判例検索β > 令和3年(わ)第618号
現住建造物等放火被告事件
事件番号令和3(わ)618
事件名現住建造物等放火被告事件
裁判年月日令和4年1月21日
法廷名札幌地方裁判所
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-01-21
情報公開日2022-03-08 04:00:11
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判決主文
被告人を懲役3年に処する
この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
被告人をその猶予の期間中保護観察に付する。

理由
(罪となるべき事実)
被告人は,北海道石狩市a条b丁目c番地所在の木造亜鉛メッキ鋼板葺2階建家屋(床面積合計約111.6平方メートル)に実父A及び実母Bと居住していたものであるが,以前から気分変調症の影響等により自殺願望があったところ,両親との関係がうまくいかない中で実父の発言を曲解して受け取り,一酸化炭素中毒によって死のうなどと思い,両親らが現に住居に使用し,かつ,実母が現にいる同家屋に放火しようと考え,令和3年8月23日,同家屋内において,バスタオル5枚及びティッシュペーパー1枚に灯油を染みこませ,前記バスタオルを同家屋内1階居間
床面及び階段上に並べて置いた上,同日午前3時40分頃,同家屋内2階の階段付近において,ティッシュペーパーの箱に入れておいた前記ティッシュペーパーにライターで点火し,同箱を前記階段上のバスタオルの上に投下するなどして火を放ち,その火を前記階段等に燃え移らせ,よって,同家屋の一部である前記階段(焼損床面積約1.014平方メートル)及び前記1階居間床面(焼損表面積約0.45平
方メートル)を焼損した。
(証拠の標目)省略
(法令の適用)
罰刑酌条種量の選減
刑法108条


有期懲役刑を選択する。


刑法66条,71条,68条3号

刑の執行猶予

刑法25条1項
保護観察
訴訟費用の不負担

刑法25条の2第1項前段
刑事訴訟法181条1項ただし書

(量刑の理由)
被告人は,深夜に,住宅密集地に所在する本件家屋内において,灯油を染みこませたバスタオル5枚などを,1階居間のカーペットと2階の本棚をつなぐように階段上などに並べた上で,階段に放火している。犯行時刻や場所等に加えて,現に本件家屋の2階で母親が寝ていたことからすると,母親や近隣住民の生命や財産等を脅かす危険な犯行であったといえる。他方で,被告人は,本件家屋内のありあわせの物を用いて犯行に及んでおり,特に,灯油の量が比較的少量であったにもかかわ
らず,そのまま使用しているのであり,本件は周到に準備した計画的な犯行とはいえず,その方法にも稚拙な面がみられる。また,本件犯行においては,幸いにも死傷者はなく,本件家屋の一部が焼損したのみで,近隣家屋への延焼といった事態も生じていない。放火から約1時間が経過した後においても,火炎の高さは50センチメートル程度であり,消防によって水圧を上げずに少量の放水で鎮火されたこと
や,本件家屋の焼損面積の合計が約1.464平方メートルにとどまったことは,本件の犯行態様の危険性が非常に高いものではなかったことを表している。次に,犯行動機をみると,被告人は,かねてから自殺願望を有していたところ,父親から自殺をほのめかす発言をしないよう指摘されたことを,死ねるものなら死んでみろという趣旨だと曲解したことを契機として,一酸化炭素中毒によって死の
うなどと考えて本件犯行に及んでいる。このような経緯で,両親と意思疎通を十分に図らずに,母親や近隣住民に重大な被害を与えかねない放火という行為を選択したことは,短絡的といえる。しかし,被告人は,その程度は重篤ではないが,以前から気分変調症にり患しており,その精神状態において両親との関係がうまくいかないことが積み重なった状況で,本件犯行を実行してしまったとみられ,この点は
被告人のために考慮すべきである。
これらの犯情を踏まえて,前科のない単独犯による類似の現住建造物等放火罪の量刑傾向をみると,本件は酌量減軽をした上で懲役3年前後の幅に位置づけられるものであり,さらに執行猶予を付することも十分に考えられる事案であるといえる。その他の情状をみると,被告人が自分なりに本件と向き合って更生の意欲を示していること,本件のことも把握している心療内科に今後も継続的に通院する予定であること,保釈されてから被告人は両親と同居し,良好な意思疎通を図れるようになってきており,被告人の両親も今後も同居し,被告人の更生に協力する旨誓約していることなど,被告人の更生環境は整いつつある。また,被告人の両親だけでなく,近隣住民も被告人の処罰を望んでいないという事情もある。これらの事情も併せ考慮すると,被告人の犯した罪の重さに照らして懲役3年に処するが,社会内で
の更生の機会を与えるために刑の執行を猶予するのが相当であると判断した。ただし,本件が,重大な被害を生じさせかねない犯行となった可能性が十分にあったことなどからすると,執行猶予の期間はその上限である5年間とする。そして,被告人の更生のためには,家族以外の第三者とのつながりを持つことも大切であるところ,前記通院や就労支援を通じた第三者との関わり合いも考えられるが,この
他にも,保護司などとの面談もその更生に資するものといえ,公的機関による継続的な支援監督をするのが必要かつ相当と判断し,その猶予の期間中,被告人を保護観察に付することとした。(求刑-懲役5年)
令和4年1月21日
札幌地方裁判所刑事第2部

裁判長裁判官

中川

正隆

裁判官

宇野

遥子

裁判官

豊富


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