の抄本に書き込んだ2箇所の地点は、
丙の北西側が丙併設駐車場を、
北北東側がパーキング丁を指すものである。

及び差戻後当審第4回公判期日の被告人質問における被告人の供述によれば、Aは、本件当時、週に二、三回丙を利用し、その際には丙併設駐車場又はパーキング丁を利用していたこと、週に二、三回佐世保市内の居酒屋でアルバイトをする際に乙パーキングを利用していたことが認められる。また、差戻後当審第4回公判期日の被告人質問における被告人の供述によれば、被告人のGPS機器取付けの態様については、Aが車にいないタイミングを見計らい、Aに見付からないようにAの車にGPS機器を取り付け、その際、車の中や車の付近にAはいなかったことが認められる。


あてはめ
以上の事実に基づき判断すると、本件当時、Aがパーキング丁を利用する頻度
は、週に二、三回丙を利用する際に丙併設駐車場又はパーキング丁に駐車するという程度であり、Aがパーキング丁に滞在する時間は、パーキング丁に入って駐車し車を降りて丙へ向かうため徒歩で駐車場敷地外へと出る間や、徒歩で駐車場に入って車に乗り込み駐車場から退出する間などの、その都度ごく短時間にすぎないと考えられる。
また、Aが乙パーキングを利用する頻度は、佐世保市内の居酒屋でアルバイトをする際に週に二、三回駐車するという程度であり、滞在時間もパーキング丁の場合と同様である。
そして、被告人のGPS機器取付けは、Aとの接触を可能な限り回避しようとしながら行われている。
そうすると、被告人が初めてAの車にGPS機器を取り付けるためにパーキング丁又は乙パーキングに赴いた行為は、相手方が日常的に訪れ一定時間継続的に所在することが通常予定されている場所に相手方との接触の可能性が見込まれるような態様で赴いたものとはいえず、
通常所在する場所への押し掛けに
は当たらない。
2
訴因2及び3について

検察官は、論告において、訴因2及び3につき、いずれも、被告人が、各時期に、パーキング丁又は乙パーキングに赴き、その周囲の状況を目視してAがいないことを確認し、A使用車両と思しき車両の傍らから車内のトートバッグの形状や特徴等を見て把握し、そのバッグが交際中に自身がAにあげ、Aが日常的に使用していたバッグであったことからA使用車両を特定した行為が、Aの通常所在する場所の付近における一定時間継続的した動静観察に当たり、ストーカー規制法上の見張りに当たる旨主張する(以下、検察官が論告において述べた、訴因2及び3について見張りに当たると主張する事実を車両確認行為とい
う。)。
しかし、以下に述べるとおり、裁判所は、本件の審理経過に照らして、訴因変更することなく車両確認行為を認定することはできないと考える。⑴

本件の審理経過


本件が当審に係属するまでの経過は第1の1⑴及び⑵のとおりである。

令和2年9月23日、本件は佐賀地方裁判所に係属した。同年11月27
日及び令和3年1月29日(以下、断りのない限り令和3年の日付けである)、進行に関する打合せを行い、検察官は、訴因変更請求を行う方針を示した。3月5日及び4月22日にも進行に関する打合せを行い、検察官の訴因変更請求に関する進捗を確認するなどした。

検察官は、5月17日、訴因変更請求を行った。当該訴因変更請求書の訴
因2及び3には同人が使用する自動車に乗車していた同人の様子をうかがうなどして見張りをしと記載されていた。その後の5月28日の打合せにおいて、検察官は、被告人の捜査段階における供述調書の証拠請求を検討しているが、それ以外の新たな追加の書証又は人証の請求予定はないとの方針を示した。裁判所は、訴因における見張り行為の内容について確認するため、前記などの内容につき検察官に釈明を求めた。

検察官は、6月1日付けで回答書を提出し、『同人が使用する自動車に乗車していた同人の様子をうかがうなどして』とは、被害者が使用する自動車に乗車中の様子をうかがう行為のほか、被害者が同車から降りる様子又は同車に乗り込む様子をうかがう行為を含め、被害者が各当時使用する自動車を確認し特定する全ての行為を指す。と回答した。オ
さらに、検察官は、7月21日、差戻後当審第1回公判期日において、令和3年5月17日付け訴因変更請求書第2項及び第3項中の『同人の様子をうかがうなどして見張りをし』の『など』については、同年6月1日付け回答書記載のとおりである。すなわち、ヘアースタジオ丙又は乙パーキング付近において、Aが各当時使用する自動車を確認し、特定するために現在するAの動静を直接視認するという趣旨である。と釈明した。カ
検察官は、7月29日に、5月17日付けの訴因変更請求を撤回し、新た
に訴因及び罰条変更請求をした(なお、7月29日付け訴因及び罰条変更請求書第1の2及び3の記載は、5月17日付け訴因変更請求書と同内容である。罰条は平成28年法律第102号による改正前のものに改められた。)。キ
検察官は、8月10日、差戻後当審第2回公判期日において、7月29日
付け訴因変更請求書第1の2及び3中の見張りにかかる事実につき、差戻後当審第1回公判におけるものと同一の釈明を行い、また、7月29日付け訴因及び罰条変更請求に関する証拠請求はない旨述べた。

裁判所は、9月2日、差戻後当審第3回公判期日において、検察官の7月
29日付け訴因及び罰条変更請求を許可し、被告人は、恋愛感情等充足目的の存在、住居等への押し掛け行為の場所及び存在、住居等の付近における見張り行為の存在をいずれも否認する陳述を行い、弁護人も同旨の陳述をした。ケ
9月30日及び11月2日、進行に関する打合せを行い、双方ともに次回
公判期日において冒頭陳述を行うこととなった。

検察官は、11月29日、差戻後当審第4回公判期日の検察官冒頭陳述に
おいて、訴因変更後の見張りに該当する具体的事実として、訴因2については

Aが自動車に乗車中の様子や同車への乗降車の様子をうかがうなどし、Aの代車を特定した

、訴因3については

Aが代車に代わって使用していた自動車に乗車中の様子や同車への乗降車の様子をうかがうなどし、同自動車を特定した

と述べた。弁護人も、同期日において冒頭陳述を行い、被告人は、Aが駐車場に存在しない時間帯に赴いたのであり、駐車場に留まって一定時間継続して、Aの使用する車両に乗車中のAの様子や乗降中の同人の様子を観察する意図もなければ、そのような行為自体存在しない。と述べた。⑵

訴因2及び3における見張り行為の内容


本件では、前記⑴のとおり、裁判所が、検察官の訴因変更請求に関し、訴
因における見張り行為の内容について確認するため、検察官に釈明を求め、検察官が、6月1日付け回答書を提出して前記

エのとおり釈明し、さらに、差

戻後当審第1回及び第2回公判期日において、前記⑴オ及びキのとおり釈明している。7月29日付け訴因及び罰条変更請求書における訴因の記載、差戻後当審における釈明内容及び冒頭陳述を踏まえれば、検察官が訴因2及び3における見張りに該当する具体的事実として主張するのは、

ヘアースタジオ丙又は乙パーキング付近において、Aが各当時使用する自動車を確認し、特定するために現在するAの動静を直接視認した行為

(以下A目視行為という。)とみるべきである。被告人及び弁護人が、事件に対する陳述として、見張り行為はないと否認した上、弁護人が、冒頭陳述において、

Aの使用する車両に乗車中のAの様子や乗降中の同人の様子を観察する意図もなければ、そのような行為自体存在しない

旨述べていることからも、被告人及び弁護人がA目視行為を前提として認否をしたことは明らかである。さらに、弁護人は、後述のとおり、一貫して、審判対象がA目視行為であることを前提とした弁護活動を行っている。このような本件の具体的な審理経過に照らせば、訴因2及び3における見張り行為の内容は、A目視行為として特定されたといえる。イ
他方、検察官が論告で見張り行為に当たる事実として主張する事実は
車両確認行為である。ストーカー規制法2条1項1号の見張りは挙動犯であり、
被告人の挙動の存否そのものが審判対象であるから、
被告人がいつ・どこで・
何を・どのように知覚したかということは、他の事実と区別して審判対象を画定するために必要な事項であるところ、車両確認行為とA目視行為とでは、現在するAの様子を直接目視したかどうかという点が異なっている。
したがって、裁判所が車両確認行為を認定するには、審判対象が異なる以上、訴因変更の手続が必要であるが、本件ではそのような訴因変更はなされていない。よって、A目視行為の存否について判断することとなる。

なお、裁判所は、検察官に対して、車両確認行為への訴因変更の命令や訴因変更の促しを行っていないが、これは、①車両確認行為に訴因変更すれば有罪となる余地がないとはいえないが、訴因を変更すれば有罪となることが証拠上明らかであるとまではいえないこと、②本件において適用される平成28年法律第102号による改正前の本罪の法定刑は6月以下の懲役又は50万円以下の罰金であり、相当重大な犯罪とまではいえないこと、③本件の具体的な審理経過に照らして訴因変更の促しまたは命令の義務があるとはいえないことによる。③について付言すると、前記のとおり、検察官は、訴因変更請求をするに当たり、新たな証拠請求を予定していない方針を示し、実際に証拠請求をしていないのであるから、本件が差し戻されて当裁判所に係属してから最初に訴因変更請求をするまでの約8か月の間に、取調べ済みの証拠関係から立証可能な訴因を構成して訴因変更請求を行い、その上で、前記釈明を行ったと考えられる。また、差戻後当審の被告人質問で、従前の証拠関係が覆されたり大きく変動したりしたこともないのであるから、差戻後当審の被告人質問の後になって初めて、被告人がパーキング丁又は乙パーキングに赴きA使用車両を特定するために車両やその周囲の状況を目視してAがいないことを確認した行為が見張りに当たるとの主張が可能になったわけでもない。すなわち、検察官は、訴因変更請求を行うにあたって、取調べ済みの証拠関係に照らして、同行為が見張りに当たるとして訴因を構成することや、訴因変更請求後、裁判所の求釈明に対して同行為が見張りに当たることを明確に釈明することが十分可能であったといえる。しかし、検察官はそれらを行っていない。加えて、差戻後当審における釈明内容及び冒頭陳述の内容も踏まえると、検察官は、A目視行為を立証の対象としていたとみるべきである。
そして、前記経過に照らせば、弁護人が、検察官はA目視行為のみを訴因2及び3の見張りに該当する具体的事実として特定して主張しておりそれ以外の事実は主張しないものとの期待を抱くのはもっともである。実際に、被告人は、差戻後当審の被告人質問において、車両確認行為を自認する内容の供述をし(差戻後当審第4回公判期日における被告人質問234~238)、弁護人は、弁論において本件訴因2及び3の各記載内容、検察官の令和3年6月1日付け回答書及び同年10月22付け回答書並びに検察官の冒頭陳述要旨等の各記載内容に照らせば…(中略)…それぞれ被告人がAが当該各自動車に現に乗車中の様子や乗降する様子を一定時間継続的に見守って「見張りをしたことによって、これらの各車両がAの使用する車両であることを最終的に特定した行為について、訴因を設定したものと解される」、

検察官が主張するように、同車両にAが乗車中の様子や乗降する様子を、住居等の付近において、一定時間継続的に見守って「見張り

をすることによって、同車両がAの使用する自動車であることを最終的に特定した行為自体が存在しない」と主張するなど、一貫して、見張りに該当する具体的事実がA目視行為であることを前提とした弁護活動を行っている。
このような場合に、検察官が論告において見張りに該当する具体的事実は車両確認行為であると主張したことを受けて、裁判所が検察官に対し、車両確認行為に訴因変更をするよう促したり訴因変更を命じたりすることは、被告人に対する不意打ちとなる度合いが大きいから、訴因変更の促しまたは命令の義務が生じる場合には当たらない。
A目視行為の存否

Aは、訴因2記載の時期に、従前使用していた車から代車に乗り換え、訴
因3記載の時期に代車から新しい車にそれぞれ乗り換えており、被告人は、GPS位置情報探索履歴等から、Aが車を乗り換えても乗り換え先の車を特定してGPS機器を付け替えることができたことが認められる。しかし、被告人がAの乗り換え先の車を特定するに当たって、Aが乗車中の様子や乗降車する様子を直接目視することが必要不可欠であるとはいえない。したがって、被告人がAの乗り換え先の車を特定しているという事実から、当然にこれに伴う行為としてA目視行為の存在を推認することはできない。

被告人の供述によれば、訴因2記載の時期に、Aの実家で代車と思しき車
を見た後、それに似た車がパーキング丁にとまっていたことからその車がAの代車ではないかと考え、GPS機器を取り付けるために近付いたところ、その車の中にAが使っているバッグが載っていたことから、それがAの代車であると特定したこと、訴因3記載の時期に、Aの行動パターンからして、Aの新しい車はパーキング丁か乙パーキングにとまっているに違いないと思い確認しに行ったところ、佐賀ナンバーでAが使っているバッグが載っている車があったため、その車がAの新しい車だと特定したことが認められる。

よって、被告人が、Aの使用する自動車を特定するために、Aが自動車に
乗車中の様子や乗降車の様子を直接視認した事実は認められず、検察官が訴因2及び3の見張りに該当すると主張する具体的な事実については、認めることができない。
3
結論

以上のとおり、訴因1については、被告人の行為は通常所在する場所への押し掛けに当たらないこと、訴因2及び3については、いずれも事実の立証がないことから、ストーカー行為は認められない。よって、その余について判断するまでもなく、本件公訴事実について犯罪の証明がないことになるから、刑事訴訟法336条により、被告人に対し無罪の言渡しをする。
(求刑・懲役4月)
令和4年2月24日
佐賀地方裁判所刑事部

裁判長裁判官

西村彩子
裁判官

蕪城雄
裁判官

神尾元一郎

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