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死体遺棄
事件番号令和3(う)237
事件名死体遺棄
裁判年月日令和4年1月19日
法廷名福岡高等裁判所
結果破棄自判
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-01-19
情報公開日2022-02-13 09:44:05
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令和4年1月19日宣告
令和3年(う)第237号

主文
原判決を破棄する
被告人を懲役3月に処する
この裁判が確定した日から2年間その刑の執行を猶予する。
理1由
本件控訴の趣意は,主任弁護人石黒大貴,弁護人松野信夫,同久保田紗和共同作成の控訴趣意書記載のとおりであり,論旨は,理由不備・理由齟齬,事実誤認及び法令適用の誤りの主張である。

2
原判決が認定した罪となるべき事実は次のとおりである。
被告人は,令和2年11月15日頃,熊本県葦北郡a町内の当時の被告人方で,被告人がその頃出産したえい児2名の死体を段ボール箱に入れた上,自室に置き続け,もって死体を遺棄した。

3
原判決は,要旨次のとおり説示して,被告人が,出産したえい児2名の死体を段ボール箱に入れ,自室に置き続けた行為が死体遺棄罪にいう遺棄に当たると認めた。
被告人の行為が刑法190条の遺棄に当たるか
刑法190条は,国民の一般的な宗教的感情を社会秩序として保護する。したがって,同条の遺棄とは,一般的な宗教的感情を害するような態様で,死体を隠したり,放置したりすることをいう。
被告人は,死産を隠すため,えい児を段ボール箱に二重に入れ,外から分からないようにした。そして,回復したら誰にも伝えず自分で埋葬しようなどと考え,1日以上にわたり,それを自室に置き続けた。これらの行為は,被告人に埋葬の意思があっても,死産を周りに隠したまま,私的に埋葬するための準備であり,正常な埋葬のための準備ではないから,国民の一般的な宗教的感情を害することが明らかである。したがって,被告人がえい児を段ボール箱に入れて保管し,自室に置き続けた行為は刑法190条の遺棄に当たる。被告人に死体遺棄の故意があったか
被告人は,死産した際の手続について,明確な知識は持っていなかったかもしれないが,分別のある青年であり,2年以上,日本で生活している。そのような被告人なら,死産を隠し,私的に埋葬するためにえい児を段ボール箱に入れて保管し,自室に置き続けることが,正常な埋葬のための準備とはいえず,一般的な宗教的感情を害することは容易に分かったはずである。したがって,被告人には死体遺棄の故意が認められる。
弁護人は,被告人が,産婦人科でも行われている方法で,えい児を段ボール箱に入れ,ベトナムで一般的に行われている土葬によってえい児を埋葬するつもりでいたから,死体を放置していたとはいえず,被告人には死体遺棄の故意がないと主張する。
確かに,被告人は,えい児をタオルで丁寧に包み,名前を付けるなどしており,えい児を愛おしむ気持ちがあった。また,丁寧に段ボール箱に入れ,埋葬するつもりで自室に置いている。しかし,被告人に愛情や埋葬の意思があったとしても,被告人はそれらを周りに隠れてやろうとしていたから,そのような私的な埋葬やその準備が,国民の一般的な宗教的感情を害することは変わりがない。ベトナムでも,周りに隠したままで私的に埋葬することが許されているとは思われない。また,弁護人は,被告人は,墓地,埋葬等に関する法律(以下墓埋法という。)で24時間以内に埋葬することが禁じられているから,えい児を放置しても死体遺棄には当たらないと主張する。しかし,同法は,不審な死であるかどうかを確認するための規制であり,一般的な宗教的感情を害するかどうかとは関係がない。
被告人に葬祭義務を果たす期待可能性があったか
弁護人は,被告人は,一人で出産し,肉体的に疲れ,死産で精神的にもショックを受けていたから,被告人には,当日,葬祭義務を履行するだけの期待可能性がなかったと主張する。確かに,被告人は,死産後,弁護人のいうような厳しい状態にあったといえる。しかし,少なくとも,周りの人に出産や死産を告白して助力を求めることはできたはずである。したがって,被告人には,それらを告白して周りの助力を得ながら,適切な葬祭義務を果たす期待可能性があったといえる。
4
理由不備・理由齟齬の主張について
論旨は,原判決には,以下の各点に理由不備・理由齟齬があるというのである。


死亡したえい児が死体遺棄罪にいう死体に当たると認めるためには,そのえい児が,生きて生まれた後に死亡したこと,又は在胎4か月以上での死産であったことの認定をしなければならないのに,原判決はいずれの認定もしておらず,理由に不備がある。



原判決は,不作為による遺棄行為を認定したのに,被告人が葬祭義務に違反した時期を明示していない。また,不作為による遺棄については,墓埋法3条で死亡又は死産後24時間以内に埋葬等を行うことが禁止されていることや,死産の届出に関する規程(昭和21年厚生省令第42号)で死産の届出は死産後7日以内にすることとされていることを踏まえた判断を示さなければならないのに,原判決は,それらを踏まえた判断を示しておらず,理由に不備がある。



原判決は,事実認定の補足説明において,被告人の行為が私的埋葬の準備行為であるとして遺棄に当たると認定しているが,そのような私的埋葬の準備行為が遺棄に当たる理由を示しておらず,理由に不備がある。


原判決は,犯罪事実では被告人の意図について触れていないのに,
事実認定の補足説明では回復したら誰にも伝えずに埋葬しようと考えていたという被告人の意図を考慮して遺棄該当性を認めており,理由に齟齬がある。
所論①について検討すると,原判決は,犯罪事実において,遺棄の客体が被告人が出産したえい児2名の死体であると摘示しており,当該えい児2名(以下本件各えい児という。)が死体に当たると認定している。所論のいう事実を明示することは,刑訴法335条1項により要求される判決の理由には当たらないから,その点を明示しなかったからといって,原判決の理由に不備があるとはいえない。
所論②のうち,原判決が不作為による遺棄行為の時期を明示していないという点について検討すると,原判決は,後記5

のとおり,葬祭義務を負う被告

人が段ボール箱に入った状態の本件各えい児の死体を葬祭を行わずに自室内に置いたままにした行為が不作為による遺棄に当たると認めたものと解され,その行為がなされた時期について令和2年11月15日頃と明示している。その行為がなされた時期をそれ以上に特定していないからといって,原判決の理由に不備があるとはいえない。
そのほかの所論は,いずれも,実質的には原判決の事実認定の補足説明における認定,判断が誤っている旨をいうものであるが,同補足説明は刑訴法335条1項により示すことが要求される判決の理由には当たらないから,いずれも採用することができない。
論旨は理由がない。
5
事実誤認及び法令適用の誤りの主張について
各論旨は,被告人が,本件各えい児の死体を段ボール箱に入れ,自室内に置き続けた行為が死体遺棄罪にいう遺棄に当たると認めた原判決には,判決に影響を及ぼすことが明らかな事実の誤認又は法令適用の誤りがある,というのである(控訴趣意書中の事実誤認及び法令適用の誤りの主張は,いずれも上記の点についての事実誤認又は法令適用の誤りを主張するものと解される。)。
原判決は,2のとおり,被告人が,本件各えい児の死体を段ボール箱に入れた上,自室内に置き続けた行為を罪となるべき事実として摘示し,3
のとお

り,被告人が,それらの死体を段ボール箱に入れた上,1日以上にわたり自室内に置き続けた行為が死体遺棄罪にいう遺棄に当たると判示している。原判決は,その説示内容に照らすと,被告人が,本件各えい児の死体を,段ボール箱に入れた上,自室内に置いた行為が作為による遺棄に当たると認めたものと解される(以下,この行為を本件作為ということがある。)。原判決は,さらに,被告人が段ボール箱に入った状態の本件各えい児の死体を自室内に置き続けた行為も遺棄に当たると判示しているところ,これが,その状態のそれらの死体を自室内に置き続けたという行為が本件作為と一体の作為による遺棄行為と評価されるという趣旨なのか,あるいは,本件各えい児を出産し,それらの死体の葬祭義務を負う被告人がそれらの死体の葬祭を行わずに自室内に置いたままにした行為が不作為による遺棄に当たるという趣旨なのかが,犯罪事実の記載のみからは明確でない。
もっとも,本件公訴事実の要旨は,被告人が,令和2年11月15日頃(以下,5において令和2年の月日については月日のみで示す。),当時の被告人宅において,同日頃に出産した本件各えい児の死体を段ボール箱に入れた上,自室内の棚上に放置したというものであり,検察官は,原審で,本件の実行行為は本件公訴事実の一連の行為であり,放置における作為義務は,葬祭の義務である旨釈明するとともに,論告において,被告人が,妊娠・出産の事実を隠そうという意思の下で,本件各えい児の死体を段ボール箱にこん包して自室内の棚上に置いて隠匿した上,その後発覚するまで丸1日以上放置して隠匿状態を継続させた行為が,作為及び不作為による遺棄に該当する旨陳述していた。このように,葬祭の義務の存在を前提として不作為による遺棄への該当を主張していることからすると,検察官は,本件各えい児の死体を段ボール箱に入れて自室内の棚上に置いた行為が作為による遺棄に当たるほか,それらの死体の葬祭義務を負う被告人がそれらの死体を自室にあった棚の上に1日以上放置した行為が不作為による遺棄に当たる旨主張していたものと解される。これに対し,原判決は,検察官が主張する被告人の行為が不作為による遺棄に当たらない旨の判断を示しておらず,他方で,3

のとおり,被告人が段ボー

ル箱に入った状態の本件各えい児の死体を1日以上にわたり自室内に置き続けた行為が遺棄に当たる旨判示するとともに,3

のとおり,被告人に葬祭義務

を果たす期待可能性があった旨判示し,犯罪事実においても,被告人が本件各えい児を出産したことという被告人がそれらの死体の葬祭義務を負う根拠となる事実を摘示している。以上の原審における検察官の主張及び原判決の説示全体の趣旨に照らすと,原判決は,本件各えい児の死体の葬祭義務を負う被告人が,それらの死体を1日以上にわたり葬祭を行わずに自室内に置いたままにした行為が不作為による遺棄に当たると判断したものと解される(以下,この行為を本件不作為ということがある。)。
本件作為について

所論は,被告人のした行為が死体の遺棄に当たるか否かは,当該行為の客観的な態様から判断すべきであるから,原判決が,本件各えい児の死産を他者に隠したまま自身でそれらの死体を埋葬する意思で,そのような私的な埋葬の準備として行為をしたとして,被告人の事後の行為計画を考慮して本件作為が遺棄に当たると認めたことは誤りである,という。
この点,死体遺棄罪は,被告人が死体を遺棄したと評価される行為をした場合に成立するのであるから,遺棄該当性は,被告人が現にした行為が遺棄に当たるといえるかどうかにより判断すべきである。現にした行為だけを見れば遺棄に当たるとはいえない場合に,その行為について,被告人が,事後に本件各えい児の死産を他者に隠したまま自身でそれらの死体を埋葬する意思でしたことを考慮し,それが私的に埋葬するための準備であることを理由として遺棄に当たると認めることは,実質的には予備に当たる行為を死体遺棄罪で処罰することに等しく,そのような解釈は採り得ない。
もっとも,死体について一定のこん包行為をした場合において,その行為が死体遺棄罪にいう遺棄に当たるかどうかを判断するに際しては,その行為が死体遺棄罪の保護法益である死者に対する一般的な宗教的感情や敬けん感情を害するものであるかどうかを検討する必要がある。その行為が外観からは死体を隠すものに見え得るとしても,習俗上の葬祭(以下,単に葬祭という。)を行う準備,あるいは葬祭の一過程として行ったものであれば,その行為は,死者に対する一般的な宗教的感情や敬けん感情を害するものではなく,遺棄に当たらないから,被告人が現にした行為がそれらを害するものであるかどうかを判断するに当たって事後の死体の取扱いについての意図を考慮することは,誤りではない。原判決は,そのような趣旨で,被告人が現にした行為が遺棄に当たるか否かを判断するに際して事後の処置についての被告人の意図を考慮したものと理解できるのであり,原判決に所論がいうような誤りがあるとはいえない。

そして,被告人が現にした本件作為は,葬祭を行う準備,あるいは葬祭の一過程として行ったものではなく,本件各えい児の死体を隠匿する行為であって,他者がそれらの死体を発見することが困難な状況を作出するものといえるから,本件作為が死体遺棄罪にいう遺棄に当たるとした原判決の判断は,正当として是認することができる。以下,敷衍する。


関係証拠によれば,次の事実関係が認められる。
被告人は,平成30年8月に来日して技能実習生として農園で働き,農園を運営する会社(以下運営会社という。)が用意した家(以下自宅又は被告人宅ということがある。)で生活していた。被告人は,自宅で,その農園で一緒に働いていた別の技能実習生と共に生活していたが,令和2年11月11日からは一人で生活していた。
被告人は,7月頃に自身が妊娠していることを知ったが,そのことを周囲の者に言わず,医院や病院を受診することもなかった。また,運営会社の代表者が,被告人が妊娠しているのではないかと疑い,10月以降,何度かその旨を尋ねたが,被告人は,

生理は毎月来ている。

などと言い,妊娠していることを言わなかった。技能実習生の受入れ,実習の監理等を行う団体(以下監理団体という。)の職員も,11月13日,被告人に妊娠をしていないか尋ねたが,被告人は妊娠をしていない旨答えた。被告人は,同月15日午前9時頃,自宅の自室(西側和室)内にあった布団の上で,双子の本件各えい児を出産したが,いずれも遅くとも被告人の体外に出てから一,二分後には死亡した。被告人は,本件各えい児の死体をタオルで包んだ上で茶色の段ボール箱に入れ,その上に別のタオルを被せ,更にその上に手紙(被告人が付けた本件各えい児の名前,それらの生年月日,おわびの言葉,ゆっくり休んでくださいという趣旨の言葉が書かれたもの)を置いた上でその段ボール箱に4片の接着テープで封をし,その段ボール箱を白色の段ボール箱(製造者A漁業協同組合などと
表示されているもの)に入れた上でその段ボール箱に9片の接着テープで封をし,その状態の白色の段ボール箱を,自室内にあった棚(4段の収納ボックスがあるもの)の上に置いた。被告人は,その後も自宅内に居続けた。
被告人は,同月16日,監理団体の職員等に連れられて,産婦人科医院を受診し,その後同医院から紹介された病院を受診し,同病院の医師に対して,最初は妊娠をしていないと言っていたが,同医師から検査結果によれば出産をしたことは間違いないなどと言われると,同日午後6時頃,

赤ちゃんの形をしたものを産んだ。産んだ後に埋めた。

などと話した。同医師は,これを受けて警察に通報し,被告人はそのまま入院した。同月17日午後2時10分から午後8時15分までの間に被告人宅の捜索が行われ,

の状態で置かれた白色の段ボール箱及びその中の本件各え

い児の死体が発見された。それらの死体は,いずれも妊娠8か月から9か月の胎児に相当する身長体重があり,人の形態を備えていた。

以上の事実関係に基づき検討するに,被告人は,本件各えい児の死体を段ボール箱に入れて4片の接着テープで封をし,その段ボール箱を別の段ボール箱に入れた上で9片の接着テープで封をし,その状態の同段ボール箱(以下本件段ボール箱ということがある。)を自室にあった棚の上に置いた。本件段ボール箱自体は隠されておらず,他者がその箱を発見することは難しくなかったといえる。しかし,本件段ボール箱は中に死体が入っていることがうかがわれる外観のものではなく,被告人は,本件各えい児へのおわびの言葉等を書いたという手紙も段ボール箱の中に入れており,本件段ボール箱の周りには,その中に死体が入っていることをうかがわせる物を一切置いていなかった。そのため,本件段ボール箱は,外観上,棚の上に置かれたこん包済みの荷物にしか見えず,その中に死体が入っていることは推測できない状態で置かれていた。このような態様で死体をこん包することは,火葬や埋葬を行ったり,その過程で死者を弔う儀式を行ったりする上で通常必要なことではない。被告人自身も,原審において,本件各えい児の死体について,布団の上に転がっている状態ではかわいそうだと思い,段ボール箱に入れることで寒い思いをしないで済むと思った旨を述べ,また,自分が元気になったら土中に埋葬しようと思っていた旨述べているものの,段ボール箱に二重に入れ,それら段ボール箱に接着テープで封をするなどすることが,葬祭の準備として意味のあることであったとか,本件各えい児を弔う上で意味のあることであったなどとは述べていない。そのほかに,被告人が,葬祭を行う準備,あるいは葬祭の一過程として上記の行為をしたことをうかがわせる事情はなく,その行為は葬祭を行う準備等として行ったものではないと認められる。被告人がした上記のような行為の内容及びその前後の被告人の言動(ウ

及び

)からすれば,被告人は,本件各えい児の死体を隠匿する意思

をもってその行為をしたと認められる。
そうすると,被告人の上記行為は,本件各えい児の死体を隠匿する行為であって,他者がそれらの死体を発見することが困難な状況を作出するものといえる。そして,被告人が本件各えい児の死体について葬祭を行わない場合,それらの死体があることを他の者が知れば,被告人宅の家主や被告人以外の本件各えい児の親族等の者が本件各えい児の葬祭を行う可能性があり,それらの葬祭を行う者がいない場合は,それらの死亡地であるa町の長がこれを行うことになる(墓埋法9条1項参照)。被告人の上記行為は,本件各えい児の死体について,他者により適切な時期に葬祭が行われる可能性を著しく減少させたという点において,死者に対する一般的な宗教的感情や敬けん感情を害するものといえる。
以上の検討によれば,本件作為,すなわち,被告人が,本件各えい児の死体を,段ボール箱に入れて4片の接着テープで封をし,その段ボール箱を別の段ボール箱に入れて9片の接着テープで封をした上,自室にあった棚の上に置いた行為は,死体遺棄罪にいう遺棄に当たると認められる。

所論は,①被告人が本件各えい児の死体を段ボール箱で二重に包んだ理由は本件各えい児が寒い思いをしないで済むと思ったからであること,②被告人は,茶色の段ボール箱の上に別の物を置くなどの,白色の段ボール箱を開けただけでは中身が分からないようにする手段を採っていないこと,③えい児の死体を紙製の箱に入れることは産婦人科においても行われている行為であり,被告人が本件各えい児の死体を段ボール箱に入れた行為はひつぎに納める行為と同視できること,④被告人が,本件段ボール箱を,押し入れの中や自室の外等ではなく,自室内の棚の上に置いた上,その後も一晩自宅内に居続けたことからすれば,本件作為は,遺体の安置と評価すべきものであって,本件各えい児の死体を隠匿する行為であると評価することはできないから,死者に対する敬けん感情を害するものとはいえない,という。しかしながら,エのとおり,本件各えい児の死体を段ボール箱に入れたこと自体が遺棄に当たるのではなく,それらの死体を二つの段ボール箱で二重に包み,合計で十数片の接着テープを用いて封をした上で自室にあった棚の上に置き,他者がそれらの死体を発見することが困難な状況を作出したことが遺棄に当たるものである。そのような行為は,それらの死体を葬祭の準備等として保管するためには必要のないものであって,所論①の指摘に沿う被告人の供述等を踏まえても,それらの死体を隠匿する行為であると認められる。確かに,被告人は,それらの死体をタオルで包むなどして丁寧に扱い,本件各えい児に付けた名前やおわびの言葉等を書いた手紙を段ボール箱の中に入れ,本件段ボール箱を,自室にあった押し入れの中や自室の外ではなく自室にあった棚の上に置いた上で,自身も自宅内にとどまっていたから,本件各えい児の死を悲しみ,本件各えい児にわびるなどの心情を有していたと認められる。しかし,本件作為の内容及びその前後の被告人の言動からすれば,被告人が,本件各えい児の死体を隠匿し,他者がそれらの死体を発見することが困難な状況を作出する意思をもってその行為をしたことは明らかである。被告人が上記のような心情を有していたことは,本件各えい児の死体を隠匿することと両立するものであり,本件作為が遺棄に当たるとの判断を左右するものではない。
所論は,自室にあった布団や畳等に出産の際の血痕が残っており,被告人がこれらの痕を拭くなどしていないことは,被告人に本件各えい児の出産を隠す意思がなかったことを示している,という。
そこで検討すると,関係証拠によれば,被告人の自室にあった2枚の掛け布団に血液等の液体が付着した痕跡があったほか,同室及び別の部屋の畳,廊下の床板,洗面所の洗面台,便所の床板及び便座に血痕様のものがあったことが認められる。確かに,1枚の掛け布団の痕跡は大きなものであるが,それらの痕跡は,その掛け布団の上に重ねられていた毛布や別の掛け布団をめくらないと見えなかった。その他の血痕様のものは,それほど大きくないものか,一目では血痕と分からないものであり,出産の際の出血の痕跡であることが直ちにうかがわれるものではない。そうすると,自宅にこれらの痕跡が残っていたことは,被告人に本件各えい児の出産を隠す意思がなかったことを示すものとはいえない。
そのほかに所論が指摘する点を踏まえて検討しても,本件作為が死体遺棄罪にいう遺棄に当たり,その行為について被告人に遺棄の故意があったと認めた原判決の判断は左右されない。
本件不作為について
本件不作為,すなわち,本件各えい児の死体の葬祭義務を負う被告人が,それらの死体を1日以上にわたり葬祭を行わずに自室内に置いたままにした行為が不作為による遺棄に当たると認めた原判決の判断について見るに,死体の葬祭義務を負う者が葬祭を行わないという不作為が死体遺棄罪にいう遺棄に当たるかどうかを判断するに際しては,その不作為が,死者に対する一般的な宗教的感情や敬けん感情を害するものであって,作為による遺棄と構成要件的に同価値のものといえるかどうかを検討する必要がある。
この点,墓埋法3条により,死体の埋葬又は火葬は,死亡又は死産後24時間を経過した後でなければ原則として行ってはならないとされている。また,死体の存在を認識した葬祭義務者が,死亡又は死産の届出(戸籍法86条参照),火葬等の許可の申請(墓埋法5条参照)といった手続をした上で葬祭を行う場合(以下通常の葬祭を行う場合という。)であっても,葬祭を行うまでに一定期間を要することもあり得る。そうすると,葬祭義務者が死体の存在を認識した後直ちに葬祭を行わなかったとしても,それだけでは死者に対する一般的な宗教的感情や敬けん感情を害するとはいえない。死体の葬祭義務を負う者が葬祭を行わないという不作為が作為による遺棄と構成要件的に同価値のものとなったと評価するには,適切な時期に死体の葬祭を行わなかったという点で上記の法益を害するといえることが前提になると考えられる。したがって,死体の葬祭義務を負う者が葬祭を行わないという不作為が死体遺棄罪にいう死体の遺棄に該当するのは,その者が死体の存在を認識してから同義務を履行すべき相当の期間内に葬祭を行わなかった場合に限られると解するのが相当である。
これを本件についてみると,


のとおり,被告人は,11月15日午前

9時頃に本件各えい児を自室内で出産し,本件各えい児は遅くともその一,二分後には死亡した。被告人は,その頃にそれらの死体の存在を認識したから,それらの死体の葬祭義務を負う。その後,被告人は,本件各えい児の死体を,段ボール箱に入れて封をした上,自室にあった棚の上に置くなどして葬祭を行わずに自室内に置いたままにしていたが,同

のとおり,同月16日午後6時

頃に病院において医師に対しえい児の出産,死亡の事実を話している。その医師は,警察に通報し,被告人はそのまま入院しており,被告人が本件各えい児の死体に作為を加えることは事実上できない状態になったから,被告人に葬祭義務の不履行があったと評価できるのはその頃までである。そうすると,被告人が本件各えい児の死体の存在を認識してから葬祭義務を履行しないまま経過した期間は,1日と約9時間にとどまる。通常の葬祭を行う場合であってもその着手までにその程度の期間を要することもあり得ると考えられるから,その期間の経過をもって葬祭義務を履行すべき相当の期間が経過したとはいえない。したがって,本件各えい児を出産し,それらの死体の葬祭義務を負う被告人が,1日と約9時間にわたり,それらの死体の葬祭を行わずに自室内に置いたままにした行為は,不作為による死体の遺棄に当たらない。
以上によれば,本件不作為が死体の遺棄に当たると認めた上,この行為に本件作為と併せて刑法190条を適用した原判決には法令適用の誤りがあり,この誤りが判決に影響を及ぼすことは明らかである。
論旨は,以上の限度で理由がある。
6
よって,刑訴法397条1項,380条により原判決を破棄し,同法400条ただし書を適用して被告事件について更に判決をする。

(罪となるべき事実)
被告人は,令和2年11月15日頃,熊本県葦北郡a町b番地の当時の被告人方において,被告人がその頃に出産したえい児2名の死体を,段ボール箱に入れて接着テープで封をし,その段ボール箱を別の段ボール箱に入れて接着テープで封をした上,自室内にあった棚の上に置き,もって死体を遺棄した。
(量刑の理由)
被告人は,自身が出産した本件各えい児の死体を,段ボール箱で二重に包み,合計で十数片の接着テープを用いて封をした上で自室内にあった棚の上に置いて隠匿し,本件各えい児の死体について適切な時期に葬祭が行われることを困難にする状態を生じさせた。運営会社の代表者が,被告人に度々声を掛けて妊娠の有無を尋ねるなどしており,被告人は,自身の妊娠を周囲の者に相談する機会が十分にあった。それにもかかわらず,被告人は,周囲の者に妊娠したことを話さないまま本件各えい児を出産し,そのことを隠そうと考えて本件犯行に及んだものであって,相応の非難を免れない。
もっとも,被告人は,本件各えい児の死体を入れた段ボール箱を自室内にあった棚の上に置いており,死体の発見を困難にした程度は死体を隠匿した事案の中では高くない。また,被告人は,本件各えい児の死体をタオルで包み,それらの名前やおわびの言葉等を書いた手紙を段ボール箱の中に入れるなど丁寧に扱っている。さらに,本件各えい児の出産から約2日後にはそれらの死体が発見されている。被告人がした行為は,死者に対する宗教的感情や敬けん感情を害するものではあるが,その程度は,遺棄したのが2名の死体であることを踏まえても,大きくはない。また,妊娠は技能実習生の解雇理由にはならないものの,実情としては,妊娠した技能実習生の中には,実習を行うことができなくなり,家賃等を支払うこともできなくなって帰国した者がいた。技能実習生の間では妊娠をすると帰国させられるとの噂が広まっており,被告人もそのように考えていた。そうすると,少なくない費用をかけて技能実習生として来日し,家族に仕送りをしていた被告人が,技能実習を続けるために,妊娠,出産を隠そうと考えて本件犯行に及んだことには,一定程度酌むことのできる事情がある。
以上の事情に鑑みると,被告人に対しては,処断刑期の下限に近い領域で刑を量定した上,その刑の執行を猶予するのが相当である。
(原審における求刑

懲役1年)

令和4年1月19日
福岡高等裁判所第2刑事部

裁判長裁判官

辻󠄀

川靖夫
裁判官

武林仁美
裁判官

倉知泰

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