判例検索β > 令和2特年(わ)第2663号
出資の受入れ、預り金及び金利等の取締りに関する法律違反
事件番号令和2特(わ)2663
事件名出資の受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律違反
裁判年月日令和3年12月20日
法廷名東京地方裁判所
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2021-12-20
情報公開日2022-03-03 04:00:13
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令和3年12月20日
令和2年特

東京地方裁判所刑事第7部宣告

第2663号

出資の受入れ,
預り金及び金利等の取締りに関する法

律違反被告事件
主文
被告人を懲役2年6か月及び罰金200万円に処する
未決勾留日数中210日をその懲役刑に算入する。
その罰金を完納することができないときは,金1万円を1日に換
算した期間被告人を労役場に留置する。
この裁判が確定した日から5年間その懲役刑の執行を猶予する。
訴訟費用は被告人の負担とする。
理由
【犯罪事実】
被告人は,東京都千代田区(住所省略)に本店を置き,磁気治療器の販売等を業とするA株式会社の代表取締役社長兼財務部長として,
家庭用磁気治療器のリース
債権譲渡契約を含むAの商品や契約の売上げ向上を牽引するなどしていたものであるが,同社代表取締役会長B,同社取締役C,同社国際部ゼネラルマネージャーD,
同社営業部お客様相談室室長E,
同社営業部営業連絡課課長代理F,
同社秋田・
山形・宮城エリア地方マネージャーG,同社関東等地方マネージャーH,同社北信越地方マネージャーI,同社中部地方マネージャーJ,同社関西第1地方マネージャーK,同社関西第2・四国・九州地方マネージャーL,同社中国地方マネージャーMらと共謀の上,いずれも法定の除外事由がないのに,前記リース債権譲渡契約の代金の名目で同社に金銭を支払うよう顧客を勧誘し,別表(添付省略)記載のとおり,平成29年11月13日から同年12月15日までの間,32回にわたり,東京都中央区(住所省略)株式会社N銀行O支店に開設された被告人らが管理するA株式会社名義の普通預金口座ほか3口座に振込送金させる方法により,不特定か
つ多数の相手方であるPほか22名から,
同名目で支払を受ける金銭の全額に相当
する元本を保証するとともに年利約8.57%の配当金を支払うことを約して,合計1億1428万円を受け入れ,業として預り金をした。
【事実認定の補足説明】
1
主な争点~預り金該当性の認識の有無~

本件の主な争点は,故意の有無,すなわち,被告人において,Aが顧客に対して有するリース債権を販売するとの名目で顧客から受け入れた現金が出資法(出資の
受入れ,預り金及び金利等の取締りに関する法律)2条1項の預り金に該当することを認識していたか否かである。
検察官は,
被告人がAの代表取締役社長としてリース債権譲渡契約の内容を認識した上で顧客らに対して勧誘等を行っており,預り金該当性の認識があったと主張するのに対し,
弁護人は,
被告人は,
リース債権譲渡契約の内容を知らず,
預り金該当性の認識がなかったと主張する。
2
預り金該当性及びその認識の有無


預り金該当性について

リース債権譲渡契約の内容

Aにおいて,リース債権の販売は,会長のBが全国の地方マネージャー等に対し平成29年11月3日に送信したメール(以下11月3日のメールということがある。また,以下では断りのない限り平成29年を前提とする。)を皮切りに開始され,翌月下旬頃にAが経営破綻するまで続けられた。
その契約内容は,
5年物リース債権として販売された額面100万円のものを例
にとると,次のとおりである。
・販売価格は額面から3割引の70万円。
・5年後満期時にAが顧客から70万円で買い戻す。
・その間,顧客はAから額面100万円に対する年利6%の債権収入として毎月5000円を得る(購入額70万円に対する年利約8.57%)。・顧客が6か月以内に解約する場合は,Aがそれまでの債権収入を差し引いて返金する。
6か月以降に解約する場合は,
購入額全額
(70万円)
で買い戻す
(そ
れまでの債権収入の返金の必要はない。)。
このように,リース債権譲渡契約は,いつでも解約でき,その際には購入額全額の返還(6か月以内に解約する場合には,それまでの債権収入と返金額を合わせて購入額と同じになる。)が約束されている上に,6か月経過後は,購入額に対する年利約8.
57%という金融機関等の金利と比べて相当好条件の内容となっており,元本返還・高利回りが保証されたものである。

リース債権の実体等

次に,
リース債権譲渡契約におけるリース債権は実体のない名目上のものである。すなわち,このリース債権は,それまでAが顧客であるユーザーとの間で締結していたレンタルユーザー契約(ユーザーがAの商品(健康器具)を毎月一定額支払ってレンタルするもの)であったものを,Aとユーザーとの間のリース購入契約(割賦販売契約)に切り替えたことにして,Aがユーザーに対して有することになったとするものであるが,この契約内容の変更は,Aが一方的に行ったもので,ユーザーに対し契約内容の変更,
さらには債権譲渡に伴う債権者の変更について説明をし
て承諾を得たり契約書を作成し直したりするなどの手続は全くされていない。しか
も,レンタルの対象商品は,Aから同商品を購入したオーナーが,Aを介してユーザーに対し賃貸したものである。
そうすると,
ユーザーから得られるレンタル料
(リ
ース料)はオーナーに支払われるべきレンタル料(リース料)の財源となるべきものである。
Aがアのとおり元本の返還約束をするなどしてリース債権を販売することで全国の顧客から現金を受け入れ,
そのリース債権が実体のない名目上のものであった
ことも踏まえると,受け入れた現金については,Aがこれを売上げと呼称していたとしても預り金に該当することは明らかである。
なお,Aでは,全国各地で開催された催事と呼ばれる説明会において,多くの顧客を中心にしてリース債権の購入の勧誘を行い,
実際に多数の者から現金を受け入
れている以上,
説明会に参加していたのはAの顧客がほとんどであるなどとする弁護人の主張を踏まえても,
金銭受入れの対象が出資法2条2項の
不特定かつ多数
であることは明らかである。


被告人の認識

被告人は,公判において,リース債権の販売について,会長からメール等で内容を知らされるなどしたことはなく,
いつ販売が始まったのかも分からなかったなど
と述べる。
そこで検討すると,Aにおいては,10月31日,消費者庁から,3度目の業務停止命令等の行政処分を行う予定である旨の告知がされたことから,会長がそれま
での商品に代わるものとしてリース債権を販売することにして,
会長の指示により,
全国の地方マネージャー等に送信された11月3日のメールによって,近日中にリ
ース債権の販売を開始する予定であることやその概要が周知されたのを皮切りに,連日のように契約の内容や書式等が送信,周知されるとともに,会長がリース債権の販売額を約129億5000万円と大規模なものにして地方マネージャー等に対し結果を出すよう求めていた。そして,Aにおいては,従来から,会長をはじめ取締役のCや国際部ゼネラルマネージャーのDといった本社幹部が,全国各地で連
日のように開催される催事に赴き,講師として,動員された顧客に対し,会長が考案したスライド等を用いて,地方マネージャー等と連携しながら老後の健康や生活に不安を抱える顧客の心理を巧みについたりあおったりする活発な営業活動を繰り返してAの売上げ向上を牽引し,地方マネージャー等も,そうした講演内容や本社幹部による顧客への個別面会を活用し,
あるいは自らもスライド等を活用しながら
月間売上目標の達成に躍起になっていたところ,11月4日頃以降も,催事等における同様の営業活動の中でリース債権が販売されるようになって,短期間のうちに多数の顧客に対して多額のリース債権を販売した(以上の事実は格別争われておらず,証拠上も明らかである。。そして,社長である被告人は,会長と共にAの顔と)
なって,他の本社幹部同様に月の多くを全国の催事に費やし,講師として講演を担当してAの商品(健康器具等)の良さや信頼性の高さなどを説明していたのであるから,
当然のことながらAの商品や契約の売上げ向上を牽引する役割を果たしていた。そのような立場にある被告人としては,会長が全国に号令をかけて売り出したリース債権の契約内容を早期に把握する必要があるし,
周囲の社員も被告人に早期
に知らせる必要があるから,
被告人が11月3日のメールを確認したかはさておき,
本社幹部や地方マネージャー等が同メールを通じるなどして早期にリース債権の契約内容を把握する中で被告人だけがその内容を知らなかったとは考えられない。実際,被告人は,11月6日,A業務支援部主任から被告人に送信されたメールにより,会長の指示により本日から(催事で用いる)スライドにリース債権収入例等を追加したとして確認を求められると,
了解した旨の返信をしている。
また,
被告人は,
11月11日には,
会長宛てに
会長先ほどF課代にも聞いたのですが,5年もののリース債権の場合,70万円で100万円の額面のリース債権を購入。債権収入が月々5000円×60回=30万円。5年間終わる時に70万円が償還されるということでよいでしょうか。とのメールを送り,同日,Fから

5年物のリース債権の件,その通りです。残価はそのままお戻しします。以上,会長より

との返信を受けている。そうすると,被告人は,講演で用いるスライドの中にリース債権の購入を勧誘するスライドが加えられたことを確認したと認められるだけでなく,リース債権がAのこれまでの短期契約,すなわち,顧客は購入商品の価額に対する毎月0.5%(年6%)のレンタル料が得られる上にいつでも解約でき,解約すれば購入額全額が返還される契約内容の流れをくむものであることを的確に把握していたことも認められるから,
被告人が遅くとも11月11日までにはリ
ース債権譲渡契約の内容を理解していたことは明らかである。
また,
リース債権譲渡契約の内容はAには何ら利益をもたらさない合理性を欠いたものである上に,レンタルユーザー契約を交わしていたユーザーにしてみれば,契約内容や債権者の変更を意味するが,
被告人が会長等にこれらの点を確認した形
跡はないことから,
被告人がリース債権の実体の有無等について無頓着ないしは関
心が相当低かったものと認められる。そうすると,被告人が少なくともリース債権が実体のない名目上のものである可能性を認識していたと評価でき,このことも踏
まえると,被告人は,遅くとも11月11日までには,リース債権の販売によって顧客から受け入れた現金が預り金に該当することを認識していたといえる。3
被告人の役割(共謀の成否)

次に,共謀の成立も争われていることから,被告人が果たした役割をみると,被告人が催事においてリース債権の説明をしていたとする地方マネージャーのIの証言については,I自身が明確な記憶に基づいて証言しているのではなく,同様のことを述べる顧客らの供述調書(例えば甲52,55)についても2年以上前のことを正確に記憶しているのかという問題があるので,これらの証言,供述調書を用いることはためらわれる。
もっとも,被告人も,前記のFとのメールのやり取りを踏まえると,被告人が顧客に対しリース債権の契約内容を正確に説明できるようにしているものと理解できる。そして,被告人のスケジュール管理等を担当していた者が11月15日に全国のA店舗に送信したメールによれば,被告人主催の催事においては,被告人が個別面会時にラック上に備え付ける資料の種類や位置についてこと細かく指定し,今
回のリース債権譲渡説明書等の資料が一番見やすい中心に配置するよう指示している。そして,11月19日のQ店における催事においては,被告人が,その前日に同店のエリア担当者から,メールによって(個別面会予定の顧客について)終身保険の見直しを行い(中略)解約からリース債権へ検討されております。(中略)今月定価リース債権で額面4,700万円契約頂き,本人も大変喜ばれてます。社長より後押し頂ければ,納得して増額に繋がります。何卒宜しくお願い致します。(中略)社長を活用し,Q店の200%達成を目標にしっかり運営致します。などと連絡を受けたのに対し,被告人が

了解しました。Q店200%達成に向かって頑張りましょう。

と返信し,実際に被告人が11月19日にその顧客と個別面会をしたところ,同日中に前記エリア担当者から,メールによって(その顧客について)定価リース債券(※原文のまま)2,000万円(実入金1,400万円)社長面会と講演を活用し,高額見込み者より保険解約からリース債権の見込みに繋がりました。後追いを行い,24日迄の入金確定を行って参ります。と連絡を受け,
11月24日にその顧客がリース債権の購入代金として1050万円を支払っている(別表(添付省略)番号16)。これらのことからすると,被告人がQ店の売上目標達成に尽力すべく前記顧客に対し個別面会の機会にリース債権の購入に向けた何らかの働き掛けをしたことが優に推認される。のみならず,催事において被告人がリース債権の説明等を直接行ったかどうかはさておき,
結局は,
被告人は,
リース債権の販売開始後も,Aの顔として,催事において,商品の良さや信頼性の高さなどを講演する中で地方マネージャー等がスライド等に基づきリース債権の販売を勧誘している場に同席してこれに同調したり,
あるいは地方マネージャー等
がそのように勧誘していることを分かりながら同様の講演をしたり,個別面会にお
いて前記同様の働き掛けをしたりするなどして,
リース債権の販売も含めAにおけ
る商品や契約の売上げ向上を牽引する役割を果たしていたことも明らかである。し
たがって,被告人としても,遅くとも11月11日までにはそのような役割を認識していたといえるから,
それまでに判示の共犯者らとの間で共謀が成立していたこ
とは明らかである。
4
結論

以上のことから,判示の犯罪事実を認定した。
【量刑の理由】
1
本件は,会長であるBを頂点とするAにおいて,会長の指示の下,社長であ
る被告人や多数の社員が共謀して行った会社ぐるみによる出資法(預り金規制)違反の事案である。すなわち,会長がリース債権の発売を指示すると,連日のように各地で開催する催事等と呼ばれる説明会において,会長,社長である被告人をはじめとする幹部等が講師を務め,集めた顧客に対し,老後の健康や生活に不安を抱える顧客の心理を巧みについたりあおったりする活発な営業活動を繰り返し,約1か月という短期間のうちに,23名の顧客から合計1億1400万円余りもの多額の現金を預かったのである。このように本件は,全国的な規模で行われた組織的,職業的犯行である。しかも,本件から程なくしてAが事実上倒産したため上記預り金の大部分が返還されておらず,預金をしようとする一般大衆の財産を保護し社会の信用制度等を維持しようとした出資法2条の立法趣旨が実際にも損なわれ,社会に与えた影響は大きい。
2
その中で,
被告人は,
会長と共にAの顔となって,
催事や個別面会において,

リース債権の販売も含めAにおける売上げ向上を牽引する役割を果たしていたものであるから果たした役割は大きく,地方マネージャーらの負うべき責任より重いのは当然である。
3
他方で,Aは,会長によるワンマン経営の会社であり,本件を強力に主導し
た会長が最も重い責任を負うべきことはもちろんであって,被告人も社長とはいえ会長の指示に従うほかない立場にあったことは考慮しなければならず,その意味で非難の程度は低減される。
4
被告人は不合理な弁解をしているところがあって自らしたことに向き合っ
ている姿をみることはできないが,これまで指摘した犯情を踏まえると,被告人については懲役刑の執行を猶予するのが相当であることから,主文のとおり量刑した。(求刑

懲役2年6か月及び罰金200万円)

令和3年12月20日
東京地方裁判所刑事第7部

裁判長裁判官

浅香竜太
裁判官

野澤晃一
裁判官

金井千夏
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