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金融商品取引法違反被告事件
事件番号令和3(あ)96
事件名金融商品取引法違反被告事件
裁判年月日令和4年2月25日
法廷名最高裁判所第三小法廷
裁判種別決定
結果棄却
原審裁判所名大阪高等裁判所
原審事件番号令和2(う)690
原審裁判年月日令和2年12月18日
判示事項金融商品取引法167条1項6号にいう「その者の職務に関し知ったとき」に当たるとされた事例
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-02-25
情報公開日2022-03-02 04:00:04
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令和3年(あ)第96号
令和4年2月25日

金融商品取引法違反被告事件

第三小法廷決定
主文
本件上告を棄却する
理由
弁護人中村正利の上告趣意は,判例違反をいう点を含め,実質は単なる法令違反,事実誤認,量刑不当の主張であって,刑訴法405条の上告理由に当たらない。
所論に鑑み,被告人が本件における公開買付けの実施に関する事実を知ったことが金融商品取引法167条1項6号にいうその者の職務に関し知つたときに当たるか否かについて,職権で判断する。
1
原判決が是認する第1審判決が認定した犯罪事実の要旨は,次のとおりであ
る。
被告人は,A証券株式会社(以下A社という。)の従業者のB(以下Bという。)らが,株式会社C(以下C社という。)とのファイナンシャルアドバイザリー契約の締結に関し知った,C社の業務執行を決定する機関において,東京証券取引所が開設する有価証券市場に株券を上場していた株式会社D(以下D社という。)の株券の公開買付け(以下本件公開買付けという。)を行うことについての決定をした旨の公開買付けの実施に関する事実を,平成28年7月27日頃,A社の従業者として,その職務に関し知ったところ,知人のE(以下Eという。)にあらかじめD社の株券を買い付けさせて利益を得させる目的で,本件公開買付けの実施に関する事実の公表前にEに対して同事実を伝達し,Eにおいて,法定の除外事由がないのに,同事実の公表前である同月28日から同年8月3日までの間,証券会社を介し,東京証券取引所において,D社株券合計29万6000株を代金合計5326万8100円で買い付けた。
2
原判決の認定及び記録によれば,被告人が本件公開買付けの実施に関する事実を知った経緯は,以下のとおりである。C社の業務執行を決定する機関は本件公開買付けを行うことについての決定をし,平成28年7月11日,C社はA社との間で本件公開買付けの実施に向けた支援業務の提供を受けることを内容とするファイナンシャルアドバイザリー契約を締結して,A社のF部(以下F部という。)がその業務を担当していた。F部では,ジュニア(上司の指示を受けて業務に従事する下位の実務担当者)のBを含むA社の従業者数名が本件公開買付けに係る案件を担当し,Bらは,上記契約の締結に関し,本件公開買付けの実施に関する事実を知った。
被告人は,F部のジュニアであり,本件公開買付けに係る案件の担当ではなかったが,Bと同じ室内で執務しており,電話で通話中のBの発言を聞き取ることができた。
F部に所属する従業者は,担当案件の公表前情報が担当外の従業者に知られないようにするため,発言に注意し,案件名等については社名が特定されないような呼称を用いることとされており,本件公開買付けに係る案件はInfinityと呼ばれていた。また,F部では,上司がジュニアの繁忙状況を把握できるようにするため,ジュニアは,担当業務の概要をF部の共有フォルダ内の一覧表(以下本件一覧表という。)の各自の欄に記入することとされており,F部に所属する従業者であれば本件一覧表にアクセスできた。
被告人は,平成28年7月27日までに,本件一覧表のBの欄を閲覧し,BがInfinity案件を担当しており,同案件は,A社とファイナンシャルアドバイザリー契約を締結している上場会社が,その上場子会社の株券の公開買付けを行い,完全子会社にする案件であるという事実を知った。
被告人は,同月27日,自席において,Bが,その席で電話により上司との間でInfinity案件に関する通話をする中で,不注意から顧客の社名としてCと口にするのを聞き,Infinity案件の公開買付者がC社であるという事実を知った。その後,被告人は,インターネットで検索してC社の有価証券報告書を閲覧し,関係会社の中で上場子会社はD社のみであることを確認し,本件公開買付けの対象となるのはD社の株券であるという事実を知った。
3
原判決は,以上の事実関係を前提に,被告人が本件公開買付けの実施に関す
る事実を職務に関し知った場合に該当すると解し,金融商品取引法197条の2第15号,167条の2第2項(167条1項6号)を適用した第1審判決を是認した。
これに対し,所論は,原判決は公開買付けの実施に関する事実の一部を職務に関し知った場合にも金融商品取引法167条1項6号を適用できると解したものであり,このような解釈は,顧客に対して有用な情報を提供するため日常的に株式市場等に関わる情報を収集分析するなどの業務を行っている証券会社の従業者にとって処罰範囲が不明確であり,同法の解釈を誤った法令違反がある旨主張する。4
しかしながら,F部に所属するA社の従業者であった被告人は,その立場の
者がアクセスできる本件一覧表に社名が特定されないように記入された情報と,F部の担当業務に関するBの不注意による発言を組み合わせることにより,C社の業務執行を決定する機関がその上場子会社の株券の公開買付けを行うことについての決定をしたことまで知った上,C社の有価証券報告書を閲覧して上記子会社はD社であると特定し,本件公開買付けの実施に関する事実を知るに至ったものである。このような事実関係の下では,自らの調査により上記子会社を特定したとしても,証券市場の公正性,健全性に対する一般投資家の信頼を確保するという金融商品取引法の目的に照らし,被告人において本件公開買付けの実施に関する事実を知ったことが同法167条1項6号にいうその者の職務に関し知つたときに当たるのは明らかである。したがって,被告人について,同法197条の2第15号,167条の2第2項違反の罪の成立を認めた第1審判決を是認した原判断は正当である。
よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項ただし書により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。(裁判長裁判官

道晴


裁判官

惠理子

裁判官

戸倉三郎

長嶺安政)
裁判官

宇賀克也

裁判官

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