判例検索β > 令和2年(行ケ)第10071号
審決取消請求事件 特許権 行政訴訟
事件番号令和2(行ケ)10071
事件名審決取消請求事件
裁判年月日令和4年2月2日
法廷名知的財産高等裁判所
全文全文
最高裁判所〒102-8651 東京都千代田区隼町4番2号 Map
裁判日:西暦2022-02-02
情報公開日2022-02-06 19:22:11
裁判所の詳細 / 戻る / PDF版
令和4年2月2日判決言渡
令和2年(行ケ)第10071号
口頭弁論終結日

審決取消請求事件

令和3年12月7日
判決原告
沢井製薬株式会社

同訴訟代理人弁護士

被森
旭化成ファーマ株式会社


同訴訟代理人弁理士

細同亀主1本純田ヶ芳徳谷薫子文
特許庁が無効2018-800080号事件について令和2年4月30日にした審決を取り消す。

2
訴訟費用は被告の負担とする。
事実及び理由

第1

請求
主文同旨

第2

事案の概要
本件は,特許無効審判請求を不成立とした審決の取消訴訟である。
1
特許庁における手続の経緯等(当事者間に争いがない。



被告は,平成27年5月25日,その名称を1回当たり100~200単位のPTHが週1回投与されることを特徴とする,PTH含有骨粗鬆症治療/予防剤とする発明について特許出願
(特願2015-105265号。
平成22年9月8日(優先権主張

平成21年9月9日・特願2009-2

08039号)を国際出願日とする特願2011-530844号の一部を新たに特許出願として行われたもの。以下本件出願という。
)をし,平成
29年6月2日,その設定登録(特許第6150846号,請求項の数2)を受けた(以下,この登録に係る特許を本件特許という。。




原告は,平成30年6月22日,本件特許の請求項1及び2に係る発明について特許無効審判請求(無効2018-800080号)をした。特許庁が令和元年8月6日に本件特許の請求項1及び2に係る発明についての特許を無効にするとの審決の予告をしたところ,被告は,同年10月11日付けで本件特許の請求項2に係る特許請求の範囲を訂正する訂正請求を
行った(以下,この訂正を本件訂正という。。

特許庁は,
令和2年4月30日,
特許第6150846号の特許請求の範囲を訂正請求書に添付された訂正特許請求の範囲のとおり,訂正後の請求項2について訂正することを認める。特許第6150846号の請求項1及び2に係る発明についての審判請求は成り立たない。との審決(以下本件審決という。)をし,その謄本は,同年5月12日,原告に送達された。


原告は,令和2年6月9日,本件審決の取消しを求めて本件訴えを提起した。

2
特許請求の範囲の記載
本件訂正後の本件特許の請求項1及び2の発明(以下,項番号順に本件発明1のようにいい,本件発明1及び2を併せて本件発明という。)に係る
特許請求の範囲の記載は,次のとおりである。


本件発明1
1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与され
ることを特徴とする,PTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有する,増悪椎体骨折抑制のための骨粗鬆症治療ないし予防剤であって,下記(1)~(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者に投与されることを特徴とする,増悪椎体骨折抑制のための骨粗鬆症治療ないし予防剤;
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存椎体骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,および/または,骨萎
縮度が萎縮度I度以上である。


本件発明2
1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とする,PTH(1-34)又はその塩を有効成分として含有する,増悪椎体骨折抑制のための骨粗鬆症治療ないし予防剤であって,下記
(1)~(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者に投与されることを特徴とし,前記PTH(1-34)又はその塩がヒトPTH(1-34)酢酸塩であり,前記増悪椎体骨折抑制がGrade3への増悪椎体骨折の抑制である,骨粗鬆症治療ないし予防剤;
(1)年齢が65歳以上である

(2)既存椎体骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,および/または,骨萎縮度が萎縮度I度以上である。
3
本件審決の理由の要旨
本件審決は,本件訂正は訂正の要件を全て満たすとした上で,①本件発明の200単位のPTH(1-34)は明確であるから,本件発明は明確性要件に違反しない,②当業者は本件特許に係る明細書(以下,図面を含めて本件明細書という。の記載及び出願時の技術常識に基づいて本件発明を実施する)
ことができるから,本件発明の発明の詳細な説明の記載は実施可能要件に違反
しない,③本件発明1及び2は,甲第7号証ヒト副甲状腺ホルモン(1-34)の骨粗鬆症に対する間欠毎週投与の効果:3種類の投与量を用いた無作為化二重盲検前向き試験(OsteoporosisInternational,Vol.9,p.296-306,1999)
(以下甲7文献という。
)に記載された発明(以下甲7発明とい
う。
)及び本件発明1及び2の特許要件判断の基準日(平成22年9月8日。以下本件基準日という。
)当時の技術常識を踏まえても当業者が容易に発明を
することができたものとはいえない旨判断した。
それぞれの論点に関する本件審決の理由の要旨は,以下のとおりである。⑴

明確性要件違反(無効理由1)の有無について
本件明細書の段落【0034】に非特許文献9を引用して記載されているPTHの単位の測定法は,PTHの生物活性の測定法としてごく一般的なラットアデニルシクラーゼ法である。甲第4号証ラット腎臓からのアデニルシクラーゼの安定な調剤により,inVitroの副甲状腺ホルモンのバイオアッセイ(Endocrinology,Vol.85p.801-810,1969)(以下甲4
という。
)では,ラット腎皮質をホモジナイズ,精製等して得られたアデニルシクラーゼ酵素調製物(以下本件酵素調整物という。
)とAT

32

Pを添

加した酵素反応用液に,測定目的のPTH試料と,生物活性既知の標準品で
あるMRC67/342(以下本件標準品という。
)をそれぞれ添加し,
両者のcAM

32

P産生量を比較することにより,PTH試料の生物活性の

結果を得ている(以下,甲4文献に記載された測定方法を甲4方法という。。したがって,PTH試料として,本件発明のPTH(1-34)を用)
いたときにも,甲4方法又はこれと同じ結果を再現できる同等の方法を用い
ることにより,
200単位のPTH(1-34)の量を当業者は特定でき
る。


実施可能要件違反(無効理由2)の有無について
200単位のPTH
(1-34)
は当業者が明確に理解できるものであり,

また,本件標準品が入手できないようなことがあった場合にも,例えばヒトPTH注(東洋)又はテリパラチド酢酸塩静注用100「旭化成(以」
下,このテリパラチド酢酸塩静注用100「旭化成
」を本件代替品と
いう。を標準品として用いることにより,

200単位量のPTH
(1-34)
を測定することができる。

進歩性欠如(無効理由3)の有無について

甲7発明の認定
ヒトPTH(1-34)酢酸塩の200単位を毎週皮下注射する,ヒトPTH(1-34)酢酸塩を有効成分として含有する骨粗鬆症治療剤であって,厚生省による委員会が提唱した診断基準で骨粗鬆症と定義された,年齢範囲が45歳から95歳の被験者のうち,複数の因子をスコア化することによって評価して骨粗鬆症を定義し,スコアの合計が4以上の場合の
患者に対し,投与される,骨粗鬆症治療剤。

本件発明1及び2と甲7発明との一致点
1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩(酢酸塩)が週1回投与されることを特徴とする,PTH(1-34)又はその塩(酢酸塩)を有効成分として含有する,骨粗鬆症治療ないし予防剤であって,特
定の骨粗鬆症患者に投与されることを特徴とする,骨粗鬆症治療剤ないし予防剤。

本件発明1及び2と甲7発明との相違点
(ア)

相違点1
特定の骨粗鬆症患者が,

本件発明1及び2では
下記(1)~(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者(1)年齢が65歳以上である(2)既存椎体骨折がある(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,および/または,骨萎縮度が萎縮度I度以上であるであるのに対し,甲7発明では,
厚生省による委員会が提唱した診断基準で骨粗鬆症と定義された,年齢範囲が45歳から95歳の被験者のうち,複数の因子をスコア化することによって評価して骨粗鬆症を定義し,スコアの合計が4以上の場合の患者である点
(イ)

相違点2
骨粗鬆症治療剤ないし予防剤が,
本件発明1では,
増悪椎体骨折抑制のためのものであることが,本件発明2ではGrade3への増悪椎体骨折抑制のためのものであることが特定されているのに対し,甲7発明では,そのような特定がない点


相違点1及び相違点2の容易想到性
下記(ア)に示すいずれの引用文献にも,本件発明1及び2の(1)年齢が65歳以上である,(2)既存椎体骨折がある,(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,および/または,骨萎縮度が萎縮度I度以上である(以下
本件3条件
といい,
各条件を番号に従い
本件条件(1)
のようにいう。
)を満たす骨粗鬆症患者に対して,
増悪椎体骨折抑制のため及びGrade3への増悪椎体骨折抑制のために投与をすることは記載も示唆もされておらず,また,下記(イ)に示すとおり,本件3条件の全てを満たす患者において,優れた増悪椎体骨折抑制効果(Grade
3への増悪椎体骨折抑制効果も含む。
)が奏されることを当業者が予測し
得たとは認められない。
よって,相違点1及び相違点2に係る,本件3条件の全てを満たす患者に増悪椎体骨折抑制のため(Grade3への増悪椎体骨折抑制のためも含む。に甲7発明の治療剤を投与することを,

本件基準日において当業者

が容易に想到し得たと認めることはできないから,本件発明1及び2のいずれにも進歩性が認められる。
(ア)a

甲7文献や甲第103号証PTH(1-34)毎週皮下投与製剤
(ClinicalCalcium,Vol.17,No.1p.56-62,2007)(以下
甲103文献という。
)からは,甲7発明の治療剤が,骨折抑制
効果が期待されていた薬剤であったことは認められるものの,本件3条件の全てを満たす骨粗鬆症患者に対して,甲7発明の治療剤を増悪
椎体骨折抑制のために投与することは記載も示唆もされていない。b
本件明細書
【0047】甲第32の1号証

ForteoMEDICALREVIEW(S)
(2001年。以下甲32の1文献という。
)の記載
によると,
増悪椎体骨折は,新規椎体骨折が更に椎体高及び椎体面
積が減少して変形程度が進んだものをいうものであるが,甲7文献及
び甲103文献の記載から,増悪椎体骨折抑制効果を確認する試験を何ら行わずに,甲7発明の治療剤が脆弱化した椎体の更なる骨折を適切に抑制できるとは,当業者が容易に想到し得ない。
甲第93号証骨粗鬆症性外傷後椎体圧潰の病態と手術治療
(Cl
inicalCalcium,Vol.10,No.7,77~83頁,2000年)(以下甲93文献という。)によると,骨折が生じた椎体といまだ骨折が生じてい
ない椎体とは組織学的に異なり,そのような組織学的な変化が,骨折が生じた椎体の脆弱性を招いていると認められるから,骨折が生じてしまった椎体骨折部位における更なる骨折,すなわち増悪椎体骨折抑制に用いることができるか否かを,当該増悪椎体骨折を実際に適切に
抑制できるものであるか否かを確認しないままに当該用途に用いることができると断じることはできない。
c
甲第30号証
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年版

(p.13,p.59-60,2006)
(以下甲30文献という。
)には,骨
粗鬆症を原因とする骨折では椎体骨折が最も頻度の高い骨折であり,日本では70歳代前半の25%,80歳以上の43%が椎体骨折を有している旨の記載があり,甲第102号証骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年版(p.33-35,p.50-52,2006)には,

存椎体骨折の存在により,将来の更なる椎体骨折のリスクが約4倍に高まることが記載されているが,甲7発明の治療剤の投与対象を,本件3条件の全てを満たす患者にすることを示唆するものではなく,ま
た,増悪椎体骨折抑制のために当該治療剤を投与することを示唆するものでもない。
d
甲30文献や甲第31号証骨粗鬆症用薬の臨床評価方法に関するガイドラインについて(表紙,4ないし8頁,平成11年)
(以下甲31文献という。
)には,骨折判定に際して,既存骨折の有無別に分けて

判定することが適切であり,骨粗鬆症治療剤の評価に際して,新規骨折を起こした場合と増悪骨折を起こした場合とを区別して評価することが必要であるとの記載はあるが,甲7文献では,そのような既存骨折の有無別に分けた骨折判定も,また,新規骨折と増悪骨折とを区別した評価も行っていないから,甲7発明の骨粗鬆症治療剤を増悪椎体
骨折抑制のために使用できることを当業者が予測し得たとは認めらず,また,本件3条件の全てを満たす患者に投与することを容易に想到し得ない。
e
甲第57号証ForteoSTATISTICALREVIEW(S)(2001
年。以下甲57文献という。
)には,PTH製剤であるフォルテオ
(一般名テリパラチド)の20μg連日投与及び40μg連日投与の23ヶ月の試験において,増悪椎体骨折の発生率が,プラセボ投与群では4.5%であったのに対し,
テリパラチド20μg連日投与群では
3.0%に抑制され,また,テリパラチド40μg連日投与群では2.
0%に抑制されたことが記載され,甲第98号証AssociationofSevereVertebralFracturesWithReducedQualityofLife(ARTHRITIS&RHEUMATISMVol.50,No.12,P.4028~4034,2004)
(以下甲98文献という。
)には,テリパラチド2
0μg連日投与及び40μg連日投与において,Grade3への増悪椎体骨折の発生が,
プラセボ投与群では約1.8%,
テリパラチド2
0μg連日投与群では約0.7%,
テリパラチド40μg連日投与群で

は約0.9%であったことが記載されているが,
PTH200単位週1
回投与の甲7発明の治療剤とは,その用量用法が異なるものであるから,これらの治験をそのまま甲7発明の治療剤に適用することは適切ではなく,また,本件3条件の全て満たす患者を選んで投与するものでもない。

(イ)a

本件明細書の記載(
【0132】【0118】【表20】


)による

と,本件発明の治療剤は,プラセボを投与されたときに発生する増悪椎体骨折を約83%抑制できるとの増悪椎体骨折抑制効果を奏する。b
甲第99号証
実験成績証明書B
(以下
甲99証明書
という。

によると,本件発明の治療剤は,プラセボを投与されたときに発生す
るGrade3への増悪椎体骨折を約73%抑制できるとの増悪椎体骨折抑制効果を奏する。
なお,甲99証明書は,本件明細書【表20】の試験結果のうちのGrade3へと変化した増悪椎体骨折の結果を示すものである
ところ,Grade3への変化を抑制することが増悪椎体骨折抑制の
主たる投与目的であることは明らかであるから,表20】

の結果から,
Grade3への増悪椎体骨折を分析した甲99証明書を本件発明の効果の評価において参酌することは許される。
c
甲57文献によると,テリパラチド20μg連日投与群の増悪椎体骨折の相対リスク減少率は約33%,テリパラチド40μg連日投与群の増悪椎体骨折の相対リスク減少率は約56%であり,本件発明の治療剤の奏する増悪椎体骨折の相対リスク減少率と比較して相当程度劣る。また,甲98文献によると,テリパラチド20μg連日投与群のGrade3への増悪椎体骨折の相対リスク減少率は約62%,テリパラチド40μg連日投与群のGrade3への増悪椎体骨折の相対リスク減少率は約48%であり,本件発明の治療剤の奏するGra
de3への増悪椎体骨折の相対リスク減少率と比較して相当程度劣る。4
取消事由



実施可能要件に関する判断の誤り(取消事由2)



本件発明1の進歩性に関する判断の誤り(取消事由3-1)



明確性要件に関する判断の誤り(取消事由1)

本件発明2の進歩性に関する判断の誤り(取消事由3-2)

第3

当事者の主張

1
取消事由1(明確性要件に関する判断の誤り)の有無について


原告
本件発明のPTHの生物学的活性は甲4方法によって測定されるところ,甲4方法は,①活性が既知であるウシ甲状腺ホルモンから部分的に精製した本件標準品と,本件酵素調製物と,AT

32

P(

32

Pは放射標識体)とを混

合し,本件標準品中のPTHがアデニルシクラーゼを活性化させ,これによりAT
32

PがcAM

32

Pに変換され,反応終了後にcAM

32

Pの生成量

を測定し,用量反応曲線を作成し,②同様に,活性が未知のPTHであるサンプルと本件酵素調製物とAT

32

Pとを混合して用量反応曲線を作成し,

③次に,
サンプルの用量反応曲線と本件標準品の用量反応曲線とを対比して,生物学的活性が既知の標準品に対するサンプルの生物活性の比から,サンプルの生物活性を導くバイオアッセイ法である。
しかし,以下のアないしエの4つの観点からみて,本件発明の200単位は明確ではない。ア
明確性要件違反その1
甲4方法は,①本件標準品が甲4方法を阻害する不純物を含んでいたこと(甲4,36ないし38)
,②本件酵素調製物中のラット由来の腎皮質細
胞膜によりウシPTHが急速に分解されること(甲40,41)
,③本件酵
素調製物におけるラットの個体差・酵素の純度の相違に基づく試験間の差
を平準化する指標が定められていないことにより,生物学的活性の測定法として再現性・普遍性を欠くものであり,
その測定結果には信頼性がない。

明確性要件違反その2
ヒトPTH(1-34)は,ラット腎皮質細胞膜で分解されるため(甲40,41)
,甲4方法において十分な用量反応曲線を得ることができず

(甲4,
40)甲4方法で生物学的活性の測定を行うことが困難である。

すなわち,ヒトPTHはウシPTHよりも分解速度が速いこと,また,ヒトPTH(1-34)はヒトPTH(1-84)よりも分解速度が速く,ヒトPTH(1-84)に比して約10分の1の生物学的活性しかみられない。そうすると,ラット腎皮質を調製したものを酵素調製物として使用
した場合,ウシPTHである標準品の用量反応曲線とヒトPTHであるサンプルの用量反応曲線の傾きが異なってしまったり,また,両曲線が平行になったとしてもそれら用量反応曲線の傾きが小さくなりすぎて誤差が大きくなってしまったりする。このようなことから,甲4方法ではヒトPTH(1-34)の生物学的活性の測定が困難であるため,ラット以外の
他の種由来の酵素を使用することが提案されていたのである(甲40)。
したがって,本件発明のPTHの1単位量は,薬剤の投与量を定める単位として明確性に欠ける。

明確性要件違反その3
(ア)

本件基準日当時には,国際標準品として別の製品が用いられるよう
になっていて,本件標準品は入手が不能ないし困難となっており,甲4方法によりPTH1単位量を定めることは,現実に行うことができないか,少なくとも著しく困難になっていた。
(イ)

次のとおり,本件代替品(生物学的活性は,被告の測定によると,
テリパラチド酢酸塩として3300単位/mg)を標準品として測定してPTH1単位量を定めることはできない。

a
本件明細書には,甲4方法と同じ測定結果を再現することができる代替可能な他の方法についての記載も,他の標準品で代替することができる旨の記載もない。

b
被告が本件代替品について行った測定結果は,甲4方法ではなく,これとは異なる甲第84号証に記載の方法(以下甲84方法とい

う。
)によってされたものである。しかしながら,酵素的分析法では,酵素の精製法や精製段階が違えば,純度や比活性が当然に異なり,酵素反応時の温度・pH等の微妙な変化でも酵素の変性・失活が生じてしまって試験結果に影響することから,試験条件の変化が仮に微妙であっても注意が必要であることは,
本基準日当時の技術常識である
(甲

42)したがって,

甲4方法と甲84方法の試験方法及び試験条件の
相違は,技術常識に照らし,生物学的活性の測定結果に看過できない程度の影響を生じさせる。したがって,本件代替品の3300単位/mg自体が甲4方法とは異なる測定方法によって定めた値であるから,甲84方法を用いても甲4方法と同一の結果を再現することは
できない。

明確性要件違反その4
ウシPTHとヒトPTHとは,アミノ酸配列を異にする上(甲3),構造
的及び立体配座的な相違により生物学的活性が異なるから,ウシPTHの
生物学的活性について規定された単位を,何らの換算方法等の規定もないままにヒトPTHに適用できるという技術常識はない。


被告

前記(1)ア(明確性要件違反その1)について
上記①については,
仮に,
本件標準品が不純物を含んだりするとしても,
本件標準品の用量反応曲線はそれらの影響も含めて測定されたものであり,不純物の割合が測定の度に変わるわけではないから,平行線検定法が
前提とするサンプルの用量反応曲線との平行性を満たしている限り,測定の信頼性は否定されない。
上記②については,ラット由来の腎皮質細胞膜がウシPTHを急速に分解するとしても,それゆえ,甲4方法が再現性が得られない方法とする文献はない。仮に,PTHの種類によって分解速度が異なるとしても,本件
標準品の用量反応曲線とサンプルの用量反応曲線が平行であることを確認した上で生物活性を測定するのが甲4方法であるから,両者の用量反応曲線が平行にならなければ,その測定結果はただ単に採用されないだけである。
上記③については,当業者であれば,甲4文献に技術常識に関わるよう
な詳細の記載がなくとも,甲4方法における試験間の差の平準化や測定結果の再現性を高めるために通常工夫する実験手法や統計学的手法を適用し,測定結果の開きや誤差を最小限にした測定を行うことができる。イ
前記(1)イ(明確性要件違反その2)について
甲4文献には,ヒトPTHについて甲4方法が使用できないといった記載はない。原告主張の関係文献(甲40等)も,見かけの活性が低いとしているだけであって,ヒトPTH(1-34)を測定できないとの記載はない。甲4方法がPTHの最も代表的な信頼できる測定法であることに変わりはない。

標準品とサンプルの用量反応曲線の勾配が,測定条件間で異なる傾きになる可能性があることに被告も異論はないが,勾配が異なっても,その影響は標準品とサンプルのそれぞれに等しく及ぶのであるから,各曲線間の距離,すなわち効力比は変わらない。

前記(1)ウ(明確性要件違反その3)について
(ア)

本件明細書の【0034】には,
PTHの1単位量は,自体公知の活性測定方法により測定可能である(非特許文献9)と記載され,活性測定方法として非特許文献9(甲4)を引用して公知のラット腎アデニルシクラーゼ法を用いることが記載されている。標準品として,甲4文献では本件標準品が記載されているが,上記【0034】には,標準品に関する格別の記載はなく,本件標準品でもよく,あるいはその後
に提案されたものでもよく,本件出願当時に技術常識となっていれば,他の標準品を使用することを排除するものではない。そして,本件基準日当時には,本件代替品のように,ラット腎アデニルシクラーゼ法による生物活性が100単位であって,同測定による比活性がテリパラチド酢酸塩として3300単位/mgであるものが流通し,当業界では容易
に入手し得たものである。したがって,本件基準日当時の技術常識に照らせば,
活性測定方法は,
ラット腎アデニルシクラーゼ法を用いていて,
本件標準品に紐付いた測定結果が得られるものであればよく,本件標準品を用いる甲4方法で測定しなければならないと論ずること自体が的外れである。

(イ)

多少の測定条件の差違はあっても,甲4方法も甲84方法もいずれ
も同一の測定原理に基づくラット腎アデニルシクラーゼ法であり,標準品に対する相対的な活性を平行線検定法で測定するものであるから,測定条件の相違は測定結果に影響を与えない。甲84方法も本件標準品から生物活性を紐付けされた方法であるから,甲4方法と同一の測定結果が得られるものであり,試験結果に影響を与えない。原告は,測定条件や調製法が同一でなければ看過できない影響が出ると主張するが,何ら具体的な根拠に基づいて主張しているものではなく,単なる憶測にすぎない。

前記(1)エ(明確性要件違反その4)に対して
ヒトPTHの生物活性を測定する際に,ウシPTHの生物活性から換算することはしておらず,平行線検定法により相対的に測定したそのままの
値をヒトPTHの生物活性(単位)として用いればよく,原告の主張する換算は意味不明であり,その主張は失当である。
2
取消事由2(実施可能要件に関する判断の誤り)の有無について


原告
本件明細書の【0034】にはここでPTHの1単位量は,自体公知の活性測定方法により測定可能である(非特許文献9)とだけ記載されており,具体的な測定方法や手順は記載されていない。
前記1⑴のとおり,本件標準品は,本件基準日当時に入手が不能ないし困難となっていて,
非特許文献9による測定方法,すなわち甲4方法による
生物学的活性の測定は,現実に行うことができないか,著しく困難になって
いた。その上,本件明細書には,甲4方法と同じ測定結果を再現することができる代替可能な測定方法について何らの記載もされていない。また,甲84方法は甲4方法とは異なり,その測定方法の相違は,技術常識に照らし,看過することができない程度の試験結果の相違をもたらす。したがって,本件発明の200単位に係るPTH1単位量は,測定すること自体が不能
ないし著しく困難であって,当業者は本件発明を実施することができない。そうすると,本件発明は,発明の詳細な説明の記載が当業者が本件発明を実施することができる程度に明確かつ十分に記載されたものではないから,実施可能要件を欠く。


被告
前記1⑵と同旨である。
3
取消事由3-1(本件発明1の進歩性に関する判断の誤り)及び取消事由3-2(本件発明2の進歩性に関する判断の誤り)の有無について


原告

相違点1の構成の容易想到性
(ア)
a
本件3条件の各条件について
本件条件(1)について
骨粗鬆症は加齢とともに有病率が上昇する疾病であること,椎体骨折及び大腿骨頚部骨折発生率が年齢とともに指数関数的に増加すること,高齢であることが骨粗鬆症による骨折の重要な危険因子であること,年齢が骨密度とは独立した骨粗鬆症による骨折の危険因子である
ことは,本件基準日当時の技術常識であった(甲8,15の1,104)
。そして,
65歳以上というのは,高齢者の医療の確保に関す
る法律32条で65歳以上が高齢者とされていることに相応するだけである。したがって,本件条件(1)は,単に,骨粗鬆症の発症率が高いこと及び骨折のリスクが増大した状態の患者群であることの一要
素でしかなく,これ自体,何ら格別の技術上の意義を有するものではない。
b
本件条件(2)について
既存骨折の有無は,骨粗鬆症の診断において,重要な診断の要素の
一つとされていたものである
(甲8,15の1,
9,
104)さらに,

男女とも,部位にかかわらず,既存骨折があると将来の骨折リスクは約2倍になり,特に,既存椎体骨折があると将来の椎体骨折リスクは約4倍に高まるとされていた
(甲104)したがって,

本件条件
(2)
は,骨粗鬆症の患者群を特定する条件の一つとして,ごく一般的なも
のにすぎず,これ自体,何ら格別の技術上の意義を有するようなものではない。
c
本件条件(3)について
本件条件(3)の骨密度・骨萎縮度に関する条件は,骨粗鬆症の診断基準の一要素とされていたものである(甲9,15の1,104)。
したがって,本件条件(3)も,骨粗鬆症の患者群を特定する条件の一つとして,ごく一般的なものにすぎず,これ自体,何ら格別の技術
上の意義を有するものではない。
(イ)

本件3条件の容易想到性について

a(a)

甲7発明における骨粗鬆症患者の年齢範囲は45歳から95歳であるが,骨粗鬆症は,加齢とともに有病率が上昇する疾病であるから,本件条件(1)を満たす患者は,甲7発明が当然に投与対象として予定していたものである。また,甲7発明は,
退行期骨粗鬆症の診断基準(1989年)(甲8)に記載の診断基準により骨粗鬆症と診断された患者を投与対象とするものであるところ,
本件条件(2)の既存の椎体骨折があることは,スコアの合計にお
いて重要な因子となっているから,
本件条件
(2)
を満たす患者も,
甲7発明が当然に投与対象として予定していたものである。さらに,甲7発明が対象とする患者は,
上記診断基準
(甲8)
を改訂した
原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年度改訂版)(甲9)に記載の診断基準に含まれる本件条件(3)も満たしている蓋然性が高いか
ら,本件条件(3)を満たす患者も,甲7発明が当然に投与対象として予定していたものである。


甲7発明の対象患者は,
退行期骨粗鬆症の診断基準(1989年)(甲8)で「4点(ほぼ確実)以上の患者である。上記診断」
基準において,
年齢のスコアは,
女性55歳未満「男性75歳未満-1及び

-1」であるから,本件条件(1)を満たした

だけでは,
甲7発明の対象患者
(骨粗鬆症患者)
には選定されない。
他方,本件条件(2)は,スコア+1~+3,本件条件(3)は,スコア+3であるが,本件条件(2)及び本件条件(3)以外でスコアが加点となる因子は,
腰背痛ありリン,AL-P値正常1血清カルシウム,及び1しかない。
したがって,甲7発明の対象患者(合計4点(ほぼ確実)以上)

と診断されるためには,年齢以外の複数の因子をも満たしている必要があり,
そのなかでも,
本件3条件の全てを満たしている患者は,
確実
(合計5点以上)あるいはほぼ確実
(合計4点)に骨粗
鬆症と診断される患者の典型といえる。
このように,甲7発明の対象患者は,本件3条件の全てを満たし

ている蓋然性が高い。
b
前記(ア)のとおり,本件3条件は,骨粗鬆症の発症や骨折の危険因子あるいは骨粗鬆症の一般的な診断要素にすぎないから,骨粗鬆症について特殊な患者群を画する意義は認められない。

甲第104号証
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年版
(以下甲104文献という。
)には,臨床的骨折危険因子として合
計8個の因子が確認されている中で
低骨密度

既存骨折
及び
年齢に関しては,骨折の危険因子としてエビデンスがあるが,その他の臨床的骨折危険因子については,相対危険度と,それらの年齢との
関係性等のデータが十分ではない旨明記され(51頁)
,また,本件3
条件が骨折の危険因子として筆頭に挙げられていて,骨折の重要な危険因子である
(女性,高齢)骨折を強く予測する

(低骨密度)

男,女とも部位にかかわらず既存骨折があると将来の骨折リスクは約2倍になる。特に,既存椎体骨折があると将来の椎体骨折は約4倍に高まる

(既存骨折)との記載がされている(34頁)

。また,PTHが骨
折の危険性の高い骨粗鬆症患者に有効な薬剤であることは,本件基準日当時,技術常識となっていた。すなわち,PTH製剤であるフォルテオに係る甲第15号証の1
審議結果報告書
(平成22年。甲以下15の1文献という。
)では,フォルテオの効能・効果を骨折の危険性の高い骨粗鬆症
(2頁)とし,年齢,既存骨折,低骨密度の3要
素により骨折の危険性の高い骨粗鬆症患者を定義している(70頁7
行目以下)

そして,
甲7発明は,
48週という比較的短期間で腰椎骨密度を8.
1%増加させた治療剤であり,骨密度の増加は骨折予防に寄与するものであるところ,中手骨骨密度を減少させることなく腰椎骨密度を比較的短期間で用量依存的に増加させたことにより,きわめて将来有望
であると思われる骨粗鬆症治療剤と評価されていた。
したがって,甲7発明に接した当業者は,本件3条件の全てを満たす患者に対して甲7発明を適用することを,当然に検討する。
甲7文献には,各サブ群間においてPTHの骨密度への応答が同程度であった旨記載されているが(300頁左欄11行ないし右欄6行
目)各サブ群で骨密度増加効果が確認されたのであるから,

特定の患
者群に対する甲7発明の適用を妨げる事情ではない。
c
甲7発明においても,投与された患者に重篤な副作用はみられず,かつ,生じた副作用は一時的なものにとどまっており(甲7の298頁左欄25行ないし299頁左欄9行目,
表5)200単位週1回投


与が安全でないと予測すべき理由はない。
一般的な臨床使用において,
広く全ての骨粗鬆症患者に対し投与する製剤としては100単位の方が適切であるとしても,本件発明を想到することを妨げるものではない。
d
PTHは,年齢が高くなり,より骨折の危険性の高い患者に対して有効に薬剤であるから
(甲15の1)高齢者には効きにくいとの技術

常識は存在しない。仮にそのような技術常識が存在するとしても,それはPTHを連日投与するからであり,甲7発明の200単位週1回投与については,連日投与と比較して高いBMD(骨密度)の増加作用が確認されているから,当業者は,PTH200単位週1回投与を高齢者に適用することを動機付けられる。

e
以上からすると,甲7発明に接した当業者において,甲7発明の骨粗鬆症治療剤を本件3条件の全てを満たす患者に適用することは,技術常識に基づき,当業者が当然に検討する事項である。
したがって,相違点1の構成は当業者が容易に想到できる。


相違点2の構成の容易想到性
(ア)
a
骨折抑制への適用
骨粗鬆症については,2000年にアメリカの国立衛生研究所(NIH)で開催されたコンセンサス会議において,その定義が骨強度の低下を特徴とし,骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患に修
正された(甲60)
。同コンセンサス会議では,
骨強度について,
骨強度は骨密度と骨質の2つの要因からなり,BMDは骨強度の
ほぼ70%を説明するものであるとし,残りの30%の説明要因(構造,骨代謝回転,微細損傷の集積,骨組織のミネラル化など)を骨質という用語に集約した(甲60)。上記コンセンサス会議での骨粗

鬆症の定義の修正は,骨密度以外の危険因子をも含めて考えることを示したものであって,骨密度の減少が骨粗鬆症及び骨折の主要な因子であることを否定するものではなく,骨密度の増加は,骨粗鬆症治療及び骨折リスクの軽減にとって,重要な評価指標である。
また,
骨粗鬆症薬の臨床評価方法に関するガイドラインについて

(甲96)も,被験薬の有効性の証明には,本来,骨強度の変化や骨折率を見ることが望ましいものの,それには長期間を要するので,後期第Ⅱ相試験では,骨量(骨密度)が骨折発生率をみるための代用の指標とされている(第4章臨床試験四後記第Ⅱ相(四)試験方
法。

代替エンドポイントの評価
(乙14)にも,
ただし,骨密度は代替エンドポイントとして日米欧の規制当局からは認められており,新薬の承認申請の際には,骨密度を代替エンドポイントとして第Ⅱ相試験を行い用量反応性を検討し,第Ⅲ相試験においては真のエンドポイントである骨折を評価項目としてプラセボまたは実薬対照試験を行うのが一般的となっている。(16頁)と記載されている。そうすると,甲7発明は,骨折抑制の評価指標を骨密度(骨量)と
しているが,甲7文献の試験は後期第Ⅱ相試験に該当するから,腰椎BMDの増加は,骨折抑制効果が上がったと評価されるものである。以上によると,本件基準日当時,当業者は,骨密度を増加させることは骨折リスクを軽減させることであると認識していた。
そうすると,
甲7発明を骨折抑制のための治療とすることは,プラセボ対比試

験で実証するまでもなく,甲7発明の腰椎BMDの増加という試験結果から,当然に予定される。
したがって,当業者にとって,甲7発明の治療剤を骨折抑制のためのものとすることは,格別の創意を要することではない。
b
甲7文献の将来有望との趣旨の記載は,
中手骨骨密度(大部分が皮質骨からなる)を減少させることなく腰椎BMD(主に海綿骨からなる)を48週間という比較的短期間で有意に用量依存性に増加したことから,hPTH(1-34)による骨粗鬆症治療はきわめて将来有望である(301頁右欄5行ないし303頁右欄23行目)
を受

けた記載であり,この効果が最も強く認められたのは,200単位週1回投与である(図1)

したがって,上記の将来有望との記載は,200単位週1回投
与についてのものと理解するのが相当である。
(イ)

増悪椎体骨折抑制(Grade3への増悪椎体骨折抑制)への適用
a
新規椎体骨折及び増悪椎体骨折の意義
本件明細書には,椎体の変形の程度がGrade分類されることが
でき,正常な場合をGrade0
,椎体高が約20ないし25%減
少し,かつ,椎体面積が10ないし20%減少した場合をGrade1,椎体高が約25ないし40%減少し,かつ,椎体面積が20な
いし40%減少した場合を
Grade2椎体高が約40%以上減

少し,かつ,椎体面積が40%以上減少した場合をGrade3

とし,Grade0からGrade1,Grade2又はGrade3への変化が認められた場合を新規(椎体)骨折と,Grade
1からGrade2若しくはGrade3,又は,Grade2からGrade3への変化が認められた場合を増悪(椎体)骨折とす
る旨の記載があり(
【0047】,同様の定義は,PTH製剤であるフ


ォルテオに関する甲32の1文献及び甲第129号証

椎体骨折評価基準(2012年度改訂版)(平成25年。以下「甲129文献

と」
いう。
)にも示されている。
b
相違点2に係る構成の技術的意義
(a)

骨粗鬆症は,骨量の減少と骨質の劣化により骨強度が悪化して

骨折のリスクが増加しやすいことが特徴的な骨疾患であり,椎体骨折は,骨粗鬆症において最も頻度の高い骨折である。したがって,椎体骨折の発生及びその悪化は,骨粗鬆症の典型的な症例であり,既存椎体骨折を有していて増悪椎体骨折を予防する必要がある患
者は骨粗鬆症患者の典型例でしかない。



本件明細書においては,新規椎体骨折及び増悪椎体骨折とは,い
ずれも,椎体骨折の判定に当たってGradeに変化がみられた場合をいい,診断の起点の相違で両者を分類しているにすぎず,疾病の質や病態や原因等において相違するものではない。例えば,A時点でGrade0,B時点でGrade1,C時点でGrade2と推移した患者の場合,A時点とC時点でそれぞれ測定されたとき
にはC時点の骨折は新規椎体骨折と判定され,B時点とC時点でそれぞれ測定されたときにはC時点の同じ骨折が増悪椎体骨折と判
定されるのである。本件明細書には,圧潰や骨の組織変化が,新規椎体骨折にはみられない増悪椎体骨折に特有のものであるとの記
載もない。



本件条件(2)は,
既存椎体骨折を有するであるところ,骨粗
鬆症患者では,
既存椎体骨折があると将来の椎体骨折は約4倍に高まるとされている(甲104の34頁)。ここにいう将来の椎体
骨折は,新規椎体骨折(当該既存椎体骨折がある箇所以外の椎体について)及び増悪椎体骨折(当該既存椎体骨折がある箇所の椎体に
ついて)の双方を含む。したがって,本件発明1の増悪椎体骨折抑制のためあるいは本件発明2のGrade3への増悪椎体骨折の抑制のためなる用途は,本件条件(2)を満たす患者の治療目的として当然に予定されているものでしかなく,相違点2は,実質的にみて,相違点1の内容を超えて新たな相違点となるようなも
のではない。


本件基準日前,既存椎体骨折を有していない場合には新規椎体骨
折が発生するか否か,また,既存椎体骨折を有している場合には増悪椎体骨折が発生するか否か等,既存椎体骨折の有無に分けて治療
効果を比較することは各種のガイドラインで示されていた(甲30の60頁,甲31)
。そのため,既存椎体骨折を有する患者に対し,
増悪椎体骨折予防のための骨粗鬆症治療を行うことは,当業者が当然に予定することであった。
c
甲93文献について
甲93文献には,
一度骨折が生じた椎体においては壊死組織が存在し,その周囲に広範囲の結合組織層が層状に形成され,また,一度骨折が生じると日常の小さな反復外力が骨折部位の修復を阻害して,椎体内は次第に線維性結合組織で置換される,という組織学的変化が生じると記載されている。しかしながら,本件発明が定める新規椎体骨折及び増悪椎体骨折は,椎体の変形程度に関するGradeの変化を判断基準とす
るものであり,甲93文献に記載の骨粗鬆症性外傷後椎体圧潰が
新規椎体骨折又は増悪椎体骨折のいずれの状態におけるもの
かの記載がない。そうすると,甲93文献の骨粗鬆症性外傷後椎体圧潰が本件発明の増悪椎体骨折に関するものとはいえない。また,甲93文献には,
組織学的変化がみられることが記載され

ているが,
いったん,組織学的変化が生ずると,以後,骨密度を維持・増加させることができず,さらに,骨強度を増強・維持することができず,そのため骨折発生を抑制することができないという技術常識はない。
したがって,甲93文献の記載は,相違点2の用途の想到を妨げる
ものではない。
d
甲15の1文献,甲57文献及び甲98文献について
甲15の1文献の記載(76頁)によると,PTHは,海綿骨の骨量及び連結密度の増加
(BMD増加)骨梁形状のより板状構造へのシ


フト,並びに皮質骨幅の増加の効果が認められ,骨粗鬆症により悪化した骨微細構造をより正常な状態に改善させる効果が認められ,BMD増加と骨折予防効果との関連性が高いことが本件基準日当時の技術常識となっていたことが分かる。
甲57文献及び甲98文献には,テリパラチド20μg連日投与又は40μg連日投与により,それぞれ,増悪椎体骨折の抑制効果,Grade3への増悪椎体骨折抑制効果があったことが示されていた。
これらの骨折抑制効果は,甲7発明の治療剤と同一の有効成分であるPTHの有効成分及びその作用機序によるものであるから,甲7発明の治療剤と用法用量が異なるとはいえ,甲7発明の治療剤についても同一の効果が生じると当業者は合理的に期待する。
(ウ)

容易想到性
以上のとおり,腰椎BMDは骨折発生率をみるための代用の指標とさ
れているところ,甲7発明では,PTH200単位週1回投与につき,その腰椎BMDに顕著な増加がみられたから,甲7文献に接した当業者は,甲7発明を,骨粗鬆症治療薬として骨折抑制のために適用することを当然に検討する。そして,既存椎体骨折を有する骨粗鬆症患者につい
て増悪椎体骨折又はGrade3への増悪椎体骨折を抑制することは,骨粗鬆症治療において当然に予定されていた事項であるところ,PTHが新規椎体骨折にも増悪椎体骨折にも等しく骨折抑制作用を有することが知られていた。しかも,骨粗鬆症患者では,既存椎体骨折があると将来の椎体骨折発生リスクが約4倍に高まるとされている。

そうすると,甲7発明の治療剤を,既存椎体骨折を有する患者に対する増悪椎体骨折抑制のための骨粗鬆症治療剤とすること,また,よりGradeが高いGrade3への増悪椎体骨折抑制のための骨粗鬆症治療剤とすることには十分な動機付けがある。
したがって,
相違点2の構成は当業者が容易に想到することができる。


発明の効果について
(ア)

判断枠組み
予測できない顕著な効果として対比すべき優先日当時の本件各発明の構成(最高裁判所平成30年(行ヒ)第69号令和元年8月27日第
三小法廷判決・集民262号51頁)として想定すべきなのは,本件発明であるが,甲7発明と本件発明とは,有効成分,用法用量,骨粗鬆症治療という用途において同一の構成を備えているから,予測できない顕著な効果は,甲7発明との対比において検討すべきものである。したがって,用法用量の異なる従来技術のみとの対比から,本件発明の効果が顕著であるとすることはできない。
甲57文献及び甲98文献の試験は,本件発明と用法用量を異にする
骨粗鬆症治療剤に関するものであるから,PTHに増悪椎体骨折抑制効果があることの確認まではできても,それを超えて,本件発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができなかった効果があるか否か,又は当該構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える顕著な効果があるか否かという観点からの検討においては判断の基礎とすることはできない。したがって,甲7発明と用法用量が異なる甲57文献及び甲98文献に記載の連日投与のPTH製剤との間で相対リスク減少率の値の大小を対比しただけで,本件発明に顕著な効果が認められる旨判断することは,判断手法を誤るものである。

(イ)

本件発明の効果
本件明細書には,本件3条件の全てを満たす患者に対してPTH20
0単位週1回投与をしたところ,PTH200単位投与群における増悪椎体骨折発生率が0.4%,
プラセボ投与群における増悪椎体骨折発生率
が2.3%であり,
投与72週後の被験薬投与群と対照薬投与群の差
(%)
が1.8%
(絶対リスク減少率)
であり,
90%信頼区間の下限が0.2,
同上限が3.5であり,
増悪骨折に対して被験薬は有効である旨の記
載があるにすぎない(
【0118】【表20】。


(ウ)

被告の主張する効果①(後記⑵ウ(イ)①)について
a
本件明細書の記載について
(a)

本件明細書は,骨折抑制効果が本件3条件により奏するとしな

がら,200単位投与群について,本件3条件の全てを満たす患者
と本件3条件の全部又は一部を満たさない患者とを比較した試験
結果は何ら示していない。仮に,本件3条件の全てを満たした場合に100単位の投与によってPTHの骨折抑制効果を強く発現さ
せることができるとしても,本件発明のように,用法用量を限定したところに格別の効果を奏する特殊な患者群を見出したとする発

明において,当該用法用量を変更しても,その特殊な患者群において変更前の用法用量と同様に格別な効果を奏するという技術常識
はなく,また,そのような推論ができる根拠もない。実際,本件明細書に記載の実施例1の結果は,100単位投与群では,本件3条件の全てを満たすとする高リスク患者の骨折発生率が6%(=3÷
52,
【表2】及び【表8】,本件3条件を満たさないとする低リス

ク患者の骨折発生率が9%であり
(=1÷11,表3】【表9】,

及び

高リスク患者の方が低リスク患者よりも骨折発生率が低いが,5単位投与群では,
高リスク患者の骨折発生率が28%
(=18/64,
【表2】及び【表8】,低リスク患者の骨折発生率が10%(=1)

÷10,
【表3】及び【表9】
)であり,低リスク患者の方が高リス
ク患者よりも骨折発生率が低くなっている。


低リスク患者の類型は7通り(3種の条件を組み合わせた8通り
の場合から,全ての条件を満たす場合―すなわち,高リスク患者―
を控除する。
)存在するが,実施例1の低リスク患者かつ100単位投与群の例数は,わずか11例しかなく,7通りの組合せに対しては少なすぎ,その結果をもってしては,確率の低い事象が偶然生じた可能性を排除することができず,そのような試験結果に信頼性を認めることは困難である。また,実施例1の100単位投与群における低リスク患者の患者背景は,全員が年齢65歳未満で本件条件(1)を満たさないが,本件条件(2)及び本件条件(3)
のいずれも満たす者とうかがわれ(本件明細書【表3】,実施例1)
の低リスク患者かつ100単位投与群の結果は,本件条件
(1)のみを満たさない患者群についての結果であって,ここから低リスク患者全般について客観的な評価を導くことは困難である。⒞

実施例1の100単位投与群では,新規椎体骨折の抑制効果(す
なわち,Grade0からの変化)の確認しかなされておらず,増悪椎体骨折の抑制効果(つまり,Grade1やGrade2からの更なるGradeの変化)の確認はされていない(本件明細書の【0077】~【0097】参照)




本件明細書には,本件発明が増悪椎体骨折に対して有効であるこ
とが確認された旨の記載はあるが【0118】,

)新規椎体骨折抑制
効果と同等以上に増悪椎体骨折抑制効果が高い骨粗鬆症治療剤を
実現するといった課題は記載されておらず,また,新規椎体骨折抑制効果と増悪椎体骨折抑制効果とを比較した記載もない。

b
甲7発明から予測される効果
(a)

甲7発明では,骨折発生率をみるための代用の指標である腰椎

BMDにつき顕著な増加がみられたのであるから,椎体骨折の抑制効果が大いに見込まれると評価されるものであるところ,甲103文献では,
PTH連日投与との対比において,
週1回投与の方がむしろ効率がよく,骨吸収を亢進させることなく骨形成を促進している(60頁)と評価されていた。したがって,当業者は,200単
位週1回投与の甲7発明の用量用法は,PTH連日投与と対比してより優れた骨折抑制効果があると合理的に期待することができた。そして,前記イ(イ)のとおり,本件明細書における新規椎体骨折と増悪椎体骨折とは,疾病の質や病態や原因等において相違するものではなく,いずれも,骨量の減少と骨質の劣化により骨強度が悪
化して発生リスクが増加する骨折であることに変わりはないとこ
ろ,甲15の1文献によると,PTHは,骨形成促進作用があり,その椎体の骨量を増加させ骨強度を増強して骨折発生を抑制する
作用を有することは本件基準日当時に技術常識となっていたとい
えるから,本件発明は,骨吸収を亢進させることなく骨形成を促進
し,
骨密度を増加させて骨質を改善する作用によって,
椎体に対し,
椎体高と椎体面積の減少を抑制し,この作用は,新規椎体骨折の抑制でも増悪椎体骨折の抑制でも変わりはないと合理的に考えられ
る。そして,実際,PTHに増悪骨折抑制作用があることは,本件基準日に公知となっていた
(甲32の1の62頁,
甲57の21頁)


そうすると,当業者は,本件発明の構成は増悪椎体骨折の抑制にも効果があると合理的に予測する。
したがって,本件発明の増悪椎体骨折抑制効果は,引用発明であ
る甲7発明との対比において,技術水準から予測される範囲を超えるものではない。



本件特許明細書【表20】に記載された結果は,評価例数が,被
験薬(PTH)投与群261例,対照薬(プラセボ)投与群281例に対し,骨折発生例数がそれぞれ1例,6例というものであり,増悪椎体骨折の発症率が極めて僅少である。

このように,発症率が僅少で,かつ,被験薬投与群とプラセボ投
与群の発症率の差が少ない場合には,相対リスク減少率でみると,わずかに発症率が異なるだけで,大きな数字に置き換えられてしまい,特別に優れた効果が確認できたかのような誤った評価を導いてしまう危険性がある。そのため,臨床研究の統計では,このような場合,相対リスク減少率(RRR)ではなく,絶対リスク減少率(ARR,対照群における発症率と治療群における発症率の差)で評価
するのが技術常識である(甲58,130)【表20】の結果のみ。
から顕著な効果を肯定するのは,あまりに安直であり,科学的根拠に支えられたものではない。
【表20】に基づき,増悪椎体骨折発生率の絶対リスク減少率を
算定すると,1.9%(2.3%-0.4%)となり,本件発明1によ
る増悪椎体骨折抑制の効果は,100人中1.9人という差でしかない。このわずかな差が,相対リスク減少率では,約83%(1-0.4/2.3)という大きな数字に置き換わり,特別に優れた効果が確認できたかのような印象を与えるのである。
c
実験成績証明書について
(a)

実験成績証明書の参酌の可否
甲99証明書は,別紙4のとおりであるところ,本件訂正の際,

実施例2の試験データの中からGrade1からGrade2若
しくはGrade3,又はGrade2からGrade3への変化の症例を抽出して作成されたものとされている。しかしながら,甲99証明書は,本件明細書に記載されていない発明の効果を,出願後に実験結果等を提出して主張又は立証するものであり,出願人と第三者との公平を害する結果を招来するものであるから,これを斟酌することは許されない。

すなわち,本件明細書には,増悪椎体骨折の発生率について【0
118】及び【表20】の記載があるだけで,Grade3への増悪椎体骨折の発生を抑制する効果を奏することについては何らの
記載も示唆もない。
骨粗鬆症治療において,
Grade3への増悪椎体骨折抑制のためという独立した用途が観念できるかどうかは措くとして,甲99証明書は,本件明細書の記載を超えた効果について立証を補充するものにほかならない。

そうすると,甲99証明書は,本件明細書に記載されていない発
明の効果を,出願後に実験結果等を提出して主張又は立証するものであり,出願人と第三者との公平を害する結果を招来するものであるから,これを斟酌することは許されない。


甲99証明書の内容
仮に,甲99証明書を参酌することが許されるとしても,甲99
証明書は,本件発明の効果の顕著性を基礎付けるものではない。

(エ)
a
被告の主張する効果②(後記⑵ウ(イ)②)について甲57文献について
被告は,甲57文献の試験結果から算出される増悪椎体骨折の相対リスク減少率(RRR)と比較して,本件発明のRRRは,相当程度優れており,予想外に高い効果が生じている旨主張するが,本件明細書【表20】の対象患者は,骨折リスクの高い患者である高リスク患者【0079】【0098】(

)であるのに対し,甲57文献の試験

の対象患者は,
30~85歳の閉経後女性,中程度の非外傷性椎体骨折が1つ以上又は軽度のものが2つ以上,評価可能な骨折していない椎体が7つ以上であり,高リスク患者に限定されていない。
高リスク患者のプラセボ投与群は,骨折リスクが高いにもかかわらずプラセボを投与した患者群であるから,高リスク患者に限定しない患者のプラセボ投与群と比較して,骨折発生率が高くなるのは自明である。したがって,
骨折の高リスク患者と骨折の高リスク患者に限定しない患者との間で,一見,増悪椎体骨折発生率につき相対リスク減少率の違いがみられたとしても,これは,対比の基礎となったプラセボ投与群の骨折発生率の相違によるところが大きい。
また,
骨折の高リスク患者に限定しない患者は,そもそも,
骨折の高リスク患者に比して,骨折リスクが低い患者群であるから,骨折の高リスク患者に限定しない患者において,治療群とプラセボ投与群との間で骨折抑制効果に大きな差が出なくても,
何ら不思議なことではない。
したがって,甲57文献との間で,単純に相対リスク減少率の値の大小のみをみて,本件発明1に顕著な増悪椎体骨折抑制効果がみられるとすることはできず,甲57文献の試験結果と比較した相対リスク減
少率の差異は,当業者の予測を超えるようなものではない。
なお,甲57文献における絶対リスク減少率を算定すると,PTH20μg連日投与の場合が約1.5%(4.5%-3.0%)
,PTH4
0μg連日投与の場合が約2.5%(4.5%-2.0%)であり,むしろ,本件発明の方が,甲57文献の試験結果よりも増悪椎体骨折抑
制効果が低いとも評価できる。
b
甲98文献について
被告は,甲98文献の報告から,PTHのGrade3への増悪椎体骨折の抑制効果は,増量するとかえって効果が低減することが公知
であったと認められる旨主張するが,甲98文献は,PTH20μg連日投与と40μg連日投与について,Grade3への増悪椎体骨折の発生率を示したものにすぎず,本件発明とは用法用量を異にしている。
また,甲98文献は,プラセボ投与群と対比して,新規又は増悪S
Q3椎体骨折になるリスクが有意に減少したことを示したものであって,甲98文献には,Grade3への増悪椎体骨折の抑制効果がPTH投与量を増量するとかえって効果が低減することを示した記載はなく,20μg連日投与群と40μg連日投与群との比較において,増悪椎体骨折の抑制効果について,用量依存性がないことを統計的に評価したものではない。
さらに,甲98文献は,評価例数に対し骨折発生例数が極めて僅少であるから,骨折相対リスク減少率をもって効果を評価することは誤りである。すなわち,甲98文献では,PTH20μg連日投与群及びPTH40μg連日投与群の評価例数が,それぞれ444例及び434例であるのに対し,増悪椎体骨折の発生例数は,それぞれ,3例
及び4例と極めて僅少であり,しかも,発生例数の差が,わずか1例しかない。このような場合には,前記(ウ)b⒝の場合と同様に,相対リスク減少率ではなく,絶対リスク減少率で評価すべきである。そこで,甲98文献の試験結果に基づき,
増悪SQ3骨折の発生に限っ
て絶対リスク減少率を算出してみると,20μg連日投与群における
絶対リスク減少率は1.1%と,
40μg連日投与群における絶対リス
ク減少率は0.9%となり,両者の差は,わずか0.2%である。これは,
100人中わずか0.2人という差でしかなく,
およそ増悪椎体骨
折の抑制効果に用量依存性があることを統計的に明らかにするものではない。

仮に,甲98文献から40μg連日投与の方が,20μg連日投与よりもGrade3への増悪椎体骨折の抑制効果が低いことが導かれたとしても,これは,単に,20μg連日投与と40μg連日投与との間での効果を比較したものにすぎない。しかも,甲98文献において,
相対リスク減少率の算定がなされているのは,
新規又は増悪SQ3椎体骨折についてであって,
増悪SQ3椎体骨折のみについて
は,相対リスク減少率の算定すらなされていない。甲98文献の試験結果から用法用量が異なる200単位週1回投与の場合のGrade3への増悪椎体骨折の抑制効果を推論することはできない。
(オ)

被告の主張する効果③(後記⑵ウ(イ)③)について被告が主張する骨密度の増加率と増悪椎体骨折抑制効果との対応関係
は,被告独自の分析によるものでしかなく,本件基準日当時の当業者の
予測を基礎付けるものではない。
(カ)

まとめ
以上からすると,本件発明が予測できない顕著な効果を奏するとはい
えない。

小括
以上のとおり,
相違点1及び2は当業者において容易に想到できるから,
本件審決の判断には,誤りがある。



被告

相違点1の構成の容易想到性の主張について
(ア)

本件3条件の各条件について
高齢の骨粗鬆症患者であれば,本件3条件を充足するとの技術常識は
ない。患者の要件は,一つ一つに分解できるものではなく,それらが有機的に結合して患者の要件を構成するものであるから,本件3条件を一体として,その技術的意義が判断されなければならない。
(イ)
a
本件3条件の容易想到性について
骨粗鬆症と診断された患者が本件3条件の全てを満たすとは限らないし,本件3条件以外の因子の重要度が低いことを意味しない(甲104)
。それゆえ,甲7発明における対象患者の選定においても,複数
の因子をスコア化して評価してそのスコアの合計数で診断したもので
あって,その対象患者が本件3条件の全てを満たすことは予定されていない。甲7文献の臨床試験は,後期第Ⅱ相試験であり,その主な目的は,骨粗鬆症患者を対象として用量反応関係を明らかにし,第Ⅲ相比較試験のための用法用量を決定することであり,PTH50単位投与群(L群)
,100単位投与群(M群)
,200単位投与群(H群)
を比較する試験にすぎず,骨粗鬆症患者の中から特殊な患者群を取り出して薬効を評価するというものではない。甲7文献には,本件3条
件に着目して患者群をとらえた記載はないし,骨折抑制のための骨粗鬆症治療剤に関し,本件3条件を満たす患者を選択してその対象とすることが一般的であるとの証拠も存在しない。本件3条件の着想を得たのは本件発明が初めてである。
b
仮に,本件3条件の個々の条件自体は一般的な指標であったとしても,本件3条件全体は一般的な指標ではない。
骨折リスクの増大と
いうことであれば,他にも骨折リスク因子は多数あり(甲104),本
件3条件を選択する蓋然性はない。骨折しやすい患者が骨折抑制効果を得られやすい患者という技術常識はなく,骨折の危険性の高い骨粗
鬆症患者といっても試験によってその定義はばらばらであり(甲15の1の50頁,53頁,70頁)
,年齢,骨密度等の具体的な指標もば
らばらであり,本件3条件の全てを満たさなくても骨折の危険性の高い患者に該当することがある。既存椎体骨折の有無も診断の要素の一つにすぎず,既存椎体骨折のない骨粗鬆症患者も多数存在する。例え
ば,甲7の表1によると,既存椎体骨折のない患者(椎体骨折数が0の欄)はL群(50単位)
,M群(100単位)
,H群(200単位)
の全体で91名(32人+30人+29人)であり,220人の被検者(表2)の約41%を占める。本件3条件の全てを満たす患者が本件3条件のいずれかを満たさない患者よりも高い骨折抑制効果を示す
ことは,甲15の1文献には示されてはいない。本件3条件は,PTH100単位週1回投与の第Ⅲ層試験の層別解析により初めて,本件3条件を組み合わせるとPTHの骨折抑制効果が高いという新規な知見を得られたことに基づいて設定されたものであり,これを甲7文献の開示事項から導くことはできない。むしろ,甲7文献には,サブグループ間で薬物に対する応答は同程度であった旨の記載があり,甲7発明の投与対象患者を区分して投与対象をサブ群に限定しても効果は
変わらないことが推論されるから,甲7発明から本件3条件を選択する動機付けは否定される。甲7発明が将来有望であると思われる骨粗鬆症治療剤とされていたとの甲7文献における記載は,週1回投与という新たな用法の可能性に関して述べたものであり,200単位を投与する点に特化して将来有望と記載されたものではない。

c
甲7発明において,甲7文献の表6によって副作用により脱落した患者の脱落率を計算すると,(50単位)
L群
では73人中3人で4%,
M群(100単位)は75人中10人で13%,H群(200単位)は72人中16人で22%であり,しかも,200単位のH群は,副作用が発現した患者30人の半数以上の16人が脱落している。本件
出願当時の当業者の認識,とりわけ200単位に対する当業者の認識は,200単位の異常に高い副作用発現頻度,高い脱落率が示すように,200単位は臨床用量としては不適とするのが専門医の共通した見解であるというものであった(甲70ないし72)
。したがって,甲
7文献の頒布後,当業者は臨床試験においてPTH週1回投与を行う
場合には,100単位しか選択し得ず,200単位の選択は事実上困難であった。
d
テリパラチド20μg投与群又は40μg投与群のプラセボ投与群に対する骨折相対リスク減少率は,患者が75歳以上の場合には,6
5歳以上75歳未満の場合よりも低くなっているなど,PTH製剤が高齢者には効きにくいということは技術常識であり
(乙29)PTH

を高齢者に特に使用しようとする積極的な動機付けは生じないから,年齢に関する本件条件
(1)
を含む本件3条件の動機付けは生じない。
e
以上のとおり,本件3条件は,本件発明の発明者が初めて見出した条件であり,甲7文献に開示,示唆されておらず,技術常識を踏まえても着想し得ない。


相違点2の構成の容易想到性の主張について
(ア)
a
骨折抑制への適用
骨密度が骨強度につき約70%関係しているとすれば,約30%は別の要因が関係しているのであるから,骨強度は,骨密度のみでは説
明できないということである。すなわち,骨密度が増加しても,それにより,直ちに骨折が抑制されるというものではない。
骨粗鬆症治験薬の臨床的有効性と安全性の評価を行うには,標準薬又はプラセボと比較した比較試験が必要である
(甲96)骨粗鬆症の

場合,骨折抑制効果を骨密度の数値だけで完全に代用することはでき
ないから,第Ⅲ相試験で標準薬又はプラセボと比較した比較試験を経て,骨折抑制効果を確認することが必要なのである。後期第Ⅱ相試験である甲7文献の試験は,あくまでも用法用量を決定し,第Ⅲ相試験に進むか否かを評価するとの位置付けである(甲96)
。したがって,
甲7発明の治療剤による腰椎BMDの増加があるからといって,その
骨密度の増加が直ちに骨折抑制効果をもたらすものとはいえず(甲7の301頁右欄5行ないし303頁右欄23行目,甲96)
,さらに,
甲7文献には,L群(50単位)
,M群(100単位)及びH群(20
0単位)で骨密度の増加程度は異なるとしているものの,椎体骨折数に関し,
L群
(50単位)M群

(100単位)
及びH群
(200単位)

について各群間の差は有意でなかったと記載されている(甲7の
300頁左欄11行ないし右欄6行目)したがって,

標準薬又はプラ
セボとの対比試験を行っていない甲7発明から骨折抑制効果が予測できるということはあり得ない。
b
甲7文献には,
将来有望との記載があるが,200単位との用量
が有望と記載されているのではなく,週1回投与という用法の可能性を考察しているにすぎない。なぜなら,200単位のみならず,10
0単位,50単位のいずれの群も同様に,中手骨骨密度を減少させずに,用量依存的に有意に腰椎BMDを増加させているからである(甲7の300頁左欄11行ないし右欄6行目,図1)

(イ)
増悪椎体骨折抑制(Grade3への増悪椎体骨折抑制)への適用
a
新規椎体骨折及び増悪椎体骨折の意義
前記⑴イ(イ)aの原告の主張は,争わない。

b
相違点2に係る構成の技術的意義
(a)

既存椎体骨折の有無は,
診断の要素の一つにすぎず,
既存椎体骨

折のない骨粗鬆症患者も多数存在する。前記ア(イ)bにおいても述べたとおり,甲7発明においても,既存の椎体骨折のない患者は,
L群,M群,H群の全体で計算して約41%存在する。また,
退行期骨粗鬆症の診断基準でも,例えば,骨量の減少(3点)かつ腰背部痛あり(1点)でスコアの合計が4点であり,既存椎体骨折がなくてもほぼ確実に骨粗鬆症と診断される。
同様に,
骨量の減少
(3
点)
,かつ血清カルシウム,リン,AL-P値が正常(1点)でスコ

アの合計4点であり,既存椎体骨折がなくてもほぼ確実に骨粗鬆症と診断される。このように,既存椎体骨折がなくとも骨粗鬆症と診断されるのであって,増悪椎体骨折を抑制することがPTH投与による骨粗鬆症治療において当然に予定されている事項とはいえな
い。



増悪椎体骨折が発生する前の既に骨折が発生した骨(Grade
1以上)は,新規椎体骨折が発生する前の骨(Grade0)と比べて,骨の組織が脆弱になり,また更なる圧潰を生じやすい状態になるので,当然ながら新規椎体骨折と増悪椎体骨折はその疾病の質や病態が異なっている(甲93)



相違点1は対象患者を特定した要件であるのに対して,相違点2
は用途を特定した要件であり,実質的に同じであるはずがない。骨折により脆弱化した椎体の更なる骨折を抑制できるか否かについ
て,当業者は,何ら確認試験を行わずに,甲7発明の骨粗鬆症治療剤が増悪椎体骨折を適切に抑制できるとは考えない。



原告が指摘する甲30文献や甲31文献の記載は,単に,新規椎
体骨折と増悪椎体骨折を区別する必要があることを述べているに
すぎず,これらの記載をもって,既存椎体骨折を有する患者に対して増悪椎体骨折予防のための骨粗鬆症治療を行うことを,当業者が当然に予定していることにはならない。むしろ,新規椎体骨折と増悪椎体骨折とを区別する必要があるということは,新規椎体骨折を
抑制する効果と増悪椎体骨折を抑制する効果とが異なることの証
左といえる。
c
甲93文献について
原告が指摘するように,増悪椎体骨折の判断基準は椎体の変形程度
に関するGradeの変化を基準とするものであり,甲93文献にGradeに関する記載はないが,甲93文献には,骨折した後の骨に関する考察が述べられているから,少なくとも,新規椎体骨折が発生する前の正常な骨に関する考察でないことは明らかであり,甲93文献に記載された組織学的な変化が増悪椎体骨折に関するものでは

ないということにはならない。
むしろ,

骨粗鬆症による骨の脆弱性と骨形成能の低下を基盤とし,反復して骨折椎体が小さな外傷を受ける結果,骨折治癒過程が障害される。そして,椎体内が次第に壊死組織や結合組織で置換され,椎体圧潰が進行する

との甲93文献の記載(77頁)は,一度骨折した椎体にこそ当てはまる記載である。
d
甲15の1文献,甲57文献及び甲98文献について
甲15の1文献のフォルテオでは増悪椎体骨折抑制効果が確認されているが,用法用量が変わった場合には効果も変わるとみるのが自然であるところ,甲15の1文献に記載されているのは,甲7とは用法用量の異なる20μg連日投与である。
しかも,
甲15の1文献には,
この海綿骨の骨微細構造の改善は,腰椎及び大腿骨頸部のBMD増加と相関している骨吸収抑制薬と比べてBMD増加と骨折予防効,果の関連性が大きいと記載されているにすぎず,(76頁)
,骨微細
構造をより正常な状態に改善させる効果によって骨折抑制効果が生じたとまでは理解できない。したがって,BMDの増加しか開示されておらず,いまだ骨折抑制効果が確認できず,さらに用法用量も異なる
甲7発明の治療剤について,甲15の1文献の記載を根拠に,BMDの増加効果のみで骨折抑制効果が期待できるとすることには無理がある。ましてや,増悪椎体骨折抑制効果が期待できるともいえない。甲57文献及び甲98文献に記載された治療剤は,20μg連日投与(約67単位に相当,1週間で469単位)又は40μg連日投与
(約133単位に相当,1週間で931単位)のものであり,200単位週1回投与の甲7発明の治療剤とは用量用法が大きく異なり,これらに記載された知見をそのまま甲7発明に適用することは適切ではない。さらに,甲57文献の試験の主要評価項目は新規椎体骨折発生率であり(5頁,18頁)
,増悪椎体骨折発生率の評価は,
この試験では,新規および増悪椎体骨折はあらかじめ指定されたエンドポイントではなかったが,このセクションに記載されている他の変数と同様に,この変数についてもデータが収集された。この結果が他の骨粗鬆症薬で報告されてきたため,今回の評価者はこれを検討することに決めた。(21頁)と記載されているとおり,当初予定されていなかったものにすぎない。
また,甲57文献には,増悪椎体骨折の方が新規椎体骨折よりも抑
制し難い結果が示されている。
すなわち,
骨折の相対リスク減少率
(R
RR)
を算出すると,
20μg連日投与の場合,
増悪椎体骨折が33%
(1-3%/4.5%)
なのに対し,
新規椎体骨折と増悪椎体骨折を併
せたものが61%
(1-6.5%/16.5%)40μg連日投与の場

合,増悪椎体骨折が56%(1-2%/4.5%)なのに対し,新規椎
体骨折と増悪椎体骨折を併せたものが65%(1-5.8%/16.5%)となっている(表16)
。新規椎体骨折も合わせて評価した方が
RRRが高いということは,新規椎体骨折を抑制する効果が高く増悪椎体骨折を抑制する効果の方が格段に低いこと,要するに,新規椎体骨折と比べて増悪椎体骨折は抑制し難いということを意味する。

(ウ)

容易想到性の主張について
以上からすると,甲7発明に接した当業者が相違点2の構成を容易に
想到することができたとはいえない。

発明の効果について
(ア)

判断枠組み
予測できない顕著な効果は,本件発明の構成が奏するものとして当業
者が予測することができなかったものか否か,当該構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超えるか否かを検討するものであり,引用発明との対比によらなければならないというものではない。引用発明と対比して検討するとしても,引用発明の効果が不明な場合や直接の比較が困難な事情がある場合等には,技術水準を参酌して本件発明の効果が予測し得たものか,顕著なものかを評価することも許容されるものである。
甲7発明は増悪椎体骨折の抑制について確認をしていないから,その増悪椎体骨折抑制効果は不明である。そうすると,まず,そのこと自体からして,本件発明の効果は発明の構成が奏するものとして当業者が予測することができなかったものといえる。
そうでないとしても,用法用量が異なるとはいえ,増悪椎体骨折の抑制効果が示されている甲57文献や甲98文献から認識される技術水準を参酌した上で,本件発明の治療剤の奏する増悪椎体骨抑制効果を当業
者が予測し得ない優れた効果を奏するものであると認定することは何ら不合理なものではない。
(イ)

本件発明の効果
本件発明の予想できない顕著な効果は,①増悪椎体骨折抑制効果は新
規椎体骨折抑制効果よりも低いと予測されるところ,本件発明の構成による増悪椎体骨折の相対リスク減少率(RRR)が新規椎体骨折抑制効果と同等以上であること(以下効果①という。,②本件発明の構成)
による増悪椎体骨折のRRRが連日投与のフォルテオのRRRと比較して予想外に高いこと(以下効果②という。,③増悪椎体骨折抑制効)
果が,
PTH連日投与から想定されるBMD増加率から予測できないか,
又は本件発明の構成から想定されるBMD増加率から予測されるものよりも高いこと(以下効果③という。
)である。
以上の効果①ないし③は,甲7文献をはじめ,いかなる文献からも予測できなかったものであり,本件出願当時の技術水準からは予測できない顕著な効果である。

(ウ)
a
効果①について
本件明細書の記載について
(a)

本件明細書において,
PTH週1回投与について,
本件3条件の

全てを満たす患者(高リスク患者)と,本件3条件の全部又は一部を満たさない患者(低リスク患者)とを比較した試験結果が,PTH100単位週1回投与の試験で示されている
(実施例1)そして,

高リスク患者では,低リスク患者と対比して,骨折抑制効果に優れ
ることの結果も示されている(
【表6】【表7】【0086】。本件



明細書の実施例2は,この100単位週1回投与の高リスク患者での顕著な骨折抑制効果を200単位週1回投与について実証した
という関係になる。実施例2では,低リスク患者は試験の対象とされていないが,実施例1と実施例2とは,100単位と200単位
との用量の相違にすぎないので,実施例2に低リスク患者を対象に含めた試験データの記載がなくとも,実施例1の結果からみて,200単位週1回投与についても高リスク患者に対して顕著な効果
を奏することは十分に推論できる。
なお,本件発明においては,5単位投与群はプラセボ相当の対照

群として扱っているから,5単位投与群において,低リスク患者の方が高リスク患者よりも骨折発生率が低くなるのは,骨折をしやすい者を高リスク患者として定義付けている以上,骨折をしにくい者の骨折発生率が骨折をしやすい者の骨折発生率よりも低いという
当然の結果が示されたにすぎない。



実施例1の低リスク者かつ100単位投与群の例数が1
1例であっても,その結果を偶然とする根拠はないし,本件3条件を満たさない類型が種々あり,その全ての類型についての試験結果がないとしても,それら類型には本件3条件を満たさないという共
通点はあるし,
たとえ本件条件
(1)
だけの相違しかないとしても,
高リスク者と低リスク者として相違するものであることに変わり
はない。したがって,比較対象となる低リスク者の例が一つでもあればよく,あらゆる類型の低リスク者と対比した試験結果がなければならないものではない。


本件明細書(
【0118】【表20】

)では,本件3条件を全て満
たす患者に200単位を投与した際に顕著な効果が奏されること

が実際に確認できたとしているから,実施例1から増悪椎体骨折抑制効果を推論する必要はない。


顕著な効果の判断においては,本件発明の効果の程度が,本件発
明の構成から当業者が予測することができた範囲の効果を超える
顕著なものであるか否かを判断するところ,発明の構成から予測で
きた範囲として,新規椎体骨折抑制効果を用いて,本件発明の増悪椎体骨折抑制効果を評価することに何ら問題はない。また,新規椎体骨折抑制効果と同等以上に増悪椎体骨折抑制効果が高いとする
ことを顕著な効果として主張するに当たり,本件明細書に新規椎体骨折抑制効果と同等以上に増悪椎体骨折抑制効果が高い骨粗鬆症

治療剤を実現するとの課題を記載する必要はない。なお,増悪椎体骨折抑制効果,
新規椎体骨折抑制効果は,
それぞれ,
本件明細書
【表
20】【表34】に記載されている。

b
甲7発明から予測される効果の主張について
(a)

増悪椎体骨折が発生する前の既に骨折が発生した骨(Grad

e1以上)は,新規椎体骨折が発生する前の骨(Grade0)と比べて,骨の組織が脆弱になり,また更なる圧潰を生じやすい状態になるので,当然ながら新規椎体骨折と増悪椎体骨折はその疾病の質や病態が大きく異なっている。したがって,増悪椎体骨折の抑制は新規椎体骨折の抑制よりも困難とみるのが自然であり,PTHの作用は同じであったとしても,PTHの骨折抑制効果は,新規椎体骨折と増悪椎体骨折とでは当然異なるものとみるのが自然である。そして,骨粗鬆症患者に対する治療剤の骨折抑制効果に関し,新規椎体骨折の抑制効果よりも増悪椎体骨折の抑制効果が高まるとい
う技術常識は無く,むしろ,前記イ(イ)dのとおり,フォルテオの増悪椎体骨折抑制試験では,新規椎体骨折を抑制する効果に比べて,増悪椎体骨折を抑制する効果が格段に低いことが知られていた。したがって,本件発明の構成からは,増悪椎体骨折抑制効果は新規椎体骨折抑制効果よりも低いと予測される。しかしながら,本件発明は,本件3条件の全てを満たす患者における増悪椎体骨折について
のRRRは83%であり(本件明細書【表20】,しかも,その効)
果が投与24週後という早期から発現している一方で,本件発明の新規椎体骨折及び増悪椎体骨折についてのRRRは79%である
から
(本件明細書
【0133】,
)本件発明は,
増悪椎体骨折に対し,
新規椎体骨折に対するものと同等以上の骨折抑制効果がある。この
ような効果は本件発明の構成から当業者が予測することができた
範囲の効果を超える顕著なものである。
また,原告が指摘する甲103文献の記載(60頁)は,100
単位週1回投与又は200単位週1回投与であれば20μg(約67単位に相当)連日投与よりも総投与量を抑えることができるので
効率が良い,といった意味でしかない。甲103文献には骨量に対して連日投与と同程度の効果が期待できる週1回投与は,・・・(60頁)との記載もあり,甲7発明の200単位週1回投与が20μg連日投与と対比して,より優れた骨折抑制効果が合理的に期待されていたものではないし,
週1回投与においても骨折抑制効果が十分期待できると考える
(61頁)との記載も,当該記載に続
けて,
PTH週1回投与での骨折抑制効果を証明することが,今後の可及を要する開発会社の大きな使命と考えていると記載されていることからみて,単なる開発会社の期待感を記載したものにすぎない(甲95)



本件明細書には,試験結果を絶対リスク減少率で評価すべきとの
記載はないし,
【表20】についても,相対リスク減少率で評価して

はならないなどと記載されておらず,むしろ,
【0132】では相対
リスク減少率(RRR)で評価した上での考察が記載されている。さらに,骨粗鬆症における骨折抑制効果を評価する場合は相対リスク減少率で評価することが慣例となっている(甲104の78頁の表45,80頁の表46,82頁の表47,94頁の表52,96
頁の表53のそれぞれ骨折の項の成績の欄参照)
。したがっ
て,本件発明の効果は,当業界の慣例に従って,相対リスク減少率で評価する方が適切である。
そして,
【表20】に示されるように,プラセボ投与群では281
例中6例に増悪骨折が生じたところ,PTH群では261例中1例
にしか増悪骨折が生じなかったのであり,十分に増悪椎体骨折が抑えてられている。
【表20】
における母数は各二百数十人と十分な症
例数の評価であるから,症例数を更に増やしても同様の傾向となることは合理的に推認できる。
c
甲99証明書について
(a)

実験成績証明書の参酌の可否
本件明細書には,骨折抑制効果に関し,本件3条件についての具

体的な対比データ自体は記載されていない。しかしながら,試験データ自体が常に明細書に記載されていることが必要とされるので
はなく,明細書において,効果を認識し,これを推論できる記載がある場合には,出願後に実験成績証明書を提出してその効果を説明することは許容されている。
甲99証明書で示されるGrade3への増悪椎体骨折抑制効果
(RRRは73%)は,本件明細書【表20】に記載の増悪椎体骨折全体の抑制効果を構成する一部であり,本件明細書に記載された効果である。より具体的には,本件明細書【0047】には,
Grade1からGrade2または3,Grade2からGrade3への変化が認められた場合には増悪骨折とみなすことができる。さらにGradeの変化を正確に判断するために,Aら(非特許文献35)の方法,およびBら(非特許文献36)の方法に従って,椎体高の計測を行った。との記載があり,実施例2における【表2
0】の解析は,Grade3への変化を含めた増悪椎体骨折全体の評価(Grade1からGrade2若しくはGrade3への変化,又は,Grade2からGrade3への変化)を行ったものである。ここで,Grade3への変化は,増悪椎体骨折の中でも症状が重いものであるから,Grade3への変化を抑制すること
が,増悪椎体骨折抑制の主たる投与目的であり,すなわち,これを抑制することは,増悪椎体骨折抑制の中核をなすものである。そうすると,甲99証明書は,
【表20】に含まれるGrade3への変
化についての解析を報告したものであるから,Grade3への増悪椎体骨折抑制効果に関し,当業者において発明の効果を認識でき
る程度の記載が本件明細書にある場合に相当する。
よって,甲99証明書を参酌することは許されるというべきであ
る。

甲99証明書に記載された効果
本件明細書【表20】に記載のデータは,全ての増悪椎体骨折の
抑制について評価したものであるが,この中からGrade3への増悪椎体骨折に限って再解析した甲99証明書に従ってGrad
e3への増悪椎体骨折の抑制効果を計算すると,その相対リスク減少率は,73%となる。
(エ)
a
効果②について
甲57文献について
甲57文献の表16において,
増悪椎体骨折の相対リスク減少率
(R
RR)を算出すると,連日投与のフォルテオの同RRRは,20μg投与群について33%であり,40μg投与群について56%であるところ
(前記イ(イ)d参照)本件発明の増悪椎体骨折のRRRは前記

のとおり,83%であり,相当程度優れており,予想外に高い効果で
ある。
同じ患者群である高リスク患者群の中でPTH投与群とプラセボ投与群とを対比して骨折抑制効果を評価し,同様にして,骨折の高リスク患者に限定しない患者群においても骨折抑制効果を評価し,その上で,両者の効果を比較するのが正しい評価方法であるから,高リスク
患者のプラセボ投与群と高リスク患者に限定しない患者群のプラセボ投与群との間での骨折発生率の大小を論じても意味はない。
b
甲98文献について
甲98文献においてGrade3への増悪椎体骨折に限ったその相
対リスク減少率(RRR)を算出すると,20μg連日投与群では62%,40μg連日投与群では48%である。しかも,投与量を増量した40μg連日投与群のRRRの方が低くなっており,かえって効果が低減したことが理解できる(甲98文献の4032頁左欄8ないし26行目,図3)


このように,甲98文献の報告から,PTHのGrade3への増悪椎体骨折の抑制効果は,40μgに増量するとかえって効果が低減することが公知であったと認められるから,用量のより高い200単位である本件発明のGrade3への増悪椎体骨折のRRRは,40μg連日投与の場合の48%よりも更に低くなると予想されるところ,かえって,本件発明は,40μg連日投与の場合よりも格段に増強された73%となっており,その効果は,本件発明の構成から当業者が
予測することができた範囲の効果を超える顕著なものである。
(オ)

効果③について
甲57文献において,20μg連日投与群での投与後12か月後と2
1か月後のプラセボ投与群に対する腰椎BMDが7.5%ないし8.8%増えた際(表7)の,約19か月後と推察される時期(5頁)の増悪椎体骨折の相対リスク減少率(RRR)は33%となっており,40μg連日投与群では,
同様に,
腰椎BMDが11.1%ないし13.3%増えた
際(表7)のRRRが56%となっている(前記イ(イ)d参照)。
本件発明においてPTH週1回投与の構成は甲7発明と同様であり,
甲7文献には,対象患者についてサブ群解析したところ,年齢や骨折既往等によって患者を切り分けても応答(骨密度の増加)がサブ群間で同様であった旨の考察が記載されており,用量による変動はないものといえる。そこで,被告が主張するように,BMD増加率と増悪椎体骨折抑制効果とが関係するとして,腰椎BMD増加率とRRRをそれぞれXY
軸にとった平面上に,20μg連日投与群と40μg連日投与群をあてはめて,それらを結んだ回帰線を引くと,BMD増加率が8.1%である甲7発明の増悪椎体骨折のRRRは,別紙5のとおり,30%程度になると予測される。
一方,本件発明は,増悪椎体骨折のRRRは前記のとおり83%と極
めて高い一方で,プラセボに対する腰椎BMD増加率は,24週後で3.1ないし3.6%程度,48週後で4.0ないし5.9%程度,72週後で5.9ないし6.7%と低く(本件明細書【表26】,その結果を上記X)
Y平面にあてはめると,上記回帰線から大きく外れた場所に位置する。(カ)

まとめ
以上からすると,本件発明は予測できない顕著な効果を奏するものと
いえる。


小括
以上のとおり,相違点1及び2は当業者において容易に想到できるものではなく,本件審決の判断には,誤りはない。

第4
当裁判所の判断

1
本件発明について
本件明細書(甲118)には,別紙1本件明細書の記載事項(抜粋)のとおりの記載があり,この記載によると,本件発明について,次のような開示があると認められる。


技術分野
本件発明は,
PTH
(ParathyroidHormone:パラサイロイドホルモン〔副甲
状腺ホルモン〕
)を有効成分として含有する骨粗鬆症の治療剤ないし予防剤に
関するものであり,また,PTHを有効成分として含有する骨折抑制ないし予防剤に関するものである(
【0001】【0018】。



背景技術
骨粗鬆症は,骨強度の低下を特徴とし,骨折のリスクが増大している疾患であり,治療剤の1つとしてPTH製剤が知られている(
【0002】。

従来技術として,1週間に1回の頻度で26週間の投与期間にわたり,1回の投与当たり100又は200単位のPTHを皮下投与する骨粗鬆症の治療方法があるが,この方法が,骨強度を増大させること又は骨折のリス
クを軽減させることが可能な治療方法であるか否かについては明示されていない(
【0004】【0005】。


また,従来技術として,PTHを連日投与するものがあるが,高カルシウム血症の副作用事例等があり,安全性の面から十分ではないことから,安全性が高くかつ効能・効果の面で優れたPTHによる骨粗鬆症治療方法が求められていた(
【0006】ないし【0009】。



発明が解決しようとする課題
本件発明の課題は,安全性が高くかつ効能・効果の面で優れたPTHによる骨粗鬆症治療ないし予防方法を提供すること,さらに,安全性の高いPTHによる骨折抑制ないし予防方法を提供することである(
【0012】。



課題を解決するための手段等
前記課題を解決するため,PTHの投与量・投与間隔を限定すること,具体的には1回当たり100ないし200単位のPTHを週1回投与することにより,効能・効果及び安全性の両面で優れた骨粗鬆治療ないし予防方法となること並びに安全性の高い骨折抑制又は予防方法となることが見出され,それらの方法において,骨折の高リスク者に対して特に効果を奏するこ
とが見出された(
【0013】【0015】【0018】【0034】【00




35】。

本件発明に係る椎体骨折は新規骨折及び増悪骨折のいずれをも含むが,新規・増悪の区分はGenantの判定基準に従い,Grade0(正常)からGrade1(椎体高約20~25%減少,かつ,椎体面積10~20%
減少)
,Grade2(椎体高約25~40%減少,かつ,椎体面積20~40%減少)
,又はGrade3(椎体高約40%以上減少,かつ,椎体面積40%以上減少)への変化が認められた場合には新規骨折と診断され,Grade1からGrade2若しくはGrade3,又は,Grade2からGrade3への変化が認められた場合には増悪骨折とみなすことができる

【0047】。

骨粗鬆症における骨折の危険因子としては,年齢,性,低骨密度,骨折既往,喫煙,アルコール飲酒,ステロイド使用,骨折家族歴,運動,転倒に関連する因子,骨代謝マーカー,体重,カルシウム摂取などが挙げられるところ,本件発明においては,
(1)年齢が65歳以上である,
(2)既存骨折が
ある,
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,及び/又は,骨萎縮度が萎縮度I度以上であるとの3条件を満たす骨粗鬆症患者を高リスク患者として定義する(【0068】。



実施例1
退行期骨粗鬆症(閉経後骨粗鬆症及び老人性骨粗鬆症)
,特発性骨粗鬆症
(妊娠後骨粗鬆症,若年性骨粗鬆症など)が例示される原発性骨粗鬆症の男女の患者を,高リスク患者及び低リスク患者(高リスク患者ではない患者)
に区分して,それぞれ,
5あるいは100単位のPTH製剤であるテリパ
ラチド酢酸塩をそれぞれ週に1回間欠的に皮下投与した【0037】(

【00
77】【0079】。


高リスク患者においては,
100単位投与群は,
5単位投与群に比
べ,有意に高い骨密度の増加,有意に低い新規椎体骨折発生,及び,有意に
低い椎体以外の骨折発生が認められ,テリパラチド酢酸塩の週1回100単位投与は,高リスク患者に対し,有用な骨粗鬆症治療剤及び骨折抑制ないし予防剤となり得ることが確認されたが,低リスク患者においては,骨密度,
新規椎体骨折発生及び椎体以外の骨折発生のいずれについても,
100単位投与群と5単位投与群との間で有意差は認められなかった(【00

83】ないし【0094】【表4】ないし【表11】。


投与期間中,いずれの投与量においても高カルシウム血症の発症はなかった(
【0095】【図1】。



実施例2
原発性骨粗鬆症と診断された男女の高リスク患者に対して,テリパラチド酢酸塩200単位
(披験薬)又はプラセボ(対照薬)を,72週間,週1
回,皮下投与した(
【0098】。

投与72週後における被験薬投与群と対照薬投与群それぞれにおける椎体多発骨折(新規の2箇所以上の椎体骨折)の発生比率(例数)を比較したところ,対照薬投与群は2.1%(6例)
,被験薬投与群は0.8%(2例)で
あり,被験薬は椎体多発骨折に対して抑制ないし予防効果を有することが示された(
【0109】【表12】。また,増悪骨折に対しても被験薬は有効で,

ある(
【0118】【表20】。


半年ごとの新規椎体骨折発生率は,プラセボ投与群では,いずれの区間も約5%でほぼ一定であるのに対し,PTH200単位投与群では,投与期間
が長くなるにつれて区間毎の発生率が低下しており,48週を超えてからは新規椎体骨折は発生しておらず,また,PTH200単位投与群の新規椎体骨折発生率は,24週以内,24週ないし48週,48週ないし72週のいずれの区間でもプラセボ投与群より低く,プラセボに対する相対リスク減少率(RRR)は投与を継続するにつれて増加しており,PTH200単位週
1回投与は,新規椎体骨折の発生を早期から抑制し,24週後には既に骨折発生リスクをプラセボに対して53.9%低下させ,
さらに,
その骨折抑制効
果は,投与とともに増強する傾向が認められた(
【0131】【0132】


【表34】【表35】。


骨折試験のFAS(判決注

FullAnalysisSet:最大の解析対象集団)

において,Kaplan-Meier推定法による72週後の椎体骨折(新規+増悪)発生率は,PTH200単位投与群3.5%,プラセボ投与群16.3%であり,
PTH200単位投与群の発生率はプラセボ投与群より低く
(logrank検
定,p<0,0001)
,200単位の投与は,72週後には,椎体骨折(新規+増
悪)の発生リスクをプラセボに比べて78.6%低下させており,さらに,半
年毎の椎体骨折(新規増悪)発生率を群間で比較すると,24週以内,24週~48週,48週~72週のいずれの区間でも,PTH200群の発生率はプラセボ投与群より低かつた(
【0133】。

2
取消事由3-1(本件発明1の進歩性に関する判断の誤り)及び3-2(本件発明2の進歩性に関する判断の誤り)の有無について
本件では,本件発明について,明確性要件及び実施可能要件の充足の有無(取消事由1及び2)が争われているところではあるが,事案に鑑み,取消
事由3-1及び3-2から,まず判断する。


甲7発明
甲7文献には,別紙2甲7文献の記載事項(抜粋)のとおりの記載がある(訳は乙2による。。この記載によると,本件審決が認定するとおりの甲)
7発明を認定することができ,この点は,当事者間にも争いがない。
なお,甲7発明の厚生省による委員会が提唱した診断基準とは,厚生省シルバーサイエンス骨粗鬆症研究班の定める退行期骨粗鬆症の診断基準(1989年)(甲8,78)(以下1989年診断基準という。)である
(甲75)



相違点1の構成の容易想到性について

本件基準日(平成22年9月8日)における骨粗鬆症に関する技術常識について
(ア)

下記文献には,以下に引用する記載がある。

a
退行期骨粗鬆症の診断
(1990年。甲8)


本症の発生頻度は加齢とともに増加するので,本症は骨の生理的加齢現象にすぎないと考える人もあるが,そうではない。加齢に伴い,生理的にも骨のなかの蛋白およびCa,Pが減少するが,このような骨の生理的加齢を基盤に,さまざまな要因が加わって発症し,腰背痛や,病的骨折を伴うものを骨粗鬆症とよぶべきである。(288頁左欄13ないし18行目)



骨粗鬆症の骨病変は通常胸椎および腰椎に認められるので,退行期骨粗鬆症の診断にさいしてまず必要なことは,胸椎および腰椎の側面X線写真撮影を行うことである。ついでこの胸椎および腰椎の側面X線写真を用いて骨密度の減少あるいは圧迫骨折の有無をチェックする。・・・胸椎・腰椎の骨密度の減少を判定する方法としては慈恵大の方式が一般に用いられている。骨粗鬆症ではまず椎体の密度が減少するために椎体のX線透過度が増大し,ついで縦の骨梁がめだつようになり,さらに進行すると上下面が陥没し・・・ついには椎体が崩れて圧迫骨折の像を呈するに至る。慈恵大方式では,このような骨X線像をもとにして骨粗鬆症の程度をI~Ⅲ度に分類している。・・・最近,厚生省骨粗鬆症研究班では,これをより簡略化したものとして表2に示すような骨萎縮度の基準を提唱しており,今後はこの方法が広く用いられることが期待される。(288頁右欄7行ないし289頁左欄17行目)③

表2骨萎縮度の基準Ⅰ度縦の骨梁がめだち,また椎体終板もめだつ。Ⅱ度縦の骨梁が粗となり,また椎体終板も淡くなる。Ⅲ度縦の骨梁が不明瞭となり,全体としてぼやけた感じを示す。

(289頁)



1988年度から,厚生省シルバーサイエンスプロジェクトとして「老人性骨粗鬆症の予防および治療法に関する総合的研究班(班長:C)が結成されたが,この研究班ではこのような立場から本症において認められる自・他覚所見をスコア化し,そのスコアに応じて,①確実,②ほぼ確実,③疑いあり,④否定的,の4つに分
類する診断基準を提唱している(表3)(290頁左欄20ないし」
26行目)


表3退行期骨粗鬆症の診断基準1)骨量の減少(+)3確実合計5点以上2)骨折あり脊椎1個1≧2個2大腿骨頚部3橈骨ほぼ確実1合計4点疑いあり合計3点否定的3)女性55歳未満-1男性75歳未満4)年齢-1腰背痛あり1合計2点以下除外疾患…5)血清カルシウム,リン,AL-P値正常11項目の異常02項目以上の異常-1・・・(289頁)
b
原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年度改訂版)(2001
年。甲9,35)
表1Ⅰ原発性骨粗鬆症の診断基準(1996年度改訂版)X線上椎体骨折を認める場合低骨量(骨萎縮度Ⅰ度以上,あるいは骨密度値が若年成人平均値(YAM)の80%以下)で非外傷性椎体骨折のある症例を骨粗鬆症とする。ⅡX線上椎体骨折を認めない場合脊椎X線像骨密度値正常骨萎縮なし骨量減少骨萎縮度Ⅰ度YAMの80~70%骨粗鬆症骨萎縮度Ⅱ度以上YAMの70%未満YAM:若年成人平均値(20~44歳)(注)骨密度値は原則として腰椎の骨密度値とし,腰椎骨密度値評価が困難である場合にのみ橈骨,第二中手骨,大腿骨頸部,踵骨の骨密度値を用いる。骨萎縮とはradiographicosteopeniaに相当する。・・・(77頁。以下,この表1原発性骨粗鬆症の診断基準(1996年度改訂版)に係る診断基準を1996年診断基準という。

c
骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年版9ないし12頁,22ないし83頁,93ないし102頁,110ないし113頁,120ないし141頁(2006年。甲104)


用語解説・・・椎体の骨折脆弱性骨折(fragilityfracture)低骨量(骨密度が若年成人平均値の80%未満,あるいは椎体エックス線写真で骨粗鬆化がある場合)が原因で,軽微な外力によって発生した非外傷性骨折。骨折部位は椎体,大腿骨頸部,橈骨遠位端,その他。臨床骨折(clinicalfracture)腰背部痛などの臨床的に明らかな症状があり,エックス線写真により骨折が確認されたもの。形態骨折(morphometricfracture)臨床症状の有無とは無関係にエックス線写真により椎体変形の程度により判定される骨折。既存骨折(prevalentfracture)ある特定の一時点におけるエックス線写真での椎体の変形の程度により判定される骨折。新規骨折(incidentfracture)二つの時点におけるエックス線写真を比較し椎体の形態変化の程度により新たに判定される骨折。(12頁)


骨粗鬆症は,骨量の減少と骨質の劣化により骨強度が悪化して骨折のリスクが増加しやすいことが特徴的な骨疾患と定義される。骨強度低下の最大の原因は閉経に伴うエストロゲンの急激な減少であり,骨量を急激に減少させるとともに,骨微細構造も劣化させ,骨強度を低下させる(閉経後骨粗鬆症)・・・本疾患の主な臨床症。候は,脆弱性骨折とこれに続発する機能障害や慢性疼痛である。骨折は椎体,前腕骨遠位部,大腿骨頸部,上腕骨近位部,肋骨などの部位で生じやすい。・・・最も頻度の高い骨折は椎体骨折であり,わが国では70歳代前半の25%,そして80歳以上の43%が椎体骨折を有しているという。しかも70歳以降では,その半数以上は複数個の骨折を有している。この骨折の特徴は,2/3以上は無症状であること,そして次々と周囲椎体の骨折連鎖を引き起こすことである。(13頁左欄1ないし26行目)③

椎体骨折の好発部位はTh12,L1を中心とした胸腰椎移行部が最も多く,Th7を中心とした中位胸椎がそれに続く。骨折が起きると,他の部位の骨折と異なり,椎体変形が残存する。(13

頁右欄10ないし13行目)
④椎体変形の半定量評価法(semiquantitative〔SQ〕assessment)はどのように行うか椎体を,正常(grade0),軽度変形(grade1),中等度変形(grade2),高度変形(grade3)に視覚的に分類する92)(図10)。(2

3頁)


文献・・・92)GenantHK,・・・,etal.Vertebralfractureassessmentusingasemiquantitativetechnique,JBoneMinerRes1993;8:1137-48(123頁右欄)

(23頁)



骨量測定方法の進歩と普及を背景に,1991年の国際骨粗鬆症会議において,骨粗鬆症は低骨量と骨組織の微細構造の破綻によって特徴づけられる疾患であり,骨の脆弱性亢進と骨折危険率の増大に結びつく疾患と定義された。この定義に従った診断基準がわが国でも整備され,1996年の日本骨代謝学会診断基準をもとに,2000年に改訂版が作成されて今日に至っている(表21)。(3
1頁左欄3ないし10行目)


表21原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年度改訂版)低骨量をきたす骨粗鬆症以外の疾患または続発性骨粗鬆症を認めず,骨評価の結果が下記の条件を満たす場合,原発性骨粗鬆症と診断する。Ⅰ脆弱性骨折Ⅱ骨密度値(注1)あり脆弱性骨折なし(注2)(注3)脊椎エックス線像での骨粗鬆化正常YAMの80%以上なし骨量減少YAMの70~80%疑いあり骨粗鬆症YAMの70%未満ありYAM:若年成人平均値(20~44歳)脆弱性骨折:低骨量(骨密度がYAMの80%未満,あるいは脊椎注1エックス線像で骨粗鬆化がある場合)が原因で,軽微な外力によって発生した非外傷性骨折,骨折部位は脊椎,大腿骨頸部,橈骨遠位端,その他。注2骨密度は原則として腰椎骨密度とする。…注3脊椎エックス線像での骨粗鬆化の評価は,従来の骨萎縮度判定基準を参考にして行う。脊椎エックス線像での骨粗鬆症従来の骨萎縮度判定基準なし骨萎縮なし疑いあり骨萎縮度Ⅰ度あり骨萎縮度Ⅱ度以上(31頁。以下,この表21原発性骨粗鬆症の診断基準(2000年度改訂版)に係る診断基準を2000年診断基準
という。



Ⅲ骨粗鬆症による骨折の危険因子・・・骨折の危険因子は,「骨密度低下骨質低下
外力(転倒など)
に影響を与える因子である。骨折高リスク患者を判定するには,骨密度測定に加えて,
骨質
外力に関連する危険因子を評価する
必要があり,骨密度とは独立した骨折危険因子が何であるかを知っておくことがポイントとなる。
年齢,性

・・・

低骨密度

・・・

骨折既往

・・・

喫煙

・・・

アルコール飲酒
・・・

・・・
(34頁)

⑩表22骨折の危険因子(メタアナリシス,システマティック・レビューによる結果〔エビデンスレベルⅠ〕のみ表示)危険因子文献低骨密度成績……骨密度とは独立既存骨折*……した危険因子喫煙*……飲酒*………………………(35頁)

現在,骨粗鬆症治療開始は骨密度を基準に行われているが,同じ骨密度を示していても年齢が高いほど,表22の危険因子*をもつほど,骨折リスクは高くなる。骨密度,年齢,危険因子を総合的に考慮に入れることで,骨折リスクの高い人をより効果的に判別できる。(35頁)⑫
表30骨粗鬆症治療についての基本的な考え方1.骨粗鬆症治療は骨折危険性を抑制し,QOLの維持改善をはかることを目的とする。2.脆弱性骨折予防のための薬物治療開始基準は,骨粗鬆症診断基準とは別に定める。3.わが国では骨折危険因子として,低骨密度,既存骨折,年齢に関するエビデンスがあり,WHOのメタアナリシスでは過度のアルコール摂取(1日2単位以上),現在の喫煙,大腿骨頸部骨折の家族歴が確定している。4.骨粗鬆症の薬物治療開始は上記の骨折危険因子を考慮して決定する。(53頁)⑬
新規骨折の定義は新規骨折を判定するには,基準となるエックス線写真とある期間経過後のエックス線写真を比較して行う。①エックス線椎体側面像で目視による半定量法により,以下のグレード分類を行う。(p.23,図10参照)グレード0:正常,椎体高の変化がほとんどないグレード0.5:境界グレード1:軽度変形,椎体高の変化が20~25%グレード2:中等度変形,椎体高の変化が25~40%グレード3:高度変形,椎体高の変化が40%以上経時的にエックス線を撮影し,椎体形態がグレード1以上増加した場合,新規骨折(incidentfracture)と判定。(59頁右欄11行ないし60頁左欄1行目)
d骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年版2ないし3頁

(2006年。甲60)
NIHコンセンサス会議では,骨粗鬆症の定義を「骨強度の低下を特徴とし,骨折のリスクが増大しやすくなる骨格疾患・・・に修正した。さらに,
骨強度は骨密度と骨質の二つの要因からなり,B
MDは骨強度のほぼ70%を説明するとした。残りの30%の説明要因を“骨質”という用語に集約し,その内容には,構造,骨代謝回転,微細損傷の集積,
骨組織のミネラル化などをあげた」
(2頁右欄27な

いし36行目)
(イ)

前記(ア)の各記載によると,
本件基準日当時の骨粗鬆症に関する技術

常識は,次のとおりである。
すなわち,①骨粗鬆症は,骨強度の低下を特徴とし,骨折の危険性が増大した骨疾患であり,その治療の目的は,骨折を予防し,QOL(qualityoflife)の維持改善を図ることである,②骨粗鬆症は,加齢とともに発生が増加する,③骨粗鬆症による骨折の複数の危険因子の中で,わが国では,低骨密度,既存骨折,年齢に関するエビデンスがある,④骨粗鬆症の診断基準に関して,1990年当時,厚生省シルバーサイエ
ンスプロジェクト老人性骨粗鬆症の予防および治療に関する総合的研究班により提唱された診断基準(1989年診断基準)があったが,1996年に診断基準が改訂され(1996年診断基準)
,その後,20
00年に更に改訂された
(2000年診断基準)⑤骨強度は骨密度と骨

質の2つの要因からなり,骨密度が骨強度のほぼ70%を,骨質が残りの30%を説明することが知られていたといえる。

本件3条件について
(ア)

甲7発明と本件発明1とは,
1回当たり200単位のPTH(1-34)又はその塩が週1回投与されることを特徴とするとの用量の点において一致するが,その投与の対象となる骨粗鬆症患者の範囲を一応異にする。
(イ)

甲7発明で投与対象とされた患者は,
前記⑴のとおり,
1989年診

断基準で骨粗鬆症と診断された患者であるところ,より新しい基準を参酌しながらその患者を選別することは,当業者がごく普通に行うことであるから,甲7発明に接した当業者が,甲7発明のPTH200単位週1回投与の骨粗鬆症治療剤を投与する対象患者を選択するのであれば,1989年診断基準とともに,より新しい,1996年診断基準又は2000年診断基準を参酌するといえる。
そして,前記ア(ア)b及びcのとおり,1996年診断基準で骨粗鬆症と診断される者は,①骨萎縮度I度以上又は骨密度値がYAMの80%以下の低骨量で非外傷性椎体骨折を有する者か,②X線上椎体骨折
を認めないが,骨萎縮度Ⅱ度以上,又は,骨密度値がYAMの70%未満である者であり,2000年診断基準で骨粗鬆症と診断される者は,③骨萎縮度Ⅱ度以上又は骨密度がYAMの80%未満の低骨量が原因で,軽微な外力による非外傷性椎体骨折等(脆弱性骨折)を有する者か,④脆弱性骨折がないものの,骨萎縮度Ⅱ度以上,又は,骨密度値がYAM
の70%未満の者である。
本件条件(2)及び本件条件(3)は,上記①と同じであるから(既存椎体骨折は非外傷性椎体骨折を含む。,当業者が甲7発明の2)
00単位週1回投与の骨粗鬆症治療剤を投与する骨粗鬆症患者を本件条件(2)及び本件条件(3)で選別するのには何ら困難を要しない。また,前記ア(イ)のとおり,骨粗鬆症は,加齢とともに発生が増加するとの技術常識があり,高齢者は加齢を重ねた者であるのは明らかであ
るところ,高齢者として65歳以上の者を選択するのは常識的なことであり,高齢者の医療の確保に関する法律32条でも65歳以上が高齢者とされている。したがって,これらを参酌し,骨粗鬆症による骨折の複数の危険因子として,低骨密度及び既存骨折に並んで年齢が掲げられていることに着目して投与する骨粗鬆症患者を65歳以上として,本件条
件(2)及び本件条件(3)に加えて本件条件(1)のように設定することはごく自然な選択であって,何ら困難を要しない。
そうすると,甲7発明に接した当業者が,投与対象患者を本件3条件を全て満たす患者と特定することは,当業者に格別の困難を要することではない。


被告の主張について
(ア)

被告は,前記第3の3⑵ア(イ)a及びbのとおり,本件3条件は,
層別解析により初めて,本件条件(1)ないし本件条件(3)を組み合わせるとPTHの骨折抑制効果が高いという新規な知見を得たことに基づくものであり,本件3条件は一般的な指標ではなく,甲7文献の開示事項からは導かれず,むしろ甲7文献にはサブグループ間で薬物に対する応答は同程度であった旨の記載があり,甲7発明から本件3条件を選択する動機付けは否定される旨主張する。
しかしながら,前記イにおいて判示したように,本件基準日における
技術常識に照らせば,甲7発明に接した当業者が投与対象患者を本件3条件を全て満たす患者とすることに格別の困難はない。また,本件3条件の組合せについても,客観的観点からその選択において格別なものである,あるいは,他の骨折リスク因子等も含めた様々な組合せが想定される中で本件3条件を組み合わせること自体に特別の意味合いがあると認めるに足りる証拠はない(被告が主張する層別解析は,後述するように,あくまで本件3条件の全てを満たす患者(高リスク患者)のグループと,本件3条件の全部又は一部を満たさない患者(低リスク患者)のグループのうちごく一部のグループとを比較するものにすぎず,また,その結果自体も被告主張の顕著な効果が認められると即断できるものではない。。

そして,確かに甲7文献には,別紙2のとおり,
年齢が64歳以下と65歳以上,体重が49㎏以下と50㎏以上,閉経後10年未満,10から20年,20年以上,および脊椎骨折が0,1および2箇所以上を有するサブグループに被験者を分類して比較したところ,サブグループ間で薬物に対する応答は同程度であった。との記載があることは認められるものの(300頁左欄11行ないし右欄6行目)
,当該記載は,上記
記載中の条件によってサブグループ化されたサブグループ間の薬物効果の比較について述べているにすぎず,当該記載により,甲7発明の投与対象患者をサブグループ化すること全般が阻害されるとはいえない。したがって,被告の上記主張は,いずれも採用することができない。
(イ)

また,被告は,前記第3の3⑵ア(イ)cのとおり,甲7発明におけ
る200単位投与群には,副作用が多発しており,200単位は副作用脱落率が高い用量と認識されているから,当業者はこれを試みない旨主張する。
確かに,別紙2のとおり,甲7文献には,PTH200単位週1回投与のH群の副作用発生率は42%であり,
72人のうち16人
(約22%)
が副作用により脱落していて,
副作用発生率及び副作用による脱落率は,
50単位を投与したL群(副作用発生率19%)及び100単位を投与したM群(副作用発生率19%)のいずれと比べても高いことが記載されており(表6)
,骨粗鬆症の治療は長期間にわたるため,臨床使用にお
いて患者の症状や治療継続意思に直接に影響する副作用が起こることは望ましくはないから(甲70ないし72,100)
,甲7文献の上記記載
に接した当業者は,この点に限っていえば,200単位の投与よりも100単位の投与の方がより適当であると認識することが考えられる。しかしながら,他方,甲7文献には,重篤な有害事象は認められないと記載されており(301頁左欄1行ないし右欄4行目)
,さらに,20

0単位の投与が腰椎骨密度を48週間後に8.1%増加させたこと,及び,
その増加の程度は,
100単位投与の3.6%,
及び,
50単位投与の0.
6%のいずれよりも高いことが記載され,PTHは腰椎骨密度を48週という比較的短期間で用量に依存して増加させる極めて有望なものと評価されている(300頁左欄11行ないし右欄6行目,301頁右欄5
行ないし303頁右欄23行目。有望とされた対象から200単位の投与のみが排除されているとは理解し難い。。そして,前記ア(イ)のとお)
り,骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予防することであるところ,骨密度が低いことは,既存骨折,年齢とともに,わが国でエビデンスがある骨折危険因子であり,骨密度は骨強度のほぼ70%を説明するとの技術常
識がある。
以上によれば,甲7文献に接した当業者は,200単位週1回投与と100単位週1回投与とを対比した場合に,副作用の面と効果の面を総合考慮して,いずれを選択するか判断するものと考えられ,200単位週1回投与がその選択が排除されるほど劣位したものと見られるとはい
えず,これを選択することもまた十分に動機付けられているというべきである。
したがって,被告の上記主張は,採用することができない。
(ウ)

さらに,被告は,前記第3の3⑵ア(イ)dのとおり,PTH製剤が
高齢者には効きにくいということは技術常識であったから,PTH製剤を高齢者に特に使用しようとする積極的な動機付けは生じない旨主張する。
被告は,関係文献(乙29)を挙げて,PTH製剤が高齢者には効きにくいということは技術常識であるとするが,フォルテオ皮下注キット600μgフォルテオ皮下注カート600μg「2.7.3臨床的有効性の概要(乙29)における記載(213頁)として,プラセボ投」
与群,テリパラチド20μg投与群(連日投与)及びテリパラチド40μg投与群(連日投与)に分けてフォルテオを投与をした際の新規椎体骨折発生率の結果が示されているところ,
65歳以上75歳未満の患者,
及び,75歳以上の患者いずれに対しても,テリパラチド投与群における椎体骨折発生率は,プラセボ投与群の椎体骨折発生率より低くなって
いるから,これらの記載をもって,フォルテオが高齢者,すなわち65歳以上の患者に効きにくいなどとはいえない。
また,被告は,20μg投与群又は40μg投与群のプラセボ投与群に対する骨折相対リスク減少率は,患者が75歳以上の場合には,65歳以上75歳未満の場合よりも低くなっている旨を指摘するが,75歳
以上の患者群の骨折相対リスク減少率が65歳以上75歳未満の患者群の骨折相対リスク減少率よりも低いとしても,それは,投与対象を75歳以上の高齢者とすることの動機付けの有無の問題にはなるとしても,投与対象を65歳以上の高齢者とすることの動機付けには何らの影響を与えない。

したがって,上記各文献をもって,200単位のPTH製剤を65歳以上の高齢者に投与することが妨げられ,動機付けが生じないとはいえない。
(エ)

そのほか被告がるる主張するところも,前記イの判断を左右するも
のではない。

相違点2の容易想到性について

本件基準日(平成22年9月8日)時点の骨粗鬆症における椎体骨折に関する技術常識について
(ア)
a
下記文献には,以下に引用する記載がある。
甲32の1文献
以下の表で,半定量視覚評価グレードと椎体の高さ変化との関係を概説する。グレード骨折重症度定義0正常椎体の前方,中央,および/または後方の高さの<20%の減少1軽度20-25%の減少2中程度25-40%の減少3重度>40%の減少注釈:・・・新しい椎体骨折の基準を満たすためには,ベースライン時のグレード0からエンドポイント時のグレード1,2,または3に(少なくとも1つの椎体の)骨折状態が変化することが必要である。新しい中程度または重度の骨折(グレード0からグレード2または3への変化)を有する患者の人数および割合をそれぞれ分析した。グレード1から2,1から3,または2から3のような変化では増悪骨折と定義される。・・・(62頁)
b
甲129文献


1996年度版椎体骨折判定基準の問題点表1に1996年度椎体骨折評価基準を示すが,これまでいくつかの問題点が指摘された。その主なものは次のとおりである。1)現行の定量的評価法(QM:Quantitativemeasurement)は脊椎エックス線撮影時のポジショニングの影響を受けやすく,計測が必要で評価に時間がかかることから,一部の臨床試験では使用されているものの,疫学,実臨床ではほとんど使用されていない。(26頁5ないし10行目)②

椎体骨折評価の新しい基準(2012年度改訂版)・・・1)半定量的評価法(SemiquantitativeMethod:SQ法)を追加した。SQ法はGenantらにより1994年に考案された半定量的椎体骨折評価法で,疫学,臨床試験で広く使用されている。SG法は計測が必要なQM法より簡便なことから実臨床での有用性も高い。・・・2)エックス線像の読影で椎体の傾斜や椎体の立体構造を考慮することが重要であると付記した。脊椎のエックス線撮影ではエックス線の入射方向により椎体終板ラインが変化するので椎体高の計測には十分な注意が必要である。・・・・・・Ⅱ半定量的評価法(SemiquantitativeMethod:SQ法)図2と対照してグレード0から3までに分類し,グレード1以上に当てはまる場合を椎体骨折と判定する。(GenantHK,etal.JBoneMinerRes1993;8(9):1137-48.)(27ないし29頁)


表3椎体骨折関連用語の解説・・・●新規骨折(incidentfracture)骨粗鬆症分野で用いられる既存骨折と対になる言葉で,ある時点より以降に発生した骨折。ある時点の観察では正常であった椎体が,次の時点の観察で新たに骨折と判定されたもの,または,ある時点と比較し次の時点において椎体変形の度合いが増強したもの(後者を増悪(worsening)として区別する場合もある)。
(30頁27ないし31行目)
なお,甲129文献は,本件基準日よりも後に公知になった文献であるが,その関係部分の内容及び後記のとおり本件明細書自体も同様の考え方に立っていると理解されることに鑑みると,上記記載は,本
件基準日当時の技術常識を認定する証拠として用いることができるものである。
(イ)

前記⑵ア(ア)及び前記(ア)の各記載によると,本件基準日時点の骨粗
鬆症における椎体骨折に関する技術常識は,次のとおりである。
すなわち,①骨粗鬆症で最も頻度の高い骨折は椎体骨折であること,②椎体骨折が起こると,椎体変形が生じるところ,このような椎体変形
を評価する方法として,椎体のエックス線写真により,正常(grade0)
,軽度変形(grade1)
,中等度変形(grade2)
,高度変
形(grade3)に視覚的に分類する半定量的(SQ)評価法があること,③新規椎体骨折を判定するには,基準となるエックス線写真とある期間経過後のエックス線写真を比較して行い,椎体形態がグレード1
以上増加した場合,新規椎体骨折と判定すること,④エックス線写真の経時的な変化に関して,最初の時点でGrade0であるか,Grade1又は2であるかにかかわらず,グレード1以上増加すれば,新規椎体骨折と判定すること,⑤このような新規椎体骨折を,最初の時点でGrade0であったか,Grade1又は2であったかによって更に二
分し,前者を新規椎体骨折,後者を増悪椎体骨折として区別することが知られていたといえる。

増悪椎体骨折の抑制について
(ア)

本件発明の増悪椎体骨折について
本件明細書には,新規椎体骨折及び増悪椎体骨折の区分に関し,Ge
nantの判定基準に従い,Grade0からGrade1,Grade2又はGrade3への変化が認められた場合には新規椎体骨折とし,Grade1からGrade2若しくはGrade3,又は,Grade2からGrade3への変化が認められた場合には増悪椎体骨折とすることが記載され(
【0047】【0069】,実際に,実施例2では,


第4胸椎から第4腰椎までの正面,
側面のX線撮影を行い,
Genantらの方法(非特許文献14)を参考に,開始時と以降の時点のレントゲンフィルムを比較して,
新規及び増悪椎体骨折が評価されている【0

108】。

ここで,
非特許文献14は,BoneMinerRes,8,1137-48,J1993であり(本件明細書【0011】
【非特許文献14】,
)骨粗鬆症の予防と治療ガイドライン2006年版中の参照文献(前記⑵ア(ア)c⑤)及び甲129文献中の椎体骨折評価の新しい基準(2012年度改訂版)中の参照文献(前記ア(ア)b②)と同一のものである。そうすると,本件明細書の記載に接した当業者は,本件明細書におけ
る増悪椎体骨折を,前記ア(イ)のとおり,大きくは新規椎体骨折と判定されるもののうち,最初の時点での椎体形態がGrade0ではないものを指すと理解するといえる。
(イ)

増悪椎体骨折に関する一般的な理解について

a
前記(ア)によれば,ある椎体が,Grade0(正常)であるか,あるいは,
Grade1
(軽度変形)
又はGrade2
(中等度変形)
であるかは,椎体のエックス線写真により視覚的に分類されるものであり(前記ア(イ))
,その結果を比較して,新規及び増悪椎体骨折が評
価されているのであり,エックス線写真上の視覚的な相違を超える,組織構造の相違等を考慮して判定がされているとは考え難いし,その
ようにされていることを示す証拠は存在しない。
なお,被告は,前記第3の3⑵イ(イ)cのとおり,甲93文献は増悪椎体骨折が組織学的な変化を有することを明らかにする文献である旨主張するところ,同文献には次の記載がある。


高齢化社会の到来とともに骨粗鬆症による脊椎骨折患者が急増している。骨粗鬆症患者の脊椎骨折は,神経障害を合併しない圧迫骨折が大半であり,基本的には,疼痛に対する保存治療が選択される。しかしながら,近年,骨粗鬆症患者の脊椎骨折後に椎体の圧潰が進行し,後弯変形の増強とともに遅発性に神経障害を呈する症例の報告が増えてきた。この病態については未だ充分に解明されていない上,診断に苦慮する場合も少なくない。本稿では,術中摘出した圧潰椎体の組織学的所見をもとに,本疾患の病態に即した手術治療について詳述する。(78頁左欄2ないし13行目)②

病態からみた手術法の選択骨粗鬆症性外傷後椎体圧潰の組織学的特徴は,椎体内に壊死組織が存在し,その周囲に広範囲の結合組織層が層状に存在することである。(79頁左欄1ないし4行目)



上記記載によると,甲93文献は,骨粗鬆症患者の脊椎骨折後に椎体の圧潰が進行し,後弯変形の増強とともに遅発性に神経障害を呈する症例の報告が増えてきたことを述べ,そのような骨粗鬆症性外傷後椎体圧潰の組織学的特徴等について記載するものであって,骨粗鬆症患者の脊椎骨折で大半であるとされた,神経障害を合併しな

い圧迫骨折については何ら示唆を与えるものではない。また,甲93文献には,
Grade1以上の椎体であれば,
椎体内に壊死組織が存在し,その周囲に広範囲の結合組織層が層状に存在するという骨粗鬆症性外傷後椎体圧潰の組織学的特徴を有するとする記載はない。
したがって,甲93文献をみても,Grade0からの変化である
新規椎体骨折と,Grade1又は,Grade2からの変化である増悪椎体骨折とで,疾病の質や病態が異なっているとすることはできず,被告の上記主張を採用することはできない。
b
また,前示のとおり,新規椎体骨折及び増悪椎体骨折の区分は,エックス線写真による視覚的なGradeの変化に基づくものである以上,原告が主張するとおり,例えば,A時点でGrade0,B時点でGrade1,C時点でGrade2と推移した患者の場合,同じ骨折形態であるにもかかわらず,A時点とC時点でそれぞれ測定されたときにはC時点の骨折は新規椎体骨折と判定され,B時点とC時点でそれぞれ測定されたときにはC時点の骨折は増悪椎体骨折と判定されることになるのであるから,骨折形態との関係においては,増悪椎体骨折と判定されようと新規椎体骨折と判定されようと相違はないことになる。さらに,既存椎体骨折があるかないか,すなわち,椎体変形があるかないかの判断に関し,椎体の傾斜や立体的構造による測定誤差に起因して判断が異なることがあり得ることは,甲129文献に示される(前記ア(ア)b
②)ほか,本件審判の審理過程において,被告自身も主張していたところであるから(甲108の6頁参照)
,測定誤差に起因して判断が異な
ることさえもあり得るところである。
以上を総合すれば,Grade0からの変化である新規椎体骨折と,Grade1又はGrade2からの変化である増悪椎体骨折とでは,
疾病の質や病態等が異なることを前提にして判定をしているとはいえず,むしろ,新規椎体骨折も増悪椎体骨折も,エックス線写真において変形の程度が増加したという同種の現象を表しているにすぎず,その変形の程度の判断自体も誤差により異なり得るものというべきであるから,その治療方法等について新規椎体骨折と増悪椎体骨折とで区別されるもの
ではないと解するべきである。
(ウ)

容易想到性について
上記⑵ア(イ)のとおり,骨粗鬆症は,骨強度の低下を特徴とし,骨折
の危険性が増大した骨疾患であること,骨強度は骨密度と骨質の2つの要因からなり,骨密度は骨強度のほぼ70%を説明することが,本件基準日における技術常識であったから,当業者は,骨密度の増加は,骨折の予防に寄与すると理解する。このような理解は,甲7文献のここに挙げた薬剤を投与することによって骨密度(BMD)が増加するため,骨折予防は飛躍的に進歩した296頁右欄10行ないし297頁左欄2(
5行目)との記載とも合致するものである。
そして,甲7文献には,甲7発明の200単位週1回投与が,48週で腰椎骨密度を8.1%増大させたことが記載されているから(300
頁左欄11行ないし右欄6行目)当業者であれば,

そのような骨密度の
増大は,椎体(椎体は,腰椎を含む。
)の骨折予防に寄与すると理解し,
骨粗鬆症の治療の目的は骨折を予防することであるとの技術常識,及び,
骨粗鬆症で最も頻度の高い骨折は椎体骨折であるとの技術常識(前記⑵ア(イ))を踏まえ,その用途を,椎体骨折抑制のためのものとすること
は,容易に想到し得たものといえる。
そして,本件基準日において,別紙3-1ないし3-3の記載によると,本件発明と同一のPTH製剤であり,用量用法が異なる連日投与のフォルテオは,新規椎体骨折,増悪椎体骨折,及び,新規椎体骨折及び増悪椎体骨折(別紙3-3における新規SQ3骨折は,本件発明の
新規椎体骨折に該当する。甲98文献の4029頁右欄16ないし20行目。について,

プラセボ投与群に対して有意な骨折抑制効果を有する
ことが知られていた(甲15-1文献の85頁30行ないし86頁9行目,甲57文献の21頁13ないし20行目,表16,甲98文献の4032頁左欄8ないし26行目,図3)
。そうであれば,甲7発明の治療

剤についても,連日投与のPTH製剤と同様に,新規椎体骨折に対しても,増悪椎体骨折に対しても抑制効果を有すると予測し,これらのうちの増悪椎体骨折を抑制するためのものとしたことは,当業者が容易に想到し得たものである。

Grade3への増悪椎体骨折抑制について
前記イのとおり,甲7発明の治療剤を増悪椎体骨折抑制のためのものとすることは容易に想到できるところ,増悪椎体骨折はGrade3への増悪椎体骨折を含み,そして,連日投与のフォルテオについて,新規椎体骨折及びGrade3への増悪椎体骨折(SQ3)について,プラセボ投与群に対して有意な骨折抑制効果を有することが知られていたから(甲98文献の4032頁左欄8ないし26行目,
図3)甲7発明の骨粗鬆症治療


剤についても,連日投与のPTH製剤と同様に,Grade3への増悪椎体骨折に対しても抑制効果を有すると予測し,これに限定したものとすることは,当業者が容易に想到し得たものといえる。

被告の主張について
(ア)

被告は,前記第3の3⑵イ(ア)のとおり,①骨強度は骨密度のみでは
説明できず,標準薬又はプラセボと比較した比較試験を経ないで骨折抑制効果を評価することはできない,甲7文献には,骨密度の増加が異なる群の間において,
椎体骨折数について
各群間の差は有意でなかった
との記載がある,②甲7文献の将来有望との記載は,200単位の週1回投与のみを取り出して治療価値が大いに見込まれるものとして推奨しているわけではない旨主張する。
しかしながら,
代替エンドポイントの評価
(平成21年6月。乙1
4)
には,
FDAは骨密度を代替エンドポイントとした試験結果をもって薬剤を承認する方針を変更し,第Ⅲ相試験においては,真のエンドポイントである骨折を評価項目とした臨床試験を求めるようになった(・・・)。ただし,骨密度は代替エンドポイントとして日米欧の規制当局からは認められており,新薬の承認申請の際には,骨密度を代替エンドポイントとして第Ⅱ相試験を行い用量反応性を検討し,第Ⅲ相試験においては真のエンドポイントである骨折を評価項目としてプラセボまたは実薬対照試験を行うのが一般的となっている。(16頁)との記載があり,骨粗鬆症用薬の臨床評価方法に関するガイドラインについて」甲

(96)にも,後記第Ⅱ相試験の評価指標(エンドポイント)について,「本来,有効性の証明には骨強度の変化や骨折率を見ることが望ましいが,長期間を要するので,骨量の変化を見ることで代用される。(第4

章臨床試験四後記第Ⅱ相(四)試験方法」
)と記載されている。これらの点に鑑みれば,骨密度の増加が骨折抑制に寄与することを当然の前提として,医薬品として承認を得るためにはプラセボとの対比試験で骨折抑制効果を確認することが必要とされていたにとどまるものと認められ,プラセボとの対比試験で骨折抑制効果を確認しなければ骨密度の増加から骨折抑制効果が予測できないとはいえない。また,甲7文献には,椎体骨折数について,L群(50単位投与群),M群(100単位投与群)及びH群(200単位投与群)との間で有意な差は生じなかったとの記載があるが,それは各群間相互との関係において有意差がなかったというだけで,200単位投与に骨折抑制効果の見込みがないことを示唆するものではない。したがって,被告の上記①の主張は,採用することができない。次に,甲7文献の「週1回投与の中から200単位投与の用量が除外されているわけではない以上,甲7文献には,明示的に200単位投与の骨折抑制効果を示唆する記載があるというべきであるから,被告の上記主張②は結論を左右し得ない。

(イ)

被告は,前記第3の3⑵イ(イ)b(a)ないし⒞のとおり,①増悪椎体骨
折を抑制することがPTH投与による骨粗鬆症治療において当然に予定されている事項とはいえない,②増悪椎体骨折が発生する前の既に骨折が発生した骨は,骨の組織が脆弱になり,更なる圧潰を生じやすい状態であって,新規椎体骨折と増悪椎体骨折は疾病の質や病態が異なっている,③何ら骨折抑制の確認試験を行っていない甲7発明の治療剤が増悪椎体骨折を適切に抑制できると当業者は考えない旨主張する。
しかしながら,
前記イ(イ)のとおり,
Grade0からの変化である新
規椎体骨折とGrade1又はGrade2からの変化である増悪椎体骨折とで疾病の質や病態等が異なるとはいえず,そうであれば,骨折を抑制するための骨粗鬆症治療剤において,新規椎体骨折の抑制と共に増悪椎体骨折の抑制も当然に予定されている事項といえ,また,骨折抑制の確認をしていないことが甲7発明の骨粗鬆症治療剤を骨折抑制のためのものとすることを妨げないことは,前記(ア)のとおりである。被告の上記各主張はいずれも採用することはできない。
(ウ)

被告は,前記第3の3⑵イ(イ)b⒟のとおり,甲30文献や甲31文
献の記載は新規骨折を抑制する効果と増悪骨折を抑制する効果が異なることの証左である旨主張するが,上記各文献には,両者の抑制効果に関係して新規骨折と増悪骨折の区別の必要性に触れる部分は見当たらないから,その主張を採用することはできない。
(エ)

被告は,前記第3の3⑵イ(イ)cのとおり,甲93文献は増悪椎体骨
折が組織学的な変化を有することを明らかにする文献である旨主張するが,
この主張を採用できないことについては,
前記イ(イ)aにおいて既に
判示したとおりである。
(オ)

被告は,前記第3の3⑵イ(イ)dのとおり,用量用法が変わった場合
には効果も変わるとみるのが自然であり,甲15の1文献,甲57文献及び甲98文献における知見を甲7発明にそのまま適用することは適切でないし,これら文献には,新規椎体骨折よりも増悪椎体骨折は抑制し難い結果が示されている旨主張する。
しかしながら,安全性や効果の程度等は別異として,同一の薬理作用を持つ薬剤が,用量用法が変わったことにより,その効果を全く失うと
予測することが自然であるとは考え難く,甲15の1文献,甲57文献及び甲98文献における知見が甲7発明に適用できないとはいえない。また,仮に増悪椎体骨折の抑制効果が新規椎体骨折の抑制効果よりも低いとしても,骨折抑制効果があるのであれば,当業者は,甲7発明の骨粗鬆症治療剤を,疾病の質や病態等が異なるものではない増悪椎体骨折の抑制のためのものとすることを妨げられないというべきである。したがって,被告の上記主張を採用することはできない。

(カ)

そのほか被告がるる主張するところも,前記イ及びウの判断を左右
するものではない。


発明の効果について

予測できない顕著な効果について
発明の効果が予測できない顕著なものであるかについては,当該発明の特許要件判断の基準日当時,当該発明の構成が奏するものとして当業者が予測することのできなかったものか否か,当該構成から当業者が予測することのできた範囲の効果を超える顕著なものであるか否かという観点から検討する必要がある(最高裁判所平成30年(行ヒ)第69号令和元年
8月27日第三小法廷判決・集民262号51頁参照)
。もっとも,当該発
明の構成のみから,予測できない顕著な効果が認められるか否かを判断することは困難であるから,当該発明の構成に近い構成を有するものとして選択された引用発明の奏する効果や技術水準において達成されていた同種の効果を参酌することは許されると解される。なお,予測できない顕著
な効果の立証責任は特許権者にあるから,当該発明の構成から奏する効果が不明であるからといって,直ちに予測できない顕著な効果があるとすることはできない。
前示のとおり,
相違点1及び2の構成は容易想到であるが,
これに対し,
被告は,本件発明が,①増悪椎体骨折抑制効果は新規椎体骨折抑制効果よ
りも低いと予測されるところ,本件発明の構成では新規椎体骨折抑制効果と同等以上に増悪椎体骨折抑制効果が高いこと
(効果①)②本件発明の構

成による増悪椎体骨折の相対リスク減少率(RRR)が連日投与のフォルテオの同RRRと比較して予想外に高いこと
(効果②)③増悪椎体骨折抑

制効果がPTH連日投与から想定されるBMD増加率から予測できないか,又は本件発明の構成から想定されるBMD増加率から予測されるものよりも高いこと(効果③)を当業者が予測をすることができなかった顕著
な効果である旨主張するから,その主張する各効果が認められるか否かを検討する。

効果①について
(ア)

a
増悪椎体骨折抑制の点について
効果①を認めるための前提となる新規椎体骨折抑制効果とは,本件発明において,プラセボ投与群の骨折発生率と対比した場合の骨折発生率の低下割合を指すものであるが,まずは,本件明細書の記載からでは,本件3条件の全てを満たす患者と定義付けられる高リスク患者に対する新規椎体骨折抑制効果が,本件3条件の全部又は一部を欠く
者と定義付けられる低リスク患者に対する新規椎体骨折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。
すなわち,本件発明は,PTH投与群の中で特に優れた効果を奏する患者群に投与することに進歩性を見出したとするものであるから,本件3条件の全てを満たす患者について新規椎体骨折抑制効果を確認
するためには,
高リスク患者に対する骨折抑制効果と低リスク患者
(高
リスク患者以外の患者)に対する新規椎体骨折抑制効果とを対比する必要があり,単に高リスク患者とプラセボ投与患者を対比して高リスク患者に対する新規椎体骨折抑制効果があることを示しただけでは,それはPTH投与群に含まれる一群がプラセボ投与群に対して新規椎
体骨折抑制効果が優れることを示しただけであり,高リスク患者群がそれ以外の患者群に比較して,PTH投与群の中で特に効果を奏する患者群であることを明らかにしたことにはならない。
このことを前提にして本件明細書を見ると,実施例1において,高リスク患者では,100単位週1回投与群における新規椎体骨折の発生率は,いずれも実質的なプラセボである5単位週1回投与群における発生率に対して有意差が認められるが,低リスク患者では,100単位週1回投与群における新規椎体骨折の発生率は,いずれも,5単位週1回投与群における発生率に対して有意差が認められなかったと記載されているのにとどまる【0086】

ないし
【0096】

【表6】
ないし【表11】
)ところ,低リスク患者の新規椎体骨折についていえ

ば,100単位週1回投与群11人と5単位週1回投与群10人(令和3年5月28日付け被告第1準備書面31頁における再解析の数値による。
)について,それぞれ,ただ1人の骨折例数があったというも
のであり,有意差がなかったことが,症例数が不足していることによることを否定できない(そもそも低リスク患者を対象とする以上,症
例数が不足すると,5単位週1回投与群であっても骨折例数が少ないことは当然のことといえる。。そうすると,低リスク患者において,)
100単位週1回投与群の新規椎体骨折の発生率が5単位週1回投与群のそれらの発生率に対して有意差がなかったとの結論が,上記のような少ない症例数を基に導かれている以上,高リスク患者における新
規椎体骨折発生の抑制の程度を低リスク患者における新規椎体骨折発生の抑制の程度と比較して,前者が後者よりも優れていると結論付けることはできない。
したがって,実施例1をみても,高リスク患者に対するPTHの新規椎体骨折抑制効果が,低リスク患者に対するPTHの骨折抑制効果
よりも高いということを理解することはできず,さらに,本件明細書のその他の部分をみても,高リスク患者に対するPTHの新規椎体骨折抑制効果が,低リスク患者に対するPTHの新規椎体骨折抑制効果よりも高いということを理解することはできない。
b
次に,甲57文献の記載にそのまま従えば,PTH20μg連日投与群のプラセボ投与群に対する新規椎体骨折の相対リスク減少率は6
5%と,同増悪椎体骨折の相対リスク減少率は33%と,また,PTH40μg連日投与群のプラセボ投与群に対する新規椎体骨折の相対リスク減少率は69%と,同増悪椎体骨折の相対リスク減少率は56%と算定される(表9,表16)
。また,甲98文献では,
新規SQ3骨折
(Grade0からGrade3になった患者。
甲98の4

029頁右欄16ないし20行目)は本件発明の新規椎体骨折に該当するので,本件発明のGrade3への増悪椎体骨折に相当する患者は増悪SQ3骨折の患者に限られるところ,甲98文献の記載に
そのまま従えば,プラセボ投与群に対するGrade3への増悪椎体骨折の相対リスク減少率は,テリパラチド20μg連日投与群で6
2%,
テリパラチド40μg連日投与群で48%となる。
したがって,
これらの数値に照らせば,増悪椎体骨折の抑制効果が新規椎体骨折の抑制効果よりも低い傾向にあることが推認できないではない。
これに対し,本件明細書の記載にそのまま従えば,72週投与後のPTH200単位週1回投与群のプラセボ投与群に対する増悪椎体骨
折の相対リスク減少率は83%と(
【0118】【表20】,72週投


与後のPTH200単位週1回投与群のプラセボ投与群に対する新規椎体骨折の相対リスク減少率は79%と(
【0131】【表34】,7


2週投与後のPTH200単位週1回投与群のプラセボ投与群に対する新規椎体骨折及び増悪椎体骨折の相対リスク減少率は79%と【0(

133】,一応算定することができ,被告は,これらの結果に照らせ)
ば,骨折抑制効果がより低い増悪椎体骨折について,本件発明は高い効果を有している旨主張する。
しかしながら,本件明細書【表20】の増悪椎体骨折に関する相対リスク減少率83%を見ると,PTH200単位投与群の増悪椎体骨折発生例数が評価例数261名
(途中打ち切り例数60名を含む。に

対して1名,プラセボ投与群の増悪椎体骨折発生例数が評価例数28
1名(途中打ち切り例数37名を含む。
)に対して6名(
【表20】
)と
いずれもごく少数であり,算定された相対リスク減少率は,骨折発生患者数のわずかな変動によって上下に著しく振れるものといえる。c
ここで,
MRサポートシリーズ①エビデンス
(2003年。

甲58)には,次の記載がある。


相対リスク減少(率),絶対リスク減少(率),NNTとは何ですか?相対リスク減少(率)は治療効果の指標です。また,絶対リスク減少(率)とNNTは有益性を示す指標です。相対リスク減少(率)は1から相対リスクを引いた値であり,絶対リスク減少(率)は対照群の発症率と治療群の発症率の差です。そして,NNTは,絶対リスク減少(率)の逆数で表されます。・・・相対リスク減少(率)[RelativeRiskReduction:RRR]治療(実験)群と対照群の治療効果の差をわかりやすくするために,相対リスク減少(率)がよく用いられます。相対リスク減少(率)は,対照群における発症率と治療群における発症率の差を対照群における発症率で除した値,すなわち1-相対リスクで求められます。・・・絶対リスク減少(率)[AbsoluteRiskReduction:ARR]絶対リスク減少(率)は,差によって求められます。つまり,対照群における発症率と治療群における発症率の差そのものです。・・・NNT(NumberNeededtoTreat,治療必要数)NNTとは,「何人治療すれば,1人の患者を救えるかを表して
います。NNTは絶対リスク減少(率)の逆数,つまり1/絶対リスク減少(率)で求められます。(24頁)



相対リスク減少(率)と絶対リスク減少(率)の乖離の理由なぜ,このようなことが起きるかというと,2つの理由があります。1つは,相対リスク減少(率)は比から求められるからです。治療群と対照群の発症率の比が0.01/0.02でも,0.15/0.30でも,1-0.5=0.5で相対リスク減少(率)は50%,50%減少と表されます。つまり治療群と対照群の発症者数の差が1人のような臨床上のわずかな差が,大きな数字に置き換えられてしまったからです。・・・もう1つの理由は,絶対リスク減少(率)は対照群の発症率と治療群の発症率の差から求められることから,0.02-0.01=0.01,0.30-0.15=0.15と発症率によって大きな差が生まれてくることがあります。・・・試験結果は,相対リスク減少(率)だけが強調されがちですが,正しい判断をするには絶対リスク減少(率)やNNTをみる必要があります。(44ないし45頁)上記記載に照らすと,本件基準日において,治療効果を表す指標として相対リスク減少(率)
(RRR)が,有益性を示す指標として絶対

リスク減少
(率)
(ARR)
とNNTが知られており,
RRRだけでは,
臨床上のわずかな差が大きな数字に置き換えられてしまうことがあるので,治療効果を正しく判断するためには,RRRのみでなく,ARRやNNTをみる必要があることが技術常識であったといえる。
そして,本件明細書【表20】及び【表34】にも,それぞれ,増悪椎体骨折発生率又は新規椎体骨折発生率に関し,投与72週後の被験薬投与群の骨折発生率と対照薬投与群の骨折発生率の差(%)(A
RRに相当)が記載されているところである。
d
そこで,本件明細書に記載された絶対リスク減少率をみてみると,PTH200単位週1回投与群のプラセボ投与群に対する新規椎体骨折の絶対リスク減少率は11.4と(
【表34】,PTH200単位週


1回投与群のプラセボ投与群に対する増悪椎体骨折の絶対リスク減少率は1.8(
【表20】
)となっている。また,甲57文献の記載にその
まま従って絶対リスク減少率を算定してみると,PTH20μg連日投与群のプラセボ投与群に対する新規椎体骨折の絶対リスク減少率は9.3と,同増悪椎体骨折の絶対リスク減少率は1.5と算定され,P
TH40μg連日投与群のプラセボ投与群に対する新規椎体骨折の絶対リスク減少率は9.9と,同増悪椎体骨折の絶対リスク減少率は2.5と算定され(表9,表16)
,さらに,甲98文献の記載にそのまま
従って,PTH20μg連日投与群のプラセボ投与群に対するGrade3への増悪椎体骨折の絶対リスク減少率は1.1と,
テリパラチド

40μg連日投与群のプラセボ投与群に対するGrade3への増悪椎体骨折の絶対リスク減少率は0.9となる
(なお,
増悪椎体骨折抑制
との関係で仮に甲99証明書の記載を参酌するとしても,同証明書におけるPTH200単位週1回投与群のプラセボ投与群に対するGrade3への増悪椎体骨折の絶対リスク減少率は1.0と算定される
のみである。。

このように,
【表20】
で示される増悪椎体骨折の絶対リスク減少率
の値と,甲57文献および甲98文献で示される増悪椎体骨折の絶対リスク減少率の値が似通ったものであり,
【表34】
で示される新規椎
体骨折の絶対リスク減少率の値と甲57文献で示される新規椎体骨折の絶対リスク減少率の値が似通ったものであることを併せ鑑みると,【表20】及び【表34】から,PTH200単位週1回投与群のプ
ラセボ投与群に対する新規椎体骨折の相対リスク減少率が79%と,同増悪椎体骨折の相対リスク減少率が83%と算定されるからといって,単純に,本件発明における増悪椎体骨折抑制効果が新規椎体骨折抑制効果と同等又はそれ以上であるとは即断できるものではなく,さらに,本件明細書全体をみても,本件発明における増悪椎体骨折抑制
効果が新規椎体骨折抑制効果と同等又はそれ以上であるとする記載はなく,それを説明する作用機序についての技術的説明等もない。
そうすると,増悪椎体骨折について,予測できない顕著な効果として効果①を認めることはできない。
e
被告は,前記第3の3(2)ウ(ウ)のとおり,るる主張するが,前記判断を左右するものではない。
なお,被告は,本件発明の増悪椎体骨折についてのRRRは83%であり,しかも,投与24週後という早期から発現している点を強調するが,RRRのみによって効果を評価することが相当でない点は措
くとしても,本件明細書によると,確かに200単位投与群について24週後から72週までの間に増悪椎体骨折の発生が認められないが(
【表20】,甲7発明の骨粗鬆症治療剤も48週で腰椎骨密度を8.)
1%増大させ,その骨密度の増加率は12週から24週までにかけてが最も増加率が高いのであるから(300頁左欄11行ないし右欄6
行目,
図1)24週までに増悪椎体骨折抑制の効果が生じたとしても

予想の範囲内であるから,いずれにしても投与24週後83%との相対リスク減少率を直ちに予測できない顕著な効果の裏付けとして採用することはできない。
(イ)

Grade3への増悪椎体骨折抑制の点について
被告は,Grade3への増悪椎体骨折抑制効果が,新規椎体骨折抑
制効果と対比して,増悪椎体骨折抑制の場合よりも更にその効果が優れ
ているとの主張をしているものではないと理解され,そして,本件発明の治療剤の増悪椎体骨折抑制効果が新規椎体骨折抑制効果と同等又はそれ以上と認めるには足りないことは前記(ア)のとおりであるから,Grade3への増悪椎体骨折について,効果①を認めることはできない。ウ
効果②について
(ア)

増悪椎体骨折抑制の点について
前記イのとおり,甲57文献又は甲98文献に記載されたPTH連日
投与のフォルテオ(テリパラチド)の相対リスク減少率との対比により本件発明の予想外の顕著な効果を裏付けることはできない。
なお,被告は,前記第3の3(2)ウ(エ)のとおり,甲98文献の記載から,PTHの投与量が増加するとGrade3への増悪椎体骨折の抑制効果は低減することが予想されるところ,より用量の増加した本件発明の200単位週1回投与で骨折相対リスク減少率が増強したことは予想外の顕著な効果である旨主張する。

しかしながら,40μg連日投与(週当たり931単位)と200単位週1回投与とを比較して200単位週1回投与がより用量が増加したものとは一概にはいえないから,被告の上記主張は,まず,この前提からして疑わしい。のみならず,甲98文献の記載からは,20μg連日投与群でGrade3への増悪椎体骨折を発生したのは444名中3名
(0.68%)
,40μg連日投与群でGrade3へ増悪椎体骨折を発
生したのは434名中4名(0.92%)であり,両者に統計上の意味ある相違を見出し難いから,甲98文献の記載によれば,PTHの投与量が増量するとGrade3への増悪椎体骨折の抑制効果が低減すると結論を導き出すこともできず,被告の上記主張は,この点からしても前提を欠くものというべきである。
以上のとおりであるから,増悪椎体骨折について,予測できない顕著
な効果として効果②を認めることはできない。
(イ)

Grade3への増悪椎体骨折抑制の点について
本件明細書には本件発明の骨粗鬆症治療剤がGrade3への増悪椎
体骨折抑制に特に優れた効果を奏する旨の記載は無いから,甲99証明書は明細書に記載のない効果を明らかにしようとするものであって,こ
れを参酌することはできない。そして,甲99証明書を除くと,本件発明の治療剤とGrade3への増悪椎体骨折抑制効果との関係について摘示する証拠はない。
したがって,Grade3への増悪椎体骨折について,予測できない顕著な効果として効果②を認めることはできない。

効果③について
被告は,
前記第3の3(2)ウ(オ)のとおり,
PTHの連日投与から想定さ
れるBMD増加率に対する骨折相対リスクと対比して,BMD増加率が低くてもより低い骨折相対リスクが得られるとの効果が生ずるとして,これ
を本件発明の予測できない顕著な効果とする。
しかしながら,被告の上記主張は,本件訴訟における原告の主張に対抗して,本件明細書とは異なる文献に記載された試験の結果と本件明細書の記載を被告が独自に組み合わせて予測したものであり,当然ながら,本件明細書には,PTHの連日投与から想定されるBMD増加率と骨折相対リ
スクとの関係を記載した部分は見当たらず,上記主張は,明細書に記載されていない効果を主張するものであって失当というほかない。

まとめ
そのほか被告がるる主張するところも,前記イないしエの判断を左右するものではなく,効果の程度等につき更に検討を加えるまでもなく,本件発明が,当業者が予測をすることができなかった顕著な効果を奏するものであると認めることはできない。



小括
以上のとおりであるから,相違点1及び2に係る本件発明1及び2の構成を想到することは容易と認められ,本件発明1及び2の効果も当業者において予測できない顕著なものとは認められないから,結局,相違点1及び2は当業者が容易に想到し得たものというべきであり,相違点1及び相違点2が
容易に想到できないと認定した本件審決の判断には誤りがある。
そうすると,
本件発明1及び2の進歩性を認めた本件審決の判断には誤りがあり,取消事由3-1及び3-2は,理由がある。
3
結論
以上のとおり,取消事由3-1及び3-2には理由があるから,その他の点について判断するまでもなく,本件審決を取り消すこととして,主文のとおり判決する。

知的財産高等裁判所第4部
裁判長裁判官
菅野雅之
裁判官
本吉中村弘行
裁判官

(別紙1)
本件明細書の記載事項(抜粋)
(表は末尾に一括して掲記した。


【発明の詳細な説明】
【技術分野】
【0001】
本発明はPTHを有効成分として含有する骨粗鬆症の治療剤ないし予防剤に関する。また,本発明はPTHを有効成分として含有する骨折抑制ないし予防剤に関す
る。特に本発明は,1回当たり100~200単位のPTHが週1回投与されることを特徴とする,前記薬剤に関する。
【背景技術】
【0002】
骨粗鬆症は骨強度の低下を特徴とし,骨折のリスクが増大している疾患であ
る。現在,骨粗鬆症の治療剤の一つとしてPTH(Parathyroid
Ho

rmone;パラサイロイドホルモン)製剤が知られている。
【0003】
PTHは,カルシトニン類やビタミンD類とともに,血中カルシウム濃度の調節に関与するホルモンである。例えば,PTHは,生体内において,腎臓における活性型ビタミンD3生成を増加させることにより,腸管でのカルシウム吸収を促進する作用を有することも知られている(非特許文献1)

【0004】
特許文献1は,骨粗鬆症患者に対して1週間に1回の頻度で26週間の投与期間にわたり1回の投与あたり100又は200単位のPTHを皮下投与することによ
り,当該骨粗鬆症患者の海面骨の骨密度を増加させかつ皮質骨の骨密度を減少させない骨粗鬆症の治療方法を開示している。
【0005】
このように,特許文献1は,これらの治療方法が単に骨密度の増加を誘導することを開示する一方,骨粗鬆症患者の骨強度を増大させること又は骨折のリスクを軽減させることが可能な治療方法であるか否かについて明示していない。また,PTHを単独使用したのみで,カルシウム剤を併用していない。
【0006】
非特許文献1は,PTHによる骨粗鬆症治療に関する臨床試験において,患者にPTH(20μg/ay)投与後4~6時間後採血した際に高カルシウム血症がその患者の11%にみられ,持続性の高カルシウム血症はその3%に観察されたこと
を開示している。さらに,非特許文献1は,次ぎのPTH投与前には血清カルシウムが殆ど全ての患者において正常に戻ったものの541人の患者の中で1名については持続性の血清カルシウム上昇が観察された為治療中止に至った旨も開示している。
【0007】

非特許文献2は,カルシウム剤を併用下でPTHの連日皮下投与製剤に関して,本剤投与後の血清カルシウムは臨床的に問題ないと開示するものの,投与後の血清カルシウムが上昇したことも報告している。非特許文献3は,非特許文献2に開示の連日皮下投与製剤の添付文書である。本文書は,臨床試験において,当該製剤投与後の様々な有害事象を開示する中で該製剤投与後の一過性の高カルシウム血症が
観察された旨を報告している。さらに,非特許文献3は,当該製剤の市販後調査において,高カルシウム血症の副作用報告があった旨を開示している。【0008】
このように,非特許文献1~3は,PTHの骨粗鬆症治療における高カルシウム血症の副作用事例等を開示しており,これらに開示の治療方法は安全性の面から十
分ではないといえる。
【0009】
このような背景の下,安全性が高くかつ効能・効果の面で優れたPTHによる骨粗鬆症治療方法が求められていた。
【先行技術文献】
【非特許文献】
【0011】
【非特許文献9】Marcus.&
ology

Aurbach,G.D,Endocrin

85,801-810,1969

【非特許文献14】Genant

H.K.et

al,J.BoneMine

r.Res.
,8,1137-1148,1993
【発明の概要】
【発明が解決しようとする課題】
【0012】
本発明の課題は,安全性が高くかつ効能・効果の面で優れたPTHによる骨粗鬆症治療ないし予防方法を提供することである。さらに,本発明の課題は,安全性の
高いPTHによる骨折抑制ないし予防方法を提供することである。【課題を解決するための手段】
【0013】
前記課題を解決するために,本発明者らは鋭意研究開発を重ねた結果,驚くべきことに,PTHの投与量・投与間隔を限定することにより,効能・効果及び安全性
の両面で優れた骨粗鬆治療ないし予防方法となることを見出した。また,PTHの投与量・投与間隔を特定することにより,安全性の高い骨折抑制/予防方法となることを見出した。さらに,それらの方法において,高リスク患者に対して特に効果を奏することも見出した。
【0014】

すなわち,本発明は,以下に関するものである。
〔1〕カルシウム剤と併用され,かつ,1回当たり100~200単位のPTHが週1回投与されることを特徴とする,PTHを有効成分として含有する骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔2〕
併用されるカルシウム剤が週1回以上投与されることを特徴とする,〔1〕前記
の骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔3〕併用されるカルシウム剤が,カルシウムとして1日あたり200~800mg投与されることを特徴とする,前記〔1〕または〔2〕の骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔4〕前記PTHがヒトPTH(1-34)である,前記〔1〕~〔3〕のいずれかである骨粗鬆症治療ないし予防剤。

〔5〕24週または48週を超過する期間にわたり投与するための,前記〔1〕~〔4〕いずれかに記載の骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔6〕下記(1)~(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者を治療するための,前記〔1〕~〔5〕のいずれかである骨粗鬆症治療ないし予防剤;(1)年齢が65歳以上である

(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,および/または,骨萎縮度が萎縮度I度以上である。
〔7〕ステロイドを起因とする続発性骨粗鬆症,あるいは,糖尿病性骨粗鬆症を治療ないし予防するための,前記〔1〕~〔6〕のいずれか1に記載の骨粗鬆症治療
ないし予防剤。
〔8〕

下記(1)~(8)の少なくともいずれか1の疾病を合併症として有する
骨粗鬆症を治療ないし予防するための,
〔1〕~〔6〕のいずれか1に記載の骨粗鬆
症治療ないし予防剤;
(1)糖尿病,
(2)高血圧,
(3)高脂血症,
(4)関節痛,
(5)変形性脊椎症,
(6)変形性腰痛症,
(7)変形性股関節症,
(8)変形性顎関節症。
〔9〕

下記(1)~(6)の少なくともいずれか1つの骨粗鬆症治療薬の投与歴
がある骨粗鬆症患者に投与するための,
〔1〕~〔6〕のいずれか1に記載の骨粗
鬆症治療ないし予防剤;
(1)L-アスパラギン酸カルシウム
(2)アルファカルシドール,
(3)エルカトニン,
(4)塩酸ラロキシフェン,
(5)メナテトレノン,
(6)乳酸カルシウム

〔10〕軽度腎障害または中程度腎障害を有する骨粗鬆症患者に投与するための,〔1〕~〔6〕のいずれか1に記載の骨粗鬆症治療ないし予防剤。〔11〕前記PTHがヒトPTH(1-34)である,前記〔6〕~〔10〕のいずれか1の骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔12〕
前記PTHを有効成分として含有する骨粗鬆症治療剤が皮下注射剤である,
前記〔6〕~〔11〕のいずれかに記載の骨粗鬆症治療ないし予防剤。〔13〕

前記〔1〕~〔12〕のいずれか1に記載の骨粗鬆症治療ないし予防剤
と下記(1)~(6)の少なくともいずれか1つの薬剤からなる合剤または医療用キット。
(1)メトクロプラミド,
(2)ドンペリドン,
(3)ファモチジン,
(4)クエン酸モサプリド,
(5)ランソプラゾール,
(6)六神丸。
〔14〕1回当たり100~200単位のPTHが週1回投与されることを特徴とする,PTHを有効成分として含有する骨粗鬆症治療ないし予防剤であって,下記
(1)~(3)の全ての条件を満たす骨粗鬆症患者を治療するための,骨粗鬆症治療ないし予防剤;
(1)年齢が65歳以上である
(2)既存の骨折がある

(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,および/または,骨萎縮度が萎縮度I度以上である。
〔15〕1回当たり100~200単位のPTHが週1回投与されることを特徴とする,PTHを有効成分として含有する,
骨折の危険性の高い骨粗鬆症治療ないし
予防剤。

〔16〕1回当たり100~200単位のPTHが週1回投与されることを特徴とする,PTHを有効成分として含有する骨粗鬆症治療ないし予防剤であって,ステ
ロイドを起因とする続発性骨粗鬆症,あるいは,糖尿病性骨粗鬆症を治療ないし予防するための,骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔17〕1回当たり100~200単位のPTHが週1回投与されることを特徴と
する,PTHを有効成分として含有する骨粗鬆症治療ないし予防剤であって,軽度
腎障害または中程度腎障害を有する骨粗鬆症患者に投与するための,骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔18〕カルシウム剤と併用され,かつ,1回当たり100~200単位のPTHが週1回投与されることを特徴とする,PTHを有効成分として含有する骨折抑制
ないし予防剤。
〔19〕併用されるカルシウム剤が週1回以上投与されることを特徴とする,前記〔18〕の骨折抑制ないし予防剤。
〔20〕併用されるカルシウム剤が,カルシウムとして1日当たり200~800mg投与されることを特徴とする,前記〔18〕または〔19〕の骨折抑制ないし予防剤。
〔21〕前記PTHがヒトPTH(1-34)である,前記〔18〕~〔20〕のいずれかである骨折抑制剤。
〔22〕下記(1)~(3)の全ての条件を満たす対象者に投与するための,前記〔18〕~〔21〕のいずれかである骨折抑制ないし予防剤;
(1)年齢が65歳以上である

(2)既存の骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,および/または,骨萎縮度が萎縮度I度以上である。
〔23〕前記PTHがヒトPTH(1-34)である,前記〔22〕の骨折抑制ないし予防剤。

〔24〕前記PTHを有効成分として含有する骨折抑制ないし予防剤が皮下注射剤である,前記〔22〕または〔23〕の骨折抑制ないし予防剤。
〔25〕骨折抑制ないし予防剤が多発骨折抑制ないし多発骨折予防剤である,前記〔18〕~〔24〕のいずれか1に記載の骨折抑制ないし予防剤。〔26〕骨折抑制ないし予防剤が増悪骨折抑制ないし増悪骨折予防剤である,前記
〔18〕~〔25〕のいずれか1に記載の骨折抑制ないし予防剤。〔27〕前記〔14〕または〔15〕の骨粗鬆症治療ないし予防剤であって,ステロイドを起因とする続発性骨粗鬆症,
あるいは,
糖尿病性骨粗鬆症を治療ないし予
防するための,骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔28〕前記〔14〕または〔15〕の骨粗鬆症治療ないし予防剤であって,軽度
腎障害または中程度腎障害を有する骨粗鬆症患者に投与するための,骨粗鬆症治療ないし予防剤。
〔29〕前記〔27〕の骨粗鬆症治療ないし予防剤であって,軽度腎障害または中程度腎障害を有する骨粗鬆症患者に投与するための,骨粗鬆症治療ないし予防剤。〔30〕前記〔16〕の骨粗鬆症治療ないし予防剤であって,軽度腎障害または中程度腎障害を有する骨粗鬆症患者に投与するための,骨粗鬆症治療ないし予防剤。〔31〕上記〔1〕~〔30〕のいずれかに記載の治療剤,予防剤,薬剤,合剤,またはキットを用いる,予防または治療方法。
【発明の効果】
【0015】
本発明の骨粗鬆症治療剤は,安全性が高くかつ効能・効果の面で優れている。ま
た,本発明の骨折抑制ないし予防剤は,安全性が高く,有用である。【図面の簡単な説明】
【0016】
【図1】図1は,投与群(高リスク者,低リスク者)別での血清カルシウム濃度推移の結果を示すグラフである。

【図2】新規椎体骨折発生率の経時変化に対する被験薬投与の影響を示す。被験薬投与群をPTH200群
,対照薬投与群をP群と表記した。
【図3】新規椎体骨折発生率の経時変化に対する被験薬投与の影響を示す。被験薬投与群をPTH200群
,対照薬投与群をP群と表記した。
【図4】被験薬(
PTH200群
)または対照薬(
P群
)を週1回の頻度で7

2週間患者に投与した際の尿中カルシウム値の変動について試験した結果を示す。尿中カルシウム値/尿中クレアチン値の比を投与開始前と観察週で比較した。尿中カルシウムの測定は,開始時,12週後,24週後,48週後,72週後に実施した。標準併用薬(カルシウム
ネシウム

610mg,ビタミンD3

400IU,及びマグ

30mg)を同意取得時から治験終了まで1日1回夕食後服用した。
【図5】被験薬(
PTH200群
)または対照薬(
P群
)を週1回の頻度で7
2週間患者に投与した際の補正血清カルシウム値の変動について試験した結果を示す。血清カルシウムの測定は,開始時,12週後,24週後,48週後,72週後に実施した。血清カルシウム基準値:8.4-10.4mg/dL。標準併用薬(カルシウム

610mg,
ビタミンD3

400IU,
及びマグネシウム

30mg)

を同意取得時から治験終了まで1日1回夕食後服用した。
【発明を実施するための形態】
【0017】
本発明について,具体的に説明する。
【0018】
本発明は,1回当たり100~200単位のPTHが週1回(以下,週1回を

隔週と称することもある。
)投与されることを特徴とする,PTHによる骨粗鬆
症治療ないし予防方法又は骨折抑制ないし予防方法を提供する。また,本発明は,1回当たり100~200単位のPTHが隔週投与されることを特徴とする,PTHを有効成分とする骨粗鬆症治療ないし予防剤又は骨折抑制ないし予防剤を提供する。さらに,本発明は,前記骨粗鬆症治療ないし予防剤又は前記骨折抑制ないし予
防剤の製造のためのPTHの使用を提供する。
【0019】
I
有効成分
本発明の有効成分であるPTH(以下,単にPTHということもある。)は,

ヒト副甲状腺ホルモンであるヒトPTH
(1-84)及び,

ヒトPTH
(1-84)
と同等又は類似の活性を有する分子量約4,000~10,000程度のペプチド類を包含する。
【0020】
PTHは,天然型のPTH,遺伝子工学的手法により製造されたPTH,及び化学合成法により合成されたPTHのいずれをも含む。PTHは,自体公知の遺伝子
工学的手法により製造され得る(非特許文献8)
。あるいは,PTHは,自体公知の
ペプチド合成法により合成されることができ(非特許文献11)
,例えば,不溶性の
高分子担体上でペプチド鎖をC末端から伸長していく固相法(solidse

pha

method)によっても合成され得る(非特許文献4)
。なお,本発明のP

THの由来は,ヒトに限られず,ラット,ウシ,ブタ等であってもよい。【0021】
本願明細書において,ヒトPTH(n-m)というときには,ヒトPTH(1-84)のアミノ酸配列第n番目から第m番目までからなる部分アミノ酸配列で示されるペプチドを意味する。例えば,ヒトPTH(1-34)は,ヒトPTH(1-84)のアミノ酸配列第1番目から第34番目からなる部分アミノ酸配列で示されるペプチドを意味する。

【0022】
本発明の有効成分であるPTHは,1種又は2種以上の揮発性有機酸と形成した塩でもあってもよい。揮発性有機酸として,トリフルオロ酢酸,蟻酸,酢酸などが例示され,好ましくは酢酸を挙げることができる。フリー体のPTHと揮発性有機酸が塩を形成する際の両者の比率は,当該塩を形成する限りにおいて特に限定され
ない。例えば,ヒトPTH(1-34)は,その分子中に9分子の塩基性アミノ酸残基と4分子の酸性アミノ酸残基を有するため,それらの分子内における塩形成を考慮に入れると,
塩基性アミノ酸5残基を酢酸の化学当量とすることができる。

えば,酢酸量に酢酸重量×100(%)/ヒトPTH(1-34)のペプチド重量,で表される酢酸含量を用いれば,
一つの理論として,
フリー体であるヒトPTH
(1

-34)に対する酢酸の化学当量は約7.3%(重量%)となる。本願明細書において,フリー体であるヒトPTH(1-34)はテリパラチド,テリパラチドの酢酸塩はテリパラチド酢酸塩と,それぞれ称されることもある。テリパラチド酢酸塩における酢酸含量は,テリパラチドと酢酸が塩を形成する限りにおいて特に限定されず,例えば,前記の理論化学等量である7.3%以上であってもよく,0~1%
でもよい。
より具体的には,
テリパラチド酢酸塩における酢酸含量として,
1~7%,
好ましくは2~6%を例示され得る。これらの塩は自体公知の方法(特許文献4~5)に従って製造可能である。
【0023】
PTHとして,ヒトPTH(1-84)
,ヒトPTH(1-34)
,ヒトPTH(1
-38)
,hPTH(非特許文献5)
,ヒトPTH(1-34)NH2,
〔Nle
18

〕ヒトPTH(1-34)〔Nle


4)〔Nle

34

8,18

8,18

,Tyr

〕ヒトPTH(1-34)NH2

34

8,

〕ヒトPTH(1-3


〔Nle

8,18

,Tyr

〕ヒトPTH(1-34)NH2,ラットPTH(1-84)
,ラットPTH(1

-34),ウシPTH(1-84)
,ウシPTH(1-34)
,ウシPTH(1-3
4)NH2等が例示される。好ましいPTHとして,ヒトPTH(1-84),ヒト
PTH(1-38)
,ヒトPTH(1-34)
,ヒトPTH(1-34)NH2が例
示される(特許文献3等)
。特に好ましいPTHとして,ヒトPTH(1-34)が
挙げられる。
さらに好ましいPTHとして,
化学合成により得られたヒトPTH
(1
-34)
,最も好ましいPTHとして,テリパラチド酢酸塩(実施例1)が挙げられる。

【0024】
II

他の薬剤との併用

本発明者らは,カルシウム剤併用下でのPTHに関し,骨折発生を主要評価項目とした二重盲検比較臨床試験を実施した結果,その効果は24または26週後という早期から発現され,さらに,有害事象として高カルシウム血症が確認されなかった(実施例1~2)
。従って,本発明に係る骨粗鬆症治療剤又は骨折抑制/予防剤
は,
他の薬剤と併用することを一つの特徴とする。
ここで,
他の薬剤との併用とは,
本発明に係る骨粗鬆症治療剤又は骨折抑制/予防剤と本剤とは別のある薬剤(他の薬剤)を併用することを意味する。
【0025】

本発明の他の薬剤としてはカルシウムを好適に例示できる。但し,本発明において他の薬剤との併用というときには,当該他の薬剤以外の別の薬剤のさらなる併用を排除するものでない。従ってカルシウムとの併用として,例えば,カルシウムのみとの併用,
カルシウムならびにビタミンD(その誘導体を含む)および/またはマグネシウムのみとの併用,
も好ましく例示できる。よって,他の薬剤の具体的様態として,カルシウム剤を例示でき,好ましくは,
(1)カルシウムを薬効成分として含むカルシウム剤,
(2)カルシウム,ビタミンD(その誘導体を含む)およびマグネシウムをそれぞれ薬効成分として含むカルシウム剤を好ましく例示できる。

【0026】
上記の本発明に係る骨粗鬆症治療剤又は骨折抑制/予防剤と他の薬剤との併用の形態(投与頻度,投与経路,投与部位,投与量等)は,特に限定されず,患者に応じた医師の処方等により適宜決定することができる。
【0027】

たとえば,上記他の薬剤としてカルシウム剤を併用する場合,当該カルシウム剤は,PTHを有効成分とした本発明に係る骨粗鬆症治療剤又は骨折抑制/予防剤と同時に投与されてもよいし
(すなわち週1回)それ以上の頻度で投与されても差し

支えはなく,1日1回ないし数回の頻度で投与されてもよい。従って,上記の他の薬剤は,本発明に係る骨粗鬆症治療/予防剤又は骨折抑制/予防剤と組合せてなる
合剤としてもよく,本発明に係る骨粗鬆症治療剤/予防又は骨折抑制/予防剤と他の薬剤とが別々の製剤であってもよい。
このようなカルシウム剤として,
新カルシチュウ(商標)D3
(販売元:第一三共ヘルスケア,製造販売元:日東薬品工業株
式会社)を例示できる。
【0028】

また,他の薬剤は,発明に係る骨粗鬆症治療/予防剤又は骨折抑制/予防剤と一緒に又は逐次に
(すなわち別々の時間に)同一の又は異なる投与経路で投与され得,
る。従って,他の薬剤の剤形も特に限定されないが,例えば,錠剤,カプセル剤,細粒剤等を例示できる。他の薬剤がカルシウム剤の場合,単位剤形あたり100~400(好ましくは150~350)mgをカルシウムとして含むカルシウム剤であることが好ましい。しかして,単位剤形あたりカルシウムとして100~400mgを含むカルシウム錠剤を,たとえば本発明の実施例に従って1日あたり2錠投与するとすれば,カルシウムとして200~800mgが一日あたり投与されることになるが,これに限定されない。
【0029】
上記の他の薬剤の具体的な例としては,カルシウム剤の場合,たとえば沈降炭酸
カルシウム,乳酸カルシウム,炭酸カルシウム,塩化カルシウム,グルコン酸カルシウム,アスパラギン酸カルシウム,燐酸カルシウム,燐酸水素カルシウム,クエン酸カルシウム等を有効成分とする公知の薬剤が例示できる。沈降炭酸カルシウムを含む薬剤が好ましい。なお,当該他の薬剤には,賦形剤,結合剤,崩壊剤,滑沢剤,制酸剤等が適宜含まれていてもよい。

【0030】
PTH投与患者のある一定の割合に,嘔吐,悪心,嘔気,胃もたれ,胃部不快感,胸焼けなどの消化器症状が一過的に観察されることが知られている(特許文献6)。
【0031】
本発明者らは,被験薬投与に伴う一過性の悪心・嘔吐に対する様々な制嘔剤の投
与時期と有効性について試験した結果,プリンペラン(その薬効成分の一般名はメトクロプラミド)
,ナウゼリン(その薬効成分の一般名はドンペリドン)
,ガスター
D(その薬効成分の一般名はファモチジン)
,ガスモチン(その薬効成分の一般名は
クエン酸モサプリド)タケプロンOD

(その薬効成分の一般名はランソプラゾール)
および六神丸がPTH投与に伴う悪心または嘔吐に対して有効であることを確認し
た(実施例2)
。従って,更なる他の薬剤としてこれらの制嘔剤を好ましく,ナウゼリン(その薬効成分の一般名はドンペリドン)
,ガスモチン(その薬効成分の一般名
はクエン酸モサプリド)
および/または六神丸をより好ましく,
挙げることができ
る。これらの制嘔剤の用法用量は患者の症状等に応じて医師等が適宜設定することができる。
【0032】
III

投与期間

本発明に係る骨粗鬆症治療/予防剤又は骨折抑制/予防剤の投与期間は特に限定されず,患者に応じた医師の処方等により適宜決定することができる。本発明者らは,投与期間を156または72週間として,骨折発生を主要評価項目とした二重盲検比較臨床試験を実施した。本試験において,当該投与による有意な骨折抑制効果を確認でき,その効果は24または26週後という早期から発現した(実施例1~2)
。さらに,投与後48週を超えてからの新規椎体骨折は認められなかった(実施例2)
。従って,投与期間として,24週以上,26週以上,48週以上,52週以上,72週以上,または78週以上を例示することができ,最も好ましくは78週以上である。また,本試験において,有害事象として高カルシウム血症は確認さ
れなかった(実施例1)

【0033】
IV

投与量

本発明者らは,1回当たり100または200単位のPTHを用いた二重盲検比較臨床試験を実施した結果,当該投与による有意な骨折抑制効果と24または26週後という早期からの効果の発現を認め,一方で有害事象としての高カルシウム血症は確認されなかった(実施例1~2)

【0034】
従って,本発明は,その投与量として,1回当たり100~200単位であることを特徴の一つとする。ここでPTHの1単位量は,自体公知の活性測定方法によ
り測定可能である(非特許文献9)
。投与量として,好ましく1回当たり100又は
200単位,最も好ましく1回当たり200単位が例示される。
【0035】
V
投与間隔
本発明者らは,1週間に1回の頻度でPTH投与する二重盲検比較臨床試験を実
施した結果,当該投与による有意な骨折抑制効果と24または26週後という早期からの効果の発現を認め,一方で有害事象としての高カルシウム血症は確認されなかった(実施例1~2)
。従って,本発明は,その投与間隔を隔週とすることを特
徴の一つとする。
【0036】
VI

投与経路

本発明の骨粗鬆症治療/予防剤・骨折抑制/予防剤は,その製剤形態に応じた適当な投与経路により投与され得る。例えば,本発明の骨粗鬆症治療ないし予防剤或いは骨折抑制ないし予防剤が注射剤の場合には,静脈,動脈,皮下,筋肉内などに投与され得る。本発明者らは,PTHを皮下注射した結果,優れた効能・効果及び安全性を示すことを立証した(実施例1~2)
。従って,本発明は,その投与経路と

して皮下投与経路を好ましく例示可能である。
【0037】
VII

対象疾患

本発明に係る骨粗鬆症は特に限定されず,原発性骨粗鬆症及び続発性骨粗鬆症のいずれをも含む。原発性骨粗鬆症としては,例えば,退行期骨粗鬆症(閉経後骨粗鬆症及び老人性骨粗鬆症)特発性骨粗鬆症

(妊娠後骨粗鬆症,
若年性骨粗鬆症など)
が例示される。続発性骨粗鬆症は,
特定の疾病や特定の薬剤等の原因により誘発さ
れる骨粗鬆症であり,例えば,特定の薬剤,関節リウマチ,糖尿病,甲状腺機能亢進症,性機能異常,不動性,栄養性,その他先天性疾患などが原因として挙げられる。特定の薬剤として,例えば,ステロイドが例示される。本発明に係る骨粗鬆症
として骨折の危険性の高い骨粗鬆症を好ましく例示できる。骨折の危険性の高い骨粗鬆症への本発明の適応は下記の高リスク患者への本発明の適応を意味する。【0038】
本発明者らは,原発性骨粗鬆症の患者を対象とした臨床試験において,本発明の効果・効能や安全性を確認した(実施例1~2)
。従って,本発明に係る骨粗鬆症と
して好ましく原発性骨粗鬆症を例示でき,最も好ましく退行期骨粗鬆症を例示できる。
【0039】
本発明者らは,続発性骨粗鬆症を誘発するステロイドを服用する原発性骨粗鬆症患者を対象とした臨床試験において,
本発明の効果を確認した
(実施例2)従って,

本発明に係る原発性骨粗鬆症患者として,続発性骨粗鬆症を誘発するステロイドを
服用する原発性骨粗鬆症患者を好ましく例示できる。
【0040】
本発明者らは,合併症(糖尿病,高血圧,または高脂血症)を有する原発性骨粗鬆症患者を対象にした臨床試験において,本発明の効果を確認した(実施例2)。
従って,本発明に係る骨粗鬆症患者として,糖尿病,高血圧および高脂血症の少な
くともいずれか1の合併症を有する骨粗鬆症患者を好ましく例示でき,糖尿病,高血圧および高脂血症の少なくともいずれか1の合併症を有する原発性骨粗鬆症患者をさらに好ましく例示できる。
【0041】
糖尿病は骨粗鬆症性骨折リスク要因である可能性が高いことが知られている(非
特許文献16)

【0042】
糖尿病性骨粗鬆症とPTHの関係については動物実験において次の報告が認められる。
1)

糖尿病性の骨減少症示すsreptozotocin処理ラットに対して
hPTHを投与することによって,cancelous

enveropeにおい

て『骨量』『骨梁幅』『類骨表面』『石灰化面』『骨石灰化速度』『骨形成速度』,




の増加が見られ,さらに,endocortical

envelopeでは『類

骨表面』『石灰化面』『骨石灰化速度』『皮質骨厚』の増加が見られたことが報告,


されている(非特許文献21)
。ただし,本ラットは,他の原因による骨減少症ラッ
トと異なり,吸収面の顕著な減少は見られていない。
2)

sreptozotocin処理ラットに対して8週間に渡ってPTHを
投与した結果,海面骨量とターンオーバーの回復を認めたことが報告されている(非特許文献22)

3)

培養細胞における実験では高濃度のグルコースに曝露されるとhPTH
(1-34)に対する反応が落ちる(PTHの効きが悪くなる)ことが報告されている(非特許文献20)

【0043】
発明者は,糖尿病性骨粗鬆症ヒト患者へのPTH投与の効果を期待する医師等の多くの見解が存在している(例:http://www.richbone.com/kotsusoshosho/basic_shindan/tonyo.ht
m)ことを理解している一方で,その効果を実証した論文を見出せなかった。【0044】
従って,本発明の骨粗鬆症治療剤・骨折抑制/予防剤により,原発性骨粗鬆症と糖尿病の合併症患者に対しての椎体骨折リスクが低減されることを,本願試験で実証したことは重要な知見である。

【0045】
本発明に係る骨折は特に限定されず,椎体骨折及び非椎体骨折のいずれをも含み(実施例1)骨粗鬆症・骨形成不全・骨腫瘍などを原因とする病的骨折,,
交通事故・
打撲などを原因とする外傷性骨折のいずれをも含む。好ましくは,骨粗鬆症を原因とする骨折,さらに好ましくは骨粗鬆症を原因とする椎体骨折への適用を例示可能
である。骨折の部位も特に限定されないが,典型的には,脊椎圧迫骨折,大腿骨頸部骨折,大腿骨転子間部骨折,大腿骨骨幹部骨折,上腕骨頸部骨折,橈骨遠位端骨折を挙げることもでき,特に脊椎圧迫骨折が例示され得る。
【0046】
本発明に係る骨折の回数は特に限定されず,単発骨折及び多発骨折のいずれをも含む。単発骨折とは,骨が1箇所だけ折れるまたは亀裂が入る病状を意味し,多発骨折とは,骨が2箇所以上折れるまたは亀裂が入る病状を意味する。多発骨折における骨折数は特に限定されないが,2個~4個へ適用される場合が好ましい。【0047】
本発明に係る椎体骨折は新規骨折および増悪骨折のいずれをも含む。例えば,椎体全体の形態をみてその変形の程度はGrade分類されることができ,Grad
e0(正常)
,Grade1(椎体高約20~25%減少,かつ,椎体面積10~20%減少)Grade2

(椎体高約25~40%減少,
かつ,
椎体面積20~40%
減少)
,Grade3(椎体高約40%以上減少,かつ,椎体面積40%以上減少)とすることが一般的である。新規・増悪の区分はGenantの判定基準に従いGradeの増加パターンに沿って実施可能である。具体的には,Grade0から
Grade1,2,または3への変化が認められた場合には新規骨折と診断され,Grade1からGrade2または3,Grade2からGrade3への変化が認められた場合には増悪骨折とみなすことができる。さらにGradeの変化を正確に判断するために,Aら(非特許文献35)の方法,およびBら(非特許文献36)の方法に従って,椎体高の計測を行った。

【0048】
本発明者らは,既存骨折を有する患者を対象とした臨床試験において,本発明の増悪骨折抑制効果を確認した(実施例2)
。従って,本発明においては,骨粗鬆症患
者として,好ましく既存骨折を有する患者,
さらに好ましく既存骨折およびその増
悪骨折の可能性を有する患者への適用を例示できる。

【0049】
PTHの骨強度増強作用のメカニズムについては未だ不明な点が多い。骨強度は骨密度のみならず骨質の状態を反映するが,これは骨密度のみならず骨微細構造や石灰化など骨質要因が骨強度を規定することを意味する
(非特許文献17)本発明

者は,骨質は骨強度のみならず骨粗鬆症とは異なる疾病の発症リスクやその合併症の治癒成績に影響を及ぼす可能性があると考える。
本発明の骨粗鬆症治療/予防剤

骨折抑制/予防剤は,従前の治療剤(特許文献2)と比較してこれらの点で優位である可能性が示唆された。
【0050】
特許文献2は,rhPTH(1-34)を骨粗鬆症患者に投与した結果,骨塩含有量(BMC)や骨塩密度(BMD)のみならず,腰椎や大腿骨等の骨面積を増加
させたことを開示する。骨面積の増加は骨が外側に向かって肥厚することを意味する。
【0051】
ところが,本発明の骨粗鬆症治療/予防剤・骨折抑制/予防剤を骨粗鬆症患者に投与した結果,皮質骨厚が骨の外側ではなく骨の内側に増加した。すなわち,骨全
体の厚さは殆ど変化が認められなかった。本メカニズムは例えば下記に示される重要な臨床的意義を示すと考えられる。
【0052】
(1)長管骨肥厚による関節破壊がない
長管骨(四肢を構成する長形状の骨)の一つである大腿骨は,その骨端が関節軟
骨と接触してその他滑膜や半月板とともに膝関節を形成している。その接触面は厚さ数ミリ程度の軟骨に覆われる関節面と称される。膝関節痛の原因となる疾病として例えば変形性膝関節症が例示される。
【0053】
一方,プレドニゾン(prednisone)誘発骨粗鬆症と関節痛の合併症患
者に対してフォサマック
(Fosamax)と比較してフォルテオ(Forteo;
毎日投与のPTH)がより強い骨強化作用を示したことが知られている(非特許文献23~24)

【0054】
しかし,このフォルテオ投与は特許文献2に記載のPTH投与と実質的に同等の従来の治療方法であり,先に述べたように本従来方法は骨の外側に肥厚させる治療方法である。大腿骨の外側への肥厚は関節面の面積増大を意味し,軟骨細胞数は骨
の肥厚と比して増加しない為,
この従前治療法に起因する大腿骨の外側への肥厚は,
関節面の増大で惹起または増悪される軟骨細胞の損傷を介して関節の破壊を促進する可能性がある。
【0055】

ところが,本発明のように大腿骨の内側への肥厚は,関節面増大がなく,軟骨をより安定化させ,結果として,軟骨への負担を増やさずに関節破壊を実質的に促進させない可能性があると発明者は考えている。本剤による骨粗鬆症治療が前記従来法による骨粗鬆治療と比較して関節に優しい治療である可能性を示唆するものである。

【0056】
(2)椎体肥厚による変形性脊椎症の増悪または発症がない
加齢等の何らかの原因によって正常な椎体骨量が減少すると椎体が不安定化する。不安定化は終板の変形によって始まる。椎体の不安定化とは,具体的には,終盤の薄化や終盤孔(ハバース管)の拡大である。その不安定化が進むと,椎間板の終盤
孔への進入や椎間板狭小化が見られる。さらに症状が進めば,椎骨同士の衝突による骨棘(こつきょく)生成にいたる。このような脊椎の変性が変形性脊椎症といわれる疾病である。変形性脊椎症になると,椎間が安定化して椎間板の進入に起因する痛みや周辺の筋肉膨張による痛みなどが生じることになる。
【0057】

しかし,特許文献2に記載のようにPTHを毎日投与して骨の外側に肥厚させる場合,
終盤孔の拡大に対して十分な抑制作用が見られない可能性がある。あるいは,
椎体と椎間板の接触面積の増大によって,椎体間の距離が縮小し,椎体の不安定化が進み,結果として,変形性脊椎症の発症や増悪リスクが高くなる可能性もある。【0058】
一方,本発明の骨粗鬆症治療剤・骨折抑制/予防剤投与により,皮質骨厚が骨の外側ではなく骨の内側に増加していくため,終盤孔の拡大や椎間板の終盤孔への進入に対して十分に抑制できる可能性がある。
【0059】
(3)変形性股関節症・変形性顎関節症を増悪または発症促進させない変形性股関節症は,関節に対する血流不良や極度の加重や酷使を理由として,股
関節を形成している臼蓋と大腿骨頭の接触面の関節軟骨が摩耗,変性,不可逆性の変化を起こした状況である。変形性股関節症患者の大腿骨皮質骨面積は健常者のそれと比較して有意に大きい(非特許文献18)
。大腿骨皮質骨面積の増大は,大腿骨
の外側への肥大化を意味し,従ってこれが変形性股関節症の発症または増悪に関与している可能性がある。
本発明のように大腿骨の内側への肥厚化をさせる場合には,

大腿骨の外側への肥大化をさせることはないので,変形性股関節症の発症または増悪リスクを増大させない可能性がある。変形性顎関節症は顎関節の変形を主徴候とするものであるが,
皮質骨の肥厚が診断所見の一つとなっている
(非特許文献19)

従って,皮質骨のさらなる外側への肥大化が症状を悪化または発症させる可能性がある。本発明のように骨の内側へ肥厚させる場合には,このような変形性顎関節症
の発症または増悪リスクを増大させない可能性が推定される。
【0060】
以上,
(1)~(3)を纏めると,関節痛,変形性脊椎症,変形性腰痛症,変形性股関節症,および変形性顎関節症の少なくともいずれか1の疾病を合併症として有する骨粗鬆症患者(好ましくはそのうち原発性骨粗鬆症患者)を本発明の骨粗鬆症
治療/予防剤・骨折抑制/予防剤の適応患者として好ましく例示できる。【0061】
本発明者らは,1年以内の他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴が本剤有効性に与える影響を評価した。その結果,他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴がある原発性骨粗鬆症患者は服薬歴のない患者よりも被験薬有効性が高いことが明らかになった(実施例2)。
従って,本発明においては,骨粗鬆症患者として,他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴がある骨粗鬆症患者への適用を好ましく例示でき,他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴がある原発性骨粗鬆症患者への適用をさらに好ましく例示できる。
【0062】
また,他の骨粗鬆症治療薬として,L-アスパラギン酸カルシウム,アルファカルシドール,塩酸ラロキシフェン,エルカトニン,メナテトレノン,乳酸カルシウ
ム,が例示され,好ましくは,L-アスパラギン酸カルシウム,アルファカルシドール,エルカトニンが例示される。他の骨粗鬆症治療薬は単独または併用して投薬実績があってもよい。
【0063】
他の骨粗鬆症治療薬の投与歴のある骨粗鬆症患者に対して,本発明の骨粗鬆症治
療剤・骨折抑制/予防剤を24週~72週またはそれ以上にわたり投与することが好ましい。特にそのうち腰椎の骨折リスクの高い患者に対しては24週またはそれ以上にわたり投与することが好ましく,大腿骨頚部または大腿骨近位部の骨折リスクの高い患者に対しては72週またはそれ以上投与することが好ましい。【0064】

骨粗鬆症および腎障害は加齢とともにその有病率が上昇する。女性の骨粗鬆症患者の85%は軽度~中程度の腎障害を有しているという大規模な疫学研究報告もある(非特許文献32)
。従って,腎障害を有する骨粗鬆症患者に対して有効かつ安全
な薬剤を提供することは重要である。
【0065】

本発明者らは,腎機能正常の骨粗鬆症患者群,軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群,中等度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群いずれに対しても本発明の骨粗鬆症治療/予防剤・骨折抑制/予防剤が有効であることを示した(実施例2)。さら
に加えて,血清カルシウムに関する安全性において全ての群に対して本発明の骨粗鬆症治療剤・骨折抑制/予防剤は同等であることが明らかとなった。【0066】
腎機能正常,障害,および障害の程度は,クレアチニンクリアランスに基づき区別可能である。具体的には,クレアチニンクリアランスが80ml/min以上を腎機能正常,50以上80未満ml/minを軽度腎機能障害,
30以上50未満
ml/minを中等度腎機能障害と判定可能である。
【0067】

一般的には,血清カルシウムの正常上限濃度は10.6mg/mlでありこれを超える11.0mg/mlはやや高値といえる。従前のPTH毎日投与では,中程度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群の11.76%の患者に投与後にやや高値である11.0mg/mlを超える血清カルシウムが認められていた(非特許文献32)
。ところが,本発明においては,中程度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群に本
発明の骨粗鬆症治療/予防剤・骨折抑制/予防剤を投与した結果,11.0mg/mlを超える血清カルシウムが認められる患者は投与開始~最終時まで全ての検査時において一人も見出すことができなかった(実施例2)
。すなわち,有効性のみな
らず安全性の面でも,本発明の骨粗鬆症治療/予防剤・骨折抑制/予防剤が優れていると考えられる。従って,本発明の適用対象患者として,軽度腎機能障害を有す
る骨粗鬆症患者および/または中等度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者を好ましく例示でき,さらに好ましくは軽度腎機能障害を有する原発性骨粗鬆症患者および/または中等度腎機能障害を有する原発性骨粗鬆症患者を例示できる。【0068】
本発明に係る薬剤投与ないし治療方法が適用されるべき対象者の人種・年齢・性
別・身長・体重等は特に限定されないが,当該対象者として,骨粗鬆症患者が例示され,或いは骨粗鬆症における骨折の危険因子を多くもつ骨粗鬆症患者に対して本発明の方法を適用し,或いは本発明の骨粗鬆症治療剤又は骨折抑制ないし予防剤を投与することが望ましい。骨粗鬆症における骨折の危険因子としては,年齢,性,低骨密度,骨折既往,喫煙,アルコール飲酒,ステロイド使用,骨折家族歴,運動,転倒に関連する因子,骨代謝マーカー,体重,カルシウム摂取などが挙げられている(非特許文献10)
。しかして,本発明においては,下記(1)~(3)の全ての
条件を満たす骨粗鬆症患者(ないし対象者)を高リスク患者として定義する。(1)年齢が65歳以上である
(2)既存骨折がある
(3)骨密度が若年成人平均値の80%未満である,および/または,骨萎縮度が
萎縮度I度以上である。
【0069】
ここで,骨密度とは,典型的には腰椎の骨塩量を指す。但し,腰椎骨塩量の評価が困難な場合では,橈骨,第二中手骨,大腿骨頸部,踵骨の骨塩量値により当該骨密度を示すことができる。また,若年成人平均値とは20~44歳の骨密度の平均
値を意味する。骨密度は,例えば,二重エネルギーX線吸収測定法,photodensitometry法,光子吸収測定法,定量的CT法,定量的超音波法など自体公知の方法により測定可能である。
また,
本発明において骨萎縮度とはX線上
骨量減少度を意味する。
骨萎縮度は,
骨萎縮なし,
骨萎縮度I度,
骨萎縮度II度,
及び骨萎縮度III度に分類される。
当該骨萎縮度における骨萎縮なしとは,
正常

状態を指し,具体的には,縦・横の骨梁が密であるため骨梁構造を認識することができない状態を意味する。骨萎縮度I度とは,縦の骨梁が目立つ状態を意味し,典型的には,縦の骨梁は細くみえるがいまだ密に配列しており,椎体終板も目立ってくる状態を意味する。
当該骨萎縮度における骨萎縮度II度とは,
縦の骨梁が粗と
なり,
縦の骨梁は太くみえ,
配列が粗となり,
椎体終板も淡くなる状態を意味する。

当該骨萎縮度における骨萎縮度III度とは,縦の骨梁も不明瞭となり,全体として椎体陰影はぼやけた感じを示し,
椎間板陰影との差が減少する状態を意味する
(骨
粗鬆症治療,
5/3,
2006年7月号,
単純X線写真による骨粗鬆症の診断。

骨萎縮度は,例えば,腰椎側面X線像から判定可能である。本発明でいう椎体骨折数は,例えば,Genantらの方法(非特許文献14)により容易に計測可能である。椎体以外の部位の骨折は,例えば,レントゲンフィルムを用いて容易に確認され得る。
【0070】
本発明においては,特に高リスク患者に対して本発明の方法を適用し,或いは本発明の骨粗鬆症治療ないし予防剤又は骨折抑制ないし予防剤を投与することが特に好ましい(実施例1)


【0071】
一方,一般的に,下記(1)~(6)の少なくともいずれかに該当する患者(対象者)に対しては本発明の方法を適用すること,及びそれに従う本発明の骨粗鬆症治療ないし予防剤又は骨折抑制ないし予防剤の投与を避けることも好ましい。(1)気管支喘息,発疹(紅班,膨疹等)などの過敏症を起こしやすい体質の患者
(2)高カルシウム血症患者
(3)妊婦または妊娠している可能性のある婦人
(4)甲状腺機能低下症または副甲状腺機能亢進症の患者
(5)過去に薬物過敏症を呈したことのある患者
(6)心疾患,肝疾患,腎障害など重篤な合併症を有する患者

従って,
本発明においては,
上記高リスク患者であって,
かつ,(1)(6)
上記

全てに該当しない骨粗鬆症患者等を適用対象とすることが好ましい。【0072】
VIII

製剤

本発明に係る骨粗鬆症治療/予防剤又は骨折抑制/予防剤(以下,単に本剤ということもある。
)は,種々の製剤形態をとり得る。一般的には,本剤は,PTH
単独又は慣用の薬学的に許容される担体とともに注射剤等とされ得る。本剤の剤形として注射剤が好ましい。
【0073】
例えば,本剤が注射剤の場合,PTHを適当な溶剤(滅菌水,緩衝液,生理食塩水等)に溶解した後,フィルター等で濾過および/またはその他適宜の方法にて滅菌して,次いで無菌的な容器に充填することにより調製され得る。その際にPTHとともに必要な添加物(例えば,賦形剤,安定化剤,溶解補助剤,酸化防止剤,無痛化剤,等張化剤,pH調整剤,防腐剤等)を添加しておくことが好ましい。このような添加物として,
例えば,類,

アミノ酸,
又は食塩等を挙げることができる。
添加剤として糖類を用いる場合には,糖類として,マンニトール,グルコース,ソ
ルビトール,イノシトール,シュークロース,マルトース,ラクトース,トレハロースをPTH1重量に対して1重量以上(好ましくは50~1000重量)添加することが好ましい。添加剤として糖類及び食塩を用いる場合には,糖類1重量に対して1/1000~1/5重量(好ましくは1/100~1/10重量)の食塩を添加することが好ましい。

【0074】
例えば,本剤が注射剤の場合,本剤は凍結乾燥等の手段により固形化されたもの(凍結乾燥製剤等)でもよく,用時に適当な溶剤で溶解すればよい。あるいは,本剤が注射剤の場合,本剤は予め溶解されてなる液剤であってもよい。【0075】

また,好ましくは,本剤は,骨粗鬆症治療剤及び骨折抑制/予防剤として,1回当たり100~200単位のヒトPTH
(1-34)
を隔週で投与すべき旨を記載
したパッケージに収容されるか,そのような旨を記載した添付文書とともにパッケージに収容された薬剤とすることができる。
【0076】

なお,本願発明の有用性は,実施例に示される臨床試験の結果を慣用の方法で統計処理等することによっても容易に確認することができる。また,以下,本発明を実施例により本発明をさらに具体的に説明するが,本発明の範囲は以下の実施例に限定されることはない。
【実施例】
【0077】
(実施例1)
原発性骨粗鬆症と診断された男女の患者(非特許文献12)に対して,Takaiの方法(特許文献4~5,非特許文献11)により調製した,5あるいは100単位のテリパラチド酢酸塩をそれぞれ週に1回間欠的に皮下投与した(それぞれを5あるいは100単位投与群とする)なお,

テリパラチド酢酸塩の活性測定はMa

rcusらの論文(非特許文献9)に従った。
【0078】
5または100単位投与群は,1バイアル中にテリパラチド酢酸塩を5または100単位含有する凍結乾燥製剤を生理食塩水1mLに用時溶解してその溶液全量を投与した。さらに,5または100単位投与群共に,カルシウム剤(1錠中に沈
降炭酸カルシウムを500mg[カルシウムとして200mg]含有)を1日1回2錠投与した。
【0079】
骨粗鬆症患者は,
非特許文献13に示された,
骨折の危険因子の保有状況により,
表-1に示す条件で区分して比較した。高リスク患者(以下,単に高リスク者と称
することもある)は,年齢,既存の椎体骨折,骨密度あるいは骨萎縮度の3因子をすべて有するものと定義し,低リスク者はそれ以外のものとした。【0080】
【表1】
(後記)
患者背景は表-2,3に示す通りであり,両群の背景に統計学的な有意差は認め
られなかった(p<0.05)

【0081】
【表2】
(後記)
【表3】
(後記)
【0082】
投与期間中はカルシトニン製剤,活性型ビタミンD3製剤,ビタミンK製剤,イプリフラボン製剤,ビスホスホン酸塩製剤,エストロゲン製剤,蛋白同化ホルモン製剤,医師の処方によるカルシウム製剤(ただし,上記の1日1回2錠投与されるカルシウム剤は除く)
,その他骨代謝に影響を及ぼすと考えられる薬剤の併用は禁
止した。骨評価としては,腰椎骨密度と骨折の発生の確認を実施した。腰椎骨密度は,二重エネルギーX線吸収測定法(DXA法)を用いて第2~第4腰椎骨密度の
測定を開始時と以降6ヶ月毎に実施した。骨折発生頻度は,椎体では,第4胸椎から第5腰椎までの正面,側面のX線撮影を開始時と以降6ヶ月毎に実施し,Genantらの方法(非特許文献14)を参考に,開始時と以降の時点のレントゲンフィルムを比較して,新規椎体骨折を評価した。また椎体以外の部位では,レントゲンフィルムでの確認で評価した。
また,
全症例において投与開始時および投与期間

中に採血を行い,カルシウム濃度を含む一般臨床検査値を測定した。(DXA,新規
椎体骨折は中央で一括判定し,椎体以外の骨折は担当医師がレントゲンフィルムにより判定)
高リスク者における投与期間は,
5単位投与群で85.
1±20.
8週,
100単位投与群で83.7±19.8週であり両群間で有意な差は認められなかった(p<0.05)
。また低リスク者は,5単位投与群で72.7±19.4週,

100単位投与群で88.3±21.3週であり両群間で有意な差は認められなかった(p<0.05)

【0083】
表-4,5に高リスク者,低リスク者の別での,投与群別の腰椎骨密度の推移を示した。
高リスク者においては,
100単位投与群の骨密度は投与開始時に比較し

有意に高い骨密度の増加が認められ,5単位投与群と比較しても有意に高い値を示した(p<0.05)
。一方低リスク者においては,投与開始時との比較および群間
での比較において有意差は認められなかった(p>0.05)

【0084】
【表4】
(後記)
【0085】
【表5】
(後記)
【0086】
表-6,7に高リスク者,低リスク者の別での,投与群別の新規椎体骨折発生の結果を示した。高リスク者においては,100単位投与群は5単位投与群に比べ骨折発生は有意に低かった(p<0.05)
。一方低リスク者においては,群間で有意

差は認められなかった(p>0.05)

【0087】
【表6】
(後記)
【0088】
【表7】
(後記)

【0089】
表-8,9に高リスク者,低リスク者の別での,投与群別の26週毎の新規椎体骨折発生の結果を示した。高リスク者においては,100単位投与群は5単位投与群に比べ,26週後から骨折発生を抑制した。一方,低リスク者においては群間の差は認められなかった。

【0090】
【表8】
(後記)
【0091】
【表9】
(後記)
【0092】

表-10,11に高リスク者,低リスク者の別での,投与群別の椎体以外の部位での骨折発生の結果を示した。高リスク者においては,100単位投与群は5単位投与群に比べ骨折発生は有意に低かった。一方低リスク者においては,群間で有意差は認められなかった。
【0093】
【表10】
(後記)
【0094】
【表11】
(後記)
【0095】
図1に高リスク者,低リスク者の別での,投与群別の血清カルシウム濃度推移の結果を示した。実施した採血サンプルを用いた臨床検査値の結果のうち,低リスク
者の5単位投与群において薬剤投与開始前より高値であった1症例を除き,全例で高カルシウム血症は認められず,また,血清カルシウムが上昇する傾向も認められなかった。
【0096】
以上の表から分かる通り,原発性骨粗鬆症患者のうち,新規骨折の危険因子を有
する患者において,テリパラチド酢酸塩を週1回100単位間欠的に皮下投与することによって,有意な腰椎の骨密度の増加が認められ,さらに新規椎体骨折の抑制が認められた。即ち,本発明の新規骨折の高リスク患者に対する,テリパラチド酢酸塩の週1回100単位投与は,有用な骨粗鬆症治療剤及び骨折抑制ないし予防剤となり得ることが確認された。

【0097】
また,投与期間中,本発明テリパラチド酢酸塩の週1回投与では,いずれの投与量においても高カルシウム血症の発症はなく,既に知られているテリパラチド酢酸塩の連日投与に比較し,有用であるものと考えられた。
【0098】

(実施例2)
原発性骨粗鬆症と診断された男女の高リスク患者に対して,
Takaiの方法
(特
許文献4~5,非特許文献11)により調製した被験薬(1バイアル;1バイアルにテリパラチド酢酸塩200単位を含む注射用凍結乾燥製剤)または対照薬(1バイアル;1バイアルにテリパラチド酢酸塩を実質的に含まないプラセボ製剤)をそれぞれ生理的食塩水1mLで用時溶解して72週間にわたり週に1回の頻度で間欠的に皮下投与した。
【0099】
上記患者は,併せて,カルシウム剤2錠を1日1回夕食後に服薬した。本カルシウム剤は,2錠中にカルシウム610mg,ビタミンD3400IU及びマグネシウム30mgを含有するソフチュアブル製剤であり,成分として,沈降炭酸カルシ
ウム,炭酸マグネシウム,コレカルシフェロール(ビタミンD3)等を含み,新カルシチュウ(商標)D3
(販売元:第一三共ヘルスケア,製造販売元:日東薬品工
業株式会社)の商品名として市販されているものである。
【0100】
なお,上記患者は全て自立歩行可能な外来患者であり,かつ,以下の(1)~(1
9)いずれの基準にも該当しない患者である。
(1)

所定の原因により続発性骨粗鬆症と診断された患者。ここで所定の原因と
は,内分泌性(甲状腺機能亢進症,性腺機能不全,Cushing症候群),栄養性
(壊血病,その他(タンパク質欠乏,ビタミンAまたはD過剰),薬物(副腎皮質)
ホルモン,メトトレキサート(MTX)
,へパリン,アロマターゼ阻害剤,GnRH
アゴニスト)不動性

(全身性
(臥床安静,
対麻痺,
宇宙飛行)局所性

(骨折後等),

先天性(骨形成不全症,Marfan症候群等)
,その他(関節リウマチ,糖尿病,
肝疾患,消化器疾患(胃切除)等)を意味する。
(2)骨粗鬆症以外の骨量減少を呈する所定の疾患を有する患者。ここで所定の疾患とは,
各種の骨軟化症,
原発性,
続発性副甲状腺機能亢進症,
悪性腫瘍の骨転移,

多発性骨髄腫,脊椎血管腫,脊椎カリエス,化膿性脊椎炎,その他を意味する。(3)椎体の強度に影響を及ぼすと考えられる所定のX線所見を有する患者。ここで所定とは6個以上の連続した椎体が架橋を形成している,椎体周辺の靱帯に著しい骨化が認められる,脊椎に著しい脊柱変形を有する,椎体の手術が施行されている,ことを意味する。
(4)胸腰椎体全体を覆うコルセットを装着している患者。
(5)同意取得前52週(364日)以内にビスホスフォネート製剤の投与を受けた患者。
(6)同意取得日に以下の骨粗鬆症治療薬の投与を受けている患者(ただし,治療開始までに8週(56日)以上の休薬(ウォッシュアウト)が可能ならば,対象として選択可とする)カルシトニン製剤,

活性型ビタミンD3製剤,
ビタミンK製剤,

イプリフラボン製剤,エストロゲン製剤,SERM製剤,蛋白同化ホルモン製剤。(7)気管支喘息,発疹(紅斑,膨疹等)等の過敏症状を起こしやすい体質の患者。(8)PTH製剤に対して過敏症の既往歴のある患者。
(9)骨バジェット病の患者。
(10)悪性骨腫瘍の既往または過去5年以内に悪性腫瘍の既往のある患者。
(11)多発性外骨腫症の患者。
(12)
骨格への放射線外照射療法歴または放射線組織内照射療法歴を有する患者。(13)血清カルシウム値が11.0mg/dL以上の患者。
(14)アルカリフォスファターゼ値が基準値上限の2倍以上の患者。(15)重篤な腎疾患,肝疾患または心疾患を有する患者。各疾患の基準は次の通
り。
腎疾患:血清クレアチニン値が2mg/dL以上
肝疾患:AST(GOT)またはALT(GPT)値が基準値上限の2.5倍以上または100IU/L以上
心疾患:
医薬品の副作用の重篤度分類基準について(平成4年6月29日薬安発第80号)に示すグレード2を参考に判断する。(16)問診の信頼性が低いと判断された患者(少なくとも認知症の患者は必ず除外する)

(17)他の治験薬を同意取得前26週(182日)以内に投与された患者。(18)過去に治験でPTH製剤の投与を受けた患者。
(19)その他,治験責任(分担)医師が本治験の実施にあたり不適当と判断した患者。
【0101】
また,
上記患者は,
治験への同意時から治験終了時までの間,
以下の
(1)(6)

いずれの薬剤の投与が禁止された。
(1)

テリパラチド酢酸塩以外の骨粗鬆症治療薬(具体的には,ビスホスフォネ
ート製剤,
カルシトニン製剤,
活性型ビタミンD3製剤,
カルシウム製剤
(ただし,
上記の1日1回夕食後に服薬するカルシウム製剤は除く)
,ビタミンK製剤,イプ
リフラボン製剤,エストロゲン製剤,SERM製剤,蛋白同化ホルモン製剤)(2)

副腎皮質ホルモン製剤(ただし,筋注,静注または経口投与,ブレドニゾ
ロン換算で,1週間平均として5mg/日を超える場合,1日投与量として10mg/日を超える場合,または総投与量が450mgを超える場合)(3)

アロマターゼ阻害剤

(4)

GnRHアゴニスト

(5)

他の治験薬

【0102】
被験薬および対照薬の投与例数は,それぞれ,290例(実施例において被験薬投与群と称することもある)および288例(実施例において対照薬投与群と称することもある)であり,投与総症例数は578例であった。ただし,試験の種類に応じてそれぞれの投与群の例数が異なることがあり,例えば(n=**)や評価例数等の表現で示すことがある。

【0103】
骨評価としては,骨密度と骨ジオメトリー,骨折の発生の確認を実施した。【0104】
腰椎骨密度は,二重エネルギーX線吸収測定法(DXA法)を用いて第2~第4腰椎骨密度の測定を開始時と以降24週毎に実施した。
【0105】
大腿骨骨密度は,二重エネルギーX線吸収測定法(DXA法)を用いて大腿骨近位部を20度内旋し,左側のみの測定を開始時と以降24週毎に実施した。【0106】
DXAジオメトリーは担当医が測定した開始時と以降24週毎の大腿骨骨密度データで評価した。

【0107】
CTジオメトリーはマルチスライスCTを用いて大腿骨近位部の測定を開始時,48週後,72週後に実施した。
【0108】
骨折発生頻度は,椎体では,第4胸椎から第4腰椎までの正面,側面のX線撮影
を開始時と以降24週毎に実施し,Genantらの方法(非特許文献14)を参考に,開始時と以降の時点のレントゲンフィルムを比較して,新規および増悪椎体骨折を評価した。また椎体以外の部位では,レントゲンフィルムでの確認で評価した(DXA,骨ジオメトリー,新規および増悪椎体骨折は中央で一括判定し,椎体以外の骨折は担当医がレントゲンフィルムにより判定)


【0109】
(A)椎体多発骨折に対する被験薬の有効性
ここで椎体多発骨折を新規の2箇所以上の椎体骨折と定義して,投与72週後における被験薬投与群(n=261)と対照薬投与群(n=281)それぞれにおける椎体多発骨折発生比率(例数)を比較したところ,対照薬投与群は2.1%(6
例)
,被験薬投与群は0.8%(2例)であった。すなわち,被験薬は椎体多発骨折に対して抑制ないし予防効果を有することが示された。
骨折発生個数別の症例数を下記表に示す。
【表12】
(後記)
【0110】
(B)ステロイドを服用する原発性骨粗鬆症患者に対する被験薬の有効性ステロイドを服用する原発性骨粗鬆症患者に対する被験薬投与の効果を試験した。その結果,下記の表のとおり,ステロイドを服用する原発性骨粗鬆症患者に対して被験薬が有効であることが示された。
【0111】
【表13】
(後記)

【表14】
(後記)
【0112】
ステロイドは続発性骨粗鬆症の原因となる薬剤であることから,上記の結果は,ステロイドの続発性骨粗鬆症を誘発する薬剤に起因する続発性骨粗鬆症に対して被験薬が効果を奏する可能性を示唆するものであると考えられる。

【0113】
(C)大腿骨3部位に対する被験薬の有効性
大腿骨3部位(大腿骨頚部,大腿骨転子間部,大腿骨骨幹部)に対する被験薬の効果を一般的なCT法に準じて試験した。その結果,下記の表のように,大腿骨各部位に対して被験薬は有効であることが示された。

【表15】
(後記)
【表16】
(後記)
【表17】
(後記)
【0114】
(D)被験薬投与に伴う悪心・嘔吐に対する処方検討

被験薬投与に伴う悪心・嘔吐に対する様々な処置薬の投与時期と有効性について試験した。
【表18】
(省略)
【0115】
上記の通り,プリンペラン,ナウゼリン,ガスターD,ガスモチン,タケプロンOD,六神丸が有効であった。特に,ナウゼリン,又はガスモチン,六神丸が好ましかった。
【0116】
(E)合併症の種類またはその有無が被験薬効果に与える影響評価上記患者の中には合併症を有している者もいる。
そこで,
合併症の種類
(糖尿病,
高血圧,高脂血症)やその有無が被験薬効果に与える影響を評価した。その結果,
下記の表の通り,これら合併症の種類や有無に関わらず,さらに投与後24週時点以降において,被験薬は新規椎体骨折発生を抑制することが明らかになった。【表19】
(後記)
【0117】
糖尿病を原疾患とする糖尿病性骨粗鬆症は続発性骨粗鬆症の一つであるが,糖尿
病を合併症として有する原発性骨粗鬆症患者に被験薬効果が認められたことは,被験薬が糖尿病性骨粗鬆症に対しても治療効果を示す可能性を示唆するものと考えられる。
【0118】
(F)増悪骨折に対する被験薬の有効性

増悪骨折に対する被験薬の有効性を試験した。その結果,下記の表のように,増悪骨折に対して被験薬は有効であることが示された。
【表20】
(後記)
【0119】
(G)他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴が被験薬有効性に与える影響の評価
前述のように,上記患者に対して,治験への同意時から治験終了時までの間,テリパラチド酢酸塩以外の骨粗鬆症治療薬の投与は原則的に禁止された。しかし,治験への同意時以前においては,所定の条件の下,他の骨粗鬆症治療薬の服薬を受けている患者も存在していた。そこで,当該他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴が被験薬有効性に与える影響を,
新規椎体骨折発生率および骨密度変化率の観点から評価した。
【0120】
新規椎体骨折発生率に関する評価結果を下表に示す。該表中,被験薬投与後72週時において,当該他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴がある患者について被験薬投与群の骨折率が2.9%であり対照薬投与群の骨折率が16.1%であったが,服薬歴のない患者について被験薬投与群の骨折率が3.2%であり対照薬投与群の骨折率が12.9%であった。すなわち,他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴がある患者は服
薬歴のない患者よりも被験薬有効性が高いことが明らかになった。【表21】
(後記)
【0121】
次に骨密度変化率についての評価結果を下表に示した。該表中,腰椎骨密度に関しては,
いずれの他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴がある患者においても,
被験薬投与

後48週で当該骨密度の増加が顕著になっており,特に,他の骨粗鬆症治療薬がL-アスパラギン酸カルシウム,エルカトニン,アルファカルシドール,メナテトレノン及びカルシトリオールである被験薬投与群においては,投与後24週という早期段階での腰椎骨密度の顕著な増加が見られた。更に注目されるのは,他の骨粗鬆症治療薬がL-アスパラギン酸カルシウム及びエルカトニンの場合,被験薬投与後7
2週時点の大腿骨頚部及び近位部骨密度の顕著な増加がみられ,特に,他の骨粗鬆症治療薬がエルカトニンの場合では,大腿骨近位部骨密度が被験薬投与後24週時点から既に大幅に増加している点は特筆に値するであろう。
【表22】
(後記)
【0122】

また,他の骨粗鬆症治療薬の服薬歴が被験薬有効性に与える影響を,個別の当該他の骨粗鬆症治療薬について,新規椎体骨折発生率の観点から詳しく評価した結果を下表に示したが,その表からわかるとおり,カルシトリオール以外の骨粗鬆症治療薬服用歴のある患者において,被験薬投与による新規骨折の顕著な抑制が見られた。
【表23】
(後記)
【0123】
(H)腎機能障害を有する骨粗鬆症患者への被験薬の有効性及び安全性腎機能正常の骨粗鬆症患者群,軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群,および中等度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群に対する被験薬の有効性及び安全性を試験した。

【0124】
(H-1)各患者群の背景因子の分布(詳細)
腎機能正常の骨粗鬆症患者群をNormal(80≦),軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群をMildimpairment(50≦<80),中等
度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群を

Moderateimpairment(<50)と表記した。また,被験薬投与群を「PTH200群


,対照薬投与
群をP群と表記した。また,軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群と中度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群を併せてAbnormal(<80)と表記することもある。各患者はその患者のクレアチニンクリアランスをもとに上記群に分類した。
具体的には,
クレアチニンクリアランスが80ml/min以上を腎

機能正常,50以上80未満ml/minを軽度腎機能障害,30以上50未満ml/minを中等度腎機能障害とみなした。
【0125】
(H-1)各患者群の背景因子の分布
各患者群の背景因子の分布は次のようになる。

【表24】
(後記)
【0126】
(H-2)各患者群に対する被験薬の有効性(骨折抑制)
腎機能正常の骨粗鬆症患者群および腎機能障害(軽度・中程度)を有する骨粗鬆症患者群いずれに対しても被験薬が新規椎体骨折抑制効果を有することが明らかとなった。
【表25】
(後記)
【0127】
(H-3)各患者群に対する被験薬の有効性(骨密度増加)
腎機能正常の骨粗鬆症患者群,軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群,中等度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群いずれに対しても被験薬が腰椎骨密度増加効果
を有することが明らかとなった。
【表26】
(後記)
【0128】
(H-4)各患者群に対する被験薬の安全性(補正血清カルシウム)腎機能正常の骨粗鬆症患者群,軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群,中等度腎
機能障害を有する骨粗鬆症患者群いずれに対しても被験薬を投与した結果,どの群に対しても被験薬と対照薬間で有意差は認められなかった。すなわち,血清カルシウムに関する安全性において全ての群に対して被験薬は同等であることが明らかとなった。
【表27】

【0129】
(H-5)各患者群に対する被験薬の安全性(有害事象発現率)
腎機能正常の骨粗鬆症患者群,軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群,中等度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群それぞれに被験薬を投与した後の有害事象発現率を試験した。

【表28】
(後記)
【表29】
(後記)
【表30】
(後記)
【0130】
(H-6)各患者群に対する被験薬の安全性(副作用発現率)
腎機能正常の骨粗鬆症患者群,軽度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群,中等度腎機能障害を有する骨粗鬆症患者群いずれに対しても被験薬を投与した結果,どの群に対しても被験薬は対照薬の約2倍の発現率を示した。すなわち,副作用発現率に関する安全性において全ての群に対して被験薬は同等であることが明らかとなった。【表31】
(後記)
【表32】
(後記)

【表33】
(後記)
【0131】
(I)新規椎体骨折発生率の経時変化に対する被験薬投与の影響
被験薬投与群をPTH200群
,対照薬投与群をP群と表記した。
【表34】
(後記)

【表35】
(後記)
【0132】
上記の表が示すように,半年ごとの新規椎体骨折発生率は,P群では,いずれの区間も約5%でほぼ一定であった。それに対して,PTH200群では,投与期間が長くなるにつれて区間毎の発生率が低下しており,48週を超えてからの新規椎
体骨折の発生はなかった。また,PTH200群の新規椎体骨折発生率は,24週以内,24週~48週,48週~72週のいずれの区間でもP群より低く,プラセボに対する相対リスク減少率
(Relative

Risk

Reduction


RRR)は投与を継続するにつれて増加した。このように,本剤200単位の週1回投与は,新規椎体骨折の発生を早期から抑制し,24週後には既に骨折発生リスクをプラセボに対して53,9%低下させた。また,本剤による骨折抑制効果は,投与とともに増強する傾向が認められた。
【0133】
その他,骨折試験のFASにおいて,Kaplan-Meier推定法による72週後の椎体骨折(新規+増悪)発生率は,PTH200群3.5%,P群が16.3%であり,本剤200単位の発生率はプラセボ群より低かった(logrank検定,p<0,0001)
。また,本剤200単位は,72週後には,椎体骨折(新
規+増悪)の発生リスクをプラセボに比べて78.6%低下させた。半年毎の椎体骨折(新規増悪)発生率を群間で比較すると,24週以内,24週~48週,48週~72週のいずれの区間でも,PTH200群の発生率はP群より低かつた。【0134】

(J)骨粗鬆症患者の尿中カルシウムおよび血清カルシウムに与える被験薬投与の影響
被験薬投与群をPTH200群
,対照薬投与群をP群と表記した。被験薬
あるいは対照薬を週1回の頻度で72週間患者に投与した際の尿中カルシウム値および補正血清カルシウム値の変動について試験した結果を示す(図4~5)。

尿中カルシウム値変化率の平均値(および中央値)は,開始時に比較72週後でPTH200群3.2%(-14.7%)
,P群23.6%(1.6%)で,P群に
比べPTH200群で減少傾向が見られた。
補正血清カルシウム値は,両群共に平均9.3~9.6mg/dLの範囲で推移した。PTH200群の投与後の補正血清カルシウムは最小値で8.5mg/dI

(48および72週後)最大値で11.

6mg/dl
(4週後)
であり,
P群では,
最小値で8.5mg/dL(4週後)
,最大値で12.lmg/dI(12週後)
であつた。両群共に,大きな変動は認められなかつた。
本試験で血清カルシウム上昇および低下の有害事象は認められなかった。本試験でPTH200群はP群と比較して高Ca血症および高Ca尿症のいずれ
の発現も認められなかった。
【産業上の利用可能性】
【0135】
本発明の骨粗鬆症治療/予防及び骨折抑制/予防方法は効能・効果及び安全性の両面で優れ,本発明の骨折抑制方法は安全性が高く,いずれも骨粗鬆症等治療や骨折抑制/予防のために大きく貢献する画期的な医療技術である。従って,当該目的のための本発明の骨粗鬆症治療/予防剤及び骨折抑制/予防剤は,医薬品産業において極めて有用である。

(表)

(図面)

(別紙2)
甲7文献の記載事項(抜粋)
(表及び図は末尾に一括して掲記した。


[296頁左欄1行ないし右欄7行目]
要約
ヒト副甲状腺ホルモンのアミノ末端ペプチド1-34(hPTH(1-34))の
骨粗鬆症治療に対する効果を検討するために,71施設にて骨粗鬆症患者220名を対象として無作為に二重盲検下にて3群に割り付け,hPTH(1-34)の5
0単位(L群)
,100単位(M群)または200単位(H群)を,毎週皮下注射し,骨形成促進剤としての可能性について検討した。
二重エネルギーX線吸収測定法
(D
XA)で測定したところ,投与後48週目には,腰椎骨密度(BMD)はL,MおよびH群でそれぞれ,0.6%,3.6%および8.1%増加した。また,MとH群での薬物への応答はL群より有意に高かった(p<0.05,マン・ホイットニ
ーのU検定)
。腰椎測定の変動係数が1~2.5%に留まることから,3.6%および8.1%の増加は有意であると思われる。ラジオグラメトリによる中手骨のBMDと皮層の厚さの測定では,有意な変化はみられなかった。血清カルシウムはそれぞれの群で減少し,血清リンはMとH群で減少した。尿中カルシウム/クレアチニンが,
H群では治療後12週目に,
MとL群では治療後24と48週目に減少した。

それぞれの群で,血清25(OH)ビタミンDと1,25(OH)2ビタミンDが治療48週目に減少した(p<0.05)
。血清中の骨型アルカリホスファターゼが,
HとM群で4週目に増加し,H群では48週目に減少した。尿中のヒドロキシプロリン,
ピリジノリンおよびデオキシピリジノリンはそれぞれの群で有意に減少した。各群の30~40%で,背部痛の改善がみられた。試験期間中を通じて,重篤な副
作用はみられなかった。hPTH(1-34)の間欠的毎週投与によって,骨粗鬆症で腰椎のBMDが増加し,骨粗鬆症治療に有用であることを示唆していた。[296頁右欄10行ないし297頁左欄25行目]
序説
閉経後および退行期の骨粗鬆症を治療するためには,主にエストロゲン,ビスホスホネートおよびカルシトニンなどの骨吸収抑制剤に頼っている。ここに挙げた薬剤を投与することによって骨密度(BMD)が増加するため,骨折予防は飛躍的に進歩したことから,骨形成の刺激によって,幾つかの骨吸収抑制剤の迅速かつ時には一時的な効果が補完されることが考えられ,骨吸収抑制剤の骨同化効果が長期間にわたり,退行期骨粗鬆症,特に低回転型の疾患に対して注目すべき有効な治療と
なり得ることが期待できる。副甲状腺ホルモン(PTH)が骨形成促進作用を有することが動物とヒトで示されており,
特に間欠的投与でその効果が認められている。
しかし,原発性副甲状腺機能亢進症でみられるように,骨が大量のPTHに持続的に曝されることによって線維性骨炎を発症する懸念がある。ヒトPTHのアミノ末端ペプチド1-34(hPTH(1-34)
)の100または200単位を皮下注射

で単回投与した予備試験の結果によると,血清リンの下降,血清サイクリックAMPの上昇,尿中のカルシウムとサイクリックAMP排泄の増加をはじめとする重要な代謝系に対する効果が示された。100または200単位を毎週投与すると,治療後26週目で腰椎BMDが有意に増加したが,5単位毎週投与では効果がなかった。

この結果を踏まえて本試験では,骨粗鬆症患者220名を対象として,hPTH(1-34)の50,100または200単位を毎週投与した時の効果をみるために,無作為化,前向き,二重盲検,多施設試験を実施した。主要評価項目は,二重エネルギーX線吸収測定法(DXA)を用いた腰椎BMDの評価とし,ラジオグラメトリによる中手骨皮質のBMD,および骨代謝回転の生化学的マーカーを副次評
価項目とした。ここに挙げた濃度のhPTH(1-34)の1週1回投与が―これまでに検討されたことがない低濃度の間欠的投薬計画を意味するものだが―骨粗鬆症治療に便益性をもたらすかどうかを検討した。

[297頁左欄27行ないし右欄42行目]
試験対象
71施設が参加した多施設試験を実施した。試験は,厚生省による委員会が提唱
した診断基準で骨粗鬆症と定義された年齢範囲が45から95歳の被験者220名を対象として実施した。このシステムは,単に骨粗鬆症を非外傷性脊椎骨折が存在する,または脊椎骨折が2箇所に存在するものとして定義するのではなく,複数の因子をスコア化することによって評価して骨粗鬆症を定義するものである。スコアの計が4より高い場合(骨粗鬆症と定義)をこの治験への組み入れ基準とした。日本の大部分で,医療関係者が骨粗鬆症の診断に使用できる方法が未だに脊椎のX線撮影に限られていることから,X線撮影は骨粗鬆症の診断基準として実施せざるを得なかった。
X線上の骨減少は,
腰椎の側面X線写真で骨梁の菲薄化,
つまり
(1)
横骨梁欠損による縦骨梁の明瞭化,
(2)縦骨梁が粗となるおよび(3)縦骨梁の減

少が認められた場合とした。X線上の骨減少は,BMDで若年成人の平均値から20%または2.5SDの減少に相当する。本試験では,たとえば,腰椎BMDの平均値がLunar社製DPXデンシトメーターで測定した時に0.736g/cm2
,Hologic社製QDRデンシトメーターで測定した時に0.694g/c2
m,Norland社製XRデンシトメーターで測定した時に0.624g/c2
mを示す者を試験対象に含めた。なお,この基準は現在用いられている他の基準と一致している。X線上の骨減少度がグレード1から3,またはBMDが若年成人の平均値から2.5SD未満の場合はスコア3とした。椎体骨折が1箇所の場合はスコア1,骨折が2箇所以上の場合はスコア2とした。大腿骨頸部骨折がある場合はスコア3とし,橈骨遠位端骨折がある場合はスコア1とした。骨量減少の原因と
なる骨軟化症,原発性副甲状腺機能亢進症および腎性骨異栄養症などを除外するために,骨粗鬆症の診断を支持する因子として,正常血清カルシウム,リンおよびアルカリホスファターゼ値がスコア1であることとした。ただし,ひとつ以上の異常がある場合にスコア1を差し引いた。同様に,被験者が閉経前である場合には,スコア1を差し引いた。
血清クレアチニンが2mg/dlより高いかまたはBUNが30mg/dlより高い値を示し,腎機能の低下が示唆される被験者,過敏症の既往歴がある被験者または自覚症状の自己評価の信頼性が疑われる被験者は除外した。今後の試験参加予定者それぞれに,0.003単位のhPTH(1-34)の皮内試験を実施した。15分後に紅斑部が直径10mmを超える陽性結果を示した被験者は除外した。他の薬物の効果とhPTH(1-34)の効果との混同を避けるために,骨代謝
および骨粗鬆症の進行に影響すると思われる薬剤は試験開始3ヵ月前から自粛し,試験期間中も投与をさし控えた。このような薬剤には,エストロゲン,カルシトニン,活性型ビタミンD,ビタミンK2,イプリフラボン,ビスホスホネートおよび同化ステロイドがある。
担当医師の判断によって必要な場合には,鎮痛薬および筋弛緩薬を投与した。理
学療法および合併症に対する薬物は,患者の状態が許す限り,試験前も試験後も変えることなく引き続き投与した。
試験開始に先立ち,hPTH(1-34)製剤の特質と起こりうる副作用を含む試験の重要性を参加予定者に詳細に説明し,口頭または書面にて被験者の同意を得た。本臨床試験は,それぞれの参加施設の施設内治験審査委員会から承認されたも
のである。

[297頁右欄43行ないし298頁左欄24行目]
hPTH(1-34)
(テリパラチド酢酸塩)の調製と投与方法
旭化成工業株式会社により合成されたhPTH(1-34)の純度と生物学的効果を,国際標準のウシPTH(1-84)に対するラット腎臓の皮質膜によるサイクリックAMPの生成を指標として評価したところ,3300単位/mgを得た。各バイアルは50,100および200単位のテリパラチド酢酸塩を含むものとした。なお,これは約15,30および60μgのペプチドに相当した。1回のバッチから3個のロットを調整し,50,100および200単位を含むバイアルを作成した。このようにして調整することで,1種類の濃度を含む5000本のバイアルには,常にひとつのロットから由来するものを用いた。製剤は25℃で3年間安定であった。バイアルの内容物は,無作為に抽出したサンプルについて中立機関で測定され,コントローラ(D医師とE医師)によって3バイアルが識別不能であることを確認された。使用直前に,バイアル内容物を生理食塩水1mlで溶解したものを,48週間にわたり1週1回皮下注射した。

本試験のコントローラは,50,100および200単位のサンプルを102セット準備し,セット内で無作為に割付け(1,2および3と番号を割り付けた),
それぞれのセットを参加施設に先着順に送付した。各セットは施設で開かれ,サンプル番号1,2および3を逐次患者に経時的に投与した。試験の二重盲検性を確実にするために,コードは試験終了まで鍵をかけて保管した。

予備試験の結果によると,hPTH(1-34)を100または200単位,26週間,1週1回投与したところ腰椎BMDが増加していた。そこで,試験期間を48週間に設定した。この期間は,骨折の危険性と不安が常にある患者を対象として通常の骨測定,血液と尿の採取を行っても脱落率が過度とならずに,十分な制御下で多施設試験を実施できる限界であると思われた。Fらは,ヒトに対するPTH
(1-84)5μg/kg投与の安全性についても報告している。
[298頁左欄25行ないし299頁左欄9行目]
集積データ
治療開始前のデータ。年齢,性別,閉経時の年齢,身長,体重,入院の有無または歩行状況,一般病歴,hPTH(1-34)の抗原性の皮内テストの結果,骨粗鬆症診断のためのスコア,既往歴,治験前の骨粗鬆症の治療および骨粗鬆症の合併症,試験期間中に投与された試験薬剤以外の薬物,非処方カルシウム製剤および乳製品について記録した。

自覚症状。骨粗鬆症による痛みを休息時の自発性疼痛と運動時の痛みに分類して,治療後0,2,4,12,24および48週間目または試験終了時に以下に示すグレードに従って評価した。休息時の痛みは,以下のとおりのグレードで表示した。1:痛みなし,2:中等度の痛み,3:無視できないが耐えられる痛み,4:重度の耐え難い痛み。運動時の痛みは以下のとおりのグレードで表示した。1:痛みなし,2:中等度の痛み,3:運動を妨げる無視できない痛み,4:動けないほどの
重度の痛み。患者は,自身の痛みの度合いをアナログ尺度で自己評価した。
骨所見。
(a)腰椎BMDの測定。治療後0,12,24および48週目または試験終了時に,骨塩量,腰椎(L2-4)の骨面積およびBMDをDXA(QDR(Hologic社)
,DPX(Lunar社)またはXR(Norland社)
)を用
いて前後方向を撮影することによって測定した。多数の参加施設で,適切な精度管理を維持するのが困難であった。各施設では,装置に付随の推奨に従って,BMD測定を日常的に毎日ファントムを用いて実施した。その結果,変動係数(CV)を1%から2.5%の範囲で維持できた。
患者の年齢が高いことから,脊椎BMDの前後方向の測定上,圧迫骨折とそれに
伴う変化に加えて,
脊椎の退行性変化が重大な支障となった。
この理由から,
L2,
L3またはL4の骨棘や圧迫変形などの脊椎の退行性変化を有する被験者全員を,薬物の効果の根拠となるデータから除外した。このため,脊椎BMD測定における組み入れ前の脱落率が高くなった。
(b)中手骨BMDの測定。非利き手側の第2中手骨のラジオグラメトリを実施す
るために,前後方向の手のX線写真をファントムと一緒に,治療0,12,24および48週後または試験終了時に撮影した。試験終了時に,71施設で撮影されたすべてのフィルムをコンピューター化されたデジタル画像処理を用いて,東洋検査センターにて測定した。ひとりの観察者が中手骨BMD(∑GS/D)を同一フィルムを用いて10回連続で測定した場合のデジタル画像処理法の精度は,CVが0.
59であり,同一処理を3人の観察者で実施した場合は1.47であった。同一被験者の手のフィルムを4枚撮影した場合,測定は個々に実施され,CVは1.72であった。
(c)椎体骨折の評価。腰椎および胸部脊椎の側面X線写真は,それぞれL3とT8に焦点を合わせ,ひとりの放射線科医が椎体の圧迫骨折や変形を評価した。前縁高/後縁高の比率が25%以上減少および中央高/後縁高の比率が20%以上減少
した場合を,有意な変形と定義した。

生化学的パラメーター。治療開始前および治療後2,4,12,24および48週目または試験終了時に,血清中のカルシウム(Ca)
,リン(P)
,25(OH)ビ
タミンD(競合タンパク結合分析による測定)
,1.25(OH)2ビタミンD(ラ
ジオリセプターアッセイによる測定)
,オステオカルシン,中間部PTH(ラジオイ
ムノアッセイによる測定)
,総アルカリホスファターゼと骨型アルカリホスファタ
ーゼ,アルブミンおよび尿中のCa,P,ヒドロキシプロリン,ピリジノリン,デオキシピリジノリン(HPLCによる測定)とクレアチニンを日本最大の臨床検査会社SRLにて測定した。各施設で治療後0,12,24,36および48週目ま
たは試験終了時に,血球算定(RBC,WBCと血球分画,ヘマトクリット,ヘモグロビンおよび血小板)
,血清生化学的試験(GOT,GPT,A/G,BUN,ク
レアチニン,総コレステロール,CPK,Na,K,Clおよびグルコース)および尿検査(潜血,タンパク質,糖,ウロビリノーゲン,ビリルビンおよびpH)を実施した。

副作用と有害事象の調査。試験期間中の有害事象を記録し,詳細を検査した。総合的な経過の評価,重症度,治療および転帰に基づいて,有害事象を以下に示すグレードに分類した。
(1)試験薬剤が原因のもの,
(2)試験薬剤が原因と考えられる
もの,
(3)試験薬剤が原因とは考えにくいもの,
(4)試験薬剤が原因ではないも
の。副作用は暫定的に(1)から(3)を含むものとした。
統計解析
患者群の背景は,カイ二乗検定にて,両側検定の危険率10%で評価した。測定値はマン・ホイットニーのU検定およびフィッシャーの直接確率法にて,両側検定の危険率5%で検定した。
[299頁10行ないし300頁左欄3行目]
結果
表1は,試験への参加が許可された被験者における治験組み入れ基準の詳細をまとめたものである。
試験に当初登録した被験者220名を無作為に二重盲検下で割り付け[50単位投与群(L)に73名,100単位投与群(M)に75名および200単位投与群(H)に72名]
,そのうち41名は骨粗鬆症の診断基準に適合せず,また試験前に投与されていた薬の休薬期間が不十分であったため不適格とした。正確なBMD測定を阻害する腰椎の退行性変化と圧迫変化を有する患者および指
定時間以外に測定した患者を除外したところ,不適格者にはさらに64名が含まれた。このため,腰椎BMDに及ぼす効果の分析は被験者115名で実施した。内訳はL群で39名,M群で38名およびH群で38名であった(表2)。被験者61名
が,副作用,中途での心変わりにより試験を拒絶,合併症の悪化などの理由で試験を完了できなかったが,最初の3ヵ月以内に脱落しない限り,分析グループに含む
ものとした。
被験者の治療開始時の特徴を各グループで比較したものを表3に示した。3群とも被験者が一様に分布していることを確認した。

[300頁左欄4ないし10行目]
自覚症状
主として背部痛からなる自覚症状は,L群で被験者52名中21名(40%),M
群で被験者60名中18名
(30%)
およびH群で被験者47名中17名
(36%)
に,
中等度またはやや改善がみられた。
群間に有意な差は認められなかった
(表4)


[300頁左欄11行ないし右欄6行目]
骨測定
試験期間48週間中の腰椎BMDにおける変化を図1に示した。腰椎BMDは,試験開始時と比較して,治療後24と48週目に用量依存的に増加し,L,MおよびH群でそれぞれ0.6%,3.6%および8.1%であった。24週目と48週目でMとH群で増加の程度がL群より大きく,48週目ではM群よりH群の方が大
きかった(p<0.05)
。年齢が64歳以下と65歳以上,体重が49kg以下と
50kg以上,閉経後10年未満,10から20年,20年以上,および脊椎骨折が0,1および2箇所以上を有するサブグループに被験者を分類して比較したところ,サブグループ間で薬物に対する応答は同程度であった。第2中手骨(皮質骨からなる)のX線写真上の骨密度には有意な差は何ら認められず,皮質骨と各群のX
線写真上の骨量減少度が変化せずに一定に保たれていることを示していた。L群で被験者3名,M群で5名およびH群で0名に椎体骨折が発生したが,各群間の差は有意ではなかった。

[301頁左欄1行ないし右欄4行目]
生化学的パラメーター
図2に示すように,血清Caは治療後2週目から減少し始め,4週目以降は治療開始前の基準値より有意に低かった。血清Pも治療後2週目に減少した。尿中Caは2週目から減少し,試験期間中を通じて基準値より低いままであった。尿中Pも減少した。血清25(OH)ビタミンDと1.25(OH)2ビタミンD値は,図3に示すように,
各群で48週目に治療開始時よりやや減少した。
図4に示すように,
骨型アルカリホスファターゼは,治療開始後4週目で治療開始時の値より高く,24週目と48週目ではH群のみ低かった。尿中へのピリジノリン,デオキシピリジノリンおよびヒドロキシプロリン排泄は,図5に示すようにL群とH群で24週目と48週目に治療開始時の値より減少した。
表5に示すように,各群で試験期間中,異常な試験結果が出現したが,いずれも
明白ではないか一過性のものであり,
試験薬剤が原因であるとは明示できなかった。
表6は治療中に発生した副作用をまとめたものである。29例で,被験者が幾つかの症状のため試験から脱落した。副作用の総数はhPTH(1-34)の用量が増加するのに合致して増加したものの,重篤な有害事象は認められなかった。
[301頁右欄5行ないし303頁右欄23行目]
考察
原発性副甲状腺機能亢進症では過剰量のPTHが持続的に分泌され,著明な骨,特に皮質骨の欠損を特徴とするものの,組織形態計測の結果によると海綿骨は比較的,良く保存されている。PTHはおそらく骨芽細胞活性と骨形成も刺激し,骨に
対して同化作用を及ぼすものと思われる。
動物試験で,PTHの同化作用が頻繁に確認されており,骨質の物理的な改善をすることが報告されている。このような同化作用は,N末端からアミノ酸をひとつ除去するだけで効果がほとんど消失することから,PTHのN末端部アミノ酸の全長に依存していると思われる。

海綿骨が増加することについては,一貫して報告されているが,皮質骨の応答は不良である。間欠投与は,PTHの骨同化作用を生成に対してより効果的であると思われる。これまで,骨粗鬆症の治療には,主にエストロゲン,カルシトニンとビスホスホネートのような骨吸収抑制剤が投与されており,骨吸収を刺激する骨形成促進剤は低回転型骨粗鬆症に有効であると思われている。BMDの増加を予想をはるかに上回る程度に誘導する活性があるにも拘わらず,フッ化物に問題がない訳ではない。つまり,骨折発生率を減少させることができずに骨痛などの副作用を惹き起こす。
しかし,
PTHは依然として骨形成促進剤の候補として有望視されている。PTHを大量に投与すると,ヒトでもBMDの増加がみられたが,ヒトで好ましい効果を奏する間歇投与法は未解決の課題である。Gらが,骨粗鬆症患者12名を対象として多施設試験を実施したところ,hPTH(1-34)を7日間投与し21
日間休薬するというサイクルを16回繰り返す間欠投与によって,全身のCaがやや増加したがさまざまな部位のBMDでは有意な増加はみられなかったと報告している。連日投与は,持続点滴に比べると間欠的であり,好ましい影響がみられた。Gらによると,hPTH(1-34)約250単位を患者21名に6から24ヵ月間,連日投与したところ,重篤な副作用もみられず,血清アルカリホスファターゼ
が15%増加し,著明な骨増加がみられた。Hらは,ホルモン補充療法を受けている閉経後の女性17名を対象として,hPTH(1-34)25μgを連日皮下注射投与する3年の無作為化対照試験を実施し,その結果をコントロールとしてホルモン補充療法単独を投与した女性17名と比較した。脊椎のBMDはPTH投与群で13.0%増加したが,コントロール群では有意な増加はみられなかった。PT
Hは他の試験では,エストロゲンと共に投与して効果があった。
ビタミンD誘導体と併用してPTHの効果を増強することも検討されている。実際に,400-500単位のhPTH(1-34)を0.25μgの1,25(OH)2ビタミンD3と一緒に投与すると,海綿骨で増加がみられた。カルシトニンとの併用投与も実施されている。Iらは,hPTH(1-37)720-750単位
を8週間連日投与し,同時にカルシトニンを2~4,6~8および8~10日目に鼻腔内投与し,このサイクルを4回繰り返した。Jらは,800単位のPTHを連日,2ヵ月の間隔を置いて1ヵ月間投与するサイクルを繰り返し,この投薬サイクルを2年間続けたところ,腰椎BMDが8~10%増加したことを認めている。hPTH(1-34)の単位体重当たりの生物学的活性は試験間でばらつきがあるようである。Hらの試験では,たとえば,hPTH(1-34)400単位(25μg)が使用されている。試験に用いられている調製法が異なっているため,hPTH(1-34)の投与量について本試験の結果を他の試験のものと比較することは容易ではないが,これまでの試験の多くに比べると,本試験で用いられた週1回の間欠投与の方が,hPTH(1-34)の総投与量を明らかに少なく抑えられる。hPTH(1-34)が中手骨(ほとんどが皮質骨からなる)の骨密度を減少
させることなく,腰椎BMD(主に海綿骨からなる)を,48週という比較的短期間で有意に用量依存性に増加させたことから,hPTH(1-34)による骨粗鬆症治療はきわめて将来有望であると思われる。

表1本試験の参加者における組み入れ基準の詳細
組み入れ基準

L群(50単位)

M群(100単位)

H群(200単位)

グレード1

グレード2

グレード3

不明

≥0.831

<0.831

≥0.711

<0.711

不明

≥0.701

<0.701

不明

≥2

不明

≥1

≥1

=<2

≥5

骨密度減少
骨萎縮

DXA
DPX
QDR

XR

椎体骨折数

大腿骨骨折数

橈骨遠位端骨折数

総スコア

表2本試験における各評価項目別の症例数

総症例数

脱落

症状評価

腰椎BMD評価

中手骨BMD評価

(副作用による)

L(50単位)

12(3)

M(100単位)

25(10)

H(200単位)

24(16)

合計

61(29)

表3各群の治療開始時の背景比較
χ2検定

L群(50単位)

M群(100単位)

年齢(歳)

70.2±9.84(73)

70.1±9.64(75)

71.7±10.78(72)

NS

体重(kg)

47.7±7.49(73)

49.2±7.54(75)

45.8±8.21(72)

NS

身長(cm)

148.2±8.01(73)

148.9±7.77(75)

147.3±6.97(72)

NS

閉経後年数

19.0±8.52(73)

18.8±8.35(75)

20.6±9.43(72)

NS

1.86±2.65(62)

1.62±1.89(61)

1.82±2.65(55)

NS

DPX

0.746±0.123(13)

0.753±0.089(10)

0.711±0.159(11)

NS

QDR

0.719±0.103(19)

0.723±0.140(17)

0.640±0.132(19)

NS

XR

0.637±0.115(7)

0.680±0.130(11)

0.556±0.064(8)

NS

1.917±0.404(58)

1.850±0.446(50)

NS

椎体骨折数

H群(200単位)

腰椎BMD(g/cm)

中手骨BMD(∑GS/D)
1.875±0.350(60)

データは平均値±標準偏差、カッコ内は症例数

表4自覚症状

症例数中等度
以上改善

軽度

不変

悪化

U-検定Fisherの

改善

検定
中等度以上

L(50単位)

21(40)

16(31)

14(27)

1(2)

M(100単位)

18(30)

28(47)

14(23)

0(0)

H(200単位)

17(36)

21(45)

9(19)

0(0)

NS

NS

カッコ内の数値はパーセント

図1治療週数と腰椎BMDの変化率(平均±標準偏差)。
□はL群(50単位)、●はM群(100単位)、○はH群(200単位)のデータ。a
L群の値との比較でp<0.05の有意差、bM群の値との比較でp<0.05の有意差、マンホイッ
トニーのU検定による
*治療開始時との比較でp<0.05の有意差の有意な増加、マンホイットニーのU検定による
図2治療週数と血清カルシウム(左)とリン(右)(平均±標準偏差)。□はPTH50単位(L群)、●はPTH100単位(M群)、○はPTH200単位(H群)のデータ。*治療開始時との比較でp<0.05の有意差、マンホイットニーのU検定による
図3治療週数と血中25(OH)ビタミンD(左)と1,25(OH)2ビタミンD(右)(平均±標準偏差)。シンボルの表記は図2と同様。

図4治療週数と血中骨型アルカリフォスファターゼ(平均±標準偏差)。シンボルの表記は図2と同様。

表5被験者における治療期間中の臨床検査値異常

L群(50単位)

M群(100単位)

H群(200単位)

総症例数

臨床検査異常例数(%)

(11%)

(5%)

(17%)

異常データ数

赤血球数の低下

分節核球上昇

リンパ球減少

好酸球減少

好塩基球減少

ヘマトクリット低下

ヘモグロビン低下

血小板数減少

GOT上昇

GPT上昇

A/G低下

BUN上昇

総コレステロール上昇

CPK上昇

Naの下降

Kの上昇

Kの下降

Clの上昇

Clの下降

血糖上昇

尿潜血

尿蛋白

尿ビリルビン

図5治療週数とクレアチニン補正後の尿中ピリジノリン(a)、デオキシピリジノリン(b)、ヒドロキシプロリン(c)血中骨型アルカリフォスファターゼ(平均±標準偏差)。シンボルの表記は図2と同様。

表6被験者における治療期間中の副作用

L群(50単位)
a
H群(200単位)

総症例数

M群(100単位)
皮下出血

14(10)

30(16b)

(19%)

(42%)

軽度中等度計

軽度中等度計

軽度中等度計

重症度と件数

14(3)
(19%)

副作用発現例数(%)

bb1
全身潮紅
顔面潮紅
湿疹

そう痒

腰痛
頭痛
1
めまい
悪心

嘔吐

腹痛

おくび

あくび

口渇

食欲不振
熱感

脱力感
全身倦怠感

発熱
1
眠気
a
臨床検査値異常を含む

b
副作用による脱落症例数

悪寒

(別紙3-1)
甲15の1文献の記載事項(抜粋)

[85頁30行ないしか86頁9行目]
1)

新規椎体骨折予防効果

申請者は以下のように説明している。GHAC試験において,本剤併合群(本剤20μg群及び本剤40μg群の併合)ではプラセボ群に対して新規椎体骨折が生2
じた被験者の割合が有意に減少した(p<0.001,Pearsonのχ検定)・・・以上。
より機構は,
・・・本剤の新規椎体骨折の予防効果は期待できると考える。

(別紙3-2)

甲57文献の記載事項(抜粋)
(表及び図は末尾に一括して掲記した。

[5頁1ないし22行目]
GHAC試験(12/96から12/98)
デザイン
GHAC試験は,テリパラチド(PTH)が閉経後女性の新規椎体骨折の発生率(主要エンドポイント)を減少することを示すためにデザインされた第Ⅲ相,多施設,二重盲検,プラセボ対照,無作為化試験である。
本試験は以下の4段階から構成されるように計画された。
1.Ca(~1000mg/日)とビタミンD(400~1200IU/日)を2週から6か月まで投与

2.CaとビタミンD投与に,プラセボを2週間注射
3.CaとビタミンD投与に,無作為化された注射治療を3年間
4.約2年間までの3段階目の任意の延長
本試験は23か月後に治験依頼者によって中止され,薬剤投与期間の中央値は約19か月であった。いずれの患者も3段階目が完了しなかった。

本試験の組み入れ基準は以下を含むものであった:
・30~85歳の閉経後女性である
・中等度の非外傷性椎体骨折を1つ以上または軽度の非外傷性椎体骨折を2つ以上有する
・7つ以上の評価可能な骨折していない椎体を有する

プロトコルにおける,主要および副次目的を以下に記載する。
主要目的
・プラセボと比較してPTHによる新規椎体骨折患者の割合の減少を示す。(こ
のプロトコルは,PTH群(20μgおよび40μg)の組合せと各群について,別々にプラセボとの比較を示すことを意味する。


[18頁1ないし34行目]
プロトコルに定義されていない追加の効果測定
以下のプロトコルに定義されていない3つの変数が治験依頼者によって分析された。
・多発新規椎体骨折

・中等度および重度新規椎体骨折
・椎体骨折を防ぐための治療が必要な患者の数
・背中の痛み
・・・
本件評価者は治験依頼者に増悪骨折についてデータを求めた。プロトコルは,既存
の骨折がベースラインとエンドポイントで評価されると示しているが(これを説明するプロトコルの抜粋は20ページの上部を参照)分析されていない。,
新規および
増悪骨折患者の割合が他の骨粗鬆症治療薬について分析されており,それがこの申請に利用可能であったため,本件の評価者はこのエンドポイントの結果を求め,ここに提示した。

[21頁13ないし20行目]
新規椎体骨折および増悪椎体骨折
本試験では,新規および増悪椎体骨折はあらかじめ指定されたエンドポイントではなかったが,このセクションに記載されている他の変数と同様に,この変数についてもデータが収集された。この結果が他の骨粗鬆症薬で報告されてきたため,本件評価者はこれを検討することに決めた。
治験依頼者は表16に示す結果を提示した。増悪骨折のみについて,薬剤治療群は,有意に異なる。新規及び増悪骨折について,それぞれのPTHの用量はプラセボ群とは有意に異なる(p<0.01,ピアソンのカイ二乗検定)。

[11頁表7]

[21頁表16]

(別紙3-3)

甲98文献の記載事項(抜粋)
(表及び図は末尾に一括して掲記した。
[4032頁左欄8ないし26行目]
プラセボ群(n=448)においては,14名の患者が新規SQ3骨折を経験し,8名の患者が増悪SQ3骨折を経験した。なお,この中には1新規SQ3骨折と1増悪骨折を経験した患者が含まれる。20μg/日テリパラチド投与群(n=444)においては,新規SQ骨折を経験した患者はおらず,3名の患者が増悪SQ3骨折を経験した。40μg/日テリパラチド投与群(n=434)においては,3名の患者が新規SQ3骨折を経験し,4名の患者が増悪SQ3骨折を経験した。全般に,新規又は増悪SQ3椎体骨折は20μg/日テリパラチド投与群では3名(0.7%)
,40μg/日テリパラチド投与群では7名(1.6%)生じること
と比較して,プラセボ群においては21名(4.7%)も生じた(図3)。このよ
うに,プラセボと比較して,毎日テリパラチドを20μg又は40μg処置すると,新規又は増悪SQ3椎体骨折になるリスクが,各々86%(P<0.001)及び66%(P<0.001)と有意に減少した(図3)


[4032頁図3]

骨折抑制試験における,無作為に割り付けられた20μg/日テリパラチド投与群(TPTD20)
,40μg/日テリパラチド投与群(TPTD40)もしくはプラセボ投与群(Placebo)の,新規もしくは増悪SQ3骨折。RRR=骨折相対リスク減少
(別紙4)

(別紙5)

トップに戻る

saiban.in