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地位確認等請求事件
事件番号令和1(ワ)23599
事件名地位確認等請求事件
裁判年月日令和4年1月17日
法廷名東京地方裁判所
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-01-17
情報公開日2022-03-09 04:00:27
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令和4年1月17日判決言渡

同日原本領収

裁判所書記官

令和元年(ワ)第23599号
令和元年(ワ)第23600号

地位確認等請求事件(以下第2事件という。)

令和元年(ワ)第23601号
地位確認等請求事件(以下第1事件という。)

地位確認等請求事件(以下第3事件という。)

口頭弁論終結日

令和3年10月14日
判主1決文
原告Aが,被告に対し,期間の定めのない労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

2
被告は,原告Aに対し,5万9615円及びこれに対する令和元年6月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

3
被告は,原告Aに対し,令和元年6月から本判決確定の日まで毎月末日限り36万9611円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで,支払日の翌日が令和2年3月31日以前の場合は年6分,支払日の翌日が同年4月1日以降の場合は当該支払日の翌日時点における民法404条2項及び3項の
定める法定利率の各割合による金員を支払え。
4
原告Bが,被告に対し,期間の定めのない労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。

5
被告は,原告Bに対し,5万9615円及びこれに対する令和元年6月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

6
被告は,原告Bに対し,令和元年6月から本判決確定の日まで毎月末日限り36万9611円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで,支払日の翌日が令和2年3月31日以前の場合は年6分,支払日の翌日が同年4月1日以降の場合は当該支払日の翌日時点における民法404条2項及び3項の定める法定利率の各割合による金員を支払え。

7
原告Cが,被告に対し,期間の定めのない労働契約上の権利を有する地位にあることを確認する。
8
被告は,原告Cに対し,5万9615円及びこれに対する令和元年6月1日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

9
被告は,原告Cに対し,令和元年6月から本判決確定の日まで毎月末日限り36万9611円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで,支払
日の翌日が令和2年3月31日以前の場合は年6分,支払日の翌日が同年4月1日以降の場合は当該支払日の翌日時点における民法404条2項及び3項の定める法定利率の各割合による金員を支払え。11

訴訟費用は被告の負担とする。

原告らのその余の請求をいずれも棄却する。

この判決は,第2項,第3項,第5項,第6項,第8項及び第9項に限り,仮に執行することができる。
事実及び理由

第1
請求

1
第1事件


主文1項同旨



主文2項同旨



被告は,原告Aに対し,令和元年6月から本判決確定の日まで毎月末日限り36万9611円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。

2
第2事件



主文5項同旨


主文4項同旨

被告は,原告Bに対し,令和元年6月から本判決確定の日まで毎月末日限り36万9611円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年6分の割合による金員を支払え。
3
第3事件


主文7項同旨



主文8項同旨



被告は,原告Cに対し,令和元年6月から本判決確定の日まで毎月末日限り36万9611円及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで年
6分の割合による金員を支払え。
第2

事案の概要

1
事案の要旨
本件は,オランダの航空会社である被告との間で,契約期間を平成26年5
月27日から平成29年5月26日までの3年間とする有期労働契約(以下
本件労働契約①という。)及び契約期間を同年5月27日から令和元年5月26日までの2年間とする有期労働契約(以下本件労働契約②といい,本件労働契約①と併せて本件各労働契約という。)を締結し,客室乗務員として勤務していた各原告が,本件労働契約①の前に被告との間で締結した訓練契
約(以下本件訓練契約という。)が労働契約に該当し,被告との間で締結した有期労働契約の通算契約期間が5年を超えるから,本件労働契約②の契約期間満了日までに被告に対して期間の定めのない労働契約の締結の申込みを行ったことにより,労働契約法18条1項に基づき,被告との間で期間の定めのない労働契約が成立したものとみなされると主張して,被告に対し,①期間の
定めのない労働契約上の権利を有する地位にあることの確認を求めるとともに,②本件労働契約②の期間満了日の翌日である令和元年5月27日から本判決確定の日まで毎月末日限り36万9611円の賃金(ただし,令和元年5月分については既払の日割り計算分を控除した5万9615円)及びこれらに対する各支払日の翌日から支払済みまで商事法定利率(平成29年法律第45号によ
る改正前の商法514条所定の利率をいう。以下同じ。)年6分の割合による遅延損害金の支払を求める事案である。
これに対し,被告は,本件訓練契約は労働契約に該当せず,各原告との間で締結した有期労働契約の通算契約期間は5年を超えないから,労働契約法18条1項の要件を欠く旨を主張して争っている。
2
前提事実
以下の事実は,当事者間に争いがないか,後掲各証拠(枝番のあるものは枝
番を含む。
以下同じ。及び弁論の全趣旨によって容易に認めることができる。)


当事者等

原告ら
原告Aは昭和59年7月22日生まれの女性であり,原告Bは昭和56年8月18日生まれの女性であり,原告Cは昭和48年5月9日生まれの
女性である。
(甲A1,甲B1,甲C1)

被告
被告は,オランダに本社を有する航空会社である。被告は,オランダのアムステルダム・スキポール空港を拠点として世界各国の空港に就航し,
日本においては成田国際空港及び関西国際空港に就航している。
(争いがない。)


訓練契約及び労働契約の締結等

各原告は,平成25年に被告の客室乗務員採用選考に応募し,同年11月下旬頃,選考を通過した旨の通知書を受領した。

(甲9,10,弁論の全趣旨)

各原告は,平成26年3月24日,被告との間で,同日から同年5月26日まで(以下本件訓練期間という。)を訓練期間とする訓練契約(本件訓練契約)を締結した。

その後,各原告は,本件訓練契約に基づき,アムステルダムに所在する被告の訓練施設において初期訓練(Initial
Training。

以下本件訓練という。)を受講した。各原告は,本件訓練のカリキュラムを全て修了し,テスト及び試験に合格した。
なお,被告は,後記⑷ウの関係当局の承認を得た訓練実施機関である。(甲26,甲A1,甲B1,甲C1,弁論の全趣旨)

各原告は,
平成26年5月下旬頃,
被告との間で次の内容の労働契約
(本
件労働契約①)を締結し,同月27日から被告において客室乗務員として勤務を開始し,フライト前ミーティング,保安業務,機内アナウンス,機内での飲食提供サービス,免税品販売,入国審査書類配布,顧客獲得営業(マイレージプログラムの勧誘など),病人発生時の介護等の業務に従事した。

業務内容
日本・オランダ間の国際線(以下日本・オランダ路線という。)
における客室業務
賃金
基本給

28万5000円(初年度)

当月分当月末日払い
期間
平成26年5月27日から平成29年5月26日まで(3年間)
(甲A2,甲B2,甲C2,弁論の全趣旨)

本件労働契約①は,期間満了時に更新され,各原告は,被告との間で,期間を平成29年5月27日から令和元年5月26日までの2年間とする有期労働契約(本件労働契約②)を締結した。
平成31年4月時点における各原告の給与は,
基本給35万5811円,
住宅手当1万3800円の合計36万9611円であった。
(甲A3,4,甲B3,4,甲C3,4,弁論の全趣旨)



原告らの雇止めに至る経緯等

各原告は,平成31年1月29日頃,被告に対し,労働契約法18条1項に基づき,有期労働契約②の期間満了日の翌日である同年(令和元年)5月27日を始期とする期間の定めのない労働契約の締結の申込み(以下本件各申込みという。)を行った。
(甲A5,甲B5,甲C5)


被告は,平成31年4月23日,各原告に対し,①各原告との間の労働契約は同年(令和元年)5月26日をもって終了すること,②同日以降は各原告との間で労働契約を締結することはないこと,③本件訓練契約は労働契約ではないため,各原告と被告との間の有期労働契約の通算契約期間は5年を超えないこと,④したがって,原告らによる期間の定めのない労
働契約の締結の申込みは認められないことを通知した。
(甲A6,甲B6,甲C6)

被告は,各原告に対し,令和元年5月分の賃金として,同月26日までの日割り計算分である30万9996円(=36万9611円×26/31)を支払った。

(弁論の全趣旨)


EU委員会規則の定め
オランダはEU加盟国であるところ,EU委員会規則2012年290号(本件訓練契約締結当時施行されていたもの。以下単にEU委員会規則
という。)には,民間航空機の客室乗務員について,次の定めがある。ア
EU加盟諸国における航空会社の航空便に客室乗務員として搭乗するためには,①CabinCrewAttestationと呼ばれ
る認証(以下客室乗務員認証という。)を取得し,かつ,②搭乗する航空機の機種別の訓練(以下機種別訓練という。)を修了する必要がある。


客室乗務員認証取得のための訓練は,理論的及び実践的訓練を含まなければならない。その訓練に含むべき事項としては,①客室乗務員の義務及び責任に関連する全ての要素を包含した航空及び航空規制の一般的な理論的知識,②コミュニケーション,③航空・船員資源管理における人的要因に関する導入過程,④旅客取扱い・客室監視,⑤航空医療・救急,⑥危険物の取扱い,⑦セキュリティ,⑧火災・煙訓練,⑨生存訓練等がある。

客室乗務員認証のための訓練実施機関は,訓練プログラムの詳細(訓練に使用するマニュアルや設備を含む。)を関係当局に申請した上で,その承認を得る必要があり,関係当局の承認を得た訓練実施機関が提供する訓練を修了し,試験に合格した者に対して,客室乗務員認証が発行される。(乙1,2,8)

3
争点
本件の争点は,本件訓練契約が労働契約に該当するかである。

4
争点に対する当事者の主張

(原告らの主張)


本件訓練契約が労働契約に該当するというためには,原告らが労働契約法及び労働基準法上の労働者であること,すなわち,①使用者の指揮監督下において労務の提供をする者であること,②労務に対する対償を支払われる者であることが必要であるところ,
以下に指摘する本件訓練の実態からすれば,
本件訓練期間中の原告らが労働契約法及び労働基準法上の労働者であること
は明らかである。

被告の指揮監督下において労務の提供をしていたこと
原告らは,本件訓練期間中,次のとおり,被告の指揮監督下にあった。仕事の依頼,業務従事の指示等に対する諾否の自由の有無
原告らは,本件訓練期間中,別紙アジア人客室乗務員訓練スケジュール(以下本件スケジュールという。)に定められたスケジュールに従って本件訓練を受講し,被告における業務遂行のために習得すべき講義や実技訓練を受けた。これらは被告で乗務を行うに当たって必須のものであって,いわば乗務の研修に該当するものであり,被告における業務の一環として原告らに受講するかどうかの選択の自由は存在しなかった。
業務遂行上の指揮監督の有無

原告らは,本件訓練期間中,被告が指定した訓練教官から常に訓練内容に関する指揮監督を受けており,訓練教官の指示に反する行動をとることは一切許されていなかった。
時間的場所的拘束性の有無
上記

のとおり,本件訓練は,訓練開始及び終了の時間,訓練場所な

どが詳細に決められた本件スケジュールに従って実施されており,原告らは,被告から時間的場所的拘束を受けていた。
代替性の有無
本件訓練の受講に当たり,原告らに代わって他の者がこれを受講することは想定されていなかった。


労務に対する対償を支払われていたこと
原告らは,被告から,本件訓練に従事したことの対価として,18万8002円の訓練手当(所得税の課税対象として被告による源泉徴収の対象となっていた。)及び1日当たり75ユーロの日当の支払を受けていた。各原告が本件訓練期間中(64日間)に被告から支払を受けた総額は,日
本円にして86万0002円である。
本件訓練契約において,訓練手当及び日当の合計は,本件訓練期間中の全ての法定の手当を含むものと定められているところ,法定の手当とは労働基準法上の割増賃金や最低賃金法上の最低賃金等を指すから,訓練手当及び日当が本件訓練の対価として賃金の性質を有することは明らかである。

その他の要素
本件訓練に必要な物は全て被告が準備又は負担しており,原告らは,訓練に従事するという労務を提供する以外に一切の負担をしていないから,原告らに事業者性はない。また,原告らが本件訓練期間中に他社の業務に従事することは事実上不可能であり,被告への専属性は極めて高かった。エ
小括
以上によれば,本件訓練期間中の原告らは労働契約法及び労働基準法上の労働者であるから,本件訓練契約は労働契約に該当する。
そして,被告が,①原告らに交付した推薦状や証明書において,原告らが平成26年3月24日(本件訓練開始日)から被告の客室乗務員として
働いていた旨を記載したこと,②平成30年2月5日以降,日本人客室乗務員との契約形態を変更し,訓練期間の初日を契約期間の始期とする有期労働契約を締結し,訓練期間を含む契約期間を通算して5年を超えないような契約形態を採用するに至ったことは,被告が原告らを本件訓練開始日から雇用していたと認識していたことを示すものである。

⑵ア

被告は,本件においては,上記⑴①の要件(使用者の指揮監督下において労務の提供をする者であること)の判断に当たり,訓練生が被告に対して労務の提供をしていると認められるかどうかが重視されるべきであるところ,本件訓練期間中,原告らは被告に対して労務の提供をしていないと主張する。

しかし,本件訓練は,被告の日本人客室乗務員としての採用選考に合格し,被告への入社が決まっている原告らが,被告の運航する航空機で客室乗務員として乗務するために必要なスキルや知識を習得するという明確な目的のもとに,被告が定めた内容・スケジュールに基づき,被告が指定した教官の指揮監督下において,乗務実習を含む必要な訓練を受
けた上で,被告により習得度の認定を受け,訓練終了後には当然に被告の運航する航空機で客室乗務員として乗務することを予定したものであった上,原告らは本件訓練期間中,被告の運航する航空機に搭乗して具体的な客室業務も行っているのであるから,被告が原告らを被告において客室乗務員として乗務させることのみを目的として行われたものであることは明白である。
本件訓練が被告の運航する航空機に乗務させる客室乗務員を養成する
ための訓練であったことは,
保安業務等の内容が航空会社ごとに異なり,
当該航空会社で乗務するためには当該航空会社の訓練を受ける必要があること,EU加盟諸国の他の航空会社において客室乗務員としての乗務経験があり,客室乗務員認証を取得済みの者(アジア地域で採用された客室乗務員だけでなく,オランダやEU圏内で採用された客室乗務員も
同様である。も,
)被告の航空機で客室乗務員として乗務するためには,
本件訓練と同様の入社時初期訓練を受ける必要があったことからも明らかである。
したがって,仮に,原告らが,本件訓練期間中は客室乗務員としての具体的な業務に従事していなかったとしても,訓練の結果は,訓練生が
訓練終了後に客室業務に従事することによって被告に利益として還元されるのであるから,訓練への従事それ自体が訓練生によって被告のために行われる労務の提供であるというべきである。

被告は,被告が訓練生を健康保険に加入させていなかったことを訓練生の労働者性を否定する根拠として主張している。
しかし,労働者を健康保険に加入させるか否か,加入させるとしてどのような健康保険に加入させるかは,それ自体,使用者において左右し得る事柄である。労働基準法等の労働者保護を目的とする法律の適用の前提となる労働者性の判断において,使用者が自由に操作し得る事柄は,労働者
性を否定する根拠にはなり得ない。
(被告の主張)


EU委員会規則上,EU加盟諸国における航空会社の航空便に客室乗務員として搭乗するためには,客室乗務員認証を取得し,機種別訓練を修了していることが必要である。
そこで,被告においては,客室乗務員募集への応募者全員に対し,労働契
約の締結前に訓練契約を締結して客室乗務員認証を取得するための訓練及び機種別訓練を実施し,当該訓練に合格した者のみを対象として労働契約を締結していた。そのことは,本件訓練契約の文言からも明らかであるほか,応募者に対する人事説明会でも説明しているから,原告らも明確に認識していたはずである。
このように,本件訓練契約は,訓練の終了後にその合格者との間でのみ締
結される労働契約とは明確に区別されているから,本件訓練契約を労働契約の一部とみることはできず,この点において,本件訓練は日本の企業で一般的に行われる新人研修等とは異なる。
⑵ア

本件訓練のようないわゆる教育訓練においては,個人事業主と労働者との区別が問題となる場合とは異なり,
訓練生が使用者の指揮命令下にあり,

指示に対する諾否の自由は存在せず,時間的場所的拘束を受け,訓練を受けるについて代替性が存在しないことは当然であるから,訓練生が使用者に使用されているか否かを判断するに当たっては,当該訓練生が使用者に対して労務の提供をしていると認められるかどうかが重視されるべきである。


そこで検討するに,原告らのような訓練生は,客室乗務員認証を取得しておらず,かつ,機種別訓練を修了していないために,被告の運航する航空機で客室乗務員としての業務を遂行することができない。
本件訓練契約には,訓練生に対して何らかの職責を求める規定は存在せ
ず,訓練生は,本件訓練期間中,3回の研修搭乗を除けばほとんど座学を行うにすぎない。また,訓練生は,当該3回の研修搭乗に際しても,訓練生であって正規の客室乗務員ではないことが判別できる表示を付した上で,正規の客室乗務員の指導の下に客室業務の一部に関与していただけであって,必要な客室乗務員数にはカウントされていない。訓練生によって,正規の客室乗務員の行う客室業務が代替されているわけではない。
そのため,
被告は本件訓練によって何らの収益も得られない。

このように,被告との間で本件訓練契約を締結した原告らは,本件訓練期間中,被告に対して何ら労務を提供していないのであるから,使用者に使用されていたとはいえない。
そして,本件訓練期間中に原告らから労務の提供はされていないのであるから,その対価としての賃金の支払も存在しない。被告から原告らに対
して支払われた訓練手当や日当は,オランダでの訓練費用を訓練生の自己負担としてしまうと,日本人客室乗務員募集への応募者がいなくなってしまうため,一定の応募者を確保するために,あくまで訓練期間中の訓練生の生活保障を目的として提供しているものである。
また,訓練生は,本件訓練期間中は被告の健康保険等の加入資格を保有
しておらず,労働契約締結後に初めて被告の健康保険等に加入することができるとされている。
したがって,本件訓練期間中の原告らは労働契約法及び労働基準法上の労働者に該当しない。

原告らは,本件訓練への従事それ自体が労務提供である旨を主張する。しかし,本件訓練は汎用性の高いものであって,この点においても日本の企業で一般的に行われる新人研修等とは一線を画する。すなわち,本件訓練は,EU委員会規則によって要求されている客室乗務員認証取得のための訓練及び機種別訓練が大半であり,その内容は,EU委員会規則に準
拠しているため,訓練で使用する細かい用語等を除けば,主要な部分において,他の航空会社が実施する訓練課程と共通している。そのため,本件訓練を修了して客室乗務員認証を取得した後,他の航空会社において機種別訓練を修了すれば,当該航空会社の客室乗務員として稼働することも可能である。
なお,被告において,訓練生が客室乗務員認証を保有しているか否かや機種別訓練を修了しているか否かにかかわらず,一律の内容の訓練を課し
ているのは,①客室乗務員認証取得のための訓練,②機種別訓練及び③航空会社独自の訓練を含むその他の訓練の3種類を一体化して実施しており,これらを明確に区別することが困難であるため,訓練生ごとに異なる内容の訓練を実施することが非効率であるという実務上の取扱いの便宜にすぎず,本件訓練が客室乗務員認証及び機種別訓練の修了を目的とすることに
変わりはない。
また,客室乗務員認証を取得するための訓練や機種別訓練において,各航空会社独自の施設,設備,備品,マニュアル,教材等を用いることは,EU委員会規則上,当然の前提とされているため,本件訓練の一部に被告独自の要素が含まれることは避けられないが,そのような訓練が客室乗務
員認証の取得等に必要なものである以上,被告独自の訓練ということはできない。本件訓練契約を労働契約とみなすこととすれば,被告は,本件訓練に不合格となり,客室乗務員として就労することができない者に対しても給与を支払い続けなければならないという不合理な結果が生じる。エ
原告らに対して交付された推薦状や証明書における労働契約期間の初日の記載は,事務的なミスによるものにすぎず,被告が管理するデータベース上は,労働契約期間とは別に訓練契約期間が記録されている。また,被告が平成30年以降,日本人客室乗務員との契約形態を変更したのは,労働契約法18条が新設されたことにより,訓練契約が労働契約に該当する
と主張されて無用な争いに発展するリスクを防止する必要が生じたためである。
したがって,被告は,本件訓練契約が労働契約に当たることを認めたわけではない。

第3
以上によれば,本件訓練契約が労働契約に該当すると解する余地はない。当裁判所の判断

1
認定事実
前記前提事実に加え,証拠(甲15,27~29,各原告本人のほか後掲各証拠)及び弁論の全趣旨によれば,以下の事実を認めることができる。⑴

本件訓練契約の締結に至る経緯

①原告Aは,平成19年に大学を卒業し,エミレーツ航空での客室乗務員としての勤務を経て,②原告Bは,平成18年に大学を卒業し,エミレ
ーツ航空,トルコ航空及びルフトハンザドイツ航空での客室乗務員としての勤務(ただし,トルコ航空では,保安担当のないサービス・通訳要員としての勤務であった。)を経て,③原告Cは,平成9年に大学を卒業し,ノースウエスト航空(合併後のデルタ航空を含む。)での客室乗務員としての勤務を経て,それぞれ,平成25年に被告の客室乗務員採用選考に応
募し,
同年11月下旬頃に被告から選考を通過した旨の通知書を受領した。上記通知書には,

我々は,あなたが東京ベースのアジア人客室乗務員として明確に選ばれたことをお知らせすることを喜ばしく思います。あなたが健康診断と身元確認を通過することを条件とします。

との記載がある。

(前記前提事実⑵ア,甲9,弁論の全趣旨)

被告は,上記通知後,本件訓練契約締結前に,各原告に対し,①本件訓練が平成26年3月24日に開始すること,②被告は,各原告に対し,本件訓練期間中は医療保険を提供しないため,各原告は自分で旅行保険に加
入する必要があること,
③被告は,
各原告が本件訓練に合格した場合には,
予期せぬ状況が生じない限り,各原告に対し,本件訓練終了後直ぐに又はできるだけ早く,雇用契約の申出をすることを連絡するとともに,社員番号とアムステルダム・スキポール空港横のクルーセンターに設けられている連絡文書投函用のレターボックスを割り当て,制服の採寸を行った。本件訓練終了後も,
社員番号と制服は本件各労働契約の契約期間を通じ,
レターボックスは平成28年10月頃にペーパーレス化によって廃止され
るまで,いずれも継続して使用された。
(甲2,32)

被告は,
平成26年1月末頃,
各原告に対し,
本件訓練の開始に先立ち,
事前課題等を送付した。その際に,被告が送信したメールには,

ようこそKLMへ!もうすぐあなたは客室乗務員になる訓練を開始します。私たちは,あなたがKLMで働くことを楽しみにしていることを願います。

などと記載されていた。
(甲26)

被告は,
平成26年3月,
上記アの客室乗務員採用選考を通過した者
(原
告ら3名を含む。)を対象にしてオリエンテーション(被告は人事説明会と主張している。を実施し,

①アジア人客室乗務員を採用する理由,
②本件訓練期間中は訓練契約が適用されること,③契約期間を平成26年5月27日から平成29年5月26日までの3年間とする有期労働契約を締結し,1回に限り更新し,契約期間2年間の有期労働契約を締結する可能性があること,④有期労働契約となる理由等を説明した。
(乙3)


本件訓練契約の内容
本件訓練契約の内容は,大要,以下のとおりである。本件訓練契約において,各原告は訓練生と呼称されている。


KLMは,訓練生をKLMのアジア人客室乗務員として訓練することを引き受ける。訓練コースは平成26年3月24日に開始し,同年5月26日に終了する。訓練コースはオランダで実施される。(第1条)

訓練生は,
訓練を通して18万8001.
92円の訓練手当を受け取る。
加えて,訓練生は,KLM客室乗務員が受け取る日当に従い計算された日当を受け取る。
KLMは,
第1条の訓練期間中,
適した住環境を手配する。
さらに,KLMは,訓練期間中,ホテルと訓練センターとの間の通勤手段
を用意する。上記の訓練手当と日当の合計は,全ての法定の手当を含むものとみなされ,それは限定的ではないが,夜勤手当,休日手当,通勤手当そして未消化分の休暇への補いを含む。(第2条)

訓練生は,訓練に従事する義務があり,場合によりKLMによって出されるすべての規則,指令そして指示に応じ,遵守する義務がある。(第3
条)

KLMは,訓練生が,第3条に従って行動しなかった場合やKLMが期待するような賢明な進歩が見られなかった場合は,直ちにこの契約を終結する権利がある。この場合は,第2条に述べた訓練手当は,実際の訓練契約の長さに従って計算される。(第4条)


訓練を首尾よく修了した場合,KLMは,訓練生に対し,アジア人客室乗務員としての雇用の申出をする。訓練生は,この雇用の申出を受け入れる。もし,訓練生がこの雇用の申出を受け入れなかった場合は,当該訓練生には,KLMが負う訓練費用相当額の損失の支払義務が生じる。(第5条)


この契約には日本の法律が適用される。(第6条)
(⑵につき,甲A1,甲B1,甲C1)



本件訓練の概要

本件訓練は,オランダのアムステルダムに所在する被告の訓練施設において,平成26年3月24日から同年5月26日まで,原則として,毎日午前8時30分から午後5時まで,週休2日のスケジュールで行われた。上記期間の訓練生は,原告らを含めて8名であった。
本件スケジュールには,本件訓練期間中の日ごとの訓練の内容,時間,訓練実施場所が定められており,原告らは,本件スケジュールに従って本件訓練を遂行する必要があり,日ごとに,規定された時間までに訓練実施場所に集合し,
規定された時間に実施される訓練を受講する必要があった。

また,訓練生が訓練に従事する際には,被告が指定した訓練教官が常に訓練内容を指揮監督しており,
同教官の指示に反する行動は許されなかった。
(争いがない。)

EU委員会規則には,客室乗務員認証取得のための訓練及び機種別訓練において扱うべき事項が規定されているものの,共通の教材は存在せず,
認証取得のための訓練に使用する設備等については,客室乗務員が実際に勤務することになる航空機の機種の乗客区画の環境及びその設備の技術的特徴を反映したものであることが要求されている。そのため,各航空会社においては,EU委員会規則の要求する基準に準拠しつつ,各航空会社における保安業務や使用する航空機,サービス内容に沿って,客室乗務員認
証取得のための訓練及び機種別訓練を行っており,一つの訓練(カリキュラム)が,①客室乗務員認証の取得のために必要とされる訓練,②機種別訓練,③当該航空会社における独自の訓練の各性格を複合的に有することがある。本件訓練においても,使用された教材は全て被告が作成したものであり,本件訓練に用いられた施設や設備,備品,マニュアル等も全て被
告のものであった。
(乙1,2,8,弁論の全趣旨)

被告がオランダを含むEU加盟国において採用している客室乗務員募集への応募者の中には,他の航空会社において勤務していた経歴を有するな
どして既に客室乗務員認証を取得している者も多数存在する一方,EU加盟国以外の国で現地採用している客室乗務員募集への応募者の中には,客室乗務員認証を取得している者は少ない。もっとも,被告においては,客室乗務員の採用地域にかかわらず,客室乗務員認証を取得している訓練生であっても,客室乗務員認証を取得していない訓練生と同内容の訓練を受講させており,客室乗務員認証の取得の有無や機種別訓練修了又は当該機種への搭乗経験の有無にかかわらず,本件訓練と同様の訓練を実施してい
る。
原告Bは,本件訓練契約締結前に既に客室乗務員認証を取得しており,被告もそれを認識していたが,原告A及び原告Cら他の訓練生と区別されることなく,本件訓練の全てを受講した。
(争いがない。)



本件訓練の詳細
本件訓練のカリキュラムは本件スケジュールに定められており,その詳細は,以下のとおりである(本項においては,日付について平成26年の記載を省略する。)。


3月24日
被告の社員IDカードの交付や既に採寸・縫製済みの制服の試着,サイズの最終チェックが行われた。


3月25日
事前課題による英語筆記テスト,保安訓練の説明,クルーセンターにつ
いての講義が行われた。
保安訓練は,本件訓練を通じ,講義や実技訓練の形式で繰り返し行われた。同じ航空機の機種であっても,航空会社ごとに,①内装仕様(座席配置,座席数,トイレの位置及び数,ギャレーと呼ばれる客室乗務員が食事等を準備する場所の位置及び数,乗務員休憩室の位置,ジャンプシートと
呼ばれる客室乗務員が離発着時に着席する座席の位置及び数,シニアパーサーが着席する位置,機体後方部の貨物室の有無等),②通常乗務時及び緊急時に使用する指示号令・文言(コマンド)及び同時に行うべきとされる動作,③緊急時に乗客に指示説明をする用語やアナウンス方法,④ドアの呼称や開閉手順,⑤装備されている消火器等の非常設備の内容,設置位置及び利用方法が異なり,保安業務の内容は航空会社ごとに異なるため,保安訓練は,本件訓練を通じ,被告独自のマニュアルに則って,被告の設
備を用いて行われた。
クルーセンターとは,フライト前に乗務員全員がチェックインし,荷物預入れの手続や出発前ブリーフィングを行う施設をいうところ,同施設の仕様は航空会社によって異なるため,クルーセンターに関する講義では,被告の施設の仕様に則った使用方法等の説明が行われた。


3月26日
同日午前は,事前課題によるテストと機内携帯用非常設備等についての講義が行われた。同テストは,被告の航空機に関する知識(ドアの呼称など)や被告の社歴等を問う内容であった。機内携帯用非常設備等は,同じ
航空機の機種であっても,
航空会社によって仕様や利用方法が異なるため,
上記講義は被告の航空機の設備に則って行われた。
同日午後は,被告におけるエコノミークラスのサービスに関する講義及び文化についての相互理解・文化的理解の課題に関する講義が行われた。客室サービス業務は,各航空会社が所在する都市の言語や文化等の違い
により,提供するサービス内容や求められる立ち居振る舞い等が異なる。そのため,客室サービスに関する講義や実技訓練においては,本件訓練を通じて,①イギリス英語の使用(被告においては,ヨーロッパの中のオランダという意識から,
イギリス英語の使用が強く推奨されている。,

②アルコール飲料の提供方法,③被告の航空機の航路上にある都市や川な
どの説明,④被告が提供するマイレージプログラムの説明,⑤オランダの文化や日本・オランダ路線特有の文化,被告の客層など,被告の客室サービスに特有の内容が説明・指導された。

3月27日
同日午前は,保安訓練を内容とする通常業務に関する講義が行われた。上記イのとおり,同講義は,被告独自のマニュアルに則って行われ,被告独自の指示呼びかけや号令の反復習得が行われた。

同日午後は,機内設備についての講義と被告のサービスガイドラインについての講義が行われ,いずれも,上記ウのとおり,被告の航空機の設備や被告独自のサービススタイルに則って講義が行われた。

3月28日
同日午前は,通常業務についてのペーパーテストと機内携帯用非常設備
についての講義が行われた。非常設備の数,設置場所,使用方法,救急箱に備えられている薬品等の内容は航空会社によって異なるため,同日の機内携帯用非常設備についての講義では,消火器・酸素ボンベ・救急箱・AED等の使用方法や設置場所について,被告の航空機における配置をもとに説明が行われた。

同日午後は,被告の客層や日本・オランダ路線独特の文化などについての講義が行われた。

3月31日
非常時の対応についての訓練が行われた。この訓練では,被告独自の客室シミュレーターを使用して,緊急非常時を想定した訓練が行われた。

4月1日
同日午前は,制服を中心とした被告指定の身だしなみについての講義が行われた。客室乗務員の時計の色・アクセサリーの数・髪型等に関する規定は航空会社によって異なるため,同講義においては,被告の規定に則っ
た服装等についての説明・指導がされた。
同日午後は,被告のエコノミークラスサービスについての模擬訓練が行われた。この訓練では,実際に使用されている製品を用いての実地訓練が行われた。

4月2日
翌日から行われる訓練フライト(被告が運航する航空機に実際に搭乗して客室業務を行うことを内容とする訓練)に関する準備や課題の確認が行
われた。

4月3日から4月9日まで
アムステルダム・スキポール空港と成田国際空港を往復する航空機(エコノミークラス)において,訓練フライトが行われた。訓練生は,訓練フライトにおいて,客室乗務員と同じ制服に訓練生であることを表示したバ
ッジを着用して,客室乗務員の指導を受けながら,客室業務(保安業務を除く。)を行った。なお,訓練生は,訓練フライトにおいて保安業務を行うことができず,また,搭乗させる必要のある客室乗務員数にカウントされることはない。

4月10日
同日午前は,4月3日から4月9日まで行われた訓練フライトについての振り返りが行われた。訓練生は,フライト中に客室責任者から受けた評価を教官とともに振り返り,今後の課題や疑問点等を報告し合った。同日午後は,被告の航空機内の酸素設備(客室天井に設置された酸素呼吸器,持ち運び用医療用酸素ボンベ,操縦室内の酸素設備)に関するペー
パーテストが行われた。

4月11日
同日午後は,消火訓練が行われ,訓練生は,被告独自の指示号令や対処方法を繰り返し学んだ。


4月14日
同日午前は,ハイジャック発生時の対応,爆発物発見時の処理手順,通常乗務前後の機内点検手順等の保安業務全般についての講義が行われ,同日午後は,機内携帯用非常設備の使用手順についての実技テストが行われた。いずれも,被告のマニュアルや設備等に則って行われた。

4月15日
同日午前は,被告におけるビジネスクラスのサービスについての講義と
被告機内におけるアルコール取扱規定についての講義が行われた。サービス内容や使用する備品は,被告独自のものであった。
同日午後は,緊急着水時の手順や設備についての訓練及び着衣水泳訓練を行った。救命ボートなどの使用手順について,被告のマニュアルに則って訓練が行われ,被告施設のプールで擬似体験が行われた。


4月16日
前日午前と同様,ビジネスクラスのサービス内容についての講義が行われた。


4月17日
心肺蘇生法及びAEDの使用についての実地訓練が行われた。緊急時に
即座に対応できるように,被告独自の手順や指示号令の反復学習が行われた。

4月18日
日本・オランダ路線に特化した機内アナウンスの練習及びブリーフィングについての実習が行われた。ブリーフィングについての実習では,就航
地の特有性,
季節等のシチュエーションを想定した上での実習が行われた。
同日午後は,危険物の取扱い等,保安業務全般に関する筆記テストと緊急避難の実地訓練が行われた。緊急避難の実地訓練では,シミュレーターを用いて被告独自の指示号令や手順の反復学習が行われた。

4月22日
同日午前は,緊急避難の実地訓練と機内携帯用非常設備の実技試験が行われた。

4月23日
機内での応急処置全般についての訓練が行われた。機内で起こり得る急病人発生時における応急処置用具・医療用具の使用等について,被告のマニュアルに則って訓練が行われた。


4月24日
同日午前は,被告の顧客とフライングブルー(被告のマイレージプログラム)及びスカイチーム(被告が所属するアライアンス)に関する講義,これまでの訓練の理解度の確認とワインの知識に関する試験,教官との5分間の面談が行われた。上記試験では,これまでの訓練で習得した知識の
確認と被告の航空機内に搭載されているワインに関する知識の確認が行われた。
同日午後は,被告の保安マニュアルに関する筆記試験とシミュレーターを用いた緊急避難の実地訓練が行われた。

4月25日
日本・オランダ路線で運航されており,翌日から行われる訓練フライトで乗務する航空機の機種(B747)に特化した講義,実技訓練が行われた。


4月26日から5月4日まで
アムステルダム・スキポール空港と成田国際空港を往復する航空機(ビ
ジネスクラス)において,訓練フライトが行われた。訓練生は,上記ケと同様に,客室業務(保安業務を除く。)を行った。

5月5日
同日午前は,4月26日から5月4日まで行われた訓練フライトについての振り返りが行われた。


5月6日
シミュレーターを用いた緊急避難の実地訓練と消火訓練が行われた。消火訓練においては,被告のマニュアルに則って,火災発生時に即座に対応できるように,被告独自の指示号令を繰り返し学んだ。

5月7日
オランダ公安警察の指導の下,機内での暴漢・テロに対する知識の習得
と実技訓練が行われた。手錠のかけ方やタックルの方法の説明,被告独自の指示号令に関する知識習得及び訓練が行われた。

5月8日
教官との試験に向けた面談,口頭英語試験,オランダの文化理解についての講義が行われた。被告の航空機内においては,上記ウのとおり,イギ
リス英語の使用が推奨されているため,口頭英語試験では,イギリス英語の発音などのチェックが行われ,訓練生がアメリカ英語の発音を用いた場合には指導された。

5月9日
日本・オランダ路線で運航されており,5月13日から行われる訓練フ
ライトで乗務する航空機の機種(B777)についての座学と乗務に際しての健康管理の指導が行われた。同じ機種の航空機でも,航空会社によって機内仕様,内装仕様,設備等が異なるため,被告独自の設備やドアの操作方法の手順と指示号令の反復学習が行われた。

5月12日
翌日から行われる訓練フライトの準備,当時の直属の上司との面談,被告での勤務スケジュールの概要説明が行われた。勤務スケジュールの概要説明では,年次有給休暇希望・フライト希望・長期休暇希望・病欠時等における被告への申請等の対応手順とオランダ語で書かれたスケジュールの読み方の説明が行われた。


5月13日から5月20日まで
アムステルダム・スキポール空港と成田国際空港を往復する航空機において,訓練フライトが行われた。この訓練フライトでは,訓練生は,ビジネスクラスかエコノミークラスのいずれかを希望することができたところ,原告らは,いずれもビジネスクラスを希望し,上記ケ及びナと同様に,客室業務(保安業務を除く。)を行った。


5月21日
5月13日から5月20日まで行われた訓練フライトの振り返り,機内アナウンスと地上業務に関する講義等が行われた。機内アナウンスについては,オランダ現地の日本人地上職員を迎え,日本・オランダ路線での乗務時に機長が航路等をアナウンスする際に用いる用語や地名の解説,日本
語でのアナウンスの指導等が行われた。地上業務については,アムステルダム・スキポール空港内の施設の説明や同空港到着時のお客様案内,乗継便への案内,よくある質問への対応等の説明が行われた。

5月22日
同日午後は,緊急避難についての実地試験及び航空機についての筆記試
験が行われた。

5月23日
本件訓練期間中の訓練及びテスト・試験の評価と卒業式が行われた。(⑷につき,甲1,13,14,18~20,26,弁論の全趣旨)


訓練手当等の支払
被告は,各原告に対し,本件訓練期間中,2週間ごとに1055ユーロの日当を現金で支払うとともに,本件訓練終了後に訓練手当として18万8002円を支払った。このうち,訓練手当は,所得税の源泉徴収の対象とされていた。
(争いがない。)



被告における訓練契約の廃止
被告は,平成30年2月5日以降に採用された日本人客室乗務員との間においては,客室乗務員として労務提供することを内容とする労働契約の締結前に別個の訓練契約を締結することはせず,労働契約の締結後に訓練を実施しているところ,当該訓練は,本件訓練とほぼ同様の内容である。(争いがない。)



推薦状及び証明書の交付
被告は,原告B及び原告Aに対し,平成26年3月24日から令和元年5月26日まで被告のアジア人客室乗務員として働いたことを確認する旨を記載した同年6月7日付け推薦状を交付した。
また,被告は,原告Bに対し,同旨を記載した同年10月30日付け証明
書を,原告Cに対し,同旨を記載した同年11月4日付け証明書をそれぞれ交付した。
(甲21,22,30,31,弁論の全趣旨)
2
争点(本件訓練契約が労働契約に該当するか)について


労働契約該当性の判断基準
本件訓練契約が労働契約に該当するといえるためには,本件訓練期間中の原告らが労働契約法及び労働基準法上の労働者であるといえることが必要である。
労働契約法2条1項は,同法の適用対象となる労働者について,使用者に使用されて労働し,賃金を支払われる者と定義し,労働基準法9条は,同法の適用対象となる労働者について,

職業の種類を問わず,事業又は事務所(以下『事業』という。)に使用される者で,賃金を支払われる者

と定義していることから,労働契約法及び労働基準法上の労働者に該当するためには,①使用者の指揮監督下において労務の提供をする者である
こと,②労務に対する対償を支払われる者であることが必要であると解される。


検討

本件訓練は,教育的性格を有するものであるが,このことと労務の提供
とは両立し得るものであるから,本件訓練期間中に原告らが被告に対して労務を提供しているといえるか否かを個別具体的に検討すべきである。これを本件についてみると,
たしかに,
客室乗務員認証を取得し,
かつ,
機種別訓練を修了しているという要件を満たさない訓練生は,EU委員会規則により,正規の客室乗務員として乗務することはできない(前記前提事実⑷ア)。
しかしながら,①本件訓練の内容は,前記認定事実⑶及び⑷のとおり,
EU委員会規則の要求する基準に準拠しつつも,被告が作成した教材や被告独自のマニュアルに従い,被告の航空機や設備等の仕様及びこれを踏まえて策定された保安業務や,就航する路線や客層に合わせたサービス業務等の内容に則ったものであり,他の航空会社と異なる被告に特有の内容を多分に含んだものである。そして,他の航空会社において訓練を終了して
客室乗務員認証を取得し,機種別訓練を修了していたとしても,本件訓練を受講して,被告独自の保安業務や客室サービス業務に習熟しなければ,実際に被告において客室乗務員として就労することは困難であることが認められる(各原告本人)。以上に加えて,②被告は,本件訓練契約の締結に先立ち,被告の客室乗務員採用選考に応募した各原告に対し,健康診断
と身元確認の条件付きとはいえ,被告のアジア人客室乗務員として採用する旨を通知した上,本件各労働契約において継続して使用する社員番号,レターボックスや制服を付与していること(前記認定事実⑴ア,イ),③本件訓練に引き続いて本件労働契約①が締結され,原告らの被告における客室乗務員としての勤務が開始されていること(前記前提事実⑵),④被
告は,客室乗務員認証の取得の有無や機種別訓練の修了又は搭乗経験の有無にかかわらず,訓練生に対して一律に同内容の訓練を実施していること(前記認定事実⑶ウ),⑤本件訓練契約において,訓練生は,本件訓練を修了した後に被告との間で労働契約を締結することを拒否した場合には,被告が被る訓練費用相当額の損失について支払義務を負うものとされていたこと(前記認定事実⑵オ)からすれば,本件訓練は,訓練生が本件訓練に引き続いて被告において客室乗務員として就労することを前提として,
そのために必要な知識や能力を習得するために実施されたものであって,被告の運航する航空機に乗務する客室乗務員を養成するための研修であったと認められる。
また,⑥被告が各原告に対して本件訓練の訓練手当を支払うに当たって所得税の源泉徴収を行っていること(前記認定事実⑸),⑦被告が原告ら
に対して交付した推薦状や証明書において,原告らが客室乗務員としての稼働を開始した時期を本件訓練契約の始期と記載していること(前記認定事実⑺),⑧被告が現在,日本人客室乗務員との間で,労働契約とは別個の訓練契約を締結することはせず,労働契約の締結後に本件訓練と同様の訓練を実施していること(前記認定事実⑹)は,いずれも,被告において
本件訓練を受講中の訓練生を労働者であると認識していたことを推認させるものである。
そうすると,本件訓練期間中,訓練生が正規の客室乗務員として乗務することがなかったとしても,本件訓練に従事すること自体が,被告の運航する航空機に客室乗務員として乗務するに当たって必要不可欠な行為であ
って,客室乗務員としての業務の一環であると評価すべきであり,原告らは,被告に対し,労務を提供していたと認めるのが相当である。

さらに,前記認定事実⑵ウ及び⑶アによれば,被告の客室乗務員として乗務するためには本件スケジュールに従って本件訓練を受講し,これを修
了するほかないのであるから,本件訓練期間中,原告らには訓練内容について諾否の自由はなく,原告らは,時間的場所的に拘束され,被告の指揮監督下において本件訓練に従事していたこと,原告らに代わって他の者が本件訓練に従事することは想定されておらず,代替性もなかったことが認められる。したがって,本件訓練期間中の原告らは,使用者である被告の指揮監督下において労務の提供をする者であったと認められる。

他方,被告が,各原告に対し,本件訓練期間中,2週間ごとに1055
ユーロもの日当を支払い,本件訓練終了後に訓練手当として18万8002円を支払い,これを所得税の源泉徴収の対象としていたこと(前記認定事実⑸),これらの合計には全ての法定の手当が含まれるとされていること(前記認定事実⑵イ),本件訓練が途中で終了した場合には,訓練生に支払われる訓練手当は,実際の訓練契約の長さに従って計算されるとされ
ていること(前記認定事実⑵エ)からすれば,上記の訓練手当及び日当の支払は,本件訓練に従事するという労務の提供に対する対償としてされたものであり,原告らは,労務に対する対償を支払われる者であったことが認められる。

以上によれば,本件訓練期間中の原告らは,労働契約法及び労働基準法上の労働者であることが認められるから,本件訓練契約は労働契約に該当するというべきである。



被告の主張について

被告は,本件訓練契約が本件各労働契約と明確に区別されており,その
ことを原告らも明確に認識していたから,本件訓練契約を本件各労働契約の一部とみることはできないと主張する。しかし,本件における争点は,本件訓練契約が本件各労働契約の一部であるかではなく,本件各労働契約と別個に締結された本件訓練契約が労働契約の性質を有するかであるところ,本件訓練契約が,その実質的な内容等に照らし,労働契約に該当する
ことは上記⑵のとおりであるから,被告の上記主張を採用することはできない。

被告は,本件訓練は,EU委員会規則の要求する訓練が大半であって,
それと無関係な被告独自の訓練はごく一部にすぎない旨を主張する。しかし,EU委員会規則の要求する訓練が本件訓練の大半を占めるとしても,本件訓練が,被告が作成した教材や被告独自のマニュアルに従い,被告の設備等を用いて行われており,被告に特有の内容を多分に含むものであったことは上記⑵アのとおりである。また,本件訓練を修了したからといって,それだけで他の航空会社において直ちに客室乗務員として乗務できることをうかがわせる証拠は見当たらないのであって,本件訓練の内容が他の航空会社にも通用する汎用性の高いものであったとは認められない。し
たがって,EU委員会規則の要求する訓練が本件訓練の大半を占めることを理由に,本件訓練への従事が被告に対する労務提供に当たることを否定することはできないというべきである。したがって,被告の上記主張は採用することができない。

被告は,本件訓練期間中,原告らは正規の客室乗務員として客室業務を
行うことができないため,被告が本件訓練によって収益を得ることもないから,本件訓練への従事は労務提供に当たらないとも主張する。しかし,上記⑵アのとおり,本件訓練に従事することは,被告において客室乗務員として乗務するために必要不可欠な行為であって,本件訓練の成果は,訓練生が本件訓練修了後に正規の客室乗務員として被告の運航する航空機に
乗務して客室業務を行うことによって,被告に還元されることが予定されていたというべきである。また,被告が,平成30年2月5日以降に採用した客室乗務員に対し,労働契約締結後に本件訓練と同様の訓練を実施していることは,当該労働契約において,訓練に従事すること自体を業務内容とする期間が存在することを前提にするものである。したがって,被告
の上記主張も採用することができない。

なお,被告は,本件訓練契約が労働契約に当たるとすれば,本件訓練に不合格となった訓練生に対して給与を支払い続けなければならないという不合理な結果が生じるなどとも主張するが,本件訓練契約は有期労働契約であり,訓練に不合格となった訓練生との関係では,期間の満了をもって契約を終了させ,契約を更新しないこととすれば足りるのであって,上記主張は採用の限りではない。

3
まとめ
以上のとおり,本件訓練契約は,労働契約に該当する。
したがって,各原告と被告との間で締結された有期労働契約の契約期間を通算した期間は5年を超えるから,被告は,労働契約法18条1項に基づき,本件各申込みを承諾したものとみなされる。

第4

結論
よって,各原告の請求は,被告に対し,支払日の翌日が令和2年4月1日以降に到来する賃金の遅延損害金について当該支払日の翌日の時点における民法404条2項及び3項の定める法定利率の割合を超えて商事法定利率の割合に
よる請求をしている部分を除いていずれも理由があるから認容し,上記部分に係る請求を棄却し,訴訟費用の負担について民事訴訟法64条,61条を,仮執行の宣言について同法259条1項を適用して,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第36部
裁判長裁判官


裁判官

和木田素子山弘剛
裁判官

崎川静香
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