事件番号 | 令和3刑(わ)1734 |
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事件名 | 各詐欺 |
裁判年月日 | 令和3年12月21日 |
法廷名 | 東京地方裁判所 |
全文 | 全文 |
最高裁判所 | 〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map |
裁判日:西暦 | 2021-12-21 |
情報公開日 | 2022-03-03 04:00:12 |
令和3年刑 東京地方裁判所刑事第7部宣告 第1734号,同第1940号,同第2103号 主 各詐欺被告事件 文 被告人Aを懲役2年6か月に,被告人Bを懲役2年に処する。 被告人Aに対し,未決勾留日数中40日をその刑に算入する。 被告人Bに対し, この裁判が確定した日から4年間その刑の執行を 猶予する。 理由 【犯罪事実】 第1(令和3年8月31日付け追起訴状記載の公訴事実第1の関係)被告人両名は,共謀の上,中小企業庁が所管する持続化給付金事務事業を利用して持続化給付金の名目で現金をだまし取ろうと考え,令和2年5月9日,東京都内又はその周辺において,インターネット接続端末を利用して,中小企業庁から同事業の委託を受けた一般社団法人E協議会が開設した給付金申請用ホームページに接続し,真実はC株式会社(以下Cという。)において,新型コロナウイルス感染症拡大の影響により前年における月平均の売上げと比べて50%以上減少した月があるなどの事実が存在しないのに,そうした事実が存在し,持続化給付金の給付要件を満たすかのように装い, 売上減少月が4月, 売上減少月の売上額が0円, その前年の月平均売上額が25万円等と虚偽の情報を入力し, その入力内容に沿う 内容虚偽の総勘定元帳及びコンサルティング契約書等のデータを添付し,これらを 送信するなどして持続化給付金の給付を申請し,その頃,東京都内等において,同協議会の審査承認担当者Fらに, その給付申請が給付要件を満たす正当なものであ ると誤信させ,令和2年5月29日,FにCに対する持続化給付金200万円の支給を決定させ,同年6月1日,同協議会から業務委託を受けた株式会社Gの振込手続担当者らに, 株式会社H銀行I支店に開設された被告人B管理のC名義の普通預金口座に現金200万円を振込入金させた。 第2(令和3年8月31日付け追起訴状記載の公訴事実第2の関係)被告人両名は,共謀の上,中小企業庁が所管する持続化給付金事務事業を利用して持続化給付金の名目で現金をだまし取ろうと考え,令和2年6月23日,東京都内又はその周辺において,インターネット接続端末を利用して,一般社団法人E協議会が開設した給付金申請用ホームページに接続し, 真実はD株式会社 (以下 D という。)において,新型コロナウイルス感染症拡大の影響により前年における月平均の売上げと比べて50%以上減少した月があるなどの事実が存在しないのに,そうした事実が存在し,持続化給付金の給付要件を満たすかのように装い,売上減少月が5月,売上減少月の売上額が0円,その前年の月平均売上額が20万円等と虚偽の情報を入力し, その入力内容に沿う内容虚偽の総勘定元帳及びコンサルティ ング契約書等のデータを添付し,これらを送信して持続化給付金の給付を申請し,その頃,東京都内等において,同協議会の審査承認担当者Fらに,その給付申請が給付要件を満たす正当なものであると誤信させ,令和2年6月26日,FにDに対する持続化給付金200万円の支給を決定させ,同月29日,同協議会から業務委託を受けた株式会社Gの振込手続担当者らに, 株式会社H銀行J支店に開設された 被告人B管理のD名義の普通預金口座に現金200万円を振込入金させた。第3(令和3年7月16日付け起訴状記載の公訴事実の関係) 被告人両名は,共謀の上,中小企業庁が所管する家賃支援給付金事務事業を利用して家賃支援給付金の名目で現金をだまし取ろうと考え, 令和2年12月26日か ら同月28日までの間,東京都内,栃木県内又はその周辺において,インターネット接続端末を利用して, 中小企業庁から同事業の委託を受けた株式会社Kが開設し た給付金申請用ホームページに接続し,真実はCにおいて,新型コロナウイルス感染症拡大の影響により前年における月平均の売上げと比べて50%以上減少した月があるなどの事実も,Cの事業のために被告人Aから建物を賃借して使用・収益しているなどの事実も, その対価として被告人Aに賃料を支払った事実もないのに, これらの事実が存在し,家賃支援給付金の給付要件を満たすかのように装い,売上減少の対象月が11月,対象月の売上額が0円,比較年度における月平均売上額が25万円であり,別表1(添付省略)記載のとおり,被告人Aとの間の建物賃貸借契約に関する物件情報,同契約における賃貸人・賃借人情報,申請日の直近において被告人Aに賃料として合計200万円を支払った旨の直近支払情報等を入力するとともに,その入力内容に沿う内容虚偽の総勘定元帳,建物賃貸借契約書3通及び預金通帳の画像データを添付して送信するなどして家賃支援給付金の給付を申請し,その頃,株式会社Kの審査承認担当者Lらに,その給付申請が給付要件を満たす正当なものであると誤信させ,令和2年12月29日,LにCに対する家賃支援給付金549万9996円の支給を決定させ,令和3年1月6日,株式会社Kの振込手続担当者らに, 株式会社H銀行I支店に開設された被告人B管理のC名義の 普通預金口座に現金549万9996円を振込入金させた。 第4(令和3年8月6日付け追起訴状記載の公訴事実の関係) 被告人両名は,共謀の上,中小企業庁が所管する家賃支援給付金事務事業を利用して家賃支援給付金の名目で現金をだまし取ろうと考え, 令和3年1月13日から 同月15日までの間,東京都内又はその周辺において,インターネット接続端末を利用して, 中小企業庁から同事業の委託を受けた株式会社Kが開設した給付金申請用ホームページに接続し,真実はDにおいて,新型コロナウイルス感染症拡大の影響により前年における月平均の売上げと比べて50%以上減少した月があるなどの事実も,Dの事業のために被告人Aから建物を賃借して使用・収益しているなどの事実も,その対価として被告人Aに賃料を支払った事実もないのに,これらの事実が存在し,家賃支援給付金の給付要件を満たすかのように装い,売上減少の対象月が11月,対象月の売上額が0円,比較年度における月平均売上額が20万円であり,別表2(添付省略)記載のとおり,被告人Aとの間の建物賃貸借契約に関する物件情報,同契約における賃貸人・賃借人情報,申請日の直近において被告人Aに賃料として合計250万円を支払った旨の直近支払情報等を入力するとともに,その入力内容に沿う内容虚偽の総勘定元帳, 建物賃貸借契約書2通及び預金通帳の 画像データを添付して送信するなどして家賃支援給付金の給付を申請し,その頃,株式会社Kの審査承認担当者Mらに, その給付申請が給付要件を満たす正当なもの であると誤信させ,令和3年1月21日,MにDに対する家賃支援給付金600万円の支給を決定させ,同月25日,株式会社Kの振込手続担当者らに,株式会社H銀行J支店に開設された被告人B管理のD名義の普通預金口座に現金600万円を振込入金させた。 【量刑の理由】 本件は,被告人両名が設立した二つの会社(C及びD)の売上額等を仮装するなどして,持続化給付金制度や家賃支援給付金制度を悪用し,合計約1550万円の給付金をだまし取ったという事案である。 1 被告人両名に共通の事情 被告人両名は,経済産業省に入省した若手官僚であり(なお,被告人Aは当時別の省庁に出向中。,国民全体の奉仕者として公共の利益のために職務遂行すること) を求められていたにもかかわらず,詐欺という犯罪を繰り返したこと自体,国家公務員への国民の信頼を裏切るものである。ましてや,前記給付金制度は新型コロナウイルス感染症の感染拡大により大きな影響を受けている中小企業を支えるために設けられた中小企業庁ひいては経済産業省の重要政策であるのに,こともあろうに同省に所属あるいは関係する被告人両名が重要政策の足を引っ張るということは本来あり得ない犯行というべきであって,強い非難に値する。 しかも,本件各犯行によって多額の国費がだまし取られており,結果も重大である。 2 被告人Aに関する事情 被告人Aは,華美な生活を改められない中で私利私欲を伴って本件各犯行に及んだものである。のみならず,被告人Aは,被告人Bが以前にした失言やそれに伴う事態を執ように責め立てるなどして,犯行動機のない被告人Bを巻き込んで本件各犯行の実行行為を担当させたのであるから,非難の度合いは一層強くなる。そして,本件各犯行を主導したのが被告人Aであることは,同被告人も認めている。このほか,だまし取った現金の相当部分を利得したことも認めている。そうすると,被告人Aに対する非難の度合いはかなり高く,その役割や結果の重大性も踏まえると,被告人Aに関する犯情は相当悪く,その刑事責任が重いことから,原則として実刑をもって臨むべきである。 3 被告人Bに関する事情 これに対し,被告人Bは,被告人Aがいなければ犯行には及んでいなかったものであって,2で指摘した事情により犯行に関与するに至った経緯には酌むべき余地がある。また,被告人B自身が費消した利得も認められない。 もっとも, 被告人Bとしては, 被告人Aからの指示を幾らでも断れただけでなく, 実行行為の全てを担当して犯行を前に進め,その中には自らの考えで工夫したものもある。 そうすると,被告人Bの果たした役割は重要であって,被告人Bに関する犯情は悪く,その刑事責任は決して軽くはないが,被告人Aのそれとは格段の差がある。4 一般情状について その上で一般情状についてみると,全ての給付金について加算金等を含めて被害弁償が終わっている。うち200万円を被告人Bが負担したほかは,大部分を被告人A側で負担している。財産犯である本件において被害回復されたことの意味は大きい。 そうすると,被告人Bについては,罪を認め,今回の原因について向き合うなど内省を深め,兄が被告人Bの更生に協力するとこの法廷で約束したことのほか,懲戒免職処分を受けるなどの社会的制裁を受けたことなどの事情も更に考慮すれば,刑の執行を猶予することも許容されるので,主文のとおり量刑した。これに対し,被告人Aについては,罪を認めている上に,拝金主義的な人間に成り下がっていたことも率直に認め,被告人Bを巻き込んだことなどについても申し訳ないと述べて反省の態度を示すとともに,これまでの生活を改めるなどして更生の意欲を示し,同居の父親が母親と共に被告人Aを監督していくと理解できる証言をこの法廷でしたことのほか,同様の社会的制裁を受けたことなどの事情も認められる。しかし,被害回復に尽力した点をはじめ,これら酌むべき事情を十分評価しても,被告人Aに関する犯情の重さ,殊に非難の度合いの高さや役割の重大性から導かれる責任の重大さに照らすと,刑の執行を猶予するのが許容されるとはいえない。したがって,被害回復の点等は刑期を定める上で考慮することとし,主文のとおり量刑した。 (求刑 被告人Aにつき懲役4年6か月,被告人Bにつき懲役3年) 令和3年12月21日 東京地方裁判所刑事第7部 裁判官 浅香竜太 |