判例検索β > 令和2年(あ)第1087号
窃盗、窃盗未遂被告事件
事件番号令和2(あ)1087
事件名窃盗,窃盗未遂被告事件
裁判年月日令和4年2月14日
法廷名最高裁判所第三小法廷
裁判種別決定
結果棄却
原審裁判所名仙台高等裁判所
原審事件番号令和2(う)56
原審裁判年月日令和2年7月14日
判示事項いわゆるキャッシュカードすり替え型の窃盗罪につき実行の着手があるとされた事例
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-02-14
情報公開日2022-02-18 04:00:04
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最高裁判所令和2年(あ)第1087号
令和4年2月14日

窃盗窃盗未遂被告事件

第三小法廷決定

主文
本件上告を棄却する
当審における未決勾留日数中450日を本刑に算入する。
理由
弁護人田中芳美の上告趣意のうち,判例違反をいう点は,事案を異にする判例を引用するものであって,本件に適切でなく,その余は,単なる法令違反,量刑不当の主張であり,被告人本人の上告趣意は,量刑不当の主張であって,いずれも刑訴法405条の上告理由に当たらない。
所論に鑑み,窃盗未遂罪の成否について,職権で判断する。
1
原判決の是認する第1審判決判示第15の窃盗未遂の犯罪事実の要旨は,次
のとおりである。
被告人は,氏名不詳者らと共謀の上,金融庁職員になりすましてキャッシュカードを窃取しようと考え,令和元年6月8日,警察官になりすました氏名不詳者が,山形県西村山郡a町内の被害者宅に電話をかけ,被害者(当時79歳)に対し,被害者名義の口座から預金が引き出される詐欺被害に遭っており,再度の被害を防止するため,金融庁職員が持参した封筒にキャッシュカードを入れて保管する必要がある旨うそを言い,さらに,金融庁職員になりすました被告人が,被害者をして,前記キャッシュカードを封筒に入れさせた上,被害者が目を離した隙に,同封筒を別の封筒とすり替えて同キャッシュカードを窃取するため,同日午後4時18分頃,被害者宅付近路上まで赴いたが,警察官の尾行に気付いて断念し,その目的を遂げなかった。
2
所論は,被告人が,窃盗の目的物であるキャッシュカードを入れた封筒を封
印する必要があるとうそを言い,被害者に印鑑を取りに行かせるよう仕向ける行為,すなわち,キャッシュカードから目を離させる行為が,被害者のキャッシュカードに対する事実上の支配を侵害する現実的・具体的危険性のある行為となるから,このような行為をしていない時点では窃盗未遂罪は成立しない旨主張する。3
記録によると,本件の事実関係は,次のとおりである。
警察官になりすました氏名不詳者は,令和元年6月8日午後2時過ぎ頃,被
害者宅に電話をかけ,被害者に対し,

詐欺の被害に遭っている可能性があります。

被害額を返します。

それにはキャッシュカードが必要です。

金融庁の職員があなたの家に向かっています。

これ以上の被害が出ないように,口座を凍結します。

金融庁の職員が封筒を準備していますので,その封筒の中にキャッシュカードを入れてください。

金融庁の職員が,その場でキャッシュカードを確認します。

その場で確認したら,すぐにキャッシュカードはお返ししますので,3日間は自宅で保管してください。

封筒に入れたキャッシュカードは,3日間は使わないでください。

3日間は口座からのお金の引き出しはできません。

などと告げた(以下,これらの文言を本件うそという。)。指示役の指示に基づき山形県西村山郡a町内の量販店で待機していた被告人は,同日午後4時10分頃,指示役の合図により,徒歩で,同町内の被害者宅の方に向かった。しかし,被告人は,同日午後4時18分頃,被害者宅まで約140mの路上まで赴いた時点で,警察官が後をつけていることに気付き,指示役に指示を求めるなどして犯行を断念した。
氏名不詳者らは,警察官を装う者が,被害者に電話をかけ,被害者のキャッシュカードを封筒に入れて保管することが必要であり,これから訪れる金融庁職員がこれに関する作業を行う旨信じさせるうそを言う一方,金融庁職員を装う被告人が,すり替えに用いるポイントカードを入れた封筒(以下偽封筒という。)を用意して被害者宅を訪れ,被害者に用意させたキャッシュカードを空の封筒に入れて封をした上,割り印をするための印鑑が必要である旨言って被害者にそれを取りに行かせ,被害者が離れた隙にキャッシュカード入りの封筒と偽封筒とをすり替え,キャッシュカード入りの封筒を持ち去って窃取することを計画していた(以下,この計画を本件犯行計画という。)。警察官になりすました氏名不詳者は,本件犯行計画に基づいて,被害者に対し本件うそを述べたものであり,被告人も,同計画に基づいて,被害者宅付近路上まで赴いたものである。4
本件犯行計画上,キャッシュカード入りの封筒と偽封筒とをすり替えてキャ
ッシュカードを窃取するには,被害者が,金融庁職員を装って来訪した被告人の虚偽の説明や指示を信じてこれに従い,封筒にキャッシュカードを入れたまま,割り印をするための印鑑を取りに行くことによって,すり替えの隙を生じさせることが必要であり,本件うそはその前提となるものである。そして,本件うそには,金融庁職員のキャッシュカードに関する説明や指示に従う必要性に関係するうそや,間もなくその金融庁職員が被害者宅を訪問することを予告するうそなど,被告人が被害者宅を訪問し,虚偽の説明や指示を行うことに直接つながるとともに,被害者に被告人の説明や指示に疑問を抱かせることなく,すり替えの隙を生じさせる状況を作り出すようなうそが含まれている。このような本件うそが述べられ,金融庁職員を装いすり替えによってキャッシュカードを窃取する予定の被告人が被害者宅付近路上まで赴いた時点では,被害者が間もなく被害者宅を訪問しようとしていた被告人の説明や指示に従うなどしてキャッシュカード入りの封筒から注意をそらし,その隙に被告人がキャッシュカード入りの封筒と偽封筒とをすり替えてキャッシュカードの占有を侵害するに至る危険性が明らかに認められる。
このような事実関係の下においては,被告人が被害者に対して印鑑を取りに行かせるなどしてキャッシュカード入りの封筒から注意をそらすための行為をしていないとしても,本件うそが述べられ,被告人が被害者宅付近路上まで赴いた時点では,窃盗罪の実行の着手が既にあったと認められる。したがって,被告人について窃盗未遂罪の成立を認めた第1審判決を是認した原判断は正当である。よって,刑訴法414条,386条1項3号,181条1項ただし書,刑法21条により,裁判官全員一致の意見で,主文のとおり決定する。(裁判長裁判官長嶺安政

戸倉三郎

裁判官


裁判官

宇賀克也

惠理子)
裁判官


道晴

裁判官

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