判例検索β > 令和3年(行ケ)第1号
選挙無効請求事件
事件番号令和3(行ケ)1
事件名選挙無効請求事件
裁判年月日令和4年2月24日
法廷名福岡高等裁判所  那覇支部
結果棄却
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-02-24
情報公開日2022-03-08 04:00:08
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
主文1
原告らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告らの負担とする。
事実及び理由

第1

請求の趣旨
令和3年10月31日施行の衆議院(小選挙区選出)議員選挙の沖縄県第1区ないし第4区における各選挙をいずれも無効とする。

第2
1
事案の概要
本件は、令和3年10月31日施行の衆議院議員総選挙(以下本件選挙という。)について、沖縄県第1区ないし第4区(以下、併せて本件各選挙区という。)の選挙人である原告らが、衆議院小選挙区選出議員の選挙(以下小選挙区選挙という。)の選挙区割りに関する公職選挙法の規定は憲法に違反して無効であるから、これに基づき施行された本件選挙の本件各選挙区における選挙も無効であると主張して提起した選挙無効訴訟である。2
前提事実(争いのない事実、掲記の証拠及び弁論の全趣旨により認められる事実)
当事者

原告Aは沖縄県第1区、原告Bは同県第2区、原告Cは同県第3区、原告Dは同県第4区の選挙人である。


被告は、本件各選挙区について、本件選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会である。
本件選挙の概要


本件選挙は、令和3年10月31日、平成29年法律第58号(以下
平成29年改正法といい、同法による改正を平成29年改正とい
う。)により一部改正された平成28年法律第49号(以下、上記一部改正前の平成28年法律第49号を平成28年改正法といい、同法による改正を平成28年改正という。)による改正後の公職選挙法(以下、単に公職選挙法ともいう。)に基づいて行われた。

本件選挙施行当時、衆議院議員の定数は465人とされ、そのうち289人が小選挙区選出議員、176人が比例代表選出議員とされ(公職選挙法4条1項)、小選挙区選挙については、全国に289の選挙区を設け、
各選挙区において1人の議員を選出するものとされ(同法13条1項、別表第1。以下、後記の改正の前後を通じてこれらの規定を併せて区割規定という。)、比例代表選出議員の選挙(以下比例代表選挙という。)については、全国に11の選挙区を設け、各選挙区において所定数の議員を選出するものとされていた(同法13条2項、別表第2)。総選
挙においては、小選挙区選挙と比例代表選挙とを同時に行い、投票は小選挙区選挙及び比例代表選挙ごとに1人1票とされている(同法31条、36条)。
平成28年改正に至るまでの経緯等について

平成6年における改正
昭和25年に制定された公職選挙法は、衆議院議員の選挙制度につき、中選挙区単記投票制を採用していたが、平成6年における公職選挙法の一部を改正する法律(同年法律第2号)の成立及び同年法律第10号によるその一部改正によって、従来の中選挙区単記投票制に代わって小選
挙区比例代表並立制が導入され、小選挙区選挙については、全国に300の選挙区を設け、各選挙区において1人の議員を選出することなどが定められた。
また、平成6年に成立した衆議院議員選挙区画定審議会設置法(以下、後記の改正の前後を通じて区画審設置法という。)により、衆議院
議員選挙区画定審議会(以下区画審という。)が設けられ、区画審は、衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定に関し、調査審議し、必要があると認めるときは、その改定案を作成して内閣総理大臣に勧告するものとされ(同法2条)、上記の勧告は、10年ごとに行われる国勢調査の結果による人口が最初に官報で公示された日から1年以内に行うほか(同法4条1項)、各選挙区の人口の著しい不均衡その他特別の事情があると認めるときに行うこととされた(同条2項)。
そして、区画審が上記の改定案を作成するに当たっての基準として、平成24年法律第95号(以下平成24年改正法という。)による改正前の区画審設置法(以下旧区画審設置法という。)3条は、①1項において、各選挙区の人口(官報で公示された最近の国勢調査又は
これに準ずる全国的な人口調査の結果による人口をいう。以下、同条において同じ。)の均衡を図り、各選挙区の人口のうち、その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上とならないようにすることを基本とし、行政区画、地勢、交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならないこと、②2項において、各都道府県の区域内の
選挙区の数は、各都道府県にあらかじめ1を配当することとし(以下、このことを1人別枠方式という。)、この1に、小選挙区選出議員の定数に相当する数から都道府県の数を控除した数を人口に比例して各都道府県に配当した数を加えた数とすることを定めていた(以下、この区割基準を旧区割基準といい、この規定を旧区割基準規定とも

いう。)。
区画審は、上記の旧区画基準の下において、①各都道府県への定数配分については、1人別枠で配分した定数の残余の定数を、各都道府県の人口に応じてヘアー式最大剰余法で配分すること、②各都道府県内の選挙区の区割りについては、各選挙区の人口は原則として全国の議員1人
当たり人口の3分の2から3分の4の範囲内に収めることなどの方針により、改定案を作成して、平成6年8月に勧告を行い(乙3の2、乙22)、これに基づき、平成6年法律第104号により同年法律第2号の改正が行われ、区割りが確定した。
上記の改正による区割りの下における、平成2年国勢調査の結果に基づく各選挙区の人口の較差をみると、その最大較差は島根県第3区(25万人余)と北海道第8区(54万人余)との間の2.137倍であり、
島根県第3区との間で較差が2倍以上となっている選挙区は28あった(乙14の1)。

平成14年における改正
平成12年10月に国勢調査が実施され、区画審は、その結果に基づ
き、前回と同様の方針に基づいて区割案を作成して、平成13年12月に勧告を行い(乙3の2)、これに基づき、公職選挙法の一部を改正する法律(平成14年法律第95号)が成立し、選挙区割りの改定が行われた(以下、当時の公職選挙法13条1項及び別表第1を併せて平成14年区割規定という。)。この改定の対象となったのは、20都道
府県68選挙区であった。
平成14年区割規定による区割の下において、上記国勢調査の結果に基づく各選挙区の人口の最大較差は、高知県第1区(27万人余)と兵庫県第6区(55万人余)との間の2.064倍であり、高知県第1区との間で較差が2倍以上となっている選挙区は9あった(乙14の1)。
上記の区割の下で、平成21年8月30日、衆議院議員総選挙(以下平成21年選挙という。)が施行された。選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較差は、高知県第3区(21万人余)と千葉県第4区(48万人余)との1対2.304であり、高知県第3区と比べて較差が2倍以上となっている選挙区が45あった(乙2の1)。また、都
道府県間の議員1人当たりの選挙人数の最大較差は、高知県と東京都との1対1.978であった(弁論の全趣旨)。
平成21年選挙につき、最高裁平成22年(行ツ)第207号同23年3月23日大法廷判決・民集65巻2号755頁(以下平成23年大法廷判決という。)は、選挙区の改定案の作成に当たり、選挙区間の人口の最大較差が2倍未満になるように区割りをすることを基本とすべきものとする旧区画審設置法3条1項の定めは、投票価値の平等の要
請に配慮した合理的な基準を定めたものであると評価する一方、平成21年選挙時において、選挙区間の投票価値の較差が上記のとおり拡大していたのは、各都道府県にあらかじめ1の選挙区数を割り当てる同条2項の1人別枠方式がその主要な要因となっていたことが明らかであり、かつ、人口の少ない地方における定数の急激な減少への配慮等の視点か
ら導入された1人別枠方式は既に立法時の合理性が失われていたものというべきであるから、旧区割基準のうち1人別枠方式に係る部分及び旧区割基準に従って改定された平成14年区割規定の定める区割りは憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたと判示した。そして、同判決は、これらの状態につき憲法上要求される合理的期間内における
是正がされなかったとはいえず、旧区割基準規定及び平成14年区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできないとした上で、事柄の性質上必要とされる是正のための合理的期間内に上記の状態を解消するために、できるだけ速やかに旧区割基準中の1人別枠方式を廃止し、旧区画審設置法3条1項の趣旨に沿って平成14年
区割規定を改正するなど、投票価値の平等の要請にかなう立法的措置を講ずる必要があると判示した。

平成24年及び25年における改正
平成22年10月に国勢調査が実施され、区画審は、その結果に基づ
く改定案の作成を開始したが、他方、国会においては、平成23年大法廷判決を受けて、投票価値の較差の是正や議員定数の削減などの問題を巡って協議、検討が行われており、その成案を得ないまま、区画審による改定案の勧告期限が経過した(乙3の1)。
その後、平成24年11月16日、公職選挙法及び区画審設置法の一部を改正する法律案(平成24年改正法)が成立した。同法は、平成23年大法廷判決を受けて各選挙区間における人口較差を緊急に是正することをその趣旨としたものであり、同法により、旧区画審設置法3条2項(1人別枠方式に係る条項)が削除され、同条1項が同改正後の区画審設置法(以下平成24年改正後の区画審設置法という。)3条となった。また、同法附則において、区画審が今次の改定案を作成するに
当たって準拠すべき各都道府県の区域内の選挙区の数が定められた(附則3条1項及び別表。後記

参照)。

平成24年改正法が成立した日に、衆議院が解散され、平成24年12月16日、衆議院議員総選挙(以下平成24年選挙という。)が施行された。この選挙は、平成21年選挙と同様に、平成14年選挙区割りの下で施行された。選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較差は、高知県第3区(20万人余)と千葉県第4区(49万人余)との1対2.425であり、高知県第3区との間で較差が2倍以上となっている選挙区の数は72であった(乙2の2)。
平成24年選挙につき、最高裁平成25年(行ツ)第209号、第2
10号、第211号同年11月20日大法廷判決・民集67巻8号1503頁(以下平成25年大法廷判決という。)は、同選挙時において平成14年区割規定の定める区割りは平成21年選挙時と同様に憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったものではあるが、憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず、平成
14年区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできないとした上で、国会においては今後も平成24年改正後の区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備に向けた取組が着実に続けられていく必要があると判示した。
平成24年改正法の附則3条2項には、区画審が今次の改定案の作成に当たり準拠すべき基準が示されていた。その内容は、①各選挙区の人口は、平成22年国勢調査人口の最も少ない県(鳥取県)の区域内における人口の最も少ない選挙区の人口以上であって、かつ、当該人口の2倍未満でなければないこと、②選挙区の改定案は、必要最小限度にとどめるという観点から、[イ]人口の最も少ない県の区域内の選挙区、[ロ]区域内の選挙区数が減少することとなる県の区域内の選挙区、
[ハ]上記①の基準に適合しない選挙区又は同選挙区を①の基準に適合させるために必要な範囲で行う改定に伴い改定すべきこととなる選挙区に限定されることとなっていた。
区画審は、各都道府県の選挙区数の0増5減の措置を採ることを前提に、17都県の42選挙区において区割りを改めることを内容とする改
定案の勧告を行った。上記改定案は、上記の作成基準を踏まえ、議員1人当たりの人口が人口の最も少ない鳥取県を下回っていた福井県、山梨県、徳島県、高知県及び佐賀県の議員数(いずれも定数3)につき、それぞれ1減じるものであった。また、区割り変更に伴い、分割市区町(一つの市区町が複数の選挙区に分割されていることをいう。)の数が
3都道府県において合計3増加し、分割の区域の変更が3都道府県の合計4つの市区で行われるものであった。
上記の勧告を受けて、内閣は、平成24年改正法の一部を改正する法律案を国会に提出し、平成25年6月24日、平成25年法律第68号(以下平成25年改正法という。)として成立した。(乙3の2、
乙5、6)
上記の改正による区割り(以下、平成25年改定区割りという。)の下において、平成22年10月1日を調査時とする国勢調査の結果による都道府県間の人口の最大較差は、鳥取県と東京都との間で1対1.756であり、選挙区間の人口の最大較差は、鳥取県第2区(29万人余)と東京都第16区(58万人余)との間で1対1.998であった(乙1の1の2、乙14の1)。
平成25年改定区割りの下で、平成26年12月14日、衆議院議員総選挙(以下平成26年選挙という。)が施行された。選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較差は、宮城県第5区(23万人余)と東京都第1区(49万人余)との1対2.129であり、宮城県第5
区との間で較差が2倍以上となっている選挙区が13あった(乙2の3、3の2、4)。
平成26年選挙につき、最高裁平成27年(行ツ)第253号同年11月25日大法廷判決・民集69巻7号2035頁(以下平成27年大法廷判決という。)は、上記0増5減の措置における定数削減の対
象とされた県以外の都道府県について旧区割基準に基づいて配分された定数の見直しを経ておらず、上記のような投票価値の較差が生じた主な要因は、いまだ多くの都道府県において1人別枠方式を定めた旧区画審設置法3条2項が削除された後の区割基準に基づいて定数の再配分が行われた場合とは異なる定数が配分されていることにあり、このような投
票価値の較差が生じたことは、全体として平成24年改正後の区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備が実現されていたとはいえないことの表れというべきであるとして、平成25年改定区割りはなお憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったものといわざるを得ないと判示した。そして、同判決は、同条の趣旨に沿った選挙制度の整備に
ついては、漸次的な見直しを重ねることによってこれを実現していくことも国会の裁量に係る現実的な選択として許容されていると解されるとし、上記の選挙区割りの改定後も国会において引き続き選挙制度の見直しが行われていること等を併せ考慮すると、平成23年大法廷判決の言渡しから平成26年選挙までの国会における是正の実現に向けた取組は、立法裁量権の行使として相当なものでなかったということはできず、憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえない
と判示した。
平成28年改正法及び平成29年改正法について

平成26年6月19日の衆議院議院運営委員会における議決により、衆議院選挙制度に関する調査、検討等を行うため、衆議院に有識者により構
成される議長の諮問機関として衆議院選挙制度に関する調査会が設置され、上記調査会は、平成28年1月14日、衆議院議長に対し、衆議院選挙制度に関する調査会答申(乙10)を提出した。
上記答申は、①衆議院議員の選挙制度の在り方については、現行の小選挙区比例代表並立制を維持し、②議員定数の削減については、衆議院議員
の定数を10削減して465人(小選挙区選出議員の定数につき6削減して289人、比例代表選出議員の定数につき4削減して176人)とする案が考えられるとした。また、③投票価値の較差の是正については、小選挙区選挙における各都道府県への議席配分方式について満たすべき条件として、比例性のある配分方式に基づいて配分すること、選挙区間の投票価
値の較差を小さくするために各都道府県間の投票価値の較差をできるだけ小さくすること、各都道府県の配分議席の増減変動が小さいこと、一定程度将来にわたっても有効に機能し得る方式であることとした上で、この諸条件に照らして検討した結果として、各都道府県への議席配分につき、各都道府県の人口を一定の数値(小選挙区基準除数)で除し、それぞれの商
の整数に小数点以下を切り上げて得られた数の合計数が小選挙区選挙の定数と一致するようにする方式(いわゆるアダムズ方式)により行うものとした。そして、各都道府県への議席配分の見直しは、制度の安定性を勘案し、10年ごとに行われる国勢調査の結果による人口に基づき行うものとし、その5年後に行われる国勢調査の結果、選挙区間の人口の較差が2倍以上の選挙区が生じたときは、各都道府県への議席配分の変更は行わず、区画審において上記の較差が2倍未満となるように関係選挙区の区画の見
直しを行うものとした。(乙4、8~11の1、12)

選挙制度調査会の前記答申を受けて、平成28年5月20日、衆議院議員選挙区画定審議会設置法及び公職選挙法の一部を改正する法律(平成28年改正法)が成立した。

平成28年改正法により、区画審設置法3条及び4条が改正され、①令和2年国勢調査以降の結果に基づく改定案を作成するに当たっては、各選挙区の人口(同条においては最近の国勢調査の結果による日本国民の人口をいう。)の均衡を図り、各選挙区の人口のうち、その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上とならないようにすることとし、行
政区画、地勢、交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならないものと定めるとともに(3条1項)、②各都道府県の区域内の小選挙区選出議員の選挙区の数をアダムズ方式により定めるものとし(3条2項)、また、選挙区の改定に関する区画審の勧告は、大規模国勢調査の結果による人口が最初に官報で公示された日から1年以内に行うほか(4条
1項)、区画審は、統計法5条2項ただし書の規定により上記の国勢調査が行われた年から5年目に当たる年に行われる各選挙区の簡易国勢調査の結果による日本国民の人口のうち、その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上となったときは、当該国勢調査の結果による人口が最初に官報で公示された日から1年以内に、上記の勧告を行うものとした
(4条2項。ただし、同項の規定による勧告に係る改定案の作成に当たっては、各都道府県の区域内の衆議院小選挙区選出議員の選挙区の数は変更しないものとする(3条3項))(以下、平成28年改正法による改正後の区画審設置法(以下新区画審設置法という。)。
また、平成28年改正法は、附則において、アダムズ方式による各都道府県の選挙区数の変更が行われるまでの投票価値の較差是正のための措置を定めた。その内容は、①区画審は、小選挙区選出議員の定数を6削減す
ることを前提として、平成27年国勢調査の結果に基づく選挙区割りの改定案の作成及び勧告を行うこととし(附則2条1項)、②同改定案の作成に当たっては、各都道府県の選挙区数につき、定数の削減による影響を受ける都道府県を極力減らすことによって選挙制度の安定性を確保する観点から、減少の対象となる都道府県は、アダムズ方式により得られる選挙区
数が改正前の選挙区数より少ない都道府県のうち、当該都道府県の平成27年国勢調査の結果による人口を同方式により得られる選挙区数で除して得た数が少ない順から6都道府県とし、それ以外の都道府県は改正前の選挙区数を維持することとし(附則2条2項1号)、③選挙区割りにつき、平成27年国勢調査の結果に基づく選挙区間の人口の較差が2倍未満とな
るようにし、かつ、次回の国勢調査が実施される平成32年見込人口(平成27年国勢調査人口に、平成27年国勢調査人口を平成22年国勢調査人口で除して得た数を乗じて得た数をいう。)に基づく選挙区間の人口の較差が2倍未満であることを基本とするとともに、各選挙区の平成27年国勢調査の結果による人口及び平成32年見込人口の均衡を図り、行政区
画、地勢、交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行うこととするものであった。(乙4、11の2、13)

平成29年4月19日、区画審は、内閣総理大臣に対し、各都道府県の選挙区数の0増6減の措置を採ることを前提に、19都道府県の97選挙
区において区割りを改めることを内容とする改定案の勧告を行った。上記改定案は、平成28年改正法附則2条2項1号(上記②)を踏まえ、青森県、岩手県、三重県、奈良県、熊本県及び鹿児島県でそれぞれ選挙区の数を1減とするものであった。また、区割り変更に伴い、分割市区町の数が8都道府県において合計26増加し、分割の区域の変更が6都道府県の合計10の市区で行われるものであった。(乙14、16、18)
上記勧告を受けて、内閣は、平成28年改正法の一部を改正する法律案
を国会に提出し、平成29年6月9日、平成29年改正法として成立した。上記0増6減及びこれを踏まえた選挙区割りの改定を内容とする公職選挙法の改正規定は平成29年7月16日から施行され、この改正により、各都道府県の選挙区数の0増6減とともに上記改定案のとおりの選挙区割りの改定が行われた(以下、上記改正後の公職選挙法13条1項及び別表第
1を併せて本件区割規定といい、本件区割規定に基づく上記改定後の選挙区割りを本件選挙区割りという。)。
平成27年国勢調査の結果による日本国民の人口における選挙区間の最大較差は、平成25年改定区割りの下では、宮城県第5区(27万人余)と北海道第1区(58万人余)との間で1対2.176であり、宮城県第
5区との間で較差が2倍以上の選挙区は32選挙区であったが、本件選挙区割りの下では、最大較差が鳥取県第2区(28万人余)と神奈川県第16区(55万人余)との1.956倍にまで縮小した。さらに、平成32年見込人口における選挙区間の最大較差は、平成25年改定区割りの下では、宮城県第5区(24万人余)と東京都第1区(63万人余)との間で
1対2.552であり、宮城県第5区との間で較差が2倍以上の選挙区は71選挙区であったが、本件選挙区割りの下では、最大較差が鳥取県第1区(27万人余)と東京都第22区(55万人余)との間で1対1.999にまで縮小した。(乙14、16~18)


その後の経緯について

平成29年10月22日、本件選挙区割りの下で衆議院議員総選挙(以下平成29年選挙という。)が施行された。
平成29年選挙の当日における選挙区間の選挙人数の較差は、選挙人数の最も少ない選挙区(鳥取県第1区、23万人余)と最も多い選挙区(東京都第13区、47万人余)との間で1対1.979であり、選挙人数が最も少ない選挙区と比べて較差が2倍以上となっている選挙区は存在しなかった(乙2の4)。
平成29年選挙につき、最高裁平成30年(行ツ)第153号同年12月19日大法廷判決・民集72巻6号1240頁(以下平成30年大法廷判決という。)は、
本件区割規定に係る改正を含む平成28年改

正法及び平成29年改正法による改正は、平成32年に行われる国勢調査の結果に基づく選挙区割りの改定に当たり、各都道府県への定数配分を人口に比例した方式の一つであるアダムズ方式により行うことによって、選挙区間の投票価値の較差を相当程度縮小させ、その状態が安定的に持続するよう立法措置を講じた上で、同方式による定数配分がされるまでの較差
是正の措置として、各都道府県の選挙区数の0増6減の措置を採るとともに選挙区割りの改定を行うことにより、上記のように選挙区間の人口等の最大較差を縮小させたものであって、投票価値の平等を確保するという要請に応えつつ、選挙制度の安定性を確保する観点から漸進的な是正を図ったものと評価することができるとし、

本件選挙区割りにおいては、平

成24年改正法及び平成28年改正法により選挙区数が減少した県以外の都道府県について、1人別枠方式を含む旧区割基準に基づいて配分された定数に変更はなく、その中には、アダムズ方式による定数配分が行われた場合に異なる定数が配分されることとなる都道府県が含まれているけれども、①

平成24年改正法から平成29年改正法までの立法措置によって、
旧区画審設置法3条2項が削除されたほか、1人別枠方式の下において配分された定数のうち議員1人当たりの人口の少ない合計11県の定数をそれぞれ1減ずる内容の定数配分の見直しや、選挙区間の投票価値の較差を縮小するための選挙区割りの改定が順次行われたことにより、本件選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較差が上記のとおり縮小したものであることや、②

本件選挙が施行された時点において、令和2年以降10

年ごとに行われる国勢調査の結果に基づく各都道府県への定数配分をアダ
ムズ方式により行うことによって1人別枠方式の下における定数配分の影響を完全に解消させる立法措置が講じられていたことが認められ、このような立法措置の内容やその結果縮小した較差の状況を考慮すると、本件選挙において、1人別枠方式を含む旧区割基準に基づいて配分された定数とアダムズ方式により各都道府県の定数配分をした場合に配分されることと
なる定数を異にする都道府県が存在していることをもって、本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反するものとなるということはできないとし、

以上の事情を総合的に考慮すれば、本件区割規定は、投票価

値の平等の要請にかなう立法的措置を講ずることを求めた平成23年大法廷判決以降の各大法廷判決の趣旨に沿って較差の是正を図ったものであり、
投票価値の平等を最も重要かつ基本的な基準としつつ、新たな定数配分の方式をどの時点から議員定数の配分に反映させるかという点も含めて、国会において考慮することができる諸要素を踏まえた上で定められたものということができ、平成29年選挙当時においては、新区画審設置法3条1項の趣旨に沿った選挙制度の整備が実現されていたということができるの
であって、同選挙当時において、本件選挙区割りには、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったということはできないと判示した。イ
令和3年10月31日、本件選挙区割りの下で本件選挙が施行された。本件選挙当日における選挙区間の選挙人数の較差は、選挙人数が最も少
ない選挙区(鳥取県第1区、23万人余)と比べて、選挙人数が最も多い選挙区(東京都第13区、48万人余)との間で1対2.079であり、29の選挙区との間で較差が2倍以上になっていた(乙1の2)。また、令和2年国勢調査の結果については、本件選挙の施行前である令和3年6月25日にその速報値が公表されていたところ、同調査時(令和2年10月)における選挙区間の日本国民の人口(以下、単に人口という。)の較差は、人口が最も少ない選挙区(鳥取県第2区)と比べて、
人口が最も多い選挙区(東京都第22区)との間で1対2.094であり、20の選挙区との間で較差が2倍以上となっていた(乙1の1の1)。また、令和3年11月30日に公表された確定値によれば、人口の較差は、人口が最も少ない選挙区(鳥取県第2区、27万人余)と比べて、人口が最も多い選挙区(東京都第22区、57万人余)との間で1対2.096
であり、23の選挙区との間で較差が2倍以上となっていた(乙1の1の2、乙23の1・2)。
3
当事者の主張

(原告らの主張)


憲法前文第1文及び憲法1条が、主権者である国民が正当に選挙された国会における代表者を通じて国政の在り方を決めるべく行動する旨を定めていること、憲法56条2項が、全出席議員の過半数で両議院の議事を決するとしていることからすれば、各院の全出席議員の過半数は、人口比例選挙で、(各院の全議員との関係で按分される)全出席議員の過半数の比率の主権を有する全国民から選出されることが要求される。

本件選挙区割りは、人口比例選挙によって保障される一人一票の投票価値の平等に違反するから、憲法56条2項、憲法1条、憲法前文第1文に違反し、憲法98条1項により無効である。
したがって、本件選挙のうち沖縄県第1区ないし第4区における選挙は無効である。



平成23年大法廷判決、平成25年大法廷判決及び平成27年大法廷判決は、1人別枠方式は憲法の投票価値の平等の要求に反すると判断している。ところが、平成30年大法廷判決は、平成29年選挙時の選挙区割りによる定数配分のうち、11都県の定数が1人別枠方式により分配されるものと同一である(すなわち、アダムズ方式による定数配分がされた場合と異なる)にもかかわらず、当該選挙区割りは違憲状態ではないと判断しており、違憲状態を解消するためには1人別枠方式により配分された議員定数の見直しが必要である旨判示する平成27年大法廷判決を不当に変更するものである。本件選挙においては、各当道府県に配分された定数は平成29年選挙時と同一であり、11都県が1人別枠方式により分配されるものと同一であり、その結果、ある地域の選挙人の投票価値は、他の地域の選挙人の0.48票
分の投票価値しか有しない。
したがって、本件選挙の選挙区割りも、平成29年選挙の選挙区割りと同じく違憲状態である。

本件選挙の違法判断の基準時は、本件選挙の選挙投票日である。平成28年改正法及び平成29年改正法によって、アダムズ方式による各都道府県に議員定数を配分する選挙区割りの立法措置がとられることになったが、平成29年選挙時の投票価値の最大較差は減少せず、当該立法措置は同選挙の違法性の有無や程度に影響を与えない。ところが、平成30年大法廷判決は、当該立法措置が存在することを認めて、それを理由として平成29年選挙時
における選挙区割りは違憲状態ではないと判断したものであり、法論理として破綻している。
最高裁昭和49年(行ツ)第75号同51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁は、判決日より前に成立した投票価値の較差を縮小させる昭和50年法律第63号による改正法の成立を考慮しないという違法判断の基準時の解釈基準に基づき、昭和47年12月10日施行の衆議院議員選挙は違法である旨判断していたところ、平成30年大法廷判決は、平成28年改正法(アダムズ方式の採用)の成立を考慮して、平成29年選挙における本件選挙区割りは違憲状態にはない旨判断したものであり、これは、違法判断の基準時の解釈基準の不当な変更であって、この点につき平成30年大法廷判決には拘束力はないと解するべきである。


投票価値の較差において憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っている場合であっても、憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえない場合には違憲ではないと判断する合理的期間の法理自体が、憲法に違反し、憲法98条1項によりその効力を有しない。仮に同法理が採り得るとしても、本件選挙時点で、当該合理的期間は既に徒過していると解されるので、本件選挙は憲法98条1項により無効である。
(被告の主張)


判断枠組み
憲法が要求する投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する唯一、絶対の基準ではなく、国会が正当に考慮することができる他の政策的目的との関連において調和的に実現されるべきものである。そして、選挙制度の仕組
みの決定については国会の広範な裁量に委ねられているのであるから、国会が選挙制度の仕組みについて具体的に定めたところが投票価値の平等の要請に反するため、国会に認められる裁量権を考慮してもなおその限界を超えており、これを是認することができない場合に、初めてこれが憲法に違反することになるものと解すべきである。



本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていないこと

平成24年以降の各改正は、国会が、選挙区間の最大較差が2倍未満となる状態を安定的に維持すべく、1人別枠方式を廃止し、人口比例による
議席配分の見直しを定期的に実施する仕組みを確立させる内容のものである。また、平成28年改正では、4年後の平成32年見込人口を基準としても最大較差が2倍未満になるようにする選挙区割りの改定を行う措置が講じられ、平成29年改正によってその措置も実現されるに至った。このような平成24年以降の各改正は、平成23年から平成27年までの各大法廷判決が繰り返し国会に求めてきた立法的措置の内容に適合し、国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において、
投票価値の平等の要請を調和的に実現した立法的措置と評価することができる。
そうである以上、本件区割規定が国会の合理的な裁量の範囲の限界を超えるものではなく、平成30年大法廷判決も、これらの各改正につき、違憲状態と指摘した各大法廷判決の趣旨に沿うものであり、国会の裁量権の
行使として合理性を有するものと評価した上で、平成27年大法廷判決が平成26年選挙当時の選挙区割りについて判示した違憲状態は本件区割規定の成立によって解消された旨判示している。

そして、本件選挙区割りは、平成29年選挙時と同一のものであるから、平成29年選挙に係る平成30年大法廷判決によるそれらの評価と同様の評価がされるべきであり、違憲状態に至っていると評価することはできないというべきである。
令和2年国勢調査の結果によれば、選挙区間の人口の最大較差は2倍を僅かに超え、本件選挙当日の選挙人の最大較差も2倍を僅かに超えている
が、区割規定やそれに基づく選挙区割りの憲法適合性を判断するに当たっては、最大較差の数値や較差が2倍以上となった選挙区の数という客観的かつ形式的な数値だけでなく、当該較差の数値の背後にある選挙制度の仕組みや、当該較差を生じさせる要因等も含めて種々の政策的考慮要素を総合的に考慮する必要がある。

平成28年改正法は、平成22年の大規模国勢調査から平成27年の簡易国勢調査までの日本国民の人口の増減率に基づき算出した平成32年見込人口を基準としても最大較差を2倍未満とすることを基本とすることとしたものであり、当該増減率と異なる人口移動があったことを要因として、結果的に2倍以上の較差が生じることも当然にあり得ることであって、平成23年から平成27年までの各大法廷判決が問題視してきた1人別枠方式のような選挙制度自体に起因する構造的な問題により2倍以上の較差が
生じたものではない。
そもそも、現行の選挙制度は、選挙制度の安定性の要請を勘案し、大規模国勢調査の結果を踏まえて10年単位で、又は簡易国勢調査の結果によっては5年単位でも選挙区割りの改定を行うこととしており、アダムズ方式に基づく議席配分を最初に実施する時期も、諸般の事情を考慮した国会
の判断により、令和2年国勢調査以降と判断されている。かかる経緯からすれば、平成29年改正以降アダムズ方式に基づく都道府県別定数を前提とする最初の選挙区割りが決定されるまでの間や、今後の10年あるいは5年単位の選挙区割りの改定と改定の間に、ある程度の選挙区間の較差の変動が生じることは、当然にあり得ることであり、そのような場合に備え
て10年又は5年単位で選挙区割りを行い、是正するという現行の選挙制度が整備されているものである。
今後、令和4年6月25日までに、アダムズ方式に基づく都道府県別定数を前提に、国勢調査人口による選挙区間の最大較差が2以上とならないような選挙区割りの改定の勧告がされることが法律上予定されており、人
口較差の問題も、早晩、確実に解消されることになる。

以上のような事情を考慮すれば、本件選挙区割りが違憲状態に至っているということはできない。


合理的期間内における是正がされなかったとはいえないこと
平成30年大法廷判決は、平成27年大法廷判決が平成26年選挙当時の選挙区割りについて判示した憲法の投票価値の平等の要求に反する状態が平成29年改正法による改正後の平成28年改正法によって解消された旨明示的に判断している。本件選挙は、平成30年大法廷判決後に初めて行われた総選挙であるから、仮に何らかの事情により同判決における本件選挙区割りに関する評価が覆り、違憲状態に至っているとしても、国会において、そのことを認識すべき契機が存在したとはいえず、本件区割規定は、憲法で認め
られた国会の裁量権の行使として合理的なものであり、本件選挙区割りも、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったということはできず、合憲というべきである。
第3
1
当裁判所の判断
判断枠組み
憲法は、選挙権の内容の平等、換言すれば投票価値の平等を要求しているものと解される。他方、投票価値の平等は、選挙制度の仕組みを決定する絶対の基準ではなく、国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであるところ、国会の両議院の
議員の選挙については、憲法上、議員の定数、選挙区、投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとされ(43条2項、47条)、選挙制度の仕組みの決定について国会に広範な裁量が認められている。
衆議院議員の選挙につき全国を多数の選挙区に分けて実施する制度が採用される場合には、選挙制度の仕組みのうち定数配分及び選挙区割りを決定するに
際して、憲法上、議員1人当たりの選挙人数ないし人口ができる限り平等に保たれることを最も重要かつ基本的な基準とすることが求められているというべきであるが、それ以外の要素も合理性を有する限り国会において考慮することが許容されているものと解されるのであって、具体的な選挙区を定めるに当たっては、都道府県を細分化した市町村その他の行政区画などを基本的な単位と
して、地域の面積、人口密度、住民構成、交通事情、地理的状況などの諸要素を考慮しつつ、国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに、投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが求められているところである。したがって、このような選挙制度の合憲性は、これらの諸事情を総合的に考慮した上でなお、国会に与えられた裁量権の行使として合理性を有するといえるか否かによって判断されることになり、国会がかかる選挙制度の仕組みについて具体的に定めたところが、上記のような憲法上の要請に反するため、
上記の裁量権を考慮してもなおその限界を超えており、これを是認することができない場合に、初めてこれが憲法に違反することになるものと解すべきである。
以上は、衆議院議員の選挙に関する最高裁昭和49年(行ツ)第75号同51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁以降の累次の大法廷判決
の趣旨とするところであって(最高裁昭和56年(行ツ)第57号同58年11月7日大法廷判決・民集37巻9号1243頁、最高裁昭和59年(行ツ)第339号同60年7月17日大法廷判決・民集39巻5号1100頁、最高裁平成3年(行ツ)第111号同5年1月20日大法廷判決・民集47巻1号67頁、最高裁平成11年(行ツ)第7号同年11月10日大法廷判決・民集
53巻8号1441頁、最高裁平成11年(行ツ)第35号同年11月10日大法廷判決・民集53巻8号1704頁、最高裁平成18年(行ツ)第176号同19年6月13日大法廷判決・民集61巻4号1617頁、平成23年大法廷判決、平成25年大法廷判決、平成27年大法廷判決、平成30年大法廷判決参照)、これを変更する必要は認められない。

原告らは、憲法前文第1文前段、同1条、同56条2項を根拠として、憲法は1人1票の原則による人口比例選挙を要求していると主張する。この主張が選挙制度の合憲性の判断枠組みについて上記と異なるものをいうものだとすれば、以上に述べたところに照らし、採用することはできない。
2
上記の見地に立って、本件選挙当時の本件区割規定及びこれに基づく本件選挙区割りの合憲性について検討する。
平成28年改正法及び平成29年改正法による改正後の公職選挙法における本件区割規定は、平成6年に導入された小選挙区選挙を維持し、選出議員数を289とし、都道府県を単位とする区域内において選挙区を設けることを枠組みとするものであるところ、この枠組みは、わが国の都道府県が47あり、近時においてはその人口に20倍以上の幅があって人口密度も様々であるなどの前提条件の下では、定数の配分方式をどのようにするかを問わず、選挙区間の人口較差が相当程度生じることが避け難いという問題を内包しており(乙21、22、23の1及び2)、このことは、平成6年以来、今日に至るまで大きな変化はない。

しかるに、各選挙区の人口の均衡を図るべきことを定めた区画審設置法3条は、平成6年以来、国勢調査の結果による人口に基づく選挙区間の人口較差が2以上にならないようにすることを基本とする旨を定めており、本件区割規定の前提となる規律としても,平成32年見込人口に基づく選挙区間の人口較差につき、上記と同旨の定めが置かれている(平成28年改正法
附則2条3項1号)。
前記第2の2

のとおり、平成6年に1人別枠方式を含む旧区割基準に基

づいて各都道府県に定数が配分された後、平成24年改正法によって1人別枠方式に係る規定は削除され、平成25年改正法により、5つの県(福井県、山梨県、徳島県、高知県及び佐賀県)につき、定数が各1減らされることとなったが、それ以外の都道府県については、定数は変更されず、各都道府県の区域内の選挙区割りの変更を行うことにより、平成22年国勢調査の人口を基準とすれば選挙区間の人口の較差を2倍未満となるように定められた。しかし、平成25年改定区割りの下で施行された平成26年選挙では、選挙当日における選挙人数が、13の選挙区(東京都の8の選挙区、埼玉県の2
の選挙区、神奈川県、北海道及び兵庫県の各1の選挙区)で、宮城県第5区の2倍以上となり、また、災害の影響により選挙人数が減少した可能性のある宮城県第5区と福島県第4区を除外すると最も選挙人数が少なかった鳥取県第1区との比較においても、5の選挙区(東京都の3の選挙区、北海道及び兵庫県の各1の選挙区)において2倍以上となっていた。(前記第2の2ウ
、乙2の3)

また、前記第2の2

のとおり、平成29年改正法により、6つの県(青

森県、岩手県、三重県、奈良県、熊本県及び鹿児島県)につき、定数が各1減らされることとなったが、それ以外の都道府県については、定数は変更されず、各都道府県の区域内の選挙区割りの変更を行うことにより、平成27年国勢調査の人口及び平成32年見込み人口を基準として選挙区間の人口の較差が2倍未満となるように定められた。そして、本件選挙区割りの下で施行された平成29年選挙では、選挙当日における選挙人の選挙区間の較差は2倍以上となることはなかった。しかし、令和3年10月に施行された本件選挙では、選挙当日における選挙人数が、29の選挙区(東京都の17の選挙区、神奈川県の5の選挙区、埼玉県の3の選挙区、北海道の2の選挙区、
千葉県及び兵庫県の各1の選挙区)において、選挙人数の最も少ない鳥取県第1区の2倍以上となった(乙1の2)。
以上のとおり、平成25年改正法及び平成29年改正法による改定時には選挙区間の人口の較差が2倍未満となるように区割が作成されたにもかかわらず、その後の選挙時においては選挙人数の較差が2倍以上となる事態が繰
り返し生じている。そして、2倍以上となった選挙区が属する都道府県は、東京都や神奈川県など、人口が多い都道府県となっている。
このような事態が生じたのは、①1人別枠方式を含む旧区割基準の下での定数配分は、その仕組み上、人口の多い都道府県と人口の少ない都道府県の議員1人当たりの選挙人数に較差を生じさせるものであったところ、人口が
最も少ない都道府県(鳥取県)の定数及び人口が多い都道府県(東京都、神奈川県等)の定数が、かかる旧区割基準による配分がされた平成6年以降変更されていないことが基本となり、このことに、②都道府県の区域内の選挙区割りにおいても、行政区画が基本的な単位となるため、選挙区間の較差は、都道府県間の較差よりも増えることが通常であり、分割市区町を設けるなどしても、その較差の増加を抑えることには限界があること、③人口が最も少ない都道府県については人口が減少し、人口が多い都道府県については人口が増加するという人口変動の傾向によって、これらの都道府県間の較差が継続的に拡大していったことなどが影響を与えているものと考えられる。そして、令和2年国勢調査結果によれば、都道府県間の議員1人当たりの人口の最大較差は、前記の0増5減、0増6減の措置を経た上でも、人口が最も少
ない鳥取県と人口が最も多い東京都との間で、平成21年選挙時点と同水準の1対1.976にまで達し、鳥取県と人口の多いその他の都道府県(神奈川県、千葉県、埼玉県等)との間でも1対1.7から1.8程度まで拡大するに至っている(乙1の1の2)。本件選挙時では、このような都道府県単位での較差が前提となって、鳥取県第1区と東京都や他の人口の多い都道府
県に属する選挙区との間を中心として、選挙人数に2倍以上の較差が生じているといえる。
以上のとおり、本件選挙において、選挙区間の選挙人数の較差が2倍以上となる選挙区が相当数生じたのは、平成6年に1人別枠方式を含む旧区割基準に基づいて定数が配分された後、人口が増加傾向にある人口の多い都道府
県に配分される定数が増やされておらず、旧来の定数配分の影響が残存していたことが主な要因であるということができ、平成25年改正法や平成29年改正法において実施された定数の削減の効果は、投票価値の2倍以上の較差の発生の防止という観点からみると、限定的であり、旧来の定数配分の影響を払拭するに足りるものではなかったということができる。

そうすると、本件選挙当時において生じていた選挙区間の選挙人数の較差は、平成27年大法廷判決が、平成25年改定区割りの下で行われた平成26年選挙につき、いまだ多くの都道府県において1人別枠方式を定めた旧区画審設置法3条2項が削除された後の区割基準に基づいて定数の再配分が行われた場合とは異なる定数が配分されており、これを主たる要因として投票価値の較差が生じていると指摘した当時における事態と、大きく異なるところはないことに帰するのであり、このような事態は、平成23年大法廷判決が、人口の少ない地方における定数の急激な減少への配慮等の視点から導入された1人別枠方式は既に立法時の合理性が失われていたと指摘していたことに対して、国会がなお十分な配慮を施していなかったことにより生じているものといわざるを得ない。

平成30年大法廷判決は、平成29年選挙当時における本件区割規定の合憲性を判断するに当たり、平成28年改正法及び平成29年改正法については、各都道府県への定数配分を人口に比例した方式の一つであるアダムズ方式により行うことによって、選挙区間の投票価値の較差を相当程度縮小させ、その状態が安定的に持続するように立法措置を講じた上で、同方式による定
数配分がされるまでの較差是正の措置として0増6減の本件区割規定を定めたものであり、選挙制度の安定性を確保する観点から漸進的な是正を図ったものと評価できると判示している。
確かに、平成29年選挙当時のように、選挙区間の選挙人数の較差が2倍未満の状況においては、そのことにつき、近い将来に講じられることが予定
されている措置を前提に漸進的な是正を図ったことの表れであるとの評価をすることは、首肯し得るものといえる。しかしながら、本件選挙においては、平成29年選挙とは異なり、選挙当日において、選挙人数が最も少ない選挙区と比べて29の選挙区において選挙人数が2倍以上になっているのであり、その主な要因は、上記

のとおり、人口が増加傾向にある人口の多い都道府

県に配分される定数が増やされておらず、旧来の定数配分の影響が残存していたことにあって、その影響は平成29年選挙当時においていったん影を潜めたかのように見えたが、本件選挙当時に再度出現したことによるものというほうが、事態により即した評価であるといえる。この点、アダムズ方式の採用を見越して実施された0増6減という漸進的な措置の内容は、平成27年国勢調査の結果による人口を同方式で得られた定数に基づいて除したもの(議員1人当たりの人口)が少ない順に6つの都道府県を選んでその定数の各1を減少させるものであり、人口に比例した配分を行う上で一定の効果があると認められるが、先に述べたとおり、その効果は2倍以上の較差の発生の防止という観点からみると限定的であり、旧来の定数配分の影響を払拭するに足りるものではなかったというべきである。

そうであるとすれば、上記の漸進的な是正を図ったという評価は、本件選挙時における本件区割規定の合憲性を判断するに当たっては、平成29年選挙における場合とは異なり、必ずしも重視することは相当ではないと考えられる。
むしろ、上記

のとおり、平成23年大法廷判決から平成27年大法廷判

決までの各大法廷判決が、上記のような旧来の定数配分の影響を主たる要因として投票価値の2倍以上の較差が生じている状態を、憲法の投票価値の平等の要求に反するものであるとしてその是正を繰り返し求めていたにもかかわらず、定数配分の十分な是正がされず、その結果として、人口の最も少ない都道府県と人口の多い都道府県との間の都道府県単位の投票価値の較差が
拡大していたという経緯にも鑑みると、本件選挙当時においては、平成29年選挙とは異なり、旧来の定数配分の影響により選挙当日における選挙人数の前記較差が29の選挙区で2倍以上になっていた点において、人口比例の要請との調和が必ずしも十分ではなかったといえることを、より重視することが相当である。

なお、平成28年改正法による改正後の新区画審設置法は、選挙区割りの改定につき、10年ごとに実施される大規模国勢調査の結果を踏まえて行うこととし、5年ごとに実施される簡易国勢調査の結果により選挙区間の人口の較差が2倍以上になったときは、選挙区の区割りの変更を行う旨を規定しており(4条1項及び2項)、5年程度の期間内における人口変動に基づく選挙人数の較差の変動については、一定程度許容しているとも考えられる。しかしながら、上記の規定は、アダムズ方式による定数配分が実施され、1人別枠方式の下における定数配分の影響が完全に解消された後に適用されることを前提としたものと解されるから、旧来の定数配分の影響が残存していた本件選挙に関して、上記の規定の考え方を援用することは相当ではない。以上に述べたところによれば、本件選挙区割りは、本件選挙時において、
平成23年大法廷判決や平成27年大法廷判決が求めてきた立法措置の内容に適合するものであったとはいえず(上記
びその配分方法(上記

)、小選挙区選出議員の定数及

)や従来の区割りの漸進的な是正手法など(上記

に関する国会の裁量権を踏まえても、憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったというべきである。
しかしながら、平成30年大法廷判決においては、本件選挙区割りについて、憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っていない旨の判断が示されていたこと、令和2年国勢調査の結果の速報値が公表されて選挙区間の人口の較差が2倍を越えることが判明したのは本件選挙の施行の約4か月前であったこと、本件選挙の時点においては、令和4年以降の選挙に関し、1人別
枠方式の下における定数配分の影響を完全に解消することを可能とする立法措置が既に講じられていたことを総合考慮すれば、本件選挙までの間に本件区割規定の是正がされなかったことをもって、憲法上要求される合理的期間内に是正がされなかったものということはできない。
小括

以上のとおり、本件選挙時において、本件区割規定は、憲法の投票価値の平等の要求に反するに至っていたが、憲法上要求される合理的期間内におけ)

る是正がされなかったとはいえず、本件区割規定が憲法の規定に違反するものということはできない。
3
結論
以上によれば、原告らの請求はいずれも理由がないから棄却することとし、
主文のとおり判決する。
福岡高等裁判所那覇支部民事部

裁判長裁判官


裁判官


裁判官

口平豊和弘俊輔山
トップに戻る

saiban.in