判例検索β > 令和2年(わ)第4575号
詐欺
事件番号令和2(わ)4575
事件名詐欺
裁判年月日令和4年1月31日
法廷名大阪地方裁判所
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-01-31
情報公開日2022-03-01 04:00:08
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主文
被告人を懲役3年に処する
この裁判が確定した日から5年間その刑の執行を猶予する。
理由
【犯罪事実】
被告人は,中小企業庁が所管する国の持続化給付金制度を利用して持続化給付金名目で現金をだまし取ろうと考え,
第1

別表1番号1ないし5(別表1は省略)のとおり,同別表共犯者欄記
載の共犯者と各共謀の上,令和2年5月1日から同月5日までの間の5回にわたり(同別表申請年月日欄記載の各日に),同別表申請場所欄記載の場所において,真実は,申請名義人である同別表申請名義人欄記載の者(全5名)が営む同別表業種欄記載の業務の売上が減少しておらず,持続化給付金の給付要件を満たさないのに,同要件を満たすかのように装い,インターネットに接続されたパーソナルコンピュータを使用して,中小企業庁から給付申請審査等の業務委託を受けた一般社団法人A協議会が開設する持続化給付金申請用ホームページに接続し,各申請名義人が営む業務につき,同別表売上減少月欄記載の年月の売上額を同別表売上減少月の売上額欄記載の金額と入力し,売上減少月の前年売上額を同別表売上減少月の前年売上額欄記載の金額などと入力するととともに,同入力内容に沿う内容虚偽の所得税確定申告書の控え及び売上台帳等の画像データを添付して持続化給付金の給付申請を行い,前記協議会事務局長補佐ら審査担当者をして,給付申請が給付要件を満たす正当なものと誤信させ,同月7日から同月21日までの間(同別表給付決定日欄記載の各日に),同事務局長補佐に,各申請名義人に対する持続化給付金各100万円(合計500万円)の給付を決定させ,よって,同月8日から同月22日までの間(同別表振込日欄記載の各日に),前記協議会から委託を受けた株式会社Bの担当者に,同別表振込口座欄記載の各預金口座に,各100万円(合計500万円)を振込入金させ,これらをだまし
取り,
第2

別表2番号1ないし40(別表2は省略)のとおり,同別表共犯者欄
記載の共犯者と各共謀の上,同月1日から同年6月10日までの間の40回にわたり(同別表申請年月日欄記載の各日に),同別表申請場所欄記載の場所において,真実は,申請名義人である同別表申請名義人欄記載の者(全40名)が同別表業種欄記載の事業を営む個人事業者ではなく,持続化給付金の給付要件を満たさないのに,申請名義人が同要件を満たす個人事業者であるかのように装い,インターネットに接続されたパーソナルコンピュータを使用して,前記持続化給付金申請用ホームページに接続し,申請名義人が同事業を営む個人事業者であり,同事業による同別表売上減少月欄記載の年月の売上額を同別表売上減少月の売上額欄記載の金額と入力し,売上減少月の前年売上額を同別表売上減少月の前年売上額欄記載の金額などと入力するととともに,同入力内容に沿う内容虚偽の所得税確定申告書の控え及び売上台帳等の画像データを添付して持続化給付金の給付申請を行い,前記協議会事務局長補佐ら審査担当者をして,給付申請が給付要件を満たす正当なものと誤信させ,同年5月11日から同年6月24日までの間(同別表給付決定日欄記載の各日に),同事務局長補佐に,各申請名義人に対する持続化給付金各100万円(合計4000万円)の給付を決定させ,よって,同年5月12日から同年6月25日までの間(同別表振込日欄記載の各日に),前記協議会から委託を受けた株式会社Bの担当者に,同別表振込口座欄記載の各預貯金口座に,各100万円(合計4000万円)を振込入金させ,これらをだまし取った。
【自首の主張に対する判断】
弁護人は,判示第2の別表2番号37及び38以外の事件については,自首が成立すると主張するところ,関係証拠によれば,被告人は,令和2年8月24日,判示第2の別表2番号37及び38の事件の共犯者であるC及びDの両名から,返金や自首を考えている旨の連絡を受けたことから,自らも警察に出頭しようなどと考
え,同月26日には現在の弁護人が所属する弁護士事務所を訪れ,弁護人らに対し,およそ100件の不正請求をしていることを告げるなどして対応を相談したとこと,弁護人らは,すぐに被告人に自首をさせて捜査に協力させることとし,弁護人がその場で東淀川警察署に電話をかけ,被告人の氏名や税理士であることなどを告げた上で,持続化給付金の不正受給をしており,今からでも出頭させる旨告げたところ,対応したE警察官は,週明けに出頭するよう指示したこと,同月31日に被告人が弁護人らと共に東淀川警察署に出頭すると,最初に被告人らの応対をしたF警察官に対し,弁護人が,被告人はC及びDの共犯に当たり,自首の意向を有していることや,他にも数十件同種の案件に関与しているようなので,全て話をして捜査に協力させる予定であり,不正請求と考えられる請求内容を記載したリストも後日提出する予定であることなどを伝えたこと,引き続き行われたF警察官らによる被告人からの事情聴取の中で,被告人も,F警察官に対し,Cらと共にした不正請求のほか,数十件くらいの不正請求に関与していることを告げたこと,同年9月初めには被告人がその時点で不正請求と考えた請求内容を記載したリスト及び関係する資料(確定申告書や売上台帳等)を同警察署に持参して提出し,そのリストには本件公訴事実に係る持続化給付金の給付申請がいずれも含まれていたこと(弁2号証資料3参照),以上の事実経過が認められる。これによれば,被告人は,弁護人が自首の成立を主張する各事件について,いまだ捜査機関に発覚する前に自己の犯罪を捜査機関に申告したといえるから,自首の成立が認められる。検察官は,同年8月25日の時点で捜査機関が共犯者Dから被告人の関与について聴取していたことや,被告人の事件の捜査主任官であったE警察官が,被告人らが同月31日に来署する以前の時点で,これまで公金不正受給事件を取り扱った経験などに照らし,少なくとも50件くらい余罪があると考えていた旨証言していることを指摘し,捜査機関においてそのような嫌疑を抱いていた以上,自発性の要件に欠け,自首は成立しないなどと主張するが,前記経過に照らすと,被告人及び弁護人は,捜査機関からの追及を受ける以前に積極的に被告人が犯した不正請求事件について申
告したと認められるから,検察官が指摘する事情のみにより自首の成立が否定されるものではない。
【量刑の理由】
税理士事務所を開設する税理士であった被告人が,自らの親族,税理士事務所の従業員及びその親族,事務所の顧問先関係者らと各共謀の上,それらの者に持続化給付金の不正申請をさせ,持続化給付金をだまし取ることを繰り返した事案である。
被告人は,新型コロナウイルス感染症の拡大により影響を受けた事業者に対する支援策として導入された持続化給付金について,申請方法や必要とされる資料,大量の申請が予想されたことなどに照らすと,不正申請をしたとしても審査が甘く,発覚しづらいであろうなどと考え,親族や事務所関係者に対して不正受給を促すとともに,申請の際に利用する虚偽の確定申告書の作成を含め,申請手続を事務所で代行し,給付金の詐取を重ねたものである。専門知識等を悪用するとともに,事務所ぐるみで組織的に敢行した犯行といえる。
被害金額についてみると,被告人らが詐取した給付金の総額は,合計4500万円とこの種事案の中でも非常に高額である。給付金の受給者は,いずれも共犯者であり,被告人自身は,顧問先関係者との共謀事案に限り,事務所の代行手数料として各10万ないし20万円(総額314万円)を利得したにとどまるが,持続化給付金制度に着目して不正申請のスキームを考え,共犯者らに対して不正受給を促すなどしたのは被告人であるし,申請手続を行ったり,事務所の従業員らに指示して行わせたりしていたのも被告人である。被告人は,このような犯行を重ねた理由等については,先の見えないコロナ禍において,親族や事務所関係者に喜んでもらいたかったなどと述べているが,前記のとおり一部の事件については代行手数料を得ているほか,手数料等を得ていない事件についても,公的資金によって自己の周辺者・関係者を利得させようとした身内本位の犯行といえるから,動機や経緯に関して特段酌み得る点があるとはいえない。弁護人は,持続化給付金制度そのものに不
正を誘発する性質が内在していた旨主張するが,早期に幅広く給付をすることを目的とした合目的的な制度設計がされたものであって,その点に目を付けて殊更に犯行に及んだ被告人に対する非難の度合いを軽減する事情とはいい難い。45回にわたり詐欺を繰り返した被告人については,厳しい非難は免れず,以上の犯情に照らすと,その刑事責任は重い。
もっとも,被害金額のうち4100万円については既に返金済みと認められるし,残りの400万円についても返金の準備が整えられ,被害回復がされる具体的な見込みがあり(弁1),財産的被害はほぼ回復しているといえる。返金したのは各受給者(共犯者ら)であるとはいえ,被告人は,自首するとともに共犯者らに連絡を取り,詐取した現金を返金するよう依頼したほか,一部の共犯者らから得ていた代行手数料(総額314万円)は速やかに返金を済ませた経過が認められ(弁2,4,12),被告人のこれらの行動が被害回復を促進したといえるから,この点は,財産犯である本件につき,被告人の刑事責任を大幅に軽減する事情といえる。また,前記のとおり起訴された事件のうち43件については自首の成立が認められるところ,程なく自身の犯行も露見すると考えて自首した面もあるとはいえ,被告人は,自首するに当たり,不正請求に該当すると考えた請求内容を記載したリストを作成し,関係資料と共に速やかに捜査機関に提出したほか,その後も捜査に進んで協力したというのであって,被告人による自首が本件捜査を相当容易にさせたとうかがわれる。このように,犯行後の事情とはいえ,被告人のために特に酌み得る以上の事情があることと,被告人自身の利得額は被害額全体のごく一部という点を含めた前記犯情に照らすと,検察官の求刑は重すぎるし,前科前歴がない被告人については,いまだ刑の執行を全部猶予する余地も見出し得るといえる。そして,被告人が公判廷でも罪を認めて反省の態度を示し,合計220万円の贖罪寄付も行っていることや,自業自得とはいえ,既に税理士等の登録を抹消し,事務所も閉鎖せざるを得なくなるなど社会的制裁を受けていること,義父及び友人が情状証人として出廷し,被告人の更生への助力等を誓約していることなどの事情も踏まえ
ると,再犯可能性が高いとはいえない被告人については,その刑事責任の重さに照らし,主文のとおりの懲役刑に処しつつ,その執行を全部猶予し,社会内で更生する機会を与えるのが相当である。
(検察官山口順子,私選弁護人中村和洋各出席)(求刑―懲役6年)令和4年1月31日
大阪地方裁判所第9刑事部
裁判官

矢野直邦
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