判例検索β > 令和2年(ワ)第1494号
商標権侵害行為差止等請求事件 商標権 民事訴訟
事件番号令和2(ワ)1494
事件名商標権侵害行為差止等請求事件
裁判年月日令和3年12月17日
法廷名東京地方裁判所
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2021-12-17
情報公開日2022-03-05 04:00:36
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令和3年12月17日判決言渡
令和2年(ワ)第1494号

同日原本交付

裁判所書記官

商標権侵害行為差止等請求事件

口頭弁論終結日令和3年10月6日
判決原告A
同訴訟代理人弁護士

中井憲治田辺信彦植松祐二松原香織
同訴訟復代理人弁護士

北村恵眞被告B被告C
上記両名訴訟代理人弁護士

大口昭彦
上記両名訴訟復代理人弁護士

勝又祐一
上記両名補佐人弁理士

神保欣正主文1
原告の請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告の負担とする。
事実及び理由
第1請求の趣旨
1被告らは,武道に関する宣伝用のウェブサイトに別紙被告標章目録1記載の標章を付して電磁的方法により提供し,又は武道に関するめくり若しくは宣伝用のパンフレット等の広告物に同目録1及び2記載の標章を付して展示若しくは頒布してはならない。
2被告らは,武道の教授,普及,演武その他これらに関連する活動において,別紙被告標章目録1及び2記載の表示を使用してはならない。
第2事案の概要
1本件は,剣術の小野派一刀流の宗家であるという原告が,被告らに対し,被告らが,原告から破門されたにもかかわらず,①日本古武道振興会(以下古武道振興会という。)のウェブサイトにおいて小野派一刀流剣術(別紙
被告標章目録1)の名称を使用し,②古武道大会における演武やパンフレットにおいて小野派一刀流(別紙被告標章目録2)の名称を使用することが,原告の周知な商品等表示である別紙原告商品等表示目録記載の標章(以下原告標章という。)と誤認混同を生じさせる不正競争行為に当たり,また,原告の登録商標(以下本件商標という。)に係る商標権を侵害し,さらに,
原告の代表する団体の名称権の侵害行為にも当たるなどとして,不正競争防止法3条1項,商標法37条1項及び名称権に基づき,その差止めを求めた事案である。
2前提事実(当事者間に争いのない事実並びに掲記した証拠及び弁論の全趣旨により認定できる事実。なお,本判決を通じ,証拠を摘示する場合には,特に
断らない限り,枝番を含むものとする。)
(1)小野派一刀流の系譜

古武道たる剣術の流派である小野派一刀流は,一刀流の正統とされ,室町時代の伝説的な剣術家である伊藤一刀斎により創始され,徳川秀忠及び家光の剣術師範役を務めた小野忠明によって継承され,その後,小野忠一のときに津軽藩主に伝えられた。(甲13,乙4の6の1~16)

津軽藩主の津軽信寿は,異説もあるが,小野家の道統を一時的に引き継いだとされており,以後,津軽藩主家においても,小野派一刀流の秘伝書が継承された。江戸時代中期頃,津軽藩に仕えていた山鹿高美は,小野忠喜から小野派一刀流の伝授を受け,以後,その道統が,山鹿家の代々に継承された。(甲13,乙23,42の13)
(2)笹森順造(以下順造という。)による小野派一刀流の継承等ア
順造は,明治19年5月18日,旧津軽藩士の子に生まれ,大正15年4月7日,山鹿高美の道統を継承する山鹿高智から,小野派一刀流の割目録の授与を受けた。また,順造は,津軽信寿(第6代)の9代後である津軽義孝を通じ,津軽家に伝承されていた一刀流の極意皆伝,一子相伝の口伝聞書などの秘伝書一切を継承した。(甲59の4,乙23の8,9,
乙59)

順造は,政治家として,衆議院及び参議院議員を20年以上にわたり務めたほか,全日本学生剣道連盟会長や全日本剣道連盟最高顧問などを務め,昭和38年には,剣道場兼礼拝堂である禮楽堂を建設し,一刀流,神夢想林崎流(居合)及び直元流(大長刀)などの指導に当たっ

た。(甲17,42の1,乙23)

順造の子である笹森建美(以下建美という。)は,昭和44年7月,禮楽堂の礼拝堂(駒場エデン教会)の牧師に就任したが,昭和51年2月,順造が死去したことを受けて第17代宗家となり,剣道場を含む禮楽堂の新たな堂主となった。(甲51の2)

(3)当事者等

被告Cは,昭和39年10月1日には,順造の門人となり,禮楽堂において,小野派一刀流剣術,新夢想林崎流抜刀術,直元流大長刀術,渋川流十手術(以下,これらを総称して小野派一刀流等4流派といい,渋川
流十手術を除く各流派を総称して小野派一刀流等3流派という。)の稽古を行い,昭和46年4月4日,順造からこれらの流派全ての免許皆伝を受けた。被告Cは,平成12年頃から,建美と離反し,禮楽堂で毎週土曜日に建美の指導の下に行われていた小野派一刀流剣術の教授を中心とする定例稽古には参加せず,順造の生存中から続く日曜日の定例稽古に参加していた。(甲20,乙63,68,74)

被告Bは,順造の三女の子であり,幼少の頃から祖父である順造,被告Cらから小野派一刀流剣術等4流派の指導を受け,順造の没後も禮楽堂において剣術の修練をしていた。被告Bは,日曜日の定例稽古に参加するとともに,土曜日の定例稽古にも参加していた。(甲19,乙2,73,75)


原告は,警察で剣道の指導などに当たっていたが,平成12年8月16日,建美の門人となり,平成29年5月10日には,建美から小野派一刀流の免許皆伝を受けるに至った。(甲20,25,97)

(4)建美の死去後の事情

建美は,平成29年8月15日に死亡した。建美の配偶者であり,その財産全部を相続したDは,建美が遺した禮樂堂に関する遺言書(甲1
5)に基づき,原告を禮楽堂堂主及び小野派一刀流宗家に,被告
Bを直元流大長刀術宗家及び古武道振興会の事務連絡責任者に,
Eを神夢想林崎流宗家に指名した。(甲5,6)

被告Bは,平成29年9月15日,古武道振興会に対し,その加盟流派たる小野派一刀流,神夢想林崎流及び直元流大長刀術の

代表会員たる地位を建美から受継した旨の届出をした。同様に,原告は,平成30年1月10日,古武道振興会に対し,加盟流派たる小野派一刀流の代表会員たる地位を受継した旨の届出をし,Eは,同日,同様に,古武道振興会に対し,加盟流派たる神夢想林崎流の代表会員たる地位を受継した旨の届出をした。(乙20)


古武道振興会は,平成30年4月21日,常任理事会を開催し,小野派一刀流等の受継問題についての審議を行い,被告Bに対し,その修行内容や同会主催の演武大会への参加実績等を考慮して,小野派一刀流及び直元流大長刀術の代表会員たる地位を受継させ,Eに対し,神夢想林崎流の代表会員たる地位を受継させ,原告の受継の届出については,新規入会の申し出と扱う旨の決定をした。(乙20の1)


原告は,平成30年12月4日,被告らに対し,被告Bが代表会員とする旨の受継届を古武道振興会に対して提出したこと,被告らが小野派一刀流の一刀流極意とは異なる独自の形を展開していること,被告らが後記(6)アの商標権を侵害したことなどが宗家に対する重大な離反行為である旨の警告書を送付し,平成31年3月5日付けで,被告らに対し,禮楽堂
(小野派一刀流等四流派)を破門する旨の通知をした。(甲5~8)(5)本件商標の登録及び譲渡

建美は,平成7年12月1日,以下の本件商標を出願し,平成10年5月1日,その登録を得た。(甲1,2)
登録番号

第4141452号

出願日

平成7年12月1日

登録日

平成10年5月1日

商標
商品及び役務の区分

第41類

指定商品又は指定役務剣道を主とする古武道の教授

Dは,平成30年3月26日,原告に対し,本件商標に係る権利を譲渡した。(甲12)

(6)別紙被告標章目録1及び2の各標章の使用

古武道振興会のウェブサイトにおける表示(以下本件標章使用①という。)

古武道振興会は,文化遺産である古武道の保存振興を目的とする団体であるところ,そのウェブサイトの加盟流派のページ(以下本件ウェブページという。)は,五十音順に加盟流派を一覧した体裁のものであり,そのあの欄において小野派一刀流剣術の名称が,さの欄
において新夢想林崎流居合術の名称が,たの欄において直元流大長刀術の名称がそれぞれ表示され,当該各流派の代表及び流派連絡者として,被告Bの名前及び連絡先が記載されている。(甲3)イ
演武大会における使用(以下本件標章使用②といい,本件標章使用①と併せて本件標章使用という。)
古武道振興会や靖国神社等が開催する演武大会に使用された以下のパン・





フレットやめくり(以下本件めくり等という。)には,以下に記載するとおり,被告B又は被告Cの演武に関し,小野派一刀流剣術又は小野派一刀流の名称が記載されていた。
(ア)平成31年4月20日に開催された浅草第37回日本古武道大会のパンフレットには,第一会場における演武者として,無双神伝居合重信流詰合(林崎甚助重信)Fなどの記載と並び,小野派一刀流剣術(伊東一刀斎景久)という記載の下,被告らの氏名が表示されているほか,これを一覧したページに,無双神伝居合重信流詰合(F)などという記載と並び,小野派一刀流剣術(B)と略記されている。また,被告らの演武においては,小野派一刀流との記載がされた






めくりが使用された。(甲10)
(イ)平成31年4月22日に開催された靖国神社春季例大祭奉納演武,令和元年10月18日に開催された靖国神社秋季例大祭奉納演武のパンフレットには,演武者の順番表に,双水執流小具足腰之廻組討,G
などといった記載と並び,小野派一刀流剣術として,被告Cの氏名
が掲載されている。(甲11の1,4)
(ウ)令和元年5月4日に開催された下賀茂神社奉納演武,同月5日に開催された白峯神宮奉納演武,同年11月3日に開催された日本古武道大会のパンフレットには,前記(ア)の日本古武道大会のパンフレットと同様の記載がされている。(甲11の2,3,5)
3争点
(1)商標権侵害の成否
アイ
演武は本件商標の指定役務と同一又は類似であるか。(争点2)


本件標章使用に本件商標に係る商標権の効力が及ぶか。(争点3)

本件標章使用が商標法2条3項の使用に当たるか。(争点1)

本件商標に商標法4条1項7号の無効事由があるか。(争点4)

(2)不正競争該当性について

本件標章使用が商品等表示の使用に当たるか。(争点5)


原告標章が周知どうか(争点6)

(3)原告は団体の名称権侵害を理由に本件請求をし得るか。(争点7)第3争点に関する当事者の主張
1争点1(本件標章使用が商標法2条3項の使用に当たるか。)について(原告の主張)
(1)本件標章使用の主体

本件標章使用①について
古武道振興会は,代表会員の入会及び受継に常任理事会の承認を要するとしているが,その申請者が,商標法上,その流派名を適法に使用す
る権限を有するかを判断するための権限を有していない。すなわち,古武道振興会は,申請者による申請を適法であると信頼し,その提供された情報を掲載しているにすぎないので(乙84),本件ウェブページにおける掲示の主体は申請者である被告らである。

本件標章使用②について
古武道振興会の演武には,加盟流派の代表会員が当該一門に属するとして申請し,会員登録簿に記載した者のみが出場し得るが(甲4),主催者又は共催者である古武道振興会や神社は,代表会員や出場会員が,当該流派名を使用する適法な権限を有するかを判断する権限を有さず,加盟流派の申請した情報を記載しているにすぎないので(乙84),本件標章使用②の主体は申請者である被告らである。(2)本件標章使用①の広告該当性
古武道振興会は,青少年を教授育成し,伝統文化を継承することを目的に掲げ(甲4),演武大会を開催するなどしているのであり(乙4),演武を観覧した者が,個々の流派に興味を抱いたような場合,本件ウェブページを
閲覧し,流派代表者に連絡することは自然な流れである。したがって,本件標章使用①は,本件商標の指定役務たる剣道を主とする古武道の教授と同一又は類似の役務に係る広告に当たる。
実際,本件ウェブページは,加盟流派の紹介のために提供されているものであり,各流派に興味を抱いた者の便宜のため,加盟流派の連絡先を掲載し
ているのであるから,古武道の教授を含む武道に関する役務に係る広告として,現実に機能している。特に,現代においては,何かを調べる際にインターネットで検索するのが通常であり,各流派に興味を抱いた者は,本件ウェブページを閲覧するものと考えられる。
(3)本件標章使用②の使用該当性

本件めくり等は,古武道の教授又はその成果たる演武を披露する
団体を表示するものである。したがって,被告ら行為②は,被告らによる教授又は演武という役務の提供の用に供する物に標章を付したものを役務の提供のために展示し,又は,広告に標章を付して頒布するものであり,商標法2条3項の使用に当たる。

これに対し,被告らは,本件標章使用②に係る標章は,剣術の系統を示すにすぎず,被告らの演武の出所を表示するものではないと主張する。しかし,剣道における流派名は,その流派名を用いてされている剣道の教授,普及,演武その他これらに関連する活動を目的とする団体を示す固有名詞としても使用されるのであるから失当である。
(被告らの主張)
(1)本件標章使用の主体

本件標章使用①について
本件ウェブページは,古武道振興会が主体となって,その紹介及び広報のために開設し,掲示しているものであり(乙84),被告らは,本件標章使用①の主体ではない。


本件標章使用②について
本件めくり等における表示は,古武道振興会など演武大会の主催者や奉納の主催者がしているものであり,被告らは,本件標章使用②の主体ではない。

(2)本件標章使用①の広告該当性
古武道振興会は,古武道の保存振興等を目的とし,この目的を達成するために古武道各流派に関する調査研究等を行う団体であり(甲4),古武道の教授を目的とする団体ではないから(乙84),本件ウェブページの掲示をもって,被告らが,剣道を主とする古武道の教授という指定役務に係る広告をしたということにはならない。

本件ウェブページは,単に加盟流派として,小野派一刀流剣術を表示し,その代表者の名前を掲載しているにすぎず,流派の日常的活動,指導体制,道場の有無,指導料など,古武道の教授に係る宣伝・広告は何ら掲載されていない。古武道振興会の団体としての目的からしても,本件標章使用①は,商標法2条3項8号の広告に係る使用に当たらない。
(3)本件標章使用②の使用該当性
本件めくり等は,演武される剣術(剣法)の型(形)が,小野派一刀流という流派の型(形)であることを示しているにすぎないので,本件標章使用②は,商標法2条3項8号にいう使用に当たらない。2争点2(演武は本件商標の指定役務と同一又は類似であるか。)について(原告の主張)
(1)本件商標の指定役務との同一性
本件商標の指定役務たる剣道を主とする古武道の教授は,被告らのする古武道の演武と同一の役務に当たる。
すなわち,武道の修練は,師と弟子が志を同じくして修行し(師弟同行),教授することを基本とするものであり(甲27,29),例えば,師の
面前でする形演武は,その実態も意識も形の修行たる教授そのものである。公開演武には演芸の上演としての側面もないではないが,一般の娯楽に供する興業とは一線を画し,その実質又は中核において,古武道の教授そのもの又はその延長にある。(2)本件商標の指定役務との類似性

仮に同一の役務ということはできないとしても,本件商標の指定役務たる剣道を主とする古武道の教授は,被告らのする古武道の演武と類似の役務に当たる。
すなわち,前者の需要者は,教授を現に受け又は受けようとする者であるのに対し,後者の需要者は,教授を現に受け又は受けようとする者を主体と
し,武道一般に関心を有する若干の者からなるのが通常であって,両者は概ね一致する。また,古武道たる剣術の教授は形の修錬であり,剣術の演武も形の修錬であり,修錬の成果たる形の披露であるから,剣術の教授を行い又教授を受ける者が,教授の際と同じ用具を使用し,教授を受け修錬した形を行うとの点において,役務の提供の手段,目的,提供に関連する物品が一致
する。さらに,演武のパンフレットには,演武する流派の表記とともに,当該流派の来歴,稽古場所,連絡先等が記載されることが多い(甲44,78)。
これらの事情によれば,被告標章を被告らの提供する演武の役務に使用した場合,演武の観覧者たる需要者をして,それが剣道を主とする古武道の教授を提供する原告の提供に係るものであると誤認させるおそれが大きいので,両者は類似の役務に当たる。
(3)役務該当性
被告らは,被告らの活動が対価を得るものでないことを理由に,被告らの活動は,そもそも商標法上の役務に当たらないと主張するが,被告標章は,古武道の教授及び演武の出所を表示すると認識され得るものであるから,
無償の活動に係るものであったとして,その使用は,出所の誤認混同を生じさせ,業務上の信用を毀損し得る。このため,被告らの活動は,差止めの対象となる役務に該当する。
(被告らの主張)
(1)本件商標の指定役務との同一性

演武という行為は,人前で武芸を演じること,あるいは武芸を練習することをいう。被告らが参加した演武大会も,古武道の保存振興,武術披露を目的とするものであった。これに対し,古武道の教授とは,流派の看板を表示して,入門者を募り,束修・入門料,謝等の支払を求め,武道を教えることをいう。被告らは,旧師の実践を厳密に踏襲し,金銭の授受は
行わないことを鉄則としてきたのであるから,本件標章使用は,古武道の教授に当たらない。
これに対し,原告は,教授は演武を含むと主張する。確かに,師
が弟子に形の反復練習をさせれば,教授に当たるかもしれないが,それは道場などの限定された場における行為であって,不特定多数の者
や神前でする演武とは趣旨が異なる。公開の演武が,商標法上の
教授に含まれるというのは不当な拡大解釈である。
そもそも,商標実務上,教授と実演は明確に区別されており,両
者は同一の役務ということはできない。本件商標については,指定役務として古武道の教授のみが選択され,剣術の演武は選択されなかったのであるから,後者に商標の効力が及ばない。原告は,別の商標禮楽堂を出願した際には,後者をも指定役務に選択している。
(2)本件商標の指定役務との類似性
原告は,少なくとも,教授と演武が類似の役務であると主張する
が,前者は,教える意思と教えられる意思があって初めて成立する行為であるのに対し,後者を行う者の意思は,演武を実演する点にあり,その観覧者
の意思は,それを観覧する点にあるのであるから,両者は異なるものである。原告は,両者に類似する要素があると主張するが,①公開の演武を観覧する者は,主催者や出演者の関係者や一般の観覧者であるから,それらの者が別の場面で剣術の教授を受けることがあるとして,需要者が共通するとはいえず,②演武の会場は,その主催者が提供するのであり,剣道を教授する出
演者が提供するわけではないから,同一の事業者が提供するものであるともいえず,③原告が指摘するパンフレットの記載も,出演流派を紹介するものであり,稽古場所のように剣道の教授と関連する記載を常にするわけではない。
(3)役務該当性

商標法の役務とは,他人のために行う労務又は便益であって,独立して取引の目的たり得べきもの,あるいは,独立して市場において取引の対象となり得るものをいうと解するべきであるが,被告らは,演武その他の活動において,何らの対価も受けていないので,本件標章使用は,そもそも商標法上の役務に当たらない。

3争点3(本件標章使用に本件商標に係る商標権の効力が及ぶか。)について(被告らの主張)
(1)本件商標にいう小野派一刀流は,江戸時代から著名であった剣術の流派名であり,ほぼ一般名詞化した存在である。小野派一刀流は,小野家が徳川将軍家指南役となった後,様々な伝系で伝播し,中西一刀流を始め種々の派が成立したが,その各々が,小野派一刀流を自称し,その名称をステイタスとし,その正系を自負していた。
原告が主張するように,流派名が,団体を特定する方法に用いられるなどする事例があるにしても,それが直ちに当該団体を示す固有名詞となるものでもない。まして,小野派一刀流については,古来から特定の団体に独占的に使用されていたものではないのであるから,その名称をもって,役務
の出所を特定されることはない。
したがって,本件商標から読み取れるのは,剣術(剣法)の型(形)や系統であり,本件商標は,質や態様を表示するものとして,商標法3条1項3号に該当する。本件標章使用は,これを普通に用いられる方法で表示する(商標法26条1項3号)にすぎないというべきであるから,本
件標章使用に本件商標の効力は及ばない。
(2)原告は,本件商標が,原告の周知な標章として,自他識別機能を獲得したと主張する。もとより,小野派一刀流の名称が,順造の活動によって,世間に周知されたことは事実であるが,それは剣法の形・系統の名称としてのものであり,他に,本件商標が,剣道を主とする古武道の教授及び剣術の演武という役務の出所表示機能を獲得していることの立証はない。(原告の主張)
(1)剣道の流派名は,剣術の流儀など特定するためにも使用されるが,当該流派名を用いる団体を示す固有名詞にも使用される。そして,流派名が,古武道の教授や演武という役務に使用された場合,その出所である団体を示す固
有名詞に使用されていることが明白であり,自他識別機能を果たす。また,小野派一刀流という言葉が,剣法の型や系統などを示すことがあるにしても,本件標章使用は,剣道を主とする古武道の教授や被告らによる剣術の演武の態様を普通に用いられる方法で表示するものであるとはいうことはできないから,本件標章使用について,商標法26条1項3号が適用されると考えることもできない。
(2)小野派一刀流の名称は,前記2(原告の主張)のとおり,禮楽堂を中心に剣術の教授等を行う団体であって,原告が承継したものを表示するものとして周知であり,剣道を主とする古武道の教授及び剣術の演武の役務に係る出所表示機能を獲得しているので(商標法3条2項),いずれにせよ,本件商標に係る商標権の効力は妨げられない。

4争点4(本件商標に商標法4条1項7号の無効事由があるか。)について(被告らの主張)
本件商標は,建美が小野派一刀流の第17代宗家であるということを薄弱な資料から認定した上で登録されたものであり,その出願過程に重大な瑕疵がある(乙86,87)。本件商標の出願時において,建美以外にも小野派一刀流
の名称を使用する団体及び個人が存在したが,審査官は,小野派一刀流の名称が,幕末から特定の団体に独占的に管理されており,これを使用する団体が一個であるという歴史的に誤った認識を抱いていた疑いもある。本件商標は,商標法4条1項7号の公の秩序又は善良の風俗を害するおそれがある商標に当たり,無効事由が存在しているから,本件商標に基づきする原告の請求は権
利濫用に当たる。
(原告の主張)
本件商標の登録査定時において,建美以外に小野派一刀流の標章を使用していた者は,順造の弟子であった者(甲20)など,順造及び建美の明示又は黙示の許諾を得た者(甲94)のみであり,その出願過程に瑕疵もない。そ
れ以外の者は,小野派一刀流に,中西派,会津藩伝,惣角伝
などの修飾を付した上で使用し,出所の混同が生じないようにしていた。その他の使用例は,剣道の流儀を特定する言葉に使用しているものや,建美の小野派一刀流が周知化する前の事例にすぎない。5争点5(本件標章使用が商品等表示の使用に当たるか。)について(原告の主張)
(1)本件標章使用の主体
本件標章使用の主体が被告らであることは,前記1(原告の主張)(1)のとおりである。
(2)使用該当性等
原告の事業は,営利を目的としないが,経済上の収支計算の上で行われて
おり(甲35,36),不正競争防止法上の営業に該当するから,原告標章は,同法上の商品等表示に当たる。そして,被告らの活動も,原告の事業と正に同一のものであるから,仮に,被告らが,その活動のために反対給付を受けるなどしていないとしても,本件標章使用は,原告の商品等表示を使用し,営業の混同を生じさせる行為(不正競争防止
法2条1項1号)であるといえる。
(被告らの主張)
(1)本件標章使用の主体
本件標章使用の主体が被告らではないことは,前記1(被告らの主張)(1)のとおりである。

(2)使用該当性等
不正競争防止法は,商業活動の適正化のための商業法規であるが,被告らによる小野派一刀流の実践は,そのようなものとは次元や領域を異にし,同法の適用対象外である。また,小野派一刀流の教授や演武は,経済的対価を得ることを目的とせず,取引社会における事業活動などとは無縁であり,同
法の営業にも当たらない。法の目的に鑑みれば,商品等表示は,対価性を有し,反対給付のあるものに係るものをいうと考えるべきであるところ,被告らが,小野派一刀流の名称を使用してする活動は,何らの反対給付も伴わないものであるから,同法2条1項1号の商品等表示を使用し,営業の混同を生じさせる行為に該当しない。
6争点6(原告標章が周知かどうか)について
(原告の主張)
(1)小野派一刀流が,剣術の周知な流派名であることは被告らも自認する。そして,伝統芸能の流派名において,それが宗家(家元)制を採用している場合には,当該流派名は,宗家(家元)の営業表示に当たる(知的財産高等裁判所平成25年2月28日判決・平成24年(ネ)第10064号)。以下
のとおり,小野派一刀流は,宗家制を採用しており,原告は,その宗家であるから,原告標章は,原告の周知な営業表示に当たる。

小野派一刀流が宗家制をとっていること
古武道たる剣術では,前宗家から唯授一人で相伝を受けた宗家を頂点とする宗家制を採る例が多い。宗家制とは,前宗家が新宗家を指名し,当該流派の正統を一人に限定して承継させ,もって,正統宗家及び流派道統の
尊厳と権威の維持・存続を図ることを趣旨とし,宗家が,次期宗家の選定と相伝,弟子の取立てと免許の付与,破門などに広範な権限を有する(甲13の1の2,甲28)。
小野派一刀流とは,幕藩体制下,一刀流に多くの支流・傍流が生じるなか,小野家及び津軽家(山鹿家)に伝承された正統を区別するべく生じた
名称であり(甲13の1の1),順造も小野家及び津軽家から正統を継承して宗家に就任し,道場たる禮楽堂を創設した。実際,その門人は,入門に当たり,堂主及び宗家に対し,誓約書(甲17)を提出しており,深刻な誓約違反をすれば破門された。

原告が小野派一刀流の宗家を継承したこと
建美が,順造から宗家を継承したことは,客観的な各種文献資料にも明記されるとおりである(甲13の1,4,乙4の6の3~15)。被告らも,建美を小野派一刀流の宗家として扱ってきたのであり,建美の申請に基づき,その流派会員として古武道振興会での演武をし(甲38,乙4の2~5),建美の死去後も,建美の遺言に基づくとして,古武道振興会に受継届を提出するなどしている(乙20)。

そして,原告は,建美が死亡した翌日の平成29年8月16日,その公正証書遺言に基づき(甲14),その妻であるDの指名を受け,小野派一刀流の宗家を継承した上,同年12月15日には,建美の財産を相続したDから小野派一刀流の伝書の譲渡を受けた。したがって,小野派一刀流の宗家及び禮楽堂堂主の地位を原告が継承していることは明白であり,原告
標章は,宗家たる原告の営業表示である。
(2)仮に,江戸時代において,小野派一刀流の多数の支流・傍流が存在したという事実があったとして,小野派一刀流の中興の祖と言われる順造及び順造の後継者である建美は,剣道界に対し,原告標章が,禮楽堂において剣術の教授等を行う団体を示す固有名詞であり,当該団体の代表者たる宗家の営業であることを示す表示であること広く知らしめたのであるから,いずれにせよ,原告標章は,原告の周知な営業表示というべきである。

順造が原告標章を剣道界に周知したこと
順造は,昭和38年に禮楽堂を創設したが,その献堂式には全国の著名
な剣道人が参集し(甲17,39),小野派一刀流の呼称で剣術の教授等を行う団体の代表者としての地位と名声を確立した。
また,順造は,昭和39年,オリンピック東京大会で演武をし(甲41),昭和40年刊行の『一刀流極意』の刊行会には,全国の著名な剣道家が名を連ねた(甲31の2,39,40)。

順造は,その没後も,全日本剣道連盟によって,剣道殿堂の第一顕彰者15名の1人に選ばれ(甲39),小野派一刀流第16代宗家と紹介されるなど(甲42),その周知性は現在まで維持されている。なお,被告らは,順造が,金銭を徴収せず,原告標章による営業をしていなかったように主張するが,順造は,禮楽堂の創設などのため,寄付や会費を集めていた(甲17,51,57,乙61,73)。

建美も原告標章を各方面に周知したこと
小野派一刀流宗家を承継した建美は,順造が周知させた原告標章を承継したが,平成6年1月1日,禮楽堂維持会を発足させ,入会金,維持会費その他の収入を原資とし,禮楽堂において剣術の教授等を行う団体の活動の性質を経済上の収支計算の上に立って行われる営業とした。
そして,建美は,その後,後記①~④のとおり,小野派一刀流の宗家と
して,原告標章を使用した活動を各方面でした。その結果,遅くとも建美が死去した平成29年8月までに,原告標章は,建美による小野派一刀流宗家としての活動に係る営業表示として周知となったといえる。


建美は,古武道の主要団体である古武道協会(甲53)及び古武道振興会(甲3の3)の役員を務めたが,当該事実は日本武道館五十年史や
日本古武道演武大会のパンフレット等で周知された。建美は,古武道協会から古武道功労者(甲43)に選ばれ,古武道振興会からも感謝状(甲52)を贈られるなど,古武道の保存振興に大きな功績を残した人物として古武道界で広く認められている。


建美が,小野派一刀流の宗家であり,その教授等の活動をしていることは,武道関係の書籍や雑誌(甲13の1,4,甲28,54,58~61),一般書や一般雑誌(甲51の2,甲55~57,62~66,乙53の1)のほか,東京新聞や読売新聞,NHKの番組の報道(甲70~72),DVDやウェブサイト,動画サイトユーチューブ(甲73~76,乙42の11)などで周知紹介された。



古武道協会や古武道振興会が開催する演武大会などのパンフレットや記念誌などを見ても,建美が,小野派一刀流の宗家であり,その教授等の活動をしていることなどが掲載されており(甲38,78,乙4の2の12~32,乙4の3の14~33,乙4の4の12~31,乙4の5の13~36),その事実は,それらの配布や送付を受けた観覧者や関係者に周知されていたということができる。



そのほか,建美は,平成10年から平成27年まで,警察大学校で小野派一刀流の教授をし,日本武道館が開催した研修会やセミナー(甲79,80)の講師を務めるなどしていた。また,建美は,平成12年に禮楽堂を建て替えるに当たっても,その報告及び披露式の案内状を関係者に広く送付し(甲81),各方面から多数の来賓の参集を得た(甲5
8の2,甲60の3)。

原告が宗家を承継したことが周知であること
小野派一刀流の宗家たる地位を原告が承継したことは,日本武道館が開催する古武道の演武大会のパンフレットなどに記載され,関係者に周知さ
れた(甲44,78の12,82の1,2)。また,原告は,警視庁警務部教養課剣道指導室教師としても活動しており(乙44),警察関係者の間において,原告の宗家承継は周知であったといえる。
原告の公開演武は,インターネット上でも公開されている(甲83~86)。南房総市で行われた演武大会や野田市における講演会に原告が参加
した際には,原告が小野派一刀流の宗家であることが,パンフレットや市のウェブサイト,市長のフェイスブックなどで紹介された(甲88~90)。
原告が小野派一刀流の宗家であることは,古武道協会のウェブサイトや四十年史,禮楽堂のウェブサイトにおいても周知され(甲33,53,乙
8),古武道振興会のウェブサイトも,原告が,小野派一刀流の代表者であると表示している。その他のウェブサイトやブログなどにおいても,同様の事実を記載したものがある(甲75の5,91,92)。
以上のとおり,原告の宗家継承の事実も周知である。
(被告らの主張)
(1)原告は,宗家制を採用していれば,直ちに流派名が宗家の営業表示となるように主張するが,そのように解すべき根拠はない。以下のとおり,小野派一刀流の流派名は,営業表示として周知ではない上,建美や原告が,宗家を承継したことも周知でないから,原告の主張は失当である。

小野派一刀流が江戸時代初期から周知された流派であることは被告らも争わないが,それは剣術の流派の名称としてのものであり,原告の営業表示としてのものではない。
原告は,小野派一刀流が宗家制をとっていると主張するが,小野家と流派との関係は,江戸時代から希薄になっていた。順造も,宗家制に否定的であり,日頃から

宗家は私で終わりです。

と述べていた。原告が承継したのは,せいぜい建美伝の宗家というべきものにすぎない。
また,小野派一刀流に由来する一刀流は,新選組の齊藤一,大東流合気
術の武田惣角(乙37),秩父明信館の高野佐三郎(乙11,12),羽生興武館の小澤丘(乙38)など,全国に伝承者がいる(乙39)。順造の継承した津軽伝が,唯一のものというわけではない(乙89)。イ
順造が,建美に宗家を継承させたとの主張は否認する。建美が後継者となることが決まったのは,順造の死去した後,門人のHが笹森家重視の議論をし,被告Cも,これに賛同した結果にすぎない。原告は,建美の遺言に基づき,Dの指名を受け,宗家を承継したと主張するが,建美の遺言のうち宗家の承継に係る部分は法定遺言事項ではないから,故人の意向を推認するという以上の効力はない。

原告が小野派一刀流の宗家を承継したことも周知ではなく,業界の限られた一部において,原告が小野派一刀流の宗家であると表示されているにすぎない。原告が剣道大会などで演武したからといって,宗家を承継したことが周知になったということはできない。実際,現時点で,小野派一刀流の流派名を使用する団体及び個人は,少なくとも9流派(乙89の1)に及ぶ。
(2)確かに,順造は,小野派一刀流の流派名を世に知らしめたが,小野派一刀流の活動において,指導料を始め,金銭を徴収することを固く禁じており,収支計算の上に立った事業活動をしていなかった(乙1の1~4,乙28,74,75,77)。建美も,自らは営利目的の事業者ではないとしていたので(乙30),建美が小野派一刀流による活動をしていたとして,そ
れをもって,原告標章を営業表示に使用していたということはできない。むしろ,順造による小野派一刀流に係る活動は,被告らが固守しているのであり,原告の活動は,建美が建替え後の禮楽堂で始めた活動に由来するものにすぎない。原告こそ,被告らによる小野派一刀流の実践の成果にフリーライドしているというべきである。

7争点7(原告又は原告の団体の名称権が侵害されたといえるか。)について(原告の主張)
自然人は,自己の氏名を他人に冒用されない権利を有しているが(最高裁昭和58年(オ)第1311号同63年2月16日第三小法廷判決・民集42巻2号27頁参照),団体の名称についても同様に考えるべきである,本件標章
使用は,法人格のない団体である小野派一刀流の名称を冒用するものであるから,これを代表する地位にある原告は,その団体の名称権の侵害を理由として,当該行為の差止めを求めることができるというべきである。(被告らの主張)
原告のいう名称権なるものは,法律上の根拠を有さず,判例上も確立された
権利ということはできない。まして,権利能力のない社団でさえない任意団体の名称権が,その代表者に帰属すると考えるべき根拠もない。
第4当裁判所の判断
1本件標章使用が商標法2条3項の使用に当たるか(争点1)について(1)本件標章使用①について
前記前提事実(6)アのとおり,古武道の保存振興を目的とする古武道振興会のウェブサイトの加盟流派のページ(本件ウェブページ)には,淺山一傳流兵法を皮切りに,五十音順に加盟流派が列挙されており,そのあの欄において小野派一刀流剣術の名称が,さの欄において
新夢想林崎流居合術の名称が,たの欄において直元流大長刀術
の名称がそれぞれ表示され,当該各流派の代表及び流派連絡者とし
て,被告Bの名前及び連絡先が記載されているとの事実が認められる。同ウェブページの記載の形式及び内容によると,同ウェブページにおいて五十音順に記載されているのは,同振興会に加盟し,保存振興の対象とされている古武道の各流派の名称そのものであって,各流派の代表者の氏名や連絡先は記載されているものの,その代表者の運営する道場や団体名などの記
載はない。
このことは,小野派一刀流等3流派についても同様であり,本件ウェブページには,小野派一刀流剣術,新夢想林崎流居合術及び直元流大長刀術という流派の名称が,その語頭の五十音に従ってそれぞれの箇所に分かれて表示されているが,その記載内容,方法等によると,これらは保存
振興の対象となる流派の名称として記載されていると認めるのが相当であり,その代表者である被告Bの所属する道場や団体に関する記載はないことも考慮すると,被告らの提供するサービスの出所として表示されているということはできない。
本件商標は小野派一刀流という古武道の流派名そのものから成るもの
であり,これを古武道の流派の名称やその特徴的な形を意味するものとして用いる限りは,需要者が提供される役務の出所を認識し得るような使用態様(いわゆる商標的使用)には当たらないと解されるところ,上記のとおり,本件ウェブページにおける小野派一刀流剣術という表示は,保存振興の対象とされている古武道の流派の名称を掲げたものであり,商標法2条3項の使用には当たらないと解するのが相当である。
(2)本件標章使用②について

前記前提事実(6)イ(ア)及び(ウ)のとおり,平成31年4月20日開催の浅草第37回日本古武道大会,令和元年5月4日開催の下賀茂神社奉納演武,同月5日開催の白峯神宮奉納演武,同年11月3日開催の日本古武道大会の各パンフレット(甲10,甲11の2,3,5)には,演武される流派として小野派一刀流剣術(伊藤一刀斎景久)が記載され,その下
には演武者として被告らの氏名が表示されているほか,演武される流派の順序を一覧できるように表示したページにおいても小野派一刀流剣術(B)との記載がされているとの事実が認められる。上記各パンフレットの記載のうち,小野派一刀流剣術(伊藤一刀斎景久)との記載は,同各大会等で演武されるのが伊藤一刀斎景久を創
始者とする小野派一刀流剣術という流派であることを,その下の被告らの氏名表示は当該各大会等において実際に演武する者をそれぞれ表示したものであり,また,演武される流派の順序を一覧できるように表示したページは,いわば目次に類するものであり,同ページ上の小野派一刀流剣術(B)との記載も,演武される流派を表示したものにすぎないとい
うべきである。
そうすると,上記各記載は,いずれも,演武される流派又は実際の演武者の名称として表示されているにすぎず,これらの記載が被告らの提供するサービスの出所を識別し得る態様で表示されているということはできない。


前記前提事実(6)イ(ア)のとおり,平成31年4月20日開催の浅草第37回日本古武道大会においては,小野派一刀流との記載がされためくり(甲10の1)が使用されたとの事実が認められる。
このめくりは,その時点で演武されている流派が小野派一刀流であることを示すものであり,これをもって,被告らの提供するサービスの出所を識別し得る態様で表示されているということはできない。


前記前提事実(6)イ(イ)のとおり,平成31年4月22日開催の靖国神社春季例大祭奉納演武,令和元年10月18日開催の靖国神社秋季例大祭奉納演武の各パンフレット(甲11の1,4)には,演武流派として小野派一刀流剣術が,演武者として被告C等の氏名が表示されて
いるとの事実が認められる。

上記の各パンフレットの記載は,いずれも,演武される流派又は実際の演武者の名称として表示されているにすぎず,これをもって,被告Cの提供するサービスの出所を識別し得る態様で表示されているということはできない。

以上によれば,上記各パンフレット及びめくりにおける小野派一刀流剣術,小野派一刀流等の表示は,演武される古武道の流派の名称を掲げたものにすぎず,商標法2条3項の使用には当たらないというべきである。

(3)したがって,被告らによる本件標章使用は,いずれも,商標法2条3項の使用には当たらない。
2本件標章使用が商品等表示の使用に当たるか(争点5)について前記1で判示したとおり,本件標章使用は,いずれも,古武道の流派又はその演武者等を意味するものにすぎず,被告らの提供するサービスの出所を識別し得るものとして表示されているものとは認められないので,これらをもって,
不正競争防止法2条1項1号にいう商品等表示の使用に該当するということはできない。
したがって,本件標章使用は,不正競争防止法2条1項1号の規定する不正競争行為には該当しない。
3原告標章が周知どうか(争点6)について
前記1及び2によれば,原告の商標権侵害及び不正競争防止法に基づく請求はいずれも理由がないこととなるが,原告は,原告の商品等表示である小野派一刀流は,原告の営業を表示するものとして需要者の間に広く認識されていたと主張するので,この点についても,併せて判断する。
(1)原告は,小野家及び津軽家に伝承された正統を継承したのは順造,建美及び原告であり,小野派一刀流という原告標章は,本件標章使用当時,そ
の道場である禮楽堂において剣術の教授等を行う団体を示す固有名詞であって,当該団体の代表者たる宗家の営業であることを示す表示として需要者の間に広く知られていたと主張する。
しかし,前記のとおり,原告標章は小野派一刀流という古武道の流派名そのものであるところ,小野派一刀流という剣術等の流派の名称が,
室町時代に伊藤一刀斎により創始されたものであるなどとして,需要者の間で広く知られ,その知名度が高いとしても,そのことから,直ちに,小野派一刀流という原告標章が,原告の営業表示として需要者の間に広く知られていたということはできない。
(2)そこで,原告標章が原告の営業表示として周知であったかについてみるに,
前記前提事実(2)によれば,順造は,津軽藩主家及び山鹿家に伝わる小野派一刀流を継承し,昭和38年には,剣道場兼礼拝堂である禮楽堂を建設し,一刀流,神夢想林崎流及び直元流などの指導に当たっていたと
の事実が認められるが,順造が自らによる剣術の教授に係る営業表示として小野派一刀流の名称を使用していたと認めるに足りる的確な証拠はない。
(3)また,証拠(甲43,54,57,58の1,甲59の1,甲60の1,甲61の1,甲62,64,66,70,71等)によれば,順造の後を継いで第17代宗家となった建美が,多数の武道雑誌の記事などにおいて,小野派一刀流又は小野派一刀流剣術の第十七代宗家又は宗家
として取り上げられ,また,禮楽堂で剣術の稽古をしていることが紹介されているとの事実は認められるが,これらの記事は,建美が,小野派一刀流という剣術の流派を継承し,その剣術の教授をしていることを示すにすぎず,同事実から,小野派一刀流の名称が,禮楽堂で剣術の教授をする団体の固有名詞として,あるいは,自らの禮楽堂における剣術の教授に係る営業を示す表示として使用されていたと推認することはできない。
(4)さらに,証拠(甲33の2,甲44,53,60の9,甲61,75の4,
甲78の12,甲82)によれば,原告が小野派一刀流又は小野派一刀流剣術の第十八代宗家又は宗家であることを紹介した武道雑誌の記事などが存在するとの事実を認めることができるが,建美の場合と同様に,これらの記事は,原告が小野派一刀流という剣術の流派を継承したことを示すにすぎず,同事実から,小野派一刀流の名称が,原告の継承
した剣術の流派の名称にとどまらず,原告の営業を表示するものに使用されていたと推認することはできない。
(5)以上のとおり,小野派一刀流の名称は,順造,建美及び原告のいずれの代においても,継承した流派の名称を示すにとどまり,その剣道の教授に係る周知な営業を表示するものとして使用されたとの事実を認めることはで
きない。
したがって,原告標章が,原告の周知な商品等表示に当たるということはできず,この点からも,本件標章使用が不正競争防止法2条1項1号に当たるとの原告の主張は理由がない。
4争点8(原告は団体の名称権侵害を理由に本件請求をし得るか。)について
原告は,本件標章使用は,原告が代表する小野派一刀流の名称を冒用するものであると主張する。しかし,原告が代表し,自らの名称を小野派一刀流とする団体が存在することを認めるに足りる証拠はない。また,仮に,原告が代表する小野派一刀流なる団体が存在し,これに対する権利侵害が存在するとして,原告が,その代表者であるにせよ,個人の資格で団体の権利を行使し得るとする法的根拠はない。
したがって,名称権侵害を理由とする原告の請求は理由がない。
5結論
よって,原告の請求は全て理由がないから,これを棄却することとし,主文のとおり判決する。
東京地方裁判所民事第40部

裁判長裁判官

佐藤達文
裁判官

𠮷野俊太郎
裁判官

齊藤敦
(別紙)
原告商品等表示目録
小野派一刀流

(別紙)
被告標章目録1
小野派一刀流剣術

(別紙)
被告標章目録2
小野派一刀流

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