判例検索β > 令和3年(行ケ)第1号
選挙無効請求事件
事件番号令和3(行ケ)1
事件名選挙無効請求事件
裁判年月日令和4年2月8日
法廷名仙台高等裁判所
結果棄却
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-02-08
情報公開日2022-02-18 04:00:08
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
主文1
原告らの請求をいずれも棄却する。

2
訴訟費用は原告らの負担とする。

第1

実及び理由
請求の趣旨
令和3年10月31日施行の衆議院議員総選挙(以下本件選挙という。)

に係る衆議院小選挙区選出議員の選挙(以下小選挙区選挙という。)のうち,
宮城県第1区から第6区まで,福島県第1区から第5区まで,山形県第1区から第3区まで,岩手県第1区から第3区まで及び青森県第1区から第3区までの各選挙区(以下本件各選挙区という。
)における選挙を無効とする。
第2

事案の概要

1
本件は,本件選挙について,本件各選挙区の選挙人である原告らが,小選挙区選挙の選挙区割りに関する公職選挙法の規定は憲法に違反し無効であるから,これに基づき施行された本件選挙の本件各選挙区における選挙も無効であるなどと主張して提起した選挙無効訴訟である。

2
前提事実(争いのない事実又は後掲証拠及び弁論の全趣旨により容易に認定することができる事実)


原告らは,それぞれ本件各選挙区のうち別紙当事者目録の各原告の肩書括弧内に記載した選挙区の選挙人である。



被告らは,それぞれ本件各選挙区のうち別紙当事者目録の各被告の肩書括弧内に記載した各選挙区について,本件選挙に関する事務を管理する選挙管理委員会である。
本件選挙は,令和3年10月31日に施行された。
本件選挙当日,選挙人(有権者)数を議員定数で除した議員1人当たりの選挙人数は,本件各選挙区では23万7353人(福島県第4区)から45万5409人(宮城県第2区)まで,全国最少となる鳥取県第1区では23万0959人,全国最多となる東京都第13区では48万0247人であった(乙1の2)

この結果,本件選挙時において,議員1人当たりの選挙人数は,鳥取県第1区を1とすると,本件各選挙区は1.028から1.972まで(概数。以下,この較差に関する数値はいずれも概数である。,東京都第13区は2.)
079であった。
3
争点
本件選挙時において,小選挙区選挙の選挙区割りに関する公職選挙法13条1項及び別表第1(以下本件区割規定という。
)は,憲法56条2項,1
条及び前文第1段第1文並びに15条に違反し無効か否か。

4
争点に関する当事者の主張


原告ら

平成21年8月30日施行の衆議院議員総選挙(以下平成21年選挙という。
)に関する最高裁平成22年(行ツ)第207号同23年3月2
3日大法廷判決・民集65巻2号755頁(以下平成23年大法廷判決という。,平成24年12月16日施行の衆議院議員総選挙(以下)
平成24年選挙という。
)に関する最高裁平成25年(行ツ)第20
9号,第210号,第211号同年11月20日大法廷判決・民集67巻8号1503頁(以下平成25年大法廷判決という。
)及び平成2
6年12月14日施行の衆議院議員総選挙(以下平成26年選挙という。
)に関する最高裁平成27年(行ツ)第253号同年11月25日大法廷判決・民集69巻7号2035頁(以下平成27年大法廷判決という。
)は,いわゆる1人別枠方式について,憲法の投票価値の平等の
要求に反すると判断した。
しかるところ,本件区割規定は,11県において1人別枠方式により配分される議員定数を維持しており,その結果,令和2年9月1日において,ある地域(東京都第10区)の選挙人の投票価値は,他の地域(鳥取県第1区)の選挙人の0.48人分の投票価値しか有さないこと(選挙区間の投票価値の最大較差1対2.066)となった。
したがって,本件区割規定が定める選挙区割り(以下本件選挙区割りという。
)は,一人一票の投票価値の平等を保障する人口比例選挙
(日本国民の人口(以下,単に人口という。
)の過半数(50パーセ
ント超)が国会議員の過半数(50パーセント超)を選出する選挙をいう。ちなみに,いわゆるアダムズ方式により衆議院議員総選挙の選挙区割り(289小選挙区,11比例代表選挙区)をする場合,議員1人当たりの人口をこれが少ない県から順に対応する選出される議員数が過半数(233人)となるまで累積すると,全人口の48.05パーセントで過半数の議員を選出することができるから,アダムズ方式による選挙区割りも人口比例選挙の要求に違反する。
)を要求する憲法56条2
項,1条及び前文第1段第1文並びに15条に違反した違憲状態にあって,憲法98条1項により無効であり,本件選挙のうち本件各選挙区における選挙も無効である。

ところで,本件区割規定は,平成29年10月22日施行の衆議院議員総選挙(以下平成29年選挙という。
)時から改正されていないとこ
ろ,平成29年選挙に関する最高裁平成30年(行ツ)第153号同年12月19日大法廷判決・民集72巻6号1240頁(以下平成30年大法廷判決という。)は,本件区割規定を合憲と判断したが,平成3
0年大法廷判決は,以下のとおり,昭和47年12月10日施行の衆議院議員総選挙(以下昭和47年選挙という。
)に関する最高裁昭和4
9年(行ツ)第75号昭和51年4月14日大法廷判決・民集30巻3号223頁(以下昭和51年大法廷判決という。
)及び昭和58年1
2月18日施行の衆議院議員総選挙(以下昭和58年選挙という。)
に関する最高裁昭和59年(行ツ)第339号昭和60年7月17日大法廷判決・民集39巻5号1100頁(以下昭和60年大法廷判決という。
)並びに平成23年大法廷判決,平成25年大法廷判決及び平成
27年大法廷判決を不当に変更するものである。
すなわち,昭和51年大法廷判決及び昭和60年大法廷判決は,いずれも,公職選挙法の議員定数配分規定について,不可分の一体をなすものと解すべきであり,憲法に違反する不平等を生ぜしめている部分のみならず,全体として違憲の瑕疵を帯びるものと解すべきである旨判示する。また,昭和51年大法廷判決当時,昭和47年選挙時の公職選挙法は,昭和50年法律第63号(以下昭和50年改正法という。
)により改
正され,選挙区間の投票価値の最大較差が1対4.83から1対2.9に縮小していたにもかかわらず,昭和51年大法廷判決は,昭和47年選挙時の議員定数配分規定自体に影響を及ぼさない昭和50年改正法を考慮せず,昭和47年選挙は違法であると判断したものであるから,違法の判断基準時を昭和47年選挙の投票時とするものである。
そして,平成23年大法廷判決は,1人別枠方式を憲法の投票価値の平等の要求に反する状態とし,平成21年選挙時の選挙区割りは,そのような1人別枠方式を含む区割基準に基づいて定められている以上,これもまた,平成21年選挙時において,憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたとし,合理的期間内にできるだけ速やかに区割基準中の1人別枠方式を廃止し,区割規定を改正するなどの立法措置を講ずる必要がある旨判示し,平成25年大法廷判決も,平成24年選挙時の選挙区割り(平成21年選挙時に同じ)について,平成21年選挙時と同様に憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあった旨判示していたところ,平成27年大法廷判決は,平成26年選挙時の選挙区割りについて,投票価値の較差が生じた主な要因は,いまだ多くの都道府県において1人別枠方式を定めた旧区画審設置法(平成24年法律第95号(以下平成24年改正法という。
)による改正前の区画審設置法をい
う。以下同じ。
)3条2項が削除された後の区画基準に基づいて定数の再
配分が行われた場合とは異なる定数が配分されたことにあるなどとして,憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にある旨判示した。
以上に対し,平成30年大法廷判決は,平成29年選挙時において,新区画審設置法(平成28年法律第49号(以下平成28年改正法という。
)による改正後の区画審設置法をいう。以下同じ。
)3条1項の趣
旨に沿った選挙制度の整備(平成32年(令和2年)以降10年ごとに行われる国勢調査の結果に基づく各都道府県への定数配分をアダムズ方式により行うことによって1人別枠方式の下における定数配分の影響を完全に解消させる立法措置が講じられていたこと)が実現されていたなどとして,本件区割規定が11県において1人別枠方式により配分される議員定数を維持しているにもかかわらず,これを憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったということはできない旨判示した。
しかし,平成23年大法廷判決,平成25年大法廷判決及び平成27年大法廷判決によれば,上記11県は違憲状態であり,昭和51年大法廷判決によれば,違法判断の基準時である平成29年選挙の投票時の後の選挙を対象とした立法措置により,違憲状態が解消されることはなく,昭和51年大法廷判決及び昭和60年大法廷判決が判示する公職選挙法の議員定数配分規定の不可分の一体の性質からすると,平成29年選挙時の選挙区割りは全体として違憲の瑕疵を帯びるものである。
そうすると,平成30年大法廷判決は,昭和51年大法廷判決及び昭和60年大法廷判決並びに平成23年大法廷判決,平成25年大法廷判決及び平成27年大法廷判決を変更するものであるが,平成30年大法廷判決には,これらを変更する旨の判示はなく,これらを変更する真に説得力のある理由付けもない。
したがって,平成30年大法廷判決は不当な判例変更をするもので,法論理としても破綻しているから判例としての拘束力はなく,昭和51年大法廷判決及び昭和60年大法廷判決並びに平成23年大法廷判決,平成25年大法廷判決及び平成27年大法廷判決は,なお先例拘束力を有しており,これによれば,本件選挙時において,本件選挙区割りは全体として違憲であり,本件選挙のうち本件各選挙区における選挙は無効である。

昭和51年大法廷判決以下の最高裁大法廷判決が採用するいわゆる合理的期間の法理は憲法98条1項に違反するし,仮に,これを採用するとしても,本件選挙時には合理的期間が経過していた。


本件選挙の効力を争う本訴その他の訴訟を併せると,全ての小選挙区選挙の選挙を無効とすることが求められており,かつ,これらの訴訟の原告らの請求が全て認容されたとしても,憲法56条1項所定の定足数を満たす比例代表選出の衆議院議員が存在するから,このような本件選挙と事情を異にする昭和47年選挙及び昭和58年選挙に関する昭和51年大法廷判決及び昭和60年大法廷判決が採用した事情判決の法理を適用すべきではない。



被告ら

憲法は,投票価値の平等を要求しているが,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する唯一,絶対の基準ではなく,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものである。
そして,選挙制度の仕組みの決定は国会の広範な裁量に委ねられているから,具体的な選挙区割りやその前提となる区割規定を定めるに当たっては,投票価値の平等を最も重要かつ基本的な基準としつつも,較差という客観的かつ形式的な数値だけではなく,その背後にある選挙制度の仕組みや較差を生じさせる要因等も含めて種々の政策的考慮要素を総合的に考慮した上で,国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに,投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが求められ,その調和が保たれる限りにおいて,当該選挙制度の仕組みを決定したことが国会の合理的な裁量の範囲を超えることにはならない。したがって,国会が選挙制度の仕組みにつき具体的に定めたところが,投票価値の平等の要請に反するため,国会に認められる裁量権を考慮してもなおその限界を超えており,これを是認することができない場合に,初めて憲法に違反することとなる。

ところで,平成24年以降の公職選挙法等の改正は,国会が,選挙区間の投票価値の最大較差が2倍未満となる状態を安定的に維持すべく,1人別枠方式を廃止し,人口比例による定数配分の見直しを定期的に実施する仕組みを確立させる内容のものである。また,平成28年改正法により,4年後の平成32年(令和2年)見込人口(平成27年に行われた国勢調査(以下平成27年国勢調査という。
)による人口に,平成
22年に行われた国勢調査(以下平成22年国勢調査という。
)から
平成27年国勢調査までの人口の増減率を乗じて得た人口をいう。以下同じ。
)を基準としても,選挙区間の投票価値の最大較差が2倍未満になるように選挙区割りの改定をする措置が講じられ,平成29年法律第58号(以下平成29年改正法という。
)により,これが実現した。こ
のような一連の公職選挙法等の改正は,平成23年大法廷判決,平成25年大法廷判決及び平成27年大法廷判決が繰り返し国会に求めてきた立法的措置の内容に適合し,国会が正当に考慮することができる他の政策的目的ないし理由との関連において,投票価値の平等の要請を調和的に実現した立法的措置ということができ,このようにして成立した本件区割規定は国会の合理的裁量の範囲の限界を超えるものではない。平成30年大法廷判決も本件区割規定の成立により違憲状態が解消された旨明示的に判示するが,本件選挙も,アダムズ方式に基づく定数配分がされるまでの漸進的な是正を図る措置である平成28年改正法及び平成29年改正法に基づく本件区割規定によるものであるから,平成29年選挙と同様の評価がされるべきである。
選挙区間の投票価値の最大較差は,令和2年に行われた国勢調査(以下令和2年国勢調査という。
)時の人口によれば1対2.096,本件
選挙時の選挙人数によれば1対2.079となったが,①上記アのとおり,本件選挙時における本件区割規定の憲法適合性については,最大較差の数値等の客観的かつ形式的な数値だけでなく,種々の政策的考慮要素を総合的に考慮する必要があるところ,平成28年改正法は,平成32年(令和2年)見込人口を基準としても選挙区間の投票価値の最大較差を2倍未満とすることを基本としたもので,予測した増減率と異なる人口異動があったことを要因として結果的に2倍以上の較差が生じることは当然にあり得るのであって,1人別枠方式のような選挙制度自体に起因する構造的な問題により2倍以上の較差が生じたものではないこと,②そもそも,このような当然にあり得る較差の変動に備えて10年又は5年単位で選挙区割りをして是正するという選挙制度が整備されていること,③今後,アダムズ方式により都道府県別に定数配分を実施すれば都道府県間の最大較差は1対1.697まで下がることが見込まれ,法律上,令和4年6月25日までに,都道府県別定数を前提に国勢調査の結果に基づく人口による選挙区間の最大較差が2以上とならないような選挙区割りの改定案の勧告が予定されていることといった事情を考慮すれば,本件選挙時において,本件選挙区割りが違憲状態に至っていたということはできない。

以上からすると,憲法56条2項等を根拠として,本件選挙時における本件区割規定が人口比例選挙に違反する旨の原告らの主張は理由がない。
なお,1人別枠方式に関する平成23年大法廷判決,平成25年大法廷判決及び平成27年大法廷判決の原告らの理解が独自のものであることは,これら大法廷判決の判示内容から明らかであるから,平成30年大法廷判決がこれらの大法廷判決を不当に変更した旨の原告らの主張は,その前提において誤っている。また,平成30年大法廷判決が,本件区割規定の憲法適合性を判断するに当たり,平成28年改正法によるアダムズ方式の採用を考慮したのは,平成28年改正法の附則の漸進性を示したものと解すべきであり,違法の判断の基準時の判例を不当に変更した旨の原告らの主張は理由がない。


仮に,本件選挙時において,本件選挙区割りが違憲状態に至っていたとしても,本件選挙は平成30年大法廷判決後に初めて施行された衆議院議員総選挙であるから,国会において,そのことを認知すべき契機が存在したとはいえず,このほか,上記イのような事情にも鑑みると,国会が,憲法上要求される合理的期間にその是正をしなかったということはできない。

第3
1
当裁判所の判断
当裁判所が認定する事実(前提事実のほか,甲20,乙1の1の1・2,1の2,2の1~4,3の2,4~6,8の1~17,9,10,11の1,14の1・2,16,18の1,29及び弁論の全趣旨により認定することができる事実並びに当裁判所に顕著な事実)は,次のとおりである。
昭和25年に制定された公職選挙法は,衆議院議員の選挙制度につき,中選挙区単記投票制を採用していた。
中選挙区単記投票制による衆議院議員総選挙の効力について,昭和47年選挙に関する昭和51年大法廷判決及び昭和58年選挙に関する昭和60年大法廷判決は,要旨,それぞれ次のとおり判示した。

昭和51年大法廷判決
憲法14条1項,15条1項,3項,44条但し書は,国会両議院の議員の選挙における選挙権の内容,すなわち各選挙人の投票の価値が平等であることを要求するものであり,上記各選挙につき国会が定めた具体的な選挙制度において,国会が正当に考慮することができる重要な政策目的ないし理由に基づく結果として合理的に是認することができない投票価値の不平等が存するときは,憲法の上記規定違反の問題を生ずる。昭和47年選挙時の公職選挙法の議員定数配分規定の下における人口数と議員定数との比率上の著しい不均衡は,人口の漸次的異動によって生じたものであって,昭和47年選挙時の著しい比率の偏差(約1対5)から推しても,そのかなり以前から選挙権の平等の要求に反すると推定される程度に達していたと認められることを考慮し,更に,公職選挙法自身その別表第1の末尾において同表はその施行後5年ごとに直近に行われた国勢調査の結果によって更正するのを例とする旨を規定しているにもかかわらず,昭和39年の改正後昭和47年選挙の時まで8年余にわたってこの点についての改正が何ら施されていないことをしんしゃくするときは,上記規定は,憲法の要求するところに合致しない状態になっていたにもかかわらず,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったものと認めざるを得ない。
不可分の一体をなすと考えられる昭和47年選挙時の公職選挙法の選挙区割及び議員定数配分規定は,全体として憲法14条1項,15条1項,3項,44条但し書に違反するものであった。
昭和47年選挙が憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われたものであることを理由としてこれを無効とする判決をしても,これによって直ちに違憲状態が是正されるわけではなく,かえって憲法の所期するところに必ずしも適合しない結果を生ずる。これらの事情等を考慮するときは,本件においては,行政事件訴訟法31条1項前段の規定に含まれる一般的な法の基本原則(事情判決の法理)に従い,昭和47年選挙は憲法に違反する議員定数配分規定に基づいて行われた点において違法である旨を判示するにとどめ,選挙自体はこれを無効としないこととするのが,相当であり,そしてまた,このような場合においては,選挙を無効とする旨の判決を求める請求を棄却するとともに,当該選挙が違法である旨を主文で宣言するのが,相当である。

昭和60年大法廷判決
昭和58年選挙時の公職選挙法の議員定数配分規定は,全体として憲法14条1項に違反するものであった。
衆議院議員選挙が憲法14条1項に違反する議員定数配分規定に基づいて行われたことにより違法な場合であっても,選挙を無効とする結果余儀なくされる不都合を回避することを相当とする事情があるときは,いわゆる事情判決の制度の基礎に存するものと解すべき一般的な法の基本原則に従い,選挙無効の請求を棄却するとともに主文において当該選挙が違法である旨を宣言すべきである。
平成6年に公職選挙法の一部を改正する法律(平成6年法律第2号)が成
立し,その後,平成6年法律第10号及び同第104号によりその一部が改正され,これらにより,従来の中選挙区単記投票制に代わって小選挙区比例代表並立制が導入された。
本件選挙時,衆議院議員の定数は465人とされ,そのうち289人が小選挙区選出議員,176人が比例代表選出議員とされ(公職選挙法4条1項)
,小選挙区選挙については,全国に289の選挙区を設け,各選挙区において1人の議員を選出するものとされ(同法13条1項,別表第1。以下,後記の改正の前後を通じてこれらの規定を併せて区割規定という。,比)
例代表選出議員の選挙(以下比例代表選挙という。
)については,全国
に11の選挙区を設け,各選挙区において所定数の議員を選出するものとされている(同法13条2項,別表第2)
。総選挙においては,小選挙区選挙
と比例代表選挙とを同時に行い,投票は小選挙区選挙及び比例代表選挙ごとに1人1票とされている(同法31条,36条)

平成6年に前記の公職選挙法の一部を改正する法律と同時に成立した衆議院議員選挙区画定審議会設置法(以下,後記の改正の前後を通じて区画審設置法という。)によれば,衆議院議員選挙区画定審議会(以下区画審
という。
)は,衆議院小選挙区選出議員の選挙区の改定に関し,調査審議し,必要があると認めるときは,その改定案を作成して内閣総理大臣に勧告するものとされている(同法2条)

上記の改定に係る選挙区の区割りの基準(以下,後記の改正の前後を通じて区割基準という。
)について,新区画審設置法3条は,①1項において,上記の改定案を作成するに当たっては,各選挙区の人口(同条においては最近の国勢調査の結果による人口をいう。
)の均衡を図り,各選挙区の人
口のうち,その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上とならないようにすることとし,行政区画,地勢,交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならないものと定めるとともに,②2項において,各都道府県の区域内の選挙区の数は,各都道府県の人口を小選挙区基準除数(その除数で各都道府県の人口を除して得た数(1未満の端数が生じたときは,これを1に切り上げるものとする。
)の合計数が衆議院小選挙区選出議
員の定数に相当する数と合致することとなる除数をいう。
)で除して得た数
(1未満の端数が生じたときは,これを1に切り上げるものとする。)とす
るとし(アダムズ方式)
,③3項において,下記の同法4条2項の規定による勧告に係る改定案の作成に当たっては,各都道府県の区域内の衆議院小選挙区選出議員の選挙区の数は変更しないものとすると定めている。そして,選挙区の改定に関する区画審の勧告は,統計法5条2項本文の規定により10年ごとに行われる国勢調査の結果による人口が最初に官報で公示された日から1年以内に行うものとされ(新区画審設置法4条1項),さ
らに,区画審は,統計法5条2項ただし書の規定により上記の国勢調査が行われた年から5年目に当たる年に行われる各選挙区の国勢調査の結果による人口のうち,その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上となったときは,当該国勢調査の結果による人口が最初に官報で公示された日から1年以内に,上記の勧告を行うものとされている(新区画審設置法4条2項)

なお,旧区画審設置法3条は,①1項において,上記の改定案を作成するに当たっては,各選挙区の人口の均衡を図り,各選挙区の人口のうち,その最も多いものを最も少ないもので除して得た数が2以上とならないようにすることを基本とし,行政区画,地勢,交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行わなければならないものと定めるとともに,②2項において,各都道府県の区域内の選挙区の数は,各都道府県にあらかじめ1を配当することとし(1人別枠方式)
,この1に,小選挙区選出議員の定数に相当する数から
都道府県の数を控除した数を人口に比例して各都道府県に配当した数を加えた数とすると定めていた(以下,この区割基準を旧区割基準といい,この規定を旧区割基準規定ともいう。。

平成21年選挙の小選挙区選挙は,平成14年に成立した公職選挙法の一部を改正する法律(平成14年法律第95号)により改定された選挙区割り(以下旧選挙区割りという。
)の下で施行されたものであり,選挙当日
における選挙区間の選挙人数の最大較差は1対2.304であり,選挙人数が最も少ない選挙区と比べて較差が2倍以上となっている選挙区は45選挙区であった(以下,平成21年選挙に係る衆議院小選挙区選出議員の選挙区を定めた平成24年改正法による改正前の公職選挙法13条1項及び別表第1を併せて旧区割規定という。。

平成21年選挙につき,平成23年大法廷判決は,選挙区の改定案の作成に当たり,選挙区間の人口の最大較差が2倍未満になるように区割りをすることを基本とすべきものとする旧区画審設置法3条1項の定めは,投票価値の平等の要請に配慮した合理的な基準を定めたものであると評価する一方,平成21年選挙時において,選挙区間の投票価値の較差が拡大していたのは,各都道府県にあらかじめ1の選挙区数を割り当てる同条2項の1人別枠方式がその主要な要因となっていたことが明らかであり,かつ,人口の少ない地方における定数の急激な減少への配慮等の視点から導入された1人別枠方式は既に立法時の合理性が失われていたものというべきであるから,旧区割基準のうち1人別枠方式に係る部分及び旧区割基準に従って改定された旧区割規定の定める旧選挙区割りは憲法の投票価値の平等の要求に反する状態に至っていたと判示した。そして,同判決は,これらの状態につき憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず,旧区割基準規定及び旧区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできないとした上で,事柄の性質上必要とされる是正のための合理的期間内に上記の状態を解消するために,できるだけ速やかに旧区割基準中の1人別枠方式を廃止し,旧区画審設置法3条1項の趣旨に沿って旧区割規定を改正するなど,投票価値の平等の要請にかなう立法的措置を講ずる必要があると判示した。
平成23年大法廷判決を受けて,平成24年11月16日,旧区画審設置法3条2項の削除及びいわゆる0増5減(各都道府県の選挙区数を増やすことなく議員1人当たりの人口の少ない5県の各選挙区数をそれぞれ1減ずることをいう。以下同じ。
)を内容とする公職選挙法及び区画審設置法の一部
を改正する法律案が平成24年改正法として成立した。この改正により,旧区画審設置法3条1項が同改正後の区画審設置法3条となり,同条の内容のみが区割基準となった。
平成24年改正法の成立と同日に衆議院が解散され,平成24年選挙までに新たな選挙区割りを定めることは時間的に不可能であったため,同選挙は平成21年選挙と同様に旧選挙区割りの下で施行された。平成24年選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較差は1対2.425であり,選挙人数が最も少ない選挙区と比べて較差が2倍以上となっている選挙区は72選挙区であった。
平成24年選挙につき,平成25年大法廷判決は,同選挙時において旧区割規定の定める旧選挙区割りは平成21年選挙時と同様に憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったものではあるが,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえず,旧区割規定が憲法14条1項等の憲法の規定に違反するものということはできないとした上で,国会においては今後も平成24年改正法による改正後の区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備に向けた取組が着実に続けられていく必要があると判示した。
平成24年改正法の成立後,同法の附則の規定に基づく区画審の勧告を受けて,平成25年6月24日,各都道府県の選挙区数の0増5減を前提に,選挙区間の人口の較差が2倍未満となるように17都県の42選挙区において区割りを改めることを内容とする平成24年改正法の一部を改正する法律案が,平成25年法律第68号(以下平成25年改正法という。
)とし
て成立した。
上記の改定の結果,平成22年国勢調査の結果によれば選挙区間の人口の最大較差は1対1.998となるものとされたが,平成26年選挙当日においては,選挙区間の選挙人数の最大較差は1対2.129であり,選挙人数が最も少ない選挙区と比べて較差が2倍以上となっている選挙区は13選挙区であった。平成26年選挙につき,平成27年大法廷判決は,上記0増5減の措置における定数削減の対象とされた県以外の都道府県について旧区割基準に基づいて配分された定数の見直しを経ておらず,上記のような投票価値の較差が生じた主な要因は,いまだ多くの都道府県において1人別枠方式を定めた旧区画審設置法3条2項が削除された後の区割基準に基づいて定数の再配分が行われた場合とは異なる定数が配分されていることにあり,このような投票価値の較差が生じたことは,全体として平成24年改正法による改正後の区画審設置法3条の趣旨に沿った選挙制度の整備が実現されていたとはいえないことの表れというべきであるとして,平成25年改正法による改正後の平成24年改正法により改定された選挙区割りはなお憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったものといわざるを得ないと判示した。そして,同判決は,同条の趣旨に沿った選挙制度の整備については,漸次的な見直しを重ねることによってこれを実現していくことも国会の裁量に係る現実的な選択として許容されていると解されるとし,上記の選挙区割りの改定後も国会において引き続き選挙制度の見直しが行われていること等を併せ考慮すると,平成23年大法廷判決の言渡しから平成26年選挙までの国会における是正の実現に向けた取組は,立法裁量権の行使として相当なものでなかったということはできず,憲法上要求される合理的期間内における是正がされなかったとはいえないと判示した。
平成25年改正法の成立の前後を通じて,国会においては,今後の人口異動によっても憲法の投票価値の平等の要求に反する状態とならないようにするための制度の見直しについて,総定数の削減の要否等を含め,引き続き検討が続けられ,平成26年6月19日の衆議院議院運営委員会における議決により,衆議院選挙制度に関する調査,検討等を行うため,衆議院に有識者により構成される議長の諮問機関として衆議院選挙制度に関する調査会(以下選挙制度調査会という。)が設置された。
選挙制度調査会は,平成26年9月以降,定期的な会合を開催し,衆議院議員の選挙制度の在り方,議員定数の削減,投票価値の較差の是正等の問題について,各政党からの意見聴取を含めた調査,検討を行い,平成28年1月14日,衆議院議長に対し,衆議院選挙制度に関する調査会答申を提出した。
上記答申は,①衆議院議員の選挙制度の在り方については,現行の小選挙区比例代表並立制を維持し,②議員定数の削減については,衆議院議員の定数を10削減して465人(小選挙区選出議員の定数につき6削減して289人,比例代表選出議員の定数につき4削減して176人)とする案が考えられるとした。また,③投票価値の較差の是正については,小選挙区選挙における各都道府県への定数配分方式について満たすべき条件として,比例性のある配分方式に基づいて配分すること,選挙区間の投票価値の較差を小さくするために各都道府県間の投票価値の較差をできるだけ小さくすること,各都道府県の配分定数の増減変動が小さいこと,一定程度将来にわたっても有効に機能し得る方式であることとした上で,この諸条件に照らして検討した結果として,各都道府県への定数配分につき,各都道府県の人口を一定の数値(小選挙区基準除数)で除し,それぞれの商の整数に小数点以下を切り上げて得られた数の合計数が小選挙区選挙の定数と一致するようにする方式(アダムズ方式)により行うものとした。そして,各都道府県への定数配分の見直しは,制度の安定性を勘案し,10年ごとに行われる国勢調査の結果による人口に基づき行うものとし,その5年後に行われる国勢調査の結果,選挙区間の人口の較差が2倍以上の選挙区が生じたときは,各都道府県への定数配分の変更は行わず,区画審において上記の較差が2倍未満となるように関係選挙区の区画の見直しを行うものとした。
選挙制度調査会の前記答申を受けて,平成28年5月20日,衆議院議員の定数を475人から10削減して465人(小選挙区選出議員の定数につき6削減して289人,比例代表選出議員の定数につき4削減して176人)とするとともに,前記

のとおり,各都道府県への定数配分の方式としてア

ダムズ方式を採用すること等を内容とする平成28年改正法が成立した。平成28年改正法においては,選挙制度の安定性を勘案し,アダムズ方式による各都道府県の選挙区数の変更は平成32年(令和2年)以降10年ごとに行われる国勢調査の結果に基づき行うこととされ,その5年後に行われる国勢調査の結果,選挙区間の人口の較差が2倍以上の選挙区が生じたときは,各都道府県の選挙区数の変更はせず,同較差が2倍未満となるように選挙区割りの改定を行うこととされた。
他方,平成28年改正法は,アダムズ方式による各都道府県の選挙区数の変更が行われるまでの投票価値の較差是正のための措置として,附則により,小選挙区選出議員の定数を6削減することを前提として,区画審において平成27年国勢調査の結果に基づく選挙区割りの改定案の作成及び勧告を行うこととした。そして,同改定案の作成に当たっては,各都道府県の選挙区数につき,定数の削減による影響を受ける都道府県を極力減らすことによって選挙制度の安定性を確保する観点から,減少の対象となる都道府県は,アダムズ方式により得られる選挙区数が改正前の選挙区数より少ない都道府県のうち,当該都道府県の平成27年国勢調査の結果による人口を同方式により得られる選挙区数で除して得た数が少ない順から6都道府県とし,それ以外の都道府県は改正前の選挙区数を維持することとした。また,選挙区割りにつき,平成27年国勢調査の結果に基づく選挙区間の人口の較差が2倍未満となるようにし,かつ,次回の国勢調査が実施される平成32年(令和2年)見込人口に基づく選挙区間の人口の較差が2倍未満であることを基本とするとともに,各選挙区の平成27年国勢調査の結果による人口及び平成32年(令和2年)見込人口の均衡を図り,行政区画,地勢,交通等の事情を総合的に考慮して合理的に行うこととした。平成28年改正法の成立後,区画審による審議が行われ,平成29年4月19日,区画審は,内閣総理大臣に対し,上記のとおり各都道府県の選挙区数の0増6減の措置を採ることを前提に,19都道府県の97選挙区において区割りを改めることを内容とする改定案の勧告を行った。これを受けて,内閣は,同年5月16日,平成28年改正法に基づき,同法のうち上記0増6減を内容とする公職選挙法の改正規定の施行期日を定めるとともに,上記改定案に基づく選挙区割りの改定を内容とする公職選挙法の改正事項を定める法制上の措置として,平成28年改正法の一部を改正する法律案を国会に提出し,平成29年6月9日,この改正法案が平成29年改正法として成立した。上記0増6減及びこれを踏まえた選挙区割りの改定を内容とする公職選挙法の改正規定は平成29年7月16日から施行され,この改正により,各都道府県の選挙区数の0増6減とともに選挙区割りの改定が行われた(本件区割規定)
。これにより,選挙区間の投票価値の最大較差は,平成27年
10月1日午前零時を基準時とする平成27年国勢調査の結果による人口によれば,1対1.956に,平成32年(令和2年)見込人口によれば,1対1.999となった。
平成29年9月28日に衆議院が解散され,同年10月22日,本件選挙区割りの下において平成29年選挙が施行された。平成29年選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較差は1対1.979であり,選挙人数が最も少ない選挙区と比べて較差が2倍以上となっている選挙区は存在しなかった。
平成29年選挙につき,平成30年大法廷判決は,概ね以下のとおり判示した。

本件区割規定に係る改正を含む平成28年改正法及び平成29年改正法による改正は,平成32年(令和2年)に行われる国勢調査(令和2年国勢調査)の結果に基づく選挙区割りの改定に当たり,各都道府県への定数配分を人口に比例した方式の一つであるアダムズ方式により行うことによって,選挙区間の投票価値の較差を相当程度縮小させ,その状態が安定的に持続するよう立法措置を講じた上で,同方式による定数配分がされるまでの較差是正の措置として,各都道府県の選挙区数の0増6減の措置を採るとともに選挙区割りの改定を行うことにより,選挙区間の人口等の最大較差を縮小させたものであって,投票価値の平等を確保するという要請に応えつつ,選挙制度の安定性を確保する観点から漸進的な是正を図ったものと評価することができる。

もっとも,平成29年選挙においては,平成24年改正法及び平成28年改正法により選挙区数が減少した県以外の都道府県について,1人別枠方式を含む旧区割基準に基づいて配分された定数に変更はなく,その中には,アダムズ方式による定数配分が行われた場合に異なる定数が配分されることとなる都道府県が含まれている。しかし,平成24年改正法から平成29年改正法までの立法措置によって,平成29年選挙当日における選挙区間の選挙人数の最大較差が縮小し,加えて,平成29年選挙が施行された時点において,平成32年(令和2年)以降10年ごとに行われる国勢調査の結果に基づく各都道府県への定数配分をアダムズ方式により行うことによって1人別枠方式の下における定数配分の影響を完全に解消させる立法措置が講じられていた。このような立法措置の内容やその結果縮小した較差の状況を考慮すると,平成29年選挙において,1人別枠方式を含む旧区割基準に基づいて配分された定数とアダムズ方式により各都道府県の定数配分をした場合に配分されることとなる定数を異にする都道府県が存在していることをもって,本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反するものとなるということはできない。


以上の事情を総合的に考慮すれば,本件区割規定は,投票価値の平等の要請にかなう立法的措置を講ずることを求めた平成23年大法廷判決以降の各大法廷判決の趣旨に沿って較差の是正を図ったものであり,投票価値の平等を最も重要かつ基本的な基準としつつ,新たな定数配分の方式をどの時点から議員定数の配分に反映させるかという点も含めて,国会において考慮することができる諸要素を踏まえた上で定められたものということができ,平成29年選挙時においては,新区画審設置法3条1項の趣旨に沿った選挙制度の整備が実現されていたということができる。そうすると,平成28年改正法及び平成29年改正法による選挙区割りの改定等は,国会の裁量権の行使として合理性を有するというべきであり,平成27年大法廷判決が平成26年選挙時の選挙区割りについて判示した憲法の投票価値の平等の要求に反する状態は,平成29年改正法による改正後の平成28年改正法によって解消されたものと評価することができる。

したがって,平成29年選挙時において,本件選挙区割りは憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったということはできず,本件区割規定が憲法14条1項等に違反するものということはできない。
令和3年10月14日に衆議院が解散され,同月31日,本件選挙区割り
の下において本件選挙が施行された。本件選挙区割りの下において,令和2年10月1日午前零時を調査の基準時とする令和2年国勢調査の結果(人口速報集計は,令和3年6月25日公表,同日官報公示。人口等基本集計は,本件選挙施行後の令和3年11月30日公表,同日官報公示。
)によれば選
挙区間の人口の最大較差は1対2.096であり,本件選挙当日における選挙区間の選挙人数の較差は,選挙人数の最も少ない選挙区(鳥取県第1区)と最も多い選挙区(東京都第13区)との間で1対2.079であり,29の選挙区で較差が2倍以上となった。
令和2年国勢調査の結果に基づき,アダムズ方式により衆議院小選挙区選出議員の都道府県別定数を計算すると,都道府県間の人口の最大較差は1対1.697となる見込みであり,法律上,令和4年6月25日までにこれを踏まえた区画審による選挙区割りの改定案の勧告がされ,これを受けて,その内容を実現する立法的措置が講じられることになり,現に,令和3年7月2日から区画審における審議が開始された。
2
憲法は,選挙権の内容の平等,換言すれば投票価値の平等を要求しているものと解される。他方,投票価値の平等は,選挙制度の仕組みを決定する絶対の基準ではなく,国会が正当に考慮することのできる他の政策的目的ないし理由との関連において調和的に実現されるべきものであるところ,国会の両議院の議員の選挙については,憲法上,議員の定数,選挙区,投票の方法その他選挙に関する事項は法律で定めるべきものとされ(43条2項,47条)
,選挙制度の仕組みの決定について国会に広範な裁量が認められている。衆議院議員の選挙につき全国を多数の選挙区に分けて実施する制度が採用される場合には,選挙制度の仕組みのうち定数配分及び選挙区割りを決定するに際して,憲法上,議員1人当たりの選挙人数ないし人口ができる限り平等に保たれることを最も重要かつ基本的な基準とすることが求められているというべきであるが,それ以外の要素も合理性を有する限り国会において考慮することが許容されているものと解されるのであって,具体的な選挙区を定めるに当たっては,都道府県を細分化した市町村その他の行政区画などを基本的な単位として,地域の面積,人口密度,住民構成,交通事情,地理的状況などの諸要素を考慮しつつ,国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに,投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが求められているところである。したがって,このような選挙制度の合憲性は,これらの諸事情を総合的に考慮した上でなお,国会に与えられた裁量権の行使として合理性を有するといえるか否かによって判断されることになり,国会がこのような選挙制度の仕組みについて具体的に定めたところが,上記のような憲法上の要請に反するため,上記の裁量権を考慮してもなおその限界を超えており,これを是認することができない場合に,初めてこれが憲法に違反することになるものと解すべきである。
以上は,昭和51年大法廷判決から平成30年大法廷判決までの累次の最高裁大法廷判決の趣旨とするところであり,本件選挙時における本件区割規定の憲法適合性についても,以上のような見地から判断すべきである。原告らは,本件区割規定が一人一票の投票価値の平等を保障する人口比例選挙を要求する憲法56条2項,1条及び前文第1段第1文並びに15条に適合するか否かに基づき判断すべき旨主張するが,仮に,原告らが指摘する憲法の条項等の全部又は一部が投票価値の平等と直接又は間接に関連するとしても,上記のとおり,憲法上,選挙制度の仕組みの決定について国会の広範な裁量が認められており,具体的な選挙区を定めるに当たっては,都道府県を細分化した市町村その他の行政区画などを基本的な単位として,地域の面積,人口密度,住民構成,交通事情,地理的状況などの諸要素を考慮しつつ,国政遂行のための民意の的確な反映を実現するとともに,投票価値の平等を確保するという要請との調和を図ることが求められているというべきであるから,憲法が原告らのいう意味での人口比例選挙までをも要求しているということはできない。
そして,平成30年大法廷判決が,上記の見地から,平成29年選挙時における本件区割規定について,1人別枠方式を含む旧区割基準に基づいて配分された定数とアダムズ方式により各都道府県の定数配分をした場合に配分されることとなる定数を異にする都道府県が存在することを考慮しても,平成27年大法廷判決が平成26年選挙時の選挙区割りについて判示した憲法の投票価値の平等の要求に反する状態は,平成29年改正法による改正後の平成28年改正法によって解消されたものと評価することができるとして,平成29年選挙時において,本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったということはできない旨判示したことは前記1に認
定のとおりであり,このことは,本件選挙時における本件区割規定の憲法適合性を判断するに当たり,基本的な前提とすべきである。
もっとも,本件選挙時の選挙区間の選挙人数の最大較差は,平成29年選挙時の1対1.979から2倍を若干超える1対2.079へと拡大しており,較差が2倍以上となる選挙区が29あったことは前記1の

から

まで

に認定のとおりであるところ,この点は,平成29年選挙の後に生じた新たな事情であって,本件選挙時における本件区割規定の憲法適合性を判断するに当たっては,このことも考慮しなければならない。
しかし,平成28年改正法は,平成29年選挙後の初めての国勢調査である令和2年国勢調査の結果に基づく選挙区割りの改定に当たり,区画審の改定案の勧告の手続を経て,各都道府県への定数配分を人口に比例した方式の一つであるアダムズ方式により行おうとするものであるから,令和3年6月25日に人口速報集計の公表及び官報公示がされた令和2年国勢調査の結果に基づき,本件選挙時までに上記のような選挙区間の人口の較差の拡大に対し,平成28年改正法が予定した立法上の手当てをすることは時期的に不可能であった。しかるところ,平成28年改正法は,アダムズ方式による各都道府県の選挙区数の変更が行われるまでの投票価値の較差是正のための措置として,それまでに施行される衆議院議員総選挙に対応するため,区画審が改定案を勧告するに当たり,次回の国勢調査が実施される平成32年(令和2年)見込人口に基づく選挙区間の人口の較差も2倍未満であることを基本とするよう定め,これに従って平成29年改正法が成立したことも前記1のとおりである。そして,平成32年(令和2年)見込人口の予測の手法(平成27年国勢調査による人口に,平成22年国勢調査から平成27年国勢調査までの人口の増減率を乗ずる手法)は合理性を有するものであるから,実際に本件選挙時の選挙区間の選挙人数の最大較差が2倍を若干超える選挙区が存在することになったのは,予測どおりに人口異動が生じなかったことによるものであり,平成32年(令和2年)の人口を見込みによらざるを得ないことからやむを得ないことであって,平成28年改正法が可能性として当然に想定していたところということができる。このほか,前記1
に認定

のとおり,本件選挙時において,平成28年改正法が講じた措置に従って,令和2年国勢調査の結果に基づく選挙区割りの改定へ向けて区画審の審議が開始されており,その勧告の前提となる令和2年国勢調査の結果に基づくアダムズ方式による都道府県別定数においては,都道府県間の人口の最大較差は1対1.697にまで縮小される見込みである。
したがって,平成28年改正法及び平成29年改正法による改正により行われた選挙区数の0増6減及び選挙区割りの変更は,令和2年国勢調査の結果を踏まえ,アダムズ方式により各都道府県への定数配分を行うまでの間に行われる衆議院議員総選挙における較差是正も念頭において行われたものであり,このような立法措置は,選挙制度の安定性を確保しつつ,投票価値の格差是正を図るものとして合理性を有するものである。そして,平成29年選挙時から本件選挙時までの投票価値の較差の拡大の程度及び内容を考慮すると,現実に生じた較差も想定された範囲内であって,本件選挙時における投票価値の最大較差が2倍を優に超えることが確実となるような想定外の人口異動が生じたことはうかがわれないから,平成29年選挙時から本件選挙時までの間に本件区割規定の見直しがされなかったことをもって,投票価値の平等を確保するという要請に応えつつ,選挙制度の安定性を確保する観点から漸進的な是正を図ろうとする立法府の姿勢が失われたということはできない。
そうすると,本件選挙時における本件選挙区割りは,本件選挙時の選挙区間の投票価値の最大較差が平成29年選挙時より拡大したことを考慮しても,平成29年選挙時におけるのと同様に,憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったということはできない。以上に対し,原告らは,平成30年大法廷判決は,昭和51年大法廷判決及び昭和60年大法廷判決並びに平成23年大法廷判決,平成25年大法廷判決及び平成27年大法廷判決を不当に変更するもので,判例としての拘束力はなく,昭和51年大法廷判決以降の上記各大法廷判決は先例拘束力を有し,そうすると,本件選挙時において,本件選挙区割りは,全体として憲法の投票価値の平等の要求に反する違憲状態にあった旨主張する。
しかし,原告らが1人別枠方式を違憲としたと指摘する平成23年大法廷判決等が,投票価値の較差の程度等を問わず1人別枠方式自体を違憲とするものでないことは,その判示から明らかであり,1人別枠方式により配分される議員定数を維持していることのみで,本件選挙区割りが全体として違憲ということはできない。また,平成30年大法廷判決が,将来的なアダムズ方式による定数配分等について言及するのは,平成29年選挙時における本件区割規定の憲法適合性を判断するに当たり,形式的な投票価値の較差の数値のみならず,その背後にある選挙制度の仕組みや投票価値の較差を生じさせる要因等も考慮する必要があることから,平成29年選挙時までに講じられた立法措置を選挙制度の仕組みに関する一つの事情として考慮し,平成29年選挙時より前の立法措置である平成28年改正法及び平成29年改正法により,立法府の漸進的に是正を図ろうとする姿勢が示されていることを指摘する趣旨と解され,平成29年選挙時より後に生じる事情を,当該選挙における投票価値が平等の要求に反する状態であるか否かの判断において考慮するものではない(なお,昭和51年大法廷判決が,昭和50年改正法に言及していないのは,昭和47年選挙時より後の立法措置であることから,当然のことである。。そして,昭和51年大法廷判決及び昭和60年大法廷判)
決並びに平成23年大法廷判決,平成25年大法廷判決及び平成27年大法廷判決の各判示内容に照らせば,平成30年大法廷判決は,平成29年選挙時における本件区割規定の憲法適合性について,昭和51年大法廷判決以下の累次の大法廷判決が示す判例法理を前提として原審が確定した事実に基づき考慮すべき事情を指摘して判断を示したものと解されるのであって,これらの大法廷判決を変更するものとはいい難く,原告らの主張は失当である。なお,仮にこのことを措くとしても,平成30年大法廷判決の判示内容等に照らし,今後,最高裁判所が本件選挙時における本件区割規定の憲法適合性につき判断するに際し,同判決が判示する判断の在り方が変更される蓋然性があるとは見込めないから,当裁判所も,同判決が判示するところを踏まえ,その憲法適合性を判断するのが相当である。
したがって,原告らの主張は採用することができない。
3
以上のとおり,本件選挙時において,本件選挙区割りが憲法の投票価値の平等の要求に反する状態にあったということはできず,原告らの憲法56条2項,1条及び前文第1段第1文並びに15条が要求する人口比例選挙に違反する旨の主張にも理由がないから,本件区割規定に基づき施行された本件選挙は有効である。そうすると,原告らの請求はいずれも理由がないから,これを棄却することとして,主文のとおり判決する。
仙台高等裁判所第1民事部

裁判長裁判官


裁判官


裁判官


別紙掲載省略栗

子一岡正郎あゆみ
トップに戻る

saiban.in